(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024157652
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】アルミニウム合金箔
(51)【国際特許分類】
C22C 21/00 20060101AFI20241031BHJP
C22F 1/00 20060101ALN20241031BHJP
C22F 1/04 20060101ALN20241031BHJP
【FI】
C22C21/00 M
C22F1/00 604
C22F1/00 622
C22F1/00 630K
C22F1/00 673
C22F1/00 682
C22F1/00 683
C22F1/00 684B
C22F1/00 685
C22F1/00 686A
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 692A
C22F1/00 691A
C22F1/00 694A
C22F1/00 694Z
C22F1/04 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023072124
(22)【出願日】2023-04-26
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 一般社団法人軽金属学会、第142回春季大会講演概要、第277~278頁、令和4年4月27日発行 第142回春季大会、令和4年5月29日開催
(71)【出願人】
【識別番号】522160125
【氏名又は名称】MAアルミニウム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091926
【弁理士】
【氏名又は名称】横井 幸喜
(72)【発明者】
【氏名】安元 透
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 貴史
(57)【要約】
【課題】箔の伸びを確保しつつ、良好な成形性と加工性を有するアルミニウム合金箔を提供する。
【解決手段】Fe:0.8%以上1.8%以下、Si:0.01%以上0.15%以下、Cu:0.001%以上0.05%以下を含有し、残部がAlと不可避不純物からなり、アルミニウム合金箔の表面において、方位差15°以上の粒界を有する結晶粒に関し、1つの結晶粒とその周りで隣り合うn個の結晶粒との粒径比αを、それぞれ算出し、算出したn個の粒径比の平均値を、1つの前記結晶粒のGrain Size Distribution(以下、GSD)値とし、各結晶粒で算出された前記GSDの平均値が3.5以下である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム合金箔であって、
Fe:0.8質量%以上1.8質量%以下、Si:0.01質量%以上0.15質量%以下、Cu:0.001質量%以上0.05質量%以下を含有し、残部がAlと不可避不純物からなる組成を有し、
前記アルミニウム合金箔の表面において、方位差15°以上の粒界を有する結晶粒に関し、1つの結晶粒とその周りで隣り合うn個の結晶粒との粒径比αをそれぞれ算出し、下記式1に基づいて算出したn個の粒径比の平均値を、1つの前記結晶粒のGrain Size Distribution(以下、GSD)値としたときに、各結晶粒で算出された前記GSDの平均値が3.5以下であるアルミニウム合金箔。
GSD=(Σn
i=1αi)/n … 式1
ただし、i、nは正整数であり、nは結晶粒毎に値が決定される。
【請求項2】
方位差15°以上の大角粒界で囲まれた結晶粒の平均値が、前記GSDの平均値が2.5超3.5以下の場合は20μm以下であり、前記GSDの平均値が2.5以下の場合は25μm以下である請求項1に記載のアルミニウム合金箔。
【請求項3】
圧延方向に対して0°、45°、90°の伸びが25%以上であることを特徴とする請求項1または2に記載のアルミニウム合金箔。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、成形性、加工性に優れるアルミニウム箔に関する。
【背景技術】
【0002】
食品やリチウムイオン電池等の包材に用いられるアルミニウム合金箔は、プレス成型等によって大きな変形が加えられて成形されるため、高い成形性を有していることが求められる。
例えば、特許文献1では、成分範囲を規定するとともに、結晶粒の粒径を規定し、さらに、Cube方位の面積率を規定することで成形性を高めるとしている。
また、特許文献2では、(111)面、(100)面、(110)面、および、(311)面のそれぞれを示す各回折強度の比率を規定し成形性を高めるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2018-115376号公報
【特許文献2】特開2012-052158号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来のアルミニウム合金箔では成形性が充分であるとはいえない。
高い成形性を有するアルミニウム合金箔は、変形時の表面の肌あれを抑制することで得られる。表面あれの抑制に対し、結晶粒のサイズおよびその均一性は重要であり、粒度分布にバラつきがない程、表面あれは抑制される。
【0005】
本発明は上記事情を背景としてなされたものであり、加工性が良好で且つ高い成形性を有するアルミニウム合金箔を提供することを目的の一つとしている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち、本発明のアルミニウム合金箔のうち、第1の形態は、アルミニウム合金箔であって、
Fe:0.8質量%以上1.8質量%以下、Si:0.01質量%以上0.15質量%以下、Cu:0.001質量%以上0.05質量%以下を含有し、残部がAlと不可避不純物からなる組成を有し、
前記アルミニウム合金箔の表面において、方位差15°以上の粒界を有する結晶粒に関し、1つの結晶粒とその周りで隣り合うn個の結晶粒との粒径比αをそれぞれ算出し、下記式1に基づいて算出したn個の粒径比の平均値を、1つの前記結晶粒のGrain Size Distribution(以下、GSD)値としたときに、各結晶粒で算出された前記GSDの平均値が3.5以下であるアルミニウム合金箔。
GSD=(Σn
i=1αi)/n … 式1
ただし、i、nは正整数であり、nは結晶粒毎に値が決定される。
【0007】
他の形態のアルミニウム合金箔の発明は、前記形態の発明において、方位差15°以上の大角粒界で囲まれた結晶粒の平均値が、前記GSDの平均値が2.5超3.5以下の場合は20μm以下であり、前記GSDの平均値が2.5以下の場合は25μm以下である。
【0008】
他の形態のアルミニウム合金箔の発明は、前記形態の発明において、圧延方向に対して0°、45°、90°の伸びが25%以上であることを特徴とする。
【0009】
以下に、本発明で規定する内容について説明する。
(組成)
Fe:0.8質量%以上1.8質量%以下
Feは、鋳造時にAl-Fe系金属間化合物として晶出し、焼鈍時に再結晶のサイトとなって再結晶粒を微細化する効果がある。その含有量が少ないと、粗大な金属間化合物の分布密度が低くなり微細化の効果が低く、最終的な結晶粒径分布も不均一となる。一方、含有量が過剰になると、結晶粒微細化の効果が飽和もしくは低下し、さらに鋳造時に生成されるAl-Fe系化合物のサイズが非常に大きくなり、箔の成形性と圧延性が低下する。このため、Fe含有量を下限0.8質量%、上限1.8質量%に定める。同様の理由で、下限を1.0質量%、上限を1.6質量%とするのが望ましい。
【0010】
Si:0.01質量%以上0.15質量%以下
Siは、鋳造時に粗大な金属間化合物を晶出する。粗大な金属間化合物を防ぐため添加量は抑制したい。ただし、含有量が過小になると、高純度の地金を使用する必要があり、製造コストが大幅に増加する。一方、含有量が過剰になると、化合物サイズの粗大化、及び分布密度の低下を招き、圧延性、伸び、成形性が低下する懸念がある。このため、Si含有量は、下限を0.01質量%、上限を0.15質量%に定める。同様の理由で、下限を0.01質量%、上限を0.08質量%とするのが望ましい。
【0011】
Cu:0.001質量%以上0.05質量%以下
Cuはアルミニウム箔の強度を増加させ、伸びを低下させる元素である。一方ではAl-Fe系合金で報告されている冷間圧延中の過度な加工軟化を抑制する効果がある。Cuの含有量が過小であると加工軟化抑制の効果が低く、過大であると伸びが明瞭に低下する。このためCu含有量の下限を0.001質量%、上限を0.05質量%とする。同様の理由で、下限を0.005%、上限を0.01%とするのが望ましい。
【0012】
不可避不純物
組成残部は、Alと不可避不純物である。不可避不純物としては、Mn、Mg、Zn、Cr、Ti、B等を含むことができる。Mn、Mg、Znは微量であればCuと同様に加工軟化の抑制が期待できるが、含有量が多いと固溶による強化量が大きく伸びが低下する。また、Mn、Zn、Crは微細な化合物を形成する。これらはアルミニウムの再結晶を抑制する働きがあり、含有量が多いと微細で均一な結晶粒を得る事が困難となる。さらに、Ti、Bは、鋳塊組織の結晶粒微細化に寄与することから、TiBの形で鋳造時に添加しているが、含有量が過剰になると結晶粒微細化の効果が飽和するほか、粗大な晶出物が形成され圧延性や成形性が低下することが懸念される。よって、不可避不純物としては、各成分で0.05%を上限とするのが望ましい。
【0013】
GSDの平均値が3.5以下
アルミニウム箔は成形に伴う塑性加工の進展により材料表面に凹凸が生じるが、良好な成形性を得るためにはこの凹凸を抑制し小さくすることが必要である。この表面の肌荒れを抑制する為には、結晶粒のサイズおよびその均一性が重要である。結晶粒径の均一性指標として、GSD(Grain Size Distribution)を用いることができる。GSDの平均値が3.5以下であることは、結晶粒が均一であることを示し、塑性加工に伴う材料表面の肌荒れを抑制し、さらに応力集中を防止して成形加工性を増大させる。GSDの平均値が3.5超であると、表面の肌荒れが大きく、成形性低下をもたらす。
GSDは以下の方法により算出される。
方位差15°以上の粒界を有する結晶粒を対象にして、
図1に示すように、1つの結晶粒(図では太線部)とその周りで隣り合うn個の結晶粒との粒径比αを、下記式に基づいてそれぞれ算出し、算出したn個の粒径比の平均値を前記結晶粒のGrain Size Distribution(以下、GSD)値とする。各結晶粒で算出された前記GSDが把握される。
【0014】
【0015】
具体的には、例えば、EBSD法による結晶解析により得られた結晶粒界マップを基にImage Jを用いた画像解析により行うことができる。ただし、本発明としてはこの方法に限定されるものではない。
【0016】
・圧延方向に対して0°、45°、90°の伸びが25%以上
包材に用いられるアルミニウム合金箔は、プレス成形によって3次元的な変形を加えられる。その為、圧延方向のみではなく様々な方向における伸びが求められる。このため、圧延方向に対して0°、45°、90°の伸びが25%以上であるのが望ましい。いずれかの方向における伸びが25%未満の場合、その方向が律速となり成形性が低下する。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、成形限界の低下を抑え、優れた成形性を得ることができ、さらに応力集中を抑制して良好な加工性を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明における結晶粒のGSD値の算出方法の例を説明する図である。
【
図2】本発明の実施例における限界成形高さ試験で用いる角型ポンチの平面形状を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明のアルミニウム合金箔の一実施形態について説明する。
本実施形態のアルミニウム合金箔の製造では、先ずは所定の組成に調製された鋳塊を溶製する。
組成は、Fe:0.8質量%以上1.8質量%以下、Si:0.01質量%以上0.15質量%以下、Cu:0.001質量%以上0.05質量%以下を含有し、残部がAlと不可避不純物からなる。
【0020】
鋳塊であるスラブは均質化処理を行った後、熱間圧延を行い、さらに冷間圧延を行う。冷間圧延では、所望により1回以上の中間焼鈍を行うことができる。最後の中間焼鈍後の最終冷間圧延では、所定の圧下率で圧延を行って、所定の厚さのアルミニウム合金箔を得る。冷間圧延後のアルミニウム合金箔には最終焼鈍を行って、実施形態の合金箔とする。実施形態のアルミニウム合金箔には、成形加工を行うことができる。以下に、各工程について説明する。
【0021】
・鋳造:スラブ厚さ:600mm以上750mm以下
鋳塊を得るための鋳造は常法により行うことができるが、スラブ厚さを所定の厚さとするのが望ましい。スラブ厚さは、鋳造時の冷却速度に影響し、鋳造時に生成する晶出物や結晶粒のサイズ、分布に影響する。また、スラブ厚みが異なると最終箔までの圧延率も変化する。
鋳造時点における結晶粒の微細均一化は、最終焼鈍後の箔の微細均一化に寄与すると考える。また、スラブ厚み変量による圧延率の変化は最終箔における集合組織の発達にも寄与する。これら、結晶粒のサイズや均一性および集合組織の集積度合いは表面あれに影響を及ぼし、つまりは成形性にも寄与すると考える。このため、スラブ厚さは600mm以上とするのが望ましい。但し、スラブ厚さが750mmを超えると、鋳造時の冷却速度が低下し、鋳造時に生成する晶出物や結晶粒径の粗大化・不均一化を引き起こしやすくなる。
【0022】
・所定組成
アルミニウム合金箔の組成としては、Fe:0.8質量%以上1.8質量%以下、Si:0.01質量%以上0.15質量%以下、Cu:0.001質量%以上0.05質量%以下を含有し、残部がAlとその他の不可避不純物からなる組成とする。
【0023】
・均質化処理:480℃~540℃×8時間以上
均質化処理は、鋳塊のミクロ偏析の解消と金属間化合物の分布状態を調整することを目的としており、最終焼鈍後のアルミニウム合金箔において微細均一な結晶粒組織を得るために重要な処理となる。
均質化処理の温度が480℃未満であると、Feの析出が不十分となることからFeの固溶量が高くなり、且つ再結晶の核生成サイトとなる粒径1μm以上3μm未満の粗大な金属間化合物の密度が低下する為、結晶粒径が粗大になる。一方、540℃を超えると、金属間化合物の成長が著しく、金属間化合物の密度が大きく低下することから、結晶粒の粗大化を招く。金属間化合物を高密度に分布させるには処理時間が8時間以上必要であり、処理時間が短いと、均質処理が不十分となる。
【0024】
・熱間圧延
:仕上り温度230℃~280℃
均質化処理後の鋳塊を熱間圧延する場合、その仕上がり温度が重要となる。仕上がり温度を適正にして再結晶を抑制する(熱延板をファイバー組織とする)。ただし、仕上がり温度が280℃を超えると熱間圧延後に板の一部で再結晶を生じ、最終製品における理想的な集合組織が得にくくなる。またファイバー粒と再結晶粒が混在する不均一な組織は、最終製品における結晶粒組織の不均一さにも影響し、成形性の低下を招く恐れがある。一方、圧延仕上がり温度が230℃未満で仕上げるには熱間圧延中の温度も極めて低温となるため、板のサイドにクラックが発生し生産性が大幅に低下する懸念がある。このため、熱間圧延の仕上がり温度は上記範囲が望ましい。
【0025】
:圧延率99.2%以上
スラブから熱間圧延仕上がりまでの間の圧延率を99.2%以上として、鋳造時に生成した晶出物を細かく分断させるのが望ましい。また、圧延率を高くすることで熱間圧延後にファイバー組織とさせる。
【0026】
冷間圧延
熱間圧延後には冷間圧延が行われ、その途中に1回以上の中間焼鈍を行うことができる。
中間焼鈍では、冷間圧延により硬化した材料を軟化(圧延性を回復)させる。また、Feの析出を促進し固溶Fe量を低下させる。
中間焼鈍にはコイルを炉に投入し一定時間保持するバッチ焼鈍(Batch Annealing)と、連続焼鈍ライン(Continuous Annealing Line、以下CAL焼鈍という)により材料を急加熱・急冷する2種類の方式がある。中間焼鈍を負荷する場合、いずれの方法でも良い。
例えば、バッチ焼鈍では、300~400℃で3時間以上、CAL焼鈍では、昇温速度:100~250℃/秒、加熱温度:300~400℃、保持時間なしまたは保持時間:5秒以下、冷却速度:20~200℃/秒の条件を採用することができる。ただし、本実施形態としては、中間焼鈍の有無、中間焼鈍を行う場合の条件等は特定のものに限定されるものではない。
【0027】
バッチ焼鈍では、中間焼鈍の温度が300℃未満では再結晶が完了せず結晶粒組織が不均一になるリスクがある。また、中間焼鈍の温度が400℃を超える高温では再結晶粒の粗大化を生じ、最終的な結晶粒サイズも大きくなる。さらに高温ではFeの析出量が低下し、固溶Fe量が多くなる。固溶Fe量が多いと最終焼鈍時の再結晶が抑制されてしまう。処理時間が3時間未満の場合でも、再結晶が不完全でありまたFeの析出が不十分となる恐れがある。
CAL焼鈍においても同様に、焼鈍温度が300℃未満では再結晶が不完全であり結晶粒組織の不均一化を招く可能性があり、400℃を超えると再結晶粒の粗大化やFe固溶量の残存が懸念される。これらは最終焼鈍時の再結晶にも影響し、最終的な結晶粒の粗大・不均一化の恐れがある。
【0028】
・最終冷間圧延:圧延率 95%以上
結晶粒は冷間圧延の過程でも微細化されるため、中間焼鈍後から最終厚みまでの最終冷間圧延率が高い程、結晶粒は微細化される。そのため、最終冷間圧延率は高い方が望ましく、具体的には最終冷間圧延率を95%以上とすることが望ましい。最終冷間圧延率95%未満では、最終焼鈍後の再結晶粒径が粗大・不均一化し表面あれが悪化し、高延性ひいては高成形性を達成することが難しくなる。
【0029】
・最終冷間圧延後の厚さ
最終冷間圧延によって所望の厚さとすることができる。本実施形態としては特に厚さが限定されるものではないが、例えば10~40μmの厚さを示すことができる。
【0030】
・最終焼鈍:250℃~350℃×10時間以上
最終冷間圧延後の箔を完全軟化させるために、最終焼鈍が行われる。箔圧延後の最終焼鈍は例えば、250℃~350℃で実施すればよい。最終焼鈍の温度が低いと軟質化が不十分である。一方で350℃を超えると、箔の変形や経済性の低下などが問題となる。最終焼鈍の時間は、10時間未満では最終焼鈍の効果が不十分である。
【0031】
本実施形態で得られるアルミニウム合金箔は、GSDの平均値が3.5以下となっている。
方位差15°以上の粒界を有する結晶粒について、ある結晶粒と隣り合うn個の結晶粒それぞれとの粒径比をαとしたとき、n個のαの平均値をその結晶粒のGSD値とし、各結晶粒にて算出したGSD値の平均値が3.5以下とする。
上記規定は、製造工程においてスラブ厚さを600mm~750mmとし鋳造時に生成する晶出物や結晶粒のサイズ・分布および最終箔までの圧延率を制御することで、最終箔における結晶粒のサイズ・分布を適正化することにより得ることができる。
【0032】
・圧延方向に対して0°、45°、90°の伸びが25%以上
実施形態のアルミニウム合金箔は、圧延方向に対して0°、45°、90°の伸びが25%以上であるのが望ましい。
本実施形態のアルミニウム合金箔の伸びは、この条件を満たしていないものであってもよいが、当該条件を満たすのが望ましい。さらには、上記3方向の伸びが30%以上であるのが一層望ましい。
上記伸びの特性は、前項の表面あれと同様に、製造工程においてスラブ厚さや圧延率を適切に制御することにより得ることができる。
【0033】
本実施形態では、さらに以下の特性を有しているのが望ましい。
・方位差15°以上の大傾角粒界に囲まれた結晶粒の平均結晶粒径が所定値以下
塑性加工した際に生じる箔の表面あれを抑制することで、伸びや成形性の向上が期待できる。この表面あれに及ぼす影響因子の一つとして結晶粒径が挙げられ、表面あれ抑制には平均結晶粒径が微細であることが望ましい。
ただし、GSDの平均値が2.5超3.5以下の場合、方位差15°以上の大傾角粒界に囲まれた結晶粒の平均結晶粒径は20μm以下とするのが望ましく、GSDの平均値が2.5以下の場合は、方位差15°以上の大角粒界で囲まれた結晶粒の平均値が25μm以下であるのが望ましい。
GSDの平均値が2.5以下の場合、結晶粒径の均一性が高く、平均結晶粒径は25μm以下でも良いものとする。
上記特性は、前項のGSDと同様に、製造工程においてスラブ厚さや圧延率を適切に制御することにより得ることができる。
【実施例0034】
以下に、本発明の実施例を説明する。
表1に示すアルミニウム合金(残部がAlとその他の不可避不純物)を常法により溶製し、表1に示す厚みのスラブを得た。当該スラブに対して、500℃で8時間以上保持する均質化処理を行った。
均質化処理後のスラブに対し、表1に示す熱間圧延によって、5mmまたは8mmの仕上がり厚みで熱間圧延を行い、熱間圧延仕上り温度は241℃~292℃とした。
【0035】
次いで熱間圧延材を冷間圧延した。冷間圧延では、供試材No.11~13を除いて、板厚が2.8mmになった状態(冷間圧延率44.4%、供試材No10は冷間圧延率65.0%)で、中間焼鈍を行った。供試材No.11では板厚が3.6mmになった状態(冷間圧延率55.0%)で、供試材No.12では板厚が1.0mmになった状態(冷間圧延率80.0%)で、中間焼鈍を行った。中間焼鈍は、360℃×3時間の条件でバッチ炉で行った。供試材No.13では、板厚が1.0mmになった状態(冷間圧延率80.0%)で350℃×1秒の条件でCAL焼鈍を行った。
その後、仕上げ厚さ40μmになるまで最終冷間圧延を行った。最終冷間圧延の圧下率は98.6%であった。
冷間圧延を完了したアルミニウム合金箔に対しては、最終焼鈍を行った。最終焼鈍は300℃×20時間の条件により行った。
【0036】
得られた供試材に対し、以下の項目についてそれぞれ評価を行い、評価結果を表2に示した。
【0037】
伸び率
伸び率は引張試験にて測定した。引張試験は、JIS Z2241に準拠し、圧延方向に対して0°、45°、90°の各方向の伸びを測定できるように、JIS5号試験片を採取し、万能引張試験機(島津製作所社製 AGS-X 10kN)で引張り速度5mm/min.にて試験を行った。
伸び率の算出について以下の通りである。まず試験前に試験片長手中央に試験片垂直方向に2本の線を標点距離である50mm間隔でマークする。試験後にアルミニウム合金箔の破断面をつき合わせてマーク間距離を測定し、そこから標点距離(50mm)を引いた伸び量(mm)を標点間距離(50mm)で除して伸び率(%)を求めた。
【0038】
平均結晶粒径
箔表面を電解研磨した後、SEM(Scanning Electron Microscope)-EBSDにて結晶方位解析を行い、結晶粒間の方位差が15°以上の結晶粒界をHAGBs(大傾角粒界)と規定し、HAGBsで囲まれた結晶粒の大きさを測定した。倍率×900で視野サイズ90×180μmを3視野測定し、平均結晶粒径を算出した。対象結晶粒は、視野内で粒界が全て観察されるものとした。一つ一つの結晶粒径は円相当径にて算出し、平均結晶粒径の算出にはEBSDのArea法(Average by Area Fraction Method)を用いた。尚、解析には、SEMはFE-SEM(日本電子製 JSM-7900F)を使用し、EBSDはTSL Solutions社のOIM Analysisを使用した。
【0039】
GSD値
EBSD解析より得られたHAGBsの結晶粒界マップ像について、Image J(ソフトウェア名 1.52u)を用いた画像解析にてGSD値を算出した。以下に算出手順を記す。
EBSD解析にて方位差15°以上を結晶粒界とする粒界マップ像を出力する(その際、画像処理にて背景を黒色、結晶粒界を白色に変換する)。得られた粒界マップをImage Jに取り込み2値化処理した後、粒子面積1μm2以上を閾値として粒子解析を実施し、結晶粒毎の面積を出力する。得られた面積から各結晶粒の円相当径を算出する。算出した円相当径より、測定範囲内における円相当径が上位10%、下位10%、およびそれ以外の円相当径からランダムに15%の結晶粒を選定し、各結晶粒について円相当径比から前述した式を用いてGSD値の算出を行った。得られた各結晶粒のGSD値より平均値を算出し平均GSD値とした。
伸び、平均結晶粒径、平均GSD値の結果はそれぞれ表2に示した。
【0040】
角筒張出し高さ
角筒張出し高さは角筒成形試験にて評価した。試験は万能薄板成形試験器(ERICHSEN社製 モデル142/20)にて行い、厚さ40μmのアルミ箔を、
図2に示す形状を有する角型ポンチ(一辺の長さL=37mm、角部の面取り径R=4.5mm)を用いて行った。試験条件として、シワ抑え力は10kN、ポンチの上昇速度(成形速度)の目盛は1とし、そして箔の片面(ポンチが当たる面)に鉱物油を潤滑剤として塗布した。箔に対し装置の下部から上昇するポンチが当たり、箔が成形されるが、3回連続成形した際に割れやピンホールがなく成形できた最大のポンチの上昇高さをその材料の角筒張出し高さ(mm)と規定した。ポンチの高さは0.5mm間隔で変化させた。
測定結果は表2に示した。
【0041】
表に示すように、本願発明の実施例では、比較例に比して角筒張出し高さが大きく、優れた成形性を有している。それに対し、本発明の組成、平均GSD値もしくは平均結晶粒径の何れか又は両方が範囲外である比較例No.14~20は、角筒張出し高さが小さく、成形性に劣っている。
【0042】
【0043】