IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

<>
  • -電極合材及びリチウムイオン電池 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024157669
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】電極合材及びリチウムイオン電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/136 20100101AFI20241031BHJP
   H01M 4/58 20100101ALI20241031BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20241031BHJP
   C01B 33/06 20060101ALI20241031BHJP
   C01F 7/50 20060101ALI20241031BHJP
【FI】
H01M4/136
H01M4/58
H01M4/62 Z
C01B33/06
C01F7/50
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023072150
(22)【出願日】2023-04-26
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100092624
【弁理士】
【氏名又は名称】鶴田 準一
(74)【代理人】
【識別番号】100147555
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 公一
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100133835
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 努
(72)【発明者】
【氏名】大瀧 光俊
(72)【発明者】
【氏名】吉田 淳
【テーマコード(参考)】
4G072
4G076
5H050
【Fターム(参考)】
4G072AA18
4G072BB05
4G072DD04
4G072DD05
4G072GG02
4G072HH01
4G072JJ25
4G072TT01
4G072UU30
4G076AA05
4G076CA02
4G076CA26
4G076DA30
5H050AA07
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB01
5H050DA09
5H050EA15
5H050HA05
5H050HA07
(57)【要約】
【課題】本開示は、充電時の膨張が小さい電極合材、及びそのような電極合材を含むリチウムイオン電池を提供する。
【解決手段】本開示の電極合材は、シリコンクラスレート活物質粒子、及びフッ化アルミニウム粒子を含み、かつフッ化アルミニウム粒子の平均粒径が3.0μm以下である。本開示のリチウムイオン電池は、電極活物質層を有し、かつ電極活物質層が、本開示の電極合材を含有している。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコンクラスレート活物質粒子、及びフッ化アルミニウム粒子を含み、かつ前記フッ化アルミニウム粒子の平均粒径が3.0μm以下である、電極合材。
【請求項2】
前記フッ化アルミニウム粒子の平均粒径が0.1μm以上2.5μm以下である、請求項1に記載の電極合材。
【請求項3】
前記フッ化アルミニウム粒子の平均粒径が0.8μm以上1.8μm以下である、請求項2に記載の電極合材。
【請求項4】
前記フッ化アルミニウム粒子の平均粒径の前記シリコンクラスレート活物質粒子の平均粒径に対する割合が、2.5以下である、請求項1に記載の電極合材。
【請求項5】
前記電極合材に対してSEM-EDX測定による断面の観察を行ったときに、前記フッ化アルミニウム粒子の含有量の前記シリコンクラスレート活物質粒子の含有量に対する割合が、2.0面積%未満である、請求項1に記載の電極合材。
【請求項6】
電極活物質層を有し、かつ
前記電極活物質層が、請求項1~5のいずれか一項に記載の電極合材を含有している、
リチウムイオン電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電極合材及びリチウムイオン電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電池の開発が盛んに行われている。例えば、自動車産業界では、電気自動車又はハイブリッド自動車に用いられる電池の開発が進められている。また、電池、特にリチウムイオン電池に用いられる活物質として、シリコンが知られている。
【0003】
シリコン活物質は理論容量が大きく、電池の高エネルギー密度化に有効である。その反面、シリコン活物質は、充電時の膨張が大きいという問題を有する。これに対して、シリコン活物質としてシリコンクラスレート活物質を用いることによって、充電時の膨張を抑制することが知られている。
【0004】
例えば、特許文献1は、シリコンクラスレートII型の結晶相を有し、一次粒子の内部に空隙を有し、細孔直径が100nm以下である空隙の空隙量が、0.05cc/g以上、0.15cc/g以下である、シリコンクラスレート活物質を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2021-158004号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
シリコンクラスレート活物質は、通常のシリコン活物質と比較して充電時の膨張を抑制できるものの、シリコンクラスレート活物質の充電時の膨張を更に抑制することが求められている。
【0007】
本開示は、充電時の膨張が小さい電極合材、及びそのような電極合材を含むリチウムイオン電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本件開示者等は、以下の手段により上記課題を解決することができることを見出した。
〈態様1〉
シリコンクラスレート活物質粒子、及びフッ化アルミニウム粒子を含み、かつ前記フッ化アルミニウム粒子の平均粒径が3.0μm以下である、電極合材。
〈態様2〉
前記フッ化アルミニウム粒子の平均粒径が0.1μm以上2.5μm以下である、態様1に記載の電極合材。
〈態様3〉
前記フッ化アルミニウム粒子の平均粒径が0.8μm以上1.8μm以下である、態様2に記載の電極合材。
〈態様4〉
前記フッ化アルミニウム粒子の平均粒径の前記シリコンクラスレート活物質粒子の平均粒径に対する割合が、2.5以下である、態様1~3のいずれか一項に記載の電極合材。
〈態様5〉
前記電極合材に対してSEM-EDX測定による断面の観察を行ったときに、前記フッ化アルミニウム粒子の含有量の前記シリコンクラスレート活物質粒子の含有量に対する割合が、2.0面積%未満である、態様1~4のいずれか一項に記載の電極合材。
〈態様6〉
電極活物質層を有し、かつ
前記電極活物質層が、態様1~5のいずれか一項に記載の電極合材を含有している、
リチウムイオン電池。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、充電時の膨張が小さい電極合材、及びそのような電極合材を含むリチウムイオン電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、フッ化アルミニウム粒子の平均粒径と、電池の膨張率との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示の実施の形態について詳述する。なお、本開示は、以下の実施の形態に限定されるのではなく、開示の本旨の範囲内で種々変形して実施できる。
【0012】
《電極合材》
本開示の電極合材は、シリコンクラスレート活物質粒子、及びフッ化アルミニウム粒子を含み、かつフッ化アルミニウム粒子の平均粒径が3.0μm以下である。
【0013】
本開示に関して、「電極」は、正極であっても負極であってもよく、特に負極であることが好ましい。
【0014】
本開示に関して、「合材」は、そのままで又は他の成分を更に含有することによって、電極活物質層を構成することができる組成物を意味している。また、本開示に関して、「合材スラリー」は、「合材」に加えて分散媒を含み、それによって塗布及び乾燥して電極活物質層を形成できるスラリーを意味している。
【0015】
シリコンクラスレート活物質粒子を得る方法としては、ナトリウムシリコン(NaSi)合金からナトリウムを除去する方法が例示される。本件開示者等は、NaSi合金とフッ化アルミニウムを反応させることによりNaSi合金からナトリウムを除去する技術を開発した。
【0016】
これに関して、本件開示者等は、この技術を活用して得られた電極合材は、充電時の膨張抑制効果について改善の余地があることを見出した。具体的には、何らの理論によって束縛されることを意図しないが、この技術を活用して得られた電極合材では、絶縁性のフッ化アルミニウム粒子が残留することによって、シリコンクラスレート活物質粒子が均一に充電されず、これによって膨張が大きくなる場合があることを見出した。
【0017】
これに対して、本開示の電極合材は、フッ化アルミニウム粒子の平均粒径が3.0μm以下と小さいため、シリコンクラスレート活物質粒子の均一な充電の妨げにならず、充電時の膨張を抑制できると考えられる。
【0018】
〈シリコンクラスレート活物質粒子〉
本開示の電極合材は、シリコンクラスレート活物質粒子を含む。
【0019】
シリコンクラスレート活物質粒子の平均粒径は、0.4μm以上、0.6μm以上、0.8μm以上、0.9μm以上、1.0μm以上、又は1.1μm以上であってもよく、2.0μm以下、1.8μm以下、1.6μm以下、1.5μm以下、1.4μm以下、又は1.3μm以下であってもよい。
【0020】
シリコンクラスレート活物質粒子の平均粒径は、SEM等の電子顕微鏡による観察によって求めることができ、例えば、複数のシリコンクラスレート活物質粒子の円相当径(円面積相当径)の平均値として求められる。サンプル数は、多いことが好ましく、例えば20以上であり、50以上であってもよく、100以上であってもよい。
【0021】
〈フッ化アルミニウム粒子〉
本開示の電極合材は、フッ化アルミニウム粒子を含む。
【0022】
フッ化アルミニウム粒子の平均粒径は、3.0μm以下である。また、フッ化アルミニウム粒子の平均粒径は、0.1μm以上、0.3μm以上、0.5μm以上、0.6μm以上、0.7μm以上、0.8μm以上、又は0.9μm以上であってもよく、2.7μm以下、2.5μm以下、2.3μm以下、2.1μm以下、2.0μm以下、1.9μm以下、1.8μm以下、1.7μm以下、1.6μm以下、又は1.5μm以下であってもよい。
【0023】
フッ化アルミニウム粒子の平均粒径は、SEM等の電子顕微鏡による観察によって求めることができ、例えば、複数のフッ化アルミニウム粒子の円相当径の平均値として求められる。サンプル数は、多いことが好ましく、例えば20以上であり、50以上であってもよく、100以上であってもよい。
【0024】
フッ化アルミニウム粒子の平均粒径のシリコンクラスレート活物質粒子の平均粒径に対する割合(AlF/Si(粒径))は、2.5以下であってもよい。また、この割合は、0.3以上、0.4以上、0.5以上、0.6以上、0.7以上、又は0.8以上であってもよく、2.3以下、2.1以下、1.9以下、1.7以下、1.5以下、1.4以下、又は1.3以下であってもよい。
【0025】
前記フッ化アルミニウム粒子の含有量のシリコンクラスレート活物質粒子の含有量に対する割合(AlF/Si(面積))は、2.0面積%未満であってもよい。また、この割合は、0.1面積%以上、0.5面積%以上、又は1.0面積%以上であってよく、また1.9面積%以下、1.8面積%以下、又は1.7面積%以下であってよい。
【0026】
AlF/Si(面積)は、電極合材に対して走査型電子顕微鏡-エネルギー分散型X線分光法(SEM-EDX)測定による断面の観察を行い、フッ化アルミニウム粒子であることを示す範囲の面積のシリコンクラスレート活物質粒子であることを示す範囲の面積に対する割合として算出することができる。
【0027】
本開示のシリコンクラスレート活物質粒子は、任意の方法で得ることができ、ナトリウムシリコン(NaSi)合金からナトリウムを除去する方法が例示される。
【0028】
具体的には、シリコン源と水素化ナトリウムのようなナトリウム源を反応させることにより、NaSi合金を調製する。その後、このようにして調製されたNaSi合金、及びナトリウムトラップ剤としてのフッ化アルミニウム粒子を反応させることにより、シリコンクラスレート活物質粒子を調製することができる。
【0029】
上記反応における未反応のフッ化アルミニウム粒子を本開示のフッ化アルミニウム粒子として用いることができる。また、市販されている、或いは常法により調製されたフッ化アルミニウム粒子を本開示のフッ化アルミニウム粒子として用いることができる。
【0030】
上記のフッ化アルミニウム粒子に対して、平均粒径が本開示の範囲内となるように、粒径を調整するための手段を適用してもよい。粒径を調整するための手段としては、篩掛け等が例示されるが、これに限定されない。
【0031】
このようにして得られたシリコンクラスレート活物質粒子、及びフッ化アルミニウム粒子を含む材料を、任意の方法で混合等することで、本開示の電極合材を調製することができる。
【0032】
《リチウムイオン電池》
本開示のリチウムイオン電池は、液系電池又は固体電池であってもよい。なお、本開示に関して、「固体電池」は、電解質として少なくとも固体電解質を用いる電池を意味しており、したがって固体電池は、電解質として、固体電解質と液体電解質との組み合わせを用いていてもよい。また、本開示の固体電池は、全固体電池、すなわち電解質として固体電解質のみを用いる電池であってもよい。
【0033】
本開示のリチウムイオン電池は、電極活物質層を有し、かつ電極活物質層が、本開示の電極合材を含有している。特に、本開示のリチウムイオン電池は、負極合材が本開示の電極合材であってもよく、この場合、負極集電体層、本開示の電極合材を含有している負極活物質層、固体電解質層、正極活物質層、及び正極集電体層をこの順に含んでいてもよい。
【0034】
本開示のリチウムイオン電池は、上記各層の積層方向の両側からエンドプレート等の拘束部材によって拘束されていることができる。拘束方法としては、ボルトの拘束トルクを利用する方法などが例示されるが、これに限定されない。
【0035】
以下、負極合材が本開示の電極合材である場合の電池の製造方法について記載する。
【0036】
〈負極集電体層〉
負極集電体層に用いられる材料は、特に限定されず、電池の負極集電体として使用できるものを適宜採用することができ、例えば、銅、銅合金、並びに銅にニッケル、クロム、及び炭素等をめっき又は蒸着したものであってよいが、これらに限定されない。
【0037】
負極集電体層の形状は、特に限定されず、例えば、箔状、板状、又はメッシュ状等を挙げることができる。これらの中で、箔状が好ましい。
【0038】
〈負極活物質層〉
負極活物質層は、本開示の電極合材を含有している。
【0039】
(電極合材)
電極合材は、負極活物質としてのシリコンクラスレート活物質粒子、及びフッ化アルミニウム粒子を含む。電極合材については、本開示の電極合材に関する上記の記載を参照できる。
【0040】
負極活物質層は、随意に固体電解質、導電助剤、及びバインダーを含有している。
【0041】
(固体電解質)
固体電解質の材料は、特に限定されず、リチウムイオン電池に用いられる固体電解質として利用可能な材料を用いることができる。例えば、固体電解質は、硫化物固体電解質であってよい。
【0042】
硫化物固体電解質の例として、硫化物非晶質固体電解質、硫化物結晶質固体電解質、又はアルジロダイト型固体電解質等が挙げられるが、これらに限定されない。具体的な硫化物固体電解質の例として、LiS-P系(Li11、LiPS、Li等)、LiS-SiS、LiI-LiS-SiS、LiI-LiS-P、LiI-LiBr-LiS-P、LiS-P-GeS(Li13GeP16、Li10GeP12等)、LiI-LiS-P、LiI-LiPO-P、Li7-xPS6-xCl等;又はこれらの組み合わせを挙げることができるが、これらに限定されない。
【0043】
硫化物固体電解質は、ガラスであっても、結晶化ガラス(ガラスセラミック)であってもよい。
【0044】
なお、負極活物質層が固体電解質を含有している場合、負極活物質層中におけるシリコンクラスレート活物質粒子と固体電解質との質量比(シリコンクラスレート活物質粒子の質量:固体電解質の質量)は、85:15~30:70が好ましく、80:20~40:60がより好ましい。
【0045】
(導電助剤)
導電助剤は、特に限定されない。例えば、導電助剤は、VGCF(気相成長法炭素繊維、Vapor Grown Carbon Fiber)及び、アセチレンブラック(AB)、ケッチェンブラック(KB)、カーボンナノチューブ(CNT)、カーボンナノファイバー(CNF)等であってよいが、これらに限定されない。
【0046】
(バインダー)
バインダーとしては、特に限定されない。例えば、バインダーは、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ブタジエンゴム(BR)、若しくはスチレンブタジエンゴム(SBR)等の材料、又はこれらの組合せであってよいが、これらに限定されない。
【0047】
負極活物質層の厚さは、例えば、0.1~1000μmであってよい。
【0048】
〈固体電解質層〉
固体電解質層は、少なくとも固体電解質を含む。また、固体電解質層は、固体電解質以外に、必要に応じてバインダー等を含んでもよい。固体電解質及びバインダーについては、本開示の負極活物質層に関する上記の記載を参照できる。
【0049】
固体電解質層の厚さは、例えば、0.1~300μmであり、0.1~100μmであることが好ましい。
【0050】
〈正極活物質層〉
正極活物質層は、正極活物質、並びに随意に固体電解質、導電助剤、及びバインダー等を含有している層である。
【0051】
正極活物質の材料は、特に限定されない。例えば、正極活物質は、コバルト酸リチウム(LiCoO)、ニッケル酸リチウム(LiNiO)、マンガン酸リチウム(LiMn)、LiCo1/3Ni1/3Mn1/3、Li1+xMn2-x-yMyO(Mは、Al、Mg、Co、Fe、Ni、及びZnから選ばれる1種以上の金属元素)で表される組成の異種元素置換Li-Mnスピネル、チタン酸リチウム(LiTiO)、リン酸金属リチウム(LiMPO、MはFe、Mn、Co、及びNiから選ばれる1種以上の金属)等であってよいが、これらに限定されない。
【0052】
正極活物質は、被覆層を有していることができる。被覆層は、リチウムイオン伝導性能を有し、正極活物質や固体電解質との反応性が低く、かつ活物質や固体電解質と接触しても流動しない被覆層の形態を維持し得る物質を含有している層である。被覆層を構成する材料の具体例としては、LiNbOの他、LiTi12、LiPO等を挙げることができるが、これらに限定されない。
【0053】
正極活物質の形状としては、例えば、粒子状が挙げられる。正極活物質の平均粒径(D50)は、特に限定されないが、例えば10nm以上であり、100nm以上であってもよい。一方、正極活物質の平均粒径(D50)は、例えば50μm以下であり、20μm以下であってもよい。平均粒径(D50)は、例えば、レーザー回折式粒度分布計、走査型電子顕微鏡(SEM)による測定から算出できる。
【0054】
固体電解質、導電助剤、及びバインダーについては、本開示の負極活物質層に関する上記の記載を参照できる。
【0055】
なお、正極活物質層が固体電解質を含有している場合、正極活物質層中における正極活物質と固体電解質との質量比(正極活物質の質量:固体電解質の質量)は、85:15~30:70が好ましく、より好ましくは80:20~50:50である。
【0056】
正極活物質層の厚さは、例えば、0.1μm~1000μmであり、1μm~100umであることが好ましく、30μm~100μmであることが更に好ましい。
【0057】
〈正極集電体層〉
正極集電体層に用いられる材料は、特に限定されず、電池の正極集電体として使用できるものを適宜採用することができ、例えば、SUS、ニッケル、クロム、金、白金、アルミニウム、鉄、チタン、及び亜鉛等、並びにこれらの金属にニッケル、クロム、炭素等をめっき又は蒸着したものであってよいが、これらに限定されない。
【0058】
正極集電体層の形状は、特に限定されず、例えば、箔状、板状、又はメッシュ状等を挙げることができる。これらの中で、箔状が好ましい。
【実施例0059】
《シリコンクラスレート活物質粒子の合成》
〈合金化〉
(比較例1)
シリコン(Si)源として、Si粉末(高純度科学、SIEPB32)を準備した。このSi粉末及び金属リチウム(Li)を、Li/Si=4.0のモル比で秤量し、秤量したSi粉末及びLiをアルゴン雰囲気において乳鉢で混合して、リチウムシリコン(LiSi)合金を得た。得られたLiSi合金を、アルゴン雰囲気においてエタノールと反応させて、フッ化水素(HF)で処理することで、一次粒子の内部に空隙を有するSi粉末、すなわちポーラス構造を有するSi粉末を得た。
【0060】
ポーラス構造を有するSi粉末及び、ナトリウム(Na)源としての水素化ナトリウム(NaH)を用いて、ナトリウムシリコン(NaSi)合金を製造した。なお、NaHとしては、予めヘキサンで洗浄したものを用いた。NaH及びポーラス構造を有するSi粉末をモル比で1.05:1となるように秤量し、秤量したNaH及びポーラス構造を有するSi粉末をカッターミルで混合した。得られた混合物を、加熱炉にてアルゴン雰囲気下、400℃、40時間の条件で加熱することにより、粉末状のNaSi合金を得た。
〈クラスレート化〉
【0061】
得られたNaSi合金及びフッ化アルミニウム(AlF)粒子をモル比で1:0.35となるように秤量し、秤量したNaSi合金及びAlF粒子をカッターミルで混合して、反応原料を得た。得られた粉末状の反応原料をステンレススチール製の反応容器に入れ、加熱炉にてアルゴン雰囲気下、310℃、60時間の条件で加熱して反応させることで、シリコンクラスレートを得た。得られたシリコンクラスレートを、HNO、及びHOを体積比90:10で混合した混合溶媒を用いて酸洗浄して、反応生成物中の副生成物を除去した。洗浄後、濾過し、濾別された固形分を120℃で3時間以上乾燥して、粉末状のシリコンクラスレートを得た。更に、得られたシリコンクラスレートを3wt%HF溶液にて洗浄して、濾過した後、120℃で3時間以上乾燥することで、比較例1のシリコンクラスレート活物質粒子を得た。また、未反応のAlF粒子を比較例1のAlF粒子とした。なお、シリコンクラスレート活物質粒子の表面にО元素、C元素、又はN元素などを含有する被膜や不純物が含まれていてもよい。
【0062】
(実施例1)
合金化における温度を500℃に変更したこと、及びクラスレート化におけるNaSi:AlF(モル比)を1:0.5に変更したこと以外は比較例1と同様にして、実施例1のシリコンクラスレート活物質粒子、及びAlF粒子を得た。なお、シリコンクラスレート活物質粒子の表面にО元素、C元素、又はN元素などを含有する被膜や不純物が含まれていてもよい。
【0063】
(実施例2)
メッシュサイズ75μmの篩を通過したAlF粒子を使用したこと以外は実施例1と同様にして、実施例2のシリコンクラスレート活物質粒子、及びAlF粒子を得た。なお、シリコンクラスレート活物質粒子の表面にО元素、C元素、又はN元素などを含有する被膜や不純物が含まれていてもよい。
【0064】
(実施例3)
メッシュサイズ75μmの篩を通過し、32μmの篩を通過しなかったAlF粒子を使用したこと以外は実施例1と同様にして、実施例3のシリコンクラスレート活物質粒子、及びAlF粒子を得た。なお、シリコンクラスレート活物質粒子の表面にО元素、C元素、又はN元素などを含有する被膜や不純物が含まれていてもよい。
【0065】
(実施例4)
メッシュサイズ20μmの篩を通過したAlF粒子を使用したこと以外は実施例1と同様にして、実施例4のシリコンクラスレート活物質粒子、及びAlF粒子を得た。なお、シリコンクラスレート活物質粒子の表面にО元素、C元素、又はN元素などを含有する被膜や不純物が含まれていてもよい。
【0066】
《リチウムイオン電池の作製》
以下のようにして各例のリチウムイオン電池を作製した。
【0067】
〈負極合材の調製〉
ポリプロピレン製容器に酪酸ブチル、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)系バインダーの5wt%酪酸ブチル溶液、導電助剤としての気相法炭素繊維(VGCF)、各例のシリコンクラスレート活物質粒子及びAlF粒子、並びに硫化物固体電解質としてのLiS-P系ガラスセラミックを加え、超音波分散装置(エスエムテー製UH-50)で30秒間攪拌した。次に、容器を振とう器(柴田科学株式会社製、TTM-1)で30分間振とうさせて、スラリー状の負極合材(負極合材スラリー)を得た。
【0068】
〈負極活物質層の形成〉
得られた負極合材スラリーを、アプリケーターを使用してブレード法にて負極集電体層としての銅(Cu)箔上に塗工し、100℃に加熱したホットプレート上で30分間乾燥させることで、負極集電体層上に負極活物質層を形成した。
【0069】
〈固体電解質層の形成〉
ポリプロピレン製容器にヘプタン、ブチレンゴム(BR)系バインダーの5wt%ヘプタン溶液、及び硫化物固体電解質としてのLiSP系ガラスセラミックを加え、超音波分散装置(エスエムテー製UH-50)で30秒間攪拌した。次に、容器を振とう器(柴田科学株式会社製、TTM-1)で30分間振とうさせて、固体電解質スラリーを得た。
【0070】
得られた固体電解質スラリーを、アプリケーターを使用してブレード法にて剥離シートとしてのアルミニウム(Al)箔上に塗工し、100℃に加熱したホットプレート上で30分間乾燥させることによって固体電解質層を形成した。固体電解質層は、3つ作製した。
【0071】
〈正極合材の調製〉
ポリプロピレン製容器に酪酸ブチル、PVDF系バインダーの5wt%酪酸ブチル溶液、正極活物質としての平均粒径6μmのLiNi1/3Co1/3Mn1/3、硫化物固体電解質としてLiS-P系ガラスセラミック、導電助剤としてVGCFを容器に加え、超音波分散装置(エスエムテー製UH-50)で30秒間攪拌した。次に、容器を振とう器(柴田科学株式会社製、TTM-1)で3分間振とうさせ、更に超音波分散装置で30秒間攪拌し、振とう器で3分間振とうして、スラリー状の正極合材(正極合材スラリー)を得た。
【0072】
〈正極活物質層の形成〉
得られた正極合材スラリーを、アプリケーターを使用してブレード法にて正極集電体層としてのAl箔上に塗工し、100℃に加熱したホットプレート上で30分間乾燥させることによって、正極集電体層上に正極活物質層を形成した。
【0073】
〈電池の組立て〉
正極集電体層、正極活物質層、及び1つ目の固体電解質層をこの順で積層した。この積層物をロールプレス機にセットし、100kN/cmのプレス圧力及び165℃のプレス温度でプレスすることによって、正極積層体を得た。
【0074】
負極集電体層、負極活物質層、及び2つ目の固体電解質層をこの順で積層した。この積層物をロールプレス機にセットし、60kN/cmのプレス圧力及び25℃のプレス温度でプレスすることによって、負極積層体を得た。
【0075】
更に、正極積層体及び負極積層体の固体電解質層表面から、剥離シートとしてのAl箔を剥離させた。次いで、3つ目の固体電解質層から剥離シートとしてのAl箔を剥離させた。
【0076】
正極積層体及び負極積層体それぞれの固体電解質層側と3つ目の固体電解質層とが対向するようにして、これらを互いに積層し、この積層体を平面一軸プレス機にセットし、100MPa及び25℃で、10秒にわたって仮プレスし、最後にこの積層体を平面一軸プレス機にセットし、200MPaのプレス圧力及び120℃のプレス温度で、1分間にわたってプレスした。これによって、全固体電池を得た。
【0077】
《評価》
〈平均粒径〉
シリコンクラスレート活物質粒子、及びAlF粒子の平均粒径は、走査型電子顕微鏡(SEM)により負極活物質層の断面画像を取得し、取得した画像を解析することにより算出した。具体的には、サンプル数を100以上としてシリコンクラスレート活物質粒子、及びAlF粒子の円相当径の平均値として求めた。
【0078】
〈AlF/Si(粒径)〉
AlF粒子の平均粒径をシリコンクラスレート活物質粒子で除することでAlF/Si(粒径)を算出した。
【0079】
〈AlF/Si(面積)〉
得られた負極活物質層に対してSEM-EDX測定による断面の観察を行い、シリコンクラスレート活物質粒子であることを示す範囲の面積に対するフッ化アルミニウム粒子であることを示す範囲の面積の割合から、AlF/Si(面積)を算出した。
【0080】
〈膨張量〉
作製した電池は拘束治具を用いて所定の拘束圧にて拘束し、10時間率(1/10C)で4.55Vまで定電流-定電圧充電した際の、拘束圧増加量を測定して、これを本開示における膨張量とした。なお、拘束圧増加量は、拘束圧の最高値と最低値の差であり、実施例の値は、比較例1の値を100とした場合の相対値として示している。
【0081】
《結果》
各例における上記評価の結果を表に示す。なお、表1における「AlFの分級」は、金属製の篩を用いた分級の有無及び金属製の篩のメッシュサイズを示している。また、「Si」は、シリコンクラスレート活物質粒子を示している。
【0082】
【表1】
【0083】
表1に示されるように、AlF粒子の平均粒径が本開示の範囲内である実施例1~4の電池の膨張率は小さかった。また、AlF粒子の平均粒径が1.2μmである実施例3の電池、及び0.9μmである実施例4の電池の膨張率は更に小さく、AlF粒子の平均粒径が1.3μmである実施例2の電池の膨張率が最も小さかった。
図1