(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024157677
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】サージ防護素子
(51)【国際特許分類】
H01T 4/02 20060101AFI20241031BHJP
H01T 4/12 20060101ALI20241031BHJP
【FI】
H01T4/02 F
H01T4/12 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023072172
(22)【出願日】2023-04-26
(71)【出願人】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120396
【弁理士】
【氏名又は名称】杉浦 秀幸
(72)【発明者】
【氏名】田中 芳幸
(72)【発明者】
【氏名】内藤 友紀
(57)【要約】
【課題】 サージによる放電補助部のダメージを軽減でき、トリガ部分の耐久性を向上させることができるサージ防護素子を提供すること。
【解決手段】 絶縁性管2と、絶縁性管の両端開口部を閉塞して内部に放電制御ガスを封止する一対の封止電極3と、封止電極の内面に基端が接触していると共に先端が絶縁性管内に突出して互いに対向している一対の放電電極4と、一対の放電電極の先端に挟まれて絶縁性管内に収納された絶縁性部材5とを備え、絶縁性部材が、一対の放電電極の間から絶縁性管の軸線AX1に直交する方向に突出して延在し、前記突出している部分に導電性材料で形成された放電補助部6を有している。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁性管と、
前記絶縁性管の両端開口部を閉塞して内部に放電制御ガスを封止する一対の封止電極と、
前記封止電極の内面に基端が接触していると共に先端が前記絶縁性管内に突出して互いに対向している一対の放電電極と、
前記一対の放電電極の先端に挟まれて前記絶縁性管内に収納された絶縁性部材とを備え、
前記絶縁性部材が、前記一対の放電電極の間から前記絶縁性管の軸線に直交する方向に突出して延在し、前記突出している部分に導電性材料で形成された放電補助部を有していることを特徴とするサージ防護素子。
【請求項2】
請求項1に記載のサージ防護素子において、
前記一対の放電電極の先端部に、外周縁に沿って軸線方向に突出した環状の突条部が形成されていることを特徴とするサージ防護素子。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のサージ防護素子において、
前記絶縁性部材が、前記絶縁性管の軸線に直交する方向に軸線を有した円柱状又は円筒状であることを特徴とするサージ防護素子。
【請求項4】
請求項1又は2に記載のサージ防護素子において、
前記絶縁性部材の両端部が、前記絶縁性管の内面に当接していることを特徴とするサージ防護素子。
【請求項5】
請求項1又は2に記載のサージ防護素子において、
前記放電補助部が、前記絶縁性部材の両端側にそれぞれ設けられていることを特徴とするサージ防護素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、落雷等で発生するサージから様々な機器を保護し、事故を未然に防ぐのに使用するサージ防護素子に関する。
【背景技術】
【0002】
電話機、ファクシミリ、モデム等の通信機器用の電子機器が通信線との接続する部分、電源線、アンテナ或いはCRT駆動回路等、雷サージや静電気等の異常電圧(サージ電圧)による電撃を受けやすい部分には、異常電圧によって電子機器やこの機器を搭載するプリント基板の熱的損傷又は発火等による破壊を防止するために、サージ防護素子が接続されている。
【0003】
従来、サージ防護素子として、
図7に示すように、ガラス管102と、ガラス管102の両端開口部を閉塞する一対の封止電極103と、両端側に一対の封止電極103を配してガラス管102内に収納された薄板状の碍子105と、碍子105の表面に放電補助部として形成されたトリガ部106とを備えたサージアブソーバ101が知られている(例えば、特許文献1)。
なお、上記トリガ部106は、カーボン等の導電性材料で碍子105の中央に形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来の技術には、以下の課題が残されている。
上記従来のサージ防護素子では、大電流(例えば、印加電圧:1.2/50 6kV 印加電流:8/20 3000A)のサージが流れた場合、10回程度でアーク放電によって放電補助部であるトリガ部が消失してしまい、複数回のサージ試験で放電しなくなってしまうおそれがあった。
【0006】
本発明は、前述の課題に鑑みてなされたもので、サージによる放電補助部のダメージを軽減でき、トリガ部分の耐久性を向上させることができるサージ防護素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、前記課題を解決するために以下の構成を採用した。すなわち、第1の発明のサージ防護素子は、絶縁性管と、前記絶縁性管の両端開口部を閉塞して内部に放電制御ガスを封止する一対の封止電極と、前記封止電極の内面に基端が接触していると共に先端が前記絶縁性管内に突出して互いに対向している一対の放電電極と、前記一対の放電電極の先端に挟まれて前記絶縁性管内に収納された絶縁性部材とを備え、前記絶縁性部材が、前記一対の放電電極の間から前記絶縁性管の軸線に直交する方向に突出して延在し、前記突出している部分に導電性材料で形成された放電補助部を有していることを特徴とする。
【0008】
このサージ防護素子では、絶縁性部材が、一対の放電電極の間から絶縁性管の軸線に直交する方向に突出して延在し、突出している部分に導電性材料で形成された放電補助部を有しているので、一対の放電電極間の放電路から放電補助部が前記直交する方向に外れることで、アーク放電による放電補助部の損傷・消失を抑制することができる。
【0009】
第2の発明のサージ防護素子は、第1の発明において、前記一対の放電電極の先端部に、外周縁に沿って軸線方向に突出した環状の突条部が形成されていることを特徴とする。
すなわち、このサージ防護素子では、一対の放電電極の先端部に、外周縁に沿って軸線方向に突出した環状の突条部が形成されているので、突条部が絶縁性部材に接触することで、接触部が局所的になり、電界を集中させることができる。
【0010】
第3の発明のサージ防護素子は、第1又は第2の発明において、前記絶縁性部材が、前記絶縁性管の軸線に直交する方向に軸線を有した円柱状又は円筒状であることを特徴とする。
すなわち、このサージ防護素子では、絶縁性部材が、絶縁性管の軸線に直交する方向に軸線を有した円柱状又は円筒状であるので、絶縁性部材の外周面が曲面の傾斜面となり、放電電極の先端面と傾斜面(外周面)との間が狭くなると共に放電電極の先端面との接触部がより局所的になり、さらに電界を集中させることができ、応答性が向上する。
【0011】
第4の発明のサージ防護素子は、第1から第3の発明のいずれかにおいて、前記絶縁性部材の両端部が、前記絶縁性管の内面に当接していることを特徴とする。
すなわち、このサージ防護素子では、絶縁性部材の両端部が、絶縁性管の内面に当接しているので、絶縁性管内への挿入時に絶縁性部材の両端部が絶縁性管の内面に当接して位置決めされることから、絶縁性部材を絶縁性管内に挿入し易くなり、組立作業性が向上する。
【0012】
第5の発明のサージ防護素子は、第1から第4の発明のいずれかにおいて、前記放電補助部が、前記絶縁性部材の両端側にそれぞれ設けられていることを特徴とする。
すなわち、このサージ防護素子では、放電補助部が、絶縁性部材の両端側にそれぞれ設けられているので、一方の端部だけの放電補助部に比べて一対の放電補助部があることで、放電補助部の消失をより抑制することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、以下の効果を奏する。
すなわち、本発明に係るサージ防護素子によれば、絶縁性部材が、一対の放電電極の間から絶縁性管の軸線に直交する方向に突出して延在し、突出している部分に導電性材料で形成された放電補助部を有しているので、一対の放電電極間の放電路から放電補助部が前記直交する方向に外れることで、アーク放電による放電補助部の損傷・消失を抑制することができる。
したがって、本発明のサージ防護素子では、繰り返しのサージに対しても安定した放電開始電圧を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明に係るサージ防護素子の第1実施形態において、一部を破断したサージ防護素子を示す正面図である。
【
図2】第1実施形態において、一対の放電電極間に配された絶縁性部材を示す正面図である。
【
図3】本発明に係るサージ防護素子の第2実施形態において、一部を破断したサージ防護素子を示す正面図である。
【
図4】第2実施形態において、一対の放電電極間に配された絶縁性部材を示す斜視図である。
【
図5】本発明に係るサージ防護素子の実施例において、サージの印加回数に対するインパルス放電開始電圧を示すグラフである。
【
図6】本発明に係るサージ防護素子の従来例において、サージの印加回数に対するインパルス放電開始電圧を示すグラフである。
【
図7】本発明に係るサージ防護素子の従来例において、一部を破断したサージ防護素子を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係るサージ防護素子の第1実施形態を、
図1及び
図2を参照しながら説明する。なお、以下の説明に用いる各図面では、各部材を認識可能又は認識容易な大きさとするために縮尺を適宜変更している。
【0016】
本実施形態のサージ防護素子1は、
図1及び
図2に示すように、絶縁性管2と、絶縁性管2の両端開口部を閉塞して内部に放電制御ガスを封止する一対の封止電極3と、封止電極3の内面に基端が接触していると共に先端が絶縁性管2内に突出して互いに対向している一対の放電電極4と、一対の放電電極4の先端に挟まれて絶縁性管2内に収納された絶縁性部材5とを備えている。
【0017】
上記絶縁性部材5は、一対の放電電極4の間から絶縁性管2の軸線AX1に直交する方向に突出して延在し、前記突出している部分に導電性材料で形成された放電補助部6を有している。
また、絶縁性部材5は、絶縁性管2の軸線AX1に直交する方向に軸線AX2を有した円柱状又は円筒状である。
【0018】
上記放電電極4の先端面4aに対する絶縁性部材5の対向面5aは、
図2に示すように、先端面4aとの接触部5bを基点にして先端面4aに対して鋭角に傾斜した傾斜面を有している。
本実施形態では、円柱状の絶縁性部材5を採用している。すなわち、円柱状の絶縁性部材5の外周面が、放電電極4の先端面4aに対して鋭角に傾斜した曲面の対向面5aとなる。
なお、絶縁性部材5の対向面5aは、放電電極4の先端面4aに対して90°未満の鋭角θで接触することが好ましく、45°以下の鋭角θで接触することがより好ましい。
【0019】
この絶縁性部材5の両端部は、絶縁性管2の内面に当接している。
なお、絶縁性部材5の外径は、放電電極4の外径よりも小さくされ、絶縁性部材5の両側に、一対の放電電極4の先端面が直接対向した領域A1が形成されている。
上記放電補助部6は、絶縁性部材5の両端側にそれぞれ設けられている。
放電補助部6は、例えばイオン源となるカーボン等の導電性材料で形成されており、絶縁性部材5の外周面の両側にもそれぞれ設けられている。
上記放電電極4は、例えば銅で円柱状に形成されている。
【0020】
なお、本実施形態では、封止電極3の外側にリード線7の一端が溶接、半田付け、埋め込み等により接続されている。
上記封止電極3は、例えばFe(鉄)-Ni(ニッケル)合金の表面を酸化銅で被覆した金属で形成され、円板状又は円柱状となっている。
例えば、封止電極3はジュメット線から作られている。
【0021】
上記絶縁性管2は、例えば鉛ガラス等で略円筒状に形成されたガラス管である。
また、一対の封止電極3は、ガラス管の絶縁性管2に両端開口部に嵌め込まれて加熱処理によって融着され、絶縁性管2が密着状態となって固定されている。
【0022】
上記絶縁性管2内に封入される放電制御ガスは、不活性ガス等であって、例えばHe,Ar,Ne,Xe,Kr,SF6,CO2,C3F8,C2F6,CF4,H2,大気等及びこれらの混合ガスが採用される。
上記絶縁性部材5は、アルミナ、ムライト、コランダムムライト等のセラミックス材料で形成されている。なお、本実施形態の絶縁性部材5は、アルミナで形成されている。
【0023】
このように本実施形態のサージ防護素子1では、絶縁性部材5が、一対の放電電極4の間から絶縁性管2の軸線AX1に直交する方向に突出して延在し、突出している部分に導電性材料で形成された放電補助部6を有しているので、一対の放電電極4間の放電路から放電補助部6が前記直交する方向に外れることで、アーク放電による放電補助部6の損傷・消失を抑制することができる。
【0024】
また、絶縁性部材5が、絶縁性管2の軸線AX1に直交する方向に軸線AX2を有した円柱状又は円筒状であるので、絶縁性部材5の外周面が曲面の傾斜面となり、放電電極4の先端面4aと傾斜面(外周面)との間が狭くなると共に放電電極4の先端面4aとの接触部5bがより局所的になり、さらに電界を集中させることができ、応答性が向上する。
【0025】
また、絶縁性部材5の両端部は、絶縁性管2の内面に当接しているので、絶縁性管2内への挿入時に絶縁性部材5の両端部が絶縁性管2の内面に当接して位置決めされることから、絶縁性部材5を絶縁性管2内に挿入し易くなり、組立作業性が向上する。
さらに、放電補助部6が、絶縁性部材5の両端側にそれぞれ設けられているので、一方の端部だけの放電補助部6に比べて一対の放電補助部6があることで、放電補助部6の消失をより抑制することができる。
【0026】
次に、本発明に係るサージ防護素子の第2実施形態について、
図3及び
図4を参照して以下に説明する。なお、以下の実施形態の説明において、上記実施形態において説明した同一の構成要素には同一の符号を付し、その説明は省略する。
【0027】
第2実施形態と第1実施形態との異なる点は、第1実施形態では、一対の放電電極4の先端面4aが平坦面であるのに対し、第2実施形態のサージ防護素子21では、
図3に示すように、一対の放電電極24の先端部には、外周縁に沿って軸線方向に突出した環状の突条部24bが形成されている点である。
【0028】
第2実施形態の放電電極24は、軸線AX1を中心にした円形状の穴部24cが先端部に形成されている。
すなわち、放電電極24の先端部には、穴部24cの外周に円環状の突条部24bが形成されている。
このように第2実施形態のサージ防護素子21では、一対の放電電極24の先端部に、外周縁に沿って軸線方向に突出した環状の突条部24bが形成されているので、突条部24bが絶縁性部材5に接触することで、接触部がより局所的になり、さらに電界を集中させることができる。
【実施例0029】
上記第1実施形態のサージ防護素子を本発明の実施例として用い、サージ(印加電圧:1.2/50 6kV、印加電流:8/20 3kA)を繰り返し印加した際の印加回数に対するインパルス放電開始電圧Vimpを調べた結果を、
図5に示す。
なお、比較例として、
図7に示した従来のサージ防護素子についても、同様の条件でサージを印加した際の印加回数に対するインパルス放電開始電圧を調べた結果も、
図6に示す。
【0030】
これらの結果から分かるように、比較例では、2回目の印加で既にインパルス放電開始電圧が大幅に増大し、3回目の印加回数で放電ができなくなってしまっているのに対し、本発明の実施例では、100回近くまで印加回数を増やしてもインパルス放電開始電圧の大幅な増大が観られず、ほぼ一定の放電開始電圧が得られている。
【0031】
すなわち、比較例では、放電路である一対の放電電極間に放電補助部が形成されているために、数回のアーク放電でトリガ部である放電補助部が消失してしまったのに対し、本発明の実施例では、大電流のサージが繰り返し印加されても、放電路である一対の放電電極管から放電補助部が外れて位置していることで、放電補助部が損傷・消失が抑制され、インパルス放電開始電圧の増大が抑えられている。
【0032】
なお、本発明の技術範囲は上記各実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【0033】
例えば、上記各実施形態では、円柱状の絶縁性部材を採用しているが、一対の放電電極の間から絶縁性管の軸線に直交する方向に突出して延在していれば、板状や角柱状の絶縁性部材を採用しても構わない。
1…サージ防護素子、2…絶縁性管、3…封止電極、4,24…放電電極、24a…放電電極の先端面、24b…突条部、5…絶縁性部材、5a…絶縁性部材の対向面、5b…接触部、AX1…絶縁性管の軸線