(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024015768
(43)【公開日】2024-02-06
(54)【発明の名称】木質構造材補強構造
(51)【国際特許分類】
E04C 3/16 20060101AFI20240130BHJP
【FI】
E04C3/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022118061
(22)【出願日】2022-07-25
(71)【出願人】
【識別番号】390037154
【氏名又は名称】大和ハウス工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105843
【弁理士】
【氏名又は名称】神保 泰三
(72)【発明者】
【氏名】西塔 純人
(72)【発明者】
【氏名】辻 千佳
【テーマコード(参考)】
2E163
【Fターム(参考)】
2E163FA12
2E163FC02
2E163FC23
(57)【要約】
【課題】木質構造材の開口が形成された面から補強部材が出っ張るのを回避し、また、ボルト孔による断面欠損を生じることなく、上記木質構造材の上記開口の外側を補強することができる木質構造材補強構造を提供する。
【解決手段】この木質構造材補強構造は、水平方向に開口1aが形成された木質構造材である木材梁1の上記開口1aの周囲を補強する木質構造材補強構造であり、上記開口1aが形成される面に補強部材2を備える。この補強部材2は、帯形をなすとともに上記開口1aを囲う円形の環形状を有しており、木材梁1の長辺方向に生じると想定される割裂想定域Cを横切って上記開口1aが形成されている面に対して当該帯形の幅方向に入れられている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水平方向に開口が形成された木質構造材の上記開口の周囲を補強する木質構造材補強構造であって、帯形を有しており、上記木質構造材の長辺方向に生じると想定される割裂想定域を横切って上記開口が形成されている面に対して当該帯形の幅方向に入れられた補強部材を有することを特徴とする木質構造材補強構造。
【請求項2】
請求項1に記載の木質構造材補強構造において、上記補強部材は、上記開口を囲う環形状を有することを特徴とする木質構造材補強構造。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の木質構造材補強構造において、上記木質構造材の上記開口の外側の位置に上記補強部材の厚みよりも幅の狭い溝が形成されており、当該溝に上記補強部材が打ち込まれていることを特徴とする木質構造材補強構造。
【請求項4】
請求項1または請求項2に記載の木質構造材補強構造において、上記木質構造材の上記開口の外側の位置に上記補強部材の厚みよりも幅の広い溝が形成されており、当該溝に上記補強部材および接着剤が入れられて当該補強部材が上記木質構造材に接着固定されていることを特徴とする木質構造材補強構造。
【請求項5】
請求項1または請求項2に記載の木質構造材補強構造において、上記補強部材は、上記帯形の幅方向片側に、先端ほど厚みが薄い先鋭部を有しており、当該先鋭部の側から上記開口が形成されている面に打ち込まれていることを特徴とする木質構造材補強構造。
【請求項6】
請求項5に記載の木質構造材補強構造において、上記先鋭部は上記帯形の延び方向に凸刃部が繰り返し形成されていることを特徴とする木質構造材補強構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、木質構造材に形成された開口の周囲を補強する木質構造材補強構造に関する。
【背景技術】
【0002】
図8に示すように、木材梁100に鉛直方向の荷重が加わると、この木材梁100に水平方向に貫通している開口101の両横側で梁長手方向に割裂102が生じるおそれがあるため、開口101の周囲を補強することが行われている。
【0003】
特許文献1には、大型集成木材による梁部材の開口の機械的強度の低下の防止を目的として、集成木質構造材を水平方向に貫通している開口に鋼管を嵌入して接着するとともに、開口周辺に鉛直方向に貫通する複数のボルト孔を穿孔し、該ボルト孔に挿通したボルトにより集成木質構造材を鉛直方向に締めつける補強構造が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、木質梁に形成された開口部の周囲側の梁側面に補強プレートを配置して補強する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平08-209856号公報
【特許文献2】特許第5239199号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1の補強構造では、開口周辺に鉛直方向に貫通するボルト孔を穿孔しているため、上記梁部材に上記ボルト孔による断面欠損が生じ、開口周辺を十分に補強できないおそれがある。
【0007】
また、上記特許文献2の補強構造では、梁の側面から補強プレートが出ることになるため、建物外周の梁として用い難い等の欠点がある。
【0008】
この発明は、上記の事情に鑑み、木質構造材の開口が形成された面から補強部材が出っ張るのを回避し、また、ボルト孔による断面欠損を生じさせることなく、上記木質構造材の上記開口の外側を補強することができる木質構造材補強構造を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明の木質構造材補強構造は、水平方向に開口が形成された木質構造材の上記開口の周囲を補強する木質構造材補強構造であって、帯形を有しており、上記木質構造材の長辺方向に生じると想定される割裂想定域を横切って上記開口が形成されている面に対して当該帯形の幅方向に入れられた補強部材を有することを特徴とする。
【0010】
上記の構成であれば、上記割裂想定域で発生した割裂が広がることに対して上記補強部材により抵抗することが可能となる。換言すれば、上記木質構造材の内部側で割裂が発生しても、上記開口が形成されている面の側での広がりは、当該面に入れられた上記補強部材によって阻止されるので、割裂破壊を回避することができる。そして、上記補強部材は上記開口が形成されている面から上記補強部材内に入れられるので、当該面から上記補強部材が出っ張るのを回避でき、また、上記木質構造材の上記開口が形成されない側の面に対しては加工を要しないので、この木質構造材における曲げに対する断面欠損も生じない。
【0011】
上記補強部材は、上記開口を囲う環形状を有してもよい。ここで、仮に、当該補強部材が閉鎖断面ではなく、開放断面を有する非環形状であると、発生する割裂の広がりによって開放端が広がり、割裂の広がり対する抵抗力が低下するおそれがある。一方、上記補強部材が閉鎖断面である環形状を有すると、割裂に対して開放端広がりは生じないので、上記補強部材の肉厚を薄くしつつ割裂の広がりに対する抵抗力を向上させることができる。
【0012】
上記木質構造材の上記開口の外側の位置に上記補強部材の厚みよりも幅の狭い溝が形成されており、当該溝に上記補強部材が打ち込まれてもよい。これによれば、当該溝が無い場合に比べれば上記補強部材の打ち込み抵抗が軽減され、木質構造材補強構造の作製の容易化を図ることができる。また、上記溝の幅は補強部材の厚みよりも狭く、上記補強部材は木質構造材に圧入されるので、上記補強部材が木質構造材に緩く嵌められている場合に比べ、割裂の広がりに対して高い抑止効果が得られる。
【0013】
上記木質構造材の上記開口の外側の位置に上記補強部材の厚みよりも幅の広い溝が形成されており、当該溝に上記補強部材および接着剤が入れられて当該補強部材が上記木質構造材に接着固定されてもよい。これによれば、上記補強部材の打ち込みを不要にして木質構造材補強構造の作製の容易化を図ることができる。また、上記補強部材は木質構造材に接着固定されるので、上記補強部材が木質構造材に緩く嵌められている場合に比べ、割裂の広がりに対して高い抑止効果が得られる。
【0014】
上記補強部材は、上記帯形の幅方向片側に、先端ほど厚みが薄い先鋭部を有しており、当該先鋭部の側から上記開口が形成されている面に打ち込まれてもよい。これによれば、上記木質構造材の上記開口の外側の位置に溝を形成する加工手間を省くことが可能になる。また、上記溝加工を要しないので、既設建物の木質構造材に対しても補強構造を持たせることが容易になる。
【0015】
上記先鋭部は上記帯形の延び方向に凸刃部が繰り返し形成されてもよい。これによれば、上記補強部材の打ち込みがさらに小さな力で行えるようになる。
【発明の効果】
【0016】
本発明であれば、木質構造材における曲げに対する断面欠損を生じることなく、上記木質構造材の上記開口の周囲を補強することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】実施形態に係る木質構造材補強構造を示した説明図である。
【
図2】同図(A)は、
図1の木質構造材補強構造の正面図であり、同図(B)はA-A矢視の概略の縦断面図である。
【
図3】
図1の木質構造材補強構造の割裂想定域等を示した説明図である。
【
図4】同図(A)は、
図1の木質構造材補強構造における補強部材の未装着状態の正面図であり、同図(B)はB-B矢視の概略の縦断面図である。
【
図5】同図(A)は、他の実施形態に係る補強部材の部分拡大図であり、同図(B)は、当該補強部材の全体斜視図である。
【
図6】
図5に示す補強部材を用いて木質構造材補強構造を作製する説明図である。
【
図7】他の実施形態に係る木質構造材補強構造の補強部材の形状例および配置例等を示した説明図である。
【
図8】鉛直荷重によって木材梁に形成した開口に割裂が生じることを示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(実施形態1)
以下、この発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
図1、
図2(A)および
図2(B)に示すように、この実施形態の木質構造材補強構造では、木質構造材である木材梁1に配管等を通すために水平方向に貫通する円形の開口1aが形成されており、上記開口1aの周囲が補強される構造となっている。木材梁1の高さ(梁せい)Hは、例えば、180mm以上とされ、開口1aの直径Rは、例えば、1/3H~1/2H程度とされている。もちろん、このような寸法に限定されるものではない。また、木材梁1は集成材であってもよし、無垢材であってもよい。
【0019】
そして、この木質構造材補強構造では、例えば、金属製の補強部材2を用いている。この補強部材2は、帯形を有しており、木材梁1の長辺方向に生じると想定される割裂想定域Cを横切って上記開口1aが形成されている面に対して当該帯形の幅方向に入れられている。
【0020】
上記割裂想定域Cは、
図3に示すように、上記木材梁1の短辺方向(高さ方向)の上記開口1aの直径線が例えば45度±5度の範囲回転した位置の端部を起点に上記木材梁1の長辺方向に生じるとしている。この実施形態では、45度回転した位置の直径線の端部を起点に上記木材梁1の長辺方向に生じるとしており、この場合は、上記割裂想定域Cは、上記開口1aの上端または下端から(2-√2)R/4の箇所に設定される。なお、
図3では、上記割裂想定域Cを上記開口1aの右上側と上記開口1aの左下側に示したが、上記開口1aの右下側および左上側にも想定することができる。
【0021】
そして、この実施形態では、補強部材2は、上記開口1aを囲う円形の環形状を有している。この円形の補強部材2の外径は、開口1aの直径Rよりも10~50mm程度大きい。また、補強部材2の厚みは、0.5~2mm程度とされ、幅は5~50mm程度とされる。この環形状の補強部材2は1つで上記の想定される4つの割裂想定域Cの全てを横切る。
【0022】
そして、
図4(A)および
図4(B)に示すように、木材梁1の上記開口1aの外側には、補強部材2の厚みよりも狭い幅の円形の溝1bが形成されており、この円形の溝1bに補強部材2が打ち込まれている。なお、溝1bの加工は、開口1aの形成前でもよいし形成後でもよい。開口1aの形成前であれば、開口1aの中心予定部に空けた孔を中心に例えばトリマーを円形移動させる治具を用いることで円形の溝1bを容易に形成することができる。
【0023】
上記の構成であれば、補強部材2は割裂想定域Cを横切るので、この割裂想定域Cで発生した割裂が広がることに対して補強部材2により抵抗することが可能となる。換言すれば、木材梁1の内部側で割裂が発生しても、上記開口1aが形成されている面の側での広がりは、当該面に入れられた補強部材2によって抑止されるので、割裂破壊を回避することができる。そして、補強部材2は木材梁1の上記開口1aが形成されている面に入れられるので、当該開口1aが形成されている面から補強部材2が出っ張るのを回避できる。すなわち、このような出っ張りが無くなるまで、補強部材2を木材梁1に打ち込めばよいことになる。また、木材梁1の上記開口1aが形成されない側の面に対しては加工を要しないので、木材梁1における曲げに対する断面欠損も生じない。
【0024】
ここで、仮に、補強部材2が閉鎖断面ではなく、開放断面を有する非環形状であると、発生する割裂の広がりによって開放端が広がり、割裂が広がることに対する抵抗力が低下するおそれがある。この実施形態では、補強部材2は、上記開口1aを囲う環形状を有しており、割裂の広がりに対して開放端広がりは無いので、補強部材2の肉厚を薄くしつつ割裂の広がりに対する抵抗力を向上させることができる。また、このような環形状の補強部材2は、1つで4つの想定される割裂想定域Cの全てに割裂抑止効果を発揮することができる。
【0025】
また、溝1bの幅は、補強部材2の厚みよりも狭くされており、打ち込み抵抗が生じるが、当該溝1bが無い場合に比べれば、補強部材2の打ち込み抵抗が軽減され、木質構造材補強構造の作製の容易化を図ることができる。また、上記溝1bは補強部材2の厚みよりも幅が狭く、補強部材2は木材梁1に圧入されて密着するので、補強部材2が木材梁1に緩く嵌められている場合に比べ、割裂の広がりに対して高い抑止効果が得られる。
【0026】
なお、溝1bの幅が補強部材2の厚みよりも狭くされることに限らない。すなわち、木材梁1の上記開口1aの外側の位置に補強部材2の厚みよりも幅の広い溝1bが形成されており、当該溝1bに補強部材2および接着剤が入れられて補強部材2が木材梁1に接着固定されていてもよい。すなわち、補強部材2の周囲は、接着剤で満たされるので補強部材2と溝1bとの間には隙間は存在せず、また、補強部材2が溝1bから脱落することもない。このような構成であれば、補強部材2の打ち込み作業を不要にして木質構造材補強構造の作製の容易化を図ることができる。また、補強部材2は木材梁1に接着固定されるので、補強部材2が木材梁1に緩く嵌められている場合に比べ、高い割裂抑止効果が得られる。
【0027】
(実施形態2)
以下、この発明の他の実施の形態を
図5(A)、
図5(B)および
図6に基づいて説明する。なお、実施形態1と同様の構成要素には同一の符号を付記してその説明を省略する。この実施形態の木質構造材補強構造は補強部材2Aを備える、この補強部材2Aは、その帯形の幅方向片側に、先端ほど厚みが薄い先鋭部21を有しており、当該先鋭部21の側から上記開口1aが形成されている面に打ち込まれている。さらに、上記先鋭部21は上記帯形の延び方向に略三角形の凸刃部21aが繰り返し形成された歯形状を有する。このような先鋭部21を有することで、溝1bが無くても、補強部材2Aを上記開口1aが形成されている面に打ち込むことができる。
【0028】
これによれば、木材梁1の上記開口1aの外側の位置に溝1bを形成する加工手間を省くことができる。また、上記溝1bの加工を要しないので、既設建物の木質構造材に対しても補強構造を持たせることが可能になる。例えば、木材梁1上に床構造7が施工されている状態でも、補強部材2Aを木材梁1に打ち込むことが可能である。
【0029】
さらに、先鋭部21は上記帯形の延び方向に略三角形の凸刃部21aが繰り返し形成された歯形状を有するので、このような凸刃部21aを有さない平坦形状の先鋭部21に比べて、補強部材2Aの打ち込みがさらに小さな力で行えるようになる。
【0030】
以上の実施形態では、補強部材2,2Aは環形状であったが、これに限らない。
図7に示すように、木材梁1の長手方向の開口1aの両側において、それぞれ2か所の割裂想定域Cを横切るように、例えば略S字形等の補強部材2Bを入れてもよい。この補強部材2Bは、非環形状を有する。このような非環形状の補強部材2Bを用いる場合には、その肉厚を厚くするのが望ましい。また、補強部材2Bは、その帯形の幅方向片側に、先端ほど厚みが薄い先鋭部を有し、当該先鋭部の側から上記開口1aが形成されている面に打ち込まれてもよい。また、上記先鋭部は上記帯形の延び方向に凸刃部が繰り返し形成された歯形状を有してもよい。一方、補強部材2Bの形状に一致する溝部を木材梁1の長手方向の開口1aの両側に形成し、この溝部に補強部材2Bを打ち込む或いは嵌め込む構造としてもよい。
【0031】
また、以上の実施形態では、上記木材梁1を例示したが、これに限らず、木質構造材には木材柱も含まれる。また、環形状は円形に限らず多角形でもよい。
【0032】
以上、図面を参照してこの発明の実施形態を説明したが、この発明は、図示した実施形態のものに限定されない。図示した実施形態に対して、この発明と同一の範囲内において、あるいは均等の範囲内において、種々の修正や変形を加えることが可能である。
【符号の説明】
【0033】
1 :木材梁
1a :開口
1b :溝
2 :補強部材
2A :補強部材
2B :補強部材
7 :床構造
21 :先鋭部
21a :凸刃部
C :割裂想定域