(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024157688
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】複合フィルタ装置
(51)【国際特許分類】
H03H 9/25 20060101AFI20241031BHJP
H03H 9/17 20060101ALI20241031BHJP
H03H 9/54 20060101ALI20241031BHJP
H03H 9/72 20060101ALI20241031BHJP
H03H 9/70 20060101ALI20241031BHJP
【FI】
H03H9/25 A
H03H9/17 F
H03H9/54 Z
H03H9/72
H03H9/70
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023072186
(22)【出願日】2023-04-26
(71)【出願人】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001232
【氏名又は名称】弁理士法人大阪フロント特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 弘之
【テーマコード(参考)】
5J097
5J108
【Fターム(参考)】
5J097AA10
5J097BB15
5J097CC05
5J097HA04
5J097KK03
5J097KK04
5J097KK09
5J097KK10
5J097LL07
5J108AA07
5J108BB02
5J108GG03
5J108KK02
5J108KK04
(57)【要約】
【課題】バンドパスフィルタの帯域外減衰量のばらつきを抑制することができる、複合フィルタ装置を提供する。
【解決手段】本発明の複合フィルタ装置は、圧電性基板2と、圧電性基板2上において構成されている縦結合共振子型弾性波フィルタ6を含む、バンドパスフィルタである第1のフィルタ1Aと、少なくとも1つの共振子と、基準電位に接続されるインダクタとを含む第2のフィルタ1Bとを備える。平面視における、インダクタの外周縁の内側の領域をインダクタ領域Lとしたときに、平面視において、インダクタ領域Lの少なくとも一部と、縦結合共振子型弾性波フィルタ6とが重なっている。信号電位及び基準電位のいずれにも接続されず、インダクタ及び縦結合共振子型弾性波フィルタ6の間に設けられており、かつ平面視において、インダクタ領域Lの全てと重なっているシールド電極9をさらに備える。
【選択図】
図10
【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電性基板と、
前記圧電性基板上において構成されている縦結合共振子型弾性波フィルタを含む、バンドパスフィルタである第1のフィルタと、
少なくとも1つの共振子と、基準電位に接続されるインダクタと、を含む第2のフィルタと、
を備え、
平面視における、前記インダクタの外周縁の内側の領域をインダクタ領域としたときに、平面視において、前記インダクタ領域の少なくとも一部と、前記縦結合共振子型弾性波フィルタとが重なっており、
信号電位及び基準電位のいずれにも接続されず、前記インダクタ及び前記縦結合共振子型弾性波フィルタの間に設けられており、かつ平面視において、前記インダクタ領域の全てと重なっているシールド電極をさらに備える、複合フィルタ装置。
【請求項2】
前記第1のフィルタの前記縦結合共振子型弾性波フィルタ及び前記第2のフィルタの前記共振子が、同じ前記圧電性基板上において構成されている、請求項1に記載の複合フィルタ装置。
【請求項3】
デュプレクサである、請求項1に記載の複合フィルタ装置。
【請求項4】
前記第1のフィルタ及び前記第2のフィルタ以外の、少なくとも1つのフィルタをさらに備える、請求項1に記載の複合フィルタ装置。
【請求項5】
前記第2のフィルタがバンドエリミネーションフィルタである、請求項1に記載の複合フィルタ装置。
【請求項6】
前記第1のフィルタの通過帯域及び前記第2のフィルタの減衰帯域の周波数の範囲が同じである、請求項5に記載の複合フィルタ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合フィルタ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、弾性波共振子を含む複合フィルタ装置は、携帯電話機のフィルタなどとして広く用いられている。下記の特許文献1には、複合フィルタ装置としての、弾性波分波器の一例が開示されている。この弾性波分波器は2つのバンドパスフィルタを有する。2つのバンドパスフィルタは、アンテナ端子に共通接続されている。2つのバンドパスフィルタは、具体的には、送信側フィルタチップ及び受信側フィルタチップである。送信側フィルタチップ及び受信側フィルタチップは、配線基板にフリップチップ実装されている。
【0003】
配線基板は複数の誘電体層を有する。複数の誘電体層にわたり、インダクタが設けられている。インダクタは、アンテナ端子及びグラウンド電位の間に接続されている。該インダクタは、インピーダンス整合に用いられる。インダクタは、平面視において、送信側フィルタチップや、受信側フィルタチップと重なっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載のような弾性波分波器においては、受信側フィルタチップや送信側フィルタチップが実装される位置には、ばらつきが生じがちである。そのため、受信側フィルタチップに含まれる縦結合共振子型弾性波フィルタと、配線基板におけるインダクタとの位置関係にも、ばらつきが生じがちである。これにより、インダクタ及び縦結合共振子型弾性波フィルタの間の電磁気的な結合にばらつきが生じるおそれがある。この電磁気的な結合は、バンドパスフィルタの帯域外減衰量に影響を与える。よって、上記弾性波分波器においては、バンドパスフィルタの帯域外減衰量のばらつきを十分に抑制できないおそれがある。
【0006】
本発明の目的は、バンドパスフィルタの帯域外減衰量のばらつきを抑制することができる、複合フィルタ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る複合フィルタ装置は、圧電性基板と、前記圧電性基板上において構成されている縦結合共振子型弾性波フィルタを含む、バンドパスフィルタである第1のフィルタと、少なくとも1つの共振子と、基準電位に接続されるインダクタとを含む第2のフィルタとを備え、平面視における、前記インダクタの外周縁の内側の領域をインダクタ領域としたときに、平面視において、前記インダクタ領域の少なくとも一部と、前記縦結合共振子型弾性波フィルタとが重なっており、信号電位及び基準電位のいずれにも接続されず、前記インダクタ及び前記縦結合共振子型弾性波フィルタの間に設けられており、かつ平面視において、前記インダクタ領域の全てと重なっているシールド電極をさらに備える。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る複合フィルタ装置によれば、バンドパスフィルタの帯域外減衰量のばらつきを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の第1の実施形態に係る複合フィルタ装置の回路図である。
【
図2】本発明の第1の実施形態における弾性波素子チップの略図的透視平面図である。
【
図3】本発明の第1の実施形態に係る複合フィルタ装置の略図的正面断面図である。
【
図4】本発明の第1の実施形態における実装基板の第1の層の電極構造を示す平面図である。
【
図5】本発明の第1の実施形態における実装基板の第2の層の電極構造を示す平面図である。
【
図6】本発明の第1の実施形態における実装基板の第3の層の電極構造を示す平面図である。
【
図7】本発明の第1の実施形態における実装基板の第4の層の電極構造を示す平面図である。
【
図8】本発明の第1の実施形態における実装基板の第5の層の電極構造を示す平面図である。
【
図9】本発明の第1の実施形態における実装基板の第6の層の電極構造を示す透視平面図である。
【
図10】本発明の第1の実施形態における第1のフィルタの縦結合共振子型弾性波フィルタと、第2のフィルタのインダクタと、シールド電極との位置関係を示す略図的底面図である。
【
図11】比較例における第1のフィルタの減衰量周波数特性を、広い周波数の範囲において示す図である。
【
図12】比較例における第1のフィルタの、通過帯域付近における減衰量周波数特性を示す図である。
【
図13】本発明の第1の実施形態における第1のフィルタの減衰量周波数特性を、広い周波数の範囲において示す図である。
【
図14】本発明の第1の実施形態における第1のフィルタの、通過帯域付近における減衰量周波数特性を示す図である。
【
図15】比較例における第2のフィルタの減衰量周波数特性を、広い周波数の範囲において示す図である。
【
図16】本発明の第1の実施形態における第2のフィルタの減衰量周波数特性を、広い周波数の範囲において示す図である。
【
図17】弾性波素子チップを実装する位置がばらつくことを示す模式的正面断面図である。
【
図18】本発明の第1の実施形態における縦結合共振子型弾性波フィルタの模式的平面図である。
【
図19】本発明の第1の実施形態の第1の変形例における第1のフィルタの縦結合共振子型弾性波フィルタと、第2のフィルタのインダクタと、シールド電極との位置関係を示す略図的底面図である。
【
図20】本発明の第1の実施形態の第2の変形例に係る複合フィルタ装置の模式的回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しつつ、本発明の具体的な実施形態を説明することにより、本発明を明らかにする。
【0011】
なお、本明細書に記載の各実施形態は、例示的なものであり、異なる実施形態間において、構成の部分的な置換または組み合わせが可能であることを指摘しておく。
【0012】
図1は、本発明の第1の実施形態に係る複合フィルタ装置の回路図である。
【0013】
複合フィルタ装置10は、共通接続端子3と、第1のフィルタ1A及び第2のフィルタ1Bとを有する。第1のフィルタ1A及び第2のフィルタ1Bは、共通接続端子3に共通接続されている。共通接続端子3は、本実施形態ではアンテナ端子である。アンテナ端子はアンテナに接続される。なお、共通接続端子3と、第1のフィルタ1A及び第2のフィルタ1Bとの間には、インダクタL1が接続されている。
【0014】
第1のフィルタ1Aはバンドパスフィルタである。より具体的には、第1のフィルタ1Aは受信フィルタである。他方、第2のフィルタ1Bはバンドエリミネーションフィルタである。よって、複合フィルタ装置10はエクストラクタである。
【0015】
第1のフィルタ1Aは、第1の信号端子4Aと、縦結合共振子型弾性波フィルタ6と、弾性波共振子S1と、インダクタL2とを有する。共通接続端子3及び第1の信号端子4Aの間に、縦結合共振子型弾性波フィルタ6が接続されている。本実施形態では、縦結合共振子型弾性波フィルタ6は、3IDT型の2段の構成である。もっとも、縦結合共振子型弾性波フィルタ6の構成は上記に限定されない。縦結合共振子型弾性波フィルタ6及び共通接続端子3の間に、弾性波共振子S1が接続されている。縦結合共振子型弾性波フィルタ6及び第1の信号端子4Aの間に、インダクタL2が接続されている。
【0016】
第2のフィルタ1Bは、第2の信号端子4Bと、複数の弾性波共振子と、複数のインダクタとを有する。第2のフィルタ1Bの複数の弾性波共振子は、具体的には、弾性波共振子S11、弾性波共振子S12及び弾性波共振子S13である。共通接続端子3及び第2の信号端子4Bの間に、弾性波共振子S11、弾性波共振子S12及び弾性波共振子S13が互いに直列に接続されている。
【0017】
第2のフィルタ1Bの複数のインダクタは、具体的には、インダクタL3、インダクタL4及びインダクタL5である。共通接続端子3及び弾性波共振子S11の間にインダクタL3が接続されている。弾性波共振子S11及び弾性波共振子S12の間の接続点とグラウンド電位との間に、インダクタL4が接続されている。弾性波共振子S12及び弾性波共振子S13の間の接続点とグラウンド電位との間に、インダクタL5が接続されている。もっとも、複合フィルタ装置10の回路構成は上記に限定されない。
【0018】
第1のフィルタ1Aは、共通接続端子3から入力された信号のうち、所定帯域の周波数の信号を第1の信号端子4Aに出力するバンドパスフィルタである。第2のフィルタ1Bは、共通接続端子3から入力された信号のうち、所定帯域以外の周波数の信号を第2の信号端子4Bに出力するバンドエリミネーションフィルタである。第1のフィルタ1A及び第2のフィルタ1Bは、1つの弾性波素子チップにおいて構成されている。以下において、複合フィルタ装置10の具体的な構成を説明する。
【0019】
図2は、第1の実施形態における弾性波素子チップの略図的透視平面図である。
図2においては、共振子を、矩形に2本の対角線を加えた略図により示す。以下の略図的平面図、略図的底面図や略図的断面図においても同様である。
【0020】
複合フィルタ装置10の弾性波素子チップ1は圧電性基板2を有する。圧電性基板2は、圧電性を有する基板である。本実施形態では、圧電性基板2は、圧電材料のみからなる基板である。圧電材料としては、例えば、タンタル酸リチウム、ニオブ酸リチウム、酸化亜鉛、窒化アルミニウム、水晶、またはPZT(チタン酸ジルコン酸鉛)などを用いることができる。もっとも、圧電性基板2は、圧電層を含む積層基板であってもよい。
【0021】
圧電性基板2上において、複合フィルタ装置10の各共振子が構成されている。圧電性基板2上に、複合フィルタ装置10の各端子が、電極パッドとして設けられている。なお、圧電性基板2上には、第1のフィルタ1Aの共通接続端子3と、第2のフィルタ1Bの共通接続端子3とが設けられている。2つの共通接続端子3は、圧電性基板2以外の部分において共通化されている。さらに、圧電性基板2上には、複数の基準電位端子5が設けられている。基準電位端子5は基準電位に接続される。
【0022】
図3は、第1の実施形態に係る複合フィルタ装置の略図的正面断面図である。なお、
図3は、
図2中のI-I線に沿う部分を示す略図的断面図である。
【0023】
複合フィルタ装置10は実装基板7を有する。実装基板7に、弾性波素子チップ1がフリップチップ実装されている。実装基板7は6層の積層基板である。より具体的には、実装基板7においては、第1の層7A、第2の層7B、第3の層7C、第4の層7D、第5の層7E及び第6の層7Fがこの順序で積層されている。複数の層のうち、第1の層7Aが、最も圧電性基板2側に位置する層である。実装基板7の各層は、本実施形態では誘電体層である。もっとも、上記各層には、適宜のセラミックなどを用いることもできる。なお、実装基板7の層数は6層に限定されない。
【0024】
図4は、第1の実施形態における実装基板の第1の層の電極構造を示す平面図である。
図5は、第1の実施形態における実装基板の第2の層の電極構造を示す平面図である。
図6は、第1の実施形態における実装基板の第3の層の電極構造を示す平面図である。
図7は、第1の実施形態における実装基板の第4の層の電極構造を示す平面図である。
図8は、第1の実施形態における実装基板の第5の層の電極構造を示す平面図である。
図9は、第1の実施形態における実装基板の第6の層の電極構造を示す透視平面図である。
【0025】
図4~
図9に示すように、実装基板7の各層には配線電極が設けられている。実装基板7中には、複数の貫通電極8が設けられている。各層の配線電極同士は、貫通電極8により電気的に接続されている。複数の配線電極のうち一部は、第1のフィルタ1A及び第2のフィルタ1Bのそれぞれのインダクタを構成している。例えば、
図5~
図8に示すように、第2のフィルタ1BのインダクタL4は、第2の層7B、第3の層7C、第4の層7D及び第5の層7Eにわたり設けられている。これにより、インダクタL4はコイル状のインダクタとして構成されている。
【0026】
図3に示すように、平面視における、インダクタL4の外周縁の内側の領域をインダクタ領域Lとする。本実施形態では、インダクタ領域Lの平面視における形状は、略矩形である。平面視において、インダクタ領域Lと、縦結合共振子型弾性波フィルタ6とが重なっている。なお、平面視において、インダクタ領域Lの少なくとも一部と、縦結合共振子型弾性波フィルタ6とが重なっていればよい。本明細書において平面視とは、
図3における上方に相当する方向から下方に相当する方向に複合フィルタ装置10を見ることをいう。一方で、底面視とは、
図3における下方に相当する方向から上方に相当する方向に複合フィルタ装置10を見ることをいう。なお、
図3における方向として、圧電性基板2及び実装基板7のうち圧電性基板2側を上方とし、実装基板7側を下方とする。
【0027】
実装基板7の第1の層7Aにおける弾性波素子チップ1側の主面には、シールド電極9が設けられている。シールド電極9は、インダクタL4及び縦結合共振子型弾性波フィルタ6の間に設けられている。よって、シールド電極9は、平面視において、インダクタ領域Lと重なっている。なお、シールド電極9は信号電位及び基準電位のいずれにも接続されない。より具体的には、シールド電極は、信号電位に接続される配線に接続されておらず、かつ基準電位に接続される配線に接続されていない。シールド電極9は、単層の金属膜からなっていてもよく、あるいは積層金属膜からなっていてもよい。
【0028】
図10は、第1の実施形態における第1のフィルタの縦結合共振子型弾性波フィルタと、第2のフィルタのインダクタと、シールド電極との位置関係を示す略図的底面図である。底面図である
図10では、
図2などの平面図とは左右反転して示されている。
図10では、インダクタ領域Lを、ハッチングを付して示す。
【0029】
平面視及び底面視において、シールド電極9は、インダクタ領域Lの全てと重なっている。以下においては、平面視及び底面視における、シールド電極9及びインダクタ領域Lの外周縁を、単に外周縁と記載する。本実施形態では、平面視において、シールド電極9の外周縁は、インダクタ領域Lの外周縁の外側に位置している。なお、シールド電極9の外周縁の少なくとも一部が、インダクタ領域Lの外周縁と、平面視において重なっていてもよい。
【0030】
本実施形態の特徴は、以下の構成を有することにある。1)シールド電極9が信号電位及び基準電位のいずれにも接続されないこと。2)シールド電極9が、インダクタL4及び縦結合共振子型弾性波フィルタ6の間に設けられていること。3)シールド電極9が、インダクタ領域Lの全てと平面視において重なっていること。それによって、バンドパスフィルタである第1のフィルタ1Aの帯域外減衰量のばらつきを抑制することができる。この詳細を、本実施形態と比較例とを比較することにより示す。
【0031】
比較例は、シールド電極を有しない点において第1の実施形態と異なる。第1の実施形態及び比較例のそれぞれの複合フィルタ装置を5個ずつ用意した。上記の各複合フィルタ装置における第1のフィルタ及び第2のフィルタの減衰量周波数特性を測定した。
【0032】
図11は、比較例における第1のフィルタの減衰量周波数特性を、広い周波数の範囲において示す図である。
図12は、比較例における第1のフィルタの、通過帯域付近における減衰量周波数特性を示す図である。
図13は、第1の実施形態における第1のフィルタの減衰量周波数特性を、広い周波数の範囲において示す図である。
図14は、第1の実施形態における第1のフィルタの、通過帯域付近における減衰量周波数特性を示す図である。
図11~
図14においては、各複合フィルタ装置をサンプル1~5として示す。後述する
図15及び
図16においても同様である。
【0033】
図11に示すように、比較例においては、帯域外減衰量が大きくばらついていることがわかる。
図12に示すように、比較例における通過帯域付近では、通過帯域の低域側の周波数域において、帯域外減衰量のばらつきが大きい。これに対して、
図13及び
図14に示すように、第1の実施形態においては、通過帯域から遠い周波数域においても、通過帯域付近においても、帯域外減衰量のばらつきが抑制されていることがわかる。
【0034】
図15は、比較例における第2のフィルタの減衰量周波数特性を、広い周波数の範囲において示す図である。
図16は、第1の実施形態における第2のフィルタの減衰量周波数特性を、広い周波数の範囲において示す図である。
【0035】
図15及び
図16に示すように、第2のフィルタの減衰量周波数特性においては、第1の実施形態と比較例とに大差はない。
【0036】
第1の実施形態において、バンドパスフィルタである第1のフィルタ1Aの帯域外減衰量のばらつきを抑制することができる理由は、以下の通りである。縦結合共振子型弾性波フィルタを含む弾性波素子チップが実装基板に実装されており、該実装基板においてインダクタが構成されている場合、インダクタ及び縦結合共振子型弾性波フィルタの間に、電磁気的な結合が生じ易い。この電磁気的な結合は、バンドパスフィルタの帯域外減衰量に影響を与える。そして、インダクタ及び縦結合共振子型弾性波フィルタの位置関係によって、上記の電磁気的な結合の強さは変化する。
【0037】
ここで、
図17において模式的に示すように、実装基板107に弾性波素子チップ101が実装される位置には、ばらつきが生じがちである。そのため、インダクタ及び縦結合共振子型弾性波フィルタの位置関係にもばらつきが生じがちである。
【0038】
もっとも、
図3に示す第1の実施形態においては、シールド電極9が、インダクタL4及び縦結合共振子型弾性波フィルタ6の間に設けられている。そして、シールド電極9が、インダクタ領域Lの全てと平面視において重なっている。これにより、インダクタL4及び縦結合共振子型弾性波フィルタ6の間の電磁気的な結合が抑制される。よって、実装基板7に弾性波素子チップ1が実装される位置にばらつきが生じたとしても、上記の電磁気的な結合の強さにばらつきが生じ難い。従って、バンドパスフィルタである第1のフィルタ1Aの帯域外減衰量のばらつきを抑制することができる。
【0039】
なお、第1の実施形態においては、シールド電極9は浮き電極である。浮き電極とは、信号電位及び基準電位に接続されない電極である。これにより、インダクタL4及び縦結合共振子型弾性波フィルタ6の位置関係のばらつきに起因する帯域外減衰量に対する影響を、効果的に抑制することができる。
【0040】
以下において、第1の実施形態の構成のさらなる詳細を説明する。
【0041】
図18は、第1の実施形態における縦結合共振子型弾性波フィルタの模式的平面図である。
【0042】
圧電性基板2上に複数のIDT電極が設けられている。IDT電極に交流電圧を印加することにより、弾性波が励振される。上記のように、縦結合共振子型弾性波フィルタ6は2段において構成されている。一方の段においては、弾性波伝搬方向に沿って、IDT電極6A、IDT電極6B及びIDT電極6Cが並んでいる。さらに、上記3つのIDT電極を弾性波伝搬方向において挟むように、1対の反射器12A及び反射器12Bが設けられている。他方の段においても同様に、IDT電極6D、IDT電極6E及びIDT電極6F並びに1対の反射器が設けられている。もっとも、各段のIDT電極の個数は3個に限定されない。各段のIDT電極の個数は、例えば、5個、7個または9個などであっても構わない。さらに、縦結合共振子型弾性波フィルタ6は、1段において構成されていてもよい。
【0043】
IDT電極6Aは、第1のバスバー18A及び第2のバスバー18Bと、複数の第1の電極指19A及び複数の第2の電極指19Bとを有する。第1のバスバー18A及び第2のバスバー18Bは互いに対向している。第1のバスバー18Aに、複数の第1の電極指19Aの一端がそれぞれ接続されている。第2のバスバー18Bに、複数の第2の電極指19Bの一端がそれぞれ接続されている。複数の第1の電極指19A及び複数の第2の電極指19Bは互いに間挿し合っている。他のIDT電極においても同様である。
【0044】
各IDT電極及び各反射器は、積層金属膜からなっていてもよく、あるいは単層の金属膜からなっていてもよい。本明細書においては、第1のバスバー18A及び第2のバスバー18Bをまとめて、単にバスバーと記載することがある。第1の電極指19A及び第2の電極指19Bをまとめて、単に電極指と記載することがある。複数の電極指が延びる方向と、弾性波伝搬方向とは直交する。
【0045】
各IDT電極においては、一方のバスバーが信号電位に接続される。他方のバスバーが基準電位に接続される。一方の段の信号電位に接続されるバスバーと、他方の段の信号電位に接続されるバスバーとが接続されている。第1の実施形態においては、各反射器は基準電位に接続される。もっとも、各反射器は必ずしも基準電位に接続されなくともよい。
【0046】
なお、
図2においては、縦結合共振子型弾性波フィルタ6の複数のIDT電極及び1対の反射器を含めて、矩形に2本の対角線を加えた略図により示している。
図2に示すように、基準電位に接続される配線と、信号電位に接続される配線とは、一部において、絶縁膜17を挟み互いに対向している。絶縁膜17により、上記配線同士は電気的に絶縁されている。それによって、配線の引き回しの面積を小さくすることができ、複合フィルタ装置10を小型にすることができる。もっとも、絶縁膜17は必ずしも設けられていなくともよい。
【0047】
図1や
図2に示す各弾性波共振子は、1つのIDT電極及び1対の反射器を有する。1対の反射器は、IDT電極を弾性波伝搬方向において挟むように配置されている。
【0048】
図3に示すように、弾性波素子チップ1は、実装基板7にフリップチップ実装されている。より具体的には、圧電性基板2上に設けられた各端子が、実装基板7の第1の層7Aに設けられた各端子に、バンプ16によって接合されている。さらに、実装基板7上に、弾性波素子チップ1を覆うように、封止樹脂層11が設けられている。
【0049】
図2に示すように、第1のフィルタ1Aの縦結合共振子型弾性波フィルタ6を含む各共振子、及び第2のフィルタ1Bの各共振子は、同じ圧電性基板2上において構成されている。もっとも、第1のフィルタ1Aの各共振子と、第2のフィルタ1Bの各共振子とは、互いに異なる圧電性基板上において構成されていてもよい。よって、第1のフィルタ1Aが構成されている弾性波素子チップ、及び第2のフィルタ1Bが構成されている弾性波素子チップがそれぞれ、実装基板7に実装されていてもよい。
【0050】
第1の実施形態の複合フィルタ装置10はCSP(Chip Size Package)構造である。もっとも、これに限定されるものではない。例えば、複合フィルタ装置はWLP(Wafer Level Package)構造であってもよい。複合フィルタ装置がWLP構造である場合、弾性波素子チップが、中空空間を有するように構成されていればよい。そして、該中空空間内に、複数のIDT電極が配置されていればよい。この弾性波素子チップが、例えば、
図4に示す実装基板7に実装されていればよい。実装基板7上に、弾性波素子チップを覆うように、封止樹脂層11が設けられていてもよい。
【0051】
具体的には、複合フィルタ装置がWLP構造である場合、弾性波素子チップにおいては、例えば、圧電性基板上に、複数のIDT電極を囲むように、支持部材が設けられている。支持部材は開口部を有する。複数のIDT電極は開口部内に位置している。支持部材の開口部を覆うように、カバー部材が設けられている。圧電性基板、支持部材及びカバー部材により囲まれた中空空間内に、複数のIDT電極が配置されている。カバー部材及び支持部材を貫通するように、複数の貫通電極が設けられている。各貫通電極の一端は、圧電性基板上の各端子に接続されている。それによって、弾性波素子チップが構成されている。各貫通電極の他端には、バンプが接合されている。そして、弾性波素子チップは、複数のバンプを用いて、実装基板に実装されている。
【0052】
図3に示すように、第1の実施形態では、インダクタL4は、実装基板7の第2の層7Bから第5の層7Eにかけて設けられている。より具体的には、
図5に示すように、インダクタL4は配線部を有する。配線部は渦巻き状の形状を有する。配線部の端部には、貫通電極8が接続されている。
図5~
図8に示すインダクタL4の配線部同士が、貫通電極8により接続されている。よって、インダクタL4は複数の貫通電極8を含む。複数の配線部及び複数の貫通電極8により、コイル状のインダクタL4が構成されている。
【0053】
なお、インダクタL4の各層の配線部は、例えば、直線状、L字状または周回していない曲線状などであっても構わない。各層の配線部が接続されることにより、インダクタL4がコイル状のインダクタとして構成されていることが好ましい。
【0054】
インダクタL4の一方端は、
図3に示す第1の層7Aに設けられた電極パッド、及びバンプ16を介して、上記基準電位端子5に電気的に接続されている。インダクタL4の他方端は、外部の基準電位に接続される。より具体的には、
図9に示すように、第6の層7Fには基準電位電極15が設けられている。インダクタL4は、基準電位電極15を介して基準電位に接続される。
【0055】
第6の層7Fには、共通接続電極13並びに第1の信号電極14A及び第2の信号電極14Bが設けられている。共通接続電極13は、実装基板7中の各配線及び貫通電極8並びにバンプ16を介して、圧電性基板2上の2つの共通接続端子3に電気的に接続されている。すなわち、上記2つの共通接続端子3は実装基板7において共通化されている。同様にして、第1の信号電極14Aは上記第1の信号端子4Aに電気的に接続されている。第2の信号電極14Bは上記第2の信号端子4Bに電気的に接続されている。
【0056】
図3に示すように、シールド電極9が実装基板7に設けられていることが好ましい。この場合には、例えば、シールド電極9が設けられた部材を実装基板7に配置する必要がない。そのため、当該部材を設けることによるシールド電極9の位置ずれは生じない。よって、平面視において、インダクタ領域Lの全体及びシールド電極9が重なった構成を、容易に得ることができる。そして、シールド電極9の面積を小さくした場合にも、当該構成をより確実に、容易に得ることができる。従って、小型化を進めることができ、かつ生産性を高めることができる。
【0057】
シールド電極9は、実装基板7の表面に設けられている。なお、シールド電極9は、実装基板7内に設けられており、かつインダクタL4及び縦結合共振子型弾性波フィルタ6の間に設けられていてもよい。例えば、インダクタL4が実装基板7の第3の層7Cから第5の層7Eにかけて設けられており、かつシールド電極9が第1の層7A及び第2の層7Bの間に設けられていてもよい。
【0058】
第1のフィルタ1Aの通過帯域と、第2のフィルタ1Bの減衰帯域とは同じ周波数の範囲である。それによって、第1のフィルタ1Aの帯域外減衰量を大きくすることができる。もっとも、第1のフィルタ1Aの通過帯域と、第2のフィルタ1Bの減衰帯域とは、互いに異なる周波数の範囲であってもよい。
【0059】
インダクタL4は、インダクタL4に電流が流れたときに生じる磁界が、圧電性基板2側から実装基板7側に向かうように構成されていることが好ましい。この場合、第1の実施形態のシールド電極9が設けられていない場合には、インダクタL4及び縦結合共振子型弾性波フィルタ6の電磁気的な結合による、帯域外減衰量に対する影響が大きい。これに対して、本発明の第1の実施形態においては、上記の電磁気的な結合を抑制することができる。それによって、帯域外減衰量のばらつきを抑制することができる。従って、インダクタL4の上記の構成を採用する場合、本発明が特に好適である。
【0060】
第1の実施形態では、平面視において、並列インダクタとしてのインダクタL4、及び縦結合共振子型弾性波フィルタ6が重なっている。そして、シールド電極9が、インダクタL4、及び縦結合共振子型弾性波フィルタ6の間に設けられており、かつシールド電極9が、インダクタL4における外周縁の内側の領域であるインダクタ領域Lの全体と、平面視において重なっている。なお、平面視において、第2のフィルタ1Bにおける直列インダクタとしてのインダクタL3、及び縦結合共振子型弾性波フィルタ6が重なっていてもよい。そして、シールド電極9が、インダクタL3、及び縦結合共振子型弾性波フィルタ6の間に設けられており、かつシールド電極9が、インダクタL3における外周縁の内側の領域であるインダクタ領域の全体と、平面視において重なっていてもよい。この場合においても、第1のフィルタ1Aの帯域外減衰量のばらつきを抑制することができる。
【0061】
図10に示すように、第1の実施形態では、平面視において、シールド電極9の外周縁は、インダクタ領域Lの外周縁の外側に位置している。もっとも、シールド電極9は、インダクタ領域Lの全体と、平面視において重なっていればよい。例えば、
図19に示す第1の実施形態の第1の変形例では、平面視において、シールド電極9Aの外周縁における全ての部分が、インダクタ領域Lの外周縁と重なっている。この場合においても、インダクタL4及び縦結合共振子型弾性波フィルタ6の間の電磁気的な結合を抑制することができる。よって、第1の実施形態と同様に、第1のフィルタ1Aの帯域外減衰量のばらつきを抑制することができる。加えて、シールド電極9Aの面積を小さくすることができるため、複合フィルタ装置の小型化を進めることができる。
【0062】
上述したように、複合フィルタ装置10はエクストラクタである。もっとも、これに限定されるものではない。例えば、
図20により模式的に示す第1の実施形態の第2の変形例においては、第2のフィルタ21Bはバンドパスフィルタである。なお、第2のフィルタ21Bの回路構成は、少なくとも1つの共振子を有する点、及び第1の実施形態と同様のインダクタL4を有する点以外においては、特に限定されない。本変形例の複合フィルタ装置20においては、第1のフィルタ1A及び第2のフィルタ21Bの双方がバンドパスフィルタである。
【0063】
本変形例においても、第1の実施形態と同様にインダクタL4が設けられている。そして、第1のフィルタ1A及びシールド電極は、第1の実施形態と同様に構成されている。複合フィルタ装置20においては、シールド電極は、信号電位及び基準電位のいずれにも接続されない。シールド電極は、インダクタL4及び縦結合共振子型弾性波フィルタ6の間に設けられている。さらに、シールド電極は、インダクタ領域Lの全てと平面視において重なっている。それによって、第1のフィルタ1Aの帯域外減衰量のばらつきを抑制することができる。
【0064】
複合フィルタ装置20の2つのバンドパスフィルタはそれぞれ、送信端子から入力された信号を共通接続端子へ出力する送信フィルタであってもよく、共通接続端子から入力された信号を受信端子に出力する受信フィルタであってもよい。
【0065】
第1の実施形態及びその各変形例では、複合フィルタ装置がエクストラクタである場合、及びデュプレクサである場合を示したが、これらに限られるものではない。本発明に係る複合フィルタ装置は、第1のフィルタ及び第2のフィルタ以外の、少なくとも1つのフィルタを有していてもよい。すなわち、複合フィルタ装置は、バンドパスフィルタを含む、3つ以上のフィルタを有する、マルチプレクサであってもよい。
【0066】
以下において、本発明に係る複合フィルタ装置の形態の例をまとめて記載する。
【0067】
<1>圧電性基板と、前記圧電性基板上において構成されている縦結合共振子型弾性波フィルタを含む、バンドパスフィルタである第1のフィルタと、少なくとも1つの共振子と、基準電位に接続されるインダクタと、を含む第2のフィルタと、を備え、平面視における、前記インダクタの外周縁の内側の領域をインダクタ領域としたときに、平面視において、前記インダクタ領域の少なくとも一部と、前記縦結合共振子型弾性波フィルタとが重なっており、信号電位及び基準電位のいずれにも接続されず、前記インダクタ及び前記縦結合共振子型弾性波フィルタの間に設けられており、かつ平面視において、前記インダクタ領域の全てと重なっているシールド電極をさらに備える、複合フィルタ装置。
【0068】
<2>前記第1のフィルタの前記縦結合共振子型弾性波フィルタ及び前記第2のフィルタの前記共振子が、同じ前記圧電性基板上において構成されている、<1>に記載の複合フィルタ装置。
【0069】
<3>デュプレクサである、<1>または<2>に記載の複合フィルタ装置。
【0070】
<4>前記第1のフィルタ及び前記第2のフィルタ以外の、少なくとも1つのフィルタをさらに備える、<1>または<2>に記載の複合フィルタ装置。
【0071】
<5>前記第2のフィルタがバンドエリミネーションフィルタである、<1>~<4>のいずれか1つに記載の複合フィルタ装置。
【0072】
<6>前記第1のフィルタの通過帯域及び前記第2のフィルタの減衰帯域の周波数の範囲が同じである、<5>に記載の複合フィルタ装置。
【符号の説明】
【0073】
1…弾性波素子チップ
1A,1B…第1,第2のフィルタ
2…圧電性基板
3…共通接続端子
4A,4B…第1,第2の信号端子
5…基準電位端子
6…縦結合共振子型弾性波フィルタ
6A~6F…IDT電極
7…実装基板
7A~7F…第1~第6の層
8…貫通電極
9,9A…シールド電極
10…複合フィルタ装置
11…封止樹脂層
12A,12B…反射器
13…共通接続電極
14A,14B…第1,第2の信号電極
15…基準電位電極
16…バンプ
17…絶縁膜
18A,18B…第1,第2のバスバー
19A,19B…第1,第2の電極指
20…複合フィルタ装置
21B…第2のフィルタ
101…弾性波素子チップ
107…実装基板
L…インダクタ領域
L1~L5…インダクタ
S1,S11~S13…弾性波共振子