(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024157691
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】火災抑制床構造および床用スノコ
(51)【国際特許分類】
E04F 15/024 20060101AFI20241031BHJP
A47G 27/02 20060101ALI20241031BHJP
【FI】
E04F15/024 606D
A47G27/02 101A
E04F15/024 603F
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023072192
(22)【出願日】2023-04-26
(71)【出願人】
【識別番号】000111074
【氏名又は名称】ニッタン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090033
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100093045
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 良男
(72)【発明者】
【氏名】山納 正人
(72)【発明者】
【氏名】白山 宣弘
(72)【発明者】
【氏名】隅田 和哉
【テーマコード(参考)】
2E220
3B120
【Fターム(参考)】
2E220AA02
2E220AA26
2E220AB08
2E220AC03
2E220BA15
2E220BB03
2E220BB14
2E220BC03
2E220DA18
2E220GA22X
2E220GA27X
2E220GB39Y
3B120AA00
3B120AB18
3B120BA02
3B120EB06
(57)【要約】
【課題】カーペットの上に撒かれたガソリンが燃えて熱が継続して発生しても一部がめくれ上がるのを防止することができる火災抑制床構造を提供する。
【解決手段】難燃性を有する繊維により形成された矩形状の繊維層の下面にベースシートが接合されてなるタイルカーペットがスノコの上面に複数の固定具によって固定されている火災抑制床構造において、前記固定具はタイルカーペットおよびスノコの厚みに対応する長さの軸部と該軸部の一方の端部に設けられた頭部と軸部の他方の端部に設けられた係止部とを備え、前記軸部がタイルカーペットおよびスノコのパネル部を貫通して頭部がタイルカーペットの上面に露出し、係止部がスノコのパネル部の下面より露出するように固定具が設置されることで、熱が作用した際に繊維層とベースシートの熱伸縮率との差に起因してタイルカーペットの一部が上方へ持ち上がる局所的熱変形を規制すように構成した。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
難燃性を有する繊維により形成された矩形状の繊維層の下面に、該繊維層と同一形状のベースシートが接合されてなるタイルカーペットが、パネル部と該パネル部を下方から支持する脚部とを有するスノコの前記パネル部の上面に複数の固定具によって固定されている火災抑制床構造であって、
前記固定具は、前記タイルカーペットおよび前記スノコの厚みに対応する長さの軸部と、該軸部の一方の端部に設けられた頭部と、前記軸部の径よりも大きな径または幅を有し前記軸部の他方の端部に設けられた係止部と、を備え、
前記軸部が前記タイルカーペットおよび前記スノコのパネル部を貫通して前記頭部が前記タイルカーペットの上面に露出し、前記係止部が前記スノコの前記パネル部の下面より露出するように前記固定具が設置されることで、熱が作用した際に前記繊維層の熱伸縮率と前記ベースシートの熱伸縮率との差に起因して、前記タイルカーペットの一部が上方へ持ち上がる局所的熱変形を規制する
ことを特徴とした火災抑制床構造。
【請求項2】
前記タイルカーペットおよび前記スノコの前記パネル部には、それぞれ前記頭部の径よりも小さな貫通孔が形成され、
前記固定具は、全体として棒状をなし、前記タイルカーペットが前記スノコの前記パネル部の上面に接合された状態で、前記タイルカーペットと前記スノコの前記貫通孔同士が重なる位置にて当該貫通孔を貫通するように挿入されている
ことを特徴とした請求項1に記載の火災抑制床構造。
【請求項3】
前記固定具の前記頭部と前記係止部の少なくとも一方は、弾性変形可能な素材により形成されており、
当該弾性変形可能な素材により形成された前記頭部または前記係止部は、前記固定具が前記貫通孔に挿入されるときには太さが前記貫通孔の径未満となり、挿入後は太さが前記貫通孔の径以上となる
ことを特徴とした請求項2に記載の火災抑制床構造。
【請求項4】
棒状をなす前記固定具は、前記軸部および前記係止部が剛性を有する素材により形成されており、
前記係止部は、当該係止部が設けられている前記軸部の端部において当該軸部に対して一定の角度まで回動可能に取り付けられた一対の爪を有し、
前記固定具が前記貫通孔に挿入されるときには前記一対の爪が前記軸部に対して所定の角度未満となることで当該係止部の幅が前記貫通孔の径よりも小さくなり、挿入後は前記一対の爪が前記軸部に対して所定の角度以上となることで当該係止部の幅が前記貫通孔の径よりも大きくなる
ことを特徴とした請求項2に記載の火災抑制床構造。
【請求項5】
棒状をなす前記固定具の前記軸部は、中空パイプと当該中空パイプ内に回転自在に収納されたロッドとを有し、
前記ロッドの先端には螺旋状の溝が形成されており、
前記係止部は、前記中空パイプの端部において当該中空パイプに対して一定の角度まで回動可能に取り付けられた一対の開閉体を有し、当該一対の開閉体には前記螺旋状の溝に噛み合い可能な歯部がそれぞれ形成され、前記ロッドの回転により前記中空パイプに対する角度が変化されるように構成され、
前記固定具が前記貫通孔に挿入されるときには前記一対の開閉体が前記軸部に対して所定の角度未満となることで当該係止部の幅が前記貫通孔の径よりも小さくなり、挿入後は前記一対の開閉体が前記軸部に対して所定の角度以上となることで当該係止部の幅が前記貫通孔の径よりも大きくなる
ことを特徴とした請求項2に記載の火災抑制床構造。
【請求項6】
パネル部と該パネル部を下方から支持する脚部とを有し、難燃性を有する繊維により形成された矩形状の繊維層の下面に、該繊維層と同一形状のベースシートが接合されてなるタイルカーペットが前記パネル部の上面に複数の固定具によって固定されている床用スノコであって、
前記パネル部の所定部位には、前記固定具を係合または止着可能な結合部が設けられていることを特徴とした床用スノコ。
【請求項7】
前記固定具は、前記タイルカーペットおよび床用スノコの厚みに対応する長さの軸部と、該軸部の一方の端部に設けられた頭部と、互いに反対の方向へ延びる一対の爪を有し前記軸部の他方の端部に設けられた係止部と、を備え、
前記結合部は、
前記パネル部の所定部位に形成され、前記固定具の前記係止部および前記軸部が挿通可能なスリットと、
前記パネル部の上面の前記スリットに対応する部位に形成され、すり鉢状をなし前記スリットの一方の端が臨む凹部と、
を有し、前記固定具を挿入可能に構成されている
ことを特徴とした請求項6に記載の床用スノコ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガソリン等の可燃性液体による火災を抑制可能な床構造および床用スノコに関し、例えばフリーアクセスフロア用の床構造および床用スノコに利用して有効な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ガソリンを撒いて放火する凶悪事件が発生しており、オフィスビルやイベント会場などにおいても、ガソリン等の可燃性液体を用いた放火対策が望まれている。
従来、床材としてのカーペットには、火災が発生した際に、火災拡大の一因にならないよう防炎性能が付与されているものがある。また、航空機、船舶、列車、自動車等の交通機関用の難燃性カーペットに関する発明(特許文献1、2参照)が提案されており、このような難燃性カーペットを建物の床に敷設することでも火災をある程度抑制することができる。
また、建物内部における可燃性液体による火災の発生に対応するため、延焼拡大を防止できるようにした構造物の床構造に関する発明が提案されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012-207331号公報
【特許文献2】特開2014-217430号公報
【特許文献3】特開平05-018097号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1や2に記載されている難燃性カーペットの発明は、床材自体を燃えにくくすることで延焼を抑制するものである。そのため、ガソリン等の可燃性液体が撒かれて放火された場合に火勢を抑制する効果は期待することができず、居合わせた人が立ち上がった炎に恐怖心をおぼえ、避難できないおそれがある。
また、特許文献3には、下部に隙間を有して設けられた脚部を有し、上面にこの隙間に向かって透水させる多数の穴を形成したパネルを床面に敷き詰めることで、スプリンクラーから噴射された消火用の水を床下に落とし、床下には排水設備を備えることで効率的に水を回収、再利用できる消火設備に関する発明が開示されている。加えて、特許文献3には、床パネルに透水性の良いマットをかぶせて運用しても良いとの記載がある。
【0005】
ここで、透水性の良いマットは具体的にどのようなものか特許文献3には記載されていないが、例えば絨毯のような繊維からなるカーペットが考えられる。しかし、繊維層のみからなるカーペットは透水性に優れるものの、耐久性に劣るという欠点がある。一方、繊維層の裏面にゴム層を設けて耐久性を向上させたカーペットがあるが、全体的にゴム層があると透水性がなくなる。
そこで、本発明者らは、繊維層および裏面のゴム層に多数の穴を設けることで透水性を付与することを考え、そのようなタイルカーペットを作ってスノコの上に載置し、ガソリンを撒いて着火する燃焼実験を行なった。
【0006】
その結果、
図13(A),(B)に示すように、カーペット12の上に撒かれたガソリンGはスノコ11の下方の空間へ落下し、表面に着火すると、
図13(D)に示すように、表面に残ったガソリンが燃焼するがすぐに火勢が弱まるとともに、下方のガソリンが気化して拡散するものの、カーペットの裏面にあるゴム層に阻まれて表面には出てこないので燃焼しない。ところが、燃焼が進むと、
図13(E)に示すように、裏面のゴム層12Bが変形して、表面側の繊維層12Aを内側にするようにして丸まって端がめくれ上がる現象が発生することが確認された。そして、カーペットの端がめくれ上がると、下方に流下したガソリンが気化して、めくれ上がることで生じた隙間から立ち上り、着火して火勢が強まることが分かった。なお、燃焼が進むとカーペットの端がめくれ上がるのは、繊維層とベースシートの熱伸縮率には差があり、その差に起因するものと考えられる。
【0007】
本発明は上記のような課題に着目してなされたもので、その目的とするところは、カーペットの上に撒かれたガソリンが燃えて熱が継続して発生しても、一部がめくれ上がるように変形するのを防止することができる火災抑制床構造およびそのような床を構成するのに適した床用スノコを提供することにある。
また、本発明の他の目的は、建物の床にガソリンなどの可燃性液体が撒かれ着火されても、最低限避難は可能な程度にまで火勢を抑えることができる火災抑制床構造およびそのような床を構成するのに適した床用スノコを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明は、
難燃性を有する繊維により形成された矩形状の繊維層の下面に、該繊維層と同一形状のベースシートが接合されてなるタイルカーペットが、パネル部と該パネル部を下方から支持する脚部とを有するスノコの前記パネル部の上面に複数の固定具によって固定されている火災抑制床構造において、
前記固定具は、前記タイルカーペットおよび前記スノコの厚みに対応する長さの軸部と、該軸部の一方の端部に設けられた頭部と、前記軸部の径よりも大きな径または幅を有し前記軸部の他方の端部に設けられた係止部と、を備え、
前記軸部が前記タイルカーペットおよび前記スノコのパネル部を貫通して前記頭部が前記タイルカーペットの上面に露出し、前記係止部が前記スノコの前記パネル部の下面より露出するように前記固定具が設置されることで、熱が作用した際に前記繊維層の熱伸縮率と前記ベースシートの熱伸縮率との差に起因して、前記タイルカーペットの一部が上方へ持ち上がる局所的熱変形を規制するように構成したものである。
【0009】
上記のような構成によれば、繊維層とベースシートの熱伸縮率の差に起因するタイルカーペットの変形を、タイルカーペットをスノコの上面に固定する複数の固定具によって規制することができるので、建物の床にガソリンのような可燃性液体が撒かれ、カーペットの上に撒かれたガソリンが燃えて熱が継続して発生しても、カーペットの一部がめくれ上がるのを防止することができる。そのため、カーペットの下方から気化したガソリンが立ち上って着火し火勢が強くなるのを抑制することができ、可燃性液体が撒かれ着火されても、最低限避難は可能な程度にまで火勢を抑えることができる。
【0010】
ここで、望ましくは、前記タイルカーペットおよび前記スノコの前記パネル部には、それぞれ前記頭部の径よりも小さな貫通孔が形成され、
前記固定具は、全体として棒状をなし、前記タイルカーペットが前記スノコの前記パネル部の上面に接合された状態で、前記タイルカーペットと前記スノコの前記貫通孔同士が重なる位置にて当該貫通孔を貫通するように挿入されているように構成する。
【0011】
上記構成によれば、タイルカーペットをスノコに固定する固定具が棒状であり、タイルカーペットとスノコの貫通孔同士が重なる位置に挿入される構成であるため、容易に固定具をカーペットに差し込んで固定を行うことができる。また、繊維層の下面にベースシートが接合されているタイルカーペットに貫通孔が形成されていることで、カーペットの上に撒かれた可燃性液体を速やかに下方へ流下させて着火されても火勢が強くなるのを抑制することができるとともに、可燃性液体を下方へ流下させるためにカーペットに形成した貫通孔を利用してタイルカーペットをスノコに固定する固定具を差し込むことができる。
【0012】
また、望ましくは、前記固定具の前記頭部と前記係止部の少なくとも一方は、弾性変形可能な素材により形成されており、
当該弾性変形可能な素材により形成された前記頭部または前記係止部は、前記固定具が前記貫通孔に挿入されるときには太さが前記貫通孔の径未満となり、挿入後は太さが前記貫通孔の径以上となるように構成する。
上記のような構成によれば、固定具の端部に設けた係止部を径が小さくなるように指で変形させることで、カーペットに形成した貫通孔を通過させることができ、その後係止部が貫通孔の径よりも大きくなるように変形することによって固定具がカーペットから外れるのを防止することができ、安定してカーペットをスノコに固定することができる。
【0013】
また、望ましくは、棒状をなす前記固定具は、前記軸部および前記係止部が剛性を有する素材により形成されており、
前記係止部は、当該係止部が設けられている前記軸部の端部において当該軸部に対して一定の角度まで回動可能に取り付けられた一対の爪を有し、
前記固定具が前記貫通孔に挿入されるときには前記一対の爪が前記軸部に対して所定の角度未満となることで当該係止部の幅が前記貫通孔の径よりも小さくなり、挿入後は前記一対の爪が前記軸部に対して所定の角度以上となることで当該係止部の幅が前記貫通孔の径よりも大きくなるように構成する。
【0014】
かかる構成によれば、係止部が回動可能な一対の爪により構成され、その爪が回動することでカーペットに形成した貫通孔を通過させることができ、その後一対の爪が貫通孔の径よりも大きくなるように回動することによって、カーペットをスノコに固定することができるとともに、係止部が剛性を有する素材により形成されているため、より強固にカーペットをスノコに固定することができる。
【0015】
また、望ましくは、棒状をなす前記固定具の前記軸部は、中空パイプと当該中空パイプ内に回転自在に収納されたロッドとを有し、
前記ロッドの先端には螺旋状の溝が形成されており、
前記係止部は、前記中空パイプの端部において当該中空パイプに対して一定の角度まで回動可能に取り付けられた一対の開閉体を有し、当該一対の開閉体には前記螺旋状の溝に噛み合い可能な歯部がそれぞれ形成され、前記ロッドの回転により前記中空パイプに対する角度が変化されるように構成され、
前記固定具が前記貫通孔に挿入されるときには前記一対の開閉体が前記軸部に対して所定の角度未満となることで当該係止部の幅が前記貫通孔の径よりも小さくなり、挿入後は前記一対の開閉体が前記軸部に対して所定の角度以上となることで当該係止部の幅が前記貫通孔の径よりも大きくなるように構成する。
【0016】
上記のような構成によれば、ロッドの端部に設けられている螺旋溝と、係止部を構成する一対の開閉体に設けられている歯部とがウォームギアとして機能し、ロッドを回すことによって一対の開閉体の角度を自由に変化させることができるので、一度カーペットに挿入した固定具を抜くことができ、それによって固定具を再利用することが可能となる。
【0017】
本出願の他の発明は、パネル部と該パネル部を下方から支持する脚部とを有し、難燃性を有する繊維により形成された矩形状の繊維層の下面に、該繊維層と同一形状のベースシートが接合されてなるタイルカーペットが前記パネル部の上面に複数の固定具によって固定されている床用スノコにおいて、
前記パネル部の所定部位には、前記固定具を係合または止着可能な結合部が設けられているように構成したものである。
【0018】
上記のような構成によれば、パネル部の所定部位にある結合部において固定具によってタイルカーペットをスノコの上面に固定することができるので、建物の床にガソリンのような可燃性液体が撒かれ、カーペットの上に撒かれたガソリンが燃えて熱が継続して発生しても、カーペットの一部がめくれ上がるのを防止することができる。
【0019】
ここで、望ましくは、前記固定具は、前記タイルカーペットおよび床用スノコの厚みに対応する長さの軸部と、該軸部の一方の端部に設けられた頭部と、互いに反対の方向へ延びる一対の爪を有し前記軸部の他方の端部に設けられた係止部と、を備え、
前記結合部は、
前記パネル部の所定部位に形成され、前記固定具の前記係止部および前記軸部が挿通可能なスリットと、
前記パネル部の上面の前記スリットに対応する部位に形成され、すり鉢状をなし前記スリットの一方の端が臨む凹部と、
を有し、前記固定具を挿入可能に構成されているようにする。
【0020】
上記構成によれば、床用スノコのパネル部に設けたスリットに固定具を挿通した後回転させることで、係止部によって固定具が抜けないようにすることができるとともに、カーペットに差し込まれている固定具を挿入時の状態に回転させることで、固定具を引き抜くことができるため、固定具を再利用することが可能となる。また、パネル部の上面に、上記スリットの一方の端が臨む凹部が形成されているため、固定具の頭部がカーペットの上面から飛び出さないようにすることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係る火災抑制床構造によれば、カーペットの上に撒かれたガソリンが燃えて熱が継続して発生しても、カーペットの一部がめくれ上がるように変形するのを防止することができ、カーペットの下方から気化したガソリンが立ち上って着火し火勢が強くなるのを抑制することができる。また、建物の床にガソリンなどの可燃性液体が撒かれ着火されても、最低限避難は可能な程度にまで火勢を抑えることができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明に係る火災抑制床構造の一実施形態を示す正面図である。
【
図2】本発明の火災抑制床構造を構成するタイルカーペットの構成例を示す平面図である。
【
図3】実施形態の火災抑制床構造を構成する床用スノコの一例としてのOAフロア用パネルの構成例を示す斜視図である。
【
図4】実施形態の火災抑制床構造を構成する固定具の具体例を示すもので、(A)は正面図、(B)は側面図、(C)は係止部の開閉爪が開いた状態を示す正面図である。
【
図5】
図4に示す固定具を用いてタイルカーペットをスノコに固定した状態を示す要部拡大図である。
【
図6】固定具の他の実施例を示すもので、(A)は固定具の爪が開いた状態を示す正面図、(B)は固定具の爪が閉じた状態を示す正面図、(C)は固定具のさらに他の実施例を示す正面図である。
【
図7】再利用可能に構成した固定具の実施例を示すもので、(A)は固定具の開閉爪が閉じた状態を示す正面図、(B)は固定具の開閉爪が開いた状態を示す正面図である。
【
図9】(A)は実施形態の火災抑制床構造を構成する床用スノコに設けられる固定具挿入部の具体例を示す斜視図、(B)は(A)の固定具挿入部に挿入される固定具の頭部の具体例を示す斜視図である。
【
図10】実施形態の火災抑制床構造を構成する床用スノコとしてのOAフロア用パネルの他の構成例を示す斜視図である。
【
図11】(A)は
図9に示す固定具挿入部に
図6(A)の固定具を挿入する様子を示す斜視図、(B)は
図9に示す挿入部に
図6(A)の固定具を挿入した状態を示す断面図である。
【
図12】(A)は他の実施形態の火災抑制床構造を構成する床用スノコとしてのOAフロア用パネルの構成例を示す斜視図、(B)は(A)の一部を拡大して示す断面図、(C)は(B)に示す固定具の他の具体例を示す正面図である。
【
図13】(A)~(E)はスノコの上に、穴の開いたゴム層を裏面に有するカーペットを載置した床構造において、ガソリンなどを撒いて着火した場合の状態の変化を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照して、本発明に係る火災抑制床構造および床用スノコ(以下、単にスノコと記す)の一実施形態について説明する。なお、本発明に係る火災抑制床構造は、
図1に示すように、スノコ11とスノコ上に敷設されたタイルカーペット12とから構成され、タイルカーペット12は、以下に説明する棒状の固定具によってスノコに固定される。
また、タイルカーペット12は難燃性を有するとともに撥水性および撥油性を有する繊維により形成された繊維層12Aと、該繊維層12Aの裏面に接合されたベースシート12Bとを備え、ベースシート12Bは耐熱性を有するゴム等の材料から構成されている。繊維層及びベースシートは、一般的なフリーアクセスフロアにおいて使用されているタイルカーペットに対応させる場合、例えば50cm×50cm程度の正方形とされる。
【0024】
図2は、本発明の一実施形態のタイルカーペット12(以下、単にカーペットと記す)を裏面から見た状態を示している。
カーペット12には、
図2に示すように、径の比較的小さな複数の貫通孔12aが全体に亘って形成されている。貫通孔12aは、繊維層および裏面のベースシートを貫通するように形成されている。貫通孔12aを設けることで、カーペットの上に撒かれた可燃性液体を速やかに下方へ流下させることができる。貫通孔12aの形状は、
図1では円形のものが示されているが、楕円形や多角形など任意の形状とすることができる。
【0025】
なお、本発明者らが行なった実験から、貫通孔12aの径の寸法は、カーペット12の厚みにもよるが、通常の厚みであれば、2~5mm程度の大きさが妥当であるとの知見が得られている。2mmよりも小さいとゴミによる目詰まりが懸念される一方、5mmよりも大きい場合にはカーペットを載せているスノコの下から立ち上る気化したガソリンが貫通孔12aの部位でゆらゆら燃焼することが実験において観察されたためである。また、貫通孔12aのピッチは、10~50mm程度の範囲が妥当である。また、本発明の火災抑制床構造に使用する場合、貫通孔12aの径は後述の固定具を挿通可能な寸法に設定される。なお、カーペットは弾力性があるので、貫通孔12aの径が固定具の径よりも若干小さくても固定具を挿入することができる。
【0026】
カーペット12に設けられる貫通孔12aの総面積のシート面積に対する割合は、カーペット12に必要な強度を確保できる範囲で、できるだけ大きくするのが望ましい。また、カーペット12の厚みが大きければ貫通孔12aの総面積の割合を大きくし、カーペット12の厚みが小さければ貫通孔12aの総面積の割合を小さくすることが考えられる。
また、カーペット12に設ける貫通孔12aのパタ-ンも、径の異なる貫通孔12aをバランスよく分散して整列配設したものや、径の異なる貫通孔12aをランダムに分散して配設したものであっても良い。
さらに、使用する固定具の先端部の径もしくは幅が5mmよりも大きい場合には、カーペット12の固定具を挿入したい部位に、固定具の先端部の径または幅に対応して、上記貫通孔12aよりも径の大きな貫通孔を別途形成すると良い。
【0027】
本実施形態のカーペット12においては、複数の貫通孔12aが形成されているとともに、繊維層が撥油性を有する繊維により形成されていることにより、カーペット12の上にガソリン等の可燃性液体が撒かれたとしても、可燃性液体は速やかに貫通孔12aを通って下方へ流れ落ちるようになる。また、カーペット12の繊維層が撥水性を有する繊維により形成されていることによって、雨天の日に持ち込まれた泥などの汚れを容易に除去することができるようになる。
【0028】
図3には、カーペット12が敷設されるスノコ11の一実施例が示されている。
図3に示すように、本実施例のスノコ11は、可燃性液体を下方へ落ち易くするため多数の三角形の穴11aを設けたパネル部11Aの下面に所定の間隔で脚部11Bが設けられている。なお、パネル部11Aに設けられている穴11aの形状は三角形に限定されず、四角形等の多角形あるいは円形等任意の形状とすることができる。
【0029】
また、
図3のスノコ11の高さは、OAフロア用パネルとして使用する場合には、床面からその裏面までの高さが50mm前後確保されているのが良い。スノコ11の材料は、製造性およびコストの観点から難燃性樹脂が望ましい。また、スノコ11のパネル部11Aに設ける三角形の穴11aの適切な大きさは、縦と横の寸法がそれぞれ10~20mmである。本発明に係る火災抑制床構造は、上記カーペット12の周縁部に形成されている貫通孔12aのうちスノコ11に設けられている三角形の穴11aと合致している位置に、固定用の固定具を挿入して、カーペット12をスノコ11に固定するようにしたものである。
【0030】
図4(A)~(C)には、本発明に係る火災抑制床構造を構成するピン型の固定具20の実施例が示されている。なお、
図4(A)~(C)のうち(A)はカーペット12の貫通孔12aに挿入する際における固定具20の正面図、(B)は固定具20の側面図、(C)は挿入後の固定具20の状態を示す正面図である。
図4に示す実施例の固定具20は、軸部21と、該軸部21の後端(図では上端)に設けられた公知の皿ネジの頭部と類似の形状を有する頭部22と、軸部21の先端部に小径のピン23にて回転自在取り付けられた一対の開閉爪24と、該開閉爪24の回転角を制限する一対のストッパ25とを備えるように構成されている。
【0031】
上記一対の開閉爪24は、軸部21の先端部の前面側と背面側にそれぞれ設けられており、開いた際の角度は90度以下になるようにストッパ25の位置が設定されている。開閉爪24の開く角度および繊維層の変形量が小さい方がカーペットをしっかりと固定できる一方、角度および繊維層の変形量が大きいと固定具20が浮き上がり易くので、両方を考慮して角度を設定すると良い。
【0032】
また、軸部21の長さは、カーペット12の厚みにスノコ11のパネル部11Aの厚みを加えた寸法よりも長くなるように設定されているとともに、
図4(A)のように開閉爪24を閉じた状態における開閉爪24の開閉側端部から頭部22の上面までの距離が、カーペット12の厚みにスノコ11のパネル部11Aの厚みを加えた寸法よりも若干短くなるように設定されている。
図4の固定具20を構成する各部品の材質は、金属でも良いし合成樹脂でも良いが、特に強度が必要なピン23と開閉爪24を金属製とし、軸部21と頭部23およびストッパ25は合成樹脂で一体に形成するようにしても良い。
【0033】
上記のような構成を有する固定具20をカーペット12の貫通孔12aに挿入する際には、頭部22を下方へ強く押し付けてカーペット12が凹むように変形させる。すると、開閉爪24全体が貫通孔12aを完全に抜けることで開くことが可能となる。そのため、開閉爪24が開いてから下方へ押し付ける力を弱めると、カーペット12の弾性復元力で固定具20の頭部22が持ち上がり、
図5に示すように、開閉爪24の開閉側端部がカーペット12の下面に接した状態になって、固定具20が貫通孔12aから抜け出すのを防止することができる。
【0034】
また、上記のようにすることで、火災の熱でタイルカーペットの裏面のベースシートの縁部がめくれ上がろうとしても、固定具20によってめくれ上がりを防止することができる。従って、固定具20は火災発生時にカーペットの熱変形を規制する固定具として機能する。
なお、本発明者らが火災実験で使用したカーペットは縁部がめくれ上がったが、カーペットを構成する素材や厚み等によっては、熱変形によって中心部が盛り上がってドームのような形に変形することも考えられる。従って、固定具20を挿入する位置は、熱で裏面のベースシートの縁部がめくれ上がる性質のタイルカーペットの場合には縁部の複数箇所に設定し、熱で裏面のベースシートの中央部が持ち上がるように変形する性質のタイルカーペットの場合には中央部の1箇所または数箇所に設定すると良い。
【0035】
図6には固定具20の他の実施例が示されている。
図6において、(A)は挿入前及び挿入後の固定具20の形状を、(B)は挿入時の固定具20の形状を示している。
図6(A)の実施例の固定具20は、軸部21と頭部22および錨状の爪部24とを有しており、これらが合成樹脂により一体に形成されている。従って、固定具20をカーペット12の貫通孔12aに挿入する際には、
図6(B)に示すように、爪部24が軸部21の外周に接するように変形させ、爪部24が貫通孔12aを通過すると、弾性復元力で
図6(A)のように爪部24が開くことによって、抜け止め機能を発揮するようになる。
【0036】
図4及び
図6(A)のいずれの固定具20も、カーペットへ装着した後に、カーペットを交換するなどの作業の必要が生じた場合に、無理やり引き抜こうとすると、先端の爪(24)が破損して再利用ができなくなる可能性がある。そこで、固定具20の先端部を錨状に形成する代わりに、
図6(C)に示すように、膨出部26を設けるようにしても良い。これにより、固定具20をカーペットから引き抜くことができ、再利用可能となる。
また、
図7には、再利用可能に構成した固定具20の他の実施例が示されている。
図7において、(A)は挿入前の固定具20の状態を、(B)は挿入後の固定具20の状態を示している。
【0037】
この実施例の固定具20は、中空の軸部21と皿状の頭部22が一体に形成された部品と、先端に螺旋溝(ウォーム)27a、他端に皿状の頭部27bを有し軸部21の中心に挿入された作動ロッド27と、一対の開閉爪24とから構成されている。開閉爪24の基部には、上記螺旋溝27aに噛み合う歯部24aが形成されている。また、作動ロッド27の頭部27bの上面には、十字ドライバ(工具)の先端が係合可能な十字穴が形成されている。
図7に示す固定具20は、開閉爪24が閉じた(A)の状態でカーペット12の貫通孔12aに挿入した後、作動ロッド27の頭部27bに十字ドライバの先端を係合させて作動ロッド27を反時計回りに回転させると、(B)のように開閉爪24が開くことで、カーペット12をスノコ11に固定し、固定具20の抜け止めを行うことができる。
【0038】
なお、
図7に示す固定具20の場合、開閉爪24を開かせるため十字ドライバを反時計回りに回転させると、作動ロッド27が上方へ移動するため、回し過ぎると上方へ抜けるおそれがある。
図8に示すように開閉爪24を挿入時に下を向いて閉じている状態にすることで、十字ドライバを時計回り方向に回すことによって開閉爪24が開くように構成しても良い。これにより、開閉爪24を開かせるように回すと、作動ロッド25を下方へ移動させることができ、作動ロッド27を回し過ぎることで上方へ抜けてしまうのを防止することができる。なお、上記螺旋溝27aは逆ネジであっても良い。
【0039】
次に、本発明に係る床構造の第2の実施形態について、
図9~
図11を用いて説明する。上述した
図4や
図6に示す実施例の固定具20の場合、カーペット12の厚みが薄かったり変形量が小さかったりすると、
図5に示すように、装着後に頭部22の上面をカーペット12の上面に一致させることが困難となり、頭部22の上面がカーペット12の上面よりも上方へ飛び出すおそれがある。
【0040】
そこで、第2の実施形態においては、スノコ11の固定具挿入部位に、
図9(A)に示すように、上部にすり鉢状の凹部13aを有し下部にパネル部11Aを貫通する断面長方形のスリット13bを有する固定具挿入口13を設けるようにした。一方、固定具挿入口13を設ける位置は、
図10に示すようにスノコ11の上面の4辺の縁部に設定する。なお、固定具挿入口13は、
図10のように4辺の縁部に沿って所定の間隔で設けるのではなく、スノコ11の4隅のみ、あるいは4隅と各辺の中央部に1個または数個設けるようにしても良い。
【0041】
さらに、この実施例においては、固定具20の頭部22の上面に、
図9(B)に示すように、ツマミ22aが形成されている。
上記のような構成によれば、ツマミ22aを指で抓まんで、
図11(A)に示すように、爪部24の方向を固定具挿入口13のスリット13bの方向に合致させて固定具20をスリット13b内に挿入させた後、カーペット12を凹ませるように押圧しながら固定具20を90度回転させる。これにより、
図11(B)に示すように、爪部24の両端部がスノコ11の下面に接触した状態となり、固定具20の抜け止めを行うことができる。
【0042】
なお、
図11(B)では、スノコ11の固定具挿入部位に、
図9(A)に示すように、上部にすり鉢状の凹部13aを有するものとして示しているが、カーペット12の固定具挿入部位に凹部13aと同程度のすり鉢状の凹部を設けることでも頭部22の上面がカーペット12の上面よりも上方へ飛び出るのを防ぐことができる。
さらに、ツマミ22aの代わりに、直線状の溝を固定具20の頭部22の上面に形成して、コイン状のものを溝に差し込んで固定具20を回転させることができるように構成しても良い。また、固定具20の大きさによっては頭部22が小さく、つまみ22aを指で抓むことが困難な場合には、別途ペンチあるいは専用に用意した工具を用いてツマミ22aを回すようにしても良い。
【0043】
次に、本発明の第3の実施形態について、
図12を用いて説明する。
第3の実施形態は、
図12(A)に示すように、スノコ11の上面の4辺の縁部に沿って耐火性ゴムあるいは硬質のスポンジ、木片のような燃えにくくかつ弾性変形可能な材料からなる止着部14を埋設し、この止着部14を利用して、
図12(B)に示すように、カーペット12の上から固定具として画鋲28を差し込むことによって、スノコ11の上面にカーペット12を固定するようにしたものである。
なお、画鋲28は、
図12(C)に示すように、上面が平坦な形状であっても良い。また、止着部14は
図12(A)のように連続して設けるのではなく、4隅のみ、あるいは4隅と各辺の中央部に1個または数個設けるようにしても良い。
【0044】
上記のように、上記実施形態の床構造によれば、カーペットの上にガソリンが撒かれて着火されたとしても、発生した炎の火勢はすぐに弱くなり、最低限避難は可能な程度にまで火勢を抑えることができるが、カーペットを複数の固定具によってスノコに固定しているため、カーペットの上に撒かれたガソリンが燃えて熱が継続して発生しても、固定具がカーペットの熱変形を規制するため、一部がめくれ上がったり持ち上がったりするのを防止することができる。その結果、カーペットの下方から気化したガソリンが立ち上って着火し火勢が強くなるのを抑制することができる。
【0045】
以上、本発明を実施形態に基づいて説明したが、本発明は上記実施形態のような構造に限定されるものでない。例えば上記実施形態では、カーペット12のベースシート12Bと繊維層12Aに同じように貫通孔12aが形成されていると説明したが、ベースシート12Bには繊維層よりも多くの貫通孔12aを形成あるいはベースシート12Bにのみ貫通孔12aを形成するようにしても良い。
また、上記実施形態では、ベースシート12Bとしてゴム層を使用したカーペットについて説明したが、ベースシートはゴム層に限定されず、耐熱性を有し繊維層に比べて耐久性の高い材料であればどのような材料で形成されたものであっても良い。
【符号の説明】
【0046】
11 スノコ
11A パネル部
11B 脚部
11a 穴
12 カーペット
12A 繊維層
12B ベースシート
12a 貫通孔
13 固定具挿入口(結合部)
13a 凹部
13b スリット
14 止着部(結合部)
20 固定具
21 軸部
22 頭部
23 ピン
24 開閉爪
25 ストッパ