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  • 特開-ラッピング加工装置 図1
  • 特開-ラッピング加工装置 図2
  • 特開-ラッピング加工装置 図3
  • 特開-ラッピング加工装置 図4
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024157710
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】ラッピング加工装置
(51)【国際特許分類】
   B24B 21/00 20060101AFI20241031BHJP
   B24B 41/06 20120101ALI20241031BHJP
   B24B 21/08 20060101ALI20241031BHJP
【FI】
B24B21/00 D
B24B41/06 J
B24B21/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023072230
(22)【出願日】2023-04-26
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083998
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 丈夫
(74)【代理人】
【識別番号】100096644
【弁理士】
【氏名又は名称】中本 菊彦
(72)【発明者】
【氏名】和田 健太郎
【テーマコード(参考)】
3C034
3C158
【Fターム(参考)】
3C034BB75
3C158AA05
3C158AA11
3C158AA16
3C158AB01
3C158AB09
3C158CB05
3C158DA01
(57)【要約】
【課題】被加工部位の半径方向で外周側にスペースが確保されていない場合であってもフィルムラッピング加工を行うことのできる装置を提供する。
【解決手段】ラッピングフィルム4を軸線方向に案内する第1直線ガイド部3aと、フィルム4を巻き掛けて第1直線ガイド部3aに対して直角に曲げて軸線に直交する方向に案内する第1折り曲げガイド部3cと、フィルム4を巻き掛けて第1直線ガイド部3aと平行な方向に曲げかつ第1直線ガイド部3aによる案内方向とは反対方向に案内する第2折り曲げガイド部3dと、フィルム4を第1直線ガイド部3aと平行でかつ第1直線ガイド部3aによる案内方向とは反対方向に案内する第2直線ガイド部3bとを有するフィルムガイド3と、第1折り曲げガイド部3cと第2折り曲げガイド部3dとの間に張られているフィルム4を被加工物Wに対して選択的に押圧するシュー10とを備えている。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の軸線を中心にして回転し、もしくは前記軸線の方向に往復動する被加工物に、ラッピングフィルムを接触させるとともに、前記被加工物とラッピングフィルムとを相対的に移動させて前記被加工物を研磨もしくは研削するラッピング加工装置であって、
帯状の前記ラッピングフィルムを前記軸線方向に直線的に案内する第1直線ガイド部と、前記第1直線ガイド部によって直線的に案内された前記ラッピングフィルムを巻き掛けて前記ラッピングフィルムの送り方向を前記第1直線ガイド部に対して直角に曲げて前記軸線に直交する方向に案内する第1折り曲げガイド部と、前記第1折り曲げガイド部によって前記軸線に直交する方向に案内された前記ラッピングフィルムを巻き掛けて前記ラッピングフィルムの送り方向を前記第1直線ガイド部と平行な方向に曲げかつ前記第1直線ガイド部による案内方向とは反対方向に案内する第2折り曲げガイド部と、前記第1折り曲げガイド部によって曲げられた前記ラッピングフィルムを前記第1直線ガイド部と平行でかつ前記第1直線ガイド部による案内方向とは反対方向に直線的に案内する第2直線ガイド部とを有するフィルムガイドと、
前記第1直線ガイド部と前記第2直線ガイド部との間に前記軸線に沿う方向に延びて配置され、先端部が前記第1折り曲げガイド部と前記第2折り曲げガイド部との間に張られている前記ラッピングフィルムに前記被加工物とは反対側で対向し、かつ前記ラッピングフィルムを前記被加工物に対して選択的に押圧するシューと
を備えていることを特徴とするラッピング加工装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機械部品などの被加工物の表面を平滑に研磨もしくは研削するラッピング加工を行う装置に関し、特に一方の面に砥粒を付着させたフィルムを湾曲している被加工面に押し付けて研磨もしくは研削を行ういわゆるフィルムラッピングを行うラッピング加工装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種のラッピング加工を行う装置が特許文献1に記載されている。特許文献1に記載された装置は、一例としてエンジンに使用されているカムシャフトを研磨するように構成された装置であり、ラッピングフィルムをシューによって被加工面に押し付けるように構成されている。すなわち特許文献1に記載されたラッピング加工装置は、ラッピングフィルムを被加工物に被せて包み込むように構成されている。
【0003】
そのラッピングフィルムは、ロール(もしくはリール)に巻き付けられた一条のフィルムである。そのラッピングフィルムを巻き付けた繰り出しロールと巻き取りロールとが、回転可能に保持した被加工物と平行な軸線を中心に回転するように配置されている。繰り出されたラッピングフィルムは、被加工物の半径方向で外側に離れた位置から例えば被加工物の下側を被加工物に直交する方向に送られ、被加工物から離れた位置に設けられている折り返しロールで折り返されて被加工物の例えば上側を被加工物に直交する方向に送られ、さらに被加工物から半径方向で外側に離れた位置のガイドローラを経て巻き取りロールに送られる。すなわち、ラッピングフィルムは、折り返しロールによっていわゆる二つ折りされ、被加工物を上下から挟むように走行する。
【0004】
一方、シューは、上記の折り返しロール側に回転軸を持った一対のアームの先端部に取り付けられている。それらのアームは、回転可能に保持されている被加工物の半径方向で外側で、上記の折り返しローラ側から被加工物に向けて延びて配置され、ラッピングフィルムをシューを介して被加工物に押し付ける位置と、ラッピングフィルムおよびシューを被加工物から離隔させる位置との間で開閉動作する。
【0005】
したがって、特許文献1に記載された装置は、被加工物を挟んだ左右の一方側に、ラッピングフィルムを繰り出し、また巻き取るための機構が配置され、また他方側にアームあるいはシューを駆動するための機構が配置された構成になっている。そして、一対のシューを被加工物に近づけて被加工物を挟み付けることにより、ラッピングフィルムによって被加工物を包み込み、その状態で被加工物を回転させ、また軸線方向に往復動(オシレート)させることにより、ラッピング加工を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006-26800号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、特許文献1に記載されているような従来のラッピング加工装置では、ラッピングフィルムを繰り出しかつ巻き取るための機構およびシューを被加工物に接触させかつ離隔させる機構が、被加工物をその半径方向で挟んだ両側に配置されているので、被加工物に対するその軸線方向での相対位置を適宜に変更してラッピング加工を行うことができる。すなわち、カムシャフトのように軸長が長い被加工物の軸線方向での複数箇所をラッピング加工する場合であっても一台のラッピング加工装置で対応することができる。しかしながら、従来のフィルムラッピング加工装置は、上述したように、ラッピングフィルムを被加工物に対してその半径方向に直交するように直線的に張り渡して、被加工物の半径方向での外側から被加工物に向けてラッピングフィルムを走行させるように構成されている。また被加工物の半径方向で外側から延びているアームによってシューを被加工物に接触させまた離隔させるように構成されている。そのため、被加工物は、その被加工面の半径方向で外側が開放されている形状である必要があり、あるいは被加工物の半径方向での外側が開放空間となっていて周辺の加工機器などが存在しない加工環境であることが必要である。このように従来のラッピング加工装置では、被加工物の形状もしくは構成や加工環境が制限される課題があった。
【0008】
本発明は、上記の技術的課題に着目してなされたものであって、被加工部位の外周側が閉じていたり、スペースに制限があったりしてもフィルムラッピング加工を行うことが可能な装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記の目的を達成するために、所定の軸線を中心にして回転し、もしくは前記軸線の方向に往復動する被加工物に、ラッピングフィルムを接触させるとともに、前記被加工物とラッピングフィルムとを相対的に移動させて前記被加工物を研磨もしくは研削するラッピング加工装置であって、帯状の前記ラッピングフィルムを前記軸線方向に直線的に案内する第1直線ガイド部と、前記第1直線ガイド部によって直線的に案内された前記ラッピングフィルムを巻き掛けて前記ラッピングフィルムの送り方向を前記第1直線ガイド部に対して直角に曲げて前記軸線に直交する方向に案内する第1折り曲げガイド部と、前記第1折り曲げガイド部によって前記軸線に直交する方向に案内された前記ラッピングフィルムを巻き掛けて前記ラッピングフィルムの送り方向を前記第1直線ガイド部と平行な方向に曲げかつ前記第1直線ガイド部による案内方向とは反対方向に案内する第2折り曲げガイド部と、前記第1折り曲げガイド部によって曲げられた前記ラッピングフィルムを前記第1直線ガイド部と平行でかつ前記第1直線ガイド部による案内方向とは反対方向に直線的に案内する第2直線ガイド部とを有するフィルムガイドと、前記第1直線ガイド部と前記第2直線ガイド部との間に前記軸線に沿う方向に延びて配置され、先端部が前記第1折り曲げガイド部と前記第2折り曲げガイド部との間に張られている前記ラッピングフィルムに前記被加工物とは反対側で対向し、かつ前記ラッピングフィルムを前記被加工物に対して選択的に押圧するシューとを備えていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ラッピングフィルムは、第1直線ガイド部と第2直線ガイド部とによって、被加工物に対してその軸線の方向に送られ、かつリターンさせられる(戻される)。その過程で、ラッピングフィルムは、第1折り曲げガイド部と第2折り曲げガイド部とによって、前記軸線に対して直交する方向に向きを変えられ、被加工物に対してその外面側で軸線に対して直交する方向(被加工物の半径方向)に張られた状態になる。すなわち、フィルムガイドは、被加工物の外面側でその軸線に沿わせて配置した状態になる。その第1折り曲げガイド部と第2折り曲げガイド部との間に張られたラッピングフィルムを被加工物に押し付けるシューは、第1折り曲げガイド部と第2折り曲げガイド部との間で前記軸線に沿う方向に延びて設けられている。したがって、ラッピングフィルムがシューによって被加工物に押し付けられて、被加工物がラッピングフィルムによって研磨もしくは研削される。このように、ラッピングフイルムやシューなどは、被加工物の軸線に沿う方向に延びて配置されているので、被加工物における加工箇所の外周側に広いスペースが要求されることはない。言い換えれば、被加工面が円筒状の部分の内部に存在している被加工物や被加工物の周囲に周辺機器が接近して存在している加工環境などの場合であってもフィルムラッピング加工を行うことが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施形態を模式的に示す斜視図である。
図2】その主要部の側面図である。
図3】その主要部の斜視図である。
図4】被加工物の一例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
つぎに、本発明を図に示す実施形態に基づいて説明する。なお、以下に説明する実施形態は本発明を具体化した場合の一例に過ぎないのであって、本発明を限定するものではない。
【0013】
図1に本発明に係るラッピング加工装置1の一例を模式的に示してあり、また図2にその主要部分を側面図として示してある。これら図1および図2において符号「2」は機枠部(もしくはフレーム)を示し、機枠部2はほぼ水平に保持されている板状をなし、その下端部に、正面(図2の右側面)側に水平方向に突き出たフィルムガイド3が設けられている。このフィルムガイド3は、帯状のラッピングフィルム4を先端側に送り出すとともに先端部で案内方向を変えてリターンさせるためのものである。
【0014】
ラッピングフィルム4は、従来知られているものと同様であって、柔軟な帯状材の一方の面に砥粒を設けたフィルムであり、機枠部2の背面(図2の左側面)の高い位置に保持されている繰り出しロール5と巻き取りロール6とに巻き付けられている。フィルムガイド3は、繰り出しロール5から送り出されるラッピングフィルム4を前方に案内し、またリターンするラッピングフィルム4を巻き取りロール6に向けて案内するように構成されている。なお、図1に示す例では、繰り出しロール5と巻き取りロール6とは同一軸線上に保持されている。
【0015】
フィルムガイド3の一例を図3に模式的に示してある。このフィルムガイド3は、被加工物Wにおける被加工面の幅より幾分広い幅の板状になっており、その上面側の左右両側に直線ガイド部3a,3bが設けられている。一方の直線ガイド部3aは、本発明の実施形態における第1直線ガイド部に相当し、ラッピングフィルム4の幅程度の間隔を空けて互いに平行に配置した左右一対のガイド壁部7によって区画された部分である。また、他方の直線ガイド部3bは、本発明の実施形態における第2直線ガイド部に相当し、上記の一方の直線ガイド部3aと同様に、ラッピングフィルム4の幅程度の間隔を空けて互いに平行に配置した左右一対のガイド壁部8によって区画された部分である。
【0016】
これらの直線ガイド部3a,3bは、機枠部2の下端部で、機枠部2の背面側から正面側(前方側)に延び、かつ互いに平行になっている。これら各直線ガイド部3a,3bの先端部は、ラッピングフィルム4の送り方向(もしくは走行方向)を直角に変化させる折り曲げガイド部3c,3dを構成している。すなわち、各直線ガイド部3a,3bの先端部は、ラッピングフィルム4を一方の直線ガイド部3aから他方の直線ガイド部3bに渡らせるように構成されている。
【0017】
具体的には、一方の直線ガイド部3aの先端部は、フィルムガイド3の幅方向での中心寄りの部分(他方の直線ガイド部3b側の部分)がラッピングフィルム4の走行方向での前方側に延び出るように傾斜した状態に切れており、その傾斜角度(ラッピングフィルム4の走行方向に対する傾斜角度)は、一例として45度程度に設定されている。その傾斜している部分が本発明における第1折り曲げガイド部に相当する折り曲げガイド部3cであり、その折り曲げガイド部3cはラッピングフィルム4を滑らかに案内するように、角のない円弧状断面に形成されている。なお、回転中心軸を直線ガイド部3aに対して上記のように45度程度に傾斜させたガイドローラを、円弧状断面の部分に替えて設けてもよい。したがって、直線ガイド部3aの上面に沿わせてあるラッピングフィルム4は、その直線ガイド部3aの先端部である折り曲げガイド部3cを包み込むようにフィルムガイド3の下面側に曲げると、その傾斜角度に沿って向きを変え、その傾斜角度が45度程度であることにより、帯状のラッピングフィルム4の送り方向(もしくは走行方向)は直線ガイド部3aに対してほぼ直角に曲げられる。
【0018】
他方の折り曲げガイド部3dは本発明における第2折り曲げガイド部に相当し、上述した一方の折り曲げガイド部3cと対称となる構成であり、他方の直線ガイド部3bの先端部(ラッピングフィルム4の走行方向では基端部)に設けられている。すなわち、他方の直線ガイド部3bの先端部(もしくは基端部)はフィルムガイド3の幅方向での中心寄りの部分(一方の直線ガイド部3a側の部分)が、フィルムガイド3の先端側(他方の直線ガイド部3bでのラッピングフィルム4の走行方向では後方側)に延び出るように傾斜した状態に切れており、その傾斜角度(ラッピングフィルム4の走行方向に対する傾斜角度)は、一例として45度程度に設定されている。その傾斜している部分が他方の折り曲げガイド部3dであり、したがって各折り曲げガイド部3c,3dはフィルムガイド3の長手方向に沿う中心線について左右対称の形状になっている。そして、その折り曲げガイド部3dはラッピングフィルム4を滑らかに案内するように、角のない円弧状断面に形成されている。なお、この折り曲げガイド部3dについても、回転中心軸を直線ガイド部3bに対して上記のように45度程度に傾斜させたガイドローラを、円弧状断面の部分に替えて設けた構成とすることもできる。
【0019】
したがって、前記一方の折り曲げガイド部3cから延びているラッピングフィルム4は、他方の折り曲げガイド部3dを包み込むようにフィルムガイド3の上面側に曲げると、その傾斜角度に沿って向きを変えて送られ、その傾斜角度が45度程度であることにより、帯状のラッピングフィルム4は各折り曲げガイド部3c,3dの間に張り渡っている部分から他方の直線ガイド部3bに向けてほぼ直角に曲げられて走行する。
【0020】
各折り曲げガイド部3c,3dは上述したようにラッピングフィルム4に掛かる張力の方向に対して傾斜しているので、ラッピングフィルム4には折り曲げガイド部3c,3dの部分で、張力に起因する幅方向の分力が作用する。当該分力によるラッピングフィルム4の幅方向へのズレを回避もしくは抑制するための構造を、各折り曲げガイド部3c,3dとラッピングフィルム4との間に設けることが好ましい。その一例は、摩擦力を増大させる構造であり、例えば、各折り曲げガイド部3c,3dの表面に微細な凹凸を形成していわゆる粗面とすることが好ましい。
【0021】
なお、繰り出しロール5から繰り出されるラッピングフィルム4の送り方向(走行方向)を、一方の直線ガイド部3aおよび折り曲げガイド部3cに向けるガイドローラ9aが、機枠部2の背面側でかつフィルムガイド3の端部に設けられている。また、他方の直線ガイド部3bに沿ってリターンするラッピングフィルム4の送り方向(走行方向)を、巻き取りロール6に向けるガイドローラ9bが、機枠部2の背面側かつフィルムガイド3の端部で上記の一方のガイドローラ9aと同一軸線上に設けられている。
【0022】
ラッピングフィルム4の表裏両面のうち繰り出しロール5および巻き取りロール6に巻き付いている状態で外側を向く面が砥粒(図示せず)を付着させているラッピング面であり、上述したフィルムガイド3は、各直線ガイド部3a,3bでラッピング面を上に向けたラッピングフィルム4を直線的に案内するように構成されている。したがって、上述した一対の折り曲げガイド部3c,3dの間の部分では、ラッピングフィルム4はラッピング面を下向きにした状態で各折り曲げガイド部3c,3dの間に張り渡される。
【0023】
フィルムガイド3の先端中央部は矩形に切り欠かれていて、ラッピングフィルム4の上記ラッピング面とは反対側の裏面が上向きに露出するようになっている。各折り曲げガイド部3c,3dの間に張り渡されているラッピングフィルム4を被加工物Wに対して選択的に押し付けるシュー10が、その切り欠かれた部分に配置されている。シュー10は、柔軟材もしくは硬質材を適宜に選択して構成されており、その下面は、各折り曲げガイド部3c,3dの間に張り渡されているラッピングフィルム4の裏面と対向し、また被加工物Wの被加工面に倣って湾曲した曲面とされている。また、シュー10は、各直線ガイド部3a,3bの間で、フィルムガイド3の長手方向での後方側から先端側に延びた形状に構成されており、その先端部は、フィルムガイド3の先端部、もしくは各折り曲げガイド部3c,3dの間に張り渡されているラッピングフィルム4のエッジにほぼ一致している。
【0024】
このシュー10を被加工物Wに対して接近・離隔(上下動)させるプッシャ11が、機枠部2の正面側に設けられている。前記機枠部2の上端部には、前述したフィルムガイド3と平行となるように延び出ている平板状のステー12が取り付けられており、そのステー12の先端部に、直動型のアクチュエータ13が下向きに取り付けられている。アクチュエータ13は、電磁力や流体圧あるいはクランク機構さらにはカム機構などによってロッド13aを上下動させる駆動装置であり、ロッド13aはステー12を貫通してステー12の下側に延び出ている。
【0025】
上記のステー12の下側で前述した機枠部2の正面に、上下方向の案内を行うリニアーガイド14が設けられている。プッシャ11は上記のアクチュエータ13のロッド13aに取り付けられるとともに、リニアーガイド14によって上下方向に直線的に動作するように保持されている。
【0026】
ラッピングフィルム4を被加工物Wに対して選択的に押し付けるシュー10は、その後端部でプッシャ11に取り付けられている。シュー10はその状態で先端側に延び出ており、したがって図3に示すように、シュー10の上面側にはスペースが空いている。すなわち、被加工物Wにおける被加工部位が、外周側で閉じた形状であっても、その被加工部位に対してシュー10を軸線方向から挿入できるようになっている。なお、シュー10と被加工部位の相対的な位置のズレや姿勢(向き)のズレなどを吸収するために、もしくはシュー10を被加工面Gに追従させるために、シュー10をプッシャ11に対して三次元方向に移動し、もしくは向きを変えるように構成することが好ましい。例えば、シュー10とプッシャ11との間にボールジョイントなどのいわゆる首振り可能な機構を介在させ、また上下方向にはスプリングなどの弾性体を介在させることとしてもよい。
【0027】
つぎに上述したラッピング加工装置1の作用について説明する。図1および図2は、ラッピング加工を行っている状態を示しており、ここで加工の対象としている被加工物Wは、被加工部位(被加工面)の外周側が閉じている形状の金属部品である。一例として、被加工物Wは図4に示すように、リングギヤRを軸Sの一端側に設けた歯車部品であり、そのリングギヤRの内周側にリングギヤRと同心円上に突出したボス部Bが設けられている。そのボス部Bの外周面が被加工面Gである。
【0028】
この被加工物Wは、例えば図2に示すように、その軸Sの後端部をスピンドル(回転主軸)Rsの先端部にチャックCによって把持して、回転可能に保持する。なお、軸線方向にも往復動できるように保持してもよい。これに対してラッピング加工装置1は、被加工物Wの先端側(リングギヤR側)に、フィルムガイド3が被加工物Wの回転中心軸線と平行になるように配置し、そのフィルムガイド3およびシュー10をリングギヤRの内周側に挿入して被加工面Gに半径方向で対向させる。
【0029】
ラッピングフィルム4は、繰り出しロール5から引き出して一方のガイドローラ9aに巻き掛けることにより一方の直線ガイド部3aに沿わせる。さらに、その直線ガイド部3aの先端部に設けてある一方の折り曲げガイド部3cに密着させることにより、フィルムガイド3の下側を通りかつその幅方向を向くようにほぼ直角に曲げる。こうすることによりラッピングフィルム4の表裏が反転し、砥粒を付着させてあるラッピング面が下向きになる。ラッピングフィルム4を更に他方の折り曲げガイド部3dに密着させるように巻き掛けることにより、フィルムガイド3の上面側で他方の直線ガイド部3bに沿うようにほぼ直角に曲げる。したがって、ラッピングフィルム4は砥粒を付着させた表面が上側を向いた状態になる。そして、他方の直線ガイド部3bの端部(ラッピングフィルム4の送り方向もしくは走行方向では先端部)に設けてある他方のガイドローラ9bに巻き掛けて、ラッピングフィルム4を巻き取りロール6に向かわせ、巻き取りロール6で巻き取る。こうすることにより、ラッピングフィルム4は各折り曲げガイド部3c,3dの間に所定の張力で張り渡した状態になり、かつ砥粒を付着させた表面が被加工面Gに対向する。
【0030】
その状態で、プッシャ11をアクチュエータ13によって下降させると、プッシャ11に取り付けられているシュー10が、各折り曲げガイド部3c,3dの間に張り渡してあるラッピングフィルム4の裏面を被加工面Gに向けて押圧する。そして、ラッピングフィルム4を被加工面Gに押し付けた状態で、被加工物Wを回転させ、あるいは軸線方向に往復動(オシレート)させることにより、ラッピングフィルム4と被加工面Gとの間に相対的な移動あるいは摺動が生じて、被加工面Gが研磨もしくは研削される。加工の終了後、プッシャ11およびシュー10をアクチュエータ13によって引き上げてラッピングフィルム4を被加工面Gから離隔させ、その後、ラッピング加工装置1および被加工物Wの少なくともいずれか一方を軸線方向に後退させて両者を引き離し、被加工物WをチャックCから取り外す。
【0031】
上述したように、上記のラッピング加工装置1では、ラッピングフィルム4を被加工物Wの軸線方向に送り出し、またリターンさせ、またそのラッピングフィルム4を被加工面Gに押し付けるシュー10は、被加工面Gに対して軸線方向に移動させるように構成されている。すなわち、被加工物Wあるいは被加工面Gに対してその半径方向で外側に動作する部分を備えていないので、被加工面Gなどの被加工部位の外周側が閉じている被加工物Wであってもラッピング加工を行うことができる。また同様に、周辺機器が被加工物Wに接近して配置されている加工環境であっても、被加工物Wの軸線方向で空いているスペースを利用してラッピング加工を行うことができる。
【0032】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されないのであって、本発明の主旨の範囲内で適宜に変更して実施することができる。例えば、各折り曲げガイド部3c,3dは、被加工物の軸線方向に送られる帯状のラッピングフィルムを被加工物の軸線に対して直交する方向に張り渡すように曲げる構成であればよいのであって、直線ガイド部の端部に設けた構成に限らず、例えば複数のガイドローラを組み合わせて構成されていてもよい。また、本発明におけるシューは、要は、被加工物の軸線方向に延び出ていて、被加工物に対してその軸線方向に移動させられるように構成された部分であり、上述した実施形態では、シュー10とプッシャ11とを含む部分であり、プッシャを被加工物の軸線方向に延び出ている構成とし、その先端部にラッピングフィルムを押す軟質材(実質的なシュー)を取り付けた構成であってもよい。さらに、本発明では、繰り出しロール5や巻き取りロール6あるいはアクチュエータ13の取付位置は必要に応じて適宜に変更してよい。
【符号の説明】
【0033】
1 ラッピング加工装置
2 機枠部
3 フィルムガイド
3a,3b 直線ガイド部
3c,3d 折り曲げガイド部
4 ラッピングフィルム
5 繰り出しロール
6 巻き取りロール
7,8 ガイド壁部
9a,9b ガイドローラ
10 シュー
11 プッシャ
12 ステー
13 アクチュエータ
13a ロッド
14 リニアーガイド
B ボス部
C チャック
G 被加工面
R リングギヤ
Rs スピンドル(回転主軸)
S 軸
W 被加工物
図1
図2
図3
図4