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特開2024-157723液体クロマトグラフィー用分離剤、液体クロマトグラフィー用分離カラム及び生体高分子の分離方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024157723
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】液体クロマトグラフィー用分離剤、液体クロマトグラフィー用分離カラム及び生体高分子の分離方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 20/281 20060101AFI20241031BHJP
   B01J 20/283 20060101ALI20241031BHJP
   G01N 30/88 20060101ALI20241031BHJP
   B01J 20/289 20060101ALI20241031BHJP
【FI】
B01J20/281 X
B01J20/283
G01N30/88 J
B01J20/289
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023072250
(22)【出願日】2023-04-26
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り ・令和4年4月26日にAnalytical Chemistryオンラインにて公開。 ・令和4年4月27日に国立大学法人京都大学のホームページにて公開。 ・令和4年5月20日にHPLC2022ホームページにて公開。 ・令和4年5月21日に化学とマイクロ・ナノシステム学会第45回研究会要旨集にて公開。 ・令和4年5月22日に化学とマイクロ・ナノシステム学会第45回研究会にて公開。 ・令和4年6月9日に第29回クロマトグラフィーシンポジウム予稿集にて公開。 ・令和4年6月9日に第29回クロマトグラフィーシンポジウムにて公開。 ・令和4年6月18日にHPLC2022にて公開。 ・令和4年9月2日に日本分析化学会第71年会ホームページにて公開。 ・令和4年9月14日に日本分析化学会第71年会にて公開。 ・令和4年10月22日にProceedings of APCE-CECE-ITP-IUPAC2022講演要旨にて公開。 ・令和4年11月8日にProceedings of APCE-CECE-ITP-IUPAC2022にて公開。 ・令和5年2月3日にSeparationsオンラインにて公開。
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和3年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、研究成果展開事業「糖鎖認識PEG誘導体を用いた糖たんぱく質の糖鎖に基づく精密分離技術の開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】591159251
【氏名又は名称】信和化工株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(74)【代理人】
【識別番号】100121441
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 竜平
(74)【代理人】
【識別番号】100154704
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 真大
(74)【代理人】
【識別番号】100206151
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 惇志
(74)【代理人】
【識別番号】100218187
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 治子
(74)【代理人】
【識別番号】100227673
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 光起
(72)【発明者】
【氏名】小林 宏資
(72)【発明者】
【氏名】久保 拓也
(72)【発明者】
【氏名】高谷 光
(57)【要約】
【課題】生体高分子をできるだけ変性させずに、糖鎖の有無及び/又は糖鎖に含まれる糖の種類若しくは化学構造に基づいて前記生体高分子を分離することができる液体クロマトグラフィー用分離剤を提供する。
【解決手段】担体と吸着剤とを含有し、糖鎖の有無及び/又は糖鎖に含まれる糖の種類若しくは化学構造により生体高分子を分離する液体クロマトグラフィー用分離剤であって、前記担体がシリカゲルを含有し、前記吸着剤が6-カルボキシピリジン-3-ボロン酸又はその誘導体であることを特徴とする液体クロマトグラフィー用分離剤。
【選択図】図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
糖鎖の有無、糖鎖の立体構造及び/又は前記糖鎖に含まれる糖の種類により生体高分子を分離する液体クロマトグラフィー用分離剤であって、
担体と吸着剤とを含有し、
前記担体がシリカゲルを含有し、
前記吸着剤が6-カルボキシピリジン-3-ボロン酸又はその誘導体
であることを特徴とする液体クロマトグラフィー用分離剤。
【請求項2】
前記担体と前記吸着剤との間に配置されて、これらを接続する接続ユニットをさらに備え、
前記接続ユニットがスペーサ部を含有するものである、請求項1に記載の液体クロマトグラフィー用分離剤。
【請求項3】
前記スペーサ部がPEG由来の構成単位を含むものである、請求項2に記載の液体クロマトグラフィー用分離剤。
【請求項4】
前記PEGの分子量が100以上3000以下の範囲である、請求項3に記載の液体クロマトグラフィー用分離剤。
【請求項5】
前記接続ユニットが、表面に複数の前記吸着剤を結合可能な足場部を備える、請求項2に記載の液体クロマトグラフィー用分離剤。
【請求項6】
前記足場部がPEI由来の構成単位を含むものである、請求項5に記載の液体クロマトグラフィー用分離剤。
【請求項7】
前記PEIの分子量が100以上15,000以下の範囲である、請求項6記載の液体クロマトグラフィー用分離剤。
【請求項8】
前記接続ユニットがスペーサ部と足場部とを備え、
前記スペーサ部が前記足場部よりも前記担体側に配置されている、請求項2に記載の液体クロマトグラフィー用分離剤。
【請求項9】
前記シリカゲルの形態が粒子状、破砕状又はモノリス状である請求項1に記載の液体クロマトグラフィー用分離剤。
【請求項10】
請求項1~8のいずれかに記載の液体クロマトグラフィー用分離剤を備えた液体クロマトグラフィー用分離カラム。
【請求項11】
請求項10に記載の液体クロマトグラフィー用カラムを用いた生体高分子の分離方法。
【請求項12】
前記生体高分子を、糖鎖の有無、糖鎖の立体構造及び/又は前記糖鎖に含まれる糖の種類により分離する、請求項11に記載の分離方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体高分子を分離分析または分離精製するための液体クロマトグラフィー用分離剤ならびに分離カラム、およびこれらを用いた生体高分子の分離方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
たんぱく質等の生体高分子の研究・開発、また、医薬品等への産業利用においては、その分離・精製手法として液体クロマトグラフィー法が用いられる。
【0003】
液体クロマトグラフィー法では、分離対象物である生体高分子の特性を識別する認識サイトを導入した吸着剤を分離剤として利用する。具体的には、前記分離剤を充填した分離カラムに、生体高分子を溶媒とともに導入し、各生体高分子の前記吸着剤への吸着力の差異に基づいて生体高分子を分離する。
【0004】
ところで、近年の研究から、たんぱく質の機能は、アミノ酸主鎖によって決まるたんぱく質の種類のみならず、翻訳後修飾と呼ばれるたんぱく質への化学修飾により変化することが解明されつつあり、同一の化学修飾がされたたんぱく質の分離精製が求められている。
【0005】
翻訳後修飾と呼ばれるたんぱく質の化学修飾の種類としては、アシル化、アセチル化、アルキル化、ジメチル化、ビオチニル化、ホルミル化、カルボキシル化、グルタミル化、糖化、グリシル化、ヒドロキシル化、ヨウ素化、イソプレニル化、リポイル化、プレニル化、ミリストイル化、ファルネシル化、ゲラニルゲラニル化、ADPリボシル化、アデニリル化、酸化還元、ポリエチレングリコール化、ホスホパンテテイニル化、リン酸化、ラセミ化、チロシン硫酸化、セレノイル化等、非常に多くの種類が知られている。
【0006】
特に、抗体医薬品として使用される免疫グロブリン等のたんぱく質は、結合している糖とその重合体(以後、これらを糖鎖と称する)の種類により、薬効や副作用などが異なることが知られている。それにも関わらず、糖鎖の種類に基づいてたんぱく質を分離精製することは困難であり、医薬品として用いられるたんぱく質でさえ、異なる糖鎖を含むたんぱく質混合物として用いられている。
【0007】
そこで、たんぱく質を糖鎖の種類により分離精製する方法が求められている。
また、たんぱく質は、糸まり状の立体構造を持つ高分子であり、その立体構造と前述したような翻訳後修飾等が複合的に関与して、その本来の機能を発揮することができるものである。そのため、たんぱく質本来の機能を直接解析するためには、たんぱく質を分解等しないことはもちろん、その立体構造を維持したまま分離精製を行うことが求められる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】「植物におけるホウ酸輸送の分子機構と制御」、田中真幸ら著、生化学 第82巻 第5号,pp.367―377,2010
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
たんぱく質の立体構造をできるだけ維持したままで分離精製を行うには、移動相として、有機溶媒をほとんど含まない水系のものを使用する必要がある。移動相に含まれる有機溶媒は、たんぱく質を変性させて、その立体構造を破壊してしまう可能性があるからである。
【0010】
このような条件下で糖を分離することができる吸着剤として、本発明者らはボロン酸を用いることを考えた。ボロン酸は、たんぱく質の分離剤としての実績はないものの、水系の移動相を用いて、さらにレクチンよりも広いpH範囲で安定して糖を分離することが考えられるからである(非特許文献1)。
【0011】
しかしながら、本発明者らが実際にボロン酸を吸着剤としてシリカゲルからなる担体に固定し、たんぱく質を糖鎖の違いにより分離することを試した結果、一般的に糖を分離する際に用いられている3-アミノフェニルボロン酸や4-ビニルフェニルボロン酸を用いることは困難であることが分かった。従来、糖を分離することが知られている3-アミノフェニルボロン酸や4-ビニルフェニルボロン酸が糖を吸着するアルカリ条件下で、担体であるシリカゲルが溶けてしまうことが分かったからである。
【0012】
本発明は前述した従来の問題点に鑑みてなされたものであり、たんぱく質やペプチド等の立体構造を有する生体高分子を、できるだけ変性させずに、糖鎖の種類(糖鎖の有無及び/又は糖鎖に含まれる糖の種類若しくは化学構造等)に基づいて前記生体高分子を分離することができる液体クロマトグラフィー用分離剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
すなわち本発明に係る液体クロマトグラフィー用分離剤は、糖鎖の有無、糖鎖の立体構造及び/又は前記糖鎖に含まれる糖の種類により生体高分子を分離する液体クロマトグラフィー用分離剤であって、
担体と吸着剤とを含有し、前記担体がシリカゲルを含有し、前記吸着剤が6-カルボキシピリジン-3-ボロン酸又はその誘導体であることを特徴とするものである。
【0014】
本発明は、本発明者らが鋭意検討を重ねた結果、6-カルボキシピリジン-3-ボロン酸が、従来、糖を分離することが知られている3-アミノフェニルボロン酸や4-ビニルフェニルボロン酸とは異なるpH条件下で糖を吸着脱着できることを見出して初めて完成したものである。前述したように構成した本発明によれば、たんぱく質の分離精製においてハンドリングしやすいシリカゲル担体を用いながら、シリカゲルが溶解しない弱アルカリ性(pH8.0以下)から酸性(pH2.0以上)の条件下で糖鎖の種類により生体高分子を変性させずに分離精製することができる。
【0015】
前記担体と前記吸着剤との間に配置されて、これらを接続する接続ユニットをさらに備え、前記接続ユニットがスペーサ部を含有するものとすれば、スペーサを介して吸着剤が立体構造の内部に到達することができるので、生体高分子の立体構造の内部に糖鎖が存在している場合であっても、この糖鎖を認識して生体高分子を分離精製することができるため好ましい。
【0016】
前記スペーサ部としては、糖の種類によってのみ分離を行うためにたんぱく質と相互作用をせず、またたんぱく質に対して不活性なものであることが好ましい。そこでこのような性質のスペーサ部とするために、具体例としては、例えば、ポリエチレングリコール(PEG)由来の構成単位を含むものとすることができる。
また、前記スペーサ部の材料としてPEGを用いる場合には、PEGの分子量が100以上3,000以下の範囲であることが特に好ましい。
【0017】
前記接続ユニットが、表面に複数の前記吸着剤を結合可能な足場部を備えるものとすれば、担体に対して吸着剤をできるだけたくさん設けることができるので、糖鎖を有する生体高分子をより多く吸着させることができる。
【0018】
足場部としては、糖の種類によってのみ分離を行うためにたんぱく質と相互作用をせず、またたんぱく質に対して不活性なものであることが好ましい。前記足場部の具体例としては、ポリエチレンイミン(PEI)由来の構成単位を含むものを挙げることができる。
前記足場部の材料としてPEIを用いる場合には、PEIの分子量が100以上15,000以下の範囲であることが特に好ましい。
【0019】
本発明の具体的な実施態様としては、前記接続ユニットがスペーサ部と足場部とを備え、前記スペーサ部が前記足場部よりも前記担体側に配置されているものを挙げることができる。
【0020】
担体として用いる前記シリカゲルの形態は、粒子状、破砕状、モノリス状などの様々なものを適用可能である。
【0021】
本発明は、前述したような液体クロマトグラフィー用分離剤を備えた液体クロマトグラフィー用分離カラム、液体クロマトグラフィー用カラムを用いた生体高分子の分離方法をも含むものである。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、生体高分子をできるだけ変性させずに、糖鎖の有無及び/又は糖鎖に含まれる糖の種類若しくは化学構造に基づいて前記生体高分子を分離することができる。
【0023】
具体的に説明すると、糖たんぱく質は、例えば、抗体医薬品、免疫抑制剤、抗癌剤として期待されているものであり、薬効はたんぱく質部分によるものであり、効き方は糖鎖部分の構造等によって決まっていると考えられている。
【0024】
しかし、前述したようにこれら糖たんぱく質の糖鎖部分の違いを認識して精度良く分離することは難しく、前述した医薬品の中でも、特に生物を用いて産生されるバイオ医薬品の中には、糖鎖構造や数の違うものが混在しているものも存在する。
【0025】
本発明に係る液体クロマトグラフィー用分離剤によれば、糖鎖の構造や数の違いによって精度良く分離することができるので、バイオ医薬品の品質を向上することが可能であり、前述したような様々な薬品における薬効をさらに厳密にコントロールすること等も可能であると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明の一実施形態に係る分離剤の構造を示す模式図である。
図2】本発明の一実施例に係る液体クロマトグラフィー用分離剤による糖鎖分離で得た分離クロマトグラム。
図3】本発明の一実施例に係る液体クロマトグラフィー用分離剤による糖鎖を含むたんぱく質と糖鎖を含まないたんぱく質に対する吸着特性評価図。
図4】本発明の一実施例に係る液体クロマトグラフィー用分離剤による糖鎖を含むたんぱく質と糖鎖を含まないたんぱく質試料で得た分離クロマトグラム。
図5】本発明の一実施例に係る液体クロマトグラフィー用分離剤によるたんぱく質混合試料の分離クロマトグラム。
図6】本発明の一実施例に係る液体クロマトグラフィー用分離剤による異なる糖鎖を有するたんぱく質試料の分離クロマトグラム。
図7図8の実施例で用いた分離剤の製造過程を示す模式図。
図8】本発明の一実施例に係る液体クロマトグラフィー用分離剤による異なる糖鎖を有するたんぱく質試料の分離クロマトグラム。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の一実施形態について図面を用いて説明する。
<本実施形態に係る液体クロマトグラフィー用分離剤及び分離カラムの構成>
本発明に係る液体クロマトグラフィー用分離カラムは、例えば、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)装置に取り付けて使用する液体クロマトグラフィー用カラムである。
【0028】
前記液体クロマトグラフィー用分離カラムは、例えば、前記液体クロマトグラフィー用分離カラムは、好ましくは、内径が0.01mm以上、0.5mm以上、0.1mm以上であり、1000mm以下、100mm以下、10mm以下であり、長さが1cm以上、5cm以上、10cm以上であり、500cm以下、200cm以下、100cm以下である市販のHPLCカラム用ステンレス管へ前記液体クロマトグラフィー用分離剤(充填剤ともいう。)を充填したカラムである。ステンレス管ではなく石英管等を使用してもよい。また内部に充填する液体クロマトグラフィー用分離剤としては、平均粒子径が、好ましくは、1μm以上、2μm、3μm以上であり、50μm以下、20μm、10μm以下の微粒子を用いてもよく、モノリス状のものであっても良い。
【0029】
前記液体クロマトグラフィー用分離剤1は、図1に示すように、前記液体クロマトグラフィー用分離剤1の骨格となる担体11と、ターゲットとなる生体高分子である、例えば、糖たんぱく質2の糖鎖21を認識して吸着する認識サイトを有する吸着剤12と、前記担体11と吸着剤12とを接続する接続ユニット13とを備えたものである。
【0030】
前記担体11は、例えば、シリカゲルを主な成分とするものであり、本実施形態では粒子状のシリカゲルからなるものを用いている。粒子状シリカゲルとしては、全多孔性シリカゲル粒子、表層多孔性シリカゲル粒子、あるいは無孔性シリカゲル粒子などを用いることができる。これら以外にも、粉砕型のシリカゲルや3次元網目構造を持つ連続多孔質体であるモノリス型シリカゲル等を用いても良い。また、シリカゲルの表面が、例えば、シランカップリング剤等によって修飾されているものとしても良い。
【0031】
前記吸着剤12は、前記液体クロマトグラフィー用分離剤1に特徴的な吸着性能を持たせるために前記担体11の表面に固定されるものであり、本実実施例においては6-カルボキシピリジン-3-ボロン酸(5-Boronopicolnic acid、BPAともいう。)である。
【0032】
前記接続ユニット13は、その一端が前記担体11と結合し、他端が吸着剤12に結合した例えば、長さがおよそ2nmのものである。
また、この接続ユニット13の両端には前記担体11及び前記吸着剤12とそれぞれ結合するための結合基が設けられている。
この結合基としては、水酸基、アミノ基、カルボキシル基などを挙げることができるがこれらに限られない。
【0033】
前記接続ユニット13は、より具体的には、前記吸着剤12を、ターゲットとなる糖たんぱく質2の立体構造深部に埋もれている糖鎖21に到達させるスペーサ部13Aと、吸着剤12を固定する足場となる足場部13Bとを含むものである。
【0034】
前記スペーサ部13Aは、弱アルカリ性から酸性条件において安定な物質であれば特に限定されないが、水系の溶剤中において凝集しにくい親水性のものであることが好ましい。さらに、生体高分子の主骨格を構成しているアミノ酸とはほとんど相互作用せず、取り扱いがしやすく、また長さの調整が容易な物質であることが好ましい。具体例としては、例えば、ポリエチレングリコール(PEG)を材料として構成されていことが好ましい。
【0035】
前記スペーサ部13AとしてPEG由来の構成単位を含有するものとする場合には材料として用いるPEGの分子量が100以上3000以下であることが好ましい。PEGの分子量を100以上とすることによって、結合部分の長さを十分なものとしてたんぱく質の内部に吸着剤を到達させることができるため好ましい。PEGの分子量を3,000以下とすることによって接続ユニット13が長くなり過ぎて吸着剤12と糖たんぱく質2とが結合しにくくなることを抑えることができるため好ましい。スペーサ部13Aの材料に用いるPEGの分子量は、150以上2000以下であることがより好ましく、200以上1000以下であることがさらに好ましく、250以上800以下であることが特に好ましい。
【0036】
前記足場部13Bは、表面に複数の前記吸着剤12を結合可能なものであれば良く、弱アルカリ性から酸性条件において安定な物質であれば特に限定されないが、多くの吸着剤12を結合させることができるように複雑な架橋構造を有するものであることが好ましい。また、前記吸着剤12を結合させるための結合基(官能基)を有するものであることが好ましい。具体的には、前記足場部13Bとして、例えば、ポリエチレンイミン(PEI)由来の構成単位を含有するものとすることが好ましい。
【0037】
前記足場部13BとしてPEI由来の構成単位を含有するものとする場合には、材料として用いるPEIの分子量が100以上15,000以下であることが好ましい。PEIの分子量を100以上とすることによって、十分な量の吸着剤12をその表面に結合させることができるため好ましい。PEIの分子量を15,000以下とすることによってPEIからなる足場部13Bが大きくなり過ぎて立体障害により吸着剤12と糖タンパク質2とが結合しにくくなることを抑えることができるため好ましい。足場部13Bの材料に用いるPEIの分子量は、200以上13,000以下であることがより好ましく、300以上12,000以下であることがさらに好ましく、4000以上11,000以下であることが特に好ましい。
【0038】
前記スペーサ部13Aはその両端に、例えば、前記担体11及び前記足場部13Bとそれぞれ結合するための結合基を有するものであることが好ましく、前記足場部13Bはその両端に前記スペーサ部13A及び前記吸着剤12とそれぞれ結合するための結合基を有するものであることが好ましい。すなわち、前記スペーサ部13Aは前記担体11と前記足場部13Bとを結合させるものであり、前記足場部13Bは前記スペーサ部13Aと前記吸着剤12とを結合させるものであることが好ましい。
【0039】
<本実施形態に係る液体クロマトグラフィー用分離剤の製造方法>
本実施形態に係る液体クロマトグラフィー用分離剤1は、例えば、以下の方法で製造することができる。
まず、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)等の適切な有機溶媒中において、シリカゲル(NH2-SiO2)とPEG(例えば、PEGビス(カルボキシメチル)エーテル)および縮合剤(例えば、DMTMM)を添加し、室内温度(およそ25℃)で撹拌しながら反応させる。
次に、反応物をDMF、MeOHおよび水等で十分に洗浄した後、粒子を真空下で乾燥させることによって、担体11とスペーサ部13Aとが結合した一次産物を得る。
この一次産物を、EtOH等の適切な溶媒中において、適切な試薬(例えば、PEI)および縮合剤(例えば、DMTMM)と室内温度で反応させる。
この反応物をEtOHおよび水等で十分に洗浄した後、粒子を真空下で乾燥させることによって足場部13Bが前記一次産物におけるスペーサ部13Aの担体11とは反対側の端に結合した二次産物を得る。
得られた前記二次産物である粒子を、適切な溶媒(例えば、DMSO)中において吸着剤12であるBPAおよび縮合剤(例えば、DMTMM)と混合させ、この混合物を室内温度で撹拌しながら反応させることによって3次産物を得て、これの3次産物における未反応のアミノ基を既知の方法によりキャップすることによって目的の分離剤1を製造することができる。
【0040】
<本実施形態に係る液体クロマトグラフィー用分離剤を用いた生体高分子の分離精製方法>
このようにして作成された液体クロマトグラフィー用分離剤1はそのままバッチ式で用いることも可能であるし、該分離剤1をカラムに充填するなどして分離カラムとし、このカラムを、例えば、汎用のグラジエント式液体クロマトグラフィー装置等と組みあわせて用いることができる。
液体クロマトグラフィー用カラムの形状としては、キャピラリーカラム、や液体クロマトグラフィー装置に装着可能なロッドタイプのカラムとしても良い。
また、パックドカラムに限らず、ユーザーが使用時に本発明にかかる液体クロマトグラフィー用分離剤1をオープンカラムやスピンカラムに充填するものとしても良い。
吸着剤12として用いているBPAは有機溶媒を用いることなく緩衝液等の水系の移動相中でも十分に糖を認識し、pHの変化のみによって吸着及び溶出することができるので、移動相として水溶液を主成分(50体積%以上)とするものを使用することができる。前述した糖タンパク質2等の生体高分子の変性をできるだけ抑えるために、移動相として用いる溶液中の有機溶媒の濃度は低いほど好ましく、例えば、10体積%以下であることがより好ましく、5体積%以下であることがさらに好ましく、3体積%以下であることが特に好ましい。有機溶媒による生体高分子の変性を防ぐという観点からは、移動相が完全に水溶液のみで構成されている、すなわち有機溶剤一切含有しないものであることが望ましい。
前記液体クロマトグラフィー装置を、例えば、オンラインで高分解能質量分析計と接続するなどして、分離後の生体高分子について質量分析を行うこと等も可能である。
【0041】
<本実施形態の効果>
以上のように構成した液体クロマトグラフィー用分離剤1及び分離カラム、分離方法によれば、吸着剤12として用いているBPAが水溶液中において、pHが5以上8以下の弱アルカリ性から弱酸性条件においてボロン酸と糖鎖とが会合し、pHが3以下の酸性条件に近づくにつれて、ボロン酸と糖鎖との解離が生じるので、たんぱく質やペプチドなどの立体構造を有する生体高分子を本来の立体構造を保ったまま、糖鎖の種類によって液体クロマトグラフィーにより分離精製することができる。
【0042】
前記接続ユニット13の一部として、親水性の物質であるPEG由来の構成単位によって構成されたスペーサ部13Aを備えているため、水系溶媒中においてもこれらが凝集してしまうことを抑えることができる。
【0043】
前記スペーサ部13Aの材料として用いるPEGの分子量が100以上3000以下であるので、スペーサ部13Aに十分な長さを持たせて、比較的大きな糖たんぱく質2の立体構造深部にも前記吸着剤12を到達させ、かつ十分に結合させることができる。
【0044】
前記スペーサ部13Aの材料としてPEGを用いているので、スペーサ部13Aについて構造的に柔軟性が高いものとすることができるため、糖たんぱく質2の立体構造深部に吸着剤12がより入り込みやすい。また、前記スペーサ部13Aの長さをコントロールしやすく、前記スペーサ部13Aの長さを目的の長さにコントロールし、かつ均一に揃えやすい。さらに、ポリエチレングリコールは生体毒性が低い物質であるので、扱いやすい。
【0045】
前記BPAに対して化学修飾を行い誘導体化することで、異なった吸着特性を持たせることも容易にできるので、さらに吸着能を変化させたり、調節したりすることができる。
【0046】
<本発明に係る他の実施形態>
なお、本発明は前記実施形態に限られるものではない。
例えば、前記実施形態では、立体構造を有するたんぱく質やペプチドを分離対象の生体高分子としているが、生体高分子として立体構造をほとんど持たないペプチド断片やアミノ酸と糖とが結合した比較的低分子の化合物なども分離対象とすることができることはいうまでもない。
【0047】
前記接続ユニットは、担体と吸着剤とを接続できるものであればよく、スペーサ部や足場部は必ずしも必須の構成ではない。
また、接続ユニットにおける担体とスペーサ部、担体と足場部、担体と吸着剤、スペーサ部と足場部、スペーサ部と吸着剤及び足場部と吸着剤との間の各結合は特に限定されず、使用する担体や吸着剤の種類、スペーサ部や足場部の有無やこれらを構成する物質の種類、使用目的等によって、適宜変更することができる。例えば、各結合基として、水酸基、アミノ基、カルボキシル基等を挙げることができるがこれらに限らず、エーテル結合、エステル結合、アミド結合、ウレア結合、ウレタン結合などを形成できるものを含むことができる。
【0048】
また、本発明に係る液体クロマトグラフィー用分離剤の製造方法は、使用する担体や吸着剤の種類、スペーサ部や足場部の有無やこれらを構成する物質の種類、使用目的等によって、適宜変更することができる。例えば、担体と接続ユニットと吸着剤とを結合させる順番は、前述した手順に限らず、どのような順で結合させても良い。
その他、本発明は、前記実施形態に限られること無く、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能である。
【0049】
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこの実施例のみに限定されるものではない。
【実施例0050】
<分離剤の合成>
以下の手順で実施例に係る分離剤(No.1~No.5)と比較例に係る分離剤とを製造した。
(比較例に係る分離剤の製造方法)
DMF(100mL)中のNH2-SiO2(500mg)とPEGビス(カルボキシメチル)エーテル(Mn=250または600、10.0mmol)およびDMTMM(1.0mmol)を、室内温度で24時間撹拌した。
DMF、MeOH、および水で洗浄した後、粒子を真空下で乾燥させた(PEG-SiO2)。次に、PEG-SiO2を、EtOH(100mL)中のEDA(10.0mmol)およびDMTMM(1.0mmol)で24時間、室内温度で処理した。
EtOHおよび水で洗浄した後、粒子を真空下で乾燥させた(EDA-PEG SiO2)。最後に、EDA-PEG-SiO2を、DMSO(50mL)中で、BPA(0.5mmol)およびDMTMM(0.75mmol)と室内温度で24時間反応させた。
DMSO、MeOH、および水で洗浄した後、粒子を真空下で乾燥させた(BPA-PEG-SiO2)。
さらに、EDA-PEG SiO2の一部を、氷浴中、無水CH2Cl2(100mL)中の塩化アセチル(5.0mmol)およびピリジン(5.0mmol)で処理し、室内温度で6時間撹拌した。
EtOHを加え、蒸発させて溶媒を除去した後、粒子をEtOHで洗浄し、真空下で乾燥させることによって比較例に係るBPAを持たない分離剤を得た(AC-PEG-SiO2)。
(実施例に係る分離剤の製造方法)
DMF(100mL)中のNH2-SiO2(500mg)とPEGビス(カルボキシメチル)エーテル(Mn=250または600、10.0mmol)およびDMTMM(1.0mmol)を、室内温度で24時間撹拌した。
DMF、MeOH、および水で洗浄した後、粒子を真空下で乾燥させた(PEG-SiO2)。
500mgのPEG-SiO2を、EtOH(100mL)中のPEI(Mn=600, 1800または10,000、2.0mmol)とDMTMM(1.0mmol)の混合物中で反応させ、そして混合物を室内温度で24時間撹拌させた(PEI-PEG-SiO2)。得られた粒子を、DMSO中のBPA(1.0 mmol)およびDMTMM(1.5 mmol)の混合物中で反応させ、次いでその混合物を室内温度で24時間撹拌した(BPA-PEI-PEG-SiO2)。
上記、BPA-PEI-PEG-SiO2中の未反応のアミノ基を氷浴中、無水CH2Cl2(100mL)中の塩化アセチル(5.0mmol)およびピリジン(5.0mmol)で処理し、室内温度で6時間撹拌しアセチル基でキャップして実施例に係る目的の分離剤を得た(AC-BPA-PEI-PEG-SiO2)。
前述した手順で作成した実施例に係る各分離剤No.1~No.5の材料として用いたPEG及びPEIの分子量は以下の表1の通りである。
目的の分離剤が製造できたことは、ニンヒドリンとアリザリンの反応を観察することによるBPAの 固定化量を調べることによって確認した。その結果、表1の何れの分離剤においてもニンヒドリン反応における発色の消失により確認された反応収率は98%であり、アリザリンとの反応による実験によってもBPAが担体に対してしっかりと固定されたことが確認できた。
【0051】
【表1】
【0052】
<実施例1:本発明の一実施例に係る液体クロマトグラフィー用分離剤を用いた糖鎖分離>
本実施例で作製した分離剤のうちNo.4を用いて、各種糖鎖の保持挙動を調べた。結果を図2に示す。
図2の結果から、Neu5Acは、BPA-SiO2上で他の糖類とは異なる保持挙動を示した。多くの場合、糖たんぱく質の糖鎖はN-アセチル-D(+)-グルコサミン(GlcNAc)がアスパラギンの残基と結合したN-Glycanである。N-Glycanは、高マンノース型、非還元末端にNeu5Ac、ガラクトース、GlcNAcを持つ複合型、ハイブリッド型に分類することができる。そこで、2-アミノベンズアミド(2-AB)で標識した各種N-グリカン(G0、G2、G2S1、G2S2、M5)をBPA-SiO2を使って評価した。G2S1、G2S2はpH5.0で保持されると予想したが、保持されることなく溶出した。pH6.5では、すべてのN-Glycanがわずかに保持され、pH7.5では、G2およびM5が強く保持され、溶出しなかった。
【0053】
<実施例2:本発明の一実施例に係る液体クロマトグラフィー用分離剤による糖鎖を含むたんぱく質と糖鎖を含まないたんぱく質に対する吸着特性評価>
本実施例で作製した分離剤のうちNo.4を用いてたんぱく質のバッチ吸着による吸着特性評価を図にした。調製した各吸着剤5mgを、600mM NaCl中の各たんぱく質溶液(1.0mg mL-1)に分散させ、20mMリン酸緩衝液(pH 7.5, 1.0 mL)中で分散し混合物を1500 rpmで3時間振盪した。
吸着条件: 600mM NaCl in 20mMリン酸緩衝液 pH 7.5.
12000rpmで5分間遠心分離した後、上清中の遊離たんぱく質濃度をUV-visスペクトロメーターで推定した。さらに、BPA-PEI1800-PEG600-SiO2とHRPとの定量的な結合特性を知るために、0.1~1.2 mg mL-1のHRP溶液を用いて吸着等温線を求めた。
次に、結合定数をScatchardの式により以下のように推定した: Q/C = nK - KQ ここで、Q、C、n、Kはそれぞれ、HRPの吸着量(mol g-1)、非吸着HRP濃度(M)、最大結合部位(mol/g)、結合定数(M -1)と定義する。
結果を図3に示す。なお、図アイコンの棒の長さはPEGの、球体の大きさはPEIの分子量と対応する。また、図中のHRPとOVAが糖鎖を有する糖たんぱく質であり、その他のGOX、BSA、LYZ、TRY、CYTは糖鎖を持たないたんぱく質である。
図3の結果から、表1のNo.1~5の分離剤はいずれも糖鎖を有するたんぱく質を吸着できることが分かった。中でも最も糖鎖に特異的な結合力を示したのはNo.4吸着剤であった。
【0054】
<実施例3:本発明の一実施例に係る液体クロマトグラフィー用分離剤による糖鎖を含むたんぱく質と糖鎖を含まないたんぱく質試料で得た分離クロマトグラム>
No.4の分離剤を用いて調製したカラムにおけるたんぱく質および糖たんぱく質の保持挙動を調べた。条件は以下の通りである。
結果を図4に示す。図4の結果から、様々な種類の糖たんぱく質を本実例に係る分離カラムに吸着させることができた。なお、図中の*は糖たんぱく質を示す。同様の実験を比較例に係る分離剤(BPAを含まない分離剤)についても行ったが、比較例に係る分離剤については、糖鎖の有無に関わらず全ての種類のたんぱく質が分離剤に吸着しない結果となっている。
条件:HPLC条件:カラム(10.0 cm × 2.0 mm i.d.)、移動相、600 mM NaCl in 20 mMリン酸緩衝液 pH7.5、検出、UV(214 nm)、流速、0.2 mL/min.
【0055】
<実施例4:本発明の一実施例に係る液体クロマトグラフィー用分離剤によるたんぱく質混合試料の分離クロマトグラム>
No.4の分離剤(BPA-PEI1800-PEG600-SiO2)を充填したカラムを用いてBSAとHRPの混合液からこれらを分離できるかどうか調べた。条件は以下の通りであり、結果を図5に示す。
図5の結果から、本発明による分離剤によれば糖鎖を持たないたんぱく質であるBSAと糖鎖を有するたんぱく質であるHRPとを明確に分離することができたことが分かる。
条件:HPLC条件:カラム、BPA-PEI1800-PEG600-SiO2-packed column (10.0 cm × 2.0 mm i.d.); 移動相: (A) 600 mM NaCl in 20 mM phosphate buffer pH 7.5, (B) 100 mM ギ酸 in water pH 2.5; A, 0-10 min, B, 10-30 min; 検出、紫外線 (280 nm);flow rate, 0.2 mL/min; sample injection volume, 5 μL
【0056】
<実施例5:本発明の一実施例に係る液体クロマトグラフィー用分離剤による異なる糖鎖を有するたんぱく質試料の分離クロマトグラム>
No.4の分離剤(BPA-PEI1800-PEG600-SiO2)を充填したカラムを用いて、いずれも糖鎖を有し、糖鎖の構造のみが異なるたんぱく質であるフェツインとアシアロフェツインのHPLC分離を行った。条件は以下の通りであり、結果を図6に示す。
図6の結果から、本発明による分離剤によれば糖鎖の末端にシアル酸を有するフェツインは中性条件下(pH7.5)で保持されることなく直ちに溶出した。アシアロフェツインは中性条件下ではBPA部位との相互作用により強く保持されていたが、移動相を酸性条件(pH2.5)に変更することで効果的に溶出されることが確認された。この結果から、本発明にかかる分離剤はたんぱく質のアミノ酸配列や立体構造ではなく、糖鎖の違いによりたんぱく質を分離できていることが確認できた。また、シアル酸の有無という、非常にわずかな糖鎖構造の違いによりたんぱく質を明確に分離することができたことが分かる。これらの結果は、特定の糖構造を用いて目的の糖たんぱく質を選択的に分離できる可能性を示すものである。この結果から、分離剤へのさらなる化学修飾や接続ユニットの長さや種類を変えて最適化することで、糖鎖の違いに基づいて様々な種類の糖たんぱく質を非常に精度よく分離・濃縮することができることが十分に推測できる。
HPLC条件:カラム、BPA-PEI1800-PEG600-SiO2充填カラム(10.0 cm × 2.0 mm i.d.); 移動相: A, 600 mM NaCl in 20 mM phosphate buffer pH 7.5; B, 100 mM ギ酸 in 水 pH 2.5; A, 0-10 min, B, 10-30 min; detection, UV (280 nm); flow rate, 0.2 mL/min.
【0057】
<実施例6:本発明の一実施例に係る液体クロマトグラフィー用分離剤による異なる糖鎖を有するたんぱく質試料の分離クロマトグラム>
次に、実施例1~5で使用したものとは構造の異なる分離剤を用いて実験を行った。本実施例においては、前述した実施例1~5で用いた分離剤の製造過程において、PEG及びPEIを用いずに、担体であるシリカゲルに対して直接吸着剤であるBPAを結合させた以外は同じ手順で製造した分離剤を用いた(図7)。
緩衝液を移動相とするモノリスカラム(シリカ、アミノ化、BPA化)を用いたHPLC分析では、いずれも強い非特異的相互作用によりHRP、TRF、OVA、BSA、LYZは溶出しなかった。これらのたんぱく質を溶出させるため、20mMリン酸緩衝液(pH7.5)中、10%2-プロパノールを移動相とした同様の評価を行った。詳細な条件は以下の通りである。結果を図8に示す。
図8の結果からLYZを除くほとんどのたんぱく質は保持されることなく溶出したが、LYZは、シラノール基との静電相互作用により強く保持されていた。アミノ化モノリスでは、酸性たんぱく質の保持はアミノ基によるもので、LYZは残ったシラノール基によって保持されたままであることが示された。一方、BPA化モノリスでは、糖たんぱく質に対して選択的な保持を実現した。この図8の結果をより改善するためには、静電相互作用と非選択的疎水性相互作用を抑制することが考えられ、このような性質を有する分離剤とするために既知の方法を用いて分離剤を改良することも可能であると考えられる。なお、本発明者らの論文である“Separation of Glycoproteins Based on Sugar Chains Using Novel Stationary Phases Modified with Poly(ethylene glycol)-Conjugated
Boronic-Acid Derivatives”、Hiroshi Kobayashi, Yusuke Masuda, Hikaru Takaya, Takuya Kubo, and Koji Otsuka, Analytical chemistry(2022)に記載された内容は全て本明細書に組み込まれるものとする。
HPLC条件:モノリスカラム(30.0 cm × 100 μmi.d.); 移動相:20 mMリン酸緩衝液 pH 7.5、10% 2-プロパノール; 検出:UV (214 nm); 流速:1.0 μL/min.
【符号の説明】
【0058】
1 液体クロマトグラフィー用分離剤
11 担体
12 吸着剤
13 接続ユニット
13A スペーサ部
13B 足場部
2 糖タンパク質
21 糖鎖



図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8