(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024157730
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】射出成形機
(51)【国際特許分類】
B29C 45/76 20060101AFI20241031BHJP
B29C 45/84 20060101ALI20241031BHJP
B29C 45/17 20060101ALI20241031BHJP
【FI】
B29C45/76
B29C45/84
B29C45/17
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023072266
(22)【出願日】2023-04-26
(71)【出願人】
【識別番号】000004215
【氏名又は名称】株式会社日本製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】新枝 空河
【テーマコード(参考)】
4F206
【Fターム(参考)】
4F206AM04
4F206AM32
4F206AP19
4F206AQ01
4F206JA07
4F206JL02
4F206JL03
4F206JL07
4F206JM02
4F206JN32
4F206JP05
4F206JP13
4F206JP14
4F206JP15
4F206JQ88
4F206JQ90
(57)【要約】
【課題】搭載された金型の検査が可能な射出成形機を提供する。
【解決手段】射出成形機1は、固定金型M1が搭載される固定盤22と、可動金型M2が搭載される可動盤24と、固定金型M1の可動金型M2と対向する面と、可動金型M2の固定金型M1と対向する面の少なくともいずれかに図形を投影する少なくとも一つの投影部45と、少なくともいずれかの面に投影された図形を撮影する少なくとも一つの撮影部46と、を有している。少なくとも一つの投影部45と少なくとも一つの撮影部46は、固定盤22と可動盤24の少なくともいずれかに取り付けられている。
【選択図】
図3A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定金型が搭載される固定盤と、
可動金型が搭載される可動盤と、
前記固定金型の前記可動金型と対向する面と、前記可動金型の前記固定金型と対向する面の少なくともいずれかに図形を投影する少なくとも一つの投影部と、
少なくともいずれかの前記面に投影された前記図形を撮影する少なくとも一つの撮影部と、を有し、
前記少なくとも一つの投影部と前記少なくとも一つの撮影部は、前記固定盤と前記可動盤の少なくともいずれかに取り付けられている、射出成形機。
【請求項2】
前記少なくとも一つの投影部と前記少なくとも一つの撮影部のうち、前記固定盤または前記可動盤に取り付けられた投影部と撮影部は一体化されている、請求項1に記載の射出成形機。
【請求項3】
前記少なくとも一つの撮影部が撮影した前記図形の特徴量を算出し、前記特徴量に基づき前記可動盤を制御する制御部を有する、請求項1に記載の射出成形機。
【請求項4】
前記制御部は、前記射出成形機の自動運転モードのとき、前記図形の投影と撮影を自動的に実行するよう前記投影部と前記撮影部とを制御する、請求項3に記載の射出成形機。
【請求項5】
前記少なくとも一つの投影部は、前記少なくともいずれかの前記面を前記図形で走査させる走査部を有し、
前記少なくとも一つの撮影部は、走査の際に前記図形を複数回撮影し、
前記制御部は、撮影された複数の前記図形に対して算出された前記特徴量のうち最大の前記特徴量に基づき前記可動盤を制御する、請求項3に記載の射出成形機。
【請求項6】
前記特徴量は投影によって生じた前記図形の歪の大きさと正の相関関係を有し、
前記制御部は前記特徴量の閾値を記憶し、前記最大の特徴量が前記閾値を上回る場合、前記可動金型を前記固定金型から離れた位置に維持する、請求項5に記載の射出成形機。
【請求項7】
前記特徴量は投影によって生じた前記図形の歪の大きさと正の相関関係を有し、
前記制御部は前記特徴量の閾値を記憶し、前記最大の特徴量が前記閾値以下である場合、前記可動盤を型締めが完了するロック位置まで連続的に移動させる、請求項5に記載の射出成形機。
【請求項8】
前記制御部は、前記特徴量が凸形状と凹形状のいずれに対応するかを推定する、請求項3から7のいずれか1項に記載の射出成形機。
【請求項9】
前記図形は、前記少なくとも一つの投影部からの照射光によって形成される明部と暗部の境界線であり、
前記特徴量は、撮影された前記境界線の歪む方向を示す情報を含み、
前記制御部は前記情報に基づき、前記特徴量が凸形状と凹形状のいずれに対応するかを推定する、請求項8に記載の射出成形機。
【請求項10】
前記制御部は前記特徴量が前記凸形状に対応すると推定した場合、前記面に異物が付着している可能性がある旨のアラームを発信し、前記特徴量が前記凹形状に対応すると推定した場合、前記面に傷が生じている可能性がある旨のアラームを発信する、請求項9に記載の射出成形機。
【請求項11】
前記特徴量は、撮影された前記境界線の歪の大きさを示す特徴量を含み、
前記制御部は前記歪の大きさを示す特徴量の閾値を記憶し、前記大きさを示す特徴量が前記大きさを示す特徴量の前記閾値を上回る場合に、前記面に異物が付着している可能性がある旨のアラーム、または前記面に傷が生じている可能性がある旨のアラームを発信する、請求項10に記載の射出成形機。
【請求項12】
前記図形は、前記少なくとも一つの投影部からの照射光によって形成される明部と暗部の境界線であり、
前記少なくとも一つの投影部は、前記少なくともいずれかの前記面を前記境界線で走査させる走査部を有し、
前記少なくとも一つの撮影部は、走査の際に前記境界線を複数回撮影し、
前記少なくとも一つの撮影部が撮影した前記境界線の、少なくとも一つの特徴量を算出する制御部を有し、
前記制御部は、複数回撮影された前記境界線の前記少なくとも一つの特徴量から形状異常部の形状を推定する推定モデルを有し、前記推定モデルは複数回撮影された前記境界線の前記少なくとも一つの特徴量に基づき、前記形状異常部の形状を推定する、請求項3に記載の射出成形機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は射出成形機に関する。
【背景技術】
【0002】
金型の仕上精度は成形品の表面精度に大きな影響を与えるため、製作された金型を目視点検などで検査することが一般的である。特許文献1には、金型に図形を投影して図形の歪から金型の仕上精度を判断する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
金型が射出成形機に搭載されて多数回のショットを重ねるうちに、金型の表面、特に可動金型と固定金型の互いに対向する対向面に樹脂などの異物が付着することがある。この状態で型締めを行うと、型締めが不十分となるばかりでなく、金型の対向面に割れなどが発生することがある。また、金型が射出成形機に搭載された後、何らかの原因で金型の対向面に凹みなどの傷がつく可能性もある。特許文献1に記載された方法では、射出成形機に搭載された状態の金型を目視点検することは困難である。
【0005】
本開示は、搭載された金型の検査が可能な射出成形機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示によれば、射出成形機は、固定金型の可動金型と対向する面と可動金型の固定金型と対向する面の少なくともいずれかに図形を投影する投影部と、投影された図形を撮影する撮影部と、を有し、投影部と撮影部は、固定盤と可動盤の少なくともいずれかに取り付けられている。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、搭載された金型の検査が可能な射出成形機を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本実施形態に係る射出成形機の概略正面図である。
【
図2】可動金型と固定金型の一例をより詳細に示す断面図である。
【
図3A】固定金型検査部と可動金型検査部を概念的に示す図である。
【
図4】固定金型の検査方法を示す概略フロー図である。
【
図5B】
図5Aに示す固定金型の固定金型対向面を撮影した画像の概念図である。
【
図5C】凹部が形成された固定金型の側面図である。
【
図5D】
図5Cに示す固定金型の固定金型対向面を撮影した画像の概念図である。
【
図6A】固定金型対向面を走査する方法を示す図である。
【
図6B】固定金型対向面を走査する方法を示す図である。
【
図7】型締モータのモータトルクの時間変化を示す概念図である。
【
図8】形状異常部の形状の推定モデルの概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<全体構成>
図面を参照して、本発明の射出成形機の実施形態について説明する。
図1は本実施形態に係る射出成形機1の概略正面図を示している。射出成形機1は、金型を型締めする型締装置2と、射出される材料を加熱溶融して射出する射出装置3と、制御部4と、から概略構成されている。制御部4は射出成形機1の作動全般を制御するために設けられている。以下の説明で、スクリュ33の移動方向あるいは可動金型M2の移動方向を方向Xという。方向Xは水平方向と平行である。方向Xと直交する水平方向をY方向という。鉛直方向をZ方向という。X方向とY方向とZ方向は互いに直交している。固定金型M1と可動金型M2を合わせて金型Mという場合がある。
【0010】
<型締装置2>
型締装置2は、ベッド21上に固定され固定金型M1が搭載される固定盤22と、ベッド21上をスライド可能な型締ハウジング23と、ベッド21上をスライド可能で可動金型M2が搭載される可動盤24と、を備えている。固定盤22と型締ハウジング23は複数本のタイバー25によって連結されている。可動盤24と型締ハウジング23の間には、金型Mを開閉するための型締機構26が設けられている。型締機構26は、トグル機構27と、トグル機構27を駆動する型締モータ28と、を有している。図示は省略するが、型締機構26は直圧式の型締機構、つまり油圧式の型締シリンダから構成してもよい。
【0011】
<射出装置3>
射出装置3は基台31上に設けられている。射出装置3は、シリンダ32と、シリンダ32に収容されたスクリュ33と、スクリュ33を駆動する駆動機構34と、を備えている。スクリュ33は駆動機構34によって回転駆動されるとともに方向Xに駆動される。駆動機構34はカバー35で覆われている。シリンダ32の材料の射出方向に関する後端部近傍に、射出される材料を供給するホッパ36が設けられている。シリンダ32の材料の射出方向に関する先端には、固定金型M1に突き当たって、キャビティC(
図2参照)に射出材料を供給する射出ノズル37が設けられている。なお、射出装置3の基台31と、型締装置2のベッド21と、は一体として構成されてもよい。
【0012】
射出装置3はノズルタッチ装置38を備えている。ノズルタッチ装置38は射出装置3を前進させ、それによって射出ノズル37が金型MのスプルーブッシュM3にタッチする。ノズルタッチ装置38は駆動機構34と固定盤22とを連結している。ノズルタッチ装置38は、ボールねじを用いたトグル機構によって構成されるが、油圧シリンダを用いた機構を用いてもよい。
【0013】
<金型Mの構成>
図2は固定金型M1と可動金型M2の一例をより詳細に示す断面図である。
図2は固定金型M1と可動金型M2が型締めされた状態を示している。固定金型M1と可動金型M2との間に射出材料(例えば樹脂)が充填されるキャビティCが形成されている。固定金型M1のキャビティCと対向する面を固定金型キャビティ対向面M4といい、可動金型M2のキャビティCと対向する面を可動金型キャビティ対向面M5という。固定金型M1の可動金型M2と対向する面を固定金型対向面M8という。固定金型対向面M8は、固定金型キャビティ対向面M4と固定金型パーティング面M6とを含む。可動金型M2の固定金型M1と対向する面を可動金型対向面M9という。可動金型対向面M9は、可動金型キャビティ対向面M5と可動金型パーティング面M7とを含む。
【0014】
固定金型M1は固定具5に固定され、固定具5はボルトなどの固定具(図示せず)で固定盤22に取り付けられている。可動金型M2は固定具6に固定され、固定具6はボルトなどの固定具(図示せず)で可動盤24に取り付けられている。固定金型M1の可動金型M2と接触する面(キャビティCの周囲の面)は、固定金型パーティング面M6を形成する。可動金型M2の固定金型M1と接触する面(キャビティCの周囲の面)は、可動金型パーティング面M7を形成する。
【0015】
<固定金型検査部41及び可動金型検査部42の構成>
図3Aは、固定金型検査部41と可動金型検査部42とを概念的に示している。
図3Bは、
図3Aと反対側の視点からみた固定金型検査部41の概略斜視図を示している。
図3Aでは、
図2に示されている、固定具5,6と、固定金型M1の固定金型キャビティ対向面M4の図示を省略している。
図3Cは
図3Bの3C方向からみた上面図で、固定金型検査部41の内部構造を併せて示している。
【0016】
図1~3Aに示すように、射出成形機1は、固定金型M1を検査するための固定金型検査部41と、可動金型M2を検査するための可動金型検査部42と、を有している。固定金型検査部41は可動盤24に設けられ、可動金型検査部42は固定盤22に設けられている。固定金型検査部41と可動金型検査部42は両方設けてもよいし、いずれかのみを設けてもよい。固定金型検査部41と可動金型検査部42の構成はほぼ同じであるので、以下では固定金型検査部41を中心に説明する。固定金型検査部41についての説明は、特記ない限り可動金型検査部42にも適用される。
【0017】
図3B,3Cに示すように、固定金型検査部41は固定金型投影部43と固定金型撮影部44とを有し、固定金型投影部43と固定金型撮影部44は一体化されている。
図3Aに示すように、可動金型検査部42は可動金型投影部45と可動金型撮影部46とを有し、可動金型投影部45と可動金型撮影部46は一体化されている。固定金型投影部43と固定金型撮影部44を一体化することで、固定金型投影部43と固定金型撮影部44を個別に取り付ける場合と比べて取付工程が単純化される。また、固定金型投影部43と固定金型撮影部44の相対位置関係が固定されるため、以下に説明する特徴量の算出精度の確保が容易である。可動金型投影部45と可動金型撮影部46についても同様である。
【0018】
固定金型投影部43は、固定金型M1の固定金型対向面M8、特に固定金型パーティング面M6に後述する図形を投影する。可動金型投影部45は、可動金型M2の可動金型対向面M9、特に可動金型パーティング面M7に後述する図形を投影する。固定金型撮影部44は、固定金型投影部43によって固定金型対向面M8に投影された図形を撮影する。可動金型撮影部46は、可動金型投影部45によって可動金型対向面M9に投影された図形を撮影する。固定金型撮影部44と可動金型撮影部46はCCD(Charge Coupled Device)、CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)などの2次元の撮像素子を有している。
【0019】
図3B,3Cに示すように、固定金型投影部43は、光源47と、光源47から出射された光が通過するスリット板48と、を有している。光源47は面光源でもよいし点光源でもよい。光源47は可視光を照射するが、固定金型撮影部44で撮影可能であれば可視光に限定されず、例えば赤外線を照射するものであってもよい。スリット板48には複数のスリット49が形成され、スリット49を通る光は固定金型対向面M8にスリット49の形状に対応した特定の図形を投影する。図形は面、線、点、またはそれらの集合でできている任意の形であり、図形の種類は限定されない。
【0020】
図3Bに示すように、本実施形態では、複数のスリット49はZ方向に細長い長方形の形状を有し、互いに平行に配列されている。複数のスリット49の形状と大きさは全て同じであり、スリット49間の間隔は一定である。スリット49の形状はY方向に細長い長方形でもよいし、格子または同心円でもよい。固定金型対向面M8に投影された図形をY方向に走査するため、スリット板48はY方向の駆動機構(走査部50)を有している。光源47が点光源の場合、光源47がY方向の駆動機構(走査部50)を有していてもよい。
図3Cでは便宜上、矢印で走査部50を示している。
【0021】
固定金型検査部41の設置場所は、固定金型投影部43が固定金型対向面M8の全面に光を照射可能で、固定金型撮影部44が固定金型対向面M8の全面を撮影可能であるように選択されることが好ましい。固定金型検査部41は照射される光の照度と撮影精度を確保するため、固定盤22の近傍に設置することが好ましく、例えば可動盤24の上面に設置することができる。同様の理由から、可動金型検査部42は例えば固定盤22の上面に設置することができる。但し、固定金型検査部41と可動金型検査部42は、可動盤24や固定盤22の他の部位、射出成形機1のフレームなど、他の場所に設置してもよい。
【0022】
金型Mは一般に製作後に検査されるが、一旦射出成形機に搭載されるとその状態で十分な検査を行うことは困難である。一般に、射出成形機に搭載された固定金型M1の固定金型対向面M8と、可動金型M2の可動金型対向面M9は斜めからしか見ることができず、照明が届かないこともあるため、視認性が悪い。可動盤24は固定金型対向面M8を検査するための好適な位置であり、固定盤22は可動金型対向面M9を検査するための好適な位置である。本実施形態では、固定金型対向面M8及び可動金型対向面M9の表面の状態をより高精度で且つ容易に把握することができる。以下、固定金型M1を例に金型Mの検査方法について説明するが、可動金型M2についても固定金型M1と同様に検査を行うことができる。
【0023】
<固定金型M1の検査方法>
図4は固定金型M1の検査方法を示す概略フロー図である。
図5Aは固定金型M1の側面図であり、固定金型対向面M8に付着している異物61を拡大して示している。
図5Bは、
図5Aに示す固定金型対向面M8を固定金型撮影部44で撮影した画像を概念的に示している。説明を簡単にするため、以下の説明では、固定金型投影部43からの照射光は固定金型パーティング面M6に照射されるとする。
【0024】
まず、固定金型パーティング面M6に投影する図形(パターン)を決定し(ステップS1)、固定金型パーティング面M6に図形を投影する(ステップS2)。本実施形態では、
図3Aに示すように、複数のストライプ状の図形がY方向に間隔をあけて投影される。すなわち、固定金型パーティング面M6にはストライプ状の明部63が間隔をあけて投影され、明部63と明部63の間に明部63より照度の低い暗部64が形成される。明部63と暗部64との間には明部63と暗部64の境界線68が形成される。別の言い方をすれば、固定金型投影部43は固定金型パーティング面M6に、境界線68という図形を投影する。
【0025】
図5Aに示すように、照射光は異物61の表面及び固定金型パーティング面M6で反射し、固定金型撮影部44に入射する。実線は照射光の光路65を示し、破線は反射光の光路66を示している。2点鎖線は異物61が無い場合(正常状態)の反射光の光路67を示している。
【0026】
図5Aに示すように、異物61が無いときに、照射光によって生じる明部63と暗部64の境界線68(
図3A参照)が固定金型パーティング面M6の点Aの上にあるとする。異物61がある場合、境界線68は異物61の表面の点Bに移動する。
図5Bに示すように、固定金型撮影部44が撮影した画像では、境界線68は異物61と重なるところで全体的に左に曲げられる。このように、異物61がある場合と無い場合とで照射光の反射位置が異なるため、異物61がある場合、固定金型撮影部44は異物61によって歪められた境界線68を撮影する。
【0027】
制御部4は境界線68(図形の一例)の特徴量を算出する(ステップS3)。特徴量は投影によって生じた図形の歪の大きさと正の相関関係があるように決定されるが、負の相関関係があるように決定してもよい。
【0028】
図5Bに示すように、特徴量の一つは境界線68のY方向への最大変位量DYである。最大変位量DYは、境界線68の直線状の部分68Aの延長線68Bと境界線68の歪んだ部分68CとのY方向の最大間隔であり、異物61の高さを表す指標である。最大変位量DYは、歪んだ部分68Cが延長線68Bに対して変形する方向を示す情報である符号を有している。本実施形態では、歪んだ部分68Cが延長線68Bに対して左側に変形した場合、最大変位量DYはプラスの符号を持つが、マイナスの符号を持つこともできる。
【0029】
他の特徴量は境界線68の歪んだ部分68CのZ方向長さDZである。Z方向長さDZは異物61の平面的な広がりを表す指標である。DZは符号を持たず、常に正の値をとる。これらの特徴量を算出するため、制御部4は固定金型撮影部44で撮影した画像から画像処理によって境界線68を抽出することができる。
【0030】
図5Cは固定金型M1の側面図であり、固定金型対向面M8に形成された凹部69を拡大して示している。
図5Dは、
図5Cに示す固定金型M1の固定金型パーティング面M6を固定金型撮影部44で撮影した画像を概念的に示している。
図5Cに示すように、固定金型パーティング面M6に凹部69が形成されている場合、境界線68は点Aから、Y方向に関し点B(
図5A参照)の反対側の点Cに移動する。
図5Dに示すように、境界線68は異物61と重なるところで全体的に右に曲げられる。この場合、最大変位量DYはマイナスの符号を持つ。
【0031】
特徴量は撮影された境界線68の変形する方向を示す符号(DYの符号)を含んでいるため、制御部4は特徴量が凸形状と凹形状のいずれに対応するかを推定することができる。制御部4はまずDYの符号がプラスであるかマイナスであるかを判定する(ステップS4)。DYの符号がプラスの場合(特徴量が凸部に対応する場合)、制御部はDYの絶対値とDYの絶対値の閾値とを比較する(ステップS5)。DYの絶対値は、撮影された境界線68の変形する(歪む)大きさを示す特徴量であり、制御部4はDYの絶対値の閾値を記憶している。
【0032】
一般的に、凸部は固定金型パーティング面M6に付着した異物によって生じる。従って、DYの絶対値がDYの絶対値の閾値より大きい場合、制御部4は固定金型パーティング面M6に異物が付着した可能性がある旨のアラームを発信する(ステップS6)。さらに、制御部4は可動金型M2を固定金型M1から離れた位置に維持する。これによって、可動金型M2が固定金型M1と接触することが回避される。DYの絶対値がDYの絶対値の閾値以下である場合、制御部4は型締めを行うよう型締モータ28を制御する(ステップS7)。
【0033】
DYの符号がマイナスの場合(特徴量が凹部に対応する場合)、制御部はDYの絶対値とDYの絶対値の閾値とを比較する(ステップS8)。一般的に、凹部は固定金型パーティング面M6に発生した傷によって生じる。従って、DYの絶対値がDYの絶対値の閾値より大きい場合、制御部4は固定金型パーティング面M6に傷が発生した可能性がある旨のアラームを発信する(ステップS9)。さらに、制御部4は可動金型M2を固定金型M1から離れた位置に維持する。これによって、可動金型M2が固定金型M1と接触することが回避される。DYの絶対値がDYの絶対値の閾値以下である場合、制御部4は型締めを行うよう型締モータ28を制御する(ステップS10)。
【0034】
境界線68の歪の大きさ(変形の程度)を示す特徴量としてDZを用いることもできる。複数の特徴量がある場合、いずれかの特徴量が閾値を上回ったときにアラームを発信することが好ましいが、一部または全ての特徴量が閾値を上回ったときにアラームを発信することもできる。
【0035】
このように、制御部4は境界線68の変形する方向に基づき、形状異常部が凸形状(異物61)であるか凹形状(凹部69)であるかを推定することができる。換言すれば、制御部4は特徴量が凸形状と凹形状のいずれに対応するかを推定することができる。なお、上述したDYの絶対値の閾値として、DYの符号によって異なる値を用いてもよい。
【0036】
凸形状の異物61は多くの場合樹脂であると考えられる。スプルーやランナに充填された樹脂が成形品と一緒に取り出される際、樹脂の一部が固定金型パーティング面M6に付着することがある。固定金型パーティング面M6と比べて頻度は小さいが、可動金型パーティング面M7にも樹脂が付着することがある。樹脂が固定金型パーティング面M6や可動金型パーティング面M7に付着した状態で型締めを行うと型締めが不完全となり、バリなどの成形品不良の原因となる。
【0037】
凹部69は、固定金型パーティング面M6または可動金型パーティング面M7に付着した異物61で固定金型パーティング面M6及び可動金型パーティング面M7が圧迫されて形成されるほか、他の何らかの外力によっても生じ得る。凹部69は固定金型パーティング面M6と可動金型パーティング面M7で同程度の確率で発生し得る。
【0038】
樹脂が付着した場合は、樹脂を除去することで固定金型M1や可動金型M2を正常な状態に戻せる可能性が高い。これに対し、凹部69は固定金型M1や可動金型M2自体の損傷である可能性が高い。金型が高価である場合、金型の修理や交換に多大な費用がかかることがある。このように、異常形状部が凸形状であるか凹形状であるかは対策を検討する上で重要な違いである。制御部4は異常形状部が凸形状であるか凹形状であるかを推定し、推定結果をディスプレイなどに表示することができる。
【0039】
<固定金型パーティング面M6の走査方法>
以上説明した方法では、固定金型パーティング面M6の状態は明部63と暗部64の境界線68のある部位でしか分からない。従って、固定金型パーティング面M6を境界線68で走査して、固定金型パーティング面M6の2次元的な情報を得ることが好ましい。
図6A,6Bは固定金型パーティング面M6を境界線68で走査する方法を示している。
図6Aは異物61の走査位置C1~C8を示す概念図であり、複数の曲線は異物61の等高線70を便宜的に示している。
図6Bは
図5Bまたは
図5Dと同様の図であり、固定金型撮影部44が各走査位置C1~C8で撮影した画像、特に境界線68を概念的に示している。
【0040】
具体的には、スリット板48または光源47を走査部50で移動しながら、境界線68を固定金型パーティング面M6の上で走査させる。固定金型撮影部44は走査の際に、複数の走査位置C1~C8で境界線68を撮影する。各回の走査でこの撮影を繰り返すことで、固定金型パーティング面M6の2次元的な情報だけでなく、異物61や凹部69の3次元的な情報を得ることができる。固定金型パーティング面M6の全面を走査するためには、固定金型パーティング面M6の全面がいずれかの境界線68で走査されればよい。従って、走査する距離は明部63の幅と暗部64の幅のいずれか大きい方に相当する長さでよい。
【0041】
制御部4は各走査位置C1~C8での境界線68の特徴量を算出する。複数の走査位置C1~C8で境界線68に対して算出された特徴量から、特徴量の最大値を算出することができる(
図4のステップS3)。例えば、
図6A,6Bに示す例では、走査位置C4での最大変位量DYとZ方向長さDZが特徴量の最大値である。特徴量の最大値も図形の特徴量である。
【0042】
検査方法のフローは
図4に示すフローと基本的に同じである。制御部4は特徴量の最大値の符号を判定し(
図4のステップS4)、符号に応じて最大量を閾値と比較する(
図4のステップS5,S8)。制御部4は特徴量の最大値が閾値を上回る場合、符号がプラスである場合は異物61が付着した可能性のある旨のアラーム(
図4のステップS6)を、符号がマイナスである場合は傷が発生した可能性のある旨のアラーム(
図4のステップS9)を発信することができる。さらに、制御部4は可動金型M2を固定金型M1から離れた位置に維持することができる。特徴量の最大値が閾値以下である場合、制御部4は型締めを行うよう型締モータ28を制御する(
図4のステップS7,S10)。
【0043】
射出成形機1はショットを自動で繰り返す自動運転モードで運転することができる。自動運転モードではオペレータが射出成形機1から離れていることがあるため、樹脂の付着などに気づかない可能性がある。制御部4は、射出成形機1の自動運転モードのとき、図形の投影と撮影を自動的に実行するよう、固定金型投影部43、固定金型撮影部44、可動金型投影部45及び可動金型撮影部46を制御する。図形の投影と撮影はショット毎に行ってもいいし、複数回のショットで1回行ってもよい。算出された特徴量が閾値を上回る場合、異物61の付着または凹部69の発生の可能性のある旨のアラームを発信するとともに、可動金型M2を固定金型M1から離れた位置に維持する。
【0044】
上述の説明では固定金型パーティング面M6の形状異常部を検出する方法を説明したが、照射光は固定金型キャビティ対向面M4にも照射される。固定金型キャビティ対向面M4に樹脂が付着した場合、型締め異常が発生する可能性は低いものの、成形品の品質に影響を与える可能性がある。固定金型キャビティ対向面M4は3次元的な形状となっているため、一般的には投影される図形は直線状のストライプとならない。しかし、正常状態と形状異常部のある状態で投影される図形の形状が異なるため、同様の方法により形状異常部を検出することができる。
【0045】
本実施形態によれば、成形サイクルの短縮が可能になる。
図7は、型締め工程での型締モータ28のモータトルクの時間変化を概念的に示している。実線は比較例の射出成形機の例を示している。型締工程では、まず型締モータ28を起動し、可動盤24を固定盤22に向けて移動させる。その後型締モータ28を停止し、ブレーキ(図示せず)を使って可動盤24を減速しながら、可動金型M2を固定金型M1に接触させる。
【0046】
次に、型締モータ28を再起動し、可動金型M2を固定金型M1に押し付ける(仮型締め)。型締モータ28のモータトルクが増加したら可動盤24を一時的に停止し、型締モータ28のモータトルクを確認する。これは、固定金型パーティング面M6か可動金型パーティング面M7に異物が付着しているとモータトルクが異常値を示すことがあるためである。モータトルクが正常である場合、さらに可動金型M2を固定金型M1に押し付ける。型締モータ28のモータトルクはさらに増加する。可動盤24を型締めが完了するロック位置まで移動させ、型締モータ28を停止する。
【0047】
図7の破線は、本実施形態での型締モータ28のモータトルクの時間変化を概念的に示している。可動金型M2が固定金型M1に接触するまでの工程は比較例と同じである。本実施形態では、算出された特徴量が閾値以下である場合、異物61が固定金型パーティング面M6及び可動金型パーティング面M7に存在していないと判断できる。従って、制御部4は、可動盤24を型締めが完了するロック位置まで、連続的に移動させることができる。型締モータ28のモータトルクを確認するために可動盤24を途中で止める必要が無いため、成形サイクルの短縮が可能となる。
【0048】
(機械学習を用いた形状異常部の識別)
制御部4は、形状異常部の3次元形状を図形の特徴量から推定することもできる。
図8に示すように、制御部4は形状異常部の3次元形状を図形の特徴量から推定する推定モデル71を有している。推定モデル71は各走査位置で得られた特徴量から形状異常部の形状を推定する。推定モデル71は過去に算出された特徴量と形状異常部の3次元データに基づく機械学習を行った学習済モデルである。推定モデルは複数回撮影された境界線68の少なくとも一つの特徴量を入力として受け付け、形状異常部の3次元形状のパラメータ(Y方向寸法、Z方向寸法、面積、最大深さ等)の推定値を出力する。
【0049】
上述の走査方式でも形状異常部の形状についてのある程度の情報は得られるが、走査方式で得られた特徴量を推定モデル71に適用することで形状異常部の形状をより高精度で推定することができるため、点検や対策が容易となる。3次元形状のパラメータを得ることで、アラームの発信が必要かどうかをより正確に判定することもできる。制御部4は3次元形状のパラメータに基づき、形状異常部がアラームの発信が必要な異物または傷であるかを判断し、アラームの発信が必要と判断された場合にアラームを発信することができる。
【0050】
(付記)本明細書は以下の開示を含む。
[構成1]
固定金型が搭載される固定盤と、
可動金型が搭載される可動盤と、
前記固定金型の前記可動金型と対向する面と、前記可動金型の前記固定金型と対向する面の少なくともいずれかに図形を投影する少なくとも一つの投影部と、
少なくともいずれかの前記面に投影された前記図形を撮影する少なくとも一つの撮影部と、を有し、
前記少なくとも一つの投影部と前記少なくとも一つの撮影部は、前記固定盤と前記可動盤の少なくともいずれかに取り付けられている、射出成形機。
[構成2]
前記少なくとも一つの投影部と前記少なくとも一つの撮影部のうち、前記固定盤または前記可動盤に取り付けられた投影部と撮影部は一体化されている、構成1に記載の射出成形機。
[構成3]
前記少なくとも一つの撮影部が撮影した前記図形の特徴量を算出し、前記特徴量に基づき前記可動盤を制御する制御部を有する、構成1または2に記載の射出成形機。
[構成4]
前記制御部は、前記射出成形機の自動運転モードのとき、前記図形の投影と撮影を自動的に実行するよう前記投影部と前記撮影部とを制御する、構成3に記載の射出成形機。
[構成5]
前記少なくとも一つの投影部は、前記少なくともいずれかの前記面を前記図形で走査させる走査部を有し、
前記少なくとも一つの撮影部は、走査の際に前記図形を複数回撮影し、
前記制御部は、撮影された複数の前記図形に対して算出された前記特徴量のうち最大の前記特徴量に基づき前記可動盤を制御する、構成3に記載の射出成形機。
[構成6]
前記特徴量は投影によって生じた前記図形の歪の大きさと正の相関関係を有し、
前記制御部は前記特徴量の閾値を記憶し、前記最大の特徴量が前記閾値を上回る場合、前記可動金型を前記固定金型から離れた位置に維持する、構成5に記載の射出成形機。
[構成7]
前記特徴量は投影によって生じた前記図形の歪の大きさと正の相関関係を有し、
前記制御部は前記特徴量の閾値を記憶し、前記最大の特徴量が前記閾値以下である場合、前記可動盤を型締めが完了するロック位置まで連続的に移動させる、構成5に記載の射出成形機。
[構成8]
前記制御部は、前記特徴量が凸形状と凹形状のいずれに対応するかを推定する、構成3から7のいずれか1項に記載の射出成形機。
[構成9]
前記図形は、前記少なくとも一つの投影部からの照射光によって形成される明部と暗部の境界線であり、
前記特徴量は、撮影された前記境界線の歪む方向を示す情報を含み、
前記制御部は前記情報に基づき、前記特徴量が凸形状と凹形状のいずれに対応するかを推定する、構成8に記載の射出成形機。
[構成10]
前記制御部は前記特徴量が前記凸形状に対応すると推定した場合、前記面に異物が付着している可能性がある旨のアラームを発信し、前記特徴量が前記凹形状に対応すると推定した場合、前記面に傷が生じている可能性がある旨のアラームを発信する、構成9に記載の射出成形機。
[構成11]
前記特徴量は、撮影された前記境界線の歪の大きさを示す特徴量を含み、
前記制御部は前記歪の大きさを示す特徴量の閾値を記憶し、前記大きさを示す特徴量が前記大きさを示す特徴量の前記閾値を上回る場合に、前記面に異物が付着している可能性がある旨のアラーム、または前記面に傷が生じている可能性がある旨のアラームを発信する、構成10に記載の射出成形機。
[構成12]
前記図形は、前記少なくとも一つの投影部からの照射光によって形成される明部と暗部の境界線であり、
前記少なくとも一つの投影部は、前記少なくともいずれかの前記面を前記境界線で走査させる走査部を有し、
前記少なくとも一つの撮影部は、走査の際に前記境界線を複数回撮影し、
前記少なくとも一つの撮影部が撮影した前記境界線の、少なくとも一つの特徴量を算出する制御部を有し、
前記制御部は、複数回撮影された前記境界線の前記少なくとも一つの特徴量から形状異常部の形状を推定する推定モデルを有し、前記推定モデルは複数回撮影された前記境界線の前記少なくとも一つの特徴量に基づき、前記形状異常部の形状を推定する、構成3に記載の射出成形機。
【符号の説明】
【0051】
1 射出成形機
4 制御部
22 固定盤
24 可動盤
43 固定金型投影部
44 固定金型撮影部
45 可動金型投影部
46 可動金型撮影部
50 走査部
M1 固定金型
M2 可動金型
M6 固定金型パーティング面
M7 可動金型パーティング面
M8 固定金型対向面
M9 可動金型対向面