(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024157741
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】自動変速機の制御システム
(51)【国際特許分類】
F16H 61/02 20060101AFI20241031BHJP
F16H 59/48 20060101ALI20241031BHJP
F16H 59/08 20060101ALI20241031BHJP
F16H 59/44 20060101ALI20241031BHJP
【FI】
F16H61/02
F16H59/48
F16H59/08
F16H59/44
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023072280
(22)【出願日】2023-04-26
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和4年5月23日 ヨーロッパにおける車両販売による公開
(71)【出願人】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100059959
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 稔
(74)【代理人】
【識別番号】100067013
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 文昭
(74)【代理人】
【識別番号】100130937
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100162824
【弁理士】
【氏名又は名称】石崎 亮
(72)【発明者】
【氏名】土取 悠喜
(72)【発明者】
【氏名】笹原 学
【テーマコード(参考)】
3J552
【Fターム(参考)】
3J552MA02
3J552NA01
3J552NB01
3J552PA02
3J552PA20
3J552RA26
3J552RB12
3J552RB18
3J552SA07
3J552SB04
3J552VA65W
3J552VB01W
3J552VB04W
(57)【要約】
【課題】自動変速機のニュートラル状態から走行レンジへの切り替え時におけるショック抑制及び応答性確保を実現する。
【解決手段】自動変速機の制御システムは、複数の摩擦締結要素25のうちで締結させる3つの摩擦締結要素の組み合わせを変えることで複数の変速段を形成する自動変速機10と、複数の摩擦締結要素のそれぞれの締結状態と解放状態とを切り替えるコントローラ50とを有し、コントローラは、エンジン20の駆動力が駆動輪60に伝達されないニュートラル状態に自動変速機を設定すべく、自動変速機の各変速段の形成時に締結される3つの摩擦締結要素のうちの2つの摩擦締結要素を締結したまま残りの1つの摩擦締結要素を解放するニュートラル制御を実行し、ニュートラル制御中に締結させる2つの摩擦締結要素が少なくとも2つの隣り合う変速段において共通するようにニュートラル制御を実行する。
【選択図】
図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の駆動源の駆動力を駆動輪に伝達する自動変速機の制御システムであって、
締結状態と解放状態とを取り得る複数の摩擦締結要素を備えており、これら複数の摩擦締結要素のうちで締結させる3つの摩擦締結要素の組み合わせを変えることにより複数の変速段を形成するように構成された自動変速機と、
前記自動変速機の前記複数の摩擦締結要素のそれぞれの締結状態と解放状態とを切り替える制御を行うように構成されたコントローラと、
を有し、
前記コントローラは、
前記駆動源の駆動力が前記駆動輪に伝達されないニュートラル状態に前記自動変速機を設定すべく、前記自動変速機の各変速段の形成時に締結される前記3つの摩擦締結要素のうちの2つの摩擦締結要素を締結したまま残りの1つの摩擦締結要素を解放するニュートラル制御を実行し、
前記ニュートラル制御中に締結させる前記2つの摩擦締結要素が少なくとも2つの隣り合う変速段において共通するように、前記ニュートラル制御を実行する、
ように構成されている、ことを特徴とする自動変速機の制御システム。
【請求項2】
前記コントローラは、前記複数の摩擦締結要素のうちで前記ニュートラル制御中に締結させる前記2つの摩擦締結要素の組み合わせを変えることにより複数のニュートラル走行パターンを実現するように構成され、
前記ニュートラル走行パターンの数は、前記変速段の数よりも少ない、
請求項1に記載の自動変速機の制御システム。
【請求項3】
前記コントローラは、車速に基づき、前記複数のニュートラル走行パターンのうちで適用すべきニュートラル走行パターンを設定するように構成されている、
請求項2に記載の自動変速機の制御システム。
【請求項4】
前記コントローラは、前記自動変速機のレンジが走行レンジに設定された状態で前記車両が走行している間に、ドライバが前記自動変速機のレンジを前記走行レンジからニュートラルレンジに切り替えるシフト操作を行ったときに、前記ニュートラル制御を開始するように構成されている、
請求項1に記載の自動変速機の制御システム。
【請求項5】
前記コントローラは、前記ニュートラル制御中においてドライバが前記自動変速機のレンジを前記ニュートラルレンジから前記走行レンジに切り替えるシフト操作を行ったときに、前記ニュートラル制御を終了し、前記自動変速機を車速に応じた変速段に設定するように前記摩擦締結要素を制御するように構成されている、
請求項4に記載の自動変速機の制御システム。
【請求項6】
前記コントローラは、前記自動変速機のレンジが走行レンジに設定された状態で前記車両が走行している間に、前記車両の減速度の大きさが所定値以上となったときに、前記ニュートラル制御を開始するように構成されている、
請求項1に記載の自動変速機の制御システム。
【請求項7】
前記コントローラは、前記ニュートラル制御中において前記車両の減速度の大きさが所定値未満となったときに、前記ニュートラル制御を終了し、前記自動変速機を車速に応じた変速段に設定するように前記摩擦締結要素を制御するように構成されている、
請求項6に記載の自動変速機の制御システム。
【請求項8】
前記駆動源の駆動力がトルクコンバータを介さずに前記駆動輪に伝達される車両に適用される、
請求項6又は7に記載の自動変速機の制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の摩擦締結要素を備え、これらのうちで締結させる摩擦締結要素を変えることにより複数の変速段を形成する自動変速機の制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、締結状態及び解放状態のいずれかを取り得る複数の摩擦締結要素を備え、これらのうちで締結させる摩擦締結要素を変えることにより複数の変速段を形成する自動変速機と、複数の摩擦締結要素のそれぞれの締結状態と解放状態とを切り替える制御を行うコントローラと、を有するシステムが知られている。例えば、特許文献1には、5つの摩擦締結要素のうちで締結させる3つの摩擦締結要素の組み合わせを変えることにより、前進1~8速及び後退速の9つの変速段を形成するように構成された自動変速機が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2016/063857号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、エンジンなどの駆動源の駆動力が駆動輪に伝達されないニュートラル状態に自動変速機を設定するように、自動変速機内の複数の摩擦締結要素の各状態(締結又は解放)を制御する技術、所謂ニュートラル制御が知られている。このようなニュートラル制御において、複数の摩擦締結要素のうちで締結する摩擦締結要素を少なくして、解放する摩擦締結要素を多くすると(極端な例では全ての摩擦締結要素を解放すると)、以下のような問題が発生し得る。
【0005】
第一に、ニュートラル制御中において、自動変速機内で解放している摩擦締結要素に対応する多数の回転要素(ギヤなど)が、車両の走行状態や自動変速機内の温度状態などの様々な外部要因により、不定状態で回転する。その結果、これら回転要素の回転をコントロールするのが困難となり、自動変速機を、ニュートラル状態から、駆動源の駆動力を駆動輪に伝達する通常の状態、つまり走行レンジに設定された状態へと切り替えたときに、予期せぬショックが発生し得る。第二に、このような切り替えを行うときに自動変速機において締結させる摩擦締結要素の数が多くなるため、走行レンジへの切り替えの応答性が悪化してしまう。
【0006】
本発明は、上述した従来技術の問題点を解決するためになされたものであり、自動変速機をニュートラル状態に設定する自動変速機の制御システムにおいて、自動変速機のニュートラル状態から走行レンジへの切り替え時におけるショック抑制及び応答性確保を実現できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、本発明は、車両の駆動源の駆動力を駆動輪に伝達する自動変速機の制御システムであって、締結状態と解放状態とを取り得る複数の摩擦締結要素を備えており、これら複数の摩擦締結要素のうちで締結させる3つの摩擦締結要素の組み合わせを変えることにより複数の変速段を形成するように構成された自動変速機と、自動変速機の複数の摩擦締結要素のそれぞれの締結状態と解放状態とを切り替える制御を行うように構成されたコントローラと、を有し、コントローラは、駆動源の駆動力が駆動輪に伝達されないニュートラル状態に自動変速機を設定すべく、自動変速機の各変速段の形成時に締結される3つの摩擦締結要素のうちの2つの摩擦締結要素を締結したまま残りの1つの摩擦締結要素を解放するニュートラル制御を実行し、ニュートラル制御中に締結させる2つの摩擦締結要素が少なくとも2つの隣り合う変速段において共通するように、ニュートラル制御を実行する、ように構成されている、ことを特徴とする。
【0008】
このように構成された本発明では、ニュートラル制御において、自動変速機の変速段形成時に締結される3つの摩擦締結要素のうちで2つの摩擦締結要素を締結したまま残りの1つの摩擦締結要素を解放することで、自動変速機をニュートラル状態に設定する。これにより、自動変速機内で摩擦締結要素に対応する多数の回転要素が不定状態で回転することに起因する、ニュートラル状態から走行レンジへの切り替え時におけるショックを抑制することができる。また、本発明では、上記のようにニュートラル制御において変速段形成時に用いられる2つの摩擦締結要素を締結したままにしておくと共に、この2つの摩擦締結要素を少なくとも2つの隣り合う変速段において共通にするため、ニュートラル状態から走行レンジへの切り替え時に、適用すべき変速段に応じた1つの摩擦締結要素のみを締結すればよいので、この切り替えの応答性を確保することができる。
【0009】
本発明において、好ましくは、コントローラは、複数の摩擦締結要素のうちでニュートラル制御中に締結させる2つの摩擦締結要素の組み合わせを変えることにより複数のニュートラル走行パターンを実現するように構成され、ニュートラル走行パターンの数は、変速段の数よりも少ない。
本発明では、上記したように、ニュートラル制御中に締結させる2つの摩擦締結要素を少なくとも2つの隣り合う変速段において共通にしているので、ニュートラル走行パターンの数を走行レンジでの変速段の数よりも少なくできるのである。これにより、ニュートラル制御に関する制御構成を簡易化することが可能となる。
【0010】
本発明において、好ましくは、コントローラは、車速に基づき、複数のニュートラル走行パターンのうちで適用すべきニュートラル走行パターンを設定するように構成されている。
本発明では、上記したように、変速段形成時に用いられる3つの摩擦締結要素のうちで2つの摩擦締結要素が締結されるニュートラル走行パターンを適用している。換言すると、複数のニュートラル走行パターンのそれぞれで締結される摩擦締結要素が、車速に応じた変速段のそれぞれで締結される摩擦締結要素に基づき規定されている。そのため、ニュートラル制御において車速に応じたニュートラル走行パターンを適用することで、このニュートラル制御から走行レンジへと切り替えるときに、車速に応じた変速段の設定を速やかに行うことができる。
【0011】
本発明において、好ましくは、コントローラは、自動変速機のレンジが走行レンジに設定された状態で車両が走行している間に、ドライバが自動変速機のレンジを走行レンジからニュートラルレンジに切り替えるシフト操作を行ったときに、ニュートラル制御を開始するように構成されている。
このように構成された本発明によれば、ドライバのシフト操作に応じて、ニュートラル制御を速やかに開始することができ、ドライバのニュートラルレンジへの切り替え要求を的確に満たすことが可能となる。
【0012】
本発明において、好ましくは、コントローラは、ニュートラル制御中においてドライバが自動変速機のレンジをニュートラルレンジから走行レンジに切り替えるシフト操作を行ったときに、ニュートラル制御を終了し、自動変速機を車速に応じた変速段に設定するように摩擦締結要素を制御するように構成されている。
このように構成された本発明によれば、ドライバのシフト操作に応じて、ニュートラル制御を速やかに終了して、自動変速機を通常の走行レンジに復帰させることができる。
【0013】
本発明において、好ましくは、コントローラは、自動変速機のレンジが走行レンジに設定された状態で車両が走行している間に、車両の減速度の大きさ(絶対値)が所定値以上となったときに、ニュートラル制御を開始するように構成されている。
このように構成された本発明によれば、車両が急減速したときに、ニュートラル制御を速やかに開始することができる。
【0014】
本発明において、好ましくは、コントローラは、ニュートラル制御中において車両の減速度の大きさ(絶対値)が所定値未満となったときに、ニュートラル制御を終了し、自動変速機を車速に応じた変速段に設定するように摩擦締結要素を制御するように構成されている。
このように構成された本発明によれば、車両の急減速が解消したときに、ニュートラル制御を速やかに終了して、自動変速機を通常の走行レンジに復帰させることができる。
【0015】
本発明において、好ましくは、駆動源の駆動力がトルクコンバータを介さずに駆動輪に伝達される車両に適用される。
このようにトルクコンバータを有しない車両では、急減速したときに駆動源(エンジン)のエンストが発生し得るが、上述したように、本発明では、車両が急減速したときにニュートラル制御を行うので、エンストを確実に防止することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、自動変速機をニュートラル状態に設定する自動変速機の制御システムにおいて、自動変速機のニュートラル状態から走行レンジへの切り替え時におけるショック抑制及び応答性確保を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の実施形態による自動変速機の制御システムが搭載された車両の概略構成図である。
【
図2】本発明の実施形態による自動変速機の概略構成図である。
【
図3】本発明の実施形態による自動変速機の摩擦締結要素の締結表である。
【
図4】本発明の実施形態による自動変速機の制御システムの電気的構成を示すブロック図である。
【
図5】本発明の実施形態によるニュートラル制御での自動変速機の摩擦締結要素の締結表についての説明図である。
【
図6】本発明の実施形態において車速に応じて適用するニュートラル走行パターンを示している。
【
図7】本発明の実施形態においてニュートラル制御から走行レンジへの切り替え時に行われる制御についての説明図である。
【
図8】本発明の実施形態によるニュートラル制御を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態による自動変速機の制御システムを説明する。
【0019】
[全体構成]
図1は、本実施形態による自動変速機の制御システムが搭載された車両の概略図である。
図1に示すように、車両1は、フロントエンジンリアドライブ式(FR式)の車両であって、駆動源としてのエンジン20が車両前側に配置されており、このエンジン20の車両後側には自動変速機10が配置されている。エンジン20の駆動力は、自動変速機10、プロペラシャフト70、ディファレンシャルギア71などの動力伝達経路を介して、後輪(駆動輪)60に伝達され、それにより、車両1が走行するようになっている。より具体的には、この車両1では、自動変速機10がトルクコンバータを具備しておらず、エンジン20の駆動力がトルクコンバータを介さずに駆動輪60に伝達されるようになっている。なお、本発明は、FR式の車両1への適用に限定されず、車両前側の駆動輪(前輪61)を駆動するフロントエンジンフロントドライブ式(FF式)の車両等、種々の車両に適用可能である。
【0020】
車両1における車室内には、シフトレバー30が配置されている。シフトレバー30は、自動変速機10のレンジ(シフトレンジ)を選択するものであり、このレンジとしては、「Pレンジ」(パーキングレンジ)、「Rレンジ」(後退レンジ)、「Nレンジ」(ニュートラルレンジ)、「Dレンジ」(ドライブレンジ)があり、車両1のドライバがシフトレバー30を操作して所望のレンジを選択する。なお、このようなレンジとして、自動変速機10をマニュアルモードに設定するための「Mレンジ」を加えてもよい。Dレンジ、Rレンジ及びMレンジは、走行レンジに相当し、Nレンジ及びPレンジは、非走行レンジに相当する。
【0021】
例えば、自動変速機10は、シフトバイワイヤ方式の自動変速機である。ドライバによるシフトレバー30の操作によって選択されたレンジは、シフト位置センサSN3によって検出され、このシフト位置センサSN3の検出結果に基づく電気信号が、コントローラ50に入力される。そして、上記電気信号に基づくコントローラ50からの出力信号によって、自動変速機10のシフトレンジが切り替えられる。
【0022】
[自動変速機の構成]
図2は、本実施形態による自動変速機10の概略構成図である。
図2に示すように、自動変速機10は、縦置き式の自動変速機であり、変速機ケース11と、エンジン20から変速機ケース11の内部に挿入された入力軸12と、変速機ケース11の内部から反駆動源側(図の右側)に突出された出力軸13と、を有している。入力軸12と出力軸13とは車両前後方向に沿った同一軸心上に配置されており、入力軸12が車両前側に位置し且つ出力軸13が車両後側に位置する縦置きの姿勢で自動変速機10が配設されている。このため、以下では、駆動源側(図の左側)のことを前側ということがあり、反駆動源側(図の右側)のことを後側ということがある。
【0023】
入力軸12及び出力軸13の軸心上には、第1、第2、第3、第4プラネタリギヤセット(以下、単に「ギヤセット」という)PG1、PG2、PG3、PG4が前側(駆動源側)から順に配設されている。
【0024】
変速機ケース11内における第1ギヤセットPG1の前側には第1クラッチCL1が配設され、第1クラッチCL1の前側には第2クラッチCL2が配設され、第2クラッチCL2の前側には第3クラッチCL3が配設されている。また、第3クラッチCL3の前側には第1ブレーキBR1が配設され、第3ギヤセットPG3の径方向の外側には第2ブレーキBR2が配設されている。このように、自動変速機10では、前側(駆動源側)から、第1ブレーキBR1、第3クラッチCL3、第2クラッチCL2、第1クラッチCL1、第2ブレーキBR2の順で軸方向に配設されている。なお、これら第1~第3クラッチCL1~CL3及び第1、第2ブレーキBR1、BR2は、本発明における「摩擦締結要素」に相当する。以下では、この摩擦締結要素について、符号「25」を適宜付して表記することがある(
図4に図示)。
【0025】
第1~第4ギヤセットPG1~PG4は、いずれも、キャリヤに支持されたピニオンがサンギヤとリングギヤに直接噛合するシングルピニオン型である。第1ギヤセットPG1は、回転要素として、第1サンギヤS1、第1リングギヤR1、及び第1キャリヤC1を有する。第2ギヤセットPG2は、回転要素として、第2サンギヤS2、第2リングギヤR2、及び第2キャリヤC2を有する。第3ギヤセットPG3は、回転要素として、第3サンギヤS3、第3リングギヤR3、及び第3キャリヤC3を有する。第4ギヤセットPG4は、回転要素として、第4サンギヤS4、第4リングギヤR4、及び第4キャリヤC4を有する。
【0026】
そして、第1ギヤセットPG1は、第1サンギヤS1が軸方向に2分割されたダブルサンギヤ型である。すなわち、第1サンギヤS1は、軸方向の前側に配置された前側第1サンギヤS1aと、後側に配置された後側第1サンギヤS1bとを有している。これら一対の第1サンギヤS1a、S1bは、同じ歯数を有し、第1キャリヤC1に支持された同じピニオンに噛合しているため、これら第1サンギヤS1a、S1bの回転数は常に等しい。すなわち、前後一対の第1サンギヤS1a、S1bは、常に同じ速度で回転し、一方の回転が停止しているときは他方の回転も停止する。
【0027】
この自動変速機10においては、第1サンギヤS1(より詳しくは後側第1サンギヤS1b)と第4サンギヤS4とが常時連結され、第1リングギヤR1と第2サンギヤS2とが常時連結され、第2キャリヤC2と第4キャリヤC4とが常時連結され、第3キャリヤC3と第4リングギヤR4とが常時連結されている。入力軸12は第1キャリヤC1に常時連結され、出力軸13は第4キャリヤC4に常時連結されている。具体的に、入力軸12は、前後一対の第1サンギヤS1a、S1bの間を通る動力伝達部材18を介して第1キャリヤC1に連結されている。後側第1サンギヤS1bと第4サンギヤS4とは、動力伝達部材15を介して互いに連結されている。第4キャリヤC4と第2キャリヤC2とは、動力伝達部材16を介して互いに連結されている。
【0028】
第1クラッチCL1は、油圧制御弁(不図示)による油圧室F1への油圧の給排に応じてピストンP1が軸方向に進退駆動されることにより、締結状態と解放状態とが切り替えられることで、入力軸12及び第1キャリヤC1と、第3サンギヤS3とを断接する。第2クラッチCL2は、油圧制御弁による油圧室F2への油圧の給排に応じてピストンP2が軸方向に進退駆動されることにより、締結状態と解放状態とが切り替えられることで、第1リングギヤR1及び第2サンギヤS2と、第3サンギヤS3とを断接する。第3クラッチCL3は、油圧制御弁(不図示)による油圧室F3への油圧の給排に応じてピストンP3が軸方向に進退駆動されることにより、締結状態と解放状態とが切り替えられることで、第2リングギヤR2と第3サンギヤS3とを断接する。
【0029】
他方で、第1ブレーキBR1は、油圧制御弁(不図示)による油圧室F4への油圧の給排に応じてピストンP4が軸方向に進退駆動されることにより、締結状態と解放状態とが切り替えられることで、変速機ケース11と第1サンギヤS1(より詳しくは前側第1サンギヤS1a)とを断接する。第2ブレーキBR2は、油圧制御弁(不図示)による油圧室F5への油圧の給排に応じてピストンP5が軸方向に進退駆動されることにより、締結状態と解放状態とが切り替えられることで、変速機ケース11と第3リングギヤR3とを断接する。
【0030】
変速機ケース11は、第1ブレーキBR1と第3クラッチCL3との間の軸方向位置に、変速機ケース11の内周面11bから径方向内側に延びる環状の縦壁部W1を有するとともに、縦壁部W1の内周端から後方に延びる円筒状の円筒壁部W2を有している。円筒壁部W2は、動力伝達部材8の内周面に沿って同心状に延びるように形成されている。
【0031】
動力伝達部材8の径方向外側には、軸方向に並ぶ3つのハウジングが形成されており、これら3つのハウジングに、第1クラッチCL1、第2クラッチCL2、及び第3クラッチCL3の各ピストンP1、P2、P3がそれぞれ収容されている。
【0032】
縦壁部W1、円筒壁部W2、及び動力伝達部材8には、第1クラッチCL1、第2クラッチCL2、及び第3クラッチCL3の各油圧室F1、F2、F3にそれぞれ油圧を供給するための油路が形成されている。具体的に、縦壁部W1及び円筒壁部W2には油路aが形成され、動力伝達部材8には油路b、c、dが形成されている。そして、油路a及び油路bを通じて第1クラッチCL1の油圧室F1に油圧が供給され、油路a及び油路cを通じて第2クラッチCL2の油圧室F2に油圧が供給され、油路a及び油路dを通じて第3クラッチCL3の油圧室F3に油圧が供給される。なお、図示しないが、円筒壁部W2の外周面と動力伝達部材8の内周面との間における油路aと油路b、c、dとの連通部は、それぞれシールリングによりシールされている。
【0033】
第1ブレーキBR1のピストンP4は、縦壁部W1の前側に形成されたハウジングに収容されている。当該ハウジングにより区画された油圧室F4には、変速機ケース11の外側(バルブボディ)から油路eが直接に連通している。第2ブレーキBR2のピストンP5は、変速機ケース11の後部の内周面11bに嵌合されたハウジングに収容されている。当該ハウジングにより区画された油圧室F5には、変速機ケース11の外側(バルブボディ)から油路fが直接に連通している。
【0034】
次に、
図3を参照して、本実施形態による自動変速機10の摩擦締結要素(25)の締結表について説明する。上述したような構成の自動変速機10によれば、
図3の締結表に示すように、油圧制御弁による油圧室F1~F5に対する油圧の給排制御に基づいて、5つの摩擦締結要素(第1~第3クラッチCL1~CL3及び第1、第2ブレーキBR1、BR2)の中の特定の3つの摩擦締結要素が選択的に締結されることにより、自動変速機10において前進1~8速及び後退速のいずれかの変速段が形成される。基本的には、これら複数の変速段において、車速に応じた変速段が選択され適用される。
【0035】
具体的には、
図3に示すように、第3クラッチCL3、第1ブレーキBR1、及び第2ブレーキBR2が締結されたときに、後退速が形成される。第1クラッチCL1、第1ブレーキBR1、及び第2ブレーキBR2が締結されたときに、1速が形成される。第2クラッチCL2、第1ブレーキBR1、及び第2ブレーキBR2が締結されたときに、2速が形成される。第1クラッチCL1、第2クラッチCL2、及び第2ブレーキBR2が締結されたときに、3速が形成される。第2クラッチCL2、第3クラッチCL3、第2ブレーキBR2が締結されたときに、4速が形成される。第1クラッチCL1、第3クラッチCL3、及び第2ブレーキBR2が締結されたときに、5速が形成される。第1クラッチCL1、第2クラッチCL2、及び第3クラッチCL3が締結されたときに、6速が形成される。第1クラッチCL1、第3クラッチCL3、及び第1ブレーキBR1が締結されたときに、7速が形成される。第2クラッチCL2、第3クラッチCL3、及び第1ブレーキBR1が締結されたときに、8速が形成される。
【0036】
図3から分かるように、隣り合う変速段において、締結する2つの摩擦締結要素が共通している。これにより、少なくとも2つの隣り合う変速段の切り替えを行うときに、2つの摩擦締結要素を締結したまま、締結している1つの摩擦締結要素を解放して、別の1つの摩擦締結要素を締結すればよいので、変速段の切り替えの応答性が確保されるようになっている。
【0037】
[電気的構成]
次に、
図4を参照して、本実施形態による自動変速機の制御システムの電気的構成について説明する。
図4に示すように、コントローラ50には、車速センサSN1、加速度センサSN2、シフト位置センサSN3、AT入力回転数センサSN4、AT出力回転数センサSN5、油圧センサSN6からの信号が入力される。車速センサSN1は、車両1の速度(車速)を検出する。加速度センサSN2は、車両1の加速度(減速度も含む)を検出する。シフト位置センサSN3は、シフトレバー30のシフト位置、つまりシフトレバー30の操作によって選択されたレンジ(シフトレンジ)を検出する。AT入力回転数センサSN4は、自動変速機10の入力軸12の回転数を検出し、AT出力回転数センサSN5は、自動変速機10の出力軸13の回転数を検出する。油圧センサSN6は、5つの摩擦締結要素25(第1~第3クラッチCL1~CL3及び第1、第2ブレーキBR1、BR2)のそれぞれに適用される油圧を検出する。
【0038】
コントローラ50は、回路により構成されており、周知のマイクロコンピュータをベースとする制御器である。コントローラ50は、プログラムを実行する中央演算処理装置(Central Processing Unit:CPU)としての1以上のマイクロプロセッサ50aと、例えばRAM(Random Access Memory)やROM(Read Only Memory)により構成されてプログラム及びデータを格納するメモリ50bと、電気信号の入出力を行う入出力バス等を備えている。
【0039】
図4に示すように、コントローラ50は、主に、上述したセンサSN1~SN6からの信号に基づき、摩擦締結要素25の油圧制御弁40に制御信号を出力して、摩擦締結要素25に付与する油圧を制御することで、摩擦締結要素25の締結状態と解放状態とを切り替える。油圧制御弁40は、5つの摩擦締結要素25(第1~第3クラッチCL1~CL3及び第1、第2ブレーキBR1、BR2)のそれぞれに設けられている。
図4では、説明の便宜上、各摩擦締結要素25に設けられる油圧制御弁を、1つの油圧制御弁40にて代表して表している。各油圧制御弁40は、油圧ポンプ(不図示)と各摩擦締結要素25の油圧室F1~F5とを接続する油路a~e上に設けられ、各摩擦締結要素25の油圧室F1~F5に付与する油圧を調整可能になっている。また、油路a~e上において、各油圧制御弁40と各摩擦締結要素25の油圧室F1~F5との間には、上述した油圧センサSN6がそれぞれ設けられている。
【0040】
コントローラ50は、油圧制御弁40を制御することにより、5つの摩擦締結要素25(第1~第3クラッチCL1~CL3及び第1、第2ブレーキBR1、BR2)のそれぞれにおける締結状態と解放状態とを切り替えるように、5つの摩擦締結要素25のそれぞれに付与する油圧を調整することで、自動変速機10を所望の変速段(
図3参照)に設定する。なお、コントローラ50は、例えばECU(Electronic Control Unit)やTCM(Transmission Control Module)により構成される。
【0041】
[ニュートラル制御]
次に、本実施形態においてコントローラ50が行うニュートラル制御について説明する。まず、コントローラ50は、エンジン20の駆動力が駆動輪60に伝達されないニュートラル状態に自動変速機10を設定すべく、自動変速機10の各変速段の形成時に締結される3つの摩擦締結要素25のうちの2つの摩擦締結要素25を締結したまま、残りの1つの摩擦締結要素25を解放するニュートラル制御を実行する。なお、自動変速機10は、2つの摩擦締結要素25だけしか締結していない状態では、エンジン20の駆動力を駆動輪60へと伝達しないニュートラル状態となるように構成されている。
【0042】
具体的には、コントローラ50は、自動変速機10のレンジが走行レンジ(DレンジやRレンジなど)に設定された状態での走行中に、ドライバが自動変速機10のレンジを走行レンジからNレンジ(ニュートラルレンジ)に切り替えるシフト操作を行ったときに、ドライバが要求したNレンジを実現すべく、上記のニュートラル制御を開始するように摩擦締結要素25を制御する。そして、コントローラ50は、ニュートラル制御中においてドライバが自動変速機10のレンジをNレンジから走行レンジに切り替えるシフト操作を行ったときに、ニュートラル制御を終了し、自動変速機10を車速に応じた変速段に設定するように摩擦締結要素25を制御する。
【0043】
また、コントローラ50は、自動変速機10のレンジが走行レンジに設定された状態での走行中に、車両1の減速度の大きさ(絶対値とする。以下同様。)が所定値以上となったときにも、ニュートラル制御を開始するように摩擦締結要素25を制御する。こうするのは、上述したように車両1はトルクコンバータを具備していないので、このような大きな減速度が発生したときにエンジン20を駆動輪60に接続したままの状態にしていると、エンストが発生し得るからである。よって、コントローラ50は、走行レンジでの走行中に大きな減速度が発生したときに、エンジン20と駆動輪60との接続を切断すべくニュートラル制御を行うことで、エンストを防止している。そして、コントローラ50は、減速度の大きさが所定値以上となった後に所定値未満となったときに、ニュートラル制御を終了し、自動変速機10を車速に応じた変速段に設定するように摩擦締結要素25を制御する。
【0044】
特に、本実施形態では、コントローラ50は、ニュートラル制御中に締結させる2つの摩擦締結要素25が少なくとも2つの隣り合う変速段において共通するように、ニュートラル制御を実行する。つまり、本実施形態では、或る変速段において締結される3つの摩擦締結要素25のうちでニュートラル状態を形成するために締結する2つの摩擦締結要素25が、当該変速段の隣りの変速段において締結される3つの摩擦締結要素25のうちでニュートラル状態を形成するために締結する2つの摩擦締結要素25と共通するようになっている。
【0045】
ここで、
図5及び
図6を参照して、本実施形態におけるニュートラル制御について具体的に説明する。
図5は、本実施形態によるニュートラル制御での自動変速機10の摩擦締結要素25の締結表についての説明図である。
図5において上側に、走行レンジでの摩擦締結要素25の締結表を示し(
図3と同一の締結表である)、
図5において下側に、ニュートラル制御での摩擦締結要素25の締結表を示している。
図6は、本実施形態において車速に応じて適用するニュートラル走行パターンを示している。
【0046】
図5及び
図6に示すように、本実施形態では、ニュートラル制御において5つの摩擦締結要素25のうちで締結させる2つの摩擦締結要素25の組み合わせとして、3つのパターン、つまりニュートラル走行パターン1、2、3を用いる。上述したように、走行レンジでは車速に応じた変速段が適用されるが、ニュートラル制御でも、ニュートラル走行パターン1、2、3の中で車速に応じたパターンが適用されるようになっている。具体的には、
図6に示すように、(1)車速が第1車速V1未満であるときには(例えば30km/h未満であり、0km/h未満、つまり後退時も含む)、ニュートラル走行パターン1が適用され、(2)車速が第1車速V1以上且つ第2車速V2未満であるときには(例えば30km/h以上で50km/h未満)、ニュートラル走行パターン2が適用され、(3)車速が第2車速V2以上であるときには(例えば50km/h以上)、ニュートラル走行パターン3が適用される。
【0047】
また、走行レンジでの変速段及びニュートラル制御でのニュートラル走行パターンの両方が車速に応じて規定されることから、
図5に示すように、9つの変速段(後退速及び1速~8速)のそれぞれに対応付けて、ニュートラル制御で適用する(つまり自動変速機10のNレンジで適用する)変速段Nrev、N1~N8を便宜上規定している。後者の変速段は、ニュートラル制御についての便宜上規定したものであり、自動変速機10の摩擦締結要素25に実際適用されるものではなく、上記したニュートラル走行パターン1~3が摩擦締結要素25に実際適用される。なお、
図5において「×」は、ニュートラル制御での各変速段において、それぞれに対応する走行レンジでの変速段で締結する3つの摩擦締結要素25のうちで解放する摩擦締結要素25を示している。
【0048】
具体的には、
図5に示すように、隣り合う後退速、1速、2速に対応するNrev、N1、N2では、第1ブレーキBR1及び第2ブレーキBR2を締結するニュートラル走行パターン1が共通して適用される。つまり、Nrev、N1、N2では、2つの第1ブレーキBR1及び第2ブレーキBR2が共通して締結される。こうしているのは、元々、後退速、1速、2速において、第1ブレーキBR1及び第2ブレーキBR2を共通して締結しているからである。この場合、コントローラ50は、後退速、1速、2速の走行レンジでの走行中にニュートラル制御を行うときに、後退速では第3クラッチCL3を解放し、1速では第1クラッチCL1を解放し、2速では第2クラッチCL2を解放することで、第1ブレーキBR1及び第2ブレーキBR2が締結されたニュートラル走行パターン1を形成するように、各摩擦締結要素25の各油圧制御弁40を制御する。
【0049】
また、隣り合う4速、5速に対応するN4、N5では、第3クラッチCL3及び第2ブレーキBR2を締結するニュートラル走行パターン2が共通して適用される。つまり、N4、N5では、2つの第3クラッチCL3及び第2ブレーキBR2が共通して締結される。こうしているのは、元々、4速、5速において、第3クラッチCL3及び第2ブレーキBR2を共通して締結しているからである。この場合、コントローラ50は、4速、5速の走行レンジでの走行中にニュートラル制御を行うときに、4速では第2クラッチCL2を解放し、5速では第1クラッチCL1を解放することで、第3クラッチCL3及び第2ブレーキBR2が締結されたニュートラル走行パターン2を形成するように、各摩擦締結要素25の各油圧制御弁40を制御する。
【0050】
また、隣り合う7速、8速に対応するN7、N8では、第3クラッチCL3及び第1ブレーキBR1を締結するニュートラル走行パターン3が共通して適用される。つまり、N7、N8では、2つの第3クラッチCL3及び第1ブレーキBR1が共通して締結される。こうしているのは、元々、7速、8速において、第3クラッチCL3及び第1ブレーキBR1を共通して締結しているからである。この場合、コントローラ50は、7速、8速の走行レンジでの走行中にニュートラル制御を行うときに、7速では第1クラッチCL1を解放し、8速では第2クラッチCL2を解放することで、第3クラッチCL3及び第1ブレーキBR1が締結されたニュートラル走行パターン3を形成するように、各摩擦締結要素25の各油圧制御弁40を制御する。
【0051】
このように、本実施形態では、後退速、1速、2速に対応するNrev、N1、N2と、4速、5速に対応するN4、N5と、7速、8速に対応するN7、N8とのそれぞれにおいて、ニュートラル状態を形成するために締結する2つの摩擦締結要素25を共通にするので、走行レンジでの9つの変速段よりも少ない3つのニュートラル走行パターン1~3を規定しているのである。
【0052】
なお、3速では、ニュートラル走行パターン1で締結する第1ブレーキBR1及び第2ブレーキBR2の両方を締結しておらず、また、ニュートラル走行パターン2で締結する第3クラッチCL3及び第2ブレーキBR2の両方を締結していない。そのため、本実施形態では、3速については、例外的に、この3速に対応するN3を規定していない(
図5においてハッチングにて表している)。その代わりに、3速では、ニュートラル走行パターン1を用いるN2を適用することとした。この場合、コントローラ50は、3速の走行レンジでの走行中にニュートラル制御を行うときに、3速で締結している第2ブレーキBR2のみを締結したまま残りの第1及び第2クラッチCL1、CL2を解放し、別の第1ブレーキBR1を締結することで、第1ブレーキBR1及び第2ブレーキBR2が締結されたニュートラル走行パターン1を形成する。なお、コントローラ50は、3速の走行レンジでの走行中にニュートラル制御を行うときに、走行レンジでの変速段を3速から2速に一旦切り替えてから、ニュートラル走行パターン1を形成するようにしてもよい。
【0053】
同様の理由から、本実施形態では、6速に対応するN6についても規定していない(
図5においてハッチングにて表している)。その代わりに、6速では、ニュートラル走行パターン2を用いるN5を適用することとした。この場合、コントローラ50は、6速の走行レンジでの走行中にニュートラル制御を行うときに、6速で締結している第3クラッチCL3のみを締結したまま残りの第1及び第2クラッチCL1、CL2を解放し、別の第2ブレーキBR2を締結することで、第3クラッチCL3及び第2ブレーキBR2が締結されたニュートラル走行パターン2を形成する。なお、コントローラ50は、6速の走行レンジでの走行中にニュートラル制御を行うときに、走行レンジでの変速段を6速から5速に一旦切り替えてから、ニュートラル走行パターン2を形成するようにしてもよい。
【0054】
次に、
図7を参照して、本実施形態においてニュートラル制御から走行レンジ(Dレンジ又はRレンジ)への切り替え時に行われる制御について説明する。まず、ニュートラル制御中には、ニュートラル走行パターン1~3のうちで車速に応じたニュートラル走行パターンが適用される。具体的には、
図7に示すように、車速が第1車速V1未満であるときには、ニュートラル走行パターン1が適用され、車速が第1車速V1以上且つ第2車速V2未満であるときには、ニュートラル走行パターン2が適用され、車速が第2車速V2以上であるときには、ニュートラル走行パターン3が適用される。また、上述したように、ニュートラル制御においては、ニュートラル走行パターン1~3の他に、車速に応じた変速段(Nrev、N1~N8(N3、N6除く))が規定されている。
【0055】
このようなニュートラル制御から走行レンジに切り替えるときには、車速に応じた変速段が適用される。具体的には、ニュートラル制御において規定した変速段に対応する、走行レンジでの変速段が適用される。詳しくは、コントローラ50は、まず、ニュートラル制御においてNrevであるときには(この変速段はニュートラル制御から走行レンジへの切り替え直前における車速により決まるものである。以下同様とする。)、後退速に切り替えるべく、第1ブレーキBR1及び第2ブレーキBR2を締結したまま、第3クラッチCL3を新たに締結する(
図5参照)。また、コントローラ50は、ニュートラル制御においてN1であるときには1速に切り替えるべく、第1ブレーキBR1及び第2ブレーキBR2を締結したまま、第1クラッチCL1を新たに締結する。
【0056】
また、コントローラ50は、ニュートラル制御においてN2であるときには2速に切り替えるべく、第1ブレーキBR1及び第2ブレーキBR2を締結したまま、第2クラッチCL2を新たに締結する。この場合、ニュートラル制御時の車速が2速に対応する車速よりも高いときがある、つまり3速に対応する車速であるときがある。これは、上述した理由から、3速に対応するN3が規定されていない、換言すると2速に対応するN2がN3を兼ねていることに因る。この場合には、
図7に示すように、コントローラ50は、変速段を2速に切り替えた後に、変速段を3速に更に切り替える。
【0057】
また、コントローラ50は、ニュートラル制御においてN4であるときには4速に切り替えるべく、第3クラッチCL3及び第2ブレーキBR2を締結したまま、第2クラッチCL2を新たに締結する。また、コントローラ50は、ニュートラル制御においてN5であるときには5速に切り替えるべく、第3クラッチCL3及び第2ブレーキBR2を締結したまま、第1クラッチCL1を新たに締結する。この場合、ニュートラル制御時の車速が5速に対応する車速よりも高いときがある、つまり6速に対応する車速であるときがある。これは、上述した理由から、6速に対応するN6が規定されていない、換言すると5速に対応するN5がN6を兼ねていることに因る。この場合には、
図7に示すように、コントローラ50は、変速段を5速に切り替えた後に、変速段を6速に更に切り替える。
【0058】
また、コントローラ50は、ニュートラル制御においてN7であるときには7速に切り替えるべく、第3クラッチCL3及び第1ブレーキBR1を締結したまま、第1クラッチCL1を新たに締結する。また、コントローラ50は、ニュートラル制御においてN8であるときには8速に切り替えるべく、第3クラッチCL3及び第1ブレーキBR1を締結したまま、第2クラッチCL2を新たに締結する。
【0059】
次に、
図8を参照して、本実施形態においてコントローラ50によって実行されるニュートラル制御の具体的な流れについて説明する。
図8は、本実施形態によるニュートラル制御を示すフローチャートである。この制御は、コントローラ50内のマイクロプロセッサ50aによって、メモリ50bに記憶されたプログラムに基づき、所定の周期で繰り返し実行される。
【0060】
まず、ステップS10において、コントローラ50は、上述したセンサSN1~SN6(
図4参照)からの信号などに対応する各種情報を取得する。具体的には、コントローラ50は、車速センサSN1によって検出された車速、加速度センサSN2によって検出された加速度(特に減速度)、シフト位置センサSN3によって検出されたレンジ(シフトレンジ)、AT入力回転数センサSN4によって検出された入力軸12の回転数、AT出力回転数センサSN5によって検出された出力軸13の回転数、油圧センサSN6によって検出された油圧を少なくとも取得する。
【0061】
次いで、ステップS11において、コントローラ50は、ステップS10で取得されたレンジや車速に基づき、車両1が走行レンジ(DレンジやRレンジなど)にて走行しているか否かを判定する。その結果、コントローラ50は、車両1が走行レンジにて走行していると判定された場合(ステップS11:Yes)、ステップS12に進み、車両1が走行レンジにて走行していると判定されなかった場合(ステップS11:No)、本ニュートラル制御に係るルーチンを抜ける。
【0062】
次いで、ステップS12において、コントローラ50は、ニュートラル制御の実行要求があるか否かを判定する。この場合、コントローラ50は、ステップS10で取得されたレンジが走行レンジからNレンジに切り替わったとき、つまりドライバが自動変速機10のレンジを走行レンジからNレンジに切り替えるためのシフトレバー30に対する操作(シフト操作)を行ったときに、ニュートラル制御の実行要求があると判定する。また、コントローラ50は、ステップS10で取得された減速度の大きさが所定値以上であるときに、つまり車両1が急減速したときに、ニュートラル制御の実行要求があると判定する。この場合、コントローラ50は、自動変速機10の入力軸12の回転数(AT入力回転数センサSN4によって検出される)を更に用いて、当該判定を行ってもよい。詳しくは、コントローラ50は、減速度の大きさが所定値以上で且つ入力軸12の回転数が所定値未満であるときに、ニュートラル制御の実行要求があると判定してもよい。このようなステップS12において、コントローラ50は、ニュートラル制御の実行要求があると判定された場合(ステップS12:Yes)、ステップS13に進み、ニュートラル制御の実行要求があると判定されなかった場合(ステップS12:No)、本ニュートラル制御に係るルーチンを抜ける。
【0063】
次いで、ステップS13において、コントローラ50は、ステップS10で取得された車速が第1車速V1未満であるか否かを判定する。その結果、コントローラ50は、車速が第1車速V1未満であると判定された場合(ステップS13:Yes)、ステップS14に進む。このステップS14において、コントローラ50は、第1ブレーキBR1及び第2ブレーキBR2が締結されたニュートラル走行パターン1を形成するように(
図5、
図6参照)、各摩擦締結要素25の各油圧制御弁40を制御する。この後、コントローラ50は、ステップS18に進む。
【0064】
他方で、コントローラ50は、車速が第1車速V1未満であると判定されなかった場合(ステップS13:No)、ステップS15に進む。このステップS15において、コントローラ50は、ステップS10で取得された車速が第2車速V2未満であるか否かを判定する。その結果、コントローラ50は、車速が第2車速V2未満であると判定された場合(ステップS15:Yes)、ステップS16に進む。この場合は、車速が第1車速V1以上且つ第2車速V2未満である場合に相当する。ステップS16において、コントローラ50は、第3クラッチCL3及び第2ブレーキBR2が締結されたニュートラル走行パターン2を形成するように(
図5、
図6参照)、各摩擦締結要素25の各油圧制御弁40を制御する。この後、コントローラ50は、ステップS18に進む。
【0065】
他方で、コントローラ50は、車速が第2車速V2未満であると判定されなかった場合(ステップS15:No)、ステップS17に進む。この場合は、車速が第2車速V2以上である場合に相当する。ステップS17において、コントローラ50は、第3クラッチCL3及び第1ブレーキBR1が締結されたニュートラル走行パターン3を形成するように(
図5、
図6参照)、各摩擦締結要素25の各油圧制御弁40を制御する。この後、コントローラ50は、ステップS18に進む。
【0066】
なお、上記のステップS13、S15では、車速に基づいて判定を行っていたが、車速の代わりに自動変速機10の出力軸13の回転数(AT出力回転数センサSN5によって検出される)に基づいて判定を行ってもよい。この出力軸13の回転数は、車速に一義的に対応するからである。
【0067】
次いで、ステップS18において、コントローラ50は、ニュートラル制御を終了して走行レンジへ復帰する要求があるか否かを判定する。この場合、コントローラ50は、ステップS10で取得されたレンジがNレンジから走行レンジ(DレンジやRレンジなど)に切り替わったとき、つまりドライバが自動変速機10のレンジをNレンジから走行レンジに切り替えるためのシフトレバー30に対する操作(シフト操作)を行ったときに、走行レンジへの復帰要求があると判定する。また、コントローラ50は、ステップS10で取得された減速度の大きさが所定値未満であるときに、つまり車両1の急減速が終了したときに、走行レンジへの復帰要求があると判定する。この場合、コントローラ50は、自動変速機10の入力軸12の回転数を更に用いて、当該判定を行ってもよい。詳しくは、コントローラ50は、減速度の大きさが所定値未満で且つ入力軸12の回転数が所定値以上であるときに、走行レンジへの復帰要求があると判定してもよい。
【0068】
このようなステップS18において、コントローラ50は、走行レンジへの復帰要求があると判定された場合(ステップS18:Yes)、ステップS19に進み、走行レンジへの復帰要求があると判定されなかった場合(ステップS18:No)、ステップS13に戻る。後者の場合、コントローラ50は、走行レンジへの復帰要求があると判定されるまで、ステップS13~S18を繰り返す。この場合、コントローラ50は、ニュートラル制御中において変化する車速に応じて、ニュートラル走行パターン1~3のうちで適用するニュートラル走行パターンを順次切り替える。
【0069】
次いで、ステップS19において、コントローラ50は、ニュートラル制御を終了して走行レンジへ復帰するための制御を行う。具体的には、コントローラ50は、ニュートラル制御終了時での車速に応じた変速段(Nrev、N1~N8(N3、N6除く))に対応する変速段(後退速、1速~8速(3速、6速除く))を走行レンジにおいて設定する。基本的には、コントローラ50は、ニュートラル制御で適用したニュートラル走行パターンにおいて締結していた2つの摩擦締結要素25を締結したまま、切り替えるべき走行レンジの変速段に応じた新たな1つの摩擦締結要素25を更に締結するように、各摩擦締結要素25の各油圧制御弁40を制御する。ここで、コントローラ50は、ニュートラル制御時の変速段がN2である場合において、ニュートラル制御時の車速が2速に対応する車速よりも高い場合、つまり3速に対応する車速である場合には、変速段を2速に切り替えた後に、変速段を3速に更に切り替えるようにする(
図7参照)。同様に、コントローラ50は、ニュートラル制御時の変速段がN5である場合において、ニュートラル制御時の車速が5速に対応する車速よりも高い場合、つまり6速に対応する車速である場合には、変速段を5速に切り替えた後に、変速段を6速に更に切り替えるようにする。このようなステップS19の後、コントローラ50は、本ニュートラル制御に係るルーチンを抜ける。
【0070】
[作用及び効果]
次に、本実施形態に係る自動変速機の制御システムの作用及び効果について説明する。本実施形態では、コントローラ50は、ニュートラル状態に自動変速機10を設定すべく、自動変速機10の各変速段の形成時に締結される3つの摩擦締結要素25のうちの2つの摩擦締結要素25を締結したまま、残りの1つの摩擦締結要素25を解放するニュートラル制御を実行し、また、このニュートラル制御中に締結させる2つの摩擦締結要素25が少なくとも2つの隣り合う変速段において共通するようにニュートラル制御を実行する。つまり、本実施形態では、或る変速段において締結される3つの摩擦締結要素25のうちでニュートラル状態を形成するために締結する2つの摩擦締結要素25が、当該変速段の隣りの変速段において締結される3つの摩擦締結要素25のうちでニュートラル状態を形成するために締結する2つの摩擦締結要素25と共通するようになっている。
【0071】
このように、本実施形態では、ニュートラル制御において、自動変速機10の変速段形成時に締結される3つの摩擦締結要素25のうちで2つの摩擦締結要素25を締結したまま残りの1つの摩擦締結要素25を解放することで、自動変速機10をニュートラル状態に設定する。これにより、自動変速機10内で摩擦締結要素25に対応する多数の回転要素が不定状態で回転することに起因する、ニュートラル状態から走行レンジへの切り替え時におけるショックを抑制することができる。また、本実施形態では、上記のようにニュートラル制御において変速段形成のために用いられる2つの摩擦締結要素25を締結したままにしておくと共に、この2つの摩擦締結要素25を少なくとも2つの隣り合う変速段において共通にするため、ニュートラル状態から走行レンジへの切り替え時に、適用すべき変速段に応じた1つの摩擦締結要素25のみを締結すればよいので、この切り替えの応答性を確保することができる。
【0072】
また、本実施形態では、コントローラ50は、複数の摩擦締結要素25のうちでニュートラル制御中に締結させる2つの摩擦締結要素25の組み合わせを変えることにより複数のニュートラル走行パターンを実現するように構成され、このニュートラル走行パターンの数(3つ)は、走行レンジでの変速段の数(9つ)よりも少ない。上記したように、ニュートラル制御中に締結させる2つの摩擦締結要素25を少なくとも2つの隣り合う変速段において共通にすることで、ニュートラル走行パターンの数が走行レンジでの変速段の数よりも少なくなるのである。これにより、ニュートラル制御に関する制御構成を簡易化することが可能となる。
【0073】
また、本実施形態では、コントローラ50は、車速に基づき、複数のニュートラル走行パターンのうちで適用すべきニュートラル走行パターンを設定するように構成されている。上記したように、複数のニュートラル走行パターンのそれぞれで締結される摩擦締結要素25が、車速に応じた変速段のそれぞれで締結される摩擦締結要素25に基づき規定されている。そのため、ニュートラル制御において車速に応じたニュートラル走行パターンを適用することで、このニュートラル制御から走行レンジへ切り替えるときに、車速に応じた変速段の設定を速やかに行うことができる。
【0074】
また、本実施形態では、コントローラ50は、自動変速機10のレンジが走行レンジに設定された状態で車両1が走行している間に、ドライバが自動変速機10のレンジを走行レンジからNレンジ(ニュートラルレンジ)に切り替えるシフト操作を行ったときに、ニュートラル制御を開始するように構成されている。これにより、ドライバのシフト操作に応じて、ニュートラル制御を速やかに開始することができ、ドライバによるNレンジへの切り替え要求を的確に満たすことが可能となる。
【0075】
また、本実施形態では、コントローラ50は、ニュートラル制御中においてドライバが自動変速機10のレンジをNレンジから走行レンジに切り替えるシフト操作を行ったときに、ニュートラル制御を終了し、自動変速機10を車速に応じた変速段に設定するように摩擦締結要素25を制御するように構成されている。これにより、ドライバのシフト操作に応じて、ニュートラル制御を速やかに終了して、自動変速機10を通常の走行レンジに復帰させることができる。
【0076】
また、本実施形態では、コントローラ50は、自動変速機10のレンジが走行レンジに設定された状態で車両1が走行している間に、車両1の減速度の大きさが所定値以上となったときに、ニュートラル制御を開始するように構成されている。これにより、車両1が急減速したときに、ニュートラル制御を速やかに開始することができる。特に、本実施形態では、エンジン20の駆動力がトルクコンバータを介さずに駆動輪60に伝達されるように車両1が構成されているので、このような急減速が発生したときにエンストが発生し得るが、このときにニュートラル制御を速やかに行うことで、エンストを確実に防止することができる。
【0077】
また、本実施形態では、コントローラ50は、ニュートラル制御中において車両1の減速度の大きさが所定値未満となったときに、ニュートラル制御を終了し、自動変速機10を車速に応じた変速段に設定するように摩擦締結要素25を制御するように構成されている。これにより、車両1の急減速が解消したときに、ニュートラル制御を速やかに終了して、自動変速機10を通常の走行レンジに復帰させることができる。
【符号の説明】
【0078】
1 車両
10 自動変速機
20 エンジン
25 摩擦締結要素
30 シフトレバー
40 油圧制御弁
50 コントローラ
60 駆動輪
BR1 第1ブレーキ
BR2 第2ブレーキ
CL1 第1クラッチ
CL2 第2クラッチ
CL2 第3クラッチ