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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024157786
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】ゴルフクラブ用グリップ
(51)【国際特許分類】
   A63B 60/08 20150101AFI20241031BHJP
   A63B 53/14 20150101ALI20241031BHJP
   A63B 102/32 20150101ALN20241031BHJP
【FI】
A63B60/08
A63B53/14 Z
A63B102:32
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023072363
(22)【出願日】2023-04-26
(71)【出願人】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100125184
【弁理士】
【氏名又は名称】二口 治
(74)【代理人】
【識別番号】100188488
【弁理士】
【氏名又は名称】原谷 英之
(72)【発明者】
【氏名】郷司 翔
(72)【発明者】
【氏名】志賀 一喜
【テーマコード(参考)】
2C002
【Fターム(参考)】
2C002AA06
2C002GG07
2C002MM07
(57)【要約】
【課題】内層が多孔質構造を有するグリップにおいて、多孔質構造を形成する材料を改良することで、常温および高温化における内層の耐へたり性を改善したゴルフクラブ用グリップを提供する。
【解決手段】ゴルフクラブ用グリップは、円筒状の内層と、前記内層を被覆する円筒状の外層とからなる円筒部を有し、前記内層が多孔質構造であり、前記内層の密度(D)が0.30g/cm3~0.90g/cm3であり、動的粘弾性装置を用いて、加振周波数10Hz、歪振幅0.05%、引張モードの測定条件で測定した、25℃における貯蔵弾性率(E’25)が9.0MPa以下、60℃における貯蔵弾性率(E’60)が7.0MPa以下であり、前記貯蔵弾性率(E’25)(MPa)と密度(D)(g/cm3)との比(E’25/D)が10.5以下であり、前記貯蔵弾性率(E’60)(MPa)と密度(D)(g/cm3)との比(E’60/D)が9.5以下であることを特徴とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状の内層と、前記内層を被覆する円筒状の外層とからなる円筒部を有し、
前記内層が、多孔質構造であり、
前記内層の密度(D)が0.30g/cm3~0.90g/cm3であり、
前記内層は、動的粘弾性装置を用いて、加振周波数10Hz、歪振幅0.05%、引張モードの測定条件で測定した、25℃における貯蔵弾性率(E'25)が9.0MPa以下、60℃における貯蔵弾性率(E'60)が7.0MPa以下であり、
前記25℃における貯蔵弾性率(E'25)(MPa)と密度(D)(g/cm3)との比(E'25/D)が10.5以下であり、
前記60℃における貯蔵弾性率(E'60)(MPa)と密度(D)(g/cm3)との比(E'60/D)が9.5以下であることを特徴とするゴルフクラブ用グリップ。
【請求項2】
前記内層を形成する内層用ゴム組成物について、加硫温度165℃で測定した加硫曲線における最大トルクをMH(N・m)とし、
前記内層を、動的粘弾性装置を用いて、加振周波数10Hz、歪振幅0.05%、引張モードの測定条件で測定した、25℃における損失正接をtanδ25、60℃における損失正接をtanδ60としたとき、
前記最大トルクMH(N・m)と25℃における損失正接(tanδ25)との積(tanδ25×MH)が0.1以上であり、
前記最大トルクMH(N・m)と60℃における損失正接(tanδ60)との積(tanδ60×MH)が0.1以上である請求項1に記載のゴルフクラブ用グリップ。
【請求項3】
前記内層を形成する内層用ゴム組成物について、加硫温度165℃で測定した加硫曲線における最大トルク(MH)が、0.91N・m以上である請求項2に記載のゴルフクラブ用グリップ。
【請求項4】
前記内層は、引張試験により求めた切断時伸び(Eb)(%)と密度(D)(g/cm3)との比(Eb/D)が、660以下である請求項1に記載のゴルフクラブ用グリップ。
【請求項5】
前記内層は、引張試験により求めた伸び25%における引張応力(Se25)(MPa)と密度(D)(g/cm3)との比(Se25/D)が、0.7~1.5である請求項1に記載のゴルフクラブ用グリップ。
【請求項6】
前記比(E'25/D)が、0.3~10.5である請求項1に記載のゴルフクラブ用グリップ。
【請求項7】
前記比(E'60/D)が、0.3~9.5である請求項1に記載のゴルフクラブ用グリップ。
【請求項8】
前記内層を形成する内層用ゴム組成物が、基材ゴムとして、アクリロニトリル-ブタジエンゴム(NBR)と水素添加アクリロニトリル-ブタジエンゴム(HNBR)を含有する請求項1に記載のゴルフクラブ用グリップ。
【請求項9】
前記内層を形成する内層用ゴム組成物が、カーボンブラックとカーボンカップリング剤を含有する請求項8に記載のゴルフクラブ用グリップ。
【請求項10】
前記内層を形成する内層用ゴム組成物が、加硫剤として、単体硫黄とモルホリン系硫黄ドナー型化合物を含有し、かつ、2種類以上の加硫促進剤を含有する請求項8に記載のゴルフクラブ用グリップ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴルフクラブ用グリップに関する。
【背景技術】
【0002】
ゴルフクラブに装着されるグリップとして、ゴム製のグリップが多用されている。このようなゴム製グリップとしては、基材ゴムとしてアクリロニトリル-ブタジエン系ゴムを用いたゴルフクラブ用グリップが提案されている。また、ゴルフクラブ用グリップにおいて、円筒部を多層構造として、内層を多孔質構造としたものも提案されている(特許文献1(表3~5))。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-162635号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ゴルフクラブ用グリップは、グリップの軽量化やクッション性の改善を目的として、多孔質構造が採用される場合がある。しかしながら、多孔質構造では、グリップの機械的強度が低下する傾向があり、特に圧縮変形に対して圧縮永久ひずみが大きくなる傾向がある。そのため、例えば、ゴルフクラブを入れたゴルフバッグを寝かした状態で長時間放置すると、グリップにへたりが生じることがあった。特に、夏場の車内のような高温雰囲気に長時間放置すると、グリップにへたりが生じやすかった。
【0005】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、内層が多孔質構造を有するグリップにおいて、多孔質構造を形成する材料を改良することで、常温および高温化における内層の耐へたり性を改善したゴルフクラブ用グリップを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決することができた本発明のゴルフクラブ用グリップは、円筒状の内層と、前記内層を被覆する円筒状の外層とからなる円筒部を有し、前記内層が多孔質構造であり、前記内層の密度(D)が0.30g/cm3~0.90g/cm3であり、前記内層は動的粘弾性装置を用いて、加振周波数10Hz、歪振幅0.05%、引張モードの測定条件で測定した、25℃における貯蔵弾性率(E’25)が9.0MPa以下、60℃における貯蔵弾性率(E’60)が7.0MPa以下であり、前記25℃における貯蔵弾性率(E’25)(MPa)と密度(D)(g/cm3)との比(E’25/D)が10.5以下であり、前記60℃における貯蔵弾性率(E’60)(MPa)と密度(D)(g/cm3)との比(E’60/D)が9.5以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、常温および高温下における内層の耐へたり性に優れたゴルフクラブ用グリップが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明のゴルフクラブ用グリップの一例を示す斜視図である。
図2】本発明のゴルフクラブ用グリップの一例を示す断面模式図である。
図3】本発明のゴルフクラブ用グリップを備えたゴルフクラブの一例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[ゴルフクラブ用グリップ]
本発明のゴルフクラブ用グリップは、円筒状の内層と、前記内層を被覆する円筒状の外層とからなる円筒部を有し、前記内層が、多孔質構造である。そして、前記内層の密度(D)が0.30g/cm3~0.90g/cm3であり、前記内層は、動的粘弾性装置を用いて、加振周波数10Hz、歪振幅0.05%、引張モードの測定条件で測定した、25℃における貯蔵弾性率(E’25)が9.0MPa以下、60℃における貯蔵弾性率(E’60)が7.0MPa以下であり、前記25℃における貯蔵弾性率(E’25)(MPa)と密度(D)(g/cm3)との比(E’25/D)が10.5以下であり、前記60℃における貯蔵弾性率(E’60)(MPa)と密度(D)(g/cm3)との比(E’60/D)が9.5以下であることを特徴とする。
【0010】
本発明において、貯蔵弾性率(E’25)はグリップの使用時の温度、貯蔵弾性率(E’60)は高温雰囲気における貯蔵弾性率である。これらの貯蔵弾性率(E’25)および貯蔵弾性率(E’60)が所定の範囲内であれば、変形時に付与されている外力のうち、グリップに貯蔵される力の割合が小さくなる。よって、比(E’25/D)および比(E’60/D)を所定の範囲内に制御することで、グリップの密度に関わらず、歪みが残りにくく、耐へたり性が向上する。
【0011】
前記ゴルフクラブ用グリップは、円筒状の内層と、前記内層を被覆する円筒状の外層とからなる円筒部を有する。前記円筒部は、1層の内層と1層の外層からなる2層構造でもよいし、2層の内層と1層の外層を有する3層構造であってもよい。
【0012】
〔内層〕
前記内層は、多孔質構造である。多孔質構造は、基材となるゴムに多数の細孔(空隙)が形成されている構造である。多数の細孔が形成されていることにより、内層の見掛け密度が小さくなり、軽量化を図ることができる。また、多孔質構造であれば、外力に対して変形しやすくなるため、グリップのクッション性が向上する。
【0013】
(物性)
前記内層の密度(D)は、0.30g/cm3以上が好ましく、より好ましくは0.35g/cm3以上、さらに好ましくは0.40g/cm3以上であり、0.90g/cm3以下が好ましく、より好ましくは0.85g/cm3以下、さらに好ましくは0.80g/cm3以下である。前記密度(D)が0.30g/cm3以上であればグリップとしての機械的強度がより向上し、0.90g/cm3以下であればグリップをより軽量化することができる。
【0014】
前記内層の硬度(ショアA硬度)は、35以上が好ましく、より好ましくは40以上、さらに好ましくは45以上であり、65以下が好ましく、より好ましくは60以下である。内層の硬度(ショアA硬度)が35以上であれば内層が軟らかくなりすぎず、掴んだ時にしっかりと固定できる感触が得られ、65以下であれば内層が硬くなりすぎず、掴んだ時のグリップ感がより良好となる。
【0015】
前記内層は、動的粘弾性装置を用いて、加振周波数10Hz、歪振幅0.05%、引張モードの測定条件で測定した、25℃における貯蔵弾性率(E'25)が、3.0MPa以上が好ましく、より好ましくは3.5MPa以上、さらに好ましくは4.0MPa以上であり、9.0MPa以下が好ましく、より好ましくは8.5MPa以下、さらに好ましくは8.0MPa以下である。前記貯蔵弾性率(E'25)が3.0MPa以上であればグリップの硬さが良好となり、操作性がより良好となり、9.0MPa以下であればグリップの実使用時の耐へたり性がより良好となる。
【0016】
前記内層は、動的粘弾性装置を用いて、加振周波数10Hz、歪振幅0.05%、引張モードの測定条件で測定した、25℃における損失正接(tanδ25)が、0.120以上が好ましく、より好ましくは0.124以上、さらに好ましくは0.126以上であり、0.200以下が好ましく、より好ましくは0.195以下、さらに好ましくは0.190以下である。前記損失正接(tanδ25)が0.120以上であればグリップの実施用時の耐へたり性がより良好となり、0.200以下であればグリップのフィーリングがより良好となる。
【0017】
前記内層は、動的粘弾性装置を用いて、加振周波数10Hz、歪振幅0.05%、引張モードの測定条件で測定した、60℃における貯蔵弾性率(E'60)が、2.0MPa以上が好ましく、より好ましくは2.5MPa以上、さらに好ましくは3.0MPa以上であり、7.0MPa以下が好ましく、より好ましくは6.8MPa以下、さらに好ましくは6.6MPa以下である。前記貯蔵弾性率(E'60)が、2.0MPa以上であればグリップの硬さがより良好となり、操作性がより良好となり、7.0MPa以下であれば高温雰囲気下での保管時の耐へたり性がより向上する。
【0018】
前記内層は、動的粘弾性装置を用いて、加振周波数10Hz、歪振幅0.05%、引張モードの測定条件で測定した、60℃における損失正接(tanδ60)が、0.080以上が好ましく、より好ましくは0.085以上、さらに好ましくは0.090以上であり、0.180以下が好ましく、より好ましくは0.175以下、さらに好ましくは0.170以下である。前記損失正接(tanδ60)が0.080以上であれば高温雰囲気下での保管時の耐へたり性がより向上し、0.180以下であればグリップのフィーリングがより良好となる。
【0019】
前記25℃における貯蔵弾性率(E'25)(MPa)と密度(D)(g/cm3)との比(E'25/D)は10.5以下が好ましく、より好ましくは10.0以下、さらに好ましくは9.5以下である。前記比(E'25/D)が10.5以下であればグリップの実使用時の耐へたり性がより良好となる。
前記比(E'25/D)は0.3以上が好ましく、より好ましくは1.0以上、さらに好ましくは2.0以上である。前記比(E'25/D)が0.3以上であればグリップの硬さがより良好となり、操作性がより良好となる。
【0020】
前記60℃における貯蔵弾性率(E'60)(MPa)と密度(D)(g/cm3)との比(E'60/D)は9.5以下が好ましく、より好ましくは9.0以下、さらに好ましくは8.5以下である。前記比(E'60/D)が9.5以下であれば高温雰囲気下での保管時の耐へたり性がより向上する。
前記比(E'60/D)は0.3以上が好ましく、より好ましくは1.0以上、さらに好ましくは2.0以上である。前記比(E'60/D)が0.3以上であればグリップの硬さがより良好となり、操作性がより良好となる。
【0021】
前記内層は、引張試験により求めた切断時伸び(Eb)が、300%以上が好ましく、より好ましくは350%以上、さらに好ましくは400%以上であり、600%以下が好ましく、より好ましくは580%以下、さらに好ましくは550%以下である。前記切断時伸び(Eb)が300%以上であればグリップにシャフトを挿入する際にグリップが裂けることがより抑制され、600%以下であればグリップを構成する架橋ゴムの架橋強度がより良好となる。
【0022】
前記引張試験により求めた切断時伸び(Eb)(%)と密度(D)(g/cm3)との比(Eb/D)は、660以下が好ましく、より好ましくは630以下、さらに好ましくは600以下である。前記比(Eb/D)が660以下であればグリップを構成する架橋ゴムの架橋強度がより良好となる。
前記比(Eb/D)は、330以上が好ましく、より好ましくは340以上、さらに好ましくは350以上である。前記比(Eb/D)が330以上であればグリップを構成する架橋ゴムの架橋強度がより良好となる。
【0023】
前記内層は、引張試験により求めた伸び25%における引張応力(Se25)が、0.5MPa以上が好ましく、より好ましくは0.6MPa以上、さらに好ましくは0.7MPa以上であり、1.4MPa以下が好ましく、より好ましくは1.3MPa以下、さらに好ましくは1.2MPa以下である。前記引張応力(Se25)が、0.5MPa以上であればグリップを構成する架橋ゴムの架橋強度がより良好となり、1.4MPa以下であればグリップのフィーリングがより良好となる。
【0024】
前記引張試験により求めた伸び25%における引張応力(Se25)(MPa)と密度(D)(g/cm3)との比(Se25/D)が、0.7以上が好ましく、より好ましくは0.75以上、さらに好ましくは0.80以上であり、1.5以下が好ましく、より好ましくは1.45以下、さらに好ましくは1.40以下である。前記比(Se25/D)が、0.7以上であればグリップを構成する架橋ゴムの架橋強度がより良好となり、1.5以下であればグリップのフィーリングがより良好となる。
【0025】
前記内層を形成する内層用ゴム組成物は、加硫温度165℃で測定した加硫曲線における最大トルク(MH)が、0.91N・m以上が好ましく、より好ましくは0.93N・m以上、さらに好ましくは0.95N・m以上であり、1.5N・m以下が好ましく、より好ましくは1.4N・m以下、さらに好ましくは1.3N・m以下である。前記最大トルクが0.91N・m以上であればグリップを構成する架橋ゴムの架橋強度がより良好となり、1.5N・m以下であれば成形後の二層構造グリップに生じる外観不良をより低減できる。
【0026】
前記最大トルク(MH)(N・m)と前記25℃における損失正接(tanδ25)との積(tanδ25×MH)は、0.1以上が好ましく、より好ましくは0.11以上、さらに好ましくは0.12以上である。前記積(tanδ25×MH)が0.1以上であればグリップの実使用時の耐へたり性がより良好となる。
前記積(tanδ25×MH)は0.28以下が好ましく、より好ましくは0.26以下、さらに好ましくは0.24以下である。前記積(tanδ25×MH)が0.28以下であればグリップのフィーリングがより良好となる。
【0027】
前記最大トルク(MH)(N・m)と前記60℃における損失正接(tanδ60)との積(tanδ60×MH)は、0.1以上が好ましく、より好ましくは0.11以上、さらに好ましくは0.12以上である。前記積(tanδ60×MH)が0.1以上であれば高温雰囲気下での保管時の耐へたり性がより向上する。
前記積(tanδ60×MH)は0.24以下が好ましく、より好ましくは0.22以下、さらに好ましくは0.21以下である。前記積(tanδ60×MH)が0.24以下であればグリップのフィーリングがより良好となる。
【0028】
前記最大トルク(MH)と損失正接(tanδ25、tanδ60)との積を制御することで耐へたり性が向上する理由は必ずしも明らかでないが、以下のように考えられる。加硫曲線において最大トルク(MH)は架橋密度の指標となる。また、損失正接(tanδ)は、値が大きくなるほど、変形時に付与された外力が、変形から解放された時に放出されやすくなる。つまり、損失正接(tanδ)の値が大きい程、圧縮変形時のひずみが残りにくくなる。よって、架橋密度の指標値である最大トルク(MH)とひずみの指標値である損失正接(tanδ)の積を制御することで、使用時の温度や高温雰囲気における圧縮永久ひずみ率を良好にすることができ、耐へたり性が向上すると考えられる。
【0029】
前記内層の物性や加硫特性は、内層を構成するゴム組成物の原料や配合量を調整することで制御できる。特に、前記内層の密度は、主に発泡剤含有率、架橋剤含有率、加硫促進剤含有率、及び、加硫条件により制御できる。
また、前記内層の粘弾性特性は、主に基材ゴムの種類や含有率、フィラー含有率、及び、カップリング剤含有率により制御できる。
【0030】
前記内層は、多孔質構造を有する。多孔質層を作製する方法としては、バルーン発泡法、化学発泡法、超臨界二酸化炭素射出成型法、塩抽出法、溶剤除去法等が挙げられる。前記バルーン発泡法では、ゴム組成物にマイクロバルーンを含有させ、加熱によりマイクロバルーンを膨張させて、発泡させる。なお、ゴム組成物に膨張済みのマイクロバルーンを配合し、それを成形してもよい。前記化学発泡法では、ゴム組成物に発泡剤(アゾジカルボンアミド、アゾビスイソブチロニトリル、N,N-ジニトロソペンタメチレンテトラミン、p-トルエンスルホニルヒドラジン、p-オキシビス(ベンゼンスルホヒドラジド)等)や発泡助剤を含有させ、化学反応により気体(炭酸ガス、窒素ガス等)を発生させて発泡させる。前記超臨界二酸化炭素射出成型では、高圧力下で超臨界状態にある二酸化炭素をゴム組成物に含侵させ、このゴム組成物を常圧下に射出し、二酸化炭素を気化させて発泡させる。前記塩抽出法では、ゴム組成物に易溶解性塩(ホウ酸、塩化カルシウム等)を含有させ、成形後に塩を溶解抽出して細孔を形成する。前記溶剤除去法では、ゴム組成物に溶剤を含有させ、成形後に溶剤を除去し細孔を形成する。
【0031】
前記内層は、発泡剤を含有する内層用ゴム組成物から成形された発泡層が好ましい。特に、バルーン発泡法により作製された発泡層とすることが好ましい。すなわち、内層としては、マイクロバルーンを含有する内層用ゴム組成物から成形された発泡層が好ましい。マイクロバルーンを用いることで、内層の機械的強度を維持しやすく、内層の物性の制御が容易となる。
【0032】
(内層用ゴム組成物)
前記内層を構成する内層用ゴム組成物としては、例えば、(A)基材ゴム、(B)架橋剤、(C)補強材を含有するゴム組成物が挙げられる。
【0033】
(A)基材ゴム
前記内層用ゴム組成物中の(A)基材ゴムの含有率は、50質量%以上が好ましく、より好ましくは55質量%以上、さらに好ましくは60質量%以上である。前記(A)基材ゴムとしては、天然ゴム(NR)、エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)、ブチルゴム(IIR)、アクリロニトリル-ブタジエンゴム(NBR)、水素添加アクリロニトリル-ブタジエンゴム(HNBR)、カルボキシ変性アクリロニトリル-ブタジエンゴム(XNBR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、ポリウレタンゴム(PU)、イソプレンゴム(IR)、クロロプレンゴム(CR)、エチレン-プロピレンゴム(EPM)等が挙げられる。これらの基材ゴムは、単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0034】
前記(A)基材ゴムは、アクリロニトリル-ブタジエン系ゴムを含有することが好ましい。前記アクリロニトリル-ブタジエン系ゴムとしては、例えば、アクリロニトリル-ブタジエンゴム(NBR)、カルボキシ変性アクリロニトリル-ブタジエンゴム(XNBR)、水素添加アクリロニトリル-ブタジエンゴム(HNBR)、カルボキシ変性水素添加アクリロニトリル-ブタジエンゴム(HXNBR)よりなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。前記XNBRとは、カルボキシ基を有する単量体と、アクリロニトリルと、ブタジエンとの共重合体である。前記HNBRとは、アクリロニトリル-ブタジエンゴムの水素添加物である。前記HXNBRとは、カルボキシ基を有する単量体と、アクリロニトリルと、ブタジエンとの共重合体の水素添加物である。
【0035】
前記(A)基材ゴム中のアクリロニトリル-ブタジエン系ゴムの含有率は、50質量%以上が好ましく、より好ましくは60質量%以上、さらに好ましくは70質量%以上である。また、内層用ゴム組成物が、(A)基材ゴムとしてアクリロニトリル-ブタジエン系ゴムのみを含有することも好ましい。
【0036】
前記(A)基材ゴムは、NBR、XNBR、HNBRおよびHXNBRよりなる群から選択される少なくとも1種を含有することが好ましく、HNBRを含有することが好ましい。(A)基材ゴムとしてHNBRを配合することでグリップの耐候性がより向上する。
【0037】
前記(A)基材ゴム中のHNBRの含有率は、20質量%以上が好ましく、より好ましくは25質量%以上、さらに好ましくは30質量%以上である。ゴム組成物が、(A)基材ゴムとしてHNBRのみを含有してもよい。前記(A)基材ゴム中のHNBRの含有率が20質量%以上であればグリップの耐候性がより向上する。
【0038】
前記HNBRのアクリロニトリル含有率は、10質量%以上が好ましく、より好ましくは15質量%以上、さらに好ましくは20質量%以上であり、40質量%以下が好ましく、より好ましくは39質量%以下、さらに好ましくは38質量%以下である。NBRのアクリロニトリル含有率が10質量%以上であればグリップの機械的強度がより向上し、40質量%以下であれば変形時の圧縮永久ひずみがより小さくなる。
【0039】
前記HNBRの二重結合含有量は、0.09mmol/g以上が好ましく、より好ましくは0.2mmol/g以上であり、2.5mmol/g以下が好ましく、より好ましくは2.0mmol/g以下、さらに好ましくは1.5mmol/g以下である。二重結合含有量が0.09mmol/g以上であれば架橋剤として硫黄を用いた場合に架橋構造をより形成しやすくなり、2.5mmol/g以下であればグリップの耐候性および機械的強度がより良好となる。二重結合含有量は、共重合体中のブタジエン含有率や、共重合体への水素添加量により調整できる。
【0040】
前記内層用ゴム組成物は、(A)基材ゴムとして、HNBRとNBRとを含有することが好ましい。また、NBRを配合して基材ゴム中の二重結合量を増やすことで、架橋密度が向上し、内層の圧縮永久歪みを一層低減できる。
【0041】
前記NBRのアクリロニトリル含有率は、10質量%以上が好ましく、より好ましくは12質量%以上、さらに好ましくは14質量%以上であり、40質量%以下が好ましく、より好ましくは38質量%以下、さらに好ましくは36質量%以下である。NBRのアクリロニトリル含有率が10質量%以上であればHNBRとの相溶性がより良好となり、40質量%以下であれば変形時の圧縮永久ひずみが小さくなる。
【0042】
前記内層用ゴム組成物が、(A)基材ゴムとして、NBRを含有する場合、前記(A)基材ゴム中のNBRの含有率は、20質量%以上が好ましく、より好ましくは25質量%以上、さらに好ましくは30質量%以上であり、80質量%以下が好ましく、より好ましくは75質量%以下、さらに好ましくは70質量%以下である。前記(A)基材ゴム中のHNBRの含有率が20質量%以上であれば圧縮永久ひずみ率が良好となる、80質量%以下であればグリップの耐候性がより向上する。
【0043】
前記(A)基材ゴムが、HNBRとNBRとを含有する場合、(A)基材ゴム中のHNBRとNBRとの質量比(HNBR/NBR)は、0.30以上が好ましく、より好ましくは0.35以上、さらに好ましくは0.40以上であり、2.4以下が好ましく、より好ましくは2.0以下、さらに好ましくは1.5以下である。前記質量比(HNBR/NBR)は、0.30以上であればグリップの耐候性がより良好となり、2.4以下であれば圧縮永久ひずみ率がより良好となる。
【0044】
(B)架橋剤
前記(B)架橋剤としては、硫黄系架橋剤、有機過酸化物を使用できる。前記架橋剤は単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。前記架橋剤としては、硫黄系架橋剤が好ましく、単体硫黄がより好ましい。前記硫黄系架橋剤としては単体硫黄、硫黄ドナー型化合物が挙げられる。
【0045】
前記単体硫黄としては、粉末硫黄、沈降硫黄、コロイド状硫黄、不溶性硫黄が挙げられる。前記硫黄ドナー型化合物としては、モルホリン系硫黄ドナー型化合物が挙げられ、4,4’-ジチオジモルホリン等が挙げられる。
前記有機過酸化物としては、ジクミルパーオキサイド、α,α’-ビス(t-ブチルパーオキシ-m-ジイソプロピル)ベンゼン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)3,3,5-トリメチルシクロヘキサン等が挙げられる。
【0046】
前記内層用ゴム組成物は、(B)架橋剤として、単体硫黄とモルホリン系硫黄ドナー型化合物を含有することが好ましい。
【0047】
前記(B)架橋剤の使用量は、(A)基材ゴム100質量部に対して、0.2質量部以上が好ましく、より好ましくは0.4質量部以上、さらに好ましくは0.6質量部以上であり、4.0質量部以下が好ましく、より好ましくは3.5質量部以下、さらに好ましくは3.0質量部以下である。
【0048】
(C)補強材
前記(C)補強材としては、カーボンブラック、シリカ等が挙げられ、カーボンブラックが好ましい。
前記(C)補強材の含有量は、(A)基材ゴム100質量部に対して、2.0質量部以上が好ましく、より好ましくは3.0質量部以上、さらに好ましくは4.0質量部以上であり、50質量部以下が好ましく、より好ましくは45質量部以下、さらに好ましくは40質量部以下である。前記(C)補強材の含有量が2.0質量部以上であればグリップの補強効果がより向上し、50質量部以下であればグリップのフィーリングがより良好となる。
【0049】
樹脂
前記内層用ゴム組成物は、さらに樹脂を含有してもよい。樹脂を含有することで、内層のタック性が高くなり、二層構造グリップにおける内層と外層とを貼り合わせる際にエア噛みの発生を抑制できる。前記樹脂は、軟化点が120℃以下であることが好ましい。
【0050】
前記樹脂としては、ロジンエステル、エチレン-酢酸ビニル共重合体、クマロン樹脂、フェノール樹脂等が挙げられる。
【0051】
前記ロジンエステルは、ロジンとアルコール類とを反応させて得られるエステル化合物である。ロジンとは、アビエチン酸、ネオアビエチン酸、パラストリン酸、ピマール酸、イソピマール酸、デヒドロアビエチン酸を含有する天然樹脂である。前記アルコール類としては、2価以上の多価アルコールが好ましく、グリセリンがより好ましい。
【0052】
前記ロジンエステルには、水素添加ロジンエステル、不均化ロジンエステルが含まれる。前記水素添加ロジンエステルは、ロジエンエステルのロジンに由来する部分が水素添加されているエステル化合物である。前記不均化ロジンエステルは、ロジンエステルのロジンに由来する部分が不均化されているエステル化合物である。
【0053】
前記エチレン-酢酸ビニル共重合体の酢酸ビニル含有率は、10質量%以上が好ましく、より好ましくは12質量%以上、さらに好ましくは15質量%以上であり、80質量%以下が好ましく、より好ましくは75質量%以下、さらに好ましくは70質量%以下である。酢酸ビニル含有率が10質量%以上であればグリップのフィーリングがより
良好となり、80質量%以下であればグリップの耐摩耗性がより向上する。
【0054】
前記クマロン樹脂は、単量体成分としてクマロン類を含有する樹脂である。前記クマロン樹脂としては、クマロン・インデン樹脂が好ましい。前記クマロン・インデン樹脂は、単量体成分としてクマロン類およびインデン類を含有し、全単量体成分中のクマロン類およびインデン類の合計含有率が50質量%以上の共重合体である。前記クマロン類としては、クマロン、メチルクマロン等が挙げられる。前記インデン類としては、インデン、メチルインデン等が挙げられる。
【0055】
前記フェノール樹脂としては、例えば、フェノール類とホルムアルデヒドの縮合物が挙げられる。フェノール類としては、フェノール、m-クレゾール等が挙げられる。また、前記フェノール樹脂には、フェノール類とホルムアルデヒドとをアルカリ触媒で付加反応させたレゾール;酸触媒で縮合反応させて得られるノボラック等が含まれる。さらに、前記フェノール樹脂には、ロジンにフェノール類を酸触媒で付加させ熱重合することにより得られるロジンフェノール樹脂等も含まれる。
【0056】
前記樹脂を配合する場合、樹脂の含有量は、(A)基材ゴム100質量部に対して、5質量部以上が好ましく、より好ましくは6質量部以上、さらに好ましくは7質量部以上であり、20質量部以下が好ましく、より好ましくは18質量部以下、さらに好ましくは16質量部以下である。樹脂の含有量が、5質量部以上であれば内層のタック性がより高くなり、内層と外層とを貼り合わせる際にエア噛みの発生をより抑制でき、20質量部以下であればグリップの機械的強度がより良好となる。
【0057】
フィラーカップリング剤
前記内層用ゴム組成物は、さらにフィラーカップリング剤を含有してもよい。フィラーカップリング剤を含有することで、主に内層の架橋密度が向上する。
【0058】
前記フィラーカップリング剤は、(A)基材ゴム中における(C)補強材の分散性を向上させる。前記フィラーカップリング剤の種類は特に限定されず、配合される補強材に応じて適宜選択すればよい。例えば、前記(C)補強材としてカーボンブラックを用いる場合、前記フィラーカップリング剤として、カーボンカップリング剤を含有することが好ましい。前記カーボンカップリング剤としては、式(1)で表される化合物、式(2)で表される化合物が挙げられる。
【0059】
【化1】
[式(1)中、nは2~10の整数を表す。]
【0060】
nは、2~6の整数が好ましい。
前記式(1)で表される化合物としては、S-(3-アミノプロピル)チオ硫酸、S-(4-アミノブチル)チオ硫酸、S-(5-アミノペンチル)チオ硫酸、S-(6-アミノヘキシル)チオ硫酸、S-(7-アミノヘプチル)チオ硫酸、S-(8-アミノオクチル)チオ硫酸、S-(9-アミノノニル)チオ硫酸、S-(9-アミノデシル)チオ硫酸等が挙げられる。
【0061】
【化2】
[式(2)中、R1は炭素数1~12のアルキレン基、炭素数6~12のアリーレン基を表す。R2、R3は同一または異なって、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数6~12のアリール基、ヒドロキシ基、または、炭素数1~6のアルコキシ基を表す。Xは-NH-又は-O-を表す。Zは水素原子または金属原子を表す。]
【0062】
前記R1は、炭素数6~12のアリーレン基が好ましく、より好ましくはフェニレン基である。
前記R2およびR3は、水素原子または炭素数1~6のアルキル基が好ましく、より好ましくは水素原子である。
前記Zは、金属原子が好ましく、より好ましくはナトリウム、カリウム等のアルカリ金属である。
前記Xは、-NH-が好ましい。
【0063】
前記式(2)で表される化合物としては、(2Z)-4-[(4-アミノフェニル)アミノ]-4-オキソ-2-ブテン酸ナトリウムが挙げられる。
【0064】
前記フィラーカップリング剤を配合する場合、前記内層用ゴム組成物中のフィラーカップリング剤の含有量は、前記(C)補強材100質量部に対して、0.5質量部以上が好ましく、より好ましくは0.8質量部以上、さらに好ましくは1.0質量部以上であり、3.0質量部以下が好ましく、より好ましくは2.8質量部以下、さらに好ましくは2.6質量部以下である。前記フィラーカップリング剤の含有量が、0.5質量部以上であればグリップを構成する架橋ゴムの架橋強度がより良好となり、3.0質量部以下であれば他の物性への影響をより低減できる。
【0065】
前記内層用ゴム組成物は、さらに加硫促進剤、加硫活性剤を含有してもよい。
【0066】
(加硫促進剤)
前記加硫促進剤としては、チウラム系加硫促進剤、グアニジン系加硫促進剤、ジチオカルバミン酸塩系加硫促進剤、チオウレア系加硫促進剤、チアゾール系加硫促進剤、スルフェンアミド系加硫促進剤等が挙げられる。これらの加硫促進剤は、単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0067】
前記内層用ゴム組成物は、2種以上の加硫促進剤を含有することが好ましい。内層用ゴム組成物が2種以上の加硫促進剤を含有すれば、加硫速度の調整をより高度に調整でき、また、ブルームの発生を低減できる。前記内層用ゴム組成物は、チウラム系加硫促進剤、チオウレア系加硫促進剤、チアゾール系加硫促進剤およびグアニジン系加硫促進剤を含有してもよい。
【0068】
前記チウラム系加硫促進剤としては、テトラメチルチウラムジスルフィド(TMTD)、テトラベンジルチウラムジスルフィド(TBzTD)、テトラメチルチウラムモノスルフィド(TMTM)、ジペンタメチレンチウラムテトラスルフィド、テトラキス(2-エチルヘキシル)チウラムジスルフィド等が挙げられる。
前記チオウレア系加硫促進剤としては、トリメチルチオ尿素、N,N'-ジエチルチオ尿素等が挙げられる。
前記チアゾール系加硫促進剤としては、メルカプトベンゾチアゾール(MBT)、ベンゾチアゾールジスルフィド等が挙げられる。
前記グアニジン系加硫促進剤としては、ジフェニルグアニジン(DPG)等が挙げられる。
前記ジチオカルバミン酸塩系加硫促進剤としては、ジメチルジチオカルバミン酸亜鉛(ZnPDC)、ジブチルジチオカルバミン酸亜鉛等が挙げられる。
前記スルフェンアミド系塩系加硫促進剤としては、N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(CBS)、N-t-ブチル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(BBS)等が挙げられる。
【0069】
前記加硫促進剤を配合する場合、加硫促進剤の合計含有量は、(A)基材ゴム100質量部に対して、4.0質量部以上が好ましく、より好ましくは4.2質量部以上、さらに好ましくは4.4質量部以上であり、6.0質量部以下が好ましく、より好ましくは5.8質量部以下、さらに好ましくは5.6質量部以下である。前記加硫促進剤の合計含有量が4.0質量部以上であれば基材ゴムとしてHNBRのように二重結合が少ないゴムを使用した場合、加硫速度を高めることができ、6.0質量部以下であればブルームの発生をより抑制できる。
【0070】
(加硫活性剤)
前記加硫活性剤としては、金属酸化物、金属過酸化物、脂肪酸等が挙げられる。前記金属酸化物としては、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化鉛等が挙げられる。前記金属過酸化物としては、過酸化亜鉛、過酸化クロム、過酸化マグネシウム、過酸化カルシウム等が挙げられる。前記脂肪酸としては、ステアリン酸、オレイン酸、パルミチン酸等が挙げられる。これらの加硫活性剤は、単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0071】
前記加硫活性剤を配合する場合、前記加硫活性剤の合計含有量は、(A)基材ゴム100質量部に対して、0.5質量部以上が好ましく、より好ましくは0.6質量部以上、さらに好ましくは0.7質量部以上であり、10.0質量部以下が好ましく、より好ましくは9.5質量部以下、さらに好ましくは9.0質量部以下である。
【0072】
前記内層用ゴム組成物は、さらに必要に応じて、老化防止剤、軟化剤、スコーチ防止剤、着色剤等を配合してもよい。
【0073】
前記老化防止剤としては、イミダゾール類、アミン類、フェノール類、チオウレア類等が挙げられる。前記イミダゾール類としては、ジブチルジチオカルバミン酸ニッケル(NDIBC)、2-メルカプトベンズイミダゾール、2-メルカプトベンズイミダゾールの亜鉛塩等が挙げられる。アミン類としては、フェニル-α-ナフチルアミン等が挙げられる。フェノール類としては、2,2’-メチレンビス(4-メチル-6-t-ブチルフェノール)(MBMBP)、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノール等が挙げられる。チオウレア類としては、トリブチルチオ尿素、1,3-ビス(ジメチルアミノプロピル)-2-チオ尿素等が挙げられる。これらの老化防止剤は単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0074】
前記老化防止剤を配合する場合、老化防止剤の含有量は、(A)基材ゴム100質量部に対して、0.2質量部以上が好ましく、より好ましくは0.3質量部以上、さらに好ましくは0.4質量部以上であり、5.0質量部以下が好ましく、より好ましくは4.8質量部以下、さらに好ましくは4.6質量部以下である。
【0075】
前記軟化剤としては、鉱物油、可塑剤が挙げられる。前記鉱物油としては、パラフィンオイル、ナフテンオイル、アロマチックオイル等が挙げられる。前記可塑剤としては、ジオクチルフタレート、ジブチルフタレート、ジオクチルセパケート、ジオクチルアジペート等が挙げられる。
【0076】
前記スコーチ防止剤としては、有機酸、ニトロソ化合物等が挙げられる。前記有機酸としては、無水フタル酸、無水ピロメリット酸、無水トリメリット酸、安息香酸、サリチル酸、リンゴ酸等が挙げられる。前記ニトロソ化合物としては、N-ニトロソ・ジフェニルアミン、N-(シクロヘキシルチオ)フタルイミド、スルホンアミド誘導体、ジフェニルウレア、ビス(トリデシル)ペンタエリスルトールジホスファイト、2-メルカプトベンズイミダゾール等が挙げられる。
【0077】
前記内層をバルーン発泡法により多孔質構造とする場合、前記内層用ゴム組成物は、マイクロバルーンを含有する。前記マイクロバルーンとしては、有機マイクロバルーン、無機マイクロバルーンのいずれも使用できる。有機マイクロバルーンとしては、熱可塑性樹脂からなる中空粒子、熱可塑性樹脂の殻に低沸点炭化水素が内包された樹脂カプセル等が挙げられる。前記樹脂カプセルの具体例としては、Akzo Nobel社製のエクスパンセル、松本油脂製薬社製のマツモトマイクロスフェアー(登録商標)等が挙げられる。無機マイクロバルーンとしては、中空ガラス粒子(シリカバルーン、アルミナバルーン等)、中空セラミックス粒子等が挙げられる。
【0078】
前記樹脂カプセル(膨張前)の体積平均粒子径は、5μm以上が好ましく、より好ましくは6μm以上、さらに好ましくは9μm以上であり、90μm以下が好ましく、より好ましくは70μm以下、さらに好ましくは60μm以下である。
【0079】
バルーン発泡法により内層を作製する場合、前記内層用ゴム組成物中のマイクロバルーンの含有量は、基材ゴム100質量部に対して、6質量部以上が好ましく、より好ましくは7質量部以上、さらに好ましくは8質量部以上であり、16質量部以下が好ましく、より好ましくは15質量部以下、さらに好ましくは14質量部以下である。前記マイクロバルーンの含有量が6質量部以上であれば多孔質層を形成する際の発泡がより均一となり、16質量部以下であれば成形後のグリップに生じる外観不良をより抑制できる。
【0080】
前記内層用ゴム組成物は、従来公知の方法で調製できる。例えば、バンバリーミキサー、ニーダー、オープンロール等の混練機を用いて、各原料を混練りすることで調製できる。なお、内層用ゴム組成物がマイクロバルーンを含有する場合は、マイクロバルーン以外の成分を予め混練した後、この混練物とマイクロバルーンとを混練することが好ましい。前記混練物とマイクロバルーンとを混練する際の材料温度は、マイクロバルーンの膨張開始温度未満の温度に設定することが好ましい。
【0081】
前記内層用ゴム組成物のムーニー粘度(ML1+4(100℃))は、30以上が好ましく、より好ましくは32以上、さらに好ましくは34以上であり、70以下が好ましく、より好ましくは60以下、さらに好ましくは50以下である。前記ムーニー粘度(ML1+4(100℃))が30以上であればハンドリング性がより向上し、カレンダーロールによるシート出しが可能となり、70以下であれば発泡剤による多孔質構造の形成がより容易となる。
【0082】
前記内層用ゴム組成物の密度(加硫前の密度)は、1.00g/cm3以上が好ましく、より好ましくは1.02g/cm3以上であり、1.10g/cm3以下が好ましく、より好ましくは1.08g/cm3以下である。
【0083】
〔外層〕
本発明は、内層を形成する材料を改良することで、内層の耐へたり性を改善するものであり、外層の構造や外層を形成する材料は特に限定されない。
【0084】
前記外層は、中実層でもよいし、多孔質層でもよい。前記外層を多孔質層とすれば、ゴルフクラブ用グリップを軽量化できる。外層が多孔質層であれば、外層の見掛け密度が小さくなり、軽量化を図ることができる。
【0085】
前記外層を形成する材料としては、外層用ゴム組成物、樹脂組成物が挙げられる。前記外層は、外層用ゴム組成物から形成されていることが好ましい。
【0086】
前記外層用ゴム組成物としては、基材ゴムと架橋剤とを含有することが好ましい。前記外層用ゴム組成物中の基材ゴムの含有率は、50質量%以上が好ましく、より好ましくは55質量%以上、さらに好ましくは60質量%以上である。
【0087】
前記基材ゴムとしては、天然ゴム(NR)、エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)、ブチルゴム(IIR)、アクリロニトリル-ブタジエンゴム(NBR)、水素添加アクリロニトリル-ブタジエンゴム(HNBR)、カルボキシ変性アクリロニトリル-ブタジエンゴム(XNBR)、カルボキシ変性水素添加アクリロニトリル-ブタジエンゴム(HXNBR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、ポリウレタンゴム(PU)、イソプレンゴム(IR)、クロロプレンゴム(CR)、エチレン-プロピレンゴム(EPM)等が挙げられる。
【0088】
前記外層用ゴム組成物は、基材ゴムとして、アクリロニトリル-ブタジエン系ゴムを含有することが好ましい。アクリロニトリル-ブタジエン系ゴムを含有することで、外層の機械的強度が向上する。また、前記内層用ゴム組成物が(A)基材ゴムとしてアクリロニトリル-ブタジエン系ゴムを含有する場合、内層と外層との密着性が向上する。
【0089】
前記基材ゴム中のアクリロニトリル-ブタジエン系ゴムの含有率は、50質量%以上が好ましく、より好ましくは60質量%以上、さらに好ましくは70質量%以上である。また、外層用ゴム組成物が、基材ゴムとしてアクリロニトリル-ブタジエン系ゴムのみを含有することも好ましい。
【0090】
前記基材ゴムは、XNBR、HNBRおよびHXNBRよりなる群から選択される少なくとも1種が好ましく、特にHXNBRが好ましい。つまり、外層が、カルボキシ変性アクリロニトリル-ブタジエンゴム(XNBR)、水素添加アクリロニトリル-ブタジエンゴム(HNBR)、カルボキシ変性水素添加アクリロニトリル-ブタジエンゴム(HXNBR)よりなる群から選択される少なくとも1種を含有することが好ましく、HXNBRを含有することがより好ましい。外層が基材ゴムとしてこれらのゴムを含有することで、グリップの耐摩耗性および耐候性が向上する。
【0091】
前記外層に使用するXNBR、HNBR、HXNBRにおいて、アクリロニトリル含有率は、15質量%以上が好ましく、より好ましくは18質量%以上、さらに好ましくは21質量%以上であり、50質量%以下が好ましく、より好ましくは45質量%以下、さらに好ましくは40質量%以下である。アクリロニトリル含有率が15質量%以上であれば耐摩耗性が良好となり、50質量%以下であれば寒冷地や冬場におけるグリップの触感が良好となる。
【0092】
前記HNBR、HXNBRにおいて、二重結合含有量は、0.09mmol/g以上が好ましく、より好ましくは0.2mmol/g以上であり、2.5mmol/g以下が好ましく、より好ましくは2.0mmol/g以下、さらに好ましくは1.5mmol/g以下である。二重結合含有量が0.09mmol/g以上であれば成形時に加硫しやすくなりグリップの引張強度がより向上し、2.5mmol/g以下であればグリップの耐久性(耐候性)および引張強さがより良好となる。二重結合含有量は、共重合体中のブタジエン含有率や、共重合体への水素添加量により調整できる。
【0093】
前記XNBR、HXNBRにおいて、カルボキシ基を有する単量体としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、フマル酸、マレイン酸等が挙げられる。前記XNBR、HXNBRにおいて、カルボキシ基を含有する単量体の含有率は、1.0質量%以上が好ましく、より好ましくは2.0質量%以上、さらに好ましくは3.5質量%以上であり、30質量%以下が好ましく、より好ましくは25質量%以下、さらに好ましくは20質量%以下である。カルボキシ基を含有する単量体の含有率が1.0質量%以上であれば耐摩耗性がより良好となり、30質量%以下であれば寒冷地や冬場におけるグリップの触感が良好となる。
【0094】
前記XNBR、HXNBRにおいて、カルボキシ基含有量は、1.0質量%以上が好ましく、より好ましくは2.0質量%以上、さらに好ましくは3.5質量%以上であり、30質量%以下が好ましく、より好ましくは25質量%以下、さらに好ましくは20質量%以下である。カルボキシ基含有量が1.0質量%以上であれば耐摩耗性がより良好となり、30質量%以下であれば寒冷地や冬場におけるグリップの触感が良好となる。
【0095】
前記外層用のゴム組成物の架橋剤としては、前記内層用ゴム組成物に使用されるものと同じものが挙げられ、単体硫黄が好ましい。前記外層用ゴム組成物は、さらに加硫促進剤、加硫活性剤を含有することが好ましい。これらの加硫促進剤、加硫活性剤としては前記内層用ゴム組成物に使用されるものと同じものが挙げられる。前記加硫促進剤としては、チウラム系加硫促進剤、チオウレア系加硫促進剤が好ましい。前記加硫活性剤としては、酸化亜鉛、ステアリン酸が好ましい。
【0096】
前記外層用ゴム組成物は、さらに必要に応じて補強材、老化防止剤、軟化剤、着色剤、スコーチ防止剤、発泡剤(マイクロバルーン等)等を配合してもよい。これらの補強材、老化防止剤、着色剤としては前記内層用ゴム組成物に使用されるものと同じものが挙げられる。前記補強材としては、カーボンブラック、シリカが好ましい。
【0097】
前記外層用ゴム組成物は、従来公知の方法で調製できる。例えば、バンバリーミキサー、ニーダー、オープンロール等の混練機を用いて、各原料を混練りすることで調製できる。混練りする際の温度(材料温度)は、70℃~160℃が好ましい。なお、外層用ゴム組成物がマイクロバルーンを含有する場合は、マイクロバルーンの膨張開始温度未満の温度で混練りすることが好ましい。
【0098】
前記樹脂組成物は、基材樹脂を含有する。前記基材樹脂としては、ポリウレタン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、エチレン酢酸ビニル共重合体樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂等が挙げられる。
【0099】
(ゴルフクラブ用グリップの構造)
前記ゴルフクラブ用グリップは、円筒状の内層と、前記内層を被覆する円筒状の外層とからなる円筒部を有する。
【0100】
前記外層と内層の組合せとしては、中実外層と多孔質内層、多孔質外層と多孔質内層が挙げられる。
【0101】
ゴルフクラブ用グリップは、例えば、ゴム組成物を、金型内で成形することで得られる。成型方法としては、プレス成形、射出成形が挙げられる。ゴルフクラブ用グリップは、例えば、前記外層用ゴム組成物から形成した未加硫のゴムシートと、前記内層用ゴム組成物から形成した未加硫のゴムシートとの積層物を、金型内でプレス成形することで得られる。プレス成形を採用する場合、金型温度は140℃~200℃が好ましく、成形時間は5分間~40分間が好ましく、成形圧力は0.1MPa~100MPaが好ましい。
【0102】
ゴルフクラブ用グリップの形状としては、例えば、シャフトが挿嵌される円筒部と、前記円筒部の後端の開口を覆うように一体形成されたキャップ部とを有する形状が挙げられる。そして、前記円筒部は内層と外層との積層構造を有している。
【0103】
前記円筒部の厚さは、0.5mm以上が好ましく、より好ましくは1.0mm以上、さらに好ましくは1.5mm以上であり、17.0mm以下が好ましく、より好ましくは10.0mm以下、さらに好ましくは8.0mm以下である。
【0104】
前記円筒部の厚さが0.5mm~17.0mmの場合、前記内層の厚さは、0mm超が好ましく、より好ましくは0.6mm以上、さらに好ましくは0.8mm以上であり、16.5mm以下が好ましく、より好ましくは16.4mm以下、さらに好ましくは16.3mm以下である。前記内層の厚さが0.2mm以上であればグリップの軽量化効果がより大きくなり、16.5mm以下であれば相対的に表層の厚さが厚くなり、グリップの機械的強度がより向上する。
【0105】
前記円筒部の厚さに対する内層の厚さの百分率((内層厚さ/円筒部厚さ)×100)は、0%超が好ましく、より好ましくは0.5%以上、さらに好ましくは1.0%以上であり、97%以下が好ましく、より好ましくは96%以下、さらに好ましくは95%以下である。前記百分率が0%超であればグリップの軽量化効果がより大きくなり、97%以下であれば相対的に表層の厚さが厚くなり、グリップの機械的強度がより向上する。
【0106】
前記外層の厚さおよび内層の厚さは、均一としてもよいし、変化をつけてもよい。例えば、円筒状グリップの軸方向に、一方端から他方端に向かって徐々に厚くなるように形成してもよい。前記外層の厚さは、均一であることが好ましい。また、円筒部の厚みは、円周方向全体が一定となるように形成してもよいし、一部に凸条部分(いわゆるバックライン)を設けてもよい。また、円筒部の表面には溝を設けてもよい。溝により、ゴルファーの手とグリップとの間の水膜形成が抑制され、ウェット状態でのグリップ性能がより向上する。さらに、グリップの防滑性能および耐摩耗性の観点から、グリップ内に補強コードを配設してもよい。
【0107】
前記ゴルフクラブグリップの質量は、16g以上が好ましく、より好ましくは18g以上、さらに好ましくは20g以上であり、35g以下が好ましく、より好ましくは32g以下、さらに好ましくは30g以下である。
【0108】
[ゴルフクラブ]
本発明には、前記ゴルフクラブ用グリップを用いたゴルフクラブも含まれる。前記ゴルフクラブは、シャフトと、前記シャフトの一端に取り付けられたヘッドと、前記シャフトの他端に取り付けられたグリップとを備え、前記グリップが前記ゴルフクラブ用グリップである。前記シャフトは、ステンレス鋼製や炭素繊維強化樹脂製が使用できる。前記ヘッドとしては、ウッド型、ユーティリティ型、アイアン型が挙げられる。前記ヘッドを構成する材料は、特に限定されるものではなく、例えばチタン、チタン合金、炭素繊維強化プラスチック、ステンレス鋼、マルエージング鋼、軟鉄等が挙げられる。
【0109】
以下、図面を参照して、ゴルフクラブ用グリップおよびゴルフクラブについて説明する。図1は、ゴルフクラブ用グリップの一例を示す斜視図である。グリップ1は、シャフトが挿嵌される円筒部2と、前記円筒部の後端の開口を覆うように一体形成されたキャップ部3とを有する。
【0110】
図2は、ゴルフクラブ用グリップの一例を示す断面模式図である。前記円筒部2は、内層2aと外層2bから構成されている。そして、前記外層2bは先端部から後端部にわたり厚さが均一に形成されている。前記内層2aの厚みは、先端部から後端部に向かって徐々に厚くなるように形成されている。図2に示したグリップ1では、キャップ部3は外層2bと同様のゴム組成物から形成されている。
【0111】
図3は、本発明のゴルフクラブ用グリップを備えたゴルフクラブの一例を示す斜視図である。ゴルフクラブ4は、シャフト5と、前記シャフト5の一端に取り付けられたヘッド6と、前記シャフト4の他端に取り付けられたグリップ1とを備えている。グリップ1の円筒部2にシャフト5の後端が嵌入されている。
【実施例0112】
以下、本発明を実施例によって詳細に説明するが、本発明は、下記実施例によって限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲の変更、実施の態様は、いずれも本発明の範囲内に含まれる。
【0113】
[評価方法]
(1)アクリロニトリル含有率
アクリロニトリル含有率は、水素添加前のアクリロニトリル-ブタジエンゴムについて、ISO 24698-1(2008)により測定した。
【0114】
(2)二重結合含有量(mmol/g)
二重結合含有量は、共重合体中のブタジエン含有率(質量%)と残存二重結合量(%)から算出した。前記残存二重結合量とは、水素添加前の共重合体中の二重結合と水素添加後の共重合体中の二重結合との質量比(水素添加後の二重結合量/水素添加前の二重結合量)であり、赤外分光法により測定できる。アクリロニトリル-ブタジエンゴムが、アクリロニトリル-ブタジエン2元共重合体の場合、共重合体中のブタジエン含有率は100からアクリロニトリル含有率(質量%)を減ずることで求められる。
二重結合量={ブタジエン含有率/54}×残存二重結合量×10
【0115】
(3)カルボキシ基を含有する単量体の含有率
水素添加アクリロニトリル-ブタジエンゴムを1g量りとり、クロロホルム50mLに溶解させ、ここにチモールブルー指示薬を滴下した。この溶液を攪拌しながら、水酸化ナトリウムの0.05mol/Lメタノール溶液を滴下し、最初に変色するまでの滴下量(VmL)を記録した。ブランクとして水素添加アクリロニトリル-ブタジエンゴムを含有しないクロロホルム50mLについても、チモールブルーを指示薬として、水酸化ナトリウムの0.05mol/Lメタノール溶液を滴下し、最初に変色するまでの滴下量(BmL)を記録した。下記式により、カルボキシ基含有率を算出した。
カルボキシ基含有単量体含有率={0.05×(V-B)×PM}/(10×X)
(式中、V:試験溶液の水酸化ナトリウム溶液滴下量(mL)、B:ブランクの水酸化ナトリウム溶液滴下量(mL)、PM:カルボキシ基含有単量体の分子量、X:カルボキシ基含有単量体の価数)
【0116】
(4)ムーニー粘度
ゴム組成物のムーニー粘度は、JIS K 6300-1(2013)に準じて測定した。測定は、ローラの形状をL形、測定温度100℃、予熱時間1分間、ロータの回転時間4分間で行った。
【0117】
(5)加硫試験
ゴム組成物について、加硫試験機(JSRトレーディング株式会社製、キュラストメーター(登録商標)7型)を用いて、表2に記載の加硫温度で加硫試験を行った。JIS K6300-2(2001)の「振動式加硫試験機による加硫特性の求め方」の「9.ダイ加硫試験A法」に従い、下ダイからゴム試験片に破壊しない程度の低振幅の正弦波振動を与え、試験片から上ダイに伝わるトルクを未加硫から過加硫に至るまで測定した。測定条件は、加硫温度165℃、ねじり振動数を毎分100回、振幅角を1°、測定時間30分間とした。得られた加硫曲線から、トルクの最大値(MH)を求めた。
【0118】
(6)硬度(ショアA硬度)
ゴム組成物を用いて、グリップの製造と同様の条件で加熱プレスして、厚み2mmのシートを作製した。このシートを、23℃で2週間保存し、測定基板等の影響が出ないように、3枚重ねた状態で、自動硬度計(H.バーレイス社製、デジテストII)を用いて硬度を測定した。検出器は、「Shore A」を用いた。
【0119】
(7)密度
ゴム組成物を用いて、グリップの製造と同様の条件で加熱プレスして、13cm角で厚み2mmのシートを作製した。このシートから2cm角に打ち抜いて、試験片を作製した。得られた試験片の密度を、自動比重計(エムエステック社製、SP-GR1、アルキメデスの原理)を用いて測定した。
【0120】
(8)引張試験
引張試験は、JIS K 6251(2017)に準拠して行った。具体的には、ゴム組成物を用いて、グリップの製造と同様の条件で加熱プレスして、厚さ1mmのシートを作製し、これをダンベル形状(ダンベル状3号形)に打ち抜いて試験片を作製した。引張試験測定装置(島津製作所社製、オートグラフAGS-D)を用いて物性を測定した(測定温度23℃、引張速度500mm/分)。そして、伸び25%における引張応力(Se25)、切断時伸び(Eb)を求めた。
【0121】
(9)粘弾性
損失正接(tanδ)、貯蔵弾性率(E’)は、動的粘弾性測定装置(ユービーエム社
製、Rheogel-E4000)を用いて測定した。
試験試料は、グリップを厚さ方向に2mmの厚さにスライスし、これを所定サイズに打ち抜くことにより作製した。測定条件は、温度;-100℃~100℃、昇温速度;3℃/min、測定間隔;3℃、周波数;10Hz、歪振幅;10%、治具;引張り、試料形状;幅4mm、厚さ2mm、長さ40mmとした。動的粘弾性測定により得られた粘弾性スペクトルから25℃、60℃におけるtanδおよびE’を求めた。
【0122】
(10)耐へたり性
耐へたり性は、JIS K 6262(2013)に準拠して圧縮永久ひずみを測定し、この圧縮永久ひずみの逆数を耐へたり性とした。
発泡剤を含む内層配合で円筒状のプラグを作製し、2倍の発泡倍率で、直径29mm、厚さ12.5mmの円柱状の試験片を作製した。
試験片とスペーサー(厚さ9.38mm)を、圧縮板で挟み、圧縮板がスペーサーに密着するまで試験片を圧縮させ、この状態で圧縮板を固定した。試験片を圧縮した圧縮板を恒温槽(25℃、60℃)の中で22時間放置した。22時間経過後、恒温槽から取り出し、直ちに圧縮板から試験片を取り出した。圧縮から解放した試験片を、23℃で30分間放置した後、厚さを測定した。下記式より圧縮永久ひずみ(CS)を算出した。
CS=(t0-t2)/(t0-t1)×100
[CS:圧縮永久ひずみ(%)
t0:試験前の試験片の厚さ(mm)
t1:スペーサーの厚さ(mm)
t2:圧縮解放から30分後の試験片の厚さ(mm)]
次に、上記で得た圧縮永久ひずみの逆数を求め、これを耐へたり性とした。耐へたり性は、値が大きい程、圧縮永久ひずみが小さいことを示す。なお、表3では、グリップNo.4の耐へたり性を100として、指数化した値で示した。
【0123】
(11)グリップ加圧試験
シャフトに挿入したグリップのバッドから5cmの位置に、重さ1kgのオモリ(幅50mm、長さ108mm)を載せ、25℃または60℃の雰囲気下で、1カ月間放置した後、外観を目視で観察し、評価した。
5点:へたりが非常に小さかった。
4点:へたりが小さかった。
3点:へたりがやや大きかった。
2点:へたりが大きかった。
1点:著しいへたりがあった。
【0124】
[グリップの作製]
表1、2に示す配合で各原料を混練し、外層用ゴム組成物および内層用ゴム組成物を調製した。なお、外層用ゴム組成物は、全ての原料をバンバリーミキサーで混練した。内層用ゴム組成物は、マイクロバルーン以外の原料をバンバリーミキサーで混練し、その後、ロールを用いてマイクロバルーンを配合した。内層用ゴム組成物のバンバリーミキサーの混練時の材料温度およびロールによりマイクロバルーンを配合する際の材料温度は、マイクロバルーンの膨張開始温度未満とした。内層用ゴム組成物の密度は1.02g/cm3~1.08g/cm3であった。
【0125】
【表1】
【0126】
【表2】
【0127】
表1、2で用いた材料は下記のとおりである。
HXNBR:水素添加カルボキシ変性アクリロニトリル-ブタジエンゴム(ARANXEO社製、THERBAN(登録商標) XT VPKA 8889(残存二重結合量3.5%、アクリロニトリル含有率33.0質量%、二重結合含有量0.40mmol/g、カルボキシ基含有単量体含有率5.0質量%))
HNBR:水素添加アクリロニトリル-ブタジエンゴム(ARANXEO社製、THERBAN AT 3443 VP(残存二重結合量4.0%、アクリロニトリル含有率34質量%、二重結合含有量0.59mmol/g))
NBR-1:アクリロニトリル-ブタジエンゴム(JSR社製、N240S(アクリロニトリル含有率26質量%))
NBR-2:アクリロニトリル-ブタジエンゴム(日本ゼオン社製、Nipol DN401LL(アクリロニトリル含有率18.0質量%))
硫黄:鶴見化学工業社製、5%油入微粉硫黄(200メッシュ)
バルノック(登録商標)R:大内新興化学工業社製、4,4'-ジチオジモルホリン
カーボンブラック:東海カーボン社製、シースト(SEAST)(登録商標)3
EVA:エチレン-酢酸ビニル共重合体(ARANXEO社製、Levapren(登録商標)500(酢酸ビニル含有率50質量%、融点100±5℃、ムーニー粘度(ML1+4(100℃))27)
SYLVATAC RE-5S:Arizona Chemical製、ロジンエステル(融点25℃以下)
カーボンカップリング剤:住友化学社製、スミリンク(登録商標)100
TBzTD:三新化学工業社製、「サンセラー(登録商標)TBzTD」(テトラベンジルチウラムジスルフィド)
TOT-N:大内新興化学工業社製、「ノクセラー(登録商標)TOT-N」(テトラキス(2-エチルヘキシル)チウラムジスルフィド)
EUR:大内新興化学工業社製、「ノクセラーEUR」(N,N'-ジエチルチオ尿素)
MBTS:大内新興化学工業社製、「ノクセラーDM-P」(ジ-2-ベンゾチアゾールジスルフィド)
DPG:大内新興化学工業社製、「ノクセラーD」(1,3-ジフェニルグアニジン)
過酸化亜鉛:struktol社製、struktol ZP 1014(過酸化亜鉛含有量29質量%)
酸化亜鉛:東邦亜鉛社製、銀嶺R
マイクロバルーン:Akzo Nobel社製、「エクスパンセル(登録商標)909-80DU」(熱可塑性樹脂の殻に低沸点炭化水素が内包された樹脂カプセル、体積平均粒子径18μm~24μm、膨張開始温度120℃~130℃)
【0128】
前記外層用ゴム組成物を用いて、扇台形状の未加硫のゴムシートおよびキャップ部材を作製した。なお、外層用ゴムシートは一定の厚さとなるように成形した。前記内層用ゴム組成物を用いて、長方形状の未加硫のゴムシートを作製した。なお、内層用ゴムシートは、一方端から他方端に向かって徐々に厚くなるように形成した。マンドレルに内層用ゴムシートを巻き付け、この上に外層用ゴムシートを重ねて巻き付けた。これらのゴムシートを巻き付けたマンドレルおよびキャップ部材を、キャビティ面に溝パターンを備えた金型に投入した。そして、金型温度160℃、加熱時間15分間で熱処理を行い、ゴルフクラブ用グリップを得た。得られたゴルフクラブ用グリップの円筒部の厚さは、最薄部(ヘッド側端部)が1.5mm、最厚部(グリップエンド側端部)が6.7mmであった。また、得られたグリップの表面は、研磨紙(#80)でバフ研磨を行った。各グリップの評価結果を表3に示した。
【0129】
【表3】
【0130】
グリップNo.1~3は、内層の密度(D)が0.30g/cm3~0.90g/cm3であり、貯蔵弾性率(E’25)が9.0MPa以下、貯蔵弾性率(E’60)が7.0MPa以下であり、比(E’25/D)が10.5以下、比(E’60/D)が9.5以下である。これらのグリップNo.1~3は、25℃および60℃のいずれにおいてもグリップのへたりが抑制されていた。
【0131】
本発明(1)は、円筒状の内層と、前記内層を被覆する円筒状の外層とからなる円筒部を有し、前記内層が多孔質構造であり、前記内層の密度(D)が0.30g/cm3~0.90g/cm3であり、前記内層は、動的粘弾性装置を用いて、加振周波数10Hz、歪振幅0.05%、引張モードの測定条件で測定した、25℃における貯蔵弾性率(E’25)が9.0MPa以下、60℃における貯蔵弾性率(E’60)が7.0MPa以下であり、前記25℃における貯蔵弾性率(E’25)(MPa)と密度(D)(g/cm3)との比(E’25/D)が10.5以下であり、前記60℃における貯蔵弾性率(E’60)(MPa)と密度(D)(g/cm3)との比(E’60/D)が9.5以下であることを特徴とするゴルフクラブ用グリップである。
【0132】
本発明(2)は、前記内層を形成する内層用ゴム組成物について、加硫温度165℃で測定した加硫曲線における最大トルクをMH(N・m)とし、前記内層を、動的粘弾性装置を用いて、加振周波数10Hz、歪振幅0.05%、引張モードの測定条件で測定した、25℃における損失正接をtanδ25、60℃における損失正接をtanδ60としたとき、前記最大トルクMH(N・m)と25℃における損失正接(tanδ25)との積(tanδ25×MH)が0.1以上であり、前記最大トルクMH(N・m)と60℃における損失正接(tanδ60)との積(tanδ60×MH)が0.1以上である本発明(1)に記載のゴルフクラブ用グリップである。
【0133】
本発明(3)は、前記内層を形成する内層用ゴム組成物について、加硫温度165℃で測定した加硫曲線における最大トルク(MH)が、0.91N・m以上である本発明(1)または(2)に記載のゴルフクラブ用グリップである。
【0134】
本発明(4)は、前記内層は、引張試験により求めた切断時伸び(Eb)(%)と密度(D)(g/cm3)との比(Eb/D)が、660以下である本発明(1)~(3)のいずれか1項に記載のゴルフクラブ用グリップ。
【0135】
本発明(5)は、前記内層は、引張試験により求めた伸び25%における引張応力(Se25)(MPa)と密度(D)(g/cm3)との比(Se25/D)が、0.7~1.5である本発明(1)~(4)のいずれか1項に記載のゴルフクラブ用グリップである。
【0136】
本発明(6)は、前記比(E’25/D)が、0.3~10.5である本発明(1)~(5)のいずれか1項に記載のゴルフクラブ用グリップである。
【0137】
本発明(7)は、前記比(E’60/D)が、0.3~9.5である本発明(1)~(6)のいずれか1項に記載のゴルフクラブ用グリップである。
【0138】
本発明(8)は、前記内層を形成する内層用ゴム組成物が、基材ゴムとして、アクリロニトリル-ブタジエンゴム(NBR)と水素添加アクリロニトリル-ブタジエンゴム(HNBR)を含有する本発明(1)~(7)のいずれか1項に記載のゴルフクラブ用グリップである。
【0139】
本発明(9)は、前記内層を形成する内層用ゴム組成物が、カーボンブラックとカーボンカップリング剤を含有する本発明(8)に記載のゴルフクラブ用グリップである。
【0140】
本発明(10)は、前記内層を形成する内層用ゴム組成物が、加硫剤として、単体硫黄とモルホリン系硫黄ドナー型化合物を含有し、かつ、2種類以上の加硫促進剤を含有する本発明(8)または(9)に記載のゴルフクラブ用グリップである。
【符号の説明】
【0141】
1:グリップ、2:円筒部、2a:内層、2b:外層、3:キャップ部、4:ゴルフクラブ、5:シャフト、6:ヘッド
図1
図2
図3