(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024157798
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】平底円筒タンクの耐震補強装置及び耐震補強方法
(51)【国際特許分類】
B65D 90/22 20060101AFI20241031BHJP
E04G 23/02 20060101ALI20241031BHJP
B65D 90/12 20060101ALI20241031BHJP
【FI】
B65D90/22 D
E04G23/02 F
B65D90/12 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023072381
(22)【出願日】2023-04-26
(71)【出願人】
【識別番号】507250427
【氏名又は名称】日立GEニュークリア・エナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001829
【氏名又は名称】弁理士法人開知
(72)【発明者】
【氏名】山田 翔輝
【テーマコード(参考)】
2E176
3E170
【Fターム(参考)】
2E176AA15
2E176BB28
3E170AA03
3E170AB02
3E170QA05
3E170SA02
3E170SA09
3E170SA20
3E170VA17
(57)【要約】
【課題】既設のタンク内の貯蔵水を水抜きせずに、基礎ボルトを追設することなく耐震補強構造とすることができる平底円筒タンクの他の設備との干渉が少ない耐震補強装置及び耐震補強方法を提供する。
【解決手段】設置面から突出している基礎台5の上に固定された底板3と、この底板3の上に設けられた円筒状の胴体2と、からなる平底円筒タンクの耐震性を補強する装置であって、基礎台5の周囲に設けられた固定金具8と、固定金具8に固定されたストッパ10と、胴体2を押さえる補強プレート11と、ストッパ10を起点として、締付により補強プレート11を胴体2に押さえつけて固定する締具9と、を備える。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
設置面から突出している基礎台の上に固定された底板と、この底板の上に設けられた円筒状の胴体と、からなる平底円筒タンクの耐震性を補強する耐震補強装置であって、
前記基礎台の周囲に設けられた固定金具と、
前記固定金具に固定された補強金具と、
前記胴体を押さえる補強プレートと、
前記補強金具を起点として、締付により前記補強プレートを前記胴体に押さえつけて固定する締具と、を備える
耐震補強装置。
【請求項2】
請求項1に記載の耐震補強装置において、
前記固定金具を前記基礎台を取り囲むように設けた
耐震補強装置。
【請求項3】
請求項1に記載の耐震補強装置において、
前記補強金具、前記補強プレート、及び前記締具を複数備える
耐震補強装置。
【請求項4】
請求項2に記載の耐震補強装置において、
前記固定金具は、複数の部品から構成される
耐震補強装置。
【請求項5】
請求項2に記載の耐震補強装置において、
前記補強金具、前記補強プレート、及び前記締具が、前記基礎台を等間隔で取り囲むようにそれぞれ複数配置されている
耐震補強装置。
【請求項6】
請求項1に記載の耐震補強装置において、
前記締具は、締付長さを計測する目盛りを有する
耐震補強装置。
【請求項7】
請求項1に記載の耐震補強装置において、
前記補強金具は、ネジ切り穴を有し
前記締具は、前記ネジ切り穴に挿入されるボルトである
耐震補強装置。
【請求項8】
設置面から突出している基礎台の上に固定された底板と、この底板の上に設けられた円筒状の胴体と、からなる平底円筒タンクの耐震性を補強する耐震補強方法であって、
固定金具に補強金具を固定する手順と、
前記基礎台の周囲に前記補強金具が固定された前記固定金具を設置する手順と、
前記胴体を押さえる補強プレートを前記胴体の横に設置する手順と、
前記補強金具を起点として、締付により前記補強プレートを前記胴体に押さえつけて固定する手順と、を有する
耐震補強方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子力発電所等の敷地内に設置する非常用水源を貯蔵する平底円筒タンクの耐震補強装置及び耐震補強方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、原子力発電所内にコンクリートにて形成された基礎台上にボルトで固定された底板と、この底板上に円筒状の胴体とからなる平底円筒タンクの耐震補強装置であって、底板の外周に位置する基礎台に取り付けられた耐震補強基礎ボルトに耐震補強底板を固定し、この耐震補強底板と底板を溶接にて取付けるとともに、耐震補強底板の耐震補強ボルトと底板のボルトとが二列になるように円周上に配置した、ことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
原子力発電所等の敷地内に設置されている平底円筒タンクは、耐震設計が行われた構造となっている。
【0005】
近年、平底円筒タンクにおいては、東日本大震災を契機に地震震度の見直しによる高耐震性構造の設計及び津波対策構造の設計が要求されている。
【0006】
平底円筒タンクのうち、既に設置されているタンクの中には、高耐震性構造になっていないものがある。このようなタンクに対しては、対策補強工事が必要になる。
【0007】
平底円筒タンクの耐震補強部材に関連する従来技術としては、例えば特許文献1のような技術がある。
【0008】
原子力発電所内に設置されているタンクのうち非常用水源を貯蔵する平底円筒タンクは、タンク内貯蔵水を長期間水抜きすることができないため、タンク一式取替えが困難であった。
【0009】
また、タンク内貯蔵水を水抜きせずに溶接による補強工事を行うことは不可能であった。
【0010】
更に、既設設備の耐震補強工事を行う場合に、空いているスペースが限られる。例えば、配管との干渉の考慮も必要となるため、特許文献1のような大型の補強装置の採用は困難な場合もある。
【0011】
また、既設設備では建設時の基準で強度が設定されているため、追設によりその基準を上回る可能性があることから、特許文献1のような基礎ボルトの追設は困難である場合もある。
【0012】
そこで本発明の目的は、既設のタンク内の貯蔵水を水抜きせずに、基礎ボルトを追設することなく耐震補強構造とすることができる平底円筒タンクの他の設備との干渉が少ない耐震補強装置及び耐震補強方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、上記課題を解決する手段を複数含んでいるが、その一例を挙げるならば、設置面から突出している基礎台の上に固定された底板と、この底板の上に設けられた円筒状の胴体と、からなる平底円筒タンクの耐震性を補強する耐震補強装置であって、前記基礎台の周囲に設けられた固定金具と、前記固定金具に固定された補強金具と、前記胴体を押さえる補強プレートと、前記補強金具を起点として、締付により前記補強プレートを前記胴体に押さえつけて固定する締具と、を備える。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、既存のタンク内の貯蔵水を水抜きせずに、基礎ボルトを追設することなく耐震補強構造とすることができる。上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施例の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図2】本発明の実施例に係る平底円筒タンク本体の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の平底円筒タンクの耐震補強装置及び耐震補強方法の実施例について
図1乃至
図3を用いて説明する。なお、本明細書で用いる図面において、同一のまたは対応する構成要素には同一、または類似の符号を付け、これらの構成要素については繰り返しの説明を省略する場合がある。
【0017】
最初に、参考のために既設の平底円筒タンクの概要について
図1を用いて説明する。
図1は、平底円筒タンクの断面図である。
【0018】
図1に示すように、平底円筒タンク本体1は直径約3.3m、高さ約4.2mの大きさとなっており、本実施例では原子力発電所で使用される冷却水の貯蔵用タンクとなっている。この平底円筒タンク本体1は胴体2部分と底板3部分とで構成されている。
【0019】
胴体2は、
図1に示すように底板3上に中心軸を合わせて溶接されている。底板3は基礎台5に基礎ボルト6にて取り付けられている。
【0020】
平底円筒タンク本体1の内部には
図1に示すように貯蔵水4が収納されている。この貯蔵水4は非常用水源として常に貯蔵しておく必要がある。
【0021】
底板3は
図1に示すように基礎台5にあらかじめ埋設された基礎ボルト6(アンカーボルトともいう)で挿入されて固定される。基礎台5はコンクリートで構成されており、基礎台5に埋設された基礎ボルト6に底板3を挿入した後でナット7を締め付けて底板3が固定されるようになっている。
【0022】
図1において、例えば平底円筒タンク本体1に対して水平方向に地震力F1が働いたとすると、基礎ボルト6には引張応力σ1とせん断応力τ1が発生するとともに、平底円筒タンク本体1に対しては内部の貯蔵水4とともに転倒モーメントM1が発生することになる。
【0023】
そのため、平底円筒タンク本体1の基礎台5は引張応力σ1とせん断応力τ1によって基礎ボルト6ごと剥がれてしまう可能性がある。その状態から津波が発生した場合には平底円筒タンク本体1は浮き上がり、流されてしまうこともありうる。
【0024】
ところで、これから新たに建造される平底円筒タンク本体は、当然、耐震補強対策に基づく設計が施されることになる。しかし、既に建造された平底円筒タンク本体については上述したように、底板と耐震補強底板を溶接するなどして耐震補強工事が行われることになる。
【0025】
しかしながら、溶接する際の熱や基礎ボルトの追加の打ち込みにより、基礎台として使用している設置面12を構成するコンクリートが劣化する可能性がある。
【0026】
また、平底円筒タンクは原子力発電機器の非常用水源であるため、タンク内から貯蔵水を長期間水抜きすることができないが、タンク内貯蔵水を水抜きすることなく溶接による胴体周囲への耐震補強部材取付けは不可能であることから、溶接とは異なる対策が必要となる。
【0027】
更に、既設設備の耐震補強工事をする場合、空いているスペースが限られており、配管との干渉の考慮も必要となるため、可能な限りスペースを占有しないコンパクトな装置が好まれる。
【0028】
このように、既に稼働中の平底円筒タンク本体に対する耐震補強工事には制約があった。
【0029】
そこで、本発明者らはタンク内の貯蔵水を抜くことなく、簡単に耐震補強工事を行うことが可能な地震対策を種々検討した結果、以下のような耐震補強装置及び耐震補強方法を発想した。
【0030】
以下、本発明の一実施例を
図2及び
図3を用いて説明する。
図2は本発明の実施例に係る平底円筒タンク本体の平面図、
図3は
図2のB-B線断面図である。
【0031】
なお、平底円筒タンクは、底板3と胴体2との間に円筒状の板材であるスカートがあるものを含むが、本実施例ではスカートがないタンクを例に説明する。
【0032】
図2及び
図3に示すように、実施例の耐震補強装置は、設置面12から突出している基礎台5の上に固定された底板3と、この底板3の上に設けられた円筒状の胴体2と、からなる平底円筒タンクの耐震性を補強するための装置であって、基礎台5の周囲に設けられた固定金具8と、固定金具8に固定された計4個のストッパ10と、胴体2を押さえる計4枚の補強プレート11と、ストッパ10を起点として、締付により補強プレート11を胴体2に押さえつけて固定する計4個の締具9と、を備えている。
【0033】
固定金具8は、平底円筒タンク本体1が据え付けられた基礎台5の周囲を囲うよう取り付けられている。この固定金具8は締具9を支えるストッパ10を固定するために用いられ、平底円筒タンク本体1に対する周方向の高さは一定で、基礎台5を取り囲むように全周巻きとなっている。また、固定金具8は、好適には周方向に分割された複数のパーツから構成されており、ボルトとナットなどにより複数の固定金具8が周方向で連結される構造となっている。なお、基礎台5の周囲を囲うリング状の形状であってもよい。
【0034】
ストッパ10は、固定金具8の上端に例えば溶接にて取り付けられており、ボルトなどからなる締具9を受けるネジ切り加工された貫通孔を有している。
【0035】
締具9は、上述のようにストッパ10の貫通孔に挿入されるボルトなどで構成され、締付長さを計測する目盛りを有している。この締具9の頭とは反対側の先端が補強プレート11と接触し、補強プレート11を胴体2側へ押圧する。
【0036】
本実施例の耐震補強装置では、平底円筒タンク本体1の胴体2を、補強プレート11を介して締具9により転倒モーメントを抑制する構造である。
【0037】
そのため、好適には、ストッパ10、補強プレート11、及び締具9は、基礎台5を等間隔で取り囲むようにそれぞれ複数配置されていることが望ましい。例えば
図2に示すように、90度間隔で計4個設けることができる。
【0038】
補強プレート11の鉛直方向高さ方向の長さは、平底円筒タンク本体1内側の非常用水の量や、設置主体がどの程度耐震性を求めるかによって決まるため、一義には決まらない。
【0039】
補強プレート11の周方向の数は、全周方向に設けることが望ましいが、その場合は補強プレート11や固定金具8等が大掛かりになることから、その重量が増すため、少なくとも周方向で1個、より好適には2個以上であることが望ましい。
【0040】
締具9が補強プレート11を押す位置についても補強プレート11の中央部分が望ましいが、その場合、固定金具8の鉛直方向の高さが必要となり大掛かりとなるため、どの程度の耐震性を要求されるかに応じて適宜決定することができる。
【0041】
なお、ストッパ10、補強プレート11、及び締具9を同数だけ複数備える場合について説明したが、周方向に長さのある補強プレートを、固定金具8に固定されたストッパ10を起点に複数の締具9で周方向外側から押圧するなど、同数である必要はない。
【0042】
図3に示すように、水平方向地震力F2が働いた場合、胴体2には転倒モーメントM2が作用する。この場合、本発明の補強プレート11に転倒防止モーメントmが生じ、胴体2に作用する転倒モーメントM(=M2-m)は小さくなる。このように、補強プレート11が胴体2を支持することで、水平方向地震力F2により、転倒モーメントMを低減することができる。
【0043】
また、補強プレート11による胴体2への転倒モーメントMを低減させることができることから、基礎ボルト6に生じる引張応力σ2及びせん断応力τ2を従来の構造に比べて低減させることができる。
【0044】
次に、本実施例に係る耐震補強方法について説明する。
【0045】
本実施例による耐震補強方法では、まず、固定金具8を複数個に分割し、ストッパ10を上端側に固定する。
【0046】
その後、現場まで輸送し、既存の平底円筒タンク本体1の基礎台5の周囲にストッパ10が固定された固定金具8を取り付ける。
【0047】
その後に、胴体2を押さえる1枚以上の補強プレート11を胴体2の横に設置し、ストッパ10を起点として、締具9を治具により締付方向に回すことで補強プレート11を胴体2に押さえつけて固定する。
【0048】
次に、本実施例の効果について説明する。
【0049】
上述した本実施例の耐震補強装置は、設置面12から突出している基礎台5の上に固定された底板3と、この底板3の上に設けられた円筒状の胴体2と、からなる平底円筒タンクの耐震性を補強する装置であって、基礎台5の周囲に設けられた固定金具8と、固定金具8に固定されたストッパ10と、胴体2を押さえる補強プレート11と、ストッパ10を起点として、締付により補強プレート11を胴体2に押さえつけて固定する締具9と、を備える。
【0050】
このような装置及び方法によって、タンク内の貯蔵水を水抜きせずに、基礎ボルト6を追設することなく、水平方向地震力F2が平底円筒タンク本体1に働いた場合において、その荷重を受け持つ基礎ボルト6の耐震性の向上を図ることができる。そのうえ、耐震補強装置の設置時の専有面積を少なくできるため、干渉物への影響が少なくできる、との効果も奏する。
【0051】
また、固定金具8を基礎台5を取り囲むように設けたため、既設設備に対しての追加の溶接が必要でなくなり、既設設備の変形・破壊等の懸念事項を考慮しなくて済む、との効果が得られる。
【0052】
更に、ストッパ10、補強プレート11、及び締具9を複数備えることで、周方向で均等に平底円筒タンク本体1の胴体2を押圧するための構造を容易に実現することができる。
【0053】
また、固定金具8は、複数の部品から構成されることにより簡易な構造で基礎台5を取り囲むことができる。
【0054】
更に、ストッパ10、補強プレート11、及び締具9が、基礎台5を等間隔で取り囲むようにそれぞれ複数配置されていることで、周方向で均等に平底円筒タンク本体1の胴体2を押圧することができ、水平方向地震力F2をより均等に受ける耐震補強装置及び方法とすることができる。
【0055】
また、締具9は、締付長さを計測する目盛りを有することや、ストッパ10は、ネジ切り穴を有し、締具9は、ネジ切り穴に挿入されるボルトであることにより、平底円筒タンク本体1の胴体2を押圧するための押圧力を周方向で簡易に均等に調整することができる。
【0056】
<その他>
なお、本発明は上記の実施例に限られず、種々の変形、応用が可能なものである。上述した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されない。
【符号の説明】
【0057】
1…平底円筒タンク本体
2…胴体
3…底板
4…貯蔵水
5…基礎台
6…基礎ボルト
7…ナット
8…固定金具
9…締具
10…ストッパ(補強金具)
11…補強プレート
12…設置面