(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024157802
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】ポリウレタン系複合材料及びその製造方法、該ポリウレタン系複合材料からなる成形体の製造方法並びに歯科切削加工用材料
(51)【国際特許分類】
C08L 75/04 20060101AFI20241031BHJP
C08K 3/36 20060101ALI20241031BHJP
C08K 3/013 20180101ALI20241031BHJP
C08G 18/62 20060101ALI20241031BHJP
C08G 18/34 20060101ALI20241031BHJP
A61K 6/893 20200101ALI20241031BHJP
【FI】
C08L75/04
C08K3/36
C08K3/013
C08G18/62 016
C08G18/34 010
A61K6/893
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023072387
(22)【出願日】2023-04-26
(71)【出願人】
【識別番号】391003576
【氏名又は名称】株式会社トクヤマデンタル
(72)【発明者】
【氏名】山口 剛正
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 拓也
(72)【発明者】
【氏名】海老原 拓弥
【テーマコード(参考)】
4C089
4J002
4J034
【Fターム(参考)】
4C089AA02
4C089AA09
4C089BE10
4J002CK021
4J002DJ016
4J034CA24
4J034CC03
4J034CC12
4J034CC45
4J034CC52
4J034CC61
4J034GA33
4J034GA36
4J034HA01
4J034HA07
4J034HC03
4J034HC12
4J034HC52
4J034HC61
4J034HC71
4J034HC73
4J034QB11
4J034RA02
(57)【要約】
【課題】 効率よく強度、耐水性、および、均一性にも優れたポリウレタン系複合材料を製造する製造方法を提供する。
【解決手段】1つ以上のラジカル重合性基を有するジオール化合物(a1);ジカルボン酸化合物(a3);ジイソシアネート化合物(a2)が重付加反応することによって得られるポリウレタン成分(A)内にウレタン結合とアミド結合を含み、且つ、数平均分子量が1500~5000であり、(B)非重付加性ラジカル重合性単量体(C)熱ラジカル重合開始剤(D)充填剤とを含む、ラジカル重合性原料組成物、および、ラジカル重合性原料組成物をラジカル重合して硬化させる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリウレタン系樹脂からなるマトリックス中に充填材が分散したポリウレタン系複合材料であって、
前記ポリウレタン系樹脂は、数平均分子量が1500~5000であり、且つ、分子内にラジカル重合性基及びアミド結合を有するポリウレタン成分の前記ラジカル重合性基とラジカル重合性単量体とがラジカル重合することにより形成された架橋構造を有し、
前記ポリウレタン系樹脂に占める前記ポリウレタン成分の割合が20質量%~95質量%である、
ことを特徴とする前記ポリウレタン系複合材料。
【請求項2】
請求項1に記載のポリウレタン系複合材料を製造する方法であって、
数平均分子量が1500~5000であり、かつ、分子内にラジカル重合性基及びアミド結合を有するポリウレタン成分(A)、ジオール化合物およびジイソシアネート化合物の何れとも重付加反応を起こさない重合性単量体(B);熱ラジカル重合開始剤(C);及び充填材(D)を含むラジカル重合性原料組成物を調製するラジカル重合性原料組成物調製工程、
前記ラジカル重合性原料組成物を加熱して硬化させる硬化工程、
を含み、
前記ラジカル重合性原料組成物に含まれる前記ポリウレタン成分(A)の含有量をAr(質量部)とし、前記重合性単量体(B)の含有量をBr(質量部)としたときに、
式:Rr={Br/(Ar+Br)}×100
で定義される重合性単量体配合比率Rrを5~80質量%とする、
ことを特徴とする、ポリウレタン系複合材料の製造方法。
【請求項3】
前記ラジカル重合性原料組成物調製工程が、
1つ以上のラジカル重合性基を有するジオール化合物(a1);分子内に2つのカルボキシル基を有すると共に該2つのカルボキシル基以外に重付加反応に関与する官能基を有さず、且つ、前記2個のカルボキシル基由来の2つのOH基間に介在する2価の有機残基において、両末端の炭素原子を一列で結ぶ原子列の中で最も構成原子数が少ない原子列の構成原子数が2~10であるジカルボン酸化合物(a3);分子内に1つ以上のラジカル重合性基を有し、前記ジオール化合物(a1)およびジイソシアネート化合物の何れとも重付加反応を起こさない重合性単量体(B);熱ラジカル重合開始剤(C);及び充填材(D)を含む第1原料組成物を調製する第1原料組成物調製工程、及び
前記第1原料組成物とジイソシアネート化合物(a2)とを混合して前記ジオール化合物(a1)及び前記ジカルボン酸化合物(a3)と、該ジイソシアネート化合物(a2)と、を重付加反応させることにより、前記ポリウレタン成分(A)を形成させて、該ポリウレタン成分(A)、前記重合性単量体(B);熱ラジカル重合開始剤(C);及び充填材(D)を含み、未反応の前記ジオール化合物(a1)、未反応の前記ジカルボン酸化合物(a3)及び未反応の前記ジイソシアネート化合物(a2)からなる群より選ばれる少なくとも1種を含んでいてもよい第2原料組成物を調製する第2原料組成物調製工程、
を含み、
前記第2原料組成物を前記ラジカル重合性原料組成物とする工程であり、
前記第2原料組成物に含まれる前記各成分の含有量(質量部)を、夫々、前記ポリウレタン成分(A)の含有量:Ar、前記重合性単量体(B)の含有量:Br、前記ジオール化合物(a1)の含有量:a1r、前記ジイソシアネート化合物(a2)の含有量:a2r、及び前記ジカルボン酸化合物(a3)の含有量:a3rとしたときに、
式:Rr´={Br/(a1r+a2r+a3r+Ar+Br)}×100
で定義される重合性単量体配合比率Rr´を5~80質量%とする、
ことを特徴とする、請求項2に記載のポリウレタン系複合材料の製造方法。
【請求項4】
前記第1原料組成物における、前記ジオール化合物(a1)の含有量(モル):Ma1と前記ジカルボン酸化合物(a3)の含有量(モル):Ma3との合計:Ma1+Ma3に対するMa3の割合:Ma3/(Ma1+Ma3)を0.01~0.5とする、請求項3に記載のポリウレタン系複合材料の製造方法。
【請求項5】
前記第2原料組成物中における前記充填材(D)の含有割合が60質量%~80質量%である、請求項3に記載のポリウレタン系複合材料の製造方法。
【請求項6】
前記重合性単量体(B)が、(メタ)アクリレート基を有し、分子内にヒドロキシル基、アミノ基、カルボキシ基、イソシアネート基およびメルカプト基を有さない、25℃で液体である重合性単量体を含む、請求項3に記載のポリウレタン系複合材料の製造方法。
【請求項7】
前記重合性単量体(B)が、下記構造式(1)
【化1】
〔前記構造式(1)中、R
11及びR
12は水素原子又はメチル基であり、n1は1~10の整数である。〕
で示される重合性単量体を含む、請求項3に記載のポリウレタン系複合材料の製造方法。
【請求項8】
前記ジオール化合物(a1)が、ジオール化合物に含まれる2つのヒドロキシル基間に介在する2価の有機残基において、両末端の炭素原子を一列で結ぶ原子列の中で最も構成原子数が少ない原子列の構成原子数が2~8であるジオール化合物である、請求項3に記載のポリウレタン系複合材料の製造方法。
【請求項9】
請求項3に記載の方法により得られる請求項1に記載のポリウレタン系複合材料からなる成形体を製造する方法であって、
前記硬化工程を、前記熱ラジカル重合開始剤(C)の10時間半減期温度;T10が60℃以上であり、前記第2原料組成物の温度を40℃以上で且つ前記熱ラジカル重合開始剤(C)のT10よりも15℃低い温度以下の温度に保持した状態で、モールド内に充填した後に、前記熱ラジカル重合開始剤(C)のT10よりも10℃低い温度~T10よりも25℃高い温度に加熱してラジカル重合を行うことによりポリウレタン系複合材料成形体を得る、
ことを特徴とする、ポリウレタン系複合材料成形体の製造方法。
【請求項10】
請求項1に記載のポリウレタン系複合材料からなる歯科切削加工用材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリウレタン系複合材料及びその製造方法、該ポリウレタン系複合材料からなる成形体の製造方法並びに歯科切削加工用材料に関する。
【背景技術】
【0002】
歯科治療において、インレー、アンレー、クラウン、ブリッジ、インプラント上部構造などの歯科用補綴物を作製する一手法として、歯科用CAD/CAMシステムを用いて切削加工する方法がある。歯科用CAD/CAMシステムとは、コンピュータを利用し三次元座標データに基づいて歯科用補綴物の設計を行い、切削加工機などを用いて歯冠修復物を作製するシステムである。切削加工用材料としては、ガラスセラミックス、ジルコニア、チタン、レジンなど様々な材料が用いられる。歯科切削加工用レジン系材料としては、シリカ等の無機充填材、メタクリレートなどの重合性単量体、重合開始剤等を含有する硬化性組成物を用い、これをブロック形状、ディスク形状に硬化させた硬化物が使用されている。切削加工用材料は、コンピュータシステムを活用することにより、従来の歯科用補綴物の作製方法よりも、工程数が短いことに起因する作業性の高さや、硬化体の審美性、ないし強度の観点から関心が高まっている。
【0003】
このような切削加工用材料は、主に歯冠部で適用されており、大臼歯冠やブリッジとして使用される場合、より高強度が求められる。しかしながら、現在の切削加工用材料は、(メタ)アクリル樹脂がベースとなっており、その強度に限界がある点が課題となっている。
【0004】
これに対し、ポリウレタン樹脂は、一般的に高強度を有することが知られており、歯科材料として用いることが検討されている。
【0005】
例えば、特許文献1には、ポリウレタン樹脂の内部にラジカル重合性基の重合により形成される架橋構造を導入することにより、ポリウレタン樹脂の「高強度」であるという特徴を生かしつつ、その欠点である耐水性の低さを改善したポリウレタン系複合材料(以下、このようにして架橋構造を導入したポリウレタン系複合材料を「架橋構造導入ポリウレタン系複合材料」ともいう。)及びその製造方法が記載されている。
【0006】
すなわち、特許文献1には、原料として、1つ以上のラジカル重合性基を有するジオール化合物(a1);ジイソシアネート化合物(a2);分子内に1つ以上のラジカル重合性基を有し、前記ジオール化合物(a1)および前記ジイソシアネート化合物(a2)の何れとも重付加反応を起こさない重合性単量体(以下、「非重付加性ラジカル重合性単量体」ともいう。)(B);ラジカル重合開始剤(C);及び充填材(D)を用い、前記a1とa2を重付加させて特定の分子量のポリウレタン成分(A)を形成した後に該(A)に含まれるラジカル重合性基と前記(B)とを反応させて架橋構造を導入することによって製造されるポリウレタン系複合材料は、全体が均一で強度及び耐水性に優れ、歯科用切削加工用材料に適したものであることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、本発明者らが特許文献1に記載のポリウレタン複合材料の製造方法を更に検討を行ったところ、前記(A)に含まれるラジカル重合性基と前記(B)とを反応させる前の状態の組成物である、「前記ポリウレタン成分(A)と、前記重合性単量体(B)と、ラジカル重合開始剤(C)と、充填剤(D)と、を含むラジカル重合性原料組成物」を、所定の形態の型枠に注型し、ラジカル重合を行い、ポリウレタン系複合材料を製造する際、ラジカル重合性原料組成物が容器、器具、治具等にべたべた粘りつく(ベタツク)ことによって、操作性が低下する場合があることが判明した。
【0009】
ラジカル重合性原料組成物が容器、器具、治具等にベタツキ易い場合、ラジカル重合性原料組成物の取り扱いに時間を要してしまい、その後のポリウレタン複合材料の生産性が低下するという課題が生ずる。
【0010】
また、特許文献1に記載された前記ポリウレタン系複合材料においては、その均一性を良好に保つために、樹脂成分中に占めるポリウレタン成分の割合を、80質量%を超えて高くすることができない。具体的には、前記原料組成物中のモノマー成分の合計質量{a1、a2及びBの合計質量}に占めるBの質量の割合(質量%)で定義される「重合性単量体配合比率Rr」を20~80質量%とする必要がある(ポリウレタン成分の割合を表す「100-Rr」は80~20質量%となる)。
【0011】
このため、マトリックス樹脂中のポリウレタン成分の含有率が80質量%を超える領域について架橋構造導入ポリウレタン系複合材料がどのような特性を有するか、あるいは、特許文献1に記載された前記ポリウレタン系複合材料と同様に全体が均一で強度及び耐水性に優れるという特長を有するのか否かは不明であった。架橋構造導入ポリウレタン系複合材料のマトリックス樹脂中のポリウレタン成分の含有率が増加することにより、(ポリウレタン構造に由来する)高強度化が期待できるばかりでなく、仮にポリウレタン成分の含有率が80質量%を超える架橋構造導入ポリウレタン系複合材料が製造できるようになり、均一性や耐水性が良好に保たれる領域の存在が確認されれば、特許文献1に記載された前記ポリウレタン系複合材料と同様の特性を有する新たな架橋構造導入ポリウレタン系複合材料が利用可能となる。
【0012】
そこで、本発明は、前記ラジカル重合性原料組成物のべたつきを改善し、効率よくポリウレタン複合材料を生産できるだけでなく、ポリウレタン成分の含有率が80質量%を超える架橋構造導入ポリウレタン系複合材料を製造することができる方法を提供し、延いてはポリウレタン成分の含有率が80質量%を超える架橋構造導入ポリウレタン系複合材料であって、均一で強度及び耐水性に優れる架橋構造導入ポリウレタン系複合材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、上記課題を解決するものであり、本発明の第一の形態は、ポリウレタン系樹脂からなるマトリックス中に充填材が分散したポリウレタン系複合材料であって、
前記ポリウレタン系樹脂は、数平均分子量が1500~5000であり、且つ、分子内にラジカル重合性基及びアミド結合を有するポリウレタン成分の前記ラジカル重合性基とラジカル重合性単量体とがラジカル重合することにより形成された架橋構造を有し、
前記ポリウレタン系樹脂に占める前記ポリウレタン成分の割合が20質量%~95質量%である、
ことを特徴とする前記ポリウレタン系複合材料(以下、「本発明のポリウレタン系複合材料」ともいう。)である。
【0014】
また、本発明の第二の形態は、本発明のポリウレタン系複合材料を製造する方法であって、
数平均分子量が1500~5000であり、かつ、分子内にラジカル重合性基及びアミド結合を有するポリウレタン成分(A)、ジオール化合物およびジイソシアネート化合物の何れとも重付加反応を起こさない重合性単量体(非重付加性ラジカル重合性単量体)(B);熱ラジカル重合開始剤(C);及び充填材(D)を含むラジカル重合性原料組成物を調製するラジカル重合性原料組成物調製工程、
前記ラジカル重合性原料組成物を加熱して硬化させる硬化工程、
を含み、
前記ラジカル重合性原料組成物に含まれる前記ポリウレタン成分(A)の含有量をAr(質量部)とし、前記重合性単量体(B)の含有量をBr(質量部)としたときに、
式:Rr(質量%)={Br/(Ar+Br)}×100
で定義される重合性単量体配合比率Rrを5~80質量%とする、
ことを特徴とする、ポリウレタン系複合材料の製造方法である。
【0015】
上記形態のポリウレタン系複合材料の製造方法(以下、「本発明の複合材製法」ともいう。)においては、前記ラジカル重合性原料組成物調製工程が、
1つ以上のラジカル重合性基を有するジオール化合物(a1)(以下、「ラジカル重合性ジオール」ともいう。);2つのカルボキシル基を有すると共に該2つのカルボキシル基以外に重付加反応に関与する官能基を有さず、且つ、前記2個のカルボキシル基由来の2つのOH基間に介在する2価の有機残基において、両末端の炭素原子を一列で結ぶ原子列の中で最も構成原子数が少ない原子列の構成原子数が2~10であるジカルボン酸化合物(以下、「特定ジカルボン酸」ともいう。)(a3);分子内に1つ以上のラジカル重合性基を有し、前記ジオール化合物(a1)およびジイソシアネート化合物の何れとも重付加反応を起こさない重合性単量体(B);熱ラジカル重合開始剤(C);及び充填材(D)を含む第1原料組成物を調製する第1原料組成物調製工程、及び
前記第1原料組成物とジイソシアネート化合物(a2)とを混合して前記ジオール化合物(a1)及び前記ジカルボン酸化合物(a3)と、該ジイソシアネート化合物(a2)と、を重付加反応させることにより、前記ポリウレタン成分(A)を形成させて、該ポリウレタン成分(A)、前記重合性単量体(B);熱ラジカル重合開始剤(C);及び充填材(D)を含み、未反応の前記ジオール化合物(a1)、未反応の前記ジカルボン酸化合物(a3)及び未反応の前記ジイソシアネート化合物(a2)からなる群より選ばれる少なくとも1種を含んでいてもよい第2原料組成物を調製する第2原料組成物調製工程、
を含み、
前記第2原料組成物を前記ラジカル重合性原料組成物とする工程であり、
前記第2原料組成物に含まれる前記各成分の含有量(質量部)を、夫々、前記ポリウレタン成分(A)の含有量:Ar、前記重合性単量体(B)の含有量:Br、前記ジオール化合物(a1)の含有量:a1r、前記ジイソシアネート化合物(a2)の含有量:a2r、及び前記ジカルボン酸化合物(a3)の含有量:a3rとしたときに、
式:Rr´={Br/(a1r+a2r+a3r+Ar+Br)}×100
で定義される重合性単量体配合比率Rr´を5~80質量%とする、
ことが好ましい。
【0016】
また、上記好適な態様の本発明の複合材製法においては、
(1)前記第1原料組成物における、前記ジオール化合物(ラジカル重合性ジオール)(a1)の含有量(モル):Ma1と前記ジカルボン酸化合物(特定ジカルボン酸)((a3)の含有量(モル):Ma3との合計:Ma1+Ma3に対するMa3の割合:Ma3/(Ma1+Ma3)を0.01~0.5とすること、
(2)前記第2原料組成物中における前記充填材(D)の含有割合が60質量%~80質量%であること、
(3)前記重合性単量体(非重付加性ラジカル重合性単量体)(B)が、(メタ)アクリレート基を有し、分子内にヒドロキシル基、アミノ基、カルボキシ基、イソシアネート基およびメルカプト基を有さない、25℃で液体である重合性単量体を含むこと、
(4)前記重合性単量体(非重付加性ラジカル重合性単量体)(B)が、下記構造式(1)に示す重合性単量体を含むこと、
【0017】
【0018】
なお、前記構造式(1)中、R11及びR12は水素原子又はメチル基であり、n1は1~10の整数である。
【0019】
または、(5)前記ジオール化合物(a1)が、ジオール化合物に含まれる2つのヒドロキシル基(OH基)間に介在する2価の有機残基において、両末端の炭素原子を一列で結ぶ原子列の中で最も構成原子数が少ない原子列の構成原子数が2~8であるジオール化合物であることが好ましい。
【0020】
また、本発明の第三の形態は、前記好適な態様の本発明の複合材製法により得られる本発明のポリウレタン系複合材料からなる成形体を製造する方法であって、
前記硬化工程を、前記熱ラジカル重合開始剤(C)の10時間半減期温度;T10が60℃以上であり、前記第2原料組成物の温度を40℃以上で且つ前記熱ラジカル重合開始剤(C)のT10よりも15℃低い温度以下の温度に保持した状態で、モールド内に充填した後に、前記熱ラジカル重合開始剤(C)のT10よりも10℃低い温度~T10よりも25℃高い温度に加熱してラジカル重合を行うことによりポリウレタン系複合材料成形体を得る、
ことを特徴とする、ポリウレタン系複合材料成形体の製造方法(以下、「本発明の成形体製法」ともいう。)である。
【0021】
さらに、本発明の第四の形態は、本発明のポリウレタン系複合材料からなる歯科切削加工用材料である。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば特許文献1に記載されたポリウレタン系複合材料と同様に、強度、耐水性、及び、均一性にも優れた、歯科切削加工用材料として好適に使用することができるポリウレタン系複合材料が提供される。特にポリウレタン成分の含有率が80質量%を超える本発明のポリウレタン系複合材料は、特許文献1に記載されたポリウレタン系複合材料よりも高強度化が可能である。
【0023】
また、本発明の複合材製法及び成形体製法によれば、上記のような特徴を有する本発明のポリウレタン系複合材料及びその成形体を効率的に製造することができる。特に、本発明の複合材製法で用いる第2原料組成物は、重合が起こらないような温度に加熱することにより流動性が向上するばかりでなく、ベタツキを起こし難いので、これを使用する本発明の成形体製法では、モールド内に充填可能となるばかりでなく、その際の操作性も良好となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本図は、本発明の効果の推定機構を説明するための模式図であり、(A)は特許文献1におけるポリウレタン成分と容器等表面との相互作用の様子を表し、(B)はアミド結合が導入されたポリウレタン成分と容器等表面との相互作用の様子を表している。なお、図中のR
1は、ジイソシアネート(a2)由来の2価の基を表し、R
2は、ラジカル重合性ジオール(a1)由来の2価の基を表し、R
3は、特定ジカルボン酸化合物(a3)由来の2価の基を表している。
【発明を実施するための形態】
【0025】
1.発明の経緯及び本発明の概要
前記したように、特許文献1に記載された前記ポリウレタン系複合材料においては、その均一性を良好に保つために、樹脂成分中に占めるポリウレタン成分の割合(単に、「ポリウレタン含有率」ともいう。)を、80質量%を超えて高くすることができないが、特許文献1には、その理由は特に記載されていない。そこで、本発明者等は、前記課題を解決するために、先ず、その理由について検討を行った。
【0026】
その結果、
(1)架橋構造導入ポリウレタン系複合材料は、通常、前記ラジカル重合性ポリウレタン成分(A)、前記非重付加性ラジカル重合性単量体(B)、ラジカル重合開始剤(C)及び充填材(D)を含むラジカル重合性原料組成物(第2原料組成物)をラジカル重合によって重合硬化させて所期の形状の成形体を得、必要に応じてこれを加工して使用されるところ、ポリウレタン含有率が80質量%を超える場合には、上記原料組成物が非常に硬く流動性を殆ど有しない組成物となり、場合によっては非重付加反応性単量体が組成物中で(均一に分布せずに)偏在してしまうことがあること、
(2)前記ラジカル重合性原料組成物をラジカル重合が実質的に起こらない温度に加熱すれば均一な架橋構造導入ポリウレタン系複合材料の成形体を得ることができること、
(3)しかしこの場合でも、前記ベタツキの問題は解消されないこと、及び
(4)ポリウレタン含有率が95質量%以下であれば、高い耐水性が維持できること、を見出した。
【0027】
そこで、前記ベタツキの問題を解決すべく、前記ラジカル重合性原料組成物がベタつきを抑制すべく更に検討を行った。すなわち、「ベタツキ」の原因が、前記ラジカル重合性原料組成物中に含まれる(B)の量が比較的多いことに起因して、ポリウレタン成分(A)の流動性が増加し、該成分に含まれるウレタン結合と、容器、器具、治具等の表面に存在するヒドロキシル基との間で水素結合が形成され易くなったのではないかと考え、上記水素結合の発生を抑制する方法について検討を行った。その結果、ラジカル重合性ジオール(a1)及びジイソシアネート(a2)を重付加させてポリウレタン成分(A)を調製する際にジカルボン酸化合物を共存させて分子内にアミド結合を導入すると「ベタツキ」が抑制されることがあるという知見を得、本発明を完成するに至ったものである。
【0028】
本発明では、例えば、前記ジイソシアネート(a2)と前記ラジカル重合性ジオール化合物(a1)とを反応させて「数平均分子量が1500~5000であり、かつ、分子内にラジカル重合性基を有するポリウレタン成分(A)」を得る際に際して、2個のカルボン酸を有し、且つ、分子内に含まれる2つのカルボン酸由来のOH基間に介在する2価の有機残基における主鎖を構成する原子の数が、10以下であり、2つのカルボン酸以外に重付加反応に関与する官能基を有さないジカルボン酸化合物(特定ジカルボン酸)(a3)を共存させて反応を行うこと等により、ポリウレタン成分(A)の主鎖内にアミド結合を導入し、前記ベタツキの問題を解消すると共に、ラジカル重合性原料組成物(第2原料組成物)を必要に応じて適度な温度に加熱して流動性を高めることによりモールド充填を可能にし、ポリウレタン含有率20~95質量%の範囲で均一なマトリックス樹脂を得ることができるようにしたものである。
【0029】
ベタツキの問題が解消される理由は必ずしも明らかではないが、
図1(A)に示すように、特許文献1のポリウレタン成分では、分子内のウレタン結合のカルボニル基が容器、器具、治具等の表面のヒドロキシル基と水素結合を形成してベタツキが発生していたのに対し、前記ジカルボン酸化合物(a3)を用いて分子内に(ウレタン結合の一部を置換するように)アミド結合を導入した場合には、
図1(B)に示すように近接した2つのアミド結合間で(分子内)で水素結合を形成し、容器等の表面のヒドロキシル基との間で形成される水素結合が減少したことによると推測している。
【0030】
本発明のポリウレタン系複合材料は、ポリウレタン系樹脂からなるマトリックス中に充填材が分散したポリウレタン系複合材料であって、前記ポリウレタン系樹脂は、分子内にラジカル重合性基及びアミド結合を有する、数平均分子量が1500~5000のポリウレタン成分の前記ラジカル重合性基とラジカル重合性単量体とがラジカル重合することにより形成された架橋構造を有し、前記ポリウレタン系樹脂に占める前記ポリウレタン成分の割合が20質量%~95質量%である、ことを特徴とするものである。ポリウレタン系樹脂からなるマトリックスの構造、特に架橋構造を含む微細構造は、製造方法に依存し、これを分析等によって特定することは非常に困難である。そのため、上記のような特定をおこなったものである。
【0031】
本発明のポリウレタン系複合材料は、本発明の複合材製法によって製造される材料であり、また本発明の成形体製法により得られる成形体として提供されるものである。そこで、以下に本発明の複合材製法及び成形体製法について詳しく説明する。
【0032】
なお、本願明細書においては特に断らない限り、数値x及びyを用いた「x~y」という表記は「x以上y以下」を意味するものとする。かかる表記において数値yのみに単位を付した場合には、当該単位が数値xにも適用されるものとする。また、本願明細書において、「(メタ)アクリル」との用語は「アクリル」及び「メタクリル」の両者を意味する。
【0033】
1.本発明の複合材製法
本発明の複合材製法は、本発明のポリウレタン系複合材料を製造する方法であって、
数平均分子量が1500~5000であり、かつ、分子内にラジカル重合性基及びアミド結合を有するポリウレタン成分(A)、ジオール化合物およびジイソシアネート化合物の何れとも重付加反応を起こさない重合性単量体(非重付加性ラジカル重合性単量体)(B);熱ラジカル重合開始剤(C);及び充填材(D)を含むラジカル重合性原料組成物を調製するラジカル重合性原料組成物調製工程、
前記ラジカル重合性原料組成物を加熱して硬化させる硬化工程、
を含み、
前記ラジカル重合性原料組成物に含まれる前記ポリウレタン成分(A)の含有量をAr(質量部)とし、前記重合性単量体(B)の含有量をBr(質量部)としたときに、
式:Rr(質量%)={Br/(Ar+Br)}×100
で定義される重合性単量体配合比率Rrを80質量%以下5質量%以上とする。
ことを特徴とする。
【0034】
ここで、上記ポリウレタン成分(A)は、上記条件を満足するものであれば特に限定されないが、ラジカル重合性ジオール(a1)、特定ジカルボン酸化合物(a3)及びジイソシアネート(a2)を混合して前記ラジカル重合性ジオール(a1)及び前記特定ジカルボン酸(a3)と、該ジイソシアネート(a2)と、を重付加反応させることにより製造されるものであることが好ましい。
【0035】
さらに、前記ラジカル重合性原料組成物調製工程が、
ラジカル重合性ジオール(a1);特定ジカルボン酸化合物(a3);非重付加性ラジカル重合性単量(B);熱ラジカル重合開始剤(C);及び充填材(D)を含む第1原料組成物を調製する第1原料組成物調製工程、
前記第1原料組成物とジイソシアネート(a2)とを混合して前記ラジカル重合性ジオール(a1)及び前記特定ジカルボン酸(a3)と、該ジイソシアネート(a2)と、を重付加反応させることにより、数平均分子量が1500~5000であり、かつ、分子内にラジカル重合性基及びアミド結合を有するポリウレタン成分(A)を形成させて、該ポリウレタン成分(A)、前記非重付加性ラジカル重合性単量体(B);熱ラジカル重合開始剤(C);及び充填材(D)を含み、未反応の前記ラジカル重合性ジオール(a1)、未反応の前記特定ジカルボン酸(a3)及び未反応の前記ジイソシアネート(a2)からなる群より選ばれる少なくとも1種を含んでいてもよい第2原料組成物を調製する第2原料組成物調製工程、
前記第2原料組成物を加熱して硬化させる硬化工程、
を含み、
前記第2原料組成物に含まれる前記各成分の含有量(質量部)を、夫々、前記ポリウレタン成分(A)の含有量:Ar、前記非重付加性ラジカル重合性単量体(B)の含有量:Br、前記ラジカル重合性ジオール(a1)の含有量:a1r、前記ジイソシアネート(a2)の含有量:a2r、及び前記特定ジカルボン酸(a3)の含有量:a3rとしたときに、
式:Rr=100×Br/〔a1r+a2r+a3r+Ar+Br〕
で定義される重合性単量体配合比率Rrを80質量%以下5質量%以上とする、ことが好ましい。
【0036】
以下に、上記好適な態様を中心に、本発明の製造方法で使用する各種原材料および各工程等について詳しく説明する。
【0037】
2.各種原材料について
2-1.ポリウレタン成分(A)
ポリウレタン成分(A)は、数平均分子量が1500~5000であり、かつ、分子内にラジカル重合性基及びアミド結合を有するポリウレタン成分である。
【0038】
ポリウレタン成分(A)の数平均分子量は、GPC(ゲル・パーミエイション・クロマトグラフィ)測定で決定されるポリスチレン換算の数平均分子量を意味する。第2原料組成物中のポリウレタン成分(A)の数平均分子量は、第2原料組成物に必要に応じてTHF(テトラヒドロフラン)等の溶媒を加え、充填材(D)などの不溶成分を濾過、遠心分離などの操作で除去し、得られた溶液についてGPC測定を行うことにより、求めることができる。測定は、ADVANCED POLYMER CHROMATOGRAPHY(日本ウォーターズ社製)を用いて、下記測定条件にて行うことができる。
【0039】
[測定条件]
測定装置:ADVANCED POLYMER CHROMATOGRAPHY(日本ウォーターズ社製)
・カラム:ACQUITY APCTM XT 45 1.7μm
ACQUITY APCTM XT 125 2.5μm
・カラム温度:40℃
・展開溶媒:THF(流量:0.5 ml/分)
・検出器:フォトダイオードアレイ検出器 254nm(PDA検出器)。
【0040】
ポリウレタン成分(A)は、その数平均分子量が1500~5000である必要がある。数平均分子量を1500以上とすることにより、十分な強度を有するポリウレタン系複合材料を得ることができる。また、本発明者等の検討によれば、数平均分子量が5000を越えるポリウレタン成分(A)を得ることは実質的に不可能であるか非常に困難である。なお、数平均分子量が1500~5000の範囲内において、数平均分子量をより小さくすると、後述する第2原料組成物中にポリウレタン成分(A)が析出するのをより確実に抑制して均一なラジカル重合をより行いやすくなる。第2原料組成物の流動性とポリウレタン系複合材料の強度とをバランスよく両立させる観点から、上記数平均分子量は、1500~3500であることが好ましく、2000~3000であることがより好ましい。
【0041】
また、ポリウレタン成分(A)が分子内にラジカル重合性基及びアミド結合を有することは、例えば赤外分光測定によりラジカル重合性基及びアミド結合に帰属される吸収が見られることにより確認することができる。これらの量も吸収量から分析することも可能である。しかし、これらの量を制御し易いという観点から、ラジカル重合性ジオール(a1)、特定ジカルボン酸化合物(a3)及びジイソシアネート(a2)を混合して前記ラジカル重合性ジオール(a1)及び前記特定ジカルボン酸(a3)と、該ジイソシアネート(a2)と、を重付加反応させることにより製造されたものを使用することが好ましい。ジイソシアネート化合物(a2)とラジカル重合性ジオール(a1)との重付加反応及びジイソシアネート化合物(a2)と特定ジカルボン酸化合物(a3)との重付加反応は、何れも定量的に進行するので、Ma3/(Ma1+Ma3)の値を制御することによりポリウレタン成分(A)が分子内に含まれるポリウレタン結合とアミド結合の(平均的な)量比及びラジカル重合性基の(平均的な)含有量を制御することができる。
【0042】
ラジカル重合性ジオール(a1)と特定ジカルボン酸化合物(a3)との量比は、効果の観点から、ラジカル重合性ジオール化合物(a1)の使用量(モル):Ma1と特定ジカルボン酸化合物(a3)の使用量(モル):Ma3としたときに、Ma3/(Ma1+Ma3)が0.01~0.5となるようにすることが好ましい。Ma3/(Ma1+Ma3)の値が0.5を超えるとポリウレタン成分内のアミド結合の含有量が増加し、ラジカル重合性原料組成物(第2原料組成物)がペースト性状では無くなり、粉となってしまい、成型が困難となる。また、上記値が0.01未満となるとポリウレタン成分内のアミド結合の数が低下し、ベタツキ抑制が困難となる。Ma3/(Ma1+Ma3)の値は0.01~0.3、特に0.1~0.3であることが特に好ましい。
【0043】
ジイソシアネート化合物(a2)使用量(モル):Ma2は、{Ma2/(Ma1+Ma3)}で1モル/モル前後であれば特に制限されないが、一般的には、0.9~1.2モル/モル程度、特に1.0~1.1モル/モルであることが好ましい。
【0044】
以下に、ポリウレタン成分(A)の原料として使用されるラジカル重合性ジオール(a1)、特定ジカルボン酸化合物(a3)及びジイソシアネート(a2)について説明する。
【0045】
2-2.ラジカル重合性ジオール(a1)
ラジカル重合性ジオール(a1)は、ポリウレタン成分(A)を形成するための原料となる化合物であり、該(a1)が有する2つのヒドロキシル基と、ジイソシアネート化合物(a2)のイソシアネート基とが重付加反応を起こすことにより、ポリウレタン成分(A)におけるウレタン結合が形成される。
【0046】
ラジカル重合性ジオール(a1)としては、分子内に少なくとも1つのラジカル重合性基を有し、かつ、2個のヒドロキシル基を有する化合物が特に制限なく使用できる。ここで、ラジカル重合性基とは、ラジカルを発生させる開始剤により反応し、重合する官能基を意味し、具体的には、ビニル基、(メタ)アクリレート基、及び、スチリル基等のラジカル重合性炭素-炭素二重結合を有する基を意味する。
【0047】
ジオール化合物がラジカル重合性基を有することによって重付加反応により形成されるポリウレタン分子の主鎖にラジカル重合性基が導入される。また、硬化工程におけるラジカル重合の際にポリウレタン成分(A)の分子内のラジカル重合性基同士、あるいは、ポリウレタン成分(A)の分子内のラジカル重合性基と非重付加性ラジカル重合性単量体(B)のラジカル重合性基と、が反応して結合を形成することにより架橋が形成される。これにより、硬化体であるポリウレタン系複合材料の耐水性が向上する。
【0048】
生成物であるポリウレタン系複合材料の強度および耐水性の観点から、ラジカル重合性ジオール(a1)の分子内に含まれるラジカル重合性基の数は、1~4であることが好ましく、特に1~2であることが好ましい。ラジカル重合性基の数を4以下とした場合には、ラジカル重合反応時に形成される硬化体の収縮を抑制することがより容易となる。
【0049】
また、ラジカル重合性ジオール(a1)の分子内に含まれる2つのヒドロキシル基(OH基)間に介在する2価の有機残基において、両末端の(OH基と結合する)炭素原子を一列で結ぶ原子列の中で最も構成原子数が少ない原子列の構成原子数(以下、「OH間距離」と称す場合がある)は、2~8であることが好ましく、2~6がより好ましく、2~4であることが特に好ましい。ラジカル重合性ジオール(a1)のOH間距離を上記範囲内とすることにより、重付加反応により得られるラジカル重合性ポリウレタン成分(A)の分子中にラジカル重合性基及びウレタン結合を高密度に導入することができ、ポリウレタン系複合材料の強度を高めることができる。
【0050】
なお、2つのOH基間に介在する2価の有機残基とは、各OH基が結合する2つの炭素原子を両末端とする有機残基であり、両末端の炭素原子を一列で結ぶ原子列の中で最も構成原子数が少ない原子列とは、前記有機残基の基本骨格を成す、前記2つの炭素原子を両末端とする原子列であって、各構成原子が単結合、二重結合又は三重結合によって(直鎖状に連なって)連結した原子列を意味し、前記2価の有機残基が環構造を有する場合には、分岐する2つのルートの内、鎖長の短い方の原子列がこれに該当することになるが、前記2価の有機残基は環構造を含まないことが好ましい。
【0051】
また、2種類以上のラジカル重合性ジオール(a1)を用いる場合、OH間距離は、2種類以上のラジカル重合性ジオール(a1)の平均値として計算された値を意味する。ここで、OH間距離の平均値は、2以上の整数であるn種類のラジカル重合性ジオール(a1)を用いる場合には、各ラジカル重合性ジオール化合物のOH間距離:Dxに、ラジカル重合性ジオール化合物の総モル数に占める各ラジカル重合性ジオール化合物のモル数として定義される各ラジカル重合性ジオールのモル分率(モル/モル):Mxを乗じた積の総和として計算される値を意味する。
【0052】
ラジカル重合性ジオール(a1)として好適に使用される化合物としては、たとえば、トリメチロールプロパンモノ(メタ)アクリレート、グリセロールモノ(メタ)アクリレート、エリスリトールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリトリトールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジグリシジルエーテルの酸((メタ)アクリル酸やビニル安息香酸)開環物等を挙げることができる。これらは、単独で、又は異なる種類のものを混合して使用することができる。
【0053】
2-3.特定ジカルボン酸(a3)
特定ジカルボン酸(a3)は、ポリウレタン成分(A)を形成するための原料となる化合物であり、該(a3)が有する2つのカルボキシル基と、ジイソシアネート(a2)のイソシアネート基とが重付加反応を起こすことにより、ポリウレタン成分(A)におけるアミド結合が形成される。
【0054】
特定ジカルボン酸(a3)としては、分子内に2つのカルボキシル基を有すると共に該2つのカルボキシル基以外に重付加反応に関与する官能基を有さず、且つ、前記2個のカルボキシル基由来の2つのOH基間に介在する2価の有機残基において、両末端の(OH基と結合する)炭素原子を一列で結ぶ原子列の中で最も構成原子数が少ない原子列の構成原子数(以下、「ジカルボン酸OH間距離」と称す場合がある。)が2~10であるジカルボン酸化合物が特に制限なく使用できる。
【0055】
ここで、2個のカルボキシル基由来の2つのOH基間に介在する2価の有機残基とは、各OH基が結合する2つの炭素原子を両末端とする有機残基であり、両末端の炭素原子を一列で結ぶ原子列の中で最も構成原子数が少ない原子列とは、前記有機残基の基本骨格を成す、前記2つの炭素原子を両末端とする原子列であって、各構成原子が単結合、二重結合又は三重結合によって(直鎖状に連なって)連結した原子列を意味し、前記2価の有機残基が環構造を有する場合には、分岐する2つのルートの内、鎖長の短い方の原子列がこれに該当することになる。例えば、特定ジカルボン酸(a3)がアジピン酸である場合の前記2価の有機残基は-C(=O)-(C-)4―(O=)C-となるので、ジカルボン酸OH間距離は6となる。また、イソフタル酸である場合の前記2価の有機残基は-C(=O)-Ph-(O=)C-となり、環構造で2つのルートに分かれるが、-Ph-は、o-フェニレン基なので、鎖長の短い方のルートの原子列の構成原子数である5がジカルボン酸OH間距離となる(因みに、鎖長の長い方のルートの原子列の構成原子数は7である)。
【0056】
ジカルボン酸OH間距離は、2~8が好ましく、2~6であることが特に好ましい。前記ジカルボン酸化合物(a3)のジカルボン酸OH間距離を上記範囲内とすることにより、重付加反応により得られるポリウレタン成分(A)の分子中にアミド結合を高密度に導入することができ、第2原料組成物のべたつき抑制を向上させるばかりでなく、ポリウレタン系複合材料の強度を高めることができる。
【0057】
特定ジカルボン酸(a3)は、2つのカルボキシル基(カルボン酸)以外に重付加反応に関与する官能基を有さない必要がある。ここで、2つのカルボキシル基以外に重付加反応に関与する官能基を有さないとは、(a3)が、(a1)と(a2)の重付加反応を阻害せず、且つ、(a3)が有する2つのカルボキシル基と(a2)が有するイソシアネート基との重付加反の以外の反応を起こさないことと同義であり、具体的には、(a3)の分子中に、(前記2つのカルボキシル基に含まれる2つのヒドロキシル基以外の)ヒドロキシル基、アミノ基、(前記2つのカルボキシル基以外の)カルボキシ基、イソシアネート基およびメルカプト基が含まれないことを意味する。
【0058】
なお、種類の異なる複数の特定ジカルボン酸化合物(a3)を用いる場合におけるジカルボン酸OH間距離は、2種類以上のジカルボン酸化合物(a3)の平均値として計算された値を意味する。ここで、ジカルボン酸OH間距離の平均値は、2以上の整数であるn種類のジカルボン酸化合物(a3)を用いる場合には、各ジカルボン酸化合物(a3)のジカルボン酸OH間距離:CXに、ジカルボン酸化合物(a3)の総モル数に占める各ジカルボン酸化合物(a3)のモル数として定義される各ジカルボン酸化合物(a3)のモル分率(モル/モル):MXを乗じた積の総和として計算される値を意味する。
【0059】
特定ジカルボン酸(a3)として好適に使用される化合物としては、例えば、ヘキサデカフルオロセバシン酸、ジヒドロムコン酸、2,5-フランジカルボン酸、1,3-アセトンジカルボン酸、アジピン酸、4-シクロヘキサンジカルボン酸、イソフタル酸、イタコン酸が挙げられる。
【0060】
2-4.ジイソシアネート(a2)
ジイソシアネート(a2)は、前記ラジカル重合性ジオール(a1)及び前記特定ジカルボン酸(a3)と同様にポリウレタン成分(A)を形成するための成分であり、これらが重付加反応を起こすことにより、ポリウレタン成分(A)が形成される。
【0061】
ジイソシアネート(a2)としては1分子中に2個のイソシアネート基を有する化合物が特に限定されず使用できる。
【0062】
ジイソシアネート(a2)として好適に使用される化合物としては、たとえば、1,3-ビス(2-イソシアナト-2-プロピル)ベンゼン、2,2-ビス(4-イソシアナトフェニル)ヘキサフルオロプロパン、1,3-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、4,4‘-ジイソシアン酸メチレンジフェニル、3,3’-ジクロロ-4,4‘-ジイソシアナトビフェニル、4,4’-ジイソシアナト-3,3‘-ジメチルビフェニル、ジシクロヘキシルメタン4,4’-ジイソシアナート、ペンタメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアナート、ノルボルナンジイソシアネート、ジイソシアン酸イソホロン、1,5-ジイソシアナトナフタレン、ジイソシアン酸1,3-フェニレン、トリメチルヘキサメチレンジイソシアナート、トリレン-2,4-ジイソシアナート、トリレン-2,6-ジイソシアナート、m-キシリレンジイソシアナートなどを挙げることができる。
【0063】
これらの中でも、ジイソシアネート(a2)としては、得られる第2原料組成物の流動性と得られるポリウレタン系複合材料の強度との観点から分子内にフェニル基を有するジイソシアネート(a2)が好ましい。
【0064】
2-5.非重付加性ラジカル重合性単量体(B)
非重付加性ラジカル重合性単量体(B)は、分子内に、少なくとも1つのラジカル重合性基を有し、かつ、ラジカル重合性基ジオール化合物(a1)、特定ジカルボン酸(a3)、およびジイソシアネート(a2)の何れとも重付加反応を起こさない化合物である。ここで、これら(a1)~(a3)の何れとも重付加反応を起こさないとは、(a2)と重付加反応を起こし得る基及び(a1)又は(a2)と重付加反応を起こし得る基の何れも分子内に有しないことを意味する。具体的には、(前者の基である)ヒドロキシル基、アミノ基、カルボキシ基およびメルカプト基、並びに(後者の基である)イソシアネート基を分子内に含まないことを意味する。
【0065】
また、非重付加性ラジカル重合性単量体(B)が有するラジカル重合性基としては、ラジカル重合性ジオール(a1)が有するラジカル重合性基と同様の基を挙げることができる。中でも(メタ)アクリレート基および/または(メタ)アクリルアミド基が好ましく、また、ラジカル重合性ジオール(a1)が有するラジカル重合性基と同一の分子構造を持つ基であることが好ましい。
【0066】
非重付加性ラジカル重合性単量体(B)の分子内に含まれるラジカル重合性基の数は、架橋の形成し易さの観点から、2~6個であることが好ましく、2~4個であることがより好ましい。ラジカル重合性基の数を2個以上とすることにより、架橋密度をより大きくできるため、十分な強度を有する硬化体を得ることがより容易になる。また、ラジカル重合性基の数を6個以下とすることにより、硬化時の収縮を抑制することがより容易になる。また、非重付加性ラジカル重合性単量体(B)は室温(すなわち25℃)で液体であることが好ましい。
【0067】
非重付加性ラジカル重合性単量体(B)の粘度は特に制限されないが、室温において1mPa・s~1000mPa・sの範囲であることが好ましく、1mPa・s~100mPa・sの範囲であることがより好ましい。
【0068】
非重付加性ラジカル重合性単量体(B)としては、ポリウレタン成分(A)を分散させやすいという観点から、下記式構造式(1)で表される重合性単量体を含むことが好ましい。
【0069】
【0070】
なお、構造式(1)中、R11及びR12は水素原子又はメチル基を意味し、n1は1~10の整数、好ましくは1~3の整数を意味する。
【0071】
非重付加性ラジカル重合性単量体(B)として好適に使用できる化合物としては、たとえば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカノール(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパン(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトール(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパン(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトール(メタ)アクリレート等を挙げることができる。これらの中でも、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、が特に好ましい。
【0072】
2-6.熱ラジカル重合開始剤(C)
熱ラジカル重合開始剤(C)は、ラジカル重合反応を開始する機能を有し、ラジカル重合性基同士を反応させて結合させることにより、第2原料組成物を重合硬化させると共に架橋点を形成させる機能を有する。本発明の製造方法では、ポリウレタン系重合性組成物を加熱して重合させるため、熱ラジカル重合開始剤(C)を使用する。熱ラジカル重合開始剤の使用に特に制限はないが、所定の温度に加熱された第2原料組成物中でラジカル重合が起こらないようにするために、熱重合開始剤としては、10時間半減期温度:T10が60℃以上であるものを使用することが好ましい。T10の上限温度は、特に限定されないが、通常は150℃である。流動性等の観点からT10が70~120℃、特に80~100℃の範囲であるものを使用することが好適である。ここで、10時間半減期温度:T10とは、熱重合開始剤の存在量が、初期から10時間経過後に初期の半分に減ずる温度のことであり、熱重合開始剤の反応性を表す指標として用いられる。好適に使用できる熱ラジカル重合開始剤を具体的に例示すると、ベンゾイルパーオキサイドやtert-ブチルパーオキシラウレートなどのような過酸化物開始剤、アゾビスブチロニトリルなどのようなアゾ系の開始剤などを挙げることができる。これら熱重合開始剤は、単独で用いても、2種以上を混合して使用してもよい。
【0073】
2-7.充填材(D)
充填材(D)は、ラジカル重合性原料組成物(第2原料組成物)内で分散して、ポリウレタン成分(A)と非重付加性ラジカル重合性単量体(B)との重合体と複合化することにより、ポリウレタン系複合材料の機械的強度、耐摩耗性および耐水性等の物性を向上させる機能を有する。
【0074】
充填材(D)としては、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、あるいは、それらの複合酸化物、ガラス等の無機充填材を用いることが好ましい。このような、無機充填材を具体的に例示すれば、非晶質シリカ、シリカ-ジルコニア、シリカ-チタニア、シリカ-チタニア-ジルコニア、石英、アルミナなどの球形状粒子あるいは不定形状粒子を挙げることができる。なお、本発明の製造方法により製造されたポリウレタン系複合材料を歯科材料として利用する場合、充填材(D)としては、シリカ、チタニア、ジルコニア、あるいは、それらの複合酸化物を用いることが好ましく、シリカ、あるいは、その複合酸化物であることが特に好ましい。これらの無機充填材は、口腔内環境において溶解のおそれがなく、透明性や審美性を制御しやすいためである。
【0075】
充填材(D)の形状は、特に限定されず、目的のポリウレタン系複合材料の用途に応じて適宜選択することができるが、たとえば、耐摩耗性、表面滑沢性、光沢持続性に特に優れたポリウレタン系複合材料が得られる観点からは、球形状であることが好適である。また、球形状の充填材(D)を分散含有するポリウレタン系複合材料は歯科用途においても特に好適である。ここでいう球形状とは、走査型あるいは透過型の電子顕微鏡の撮影像の画像解析において求められる平均均斉度が0.6以上であることを意味する。平均均斉度は0.7以上であることがより好ましく、0.8以上であることが更に好ましい。平均均斉度は、走査型あるいは透過型の電子顕微鏡の撮影像の画像解析において、N個(通常40個以上、好ましくは100個以上)の粒子の夫々について、最大径である長径(L)および長径(L)に直交する短径(B)を測定して、その比(B/L)求め、その総和(ΣB/L)をNで除することにより算出することができる。
【0076】
充填材(D)の平均粒子径は、耐摩耗性、表面滑沢性、光沢持続性の観点から0.001μm~100μmであることが好ましく、0.01μm~10μmであることがより好ましい。また、ポリウレタン系複合材料中における充填材(D)の含有率を向上させやすいという点から、複数の粒径を有する充填材(D)を用いることが好ましい。具体的には、0.001μm~0.1μmの粒径と0.1μm~100μmの粒径を組み合わせることが好ましく、0.01μm~0.1μmの粒径と0.1μm~10μmの粒径を組み合わせることがより好ましい。
【0077】
充填材(D)としては、ポリウレタン系複合材料の機械的強度や耐水性を向上させるために、表面処理を行ったものを使用することが好ましい。表面処理剤としては、一般的にシランカップリング剤が用いられ、特にシリカをベースとする無機粒子系の充填材(D)に対しては、シランカップリング剤による表面処理の効果が高い。シランカップリング剤として、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、3-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、等が好適に用いられる。
【0078】
3.ラジカル重合性原料組成物(第2原料組成物)の組成について
前記ラジカル重合性原料組成物においては、該原料組成物に含まれる前記ポリウレタン成分(A)の含有量をAr(質量部)とし、前記重合性単量体(B)の含有量をBr(質量部)としたときに、
式:Rr(質量%)={Br/(Ar+Br)}×100
で定義される重合性単量体配合比率Rrを5~80質量%である必要がある。
【0079】
Rrが5質量%未満の場合には均一な架橋構造導入ポリウレタン系複合材料を得ることが困難となり、80質量%を超える場合には強度を有したポリウレタン系複合材料を得ることが困難となる。ポリウレタン系複合材料の強度維持と均一な架橋構造導入ポリウレタン系複合材料とをよりバランス良く両立させる観点から、Rrは7~50質量%であることが好ましく、10~30質量%であることが特に好ましい。
【0080】
また、ラジカル重合性原料組成物を、前記第1原料組成物とジイソシアネート化合物(a2)とを混合して調製した第2原料組成物とする場合には、(a1)及び/或いは(a3)又は(a2)が未反応で第2原料組成物中に残存する場合がある。このため、前記第2原料組成物に含まれる前記各成分の含有量(質量部)を、夫々、前記ポリウレタン成分(A)の含有量:Ar、前記重合性単量体(B)の含有量:Br、前記ジオール化合物(a1)の含有量:a1r、前記ジイソシアネート化合物(a2)の含有量:a2r、及び前記ジカルボン酸化合物(a3)の含有量:a3rとしたときに、
式:Rr´={Br/(a1r+a2r+a3r+Ar+Br)}×100
で定義される重合性単量体配合比率Rr´を5~80質量%とする、ことが好ましい。
【0081】
熱ラジカル重合開始剤(C)の使用量は、その種類に応じて適宜決定すればよいが、通常、ラジカル重合性原料組成物(第2原料組成物)に含まれる(A)及び(B)並びに(a1)~(a3)が残存する場合のこれらの総質量を基準として0.005質量%~5.0質量%の範囲であることが好ましく、0.01質量%~3.0質量%の範囲であることがより好ましい。
【0082】
充填材(D)の使用量は、目的とするポリウレタン系複合材料の強度等の物性に応じて適宜決定すればよいが、ポリウレタン系複合材料の高強度化の観点から、ラジカル重合性原料組成物(第2原料組成物)の質量を基準とする質量%(以下、単に「充填率」と称す場合がある。)で表して、60質量%~80質量%であることが好ましく、65質量%~75質量%がより好ましい。また、本実施形態のポリウレタン系複合材料の製造方法により製造されたポリウレタン系複合材料を歯科切削加工用材料として使用する場合の充填率は65質量%~75質量%であることがより好ましい。
ラジカル重合性原料組成物(第2原料組成物)は、以上に説明した必須成分の他に、その他の各種の添加剤を配合しても良い。各種添加剤としては、重合禁止剤、蛍光剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、顔料、抗菌材、X線造影剤など挙げることができ、その添加量は所望の目的に応じて適宜決定すればよい。
【0083】
4.ラジカル重合性原料組成物調製工程
ラジカル重合性原料組成物では、前記した各成分を戦記した組成となるように混合すればよい。
【0084】
また、ラジカル重合性原料組成物を、前記第1原料組成物とジイソシアネート化合物(a2)とを混合して調製した第2原料組成物とする場合には、以下に示す第1原料組成物調製工程と第2原料組成物調製工程を経て調製することが好ましい。
【0085】
4-1.第1原料組成物調製工程
第1原料組成物調製工程では、ラジカル重合性ジオール(a1);特定ジカルボン酸(a3);非重付加性ラジカル重合性単量体(B);熱ラジカル重合開始剤(C);及び充填材(D)を含む第1原料組成物を調製する。
【0086】
これら各成分の配合量は、ジイソシアネート化合物(a2)とラジカル重合性ジオール(a1)との重付加反応及びジイソシアネート化合物(a2)と特定ジカルボン酸化合物(a3)との重付加反応は、何れも定量的に進行することを前提として、目的とするラジカル重合性原料組成物(第2原料組成物)の組成に応じて決定すればよい。なお、任意成分を配合する場合の任意成分も第一原料組成物に配合することが好ましい。第1原料組成物には、任意成分として、必要であれば重付加反応を促進する触媒がさらに含まれていてもよいが、重付加反応を促進する触媒が含まれていなくてもよい。重付加反応を促進する触媒としては、たとえば、オクチル酸錫や二酢酸ジブチル錫などを例示できる。
【0087】
第1原料組成物の調整に際しては、これを構成する全ての成分を一度に混合して調製してもよく、第1原料組成物を構成する一部の成分を混合した混合物を調製した後に、第1原料組成物を構成する残りの成分を添加・混合して調製してもよい。第1原料組成物の調製に際して、各成分を混合する際の混合方法は特に限定されず、マグネチックスターラー、ライカイ機、プラネタリーミキサー、遠心混合機等を用いた方法が適宜使用される。
【0088】
充填材(D)を均一に分散させやすいという理由から、ラジカル重合性ジオール(a1)、特定ジカルボン酸(a3)、非重付加性ラジカル重合性単量体(B)及びラジカル重合開始剤(C)を先に混合し、得られた混合組成物に充填材(D)を添加して混合することにより第1原料組成物を調製することが好ましい。このようにして調製された第1原料組成物は、脱泡処理を施し、内部に含まれる気泡を無くしておくことが好ましい。脱泡の方法としては公知の方法が用いられ、加圧脱泡、真空脱泡、遠心脱泡等の方法を任意に用いることができる。
【0089】
4-2.第2原料組成物調製工程
第2原料組成物調製工程では、前記第1原料組成物調製工程で得られた第1原料組成物とジイソシアネート化合物(a2)とを混合して前記ジオール化合物(a1)及び前記ジカルボン酸化合物(a3)と、該ジイソシアネート化合物(a2)と、を重付加反応させることにより、前記ポリウレタン成分(A)を形成させる。このとき使用するジイソシアネート化合物(a2)の量は、前記{Ma2/(Ma1+Ma3)}が0.9~1.2モル/モル、特に1.0~1.1モル/モルとなるようにすればよい。
【0090】
重付加反応は、第1原料組成物とジイソシアネート(a2)を混合すると同時に、あるいは、第1原料組成物とジイソシアネート(a2)を混合後に必要に応じて加熱することにより開始される。重付加反応は、ラジカル重合性ジオール化合物(a1)及び特定ジカルボン酸(a3)、又はジイソシアネート(a2)のいずれかが重付加反応により実質的に消費し尽くされるまで重付加反応を進行させるように、言い換えれば、重付加反応の進行度が最大値(飽和値)近傍となるまで、実施する。このとき、第1原料組成物に含まれる熱ラジカル重合開始剤(C)の10時間半減期温度:T10よりも低い反応温度で重付加反応を行うことが好ましく、T10よりも80℃~20℃低い温度、特に70℃~30℃低い温度に保った状態で重付加反応を行うことが特に好ましい。なお、第2原料組成物調製工程においては、上記したような方法を採用しても不可避的に僅かながら生じるラジカル重合反応は許容される。
【0091】
反応時間は反応温度により異なり、例えば(1)反応温度が30℃以上50℃未満であれば60時間以上が好ましく、72時間以上がより好ましく、(2)加熱温度が50℃以上80℃未満であれば24時間以上が好ましく、36時間以上がより好ましく、(3)加熱温度が80℃以上であれば15時間以上が好ましく、24時間以上がより好ましい。なお、上記(1)~(3)に示すケースにおいて、加熱時間の上限値は特に限定されるものではないが、生産性などの実用上の観点からは120時間以下が好ましい。
【0092】
第2原料組成物を調製する際に、各成分を混合するために用いる混合手段は特に限定されず公知の混合手段が適宜利用できる。このような混合手段としては、たとえば、マグネチックスターラー、ライカイ機、プラネタリーミキサー、遠心混合機等を挙げることができる。また、混合中の組成物への気泡の混入を避けるために、加圧条件下、および/または、真空条件下で混合してもよい。
【0093】
5.硬化工程
硬化工程では、前記ラジカル重合性原料組成物(第2原料組成物)を加熱して硬化させる。切削加工等の後加工を特に行うことなく、モールド形状に応じた形状を有する成形体を得ることができるという理由から、硬化工程は、ラジカル重合性原料組成物(第2原料組成物)をモールドに充填して行うことが好ましい。
【0094】
前記ラジカル重合性原料組成物(第2原料組成物)が常温で流動性を有する場合はそのままモールドに充填して加熱重合による硬化を行えば良いが、ラジカル重合性原料組成物(第2原料組成物)におけるRr(Rr´)が20質量%未満、特に15質量%以下である場合には、第2原料組成物は流動性を失い、固体のような状態となり、場合によっては液体成分である非重付加性ラジカル重合性単量体(B)が分離して偏在する等によって均一性も低下する。このような場合には、前記熱ラジカル重合開始剤(C)としてその10時間半減期温度;T10が60℃以上であるものを使用し、前記ラジカル重合性原料組成物(第2原料組成物)の温度を40℃以上で且つ前記熱ラジカル重合開始剤(C)のT10よりも15℃低い温度以下の温度に保持した状態で、モールド内に充填した後に、前記熱ラジカル重合開始剤(C)のT10よりも10℃低い温度~T10よりも25℃高い温度に加熱してラジカル重合を行うことによりポリウレタン系複合材料成形体を得ることが好ましい。こうすることにより、前記ラジカル重合性原料組成物(第2原料組成物)を均一な流動性ペースト状でモールドに充填し、均一性を保ったままの状態でラジカル重合を行うので、均一な架橋構造導入ポリウレタン系複合材料からなる成形体を効率的に得ることが可能となる。
【0095】
より均一にペースト状態に変化させることができる点から、熱ラジカル重合開始剤(C)として10時間半減期温度:T10が70~120℃、特に80~100℃の範囲であるものを使用し、モールド充填前に前記第2原料組成物を保持する温度(加熱温度)を、45℃~T10より15℃低い温度、特に50℃~T10より20℃低い温度とすることが好ましい。このような温度範囲、好ましくはこのような温度範囲内であって150℃を超えない温度に制御することにより、急激なラジカル重合の進行による歪やクラックの発生を防止しながら工業的に許容できる十分な速度で重合硬化を行うことができる。
【0096】
モールド充填前に前記ラジカル重合性原料組成物(第2原料組成物)を保持する温度(加熱温度)に保持する方法としては、局所的に高温になることを避けるために、ラジカル重合性原料組成物(第2原料組成物)保持した容器を所定の温度に保持された雰囲気中に置く方法、所定の温度に保持された熱媒体(液体やプレートなどの個体)と接触させる方法などが好適に採用できる。所定の温度に保持する時間は(保持期間中に置けるラジカル重合により)モールド充填に悪影響を与えない範囲であれば良く、所定の温度に達してから、通常は5分~数時間、好ましくは10~60分の範囲である。なお、前記した温度に保持することにより、特に撹拌等の操作を行わなくてもラジカル重合性原料組成物(第2原料組成物)は均一な状態となるが、内部に気泡等が残らないようにすれば、撹拌操作を行ってもよい。
【0097】
硬化工程で使用するモールド(成形型)としては、目的とする成形体の形状に応じたキャビティーを有するものが適宜使用できる。その材質は、ラジカル重合を行う際の温度や圧力に耐え得るものであれば特に制限されず、金属やセラミックス、樹脂の材料を用いることができる。具体的には、SUSやポリプロピレン、ポリアセタール、ポリテトラフルオロエチレンなどからなるものが好適に使用できる。
【0098】
モールド内へのラジカル重合性原料組成物(第2原料組成物)の充填方法としては、加圧注型法、真空注型法等が好適に採用できる。特に、ラジカル重合性原料組成物(第2原料組成物)への伝熱を確実に行うことができ、また、気泡に起因するボイドが硬化体中に形成されるのを抑制することができるという理由から加圧注型法を採用することがより好ましい。なお、加圧の方法に制限はなく、機械的な加圧や空気による加圧を行うことができる。
【0099】
モールド内に充填されたラジカル重合性原料組成物(第2原料組成物)は、前記したような温度で加熱重合され、目的とする形状を有するポリウレタン系複合材料成形体を得ることができる。
【0100】
6.本発明のポリウレタン系複合材料の用途について
本発明のポリウレタン系複合材料は、口腔内のような親水環境下においても高い強度を維持しつつ耐水性も有する。このように高い耐水性を有するために、本発明のポリウレタン系複合材料は、特に歯科用CAD/CAMシステムを用いて歯科切削加工用材料を切削加工することにより歯科用補綴物として好適に使用することができる。
【実施例0101】
以下、本発明を、実施例および比較例を挙げて説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0102】
1.原材料
各実施例および比較例において用いた各成分とその略称を以下に示す。
【0103】
(1)ラジカル重合性ジオール(a1)
GLM:グリセロールモノメタクリレート(OH間距離:2)
BMOHE: 1,2-bis(3-methacryloyloxy-2-hydroxypropoxy)ethane(OH間距離:8)。
【0104】
(2)特定ジカルボン酸(a3)
DCA1:アジピン酸(ジカルボン酸OH間距離:6)
DCA2:4-シクロヘキサンジカルボン酸(ジカルボン酸OH間距離:6)
DCA3:イソフタル酸(ジカルボン酸OH間距離:5)
DCA4:イタコン酸(ジカルボン酸OH間距離:4)。
【0105】
(3)ジイソシアネート(a2)
XDI:m-キシリレンジイソシアナート
TDI:トルエンジイソシアネート
HDI:ヘキサメチレンジイソシアネート。
【0106】
(4)非重付加性ラジカル重合性単量体(B)
1G:エチレングリコールジメタクリレート
3G:トリエチレングリコールジメタクリレート
9G:ポリエチレングリコール#400ジメタクリレート
A-DOG:ジオキサングリコールジアクリレート
UDMA:1,6-ビス(メタクリルエチルオキシカルボニルアミノ)-2,2-4-トリメチルヘキサン
A-TMPT-3EO:EO変性トリメチロールプロパントリアクリレート
(5)熱ラジカル重合開始剤(C)
PBC:tert‐ブチルα,α‐ジメチルベンジルペルオキシド(10時間半減期温度120℃)。
【0107】
(6)充填材(D)
F1:シリカ-ジルコニア(平均粒径:0.4μm、メタクリル酸3-(トリメトキシシリル)プロピル表面処理物)
F2:シリカ-チタニア(平均粒径:0.08μm、メタクリル酸3-(トリメトキシシリル)プロピル表面処理物)。
【0108】
2.ポリウレタン系複合材料の製造方法
以下に本発明のポリウレタン系重合性組成物、および、ポリウレタン系複合材料の製造方法の実施例を、比較例と共に示す。
【0109】
実施例1
(1)第1原料組成物調製工程
先ず、ラジカル重合性ジオール(a1)であるGLM(31.2質量部)、非重付加性ラジカル重合性単量体(B)である3G(14.3質量部)、特定ジカルボン酸(a3)であるDCA1(3.7質量部)及び熱ラジカル重合開始剤(C)であるPBC(0.3質量部)を混合した混合組成物を調製した。次に、この混合物組成物に対して、充填材(D)であるF1(175.6質量部)及びF2(74.9質量部)を添加して混練することにより、第1原料組成物を調製した。
【0110】
(2)第2原料組成物調製工程
得られた第1原料組成物の全量を含む自転公転ミキサー内にジイソシアネート(a2)であるXDI(40.9質量部)を加えて混練した。次に、37℃で72時間インキュベーター内に静置して重付加反応を行い、ポリウレタン成分(A)を形成して第2原料組成物を調製した。
【0111】
(3)第2原料組成物の評価
(3-1)ポリウレタン成分(A)の数平均分子量測定(GPC測定)
得られた第2原料組成物1gをスクリュー管瓶に測り取り、THFを3.5ml加え撹拌して得られたTHF溶液を遠心分離機(アズワン株式会社製)にて、10000rpmで10分間遠心分離を行った。次に遠心分離により得られた上澄み液をメンブレンフィルター(PORE SIZE 20μm,株式会社ADVANTEC製)で濾過することにより濾液を得た。そしてこの濾液について、下記に示すGPC測定条件にてGPC測定を行うことにより、重付加反応により得られたポリウレタン成分(A)のポリスチレン換算の数平均分子量を求めた。その結果、数平均分子量は2800であった。
【0112】
[GPC測定条件]
測定装置:ADVANCED POLYMER CHROMATOGRAPHY(日本ウォーターズ社製)
・カラム:ACQUITY APCTM XT 45 1.7μm
ACQUITY APCTM XT 125 2.5μm
・カラム温度:40℃
・展開溶媒:THF(流量:0.5ml/分)
・検出器:フォトダイオードアレイ検出器 254nm(PDA検出器)。
【0113】
(3-2)ステンレス材料に対するベタツキエネルギーの評価
第2原料組成物を口径9mm、深さ5mmの孔を有するステンレス製の孔内に充填して、表面を平らにならし、遮光した。次いで、80℃で2分間静置してから、サンレオメーター(株式会社サン科学)を用いて第2原料組成物が充填された孔に口径5mmのステンレス製の感圧棒を120mm/分の速度で第2原料組成物中に深さ2mmまで圧縮進入させ、1秒保持した。その後、感圧棒を120mm/分の速度で第2原料組成物中から引き抜いた。そしてこの時の負の最大荷重[kg]と、負の荷重を計測した地点から、荷重が0[kg]になるまでの距離[m]を測定し、負の最大荷重[kg]と距離[m]を用いて下記式(3)より、ベタツキエネルギー[J]を求めた。
【0114】
式(3) ベタツキエネルギー[J]=負の最大荷重[kg]×9.8[m/s2]×距離[m]
その結果、ステンレス材料に対する第2原料組成物のベタツキエネルギーは80×10-6[J]であった。
(3-3)ガラス材料に対するベタツキの評価
厚さ2[cm]、長さ20[cm]、幅10[cm]のガラス板を、ホットプレートを用いて80℃で5分間静置してから、第2原料組成物30[g]をガラス板上に、長さ20[cm]、幅10[cm]になるように均一に圧接し、再び5分間静置した。次いで厚さ0.1[cm]、長さ3[cm]、幅3[cm]のポリプロピレン製のシートを用いて1分間で何%の第2原料組成物を回収できるか、6名の異なる評価者にて各1回実施し、回収率の平均をとり、ガラス材料に対するベタツキの評価とした。結果を表2に示す。
【0115】
実施例2~17、比較例1~3
実施例1において、使用する原料、充填率を表1に示すように変更した以外は実施例1と同様にして第1原料組成物、第2原料組成物を調製した、第2原料組成物の数平均分子量は実施例1と同様に評価し、表2に結果を示した。ベタツキ評価時の温度、回収率評価時の温度を表2に示すように変更して評価を行い、結果を表2に示す。なお、表中の「↑」は「同上」を意味する。
【0116】
【0117】