(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024157809
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】流水解凍に適する冷凍麺皮食品
(51)【国際特許分類】
A23L 7/109 20160101AFI20241031BHJP
A23L 35/00 20160101ALI20241031BHJP
【FI】
A23L7/109 D
A23L35/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023072398
(22)【出願日】2023-04-26
(71)【出願人】
【識別番号】000188227
【氏名又は名称】松谷化学工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】大濱 庸介
【テーマコード(参考)】
4B036
4B046
【Fターム(参考)】
4B036LC04
4B036LE04
4B036LF12
4B036LH12
4B036LH22
4B036LP01
4B036LP17
4B046LA09
4B046LB10
4B046LB20
4B046LC01
4B046LG16
4B046LG29
4B046LP51
4B046LP69
(57)【要約】
【課題】本発明の目的は、 流水解凍しても麺皮特有のモチモチした食感を有する麺皮生地及びそれを利用した冷凍麺皮食品を提供することにある。
【解決手段】穀粉と、(A)置換度0.07~0.20のヒドロキシプロピル化澱粉及び(B)α化ヒドロキシプロピル化架橋澱粉を含み、穀粉と澱粉の合計100質量部中に、(A)を50~80質量部、(B)を5~10質量部で含む生地を冷凍麺皮食品用の生地として使用することにより、上記課題が解決される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(A)、(B)及び穀粉を含む、冷凍麺皮食品用の麺皮生地:
(A)置換度0.07~0.20のヒドロキシプロピル化澱粉、
(B)α化ヒドロキシプロピル化架橋澱粉。
【請求項2】
前記(A)の原料澱粉がタピオカ澱粉である、請求項1記載の冷凍麺皮食品用の麺皮生地。
【請求項3】
前記(A)、(B)及び穀粉の合計100質量部中に、(A)を50~80質量部及び(B)を5~10質量部含む、請求項1又は2に記載の冷凍麺皮食品用の麺皮生地。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の冷凍麺皮食品用の麺皮生地が加熱され冷凍されてなる冷凍麺皮食品。
【請求項5】
冷凍麺皮食品が、冷凍餃子、冷凍焼売及び冷凍小籠包のうちのいずれかである、請求項4記載の冷凍麺皮食品。
【請求項6】
以下の(A)及び(B)を含む、冷凍麺皮食品の麺皮生地用の澱粉組成物:
(A)置換度0.07~0.20のヒドロキシプロピル化澱粉、
(B)α化ヒドロキシプロピル化架橋澱粉。
【請求項7】
前記(A)の原料澱粉がタピオカ澱粉である、請求項6記載の冷凍麺皮食品の麺皮生地用の澱粉組成物。
【請求項8】
前記(A)及び(B)の質量部比が、A:B=(5~16):1である、請求項6又は7に記載の冷凍麺皮食品の麺皮生地用の澱粉組成物。
【請求項9】
以下の(A)、(B)及び穀粉を含む、冷凍麺皮食品の麺皮生地用のミックス粉:
(A)置換度0.07~0.20のヒドロキシプロピル化澱粉、
(B)α化ヒドロキシプロピル化架橋澱粉。
【請求項10】
前記(A)の原料澱粉がタピオカ澱粉である、請求項9記載の冷凍麺皮食品の麺皮生地用のミックス粉。
【請求項11】
前記(A)、(B)及び穀粉の合計100質量部中に、(A)を50~80質量部及び(B)を5~10質量部含む、請求項9又は10に記載のミックス粉。
【請求項12】
以下の(A)、(B)及び穀粉の合計100質量部中に、(A)を50~80質量部、(B)を5~10質量部となるように配合した生地を調製する工程と、当該生地を成形する工程と、当該成形された麺皮を加熱する工程と、当該加熱された麺皮を冷凍する工程を含む、冷凍麺皮食品の製造方法:
(A)置換度0.07~0.20のヒドロキシプロピル化澱粉、
(B)α化ヒドロキシプロピル化架橋澱粉。
【請求項13】
前記生地を成形する工程が、当該生地で具材を包餡する工程を含む、請求項12記載の冷凍麺皮食品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流水解凍に適する冷凍麺皮食品、その冷凍麺皮食品を調製するための麺皮生地及びその麺皮生地用のミックス粉、並びにその麺皮生地及び冷凍麺皮食品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
餃子、焼売、小籠包などの、具材が麺皮生地で包まれた麺皮食品は、冷凍、冷蔵、レトルトなどの保存形態で市場流通することが多く、その場合、喫食前に電子レンジ等で再加熱されることとなるが、とりわけ冷凍麺皮食品は、電子レンジ等による再加熱が麺皮の食感を劣化させるため、常温解凍、冷蔵解凍、流水解凍といった解凍方法が選択されることもある。とくに流水により解凍する方法は、電子レンジ等の加熱機器を必要とせず、比較的短時間で解凍できることから、冷凍麺線に採用されることが多い。
【0003】
流水で解凍しても喫食できる冷凍麺皮を得るために、例えば、麺皮生地に、加工澱粉(具体的には、アセチル化アジピン酸架橋澱粉)とトランスグルタミナーゼを配合する方法(特許文献1)や、未加工馬鈴薯澱粉とエーテル化澱粉を配合する方法(特許文献2)が提案されている。
【0004】
しかし、これらの方法で調製された冷凍麺皮は、流水解凍により喫食はできるものの、麺皮特有のモチモチした食感は十分ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5-68498号公報
【特許文献2】特開2016-10341号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、流水解凍しても麺皮特有のモチモチした食感を有する麺皮生地及びそれを利用した冷凍麺皮食品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは鋭意検討したところ、穀粉と、(A)置換度0.07~0.20のヒドロキシプロピル化澱粉及び(B)α化ヒドロキシプロピル化架橋澱粉を含み、穀粉と澱粉の合計100質量部中に、(A)を50~80質量部、(B)を5~10質量部で含む生地を冷凍麺皮食品用の生地として使用することにより、上記課題が解決されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
本発明は、上記知見に基づいて完成されたものであり、以下[1]~[13]から構成されるものである。
[1]以下の(A)、(B)及び穀粉を含む、冷凍麺皮食品用の麺皮生地:
(A)置換度0.07~0.20のヒドロキシプロピル化澱粉、
(B)α化ヒドロキシプロピル化架橋澱粉。
[2]前記(A)の原料澱粉がタピオカ澱粉である、上記[1]記載の冷凍麺皮食品用の麺皮生地。
[3]前記(A)、(B)及び穀粉の合計100質量部中に、(A)を50~80質量部及び(B)を5~10質量部含む、上記[1]又は[2]に記載の冷凍麺皮食品用の麺皮生地。
[4]上記[1]~[3]のいずれかに記載の冷凍麺皮食品用の麺皮生地が加熱され冷凍されてなる冷凍麺皮食品。
[5]冷凍麺皮食品が、冷凍餃子、冷凍焼売及び冷凍小籠包のうちのいずれかである、上記[4]記載の冷凍麺皮食品。
[6]以下の(A)及び(B)を含む、冷凍麺皮食品の麺皮生地用の澱粉組成物:
(A)置換度0.07~0.20のヒドロキシプロピル化澱粉、
(B)α化ヒドロキシプロピル化架橋澱粉。
[7]前記(A)の原料澱粉がタピオカ澱粉である、上記[6]記載の冷凍麺皮食品の麺皮生地用の澱粉組成物。
[8]前記(A)及び(B)の質量部比が、A:B=(5~16):1である、上記[6]又は[7]に記載の冷凍麺皮食品の麺皮生地用の澱粉組成物。
[9]以下の(A)、(B)及び穀粉を含む、冷凍麺皮食品の麺皮生地用のミックス粉:
(A)置換度0.07~0.20のヒドロキシプロピル化澱粉、
(B)α化ヒドロキシプロピル化架橋澱粉。
[10]前記(A)の原料澱粉がタピオカ澱粉である、上記[9]記載の冷凍麺皮食品の麺皮生地用のミックス粉。
[11]前記(A)、(B)及び穀粉の合計100質量部中に、(A)を50~80質量部及び(B)を5~10質量部含む、上記[9]又は[10]に記載のミックス粉。
[12]以下の(A)、(B)及び穀粉の合計100質量部中に、(A)を50~80質量部、(B)を5~10質量部となるように配合した生地を調製する工程と、当該生地を成形する工程と、当該成形された麺皮を加熱する工程と、当該加熱された麺皮を冷凍する工程を含む、冷凍麺皮食品の製造方法:
(A)置換度0.07~0.20のヒドロキシプロピル化澱粉、
(B)α化ヒドロキシプロピル化架橋澱粉。
[13]前記生地を成形する工程が、当該生地で具材を包餡する工程を含む、上記[12]記載の冷凍麺皮食品の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、流水解凍しても麺皮特有のモチモチした食感を有する麺皮生地及びそれを利用した冷凍麺皮食品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための形態を詳細に説明するが、本明細書において別段の断りがない限り、例えば、「1~10」は「1以上10以下」を意味する。
【0011】
ヒドロキシプロピル化澱粉とは、一般に、澱粉にプロピレンオキサイドを定法により作用させて得られる水酸基置換型加工澱粉をいい、本発明においては、とくに断りのない限り、当該ヒドロキシプロピル化の反応と同時又は異時に架橋化剤のトリメタリン酸ナトリウムやオキシ塩化リンなどを定法により作用させて得られるヒドロキシプロピル化架橋澱粉を含む。置換度は、ヒドロキシプロピル化澱粉の官能基の置換割合を示す指標であり、澱粉を構成するグルコース残基の3つのフリーの水酸基すべてが置換されたときの置換度を3とする。置換度の詳細な測定方法は、例えば、「第9版 食品添加物公定書(2018年、厚生労働省 消費者庁)」のヒドロキシプロピルデンプン(p.847)などに記載がある。 本発明の麺皮生地に使用するヒドロキシプロピル化澱粉の置換度は、0.07~0.20、好ましくは0.08~0.18、より好ましくは0.10~0.17であり、また、その原料となる澱粉の起源は、特に限定されないが、米澱粉、コーン澱粉、タピオカ澱粉、馬鈴薯澱粉、甘藷澱粉、サゴ澱粉、エンドウ豆澱粉、小麦澱粉及びこれらのワキシー種の澱粉などであり、好ましくはタピオカの澱粉である。
【0012】
α化澱粉とは、一般的に、澱粉に水分を含有させて加熱糊化したものをいい、α化澱粉として一般に流通するものは、これをさらに乾燥させたものである。本発明の麺皮生地に使用するα化ヒドロキシプロピル化架橋澱粉は、ヒドロキシプロピル化架橋澱粉から調製したα化澱粉であり、、その加工程度は冷水膨潤度をもってはかることができ、当該数値を特に限定するものでないが、好ましくは40~70ml、より好ましくは50~65mlである。
【0013】
ここで、α化澱粉の冷水膨潤度の測定方法は、以下である。まず、澱粉試料2.0g(固形分換算)を水50mlに均一に分散させ、この懸濁液を100mlメスシリンダーに入れて水で100mlに調整し、24時間静置する。その後、白濁層の容量(ml)を測定し、その値を冷水膨潤度とする。架橋の度合いが高いほうが膨潤度は小さくなる。
【0014】
本発明の麺皮生地に使用されるα化澱粉の原料となる澱粉の起源は、ワキシー種であるか、ウルチ種であるか、ハイアミロース種であるかは問わず、馬鈴薯、米、小麦、タピオカ、コーン、エンドウ豆、緑豆、サゴ、甘藷などのいずれの起源の澱粉であっても用いることができる。
【0015】
本発明の麺皮生地に使用される穀粉は、小麦、米、豆、コーンなどの穀類を粉状にしたものであり、その内容は特に限定されないが、好ましくは小麦粉、米粉、大豆粉であり、より好ましくは小麦粉である。
【0016】
本発明の麺皮生地は、上述の置換度0.07~0.20のヒドロキシプロピル化澱粉(以下、(A)ともいう。)及びα化ヒドロキシプロピル化架橋澱粉(以下、(B)ともいう。)を必須成分とし、穀粉と澱粉の合計100質量部中に、(A)を50~80質量部含むことが好ましく、50~70質量部又は50~62.5質量部で含むことがより好ましく、(B)を5~10質量部含むことが好ましく、5~9質量部又は5~7.5質量部含むことがより好ましい。
【0017】
本発明の麺皮生地は、穀粉と(A)及び(B)の澱粉とを含むことから、穀粉、(A)及び(B)を含む麺皮生地を調製するための「ミックス粉」として提供することもできる。当該ミックス粉を用いることにより、麺皮生地を調製する際の原料混合工程が簡略化されるため、流水解凍してもモチモチした食感を有する冷凍麺皮が簡便に得られることとなる。当該ミックス粉は、上述の麺皮生地と同様の配合割合で、穀粉、(A)及び(B)を含む。
【0018】
上述の本発明の麺皮生地用のミックス粉は、(A)及び(B)の澱粉を含むことを必須とするものであるから、(A)及び(B)の澱粉を含む、麺皮生地を調製するための「澱粉組成物」として提供することもできる。当該澱粉組成物を用いることにより、麺皮生地を調製する際の原料混合工程が簡略化されるため、流水解凍してもモチモチした食感を有する麺皮が簡便に得られることとなる。当該澱粉組成物は、上述の(A)及び(B)を含み、その配合比は、(A):(B)が(5~16):1、好ましくは(8~10):1である。なお、当該澱粉組成物は、(A)及び(B)の2成分のほか、本発明の効果を阻害しない程度に(A)及び(B)以外の澱粉を含んでもよく、その配合量は、当該澱粉組成物中、例えば10質量%以下、又は5質量%以下である。
【0019】
本発明の冷凍麺皮食品(冷凍麺皮を含む。)は、穀粉、(A)及び(B)に対し、水と、必要に応じ副原料を加えて混錬した生地を薄いシート状(例えば、0.6~12mm厚)に圧延し、所定の形状(例えば、円形)に裁断又は打ち抜かれた生地で具材を包み又は包まないで成形したものを加熱(例えば、蒸す)及び冷凍することによって得られる。ここで、副原料としては、糖類、油脂類、食塩 が挙げられ、包餡される具材としては、肉、野菜、魚肉などの粉砕物やすり身、豆腐、餡子などが挙げられる。
【0020】
本発明の冷凍麺皮食品は、流水解凍しても、麺皮特有のモチモチした食感を有する。この「流水解凍」とは、当該冷凍麺皮食品を5~30℃の流水に接触させて解凍することを意味し、その解凍時間は2~15分、好ましくは4~10分である。
【0021】
以下、実験例を提示して本発明を詳細かつ具体的に説明するが、本発明は、これら実験例に限定されるものではない。
【実施例0022】
1.冷凍麺皮の調製
表1記載の澱粉を使用し、表2記載の配合(質量部)及び表3記載の手順で麺皮生地を調製して冷凍し、冷凍麺皮とした。
【0023】
【0024】
【0025】
【0026】
2.流水解凍した麺皮の評価方法
冷凍した麺皮を、約15℃の流水に5分間晒して解凍した後、専門パネルにより以下の基準で食感を評価した。
◎:モチモチとして、全体がやわらかい
〇:モチモチとして、やわらかいが、一部やや硬い部分がある。
△:モチモチしていない。
×:かたく喫食できない。
【0027】
【0028】
3.結果
上の表4に示すとおり、加工澱粉として、特定のヒドロキシプロピル化澱粉とα化ヒドロキシプロピル化架橋澱粉を併用して調製した冷凍麺皮(試作3~5、10)は、流水解凍しても麺皮特有のモチモチとした食感を有していた。加工澱粉を含まない生地(試作1)、加工澱粉を1種類だけ含む生地(試作2)から調製した冷凍麺皮は、流水解凍するとモチモチした食感の麺皮を得られなかった。また、加工澱粉を2種類含んだ生地から調製した冷凍麺皮であっても、流水解凍するとモチモチした食感が得られない場合があった(試作6~9)。試作3~5及び試作10で使用したヒドロキシプロピル化澱粉を分析したところ、その置換度は0.08~0.17の範囲にあった。したがって、少なくとも、穀粉と澱粉の合計100質量部中に、(A)置換度0.08~0.17のヒドロキシプロピル化タピオカ澱粉を50~62.5質量部と、(B)α化ヒドロキシプロピル化架橋澱粉を5~7.5質量部とを含む生地を使用することにより、流水解凍してもモチモチした食感を有する冷凍麺皮が得られることがわかった。なお、試作3~5及び試作10で使用した前記(A)と(B)の質量部比は、(8.3~10):1であった。