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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024157824
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】保持装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/683 20060101AFI20241031BHJP
   H01L 21/3065 20060101ALI20241031BHJP
   H01L 21/31 20060101ALI20241031BHJP
   C23C 16/458 20060101ALI20241031BHJP
   C23C 14/50 20060101ALI20241031BHJP
【FI】
H01L21/68 R
H01L21/302 101G
H01L21/31 B
C23C16/458
C23C14/50 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023072421
(22)【出願日】2023-04-26
(71)【出願人】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100160691
【弁理士】
【氏名又は名称】田邊 淳也
(72)【発明者】
【氏名】岐部 太一
【テーマコード(参考)】
4K029
4K030
5F004
5F045
5F131
【Fターム(参考)】
4K029AA06
4K029AA24
4K029JA06
4K030CA04
4K030CA12
4K030GA02
4K030KA26
5F004AA13
5F004BB22
5F004BB29
5F045BB14
5F045EM05
5F045EM09
5F131AA02
5F131AA03
5F131AA32
5F131AA33
5F131BA03
5F131BA04
5F131BA19
5F131BA23
5F131CA03
5F131CA12
5F131CA17
5F131EA03
5F131EB11
5F131EB72
5F131EB82
(57)【要約】
【課題】リフトピンの損傷や摩耗を防止することができる保持装置を提供すること。
【解決手段】保持面11と、保持面11とは反対側に設けられる下面12と、保持面11と下面12を貫通する第1貫通孔15とを備える板状部材10と、上面21と、上面21とは反対側に設けられる下面22と、上面21と下面22を貫通し、第1貫通孔15に連通する第2貫通孔25とを備え、板状部材10とは熱膨張係数が異なるベース部材20と、第1貫通孔15と第2貫通孔25とにより形成されてリフトピン60が挿通されるリフトピン孔40に配置され、ベース部材20に固定された管状部材50と、を有し、板状部材10の保持面11上に半導体ウエハWを保持し、その保持された半導体ウエハWをリフトピン60により保持面11から押し上げる静電チャック1において、管状部材50の外周面と第1貫通孔15との間に隙間Sが形成されている。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の面と、前記第1の面とは反対側に設けられる第2の面と、前記第1の面と前記第2の面を貫通する第1の貫通孔とを備える第1部材と、
第3の面と、前記第3の面とは反対側に設けられる第4の面と、前記第3の面と前記第4の面を貫通し、前記第1の貫通孔に連通する第2の貫通孔とを備え、前記第1部材とは熱膨張係数が異なる第2部材と、
前記第1の貫通孔と前記第2の貫通孔とにより形成されてリフトピンが挿通されるリフトピン孔に配置され、前記第2部材に固定された管状部材と、を有し、
前記第1部材の前記第1の面上に対象物を保持し、その保持された前記対象物を前記リフトピンにより前記第1の面から押し上げる保持装置において、
前記管状部材の外周面と前記第1の貫通孔との間に隙間が形成されている
ことを特徴とする保持装置。
【請求項2】
請求項1に記載する保持装置において、
前記隙間の大きさは、前記第1の貫通孔の直径(D1)に対する前記管状部材の外径(Dc)の比率(Dc/D1×100)が、60%~90%の範囲となるように設定されている
ことを特徴とする保持装置。
【請求項3】
請求項1に記載する保持装置において、
前記第1の貫通孔の直径が、前記第2の貫通孔の直径より小さい
ことを特徴とする保持装置。
【請求項4】
請求項1に記載する保持装置において、
前記管状部材の前記第2部材側の端部には、前記管状部材における他の部分より外径が大きい大径部が形成されている
ことを特徴とする保持装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4に記載するいずれか1つの保持装置において、
前記管状部材の前記第1部材側の端面は、前記第1の面から第2部材側へ50μm~500μmの範囲でオフセットした位置に配置されている
ことを特徴とする保持装置。
【請求項6】
請求項1から請求項4に記載するいずれか1つの保持装置において、
前記管状部材の孔の内周面の表面粗さは、Ra0.4μm以下である
ことを特徴とする保持装置。
【請求項7】
請求項1から請求項4に記載するいずれか1つの保持装置において、
前記管状部材は前記第2部材に接着剤によって固定されており、前記接着剤のヤング率は、1MPa~100MPaである
ことを特徴とする保持装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、対象物を保持する保持装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、半導体ウエハを保持する保持装置として、第1部材と、第2部材と、第1部材と第2部材とを接合する接合層とを備え、これらを厚さ方向に貫通するように形成されたリフトピン孔に上下動可能に配置されたリフトピンを有する保持装置が知られている。このような保持装置では、保持面に保持された半導体ウエハを、リフトピンにより保持面から押し上げるようになっている。
【0003】
そして、半導体ウエハと保持装置の金属部分との間で異常放電が発生しないように、リフトピン孔には絶縁部材が設けられている。例えば、特許文献1に記載の載置台(保持装置)では、ピン用貫通孔(リフトピン孔)に、ピン用スリーブ及びピン用スペーサを配置している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許6017328号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記の載置台では、静電チャック(第1部材)と基材(第2部材)との熱膨張差に起因して、静電チャックからピン用スリーブに対して局所的に応力が加わるおそれがある。このような局所的な応力がピン用スリーブに作用すると、リフトピンにも局所的な応力が作用するため、リフトピンが損傷してしまうおそれがある。また、局所的な応力がピン用スリーブに作用した状態でリフトピンを移動させると、ピン用スペーサとリフトピンとが局所的に強く接触するため、ピン用スペーサやリフトピンが摩耗して、保持装置が使用される設備内でパーティクル(微粒子)が発生するおそれもある。
【0006】
そこで、本開示は上記した問題点を解決するためになされたものであり、リフトピンの損傷や摩耗を防止することができる保持装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するためになされた本開示の一形態は、
第1の面と、前記第1の面とは反対側に設けられる第2の面と、前記第1の面と前記第2の面を貫通する第1の貫通孔とを備える第1部材と、
第3の面と、前記第3の面とは反対側に設けられる第4の面と、前記第3の面と前記第4の面を貫通し、前記第1の貫通孔に連通する第2の貫通孔とを備え、前記第1部材とは熱膨張係数が異なる第2部材と、
前記第1の貫通孔と前記第2の貫通孔とにより形成されてリフトピンが挿通されるリフトピン孔に配置され、前記第2部材に固定された管状部材と、を有し、
前記第1部材の前記第1の面上に対象物を保持し、その保持された前記対象物を前記リフトピンにより前記第1の面から押し上げる保持装置において、
前記管状部材の外周面と前記第1の貫通孔との間に隙間が形成されていることを特徴とする。
【0008】
第1部材と第2部材との熱膨張差に起因して、第1部材から管状部材に対して局所的に応力が加わるおそれがある。そして、局所的な応力が管状部材に作用してしまうと、リフトピンにも局所的な応力が作用してリフトピンが損傷してしまうおそれがある。
【0009】
そこで、この保持装置では、第1の貫通孔及び第2の貫通孔(リフトピン孔)に管状部材を配置して、その管状部材の外周面と第1の貫通孔との間に隙間を設けている。これにより、第1部材と第2部材との熱膨張差に起因して管状部材に対して局所的に応力が作用することを回避することができる。そのため、リフトピンの損傷を防ぐとともに、リフトピンの移動によって発生する管状部材やリフトピンの摩耗を防ぐことができる。従って、リフトピンの交換寿命を延ばすとともに、保持装置が使用される設備内でのパーティクル(微粒子)の発生が抑制されるのでコンタミネーションを防止することができる。
【0010】
上記した保持装置において、
前記隙間の大きさは、前記第1の貫通孔の直径(D1)に対する前記管状部材の外径(Dc)の比率(Dc/D1×100)が、60%~90%の範囲となるように設定されていることが好ましい。
【0011】
管状部材と第1の貫通孔との間の隙間の大きさを、このような範囲内に設定することにより、第1部材と管状部材との接触を確実に防ぐことができるため、第1部材から管状部材(ひいていはリフトピン)に対して応力が作用することを効果的に防止することができる。
隙間の大きさを上記の範囲に設定するのは、比率が60%より小さいと隙間が大きくなる、言い換えると管状部材の厚みが薄くなり、強度が低下しリフトピンとの接触で割れが発生するおそれがある一方、比率が90%より大きいと隙間が小さくなりすぎてしまい、第1部材と第2部材との熱膨張差に起因して、第1部材が管状部材に接触してしまうおそれがあるからである。
【0012】
また、上記したいずれかの保持装置において、
前記第1の貫通孔の直径が、前記第2の貫通孔の直径より小さいことが好ましい。
【0013】
これにより、第1の面においてリフトピン孔の開口面積を、より小さくすることができる。そのため、第1の面における均熱性を一層向上させることができる。また、リフトピン孔における沿面距離(第1の面の開口部とベース部(第3の面における第2の貫通穴の開口部分)との間における沿面距離)を長くすることができるため、絶縁性能を向上させることができる。
【0014】
また、上記したいずれかの保持装置において、
前記管状部材の前記第2部材側の端部には、前記管状部材における他の部分より外径が大きい大径部が形成されていることが好ましい。
【0015】
このように管状部材の第2部材側の端部に大径部を設けることにより、管状部材の外径に段差が形成される(第2の貫通孔に配置される部分の外径が大きくなる)ので、管状部材の剛性を高めることができ、リフトピンの損傷をより効果的に防止することができる。また、リフトピン孔における沿面距離(第1の面の開口部とベース部(第3の面における第2の貫通穴の開口部分)との間における沿面距離)を長くすることができるため、絶縁性能を向上させることができる。
【0016】
また、上記したいずれかの保持装置において、
前記管状部材の前記第1部材側の端面は、前記第1の面から第2部材側へ50μm~500μmの範囲でオフセットした位置に配置されていることが好ましい。
【0017】
このように管状部材を配置することにより、リフトピン孔内で発生するおそれのある異常放電を管状部材によって防止することができるとともに、管状部材を第1の面から飛び出ることなくリフトピン孔に設けることができる。
オフセット量を上記の範囲に設定するのは、オフセット量が50μmより小さいと第1部材から管状部材が突出し対象物と接触するおそれがある一方、オフセット量が500μmより大きいと空間が大きくなり、第2部材までの沿面距離が短くなり放電のおそれがあるからである。
【0018】
また、上記したいずれかの保持装置において、
前記管状部材の孔の内周面の表面粗さは、Ra0.4μm以下であることが好ましい。
【0019】
管状部材の孔の内周面の表面粗さを、このような範囲にすることにより、リフトピンの移動によって発生する管状部材やリフトピンの摩耗を確実に低減することができる。そのため、保持装置が使用される設備内でのコンタミネーションを防止することができる。
管状部材の孔の内周面の表面粗さを上記の範囲に設定するのは、表面粗さがRa0.4μmより大きいとリフトピンと管状部材の摩耗によりパーティクルが発生するおそれがあるからである。
【0020】
また、上記したいずれかの保持装置において、
前記管状部材は前記第2部材に接着剤によって固定されており、前記接着剤のヤング率は、1MPa~100MPaであることが好ましい。
【0021】
管状部材を固定する接着剤として、ヤング率がこのような範囲内の接着剤を用いることにより、接着剤に確実に柔軟性を持たせることができる。そのため、熱による膨張・収縮によって第2部材が寸法変化しても、その寸法変化を接着剤により吸収することができる。従って、第2部材が熱変形した場合にも、管状部材を第2部材に対してしっかりと固定することができるともに、管状部材の損傷を防止することができるため、リフトピンに局所的な応力が加わることを防止することができる。
接着剤のヤング率を上記の範囲に設定するのは、ヤング率が1MPaより小さいと管状部材を保持(固定)できないおそれがある一方、ヤング率が100MPaより大きいと熱膨張時のひずみを吸収できないおそれがあるからである。
【発明の効果】
【0022】
本開示によれば、リフトピンの損傷や摩耗を防止することができる保持装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】実施形態の静電チャックの概略斜視図である。
図2】実施形態の静電チャックのXZ断面の概略構成図である。
図3図2に示すA部の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本開示に係る実施形態である保持装置について、図面を参照しながら詳細に説明する。本実施形態では、保持装置として、例えば、成膜装置(CVD成膜装置やスパッタリング成膜装置など)やエッチング装置(プラズマエッチング装置など)といった半導体製造装置に使用される静電チャックを例示して説明する。
【0025】
そこで、本実施形態の静電チャック1について、図1図3を参照しながら説明する。本実施形態の静電チャック1は、半導体ウエハW(対象物)を静電引力により吸着して保持する装置であり、例えば、半導体製造装置の真空チャンバー内で半導体ウエハWを固定するために使用される。図1に示すように、静電チャック1は、板状部材10と、ベース部材20と、板状部材10とベース部材20とを接合する接合層30とを有する。なお、板状部材10は本開示の「第1部材」の一例であり、ベース部材20は本開示の「第2部材」の一例である。
【0026】
以下の説明においては、説明の便宜上、図1に示すようにXYZ軸を定義する。ここで、Z軸は、静電チャック1の軸線方向(図1において上下方向)の軸であり、X軸とY軸は、静電チャック1の径方向の軸である。
【0027】
板状部材10は、図1に示すように、円板状の部材であり、セラミックスにより形成されている。セラミックスとしては、様々なセラミックスが用いられるが、強度や耐摩耗性、耐プラズマ性等の観点から、例えば、酸化アルミニウム(アルミナ、Al)または窒化アルミニウム(AlN)を主成分とするセラミックスが用いられることが好ましい。なお、ここでいう主成分とは、含有割合の最も多い成分(例えば、体積含有率が90vol%以上の成分)を意味する。板状部材10の直径は、例えば150mm~350mm程度であり、板状部材10の厚さは、例えば2mm~6mm程度である。
【0028】
図1図2に示すように、板状部材10は、半導体ウエハWを保持する保持面11と、板状部材10の厚み方向(Z軸方向に一致する方向、図中上下方向)について保持面11とは反対側に設けられる下面12とを備えている。そして、保持面11と下面12との間をZ軸方向に貫通する円筒形状の第1貫通孔15が形成されている。この第1貫通孔15は、後述するリフトピン孔40の一部である。なお、保持面11は本開示の「第1の面」の一例であり、下面12は本開示の「第2の面」の一例である。
【0029】
ベース部材20は、図1に示すように円柱状、詳しくは、直径の異なる2つの円柱が、大きな直径の円柱状の上面部の上に小さな直径の円柱状の下面部が載せられるようにして、中心軸を共通にして重ねられて形成された段付きの円柱状である。このベース部材20は、板状部材10とは線膨張係数が異なる材質、例えば金属(アルミニウムやアルミニウム合金等)により形成されている。
【0030】
そして、図1図2に示すように、ベース部材20は、上面21と、ベース部材20(板状部材10)の中心軸方向(すなわち、Z軸方向)について上面21とは反対側に設けられる下面22と、を備えている。なお、上面21は本開示の「第3の面」の一例であり、下面22は本開示の「第4の面」の一例である。
【0031】
ベース部材20の直径は、上段部が例えば150mm~300mm程度であり、下段部が例えば180mm~350mm程度である。また、ベース部材20の厚さ(Z軸方向の寸法)は、例えば20mm~50mm程度である。
【0032】
また、図2に示すように、ベース部材20には、冷媒(例えば、フッ素系不活性液体や水等)を流すための冷媒流路23が形成されている。そして、冷媒流路23は、ベース部材20の下面22に設けられた不図示の供給口と排出口とに接続しており、供給口からベース部材20に供給された冷媒が、冷媒流路23内を流れて排出口からベース部材20の外へ排出される。このようにして、ベース部材20の冷媒流路23内に冷媒を流すことにより、ベース部材20が冷却され、これにより、接合層30を介して板状部材10が冷却される。
【0033】
そして、ベース部材20には、上面21と下面22との間をZ軸方向に貫通する円筒形状の第2貫通孔25が形成されている。なお、第2貫通孔25は、第1貫通孔15と同軸であり、第2貫通孔25の直径D2は、第1貫通孔15の直径D1よりも大きい(D1)<D2)。また、第2貫通孔25は、後述するリフトピン孔40の一部である。
【0034】
接合層30は、板状部材10の下面12とベース部材20の上面21との間に配置され、板状部材10とベース部材20とを接合している。接合層30は、例えばシリコーン系樹脂やアクリル系樹脂、エポキシ系樹脂等の樹脂接着材などにより構成されている。この接合層30を介して、板状部材10の下面12とベース部材20の上面21とが熱的に接続されている。なお、接合層30の厚さ(Z軸方向の寸法)は、例えば0.1mm~1.0mm程度である。
【0035】
この接合層30には、図2に示すように、第1貫通孔15と第2貫通孔25とを連通させる第3貫通孔35が形成されている。つまり、第1貫通孔15と第2貫通孔25との間に、円筒形状の第3貫通孔35が形成されている。第3貫通孔35は、第1貫通孔15及び第2貫通孔25と同軸であり、第1貫通孔15と第3貫通孔35と第2貫通孔25とは、Z軸方向(静電チャック1の軸線方向)に連なって配置されている。第3貫通孔35は、後述するリフトピン孔40の一部である。なお、本実施形態において、第3貫通孔35の直径は、第2貫通孔25の直径とほぼ同じである。
【0036】
そして、図2に示すように、第1貫通孔15と第2貫通孔25と第3貫通孔35によって、静電チャック1をZ軸方向に貫通するリフトピン孔40が形成されている。なお、本実施形態の静電チャック1では、リフトピン孔40が静電チャック1の周方向に等間隔(120°間隔)で3個形成されている。このリフトピン孔40には、管状部材50とリフトピン60とが配置されている。詳細には、リフトピン孔40に管状部材50が配置され、管状部材50の貫通孔55にリフトピン60が配置されている。
【0037】
管状部材50は、第1貫通孔15に配置される小径部51と、第2貫通孔25に配置される大径部52と、小径部51及び大径部52の中心に形成されて小径部51及び大径部52を貫通する貫通孔55と、を備えている。この管状部材50は、セラミックスにより形成されている。そのため、管状部材50により、静電チャック1の使用時におけるリフトピン孔40内での異常放電の発生が防がれている。つまり、管状部材50は、リフトピン孔40内で発生するおそれのある異常放電を防止する絶縁機能を備えている。また、貫通孔55の内周面が加工されており、その表面粗さがRa0.4μm以下となっている。そのため、リフトピン60が貫通孔55内をスムーズに移動するようになっている。なお、貫通孔55の内周面の表面粗さをRa0.4μm以下に設定しているのは、リフトピン60と管状部材50の摩耗によるパーティクルの発生を抑制するためである。
【0038】
そして、管状部材50の貫通孔55内に、リフトピン60がベース部材20の下面22側から挿入されている。リフトピン60は、半導体ウエハWを保持面11上から押し上げる部材であり、円柱形状(丸棒形状)をなしており、貫通孔55(リフトピン孔40)内をZ軸方向に移動する。つまり、管状部材50は、リフトピン60のガイド機能も備えている。このように、リフトピン60がZ軸方向の一方側(図2では上側)に移動して、リフトピン60の先端部(上端部)が板状部材10の保持面11から外部に突出することで、保持面11上に載置されている半導体ウエハWを保持面11から離間させる(リフトピン60によって半導体ウエハWを持ち上げる)ようになっている。
【0039】
このような管状部材50は、ベース部材20に対して、ヤング率が1MPa~100MPaである接着剤70によって固定されている。このような範囲のヤング率を有する接着剤70を用いるのは、管状部材50を保持(固定)しつつ、板状部材10とベース部材20の熱膨張差を吸収できる硬さであるからである。
【0040】
そして、図3に示すように、管状部材50(小径部51)の外周面と第1貫通孔15との間に隙間Sが形成されている。この隙間Sの大きさは、第1貫通孔15の直径D1に対する管状部材50の小径部51の外径Dcの比率(Dc/D1×100)が、60%~90%の範囲となるように設定されている。隙間Sの大きさをこのような範囲に設定するのは、板状部材10側の管状部材50の強度を保ち、かつ、開口径と接触させないためであるからである。
【0041】
また、小径部51の先端面は、保持面11からベース部材20側へ50μm~500μmの範囲でオフセットした位置(図中では保持面よりも下側)に配置されている。保持面11から小径部51の先端面までのオフセット量をこのような範囲に設定するのは、板状部材10から管状部材50が突出し半導体ウエハWに接触しないようするのと、ベース部材20までの沿面距離を長くするためである。
【0042】
ここで、静電チャック1において、板状部材10とベース部材20とで熱膨張差があるため、静電チャック1を使用しているときの温度変化により、板状部材10から管状部材50(小径部51)に対して局所的な応力が加わるおそれがある。このような局所的な応力が管状部材50(小径部51)に作用してしまうと、リフトピン60にも局所的な応力が作用してリフトピン60が損傷してしまうおそれがある。
【0043】
そこで、本実施形態の静電チャック1では、第1貫通孔15と管状部材50(小径部51)の外周面との間に隙間Sを設けている。そして、この隙間Sの大きさを、第1貫通孔15の直径D1に対する管状部材の小径部51の外径Dcの比率(Dc/D1×100)が、60%~90%の範囲となるように設定している。
【0044】
そのため、板状部材10とベース部材20との熱膨張差に起因して、板状部材10から管状部材50(小径部51)に対して局所的に応力が作用することを回避することができる。従って、リフトピン60の損傷を防ぐとともに、リフトピン60の移動によって発生する管状部材50やリフトピン60の摩耗も防ぐことができる。よって、静電チャック1によれば、リフトピン60の交換寿命を延ばすとともに、使用される設備内でのパーティクル(微粒子)の発生を抑制することができるのでコンタミネーションを防止することができる。
【0045】
また、静電チャック1では、管状部材50の小径部51が第1貫通孔15に配置されているため、保持面11においてリフトピン孔40(つまり第1貫通孔15)の開口面積を、小さくすることができる。そのため、保持面11における均熱性を向上させることができる。さらに、リフトピン孔40における沿面距離(保持面11の開口部とベース部材20(上面21における第2貫通孔25の開口部)との間における沿面距離)を長くすることができるため、静電チャック1における絶縁性能を向上させることができる。
【0046】
そして、管状部材50のベース部材20側の端部に大径部52が設けられている。すなわち、管状部材50のうち第2貫通孔25に配置される大径部52の外径が、第1貫通孔15に配置される小径部51の外径よりも大きくなっており、管状部材50の外径に段差が形成されている。このように管状部材50の外径に段差を設けることにより、管状部材50の剛性を高めることができる。そのため、管状部材50におけるリフトピン60のガイド機能が高まり、リフトピン60をしっかりと保護することができるため、リフトピン60の損傷をより効果的に防止することができる。
【0047】
また、静電チャック1では、小径部51の先端面が、保持面11からベース部材20側へ50μm~500μmの範囲でオフセットした位置に配置されている。そのため、リフトピン孔40内で発生するおそれのある異常放電を管状部材50によって防止しつつ、管状部材50を保持面11から飛び出させることなくリフトピン孔40内に設けることができる。
【0048】
さらに、管状部材50の貫通孔55の内周面の表面粗さがRa0.4μm以下となっている。そのため、リフトピン60の移動によって発生する管状部材50やリフトピン60の摩耗を確実に低減することができる。従って、静電チャック1が使用される設備内でのコンタミネーションを防止することができる。
【0049】
そして、このような管状部材50は、ヤング率が1MPa~100MPaである接着剤70によってベース部材20に固定されている。そのため、静電チャック1の使用中に熱による膨張・収縮によってベース部材20が寸法変化しても、その寸法変化を柔軟性を持つ接着剤70により吸収することができる。これにより、ベース部材20が熱変形した場合にも、管状部材50をベース部材20に対してしっかりと固定することができるともに、管状部材50の損傷を防止することができる。従って、リフトピン60に対して管状部材50から局所的な応力が作用することを防止することができる。
【0050】
以上のように、本実施形態の静電チャック1によれば、第1貫通孔15及び第2貫通孔25(リフトピン孔40)に管状部材50を配置して、管状部材50の小径部51の外周面と第1貫通孔15との間に隙間Sを設けている。そのため、板状部材10とベース部材20との熱膨張差に起因し、管状部材50に対して局所的に応力が作用することを回避することができる。これにより、リフトピン60の損傷を防ぐとともに、リフトピン60の移動によって発生する管状部材50やリフトピン60の摩耗を防ぐことができる。その結果として、リフトピン60の交換寿命を延ばすとともに、静電チャック1が使用される設備内でのパーティクル(微粒子)の発生が抑制されるのでコンタミネーションを防止することができる。
【0051】
なお、上記の実施形態は単なる例示にすぎず、本開示を何ら限定するものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良、変形が可能であることはもちろんである。例えば、上記の実施形態では、本開示を静電チャックに適用した場合を例示したが、本開示は、静電チャックに限られることなく、リフトピンを備える保持装置全般について適用することができる。
【符号の説明】
【0052】
1 静電チャック
10 板状部材
11 保持面
12 下面
15 第1貫通孔
20 ベース部材
21 上面
22 下面
25 第2貫通孔
40 リフトピン孔
50 管状部材
51 小径部
52 大径部
55 貫通孔
60 リフトピン
70 接着剤
D1 第1貫通孔の直径
D2 第2貫通孔の直径
Dc 小径部の外径
S 隙間
W 半導体ウエハ
図1
図2
図3