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特開2024-15783輸送体タンパク質の探索方法及びその使用
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024015783
(43)【公開日】2024-02-06
(54)【発明の名称】輸送体タンパク質の探索方法及びその使用
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/62 20060101AFI20240130BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20240130BHJP
   C12N 15/12 20060101ALI20240130BHJP
   C07D 213/82 20060101ALI20240130BHJP
   A61K 31/44 20060101ALI20240130BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240130BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20240130BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALN20240130BHJP
   C12Q 1/6851 20180101ALN20240130BHJP
   C12Q 1/686 20180101ALN20240130BHJP
【FI】
C12N15/62 Z
C12N5/10 ZNA
C12N15/12
C07D213/82 CSP
A61K31/44
A61P43/00 121
A61K45/00
C12Q1/02
C12Q1/6851 Z
C12Q1/686 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022118082
(22)【出願日】2022-07-25
(71)【出願人】
【識別番号】399086263
【氏名又は名称】学校法人帝京大学
(71)【出願人】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(71)【出願人】
【識別番号】399030060
【氏名又は名称】学校法人 関西大学
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【弁理士】
【氏名又は名称】春田 洋孝
(72)【発明者】
【氏名】出口 芳春
(72)【発明者】
【氏名】久保 義行
(72)【発明者】
【氏名】黒澤 俊樹
(72)【発明者】
【氏名】田畑 英嗣
(72)【発明者】
【氏名】手賀 悠真
(72)【発明者】
【氏名】樋口 慧
(72)【発明者】
【氏名】寺崎 哲也
(72)【発明者】
【氏名】内田 康雄
(72)【発明者】
【氏名】住吉 孝明
【テーマコード(参考)】
4B063
4B065
4C055
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA13
4B063QA18
4B063QQ08
4B063QQ53
4B063QQ79
4B063QR08
4B063QR32
4B063QR48
4B063QR62
4B063QR66
4B063QR77
4B063QR80
4B063QS05
4B063QS12
4B063QS25
4B063QS32
4B063QS38
4B063QS39
4B063QX02
4B065AA93X
4B065AA93Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065BB19
4B065BB25
4B065BB34
4B065BB37
4B065BC03
4B065BC05
4B065BC07
4B065BC11
4B065BC41
4B065CA24
4B065CA46
4C055AA01
4C055BA02
4C055BA52
4C055BB10
4C055CA02
4C055CA06
4C055CA58
4C055CB11
4C055DA01
4C084AA19
4C084NA05
4C084NA14
4C084ZC75
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC17
(57)【要約】
【課題】輸送体タンパク質の新規探索方法、及び前記新規探索方法を用いて見出された新規輸送体タンパク質分子を用いた、カチオン性薬物のスクリーニングに利用可能な技術を提供する。
【解決手段】発現ベクターは、LHFPL6タンパク質をコードする遺伝子、及び、TM7SF3タンパク質をコードする遺伝子を含む。ベクターセットは、LHFPL6タンパク質をコードする遺伝子を含む発現ベクターと、TM7SF3タンパク質をコードする遺伝子を含む発現ベクターと、を備える。輸送体タンパク質の探索方法は、輸送体タンパク質が細胞膜上に発現している細胞と、光反応性基が導入された輸送体タンパク質の基質とを、光照射下で接触させることと、接触後の細胞を破砕して、細胞膜画分を調製し、該細胞膜画分を用いて、SWATH-MS法により解析を行い、輸送体の候補タンパク質を選択することと、を含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
LHFPLテトラスパンサブファミリーメンバー6タンパク質をコードする遺伝子、及び、トランスメンブレン7スーパーファミリーメンバー3タンパク質をコードする遺伝子を含む、発現ベクター。
【請求項2】
LHFPLテトラスパンサブファミリーメンバー6タンパク質をコードする遺伝子を含む発現ベクターと、
トランスメンブレン7スーパーファミリーメンバー3タンパク質をコードする遺伝子を含む発現ベクターと、
を備える、ベクターセット。
【請求項3】
請求項1に記載の発現ベクターを含む、細胞。
【請求項4】
LHFPLテトラスパンサブファミリーメンバー6タンパク質をコードする遺伝子を含む発現ベクターと、
トランスメンブレン7スーパーファミリーメンバー3タンパク質をコードする遺伝子を含む発現ベクターと、を含む、細胞。
【請求項5】
LHFPLテトラスパンサブファミリーメンバー6タンパク質をコードする遺伝子、及び、トランスメンブレン7スーパーファミリーメンバー3タンパク質をコードする遺伝子が染色体に挿入されており、
内在性の、前記LHFPLテトラスパンサブファミリーメンバー6タンパク質をコードする遺伝子、及び、前記トランスメンブレン7スーパーファミリーメンバー3タンパク質をコードする遺伝子を有さない、又は、
hCMEC/D3細胞における内在性の、前記LHFPL6タンパク質をコードする遺伝子、及び、前記TM7SF3タンパク質をコードする遺伝子のmRNAの発現量と比較して、内在性の、前記LHFPL6タンパク質をコードする遺伝子、及び、前記TM7SF3タンパク質をコードする遺伝子のmRNAの発現量がそれぞれ50%以下である、細胞。
【請求項6】
下記一般式(I)で表される化合物。
【化1】
(一般式(I)中、X11は炭素数1以上10以下のアルキル基である。n11は0以上10以下の整数である。)
【請求項7】
下記式(I-1)で表される、請求項6に記載の化合物。
【化2】
【請求項8】
請求項6に記載の化合物を含む、プロトン/有機カチオン交換輸送体用基質プローブ。
【請求項9】
請求項6又は7に記載の化合物と、生理活性物質と、を含む、医薬組成物。
【請求項10】
請求項1に記載の発現ベクター、請求項2に記載のベクターセット、及び、請求項3~5のいずれか一項に記載の細胞からなる群より選ばれる1種以上と、
請求項8に記載のプロトン/有機カチオン交換輸送体用基質プローブと、
を備える、被験物質のスクリーニング用キット。
【請求項11】
請求項1に記載の発現ベクター、請求項2に記載のベクターセット、又は、請求項3~5のいずれか一項に記載の細胞を用いることを含む、被験物質のスクリーニング方法。
【請求項12】
請求項8に記載のプロトン/有機カチオン交換輸送体用基質プローブを更に用いる、請求項11に記載の被験物質のスクリーニング方法。
【請求項13】
輸送体タンパク質が細胞膜上に発現している細胞と、光反応性基が導入された前記輸送体タンパク質の基質とを、光照射下で接触させることと、
前記接触後の細胞を破砕して、細胞膜画分を調製し、該細胞膜画分を用いて、SWATH-MS法により解析を行い、輸送体の候補タンパク質を選択することと、
を含む、輸送体タンパク質の探索方法。
【請求項14】
前記接触において、前記細胞と、前記基質とを、前記輸送体タンパク質の阻害剤存在下及び非存在下にて、光照射下で接触させる、請求項13に記載の輸送体タンパク質の探索方法。
【請求項15】
前記光反応性基がアリルアジド基又はジアジリン基である、請求項13又は14に記載の輸送体タンパク質の探索方法。
【請求項16】
脳微小血管内皮細胞と、光反応性基が導入されたピリラミンとを、光照射下で接触させることと、
前記接触後の脳微小血管内皮細胞を破砕して、細胞膜画分を調製し、該細胞膜画分を用いて、SWATH-MS法により解析を行い、輸送体の候補タンパク質を選択することと、
を含み、
前記輸送体タンパク質がプロトン/有機カチオン交換輸送体である、請求項13又は14に記載の輸送体タンパク質の探索方法。
【請求項17】
前記接触において、前記脳微小血管内皮細胞と、前記光反応性基が導入されたピリラミンとを、プロトン/有機カチオン交換輸送体の阻害剤存在下及び非存在下にて、光照射下で接触させる、請求項16に記載の輸送体タンパク質の探索方法。
【請求項18】
前記プロトン/有機カチオン交換輸送体の阻害剤がフルボキサミンである、請求項17に記載の輸送体タンパク質の探索方法。
【請求項19】
前記光反応性基が導入されたピリラミンが下記式(II)で表される化合物である、請求項16に記載の輸送体タンパク質の探索方法。
【化3】
【請求項20】
下記式(II)で表される化合物。
【化4】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、輸送体タンパク質の探索方法及びその使用に関する。本発明は、具体的には、発現ベクター、ベクターセット、細胞、化合物、プロトン/有機カチオン交換輸送体用基質プローブ、医薬組成物、被験物質のスクリーニング用キット、被験物質のスクリーニング方法、及び輸送体タンパク質の探索方法に関する。
【背景技術】
【0002】
脳には末梢組織とは異なり、血液脳関門(BBB)というバリア機能が存在する。BBBの解剖学的実体は、脳微小血管内皮細胞であり、細胞同士が強固に密着結合しているために物理的に外敵から脳を守っている。一方で、BBBにはグルコースやアミノ酸等を輸送する輸送体(トランスポーター)が発現しており、脳神経活動に必要な栄養物質を脳内に効率的に取り込む機能を有する。
【0003】
BBBは脳神経に影響を及ぼす化学物質を排除する機能を有することがこれまでの一般常識であったが、近年、向精神薬等のカチオン性薬物を積極的に脳内に取り込むことがわかっている。代表的な例として、抗ヒスタミン薬であるジフェンヒドラミンやオキシコドンは、血液中の非結合型濃度に比べて脳内非結合型濃度は5倍以上6倍以下高くなることが知られている。発明者らは、この現象を生み出すトランスポーターがプロトン/有機カチオン交換輸送体(H/OC antiporter)であることを明らかにしている(例えば、非特許文献1等参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Shimomura K et al., “Functional expression of a proton-coupled organic cation (H+/OC) antiporter in human brain capillary endothelial cell line hCMEC/D3, a human blood-brain barrier mode.”, Fluids Barriers CNS, Vol. 10, No. 8, pp. 1-10, 2013.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、脳微小血管内皮細胞の細胞膜上に存在するプロトン/有機カチオン交換輸送体の分子実体は依然不明である。プロトン/有機カチオン交換輸送体は、副作用を軽減し、脳に効率的に輸送可能な新規の中枢神経系疾患治療薬の開発を促進する標的になり得ることから、該輸送体の分子解明が求められている。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、輸送体タンパク質の新規探索方法を提供する。また、前記新規探索方法を用いて見出された新規輸送体タンパク質分子を用いた、カチオン性薬物のスクリーニングに利用可能な技術を提供する。また、プロトン/有機カチオン交換輸送体の新規基質化合物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本発明は、以下の態様を含む。
(1) LHFPLテトラスパンサブファミリーメンバー6タンパク質をコードする遺伝子、及び、トランスメンブレン7スーパーファミリーメンバー3タンパク質をコードする遺伝子を含む、発現ベクター。
(2) LHFPLテトラスパンサブファミリーメンバー6タンパク質をコードする遺伝子を含む発現ベクターと、
トランスメンブレン7スーパーファミリーメンバー3タンパク質をコードする遺伝子を含む発現ベクターと、
を備える、ベクターセット。
(3) (1)に記載の発現ベクターを含む、細胞。
(4) LHFPLテトラスパンサブファミリーメンバー6タンパク質をコードする遺伝子を含む発現ベクターと、
トランスメンブレン7スーパーファミリーメンバー3タンパク質をコードする遺伝子を含む発現ベクターと、を含む、細胞。
(5) LHFPLテトラスパンサブファミリーメンバー6タンパク質をコードする遺伝子、及び、トランスメンブレン7スーパーファミリーメンバー3タンパク質をコードする遺伝子が染色体に挿入されており、
内在性の、前記LHFPLテトラスパンサブファミリーメンバー6タンパク質をコードする遺伝子、及び、前記トランスメンブレン7スーパーファミリーメンバー3タンパク質をコードする遺伝子を有さない、又は、
hCMEC/D3細胞における内在性の、前記LHFPL6タンパク質をコードする遺伝子、及び、前記TM7SF3タンパク質をコードする遺伝子のmRNAの発現量と比較して、内在性の、前記LHFPL6タンパク質をコードする遺伝子、及び、前記TM7SF3タンパク質をコードする遺伝子のmRNAの発現量がそれぞれ50%以下である、細胞。
(6) 下記一般式(I)で表される化合物。
【0008】
【化1】
【0009】
(一般式(I)中、X11は炭素数1以上10以下のアルキル基である。n11は0以上10以下の整数である。)
【0010】
(7) 下記式(I-1)で表される、(6)に記載の化合物。
【0011】
【化2】
【0012】
(8) (6)又は(7)に記載の化合物を含む、プロトン/有機カチオン交換輸送体用基質プローブ。
(9) (6)又は(7)に記載の化合物と、生理活性物質と、を含む、医薬組成物。
(10) (1)に記載の発現ベクター、(2)に記載のベクターセット、及び、(3)~(5)のいずれか一つに記載の細胞からなる群より選ばれる1種以上と、
(8)に記載のプロトン/有機カチオン交換輸送体用基質プローブと、
を備える、被験物質のスクリーニング用キット。
(11) (1)に記載の発現ベクター、(2)に記載のベクターセット、又は、(3)~(5)のいずれか一つに記載の細胞を用いることを含む、被験物質のスクリーニング方法。
(12) (8)に記載のプロトン/有機カチオン交換輸送体用基質プローブを更に用いる、請求項11に記載の被験物質のスクリーニング方法。
(13) 輸送体タンパク質が細胞膜上に発現している細胞と、光反応性基が導入された前記輸送体タンパク質の基質とを、光照射下で接触させることと、
前記接触後の細胞を破砕して、細胞膜画分を調製し、該細胞膜画分を用いて、SWATH-MS法により解析を行い、輸送体の候補タンパク質を選択することと、
を含む、輸送体タンパク質の探索方法。
(14) 前記接触において、前記細胞と、前記基質とを、前記輸送体タンパク質の阻害剤存在下及び非存在下にて、光照射下で接触させる、(13)に記載の輸送体タンパク質の探索方法。
(15) 前記光反応性基がアリルアジド基又はジアジリン基である、(13)又は(14)に記載の輸送体タンパク質の探索方法。
(16) 脳微小血管内皮細胞と、光反応性基が導入されたピリラミンとを、光照射下で接触させることと、
前記接触後の脳微小血管内皮細胞を破砕して、細胞膜画分を調製し、該細胞膜画分を用いて、SWATH-MS法により解析を行い、輸送体の候補タンパク質を選択することと、
を含み、
前記輸送体タンパク質がプロトン/有機カチオン交換輸送体である、(13)~(15)のいずれか一つに記載の輸送体タンパク質の探索方法。
(17) 前記接触において、前記脳微小血管内皮細胞と、前記光反応性基が導入されたピリラミンとを、プロトン/有機カチオン交換輸送体の阻害剤存在下及び非存在下にて、光照射下で接触させる、(16)に記載の輸送体タンパク質の探索方法。
(18) 前記プロトン/有機カチオン交換輸送体の阻害剤がフルボキサミンである、(17)に記載の輸送体タンパク質の探索方法。
(19) 前記光反応性基が導入されたピリラミンが下記式(II)で表される化合物である、(16)~(18)のいずれか一つに記載の輸送体タンパク質の探索方法。
【0013】
【化3】
【0014】
(20) 下記式(II)で表される化合物。
【0015】
【化4】
【発明の効果】
【0016】
上記態様の発現ベクター及びベクターセットによれば、新規輸送体タンパク質分子を発現させることができる。上記態様の細胞は、新規輸送体タンパク質分子を発現する細胞であり、脳に効率的に取り込まれるカチオン性薬物のスクリーニングに利用することができる。上記態様の化合物は、プロトン/有機カチオン交換輸送体の基質として利用することができる。上記態様のプロトン/有機カチオン交換輸送体用基質プローブは、プロトン/有機カチオン交換輸送体の機能解析に利用することができる。上記態様の医薬組成物によれば、脳に移行しにくい生理活性物質の脳への取り込みを促進することができる。上記態様の被験物質のスクリーニング用キット及び被験物質のスクリーニング方法によれば、脳に効率的に取り込まれるカチオン性薬物をスクリーニングすることができる。上記態様の輸送体タンパク質の探索方法によれば、未知の輸送体タンパク質を探索することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】実施例1における新規の輸送体タンパク質の探索方法(Proteomics-based Identification of transporter by Crosslinking substrate in Keyhole;PICK法)の手順及びPICK法で選択された候補タンパク質の機能解析のスキームを示す図である。
図2A】実施例1におけるプロトン/有機カチオン(H/OC)交換輸送体を介した取り込みに対するアジド基修飾したピリラミン(AzPYR)の影響を調べた結果を示すグラフである。「**」はp<0.01であり、コントロールに対して有意差があったことを示す。
図2B】実施例1におけるH/OC交換輸送体の活性に対するAzPYRによる光架橋反応の影響を調べた結果を示すグラフである。「**」はp<0.01であり、コントロールに対して有意差があったことを示す。
図3A】実施例1における単一遺伝子をノックダウンしたhCMEC/D3細胞での各遺伝子のmRNAの相対的発現量を示すグラフである。
図3B】実施例1におけるネガティブコントロールsiRNA(A)又はCD9のsiRNA(B)処理から48時間後のhCMEC/D3細胞の明視野像である。スケールバーは100μmである。
図4】実施例1における複数の遺伝子をノックダウンしたhCMEC/D3細胞での各遺伝子のmRNAの相対的発現量を示すグラフである。
図5A】実施例1におけるTM7SF3、LHFPL6、又は、TM7SF3及びLHFPL6を一過的に発現するHEK293細胞での各種H/OC交換輸送体の基質の取り込み試験の結果を示すグラフである。「**」はp<0.01であり、Mock細胞に対して有意差があったことを示す。
図5B】実施例1におけるTM7SF3、又は、TM7SF3及びLHFPL6を安定して発現するHEK293細胞での各種H/OC交換輸送体の基質の取り込み試験の結果を示すグラフである。「*」はp<0.05であり、「**」はp<0.01であり、Mock細胞及びTM7SF3を安定して発現するHEK293細胞に対して有意差があったことを示す。
図5C】実施例1におけるTM7SF3及びLHFPL6を安定して発現するHEK293細胞でのアンチピリンの取り込み試験の結果を示すグラフである。
図6A】実施例1におけるhCMEC/D3細胞での時間及び温度に依存したピリラミン類似体(化合物(I-1))の取り込み試験の結果を示すグラフである。
図6B】実施例1におけるhCMEC/D3細胞での濃度依存的なピリラミン類似体(化合物(I-1))の取り込み試験の結果を示すグラフである。
図6C】実施例1におけるhCMEC/D3細胞でのH/OC交換輸送体の阻害剤存在又は非存在下のピリラミン類似体(化合物(I-1))の取り込み試験の結果を示すグラフである。「*」はp<0.05であり、コントロールに対して有意差があったことを示す。
図6D】実施例1におけるhCMEC/D3細胞でのピリラミン類似体(化合物(I-1))の取り込みに対する細胞内pHの影響を検討した結果を示すグラフである。「*」はp<0.05であり、コントロールに対して有意差があったことを示す。
図6E】実施例1におけるhCMEC/D3細胞でのピリラミン類似体(化合物(I-1))の取り込みに対する細胞外ナトリウムイオン、膜電位及び代謝エネルギーの影響を検討した結果を示すグラフである。「*」はp<0.05であり、コントロールに対して有意差があったことを示す。
図6F】実施例1におけるTM7SF3、LHFPL6、又は、TM7SF3及びLHFPL6をノックダウンしたhCMEC/D3細胞でのTM7SF3及びLHFPL6のmRNAの相対的発現量を示すグラフである。
図6G】実施例1におけるTM7SF3、LHFPL6、又は、TM7SF3及びLHFPL6をノックダウンしたhCMEC/D3細胞でのピリラミン類似体(化合物(I-1))の取り込み試験の結果を示すグラフである。「*」はp<0.05であり、ネガティブコントロールに対して有意差があったことを示す。
図6H】実施例1におけるTM7SF3、又は、TM7SF3及びLHFPL6を安定して発現するHEK293細胞でのピリラミン類似体(化合物(I-1))の取り込み試験の結果を示すグラフである。「*」はp<0.05であり、ネガティブコントロールに対して有意差があったことを示す。
図6I】実施例1におけるTM7SF3、又は、TM7SF3及びLHFPL6を安定して発現するHEK293細胞でのTM7SF3及びLHFPL6のmRNAの相対的発現量を示すグラフである。
図7】実施例1におけるヒト及びマウスの脳微小血管内皮細胞でのTM7SF3、LHFPL6、及びBBBに存在する各種輸送体の既報に基づいたmRNA発現量を示すグラフである。
図8】実施例1におけるhCMEC/D3細胞でのピリラミンの取り込み試験の結果を示すグラフである。
図9】実施例1におけるTM7SF3、LHFPL6、又は、TM7SF3及びLHFPL6をノックダウンしたhCMEC/D3細胞でのガバペンチンの取り込み試験の結果を示すグラフである。「*」はp<0.05であり、ネガティブコントロールに対して有意差があったことを示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
≪用語の定義≫
本明細書において、「ポリヌクレオチド」及び「核酸」という用語は、相互に互換的に使用され、ヌクレオチドがホスホジエステル結合によって結合したヌクレオチドポリマーを指す。「ポリヌクレオチド」及び「核酸」は、DNAであってもよく、RNAであってもよく、DNAとRNAとの組み合わせから構成されてもよい。また、「ポリヌクレオチド」及び「核酸」は、天然ヌクレオチドのポリマーであってもよく、天然ヌクレオチドと非天然ヌクレオチド(天然ヌクレオチドの類似体、塩基部分、糖部分及びリン酸部分のうち少なくとも一つの部分が修飾されているヌクレオチド(例えば、ホスホロチオエート骨格)等)とのポリマーであってもよく、非天然ヌクレオチドのポリマーであってもよい。
本明細書において、「ポリヌクレオチド」又は「核酸」の塩基配列は、特に明示しない限り、一般的に認められている1文字コードで記載される。特に明示しない限り、塩基配列は、5’側から3’側に向かって記載する。
【0019】
本明細書において、「ポリヌクレオチド」又は「核酸」を構成するヌクレオチド残基は、単に、アデニン、チミン、シトシン、グアニン、又はウラシル等、あるいはそれらの1文字コードで記載される場合がある。
【0020】
本明細書において、「遺伝子」という用語は、特定のタンパク質をコードする少なくとも1つのオープンリーディングフレームを含むポリヌクレオチドを指す。遺伝子は、エクソン及びイントロンの両方を含み得る。
【0021】
本明細書において、「ポリペプチド」、「ペプチド」及び「タンパク質」という用語は、相互に互換的に使用され、アミド結合によって結合したアミノ酸のポリマーを指す。「ポリペプチド」、「ペプチド」又は「タンパク質」は、天然アミノ酸のポリマーであってもよく、天然アミノ酸と非天然アミノ酸(天然アミノ酸の化学的類似体、修飾誘導体等)とのポリマーであってもよく、非天然アミノ酸のポリマーであってもよい。特に明示しない限り、アミノ酸配列は、N末端側からC末端側に向かって記載する。
【0022】
本明細書において、「発現可能な状態」という用語は、ポリヌクレオチドが導入された細胞内で、該ポリヌクレオチドが転写され得る状態にあることを指す。
【0023】
本明細書において、「発現ベクター」という用語は、対象ポリヌクレオチドを含むベクターであって、該ベクターを導入した細胞内で、対象ポリヌクレオチドを発現可能な状態にするシステムを備えたベクターを指す。
【0024】
≪輸送体タンパク質の探索方法≫
本実施形態の輸送体タンパク質の探索方法は、
輸送体タンパク質が細胞膜上に発現している細胞と、光反応性基が導入された前記輸送体タンパク質の基質とを、光照射下で接触させること(以下、「接触工程」と称する場合がある)と、
前記接触後の細胞を破砕して、細胞膜画分を調製し、該細胞膜画分を用いて、SWATH-MS法により解析を行い、輸送体の候補タンパク質を選択すること(以下、「選択工程」と称する場合がある)と、
を含む。
【0025】
従来では、輸送体は単一のタンパク質分子によって構成されていると考えられていた。これに対して、発明者らは、後述する実施例に示すように、輸送体が複数のタンパク質分子から構成された複合体であるという仮説を基に、新規の輸送体タンパク質の探索方法(Proteomics-based Identification of transporter by Crosslinking substrate in Keyhole;以下、「PICK法」と称する場合がある)を構築した。具体的には、従来の遺伝子レベルでの探索方法及びそれに伴う機能解析では、2分子以上のタンパク質からなる複合体をスクリーニングすることが困難であることから、網羅的にタンパク質を定量することができるプロテオミクス技術として、SWATH-MS(Sequential window acquisition of all theoretical fragment ion spectra mass spectrometry)法を採用した。さらに、輸送体の候補タンパク質を細胞から効率的に抽出するために、該輸送体の基質に光反応基を導入した基質を用いることを見出した。
【0026】
すなわち、本実施形態の輸送体タンパク質の探索方法では、まず、光照射下で細胞と前記基質を接触させる。これにより、輸送体の基質結合部位と前記基質との間に光反応性基を介した架橋構造を形成させて、前記基質を基質結合部位に固定化する。次に、細胞から前記基質が結合している(前記基質で標識されている)タンパク質を含む細胞膜画分を抽出し、SWATH-MS法により解析して、輸送体の候補タンパク質を選択する。
【0027】
よって、本実施形態の輸送体タンパク質の探索方法によれば、上記構成を有することで、未知の輸送体タンパク質を優れた特異度及び精度でスクリーニングすることができる。
【0028】
次いで、本実施形態の輸送体タンパク質の探索方法の各工程について以下に詳細を説明する。
【0029】
<接触工程>
接触工程では、輸送体タンパク質が細胞膜上に発現している細胞と、光反応性基が導入された前記輸送体タンパク質の基質とを、光照射下で接触させる。
【0030】
[細胞]
細胞の種類としては、標的である輸送体タンパク質が細胞膜上に発現しているものであれば、特に限定されない。例えば、血液脳関門(BBB)に存在する輸送体タンパク質を解析する場合には、脳微小血管内皮細胞やその不死化した細胞株を用いることができる。また、その他の細胞としては、肝細胞、腎臓細胞、網膜細胞、脳脊髄液関門細胞やそれらの不死化した細胞株を用いることができる。
【0031】
細胞の由来とする動物種としては、哺乳動物が好ましく、具体的には、マウス、ラット、ヒト、サル、マーモセット、イヌ、ブタ、ウシ、ウマ、ネコ、ヤギ、ヒツジ、ウサギ、モルモット、ハムスター等が挙げられる。中でも、ヒトが好ましい。
【0032】
上記細胞を培養するための培地は、細胞の種類に応じて適宜選択して用いることができ、例えば、αMEM培地、Neurobasal培地、Neural Progenitor Basal培地、NS-A培地、BME培地、BGJb培地、CMRL 1066培地、最小必須培地(MEM)、Eagle MEM、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、Glasgow MEM(GMEM)、Improved MEM Zinc Option、IMDM、Medium 199培地、DMEM/F12培地、StemPro-34SFM培地、ハム培地、RPMI 1640培地、HTF培地、Fischer’s培地、Advanced DMEM、Advanced DMEM/F12、Advanced MEM、Advanced RPMI培地、及びこれらの混合培地等が挙げられるが、これらに限定されない。また、細胞が脳微小血管内皮細胞やその不死化した細胞株である場合には、Lonza社のEBM-2基本培地等の市販の培地を用いることもできる。
【0033】
培地は、血清含有培地であってもよく、無血清培地であってもよい。血清(例えば、ウシ胎児血清(FBS)、ヒト血清等)の濃度は、0v/v%以上20v/v%以下とすることができる。
【0034】
培地は、その他公知の添加物を含んでもよい。添加物は特に限定されないが、例えば、公知の成長因子、ポリアミン類、ミネラル、糖類(例えば、グルコース等)、有機酸(例えば、ピルビン酸、乳酸等)及びその塩(ナトリウム塩、カリウム塩等)、アミノ酸(例えば、非必須アミノ酸(NEAA)、L-グルタミン等)、還元剤(例えば、2-メルカプトエタノール等)、ビタミン類(例えば、アスコルビン酸、d-ビオチン等)、ステロイド、抗生物質(例えば、ストレプトマイシン、ペニシリン等)、緩衝剤(例えば、HEPES等)、栄養添加物(例えば、B27 supplement、N2 supplement、StemPro-Nutrient Supplement等)が挙げられる。これらを単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。各添加物は公知の濃度範囲で含むことができる。
【0035】
[基質]
基質としては、標的の輸送体タンパク質の基質として公知の物質に光反応性基が導入したものを用いることができる。
【0036】
光反応性基とは、一般に、紫外線(UV)や可視光に曝露されることで光励起され、反応性活性種に変換される反応基であり、これにより近くに存在するタンパク質のアミノ酸残基と共有結合を形成する。本実施形態においては、紫外線の照射により反応性活性種に変換される反応基が好ましく用いられる。光反応性基として具体的には、アリルアジド基、アジドメチルクマリン基、ベンゾフェノン基、アントラキノン基、ジアジリン基等が挙げられる。アリルアジド基としては、フェニルアジド基、o-ヒドロキシフェニルアジド基、m-ヒドロキシフェニルアジド基、テトラフルオロフェニルアジド基、o-ニトロフェニルアジド基、m-ニトロフェニルアジド基等が挙げられる。中でも、構造が比較的小さく、基質が輸送体タンパク質に結合する際に妨げにならないことから、アリルアジド基、又はジアジリン基が好ましく、フェニルアジド基がより好ましい。これらの光反応性基は、基質に直接結合していてもよく、炭素数1以上10以下の鎖状アルキレン基、カルボニル基、アミド結合、エーテル結合等のリンカー構造を介して結合していてもよい。
【0037】
例えば、後述する実施例に示すように、標的の輸送体タンパク質がBBBに存在するプロトン/有機カチオン(H/OC)交換輸送体である場合には、H/OC交換輸送体の基質として知られている、ピリラミン、ジフェンヒドラミン等のH受容体拮抗剤;ニコチン、バレニクリン等のニコチン性アセチルコリン受容体作動剤;メマンチン等のN-メチル-D-アスパラギン酸(NMDA)受容体拮抗剤;トラマドール、オキシコドン等のオピオイド受容体作動剤;ナルトレキソン等のオピオイド受容体拮抗剤、クロニジン等のアドレナリンα2受容体作動剤;プラミペキソール、R-アポモルヒネ等のドパミン受容体作動剤等に、光反応性基が導入したものを用いることができる。中でも、血液から脳内への取り込み量が顕著に高く、合成が簡便であることから、光反応性基を導入したピリラミンが好ましく、後述する式(II)で表される化合物(以下、「化合物(II)」と称する場合がある)がより好ましい。
【0038】
[阻害剤]
接触工程において、上記細胞と、上記基質とを、輸送体タンパク質の阻害剤存在下及び非存在下にて、光照射下で接触させることが好ましい。後述する選択工程において、上記阻害剤存在条件のサンプルと、上記阻害剤非存在条件のサンプルの結果を比較することで、候補タンパク質の検出精度をより向上させることができる。輸送体タンパク質の阻害剤としては、輸送体タンパク質と、光反応性基が導入された該輸送体タンパク質の基質との結合を阻害するものであればよく、輸送体タンパク質の基質結合部位を占有することで、光反応性基が導入された輸送体タンパク質の基質が結合することを妨げる競合的阻害剤であってもよく、光反応性基が導入された輸送体タンパク質の基質の輸送体タンパク質への結合を直接的に阻害せず、輸送体タンパク質の基質結合部位以外の部位に結合して、輸送体タンパク質の基質との結合活性を阻害する非競合的阻害剤であってもよい。なお、阻害剤として競合的阻害剤を用いる場合には、光反応性基が導入されていないものであって、且つ、光反応性基が導入された輸送体タンパク質の基質に使用される基質とは異なる構造の基質を用いることが好ましい。
【0039】
例えば、後述する実施例に示すように、標的の輸送体タンパク質がBBBに存在するH/OC交換輸送体である場合には、上述した公知のH/OC交換輸送体の基質のうち、光反応性基を導入されていないものであって、且つ、光反応性基が導入された輸送体タンパク質の基質に使用される基質とは異なる構造のものを競合的阻害剤として活用することができる。また、H/OC交換輸送体の阻害剤としては、アミトリプチリン、メキシレチン、フルボキサミン等のH/OC交換輸送体への阻害作用が知られているものを用いることもできる。中でも、H/OC交換輸送体の阻害剤としては、フルボキサミン又はジフェンヒドラミンであることが好ましく、細胞への毒性が比較的弱いことから、フルボキサミンであることがより好ましい。
【0040】
[緩衝液]
接触工程では、培地を緩衝液に替えて、上記光反応性基が導入された輸送体タンパク質の基質や、必要に応じて、上記輸送体タンパク質の阻害剤を添加することで、これらの成分を細胞と接触させることができる。
【0041】
緩衝液としては、公知のものを適宜選択して使用することができるが、例えば、次に示す組成のものを使用することができる。緩衝液の組成の例示;122mM NaCl、3mM KCl、25mM NaHCO、1.2mM MgSO、1.4mM CaCl、10mM D-グルコース、10mM HEPES、pH7.4。
【0042】
緩衝液中の上記光反応性基が導入された輸送体タンパク質の基質の濃度は、基質の種類に応じて適宜設定することができる。例えば、輸送体タンパク質がH/OC交換輸送体であって、光反応性基が導入された輸送体タンパク質の基質が化合物(II)である場合には、0.01mM以上1.0mM以下とすることができ、0.05mM以上0.7mM以下とすることができ、0.07mM以上0.5mM以下とすることができる。
【0043】
緩衝液中の阻害剤の濃度についても、阻害剤の種類に応じて、輸送体タンパク質への阻害効果が報告されている濃度となるように適宜設定することができる。例えば、輸送体タンパク質がH/OC交換輸送体であって、阻害剤がフルボキサミンである場合には、0.1μM以上1.0mM以下とすることができ、0.5μM以上0.7mM以下とすることができ、1μM以上0.5mM以下とすることができる。
【0044】
[培養条件]
接触工程において、細胞の培養条件としては、細胞の種類に応じて適宜設定することができる。例えば、公知の細胞非接着性、低接着性又は接着性培養容器に細胞を播種して、上記光反応性基が導入された輸送体タンパク質の基質や、必要に応じて、上記輸送体タンパク質の阻害剤を添加した緩衝液で培養することにより行うことができる。
【0045】
培養条件は以下に限定されないが、例えば、1v/v%以上10v/v%以下の二酸化炭素及び90v/v%以上99v/v%以下の大気の雰囲気下で行うことができる。
【0046】
培養温度は30℃以上40℃以下であり、好ましくは37±3℃、すなわち、34℃以上40℃以下、より好ましくは37±1℃、すなわち、36℃以上38℃以下である。
【0047】
培養期間、すなわち、細胞と上記光反応性基が導入された輸送体タンパク質の基質との接触時間は、1分間以上1時間以下とすることができ、3分間以上10分間以下とすることができる。光照射時間は、上記接触時間と同じであってもよく、異なっていてもよいが、接触時間中の少なくとも1分間以上、好ましくは3分間以上連続して光を照射する。
【0048】
光としては、光反応性基の種類に応じて適宜選択することができるが、上述した光反応性基に対しては紫外線を照射することが好ましく、市販の紫外線照射器を用いて行うことができる。市販の紫外線照射器としては、例えば、ベンチトップトランスイルミネーター(Analytik Jena AG社製)等を用いることができる。
【0049】
上述した阻害剤を用いる場合には、上述した阻害剤を上記光反応性基が導入された輸送体タンパク質の基質と同時に細胞に接触させてもよく、上記光反応性基が導入された輸送体タンパク質の基質と接触させる前から接触させてもよい。上述した阻害剤を上記光反応性基が導入された輸送体タンパク質の基質と接触させる前から接触させる場合には、細胞と上記光反応性基が導入された輸送体タンパク質の基質との接触開始の5分以上、好ましくは10分以上、より好ましくは20分程度前に、阻害剤存在下で細胞を前培養する。
【0050】
<選択工程>
選択工程では、前記接触後の細胞を破砕して、細胞膜画分を調製し、該細胞膜画分を用いて、SWATH-MS法により解析を行い、輸送体の候補タンパク質を選択する。
【0051】
細胞膜画分の調製は、分画遠心法、ショ糖密度勾配遠心法等の公知の分画処理方法に基づいて行うことができる。また、InventBiotechnologies社のMinute Plasma Membrane ProteinIsolationKit(登録商標)等の市販の試薬を用いて行うこともできる。
【0052】
細胞膜画分は、タンパク質消化酵素による分解処理によって、質量分析計で分析可能なペプチド断片とする前処理を行うことが好ましい。該分解処理は、公知の方法に従って行うことができる。例えば使用する酵素としてはトリプシン、キモトリプシン、エンドプロテイナーゼArg-C、エンドプロテイナーゼAsn-C、エンドプロテイナーゼAsp-N、エンドプロテイナーゼGlu-C、エンドプロテイナーゼLys-C、リシルエンドペプチダーゼ、クロストリパイン等が挙げられる。中でも、トリプシンが好ましい。タンパク質消化酵素による分解処理条件としては、用いるタンパク質消化酵素の性質により温度や時間等の条件を適宜選択することができる。例えばトリプシンを用いる場合、30℃以上45℃以下で1時間以上36時間以下であることが好ましく、33℃以上40℃以下で5時間以上30時間であることがより好ましく、35℃以上38℃以下で10時間以上28時間以下であることがさらに好ましく、36℃以上37℃以下で16時間以上24時間以下であることが特に好ましい。
【0053】
上記前処理後の試料を用いて、SWATH-MS法により解析を行う。
【0054】
SWATH-MS法とは、2012年にGiletらによって発表された液体クロマトグラフ-タンデム質量分析(LC-MS/MS)の解析手法であり、データ非依存性解析(Data-independent acquisition;DIA)法の一つである。
【0055】
SWATH-MS法では、まず、液体クロマトグラフ(LC)により、ペプチドが分離される。ここで液体クロマトグラフィーとしては、具体的には、ペプチドの電荷の違いを利用して分離を行なう陽イオン交換クロマトグラフィーや、ペプチドの疎水性の違いを利用して分離を行なう逆相クロマトグラフィーを挙げることができ、両者を組み合わせたものであってもよい。
【0056】
次いで、分離された各ペプチドについて、タンデム質量分析(MS/MS)を行う。質量分析におけるイオン化の方法はソフトイオン化法であるエレクトロスプレーイオン化法(ESI法)を用いることが好ましい。各種イオン化法によりイオン化したペプチドはアナライザーで質量に応じて分離される。SWATH-MS法では、アナライザーとして四重極-飛行時間型(Q-TOF型)質量分離計を用いる。
【0057】
SWATH-MS法において、上記液体クロマトグラフ装置と上記タンデム質量分析(MS/MS)計は、互いに直列に接続されていてもよく、それぞれ独立した装置であってもよい。中でも、液体クロマトグラフ装置とタンデム質量分析(MS/MS)を直列につないで構成された、LC-MS/MSシステムが好ましく用いられる。LC-MS/MSシステムとして、具体的には、例えば、NanoLC 425システム(Eksigent Technologies)及びTOF 5600質量分析計(SCIEX)から構成されるLC-MS/MSシステム等が挙げられる。
【0058】
イオン化したペプチドの検出からMS/MSスペクトルの取得までは、自動化した測定モードで行うことができる。SWATH-MS法では、precursor ionsの検出強度に関係無く、すべてのprecursor ionsについてMS/MSスペクトルを取得する。ここで、Q1質量フィルターによってprecursor ionsをある程度選別し、MS/MSスペクトルの取得へ進むことによってMS/MSスペクトルの複雑さをある程度抑えることができる。1回の測定サイクル(例えば3秒間)内で、このQ1質量フィルター(以下、「SWATH window」と称する場合がある)を低分子量から高分子量までシフトさせることによって、あらゆるペプチドを網羅的に検出する。400Da以上1,200Da以下の範囲を測定することによって概ねあらゆるペプチドを網羅できること、また1サイクルあたり3秒間程度、且つ、1つのSWATH windowあたり0.05秒程度が望ましいことから、800Daの幅を60個のSWATH windowでカバーするため、1つのSWATH windowの幅は約13Da程度となる。ただし、ペプチドの種類が多い質量範囲では例えば5Da以下,少ない範囲では50Da以上のwindowを設定することによって、MS/MSスペクトルの複雑さを抑えることができる。このように、SWATH-MS法では、従来のデータ依存性解析(DDA)法と異なり、すべてのprecursor ionsのMS/MSスペクトルを取得する方式であるため、DDA法よりもさらに網羅的にペプチドを同定及び定量することができる。
【0059】
現在の質量分析装置の性能では、1つのSWATH windowの幅は上述の通り約13Daと広く、複数のペプチドを通過させてしまい、依然としてMS/MSスペクトルが複雑になるため、そのスペクトルからペプチド配列を同定することは困難である。そこで、この同定を助けるために、SWATH-MS法では、「SWATHライブラリー」が用いられる。SWATHライブラリーとは、あらゆるペプチドについてMS/MSスペクトルや保持時間の情報を収載したものである。試料が異なっても、配列が同じペプチドであれば、固有のMS/MSスペクトル及び保持時間を持つ、という考え方に基づいている。具体的には、SWATHライブラリーは、発現するタンパク質の種類が異なる様々な組織、細胞、又はオルガネラ画分のトリプシン消化物を用意し、順次DDA modeで測定し、ペプチド同定を行うことによって作成され、SWATH-MS測定データと照合される。SWATH-MS測定で得られたMS/MSスペクトルと同じ保持時間且つ同じ質量範囲に該当するライブラリー情報を照合に用いることによって、SWATH-MS法の複雑なMS/MSスペクトルからのペプチド配列の同定を可能にする。
【0060】
このようにSWATH-MS法ではライブラリーを用いて同定作業を行うことから、ライブラリーの規模が大きければ必然的にSWATH-MS測定で同定及び定量されるタンパク質は増えるが、逆にライブラリーの規模が小さい場合はSWATH-MS法の網羅性の利点を十分に発揮できない。そのため、発現量の比較的低いタンパク質のペプチドを網羅的に収載する観点から、オルガネラ分画やペプチド消化物の等電点電気泳動分画を行った試料をDDA測定して作成したライブラリーを用いることが好ましい。
【0061】
SWATH-MS法ではMS/MSスペクトルとペプチド配列の対応(帰属)が取れたら、各保持時間のMS/MSスペクトルを経時的に並べていき、MS/MSスペクトルのピークトップを結ぶことによって、定量可能なピークを得る。同じペプチド由来の異なるproduct ionsは全く同じ保持時間に検出されるため、保持時間がずれていた場合はピークの帰属が正しくないため、この時点で保持時間がずれていたものを排除することができる。同定の精度が良かったペプチドについて、比較したい試料間でその面積の比率を取り、同一ペプチド由来の各product ionの面積比の平均を取ることによって、該ペプチドの存在量比を計算する、該タンパク質の存在量比は、そのタンパク質に特異的な配列を持った(複数の)ペプチドの存在量比(の平均値)によって決定することができる。
【0062】
SWATH-MS法では、得られたMS/MSデータを、SCIEX社のProtein Pilot、Peak View(登録商標)(SWATH ProcessingMicroApp等)、MATRIX SCIENCE社のMASCOT等のタンパク質同定のためのソフトウェアにインポートし、上記SWATHライブラリーを用いてペプチド群を同定する。同定したペプチド群の中には、信頼性の低いペプチドピークを有するものが含まれているため、同定したペプチド群のペプチドピーク(ペプチドピーク群)の中から、信頼性の高いペプチドピークを有するものを選択することが好ましい。
【0063】
取得されたMS/MSスペクトルにおいて、信頼性の低いピーク及びペプチドは、既報(参考文献1:Uchida Y et al.,“Identification and Validation of Combination Plasma Biomarker of Afamin, Fibronectin and Sex Hormone-Binding Globulin to Predict Pre-eclampsia.”, Biol Pharm Bull., Vol. 44, No. 6, pp. 804-815, 2021.)に従い、除去することができる。具体的には、コントロール群でピーク面積が1000カウントを超える遷移を抽出する。2つの複製間でピーク面積が10倍を超える遷移を除去する。次に、遷移が1つ又は2つしかないペプチドを除去する。さらに、インシリコペプチド選択基準を適用することにより、非特異的で信頼性の低いペプチドを除去する(上記参考文献1参照)。
【0064】
次いで、SWATH-MS法により解析されたデータを基に所定の基準を設けて、該基準により輸送体の候補タンパク質を更に絞り込む。光反応性基が導入された輸送体タンパク質の基質は、輸送体の複合体タンパク質に共有結合している。そのため、光反応性基が導入された輸送体タンパク質の基質非存在下で検出された輸送体の複合体タンパク質由来のペプチドのピーク(以下、「ピークX」と称する場合がある)について、光反応性基が導入された輸送体タンパク質の基質存在下では、基質の結合によってペプチドのピークの位置がシフトすることで、ピークXの面積が減少する、或いは、ピークXが消失するものと考えられる。よって、SWATH-MS法により解析されたペプチドのピーク面積について、光反応性基が導入された輸送体タンパク質の基質非存在下でのペプチドのピーク面積に対する光反応性基が導入された輸送体タンパク質の基質存在下での該ペプチドのピーク面積の比を算出し、算出された面積比が特定の数値未満であるペプチドを含むタンパク質を輸送体の候補タンパク質として絞り込む。なお、上記基準は、光反応性基が導入された輸送体タンパク質の基質への輸送体の特異性や用いる細胞の種類に応じて、数値を適宜設定することができる。
【0065】
より具体的には、例えば、後述する実施例に示すように、輸送体タンパク質がH/OC交換輸送体であり、且つ、光反応性基が導入された輸送体タンパク質の基質として、化合物(II)を用いる場合には、SWATH-MS法により解析されたペプチドのピーク面積について、以下の基準A)を満たすペプチドを選択することで、候補タンパク質を絞り込むことができる。
基準A):化合物(II)非存在下でのピーク面積に対する化合物(II)存在下でのピーク面積の比が0.1未満であるペプチド。
【0066】
また、上述したように、光反応性基が導入された輸送体タンパク質の基質存在下では、輸送体の複合体タンパク質中の基質結合部位における光反応性基が導入された輸送体タンパク質の基質が結合していないペプチドのピーク面積(ピークXの面積)は減少するが、阻害剤の存在によって、その減少が減衰する、すなわち、上記ピークXが回復するものと考えられる。よって、例えば、輸送体の阻害剤存在及び非存在下での検討を行った場合には、SWATH-MS法により解析されたペプチドのピーク面積について、まず、光反応性基が導入された輸送体タンパク質の基質及び阻害剤非存在下でのペプチドのピーク面積に対する光反応性基が導入された輸送体タンパク質の基質存在下であって阻害剤非存在下の該ペプチドのピーク面積の比を算出し、算出された面積比が特定の数値未満であるペプチドを含むタンパク質を輸送体の候補タンパク質として絞り込む。次いで、光反応性基が導入された輸送体タンパク質の基質及び阻害剤非存在下でのペプチドのピーク面積に対する光反応性基が導入された輸送体タンパク質の基質及び阻害剤存在下での該ペプチドのピーク面積の比を算出し、算出された面積比が特定の数値範囲内であるペプチドを含むタンパク質を輸送体の候補タンパク質として絞り込む。
【0067】
より具体的には、例えば、後述する実施例に示すように、輸送体タンパク質がH/OC交換輸送体であり、光反応性基が導入された輸送体タンパク質の基質として、化合物(II)を用い、且つ、阻害剤であるフルボキサミン存在下及び非存在下のサンプルを用いる場合には、SWATH-MS法により解析されたペプチドのピーク面積について、以下の基準B)を満たすペプチドを選択することで、候補タンパク質を絞り込むことができる。
基準B):化合物(II)及びフルボキサミン非存在下でのピーク面積に対する化合物(II)存在下であってフルボキサミン非存在下のピーク面積の比が0.5未満であり、且つ、化合物(II)及び阻害剤非存在下でのピーク面積に対する化合物(II)及びフルボキサミン存在下でのピーク面積の比が0.5超1.5未満であるペプチド。
【0068】
また、例えば、SWATH-MS法により解析されたデータから上記のとおり絞り込まれたタンパク質について、UniProt、EMBL、Swiss-Prot等のデータベースから該タンパク質の細胞内での局在情報を得て、細胞膜に局在するタンパク質又は局在未知のタンパク質を選択することで、候補タンパク質を更に絞り込むことができる。
【0069】
また、例えば、SWATH-MS法により解析されたデータから上記のとおり絞り込まれたタンパク質について、UniProt、EMBL、Swiss-Prot等のデータベースから該タンパク質の配列情報を得て、3つ以上の膜貫通領域を有するタンパク質を選択することで、候補タンパク質を更に絞り込むことができる。
【0070】
また、例えば、SWATH-MS法により解析されたデータから上記のとおり絞り込まれたタンパク質について、Human Protein Atlas等のデータベースから該タンパク質の生体内、器官、組織及び細胞における発現及び局在の情報を得て、特定の部位で発現しているタンパク質を選択することで、候補タンパク質を更に絞り込むことができる。
【0071】
<その他の工程>
[絞り込み工程]
本実施形態の輸送体タンパク質の探索方法は、上記接触工程及び上記選択工程に加えて、選択工程の後に、輸送体タンパク質が細胞膜上に発現している細胞において、1以上の候補タンパク質をコードする遺伝子をノックダウン又はノックアウトさせて、前記輸送体タンパク質の基質の取り込み量を測定することで、輸送体の候補タンパク質を絞り込むこと(以下、「絞り込み工程」と称する場合がある)を更に含むことができる。
【0072】
絞り込み工程において使用される細胞としては、上記「接触工程」において例示された細胞と同様のものが挙げられる。
【0073】
ノックダウン又はノックアウトされる候補タンパク質をコードする遺伝子の数は、1以上であればよく、2以上、3以上、4以上等の複数の遺伝子を同時にノックダウン又はノックアウトしてもよい。輸送体が2分子以上のタンパク質からなる複合体である場合には、2以上の複数の遺伝子を同時にノックダウンすることで、輸送体の候補タンパク質をより正確に特定することができる。
【0074】
また、絞り込み工程において、まず、1つの遺伝子をノックダウン又はノックアウトさせて、輸送体の候補タンパク質を絞り込んだ後、絞り込んだ候補タンパク質をコードする遺伝子のうち、2以上の複数の遺伝子を同時にノックダウン又はノックアウトさせて再度輸送体の候補タンパク質を絞り込む、2段階の絞り込みを行ってもよい。これにより、より確実に輸送体の候補タンパク質を特定することができる。
【0075】
候補タンパク質をコードする遺伝子(標的遺伝子)がノックダウンされた細胞は、標的遺伝子に対するsiRNA、shRNA、リボザイム、アンチセンス核酸等を細胞に導入することにより、作製することができる。
【0076】
siRNA(small interfering RNA)は、RNA干渉による遺伝子サイレンシングのために用いられる21~23塩基対の低分子2本鎖RNAである。細胞内に導入されたsiRNAは、RNA誘導サイレンシング複合体(RISC)と結合する。この複合体はsiRNAと相補的な配列を持つmRNAに結合し切断する。これにより、配列特異的に遺伝子の発現を抑制する。
【0077】
siRNAは、センス鎖及びアンチセンス鎖オリゴヌクレオチドをDNA/RNA自動合成機でそれぞれ合成し、例えば、適当なアニーリング緩衝液中、90℃以上95℃以下で1分程度変性させた後、30℃以上70℃以下で1時間以上8時間以下アニーリングさせることにより調製することができる。
【0078】
shRNA(short hairpin RNA)は、RNA干渉による遺伝子サイレンシングのために用いられるヘアピン型のRNA配列である。shRNAは、ベクターによって細胞に導入し、U6プロモーター又はH1プロモーターで発現させてもよく、shRNA配列を有するオリゴヌクレオチドをDNA/RNA自動合成機で合成し、siRNAと同様の方法によりセルフアニーリングさせることによって調製してもよい。細胞内に導入されたshRNAのヘアピン構造は、siRNAへと切断され、RNA誘導サイレンシング複合体(RISC)と結合する。この複合体はsiRNAと相補的な配列を持つmRNAに結合し切断する。これにより、配列特異的に遺伝子の発現を抑制する。
【0079】
リボザイムは、触媒活性を有するRNAである。リボザイムには種々の活性を有するものがあるが、RNAを切断する酵素としてのリボザイムの研究により、RNAの部位特異的な切断を目的とするリボザイムの設計が可能となっている。リボザイムは、グループIイントロン型、RNasePに含まれるM1RNA等の400ヌクレオチド以上の大きさのものであってもよく、ハンマーヘッド型、ヘアピン型等と呼ばれる40ヌクレオチド程度のものであってもよい。
【0080】
アンチセンス核酸は、標的配列に相補的な核酸である。アンチセンス核酸は、三重鎖形成による転写開始阻害、RNAポリメラーゼによって局部的に開状ループ構造が形成された部位とのハイブリッド形成による転写抑制、合成の進みつつあるRNAとのハイブリッド形成による転写阻害、イントロンとエクソンとの接合点でのハイブリッド形成によるスプライシング抑制、スプライソソーム形成部位とのハイブリッド形成によるスプライシング抑制、mRNAとのハイブリッド形成による核から細胞質への移行抑制、キャッピング部位やポリ(A)付加部位とのハイブリッド形成によるスプライシング抑制、翻訳開始因子結合部位とのハイブリッド形成による翻訳開始抑制、開始コドン近傍のリボソーム結合部位とのハイブリッド形成による翻訳抑制、mRNAの翻訳領域やポリソーム結合部位とのハイブリッド形成によるペプチド鎖の伸長阻止、核酸とタンパク質との相互作用部位とのハイブリッド形成による遺伝子発現抑制等により、標的遺伝子の発現を抑制することができる。
【0081】
siRNA、shRNA、リボザイム及びアンチセンス核酸は、安定性や活性を向上させるために、種々の化学修飾を含んでいてもよい。例えば、ヌクレアーゼ等の加水分解酵素による分解を防ぐために、リン酸残基を、例えば、ホスホロチオエート(PS)、メチルホスホネート、ホスホロジチオネート等の化学修飾リン酸残基に置換してもよい。また、少なくとも一部がペプチド核酸(PNA)等の核酸類似体により構成されていてもよい。
【0082】
候補タンパク質をコードする遺伝子(標的遺伝子)がノックアウトされた細胞は、人工ヌクレアーゼZFN/TALEN/CRISPRを細胞に導入することにより、作製することができる。人工ヌクレアーゼは、標的遺伝子に二本鎖DNA切断(DSB:double strand break)を導入し、DSB修復機構の一つである非相同末端結合(NHEJ:non-homologous end joining)により挿入欠失変異が導入されることで、標的遺伝子が破壊されたノックアウト細胞が作製される。
【0083】
細胞において、候補タンパク質をコードする遺伝子がノックダウン又はノックアウトされていることは、該遺伝子の発現量をRT-PCR法等により測定することで確認することができる。
【0084】
次いで、得られた細胞に基質を接触させて、基質の取り込み量を測定する。基質としては、上記「接触工程」において、基質として例示されたものであって、光反応性基が導入されていないものを用いることができる。例えば、後述する実施例に示すように、標的の輸送体タンパク質がBBBに存在するH/OC交換輸送体である場合には、上述した公知のH/OC交換輸送体の基質のうち、ピリラミン、トラマドール、ジフェンヒドラミン等を用いることができる。或いは、発明者らが新たに合成したH/OC交換輸送体の基質である、後述する一般式(I)で表される化合物(以下、「化合物(I)」と称する場合がある)を好ましく用いることができ、後述する式(I-1)で表される化合物(以下、「化合物(I-1)」と称する場合がある)をより好ましく用いることができる。
【0085】
基質の取り込み量は、細胞内の基質の取り込み量(mol/mg protein)を緩衝液中の基質の濃度(mol/L)で除して算出されるCell-to-Medium ratio(μL/mg protein)として評価することができる。細胞内のタンパク質量は、例えば、Thermo Fisher Scientific社製のBCAタンパク質アッセイ等の市販のキットを用いて測定することができる。細胞内に取り込まれた基質は、LC-MS/MSシステムを用いて定量することができる。LC-MS/MSシステムとしては、島津製作所製のNexera XR HPLCシステム及びAB Sciex社製のポジティブイオンモードのエレクトロスプレーイオン化インターフェースを備えたQTRAP(登録商標) 4500質量分析計で構成されるLC-MS/MSシステム等が挙げられる。
【0086】
[検証工程]
本実施形態の輸送体タンパク質の探索方法は、上記接触工程及び上記選択工程に加えて、上記絞り込み工程の後に、候補タンパク質を発現していない細胞に2以上の候補タンパク質をコードする遺伝子を形質転換し、形質転換後の細胞での前記輸送体タンパク質の基質の取り込み量を測定することで、輸送体の候補タンパク質の輸送機能を検証すること(以下、「検証工程」と称する場合がある)を更に含むことができる。
【0087】
検証工程において使用される候補タンパク質を発現していない細胞及び候補タンパク質をコードする遺伝子の形質転換方法については、後述する「細胞」において詳細を説明する。
【0088】
基質としては、上記「接触工程」において、基質として例示されたものであって、光反応性基が導入されていないものを用いることができる。例えば、後述する実施例に示すように、標的の輸送体タンパク質がBBBに存在するH/OC交換輸送体である場合には、上述した公知のH/OC交換輸送体の基質のうち、ピリラミン、トラマドール、オキシコドン、バレニクリン等を用いることができる。或いは、発明者らが新たに合成したH/OC交換輸送体の基質である、後述する化合物(I)を好ましく用いることができ、後述する化合物(I-1)をより好ましく用いることができる。
【0089】
基質の取り込み量は、上記「絞り込み工程」に記載の方法を用いて測定することができる。
【0090】
<好ましい実施形態>
本実施形態の輸送体タンパク質の探索方法において、輸送体タンパク質がH/OC交換輸送体である場合には、以下に示す方法が好ましく例示される。
すなわち、H/OC交換輸送体の探索方法の好ましい実施形態としては、
脳微小血管内皮細胞と、光反応性基が導入されたピリラミンとを、光照射下で接触させることと、
前記接触後の脳微小血管内皮細胞を破砕して、細胞膜画分を調製し、該細胞膜画分を用いて、SWATH-MS法により解析を行い、輸送体の候補タンパク質を選択することと、
を含む。
【0091】
光反応性基としては、上記「基質」において例示されたものと同様のものが挙げられる。中でも、光反応性基が導入されたピリラミンとしては、化合物(II)を用いることが特に好ましい。
【0092】
/OC交換輸送体の探索方法において、上記接触において、前記脳微小血管内皮細胞と、前記光反応性基が導入されたピリラミンとを、プロトン/有機カチオン交換輸送体の阻害剤存在下及び非存在下にて、光照射下で接触させることが好ましい。H/OC交換輸送体の阻害剤としては、上記「阻害剤」において例示されたものと同様のものが挙げられる。中でも、フルボキサミンを用いることが特に好ましい。
【0093】
発明者らは、本実施形態の輸送体の探索方法を用いて、H/OC交換輸送体として、LHFPLテトラスパンサブファミリーメンバー6(LHFPL6)タンパク質、及び、トランスメンブレン7スーパーファミリーメンバー3(TM7SF3)タンパク質を同定した。
【0094】
LHFPL6は、3つの膜貫通ドメインを有し、胃癌の予後バイオマーカー及び治療標的の候補であると報告されているが、これまでその詳細な機能及び臓器分布が全く不明のタンパク質である。
【0095】
ヒトLHFPL6のアミノ酸配列は、Genbankアクセッション番号NP_005771.1、XP_011533163.1に開示されている。アミノ酸配列として具体的には、例えば、配列番号1で表されるアミノ酸配列が挙げられる。
【0096】
ヒトLHFPL6をコードする塩基配列は、Genbankアクセッション番号NM_005780.3、XM_011534861.2に開示されている。塩基配列として具体的には、例えば、配列番号2で表される塩基配列が挙げられる。
【0097】
TM7SF3は、7つの膜貫通ドメインを有し、サイトカインによる膵臓β細胞の死を抑制し、インスリン分泌を促進することが報告されている。また、p53/TP53の下流の転写標的であり、細胞ストレスの発症を減弱させる生存恒常性因子として作用することが報告されている。
【0098】
ヒトTM7SF3のアミノ酸配列は、Genbankアクセッション番号NP_057635.1、XP_005253448.1、XP_047284946.1、XP_016874952.1、XP_047284948.1、XP_047284947.1、XP_047284951.1、XP_047284950.1、XP_047284953.1、XP_047284949.1、XP_047284954.1、XP_047284952.1に開示されている。アミノ酸配列として具体的には、例えば、配列番号3で表されるアミノ酸配列が挙げられる。
【0099】
ヒトTM7SF3をコードする塩基配列は、Genbankアクセッション番号NM_016551.3、XM_005253391.5、XM_047428990.1、XM_017019463.3、XM_047428992.1、XM_047428991.1、XM_047428995.1、XM_047428994.1、XM_047428997.1、XM_047428993.1、XM_047428998.1、XM_047428996.1に開示されている。塩基配列として具体的には、例えば、配列番号4で表される塩基配列が挙げられる。
【0100】
後述する実施例に示すように、発明者らにより同定されたLHFPL6及びTM7SF3を発現する細胞は、H/OC交換輸送体の基質、すなわち、新規のカチオン性中枢神経系疾患治療薬のスクリーニングを行うのに有益である。LHFPL6及びTM7SF3を利用した技術の詳細については後述する。
【0101】
<化合物(II)>
化合物(II)は、下記式(II)で表される構造を有する。具体的には、化合物(II)は、ピリラミンのピリジン環のパラ位に、アミド結合を介して、光反応性基であるフェニルアジド基が結合した構造を有する。後述する実施例に示すように、化合物(II)は、発明者らによって合成された新規化合物である。化合物(II)は、上述したように、H/OC交換輸送体の探索方法において、輸送体の候補タンパク質を吊り上げるための光反応性プローブとして好ましく用いることができる。
【0102】
【化5】
【0103】
[化合物(II)の製造方法]
化合物(II)は、下記反応式に示すように、下記式(IIa)で表される化合物(以下、「化合物(IIa)」と称する場合がある)のアニリン基をフェニルアジド基に変換して、化合物(II)を得る工程(以下、「化合物(II)製造工程」と略記する場合がある)を含む製造方法により、製造できる。以下、工程について詳細に説明する。
【0104】
【化6】
【0105】
(化合物(II)製造工程)
化合物(II)製造工程では、化合物(IIa)とN 型アジド導入剤とを反応させることで、化合物(IIa)のアニリン基をフェニルアジド基に変換して、化合物(II)を得る。
【0106】
化合物(IIa)は、公知のヒストン脱アセチル化酵素阻害剤であり、市販のものを入手して使用することができる。
【0107】
化合物(II)製造工程で使用されるN 型アジド導入剤としては、例えば、トリフルオロメタンスルホニルアジド、イミダゾール-1-スルホニルアジド塩酸塩及び硫酸塩、2-アジド-1,3-ジメチルイミダゾリニウムクロライド、2-アジド-1,3-ジメチルイミダゾリニウムヘキサフルオロホスフェート等が挙げられる。これらの化合物を単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。2種以上を併用する場合、それらの組み合わせ及び比率は任意に選択できる。
【0108】
型アジド導入剤の使用量は、例えば、化合物(IIa)の使用量の0.5倍モル量以上10.0倍モル量以下とすることができる。
【0109】
化合物(II)製造工程は、求核触媒存在下で反応を行うことができる。
求核触媒としては、例えば、ジメチルアミノピリジン(DMAP)、トリエチルアミン、キノリン、ピリジン、2,6-ルチジン、イソキノリン、ジアザビシクロウンデセン等が挙げられる。
【0110】
求核触媒の使用量は、例えば、化合物(IIa)の使用量の0.1倍モル量以上10倍モル量以下とすることができる。
【0111】
化合物(II)製造工程において、非プロトン性溶媒を反応溶媒として用いることができる。
【0112】
前記非プロトン性溶媒は特に限定されないが、例えば、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、デカヒドロナフタレン、トルエン、トリエチルアミン、tert-ブチルメチルエーテル、クロロホルム、酢酸エチル、1,2-ジメトキシエタン、2-メトキシエチルエーテル、1,2-ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、ピリジン、2-ブタノン、アセトン、N-メチルピロリジノン、ニトロメタン、ジクロロメタン、アセトニトリル、スルホラン、ジメチルスルホキシド、ジイソプロピルエチルアミン、酢酸イソプロピル、N,N-ジメチルホルムアミド、炭酸プロピレン等が挙げられる。
前記非プロトン性溶媒は、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよく、2種以上を併用する場合、それらの組み合わせ及び比率は任意に選択できる。
【0113】
前記溶媒の使用量は、例えば、化合物(IIa)の使用量の10倍モル量以上1000倍モル量以下とすることができる。
【0114】
化合物(II)製造工程において、反応温度は、10℃以上80℃以下とすることができる。
【0115】
化合物(II)製造工程において、反応時間は、10分間以上30時間以下とすることができる。
【0116】
化合物(II)製造工程において、反応終了後は、公知の手法によって、必要に応じて後処理を行い、化合物(II)を取り出せばよい。すなわち、適宜必要に応じて、ろ過、洗浄、抽出、pH調整、脱水、濃縮等の後処理操作をいずれか単独で、又は2種以上組み合わせて行い、濃縮、結晶化、再沈殿、カラムクロマトグラフィー等により、化合物(II)を取り出せばよい。また、取り出した化合物(II)は、さらに必要に応じて、結晶化、再沈殿、カラムクロマトグラフィー、抽出、溶媒による結晶の撹拌洗浄等の操作をいずれか単独で、又は2種以上組み合わせて1回以上行うことで、精製してもよい。
【0117】
化合物(II)は、例えば、核磁気共鳴(NMR)分光法、質量分析法(MS)、赤外分光法(IR)等、公知の手法で構造を確認できる。
【0118】
<化合物(I)>
化合物(I)は、下記一般式(I)で表される構造を有する。具体的には、化合物(II)は、ピリラミンのピリジン環のパラ位に、式:「-C(=O)-NH-(CHn11-C(=O)-O-X11」で表される基が結合した構造を有する。後述する実施例に示すように、化合物(I)は、発明者らによって合成された新規化合物である。化合物(I)は、新規のカチオン性中枢神経系疾患治療薬のスクリーニングを行う際に、H/OC交換輸送体の基質として好ましく用いることができる。また、化合物(I)は、脳に移行しにくい生理活性物質のキャリア分子への応用が期待される。
【0119】
【化7】
【0120】
(一般式(I)中、X11は炭素数1以上10以下のアルキル基である。n11は0以上10以下の整数である。)
【0121】
[X11
11は炭素数1以上10以下のアルキル基である。
炭素数1以上10以下のアルキル基としては、鎖状アルキル基が好ましく、具体的には、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、sec-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等が挙げられる。中でも、X11は炭素数1以上6以下のアルキル基が好ましく、炭素数1以上4以下のアルキル基がより好ましく、メチル基、エチル基、又はプロピル基がさらに好ましく、エチル基が特に好ましい。
【0122】
[n11]
n11は0以上10以下の整数であり、メチレン基の数を示す。n11は1以上8以下の整数が好ましく、n11は1以上5以下の整数がより好ましく、2以上4以下の整数がさらに好ましく、3が特に好ましい。
【0123】
好ましい化合物(I)としては、例えば、X11が炭素数1以上6以下のアルキル基であって、n11が1以上8以下の整数であるもの等が挙げられる。
【0124】
より好ましい化合物(I)としては、例えば、X11が1以上4以下のアルキル基であって、n11が1以上5以下の整数であるもの等が挙げられる。
【0125】
さらに好ましい化合物(I)としては、例えば、X11がメチル基、エチル基、又はプロピル基であって、n11が2以上4以下の整数であるもの等が挙げられる。
【0126】
好ましい化合物(I)としてより具体的には、下記式(I-1)で表される化合物(以下、「化合物(I-1)」と称する場合がある)等が挙げられる。なお、化合物(I-1)は、好ましい化合物(I)の一例に過ぎず、好ましい化合物(I)はこれに限定されない。
【0127】
【化8】
【0128】
[化合物(I)の製造方法]
化合物(I)は、以下の反応式に示すように、例えば、
下記式(Ia)で表される化合物(以下、「化合物(Ia)」と略記する場合がある)と、N,N-ジメチルエチレンジアミンと、を反応させて、式(Ib)で表される化合物(以下、「化合物(Ib)」と略記する場合がある)を得る工程(以下、「化合物(Ib)製造工程」と略記する場合がある);
化合物(Ib)と、4-メトキシベンジルクロリドと、を反応させて、式(Ic)で表される化合物(以下、「化合物(Ic)」と略記する場合がある)を得る工程(以下、「化合物(Ic)製造工程」と略記する場合がある);及び、
化合物(Ic)を加水分解し、アミノアルキルカルボン酸エステル(一般式:「X11-O-C(=O)-(CHn11-NH」で表される化合物;式中、X11及びn11は式(I)におけるX11及びn11と同じである)と反応させて、化合物(I)を得る工程(以下、「化合物(I)製造工程」と略記する場合がある);
を含む製造方法により、製造できる。
【0129】
【化9】
【0130】
(化合物(Ib)の製造工程)
化合物(Ib)の製造工程では、化合物(Ia)と、N,N-ジメチルエチレンジアミンと、を反応させて、化合物(Ib)を得る。
【0131】
化合物(Ia)(6-ブロモニコチン酸メチル)は、公知の化合物であり、市販のものを入手して使用することができる。
【0132】
N,N-ジメチルエチレンジアミンについても公知の化合物であり、市販のものを入手して使用することができる。
【0133】
N,N-ジメチルエチレンジアミンの使用量は、例えば、化合物(Ia)の使用量の1.0倍モル量以上10.0倍モル量以下とすることができる。
【0134】
化合物(Ib)の製造工程において、非プロトン性溶媒を反応溶媒として用いることができる。
【0135】
前記非プロトン性溶媒は特に限定されないが、例えば、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、デカヒドロナフタレン、トルエン、トリエチルアミン、tert-ブチルメチルエーテル、クロロホルム、酢酸エチル、1,2-ジメトキシエタン、2-メトキシエチルエーテル、1,2-ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン(THF)、ピリジン、2-ブタノン、アセトン、N-メチルピロリジノン、ニトロメタン、ジクロロメタン、アセトニトリル、スルホラン、酢酸イソプロピル、N,N-ジメチルホルムアミド、炭酸プロピレン等が挙げられる。
前記非プロトン性溶媒は、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよく、2種以上を併用する場合、それらの組み合わせ及び比率は任意に選択できる。
【0136】
前記溶媒の使用量は、例えば、化合物(Ia)の使用量の10倍モル量以上1000倍モル量以下とすることができる。
【0137】
化合物(Ib)製造工程において、反応温度は、100℃以上200℃以下とすることができる。
【0138】
化合物(Ib)製造工程において、反応時間は、10分間以上10時間以下とすることができる。
【0139】
化合物(Ib)製造工程において、反応終了後は、公知の手法によって、必要に応じて後処理を行い、化合物(Ib)を取り出せばよい。すなわち、適宜必要に応じて、ろ過、洗浄、抽出、pH調整、脱水、濃縮等の後処理操作をいずれか単独で、又は2種以上組み合わせて行い、濃縮、結晶化、再沈殿、カラムクロマトグラフィー等により、化合物(I-1b)を取り出せばよい。また、取り出した化合物(Ib)は、さらに必要に応じて、結晶化、再沈殿、カラムクロマトグラフィー、抽出、溶媒による結晶の撹拌洗浄等の操作をいずれか単独で、又は2種以上組み合わせて1回以上行うことで、精製してもよい。
【0140】
化合物(Ib)製造工程においては、反応終了後、化合物(Ib)を取り出さずに、次工程で用いてもよいが、目的物である化合物(I)の収率が向上する点から、化合物(Ib)を上述の方法で取り出すことが好ましい。
【0141】
(化合物(Ic)の製造工程)
化合物(Ic)の製造工程では、化合物(Ib)と、4-メトキシベンジルクロリドと、を反応させて、化合物(Ic)を得る。
【0142】
4-メトキシベンジルクロリドは、公知の化合物であり、市販のものを入手して使用することができる。
【0143】
4-メトキシベンジルクロリドの使用量は、例えば、化合物(Ib)の使用量の0.5倍モル量以上5.0倍モル量以下とすることができる。
【0144】
化合物(Ic)の製造工程において、塩基存在下で反応を行うことが好ましい。
塩基としては、水素化ナトリウム;トリエチルアミン、N,N-ジイソプロピルエチルアミン(N,N-diisopropylethylamine;DIEA)等のトリアルキルアミン等が挙げられる。これらの化合物は、単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。2種以上を併用する場合、それらの組み合わせ及び比率は任意に選択できる。
【0145】
塩基の使用量は、例えば、化合物(Ib)の使用量の0.1倍モル量以上5.0倍モル量以下とすることができる。
【0146】
化合物(Ic)の製造工程において、非プロトン性溶媒を反応溶媒として用いることができる。非プロトン性溶媒としては、上記「化合物(Ib)の製造工程」において例示されたものと同様のものが挙げられる。
【0147】
前記溶媒の使用量は、化合物(Ib)の使用量の10倍モル量以上1000倍モル量以下とすることができる。
【0148】
化合物(Ic)製造工程において、不活性ガス雰囲気下で反応を行ってもよい。
不活性ガスは特に限定されないが、例えば、窒素、アルゴン等が挙げられる。
不活性ガスは、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよく、2種以上を併用する場合、それらの組み合わせ及び比率は任意に選択できる。
【0149】
化合物(Ic)製造工程において、反応温度は、10℃以上50℃以下とすることができる。
【0150】
化合物(Ic)製造工程において、反応時間は、10分間以上30時間以下とすることができる。
【0151】
化合物(Ic)製造工程において、反応終了後は、化合物(Ib)製造工程の場合と同様の方法で、化合物(Ic)を取り出すことができ、取り出した化合物(Ic)をさらに化合物(Ib)製造工程の場合と同様の方法で精製してもよい。
【0152】
化合物(Ic)製造工程においては、反応終了後、化合物(Ic)を取り出さずに、次工程で用いてもよいが、目的物である化合物(I)の収率が向上する点から、化合物(Ic)を化合物(Ib)製造工程の場合と同様の方法で取り出すことが好ましい。
【0153】
(化合物(I)の製造工程)
化合物(I)の製造工程では、化合物(Ic)を加水分解し、アミノアルキルカルボン酸エステル(一般式:「X11-O-C(=O)-(CHn11-NH」で表される化合物;式中、X11及びn11は式(I)におけるX11及びn11と同じである)と反応させて、化合物(I)を得る。化合物(I)の製造工程は、公知の加水分解反応と公知のアミド化反応を組み合わせた反応である。
【0154】
化合物(I)の製造工程における加水分解反応は、塩基存在下で反応を行うことが好ましい。
【0155】
塩基としては、例えば、水酸化ナトリウム等が挙げられる。
【0156】
塩基の使用量は、化合物(Ic)の使用量の1.0倍モル量以上50.0倍モル量以下とすることができる。
【0157】
加水分解反応において、反応温度は、50℃以上150℃以下とすることができる。
【0158】
加水分解反応において、反応時間は、10分間以上10時間以下とすることができる。
【0159】
加水分解反応は、酸を添加して中和することで反応を停止することができる。
酸としては、例えば塩酸等が挙げられる。
【0160】
次いで、化合物(Ic)を加水分解して得られたカルボキサミド化合物と、アミノアルキルカルボン酸エステルと、を反応させて、アミド化合物である化合物(I)を得る。
【0161】
アミノアルキルカルボン酸エステルは、以下の一般式で表される化合物である。
【0162】
一般式: X11-O-C(=O)-(CHn11-NH
【0163】
なお、式中、X11及びn11は式(I)におけるX11及びn11と同じである。
【0164】
アミノアルキルカルボン酸エステルは、公知の化合物であり、市販のものを入手して使用することができる。アミノアルキルカルボン酸エステルとして具体的には、4-アミノ酪酸エチル等が挙げられる。アミノアルキルカルボン酸エステルは、塩の形態であってもよい。
【0165】
化合物(I)の製造工程におけるアミド化反応は、アミド縮合剤を用いて反応を行うことが好ましい。
【0166】
アミド縮合剤としては、例えば、N,N’-ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)-カルボジイミド(EDCl)、1-ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBT)、1-ヒドロキシ‐7-アザベンゾトリアゾール(HOAT)、ジフェニルリン酸アジド(DPPA)、O-(ベンゾトリアゾール-1-イル)-N,N,N’,N’-テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスファート(HBTU)、1-[ビス(ジメチルアミノ)メチレン]-1H-ベンゾトリアゾリウム3-オキシドテトラフルオロボラート(TBTU)、1-[ビス(ジメチルアミノ)メチレン]-1H-1,2,3-トリアゾロ(4,5-b)ピリジニウム3-オキシドヘキサフルオロホスファート(HATU)、1-[ビス(ジメチルアミノ)メチレン]-1H-1,2,3-トリアゾロ(4,5-b)ピリジニウム3-オキシドテトラフルオロボラート(TATU)等が挙げられる。これらの化合物を単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。2種以上を併用する場合、それらの組み合わせ及び比率は任意に選択できる。
【0167】
アミド縮合剤の使用量は、例えば、化合物(Ic)を加水分解して得られたカルボキサミド化合物の使用量の1.1倍モル量以上10.0倍モル量以下とすることができる。
【0168】
化合物(I)の製造工程は、塩基存在下で反応を行うことが好ましい。
【0169】
塩基としては、例えば、トリエチルアミン、DIEA等のトリアルキルアミン等が挙げられる。これらの化合物は、単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。2種以上を併用する場合、それらの組み合わせ及び比率は任意に選択できる。
【0170】
塩基の使用量は、例えば、化合物(Ic)を加水分解して得られたカルボキサミド化合物の使用量の0.1倍モル量以上10倍モル量以下とすることができる。
【0171】
化合物(I)の製造工程において、非プロトン性溶媒を反応溶媒として用いることができる。非プロトン性溶媒としては、上記「化合物(Ib)の製造工程」において例示されたものと同様のものが挙げられる。
【0172】
前記溶媒の使用量は、化合物(Ic)を加水分解して得られたカルボキサミド化合物の使用量の10倍モル量以上1000倍モル量以下とすることができる。
【0173】
アミド化反応において、反応温度は、10℃以上50℃以下とすることができる。
【0174】
アミド化反応において、反応時間は、10分間以上15時間以下とすることができる。
【0175】
化合物(I)製造工程において、反応終了後は、化合物(Ib)製造工程の場合と同様の方法で、化合物(I)を取り出すことができ、取り出した化合物(I)をさらに化合物(Ib)製造工程の場合と同様の方法で精製してもよい。
【0176】
化合物(Ib)、化合物(Ic)、化合物(I)等の化合物は、例えば、核磁気共鳴(NMR)分光法、質量分析法(MS)、赤外分光法(IR)等、公知の手法で構造を確認できる。
【0177】
[H/OC交換輸送体用基質プローブ]
本実施形態のH/OC交換輸送体用基質プローブは、上記化合物(I)を含む。
【0178】
本実施形態のH/OC交換輸送体用基質プローブは、プロトン/有機カチオン交換輸送体の機能解析に利用することができる。
【0179】
本実施形態のH/OC交換輸送体用基質プローブに含まれる化合物(I)としては、X11が炭素数1以上6以下のアルキル基であって、n11が1以上8以下の整数であるものが好ましい。
【0180】
また、本実施形態のH/OC交換輸送体用基質プローブに含まれる化合物(I)としては、X11が1以上4以下のアルキル基であって、n11が1以上5以下の整数であるものがより好ましい。
【0181】
また、本実施形態のH/OC交換輸送体用基質プローブに含まれる化合物(I)としては、X11がメチル基、エチル基、又はプロピル基であって、n11が2以上4以下の整数であるものがさらに好ましい。
【0182】
また、本実施形態のH/OC交換輸送体用基質プローブに含まれる化合物(I)としては、化合物(I-1)が特に好ましい。
【0183】
[医薬組成物]
本実施形態の医薬組成物は、上記化合物(I)と、生理活性物質と、を含む。
【0184】
本実施形態の医薬組成物によれば、脳に移行しにくい生理活性物質の脳への取り込みを促進することができる。よって、本実施形態の医薬組成物は、脳疾患治療用医薬組成物、特に好ましくは中枢神経系疾患治療用医薬組成物ということもできる。
【0185】
本実施形態の医薬組成物の適用対象となる脳疾患としては、中枢神経系疾患が好ましく、具体的には、例えば、脳出血、脳梗塞、細菌、真菌、寄生虫又はウイルスによる中枢神経系の感染症、神経細胞性腫瘍、神経膠腫、神経鞘腫、髄膜腫;パーキンソン病(PD)、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、アルツハイマー病、レビー小体型認知症、進行性核上性麻痺、大脳皮質基底核変性症、ピック病、前頭側頭型認知症、多発性硬化症(MS)等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0186】
本実施形態の医薬組成物において、上記化合物(I)と、生理活性物質と、は、コンジュゲートを形成して結合していることが好ましい。ここでいう「コンジュゲート」とは、2つ以上の物質が同時に動きうる状態を表し、その物質間が共有結合により結合しているもの、イオン結合により静電的に結合しているもの、又は、かかる結合が存在しない場合であっても立体構造により他方がもう他方の動きを制限し共に動きうる状態にあるものも含まれる。例えば上記化合物(I)を表面に修飾したリポソーム、ウイルス、エクソソーム、ポリマーミセル等の中に生理活性物質が封入されているものも「コンジュゲート」を形成していることに含まれる。中でも、上記化合物(I)と生理活性物質との結合は、その作用部位に到達する前に生理活性物質が解離することを抑制するために、共有結合からなることが好ましい。
【0187】
本実施形態の医薬組成物は、化合物(I)の代わりに、化合物(I)の薬学的に許容できる塩を含んでいてもよい。なお、本明細書において、「薬学的に許容できる」とは、被験動物に適切に投与された場合に、概して、副作用を起こさない程度を意味する。
【0188】
塩としては、薬学的に許容できる酸付加塩又は塩基性塩が好ましい。
【0189】
酸付加塩としては、塩酸、リン酸、臭化水素酸、硫酸等の無機酸との塩;酢酸、ギ酸、プロピオン酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、酒石酸、クエン酸、リンゴ酸、安息香酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸等の有機酸との塩が挙げられる。
【0190】
塩基性塩としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アンモニウム、水酸化マグネシウム等の無機塩基との塩;カフェイン、ピペリジン、トリメチルアミン、ピリジン等の有機塩基との塩が挙げられる。
【0191】
本実施形態の医薬組成物において、生理活性物質としては、脳疾患の治療に有効なものであれば、特別な限定はなく、例えば、公知の中枢神経系疾患治療薬等の低分子化合物、核酸、ペプチド、抗体又は抗体断片、アプタマー等が挙げられる。これらの中でも、これまで脳に移行しにくかった生理活性物質が好ましく用いられる。
【0192】
抗体は、例えば、マウス等のげっ歯類の動物に、例えば、脳腫瘍由来の抗原等を免疫することによって作製することができる。また、例えば、ファージライブラリーのスクリーニングにより作製することができる。抗体は、抗体断片であってもよく、抗体断片としては、Fv、Fab、scFv等が挙げられる。
【0193】
核酸としては、例えば、siRNA、miRNA、アンチセンス核酸、遺伝子、又は、それらの機能を代償する人工核酸等が挙げられる。
【0194】
アプタマーとしては、例えば、脳腫瘍由来の抗原等に対する特異的結合能を有する物質である。アプタマーとしては、核酸アプタマー、ペプチドアプタマー等が挙げられる。核酸アプタマーは、例えば、systematic evolution of ligand by exponential enrichment(SELEX)法等により選別することができる。また、ペプチドアプタマーは、例えば酵母を用いたTwo-hybrid法等により選別することができる。
【0195】
本実施形態の医薬組成物は、薬学的に許容可能な担体を更に含むことができる。
【0196】
薬学的に許容される担体としては、通常医薬組成物の製剤に用いられるものを特に制限なく用いることができる。より具体的には、例えば、ゼラチン、コーンスターチ、トラガントガム、アラビアゴム等の結合剤;デンプン、結晶性セルロース等の賦形剤;アルギン酸等の膨化剤;水、エタノール、グリセリン等の注射剤用溶剤;ゴム系粘着剤、シリコーン系粘着剤等の粘着剤等が挙げられる。
【0197】
本実施形態の医薬組成物は、更に、添加剤を含んでいてもよい。添加剤としては、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム等の潤滑剤;ショ糖、乳糖、サッカリン、マルチトール等の甘味剤;ペパーミント、アカモノ油等の香味剤;ベンジルアルコール、フェノール等の安定剤;リン酸塩、酢酸ナトリウム等の緩衝剤;安息香酸ベンジル、ベンジルアルコール等の溶解補助剤;酸化防止剤;防腐剤等が挙げられる。
【0198】
本実施形態の医薬組成物は、上記化合物(I)と、生理活性物質と、必要に応じて薬学的に許容される担体と、添加剤を適宜組み合わせて、一般に認められた製薬実施に要求される単位用量形態で混和することによって製剤化することができる。
【0199】
本実施形態の医薬組成物は、上記生理活性物質以外の脳疾患の治療薬及び他の疾患の治療薬からなる群より選択される少なくとも1つと組合せて、使用してもよい。上記生理活性物質と他の薬剤とは、同一の製剤にしてもよく、別々の製剤にしてもよい。また、各製剤は、同一の投与経路で投与してもよく、別々の投与経路で投与してもよい。更に、各製剤は、同時に投与してもよく、逐次的に投与してもよいし、一定の時間乃至期間を空けて別々に投与してもよい。一実施態様において、本実施形態の医薬組成物と他の薬剤とは、これらを包含するキットとしてもよい。
【0200】
<剤型>
本実施形態の医薬組成物は、経口的に使用される剤型であってもよく、非経口的に使用される剤型であってもよい。経口的に使用される剤型としては、例えば錠剤、カプセル剤、エリキシル剤、マイクロカプセル剤等が挙げられる。非経口的に使用される剤型としては例えば注射剤、軟膏剤、貼付剤等が挙げられる。
【0201】
<投与方法>
投与する対象としては、限定されるものではないが、例えば、ヒト、サル、イヌ、ウシ、ウマ、ヒツジ、ブタ、ウサギ、マウス、ラット、モルモット、ハムスター、及びそれらの細胞等が挙げられる。中でも、哺乳動物又は哺乳動物細胞が好ましく、ヒト又はヒト細胞が特に好ましい。
【0202】
投与経路としては、例えば、動脈内注射、静脈内注射、及び皮下注射による投与;鼻腔内的、経気管支的、筋内的、経皮的、及び経口的投与等の当業者に公知の方法により行い得る。
【0203】
本実施形態の医薬組成物の投与量は、生理活性物質の種類、投与対象の症状、投与部位、投与方法等により変動する。当業者であれば適当な投与量を適宜選択することが可能である。
【0204】
本実施形態の医薬組成物の投与は、単回投与でもよく、複数回投与であってもよい。複数回投与である場合は、例えば、2時間以上12時間以下の時間毎、毎日、又は2日、5日、1週間、1.5週間、数週間、1か月若しくは数か月に1回等の頻度で投与することができる。
【0205】
≪発現ベクター≫
本実施形態の発現ベクターは、LHFPL6タンパク質をコードする遺伝子、及び、TM7SF3タンパク質をコードする遺伝子を含む。
【0206】
本実施形態の発現ベクターによれば、H/OC交換輸送体として同定された新規輸送体タンパク質分子であるLHFPL6タンパク質及びTM7SF3タンパク質を発現させることができる。
【0207】
本実施形態の発現ベクターにおいて、LHFPL6タンパク質をコードする遺伝子としては、配列番号2で表される塩基配列からなる核酸を用いることができる。
【0208】
また、本実施形態の発現ベクターにおいて、LHFPL6タンパク質をコードする遺伝子としては、下記(a1)~(a3)のいずれかの塩基配列を含む配列からなり、且つ、TM7SF3タンパク質と複合体を形成しH/OC交換輸送体として機能するタンパク質をコードする核酸を用いることもできる。
(a1)配列番号2で表される塩基配列と同一性が80%以上100%未満、好ましくは85%以上100%未満、より好ましくは90%以上100%未満、さらに好ましくは95%以上100%未満、よりさらに好ましくは99%以上100%未満、特に好ましくは99.5%以上100%未満、最も好ましくは99.9%以上100%未満である塩基配列;
(a2)配列番号2で表される塩基配列において、1若しくは数個の塩基が欠損、置換又は付加されている塩基配列;
(a3)配列番号2で表される塩基配列からなる核酸と相補的な塩基配列からなる核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズすることができる塩基配列。
【0209】
なお、本明細書において、基準塩基配列に対する、対象塩基配列の配列同一性は、例えば次のようにして求めることができる。まず、基準塩基配列及び対象塩基配列をアラインメントする。ここで、各塩基配列には、配列同一性が最大となるようにギャップを含めてもよい。続いて、基準塩基配列及び対象塩基配列において、一致した塩基の数を算出し、下記式にしたがって、配列同一性を求めることができる。
【0210】
塩基配列の配列同一性(%)=一致した塩基の数/対象塩基配列の総塩基数×100
【0211】
また、欠失、置換、若しくは付加されてもよい塩基の数としては、1個以上426個以下が好ましく、1個以上319個以下がより好ましく、1個以上213個以下がさらにより好ましく、1個以上106個以下がさらに好ましく、1個以上21個以下がよりさらに好ましく、1個以上10個以下が特に好ましく、1個以上2個以下が最も好ましい。
【0212】
本明細書において、「ストリンジェントな条件下」とは、例えば、Molecular Cloning-A LABORATORY MANUAL THIRD EDITION(Sambrookら、Cold Spring Harbor Laboratory Press)に記載の方法が挙げられる。例えば、5×SSC(20×SSCの組成:3M 塩化ナトリウム,0.3M クエン酸溶液,pH7.0)、0.1質量% N-ラウロイルサルコシン、0.02質量%のSDS、2質量%の核酸ハイブリダイゼーション用ブロッキング試薬、及び50%ホルムアミドから成るハイブリダイゼーションバッファー中で、55℃以上70℃以下で数時間から一晩インキュベーションを行うことによりハイブリダイズさせる条件を挙げることができる。なお、インキュベーション後の洗浄の際に用いる洗浄バッファーとしては、好ましくは0.1質量%SDS含有1×SSC溶液、より好ましくは0.1質量%SDS含有0.1×SSC溶液である。
【0213】
本実施形態の発現ベクターにおいて、TM7SF3タンパク質をコードする遺伝子としては、配列番号4で表される塩基配列からなる核酸を用いることができる。
【0214】
また、本実施形態の発現ベクターにおいて、TM7SF3タンパク質をコードする遺伝子としては、下記(b1)~(b3)のいずれかの塩基配列を含む配列からなり、且つ、LHFPL6タンパク質と複合体を形成しH/OC交換輸送体として機能するタンパク質をコードする核酸を用いることもできる。
(b1)配列番号4で表される塩基配列と同一性が80%以上100%未満、好ましくは85%以上100%未満、より好ましくは90%以上100%未満、さらに好ましくは95%以上100%未満、よりさらに好ましくは99%以上100%未満、特に好ましくは99.5%以上100%未満、最も好ましくは99.9%以上100%未満である塩基配列;
(b2)配列番号4で表される塩基配列において、1若しくは数個の塩基が欠損、置換又は付加されている塩基配列;
(b3)配列番号4で表される塩基配列からなる核酸と相補的な塩基配列からなる核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズすることができる塩基配列。
【0215】
また、欠失、置換、若しくは付加されてもよい塩基の数としては、1個以上863個以下が好ましく、1個以上647個以下がより好ましく、1個以上431個以下がさらにより好ましく、1個以上215個以下がさらに好ましく、1個以上43個以下がよりさらに好ましく、1個以上21個以下が特に好ましく、1個以上4個以下が最も好ましい。
【0216】
また、LHFPL6タンパク質をコードする遺伝子、及び、TM7SF3タンパク質をコードする遺伝子それぞれの塩基配列は、導入される宿主、好ましくはヒト細胞における発現のためにコドン最適化されていてもよい。
【0217】
一般に、コドン最適化とは、ネイティブのアミノ酸配列を維持しつつ、ネイティブの配列の少なくとも1つのコドンを、導入される宿主の遺伝子においてより頻繁に又は最も頻繁に使用されるコドンで置き換えることによって、導入される宿主における増強された発現のために核酸配列を改変するプロセスを指す。種々の種が、特定のアミノ酸の特定のコドンについて特定のバイアスを示す。コドンバイアス(生物間のコドン使用頻度における差異)は、mRNAの翻訳効率と相関する場合が多く、これは、翻訳されているコドンの特性及び特定のtRNAの利用可能性にとりわけ依存すると考えられている。細胞中の選択されたtRNAの優勢は、一般に、ペプチド合成において最も頻繁に使用されるコドンの反映である。従って、遺伝子は、コドン最適化に基づいて、所与の生物における最適な遺伝子発現のために個別化され得る。コドン使用頻度表は、例えば、www.kazusa.or.jp/codon/に掲載されている「Codon Usage Database」において容易に入手可能であり、これらの表を用いて、コドンを最適化することができる(Nakamura Y et al., “Codon usage tabulated from the international DNA sequence databases:status for the year 2000”, Nucl Acids Res, vol.28, no.1, p292, 2000.)。特定の生物種における発現のために特定の配列をコドン最適化するためのコンピューターアルゴリズムについても、例えば、Gene Forge(Aptagen社;Jacobus、PA)等において入手可能である。
【0218】
LHFPL6タンパク質をコードする遺伝子、及び、TM7SF3タンパク質をコードする遺伝子それぞれの塩基配列中の1つ又は複数のコドンは、導入対象となる宿主において、特定のアミノ酸について最も頻繁に使用されるコドンに対応する。
【0219】
本実施形態で用いられる発現ベクターとしては、宿主細胞で発現が可能な公知の発現ベクターを適宜選択して用いることができる。好ましくは哺乳動物細胞で発現が可能な発現ベクターを用いることができ、例えば、ウイルスベクター、プラスミドベクター等が挙げられる。
【0220】
ウイルスベクターとしては、例えば、レトロウイルス(レンチウイルスを含む)ベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、センダイウイルスベクター、ヘルペスウイルスベクター、ワクシニアウイルスベクター、ポックスウイルスベクター、ポリオウイルスベクター、シルビスウイルスベクター、ラブドウイルスベクター、パラミクソウイルスベクター、オルソミクソウイルスベクター等が挙げられる。
【0221】
プラスミドベクターとしては、例えば、pBluescript、pDrive、pX459、pA1-11、pXT1、pRc/CMV、pRc/RSV、pcDNAI/Neo、pcDNA3.1(+)、pcDNA3.1(+)/Zeo等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0222】
中でも、プラスミドベクターであることが好ましい。
【0223】
本実施形態の発現ベクターは、上記2種の遺伝子の発現用プロモーターとしては特に限定されず、宿主細胞の種類に応じて適宜選択することができる。中でも、哺乳動物細胞を宿主とした発現用のプロモーターであることが好ましい。具体的には、例えば、EF1αプロモーター、SRαプロモーター、SV40プロモーター、LTRプロモーター、CMV(サイトメガロウイルス)プロモーター、HSV-tkプロモーター、MSCVプロモーター、hTERTプロモーター、βアクチンプロモーター、CAGプロモーター、CBhプロモーター等が挙げられる。
【0224】
本実施形態の発現ベクターは、さらに、マルチクローニングサイト、エンハンサー、スプライシングシグナル、ポリアデニル化シグナル、選択マーカー遺伝子、複製起点等を有していてもよい。
【0225】
選択マーカー遺伝子とは、該選択マーカー遺伝子を細胞に導入することにより、細胞の選別や選択を可能とするような遺伝子を指す。選択マーカー遺伝子の具体例としては、例えば、薬剤耐性遺伝子、蛍光タンパク質遺伝子、発光酵素遺伝子、発色酵素遺伝子等が挙げられる。これらは、単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0226】
薬剤耐性遺伝子としては、例えば、ピューロマイシン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子、テトラサイクリン耐性遺伝子、カナマイシン耐性遺伝子、ゼオシン耐性遺伝子、ハイグロマイシン耐性遺伝子、クロラムフェニコール耐性遺伝子、ヒスティディノール耐性遺伝子、ブラストサイジン耐性遺伝子等が挙げられる。
【0227】
蛍光タンパク質遺伝子としては、例えば、緑色蛍光タンパク質(GFP)遺伝子、黄色蛍光タンパク質(YFP)遺伝子、赤色蛍光タンパク質(RFP)遺伝子等が挙げられる。
【0228】
発光酵素遺伝子としては、例えば、ルシフェラーゼ遺伝子等が挙げられる。発色酵素遺伝子としては、例えば、βガラクトシターゼ遺伝子、βグルクロニダーゼ遺伝子、アルカリフォスファターゼ遺伝子等が挙げられる。
【0229】
ポリアデニル化シグナルとしては、上記ウイルスベクターに記載のウイルス由来、各種ヒト又はヒト以外の生物由来の各遺伝子に含まれるポリアデニル化シグナル、例えば、SV40の後期遺伝子又は初期遺伝子、ウサギβグロビン遺伝子、ウシ成長ホルモン遺伝子、ヒトA3アデノシン受容体遺伝子等のポリアデニル化シグナル等が挙げられる。
【0230】
≪ベクターセット≫
本実施形態のベクターセットは、
LHFPL6タンパク質をコードする遺伝子を含む発現ベクターと、
TM7SF3タンパク質をコードする遺伝子を含む発現ベクターと、
を備える。
【0231】
本実施形態のベクターセットによれば、H/OC交換輸送体として同定された新規輸送体タンパク質分子であるLHFPL6タンパク質及びTM7SF3タンパク質を発現させることができる。
【0232】
本実施形態のベクターセットにおいて、LHFPL6タンパク質をコードする遺伝子、及び、TM7SF3タンパク質をコードする遺伝子としては、上記「発現ベクター」において例示されたものを用いることができる。
【0233】
本実施形態のベクターセットにおいて用いられる発現ベクターとしては、上記「発現ベクター」において例示されたものを用いることができる。
【0234】
≪細胞≫
本実施形態の細胞は、以下の1種の発現ベクター(c1)、又は、以下の2種の発現ベクター(c2)及び(c3)で形質転換されている。
LHFPL6タンパク質をコードする遺伝子、及び、TM7SF3タンパク質をコードする遺伝子を含む発現ベクター(c1);
LHFPL6タンパク質をコードする遺伝子を含む発現ベクター(c2);及び、
TM7SF3タンパク質をコードする遺伝子を含む発現ベクター(c3)
【0235】
なお、一般に、「形質転換」とは、宿主細胞内に外から核酸が導入されて、該宿主細胞の性質が変わることをいう。本実施形態の細胞において発現ベクターで形質転換されている状態は、発現ベクターが宿主細胞の染色体DNAにインテグレートしている状態、細胞質中に遊離の発現ベクターの状態で含まれている状態、及びその両方が併存している状態を含む。
【0236】
本実施形態の細胞は、H/OC交換輸送体として同定された新規輸送体タンパク質分子であるLHFPL6タンパク質及びTM7SF3タンパク質を発現する細胞であり、脳に効率的に取り込まれるカチオン性薬物のスクリーニングに利用することができる。
【0237】
本実施形態において、各種発現ベクターが形質転換される細胞としては、染色体上に、内在性の、LHFPL6タンパク質をコードする遺伝子、及び、TM7SF3タンパク質をコードする遺伝子を有さない細胞、すなわち、LHFPL6タンパク質及びTM7SF3タンパク質が細胞膜上に発現していない細胞であることが好ましい。或いは、各種発現ベクターが形質転換される細胞としては、LHFPL6タンパク質をコードする遺伝子、及び、TM7SF3タンパク質をコードする遺伝子の発現が少ない細胞であることが好ましい。ここでいう「上記2種の遺伝子の発現が比較的少ない」とは、具体的には、ヒト脳微小血管内皮細胞株であるhCMEC/D3細胞における上記2種の遺伝子のmRNAの発現量と比較して、上記2種の遺伝子のmRNAの発現量がそれぞれ好ましくは50%以下、より好ましくは0%超30%以下、さらに好ましくは0%超10%以下であることを意味する。上記2種の遺伝子のmRNAの発現量は、例えば、形質転換前の宿主細胞を試料としたRT-PCR法により定量することができる。
上記2種の遺伝子を染色体上に有さない細胞、又は、上記2種の遺伝子の発現が比較的少ない細胞であれば、被験動物から採取された細胞であってもよく、被験動物から採取された細胞を培養した細胞であってもよく、被験動物から採取された細胞に各種処理を施した細胞であってもよく、培養細胞株であってもよい。また、市販の細胞を用いてもよい。被験動物から採取された細胞を培養した細胞としては、初代培養細胞であってもよく、継代培養細胞であってもよい。また、各種処理を施した細胞としては、誘導多能性幹細胞細胞(iPS細胞)や、分化誘導後の細胞が挙げられる。
【0238】
細胞の由来となる生物種としては、哺乳動物が好ましく、例えば、ヒト、マウス、ラット、イヌ、ネコ、ウサギ、ブタ、ウシ、ウマ、サル、マーモセット、ニワトリ、ヒツジ、ヤギ等が挙げられる。中でも、哺乳動物としては、ヒトが好ましい。すなわち、本実施形態の細胞は、ヒトに由来する細胞であることが好ましい。
【0239】
本実施形態において、細胞の種類としては、培養及び遺伝子導入が容易であることから培養細胞株であることが好ましく、具体的には、例えば、HCT116(ヒト結腸腺がん細胞株)、HT-29(ヒト結腸腺がん細胞株)、Huh7(ヒト肝臓がん細胞株)、HEK293(ヒト胎児腎細胞株)、HeLa(ヒト子宮頸がん細胞株)、C-33A(ヒト子宮頸がん細胞株)、HepG2(ヒト肝がん細胞株)、UT7/TPO(ヒト白血病細胞株)、Jurkat(ヒト白血病T細胞株)、CHO(チャイニーズハムスター卵巣細胞株)、MDCK(イヌ腎臓尿細管上皮細胞株)、MDBK(ウシ腎細胞株)、BHK(シリアンハムスター腎細胞株)、Ns0/1(マウス骨髄腫由来の細胞株)、NIH3T3(マウス胎児線維芽細胞株)、PC12(ラット副腎褐色細胞腫由来の細胞株)、Vero(アフリカミドリザル腎臓上皮細胞株)等が挙げられ、これらに限定されない。
【0240】
本実施形態の細胞について、以下に詳細を説明する。
【0241】
<第1実施形態>
本実施形態の細胞は、上記1種の発現ベクター、すなわち、LHFPL6タンパク質をコードする遺伝子、及び、TM7SF3タンパク質をコードする遺伝子を含む発現ベクター(c1)を含む。
【0242】
本実施形態の細胞において、LHFPL6タンパク質をコードする遺伝子、及び、TM7SF3タンパク質をコードする遺伝子としては、上記「発現ベクター」において例示されたものを用いることができる。
【0243】
本実施形態の細胞において用いられる発現ベクターとしては、上記「発現ベクター」において例示されたものを用いることができる。
【0244】
本実施形態の細胞は、上記発現ベクター(c1)を導入することで作製することができる。
【0245】
発現ベクターの細胞への導入方法としては、例えば、リン酸カルシウム法、エレクトロポレーション法、リポフェクション法、凝集法、マイクロインジェクション法、パーティクルガン法、DEAE-デキストラン法等が挙げられる。ベクターがウイルスベクターである場合に、ウイルスベクターを細胞に感染させる方法としては、例えば、ポリブレン法が挙げられる。
【0246】
<第2実施形態>
本実施形態の細胞は、上記2種の発現ベクター、すなわち、LHFPL6タンパク質をコードする遺伝子を含む発現ベクター(c2)、及び、TM7SF3タンパク質をコードする遺伝子を含む発現ベクター(c3)を含む。
【0247】
本実施形態の細胞において、LHFPL6タンパク質をコードする遺伝子、及び、TM7SF3タンパク質をコードする遺伝子としては、上記「発現ベクター」において例示されたものを用いることができる。
【0248】
本実施形態の細胞において用いられる発現ベクターとしては、上記「発現ベクター」において例示されたものを用いることができる。
【0249】
本実施形態の細胞は、上記発現ベクター(c2)及び(c3)を導入することで作製することができる。
【0250】
上記2種の発現ベクターの細胞への導入方法としては、例えば、リン酸カルシウム法、エレクトロポレーション法、リポフェクション法、凝集法、マイクロインジェクション法、パーティクルガン法、DEAE-デキストラン法等が挙げられる。ベクターがウイルスベクターである場合に、ウイルスベクターを細胞に感染させる方法としては、例えば、ポリブレン法が挙げられる。
【0251】
<第3実施形態>
本実施形態の細胞は、LHFPL6タンパク質をコードする遺伝子、及び、TM7SF3タンパク質をコードする遺伝子が染色体に挿入されており、
内在性の、LHFPL6タンパク質をコードする遺伝子、及び、TM7SF3タンパク質をコードする遺伝子を有さない、又は、
hCMEC/D3細胞における内在性の、前記LHFPL6タンパク質をコードする遺伝子、及び、前記TM7SF3タンパク質をコードする遺伝子のmRNAの発現量と比較して、内在性の、前記LHFPL6タンパク質をコードする遺伝子、及び、前記TM7SF3タンパク質をコードする遺伝子のmRNAの発現量がそれぞれ50%以下である。
【0252】
本実施形態の細胞において、LHFPL6タンパク質をコードする遺伝子、及び、TM7SF3タンパク質をコードする遺伝子としては、上記「発現ベクター」において例示されたものを用いることができる。
【0253】
本実施形態の細胞は、例えば、上記発現ベクター(c1)、又は、上記発現ベクター(c2)及び(c3)をドナーベクターとして細胞内に導入し、相同組換え修復(HDR)を誘発する公知のゲノム編集技術を用いて作製することができる。
【0254】
上述の発現ベクターを細胞内に導入する方法としては、公知の遺伝子導入の手法を用いることができ、具体的には、例えば、リン酸カルシウム法、エレクトロポレーション法、リポフェクション法、凝集法、マイクロインジェクション法、パーティクルガン法、DEAE-デキストラン法等を用いることができる。ベクターがウイルスベクターである場合に、ウイルスベクターを細胞に感染させる方法としては、例えば、ポリブレン法が挙げられる。
【0255】
公知のゲノム編集技術としては、例えば、CRISPR-Cas9システム、TALENシステム、Znフィンガーヌクレアーゼシステム等が使用できる。または、例えば、染色体における前記LHFPL6タンパク質をコードする遺伝子、及び、前記TM7SF3タンパク質をコードする遺伝子を挿入したい部位と相同な配列を、各種発現ベクターに含まれる、前記LHFPL6タンパク質をコードする遺伝子、及び、前記TM7SF3タンパク質をコードする遺伝子それぞれの上流及び下流に付加することにより、相同組換え修復を誘発させる方法等が使用できる。
【0256】
染色体に導入された前記LHFPL6タンパク質をコードする遺伝子、及び、前記TM7SF3タンパク質をコードする遺伝子はそれぞれ、例えば、上流にプロモーター、下流にポリアデニル化シグナル等を備えていてもよい。
【0257】
プロモーター及びポリアデニル化シグナルとしては、上記「発現ベクター」において例示されたものと同様のものが挙げられる。
【0258】
前記LHFPL6タンパク質をコードする遺伝子、及び、前記TM7SF3タンパク質をコードする遺伝子それぞれをさらに高発現させるために、各遺伝子のスプライシングシグナル、エンハンサー領域、イントロンの一部を、プロモーター領域の5’上流、プロモーター領域と翻訳領域間或いは翻訳領域の3’下流に作動可能に連結してもよい。
【0259】
本明細書において、「作動可能に連結」とは、遺伝子発現制御配列、例えば、プロモーター又は一連の転写因子結合部位と、発現させたい遺伝子、本実施形態においては、前記LHFPL6タンパク質をコードする遺伝子、及び、前記TM7SF3タンパク質をコードする遺伝子との間の機能的連結を意味する。ここで、「発現制御配列」とは、その発現させたい遺伝子、本実施形態においては、前記LHFPL6タンパク質をコードする遺伝子、及び、前記TM7SF3タンパク質をコードする遺伝子の転写を指向するものを意味する。
【0260】
また、前記LHFPL6タンパク質をコードする遺伝子、及び、前記TM7SF3タンパク質をコードする遺伝子それぞれの導入が起きた細胞を効率よく選択するために、選択マーカー遺伝子、例えば、薬剤耐性遺伝子を、プロモーター領域の5’上流、プロモーター領域と翻訳領域間或いは翻訳領域の3’下流に作動可能に連結してもよい。
【0261】
また、前記LHFPL6タンパク質をコードする遺伝子、及び、前記TM7SF3タンパク質をコードする遺伝子は、同一染色体上であってもよく、異なる染色体上であってもよい。
【0262】
前記LHFPL6タンパク質をコードする遺伝子、及び、前記TM7SF3タンパク質をコードする遺伝子が導入される遺伝子座としては、セーフハーバー座位であることが好ましい。
【0263】
なお、本明細書における「セーフハーバー座位」とは、恒常的且つ安定的に発現が行われている遺伝子領域であり、かつ該領域に本来コードされている遺伝子が欠損又は改変された場合であっても、生命の維持が可能な領域を意味する。
【0264】
CRISPRシステムを用いて、外来DNA、本実施形態においては、前記LHFPL6タンパク質をコードする遺伝子、及び、前記TM7SF3タンパク質をコードする遺伝子それぞれをセーフハーバー座位に挿入する場合には、近傍にプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)配列を有することが好ましい。
【0265】
本明細書において、「プロトスペーサー隣接モチーフ」とは、Casタンパク質によるDNA切断の際に、Casタンパク質に認識される配列を指す。PAMの配列及び位置は、Casタンパク質の種類によって異なる。例えば、Cas9タンパク質の場合、PAMは標的配列の3’側直後に隣接する必要がある。Cas9タンパク質に対応するPAMの配列は、Cas9タンパク質が由来する細菌種によって異なっている。例えば、S.pyogenesのCas9タンパク質に対応するPAMは「NGG」であり、S.thermophilusのCas9タンパク質に対応するPAMは「NNAGAA」であり、S.aureusのCas9タンパク質に対応するPAMは「NNGRRT」又は「NNGRR(N)」であり、N.meningitidisのCas9タンパク質に対応するPAMは「NNNNGATT」であり、T.denticolaのCas9タンパク質に対応する「NAAAAC」である(「R」はA又はG;「N」は、A、T、G又はC)。
【0266】
セーフハーバー座位としては、例えば、Rosa26遺伝子座、AAVS1遺伝子座等が挙げられる。
【0267】
≪被験物質のスクリーニング用キット≫
本実施形態の被験物質のスクリーニング用キットは、
上記1種の発現ベクター、すなわち、LHFPL6タンパク質をコードする遺伝子、及び、TM7SF3タンパク質をコードする遺伝子を含む発現ベクター(c1);
上記2種の発現ベクター、すなわち、LHFPL6タンパク質をコードする遺伝子を含む発現ベクター(c2)、及び、TM7SF3タンパク質をコードする遺伝子を含む発現ベクター(c3);
上記第1実施形態の細胞、すなわち、LHFPL6タンパク質をコードする遺伝子、及び、TM7SF3タンパク質をコードする遺伝子を含む発現ベクター(c1)を含む細胞;
上記第2実施形態の細胞、すなわち、LHFPL6タンパク質をコードする遺伝子を含む発現ベクター(c2)、及び、TM7SF3タンパク質をコードする遺伝子を含む発現ベクター(c3)を含む細胞;並びに、
上記第3実施形態の細胞、すなわち、LHFPL6タンパク質をコードする遺伝子、及び、TM7SF3タンパク質をコードする遺伝子が染色体に挿入されており、
内在性の、LHFPL6タンパク質をコードする遺伝子、及び、TM7SF3タンパク質をコードする遺伝子を有さない細胞;
からなる群より選ばれる1種以上と、
上記H/OC交換輸送体用基質プローブと、
を備える。
【0268】
本実施形態の被験物質のスクリーニング用キットによれば、脳に効率的に取り込まれるカチオン性薬物をスクリーニングすることができる。すなわち、本実施形態の被験物質のスクリーニング用キットは、脳疾患治療薬、特に好ましくは中枢神経系疾患治療薬のスクリーニング用キットということもできる。ここでいう脳疾患としては、上記「化合物(I)」の「医薬組成物」において例示されたものと同様のものが挙げられる。
【0269】
発現ベクター(c1)~(c3)、第1~3実施形態の細胞、及び、H/OC交換輸送体用基質プローブについては、上述したとおりである。
【0270】
本実施形態の被験物質のスクリーニング用キットは、上記発現ベクター(c1)又は上記発現ベクター(c2)及び(c3)を含む場合に、さらに、ベクター導入用のトランスフェクション試薬を備えていてもよい。
【0271】
ベクター導入用のトランスフェクション試薬としては、例えば、カチオン性高分子、カチオン性脂質、ポリアミン系試薬、ポリイミン系試薬及びリン酸カルシウムからなる群より選択される。このようなトランスフェクション試薬としては、例えば、Effectene Transfection Reagent(cat.no.301425,Qiagen,CA)、TransFastTM Transfection Reagent(E2431,Promega,WI)、TfxTM-20 Reagent(E2391,Promega,WI)、SuperFect Transfection Reagent(301305,Qiagen,CA)、PolyFect Transfection Reagent(301105,Qiagen,CA)、lipofectamine 2000 Reagent(11668-019,Invitrogen corporation,CA)、JetPEI(×4)conc.(101-30,Polyplus-transfection,France)、ExGen 500(R0511,Fermentas Inc.,MD)等が挙げられ、これらに限定されない。
【0272】
本実施形態の被験物質のスクリーニング用キットは、上記第1~3実施形態の細胞のいずれかを含む場合に、さらに、細胞培養用培地を備えていてもよい。
【0273】
細胞培養用培地としては、細胞の生存増殖に必要な成分(無機塩、炭水化物、ホルモン、必須アミノ酸、非必須アミノ酸、ビタミン)等を含む基本培地であればよく、細胞の種類により適宜選択することができる。
【0274】
前記細胞培養用培地としては、上記「輸送体タンパク質の探索方法」の「接触工程」において培地として例示されたものを用いることができる。
【0275】
≪被験物質のスクリーニング方法≫
本実施形態の被験物質のスクリーニング方法は、
上記1種の発現ベクター、すなわち、LHFPL6タンパク質をコードする遺伝子、及び、TM7SF3タンパク質をコードする遺伝子を含む発現ベクター(c1);
上記2種の発現ベクター、すなわち、LHFPL6タンパク質をコードする遺伝子を含む発現ベクター(c2)、及び、TM7SF3タンパク質をコードする遺伝子を含む発現ベクター(c3);
上記第1実施形態の細胞、すなわち、LHFPL6タンパク質をコードする遺伝子、及び、TM7SF3タンパク質をコードする遺伝子を含む発現ベクター(c1)を含む細胞;
上記第2実施形態の細胞、すなわち、LHFPL6タンパク質をコードする遺伝子を含む発現ベクター(c2)、及び、TM7SF3タンパク質をコードする遺伝子を含む発現ベクター(c3)を含む細胞;又は、
上記第3実施形態の細胞、すなわち、LHFPL6タンパク質をコードする遺伝子、及び、TM7SF3タンパク質をコードする遺伝子が染色体に挿入されており、
内在性の、LHFPL6タンパク質をコードする遺伝子、及び、TM7SF3タンパク質をコードする遺伝子を有さない細胞;
を用いることを含む。
【0276】
本実施形態の被験物質のスクリーニング方法によれば、脳に効率的に取り込まれるカチオン性薬物をスクリーニングすることができる。すなわち、本実施形態の被験物質のスクリーニング方法は、脳疾患治療薬、特に好ましくは中枢神経系疾患治療薬のスクリーニング方法ということもできる。ここでいう脳疾患としては、上記「化合物(I)」の「医薬組成物」において例示されたものと同様のものが挙げられる。
【0277】
発現ベクター(c1)~(c3)、及び、第1~3実施形態の細胞については、上述したとおりである。
【0278】
本実施形態の被験物質のスクリーニング方法について、以下に詳細を説明する。
【0279】
本実施形態の被験物質のスクリーニング方法において、発現ベクター(c1)又は発現ベクター(c2)及び(c3)を用いる場合には、まず、発現ベクター(c1)又は発現ベクター(c2)及び(c3)を細胞に形質転換する(以下、「形質転換工程」と称する場合がある)。
【0280】
形質転換工程において、発現ベクター(c1)又は発現ベクター(c2)及び(c3)の細胞への形質転換方法は、上記「細胞」の第1~3実施形態に記載の方法を用いることができる。また、形質転換される細胞としては、上記「細胞」において例示されたものと同様のものが挙げられる。
【0281】
次いで、形質転換された細胞、すなわち、LHFPL6タンパク質及びTM7SF3タンパク質が細胞膜上に発現している細胞に被験物質を接触させて、細胞内への被験物質の取り込み量を測定する(以下、「測定工程」と称する場合がある)。
【0282】
測定工程で用いられる被験物質としては、例えば、天然化合物ライブラリー、合成化合物ライブラリー、既存薬ライブラリー、代謝物ライブラリー、並びに、脳破砕液、脳脊髄液、及び脳間質液等の生体試料が挙げられる。また、被験物質としては、新薬を用いることができる。
【0283】
測定工程において、細胞内への被験物質の取り込み量は、上記「輸送体タンパク質の探索方法」の「絞り込み工程」に記載の基質の取り込み量の測定方法と同様の方法を用いて測定することができる。
【0284】
次いで、形質転換されていない細胞、すなわち、LHFPL6タンパク質及びTM7SF3タンパク質が細胞膜上に発現していない細胞における被験物質の取り込み量に対する、形質転換された細胞、すなわち、LHFPL6タンパク質及びTM7SF3タンパク質が細胞膜上に発現している細胞における被験物質の取り込み量の比較に基づいて、被験物質を評価する(以下、「評価工程」と称する場合がある)。
【0285】
具体的には、LHFPL6タンパク質及びTM7SF3タンパク質が細胞膜上に発現していない細胞における被験物質の取り込み量に対する、LHFPL6タンパク質及びTM7SF3タンパク質が細胞膜上に発現している細胞における被験物質の取り込み量が有意に増加した場合に、被験物質が脳に効率的に取り込まれるカチオン性薬物であると評価する。
【0286】
一方で、LHFPL6タンパク質及びTM7SF3タンパク質が細胞膜上に発現していない細胞における被験物質の取り込み量に対して、LHFPL6タンパク質及びTM7SF3タンパク質が細胞膜上に発現している細胞における被験物質の取り込み量が同程度である、或いは、有意に低下した場合に、被験物質は脳に効率的に取り込まれるカチオン性薬物ではないと評価する。
【0287】
本実施形態の被験物質のスクリーニング方法において、第1~3実施形態の細胞のいずれかの細胞を用いる場合には、上記測定工程及び上記評価工程を行うことで、被験物質をスクリーニングすることができる。
【0288】
本実施形態の被験物質のスクリーニング方法は、上記H/OC交換輸送体用基質プローブを更に用いてもよい。
【0289】
/OC交換輸送体用基質プローブについては、上記「H/OC交換輸送体用基質プローブ」に記載のとおりである。
【0290】
/OC交換輸送体用基質プローブ、すなわち、化合物(I)は、後述する実施例に示すように、LHFPL6タンパク質及びTM7SF3タンパク質が細胞膜上に発現している細胞に効率的に取り込まれる。よって、H/OC交換輸送体用基質プローブは、本実施形態の被験物質のスクリーニング方法において、ポジティブコントロールとして用いることができる。
【実施例0291】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0292】
[実施例1]
従来の輸送体分子は、タンパク質1分子で働くものが主流であった。これに対して、発明者らは、「H/OC交換輸送体は、複数の分子が関与するタンパク質複合体である」という仮説を立てて、分子の探索及び機能の検証を行った。
【0293】
ここで、従来の遺伝子レベルでの探索手法とそれに伴う機能解析では、上記複数の分子が関与するタンパク質複合体を解析できないことから、新規の輸送体タンパク質の探索方法(Proteomics-based Identification of transporter by Crosslinking substrate in Keyhole;以下、「PICK法」と称する)を構築した。本PICK法では、H/OC交換輸送体の阻害剤存在下及び非存在下において、アジド基修飾したH/OC交換輸送体の基質でタンパク質を標識し、次いで、標識されたタンパク質を含むサンプルを、プロテオミクス技術、具体的にはSWATH-MS法により解析し、解析結果から標的タンパク質を選択することで、スクリーニングされるH/OC交換輸送体の特異度及び検出精度を高めた。PICK法の手順及びPICK法で選択された候補タンパク質の機能解析のスキームを図1に示す。
【0294】
まず、本実施例で使用した材料、各種物性の測定方法、及び評価方法を以下に説明する。
【0295】
(材料、各種物性の測定方法、及び評価方法)
1.試薬等
本実施例で使用した試薬は、特に指定がない限り、富士フィルム和光純薬工業及びSigma-Aldrich Companyから購入した。酒石酸バレニクリン(以下、単に「バレニクリン」と称する場合がある)とマレイン酸フルボキサミン(以下、単に「フルボキサミン」と称する場合がある)は、それぞれabcam及び東京化成工業から購入した。
【0296】
また、本実施例で使用した緩衝液の組成は以下に示すとおりである。
・取り込み用緩衝液:122mM NaCl、3mM KCl、25mM NaHCO、1.2mM MgSO、1.4mM CaCl、10mM D-グルコース、10mM HEPES、pH7.4
・グルコースフリー緩衝液:122mM NaCl、3mM KCl、25mM NaHCO、1.2mM MgSO、1.4mM CaCl、10mM 3-O-メチルグルコース、10mM HEPES、0.1w/v%NaN、pH7.4
・ナトリウムイオンフリー緩衝液:122mM LiCl、3mM KCl、25mM KHCO、1.2mM MgSO、1.4mM CaCl、10mM D-グルコース、10mM HEPES、pH7.4、又は、
122mM 塩化コリン、3mM KCl、25mM KHCO、1.2mM MgSO、1.4mM CaCl、10mM D-グルコース、10mM HEPES、pH7.4
・膜電位フリー緩衝液:125mM KCl、25mM KHCO、1.2mM MgSO、1.4mM CaCl、10mM D-グルコース、10mM HEPES、pH7.4
【0297】
2.細胞培養
hCMEC/D3細胞は、ヒトテロメラーゼの触媒サブユニット及びSV40T抗原のレンチウィルス形質導入によって不死化されたヒト脳微小血管内皮細胞株である。hCMEC/D3細胞は、INSERMからのライセンスに基づいてPierre-Oliver Couraud博士(フランス パリのコシャン研究所)から提供された。hCMEC/D3細胞は、ウシ胎児血清、成長因子(VEGF、R3 IGF、hEGF、bFGF、及びヒドロコルチゾン)、ペニシリン、ストレプトマイシン、及びHEPESを添加したEBM-2培地(Lonza)により、ラットI型コラーゲンでコーティングされたディッシュ上で培養した。HEK293細胞は、10v/v%ウシ胎児血清、1w/v%ペニシリン-ストレプトマイシン及びNaHCO(最終濃度1.5g/L)を添加したダルベッコ改変イーグル培地(D-MEM、高グルコース、Thermo Fisher Scientific社)により、ポリ-D-リジンコーティングディッシュで培養した。これらの細胞を、95v/v%の空気及び5v/v%のCOの雰囲気下で維持した。
【0298】
取り込み試験では、25~35継代のhCMEC/D3細胞を、ラットI型コラーゲンでコーティングされた24ウェルプレート(BD Bioscience)に4.0×10細胞/cmの密度で播種した。細胞がコンフルエンスに達した後、各種化合物の取り込みを評価した。細胞を取り込み用緩衝液で洗浄し、取り込み用緩衝液と共に37℃又は4℃で20分間前培養した。前培養後、薬物及び化合物を含む取り込み用緩衝液を各ウェルに加えた。細胞を37℃又は4℃で指定期間培養した後、氷冷取り込み用緩衝液で3回洗浄して、取り込みを停止した。細胞をスクレーパーで200μLのHOに回収し、分析まで-30℃に設定した冷凍庫に保管した。細胞タンパク質含有量は、Micro BCAタンパク質アッセイキット(Thermo Fisher Scientific社)を使用して決定した。
【0299】
3.取り込み試験
hCMEC/D3細胞及びHEK293細胞を用いた取り込み試験は、既報に従って実施した。具体的には、コラーゲンIでコーティングされた24ウェルプレート(BD Bioscience)にhCMEC/D3細胞を4.0×10細胞/cmの密度で播種した。また、ポリ-D-リジン(Thermo Fisher Scientific社)でコーティングされた24ウェルプレートにHEK293細胞を4.0×10細胞/cmの密度で播種した。取り込み試験は播種から3日後(細胞がコンフルエンスに達した後)に実施した。細胞を取り込み用緩衝液で洗浄し、新しい取り込み用緩衝液で37℃、20分間前培養した後、指定された時間に化合物の取り込みを測定した。各試験での取り込みは、細胞対培地(C/M)比(μL/mgタンパク質)を計算することによって評価した。各ウェルのタンパク質含有量は、Micro BCAタンパク質アッセイキット(Thermo Fisher Scientific社)を使用して決定した。薬物及び化合物は、Nexera XR HPLCシステム(島津製作所)及びポジティブイオンモードのエレクトロスプレーイオン化インターフェースを備えたQTRAP(登録商標) 4500(AB Sciex)質量分析計で構成されるLC-MS/MSシステムによって定量化した。各薬物及び化合物の測定方法とイオン化条件の詳細は、以下に示すとおりである。
【0300】
サンプルをメタノール及び内部標準アルプレノロールを含む移動相で希釈した。クロマトグラフィーによる分離は、H/OC交換輸送体の基質薬物用のXR-ODS(2.0×30mm、2.2μm、島津製作所)及びピリラミン類似体(化合物(I-1))用のSynergi Hydro-RPカラム(2.0×50mm、2.5μm、Phenomenex)で行った。グラジエント分析用の移動相は、溶媒A(0.2v/v%ギ酸を含む10mMギ酸アンモニウム緩衝液)及び溶媒B(メタノール)であった。
【0301】
XR-ODSを使用したLCグラジエントは次のようにプログラムした;0-0.2分 0v/v%溶媒B、0.2-1.3分 99v/v%溶媒Bまで直線増加、1.3-2.0分まで一定(99v/v%溶媒B)、その後、初期条件(0v/v%B)に戻して、システムを平衡化するために0.6分間保持(流量700μL/分)。
【0302】
Hydro-RPを使用したグラジエントは次のようにプログラムした;0-1分 0v/v%溶媒B、1-2分 95v/v%溶媒Bまで直線増加、2-4分まで一定(95v/v%溶媒B)、その後、初期条件(0v/v%B)に戻して、システムを平衡化するために1分間保持(流量400μL/分)。
【0303】
カラム温度は40℃に設定した。Analyst1.6.1ソフトウェアを使用して、データを収集し、QTRAP(登録商標) 4500システムを制御した。試験化合物のMRM遷移を表1に示す。
【0304】
【表1】
【0305】
4.光反応性プローブ(アジド-ピリラミン(AzPYR))の設計、合成、及び評価
/OC交換輸送体を特定するために、AzPYRを光親和性プローブとして設計した。ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤である下記式(IIa)で表される化合物(以下、「化合物(IIa)」と称する場合がある)は比較的反応の遅いH/OC交換輸送体の基質であるという事実に基づいて、化合物(IIa)のフェニル基にアジド基を導入した。光反応性基であるアジド基はサイズが比較的小さいため、輸送体の基質をアジド基で修飾したとしても、基質の構造を大きく変化させることはなく、輸送体の結合部位に接触できるものと考え、アジド基修飾した新規基質化合物(化合物(II))を合成した。
【0306】
【化10】
【0307】
化合物(IIa)のアニリン部分をフェニルアジドに変換するために、上記反応式のとおり、2-アジド-1,3-ジメチルイミダゾリニウムヘキサフルオロホスフェートを使用して、化合物(IIa)からAzPYR(化合物(II))を合成した。具体的な合成方法は以下に示すとおりである。
【0308】
すなわち、CHCl(0.5mL)中において、化合物(IIa)(30mg)、2-アジド-1,3-ジメチルイミダゾリニウムヘキサフルオロホスフェート(23mg)、及びジメチルアミノピリジン(9.6mg)の混合物を室温(25℃程度)で6時間撹拌した。飽和NaHCO水溶液を加えることにより反応を停止し、有機相を分離した。水相を酢酸エチルで3回抽出した。合わせた有機相を塩水で洗浄し、NaSOで乾燥させ、濾過した。有機相の減圧下での濾液の濃縮及び粗生成物のシリカゲルカラムクロマトグラフィー(NHシリカゲル、ヘキサン/酢酸エチル=1/1(容量比))により、標的生成物(化合物(II))(N-(2-Azidophenyl)-6-((2-(dimethylamino)ethyl)(4-methoxybenzyl)amino) nicotinamide;AzPYR)(21mg、66質量%)を得た。
【0309】
AzPYR(化合物(II))のH NMR分析、13C NMR分析、及び質量分析の結果を以下に示す。
1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ 2.28 (s, 6H), 2.52 (t, J = 7.3 Hz), 3.71 (t, J = 7.3 Hz), 3.79 (s, 3H), 4.79(s, 2H), 6.53 (d, J = 8.8 Hz, 2H), 6.86 (d, J = 8.8 Hz, 2H), 7.11-7.21 (m, 5H), 7.93 (dd, J = 8.8, 2.4Hz, 1H), 8.14 (s, 1H), 8.50 (dd, J = 8.0, 2.0 Hz, 1H), 8.74 (d, J = 2.4 Hz, 1H).
13C NMR (100 MHz, CDCl3) δ 45.8, 46.7, 51.5, 55.3, 56.6, 105.3, 114.1, 117.6, 118.1, 120.7, 124.1, 125.6, 127.8, 128.1, 129.5, 129.9, 136.6, 147.9, 158.8, 159.7, 164.0.
HRMS (ESI) m/z calcd for C24H28N7O2 446.2299(M+H)+, found 446.2298.
【0310】
なお、以下の反応式に示すように、AzPYR(化合物(II))に対してUV(300nm超)を照射することで、H/OC交換輸送体と共有結合する活性フェニルニトレンが生成される。
【0311】
【化11】
【0312】
AzPYRのH/OC交換輸送体への結合能力を確認するために、H/OC交換輸送体を介した取り込み活性に対するAzPYRの阻害効果を調べた。hCMEC/D3細胞による0.5分間のジフェンヒドラミン(DPH)(1μM)及びピリラミン(PYR)(5μM)の取り込みを、0.4mMのAzPYRの存在下又は非存在下において37℃で測定した。光架橋反応のために、細胞を紫外線下で、AzPYRで37℃、5分間前処理した。未反応のAzPYRは、緩衝液中での培養によって除去した。
【0313】
5.hCMEC/D3細胞でのAzPYR及び輸送体複合体の架橋
hCMEC/D3細胞をプラスチックディッシュに播種した。コンフルエンスに達した後、細胞をH/OC交換輸送体の阻害剤(フルボキサミン(FLV)又はDPH)の存在下又は非存在下において緩衝液で前培養した。細胞を、阻害剤(0.5mM FLV又は0.5mM DPH)の存在下及び非存在下において、ベンチトップトランスイルミネーター(Analytik Jena AG)によって生成されたUV光(302nm)下、0.1mM AzPYRで37℃、5分間前処理した。次に、氷冷緩衝液で2回洗浄し、セルスクレーパーでPBS(-)に移した。AzPYR及び阻害剤の非存在下で、UVを照射した細胞も対照として収集した。細胞懸濁液を1000×gで5分間、4℃で遠心分離し、上清を除去した。細胞ペレットは、SWATH解析まで-80℃で保存した。
【0314】
6.PICK法で選定された候補輸送体タンパク質のSWATH解析
細胞膜画分は、Minute Plasma Membrane ProteinIsolationKit(登録商標)(InventBiotechnologies)を使用して、上記「5.」及び図1のスキームのステップ(2)に示す条件のように処理されたhCMEC/D3細胞から単離した。細胞膜画分のトリプシン消化及びMonoSpin C18を用いたペプチドの脱塩は、既報(参考文献2:Tezuka K et al., “Activation of Annexin A2 signaling at the blood-brain barrier in a mouse model of multiple sclerosis.”, J Neurochem., Vol. 160, Issue 6, pp. 662-674, 2022.)に従い、実行した。得られたペプチドサンプルを、エレクトロスプレーイオン化トリプルTOF 5600質量分析計(SCIEX)と組み合わせたNanoLC 425システム(Eksigent Technologies)に注入した。SWATH-MSデータは既報(参考文献3:Uchida Y et al., “Establishment and validation of highly accurate formalin-fixed paraffin-embedded quantitative proteomics by heat-compatible pressure cycling technology using phase-transfer surfactant and SWATH-MS.”, Sci Rep., Vol. 10, No. 11271. 2020.)に従い、取得した。SWATHクロマトグラムからのデータ抽出は、既報(参考文献4:Sato R et al., “An Atlas of the Quantitative Protein Expression of Anti-Epileptic-Drug Transporters, Metabolizing Enzymes and Tight Junctions at the Blood-Brain Barrier in Epileptic Patients.”, Pharmaceutics., Vol. 13, Issue 12, 2122, pp. 1-13, 2021.)に従い、10%の誤検出率閾値を使用して、Peakview(登録商標)(SCIEX)のSWATH ProcessingMicroAppを使用して実行した。信頼性の低いピーク及びペプチドは、既報(参考文献1:Uchida Y et al.,“Identification and Validation of Combination Plasma Biomarker of Afamin, Fibronectin and Sex Hormone-Binding Globulin to Predict Pre-eclampsia.”, Biol Pharm Bull., Vol. 44, No. 6, pp. 804-815, 2021.)に従い、除去した。具体的には、コントロール群でピーク面積が1000カウントを超える遷移を抽出した。2つの複製間でピーク面積が10倍を超える遷移を除去した。次に、遷移が1つ又は2つしかないペプチドを除去した。さらに、インシリコペプチド選択基準を適用することにより、非特異的で信頼性の低いペプチドを除去した(上記参考文献1参照)。残りのペプチドについては、ペプチドレベルでのピーク面積を、異なる遷移間のシグナル強度の差を正規化した後の平均値として計算した。
【0315】
続いて、図1のスキームに示されているステップ(4)、(5)、及び(6)に従って、候補輸送体タンパク質を絞り込んだ。
【0316】
ステップ(4)において、以下の仮説1)~3)に基づいて、ペプチドピーク面積比が基準1)又は2)を満たすペプチドを選択した。なお、化合物処理中の細胞毒性が高かったことから、AzPYR及びDPH存在下の条件のデータは、使用しなかった。
仮説1)AzPYRは、輸送体複合体に共有結合する:
仮説2)輸送体複合体のAzPYR結合部位としてのペプチド(AzPYR非標識ペプチド)のピーク面積は、阻害剤処理によって減少が弱まる。
仮説3)輸送体複合体へのAzPYRの結合親和性は高いものと考えられることから、阻害剤はAzPYRと輸送体複合体の結合を強く抑制しない可能性がある。
【0317】
基準1)コントロールに対するAzPYR存在下でのピーク面積比が0.5未満、且つ、コントロールに対するAzPYR及びFLV存在下でのピーク面積比が0.5超1.5未満
基準2)コントロールに対するAzPYR存在下でのピーク面積比が0.1未満
【0318】
次いで、LC-MS/MS分析の生のピークデータの形状及び強度に基づいて、信頼性の低いペプチドを除外した。
【0319】
また、ステップ(5)において、まず、細胞膜に局在するタンパク質又は局在未知のタンパク質を選択した。次いで、3つ又は3つ以上の膜貫通領域を有するタンパク質を選択した。
【0320】
また、ステップ(6)において、ピリラミンは、様々な臓器の活動に活発に関与していることから、Human Protein Atlasデータベースに基づいて、候補タンパク質が複数の臓器で発現していることを確認した。
【0321】
7.単一又は複数の遺伝子のノックダウンによる機能的スクリーニング
hCMEC/D3細胞は、siRNA処理の前日に、2.75×10細胞/ウェルの密度で24ウェルプレートに播種した。それらは、Lipofectamine RNAi MAX(Millipore-Sigma)及び1つの標的遺伝子に対する2種類のsiRNA(表5及び表6)それぞれ最終濃度5nMを含むOpti-MEM(登録商標) I Reduced Serum Medium(Thermo Fisher Scientific)で、24時間インキュベートした。次に、培地をEBM-2培地に交換し、細胞をsiRNAなしでさらに48時間培養した。コントロール群として、細胞を標的特異的siRNAの代わりに同量のネガティブコントロールsiRNA(Qiagen)と共にインキュベートした。標的遺伝子に対するsiRNA及びネガティブコントロールsiRNAの情報を以下の表2に示す。
【0322】
【表2】
【0323】
標的遺伝子のノックダウンを確認するために、付属のマニュアルに従ってNucleoSpin RNA Plus(Macherey-Nagel)を使用してhCMEC/D3細胞からの全RNA抽出を行った。全RNAからcDNAへの逆転写反応は、SuperScriptIII逆転写酵素(Thermo Fisher Scientific)とリボヌクレアーゼ阻害剤(TaKaRa Biomedicals)の組み合わせで実行した。簡単に説明すると、1μgの全RNAを250ngのランダムプライマー及び付属のdNTPと混合し、65℃で5分間インキュベートした。次に、混合物を定義された量のSuperScriptIII逆転写酵素及びリボヌクレアーゼ阻害剤と混合し、50℃で60分間及び70℃で15分間インキュベートした。PCRは、10ngのcDNA、5pmolのセンス/アンチセンスプライマー、及びSYBR Select Master Mix(Thermo Fisher Scientific)の混合物を使用して、7500 Fast Real-Time PCR System(Applied Biosystems)で、次のサーモサイクリングプログラムに従って実行した;50℃で2分間及び95℃で2分間の保持ステージを1サイクル、95℃で3秒間及び60℃で0.5分間のPCR反応ステージを40サイクル、及び95℃で0.25分間、60℃で1分間、95℃で0.5分間の解離曲線ステージを1サイクル。プライマー配列を以下の表3に示す。各標的タンパク質の相対的mRNA発現は、TATA結合タンパク質(TBP;ハウスキーピング遺伝子)のmRNA発現で補正したΔCt法によって計算した。
【0324】
【表3】
【0325】
8.公知の基質を用いた機能獲得分析による第1の検証
トランスメンブレン7スーパーファミリーメンバー3(TM7SF3)及び/又はLHFPLテトラスパンサブファミリーメンバー6タンパク質(LHFPL6)を発現するHEK293細胞を作製して、H/OC交換輸送体の基質の輸送におけるこれらの分子の関与を評価した。TM7SF3(Genbankアクセッション番号:NM_016551.3)又はLHFPL6(Genbankアクセッション番号:NM_005780.3)のコード領域を含むpcDNATM3.1(+)ベクター及びpcDNATM3.1/Zeo(+)ベクターをそれぞれGenscript(Piscataway)から購入した。細胞を、ベクター及びLipofectamine 3000(Thermo Fisher Scientific)を含むOpti-MEM(登録商標) I Reduced Serum Medium(Thermo Fisher Scientific)で6時間インキュベートした。その後、培地を、抗生物質を含まないD-MEMに交換した。一過性の発現のために、細胞をさらに48時間インキュベートし、取り込み試験に使用した。安定して発現する細胞を得るために、細胞を24時間インキュベートした後に、抗生物質(400μg/mLゼオシン及びG418)を含む培地で培養して耐性細胞を得た。これら耐性細胞を増殖及びクローン化し、取り込み試験に使用した。HEK293細胞におけるTM7SF3及びLHFPL6のmRNA発現は、上記「7.」に記載の定量的PCR法によって測定した。
【0326】
9.新規の基質(ピリラミン類似体)を用いた第2の検証
(1)化合物(I-1)の合成
ピリラミン類似体である化合物(I-1)の合成の反応式を以下に示す。
【0327】
【化12】
【0328】
市販の6-ブロモニコチン酸メチル(式(Ia)で表される化合物;以下、「化合物(Ia)」と称する場合がある)をピリジン中でN,N-ジメチルエチレンジアミンと反応させて、2級アミン(式(Ib)で表される化合物;以下、「化合物(Ib)」と称する場合がある)を得た。次いで、化合物(Ib)を4-メトキシベンジルクロリドと反応させて、N-アルキル化してベンジル誘導体(式(Ic)で表される化合物;以下、「化合物(Ic)」と称する場合がある)を得た。その後、化合物(Ic)を加水分解し、4-アミノ酪酸エチルでアミド化して、化合物(I-1)を得た。具体的な合成方法については、以下に説明する。
【0329】
(1-1)化合物(Ib)の合成
まず、メチル6-ブロモニコチネート(化合物(Ia))(1.683mg、3.2mmol)のピリジン溶液(15mL)に、N,N-ジメチルエチレンジアミン(1.7mL、15.8mmol)を加えた。混合物を140℃で3時間還流した。溶媒を除去した後、残留物にHOを加えた。混合物をCHClで抽出し、次いでMgSOで乾燥させた。溶媒を除去した後、残留物をカラムクロマトグラフィー(シリカゲル、メタノール/酢酸エチル=1/2(容量比))により精製して、化合物(Ib)(Methyl 6-[[2-(dimethylamino)ethyl]amino]-3-pyridinecarboxylate)(640mg、91質量%)を白色の固体として得た。
【0330】
化合物(Ib)の融点、H NMR分析、13C NMR分析、赤外吸収分光(IR)分析、及び質量分析の結果を以下に示す。
mp:30-32℃.
1H NMR (600 MHz, CDCl3) δ 2.26 (s, 6H), 2.54 (t, J = 6.2 Hz, 2H), 3.39-3.42 (m, 2H), 3.85 (s, 3H), 5.59 (br, 1H), 6.36 (d, J = 8.9 Hz, 1H), 7.95 (dd, J = 2.1, 8.9 Hz, 1H), 8.74 (d, J = 2.1 Hz, 1H).
13C NMR (150 MHz, CDCl3) δ 38.9, 45.0, 51.5, 57.5, 114.8, 138.1, 151.5, 160.7, 166.5.
IR (ATR) 2952, 1716, 1608 cm-1.
HRMS (ESI) m/z calcd for C11H17N3O2 224.1394(M+H)+, found 224.1397.
【0331】
(1-2)化合物(Ic)の合成
化合物(Ib)(35mg、0.16mmol)のテトラヒドロフラン(THF)溶液(1.5mL)に、アルゴン下、0℃で水素化ナトリウム(油中60v/v%)(9mg、0.23mmol)を加えた。混合物を25℃で30分間撹拌し、0℃に冷却し、その後、4-メトキシベンジルクロリド(43L、0.31mmol)で処理した。25℃で一晩撹拌した後、混合物をHOで処理し、ジエチルエーテルで抽出した。有機相を乾燥させて、溶媒を除去した後、残留物をカラムクロマトグラフィー(シリカゲル、メタノール/酢酸エチル=1/10(容量比))により精製して、化合物(Ic)(Methyl 6-{[2-(dimethylamino)ethyl][(4-methoxyphenyl)methyl]amino}pyridine-3-carboxylate)(19mg、34質量%)を淡黄色の油状物として得た。
【0332】
(1-3)化合物(I-1)の合成
化合物(Ic)(192mg、0.56mmol)のメタノール溶液(5.6mL)に、6N 水酸化ナトリウム水溶液(2.8mL)を加えた。混合物を100℃で30分間撹拌し、1N 塩酸で中和した後、水分を蒸発させた。残留物にメタノールを加え、混合物を濾過した。濾液を真空で蒸発させて、粗カルボキサミドを得て、これをさらに精製することなく次のステップに直接使用した。カルボキサミドのDMF溶液(5mL)に1-ヒドロキシベンゾトリアゾール(83mg、0.62mmol)及び1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(118mg、0.62mmol)を加えた。混合物を室温で30分間反応させ、次に4-アミノ酪酸エチル塩酸塩(103mg、0.62mmol)及びN、N-ジイソプロピルエチルアミン(190L、1.11mmol)を加えた。混合物を25℃で3.5時間撹拌し、次に水を加え、水溶液をCHClで抽出した。得られた有機相を塩水で洗浄した後、MgSOで乾燥させた。溶媒を除去した後、残留物をカラムクロマトグラフィー(シリカゲル、メタノール/酢酸エチル=1/5(容量比))によって精製して、化合物(I-1)(4-[[[6-[[2-(dimethylamino)ethyl]-[(4-methoxyphenyl)methyl]amino]-3-pyridinyl]carboxyl]amino] butanoate)(184mg、74質量%)を淡黄色の油状物として得た。
【0333】
化合物(I-1)のH NMR分析、13C NMR分析、IR分析、及び質量分析の結果を以下に示す。
1H NMR (600MHz, CDCl3) δ 1.24 (t, J = 7.6 Hz, 3H), 1.93 (dd, J = 6.9, 6.9 Hz, 2H), 2.26 (s, 6H), 2.42 (t, J =6.9 Hz, 2H), 2.49 (t, J = 7.6 Hz, 2H), 3.48 (dt, J = 5.5, 6.9 Hz, 2H), 3.67 (t, J = 7.6 Hz, 2H), 4.12(q, J = 7.6 Hz, 2H), 4.74 (s, 2H), 6.33 (t, J = 5.5 Hz, 1H), 6.46 (d, J = 8.9 Hz, 1H), 6.83 (d, J =8.9 Hz, 2H), 7.13 (d, J = 8.9 Hz, 2H), 7.82 (dd, J = 2.8, 8.9 Hz, 1H), 8.57 (d, J = 2.8 Hz, 1H).
13C NMR (150 MHz, CDCl3) δ 14.1, 24.5, 32.0, 39.4, 45.7, 46.6, 51.4, 55.2, 56.5, 60.6, 104.9, 114.0, 117.9, 128.1, 129.8, 136.4, 147.5, 158.7, 159.5, 166.2, 173.8.
IR (ATR) 2936, 1729, 1600, 1501 cm-1.
HRMS (ESI) m/z calcd for C24H34N4O4 443.2653 (M+H)+, found 443.2654.
【0334】
(2)化合物(I-1)を用いた取り込み試験
ピリラミン類似体(化合物(I-1))の取り込みメカニズムは、hCMEC/D3細胞での取り込み試験によって分析した。
【0335】
まず、ナトリウムイオンと膜電位が取り込みに及ぼす影響を調べるために、取り込み緩衝液中の塩化ナトリウムを、塩化リチウム及び塩化カリウム、又は、塩化コリン及び塩化カリウムに置き換えた。さらに、取り込みに対する代謝エネルギーの影響は、取り込み緩衝液中のグルコースを代謝不可能な3-O-メチル-グルコースに置き換え、0.1w/v%NaNを添加することによって評価した。細胞内pHの影響は、取り込み緩衝液に30mM NHClを添加することで評価した。細胞内pHの酸性化のために、NHClは前培養段階から含むようにした。アルカリ化のために、NHClをピリラミン類似体(化合物(I-1))と同時に加えた。各試験に使用した取り込み緩衝液の組成は、上記「1.」に記載したとおりである。
【0336】
hCMEC/D3細胞におけるピリラミン類似体(化合物(I-1))の阻害プロファイルを評価するために、さまざまな阻害剤(1mM)をピリラミン類似体(化合物(I-1))と同時に添加した。使用した阻害剤は、PYR、DPH、クロニジン(CLO)、メマンチン(MEM)、バレニクリン(VAR)、トラマドール(TRA)、ナルトレキソン(NAL)(H/OC交換輸送体の基質及び阻害剤)、MPP(OCTs及び原形質膜モノアミントランスポーター(PMAT)の基質及び阻害剤)、PAH(OATs及び有機アニオン輸送ポリペプチド(OATP)の基質及び阻害剤)、TEA(OCTs及びMATE1の基質及び阻害剤)、並びに、L-カルニチン(OCTN2の基質)である。
【0337】
インビトロでの取り込み結果から速度論的パラメーターを推定するために、取り込みデータを、Prismソフトウェア(Graphpad)を使用した非線形最小二乗回帰分析によって、以下の式に適合させて、ピリラミン類似体(化合物(I-1))の取り込みを分析した。
【0338】
V = (Vmax×S)/(Km+S)+(Kd×S)
【0339】
上記式で、Vはピリラミン類似体(化合物(I-1))の初期取り込み速度、Vmaxは最大取り込み速度、Sは取り込み用緩衝液内の濃度、Kmはミカエリス定数、Kdは不飽和取り込みクリアランスである。
【0340】
ピリラミン類似体(化合物(I-1))の取り込みにおけるTM7SF3及びLHFPL6の関与は、上記「7.」で作製されたノックダウンhCMEC/D3細胞、及び、上記「8.」で作製されたTM7SF3及び/又はLHFPL6発現HEK293細胞を使用して評価した。
【0341】
10.統計解析
全ての値は、平均±標準誤差として表した。データの統計分析は、スチューデントのt検定と一元配置分散分析に続いたダネットの検定を使用して実行し、それぞれ単一及び複数の比較が行われた。P<0.05及びP<0.01の値は、統計的に有意な差を表すものと見なした。図の凡例で特に指定されていない限り、ダネットの検定による有意差分析が実行された。
【0342】
(結果)
1.H/OC交換輸送体に対するAzPYRの結合
/OC交換輸送体へのAzPYRの結合を確認するために、代表的な基質であるPYR及びDPHのH/OC交換輸送体を介した取り込みに対するAzPYRの阻害効果をhCMEC/D3細胞を使用して調べた。
【0343】
0.4mM AzPYRは、PYR及びDPHの取り込みを大幅に減少させた(図2A)。紫外線下でのAzPYRによるhCMEC/D3細胞の前処理は、PYR及びDPHの取り込みの有意且つ不可逆的な減少を引き起こしたが、室内光下での前処理は、中程度の可逆的な減少を引き起こした(図2B)。
これらの結果から、合成されたAzPYRがH/OC交換輸送体に結合し、効率的に光標識することが示唆された。
【0344】
2.SWATHに基づいたH/OC交換輸送体のスクリーニング
/OC交換輸送体を特定するためのスキームを図1に示す。
AzPYRはUV照射時にH/OC交換輸送体の基質結合部位に共有結合し、阻害剤はAzPYRのH/OC交換輸送体への結合を抑制すると仮定した。H/OC交換輸送体へのAzPYRの特異的結合を区別するために、H/OC交換輸送体の阻害剤であると報告されているDPHとFLVを使用した。しかし、1mMでのDPH処理により、UV照射に使用した条件下でディッシュへのhCMEC/D3細胞の付着が低下したため、最終的にDPHの使用を中止した。
【0345】
SWATH解析では、細胞膜画分をトリプシンで消化し、LC-MS/MSで測定するため、個々のトリプシンペプチドを個別に定量した。コントロールに対するAzPYR存在下でのピーク面積比(AzPYR/コントロール比)が0.5未満、且つ、コントロールに対するAzPYR及びFLV存在下でのピーク面積比((AzPYR+FLV)/コントロール比)が0.5超1.5未満にある場合、ペプチドはH/OC交換輸送体の候補タンパク質に由来すると仮定した。
【0346】
さらに、H/OC交換輸送体に対するAzPYRの親和性が高い場合、結合は阻害剤によって強く抑制されない可能性があることから、AzPYR/コントロール比が0.1未満((AzPYR+FLV)/コントロール比の値に関係なく)のペプチドも、H/OC交換輸送体の候補タンパク質に由来すると仮定した。
【0347】
これらの基準を満たすタンパク質の中から、次に示す特徴を有する16のタンパク質を選択した:1)細胞膜で発現している;2)3つ以上の膜貫通領域を含む;3)複数の臓器で発現している(表4)。
【0348】
【表4】
【0349】
表4に示すように、LHFPLテトラスパンサブファミリーメンバー6タンパク質(LHFPL6)、PRA1ファミリータンパク質3(ARL6IP5)、溶質キャリアファミリー43メンバー3(SLC43A3)、CD63抗原(CD63)、及びアクアポリン-3(AQP3)では、AzPYR/コントロール比が0.1未満であった。他の11のタンパク質は、AzPYR/コントロール比が0.5未満、且つ、(AzPYR+FLV)/コントロール比が0.5超1.5未満の分子として選択された。
AzPYR及びDPH存在下でのピーク面積(AzPYR+DPH)の値は、DPH処理中の細胞接着が少ないため、基準として使用しなかった。しかしながら、これらの16のタンパク質について、参照データとして、コントロールに対するAzPYR及びDPH存在下でのピーク面積比((AzPYR+DPH)/コントロール比)の値も表4に記載した。
【0350】
3.単一遺伝子のノックダウンによる第1の機能的スクリーニング
第1の機能的スクリーニングとして、hCMEC/D3細胞におけるH/OC交換輸送体の基質及び非基質であるガバペンチンの取り込みに対する単一遺伝子ノックダウンの影響を評価した。siRNA処理によるmRNAの減少を図3Aに示す。また、取り込み試験の結果を表5に示す。なお、表5において、「**」はp<0.01であり、コントロールに対して有意差があったことを示す。
【0351】
【表5】
【0352】
図3Aに示すように、SLC12A5、SLC43A3、及びAQP3以外では、全ての標的mRNAの発現量が71%以上減少した。
【0353】
また、TCIRG1のノックダウンは、統計的に有意ではなかったが、表5に示すように、PYR、TRA、及びDPHの取り込みをそれぞれ50、43、及び16%減少させた。また、TM7SF3及びLHFPL6のノックダウンにより、H/OC交換輸送体の基質の取り込みがそれぞれ30%及び25%以上減少した。一方、これらの遺伝子のノックダウンはガバペンチンの取り込みを減少させなかった。これは、その効果がH/OC交換輸送体の基質に特異的であることを示唆している。
【0354】
CD9のノックダウンはPYR、TRA、及びDPHの取り込みを減少させたが、図3Bに示すように、細胞の形態が著しく変化した。
【0355】
以上のことから、候補分子としてTCIRG1、TM7SF3、及びLHFPL6に焦点を当てた。
【0356】
4.複数遺伝子のノックダウンによる第2の機能的スクリーニング
/OC交換輸送体は複数のタンパク質で構成されている可能性があると仮定したことから、第2の機能的スクリーニングとして、hCMEC/D3細胞におけるH/OC交換輸送体の基質の取り込みに対する複数の遺伝子ノックダウンの影響を評価した。siRNA処理によるmRNAの減少を図4に示す。また、取り込み試験の結果を表6に示す。なお、表6において、「*」はp<0.05、「**」はp<0.01であり、コントロールに対して有意差があったことを示す。
【0357】
【表6】
【0358】
図4に示すように、mRNAの発現量はsiRNA処理群で60%以上減少した。
【0359】
TCIRG1及びLHFPL6のノックダウンでは、OXYとVARの取り込みをそれぞれ25%及び39%減少させたが、PYR及びTRAの取り込みにはほとんど影響しなかった。TCIRG1及びTM7SF3のノックダウンでは、TCIRG1及びLHFPL6のノックダウンと同様の結果であった。
【0360】
一方、TM7SF3及びLHFPL6のノックダウンにより、すべてH/OC交換輸送体の基質の取り込みが31%以上減少し、TM7SF3及びLHFPL6の組み合わせがH/OC交換輸送体を介した取り込みに重要である可能性が示唆された。
【0361】
5.公知の基質を用いた機能獲得分析による第1の検証
/OC交換輸送体を介した取り込みにおけるTM7SF3及びLHFPL6の関与を検証するために、HEK293細胞を使用して機能獲得分析を実施した。結果を図5Aに示す。
【0362】
図5Aに示すように、TM7SF3及びLHFPL6を発現していないHEK293細胞(Mock)とLHFPL6のみを一過的に発現する細胞の間で、H/OC交換輸送体の基質の取り込みに違いはみられなかった。
【0363】
一方、PYR、TRA、及びVARの取り込みは、TM7SF3のみを一過的に発現する細胞で21~34%増加したが、統計的に有意な差はなかった。
【0364】
さらに、TM7SF3及びLHFPL6の両方を過剰発現している細胞は、PYR及びTRAの取り込みがそれぞれ43%及び40%増加した。統計的に有意な差はなかったが、OXY及びVARの取り込みもそれぞれ31%及び97%増加した。
【0365】
輸送機能をさらに検証するために、TM7SF3のみ、又は、TM7SF3及びLHFPL6の両方を安定して発現するHEK293細胞を作製して、同様の取り込み試験を行った。結果を図5Bに示す。
【0366】
図5Bに示すように、TM7SF3のみ、又は、TM7SF3及びLHFPL6の両方を安定して発現するHEK293細胞では、H/OC交換輸送体の基質の取り込みの時間依存的な増加を示した。TM7SF3の安定発現細胞は、TM7SF3及びLHFPL6を発現していないHEK293細胞(Mock)と比較して、1分及び5分で有意に高いTRAの取り込みを示し、0.25、1、及び5分で有意に高いVAR取り込みを示した。
【0367】
TM7SF3及びLHFPL6の安定発現細胞、並びに、TM7SF3の安定発現細胞では、TM7SF3及びLHFPL6を発現していないHEK293細胞(Mock)と比較して、H/OC交換輸送体の基質の取り込みが5分で、大きく増加する傾向があった。TM7SF3及びLHFPL6を一過性に発現する細胞とは対照的に、TM7SF3及びLHFPL6の共発現の効果は、これらの遺伝子を安定して発現する細胞では相加的ではなかった。
【0368】
なお、図5Cに示すように、TM7SF3及びLHFPL6を発現していないHEK293細胞(Mock)、TM7SF3の安定発現細胞、並びに、TM7SF3及びLHFPL6の安定発現細胞において、受動拡散マーカーであるアンチピリンの取り込みは変化しなかった。
【0369】
6.新規の基質(ピリラミン類似体)を用いた第2の検証
第2の検証では、TM7SF3及びLHFPL6がH/OC交換輸送体の機能に関与しているかどうかをさらに調べるために、新しい細胞膜透過性基質であるピリラミン類似体(化合物(I-1))を合成した。具体的な合成方法は、上記材料、各種物性の測定方法、及び評価方法の「9.(1)」に示したとおりである。
【0370】
まず、このピリラミン類似体がhCMEC/D3細胞のH/OC交換輸送体の基質であることを確認した。結果を図6A図6Eに示す。
【0371】
図6Aに示すように、ピリラミン類似体のC/M比は0.5分から5分まで直線的に増加し、初期取り込み速度(5分まで)は9.71μL/mgタンパク質/分と計算された。さらに、この取り込みは4℃で約90%減少した。
【0372】
図6Bに示すように、ピリラミン類似体の取り込みは、可飽和成分のKmが8.85±2.15μM、Vmaxが0.487±0.052nmol/mgタンパク質/分、不飽和成分のKdが0.467±0.260μL/mgタンパク質/分であった。
【0373】
図6Cに示すように、ピリラミン類似体の取り込みは、H/OC交換輸送体の基質及び/又は阻害剤であるPYR、MEM、DPH、CLO、VAR、NAL、及びTRAによって有意に阻害された(<16.7%まで)が、H/OC交換輸送体の基質又は阻害剤ではないMPP、PAH、TEA、及びL-カルニチンによって阻害されなかった。
【0374】
図6Dに示すように、ピリラミン類似体の取り込み試験におけるC/M比は、細胞内の酸性化によって165%に増加し、アルカリ化によって46%に減少した。
【0375】
図6Eに示すように、ピリラミン類似体の取り込みは、エネルギー枯渇剤であるNaNによっても減少したが、細胞外ナトリウムイオンをリチウムイオン、コリン、又はカリウムイオンで置換しても影響を受けなかった。
【0376】
以上の結果から、ピリラミン類似体の輸送特性は、これまでに報告されているH/OC交換輸送体の基質の輸送特性と一致していた。
【0377】
ピリラミン類似体の取り込みに対するTM7SF3及びLHFPL6の寄与を評価するために、これらの遺伝子がsiRNAでノックダウンされたhCMEC/D3細胞を使用して検討を行った。結果を図6F及び図6Gに示す。なお、図6F及び図6Gにおいて、「TM siRNA」はTM7SF3がノックダウンされたhCMEC/D3細胞、「LH siRNA」はLHFPL6がノックダウンされたhCMEC/D3細胞、「TM+LH siRNA」はTM7SF3及びLHFPL6両方がノックダウンされたhCMEC/D3細胞を示す。以降の図において、同様の意味で用いられる。
【0378】
図6Fに示すように、siRNAの導入により、TM7SF3及びLHFPL6それぞれの発現が80%以上抑制された。TM7SF3及びLHFPL6のダブルノックダウンでも同様の結果であった。
【0379】
図6Gに示すように、TM7SF3をノックダウンした細胞、LHFPL6をノックダウンした細胞、及びTM7SF3及びLHFPL6をノックダウンした細胞では、それぞれネガティブコントロールと比較して、0.5~5分でのピリラミン類似体の取り込みについて、0.5分で23.6、23.7、40.4%、1分で38.5、36.8、58.1%、5分で62.7、27.6、33.9%減少した。また、これらの細胞でのC/M比は、30分でそれぞれ61.9%、56.2%、及び70.5%に大幅に減少したが、ノックダウンの効果は時間依存的に減少した。
【0380】
さらに、機能獲得の効果を、TM7SF3及びLHFPL6を安定して発現するHEK293細胞を使用して評価した。結果を図6H及び図6Iに示す。
【0381】
図6Hに示すように、0.5分でのピリラミン類似体のC/M比は、TM7SF3発現細胞、並びに、TM7SF3及びLHFPL6発現細胞で、TM7SF3及びLHFPL6のいずれも発現していない細胞(Mock)と比較して、それぞれ321%及び181%に増加した)。これらの細胞におけるC/M比の増加は、取り込み時間が長くなるにつれて減衰した。
【0382】
図6Iに示すように、TM7SF3発現細胞、並びに、TM7SF3及びLHFPL6発現細胞において、TM7SF3及びLHFPL6のいずれも発現していない細胞(Mock)と比較して、TM7SF3 mRNAの発現量が40倍以上、LHFPL6 mRNAの発現量が15倍以上、増加した。
【0383】
(考察)
本実施例では、PICK法及び細胞透過性を有するピリラミン類似体による機能分析を組み合わせて、BBBでのH/OC交換輸送体の構成タンパク質を探索及び検証した。
その結果、TM7SF3及びLHFPL6の両方がH/OC交換輸送体の活性に関与していることが示された。
【0384】
光反応性アジド化合物を使用した輸送体のスクリーニングは、1980年代及び1990年代に実施されていた。例えば、このアプローチは、ウサギの小腸Na,D-グルコース膜輸送体、及びラット肝臓の粗面小胞体のATP輸送体を研究するために使用された。アジド基のサイズが小さいため、このような架橋は、標的輸送体の基質構造又は基質認識に比較的ほとんど影響を及ぼさないと考えられている。そのため、図1のスキームに基づいて、輸送体同定法としてPICK法を考案した。
【0385】
PICK法は、阻害剤を利用したアジド修飾輸送体基質の使用と、優れたカバレッジ及び精度を提供するプロテオミクス技術を組み合わせて、標的輸送体の同定の特異度及び精度を高める。この方法では、非特異的結合をできるだけ避けることが重要であり、これは、いくつかの異なるタイプの阻害剤を組み合わせて使用し、光反応性基質と細胞間の反応時間を非常に短くすることによって達成できる。原則として、輸送体複合体内では、基質に結合するタンパク質が存在する可能性が高く、周囲のサブユニットが容易に識別される可能性は低くなる。アジドによる標識反応は十分に特異的ではないため、SWATH分析の追加基準であるH/OC交換輸送体の阻害剤であるFLVによる阻害も導入した。AzPYRはH/OC交換輸送体のPYR結合ポケットに親和性を示し(図2A)、UV照射はアジド基とH/OC交換輸送体の不可逆反応を引き起こした(図2B)。
【0386】
SWATH-MSは、コントロール(AzPYR及びFLV非存在下)、AzPYR存在下、並びに、AzPYR及びFLV存在下のサンプルに対しても実行され、上記材料、各種物性の測定方法、及び評価方法の「6.」に示す基準に基づいて、最終的に16の候補タンパク質(表4)が得られた。
【0387】
PICK法によって選択された候補タンパク質の第1の機能的スクリーニングでは、TCIRG1、TM7SF3、及びLHFPL6が選択された。これらのタンパク質のノックダウンは、H/OC交換輸送体の基質輸送に影響を及ぼしたためである(表5)。
【0388】
L型アミノ酸輸送体がLAT1(SLC7A5)及び4F2hc(SLC3A2/CD98)の複合体であることに注目して、2つ又は3つ全ての候補がH/OC交換輸送体の活性に関与している可能性があると仮定した。7つの推定膜貫通ドメインを持つTM7SF3は、サイトカインによる膵臓ベータ細胞の死を抑制し、インスリン分泌を促進することが報告されている。TM7SF3は、p53/TP53の下流の転写標的であり、ERストレスの発生を弱める生存促進恒常性因子として機能する。
また、3つの推定膜貫通ドメインを持つLHFPL6は、胃癌の予後バイオマーカー及び治療標的の候補である。
【0389】
これら2つのタンパク質は多様な組織で発現している。興味深いことに、脳微小血管内皮細胞におけるTM7SF3及びLHFPL6のmRNAの発現量は、BBBの他の輸送体のmRNAの発現量に匹敵する(図7)。実際、マウスでは、TM7SF3の発現はBCRPの発現よりも大きく、BBBでの薬物流出に寄与している(図7)。ヒトでは、LHFPL6はGLUT1及びLAT1よりも高度に発現している(図7)。
したがって、TM7SF3及びLHFPL6はBBBでの輸送に寄与する可能性がある。TCIRG1はV-ATPaseのサブユニットであり、一部の細胞型の細胞内成分のpHを酸性化及び維持する役割を果たし、細胞外環境を酸性化する原形質膜も標的としている。
【0390】
第2の機能的スクリーニングでは、TM7SF3及びLHFPL6両方のノックダウンにより、H/OC交換輸送体の基質の取り込みが最も減少した。一方、TCIRG1ノックダウンの効果は比較的弱く(表6)、H/OC交換輸送体の活性にTM7SF3及びLHFPL6が関与していることを強く示唆した。
【0391】
機能獲得分析では、TM7SF3及びLHFPL6を発現するHEK293細胞を使用して、H/OC交換輸送体の基質の取り込みに対するTM7SF3及びLHFPL6の寄与を検証した。TM7SF3の一過的な発現及び安定した発現の両方において、基質の取り込みを増加させる傾向があったが、LHFPL6の発現はほとんど影響を与えなかった(図5A及び図5B)。特に、HEK293細胞でのTM7SF3及びLHFPL6の発現は、基質の初期の取り込み量にほとんど影響を与えなかった。しかし、TM7SF3発現細胞において、比較的親水性の基質であるVARの基質の初期の取り込み量の増加が観察された(図5B)。生体膜を介した薬物の浸透は、膜、原形質膜、及び細胞内結合を取り巻く攪拌されていない水層の影響を受ける。したがって、H/OC交換輸送体が存在する原形質膜上の現象を検出するには、原形質膜の透過性が律速である化合物を使用することが重要である。そのため、上記材料、各種物性の測定方法、及び評価方法の「9.(1)」に示したとおり、新規化合物であるピリラミン類似体(化合物(I-1))を合成した。
【0392】
ピリラミン類似体の初期取り込み速度は9.71μL/mgタンパク質/分と計算され、これはPYRよりも約50倍遅く(図8)、原形質膜透過性が初期取り込み速度の律速であることを意味する。さらに、ピリラミン類似体が、H/OC交換輸送体の基質として十分な特性を含むことが証明された(図6A図6E)。この結果は、ピリラミン類似体がTM7SF3及びLHFPL6の機能を明らかにするのに適していることを示唆した。
【0393】
実際、ピリラミン類似体の取り込みは、0.5~30分の任意の時点でTM7SF3及び/又はLHFPL6をノックダウンすることによって大幅に減少した(図6G)。一方、TM7SF3及びLHFPL6のノックダウンは、ガバペンチンの取り込み(LAT1の基質)に影響を与えなかった(図9)。さらに、ピリラミン類似体の取り込みは、TM7SF3を安定して発現しているHEK293細胞において0.5分で3.2倍の増加を示した(図6H)。
【0394】
以上の全ての結果から、TM7SF3及びLHFPL6がH/OC交換輸送体の構成要素である可能性があることが示唆された。
【0395】
(結論)
光反応性標識プローブ及びSWATH-MSを使用した包括的なプロテオミクス分析を組み合わせたPICK法を開発し、BBBでの様々なCNS薬物の輸送に関与するH/OC交換輸送体の分子成分を特定した。上記材料、各種物性の測定方法、及び評価方法の「6.」に示す基準に基づいて、16の候補タンパク質が選択された。hCMEC/D3細胞での候補タンパク質をコードする遺伝子のノックダウン及び阻害剤を用いた試験、並びに、候補タンパク質を過剰発現する細胞での取り込み試験の結果は、TM7SF3及びLHFPL6がH/OC交換輸送体の構成成分であることを示した。この結果から、効果的なCNS薬と新しいドラッグデリバリーシステムの開発を促進することが期待される。PICK法は、他の輸送体の探索にも適用できることが予想される。
【産業上の利用可能性】
【0396】
本実施形態の発現ベクター及びベクターセットによれば、新規輸送体タンパク質分子を発現させることができる。本実施形態の細胞は、新規輸送体タンパク質分子を発現する細胞であり、脳に効率的に取り込まれるカチオン性薬物のスクリーニングに利用することができる。本実施形態の化合物は、プロトン/有機カチオン交換輸送体の基質として利用することができる。本実施形態のプロトン/有機カチオン交換輸送体用基質プローブは、プロトン/有機カチオン交換輸送体の機能解析に利用することができる。本実施形態の医薬組成物によれば、脳に移行しにくい生理活性物質の脳への取り込みを促進することができる。本実施形態の被験物質のスクリーニング用キット及び被験物質のスクリーニング方法によれば、脳に効率的に取り込まれるカチオン性薬物をスクリーニングすることができる。本実施形態の輸送体タンパク質の探索方法によれば、未知の輸送体タンパク質を探索することができる。
図1
図2A
図2B
図3A
図3B
図4
図5A
図5B
図5C
図6A
図6B
図6C
図6D
図6E
図6F
図6G
図6H
図6I
図7
図8
図9
【配列表】
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