IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社クボタの特許一覧

特開2024-157830電動モータパワートレイン、及び多目的車両
<>
  • 特開-電動モータパワートレイン、及び多目的車両 図1
  • 特開-電動モータパワートレイン、及び多目的車両 図2
  • 特開-電動モータパワートレイン、及び多目的車両 図3
  • 特開-電動モータパワートレイン、及び多目的車両 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024157830
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】電動モータパワートレイン、及び多目的車両
(51)【国際特許分類】
   B60K 17/28 20060101AFI20241031BHJP
   B60K 17/354 20060101ALI20241031BHJP
   B60K 17/12 20060101ALI20241031BHJP
【FI】
B60K17/28 D
B60K17/354
B60K17/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023072429
(22)【出願日】2023-04-26
(71)【出願人】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】別所 弘樹
【テーマコード(参考)】
3D042
3D043
【Fターム(参考)】
3D042AA01
3D042AB07
3D042AB17
3D043AA01
3D043AB07
3D043AB17
3D043BA06
3D043BC09
3D043BC13
3D043EA05
3D043EA16
3D043EB12
3D043EB17
3D043EF12
3D043EF19
(57)【要約】
【課題】車両の種々な走行状況に応じて、適切なモータ出力の利用が可能となる電動モータパワートレイン、及びそのような電動モータパワートレインを搭載した多目的車両を提供する。
【解決手段】電動モータパワートレインは、メインモータ4と、PTOモータ7と、PTOモータ7の出力をPTO装置70に伝達するPTO軸71と、メインモータ4の出力を入力するとともにPTOモータ7の出力を入力するトランスミッション5と、駆動輪1と連結された駆動軸62と、トランスミッションの出力を駆動軸62に伝達する差動装置61と、PTOモータ7のトランスミッション5への入力状態を変更する動力伝達変更装置8を備える。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の駆動輪に動力を伝達する電動モータパワートレインであって、
メインモータと、
PTOモータと、
前記PTOモータの出力をPTO装置に伝達するPTO軸と、
前記メインモータの出力を入力するとともに前記PTOモータの出力を入力するトランスミッションと、
前記駆動輪と連結された駆動軸と、
前記トランスミッションの出力を前記駆動軸に伝達する差動装置と、
前記PTOモータの前記トランスミッションへの入力状態を変更する動力伝達変更装置と、
を備えた電動モータパワートレイン。
【請求項2】
前記動力伝達変更装置は、接続・遮断クラッチと、前記接続・遮断クラッチを第1状態または第2状態に操作する操作部とを有し、前記第1状態において、前記PTOモータの出力が前記トランスミッションに入力され、前記第2状態において、前記PTOモータの出力の前記トランスミッションへの入力が遮断される請求項1に記載の電動モータパワートレイン。
【請求項3】
前記操作部は、人為操作具の操作変位を前記接続・遮断クラッチに伝達する機械式連動機構を有する請求項2に記載の電動モータパワートレイン。
【請求項4】
前記操作部は、人為操作具の操作変位によって生成される電気信号と予め組み込まれたプログラムとに基づいて前記接続・遮断クラッチを操作する電子制御機構を有する請求項2に記載の電動モータパワートレイン。
【請求項5】
前記動力伝達変更装置は、接続・遮断クラッチと、前記接続・遮断クラッチを第1状態、第2状態、第3状態のうちのいずれか1つに操作する操作部とを有し、前記第1状態において、前記PTOモータの出力が前記トランスミッションに入力され、前記第2状態において、前記PTOモータの出力の前記トランスミッションへの入力が遮断され、前記第3状態において、前記PTOモータの出力のうちの一部分が前記トランスミッションに入力される請求項1に記載の電動モータパワートレイン。
【請求項6】
前記動力伝達変更装置は、一方側を前記メインモータの動力を伝達する第1伝動軸と連結されているとともに他方側を前記PTOモータの出力の動力を伝達する第2伝動軸と連結されているワンウエイクラッチである請求項1に記載の電動モータパワートレイン。
【請求項7】
請求項1から6に記載の電動モータパワートレインを搭載した多目的車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動モータを動力源として、車両の車輪を駆動する電動モータパワートレイン、及び電動モータパワートレインを搭載した多目的車両に関する。
【背景技術】
【0002】
電動モータパワートレインを搭載した電気車両やハイブリッド車両は、乗用車の分野だけでなく、作業車や多目的車両の分野にも、広まっている。例えば、特許文献1には、左右一対の後輪を駆動可能なエンジンと、左右一対の前輪を駆動可能なモータと、駆動モードを切り替える制御装置とを備える多目的車両が開示されている。この多目的車両では、制御装置によって切り替えられる駆動モードは、エンジンのみを駆動するエンジン二駆モード、モータのみを駆動するモータ二駆モード、エンジンとモータとの両方を駆動するハイブリッド四駆モードである。
【0003】
特許文献2には、バッテリとモータと変速装置とを備えるトラクタが開示されている。このトラクタでは、変速装置で変速されたモータからの動力が左右の後輪及び左右の前輪に伝達され、左右の前輪及び左右の後輪が駆動される。さらに、トラクタには、モータによって駆動されるPTO(動力取り出し)軸が装備されており、このPTO軸からの動力により耕耘装置などの作業装置が駆動される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2017-105243号公報
【特許文献2】特開2021-104768号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1による多目的車両では、複数の駆動モードでの車両走行が可能であるが、車輪ではない作業装置に動力を供給するPTO(Power Take Off)機能を考慮されていない。特許文献2によるトラクタでは、作業装置に動力を供給するPTO軸が装備されているが、このPTO軸には、車輪を駆動するモータからの動力が伝達される。したがって、作業装置を駆動しながら走行する場合、モータの負荷が大きくなることから、大容量のモータが必要となる。そのような大容量のモータは、作業装置を駆動しないか、あるいは低負荷の作業装置を駆動する場合、オーバースペックとなってしまう。
【0006】
本発明の目的は、車両の種々な走行状況に応じて、適切なモータ出力の利用が可能となる電動モータパワートレイン、及びそのような電動モータパワートレインを搭載した多目的車両を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明による、車両の駆動輪に動力を伝達する電動モータパワートレインは、PTOモータと、前記PTOモータの出力をPTO装置に伝達するPTO軸と、前記メインモータの出力を入力するとともに前記PTOモータの出力を入力するトランスミッションと、前記駆動輪と連結された駆動軸と、前記トランスミッションの出力を前記駆動軸に伝達する差動装置と、前記PTOモータの前記トランスミッションへの入力状態を変更する動力伝達変更装置とを備える。
【0008】
この構成によれば、通常の車両走行ではメインモータだけが駆動され、停車状態でPTO装置が駆動される場合は、PTOモータだけが駆動される。悪路走行や登坂走行で大きな走行負荷が必要な場合では、メインモータとPTOモータの両方の出力が車輪に供給される。作業装置を駆動しながらの作業走行では、PTOモータの出力がPTO装置に供給され、メインモータの出力が駆動輪に供給される。このように、本発明の電動モータパワートレインでは、種々の走行状況に応じて、適切なモータ出力の利用が可能となる。
【0009】
本発明の実施形態では、前記動力伝達変更装置は、接続・遮断クラッチと、前記接続・遮断クラッチを第1状態または第2状態に操作する操作部とを有し、前記第1状態において、前記PTOモータの出力が前記トランスミッションに入力され、前記第2状態において、前記PTOモータの出力の前記トランスミッションへの入力が遮断される。この構成では、PTOモータの出力の動力伝達経路とメインモータの出力の動力伝達経路との間のブリッジ経路に当該ブリッジ経路における動力伝達の入り(オン)切り(OFF)を行う接続・遮断クラッチが配置されている。操作部によって操作される接続・遮断クラッチは、ブリッジ経路における動力伝達の入りの状態である第1状態、またはブリッジ経路における動力伝達の切りの状態である第2状態のいずれかの状態を作り出す。第1状態では、PTOモータの出力がメインモータによる走行動力に追加される。
【0010】
本発明の実施形態では、前記操作部は、人為操作具の操作変位を前記接続・遮断クラッチに伝達する機械式連動機構を有する。この構成では、人為操作具の操作変位が機械式連動機構を介して接続・遮断クラッチに伝達されることで、接続・遮断クラッチの第1状態または第2状態が作り出されるので、運転者の意思に忠実なクラッチ操作が実現する。
【0011】
本発明の実施形態では、前記操作部は、人為操作具の操作変位によって生成される電気信号と予め組み込まれたプログラムとに基づいて前記接続・遮断クラッチを操作する電子制御機構を有する。この構成では、人為操作具の操作変位が電気信号に変換され、当該電気信号に基づいて電子制御機構で生成される制御信号により、接続・遮断クラッチの第1状態または第2状態が作り出される。電子制御機構では、当該制御信号が予め組み込まれたプログラムによって生成されるので、予め設定された制御条件に基づいて、接続・遮断クラッチの第1状態または第2状態を作り出することができるので、融通性に富んだクラッチ操作が可能となる。
【0012】
本発明の実施形態では、前記動力伝達変更装置は、接続・遮断クラッチと、前記接続・遮断クラッチを第1状態、第2状態、第3状態のうちのいずれか1つに操作する操作部とを有し、前記第1状態において、前記PTOモータの出力が前記トランスミッションに入力され、前記第2状態において、前記PTOモータの出力の前記トランスミッションへの入力が遮断され、前記第3状態において、前記PTOモータの出力のうちの一部分が前記トランスミッションに入力される。この構成では、PTOモータの出力の動力伝達経路とメインモータの出力の動力伝達経路との間のブリッジ経路における動力伝達状態が、上述した第1状態と第2状態とだけでなく、第3状態に変更される。当該第3状態では、PTOモータの出力の一部が駆動輪に供給される。つまり、PTOモータの出力がPTO装置と駆動輪とに分配することができる。これにより、モータ出力が、種々の走行状況に応じて、さらに適切に利用可能となる。
【0013】
本発明の別な実施形態では、前記動力伝達変更装置は、一方側を前記メインモータの動力を伝達する第1伝動軸と連結されているとともに他方側を前記PTOモータの出力の動力を伝達する第2伝動軸と連結されているワンウエイクラッチで構成される。この構成では、メインモータとPTOモータとの回転方向の相違、もしくはメインモータとPTOモータとの回転速度差、具体的には、第1伝動軸と第2伝動軸との回転速度差によって、ワンウエイクラッチによる動力伝達の入り切りが行われる。このことから、メインモータ及びPTOモータの回転制御を通じて、PTOモータから駆動軸への動力供給を決定することができる。
【0014】
本発明は、電動モータパワートレイン以外に、当該電動モータパワートレインを搭載した多目的車両も対象としている。多目的車両は、PTOモータによって駆動されるPTO装置を備えているだけでなく、一般道路以外のオフロード、岩地や凸凹道や農地なども走行するので、必要に応じてPTOモータの出力が駆動輪に伝達される電動モータパワートレインは最適なパワートレインとなる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明による電動モータパワートレインの基本構成を示す概略図である。
図2】電動モータパワートレインを搭載した多目的車両の側面図である。
図3】電動モータパワートレインを搭載した多目的車両の平面図である。
図4】本発明による電動モータパワートレインの一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
なお、本明細書では、特に断りがない限り、「前」は機体前後方向(走行方向)に関して前方を意味し、「後」は機体前後方向(走行方向)に関して後方を意味する。また、左右方向または横方向は、機体前後方向に直交する機体横断方向(機体幅方向)を意味する。「上」または「下」は、機体の鉛直方向(垂直方向)での位置関係であり、地上高さに基づく位置関係を示す。
【0017】
まず、図1を用いて、本発明による電動モータパワートレインの基本構成の一例を説明する。電動モータパワートレインは、電動モータの回転動力を車両の駆動輪1と駆動輪1以外の動作機器(PTO装置70など)に伝達する。この電動モータパワートレインは、電動モータとして、メインモータ4とPTOモータ7とを備え、さらに、PTO軸71と、トランスミッション5と、駆動輪1と連結された駆動軸62と、差動装置61と、動力伝達変更装置8とを備えている。PTO軸71は、PTOモータ7の出力をPTO装置70に伝達する。トランスミッション5には、メインモータ4の出力とPTOモータ7の出力が入力される。トランスミッション5の出力は、差動装置61を介して駆動軸62に伝達され、これにより、駆動輪1が回転する。PTOモータ7の出力は、分岐経路APを通じて、メインモータ4の出力に合流可能である。分岐経路APを通じてのPTOモータ7の出力のメインモータ4の出力への合流は、動力伝達変更装置8によって制御される。つまり、動力伝達変更装置8は、PTOモータ7のトランスミッション5への入力状態を変更する。
【0018】
動力伝達変更装置8の1つの好適な形態では、動力伝達変更装置8は、PTOモータ7の出力を駆動輪1の回転に利用する第1状態と利用しない第2状態とのいずれかを選択する機能を有する。第1状態では、駆動輪1の回転のために、メインモータ4の出力だけが用いられる。第2状態では、駆動輪1の回転のために、メインモータ4とPTOモータ7とのトータル出力が用いられ、駆動輪1は、より大きな力で回転することができる。
【0019】
動力伝達変更装置8の他の形態では、動力伝達変更装置8は、上記第1状態と第2状態に加えて、第3状態を選択する機能を有する。この第3状態では、駆動輪1の回転のために、メインモータ4の出力に、PTOモータの出力のうちの一部分を加えた動力で駆動輪1は回転することができる。
【0020】
動力伝達変更装置8における動力伝達の変更(動力伝達状態)は、操作部9によって行われる。操作部9は、人為操作具31aの操作変位を伝達するリンク機構などを用いた機械式連動機構、または、人為操作具31aの操作変位によって生成される電気信号と予め組み込まれたプログラムと電子制御式ソレノイドなどの制御ドライバとを有する電子制御機構によって構成することできる。さらに、操作部9は、走行状態検出センサやPTO状態検出センタからの検出信号と、予め組み込まれた制御プログラムとを用いて、電子制御で制御ドライバを動作させる電子自動制御機構によって構成されてもよい。
【0021】
以下、本発明による電動モータパワートレインを搭載した車両である多目的車両(ユーティリティビークル)の実施形態を説明する。なお、本発明の多目的車両には、全地形対応車(ATV)、バギー、オフロード車、農作業車、土木作業車も含まれている。図2は多目的車両の側面図であり、図3は多目的車両の平面図である。
【0022】
図2及び図3に図示された多目的車両には、駆動輪1として、駆動かつ操向操作可能な左右一対の前輪11と、駆動可能な左右一対の後輪12とが、備えられている。走行車体2は、左右一対の前輪11及び左右一対の後輪12により走行可能である。走行車体2の中央部には、操縦者が搭乗して運転操作を行う運転部22が備えられている。走行車体2の後部には、荷を積載可能な荷台23が備えられている。走行車体2における荷台23よりも下方領域で、走行車体2に動力ユニットが搭載されている。動力ユニットは、図3に示すように、走行モータとしてのメインモータ4とトランスミッション5とを含む。トランスミッション5からの出力は、一方では、後輪差動装置61rと後輪12の駆動軸62である後輪車軸62rとを経て、後輪12に伝達され、他方では、プロペラ軸55と前輪差動装置61fと前輪11の駆動軸62である前輪車軸62fとを経て、前輪11に伝達される。
【0023】
運転部22は、4柱門型のロプスフレーム24で囲まれて保護されている。運転部22には、操縦者が着座する運転座席25が備えられている。また、運転部22における運転座席25の前方には、表示デバイスなどが組み付けられているフロントパネル3と、左右の前輪11の操向操作用のステアリングハンドル26とが設けられている。運転部22には、変速レバー、エンジン回転数調整具、PTOレバー、などからなる人為操作具群31が配置されている。人為操作具群31には動力伝達変更装置8を操作する人為操作具31aも含まれている。
【0024】
図4には、電動モータパワートレインの一例を模式的に示す動力系統図が示されている。トランスミッション5は、第1ギヤ変速部51aと第2ギヤ変速部51bと第3ギヤ変速部51cとを有するギヤ変速装置51を備えている。第3ギヤ変速部51cの出力軸は後輪用出力部52と前輪用出力部53とを有する。後輪用出力部52は後輪差動装置61rの入力部と連結されており、後輪差動装置61rの出力部は、後輪車軸62rの一端と連結され、後輪車軸62rの他端は後輪12と連結されている。前輪用出力部53は、プロペラ軸55を介して前輪差動装置61fと入力部と連結されている。前輪差動装置61fの出力部は、前輪車軸62fの一端と連結され、前輪車軸62fの他端は前輪11と連結されている。前輪用出力部53には、前輪クラッチ54が介装されており、前輪クラッチ54の入り切りにより、前輪11への動力伝達が入り切りされる。
【0025】
PTOモータ7の出力は、PTO軸71を介してPTO装置70に伝達される。この実施形態では、PTO軸71には、ギヤ式の分岐伝動機構80が設けられている。分岐伝動機構80は、PTO軸71に対して平行に延びて、分岐軸として機能する第2伝動軸82を備えている。第2伝動軸82は、メインモータ4の出力軸と連結されている第1伝動軸81と同軸芯配置されており、第1伝動軸81と第2伝動軸82との間に、PTOモータ7の出力を駆動輪1に与えるために用いられる動力伝達変更装置8が備えられている。つまり、メインモータ4の出力の動力伝達経路である第1伝動軸81と、PTOモータ7の出力の動力伝達経路である第2伝動軸82とは、メインモータ4とPTOモータ7との間の動力伝達に関する出力のブリッジ経路として機能し、このブリッジ経路における動力伝達の入り(オン)切り(OFF)が動力伝達変更装置8によって行われる。この実施形態では、動力伝達変更装置8は、摩擦クラッチまたは噛み合いクラッチとして構成される。また、動力伝達変更装置8は、後述するようにワンウエイクラッチとして構成することも可能である。いずれにせよ、このようなクラッチは、一方側を第1伝動軸81と連結されているとともに他方側を第2伝動軸82と連結されている。
【0026】
動力伝達変更装置8であるクラッチが切り状態であれば、PTOモータ7の出力はPTO装置70に与えられ、動力伝達変更装置8であるクラッチが入り状態であれば、PTOモータ7の出力はギヤ変速装置51にも与えられ、メインモータ4を補助することができる。PTO装置70が使用されている場合には、PTOモータ7の出力をPTO装置70とギヤ変速装置51とに分配する分配モード、または、PTOモータ7の出力をPTO装置70だけに供給する単独モードのいずれかを、動力伝達変更装置8によって選択可能である。PTO装置70が不使用の場合には、PTOモータ7の出力は、全て、ギヤ変速装置51に供給することができる。さらに、図4では一点鎖線で示されているPTOクラッチ72が備えられている場合、PTO装置70へのPTOモータ7の出力を強制的に遮断し、PTOモータ7の出力をギヤ変速装置51にだけ供給することも可能である。
【0027】
動力伝達変更装置8の操作(動力伝達または動力遮断;クラッチ入り切り)は、操作部9によって行われる。この実施形態では、操作部9は電子制御方式で動作する。操作部9は、人為操作具31aと、その操作変位によって生成される電気信号と予め制御ユニットに組み込まれた制御プログラムとに基づいて接続・遮断クラッチ(動力伝達変更装置8)の状態を変更する制御ドライバとを有する。
【0028】
操作部9は、利用する入力信号と設定される制御プログラムとによって、種々の制御モードの実行が可能である。以下に、その制御モードの一例を説明する。
【0029】
(制御モードA)
人為操作具31aの変位操作により、接続・遮断クラッチである動力伝達変更装置8を操作して、接続・遮断クラッチの第1状態または第2状態を作り出す。第1状態では、PTOモータ7の出力が、ギヤ変速装置51に入力され、走行のために用いられる。第2状態では、PTOモータ7の出力はギヤ変速装置51入力されずに、PTO装置70の駆動のためだけに用いられる。
【0030】
(制御モードB)
人為操作具31aに対する操作によって生成される操作信号に基づいて、制御ユニット(操作部9の制御機能部)が接続・遮断クラッチの第1状態または第2状態を作り出す。メインモータ4及びPTOモータ7の負荷状態を検出する負荷検出センサが設けられている場合、その検出結果に基づいて、制御ユニットは、人為操作具31aに対する操作とは、独立して、または、運転者の承認に基づいて、接続・遮断クラッチの第1状態または第2状態を作り出す。
【0031】
(制御モードC)
接続・遮断クラッチである動力伝達変更装置8が、PTOモータ7の出力がギヤ変速装置51に入力される第1状態と、PTOモータ7の出力がギヤ変速装置51に入力されない第2状態と、前記トランスミッションへの入力が遮断され、PTOモータ7の出力のうちの一部分がギヤ変速装置51に入力されるとともに残りの部分がPTO装置70に与えられる第3状態とのいずれかに変更される。このようなクラッチ制御は、例えば、接続・遮断クラッチがPWM (パルス幅変調)またはPFM(パルス周波数変調)などによって制御されるクラッチを採用することで可能である。
【0032】
車両には、メインモータ4及びPTOモータ7に電力を供給するバッテリが備えられているが、その図示は省略されている。例えば、バッテリは、運転部22の前方に位置するボンネットの下方領域、または運転座席25の下方領域、あるいはその両方に配置することができる。
【0033】
〔別実施の形態〕
(1)上述した実施形態では、動力伝達変更装置8が、接続・遮断クラッチにより構成されていたが、これに代えて、ワンウエイクラッチで構成することも可能である。その場合、ワンウエイクラッチの一方側がメインモータ4の動力を伝達する第1伝動軸81と連結され、ワンウエイクラッチの他方側がPTOモータ7の出力の動力を伝達する第2伝動軸82と連結される。この構成では、メインモータ4とPTOモータ7との回転方向、及びメインモータ4とPTOモータ7との回転速度差(第1伝動軸81と第2伝動軸82との回転速度差)によって、ワンウエイクラッチである動力伝達変更装置8の入り切りが行われる。つまり、メインモータ4及びPTOモータ7の制御により、PTOモータ7の出力を走行のために、あるいは外部動力供給のために用いることができる。
【0034】
(2)上述した実施形態では、PTOモータ7の出力が走行のために用いられるかまたは用いられないかが動力伝達変更装置8によって選択されることが説明されていた。逆に、同様の構成で、メインモータ4がPTOモータ7を支援して、PTO装置70への伝達動力を増強することも可能である。
【0035】
(3)上述した実施形態では、多目的車両は、前輪11と後輪12とに動力が伝達される4WDタイプであったが、前輪11または後輪12のどちらかに動力が伝達される4WDタイプであってもよい。また、本発明は、四輪車両に代えて、三輪車両あるいは二輪車両に適用されてもよい。
【0036】
なお、上記実施形態(別実施形態を含む、以下同じ)で開示される構成は、矛盾が生じない限り、他の実施形態で開示される構成と組み合わせて適用することが可能であり、また、本明細書において開示された実施形態は例示であって、本発明の実施形態はこれに限定されず、本発明の目的を逸脱しない範囲内で適宜改変することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明は、走行用のメインモータとPTOモータとを備えた電動モータパワートレイン、及びそのような電動モータパワートレインを搭載した多目的車両に適用可能である。
【符号の説明】
【0038】
1 :駆動輪
4 :メインモータ
5 :トランスミッション
7 :PTOモータ
8 :動力伝達変更装置
9 :操作部
11 :前輪
12 :後輪
31a :人為操作具
51 :ギヤ変速装置
51a :第1ギヤ変速部
51b :第2ギヤ変速部
51c :第3ギヤ変速部
52 :後輪用出力部
53 :前輪用出力部
54 :前輪クラッチ
55 :プロペラ軸
61 :差動装置
62 :駆動軸
70 :PTO装置
71 :PTO軸
80 :分岐伝動機構
81 :第1伝動軸
82 :第2伝動軸
図1
図2
図3
図4