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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024157843
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】液晶光学素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/30 20060101AFI20241031BHJP
   G02B 5/18 20060101ALI20241031BHJP
   G02B 5/32 20060101ALI20241031BHJP
【FI】
G02B5/30
G02B5/18
G02B5/32
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023072451
(22)【出願日】2023-04-26
(71)【出願人】
【識別番号】502356528
【氏名又は名称】株式会社ジャパンディスプレイ
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】弁理士法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】井桁 幸一
(72)【発明者】
【氏名】冨岡 安
(72)【発明者】
【氏名】金城 拓海
(72)【発明者】
【氏名】岡 真一郎
【テーマコード(参考)】
2H149
2H249
【Fターム(参考)】
2H149AB16
2H149BA03
2H149BB28
2H149DA06
2H149DB02
2H149FA27W
2H149FA27Y
2H149FA58W
2H149FA58Y
2H149FA67
2H149FB01
2H149FB05
2H149FD25
2H249AA04
2H249AA18
2H249AA26
2H249AA41
2H249AA64
2H249CA15
(57)【要約】
【課題】液晶フィルムの剥離を抑制する。
【解決手段】一実施形態によれば、液晶光学素子の製造方法は、コレステリック液晶を有する液晶フィルムを用意し、少なくとも主面を形成する材料が無機材料である透明基板を用意し、前記透明基板の前記主面に、シランカップリング剤を含む溶液を塗布し、前記液晶フィルムを前記シランカップリング剤に積層し、前記シランカップリング剤を加熱する。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コレステリック液晶を有する液晶フィルムを用意し、
少なくとも主面を形成する材料が無機材料である透明基板を用意し、
前記透明基板の前記主面に、シランカップリング剤を含む溶液を塗布し、
前記液晶フィルムを前記シランカップリング剤に積層し、
前記シランカップリング剤を加熱する、
液晶光学素子の製造方法。
【請求項2】
前記液晶フィルムを用意する工程は、
液晶モノマー及び重合開始剤を含む液晶材料を用意し、
支持基板の上に配向膜を形成し、
前記配向膜の上に前記液晶材料を塗布し、
コレステリック液晶相を呈した状態で前記液晶材料を硬化することで前記液晶フィルムを形成し、
前記液晶フィルムに熱剥離テープを接着し、
前記液晶フィルムを前記配向膜から剥離することを含む、
請求項1に記載の液晶光学素子の製造方法。
【請求項3】
前記液晶フィルムを前記シランカップリング剤に積層した後に、さらに、
前記熱剥離テープを加熱し、前記液晶フィルムから前記熱剥離テープを剥離する、
請求項2に記載の液晶光学素子の製造方法。
【請求項4】
前記熱剥離テープを加熱する工程は、前記シランカップリング剤を加熱する工程を兼ねる、請求項3に記載の液晶光学素子の製造方法。
【請求項5】
前記液晶フィルムを用意する工程は、
液晶モノマー及び重合開始剤を含む液晶材料を用意し、
支持基板の上に配向膜を形成し、
前記配向膜の上に前記液晶材料を塗布し、
コレステリック液晶相を呈した状態で前記液晶材料を硬化することで前記液晶フィルムを形成し、
前記液晶フィルムをローラに巻き付けて、前記液晶フィルムを前記配向膜から剥離することを含む、
請求項1に記載の液晶光学素子の製造方法。
【請求項6】
前記液晶フィルムを前記シランカップリング剤に積層する工程は、前記ローラに巻き付けた前記液晶フィルムをシランカップリング剤の上に転写することを含む、
請求項5に記載の液晶光学素子の製造方法。
【請求項7】
前記シランカップリング剤は、前記主面を形成する前記無機材料と化学結合するアルコキシ基と、前記液晶フィルムと化学結合する反応性官能基と、を有する有機ケイ素化合物であり、
前記反応性官能基は、エポキシ基、スチル基、メタクリル基、アクリル基、アミノ基、メルカプト基、イソシアネート基のいずれかである、請求項1に記載の液晶光学素子の製造方法。
【請求項8】
前記溶液は、0.1重量%以上、3.0重量%以下の前記シランカップリング剤を含む水溶液またはアルコール溶液である、請求項1に記載の液晶光学素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、液晶光学素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、液晶材料を用いた液晶偏光格子が提案されている。このような液晶偏光格子では、格子周期、液晶層の屈折率異方性Δn(液晶層の異常光に対する屈折率neと常光に対する屈折率noとの差分)、及び、液晶層の厚さdといったパラメータの調整が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2017-522601号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
実施形態の目的は、液晶フィルムの剥離を抑制することが可能な液晶光学素子の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
一実施形態に係る液晶光学素子の製造方法は、
コレステリック液晶を有する液晶フィルムを用意し、
少なくとも主面を形成する材料が無機材料である透明基板を用意し、
前記透明基板の前記主面に、シランカップリング剤を含む溶液を塗布し、
前記液晶フィルムを前記シランカップリング剤に積層し、
前記シランカップリング剤を加熱する。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1図1は、液晶光学素子100を模式的に示す断面図である。
図2図2は、液晶フィルム3に含まれるコレステリック液晶CLの一例を説明するための図である。
図3図3は、液晶光学素子100を模式的に示す平面図である。
図4図4は、液晶材料を構成する主な材料の一例を示している。
図5図5は、液晶フィルム3を形成する工程を説明するための図である。
図6図6は、液晶フィルムを用意する工程の一例を説明するための図である。
図7図7は、液晶光学素子100の製造方法の一例を説明するための図である。
図8図8は、液晶フィルムを用意する工程の他の例を説明するための図である。
図9図9は、液晶光学素子100の製造方法の他の例を説明するための図である。
図10図10は、シランカップリング剤の化学構造を模式的に示す図である。
図11図11は、シランカップリング剤の一例を示す図である。
図12図12は、シランカップリング剤の他の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、開示はあくまで一例に過ぎず、当業者において、発明の主旨を保っての適宜変更について容易に想到し得るものについては、当然に本発明の範囲に含有されるものである。また、図面は、説明をより明確にするため、実際の態様に比べて、各部の幅、厚さ、形状等について模式的に表される場合があるが、あくまで一例であって、本発明の解釈を限定するものではない。また、本明細書と各図において、既出の図に関して前述したものと同一又は類似した機能を発揮する構成要素には同一の参照符号を付し、重複する詳細な説明を適宜省略することがある。
【0008】
なお、図面には、必要に応じて理解を容易にするために、互いに直交するX軸、Y軸、及び、Z軸を記載する。Z軸に沿った方向をZ方向または第1方向A1と称し、Y軸に沿った方向をY方向または第2方向A2と称し、X軸に沿った方向をX方向または第3方向A3と称する。X軸及びY軸によって規定される面をX-Y平面と称し、X軸及びZ軸によって規定される面をX-Z平面と称し、Y軸及びZ軸によって規定される面をY-Z平面と称する。
【0009】
図1は、液晶光学素子100を模式的に示す断面図である。
液晶光学素子100は、透明基板1と、接着層2と、液晶フィルム3と、を備えている。
【0010】
透明基板1は、例えば、透明なガラス板または透明な合成樹脂板によって構成されている。透明基板1は、例えば、可撓性を有する透明な合成樹脂板によって構成されていてもよい。透明基板1は、任意の形状を取り得る。例えば、透明基板1は、湾曲していてもよい。
【0011】
本明細書において、『光』は、可視光及び不可視光を含むものである。例えば、可視光域の下限の波長は360nm以上400nm以下であり、可視光域の上限の波長は760nm以上830nm以下である。可視光は、第1波長帯(例えば400nm~500nm)の第1成分(青成分)、第2波長帯(例えば500nm~600nm)の第2成分(緑成分)、及び、第3波長帯(例えば600nm~700nm)の第3成分(赤成分)を含んでいる。不可視光は、第1波長帯より短波長である紫外線の波長帯、及び、第3波長帯より長波長である赤外線の波長帯を含んでいる。
本明細書において、『透明』は、無色透明であることが好ましい。ただし、『透明』は、半透明又は有色透明であってもよい。
【0012】
透明基板1は、X-Y平面に沿った平板状に形成され、主面(外面)F1と、主面(内面)F2と、側面SSと、を有している。主面F1及び主面F2は、X-Y平面に略平行な面であり、第1方向A1において、互いに対向している。側面SSは、第1方向A1に沿って延びた面である。図1に示す例では、側面SSは、X-Z平面と略平行な面であるが、側面SSは、Y-Z平面と略平行な面を含んでいる。
【0013】
接着層2は、主面F2に配置されている。
【0014】
液晶フィルム3は、接着層2を介して透明基板1に接着されている。液晶フィルム3は、拡大して模式的に示すように、コレステリック液晶CLを有している。コレステリック液晶CLは、第1方向A1にほぼ平行な螺旋軸AXを有し、また、第1方向A1に沿った螺旋ピッチPを有している。螺旋ピッチPは、螺旋の1周期(液晶分子が360度回転するのに要する螺旋軸AXに沿った層厚)を示す。
【0015】
このような液晶フィルム3は、液晶光学素子100に入射した光LTiのうち、螺旋ピッチP及び液晶フィルム3の屈折率異方性Δnに応じて決定する選択反射帯域の円偏光を反射するように構成されている。なお、本明細書において、液晶フィルム3における「反射」とは、液晶フィルム3の内部における回折を伴うものである。
【0016】
液晶フィルム3は、選択反射帯域のうち、コレステリック液晶CLの旋回方向に対応した円偏光を反射する反射面3Rを有している。反射面3Rは、X-Y平面に対して傾斜している。なお、本明細書において、円偏光は、厳密な円偏光であってもよいし、楕円偏光に近似した円偏光であってもよい。
【0017】
図1に示す例では、液晶フィルム3は、主面F1の側から入射した光LTiの一部を透明基板1に向けて反射するように構成されている。
【0018】
なお、液晶光学素子100において、図1に示した液晶フィルム3に、他のコレステリック液晶を有する液晶フィルムが積層されていてもよい。他のコレステリック液晶とは、例えば、螺旋ピッチPとは異なる螺旋ピッチを有するコレステリック液晶や、図示したコレステリック液晶CLの旋回方向とは逆回りに旋回したコレステリック液晶などである。
【0019】
次に、図1に示す液晶光学素子100の光学作用について説明する。
【0020】
液晶光学素子100に入射する光LTiは、例えば、可視光、紫外線、及び、赤外線を含んでいる。
図1に示す例では、理解を容易にするために、光LTiは、透明基板1に対して略垂直に入射するものとする。なお、透明基板1に対する光LTiの入射角度は、特に限定されない。
【0021】
光LTiは、透明基板1を透過し、液晶フィルム3に入射する。そして、液晶フィルム3は、反射面3Rにおいて光LTiの一部を反射し、その他の光LTtを透過する。反射された光LTrは、波長λの円偏光である。
一例では、光LTrは、赤外線の波長帯の左回りの円偏光である。また、光LTtは、可視光及び紫外線の他に、赤外線の波長帯の右回りの円偏光を含んでいる。
【0022】
液晶フィルム3で反射された光LTrの進入角θは、光導波条件を満足するように設定されている。ここでの進入角θとは、液晶フィルム3と空気との界面で全反射を起こす臨界角以上の角度に相当する。進入角θは、透明基板1の法線Nに対する角度を示す。
【0023】
透明基板1及び液晶フィルム3が同等の屈折率を有している場合、これらの積層体が単体の導光素子となり得る。この場合、光LTrは、透明基板1と空気との界面、及び、液晶フィルム3と空気との界面において、反射を繰り返しながら、側面SSに向けて導光される。
【0024】
このような液晶光学素子100は、例えば、太陽電池装置の導光素子として適用することができる。太陽電池装置は、液晶光学素子100と、図1において点線で示す太陽電池PVと、を備えている。太陽電池PVは、側面SSに対向するように設けられている。太陽電池PVは、側面SSから出射された光LTrを受光して、発電することができる。
【0025】
なお、ここでは液晶フィルム3において赤外線が反射される例について説明したが、液晶フィルム3は、可視光を反射するように構成されてもよいし、紫外線を反射するように構成されてもよいし、複数の波長帯の光を反射するように構成されてもよい。
【0026】
図2は、液晶フィルム3に含まれるコレステリック液晶CLの一例を説明するための図である。
【0027】
なお、図2では、液晶フィルム3を第1方向A1に拡大して図示している。また、簡略化のため、コレステリック液晶CLを構成する液晶分子として、X-Y平面に平行な同一平面に位置する複数の液晶分子のうちの1つの液晶分子LMを図示している。図示した液晶分子LMの配向方向は、同一平面に位置する複数の液晶分子の平均的な配向方向に相当する。
【0028】
点線で囲んだ1つのコレステリック液晶CLに着目すると、コレステリック液晶CLは、旋回しながら第1方向A1に沿って螺旋状に積み重ねられた複数の液晶分子LMによって構成されている。複数の液晶分子LMは、接着層2と液晶フィルム3との界面の近傍に位置する液晶分子LM11を有している。
【0029】
図2に示す例の液晶フィルム3において、第2方向A2に沿って隣接する複数のコレステリック液晶CLの配向方向は、互いに異なっている。また、第2方向A2に沿って隣接するコレステリック液晶CLの各々の空間位相は、互いに異なっている。
第2方向A2に沿って隣接する液晶分子LM11の配向方向は、互いに異なっている。複数の液晶分子LM11の配向方向は、第2方向A2に沿って連続的に変化している。
【0030】
図中に一点鎖線で示す液晶フィルム3の反射面3Rは、X-Y平面に対して傾斜している。反射面3RとX-Y平面とのなす角度θαは、鋭角である。反射面3Rは、液晶分子LMの配向方向が揃った面、あるいは、空間位相が揃った面(等位相面)に相当する。
【0031】
このような液晶フィルム3は、液晶分子LMの配向方向が固定された状態で硬化している。つまり、液晶分子LMの配向方向は、電界に応じて制御されるものではない。このため、液晶光学素子100は、液晶フィルム3に電界を形成するための電極を備えていない。
【0032】
一般的に、コレステリック液晶CLを有する液晶フィルム3において、垂直入射した光に対する選択反射帯域Δλは、コレステリック液晶CLの螺旋ピッチP、液晶フィルム3の屈折率異方性Δn(異常光に対する屈折率neと常光に対する屈折率noとの差分)に基づいて、次の式(1)で示される。
Δλ=Δn*P …(1)
選択反射帯域Δλの具体的な波長範囲は、(no*P)以上、(ne*P)以下の範囲である。
【0033】
選択反射帯域Δλの中心波長λmは、コレステリック液晶CLの螺旋ピッチP、液晶フィルム3の平均屈折率nav(=(ne+no)/2)に基づいて、次の式(2)で示される。
λm=nav*P …(2)
図3は、液晶光学素子100を模式的に示す平面図である。
図3には、コレステリック液晶CLの空間位相の一例が示されている。ここに示す空間位相は、コレステリック液晶CLに含まれる液晶分子LMのうち、接着層2の近傍に位置する液晶分子LM11の配向方向として示している。
【0034】
第2方向A2に沿って並んだコレステリック液晶CLの各々について、液晶分子LM11の配向方向は互いに異なる。つまり、コレステリック液晶CLの空間位相は、第2方向A2に沿って異なる。
一方、第3方向A3に沿って並んだコレステリック液晶CLの各々について、液晶分子LM11の配向方向は略一致する。つまり、コレステリック液晶CLの空間位相は、第3方向A3において略一致している。
【0035】
特に、第2方向A2に並んだコレステリック液晶CLに着目すると、各液晶分子LM11の配向方向は、一定角度ずつ異なっている。つまり、第2方向A2に沿って並んだ複数の液晶分子LM11の配向方向は、線形に変化している。したがって、第2方向A2に沿って並んだ複数のコレステリック液晶CLの空間位相は、第2方向A2に沿って線形に変化している。その結果、図2に示した液晶フィルム3のように、X-Y平面に対して傾斜する反射面3Rが形成される。ここでの「線形に変化」は、例えば、液晶分子LM11の配向方向の変化量が1次関数で表されることを示す。なお、ここでの液晶分子LM11の配向方向とは、X-Y平面における液晶分子LM11の長軸方向に相当する。
【0036】
ここで、一平面内において、第2方向A2に沿って液晶分子LM11の配向方向が180度だけ変化するときの2つの液晶分子LM11の間隔を周期Tと定義する。なお、図3においてDPは、液晶分子LM11の旋回方向を示している。図2に示した反射面3Rの傾斜角度θαは、周期T及び螺旋ピッチPによって適宜設定される。周期Tは、一例では、1000nm~3000nmであり、また、別の一例では、300nm~700nmである。
【0037】
次に、液晶フィルム3について説明する。
液晶フィルム3は、メタクリル基、アクリル基、ビニル基、ビニルエーテル基などの官能基をもつ液晶モノマーをポリマー化したものである。
液晶フィルム3を形成するための液晶材料は、主に液晶モノマー、重合開始剤、溶媒を含む。液晶フィルム3が上記のコレステリック液晶CLを含む場合、液晶材料は、さらに、キラルドーパントを含んでいる。
【0038】
図4は、液晶材料を構成する主な材料の一例を示している。
材料M1は、液晶モノマーの一例に相当する。
材料M2は、キラルドーパントの一例に相当する。
材料M3は、重合開始剤の一例に相当する。
溶媒は、例えば、ヘキサン、シクロヘキサン、シクロヘキサノン、ヘプタン、トルエン、アニソール、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)などである。
【0039】
図5は、液晶フィルム3を形成する工程を説明するための図である。
まず、支持基板を洗浄する(ステップST1)。
そして、支持基板の上に配向膜を形成する(ステップST2)。配向膜は、支持基板の上に形成した薄膜に配向処理(光配向処理)を行うことで形成される。このような配向処理によって形成された配向膜は、所定のパターンの配向軸を有する。
そして、先に用意した液晶材料を配向膜の上に塗布する(ステップST3)。
そして、チャンバ内を減圧することで液晶材料を乾燥する(ステップST4)。このとき、チャンバ内の圧力は100Pa以下とし、乾燥処理を2分間行う。
そして、液晶材料をベークする(ステップST5)。このとき、液晶材料を加熱する温度は、NI点(Nematic-Isotropic転移温度)を超えないことが望ましい。このような工程を経ることにより、液晶材料に含まれる液晶分子は、配向膜の配向軸に応じて所定の方向に配向する。また、液晶材料にキラルドーパントが含まれている場合には、液晶分子が螺旋状に並び、コレステリック液晶相を呈する。
そして、液晶材料を室温程度まで冷却する(ステップST6)。
【0040】
そして、液晶材料に紫外線を照射して液晶材料を硬化する(ステップST7)。これにより、コレステリック液晶CLを有する液晶フィルム3が形成される。
【0041】
なお、上記の例では、液晶フィルム3がコレステリック液晶CLを有している場合について説明したが、液晶フィルム3がネマティック液晶を有していてもよい。液晶フィルム3を形成する液晶材料として、キラルドーパントを含まない液晶材料を適用することにより、ネマティック液晶を有する液晶フィルム3を形成することができる。
【0042】
図6は、液晶フィルムを用意する工程の一例を説明するための図である。
まず、図6の上段に示すように、支持基板SUBの上に配向膜ALを介して液晶フィルム3を形成する。液晶フィルム3を形成する工程については、図5を参照して説明した通りである。
続いて、図6の中段に示すように、液晶フィルム3に熱剥離テープTPを接着する。熱剥離テープTPは、液晶フィルム3の全面に接着されてもよいし、液晶フィルム3の一部に接着されてもよい。
続いて、図6の下段に示すように、熱剥離テープTPに接着された液晶フィルム3を配向膜ALから剥離する。これにより、液晶フィルム3が用意される。
【0043】
次に、液晶光学素子100の製造方法について説明する。
【0044】
図7は、液晶光学素子100の製造方法の一例を説明するための図である。
【0045】
まず、透明基板1を用意する(ステップST11)。透明基板1において、少なくとも主面F2を形成する材料は、無機材料である。
例えば、透明基板1としては、ソーダ石灰ガラス、ホウケイ酸ガラス、石英ガラスなどのシリコン酸化物(SiO)を主体とするガラス基板が適用可能である。
あるいは、透明基板1の他の例として、アクリル、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニルなどの透明樹脂の表面にシリコン窒化物(SiN)やシリコン酸化物(SiO)などの無機膜を形成した基板も適用可能である。この場合、無機膜の表面が主面F2に相当する。
【0046】
続いて、透明基板1の主面F2に、接着層2として、シランカップリング剤を含む溶液を塗布する(ステップST12)。シランカップリング剤は、アルコキシ基と、反応性官能基と、を有する有機ケイ素化合物である。溶液は、0.1重量%以上、3.0重量%以下のシランカップリング剤を含む水溶液またはアルコール溶液である。
そして、シランカップリング剤を含む溶液を乾燥する(ステップST13)。これにより、シランカップリング剤からなる接着層2が形成される。
【0047】
続いて、図5及び図6に示した工程を経て熱剥離テープTPに接着された液晶フィルム3を用意し、液晶フィルム3を接着層(シランカップリング剤)2に積層する(ステップST14)。
そして、熱剥離テープTPを加熱する(ステップST15)。この加熱により、熱剥離テープTPの粘着力が低下する。
そして、液晶フィルム3から熱剥離テープTPを剥離する(ステップST16)。
【0048】
続いて、接着層(シランカップリング剤)2を加熱する(ステップST17)。これにより、シランカップリング剤のアルコキシ基が透明基板1の主面F2を形成する無機材料と化学結合し、また、シランカップリング剤の反応性官能基が液晶フィルム3の未反応のまま残存していた官能基と化学結合する。
これにより、液晶光学素子100が製造される。
【0049】
以上の工程を経て形成された液晶光学素子100によれば、液晶フィルム3が接着層2を介して透明基板1と化学的に結合されるため、液晶フィルム3の透明基板1からの剥離及び脱落を抑制することができる。
【0050】
また、シランカップリング剤である接着層2は、透明であり、しかも、透明基板1と接着層2との間、あるいは、接着層2と液晶フィルム3との間に、屈折率の相違に起因した界面を形成することがない。このため、液晶光学素子100の内部での不所望な散乱や不所望な反射が抑制される。したがって、液晶光学素子100を導光素子として適用した場合に、導光効率の低下を抑制することができる。
【0051】
また、ポリイミドなどで形成した配向膜は、着色している場合がある。一方で、上記の製造方法で製造された液晶光学素子100によれば、配向膜を含まない。このため、透明度の高い液晶光学素子100を提供することができる。
【0052】
なお、図7を参照して説明した製造方法によれば、熱剥離テープTPを加熱する工程と、シランカップリング剤を加熱する工程とを別々に行っている。これは、シランカップリング剤の化学反応を促進する温度域と、熱剥離テープTPの粘着力を低下させる温度域とが大きく相違しているためである。シランカップリング剤の化学反応を促進する温度域と、熱剥離テープTPの粘着力を低下させる温度域とが近い場合には、ステップST15の熱剥離テープTPを加熱する工程がシランカップリング剤を加熱する工程を兼ねてもよい。この場合、ステップST17の加熱工程は不要である。
【0053】
次に、他の製造方法について説明する。
【0054】
図8は、液晶フィルムを用意する工程の他の例を説明するための図である。
まず、図8の上段に示すように、支持基板SUBの上に配向膜ALを介して液晶フィルム3を形成する。液晶フィルム3を形成する工程については、図5を参照して説明した通りである。
続いて、図8の中段に示すように、ローラRLを液晶フィルム3の一端側に押し当てる。
続いて、図8の下段に示すように、液晶フィルム3をローラRLに巻き付けて、液晶フィルム3を配向膜ALから剥離する。これにより、液晶フィルム3が用意される。
【0055】
次に、液晶光学素子100の製造方法について説明する。
【0056】
図9は、液晶光学素子100の製造方法の他の例を説明するための図である。
【0057】
まず、透明基板1を用意する(ステップST21)。上記したのと同様に、透明基板1において、少なくとも主面F2を形成する材料は、無機材料である。
【0058】
続いて、透明基板1の主面F2に、接着層2として、シランカップリング剤を含む溶液を塗布する(ステップST22)。シランカップリング剤は、アルコキシ基と、反応性官能基と、を有する有機ケイ素化合物である。溶液は、0.1重量%以上、3.0重量%以下のシランカップリング剤を含む水溶液またはアルコール溶液である。
そして、シランカップリング剤を含む溶液を乾燥する(ステップST23)。これにより、シランカップリング剤からなる接着層2が形成される。
【0059】
続いて、図5及び図8に示した工程を経て、ローラRLに巻き付けられた液晶フィルム3を用意した後に、液晶フィルム3の一部を接着層(シランカップリング剤)2に接触させる(ステップST24)。
そして、熱剥離テープTPを加熱する(ステップST15)。この加熱により、熱剥離テープTPの粘着力が低下する。
そして、ローラRLを回転させ、液晶フィルム3を接着層2の上に転写する(ステップST26)。これにより、液晶フィルム3が接着層2に積層される。
【0060】
続いて、接着層(シランカップリング剤)2を加熱する(ステップST26)。これにより、シランカップリング剤のアルコキシ基が透明基板1の主面F2を形成する無機材料と化学結合し、また、シランカップリング剤の反応性官能基が液晶フィルム3の未反応のまま残存していた官能基と化学結合する。
これにより、液晶光学素子100が製造される。
【0061】
以上の製造方法を適用した場合であっても、上記したのと同様の効果が得られる。
加えて、熱剥離テープTPから液晶フィルム3を剥離するための加熱工程が不要となる。
【0062】
次に、本実施形態で適用可能なシランカップリング剤について説明する。
【0063】
図10は、シランカップリング剤の化学構造を模式的に示す図である。
シランカップリング剤において、透明基板1の主面を形成する無機材料と化学結合するアルコキシ基ORは、例えば、メトキシ基、エトキシ基、アセチル基である。
シランカップリング剤において、液晶フィルム3と化学結合する反応性官能基Yは、例えば、エポキシ基、スチリル基、メルカプト基、イソシアネート基、メタクリル基、アクリル基、アミノ基である。
【0064】
図11は、シランカップリング剤の一例を示す図である。
図示した例では、反応性官能基として、エポキシ基、スチリル基、メルカプト基、イソシアネート基を有するシランカップリング剤の例が示されている。
【0065】
エポキシ基を有するシランカップリング剤の例としては、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシランなどが挙げられる。
【0066】
スチリル基を有するシランカップリング剤の例としては、p-スチリルトリメトキシシランなどが挙げられる。
【0067】
メルカプト基を有するシランカップリング剤の例としては、3-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシランなどが挙げられる。
【0068】
イソシアネート基を有するシランカップリング剤の例としては、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシランなどが挙げられる。
【0069】
図12は、シランカップリング剤の他の例を示す図である。
図示した例では、反応性官能基として、メタクリル基、アクリル基、アミノ基を有するシランカップリング剤の例が示されている。
【0070】
メタクリル基を有するシランカップリング剤の例としては、3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシランなどが挙げられる。
【0071】
アクリル基を有するシランカップリング剤の例としては、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシランなどが挙げられる。
【0072】
アミノ基を有するシランカップリング剤の例としては、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-トリエトキシシリル-N-(1,3-ジメチル-ブチリデン)プロピルアミン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシランなどが挙げられる。
【0073】
以上説明したように、本実施形態によれば、液晶フィルムの剥離を抑制することが可能な液晶光学素子の製造方法を提供することができる。
【0074】
なお、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これらの新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これらの実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0075】
100…液晶光学素子
1…透明基板 F1…主面 F2…主面 SS…側面
2…接着層 3…液晶フィルム CL…コレステリック液晶 3R…反射面
図1
図2
図3
図4
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図6
図7
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図10
図11
図12