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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024157868
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】車両用駆動装置
(51)【国際特許分類】
   B60W 30/02 20120101AFI20241031BHJP
   B60W 40/04 20060101ALI20241031BHJP
   B60K 17/346 20060101ALI20241031BHJP
   B60K 17/348 20060101ALI20241031BHJP
【FI】
B60W30/02
B60W40/04
B60K17/346 B
B60K17/348 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023072492
(22)【出願日】2023-04-26
(71)【出願人】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】弁理士法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】黒田 恭亮
【テーマコード(参考)】
3D043
3D241
【Fターム(参考)】
3D043AA01
3D043AA10
3D043AB02
3D043AB17
3D043EA02
3D043EA25
3D043EB13
3D043EE00
3D043EF19
3D043EF30
3D241BA60
3D241BB16
3D241CC02
3D241CC13
3D241CC15
3D241CC17
3D241CE04
3D241CE05
3D241DA13Z
3D241DA39Z
3D241DA52Z
3D241DB02Z
3D241DC21Z
3D241DD13Z
(57)【要約】
【課題】車両走行時の安全性を高める。
【解決手段】車両用駆動装置は、第1駆動輪および第2駆動輪に接続される動力伝達経路に取り付けられ、前記第1駆動輪と前記第2駆動輪とのトルク分配比を制御する摩擦クラッチを有する。前記車両用駆動装置は、前記摩擦クラッチを制御する制御システムを有する。前記制御システムは、自車両の監視範囲内に移動体が存在していない通常走行状況と、前記監視範囲内に移動体が存在している警戒走行状況と、を判定する。前記制御システムは、直進走行中に前記警戒走行状況であると判定した場合に、前記通常走行状況であると判定した場合よりも、前記摩擦クラッチの締結力を高める。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1駆動輪および第2駆動輪を駆動する車両用駆動装置であって、
前記第1駆動輪および前記第2駆動輪に接続される動力伝達経路に取り付けられ、前記第1駆動輪と前記第2駆動輪とのトルク分配比を制御する摩擦クラッチと、
互いに通信可能に接続されるプロセッサおよびメモリを備え、前記摩擦クラッチを制御する制御システムと、
を有し、
前記制御システムは、自車両の監視範囲内に移動体が存在していない通常走行状況と、前記監視範囲内に移動体が存在している警戒走行状況と、を判定し、
前記制御システムは、直進走行中に前記警戒走行状況であると判定した場合に、前記通常走行状況であると判定した場合よりも、前記摩擦クラッチの締結力を高める、
車両用駆動装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両用駆動装置において、
前記制御システムは、車速が閾値を下回る直進走行中に前記警戒走行状況であると判定した場合に、前記通常走行状況であると判定した場合よりも、前記摩擦クラッチの締結力を高める、
車両用駆動装置。
【請求項3】
請求項1に記載の車両用駆動装置において、
前記制御システムは、方向指示器が作動する直進走行中に前記警戒走行状況であると判定した場合に、前記通常走行状況であると判定した場合よりも、前記摩擦クラッチの締結力を高める、
車両用駆動装置。
【請求項4】
請求項1に記載の車両用駆動装置において、
前記制御システムは、直進走行中に前記警戒走行状況であると判定した場合に、前記通常走行状況であると判定した場合よりも、前記摩擦クラッチの締結力を高めることにより、前記第1駆動輪と前記第2駆動輪との回転速度差の発生を制限する、
車両用駆動装置。
【請求項5】
請求項1に記載の車両用駆動装置において、
前記第1駆動輪は、前輪であり、
前記第2駆動輪は、後輪である、
車両用駆動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、車両用駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両は、駆動輪のトルク分配比を制御する摩擦クラッチを有している(特許文献1および2参照)。また、車両に搭載される運転支援システムとして、所定の監視範囲内における他車両の存在を、インジケータ点灯などを用いて運転手に警告するシステムが開発されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭61-102323号公報
【特許文献2】特開2009-257383号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、所定の監視範囲内における他車両の存在を、インジケータ点灯を用いて運転手に警告した場合であっても、運転手がインジケータ点灯に気付かずにステアリング操作を行ってしまう虞もある。このような状況であっても、運転手に対して他車両の存在を気付かせることにより、車両走行時の安全性を高めることが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示によれば、車両用駆動装置は、第1駆動輪および第2駆動輪を駆動する車両用駆動装置であって、前記第1駆動輪および前記第2駆動輪に接続される動力伝達経路に取り付けられ、前記第1駆動輪と前記第2駆動輪とのトルク分配比を制御する摩擦クラッチと、互いに通信可能に接続されるプロセッサおよびメモリを備え、前記摩擦クラッチを制御する制御システムと、を有し、前記制御システムは、自車両の監視範囲内に移動体が存在していない通常走行状況と、前記監視範囲内に移動体が存在している警戒走行状況と、を判定し、前記制御システムは、直進走行中に前記警戒走行状況であると判定した場合に、前記通常走行状況であると判定した場合よりも、前記摩擦クラッチの締結力を高める。
【発明の効果】
【0006】
本開示によれば、車両走行時の安全性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】一実施形態に係る車両用駆動装置を備えた車両の一例を示す図である。
図2】パワーユニットおよび制御システムの一例を示す図である。
図3】運転支援システムによって監視される監視範囲の一例を示す図である。
図4】制御ユニットの基本構造の一例を示す図である。
図5】運転支援制御の実行手順の一例を示すフローチャートである。
図6】通常マップの一例を示す図である。
図7】警告マップの一例を示す図である。
図8】通常マップおよび警告マップに設定される目標締結力を比較する図である。
図9】運転支援制御の実行状況の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本開示の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、以下の説明において、同一または実質的に同一の構成や要素については、同一の符号を付して繰り返しの説明を省略する。
【0009】
<パワーユニット>
図1は一実施形態に係る車両用駆動装置10を備えた車両11の一例を示す図である。図1に示すように、車両用駆動装置10は、エンジン12およびトランスミッション13からなるパワーユニット14を有している。パワーユニット14の後輪出力軸15は、プロペラ軸16、リヤデファレンシャル機構17およびリヤドライブ軸18を介して後輪19に連結されている。また、パワーユニット14はフロントデファレンシャル機構20を有しており、フロントデファレンシャル機構20はフロントドライブ軸21を介して前輪22に連結されている。
【0010】
図2はパワーユニット14および制御システム60の一例を示す図である。図2に示すように、パワーユニット14は、エンジン12、トルクコンバータ23、変速機構24およびトランスファクラッチ25を有している。変速機構24の変速入力軸26は、トルクコンバータ23を介してエンジン12のクランク軸27に連結されている。図1および図2に示すように、変速機構24の変速出力軸28は、ギヤ列30、前輪出力軸31、フロントデファレンシャル機構20およびフロントドライブ軸21を介して前輪22に連結されている。また、変速機構24の変速出力軸28は、トランスファクラッチ25、後輪出力軸15、プロペラ軸16、リヤデファレンシャル機構17およびリヤドライブ軸18を介して後輪19に連結されている。
【0011】
このように、前輪(第1駆動輪)22および後輪(第2駆動輪)19には、前輪出力軸31および後輪出力軸15等からなる動力伝達経路32が接続されている。図1および図2に示した例において、動力伝達経路32は、トルクコンバータ23、変速入力軸26、変速機構24、変速出力軸28、ギヤ列30、前輪出力軸31、フロントデファレンシャル機構20、フロントドライブ軸21、トランスファクラッチ25、後輪出力軸15、プロペラ軸16、リヤデファレンシャル機構17およびリヤドライブ軸18等によって構成されている。
【0012】
<トランスファクラッチ>
図2に示すように、変速出力軸28と後輪出力軸15との間には、前輪22と後輪19とのトルク分配比を制御するトランスファクラッチ(摩擦クラッチ)25が取り付けられている。つまり、変速出力軸28および後輪出力軸15によって構成される動力伝達経路32には、トランスファクラッチ25が取り付けられている。トランスファクラッチ25は、変速出力軸28に連結されるクラッチドラム40と、後輪出力軸15に連結されるクラッチハブ41と、を有している。また、トランスファクラッチ25は、クラッチドラム40に取り付けられる複数の摩擦プレート42と、クラッチハブ41に取り付けられる複数の摩擦プレート43と、を有している。さらに、トランスファクラッチ25は、摩擦プレート42,43に対向するピストン44を備えた電動アクチュエータ45を有している。電動アクチュエータ45のピストン44は、摩擦プレート42,43を押し込む締結位置と、摩擦プレート42,43から離れる解放位置と、に移動可能である。
【0013】
電動アクチュエータ45のピストン44を締結位置に移動させ、摩擦プレート42,43を互いに押し当てることにより、トランスファクラッチ25は締結状態に切り替えられる。一方、電動アクチュエータ45のピストン44を解放位置に移動させ、摩擦プレート42,43の押し当てを解除することにより、トランスファクラッチ25は解放状態に切り替えられる。また、締結位置と解放位置との間でピストン44の位置を調整することにより、摩擦プレート42,43を互いに滑らせながら接触させることができ、トランスファクラッチ25をスリップ状態に制御することができる。
【0014】
トランスファクラッチ25を締結状態に制御することにより、前輪22と後輪19との回転速度を互いに一致させることができ、前輪22と後輪19とのトルク分配比を「50:50」に制御することができる。また、トランスファクラッチ25を解放状態に制御することにより、後輪19に対するトルク伝達を遮断することができ、前輪22と後輪19とのトルク分配比を「100:0」に制御することができる。さらに、トランスファクラッチ25をスリップ状態に制御することにより、前輪22と後輪19とのトルク分配比を所範囲内で任意に調整することが可能である。なお、トランスファクラッチ25の締結力は、変速出力軸28からトランスファクラッチ25への入力トルク(以下、クラッチ入力トルクと記載する。)に基づき制御される。
【0015】
<運転支援システム>
続いて、運転支援システム50について説明する。以下の説明では、車両11を他車両と区別するため、車両11を自車両と記載することがある。図2に示すように、車両11は、自車両の後側方における他車両の存在を運転手に警告する運転支援システム50を有している。運転支援システム50は、自車両11の右側後方を走行する他車両等を検出するリヤレーダー51と、自車両11の左側後方を走行する他車両等を検出するリヤレーダー52と、を有している。また、運転支援システム50は、運転手に警告するためのインジケータ53a,54aを備えた左右のドアミラー53,54と、リヤレーダー51,52およびドアミラー53,54に接続される運転支援制御ユニット55と、を有している。
【0016】
図3は運転支援システム50によって監視される監視範囲の一例を示す図である。図3に示すように、自車両11の右側後方には、車体後部に搭載されたリヤレーダー51によって監視される監視範囲Raが設定されている。同様に、自車両11の左側後方には、車体後部に搭載されたリヤレーダー52によって監視される監視範囲Rbが設定されている。図示する例では、リヤレーダー51,52を用いて監視範囲Ra,Rbを監視しているが、これに限られることはなく、カメラ等を用いて監視範囲Ra,Rbを監視しても良い。
【0017】
運転支援制御ユニット55は、右側後方の監視範囲Raに他車両(移動体)Vaが入っている場合に、警戒走行状況であると判定して右側のドアミラー53に設けられたインジケータ53aを点灯させる。また、運転支援制御ユニット55は、左側後方の監視範囲Rbに他車両(移動体)Vbが入っている場合に、警戒走行状況であると判定して左側のドアミラー54に設けられたインジケータ54aを点灯させる。これにより、自車両11の後側方における他車両Va,Vbの存在を運転手に認識させることができ、自車両11の車線変更等による他車両Va,Vbとの接触を回避することができる。なお、運転支援制御ユニット55は、監視範囲Ra,Rbから他車両Va,Vbが外れた場合に、通常走行状況であると判定してドアミラー53,54のインジケータ53a,54aを消灯させる。
【0018】
<制御システム>
車両用駆動装置10は、パワーユニット14および運転支援システム50を制御するため、複数の電子制御ユニットからなる制御システム60を有している。制御システム60を構成する電子制御ユニットとして、前述した運転支援制御ユニット55の他に、ミッション制御ユニット61およびエンジン制御ユニット62がある。ミッション制御ユニット61は、油圧制御用のバルブボディ63およびクラッチ制御用の電動アクチュエータ45等に制御信号を出力する電子制御ユニットである。また、エンジン制御ユニット62は、スロットルバルブ64、インジェクタ65および点火デバイス66等に制御信号を出力する電子制御ユニットである。
【0019】
また、制御システム60を構成する電子制御ユニットとして、前述した各制御ユニット55,61,62に制御信号を出力する車両制御ユニット67がある。これらの制御ユニット55,61,62,67は、CAN(Controller Area Network)等の車載ネットワーク68を介して互いに通信可能に接続されている。車両制御ユニット67は、各種制御ユニットや後述する各種センサからの入力情報に基づき、パワーユニット14および運転支援システム50の作動目標を設定する。また、車両制御ユニット67は、パワーユニット14および運転支援システム50の作動目標に応じた制御信号を生成し、これらの制御信号をエンジン制御ユニット62、ミッション制御ユニット61および運転支援制御ユニット55等に出力する。
【0020】
車両制御ユニット67に接続されるセンサとして、アクセルペダルの操作状況を検出するアクセルセンサ70があり、ブレーキペダルの操作状況を検出するブレーキセンサ71がある。また、車両制御ユニット67に接続されるセンサとして、車両11の走行速度である車速を検出する車速センサ72があり、ステアリングホイール73の操作状況を検出する操舵角センサ74がある。また、車両制御ユニット67には、方向指示器75の操作レバー76に取り付けられるレバースイッチ77が接続されており、制御システム60の起動時および停止時に操作されるスタートスイッチ78が接続されている。さらに、車両制御ユニット67には方向指示器75が接続されており、車両制御ユニット67は操作レバー76の操作状況に基づいて方向指示器75に点灯信号を出力する。
【0021】
図4は制御ユニット55,61,62,67の基本構造の一例を示す図である。図4に示すように、電子制御ユニットである制御ユニット55,61,62,67は、プロセッサ80およびメインメモリ(メモリ)81等が組み込まれたマイクロコントローラ82を有している。メインメモリ81には所定のプログラムが格納されており、プロセッサ80によってプログラムが実行される。プロセッサ80とメインメモリ81とは、互いに通信可能に接続されている。なお、マイクロコントローラ82に複数のプロセッサ80を組み込んでも良く、マイクロコントローラ82に複数のメインメモリ81を組み込んでも良い。
【0022】
また、制御ユニット55,61,62,67は、入力回路83、駆動回路84、通信回路85、外部メモリ86および電源回路87を有している。入力回路83は、各種センサから入力される信号を、マイクロコントローラ82に入力可能な信号に変換する。駆動回路84は、マイクロコントローラ82から出力される信号に基づき、前述した電動アクチュエータ45等の各種デバイスに対する駆動信号を生成する。通信回路85は、マイクロコントローラ82から出力される信号を、他の制御ユニットに向けた通信信号に変換する。また、通信回路85は、他の制御ユニットから受信した通信信号を、マイクロコントローラ82に入力可能な信号に変換する。さらに、電源回路87は、マイクロコントローラ82、入力回路83、駆動回路84、通信回路85および外部メモリ86等に対し、安定した電源電圧を供給する。また、不揮発性メモリ等からなる外部メモリ86には、プログラムおよび各種データ等が記憶される。
【0023】
<運転支援制御>
続いて、他車両との接触を防止するために実行される運転支援制御について説明する。図5は運転支援制御の実行手順の一例を示すフローチャートである。図5に示される運転支援制御の各ステップは、制御システム60を構成するプロセッサ80によって実行されるステップである。また、図5に示される運転支援制御は、スタートスイッチ操作によって制御システム60が起動された後に、制御システム60によって所定周期毎に実行される制御である。
【0024】
図5に示すように、制御システム60は、ステップS10に進み、操舵角センサ74の出力信号に基づいて直進走行中であるか否かを判定する。ステップS10において、制御システム60は、ステアリングホイール73の操作角度が所定の閾値を下回る場合に、車両11が直進走行中であると判定する一方、ステアリングホイール73の操作角度が所定の閾値以上である場合に、車両11が直進走行中ではないと判定する。
【0025】
制御システム60は、ステップS10において直進走行中であると判定すると、ステップS11に進み、図3に示した監視範囲Ra,Rbに他車両Va,Vbが存在している警戒走行状況であるか否かを判定する。また、制御システム60は、ステップS11において警戒走行状況であると判定すると、ステップS12に進み、車速が所定の閾値を下回る低車速領域での走行であるか否かを判定する。さらに、制御システム60は、ステップS12において低車速領域であると判定すると、ステップS13に進み、右左折や車線変更に備えて方向指示器75が作動しているか否かを判定する。
【0026】
そして、制御システム60は、ステップS13において方向指示器75が作動していると判定した場合、つまりステップS10~S13の各条件が成立している場合に、ステップS14に進み、所定の警告マップに基づいてトランスファクラッチ25の締結力を制御する。一方、制御システム60は、ステップS10~S13に示される条件の少なくとも何れか1つが成立していない場合に、ステップS17に進み、所定の通常マップに基づいてトランスファクラッチ25の締結力を制御する。
【0027】
ここで、図6は通常マップの一例を示す図であり、図7は警告マップの一例を示す図である。また、図8は通常マップおよび警告マップに設定される目標締結力を比較する図である。図8には、図6および図7に示した車速V1における、クラッチ入力トルクと目標締結力との関係が示されている。
【0028】
図6に示すように、通常マップには、クラッチ入力トルクおよび車速に基づいて、トランスファクラッチ25の目標締結力が設定されている。この通常マップに設定される目標締結力は、クラッチ入力トルクが小さくなるほどに小さくなっており、車速が低くなるほどに小さくなっている。図7に示すように、警告マップには、クラッチ入力トルクおよび車速に基づいて、トランスファクラッチ25の目標締結力が設定されている。この警告マップに設定される目標締結力は、クラッチ入力トルクが小さくなるほどに小さくなっており、車速が低くなるほどに小さくなっている。なお、図示する通常マップおよび警告マップは一例であり、他のマップを使用しても良いことはいうまでもない。
【0029】
図8に示すように、制御システム60は、車速V1での走行中に通常マップを用いて目標締結力を設定する場合に、特性線L1に従って目標締結力を設定する。また、制御システム60は、車速V1での走行中に警告マップを用いて目標締結力を設定する場合に、特性線L2に従って目標締結力を設定する。つまり、通常マップが使用される状況のもとで、クラッチ入力トルクが「T1」である場合に、制御システム60は目標締結力として「F1」を設定する。また、警告マップが使用される状況のもとで、クラッチ入力トルクが「T1」である場合に、制御システム60は目標締結力として「F1」よりも大きな「F2」を設定する。すなわち、制御システム60は、警告マップに基づきトランスファクラッチ25を制御する場合に、通常マップに基づきトランスファクラッチ25を制御する場合よりも、トランスファクラッチ25の締結力を高めている。
【0030】
図5に示すように、制御システム60がステップS14に進んで警告マップを使用する状況とは、低車速領域での直進走行が行われている状況であり、自車両11の監視範囲内に他車両が存在している警戒走行状況であり、かつ右左折等に備えて方向指示器75が作動している状況である。このような走行状況のもとでは、通常マップに代えて警告マップを用いることにより、トランスファクラッチ25の締結力を増加させる。すなわち、トランスファクラッチ25の締結力を高めることにより、前輪22と後輪19との回転速度を互いに一致させる走行状態となる。換言すれば、トランスファクラッチ25の締結力を高めることにより、前輪22と後輪19との回転速度差の発生を制限することができる。
【0031】
これにより、運転手がドアミラー53,54のインジケータ53a,54aを見落とし、運転手がステアリングホイール73を操作し始めた場合であっても、内輪差および外輪差による所謂タイトコーナブレーキング現象を発生させることができ、運転手に対して違和感を与えて他車両の存在を認識させることができる。すなわち、運転者に違和感を与えてステアリング操作を止めさせることができるため、自車両11の右左折や車線変更による他車両との接触を回避することができ、車両走行時の安全性を高めることができる。
【0032】
ここで、図9は運転支援制御の実行状況の一例を示す図である。図9には交差点を左折する自車両11が示されている。図9に符号x1で示すように、自車両11が左折しようと交差点に差し掛かる状況とは、低車速領域での直進走行が行われている状況であり、かつ方向指示器75が作動している状況である。また、符号x1で示す状況においては、自車両11の左側後方に自転車(移動体)Baが存在する警戒走行状況であることから、警告マップを用いてトランスファクラッチ25の締結力が高められている。
【0033】
その後、図9の符号x2で示すように、運転手がステアリングホイール73を操作し始めた場合には、内輪差および外輪差によるタイトコーナブレーキング現象を発生させることができる。これにより、運転者に違和感を与えてステアリング操作を止めさせることができ、自車両11の左折による自転車Baとの接触を防止することができる。また、タイトコーナブレーキング現象を発生させることにより、自車両11の車速を低下させることができるため、この点からも安全性を高めることができる。しかも、運転手がステアリング操作を行うまでは、タイトコーナブレーキング現象によって自車両11が減速することはなく、この点からも安全性を高めることができる。また、リヤレーダー51,52およびトランスファクラッチ25は既存のデバイスであることから、コストを抑制しつつ車両走行時の安全性を高めることができる。
【0034】
前述の説明では、通常マップに代えて警告マップを用いることにより、トランスファクラッチ25の締結力を高めているが、これに限られることはない。例えば、直進走行中に警戒走行状況であると判定された場合に、通常マップから得られた目標締結力に所定係数を乗じることにより、トランスファクラッチ25の締結力を高めるようにしても良い。また、前述の説明では、直進走行中に警戒走行状況であると判定されると、トランスファクラッチ25の締結力を高めているが、この場合において、トランスファクラッチ25を滑らせないように完全に締結しても良い。これにより、タイトコーナブレーキング現象を強く発生させることができ、ステアリング操作を行う運転手に大きな違和感を与えることができる。
【0035】
また、警告マップによるトランスファクラッチ25の制御は、他車両との接触を回避する観点から、アクセルペダルの踏み込みが解除されるとともに、ブレーキペダルが大きく踏み込まれるまで継続される。つまり、図5に示すように、制御システム60は、ステップS15に進み、アクセルペダルの踏み込み量であるアクセル操作量が所定の閾値a1を下回るか否かを判定する。制御システム60は、ステップS15においてアクセル操作量が閾値a1を下回ると判定すると、ステップS16に進み、ブレーキペダルの踏み込み量であるブレーキ操作量が所定の閾値b1を上回るか否かを判定する。
【0036】
制御システム60は、ブレーキ操作量が閾値b1を上回ると判定すると、ステップS17に進み、通常マップを用いてトランスファクラッチ25の締結力を制御する。つまり、アクセルペダルの踏み込みが解除されるとともに、ブレーキペダルが大きく踏み込まれる状況であることから、警告マップから通常マップに代えてトランスファクラッチ25が制御される。一方、制御システム60は、ステップS15においてアクセル操作量が閾値a1以上である場合や、ステップS16においてブレーキ操作量が閾値b1以下である場合には、ステップS10に戻り、ステップS10以降の各ステップの判定結果に基づいて警告マップまたは通常マップを選択する。
【0037】
<他の実施形態>
図5に示した例では、ステップS10~S13の全条件が成立した場合に、警告マップを用いてトランスファクラッチ25を制御しているが、これに限られることはない。例えば、ステップS12において低車速領域であるか否かを判定することなく、警告マップを用いてトランスファクラッチ25を制御しても良い。つまり、方向指示器75が作動する直進走行中に警戒走行状況であると判定した場合に、通常走行状況であると判定した場合よりも、トランスファクラッチ25の締結力を高めても良い。すなわち、高車速領域での直進走行中であっても、警戒走行状況であると判定された場合には、トランスファクラッチ25の締結力を高めても良い。これにより、高車速領域での車線変更等においても、運転手に違和感を与えて他車両の存在を認識させることができる。
【0038】
また、ステップS13において方向指示器75が作動しているか否かを判定することなく、警告マップを用いてトランスファクラッチ25を制御しても良い。つまり、車速が閾値を下回る直進走行中に警戒走行状況であると判定した場合に、通常走行状況であると判定した場合よりも、トランスファクラッチ25の締結力を高めても良い。すなわち、方向指示器75が作動していない直進走行中であっても、警戒走行状況であると判定された場合には、トランスファクラッチ25の締結力を高めても良い。これにより、方向指示器75を作動させずにステアリング操作が行われる場合であっても、運転手に違和感を与えて他車両の存在を認識させることができる。
【0039】
さらに、ステップS12およびS13の条件を判定することなく、警告マップを用いてトランスファクラッチ25を制御しても良い。つまり、直進走行中に警戒走行状況であると判定した場合に、通常走行状況であると判定した場合よりも、トランスファクラッチ25の締結力を高めても良い。すなわち、高車速領域であって且つ方向指示器75が作動していない直進走行中であっても、警戒走行状況であると判定された場合には、トランスファクラッチ25の締結力を高めても良い。これにより、高速道路等において方向指示器75を作動させずに車線変更が行われる場合であっても、運転手に違和感を与えて他車両の存在を認識させることができる。
【0040】
本開示は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。前述の説明では、方向指示器75が作動しているか否かに基づいて、運転手による右左折や車線変更の兆候を判定しているが、これに限られることはない。例えば、赤外線カメラ等によって検出される運転手の視線情報に基づいて、運転手による右左折や車線変更の兆候があると判定し、トランスファクラッチ25の締結力を高めても良い。また、ナビゲーションシステムの地図情報やフロントカメラの画像情報に基づいて、交差点に近づいた場合には運転手による右左折の兆候があると判定し、トランスファクラッチ25の締結力を高めても良い。また、図3に示した例では、自車両11の側方および後方に監視範囲Ra,Rbを設定しているが、監視範囲としては図示する範囲に限られることはない。例えば、自車両11の前方に監視範囲を拡げて設定しても良い。
【0041】
前述の説明では、電動アクチュエータ45によってトランスファクラッチ25を制御しているが、これに限られることはなく、油圧駆動されるピストンによってトランスファクラッチ25を制御しても良い。また、前述の説明では、前輪22と後輪19とのトルク分配比を制御する摩擦クラッチとして、トランスファクラッチ25を用いているが、これに限られることはない。例えば、前輪22と後輪19とのトルク分配比を制御する摩擦クラッチとして、センタデファレンシャル機構に設けられる差動制限クラッチを用いても良い。
【0042】
また、第1駆動輪と第2駆動輪とのトルク分配比を制御する摩擦クラッチとして、右前輪(第1駆動輪)と左前輪(第2駆動輪)とのトルク分配比を制御する摩擦クラッチを用いても良い。この摩擦クラッチとして、フロントデファレンシャル機構20に設けられる差動制限クラッチを使用することができる。また、第1駆動輪と第2駆動輪とのトルク分配比を制御する摩擦クラッチとして、右後輪(第1駆動輪)と左後輪(第2駆動輪)とのトルク分配比を制御する摩擦クラッチを用いても良い。この摩擦クラッチとして、リヤデファレンシャル機構17に設けられる差動制限クラッチを使用することができる。このように、フロントデファレンシャル機構20やリヤデファレンシャル機構17の差動を制限する摩擦クラッチであっても、締結力を高めることでタイトコーナブレーキング現象を発生させることができる。
【符号の説明】
【0043】
10…車両用駆動装置、11…自車両、19…後輪(第2駆動輪)、22…前輪(第1駆動輪)、25…トランスファクラッチ(摩擦クラッチ)、32…動力伝達経路、60…制御システム、80…プロセッサ、81…メインメモリ(メモリ)、Ra,Rb…監視範囲、Va,Vb…他車両(移動体)、Ba…自転車(移動体)
図1
図2
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図6
図7
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図9