(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024157869
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】弾性波素子、弾性波フィルタ装置およびマルチプレクサ
(51)【国際特許分類】
H03H 9/145 20060101AFI20241031BHJP
H03H 9/25 20060101ALI20241031BHJP
H03H 9/72 20060101ALI20241031BHJP
H03H 9/64 20060101ALI20241031BHJP
【FI】
H03H9/145 Z
H03H9/25 C
H03H9/145 C
H03H9/72
H03H9/25 Z
H03H9/64 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023072493
(22)【出願日】2023-04-26
(71)【出願人】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100189430
【弁理士】
【氏名又は名称】吉川 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100190805
【弁理士】
【氏名又は名称】傍島 正朗
(72)【発明者】
【氏名】小中 陽平
【テーマコード(参考)】
5J097
【Fターム(参考)】
5J097AA01
5J097AA14
5J097BB02
5J097BB11
5J097BB15
5J097DD07
5J097DD16
5J097DD17
5J097DD28
5J097DD29
5J097EE08
5J097FF03
5J097FF04
5J097FF05
5J097GG01
5J097GG04
5J097HA02
5J097HA03
5J097KK03
5J097KK09
(57)【要約】
【課題】共振周波数よりも低周波側における反射損失の増加を抑制する。
【解決手段】弾性波素子10は、圧電体層100の両主面のそれぞれに形成されたIDT電極と、両主面のそれぞれに形成された複数の反射器と、を備える。IDT電極は、第1方向d1と交差する第2方向d2に延びるように配置された複数の電極指を有する。反射器は、第2方向d2に延びるように配置された複数の反射電極指を有する。第1方向d1に沿って配列された複数の電極指の配列ピッチをPiとし、第1方向d1に沿って配列された複数の反射電極指の配列ピッチをPrとし、複数の電極指のうち反射器に最近接する電極指の中心と複数の反射電極指のうちIDT電極に最近接する反射電極指の中心との第1方向d1における距離であるIDT-反射器ギャップをGとした場合に、圧電体層100の厚みは、Piの2倍以下であり、G<Pr、および、Pr>Piで示される関係を有する。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電体層と、
前記圧電体層の両主面のそれぞれに形成されたIDT電極と、
前記両主面のそれぞれに形成された複数の反射器と、
を備える弾性波素子であって、
前記IDT電極は、対向する一対の櫛歯状電極を有し、
前記一対の櫛歯状電極を構成する各々の櫛歯状電極は、前記圧電体層の主面に沿う方向において第1方向と交差する第2方向に延びるように配置された複数の電極指と、前記複数の電極指のそれぞれの一端同士を接続するバスバー電極と、を有し、
前記複数の反射器は、前記第1方向において前記IDT電極の両外側に配置され、前記第2方向に延びるように配置された複数の反射電極指を有し、
前記第1方向に沿って配列された前記複数の電極指の配列ピッチをPiとし、
前記第1方向に沿って配列された前記複数の反射電極指の配列ピッチをPrとし、
前記複数の電極指のうち前記反射器に最近接する電極指の中心と前記複数の反射電極指のうち前記IDT電極に最近接する反射電極指の中心との前記第1方向における距離であるIDT-反射器ギャップをGとした場合に、
前記圧電体層の厚みは、Piの2倍以下であり、
G<Pr、および、Pr>Piで示される関係を有する
弾性波素子。
【請求項2】
G/Prは、0.55以上0.88以下である
請求項1に記載の弾性波素子。
【請求項3】
前記圧電体層は、前記両主面の一方である第1主面、および、他方である第2主面を有し、
前記圧電体層の両主面のそれぞれに形成されたIDT電極は、前記第1主面に形成された第1のIDT電極、および、前記第2主面に形成された第2のIDT電極によって構成され、
前記複数の反射器は、前記第1方向において前記第1のIDT電極の両外側に配置された複数の第1の反射器、および、前記第1方向において前記第2のIDT電極の両外側に配置された複数の第2の反射器によって構成され、
前記第1のIDT電極に含まれる一方の櫛歯状電極と前記第2のIDT電極に含まれる一方の櫛歯状電極とは、電気的に接続され、
前記第1のIDT電極に含まれる他方の櫛歯状電極と前記第2のIDT電極に含まれる他方の櫛歯状電極とは、電気的に接続されている
請求項1に記載の弾性波素子。
【請求項4】
さらに、
前記圧電体層を伝搬する弾性波音速よりも、伝搬するバルク波音速が高速である高音速支持基板と、
前記高音速支持基板と前記圧電体層との間に配置され、前記圧電体層を伝搬する弾性波音速よりも、伝搬するバルク波音速が低速である低音速層と、
を備え、
前記低音速層は、前記第2のIDT電極を覆うように前記第2主面に設けられている
請求項3に記載の弾性波素子。
【請求項5】
さらに、前記第1のIDT電極を覆うように前記第1主面に設けられた保護膜を備える
請求項4に記載の弾性波素子。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の弾性波素子を含む
弾性波フィルタ装置。
【請求項7】
請求項6に記載の弾性波フィルタ装置を含む複数のフィルタを備え、
前記複数のフィルタのそれぞれの入出力端子および入出力端子の一方は、共通端子に直接的または間接的に接続され、
前記弾性波フィルタ装置を除く前記複数のフィルタの少なくとも1つは、前記弾性波フィルタ装置の通過帯域の周波数より低い通過帯域を有する
マルチプレクサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性波素子、弾性波フィルタ装置およびマルチプレクサに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話のデータ伝送速度を向上させるために、マルチバンドシステムが用いられている。その際、複数の周波数帯域の送受信を行う場合があるため、携帯電話のフロントエンド回路には、異なる周波数帯域の高周波信号を通過させる複数のフィルタ装置が配置される。この場合、上記複数のフィルタ装置には、隣接バンドとの高アイソレーションおよび通過帯域の低損失性が要求される。
【0003】
特許文献1には、圧電層内の構造の一部内に音響波が閉じ込められる導波デバイスが開示され、導波デバイスの一例として、圧電層と、圧電層の上側表面に形成されるIDT電極と、下側表面に形成されるIDT電極と、を備える弾性波共振子が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載された弾性波共振子では、IDT電極内の反射が大きくなるため、弾性表面波共振子の共振周波数よりも低周波側で発生するスプリアスの影響で、通過特性が劣化するという問題がある。
【0006】
そこで、本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、弾性波共振子の共振周波数よりも低周波側における反射損失の増加を抑制できる弾性波素子、弾性波フィルタ装置およびマルチプレクサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明の一態様に係る弾性波素子は、圧電体層と、前記圧電体層の両主面のそれぞれに形成されたIDT電極と、前記両主面のそれぞれに形成された複数の反射器と、を備える弾性波素子であって、前記IDT電極は、対向する一対の櫛歯状電極を有し、前記一対の櫛歯状電極を構成する各々の櫛歯状電極は、前記圧電体層の主面に沿う方向において第1方向と交差する第2方向に延びるように配置された複数の電極指と、前記複数の電極指のそれぞれの一端同士を接続するバスバー電極と、を有し、前記複数の反射器は、前記第1方向において前記IDT電極の両外側に配置され、前記第2方向に延びるように配置された複数の反射電極指を有し、前記第1方向に沿って配列された前記複数の電極指の配列ピッチをPiとし、前記第1方向に沿って配列された前記複数の反射電極指の配列ピッチをPrとし、前記複数の電極指のうち前記反射器に最近接する電極指の中心と前記複数の反射電極指のうち前記IDT電極に最近接する反射電極指の中心との前記第1方向における距離であるIDT-反射器ギャップをGとした場合に、前記圧電体層の厚みは、Piの2倍以下であり、G<Pr、および、Pr>Piで示される関係を有する弾性波素子。
【0008】
上記目的を達成するために、本発明の一態様に係る弾性波フィルタ装置は、上記の弾性波素子を含む。
【0009】
上記目的を達成するために、本発明の一態様に係るマルチプレクサは、上記の弾性波フィルタ装置を含む複数のフィルタを備え、前記複数のフィルタのそれぞれの入出力端子および入出力端子の一方は、共通端子に直接的または間接的に接続され、前記弾性波フィルタ装置を除く前記複数のフィルタの少なくとも1つは、前記弾性波フィルタ装置の通過帯域の周波数より低い通過帯域を有する。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る弾性波素子、弾性波フィルタ装置およびマルチプレクサによれば、弾性波素子の共振周波数よりも低周波側における反射損失の増加を抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1A】実施の形態1に係る弾性波素子の第1のIDT電極および第1の反射器を上から見た図である。
【
図1B】実施の形態1に係る弾性波素子の第2のIDT電極および第2の反射器を上から見た図である。
【
図2】
図1Aおよび
図1Bに示す弾性波素子のII-II線における断面の拡大図である。
【
図3】
図1Aおよび
図1Bに示す弾性波素子のIII-III線における断面の拡大図である。
【
図4】弾性波素子におけるIDT波長、反射器波長およびIDT-反射器ギャップを示す図である。
【
図5】実施例1および比較例の弾性波素子のインピーダンス特性を示すグラフである。
【
図6】実施例1および比較例の弾性波素子の反射特性を示すグラフである。
【
図7】実施例1、2および3の弾性波素子のインピーダンス特性を示すグラフである。
【
図8】実施例1、2および3の弾性波素子の反射特性を示すグラフである。
【
図9】実施例1、4および5の弾性波素子のインピーダンス特性を示すグラフである。
【
図10】実施例1、4および5の弾性波素子の反射特性を示すグラフである。
【
図11】IDT-反射器ギャップ/反射器波長を変化させた場合の弾性波素子の反射特性を示すグラフである。
【
図12】反射器波長/IDT波長を変化させた場合の弾性波素子の反射特性を示すグラフである。
【
図13】反射器波長/IDT波長を変化させた場合の弾性波素子の反射特性を示すグラフである。
【
図14】IDT-反射器ギャップ/反射器波長と反射器波長/IDT波長とを変化させた場合の弾性波素子の反射特性を示すグラフである。
【
図15】スプリアスが改善されるバンド幅の範囲を示す図である。
【
図16】IDT-反射器ギャップ/反射器波長と、反射損失の抑制領域のバンド幅との関係を示すグラフである。
【
図17】実施の形態2に係る弾性波フィルタ装置の回路構成を示す図である。
【
図18】実施の形態3に係るマルチプレクサおよびその周辺回路の回路構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について図表を用いて詳細に説明する。なお、以下で説明する実施例は、いずれも包括的または具体的な例を示すものである。以下の実施例で示される数値、形状、材料、構成要素、構成要素の配置および接続形態などは、一例であり、本発明を限定する主旨ではない。以下の実施例における構成要素のうち、独立請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素として説明される。また、図面に示される構成要素の大きさまたは大きさの比は、必ずしも厳密ではない。
【0013】
(実施の形態1)
[弾性表面波共振子の構造]
本実施の形態に係る弾性波素子10の構造について説明する。
【0014】
図1Aは、実施の形態1に係る弾性波素子10の第1のIDT電極11および第1の反射器31を上から見た図である。
図1Bは、弾性波素子10の第2のIDT電極22および第2の反射器42を上から見た図である。
図2は、
図1Aおよび
図1Bに示す弾性波素子10のII-II線における断面の拡大図である。
【0015】
図1A、
図1Bおよび
図2に示す弾性波素子10は、圧電体層100と、複数のIDT(InterDigital Transducer)電極と、複数の反射器と、を備える1ポートの弾性表面波(SAW:Surface Acoustic Wave)共振子である。
【0016】
図2に示す圧電体層100は、例えば、θ°YカットX伝搬LiNbO
3圧電単結晶または圧電セラミックス(X軸を中心軸としてY軸からZ軸方向にθ°回転した軸を法線とする面で切断したニオブ酸リチウム単結晶またはセラミックスであって、X軸方向に弾性表面波が伝搬する単結晶またはセラミックス)からなる。
【0017】
圧電体層100は、一方の第1主面100aおよび他方の第2主面100bを有している。圧電体層100の両主面である第1主面100aおよび第2主面100bは、互いに背向している。圧電体層100の厚みは、後述するIDT波長(λIDT)以下の寸法である。
【0018】
複数のIDT電極は、第1のIDT電極11および第2のIDT電極22によって構成されている。第1のIDT電極11は、圧電体層100の第1主面100aに形成され、第2のIDT電極22は、圧電体層100の第2主面100bに形成されている。つまりIDT電極は、圧電体層100の両主面のそれぞれに形成されている。
【0019】
複数の反射器は、複数の第1の反射器31および複数の第2の反射器42によって構成されている。複数の第1の反射器31は、圧電体層100の第1主面100aに形成され、複数の第2の反射器42は、圧電体層100の第2主面100bに形成されている。この例では2つの反射器が、圧電体層100の両主面のそれぞれに形成されている。
【0020】
図1Aおよび
図1Bのそれぞれには、圧電体層100の主面に垂直な方向からIDT電極および反射器を見た透視図が示されている。
図1Aに示すように、第1の反射器31の電極は、弾性波伝搬方向である第1方向d1において第1のIDT電極11の両外側に配置されている。
図1Bに示すように、第2の反射器42の電極は、第1方向d1において第2のIDT電極22の両外側に配置されている。
【0021】
図2に示すように、弾性波素子10は、圧電体層100と、IDT電極および反射器電極を構成する電極層110aおよび110bと、を含む構成で形成されている。
【0022】
電極層110a、110bは、複数の金属が積層された積層構造によって形成されている。例えば、第1のIDT電極11および第1の反射器31の電極を構成する電極層110aは、Ti、AlCu(例えばCuを1%含有したAl)、Tiがこの順で積層された積層構造を有している。第2のIDT電極22および第2の反射器42の電極を構成する電極層110bは、Ti、Pt、Tiがこの順で積層された積層構造を有している。この例では、電極層110bの厚みは、電極層110aの厚みよりも薄くなっている。また、電極層110bの密度は、電極層110aの密度よりも高くなっている。
【0023】
なお、電極層110a、110bを構成する材料は、上述した材料に限定されない。また、電極層110a、110bは、上記積層構造でなくてもよい。電極層110a、110bは、例えば、Ti、Al、Cu、Pt、Au、Ag、Pdなどの金属または合金から構成されてもよく、また、上記の金属または合金から構成される複数の積層体から構成されてもよい。なお、電極層110a、110bに含まれるTiは、他の層との密着性を向上させる機能を有している。
【0024】
また、弾性波素子10は、第1主面100a側に設けられた保護膜113と、第2主面100b側に設けられた低音速層153および高音速支持基板155と、を含む構成を有している。
【0025】
保護膜113は、電極層110aを覆うように圧電体層100の第1主面100a上に形成されている。保護膜113は、電極層110aを外部環境から保護する、周波数温度特性を調整する、および、耐湿性を高めるなどを目的とする層であり、例えば、二酸化ケイ素(SiO2)を主成分とする膜である。なお、保護膜113は、必ずしも形成されていなくてもよい。
【0026】
低音速層153は、電極層110bを覆うように圧電体層100の第2主面100b上に形成されている。第2のIDT電極22および第2の反射器42の電極を構成する電極層110bは、低音速層153に埋め込まれている。低音速層153は、圧電体層100を伝搬する弾性波の音速よりも、低音速層153中のバルク波の音速が低速となる膜であり、圧電体層100と高音速支持基板155との間に配置される。この構造と、弾性波が本質的に低音速な媒質にエネルギーが集中するという性質とにより、弾性表面波エネルギーのIDT電極外への漏れが抑制される。低音速層153は、例えば、二酸化ケイ素(SiO2)を主成分とする膜である。
【0027】
低音速層153の材料としては、例えば、ガラス、酸化ケイ素、酸窒化ケイ素、酸化リチウム、酸化タンタル、もしくは酸化ケイ素にフッ素、炭素やホウ素を加えた化合物などの誘電体、または上記材料を主成分とする材料を用いることもできる。
【0028】
高音速支持基板155は、低音速層153、圧電体層100ならびに電極層110aおよび110bを支持する基板である。高音速支持基板155は、圧電体層100を伝搬する表面波や境界波の弾性波よりも、高音速支持基板155中のバルク波の音速が高速となる基板であり、弾性表面波を圧電体層100および低音速層153が積層されている部分に閉じ込め、高音速支持基板155より下方に漏れないように機能する。高音速支持基板155は、例えば、シリコン基板である。
【0029】
高音速支持基板155の材料としては、例えば、窒化アルミニウム、タンタル酸リチウム、ニオブ酸リチウム、水晶などの圧電体、アルミナ、サファイア、マグネシア、窒化ケイ素、炭化ケイ素、ジルコニア、コージライト、ムライト、ステアタイト、フォルステライト、スピネル、サイアロンなどのセラミック、酸化アルミニウム、酸窒化ケイ素、DLC(ダイヤモンドライクカーボン)、ダイヤモンドなどの誘電体、もしくはシリコンなどの半導体、または上記材料を主成分とする材料を用いることもできる。なお、上記スピネルには、Mg、Fe、Zn、Mnなどから選ばれる1以上の元素と酸素とを含有するアルミニウム化合物が含まれる。上記スピネルの例としては、MgAl2O4、FeAl2O4、ZnAl2O4、MnAl2O4を挙げることができる。
【0030】
なお、高音速支持基板155は、支持基板と、圧電体層100を伝搬する表面波や境界波の弾性波よりも伝搬するバルク波の音速が高速となる高音速層と、が積層された構造を有していてもよい。
【0031】
この場合、支持基板の材料としては、例えば、窒化アルミニウム、タンタル酸リチウム、ニオブ酸リチウム、水晶などの圧電体、アルミナ、サファイア、マグネシア、窒化ケイ素、炭化ケイ素、ジルコニア、コージライト、ムライト、ステアタイト、フォルステライトなどのセラミック、ダイヤモンド、ガラスなどの誘電体、シリコン、窒化ガリウムなどの半導体、もしくは樹脂、または上記材料を主成分とする材料を用いることができる。また、高音速層は、窒化アルミニウム、酸化アルミニウム、炭化ケイ素、窒化ケイ素、酸窒化ケイ素、DLC膜またはダイヤモンド、上記材料を主成分とする媒質、上記材料の混合物を主成分とする媒質等、様々な高音速材料を用いることができる。
【0032】
圧電体層100の上記積層構造によれば、圧電体層を単層で使用している構造と比較して、共振周波数および反共振周波数における弾性波共振子のQ値を大幅に高めることが可能となる。すなわち、Q値が高い弾性表面波共振子を構成し得るので、当該弾性表面波共振子を用いて、挿入損失が小さいフィルタを構成することが可能となる。
【0033】
また、第2のIDT電極22が低音速層153に埋め込まれていることで、圧電体層100は、弾性波が励振される部分においても低音速層153により支持されることとなり、圧電体層100の形状が変形し難く、電気的特性の変動を抑制することができる。また、第2のIDT電極22が低音速層153に埋め込まれていることで、高次モードを低音速層153側に漏洩させることができる。これにより、高次モードの発生を抑制することができる。
【0034】
図1Aに示すように、第1のIDT電極11は、互いに対向する一対の櫛歯状電極11Aおよび11Bを有している。一方の櫛歯状電極11Aは、圧電体層100の主面に沿う方向において第1方向d1と交差する第2方向d2に延びるように配置された複数の電極指11aと、複数の電極指11aのそれぞれの一端同士を接続するバスバー電極11cと、で構成されている。他方の櫛歯状電極11Bは、第2方向d2に延びるように配置された複数の電極指11bと、複数の電極指11bのそれぞれの一端同士を接続するバスバー電極11cと、で構成されている。複数の電極指11a、11bは、第1方向d1に沿って所定のピッチで配列されている。
【0035】
第1の反射器31は、第1のIDT電極11と第1方向d1に隣り合って配置されている。第1の反射器31は、第2方向d2に延びるように配置された複数の反射電極指31aと、複数の反射電極指31aの一端同士を接続するバスバー電極31cと、で構成されている。複数の反射電極指31aは、第1方向d1に沿って所定のピッチで配列されている。
【0036】
第2のIDT電極22および第2の反射器42も、第1のIDT電極11および第1の反射器31と同様の構成を有している。
【0037】
図1Bに示すように、第2のIDT電極22は、互いに対向する一対の櫛歯状電極22Aおよび22Bを有している。一方の櫛歯状電極22Aは、第2方向d2に延びるように配置された複数の電極指22aと、複数の電極指22aのそれぞれの一端同士を接続するバスバー電極22cと、で構成されている。他方の櫛歯状電極22Bは、第2方向d2に延びるように配置された複数の電極指22bと、複数の電極指22bのそれぞれの一端同士を接続するバスバー電極22cと、で構成されている。複数の電極指22a、22bは、第1方向d1に沿って所定のピッチで配列されている。
【0038】
第2の反射器42は、第2のIDT電極22と第1方向d1に隣り合って配置されている。第2の反射器42は、第2方向d2に延びるように配置された複数の反射電極指42aと、複数の反射電極指42aの一端同士を接続するバスバー電極42cと、で構成されている。複数の反射電極指42aは、第1方向d1に沿って所定のピッチで配列されている。
【0039】
なお、圧電体層100を挟むように上下に配置されている電極指11aと22aとは同じ極性を有し、上下の電極指11bと22bとは同じ極性を有している。
【0040】
図3は、
図1Aおよび
図1Bに示す弾性波素子10のIII-III線における断面の拡大図である。
【0041】
図3に示すように、弾性波素子10の第1のIDT電極11および第2のIDT電極22は、互いに接続されている。
【0042】
例えば、第1のIDT電極11に含まれる一方の櫛歯状電極11Aと第2のIDT電極22に含まれる一方の櫛歯状電極22Aとは、電気的に接続されている。具体的には、一方の櫛歯状電極11Aのバスバー電極11cと他方の櫛歯状電極22Aのバスバー電極22cとは、圧電体層100を厚み方向に貫通する一方の貫通導体130Aによって接続されている。
【0043】
また、第1のIDT電極11に含まれる他方の櫛歯状電極11Bと第2のIDT電極22に含まれる他方の櫛歯状電極22Bとは、電気的に接続されている。具体的には、他方の櫛歯状電極11Bのバスバー電極11cと他方の櫛歯状電極22Bのバスバー電極22cとは、圧電体層100を厚み方向に貫通する他方の貫通導体130Bによって接続されている。
【0044】
なお、圧電体層100を挟むように上下に配置されている2つの櫛歯状電極は、バスバー電極が設けられている箇所で電気的に接続されてもよいし、バスバー電極につながるそれぞれの引き出し配線の箇所で電気的に接続されてもよい。また、圧電体層100を挟むように上下に配置されている第1の反射器31および第2の反射器42は、貫通導体等で接続されていないが、ともに基準電位(グランド)に設定されていてもよい。
【0045】
図4は、弾性波素子10におけるIDT波長、反射器波長およびIDT-反射器ギャップを示す図である。
【0046】
図4において、一方の櫛歯状電極11Aを構成する複数の電極指11aの繰り返しピッチ、および、他方の櫛歯状電極11Bを構成する複数の電極指11bの繰り返しピッチのそれぞれを、IDT波長(λ
I1)と定義する。
【0047】
また、一方の櫛歯状電極22Aを構成する複数の電極指22aの繰り返しピッチ、および、他方の櫛歯状電極22Bを構成する複数の電極指22bの繰り返しピッチのそれぞれを、IDT波長(λI2)と定義する。
【0048】
本実施の形態では、λI1=λI2=λIDTであるので、以下においてλI1およびλI2のそれぞれを指してIDT波長(λIDT)と呼ぶ。
【0049】
また、第1の反射器31を構成する複数の反射電極指31aの繰り返しピッチの2倍を反射器波長(λR1)と定義する。
【0050】
また、第2の反射器42を構成する複数の反射電極指42aの繰り返しピッチの2倍を反射器波長(λR2)と定義する。
【0051】
なお、以下においてλR1=λR2である場合は、λR1およびλR2のそれぞれを指して反射器波長(λREF)と呼ぶ。
【0052】
また、複数の電極指11aのうち第1の反射器31に最近接する電極指の中心と、複数の反射電極指31aのうち第1のIDT電極11に最近接する反射電極指の中心との第1方向d1における距離であるIDT-反射器ギャップを、G1と定義する。
【0053】
また、複数の電極指22aのうち第2の反射器42に最近接する電極指の中心と、複数の反射電極指42aのうち第2のIDT電極22に最近接する反射電極指の中心との第1方向d1における距離であるIDT-反射器ギャップを、G2と定義する。
【0054】
なお、以下においてG1=G2である場合は、G1およびG2のそれぞれを指してIDT-反射器ギャップGと呼ぶ。
【0055】
上記の定義の下、本実施の形態の弾性波素子10は、圧電体層100の厚みがIDT波長(λIDT)以下であり、IDT-反射器ギャップGは反射器波長(λREF)の0.5倍よりも小さく、かつ、反射器波長(λREF)はIDT波長(λIDT)よりも大きい、という関係を有する。
【0056】
弾性波素子10が上記の関係を有することで、弾性波素子10の共振周波数よりも低周波側における反射損失の増加を抑制することが可能となる。
【0057】
なお、上記の波長の関係を、波長の1/2である配列ピッチを用いて言い換えると以下に示す通りとなる。
【0058】
図4において、第1方向d1に沿って配列された複数の電極指11a、11bの配列ピッチをPi1とし、複数の電極指22a、22bの配列ピッチをPi2とする。本実施の形態では、Pi1=Pi2であるので、以下においてPi1およびPi2のそれぞれを指して配列ピッチPiと呼ぶ。
【0059】
また、第1方向d1に沿って配列された複数の反射電極指31aの配列ピッチをPr1とし、複数の反射電極指42aの配列ピッチをPr2とする。なお、以下においてPr1=Pr2である場合は、Pr1およびPr2のそれぞれを指して配列ピッチPrと呼ぶ。
【0060】
上記の定義の下、本実施の形態の弾性波素子10は、圧電体層100の厚みが配列ピッチPiの2倍以下であり、IDT-反射器ギャップGは配列ピッチPrよりも小さく(G<Pr)、かつ、配列ピッチPrは配列ピッチPiよりも大きい(Pr>Pi)、という関係を有する。
【0061】
弾性波素子10が上記の関係を有することで、弾性波素子10の共振周波数よりも低周波側における反射損失の増加を抑制することが可能となる。以下、弾性波素子の反射特性等について説明する。
【0062】
[実施例1および比較例の弾性波素子の反射特性等]
実施の形態の一例である実施例1の弾性波素子、および、比較例の弾性波素子について説明する。
【0063】
実施例1の弾性波素子10は、圧電体層100と、第1のIDT電極11と、第1の反射器31と、第2のIDT電極22と、第2の反射器42と、保護膜113と、低音速層153と、高音速支持基板155と、を備えている。比較例の弾性波素子も同様である。
【0064】
実施例1の弾性波素子10において、圧電体層100の主面に垂直な方向から見た場合、第1のIDT電極11および第2のIDT電極22は同じ位置に配置され、第1の反射器31および第2の反射器42は同じ位置に配置されている。言い換えると、第1方向d1および第2方向d2の両方に直交する第3方向d3から見た場合、第1のIDT電極11および第2のIDT電極22は互いに重なっており、第1の反射器31および第2の反射器42は互いに重なっている。比較例の弾性波素子も同様である。
【0065】
実施例1の弾性波素子10において、圧電体層100はLiTaO3によって形成されており、圧電体層100の厚みは0.2λIDTである。第1のIDT電極11はTi、AlCu、Tiの積層構造によって形成されており、それぞれの厚みは、0.002λIDT、0.07λIDT、0.006λIDTである。第2のIDT電極22はTi、Pt、Tiの積層構造によって形成されており、それぞれの厚みは、0.003λIDT、0.013λIDT、0.002λIDTである。保護膜113は、SiO2によって形成されており、保護膜113の厚みは0.015λIDTである。低音速層153は、SiO2によって形成されており、低音速層153の厚みは0.218λIDTである。なお、低音速層153の厚みは、第2のIDT電極22の電極指22a、22bが設けられていない箇所、すなわち第2主面100bに当接している箇所における厚みである。高音速支持基板155は、Si基板と、Si基板上に設けられたSiNと、によって形成されている。高音速支持基板155の厚みは0.45λIDTである。比較例の弾性波素子も同様である。
【0066】
表1に、実施例1および比較例の弾性波素子の電極パラメータを示す。
【0067】
【0068】
表1に示すように、比較例の弾性波素子では、IDT-反射器ギャップGは、反射器波長(λREF)の0.5倍であるのに対して、実施例1に係る弾性波素子では、IDT-反射器ギャップGは、反射器波長(λREF)の0.4倍である。さらに、比較例の弾性波素子では、反射器波長(λREF)はIDT波長(λIDT)と等しいのに対して、実施例1に係る弾性波素子では、反射器波長(λREF)はIDT波長(λIDT)の1.06倍となっている。つまり実施例1では、IDT-反射器ギャップGが反射器波長(λREF)の0.4倍であり、反射器波長(λREF)はIDT波長(λIDT)よりも大きい。
【0069】
図5は、実施例1および比較例の弾性波素子のインピーダンス特性を示すグラフである。
図6は、実施例1および比較例の弾性波素子の反射特性を示すグラフである。
【0070】
図6の(a)には、弾性波素子の一方の櫛歯状電極(のバスバー電極)からIDT電極に高周波信号を入力した場合の反射損失が示されている。なお、この場合、他方の櫛歯状電極は、短絡された状態となっている。
図6の(b)には、弾性波共振子の共振周波数frよりも低周波側の帯域の特性が拡大して示され、
図6の(c)には、弾性波共振子の共振周波数frよりも高周波側の帯域の特性が拡大して示されている。
【0071】
図5に示すように、実施例1および比較例のインピーダンス特性は、ほぼ同じである。一方で、
図6の(b)に示す反射特性に着目すると、実施例1の弾性波素子10は、比較例の弾性波素子に比べて、共振周波数frよりも低周波側において反射損失が低減されている。
【0072】
より詳しく説明すると、実施例1では、IDT-反射器ギャップGを反射器波長(λREF)の0.4倍以下とすることで、反射器31、42によるストップバンドの低周波端付近に、IDT電極11と反射器31との境界およびIDT電極22と反射器42との境界における反射に起因したスプリアスを発生させる。なお、本明細書において、「ストップバンド」とは、弾性波が周期構造の金属グレーティングに閉じ込められることにより、弾性波の波長が一定となる領域と定義される。
【0073】
このスプリアスを発生させた状態で、反射器波長(λ
REF)をIDT波長(λ
IDT)よりも大きくして当該スプリアスの発生周波数を低周波側へシフトさせることにより、弾性波共振子の共振周波数frよりも低周波側の領域(
図6の領域b)における反射器31、42の応答特性(反射損失リップル)を、当該スプリアスで打ち消すことが可能となる。
【0074】
これにより、実施例1に係る弾性波素子10は、比較例の弾性波素子と比べて、上記領域bにおける反射損失を低減できる。また、実施例1に係る弾性波素子10では、弾性波共振子の反共振周波数faよりも高周波側の領域(
図6の領域c)における反射損失の劣化も抑制できる。
【0075】
また、実施例1の弾性波素子では、表1に示すように、IDT電極11、22のそれぞれの電極指対数が通常(例えば100対)よりも少ない80対としており、IDT電極11、22の電極指対数を少なくしても、弾性波共振子の共振周波数frよりも低周波側における反射損失の劣化を抑制できる。また、実施例1では圧電体層100の厚みがIDT波長(λIDT)以下であるため、すなわち圧電体層100の厚みが配列ピッチPiの2倍以下であるため、高次モードの発生を抑制することができる。
【0076】
[実施例2および3の弾性波素子の反射特性等]
実施例2および3では、圧電体層100の上側と下側とでIDT-反射器ギャップを変えた例について説明する。
【0077】
実施例2および3の弾性波素子10も、圧電体層100と、第1のIDT電極11と、第1の反射器31と、第2のIDT電極22と、第2の反射器42と、保護膜113と、低音速層153と、高音速支持基板155と、を備えている。
【0078】
実施例2および3の弾性波素子10では、圧電体層100の主面に垂直な方向から見た場合、第1のIDT電極11および第2のIDT電極22は同じ位置に配置され、第1の反射器31および第2の反射器42は異なる位置に配置されている。言い換えると、第3方向d3から見た場合、第1のIDT電極11および第2のIDT電極22は互いに重なっており、第1の反射器31および第2の反射器42は完全に重なっておらす、少しずれている。
【0079】
実施例2および3の弾性波素子10において、各層の材質および厚みは、実施例1と同様である。
【0080】
実施例2および3は、以下に示す点で、実施例1と異なっている。表2に、実施例2および3の弾性波素子の電極パラメータを示す。
【0081】
【0082】
表2に示すように、実施例2に係る弾性波素子では、IDT-反射器ギャップG1は、反射器波長(λR1)の0.41倍であり、IDT-反射器ギャップG2は、反射器波長(λR2)の0.40倍である。すなわち実施例2は、G1>G2となっている。
【0083】
また、実施例3に係る弾性波素子では、IDT-反射器ギャップG1は、反射器波長(λR1)の0.40倍であり、IDT-反射器ギャップG2は、反射器波長(λR2)の0.41倍である。すなわち実施例3は、G1<G2となっている。
【0084】
また、実施例2および3に係る弾性波素子では、反射器波長(λR1)はIDT波長(λIDT)の1.05倍であり、反射器波長(λR2)もIDT波長(λIDT)の1.05倍である。すなわち実施例2および3は、λR1=λR2となっている。
【0085】
図7は、実施例1、2および3の弾性波素子のインピーダンス特性を示すグラフである。
図8は、実施例1、2および3の弾性波素子の反射特性を示すグラフである。
【0086】
図7に示すように、実施例1、2および3のインピーダンス特性は、ほぼ同じである。また、
図8に示すように、実施例1、2および3の反射特性は、ほぼ同じである。具体的には、実施例2のようにG1/λ
R1がG2/λ
R2よりも0.01大きくても、反射特性は実施例1とほぼ同じになる。実施例3のようにG2/λ
R2がG1/λ
R1よりも0.01大きくても、反射特性は実施例1とほぼ同じになる。このように、圧電体層100の上側と下側とでIDT-反射器ギャップG1とIDT-反射器ギャップG2とを異ならせても、共振周波数frよりも低周波側の反射損失を低減することができるので、設計の自由度を上げることができる。
【0087】
実施例2および3の弾性波素子10は、圧電体層100の厚みがIDT波長(λIDT)以下であり、IDT-反射器ギャップG1は反射器波長(λR1)の0.5倍よりも小さく、IDT-反射器ギャップG2は反射器波長(λR2)の0.5倍よりも小さく、かつ、反射器波長(λR1)および反射器波長(λR2)のそれぞれはIDT波長(λIDT)よりも大きい、という関係を有する。
【0088】
言い換えると、実施例2および3の弾性波素子10は、圧電体層100の厚みが配列ピッチPiの2倍以下であり、IDT-反射器ギャップG1は配列ピッチPr1よりも小さく(G1<Pr1)、IDT-反射器ギャップG2は配列ピッチPr2よりも小さく(G2<Pr2)、かつ、配列ピッチPr1およびPr2のそれぞれは配列ピッチPiよりも大きい(Pr1>Pi、Pr2>Pi)、という関係を有する。
【0089】
実施例2および3に係る弾性波素子10は、実施例1の弾性波素子と同様に、共振周波数frよりも低周波側における反射損失を低減できる。
【0090】
[実施例4および5の弾性波素子の反射特性等]
実施例4および5では、圧電体層100の上側と下側とで反射器波長を変えた例について説明する。
【0091】
実施例4および5の弾性波素子10も、圧電体層100と、第1のIDT電極11と、第1の反射器31と、第2のIDT電極22と、第2の反射器42と、保護膜113と、低音速層153と、高音速支持基板155と、を備えている。
【0092】
実施例4および5の弾性波素子10では、圧電体層100の主面に垂直な方向から見た場合、第1のIDT電極11および第2のIDT電極22は同じ位置に配置され、第1の反射器31および第2の反射器42のそれぞれは、IDT-反射器ギャップは同じであるが、反射電極指の配列ピッチが異なっている。言い換えると、第3方向d3から見た場合、第1のIDT電極11および第2のIDT電極22は互いに重なっており、第1の反射器31および第2の反射器42は反射電極指の配列ピッチが少しずつずれている。
【0093】
実施例4および5の弾性波素子10において、各層の材質および厚みは、実施例1と同様である。
【0094】
実施例4および5は、以下に示す点で、実施例1と異なっている。表3に、実施例4および5の弾性波素子の電極パラメータを示す。
【0095】
【0096】
表3に示すように、実施例4および5に係る弾性波素子では、IDT-反射器ギャップG1は、反射器波長(λR1)の0.40倍であり、IDT-反射器ギャップG2は、反射器波長(λR2)の0.40倍である。すなわち実施例4および5は、G1=G2となっている。
【0097】
また、実施例4に係る弾性波素子では、反射器波長(λR1)はIDT波長(λIDT)の1.05倍であり、反射器波長(λR2)はIDT波長(λIDT)の1、045倍である。すなわち実施例4は、λR1>λR2となっている。
【0098】
また、実施例5に係る弾性波素子では、反射器波長(λR1)はIDT波長(λIDT)の1.05倍であり、反射器波長(λR2)はIDT波長(λIDT)の1、060倍である。すなわち実施例5は、λR1<λR2となっている。
【0099】
図9は、実施例1、4および5の弾性波素子のインピーダンス特性を示すグラフである。
図10は、実施例1、4および5の弾性波素子の反射特性を示すグラフである。
【0100】
図9に示すように、実施例1、4および5のインピーダンス特性は、ほぼ同じである。また、
図10に示すように、実施例1、4および5の反射特性は、ほぼ同じである。具体的には、実施例4のようにλ
R2/λ
IDTがλ
R1/λ
IDTよりも0.005小さくても、反射特性は実施例1とほぼ同じになる。実施例5のようにλ
R2/λ
IDTがλ
R1/λ
IDTよりも0.01大きくても、反射特性は実施例1とほぼ同じになる。このように、圧電体層100の上側と下側とで反射器波長λ
R1と反射器波長λ
R2とを異ならせても、共振周波数frよりも低周波側の反射損失を低減することができるので、設計の自由度を上げることができる。
【0101】
実施例4および5の弾性波素子10は、圧電体層100の厚みがIDT波長(λIDT)以下であり、IDT-反射器ギャップG1は反射器波長(λR1)の0.5倍よりも小さく、IDT-反射器ギャップG2は反射器波長(λR2)の0.5倍よりも小さく、かつ、反射器波長(λR1)および反射器波長(λR2)のそれぞれはIDT波長(λIDT)よりも大きい、という関係を有する。
【0102】
言い換えると、圧電体層100の厚みが配列ピッチPiの2倍以下であり、IDT-反射器ギャップG1は配列ピッチPr1よりも小さく(G1<Pr1)、IDT-反射器ギャップG2は配列ピッチPr2よりも小さく(G2<Pr2)、かつ、配列ピッチPr1およびPr2のそれぞれは配列ピッチPiよりも大きい(Pr1>Pi、Pr2>Pi)、という関係を有する。
【0103】
実施例4および5に係る弾性波素子10は、実施例1の弾性波素子と同様に、共振周波数frよりも低周波側における反射損失を低減できる。
【0104】
[実施例1b-1h、2a-2h、3a-3h、4a-4hに係る弾性波素子の反射特性]
ここで、本実施の形態に係る弾性波素子10を設計する工程について説明する。
【0105】
まず、IDT-反射器ギャップGを、IDT電極の複数の電極指の間隔および反射器の反射器電極指の間隔より狭い間隔、つまり、反射器波長(λREF)の0.5倍よりも小さく設定する(第1工程)。
【0106】
これにより、反射器によるストップバンドの低周波端付近に、IDT電極と反射器との境界における反射に起因したスプリアスを発生させる。
【0107】
次に、反射器波長(λREF)を、IDT波長(λIDT)よりも大きく設定する(第2工程)。
【0108】
これにより、第1工程により発生するスプリアスの発生周波数を低周波側へシフトさせる。その結果、弾性波素子10を構成する弾性波共振子の共振周波数frよりも低周波側の領域におけるIDT電極の反射器としての応答特性(反射損失リップル)が、当該スプリアスで打ち消される。
【0109】
上記第1工程および第2工程により、本実施の形態に係る弾性波素子10において、上記共振周波数frよりも低周波側の領域における反射損失(反射損失リップル)を低減できる。また、IDT電極の電極指対数を少なくしても、弾性波共振子の共振周波数frよりも低周波側における反射損失の増加を抑制できる。
【0110】
以下、上記第1工程および第2工程について、実施例1b-1h、実施例2a-2h、実施例3a-3h、実施例4a-4hに係る弾性波素子の反射特性を示して説明する。
【0111】
まず、弾性波素子の共振周波数frよりも低周波側の領域におけるIDT電極の反射器としての応答特性(以下、反射レスポンスと記す)を打ち消すために、IDT電極と反射器との間の反射に起因して発生させる(第1工程)スプリアスの発生条件について説明する。
【0112】
図11は、IDT-反射器ギャップ/反射器波長を変化させた場合の弾性波素子の反射特性を示すグラフである。
【0113】
図11の(re)は、比較例の弾性波素子の反射特性をモニタとして示した図である。同図には、IDT-反射器ギャップG/反射器波長(λ
REF)=0.500としたときの反射特性が示されている。
【0114】
図11の(b)~(h)は、実施例1b-1hの弾性波素子の反射特性を示した図である。同図には、IDT-反射器ギャップG/反射器波長(λ
REF)=0.470~0.400としたときの反射損失が示されている。なお同図には、反射器波長(λ
REF)=1と固定し、IDT-反射器ギャップGを変化させた例が示されている。
【0115】
図11の(c)~(h)に示すように、IDT-反射器ギャップG/反射器波長(λ
REF)を0.450よりも小さくすることで、IDT電極と反射器との間の反射に起因して発生するスプリアス(
図11の(c)~(h)の矢印で示された極小点:以下、スプリアスspと記す)が発生する。また、このスプリアスspの反射損失は、G/λ
REFが小さくなるほど大きくなる。
【0116】
図12は、反射器波長/IDT波長を変化させた場合の弾性波素子の反射特性を示すグラフである。
図12では、IDT-反射器ギャップG/反射器波長(λ
REF)=0.500である場合を示している。
【0117】
図12の(re)は、比較例の弾性波素子の反射特性をモニタとして示した図である。同図には、反射器波長(λ
REF)/IDT波長(λ
IDT)=1.000としたときの反射特性が示されている。
【0118】
図12の(a)~(h)は、実施例2a-2hの弾性波素子の反射特性を示した図である。
図12の(a)~(h)に示すように、反射器波長が変化するだけでも反射器のストップバンド端であるキレの部分は改善するが、改善範囲が非常に狭い。また、落ちた部分より高い周波数は反射器のストップバンドに入ることによりIDTの反射によるスプリアスが大きくなる。
【0119】
図12に示すように、IDT-反射器ギャップG/反射器波長(λ
REF)=0.500とすると、スプリアスを改善することができない。IDT-反射器ギャップG/反射器波長(λ
REF)<0.500である必要がある。言い換えると、G/Pr<1である必要がある。
【0120】
図13は、反射器波長/IDT波長を変化させた場合の弾性波素子の反射特性を示すグラフである。
図13では、IDT-反射器ギャップG/反射器波長(λ
REF)=0.400である場合を示している。
【0121】
図13の(re)は、比較例の弾性波素子の反射特性をモニタとして示した図である。同図には、反射器波長(λ
REF)/IDT波長(λ
IDT)=1.000としたときの反射特性が示されている。
【0122】
図13の(a)~(h)は、実施例3a-3hの弾性波素子の反射特性を示した図である。
図13の(a)~(d)に示すように、反射器波長を大きくすることで、スプリアスspの発生位置を低周波側に移動することができる。
図13の(f)~(h)に示すように、スプリアスspが共振点より低周波側に移動すると、リターンロスが改善する。
【0123】
図13に示すように、IDT-反射器ギャップG/反射器波長(λ
REF)=0.400という条件の下、反射器波長(λ
REF)>IDT波長(λ
IDT)とすることで、スプリアスspの発生位置を低周波側に移動させ、リターンロスを改善することができる。言い換えると、G/Pr=0.800という条件の下、Pr>Piとすることで、スプリアスspの発生位置を低周波側に移動させ、リターンロスを改善することができる。
【0124】
図14は、IDT-反射器ギャップ/反射器波長と反射器波長/IDT波長とを変化させた場合の弾性波素子の反射特性を示すグラフである。
図15は、反射損失の抑制領域のバンド幅を示す図である。
【0125】
図14の(re)は、比較例の弾性波素子の反射特性をモニタとして示した図である。同図には、IDT-反射器ギャップG/反射器波長(λ
REF)=0.500とし、反射器波長(λ
REF)/IDT波長(λ
IDT)=1.000としたときの反射特性が示されている。
【0126】
図14の(a)~(h)は、実施例4a-4hの弾性波素子の反射特性を示した図である。
図14の(a)~(h)に示すバンド幅は、
図15に示すように、低域側から高域側にかけてリプルレベルが比較例と同程度となるときのバンド幅を、反射損失の抑制領域のバンド幅として示したものである。
【0127】
図14の(a)に示す場合では、スプリアスが少し改善するがスプリアスは消え切っていない。
図14の(b)から(d)に変化するにしたがい、スプリアスspの抑制範囲が広くなっている。また、
図14の(e)から(h)に変化するにしたがい、スプリアスspの抑制範囲が狭くなっている。
図14および
図13の結果を
図16にまとめて示す。
【0128】
図16は、IDT-反射器ギャップ/反射器波長と、反射損失の抑制領域のバンド幅との関係を示すグラフである。
【0129】
同図の横軸には、IDT-反射器ギャップG/反射器波長(λREF)が示され、縦軸には反射損失の抑制領域のバンド幅が示されている。なお、この例では、反射損失の抑制領域のバンド幅が120MHz以上である場合を、反射損失の改善が十分になされていることとして評価した。
【0130】
図16に示すように、IDT-反射器ギャップ/反射器波長が0.275以上0.44以下のときに、反射損失の抑制領域のバンド幅が120MHz以上となっている。言い換えると、(IDT-反射器ギャップG/反射電極指の配列ピッチPr)が0.55以上0.88以下のときに、反射損失の抑制領域のバンド幅が120MHz以上となっている。このように、G/Prを0.55以上0.88以下とすることで、反射損失の抑制領域のバンド幅を広げることができる。
【0131】
(実施の形態2)
実施の形態2では、実施の形態1に係る弾性波素子10を用いたラダー型の弾性波フィルタ装置について説明する。
【0132】
図17は、実施の形態2に係る弾性波フィルタ装置1の回路構成を示す図である。同図に示すように、弾性波フィルタ装置1は、直列腕共振子s11、s12、s13、s14およびs15と、並列腕共振子p11、p12、p13およびp14と、端子50および60と、を備える。
【0133】
直列腕共振子s11~s15は、端子50と端子60との間に互いに直列に接続されている。また、並列腕共振子p11~p14は、それぞれ、端子50、直列腕共振子s11~s15、および端子60の各接続点と基準端子(グランド)との間に互いに並列に接続されている。直列腕共振子s11~s15および並列腕共振子p11~p14の上記接続構成により、弾性波フィルタ装置1は、ラダー型のバンドパスフィルタを構成している。なお、並列腕共振子p11~p14とグランドとの間に、インダクタなどの回路素子が挿入されていてもよい。
【0134】
実施の形態2では、弾性波フィルタ装置1に含まれる共振子のうちの全ての直列腕共振子s11~s15および並列腕共振子p11~p14が上記の弾性波素子10によって構成されてもよい。また、弾性波フィルタ装置1に含まれる共振子のうちの並列腕共振子p11~p14のみが上記の弾性波素子10によって構成されてもよい。また、弾性波フィルタ装置1に含まれる共振子のうち、共通端子に接続される端子50に最も近い並列腕共振子p14または直列腕共振子s15が上記の弾性波素子10によって構成されてもよい。
【0135】
なお、弾性波フィルタ装置1は、実施の形態1に係る弾性波素子の構成を含む構成であればよい。
図17に示された回路構成は、その一例であって、直列腕共振子の数、並列腕共振子の数、インダクタの接続箇所などは、
図17の構成に限定されない。また、
図17では、ラダー型の回路構成を例示したが、縦結合型共振回路を含んでいてもよい。
【0136】
(実施の形態3)
実施の形態3では、実施の形態2に係る弾性波フィルタ装置1を含む複数のフィルタが、共通端子に直接的または間接的に接続されている構成を有するマルチプレクサについて示す。
【0137】
図18は、実施の形態3に係るマルチプレクサ5およびその周辺回路(アンテナ4)の回路構成図である。同図に示されたマルチプレクサ5は、弾性波フィルタ装置1と、フィルタ3と、共通端子70と、入出力端子81および82と、を備える。
【0138】
弾性波フィルタ装置1は、弾性波フィルタ装置1の端子50が共通端子70に接続され、弾性波フィルタ装置1の端子60が入出力端子81に接続されている。
【0139】
フィルタ3は、共通端子70および入出力端子82に接続されている。フィルタ3は、例えば、並列腕共振子および直列腕共振子を有するラダー型の弾性波フィルタであるが、LCフィルタなどであってもよく、その回路構成は特に限定されない。
【0140】
ここで、弾性波フィルタ装置1の通過帯域は、フィルタ3の通過帯域よりも高周波側に位置する。
【0141】
なお、弾性波フィルタ装置1とフィルタ3とは、
図18に示すように共通端子70に直接接続されていなくてもよく、例えば、インピーダンス整合回路、移相器、サーキュレータ、または、2以上のフィルタを選択可能なスイッチ素子、を介して共通端子70に間接的に接続されていてもよい。
【0142】
なお、本実施の形態では、マルチプレクサ5として、2つのフィルタが共通端子70に接続された回路構成としたが、共通端子70に接続されるフィルタの数は2つに限定されず、3以上であってもよい。つまり、本発明に係るマルチプレクサは、弾性波フィルタ装置1を含む複数のフィルタを備え、当該複数のフィルタのそれぞれの入出力端子および入出力端子の一方は、共通端子に直接的または間接的に接続され、弾性波フィルタ装置1を除く複数のフィルタの少なくとも1つは、弾性波フィルタ装置1の通過帯域の周波数より低い通過帯域を有していてもよい。
【0143】
(まとめ)
本発明の一態様に係る弾性波素子等の構成を以下に例示する。
【0144】
[例1]本発明の一態様に係る弾性波素子10は、圧電体層100の両主面のそれぞれに形成されたIDT電極と、両主面のそれぞれに形成された複数の反射器と、を備える。IDT電極は、対向する一対の櫛歯状電極を有する。一対の櫛歯状電極を構成する各々の櫛歯状電極は、圧電体層100の主面に沿う方向において第1方向d1と交差する第2方向d2に延びるように配置された複数の電極指と、複数の電極指のそれぞれの一端同士を接続するバスバー電極と、を有する。複数の反射器は、第1方向d1においてIDT電極の両外側に配置され、第2方向d2に延びるように配置された複数の反射電極指を有する。第1方向d1に沿って配列された複数の電極指の配列ピッチをPiとし、第1方向d1に沿って配列された複数の反射電極指の配列ピッチをPrとし、複数の電極指のうち反射器に最近接する電極指の中心と複数の反射電極指のうちIDT電極に最近接する反射電極指の中心との第1方向d1における距離であるIDT-反射器ギャップをGとした場合に、圧電体層100の厚みは、Piの2倍以下であり、G<Pr、および、Pr>Piで示される関係を有する。
【0145】
圧電体層100を有する基板に形成された弾性波共振子において、当該弾性波共振子の共振周波数frよりも低周波側では、IDT電極の反射器としての応答特性に起因して反射損失が増大してしまう場合がある。特に、小型化に対応すべくIDT電極を構成する電極指の対数を少なくするほど、上記反射損失は増加する傾向にある。
【0146】
これに対して、上記構成によれば、IDT-反射器ギャップGを反射電極指の配列ピッチPrよりも小さくすることにより、反射器のストップバンドの低周波端付近に、IDT電極と反射器との境界における反射に起因したスプリアスが発生する。このスプリアスを発生させた状態で、反射電極指の配列ピッチPrを電極指の配列ピッチPiよりも大きくして当該スプリアスの発生周波数を低周波側へシフトさせることにより、弾性波共振子の共振周波数frよりも低周波側におけるIDT電極の反射器としての応答特性を、当該スプリアスで打ち消すことが可能となる。これにより、弾性波共振子の共振周波数frよりも低周波側における反射損失の増加を抑制できる。
【0147】
また、ストップバンドの高周波端の位置をシフトさせることで、ストップバンドの発生周波数と反射器波長とを反映した反射レスポンスの発生周波数を変化させることができる。これにより、ストップバンドの高周波端(弾性波共振子の反共振周波数faよりも高周波側)における反射レスポンスを分散させることが可能となる。
【0148】
[例2]G/Prは、0.55以上0.88以下である。
【0149】
これによれば、反射損失の抑制領域のバンド幅を広げることができる。例2の構成は、例1に適用可能である。
【0150】
[例3]圧電体層100は、両主面の一方である第1主面100a、および、他方である第2主面100bを有する。圧電体層100の両主面のそれぞれに形成されたIDT電極は、第1主面100aに形成された第1のIDT電極11、および、第2主面100bに形成された第2のIDT電極22によって構成される。複数の反射器は、第1方向d1において第1のIDT電極11の両外側に配置された複数の第1の反射器31、および、第1方向d1において第2のIDT電極22の両外側に配置された複数の第2の反射器42によって構成される。第1のIDT電極11に含まれる一方の櫛歯状電極11Aと第2のIDT電極22に含まれる一方の櫛歯状電極22Aとは、電気的に接続されている。第1のIDT電極11に含まれる他方の櫛歯状電極11Bと第2のIDT電極22に含まれる他方の櫛歯状電極22Bとは、電気的に接続されている。
【0151】
このように、一方の櫛歯状電極同士を接続し、他方の櫛歯状電極同士を接続することで、第1のIDT電極11および第2のIDT電極22の相互作用を発現させることができる。これにより、弾性波素子10において高次モードの発生を抑制することができる。例3の構成は、例1または例2に適用可能である。
【0152】
[例4]弾性波素子10は、さらに、圧電体層100を伝搬する弾性波音速よりも、伝搬するバルク波音速が高速である高音速支持基板155と、高音速支持基板155と圧電体層100との間に配置され、圧電体層100を伝搬する弾性波音速よりも、伝搬するバルク波音速が低速である低音速層153と、を備える。低音速層153は、第2のIDT電極22を覆うように第2主面100bに設けられている。
【0153】
このように、第2のIDT電極22が低音速層153に埋め込まれていることで、圧電体層100は、弾性波が励振される部分においても低音速層153により支持されることとなり、圧電体層100の形状が変形し難く、電気的特性の変動を抑制することができる。また、第2のIDT電極22が低音速層153に埋め込まれていることで、高次モードを低音速層153側に漏洩させることができる。これにより、高次モードの発生を抑制することができる。
【0154】
また、弾性波素子10のIDT電極が、圧電体層100、低音速層153および高音速支持基板155の積層構造を有する基板に形成されている場合、弾性波素子10のQ値が高くなるため、上記反射レスポンスは大きくなる。これに対して、配列ピッチPrを配列ピッチPiよりも大きくし、かつ、IDT-反射器ギャップGを配列ピッチPrよりも小さくすることにより、ストップバンドの低周波端または高周波端における反射レスポンスを抑制する効果は大きい。例4の構成は、例3に適用可能である。
【0155】
[例5]弾性波素子10は、さらに、第1のIDT電極11を覆うように第1主面100aに設けられた保護膜113を備えている。
【0156】
このように弾性波素子10が上記の保護膜113を備えることで、電極層110aを外部環境から保護することができる。また、周波数温度特性を調整する、または、耐湿性を高めることができる。例5の構成は、例3または例4に適用可能である。
【0157】
[例6]本発明の一態様に係る弾性波フィルタ装置1は、上記の弾性波素子10を含む。
【0158】
上記の弾性波素子10を用いて、弾性波フィルタ装置1を構成することにより、通過帯域内の挿入損失が、反射器の応答特性により劣化してしまうことを抑制できる。例6の構成は、例1~例5のいずれかに適用可能である。
【0159】
[例7]本発明の一態様に係るマルチプレクサ5は、上記の弾性波フィルタ装置1を含む複数のフィルタ3を備える。複数のフィルタ3のそれぞれの入出力端子81および入出力端子82の一方は、共通端子70に直接的または間接的に接続され、弾性波フィルタ装置1を除く複数のフィルタ3の少なくとも1つは、弾性波フィルタ装置1の通過帯域の周波数より低い通過帯域を有する。
【0160】
これにより、弾性波フィルタ装置1では、通過帯域よりも低周波側の減衰帯域の減衰量を大きくできるので、弾性波フィルタ装置1の通過帯域よりも低周波側の通過帯域を有するフィルタの通過帯域内の挿入損失を低減できる。
【0161】
(その他の実施の形態など)
以上、本発明の実施の形態に係る弾性波素子、弾性波フィルタ装置およびマルチプレクサについて、実施の形態および実施例を挙げて説明したが、本発明の弾性波素子、弾性波フィルタ装置およびマルチプレクサは、上記実施の形態および実施例に限定されるものではない。上記実施の形態および実施例における任意の構成要素を組み合わせて実現される別の実施の形態や、上記実施の形態に対して本発明の主旨を逸脱しない範囲で当業者が思いつく各種変形を施して得られる実施例や、本開示の弾性波素子、弾性波フィルタ装置およびマルチプレクサを内蔵した各種機器も本発明に含まれる。
【0162】
例えば、本発明に係る弾性波フィルタ装置1は、さらに、インダクタおよびキャパシタなどの回路素子を備えてもよい。
【0163】
また、本発明に係る弾性波素子は、実施の形態1のような弾性表面波共振子でなくてもよく、弾性境界波を利用した弾性波共振子であってもよい。
【0164】
また上記では、圧電体層100の第2主面100b側に、低音速層153および高音速支持基板155が設けられている例を示したが、それに限られず、圧電体層100の第2主面100b側に支持基板のみが設けられていてもよい。
【0165】
また、
図1A、
図1B、
図2および
図3に示す弾性波素子10は、その典型的な構造を説明するためのものであって、電極を構成する電極指の本数や長さなどは、これに限定されない。また、圧電体層100等の上記積層構造において例示した各層の材料などは一例であり、例えば、要求される高周波伝搬特性のうち重視すべき特性に応じて変更されるものである。
【0166】
上記の実施の形態の説明において電極指の配列ピッチPiとは、例えば、IDT電極11に含まれる複数の電極指11a、11bにおいて、第1方向d1に隣り合う電極指11a、11b同士の第1方向d1における中心間距離である。IDT電極11内における複数の電極指11a、11bの全ての配列ピッチは同じであってもよく、一部もしくは全ての配列ピッチが異なっていてもよい。
【0167】
電極指の配列ピッチPiは、次のように導出できる。例えば、IDT電極11に含まれる電極指11a、11bの総本数をNi本とする。そして、IDT電極11の、第1方向d1における一方端に位置する電極指と、他方端に位置する電極指との中心間距離をDiとする。すると、電極指の配列ピッチPiは、Pi=Di/(Ni-1)という式で表せる。なお、(Ni-1)は、IDT電極11における、隣接する電極指が作るギャップの総個数ともいえる。IDT電極22についても同様である。
【0168】
反射電極指の配列ピッチPrとは、例えば、反射器31に含まれる複数の反射電極指31aにおいて、第1方向d1に隣り合う反射電極指31a同士の第1方向d1における中心間距離である。反射器31内における複数の反射電極指31aの全ての配列ピッチは同じであってもよく、一部もしくは全ての配列ピッチが異なっていてもよい。
【0169】
反射電極指の配列ピッチPrは、次のように導出できる。例えば、反射器31に含まれる反射電極指31aの総本数をNr本とする。そして、反射器31の、第1方向d1における一方端に位置する反射電極指と、他方端に位置する反射電極指との中心間距離をDrとする。すると、反射電極指の配列ピッチPrは、Pr=Dr/(Nr-1)という式で表せる。なお、(Nr-1)は、反射器31における、隣接する反射電極指が作るギャップの総個数ともいえる。反射器42についても同様である。
【0170】
電極指のピッチの測定箇所は、所定の隣り合う電極指の交差幅の、第1方向d1における略中間点における、当該距離で求められる。または、1つの電極指あたり、交差幅を第1方向に略2等分する2点、または、略3等分する3点における当該距離の平均値、で求めてもよい。電極指のピッチの測定方法は、上面(第1方向d1および第2方向d2の両方に垂直な方向)からの光学顕微鏡またはSEM観察、もしくは、研磨等により仮想線を通る断面を出し、光学顕微鏡またはSEM観察、による測長で測定できる。
【産業上の利用可能性】
【0171】
本発明は、マルチバンド化およびマルチモード化された周波数規格に適用できる低損失かつ小型の弾性波素子、弾性波フィルタおよびマルチプレクサとして、携帯電話などの通信機器に広く利用できる。
【符号の説明】
【0172】
1 弾性波フィルタ装置
3 フィルタ
4 アンテナ
5 マルチプレクサ
10 弾性波素子
11 第1のIDT電極
11A、11B 櫛歯状電極
11a、11b 電極指
11c バスバー電極
22 第2のIDT電極
22A、22B 櫛歯状電極
22a、22b 電極指
22c バスバー電極
31 第1の反射器
31a 反射電極指
31c バスバー電極
42 第2の反射器
42a 反射電極指
42c バスバー電極
50、60 端子
70 共通端子
81、82 入出力端子
100 圧電体層
100a 第1主面
100b 第2主面
110a、110b 電極層
113 保護膜
130A、130B 貫通導体
153 低音速層
155 高音速支持基板
d1 第1方向
d2 第2方向
d3 第3方向
G、G1、G2 IDT-反射器ギャップ
Pi、Pi1、Pi2 電極指の配列ピッチ
Pr、Pr1、Pr2 反射電極指の配列ピッチ
p11、p12、p13、p14 並列腕共振子
s11、s12、s13、s14、s15 直列腕共振子