(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024157871
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】工程計画支援システム
(51)【国際特許分類】
G21C 17/00 20060101AFI20241031BHJP
G21F 9/36 20060101ALI20241031BHJP
G21C 19/40 20060101ALI20241031BHJP
G21F 9/00 20060101ALI20241031BHJP
G21C 17/06 20060101ALI20241031BHJP
G21C 19/26 20060101ALI20241031BHJP
G21C 17/02 20060101ALI20241031BHJP
G01T 1/167 20060101ALI20241031BHJP
【FI】
G21C17/00 110
G21F9/36 Z
G21C19/40 100
G21F9/00 Z
G21C17/00 500
G21C17/06 070
G21C19/26
G21C17/02 400
G01T1/167 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023072495
(22)【出願日】2023-04-26
(71)【出願人】
【識別番号】507250427
【氏名又は名称】日立GEニュークリア・エナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】関 洋
(72)【発明者】
【氏名】笠原 孝保
(72)【発明者】
【氏名】平野 克彦
(72)【発明者】
【氏名】長井 隆浩
【テーマコード(参考)】
2G075
2G188
【Fターム(参考)】
2G075BA12
2G075CA47
2G075CA50
2G075DA08
2G075FB09
2G075FC06
2G075GA37
2G188AA19
2G188BB09
2G188BB17
2G188BB19
(57)【要約】 (修正有)
【課題】放射性物質汚染環境下での作業計画に適した工程計画支援システムを提供する。
【解決手段】放射性物質汚染環境において計測した各種のデータを入力する入力部と、放射性物質汚染環境を3次元表現した3次元モデルと、放射性物質汚染環境における作業工程と作業速度を与える概略プロセスシミュレーション部と、3次元表現した3次元モデルにおいて放射性物質汚染環境の部分空間に対して計算の優先順位を設定する優先順位決定部と、3次元表現した3次元モデルにおいて放射性物質汚染環境の作業対象物と作業対象物を処理する部品に対して計算値及び計測値を割り当てる計算値、計測値割当部と、3次元モデルにおいて作業対象物を処理する作業工程を実行した時の放射性物質汚染環境の安全性を示す安全指標を求める物理VRシミュレーション部を備え、安全指標が閾値以下となる作業工程と作業速度を求めることを特徴とする工程計画支援システム。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射性物質汚染環境において作業対象物を処理する作業工程の計画立案を支援する工程計画支援システムであって、
放射性物質汚染環境において計測した各種のデータを入力する入力部と、前記放射性物質汚染環境を3次元表現した3次元モデルと、前記放射性物質汚染環境における作業工程と作業速度を与える概略プロセスシミュレーション部と、3次元表現した前記3次元モデルにおいて前記放射性物質汚染環境の部分空間に対して計算の優先順位を設定する優先順位決定部と、3次元表現した前記3次元モデルにおいて前記放射性物質汚染環境の作業対象物と前記作業対象物を処理する部品に対して計算値及び計測値を割り当てる計算値、計測値割当部と、前記3次元モデルにおいて前記作業対象物を処理する作業工程を実行した時の前記放射性物質汚染環境の安全性を示す安全指標を求める物理VRシミュレーション部を備え、
前記安全指標が閾値以下となる前記作業工程と前記作業速度を求めることを特徴とする工程計画支援システム。
【請求項2】
請求項1に記載の工程計画支援システムであって、
前記優先順位決定部は、前記放射性物質汚染環境における空間線量率の大小、臨界防止のための放射能データの大小に基づき、3次元表現した前記3次元モデルの前記放射性物質汚染環境の部分空間に対して計算の優先順位を決めることを特徴とする工程計画支援システム。
【請求項3】
請求項1に記載の工程計画支援システムであって、
前記安全指標が閾値以上となる場合は、前記作業速度を調整し、モデル更新し、シミュレーション優先順位を変更し、再度、物理VRシミュレーション部から前記作業速度を調整して、調整済みプロセスシーケンスを出力することを特徴とする工程計画支援システム。
【請求項4】
請求項1に記載の工程計画支援システムであって、
前記放射性物質汚染環境における計測放射線量率、ダスト量計測結果、3D計測点群を用いて、前記放射性物質汚染環境の変化を取り込み、前記3次元モデルを更新するモデル更新部を備えることを特徴とする工程計画支援システム。
【請求項5】
請求項1に記載の工程計画支援システムであって、
前記安全指標は、未臨界度、敷地境界線量率、ダスト発生量、作業員被ばく量限度、汚染放射能濃度のいずれかであることを特徴とする工程計画支援システム。
【請求項6】
請求項1に記載の工程計画支援システムであって、
前記放射性物質汚染環境における作業対象物の処理は、作業対象物の切断片の収納缶への収納を含み、
表示装置には、切断片の収納限度以上に前記収納缶に詰められないため、デブリ取り出し作業が律速になる状況、ダスト発生量、敷地境界線量率が限度に達しつつあるため、作業を一時中断し、前記収納缶を移動する状況、被ばく限度に近い作業員がいるため、少ない作業員で作業を実行する状況を可視化して表示することを特徴とする工程計画支援システム。
【請求項7】
請求項1に記載の工程計画支援システムであって、
前記放射性物質汚染環境における作業対象物の処理は、作業対象物の切断片の収納缶への収納を含み、
調整済プロセス・シーケンスに基づいた複数個所での同時並行の作業をVRシミュレーション部において実行し、各種安全指標の変化値を連動させながら可視化する表示装置を有することを特徴とする工程計画支援システム。
【請求項8】
請求項1に記載の工程計画支援システムであって、
プロセス・シミュレーションでパラメータ、シーケンスを調整し、予想ダスト量、線量率計算し、収納缶への切断片収納で核分裂中性子発生数計算し、敷地境界線量率上限、未臨界を維持できる組み合わせで作業部分空間の優先順位を決定することを特徴とする工程計画支援システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射性物質による汚染環境下における作業工程の計画立案を支援する工程計画支援システムに関する。
【背景技術】
【0002】
本技術分野の背景技術として、特許文献1には、ロボットの作業シーケンスを生成するための解体工期の精度向上と、工程遅延からのリカバリを支援し、大きな探索空間から、可能な解体工程の成立性を判定することができる工程計画作成支援システムおよび工程計画作成方法を提供することを目的として、「コンピュータを用いて、ロボットが作業エリア内で作業を行うための工程を計画するための工程計画作成支援方法であって、コンピュータは、ロボットによる作業進行に伴い、現場状態が変わる作業エリアの3D計測点群、現場線量の情報からなる仮想空間内で、かつ設定した時間範囲内で計算可能な探索範囲内で、作業エリアごとの工期期限、線量制限、作業安全規制を満たす、ロボットの移動経路、姿勢、手順順序を確率的最適化により作業動作要素を求めることにより、工程情報を生成可視化することを特徴とする。」ことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1においては、ロボットを用いた作業計画の立案を提案しているが、ここでは作業対象が放射性物質による汚染環境下である場合の作業工程の計画立案を行うことについて十分な想定をしていない。
【0005】
これに対し、例えば放射性廃棄物を取り出す作業工程の計画立案を行う場合には、高い放射能濃度の放射性物質による汚染部位の除去に時間がかかる、未臨界度低のためデブリ入りの収納缶移動待ちなどの状況を再現して、安全かつ作業効率の高い計画生成を支援する必要があるといった、放射性物質による汚染環境下であるが故の特有の事情を考慮すべきことについて想定されていない。係る工程計画支援システムでは、「逐次変わる空間情報に基づき、安全制約を担保しつつ、作業スループットが高い、作業計画工程を立案する」必要がある。
【0006】
以上のことから本発明においては、放射性物質による汚染環境下での作業計画に適した工程計画支援システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以上のことから本発明においては、「放射性物質による汚染環境において作業対象物を処理する作業工程の計画立案を支援する工程計画支援システムであって、放射性物質による汚染環境において計測した各種のデータを入力する入力部と、放射性物質による汚染環境を3次元表現した3次元モデルと、放射性物質による汚染環境における作業工程と作業速度を与える概略プロセスシミュレーション部と、3次元表現した3次元モデルにおいて放射性物質による汚染環境の部分空間に対して計算の優先順位を設定する優先順位決定部と、3次元表現した3次元モデルにおいて放射性物質による汚染環境の作業対象物と作業対象物を処理する部品に対して計算値及び計測値を割り当てる計測値割当部と、3次元モデルにおいて作業対象物を処理する作業工程を実行した時の放射性物質による汚染環境の安全性を示す安全指標を求める物理VRシミュレーション部を備え、安全指標が閾値以下となる作業工程と作業速度を求めることを特徴とする工程計画支援システム。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、放射性物質による汚染環境下での作業計画に適した工程計画支援システムを提供することができる。より詳細には、本発明の実施例によれば、高い放射能濃度の放射性物質による汚染部位の除去に時間がかかる、未臨界度低のためデブリ入りの収納缶移動待ちなどの状況を再現して、安全かつ作業効率の高い計画生成を支援することに寄与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の実施例1に係る工程計画支援システムの構成例を示す図。
【
図2】放射性物質による汚染環境として放射性廃棄物を取り出すための解体現場30の例を示す図。
【
図3a】モデル更新装置5による更新対象である放射能属性付3DモデルMの表現例を示す図。
【
図3b】放射能属性付環境3DモデルMの構成例を示す図。
【
図4】対象とする概略プロセスシミュレーションのシーケンスの例を示す図。
【
図6】発生ダスト量と敷地境界線量率の関係の例を示す図。
【
図7】安全指標に基づく作業速度調整の処理フローの例を示す図。
【
図8】作成された計画工程と物理VRシミュレーションの可視化表示例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施例について、図面を参照して説明する。
【実施例0011】
本発明の実施例では、放射能汚染環境下における作業工程の計画立案を支援する工程計画支援システムについて説明する。
【0012】
図2は、放射性物質による汚染環境として放射性廃棄物を取り出すための解体現場30の例を示している。この場合に、放射能汚染環境下の解体現場30には、解体対象物31を解体する解体ロボットR1や、解体した切断片35を運搬する運搬ロボットR2、運搬された切断片35を収納する収納ロボットR3などが導入されて、多くの場合に無人環境での作業を行う。
【0013】
なお解体対象物31は放射性汚染物であり、その部位により放射能濃度、表面線量率が高い個所33a、33b、33cが存在する。またこれらの値は、解体の進展に伴い変化していく。
【0014】
放射性物質汚染環境における
図2の実作業の実行に先立ち、工程計画支援システムは、解体対象の仮想空間3Dモデルを用いて、解体対象物31の解体を進めていく手順についての工程計画を作成する。従って仮想空間3Dモデルでは、解体対象物31や各種ロボットRを模擬するとともに、放射性物質環境として放射能濃度、表面線量率の時系列的な変化をも模擬して、工程計画に反映する必要がある。
【0015】
図1は、本発明の実施例1に係る工程計画支援システムの構成例を示している。計算機を用いて構成される工程計画支援システム10は、記憶部DB、入力部、演算部CPU、入力装置1、出力装置2を主たる構成要素として構成されている。なお、これらの構成要素の一部はネットワークを介してクラウド上に接続、構成されるものであってもよい。
【0016】
このうち記憶部DBは、解体現場30の図面データD1を記憶する図面データベースDB1、解体現場30の計測点群、放射能データD2を記憶する計測点群、放射能データベースDB2、放射線属性付環境3DモデルMを記憶する3DモデルデータベースDB3から成る。入力部からは、解体現場における各種の計測データDSが取りこまれ、これらは計測点群、放射能データD2として計測点群、放射能データベースDB2に記憶されるとともに、演算部CPUにおける処理に用いられる。
【0017】
計算機の演算部CPUにおける処理内容を機能的に表すと、これは概略プロセスシミュレーション装置4、モデル更新装置5、計算値、計測データ割り当て装置6、部分空間の計算優先順位決定装置7、物理VRシミュレーション装置8、安全指標基準作業速度調整装置9を備えたものということができる。
【0018】
これらの機能は、概略以下のように作用する。まず概略プロセスシミュレーション装置4は、概略プロセスシミュレーションを実行して、個別プロセスの作業時間を計算する。ここで、個別プロセスとは、例えば切断片を取り出す工程、切断片を運搬する工程などの適宜に設定された単位の工程であり、これら工程ごとの標準的な処理時間を概略プロセスシミュレーションにより推定する。
【0019】
次にモデル更新装置5は、個別プロセスの作業時間の推定結果を利用し、理論値、及び計測値データに基づいて放射能属性付環境3DモデルMの各種設定の更新処理を実施する。これは例えば推定値と理論値と計測値を用いた妥当性の評価結果に基づいて、放射能属性付環境3DモデルMの動作特性などの各種設定の最適化を図るものである。
【0020】
計算値、計測データ割り当て装置6では、放射能属性付環境3DモデルMの各部品(例えば解体対象物31の各部位や各種ロボットRの各部位ごと)に、線量率などの計算値、計測値を部品ごとに割り当てる。部分空間の計算優先順位決定装置7では、放射能、最大線量率が高いもの順に部分空間の計算優先順位を決定する。
【0021】
物理VRシミュレーション装置8は、放射能属性付環境3DモデルM中で、各種ロボットRなどが動作していることを物理VRシミュレーションし、作業の進展に伴って変化す未臨界度、敷地境界線量率などの安全指標を計算する。
【0022】
安全指標基準作業速度調整装置9は、安全指標の計算の結果、全ての安全指標値が閾値以下であれば、調整済み速度付きプロセスシーケンスを工程データとともに出力する。もし、安全指標値のいずれかが閾値以上であれば、安全指標基準作業の速度調整を実施し、再度、モデル状態を計算前の状態に戻して、安全指標値が全て閾値以下となるまで、計算を繰り返す。
【0023】
図3aは、モデル更新装置5による更新対象である放射能属性付3DモデルMの表現例を示す図である。ここでは、放射能属性付3DモデルMは、解体対象物31を直交するXYZ軸により3次元情報として模擬した例を示している。具体的には、3Dモデル中の概略の空間(エリア)を指し示すため、通り芯と呼ばれる情報3301、3302、3303により各XYZ軸で表現する座標範囲で表している。例えば座標3、2、2では(X3~X4、Y2~Y3、Z2~Z3)のエリアを示す。なお、解体対象物31以外の他の部品についても同様に3次元情報として模擬されることは言うまでもない。
【0024】
図3bは、放射線属性付環境3DモデルMの構成例を示す図である。ここでは、放射線属性付環境3DモデルデータベースDB3による放射線属性付環境3DモデルMについて、特に解体対象物31をテーブルTBのように番号(No.)、座標、放射能濃度[Bq/cm3]、表面最大線量率[Gy/h]、面積[cm2]で特徴づけしたものである。なお、解体対象物31以外の他の部品についても同様にテーブル化された情報として保有する。
【0025】
図4は、対象とする概略プロセスシミュレーションのシーケンスの例を示す図である。このシーケンス事例は、複数のプロセスから構成されており、デブリ破砕プロセスPr1、切断片取出しプロセスPr2、収納缶移動プロセスPr3の各プロセスPrからなり、切断片35、収納缶(収納ロボットR3)は各プロセスの出力としての物量をためる入れ物として扱われる。
【0026】
各プロセスPrは破砕速度、破砕サイズ431、取り出し速度432、移動速度433の変更により実行時間が変動するとともに、切断片35、収納缶(収納ロボットR3)が順調に処理できない場合は待ち状況が発生するため、設定した速度を手動、または、自動で調整(441、442)する必要がある。
【0027】
図5は、安全指標の一つとして扱われる未臨界度管理の例を示す図である。この図は横軸に時間、縦軸に中性子数を示し、未臨界状態913、臨海状態912、超過臨界状態911の各状態に置ける中性子数の時間変化の動向を示している。
【0028】
ここでは例えば、
図2の環境3DモデルMで表現される状態から、燃料デブリを解体して取り出した切断片35を収納缶(収納ロボットR3)に詰め込んだ状況を考える。このとき切断片35には、核燃料物質が混入していて、核分裂が発生したときに発生する中性子を検出できるものとする。このときに発生する中性子の数が時間的に増えないうちは、未臨界状態913として扱えるので、安全上は問題になることはない。
【0029】
これに対し、中性子数の変化量が1を超える臨界状態912、超過臨界状態911は安全ではないので、このような状態にならないように、収納缶(収納ロボットR3)への切断片35の詰め方を調整する必要がある。このとき、収納缶(収納ロボットR3)を増やす必要があるため、切断片取出し速度432が遅くなり、作業プロセスが長くなる。
【0030】
図6は、別の安全指標として扱われる発生ダスト量と敷地境界線量率の関係の例を示す図である。この図は横軸に時間、縦軸に線量率を示している。
図4のデブリ破砕プロセスPr1によりダストが発生する。このダストに含まれる放射性物質の空間中への拡散により、周囲の線量率や、敷地境界の線量率が増加する。ダスト量が増えるとともに、線量率は増加傾向にあるが、ダストの粒の形状の変化により、
図6の曲線922から曲線921までの範囲で線量率が計算される。このとき、敷地境界線量率の閾値、例えば500μSv/hを超えないようにすると、それに合わせて、破砕速度を押さえるなどの対策により、ダスト発生量を少なくする必要がある。
【0031】
図7は、安全指標に基づく作業速度調整の処理フローの例を示す図である。これは
図1に示す装置の処理の概略の流れを示すものである。なお、この処理の利用場面としては、新たに作業工程の計画立案をする場面であり、他には計画としてはすでに立案済みであり、その計画に沿って現場作業を実行中であるが、予期せぬトラブルの発生によりこのトラブル対策として計画をこの段階から現状に即して再計画するという場面である。
【0032】
本発明はこのいずれにも適用が可能であり、前者の場合には処理ステップS11から開始し、後者の場合には処理ステップS12から開始する。なお以下の説明は、前者を事例として説明するものとするが、これは開始条件が相違するのみで、処理ステップS13から実質的な処理が開始されるという意味では大きな相違は存在していない。
【0033】
新たに作業工程の計画立案をするときの最初の処理においては、まず処理ステップS11で概略プロセスシミュレーション装置4により、各プロセスの作業速度設定をする。この時に設定される各速度は、実績値によるものを使っても良いし、理論値に基づくものでも良い。ここではあくまでも各プロセスの作業速度の初期値を設定したものであり、以降の処理進展を反映して経験される各速度に応じて、適宜モデル修正されるからである。
【0034】
そして処理ステップS12では、例えば、
図3に示す放射能、最大線量率が高いものの順に部分空間の計算優先順位を決定する。これにより
図1の解体対象物31について、放射能濃度、表面線量率が高い領域(部分空間)33a、33b、33cの計算順序が高い順位に設定され、優先的に状況把握されることになる。
【0035】
処理ステップS14では、モデルの各部品(例えば解体対象物31の各部位や各種ロボットRの各部位ごと)に、線量率などの計算値、計測値を部品ごとに割り当てる。処理ステップS15では、
図2に示すような環境3DモデルM中で、各種ロボットRなどが動作していることを、物理VRシミュレーションし、変化する
図5の未臨界度、
図6の敷地境界線量率などの安全指標を計算する。
【0036】
計算の結果を処理ステップS17で判断し、全ての安全指標値が閾値以下であれば(処理ステップS17のtrue)、処理ステップS19において調整済み速度付きプロセスシーケンスを工程データとともに出力する。もし、安全指標値のいずれかが閾値以上であれば(処理ステップS17のfalse)、処理ステップS18において安全指標基準作業の速度調整を実施し、再度、モデル状態を計算前の状態に戻して、安全指標値が全て閾値以下となるまで、処理ステップS13からS17までの計算を繰り返し実行する。
【0037】
なお処理ステップS18における具体的な処理内容は、安全指標の基準内に、作業速度を遅く調整し、距離を調整し、現場での滞在時間調整し、解体機器交換を行うことなどである。
【0038】
処理ステップS15における物理VRシミュレーションの結果に応じて、処理ステップS16では、計測点群、計測線量率データ及び線量率から推定される放射能データに基づいて放射能属性付環境3Dモデルを適語のタイミングで逐次更新している。なお初期モデルについては図面データD1に基づいて作成し、その更新は計測点群、放射能データD2、その他計測データDSに基づいて実施する。
【0039】
図8は、作成された計画工程と物理VRシミュレーションの可視化表示例である。ここでは、表示装置2の表示画面の一例20として、複数の表示構成要素からなる表示例を示す。この表示では、
図4に示した概略プロセスシミュレーションのシーケンス例21、
図2に示した解体現場30の例22、解体対象物31の破砕、切断片の取り出し、切断片の移動の各工程による進捗状況23、
図5に示した安全指標としての臨界度特性24、
図6に示した敷地境界線量率25が表示されたものである。また、この画面上にはプロセス、更新、物理VR、シーケンス出力の各モードを選択するための選択ボタンB1、B2、B3、B4を備えている。なおこれ以外には、周囲の線量率に影響するダスト発生量、現場の作業員の被ばく量限度までの余裕度、その他の汚染放射性物質の濃度などの安全に関わる指標を表示できるものとするのがよい。
【0040】
そして、あらかじめ定めたプロセスシーケンスに則り、概略プロセスシミュレーションのシーケンス例21では、デブリ破砕速度431、切断片取出し速度432、収納缶移動速度433を手動または自動で設定し、プロセスシミュレーション開始ボタンB1を押すことにより、概略プロセスシミュレーションを実施する。
【0041】
また計算値、計測値を取り込み、モデル更新ボタンB2を押すことで、概略プロセスシミュレーションで計算した作業時間を反映して、物理VRシミュレーションの様子を解体現場30の例22のように、物理VRシミュレーションボタンB3を押した後3D表示する。その際に、各プロセスの作業時間とタイミングを工程データ23でも表示する。
【0042】
もし、安全評価指標値のうち、設定状態を満たさないものがあれば、臨界度特性24、敷地境界線量率25や警告情報として表示し、関連する作業速度431、432、433を手動または、自動で変更し、再度、繰り返し計算をする。安全評価指標が全て閾値以下である場合、シーケンス出力ボタンB4を押せる状態となり、このボタンを押すことで、作業優先順位や作業時間付きの工程データを出力することができる。
【0043】
以上により、本実施例の工程計画支援システムによれば、高放射性物質の除去に時間がかかる、未臨界度低のためデブリ入りの収納缶移動待ちなどの状況を再現して、安全かつ作業効率の高い計画生成を支援することに寄与することができる。