(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024157904
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】衝撃検出装置
(51)【国際特許分類】
B60L 3/00 20190101AFI20241031BHJP
B61K 9/08 20060101ALI20241031BHJP
【FI】
B60L3/00 Q
B61K9/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023072564
(22)【出願日】2023-04-26
(71)【出願人】
【識別番号】000173784
【氏名又は名称】公益財団法人鉄道総合技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100104064
【弁理士】
【氏名又は名称】大熊 岳人
(72)【発明者】
【氏名】吉川 岳
【テーマコード(参考)】
5H125
【Fターム(参考)】
5H125AA05
5H125CD00
5H125EE52
(57)【要約】
【課題】非接触式の速度検出装置を利用することによって、車両の輪軸に加わる衝撃を低コストで簡単に検出することができる衝撃検出装置を提供する。
【解決手段】衝撃検出装置24は、線路1上を走行する車両の輪軸に加わる衝撃を検出する装置であり、輪軸の車軸側とは非接触で車両の速度を検出する非接触式の速度検出装置17A~17Dが出力する速度検出信号S
1に基づいて、この輪軸に加わる衝撃を検出する衝撃検出部29を備えている。衝撃検出部は、輪軸の車軸端部を回転自在に支持する軸受と、この軸受を収容する軸箱体との間の隙間で、これらが相対変位したときに速度検出装置17A~17Dが出力する速度検出信号S
1に基づいて、この輪軸に加わる衝撃を検出する。
【選択図】
図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
線路上を走行する車両の輪軸に加わる衝撃を検出する衝撃検出装置であって、
前記輪軸の車軸側とは非接触で前記車両の速度を検出する非接触式の速度検出装置の出力信号に基づいて、この輪軸に加わる衝撃を検出する衝撃検出部を備えること、
を特徴とする衝撃検出装置。
【請求項2】
請求項1に記載の衝撃検出装置において、
前記衝撃検出部は、前記輪軸に加わる衝撃に起因する周波数成分を、前記速度検出装置の出力信号から抽出するフィルタ部を備えること、
を特徴とする衝撃検出装置。
【請求項3】
請求項1に記載の衝撃検出装置において、
前記速度検出装置は、前記車両の輪軸毎に前記車両の速度を検出し、
前記衝撃検出部は、前記車両の輪軸毎に衝撃を検出すること、
を特徴とする衝撃検出装置。
【請求項4】
請求項1に記載の衝撃検出装置において、
前記衝撃検出部の検出結果に基づいて、前記線路側及び/又は前記車両側の異常を検出する異常検出部を備えること、
を特徴とする衝撃検出装置。
【請求項5】
請求項4に記載の衝撃検出装置において、
前記衝撃検出部は、前記輪軸に加わる衝撃に起因する周波数成分を、前記速度検出装置の出力信号から抽出するフィルタ部を備え、
前記異常検出部は、前記フィルタ部の出力信号の振幅が基準値を超えるときには、前記線路側及び/又は前記車両側に異常が発生したと判定すること、
を特徴とする衝撃検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、線路上を走行する車両の輪軸に加わる衝撃を検出する衝撃検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の軌道モニタリング装置は、車両の車体床部の上下振動を時系列的に計測する振動計測器と、この振動計測器が計測する振動データを軌道の変位データに変換し、軌道変位量が予め設定したしきい値を超えたときに軌道に異常箇所があると判断する制御部などを備えている(例えば、特許文献1参照)。この従来の軌道モニタリング装置は、車両の位置を時系列的に計測するGPS受信機の位置データにより、軌道の状態の異常部の位置を制御部が特定している。
【0003】
従来の車両の異常検出装置は、車両の台車の振動を検出する台車加速度センサと、輪軸の振動を検出する輪軸加速度センサと、台車加速度センサによって検出された台車の振動値と輪軸加速度センサによって検出された輪軸の振動値とに基づいて、振動の原因が台車にあるか又は軌道にあるかを特定する制御装置などを備えている(例えば、特許文献2参照)。従来の車両の異常検出装置は、輪軸の振動値が所定のしきい値を超えたときには振動の原因が軌道にあると特定し、輪軸の振動値が所定のしきい値を超えず、かつ、台車の振動値が所定のしきい値を超える場合には、振動の原因が台車にあると特定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来、鉄道車両側から輪軸・軌道の異常を検出するためには、軸箱に振動加速度センサなどを取り付ける必要があった。経済的な余裕のある鉄道会社では、線路の検測機能を備えた営業列車を実用化可能である。しかし、経済的な余裕の少ない鉄道会社では、より低コストに営業列車からの異常検出が実現できないか要望があった。
【0007】
この発明の課題は、非接触式の速度検出装置を利用することによって、車両の輪軸に加わる衝撃を低コストで簡単に検出することができる衝撃検出装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明は、以下に記載するような解決手段により、前記課題を解決する。
なお、この発明の実施形態に対応する符号を付して説明するが、この実施形態に限定するものではない。
請求項1の発明は、
図1~
図8及び
図12に示すように、線路(1)上を走行する車両(4A~4C)の輪軸(8A~8D)に加わる衝撃を検出する衝撃検出装置であって、前記輪軸の車軸(10)側とは非接触で前記車両の速度を検出する非接触式の速度検出装置(17A~17D)の出力信号(S
1)に基づいて、この輪軸に加わる衝撃を検出(S400)する衝撃検出部(29)を備えることを特徴とする衝撃検出装置(24)である。
【0009】
請求項2の発明は、請求項1に記載の衝撃検出装置において、
図8に示すように、前記衝撃検出部は、前記輪軸に加わる衝撃に起因する周波数成分を、前記速度検出装置の出力信号から抽出するフィルタ部(F,…,F
N)を備えることを特徴とする衝撃検出装置である。
【0010】
請求項3の発明は、請求項1に記載の衝撃検出装置において、
図1、
図7及び
図8に示すように、前記速度検出装置は、前記車両の輪軸毎に前記車両の速度を検出し、前記衝撃検出部は、前記車両の輪軸毎に衝撃を検出することを特徴とする衝撃検出装置である。
【0011】
請求項4の発明は、請求項1に記載の衝撃検出装置において、
図7、
図8、
図11及び
図12に示すように、前記衝撃検出部の検出結果に基づいて、前記線路側及び/又は前記車両側の異常を検出(S500)する異常検出部(30)を備えることを特徴とする衝撃検出装置である。
【0012】
請求項5の発明は、請求項4に記載の衝撃検出装置において、
図8、
図9及び
図11に示すように、前記衝撃検出部は、前記輪軸に加わる衝撃に起因する周波数成分を、前記速度検出装置の出力信号から抽出するフィルタ部(F,…,F
N)を備え、前記異常検出部は、前記フィルタ部の出力信号(S
3)の振幅が基準値(Th)を超えるときには、前記線路側及び/又は前記車両側に異常が発生したと判定することを特徴とする衝撃検出装置である。
【発明の効果】
【0013】
この発明によると、非接触式の速度検出部を利用することによって、車両に加わる衝撃を低コストで簡単に検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】この発明の第1実施形態に係る衝撃検出装置を備える衝撃検出システムを模式的に示す側面図である。
【
図2】この発明の第1実施形態に係る衝撃検出装置を備える車両を模式的に示す側面図である。
【
図3】この発明の第1実施形態に係る衝撃検出装置を備える車両を模式的に示す平面図である。
【
図4】この発明の第1実施形態に係る衝撃検出装置を備える車両の台車を模式的に示す正面図である。
【
図5】この発明の第1実施形態に係る衝撃検出装置を備える車両に使用される速度検出装置の模式図である。
【
図6】この発明の第1実施形態に係る衝撃検出装置を備える車両に使用される速度検出装置の検出原理を説明するための模式図であり、(A)は磁束密度が高いときの模式図であり、(B)は磁束密度が低いときの模式図であり、(C)は速度検出装置の出力信号を模式的に示すグラフである。
【
図7】この発明の第1実施形態に係る衝撃検出装置の構成図である。
【
図8】この発明の第1実施形態に係る衝撃検出装置による検出手順を示す模式図である。
【
図9】この発明の第1実施形態に係る衝撃検出装置による検出過程を一例として示すグラフである。
【
図10】この発明の第1実施形態に係る衝撃検出装置の衝撃検出部による検出原理を説明するための模式図であり、(A)(B)は軸受と軸箱体との位置が相対的に変動する前後の状態を示す模式図である。
【
図11】この発明の第1実施形態に係る衝撃検出装置の異常検出部の検出原理を説明するために模式的に示すグラフであり、(A)は線路側の異常を検出したときのグラフであり、(B)は車両側の異常を検出したときのグラフである。
【
図12】この発明の第1実施形態に係る衝撃検出装置の動作を説明するためのフローチャートである。
【
図13】この発明の第3実施形態に係る衝撃検出システムの構成図である。
【
図14】この発明の第3実施形態に係る衝撃検出システムの衝撃検出装置の構成図である。
【
図15】置石を模擬した試験の結果を示すグラフである。
【
図16】レールの継目段違いを模擬した試験の結果を示すグラフであり、(A)は軸受と軸箱体との間の隙間の変動量の変化を示すグラフであり、(B)はこの変動量の実効値の変化を示すグラフである。
【
図17】レールの異常摩耗を模擬した試験の結果を示すグラフであり、(A)は軸受と続箱体との間の隙間の変動量の変化を示すグラフであり、(B)はこの変動量の実効値の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(第1実施形態)
以下、図面を参照して、この発明の第1実施形態について詳しく説明する。
図1、
図2及び
図4に示す線路1は、車両4A~4Cが走行する通路(線路)である。線路1は、
図4に示すように、左右一対のレール2を備えている。レール2は、車両4A~4Cの車輪9を支持し案内して、車両4A~4Cを走行させる部材である。レール2は、車両4A~4Cの車輪9と接触するレール頭部2aと、まくらぎ又はスラブ版などの支承体(支持体)に取り付けられるレール底部(フランジ部)2bと、レール頭部2aとレール底部2bとを繋ぐレール腹部(ウェブ部)2cなどを備えている。
【0016】
図1に示す列車3は、旅客又は貨物の運輸営業を行うことを目的として組成された車両である。列車3は、車両4A~4Cによって編成されている。
図1に示す車両4A~4Cは、線路1に沿って移動する移動体である。車両4A~4Cは、レール2上を走行する電気車、気動車又は客車などの鉄道車両である。車両4A~4Cは、
図1~
図4に示す車体5と、
図2及び
図4に示す空気ばね6と、
図2及び
図3に示す台車7A,7Bと、
図1~
図3に示す速度検出装置17A~17Dとを備えている。
図1に示す車両4Aは編成の先頭に位置する先頭車両であり、車両4Bは編成の中間に位置する中間車両であり、車両4Cは編成の後尾に位置する後尾車両(最後尾車両)である。車両4A,4Cは、動力を発生せず電動車にけん引される付随車(T車)である。車両4Bは、動力を発生する主電動機(モータ)を備える電動車(M車)である。
図1~
図4に示す車体5は、旅客又は貨物などの積載物を輸送する部分である。
【0017】
図2及び
図4に示す空気ばね6は、圧縮空気の弾性力を利用したばねである。空気ばね6は、車体5と台車枠13との間を結合しており、主として車体5に作用する垂直荷重を支持しつつ、台車枠13から車体5に伝わる振動を低減する装置(まくらばね)である。空気ばね6は、
図4に示すように、台車7A,7Bの右側と左側とにそれぞれ配置されている。
【0018】
図2及び
図3に示す台車7A,7Bは、車体5を支持して走行する装置である。台車7A,7Bは、いずれも同一構造であり、台車7Aは車両4A~4Cの前位側の第1台車であり、台車7Bは車両4A~4Cの後位側の第2台車である。台車7A,7Bは、
図2及び
図3に示す輪軸8A~8Dと、
図4に示す軸受11と、
図1~
図4に示す軸箱体12と、
図2~
図4に示す台車枠13と、
図2に示す軸はり14と、
図2及び
図4に示す軸ばね15とを備えている。
図2及び
図3に示す台車7A,7Bは、例えば、在来線車両などに使用される軸はり式の軸箱支持装置を備える台車であり、
図2に示すように軸箱体12と一体となった軸はり14を台車枠13に回転自在に連結する構造である。
【0019】
図2及び
図3に示す輪軸8A~8Dは、車輪9と車軸10とを組み立てた部材である。輪軸8A~8Dは、いずれも同一構造であり、輪軸8Aは台車7Aの前位側の輪軸であり、輪軸8Bは台車7Aの後位側の輪軸であり、輪軸8Cは台車7Bの前位側の輪軸であり、輪軸8Dは台車7Bの後位側の輪軸である。車輪9は、レール2と転がり接触する部材である。車輪9は、
図4に示すように、レール2のレール頭部2aの頭頂面と接触して摩擦抵抗を受ける踏面9aと、脱輪を防止するために車輪9の外周部に連続して形成されたフランジ面9bなどを備えている。車軸10は、車輪9と一体となって回転する部材である。車軸10は、この車軸10の両端に車軸端部10aを備えている。車軸10は、車軸端部10a側に左右一対の車輪9が圧入され取り付けられている。
図4に示す軸受11は、車軸10の車軸端部10aを回転自在に支持する部材である。軸受11は、車軸10のジャーナル部に取り付けられており、転動体の転がり運動によって荷重を支持しつつ回転を案内する転がり軸受である。
【0020】
図1~
図4に示す軸箱体12は、軸受11を収容する部材である。軸箱体12は、車軸10を保持する軸箱を構成する鋳鋼製又はアルミニウム鋳物製の主要部材である。軸箱体12は、
図2に示すように、この軸箱体12の外部に軸はり14及び軸ばね15が取り付けられており、
図4に示すようにこの軸箱体12の内部に軸受11を介して車軸10が嵌め込まれている。軸箱体12は、軸箱支持装置によって台車枠13の所定の位置に保持されている。軸箱体12は、この軸箱体12に軸受11を挿入可能とするために、
図10に示すようにこの軸箱体12の内周部と軸受11の外周部との間に、在来線車両の場合に約0.3mm程度の隙間(遊び)Δ
2が設計上形成されている。
【0021】
図2~
図4に示す台車枠13は、台車7A,7Bを構成する主要部材である。台車枠13は、左右の側梁とこれらをつなぐ横梁などによって構成されている。台車枠13は、図示しないけん引装置によって車体5に連結されており、車体5との間で前後方向の力が伝達される。
【0022】
図2に示す軸はり14は、軸箱体12を支持する部材である。軸はり14は、一方の端部が軸箱体12と一体に固定されており、他方の端部がゴムブシュ及びピンを介して台車枠13に回転自在に連結(ピン結合)されているリンク梁である。軸はり14は、台車枠13に対してピンを回転中心として回転することによって、軸箱体12を上下方向に移動可能にする。
【0023】
図2及び
図4に示す軸ばね15は、軸箱体12と台車枠13との間の衝撃を緩和する部材である。軸ばね15は、軸箱体12と台車枠13との間で垂直荷重を弾性的に支持しており、台車枠13に対して上下支持ばね作用を軸箱体12に付与するとともに、前後及び左右支持剛性を備えている。軸ばね15は、例えば、コイルばね、積層ゴム又はロールゴムなどである。
【0024】
図1~
図4に示す衝撃検出システム16は、線路1上を走行する車両4A~4Cの輪軸8A~8Dに加わる衝撃を検出するシステムである。衝撃検出システム16は、
図1~
図3に示す速度検出装置17A~17Dと、
図1~
図4に示す衝撃検出装置24と、告知装置36A,36Bとを備えている。衝撃検出システム16は、速度検出装置17A~17Dの出力信号を利用して、車両4A~4Cの輪軸8A~8Dに加わる衝撃を衝撃検出装置24によって検出し、衝撃検出装置24の出力信号に基づいて、線路1側及び車両4A~4C側の異常を衝撃検出装置24によって検出する。衝撃検出システム16は、既設の速度検出装置17A~17D及び告知装置36A,36Bとともに列車3に搭載されている。衝撃検出システム16は、車両4A~4Cの各種機器を一括して管理する列車情報管理システムの一部を利用、又は列車情報管理システムに追加することによって構成されている。
【0025】
図1~
図3に示す速度検出装置17A~17Dは、車両4A~4Cの速度を検出する装置である。速度検出装置17A~17Dは、輪軸8A~8Dの車軸10側とは非接触で車両4A~4Cの速度を検出する非接触式の速度検出装置である。速度検出装置17A~17Dは、
図1に示すように、車両4A~4Cの輪軸8A~8D毎に車両4A~4Cの速度を検出する。速度検出装置17Aは輪軸8Aの軸周速度を検出し、速度検出装置17Bは輪軸8Bの軸周速度を検出し、速度検出装置17Cは輪軸8Cの軸周速度を検出し、速度検出装置17Dは輪軸8Dの軸周速度を検出する。
図1~
図4に示す速度検出装置17A~17Dは、輪軸8A~8Dの車軸10の回転数に応じた電圧を発生して、輪軸8A~8Dの回転速度を計測する速度発電機である。速度検出装置17A~17Dは、
図5及び
図6に示すように、磁束が変動する環境下に存在する導体に電位差を生じさせる電磁誘導を利用して発電する。速度検出装置17A~17Dは、いずれも同一構造であり、
図5及び
図6に示す歯車(回転子)18と、発電部19と、
図5に示す保護部23とを備えている。速度検出装置17A~17Dは、
図5に示すように、車軸端部10aに取り付けた歯車の歯先18bと磁極21A,21Bとの間に1mm程度の隙間Δ
1をあけて、非接触式の磁気センサを軸箱体12に取り付けて、歯車の回転数を検知し列車速度に換算して出力する。以下では、
図1~
図5に示す速度検出装置17Aを中心に説明し、速度検出装置17B~17Dについては詳細な説明を省略する。
【0026】
図5及び
図6に示す速度検出装置17Aは、輪軸8A側の歯車18と軸箱体12側の磁極21A,21Bとの間の隙間Δ
1で磁束が変化することによって発生する誘導起電力を出力信号として出力する。速度検出装置17Aは、
図6(A)(B)に示すように、歯車18及び発電部19によって磁気回路を構成しており、誘導子として機能する歯車18が回転して磁束が変化したときに、
図6(C)に示すように交流電圧(交流波形)を発生する。速度検出装置17Aは、車両4Aの速度が極低速(例えば10km/h未満)であるときには速度に比例して周波数及び振幅が増加するような出力信号を出力し、車両4Aの速度が約10km/h以上であるときには速度の影響が少なく、主に隙間Δ
1に応じて振幅が変化するような出力信号を出力する。速度検出装置17Aは、
図6(C)に示すように、車両4Aの速度に応じた周波数と隙間Δ
1に応じた振幅をもつ速度検出信号(出力信号 (出力電圧)) S
1を衝撃検出装置24に出力する。
【0027】
図5及び
図6に示す歯車18は、車軸端部10aと一体となって回転する部材である。歯車18は、
図5に示すように、この歯車18の回転中心と車軸10の車軸端部10aの中心線とが一致するように、
図4に示すように車軸端部10aに取り付けられている。歯車18は、
図5及び
図6に示すように、この歯車18の外周部の周方向に所定の間隔をあけて歯18aを備えている。歯18aは、歯車18の先端部である歯先18bと、歯車18の根本部である歯底18cとを備えている。
【0028】
図5及び
図6に示す発電部19は、歯車18の回転に応じて誘導起電力を発生する部分である。発電部19は、歯車18との間に隙間Δ
1をあけて軸箱体12に取り付けられており、歯車18が回転することによって発生する誘導起電力を出力信号として出力する。発電部19は、車両4Aの速度を検出するセンサ部として機能し、歯車18の回転数に比例する周波数の交流電圧を発生する。発電部19は、
図1、
図2及び
図5に示すように、軸箱体12に対して略水平に取り付けられている。発電部19は、
図5及び
図6に示すように、永久磁石20と、検出コイル22A,22Bとを備えている。
【0029】
図5及び
図6に示す永久磁石20は、磁場を発生する部材である。永久磁石20は、例えば、アルニコ磁石、フェライト磁石又はネオジム磁石などである。磁極21A,21Bは、歯車18を引き付ける力が最も強くなる部分である。磁極21A,21Bは、永久磁石20の両端部に形成されており、一方がN極であり他方がS極である。磁極21A,21Bは、歯先18b及び歯底18cと隙間Δ
1をあけて対向するように配置されている。磁極21A,21Bは、
図6(A)に示すように歯先18bと対向しているときには隙間Δ
1が狭くなり、
図6(B)に示すように歯底18cとが対向しているときには隙間Δ
1が広くなる。
【0030】
図5及び
図6に示す検出コイル22A,22Bは、歯車18と磁極21A,21Bとの間の磁束の変化によって発生する誘導起電力を検出するコイルである。検出コイル22Aは、磁極21Aに巻き回されており、検出コイル22Bは磁極21Bに巻き回されている。検出コイル22A,22Bは、
図6(A)(B)に示すように、歯車18が回転して磁極21A,21Bと歯先18b及び歯底18cとの間の隙間Δ
1における磁束が連続的に繰り返して変化することによって、
図6(C)に示すように交流電圧を発生する。
図5に示す保護部23は、歯車18及び発電部19を保護する部分である。保護部23は、歯車18及び発電部19を覆う蓋状のカバーであり、軸箱体12に着脱自在に取り付けられている。
【0031】
次に、この発明の第1実施形態に係る衝撃検出装置を備える車両に使用される速度検出装置の原理を説明する。
図1及び
図2に示すように、線路1上を車両4A~4Cが走行すると、レール2上を車輪9が転動して、車軸10と一体となって歯車18が回転する。
図6(A)に示すように、歯車18の歯先18bと磁極21A,21Bとが対向すると、これらの間の隙間Δ
1が狭くなるため、隙間Δ
1の磁束が最大となり、検出コイル22A,22Bが出力する電圧が最大になる。一方、
図6(B)に示すように、歯車18の歯底18cと磁極21A,21Bとが対向すると、これらの間の隙間Δ
1が広くなるため、隙間Δ
1の磁束が最小になり、検出コイル22A,22Bが出力する電圧の最小になる。歯車18が回転することによって、歯車18と磁極21A,21Bとの間の磁束が連続して繰り返し変化して、
図6(C)に示すように車両4A~4Cの走行速度に応じた周波数の交流電圧を発電部19が出力する。例えば、車両4A~4Cの走行速度が比較的高いときには、周波数が比較的高い交流電圧を発電部19が発生し、車両4A~4Cの走行速度が比較的低いときには、周波数が比較的低い交流電圧を発電部19が発生する。
【0032】
図1~
図4、
図7及び
図8に示す衝撃検出装置24は、線路1上を走行する車両4A~4Cの輪軸8A~8Dに加わる衝撃を検出する装置である。衝撃検出装置24は、車両4A~4Cに搭載されている既設の速度検出装置17A~17Dが出力する速度検出信号S
1を利用して、輪軸8A~8Dに加わる衝撃を検出する。衝撃検出装置24は、線路1側の異常に起因して輪軸8A~8Dに加わる衝撃と、車両4A~4C側の異常に起因して輪軸8A~8Dに加わる衝撃とを検出する。衝撃検出装置24は、輪軸8A~8Dに加わる衝撃の原因である線路1側の異常の内容と車両4A~4C側の異常の内容とを検出するとともに、線路1側及び車両4A~4C側の異常の発生箇所を検出する。
【0033】
ここで、線路1側の異常の内容とは、例えば、線路1上の置石などの障害物、レール継目部の前後のレール2の頭頂面の高さに差が生じる段違い、レール2の腐食による異常摩耗、レール2の頭頂面に一定間隔で形成される波状摩耗、レール2の傷又は折損、まくらぎを支持する道床が沈下する軌道沈下、まくらぎと道床との間に隙間ができる浮きまくらぎ、道床を支持する路盤の表面が陥没する路盤陥没などである。車両4A~4C側の異常の内容とは、例えば、レール2上で車輪9が固着又は滑走したときにレール2との摩擦によって車輪9の踏面9aに形成されるフラット、車軸10又は軸受11の亀裂又は摩耗などの損傷、空気ばね6、軸箱体12、台車枠13又は軸はり14などの損傷である。異常の発生箇所とは、例えば、異常が発生した車両4A~4Cの総数を表す車両数、異常が発生した車両4A~4Cが何号車であるかを表す号車番号、異常が発生した輪軸8A~8Dの総数を表す輪軸数、異常が発生した輪軸8A~8Dが何番目であるかを表す軸番号などである。
【0034】
衝撃検出装置24は、
図10に示すように、軸受11と軸箱体12との間の隙間Δ
2の変動によって生じる速度検出装置17A~17Dが出力する速度検出信号S
1の変化に基づいて、輪軸8A~8Dに加わる衝撃を検出して、線路1側及び車両4A~4C側の異常を検出する。衝撃検出装置24は、
図9(A)(B)に示すように、速度検出装置17A~17Dが出力する速度検出信号(電圧波形)S
1を包絡線処理して振幅信号(振幅波形)S
2を出力する。衝撃検出装置24は、
図9(B)(C)に示すように、輪軸8A~8Dに加わる衝撃に起因する周波数成分をフィルタ処理によって振幅信号S
2から抽出し、抽出後の衝撃検出信号S
3のレベルが基準値(しきい値)Thを超えるときには線路1側又は車両4A~4C側に異常があると判定する。衝撃検出装置24は、
図7に示す信号入力部25と、
図7及び
図8に示す走行位置演算部26と、速度演算部27と、振幅抽出部28と、衝撃検出部29と、異常検出部30と、異常判定基準記憶部31と、告知指令部32と、検出結果記憶部33と、
図7に示す衝撃検出プログラム記憶部34と、制御部35とを備えている。
【0035】
図9は、衝撃検出装置24による衝撃の検出過程を一例として示すグラフである。
図9(A)は速度検出装置17A~17Dが出力する速度検出信号S
1の波形を一例として示すグラフであり、縦軸は出力信号[V]であり、横軸は時間[s]である。
図9(B)は速度検出信号S
1を包絡線処理して振幅を抽出した振幅信号S
2の波形を一例として示すグラフであり、縦軸は出力信号[V]であり、横軸は時間[s]である。
図9(C)は包絡線処理後の振幅信号S
2をフィルタ処理して衝撃成分を抽出した抽出後の衝撃検出信号S
3の波形を一例として示すグラフであり、縦軸はフィルタ処理後の成分[V]であり、横軸は時間[s]である。衝撃検出装置24は、
図9(A)に示す速度検出信号S
1を、
図9(B)に示す包絡線処理して包絡線のみを取り出した振幅信号S
2を生成し、
図9(B)に示す包絡線処理後の振幅信号S
2を、
図9(C)に示すフィルタ処理して抽出後の衝撃検出信号S
3を生成し、衝撃に起因する信号成分を抽出する。
【0036】
図7に示す信号入力部25は、速度検出装置17A~17Dが出力する速度出力信号S
1を入力させる手段である。信号入力部25は、速度検出装置17A~17Dが出力する速度検出信号S
1を制御部35に出力する。信号入力部25は、例えば、速度検出装置17A~17Dが出力する速度検出信号S
1を制御部35に入力させるインタフェース(I/F)回路などである。
【0037】
図7及び
図8に示す走行位置演算部26は、車両4A~4Cの走行位置を演算する手段である。走行位置演算部26は、例えば、線路1の特定地点に設置された自動列車停止装置(ATS)のATS車上子が出力する絶対位置情報を受信して車両4A~4Cの絶対位置を検出し、次のATS地上子に車両4A~4Cが到達するまで、車両4A~4Cの走行距離を演算する。走行位置演算部26は、例えば、速度検出装置17A~17Dが出力する速度検出信号S
1をアナログ信号からディジタル信号に変換するA/D変換部と、このA/D変換部が出力する出力信号を処理するディジタルフィルタ部などを備えている。走行位置演算部26は、速度検出信号S
1を距離パルス信号に変換して、この距離パルス信号を積算して車両4A~4Cの走行距離を演算する。走行位置演算部26は、起点からの車両4A~4Cの走行距離(移動距離)を走行位置信号(走行位置データ)として制御部35に出力する。
【0038】
速度演算部27は、車両4A~4Cの速度を演算する手段である。速度演算部27は、例えば、速度検出装置17A~17Dが出力する速度検出信号S
1をアナログ信号からディジタル信号に変換するA/D変換部と、このA/D変換部が出力する出力信号を処理するディジタルフィルタ部などを備えている。速度演算部27は、速度検出信号(
図5に示す歯車18の歯数に応じた交流波形)S
1を距離パルス信号に変換して、この距離パルス信号を一定時間内で積算して移動平均を演算し車両4A~4Cの走行速度を演算する。速度演算部27は、車両4A~4Cの走行速度を速度信号(速度データ)として制御部35に出力する。
【0039】
振幅抽出部28は、速度検出装置17A~17Dが出力する速度検出信号S
1から振幅を抽出する手段である。振幅抽出部28は、例えば、速度検出装置17A~17Dが出力する速度検出信号S
1を包絡線処理(エンベロープ処理)して速度検出信号S
1の振幅を演算する。ここで、包絡線処理とは、
図9(A)に示す出力電圧の波形の包絡線を演算する処理である。振幅抽出部28は、例えば、速度検出装置17A~17Dが出力する速度検出信号S
1をアナログ信号からディジタル信号に変換するA/D変換部と、このA/D変換部が出力する出力信号から包絡線を取り出す包絡線検波回路などを備えている。振幅抽出部28は、例えば、
図9(A)に示すような速度検出装置17A~17Dが出力する出力電圧の変化を表す波形の振幅の外形を取り出す包絡線処理して、
図9(B)に示すような出力電圧の振幅の変化を表す波形に変換する。振幅抽出部28は、抽出後の振幅信号(振幅データ)S
2を制御部35に出力する。
【0040】
衝撃検出部29は、速度検出装置17A~17Dの出力信号に基づいて、輪軸8A~8Dに加わる衝撃を検出する手段である。衝撃検出部29は、振幅抽出部28が出力する振幅信号S
2に基づいて、輪軸8A~8Dに加わる衝撃を検出する。衝撃検出部29は、
図10に示す軸受11と軸箱体12との間の隙間Δ
2でこれらが相対変位することによって、
図5に示す歯車18と磁極21A,21Bとの間の隙間Δ
1でこれらが相対変位したときに、速度検出装置17A~17Dが出力する速度検出信号S
1に基づいて、輪軸8A~8Dに加わる衝撃を検出する。衝撃検出部29は、車両4A~4Cの輪軸8A~8D毎に衝撃を検出する。衝撃検出部29は、複数のフィルタ部F
1,…,F
Nを備えている。
【0041】
次に、この発明の第1実施形態に係る衝撃検出装置の衝撃検出部による検出原理を説明する。
図10は、軸受11と軸箱体12との位置が相対的に変動する状態を示す模式図である。
図10に示すように、主に前後接線力F
tの影響によって軸受11と軸箱体12との位置が相対的に変動する。ここで、
図10に示す垂直荷重F
vは、車体5及び台車7A,7Bに対して垂直方向に作用する荷重である。前後接線力F
tは、レール2上を車輪9が転がるときに、レール2と車輪9との接触面に平行な方向に作用する力である。隙間Δ
21~Δ
24は、それぞれ上方、下方、前方及び後方に形成される軸受11の外周部と軸箱体12の内周部との間の間隔である。前後接線力F
tは、車両4A~4Cが引張力を発生して走行する力行時には進行方向前側に作用し、走行している車両4A~4Cを減速又は停止させるブレーキ時には進行方向後側に作用する。
【0042】
図1に示すように、車両4A~4Cが走行しているときに輪軸8A~8Dに作用する外力が変化すると、
図10に示すように軸受11と軸箱体12との相対位置が変動して前後方向の隙間Δ
21,Δ
22が変動する。
図1及び
図5に示すように、速度検出装置17A~17Dの発電部19が輪軸8A~8Dに対して前後方向に取り付けられているため、
図10に示す軸受11と軸箱体12との相対位置が変動すると、
図5に示す歯車18の歯先18bと磁極21A,21Bとの間の相対位置も変動する。このため、
図10に示す輪軸8A~8Dに衝撃が加わって、軸受11と軸箱体12との間の隙間Δ
21,Δ
22が変動すると、
図5に示す車軸端部10aに取り付けられている歯車18と発電部19との間の隙間Δ
1も変動し、
図9に示す速度検出装置17A~17Dが出力する速度検出信号S
1に振幅の変化として現れる。その結果、速度検出装置17A~17Dが出力する速度検出信号S
1の振幅の変化を輪軸8A~8Dへの外力の変化として衝撃検出装置24が検出する。
【0043】
図8に示すフィルタ部F
1,…,F
Nは、輪軸8A~8Dに加わる衝撃に起因する周波数成分を速度検出装置17A~17Dの出力信号から抽出する手段である。フィルタ部F
1,…,F
Nは、
図9(B)に示す包絡線の波形から所定の周波数成分を取り出すために、振幅抽出部28が出力する振幅信号S
2をフィルタ処理する。フィルタ部F
1,…,F
Nは、例えば、輪軸8A~8Dに加わる衝撃に起因する通過帯域(周波数帯域)の出力信号のみを通過させ、この通過帯域以外の出力信号を減衰させる帯域通過フィルタ(band-pass filter(BPF))などのフィルタ回路である。フィルタ部F
1,…,F
Nは、例えば、異なる複数の通過帯域を有するデュアルバンド帯域通過フィルタを構成している。フィルタ部F
1,…,F
Nは、車両4A~4Cの輪軸8A~8Dに加わる衝撃の原因となる異常の内容毎に通過帯域が設定されている。フィルタ部F
1,…,F
Nは、例えば、線路1側又は車両4A~4C側に発生した異常によって輪軸8A~8Dに衝撃が加わったときに、この衝撃に起因する周波数成分を抽出可能なように、衝撃の原因となった異常の内容毎にそれぞれ異なる通過帯域に設定されている。
【0044】
フィルタ部F1,…,FNは、車両4A~4Cの速度に応じてこのフィルタ部F1,…,FNの通過帯域を変更する。フィルタ部F1,…,FNは、例えば、速度演算部27が演算する車両4A~4Cの速度に基づいて、車輪9の回転周期よりも早い脈動成分を、振幅抽出部28が出力する振幅信号S2から抽出する。フィルタ部F1,…,FNは、抽出後の衝撃に起因する周波数成分を衝撃検出信号S3として制御部35に出力する。
【0045】
図7及び
図8に示す異常検出部30は、衝撃検出部29の検出結果に基づいて、線路1側及び車両4A~4C側の異常を検出する手段である。異常検出部30は、車両4A~4Cの各輪軸8A~8Dの車軸10毎に異常が発生したか否かを検出する。異常検出部30は、フィルタ部F
1,…,F
Nが出力する衝撃検出信号S
3のレベルと基準値Thとを比較する比較器として機能するとともに、線路1側又は車両4A~4C側に異常が発生したか否かを判定する判定器としても機能する。異常検出部30は、フィルタ部F
1,…,F
Nが出力する衝撃検出信号S
3に基づいて、線路1側又は車両4A~4C側に異常が発生したか否かを判定する。異常検出部30は、フィルタ部F
1,…,F
Nが出力する衝撃検出信号S
3のレベルが基準値Thを超えるか否かを判定する。
【0046】
異常検出部30は、
図11に示すように、輪軸8A~8Dに衝撃が加わったときの速度検出装置17A~17Dの出力信号の振幅が基準値Thを超えるときには、線路1側又は車両4A~4C側に異常が発生したと判定する。異常検出部30は、フィルタ部F
1,…,F
Nが出力する衝撃検出信号S
3が基準値Thを超えるときには線路1側又は車両4A~4C側に異常が発生したと判定する。一方、異常検出部30は、フィルタ部F
1,…,F
Nが出力する衝撃検出信号S
3が基準値Th以下であるときには線路1側又は車両4A~4C側が正常であると判定する。異常検出部30は、フィルタ部F
1,…,F
Nを通過後の衝撃検出信号S
3が、異常の内容毎に設定されている基準値Thを超えたか否かを判定することによって、輪軸8A~8Dに加わる衝撃の原因となった異常の内容が何であるかを検出する。例えば、障害物を踏んだときに発生する異常であるか否かを判定するために設定されている基準値Thを、フィルタ部F
1,…,F
Nを通過後の衝撃検出信号S
3が超えたときには、輪軸8A~8Dに加わる衝撃の原因となる異常の内容が障害物を踏んだことにより発生した異常であると判定する。
【0047】
異常検出部30は、線路1側に起因する異常又は車両4A~4C側に起因する異常であるかを、衝撃検出信号S
3が基準値Thを超える頻度(衝撃検出信号S
3の繰り返し周波数)を利用して判別する。異常検出部30は、例えば、
図11(A)に示すように、衝撃検出信号S
3が基準値Thを1回のみ超えており、衝撃を検出した通過地点を通過した後には基準値Thを超えていないときには、車輪9が障害物を踏んだか継目段違いを通過するなどのような線路1側の異常に起因すると判断する。一方、異常検出部30は、例えば、
図11(B)に示すように、衝撃検出信号S
3が基準値Thを所定の時間間隔ΔTで繰り返し超えて衝撃が継続するときには、車輪9のフラットや軸受11の損傷などのような車両4A~4C側の異常に起因すると判断する。
【0048】
異常検出部30は、異常の発生箇所を検出する。異常検出部30は、例えば、先頭から何両目の車両4A~4Cに異常が発生したか、先頭から何番目の輪軸8A~8Dに異常が発生したかなどを検出する。異常検出部30は、線路1側又は車両4A~4C側の異常を検出したときには、各異常の内容及び各異常の発生箇所に対応する異常検出信号S4を制御部35に出力する。
【0049】
異常検出部30は、車両4A~4Cの走行位置に基づいて基準値Thを変更して、線路1側及び車両4A~4C側の異常を検出する。異常検出部30は、異常判定基準記憶部31が記憶する基準値Thを、車両4A~4Cの走行位置に基づいて変更し、フィルタ部F1,…,FNを通過後の衝撃検出信号S3が、変更後の基準値Thを超えたか否かを判定する。異常検出部30は、例えば、車両4A~4Cの走行位置に基づいて、車両4A~4Cが分岐器やレール継目部を通過していると判定したときには、輪軸8A~8Dに加わる衝撃が通常よりも大きくなることが正常であるため、基準値Thを比較的高い値に変更して、異常の有無を判定する。一方、異常検出部30は、車両4A~4Cの走行位置に基づいて、分岐器やレール継目部以外を通過していると判定したときには、輪軸8A~8Dに僅かな衝撃が加わったときでも異常であるため、基準値Thを比較的低い値に変更して、異常の有無を判定する。
【0050】
異常判定基準記憶部31は、線路1側及び車両4A~4C側の異常を判定するときの判定基準を記憶する手段である。異常判定基準記憶部31は、線路1側及び車両4A~4C側に発生する異常の内容毎に基準値Thを判定基準データとして記憶する記憶装置である。異常判定基準記憶部31は、例えば、線路1側の異常を異常の内容毎に判定するための基準値Thと、車両4A~4C側の異常を異常の内容毎に判定するための基準値Thとを記憶する。異常判定基準記憶部31は、制御部35によってアクセス可能なように判定基準データが電子的に保存されているデータベースである。
【0051】
告知指令部32は、異常検出部30の検出結果の告知を告知装置36A,36Bに指令する手段である。告知指令部32は、線路1側又は車両4A~4C側の異常の内容及び発生箇所を告知装置36A,36Bが告知するように、告知装置36A,36Bに告知動作を指令する。告知指令部32は、線路1側又は車両4A~4C側に発生する異常の内容及び異常の検出箇所に応じた告知指令信号を告知装置36A,36Bに出力する。
【0052】
検出結果記憶部33は、衝撃検出装置24の検出結果を記憶する手段である。検出結果記憶部33は、衝撃検出部29の検出結果及び異常検出部30の検出結果を検出時間及び走行距離と対応させて記憶する記憶装置である。検出結果記憶部33は、例えば、車両4A~4Cに衝撃が加わった場所及び時間を特定可能なように、衝撃検出部29の検出結果を記憶するとともに、線路1側及び車両4A~4C側の異常が検出された場所及び時間を特定可能なように、異常検出部30の検出結果を記憶する。
【0053】
図7に示す衝撃検出プログラム記憶部34は、線路1上を走行する車両4A~4Cの輪軸8A~8Dに加わる衝撃を検出する衝撃検出プログラムを記憶する手段である。衝撃検出プログラム記憶部34は、情報記録媒体から読み取った衝撃検出プログラム又は電気通信回線を通じて取り込まれた衝撃検出プログラムを記憶する記憶装置などである。
【0054】
制御部35は、衝撃検出装置24に関する種々の動作を制御する中央処理部(CPU)である。制御部35は、衝撃検出プログラム記憶部34から衝撃検出プログラムを読み出して、この衝撃検出プログラムに従って衝撃検出処理を実行する。制御部35は、例えば、信号入力部25から入力する速度検出信号S1を走行位置演算部26、速度演算部27及び振幅抽出部28に出力したり、走行位置演算部26が出力する走行位置信号を検出結果記憶部33に出力したり、走行位置演算部26の演算結果の記憶を検出結果記憶部33に指令したり、速度演算部27が出力する速度信号を衝撃検出部29に出力したり、振幅抽出部28が出力する振幅信号S2を衝撃検出部29に出力したり、異常判定基準記憶部31から判定基準データを読み出して異常検出部30に出力したり、衝撃検出部29が出力する衝撃検出信号S3を異常検出部30に出力したり、衝撃検出部29の検出結果及び異常検出部30の検出結果の記憶を検出結果記憶部33に指令したり、異常判定基準記憶部31から基準値Thを読み出して異常検出部30に出力したり、異常検出部30の検出結果の記憶を検出結果記憶部33に指令したり、異常検出部30が出力する異常検出信号S4を告知指令部32に出力したりする。制御部35は、信号入力部25、走行位置演算部26、速度演算部27、振幅抽出部28、衝撃検出部29、異常検出部30、異常判定基準記憶部31、告知指令部32、検出結果記憶部33及び衝撃検出プログラム記憶部34などと通信可能に接続されている。
【0055】
図1に示す告知装置36A,36Bは、線路1側及び車両4A~4C側の異常を告知する装置である。告知装置36A,36Bは、衝撃検出装置24の異常検出部30が線路1側及び車両4A~4C側の異常を検出したときに、告知指令部32が出力する告知指令信号を受信して、線路1側及び車両4A~4C側に発生する異常の内容及び発生箇所を告知する。告知装置36A,36Bは、乗務員が乗務する乗務員室内で種々の情報を乗務員に対して表示する運転台表示器などである。
図1~
図4に示す告知装置36Aは先頭の車両4Aの乗務員室内に設置されており、
図1に示す告知装置36Bは後尾の車両4Cの乗務員室内に設置されている。告知装置36A,36Bは、例えば、異常の内容、発生箇所、発生地点及び発生時刻などの情報を文字、図形、記号、色彩又はこれらの組み合わせによって案内する液晶画面などの表示装置や、これらの情報を音で案内するスピーカ又は警報音などの音発生装置である。告知装置36A,36Bは、例えば、列車情報管理システムの表示装置又は音声発生装置を利用可能である。
【0056】
次に、この発明の第1実施形態に係る衝撃検出装置の動作について説明する。
以下では、
図7に示す制御部35の動作を中心に説明する。
図12に示すステップ(以下、Sという)100において、衝撃検出プログラム記憶部34から衝撃検出プログラムを制御部35が読み込む。
図1に示す車両4A~4Cが運行を開始して衝撃検出装置24に電源装置から電力が供給されて衝撃検出装置24が起動すると、
図7に示す衝撃検出プログラム記憶部34から衝撃検出プログラムを制御部35が読み出して、一連の衝撃検出処理を制御部35が実行する。
【0057】
S200において、速度検出信号S
1が入力したか否かを制御部35が判断する。
図1に示す車両4A~4Cが走行を開始して速度検出装置17A~17Dが速度検出信号S
1を衝撃検出装置24に出力すると、
図8に示す速度検出信号S
1が信号入力部25を通じて
図7に示す制御部35に入力する。
図1に示す速度検出装置17A~17Dから速度検出信号S
1が入力したと制御部35が判断したときにはS300に進み、速度検出信号S
1が入力していないと制御部35が判断したときには、速度検出信号S
1が入力するまでS200の判断を制御部35が繰り返す。
【0058】
S300において、振幅抽出部28に振幅の抽出を制御部35が指令する。
図1に示す速度検出装置17A~17Dが出力する速度検出信号S
1が
図8に示す振幅抽出部28に入力すると、
図9(B)に示すように速度検出信号S
1を振幅抽出部28が包絡線処理して、包絡線処理後の振幅信号S
2を振幅抽出部28が衝撃検出部29に出力する。
【0059】
S400において、衝撃検出部29に衝撃の検出を制御部35が指令する。
図8に示す振幅抽出部28が出力する振幅信号S
2が衝撃検出部29に入力すると、
図9(C)に示すように輪軸8A~8Dに加わる衝撃に起因する周波数成分を振幅信号S
2からフィルタ部F
1,…,F
Nが抽出して、抽出後の衝撃検出信号S
3を衝撃検出部29が異常検出部30に出力する。この実施形態では、線路1側及び車両4A~4C側の異常の内容毎に、フィルタ部F
1,…,F
Nの各通過帯域が設定されている。このため、異常の内容毎に衝撃の有無を衝撃検出部29が検出し、異常の内容に応じた衝撃検出信号S
3を異常検出部30に衝撃検出部29が出力する。
【0060】
S500において、異常検出部30に異常の検出を制御部35が指令する。
図8に示す衝撃検出部29が出力する衝撃検出信号S
3が異常検出部30に入力すると、
図11に示すように衝撃検出信号S
3のピーク値が基準値Thを超えているか否かを異常検出部30が判定する。線路1側及び車両4A~4C側に発生する異常の内容毎に基準値Thが設定されているため、異常の内容毎に衝撃検出信号S
3が基準値Thを超えているか否かを異常検出部30が判断する。
【0061】
図1に示すように、列車3が矢印方向に走行しているときに、車両4A~4Cの各輪軸8A~8Dの車軸10毎に異常が発生したか否かを異常検出部30が検出する。例えば、先頭の車両4Aの第1軸の輪軸8Aに大きな衝撃が加わって異常検出部30が異常を検出したが、先頭の車両4Aの第2軸以降の輪軸8B~8Dに大きな衝撃が加わらず異常検出部30が異常を検出しない場合がある。この場合には、第1軸の輪軸8Aが置石のような障害物を踏んだことが衝撃の原因であり、この障害物を輪軸8Aが踏んだ時点でこの障害物が取り除かれたものと異常検出部30が判断する。また、
図1に示すように、列車3が矢印方向に走行している場合に、編成中の車両4A~4Cの全ての輪軸8A~8Dが同じ通過位置を通過するときに、異常検出部30が異常を検出する場合がある。この場合には、異常発生時の走行位置が検出結果記憶部33に記録されているため、鉄道会社が保有する線路上の軌道構造及び設備などを起点からの距離と対応させてデータベースとして記憶している線路情報を照合して、異常発生時の通過地点がレール継目部又は分岐器などであるか特定される。一方、異常発生時の通過地点が特別な場所ではないときには、レール2の異常摩耗や損傷などがこの通過地点で生じていると異常検出部30が判断し、検出結果記憶部33に記録されている異常発生時の通過位置が特定される。さらに、列車3が矢印方向に走行しているときに、走行位置にかかわらず車輪9の回転周波数の整数倍で、異常検出部30が常に異常を検出するときには、車輪9又は軸受11が損傷していると異常検出部30が判断する。その結果、異常の内容毎に異常の発生の有無を異常検出部30が判定するとともに、異常の発生箇所を異常検出部30が判断し、異常の内容及び発生箇所に応じた異常検出信号S
4を告知指令部32に異常検出部30が出力する。線路1側又は車両4A~4C側の異常を異常検出部30が検出したときにはS600に進み、線路1側又は車両4A~4C側の異常を異常検出部30が検出しなかったときにはS700に進む。
【0062】
S600において、異常発生の告知の指令を告知指令部32に制御部35が指令する。
図8に示す異常検出部30が出力する異常検出信号S
4が告知指令部32に入力すると、
図1に示す線路1側及び車両4A~4C側の異常の内容及び発生箇所に応じた告知指令信号を告知指令部32が告知装置36A,36Bに指令する。その結果、異常の内容及び発生箇所に応じた警報を告知装置36A,36Bが発生し、線路1側又は車両4A~4C側の異常の内容及び発生箇所を乗務員が把握して、線路1又は車両4A~4Cの安全を乗務員が確認する。例えば、
図2に示す先頭の車両4Aの第1軸の輪軸8Aに異常が検出されて、先頭の車両4Aの第2軸以降の輪軸8B~8Dに異常が検出されない場合がある。この場合には、第1軸の輪軸8Aに損傷がないか乗務員が確認すれば足り、第2軸以降の輪軸8B~8Dについては損傷がないか乗務員が確認する必要がない。また、例えば、
図1に示す列車3の編成中の車両4A~4Cのうち一部の車両4Aのみに異常が検出された場合や、
図2に示す全ての輪軸8A~8Dのうち一部の輪軸8Aのみに異常が検出されたような場合がある。この場合には、異常が検出された車両4Aや輪軸8Aのみを乗務員が確認すれば足り、異常の発生していない車両4B,4Cや輪軸8B~8Dについては乗務員が確認する必要がない。
【0063】
S700において、車両4A~4Cが運行を終了したか否かを制御部35が判断する。車両4A~4Cが運行を終了したと制御部35が判断したときには、一連の衝撃検出処理を制御部35が終了する。一方、車両4A~4Cが運行を継続していると制御部35が判断したときにはS200に戻り、S200以降の衝撃検出処理を制御部35が繰り返す。
【0064】
この発明の第1実施形態に係る衝撃検出装置には、以下に記載するような効果がある。
(1) この第1実施形態では、車両4A~4Cの輪軸8A~8Dの車軸10側とは非接触で車両4A~4Cの速度を検出する非接触式の速度検出装置17A~17Dが出力する速度検出信号S1に基づいて、輪軸8A~8Dに加わる衝撃を衝撃検出部29が検出する。このため、非接触式の速度検出装置17A~17Dを利用することによって、車両4A~4Cに加わる衝撃を低コストで簡単に検出することができる。例えば、車両4A~4Cに搭載されている鉄道車両の既設の非接触式の速度発電機の出力電圧を応用することによって、振動センサや加速度センサなどの新規の検出装置を導入せずに、レール2上の障害物やレール2の異常摩耗のような線路1側の異常や、輪軸8A~8Dや軸受11の損傷などのような車両4A~4C側の異常を検知することができる。その結果、レール2や車両4A~4Cの状態を監視することによって、走行安全性を向上させることができるとともに、レール2や車両4A~4Cの不具合を早期に発見することができる。
【0065】
(2) この第1実施形態では、車両4A~4Cの輪軸8A~8Dの車軸端部10aを回転自在に支持する軸受11と、軸受11を収容する軸箱体12との間の隙間Δ2で、これらが相対変位したときに速度検出装置17A~17Dが出力する速度検出信号S1に基づいて、輪軸8A~8Dに加わる衝撃を衝撃検出部29が検出する。このため、軸受11と軸箱体12との間に形成されている設計上の隙間(遊び)Δ2が変化したときに、速度検出装置17A~17Dが出力する速度検出信号S1の振幅が変化する現象を利用して、輪軸8A~8Dに加わる衝撃を検出することができる。
【0066】
(3) この第1実施形態では、輪軸8A~8Dの車軸端部10aと一体となって回転する歯車18と軸箱体12側の磁極21A,21Bとの間の隙間Δ1で磁束が変化することによって発生する誘導起電力を速度検出信号S1として速度検出装置17A~17Dが出力する。また、この第1実施形態では、歯車18と磁極21A,21Bとの間の隙間Δ1でこれらが相対変位したときに発生する速度検出装置17A~17Dが出力する速度検出信号S1に基づいて、輪軸8A~8Dに加わる衝撃を衝撃検出部29が検出する。このため、速度検出用の非接触式の速度発電機が鉄道車両に搭載されているときに、振動加速度センサなどを導入せずに、既設の速度発電機の出力電圧を応用して、輪軸8A~8Dに加わる衝撃を簡単に検出することができる。
【0067】
(4) この第1実施形態では、車両4A~4Cに異常が発生したときに輪軸8A~8Dに加わる衝撃に起因する周波数成分を、速度検出装置17A~17Dが出力する速度検出信号S1からフィルタ部F1,…,FNが抽出する。速度検出装置17A~17Dが出力する振幅波形のレベルはレール/車輪間の摩擦係数の影響によって増減するため、正常な場合であっても振幅波形のレベルが増減し、振幅波形のレベルをしきい値によって判定しても異常を正確に検出することができない。この第1実施形態では、速度検出装置17A~17Dが出力する速度検出信号S1から衝撃に起因する信号を取り出すことによって、輪軸8A~8Dに加わる衝撃を簡単に検出することができる。
【0068】
(5) この第1実施形態では、車両4A~4Cの速度に応じてフィルタ部F1,…,FNの通過帯域を変更する。このため、速度検出装置17A~17Cが出力する速度検出信号S1に基づいて車軸10の軸速度を演算し、車輪回転数に応じてフィルタ部F1,…,FNの通過帯域を変更させて、輪軸8A~8Dに加わる衝撃を正確に検出することができる。
【0069】
(6) この第1実施形態では、車両4A~4Cの輪軸8A~8D毎に速度検出装置17A~17Bが車両4A~4Cの速度を検出し、車両4A~4Cの輪軸8A~8D毎に衝撃検出部29が衝撃を検出する。このため、先頭の車両4Aの輪軸8Aに過大な衝撃が加わったときには、障害物を輪軸8Aが踏んだことによって生じる異常であると判断することができる。また、列車3の編成中の全ての輪軸8A~8Dに同じ通過地点で過大な衝撃が加わったときには、この通過地点においてレール2の異常摩耗や継目段違いにより発生した異常であると判断することができる。また、通過地点にかかわらず一定間隔で過大な衝撃が加わったときには、車輪9のフラットや軸受11の損傷により発生した異常であると判断することができる。また、輪軸8A~8Dの一部又は全部に過大な衝撃が加わったときに、列車3の何両目までに異常が発生したか、列車3の何号車の何軸目に異常が発生したかを判断することができる。その結果、乗務員が異常の発生している号車の車輪9を確認すれば足りるため、乗務員の安全確認を短時間で行うことができ、列車3の運転を早期に再開することができる。さらに、この第1実施形態では、T車にのみ搭載されている速度検出装置17A~17Dを、M車についても搭載することによって、従来M車に搭載されているモータの回転から速度を検出する検出装置を省略することができる。その結果、従来M車に搭載されている検出装置のスペースが空くため、M車のモータを大型化して高出力化を図ることができる。
【0070】
(7) この第1実施形態では、衝撃検出部29の検出結果に基づいて、線路1側及び車両4A~4C側の異常を異常検出部30が検出する。このため、例えば、レール2上の障害物、レール2の継目段違い及びレール2の異常摩耗のような線路1側の異常の内容又は発生箇所を具体的に検出することができるとともに、車輪9のフラット及び軸受11の損傷のような車両4A~4C側の異常の内容や発生箇所を具体的に検出することができる。
【0071】
(8) この第1実施形態では、車両4A~4Cに異常が発生したときに輪軸8A~8Dに加わる衝撃に起因する周波数成分を、速度検出装置17A~17Dが出力する速度検出信号S1からフィルタ部F1,…,FNが抽出し、フィルタ部F1,…,FNが出力する衝撃検出信号S3の振幅が基準値Thを超えるときには、線路1側及び車両4A~4C側に異常が発生したと異常検出部30が判定する。このため、例えば、フィルタ部F1,…,FNを通過した後の衝撃検出信号S3のレベルが基準値Thを超えたか否かを判定することによって、線路1側又は車両4A~4C側に発生した異常を検出することができる。
【0072】
(9) この第1実施形態では、異常検出部30の検出結果の告知を告知装置36A,36Bに告知指令部32が指令する。このため、例えば、車両4A,4Cの運転台表示器などを利用して異常を発報することができ、車両4A,4Cの乗務員などに異常の発生を迅速に知らせることができる。その結果、車両4A,4Cを乗務員が停止させて、乗務員によって線路1や車両4A~4Cの安全を確認することができる。また、運転士による運転操作を行わずに列車3を運転する自動運転を実施する場合に、運転士以外の乗務員によっても異常を確認することができる。
【0073】
(第2実施形態)
以下では、
図1~
図8及び
図10に示す部分と同一の部分については、同一の符号を付して詳細な説明を省略する。
この第2実施形態は、
図7及び
図8に示す振幅抽出部28の包絡線処理とは異なる処理によって振幅信号S
2を出力する。振幅抽出部28は、速度検出装置17A~17Dが出力する位相がずれた複数の速度検出信号S
1から振幅を抽出する。振幅抽出部28は、交流波形(サイン波形)S
11と、この交流波形S
11に対して90°位相がずれた交流波形(コサイン波)S
12とに基づいて、以下の数1によって振幅波形S
21を演算する。
【0074】
【0075】
この第2実施形態では、第1実施形態の効果に加えて、以下に記載するような効果がある。
この第2実施形態では、速度検出装置17A~17Dが出力する位相がずれた複数の速度検出信号S1に基づいて、速度検出信号S1の振幅を振幅抽出部28が抽出する。車両4A~4Cの速度の演算に使用される交流波形S11と、従来全く利用されておらず交流波形S11に対して位相が90°ずれた交流波形S12とを、速度検出装置17A~17Dが出力している。この第2実施形態では、第1実施形態のような比較的複雑な包絡線処理を行わずに、従来全く利用されていなかった90°位相がずれた交流波形S12を有効に利用して、簡単な演算式によって交流波形S11,S12から振幅波形S21を演算することができる。
【0076】
(第3実施形態)
図13及び
図14に示す列車3A~3Cは、
図1~
図4に示す列車3と略同一構造であり、列車間隔をあけて線路1上を走行する。列車3A~3Cは、速度検出装置17A~17Dと、告知装置36A,36Bと、送受信装置37Aとを備えているが、
図1~
図4に示す衝撃検出装置24を備えていない。
【0077】
図13及び
図14に示す衝撃検出システム16は、速度検出装置17A~17Dと、衝撃検出装置24と、告知装置36A~36Cと、送受信装置37A,37Bとを備えている。衝撃検出システム16は、各列車3A~3Cの送受信装置37Aから送信される車両側の速度検出装置17A~17Dの検出結果を地上側の送受信装置37Bによって受信する。衝撃検出システム16は、各列車3A~3Cから受信した速度検出装置17A~17Dの検出結果に基づいて、地上側の衝撃検出装置24によって各列車3A~3Cの輪軸8A~8Dに加わる衝撃を検出するとともに、各列車3A~3Cの車両4A~4C側又は線路1側の異常を検出する。衝撃検出システム16は、地上側の衝撃検出装置24によって異常を検出したときには、告知装置36Cによって地上側の司令員に異常を告知するとともに、衝撃検出装置24による異常の検出を地上側の送受信装置37Bから車両側の送受信装置37Aに送信する。衝撃検出システム16は、各列車3A~3Cの告知装置36A,36Bによって異常の発生した各列車3A~3Cの乗務員に異常を告知する。
【0078】
衝撃検出装置24は、各列車3A~3Cの車両4A~4C側から送信される速度検出装置17A~17Dの検出結果を受信して、輪軸8A~8Dに加わる衝撃を地上側で検出する。衝撃検出装置24は、各列車3A~3Cの車両側の速度検出装置17A~17Dの検出結果を受信する送受信装置37Bが出力する速度検出信号S1から振幅抽出部28によって振幅を抽出する。衝撃検出装置24は、振幅抽出部28が出力する振幅信号S2に基づいて、各列車3A~3Cの輪軸8A~8Cに加わる衝撃を衝撃検出部29によって検出する。衝撃検出装置24は、衝撃検出部29のフィルタ部F1,…,FNが出力する衝撃検出信号S3に基づいて、各列車3A~3Cの車両4A~4C側の異常又は線路1側に異常が発生したか否かを異常検出部30によって判定する。衝撃検出装置24は、異常検出部30の検出結果の告知を地上側の告知装置36A,36Bに告知指令部32によって指令する。衝撃検出装置24は、異常検出部30の検出結果を各列車3A~3Cの告知装置36A,36Bが告知するように、地上側の送受信装置37Bから各列車3A~3Cの送受信装置37Aに告知指令部32によって指令される。
【0079】
告知装置36Cは、
図1~
図4、
図7及び
図8に示す告知装置36A,36Bと同一構造であり、運転指令所38の司令員に種々の情報を告知する表示装置又は音発生装置である。告知装置36Cは、例えば、列車3A~3Cの運行を管理する運行管理システムの表示装置又は音発生装置を利用可能である。
【0080】
送受信装置37A,37Bは、列車3A~3C側と運転指令所38側との間で種々のデータを送受信する装置である。送受信装置37Aは、各列車3A~3Cの速度検出装置17A~17Dが出力する速度検出信号S1を速度検出データとして記憶装置に記憶するとともに、この速度検出データを運転指令所38に逐次送信する車両側サーバなどである。送受信装置37Bは、送受信装置37Aが逐次送信する速度検出データを受信して記憶装置に記憶する地上側サーバなどである。送受信装置37A,37Bは、例えば、無線、電話回線又はインターネット回線などの電気通信回線によって、列車3A~3Cと運転指令所38との間で相互に通信する。送受信装置37Bは、線路1又は車両4A~4Bの異常を衝撃検出装置24が検出したときには、送受信装置37Aに異常検出信号S4を送信するとともに、故障復旧を行う現地作業員の携帯端末装置や、車両4A~4Cの検査及び修繕を行う車両基地の端末装置などに異常検出信号S4を送信する。
【0081】
運転指令所38は、列車3A~3Cを集中監視する機関である。運転指令所38は、この運転指令所38内で指令業務を行う指令員が従事する現業機関であり、運行管理システムによって管理される列車3A~3Cの運行状況の監視などの業務が指令員によって行われる。運転指令所38は、衝撃検出装置24と、告知装置36Cと、送受信装置37Bとを備えている。
【0082】
この発明の第3実施形態に係る衝撃検出システムには、第1実施形態及び第2実施形態の効果に加えて、以下に記載するような効果がある。
この第3実施形態では、輪軸8A~8Dの車軸10側とは非接触で車両4A~4Cの速度を速度検出装置17A~17Dが車両4A~4C側で検出し、車両4A~4C側から送信される速度検出装置17A~17Dの検出結果を衝撃検出装置24が受信して、輪軸8A~8Dに加わる衝撃を衝撃検出装置24が地上側で検出する。このため、線路1上を走行する複数の列車3A~3Cの輪軸8A~8Dに加わる衝撃を地上側で集約して、輪軸8A~8Dに加わる衝撃を列車3A~3C毎に分析することができる。その結果、例えば、列車3A~3C毎に異常が発生したか否かを判断して、各列車3A~3Cの乗務員に異常を告知することができる。
【実施例0083】
公益財団法人鉄道総合技術研究所内の試験線に試験車両を走行させて、この試験車両の既設の非接触式の速度発電機の出力信号を使用して、線路及び輪軸の異常検出の可能性を確認するための試験を行った。試験車両は、研究所内の試験線を走行する2両片編成の在来線直流試験電車である。速度発電機は、シンフォニアテクノロジー株式会社製の型式AG48であり、試験車両の付随車(T車)の軸端に取り付けられている。
【0084】
(置石を模擬した試験)
試験線のレール上に置石した状態で車輪を通過させた置石試験のときの速度発電機の出力信号と、試験線のレール上に置石がない状態で車輪を通過させた通常試験のときの速度発電機の出力信号とを測定した。置石試験及び通常試験は、試験車両を時速30[km/h]で走行させて行った。
図15は、置石試験及び通常試験の結果を示すグラフである。
図15に示す縦軸は第1軸の速度発電機の出力信号を包絡線処理したときの振幅[V]であり、横軸は走行位置[m]である。
図15に示す「置石なし」は通常試験のときの波形であり、「置石あり」は置石試験のときの波形である。
図15の破線部分に示すように、置石通過時の衝撃で波形が変化している。その結果、車輪が置石を踏んだときの衝撃を速度発電機の出力信号の振幅の変化として検知できることが確認された。
【0085】
(レールの継目段違いを模擬した試験)
試験線のレールの継目板を外して前後のレールの頭頂面の高さ違いを強める継目段違いを施工した状態で車輪を通過させて、
図10に示す軸受11と軸箱体12との間の隙間Δ
21の変動量の変化を測定した。試験線の継目段違いがある状態で車輪を通過させた施工後試験のときの隙間Δ
21の変動量と、試験線の継目段違いがない状態で車輪を通過させた施工前試験のときの隙間Δ
21の変動量とを測定した。施工後試験は、レール頭頂面の低い側から高い側に車輪が乗り上がるように車輪を通過させた。施工前試験及び施工後試験は、試験車両を時速15[km/h]で走行させて行った。施工前の継目段違いは2.6mmであり、施工後の継目段違いは8mmである。
【0086】
図16は、継目段違いの施工後及び施工前の結果を示すグラフであり、(A)は
図10に示す軸受11と軸箱体12との間の隙間Δ
21の変動量の変化を示すグラフであり、(B)は隙間Δ
21の変動量の実効値の変化を示すグラフである。
図16(A)に示す縦軸は隙間Δ
21の変動量[mm]であり、
図16(B)に示す縦軸は隙間Δ
21の変動量の実効値であり、
図16(A)(B)に示す横軸は位置[m]である。隙間Δ
21の変動量の実効値は、8Hzのハイパスフィルタ通過後の値である。隙間Δ
21の変動量は、レーザ変位計(株式会社キーエンス製、型式IL-S025)を試験車両に取り付けて測定した。
図16に示すように、段違いの施工前後で隙間Δ
21の変動量及びこの変動量の実効値が大きく変化しており、隙間Δ
21の変動量の脈動から衝撃の違いを検知可能である。その結果、レールの継目段違いの増加を速度発電機の出力信号の振幅の変化として検知できることが確認された。
【0087】
(レールの異常摩耗を模擬した試験)
試験線のレールを研磨して最大1.5mmの凹みを施工して腐食による異常摩耗を模擬した試験を行った。試験線に異常摩耗がある状態で車輪を通過させた施工後試験のときの隙間Δ21の変動量と、試験線に異常摩耗がない状態で車輪を通過させた施工前試験のときの隙間Δ21の変動量とを測定した。施工前試験及び施工後試験は、試験車両を時速20[km/h]で走行させて行った。
【0088】
図17は、異常摩耗の施工後及び施工前の結果を示すグラフであり、(A)は隙間Δ
21の変動量の変化を示すグラフであり、(B)は隙間Δ
21の変動量の実効値の変化を示すグラフである。
図17(A)に示す縦軸は隙間Δ
21の変動量[mm]であり、
図17(B)に示す縦軸は隙間Δ
21の変動量の実効値であり、
図17(A)(B)に示す横軸は位置[m]である。隙間Δ
21の変動量の実効値は、8Hzのハイパスフィルタ通過後の値である。
図17に示すように、異常摩耗の施工前後で隙間Δ
21の変動量及びこの変動量の実効値が大きく変化しており、隙間Δ
21の変動量の脈動から衝撃の違いを検知可能である。その結果、異常摩耗を速度発電機の出力信号の振幅の変化として検知できることが確認された。
【0089】
以上より、線路上を車両が走行しているときに輪軸に働く衝撃によって、軸受と軸箱体との間の隙間が変動し、この隙間の変動によって速度発電機の歯車と磁極との間の隙間も変動して、速度発電機の出力信号の振幅の脈動として検出可能であることが確認された。その結果、速度発電機の出力信号に基づいて車両に加わる衝撃を検出可能であることが確認され、速度発電機の出力信号の振幅に基づいて、線路側及び車両側の異常を検出可能であることが確認された。
【0090】
(他の実施形態)
この発明は、以上説明した実施形態に限定するものではなく、以下に記載するように種々の変形又は変更が可能であり、これらもこの発明の範囲内である。
(1) この実施形態では、複数両の車両4A~4Cによって列車3が編成されている場合を例に挙げて説明したが、列車3が1両編成である場合についても、この発明を適用することができる。また、この実施形態では、台車7A,7Bが軸はり式台車である場合を例に挙げて説明したが、2枚の板ばねによって軸箱体12と台車枠13とを連結する板ばね式台車、又は平行リンク機構を構成する段違いの2つのリンク部材によって軸箱体12と台車枠13とを連結するリンク式台車などについても、この発明を適用することができる。また、この実施形態では、在来線を走行する在来線の車両4A~4Cの台車7A,7Bである場合を例に挙げて説明したが、新幹線(登録商標)を走行する新幹線の車両の台車、又は新幹線と在来線とを相互に走行可能な新在直通運転用の車両の台車などについても、この発明を適用することができる。さらに、この実施形態では、非接触式の速度検出装置17A~17DをT車及びM車が備えている場合を例に挙げて説明したが、非接触式の速度検出装置17A~17DをT車のみが備える場合についても、この発明を適用することができる。
【0091】
(2) この実施形態では、非接触式の速度検出装置17A~17Dとして磁界を通過する歯車18の回転によって発生する誘導起電力によって車両4A~4Cの速度を検出する非接触式の速度発電機を例に挙げて説明したが、このような非接触式の速度発電機にこの発明を限定するものではない。例えば、車軸端部10aの速度方向の前方及び後方から2つのレーザ光を照射しそれぞれの反射レーザ光を受光して車両4A~4Cの速度を検出するレーザドップラ速度計のような非接触式の速度検出装置についても、この発明を適用することができる。また、この実施形態では、磁極21A,21Bと歯車18との間に永久磁石20によって磁場を発生させる場合を例に挙げて説明したが、交流電源から励磁コイル(一次コイル)に電流を流して磁極21A,21Bと歯車18との間に磁場を発生させる場合についても、この発明を適用することができる。さらに、この実施形態では、歯車18の歯先18b及び歯底18cと磁極21A,21Bとを隙間Δ1をあけて対向させる場合を例に挙げて説明したが、歯車18の一方の側面と磁極21Aとを隙間Δ1をあけて対向させ、歯車18の他方の側面と磁極21Bとを隙間Δ1をあけて対向させる場合についても、この発明を適用することができる。
【0092】
(3) この実施形態では、速度検出装置17A~17Dが出力する速度検出信号S1とATS車上子の出力信号とに基づいて車両4A~4Cの走行距離を走行位置演算部26が演算する場合を例に挙げて説明したが、このような演算方法にこの発明を限定するものではない。例えば、GPS(Global Positioning System(全地球測位システム))又は自律航行装置(ジャイロ)を併用して車両4A~4Cの走行位置を演算する場合についても、この発明を適用することができる。また、この実施形態では、走行位置演算部26及び速度演算部27を衝撃検出装置24が備えている場合を例に挙げて説明したが、車両4A~4Cの既設の速度演算装置及び走行位置演算装置の出力信号を衝撃検出装置24に入力させて走行位置演算部26及び速度演算部27を省略する場合についても、この発明を適用することができる。さらに、この実施形態では、線路1側及び車両4A~4C側の衝撃を検出してこれらの異常を検出する場合を例に挙げて説明したが、線路1側又は車両4A~4C側のいずれか一方の衝撃を検出してこれらの異常を検出する場合についても、この発明を適用することができる。
【0093】
(4) この実施形態では、複数のフィルタ部F1,…,FNを衝撃検出部29が備える場合を例に挙げて説明したが、1つのフィルタ部F1を衝撃検出部29が備える場合についても、この発明を適用することができる。また、この実施形態では、全ての輪軸8A~8Dに加わる衝撃を検出して異常を検出する場合を例に挙げて説明したが、一部の輪軸8A~8Dに加わる衝撃を検出して異常を検出する場合についても、この発明を適用することができる。例えば、先頭の車両4Aの第1軸である輪軸8Aに加わる衝撃のみを検出して異常を検出することもできる。また、この実施形態では、複数の異常の内容を異常検出部30が検出する場合を例に挙げて説明したが、一つの異常の内容を異常検出部30が検出する場合についても、この発明を適用することができる。例えば、置石によって発生する衝撃のみを衝撃検出部29によって検出し、異常検出部30によって異常を検出することもできる。さらに、この第1実施形態では、車両4A,4C側の告知装置36A,36Bに異常を告知しているが、告知装置36A,36Bだけではなく運転指令所38側の告知装置36Cに異常を告知する場合についても、この発明を適用することができる。