(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024157915
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】グリース組成物及び転がり軸受
(51)【国際特許分類】
C10M 169/06 20060101AFI20241031BHJP
F16C 33/66 20060101ALI20241031BHJP
F16C 19/06 20060101ALI20241031BHJP
C10M 115/08 20060101ALN20241031BHJP
C10M 129/28 20060101ALN20241031BHJP
C10M 107/02 20060101ALN20241031BHJP
C10N 50/10 20060101ALN20241031BHJP
C10N 10/02 20060101ALN20241031BHJP
C10N 10/04 20060101ALN20241031BHJP
C10N 10/06 20060101ALN20241031BHJP
C10N 30/00 20060101ALN20241031BHJP
C10N 40/02 20060101ALN20241031BHJP
【FI】
C10M169/06
F16C33/66 Z
F16C19/06
C10M115/08
C10M129/28
C10M107/02
C10N50:10
C10N10:02
C10N10:04
C10N10:06
C10N30:00 Z
C10N40:02
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023072583
(22)【出願日】2023-04-26
(71)【出願人】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】戸田 雄次郎
(72)【発明者】
【氏名】河野 知樹
(72)【発明者】
【氏名】武田 隼人
【テーマコード(参考)】
3J701
4H104
【Fターム(参考)】
3J701AA02
3J701AA42
3J701AA52
3J701AA62
3J701BA80
3J701EA63
3J701EA70
3J701FA31
3J701XE01
3J701XE03
3J701XE50
4H104BA04A
4H104BA07A
4H104BB08A
4H104BB15C
4H104BB31A
4H104BB33A
4H104BB34A
4H104BB36A
4H104BB41A
4H104BE13B
4H104CA04A
4H104CB14A
4H104DA02A
4H104FA01
4H104FA02
4H104FA03
4H104LA20
4H104PA01
4H104QA18
(57)【要約】
【課題】ベルト等による外輪回転の軸受であっても白色剥離の発生を抑制することができるグリース組成物、及びこのグリース組成物が潤滑油として封入された転がり軸受を提供する。
【解決手段】基油と、ウレア化合物と、脂肪酸金属塩と、を含むグリース組成物16であって、脂肪酸金属塩は、脂肪酸の銅塩、脂肪酸のアルミニウム塩、脂肪酸のマグネシウム塩及び脂肪酸のナトリウム塩から選択された少なくとも一種であり、グリース組成物全質量に対する脂肪酸金属塩の含有量が、0.2質量%以上10質量%以下である。また、上記グリース組成物16が潤滑油として封入された、転がり軸受10である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基油と、ウレア化合物と、脂肪酸金属塩と、を含むグリース組成物であって、
前記脂肪酸金属塩は、脂肪酸の銅塩、脂肪酸のアルミニウム塩、脂肪酸のマグネシウム塩及び脂肪酸のナトリウム塩から選択された少なくとも一種であり、
グリース組成物全質量に対する前記脂肪酸金属塩の含有量が、0.2質量%以上10質量%以下であることを特徴とする、グリース組成物。
【請求項2】
前記脂肪酸は、ステアリン酸であることを特徴とする、請求項1に記載のグリース組成物。
【請求項3】
前記基油は、ポリα-オレフィン油であることを特徴とする、請求項1に記載のグリース組成物。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載のグリース組成物が潤滑油として封入されたことを特徴とする、転がり軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グリース組成物、及び当該グリース組成物を潤滑油として用いた転がり軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、機械装置や車両等の分野において、転がり軸受が多用されている。転がり軸受が荷重を受けて回転すると、内輪と外輪の軌道面及び転動体の転動面に剥離等の損傷が発生することがある。転がり軸受が損傷すると、異音の発生や、装置の回転精度の低下の原因になり、損傷が大きくなると使用が困難になる場合がある。
【0003】
ところで、剥離には、異物の浸入が原因となってクラックが発生し、クラックの部分に応力が集中して剥離する表面起点剥離と、内輪、外輪又は転動体の内部でクラックが発生して剥離する内部起点剥離がある。転がり軸受においては、内部に異物が浸入しにくい構造となっているため、転がり軸受で発生する剥離は内部起点剥離である場合が多い。内部起点剥離は、鋼中の非金属介在物、高温、及び鋼の白色組織変化が原因であることが公知である。以下、鋼の白色組織変化による剥離を白層剥離又は白色剥離という。
【0004】
例えば、特許文献1には、白層剥離の発生を抑制することができるグリース組成物が開示されている。上記特許文献1に記載のグリース組成物は、基油と、増ちょう剤としてのジウレアと、脂肪酸亜鉛塩と、亜鉛ジチオホスフェートと、を含み、脂肪酸亜鉛塩及び亜鉛ジチオホスフェートの含有量が規定されたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1に記載のグリース組成物を使用しても、要求される白色剥離の抑制効果を十分に得ることができないことがある。特に、ベルト駆動で使用されるモータ用の軸受や、ベルトを介して動力を伝達するプーリに使用される軸受において、白色剥離の発生率が上昇しており、上記のようなベルト駆動の軸受においても、より一層白色剥離を抑制することができるグリース組成物に対する要求が高くなっている。
【0007】
本発明は、かかる問題点に鑑みてなされたものであり、ベルト等による外輪回転の軸受であっても白色剥離の発生を抑制することができるグリース組成物、及びこのグリース組成物が潤滑油として封入された転がり軸受を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の上記目的は、グリース組成物に係る下記(1)の構成により達成される。
【0009】
(1) 基油と、ウレア化合物と、脂肪酸金属塩と、を含むグリース組成物であって、
前記脂肪酸金属塩は、脂肪酸の銅塩、脂肪酸のアルミニウム塩、脂肪酸のマグネシウム塩及び脂肪酸のナトリウム塩から選択された少なくとも一種であり、
グリース組成物全質量に対する前記脂肪酸金属塩の含有量が、0.2質量%以上10質量%以下であることを特徴とする、グリース組成物。
【0010】
また、グリース組成物に係る本発明の好ましい実施形態は、以下の(2)及び(3)に関する。
【0011】
(2) 前記脂肪酸は、ステアリン酸であることを特徴とする、(1)に記載のグリース組成物。
【0012】
(3) 前記基油は、ポリα-オレフィン油であることを特徴とする、(1)に記載のグリース組成物。
【0013】
また、本発明の上記目的は、転がり軸受に係る下記(4)の構成により達成される。
【0014】
(4) (1)~(3)のいずれか1つに記載のグリース組成物が潤滑油として封入されたことを特徴とする、転がり軸受。
【発明の効果】
【0015】
本発明のグリース組成物は、ウレア化合物と脂肪酸金属塩とを含み、脂肪酸金属塩の金属を限定するとともに、脂肪酸金属塩の含有量を適切に制御しているため、このグリース組成物を転がり軸受の潤滑油として用いた場合に、白色剥離の発生を抑制することができる。
【0016】
また、本発明の転がり軸受は、上記グリース組成物を潤滑油として使用しているため、白色剥離の発生を抑制することができ、これにより、長寿命化を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、本実施形態に係る転がり軸受を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本願発明者らは、特にベルトを用いた外輪回転の軸受について、白色剥離が頻繁に発生する原因について、鋭意検討を行った。その結果、白色剥離の原因として従来から公知であった水素脆性、高荷重、球のすべり、潤滑不良及び大きい電流による電気的負荷の他に、ベルトを用いた外輪回転の軸受に発生しやすい帯電(静電気)が原因となっていることを見出した。具体的には、外輪と内輪との間に球が回転するときに、ベルトとプーリ用軸受との間に摩擦による静電気が発生するが、外輪及び内輪と球との間には、一般的に絶縁性のグリースが存在するため、静電気が放電されずに軸受が帯電する。このとき、外輪と内輪との間の電位差が大きいほど、白色剥離が発生しやすくなっていることを見出した。
【0019】
そこで、本願発明者らは、良好な潤滑性が得られるとともに、内輪と外輪との間の電位差を低減することができるグリース組成物について、さらに検討を行った。その結果、基油と、ウレア化合物と、特定の脂肪酸金属塩と、を含むグリース組成物において、脂肪酸金属塩の含有量を適切に制御することが、白色剥離の発生の低減に効果的であることを見出した。
本発明はこれらの知見に基づいてなされたものである。
【0020】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変更して実施することができる。
【0021】
[グリース組成物]
本実施形態に係るグリース組成物は、基油と、ウレア化合物と、脂肪酸金属塩と、を含む。
グリース組成物の混和ちょう度が150以上であると、グリース組成物の圧送性を良好に保つことができる。一方、グリース組成物の混和ちょう度が400以下であると、遠心力等によるグリース組成物の飛散を抑制し、外部への汚染を防止することができる。したがって、グリース組成物の混和ちょう度は150以上400以下であることが好ましい。
以下、グリース組成物に含まれる成分についてさらに詳細に説明する。
【0022】
<ウレア化合物>
本実施形態において、増ちょう剤としてウレア化合物を使用する。ウレア化合物としては、脂肪族ウレア化合物や脂環式ウレア化合物、芳香族ウレア化合物が挙げられ、特に制限されない。具体的には、ジウレア、トリウレア、テトラウレア及びポリウレア等を使用することができる。
【0023】
(ウレア化合物の含有量)
増ちょう剤として使用するウレア化合物の含有量としては、基油をゲル状に保持できる量であれば特に制限されない。例えば、ウレア化合物の含有量が、基油とウレア化合物との合計量に対して5質量%以上であると、グリース組成物が軸受から漏れることを抑制することができる。また、ウレア化合物の含有量が、基油とウレア化合物との合計量に対して50質量%以下であると、グリース組成物の圧送性を良好に保つことができ、別の問題が生じることも抑制することができる。したがって、ウレア化合物の含有量は、基油とウレア化合物との合計量に対して10質量%以上30質量%以下とすることが好ましい。
【0024】
なお、ウレア化合物の含有量を適切に制御することにより、本実施形態に係るグリース組成物の動粘度を調整することができる。本実施形態に係るグリース組成物は、低温から高温までの流動性を考慮して、40℃における動粘度が10~300mm2/sであることが好ましく、10~100mm2/sであることがより好ましい。
【0025】
<脂肪酸金属塩>
上述のとおり、本願発明者らは、内輪と外輪との間の電位差を低減することができるグリース組成物について種々検討を行った。その結果、脂肪酸と導電性の高い金属との脂肪酸金属塩をグリース組成物に含有させると、電位差の低減に有効に働くという結論に至った。
【0026】
ところで、従来より、耐フレッチング性能を向上することができるグリース組成物として、基油とウレア化合物と脂肪酸金属塩とを含むグリース組成物が公知である。耐フレッチング性能に関しては、増ちょう剤としてのウレア化合物と、脂肪酸との相互作用が必要であると考えられている。すなわち、脂肪酸金属塩をグリース組成物中に完全に溶解させるとともに、内輪及び外輪の表面にウレア化合物を存在させることにより、耐フレッチング性能を向上させている。
【0027】
一方、白色剥離の発生を抑制するためには、ウレア化合物と脂肪酸との相互作用は必要ではなく、内輪及び外輪の表面に、導電性の高い金属からなる薄い皮膜が存在することが必要である。すなわち、内輪及び外輪の表面に形成された金属皮膜が内輪と外輪との間の電位差を低減するとともに、水素の浸入を抑制することができ、剥離の発生を抑制することができる。ただし、内輪及び外輪の表面に金属皮膜を形成するためには、グリース組成物中の脂肪酸金属塩の含有量を所定量よりも多く設定することも重要である。以下、本実施形態において使用することができる脂肪酸金属塩の具体例と含有量について、より詳細に説明する。
【0028】
脂肪酸金属塩としては、脂肪酸の銅塩、脂肪酸のアルミニウム塩、脂肪酸のマグネシウム塩及び脂肪酸のナトリウム塩から選択された少なくとも一種を使用する。脂肪酸としては、例えば、炭素数4~18の飽和または不飽和の、脂肪酸又はヒドロキシ脂肪酸が挙げられる。具体的には、直鎖飽和酸として、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、12-ヒドロキシステアリン酸等があり、分枝飽和酸として、4,6-ジメチルオクタン酸、2-メチルウンデカン酸、2-メチルテトラデカン酸、2-エチルペンタデカン酸等が挙げられる。不飽和酸としては、3-オクテン酸、2-デセン酸、カプロレイン酸、ミリストレイン酸、2-メチル-2-ドデセン酸、オレイン酸、エライジン酸、リノール酸、リノレン酸、リシノール酸等が挙げられる。脂肪酸金属塩は、これらを単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。特に、ステアリン酸の銅塩、ステアリン酸のアルミニウム塩、ステアリン酸のマグネシウム塩及びステアリン酸のナトリウム塩から選択された少なくとも一種を使用することが好ましい。
【0029】
(脂肪酸金属塩の含有量)
グリース組成物中の脂肪酸金属塩が、グリース組成物全質量に対して0.2質量%未満であると、所定の金属皮膜を転がり軸受の内輪及び外輪の表面に形成させることができず、外輪と内輪との電位差を低減することができない。したがって、グリース組成物全質量に対する脂肪酸金属塩の含有量は、0.2質量%以上とし、0.5質量%以上であることが好ましく、1.0質量%以上であることがより好ましい。
一方、グリース組成物中の脂肪酸金属塩を、グリース組成物中に10質量%を超える含有量で含有させても効果が飽和し、また、グリース中に固体分が増えることで、軸受回転時に異音が発生するなどの悪影響が生じる。したがって、グリース組成物全質量に対する脂肪酸金属塩の含有量は、10質量%以下とし、8質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましい。
【0030】
<基油>
本実施形態において、基油の種類は特に制限されず、鉱油や合成油を使用することができる。鉱油としては、パラフィン系鉱油、ナフテン系鉱油が挙げられ、特に減圧蒸留、油剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、硫酸洗浄、白土精製、水素化精製等を適宜組み合わせて精製したものが好ましい。合成油としては、炭化水素系油、芳香族系油、エステル系油、エーテル系油が挙げられる。炭化水素系油としては、ノルマルパラフィン、イソパラフィン、ポリブテン、ポリイソブチレン、1-デセンオリゴマー、1-デセンとエチレンオリゴマー等のポリα-オレフィンまたはこれらの水素化物が挙げられる。
【0031】
芳香族系油としては、モノアルキルベンゼンやジアルキルベンゼン等のアルキルベンゼン、モノアルキルナフタレンやジアルキルナフタレン等のアルキルナフタレン等が挙げられる。エステル系油としては、ジブチルセバケート、ジ-2-エチルヘキシルセバケート、ジオクチルアジペート、ジイソデシルアジペート、ジトリデシルアジペート、ジトリデシルグルタレート、メチル・アセチルシノレート等のジエステル油、トリオクチルトリメリテート、トリデシルトリメリテート、テトラオクチルピロメリテート等の芳香族エステル油、トリメチロールプロパンカプリレート、トリメチロールプロパンペラルゴネート、ペンタエリスリトール-2-エチルヘキサノエート、ペンタエリスリトールベラルゴネート等のポリオールエステル油、多価アルコールと二塩基酸・一塩基酸の混合脂肪酸とのオリゴエステルであるコンプレックスエステル油等が挙げられる。エーテル系油としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコールモノエーテル、ポリプロピレングリコールモノエーテル等のポリグリコール、モノアルキルトリフェニルエーテル、アルキルジフェニルエーテル、ジアルキルジフェニルエーテル、ペンタフェニルエーテル、テトラフェニルエーテル、モノアルキルテトラフェニルエーテル、ジアルキルテトラフェニルエーテル等のフェニルエーテル油等が挙げられる。これらは、それぞれ単独でも、2種以上を混合して使用することもできる。
【0032】
本実施形態においては、極性が低い合成炭化水素油を使用することが好ましい。また、上述のとおり、転がり軸受の内輪及び外輪の表面に脂肪酸金属塩による金属皮膜を形成するためには、基油は脂肪酸金属塩を溶解させる能力が低い方が好ましい。したがって、ポリα-オレフィン油(PAO)を基油として使用することがより好ましい。
【0033】
<他の添加剤>
本実施形態に係るグリース組成物は、各種性能を更に向上させるために、種々の添加剤を含有していてもよい。例えば、フェノール系、硫黄系等の酸化防止剤、防錆剤、油性向上剤、金属不活性化剤等をそれぞれ単独で、あるいは適宜組み合わせて添加することができる。なお、グリース組成物全質量に対する添加剤の含有量は、本発明の目的を損なわない範囲であれば特に制限されない。
【0034】
[転がり軸受]
本実施形態に係る転がり軸受は、上記本実施形態に係るグリース組成物が潤滑油として封入されたものである。本実施形態に係る転がり軸受の一例について、図面を参照して以下に説明する。
【0035】
図1は、本実施形態に係る転がり軸受を示す模式図である。
図1において、転がり軸受10は、プーリ20に組み込まれた状態を表している。
図1に示すように、転がり軸受10は、内輪11と、外輪13と、内輪11および外輪13との間に配置される複数の転動体15と、を有する。また、内輪11と転動体15との間、及び外輪13と転動体15との間には、グリース組成物16が配置されている。そして、内輪11が支持軸(不図示)に固定されることにより、転がり軸受10が支持軸に固定されている。
【0036】
プーリ20は、内周部30と、内周部30と同心に配置される外周部40と、内周部30および外周部40を連結する中間部50と、を有する。内周部30の軸方向一方側の端部には、内周側に延出するフランジ部31が形成されている。内周部30の円筒面状の内周面33と、フランジ部31と、によって、転がり軸受10の外輪13が固定されている。プーリ20の外周部40の外周面41には、溝49が設けられており、溝49には不図示のベルトが巻き付けられる。
【0037】
このように構成された転がり軸受10において、ベルトによって外輪13が回転されると、摩擦によって外輪13、内輪11及び転動体15が帯電する。ただし、内輪11及び外輪と転動体15との間には、上述の本実施形態に係るグリース組成物16が配置されているため、外輪13と内輪11との間に発生する電位差を低減することができる。その結果、白色剥離の発生を抑制することができる。
【0038】
以上詳述したように、本実施形態に係るグリース組成物は、摩擦により発生する静電気を逃がすことができるため、ベルト駆動で使用されるモータ用の転がり軸受や、ベルトを介して動力を伝達するプーリ用の転がり軸受に好適に使用することができる。
【実施例0039】
以下に実施例を挙げて本発明を更に説明するが、本発明はこれにより何ら制限されるものではない。
【0040】
<グリース組成物の調整>
以下に示す基油及びウレア化合物と、脂肪酸と下記表1に示す種々の金属との脂肪酸金属塩と、を混合し、グリース組成物を調整した。また、比較のため、基油とウレア化合物のみを混合したグリース組成物も調整した。
【0041】
基油:ポリα-オレフィン油(PAO)
ウレア化合物:脂肪族ジウレア
グリース組成物全質量に対するウレア化合物の含有量:15質量%
脂肪酸金属塩:ステアリン酸金属塩
グリース組成物全質量に対する脂肪酸金属塩の含有量:3質量%
【0042】
<試験機の作製>
外輪及び内輪と転動体との間に潤滑油が封入された転がり軸受を、プーリに組み込んで試験用プーリを作製した。次に、駆動プーリ、従動プーリ及び試験用プーリを三角形の頂点を形成するように配置し、各プーリの外周面をベルトで連結した。このようにして、転がり軸受の外輪が回転される試験機を作製した。
【0043】
<剥離試験>
上記試験機の駆動プーリを回転させ、ベルトによって従動プーリと試験用プーリを回転させて、試験用プーリに組み込まれた転がり軸受の剥離の様子を観測し、剥離が発生するまでの時間を測定した。また、この剥離試験を2~3回実施した。なお、上記駆動プーリを連続して350時間連続して回転させ、剥離が発生しなかったものを合格とし、試験を打ち切った。使用した転がり軸受の種類、試験条件を以下に示し、剥離が発生するまでの時間を下記表1に併せて示す。
【0044】
軸受型番:6301(内径12mm、外径37mm、幅12mm)
軸受の回転速度:7000回転/分
軸受にかかる荷重:1225N
軸受温度:室温から温度調整なし(55~75℃)
【0045】
【0046】
なお、上記表1において、ステアリン酸の金属種の欄の「-」は、ステアリン酸金属塩を含有せず、PAOとウレア化合物のみを混合した潤滑油を使用したことを示す。また、3回目の欄における「-」は、3回目の試験を実施していないことを示す。
【0047】
上記表1に示すように、ステアリン酸銅塩、ステアリン酸アルミニウム塩、ステアリン酸マグネシウム塩、又はステアリン酸ナトリウム塩を本発明に規定する範囲内で含有する発明例No.1~4は、350時間以上連続して転がり軸受の外輪を回転させても、剥離が発生しなかった。
【0048】
一方、比較例No.1は、ステアリン酸金属塩を含まず、PAOとウレア化合物のみを混合した潤滑油を使用したものであり、3回の試験のうち2回は350時間までに剥離が発生した。比較例No.2~4は、ステアリン酸金属塩の金属種が本発明で規定するものではないため、350時間までに剥離が発生したものがあった。比較例No.5は、PAO及びウレア化合物に、ステアリン酸のみを含有させた潤滑油を使用したものであり、2回の試験でいずれも350時間までに剥離が発生した。