(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024015792
(43)【公開日】2024-02-06
(54)【発明の名称】変異プロテアーゼ
(51)【国際特許分類】
C12N 15/57 20060101AFI20240130BHJP
C12N 9/50 20060101ALI20240130BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20240130BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20240130BHJP
C12P 21/02 20060101ALI20240130BHJP
C11D 7/42 20060101ALI20240130BHJP
【FI】
C12N15/57
C12N9/50 ZNA
C12N15/63 Z
C12N1/21
C12P21/02 C
C11D7/42
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022118096
(22)【出願日】2022-07-25
(71)【出願人】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】日置 貴大
(72)【発明者】
【氏名】高比良 早紀
(72)【発明者】
【氏名】川原 彰人
【テーマコード(参考)】
4B050
4B064
4B065
4H003
【Fターム(参考)】
4B050CC04
4B050DD02
4B050LL04
4B064AG01
4B064CA19
4B064CC24
4B064CD20
4B064DA19
4B065AA15X
4B065AA15Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA57
4H003DA01
4H003DA05
4H003DA17
4H003DB01
4H003DC02
4H003EC02
4H003FA04
(57)【要約】 (修正有)
【課題】高濃度洗剤液中でのタンパク質汚れに対する洗浄性能が向上した変異プロテアーゼの提供。
【解決手段】特定のアミノ酸配列又はこれと少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつ下記(a)~(g)からなる群より選択される少なくとも1つのアミノ酸残基を有する、変異プロテアーゼ:前記アミノ酸配列の(a)191位に相当する位置におけるArg又はLys;(b)17位に相当する位置におけるArg又はLys;(c)141位に相当する位置におけるAla又はPhe;(d)243位に相当する位置におけるArg又はLys;(e)300位に相当する位置におけるArg又はLys;(f)302位に相当する位置におけるArg又はLys;(g)311位に相当する位置におけるArg又はLys。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1のアミノ酸配列又はこれと少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつ下記(a)~(g)からなる群より選択される少なくとも1つのアミノ酸残基を有する、変異プロテアーゼ:
(a)配列番号1の191位に相当する位置におけるArg又はLys;
(b)配列番号1の17位に相当する位置におけるArg又はLys;
(c)配列番号1の141位に相当する位置におけるAla又はPhe;
(d)配列番号1の243位に相当する位置におけるArg又はLys;
(e)配列番号1の300位に相当する位置におけるArg又はLys;
(f)配列番号1の302位に相当する位置におけるArg又はLys;
(g)配列番号1の311位に相当する位置におけるArg又はLys。
【請求項2】
前記(a)のアミノ酸残基と、前記(b)~(g)からなる群より選択される少なくとも1つのアミノ酸残基とを有する、請求項1記載の変異プロテアーゼ。
【請求項3】
前記(e)のアミノ酸残基と、前記(f)のアミノ酸残基とを有する、請求項1記載の変異プロテアーゼ。
【請求項4】
前記(a)~(g)からなる群より選択される少なくとも1つのアミノ酸残基と、下記(h)のアミノ酸残基とを有する、請求項1記載の変異プロテアーゼ:
(h)配列番号1の82位に相当する位置におけるGln。
【請求項5】
前記(a)のアミノ酸残基と、前記(h)のアミノ酸残基とを有する、請求項4記載の変異プロテアーゼ。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項記載の変異プロテアーゼをコードするポリヌクレオチド。
【請求項7】
請求項6記載のポリヌクレオチドを含有するベクター。
【請求項8】
請求項6記載のポリヌクレオチド又は請求項7記載のベクターを含む組換えバチルス属細菌。
【請求項9】
請求項8記載の組換えバチルス属細菌を用いる変異プロテアーゼの製造方法。
【請求項10】
請求項1~5のいずれか1項記載の変異プロテアーゼを含有する洗剤組成物。
【請求項11】
塗布洗浄用の洗剤組成物である、請求項10記載の洗剤組成物。
【請求項12】
配列番号1のアミノ酸配列又はこれと少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列からなる親プロテアーゼに対して、下記(A)~(G)からなる群より選択される少なくとも1つの変異を施すことを含む、変異プロテアーゼの製造方法:
(A)配列番号1の191位又はこれに相当する位置におけるアミノ酸残基の、Arg又はLysへの置換;
(B)配列番号1の17位又はこれに相当する位置におけるアミノ酸残基の、Arg又はLysへの置換;
(C)配列番号1の141位又はこれに相当する位置におけるアミノ酸残基の、Ala又はPheへの置換;
(D)配列番号1の243位又はこれに相当する位置におけるアミノ酸残基の、Arg又はLysへの置換;
(E)配列番号1の300位又はこれに相当する位置におけるアミノ酸残基の、Arg又はLysへの置換;
(F)配列番号1の302位又はこれに相当する位置におけるアミノ酸残基の、Arg又はLysへの置換;
(G)配列番号1の311位又はこれに相当する位置におけるアミノ酸残基の、Arg又はLysへの置換。
【請求項13】
配列番号1のアミノ酸配列又はこれと少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列からなる親プロテアーゼに対して、下記(A)~(G)からなる群より選択される少なくとも1つの変異を施すことを含む、プロテアーゼの高濃度洗剤液中におけるタンパク質汚れに対する洗浄性能の向上方法:
(A)配列番号1の191位又はこれに相当する位置におけるアミノ酸残基の、Arg又はLysへの置換;
(B)配列番号1の17位又はこれに相当する位置におけるアミノ酸残基の、Arg又はLysへの置換;
(C)配列番号1の141位又はこれに相当する位置におけるアミノ酸残基の、Ala又はPheへの置換;
(D)配列番号1の243位又はこれに相当する位置におけるアミノ酸残基の、Arg又はLysへの置換;
(E)配列番号1の300位又はこれに相当する位置におけるアミノ酸残基の、Arg又はLysへの置換;
(F)配列番号1の302位又はこれに相当する位置におけるアミノ酸残基の、Arg又はLysへの置換;
(G)配列番号1の311位又はこれに相当する位置におけるアミノ酸残基の、Arg又はLysへの置換。
【請求項14】
前記親プロテアーゼに対して、前記(A)の変異と、前記(B)~(G)からなる群より選択される少なくとも1つの変異を施すことを含む、請求項12又は13記載の方法。
【請求項15】
前記親プロテアーゼに対して、前記(E)の変異と、前記(F)の変異を施すことを含む、請求項12又は13記載の方法。
【請求項16】
前記親プロテアーゼに対して、前記(A)~(G)からなる群より選択される少なくとも1つの変異と、下記(H)の変異を施すことを含む、請求項12又は13記載の方法:
(H)配列番号1の82位又はこれに相当する位置におけるアミノ酸残基のGlnへの置換。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変異プロテアーゼに関する。
【背景技術】
【0002】
洗剤中にプロテアーゼを配合する目的は、衣類や食器などに付着した食品や垢、汗などに由来するタンパク質汚れを分解して汚れの除去を促進することである。洗剤のpHは一般にアルカリ側にあるため、洗剤用プロテアーゼとしては、アルカリ側に至適pHを有するプロテアーゼが開発されてきた。特許文献1には、タンパク質と脂質が混在する複合汚れに対して洗浄性を有する分子量約43,000のプロテアーゼが開示されている。特許文献2~5には、プロテアーゼの洗浄性能、液体洗剤中での安定性、液体洗剤に対する溶解性、又は酸性条件下での安定性を向上させる変異を導入して得られた変異プロテアーゼが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開公報第99/18218号
【特許文献2】特開2008-212084号公報
【特許文献3】特開2010-273672号公報
【特許文献4】特開2013-233141号公報
【特許文献5】特開2020-145938号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
シミなどの落ちにくい汚れを除去するために、液体洗剤の原液を水で薄めずに汚れに直接塗布する場合がある。食べこぼしや襟袖汚れなどのタンパク質を含む汚れに対しては、プロテアーゼを含む液体洗剤の塗布が効果的であると考えられる。しかし、液体洗剤の原液は、界面活性剤などの洗浄成分の濃度が高いため、プロテアーゼにとって過酷な条件である。液体洗剤の原液のような高濃度の洗浄成分を含む溶液中でのプロテアーゼの洗浄性能を向上させることが望まれている。
【0005】
本発明は、高濃度洗剤液中でのタンパク質汚れに対する洗浄性能が向上した変異プロテアーゼを提供することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、分子量43,000のプロテアーゼKP43(特許文献1参照)に由来する変異プロテアーゼが、液体洗剤の原液中でもタンパク質汚れに対する洗浄性能(以下、単に洗浄性能ともいう)が向上していることを見出した。
【0007】
したがって、本発明は、配列番号1のアミノ酸配列又はこれと少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつ下記(a)~(g)からなる群より選択される少なくとも1つのアミノ酸残基を有する、変異プロテアーゼ:
(a)配列番号1の191位に相当する位置におけるArg又はLys;
(b)配列番号1の17位に相当する位置におけるArg又はLys;
(c)配列番号1の141位に相当する位置におけるAla又はPhe;
(d)配列番号1の243位に相当する位置におけるArg又はLys;
(e)配列番号1の300位に相当する位置におけるArg又はLys;
(f)配列番号1の302位に相当する位置におけるArg又はLys;
(g)配列番号1の311位に相当する位置におけるArg又はLys、
を提供する。
また本発明は、前記変異プロテアーゼをコードするポリヌクレオチドを提供する。
また本発明は、前記ポリヌクレオチドを含有するベクターを提供する。
また本発明は、前記ポリヌクレオチド又は前記ベクターを含有する組換えバチルス属細菌を提供する。
また本発明は、前記組換えバチルス属細菌を用いる変異プロテアーゼの製造方法を提供する。
また本発明は、前記変異プロテアーゼを含有する洗剤組成物を提供する。
さらに本発明は、配列番号1のアミノ酸配列又はこれと少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列からなる親プロテアーゼに対して、下記(A)~(G)からなる群より選択される少なくとも1つの変異を施すことを含む、変異プロテアーゼの製造方法:
(A)配列番号1の191位又はこれに相当する位置におけるアミノ酸残基の、Arg又はLysへの置換;
(B)配列番号1の17位又はこれに相当する位置におけるアミノ酸残基の、Arg又はLysへの置換;
(C)配列番号1の141位又はこれに相当する位置におけるアミノ酸残基の、Ala又はPheへの置換;
(D)配列番号1の243位又はこれに相当する位置におけるアミノ酸残基の、Arg又はLysへの置換;
(E)配列番号1の300位又はこれに相当する位置におけるアミノ酸残基の、Arg又はLysへの置換;
(F)配列番号1の302位又はこれに相当する位置におけるアミノ酸残基の、Arg又はLysへの置換;
(G)配列番号1の311位又はこれに相当する位置におけるアミノ酸残基の、Arg又はLysへの置換、
を提供する。
また本発明は、配列番号1のアミノ酸配列又はこれと少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列からなる親プロテアーゼに対して、前記(A)~(G)からなる群より選択される少なくとも1つの変異を施すことを含む、プロテアーゼの高濃度洗剤液中におけるタンパク質汚れに対する洗浄性能の向上方法を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の変異プロテアーゼは、高濃度洗剤液(例えば、液体洗剤の原液)中でのタンパク質汚れに対する洗浄性能が向上している。本発明の変異プロテアーゼは、例えば塗布洗浄又は漬け置き洗浄のような、高濃度洗剤液による洗浄に用いるプロテアーゼとして有効である。例えば、本発明の変異プロテアーゼは、液体洗剤の原液又は高濃度洗剤液を汚れに直接接触させることでその汚れを洗浄するための洗剤に配合するプロテアーゼとして有効である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書において、「アミノ酸残基」とは、タンパク質を構成する20種のアミノ酸残基、アラニン(Ala又はA)、アルギニン(Arg又はR)、アスパラギン(Asn又はN)、アスパラギン酸(Asp又はD)、システイン(Cys又はC)、グルタミン(Gln又はQ)、グルタミン酸(Glu又はE)、グリシン(Gly又はG)、ヒスチジン(His又はH)、イソロイシン(Ile又はI)、ロイシン(Leu又はL)、リシン(Lys又はK)、メチオニン(Met又はM)、フェニルアラニン(Phe又はF)、プロリン(Pro又はP)、セリン(Ser又はS)、トレオニン(Thr又はT)、トリプトファン(Trp又はW)、チロシン(Tyr又はY)及びバリン(Val又はV)を意味する。
【0011】
本明細書において、アミノ酸配列又はヌクレオチド配列に関する「少なくとも90%の同一性」とは、90%以上、好ましくは95%以上、より好ましくは96%以上、さらに好ましくは97%以上、さらに好ましくは98%以上、さらに好ましくは99%以上の同一性をいう。
【0012】
本明細書において、ヌクレオチド配列及びアミノ酸配列の同一性は、Lipman-Pearson法(Science,1985,227:1435-1441)によって計算される。具体的には、遺伝情報処理ソフトウェアGenetyx-Winのホモロジー解析(Search homology)プログラムを用いて、Unit size to compare(ktup)を2として解析を行うことにより算出される。
【0013】
本明細書において、「1又は数個のアミノ酸が欠失、挿入、置換若しくは付加されたアミノ酸配列」としては、好ましくは1個以上10個以下、より好ましくは1個以上5個以下、さらに好ましくは1個以上3個以下のアミノ酸が欠失、挿入、置換若しくは付加されたアミノ酸配列が挙げられる。また本明細書において、「1又は数個のヌクレオチドが欠失、挿入、置換若しくは付加されたヌクレオチド配列」としては、好ましくは1個以上30個以下、より好ましくは1個以上15個以下、さらに好ましくは1個以上10個以下のヌクレオチドが欠失、挿入、置換若しくは付加されたヌクレオチド配列が挙げられる。また本明細書において、アミノ酸又はヌクレオチドの「付加」には、配列の一末端及び両末端への1又は数個のアミノ酸又はヌクレオチドの付加が含まれる。
【0014】
本明細書において、アミノ酸配列又はヌクレオチド配列上の「相当する位置」は、目的配列と参照配列(例えば、配列番号1のアミノ酸配列)とを、最大の相同性を与えるように整列(アラインメント)させることにより決定することができる。アミノ酸配列又はヌクレオチド配列のアラインメントは、公知のアルゴリズムを用いて実行することができ、その手順は当業者に公知である。例えば、アラインメントは、Clustal Wマルチプルアラインメントプログラム(Thompson,J.D.et al,1994,Nucleic Acids Res.22:4673-4680)をデフォルト設定で用いることにより、行うことができる。あるいは、Clustal Wの改訂版であるClustal W2やClustal omegaを使用することもできる。Clustal W、Clustal W2及びClustal omegaは、例えば、University College Dublinが運営するClustalのウェブサイト[www.clustal.org]、欧州バイオインフォマティクス研究所(European Bioinformatics Institute:EBI[www.ebi.ac.uk/index.html])、又は国立遺伝学研究所が運営する日本DNAデータバンク(DDBJ[www.ddbj.nig.ac.jp])のウェブサイト上で利用することができる。上述のアラインメントにより参照配列の任意の位置にアラインされた目的配列の位置は、当該任意の位置に「相当する位置」とみなされる。
【0015】
当業者であれば、上記で得られたアミノ酸配列のアラインメントを、最適化するようにさらに微調整することができる。そのような最適アラインメントは、アミノ酸配列の類似性や挿入されるギャップの頻度等を考慮して決定するのが好ましい。ここでアミノ酸配列の類似性とは、2つのアミノ酸配列をアラインメントしたときにその両方の配列に同一又は類似のアミノ酸残基が存在する位置の数の全長アミノ酸残基数に対する割合(%)をいう。類似のアミノ酸残基とは、タンパク質を構成する20種のアミノ酸のうち、極性や電荷の点で互いに類似した性質を有しており、いわゆる保存的置換を生じるようなアミノ酸残基を意味する。そのような類似のアミノ酸残基からなるグループは当業者にはよく知られており、例えば、アルギニンとリジン又はグルタミン;グルタミン酸とアスパラギン酸又はグルタミン;セリンとトレオニン又はアラニン;グルタミンとアスパラギン又はアルギニン;ロイシンとイソロイシン等がそれぞれ挙げられるが、これらに限定されない。
【0016】
上述のアラインメントにより参照配列の任意の位置に対応する位置にアラインされた目的アミノ酸配列のアミノ酸残基の位置は、当該任意の位置に「相当する位置」とみなされ、当該アミノ酸残基は「相当する位置におけるアミノ酸残基」と称される。
【0017】
本明細書において、変異ポリペプチドの「親」ポリペプチドとは、そのアミノ酸残基に所定の変異がなされることにより、当該変異ポリペプチドとなるポリペプチドをいう。言い換えると、「親」ポリペプチドとは、ポリペプチド変異体が変異される前のポリペプチドである。同様に、変異ポリヌクレオチドの「親」ポリヌクレオチドとは、そのヌクレオチドに所定の変異がなされることにより、当該変異ポリヌクレオチドとなるポリヌクレオチドをいう。言い換えると、「親」ポリヌクレオチドとは、変異ポリヌクレオチドが変異される前のポリヌクレオチドである。
【0018】
本明細書において、プロモーター等の制御領域と遺伝子の「作動可能な連結」とは、遺伝子と制御領域とが、該遺伝子が該制御領域の制御の下で発現し得るように連結されていることをいう。遺伝子と制御領域との「作動可能な連結」の手順は当業者に周知である。
【0019】
本明細書において、遺伝子に関する「上流」及び「下流」とは、該遺伝子の転写方向の上流及び下流をいう。例えば、「プロモーターの下流に配置された遺伝子」とは、DNAセンス鎖においてプロモーターの3'側に該遺伝子が存在することを意味し、遺伝子の上流とは、DNAセンス鎖における該遺伝子の5'側の領域を意味する。
【0020】
本明細書において、細胞の機能や性状、形質に対して使用する用語「本来」とは、当該機能や性状、形質が当該細胞に元から存在していることを表すために使用される。対照的に、用語「外来」とは、当該細胞に元から存在するのではなく、外部から導入された機能や性状、形質を表すために使用される。例えば、「外来」遺伝子又はポリヌクレオチドとは、細胞に外部から導入された遺伝子又はポリヌクレオチドである。外来遺伝子又はポリヌクレオチドは、それが導入された細胞と同種の生物由来であっても、異種の生物由来(すなわち異種遺伝子又はポリヌクレオチド)であってもよい。
【0021】
本発明は、変異プロテアーゼを提供する。本発明の変異プロテアーゼは、配列番号1のアミノ酸配列又はこれと少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列からなる親プロテアーゼに対して、下記(A)~(G)からなる群より選択される少なくとも1つの変異を有する変異プロテアーゼである:
(A)配列番号1の191位又はこれに相当する位置におけるアミノ酸残基の、Arg又はLys、好ましくはArgへの置換;
(B)配列番号1の17位又はこれに相当する位置におけるアミノ酸残基の、Arg又はLys、好ましくはArgへの置換;
(C)配列番号1の141位又はこれに相当する位置におけるアミノ酸残基の、Ala又はPhe、好ましくはAlaへの置換;
(D)配列番号1の243位又はこれに相当する位置におけるアミノ酸残基の、Arg又はLys、好ましくはLysへの置換;
(E)配列番号1の300位又はこれに相当する位置におけるアミノ酸残基の、Arg又はLys、好ましくはLysへの置換;
(F)配列番号1の302位又はこれに相当する位置におけるアミノ酸残基の、Arg又はLys、好ましくはArgへの置換;
(G)配列番号1の311位又はこれに相当する位置におけるアミノ酸残基の、Arg又はLys、好ましくはArgへの置換。
【0022】
好ましくは、本発明の変異プロテアーゼは、前記親プロテアーゼに対して、前記(A)の変異を有する。好ましい実施形態において、本発明の変異プロテアーゼは、前記親プロテアーゼに対して、前記(A)の変異と、前記(B)~(G)からなる群より選択される少なくとも1つの変異とを有する。
【0023】
一実施形態において、本発明の変異プロテアーゼは、前記親プロテアーゼに対して、前記(A)の変異と、前記(B)及び(D)の変異からなる群より選択される少なくとも1つの変異とを有する。別の一実施形態において、本発明の変異プロテアーゼは、前記親プロテアーゼに対して、前記(A)の変異と、前記(B)及び(D)から選択されるいずれか1つの変異とを有する。好ましくは、該(A)の変異は、191位又はこれに相当する位置におけるアミノ酸残基のArgへの置換であり、該(B)の変異は、17位又はこれに相当する位置におけるアミノ酸残基のArgへの置換であり、該(D)の変異は、243位又はこれに相当する位置におけるアミノ酸残基のLysへの置換である。
【0024】
一実施形態において、本発明の変異プロテアーゼは、前記(A)~(G)からなる群より選択される少なくとも1つの変異に加えて、下記(H)の変異を有する:
(H)配列番号1の82位又はこれに相当する位置におけるアミノ酸残基のGlnへの置換。
前記(A)~(G)のいずれかの変異に加えて前記(H)の変異を有することで、本発明の変異プロテアーゼの高濃度洗剤液中での洗浄性能がより向上する。好ましい実施形態において、本発明の変異プロテアーゼは、前記(A)の変異と前記(H)の変異とを有する。好ましくは、該(A)の変異は、191位又はこれに相当する位置におけるアミノ酸残基のArgへの置換である。
【0025】
一実施形態において、本発明の変異プロテアーゼは、前記(B)~(G)からなる群より選択される少なくとも1つの変異を有するものであってもよい。好ましい実施形態において、本発明の変異プロテアーゼは、前記親プロテアーゼに対して、前記(E)の変異と、前記(F)の変異とを有する。前記(E)及び(F)の変異を有することで、本発明の変異プロテアーゼの高濃度洗剤液中での洗浄性能がより向上する。好ましくは、該(E)の変異は、300位又はこれに相当する位置におけるアミノ酸残基のLysへの置換であり、該(F)の変異は、302位又はこれに相当する位置におけるアミノ酸残基のArgへの置換である。
【0026】
本発明の変異プロテアーゼの親プロテアーゼとしては、配列番号1のアミノ酸配列からなるプロテアーゼ、及び配列番号1のアミノ酸配列と少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列からなるプロテアーゼが挙げられる。
【0027】
配列番号1のアミノ酸配列と少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列からなるプロテアーゼの好ましい例としては、配列番号1のアミノ酸配列と95%以上の同一性、より好ましくは96%以上の同一性、さらに好ましくは97%以上の同一性、さらに好ましくは98%以上の同一性、さらに好ましくは99%以上の同一性を有するプロテアーゼが挙げられる。配列番号1のアミノ酸配列と少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列からなるプロテアーゼの別の例としては、配列番号1のアミノ酸配列に対して1又は数個のアミノ酸が欠失、挿入、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるプロテアーゼが挙げられる。本発明で親プロテアーゼとして用いられる、配列番号1のアミノ酸配列と少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列からなるプロテアーゼは、配列番号1のアミノ酸配列からなるプロテアーゼ由来の変異プロテアーゼであってもよい。
【0028】
好ましくは、前記親プロテアーゼのアミノ酸配列において、配列番号1の30位に相当する位置のアミノ酸残基はアスパラギン酸であり、68位に相当する位置のアミノ酸残基はヒスチジンであり、かつ255位に相当する位置のアミノ酸残基はセリンである。より好ましくは、前記親プロテアーゼは、配列番号1における下記表1(i)に記載の各位置に相当する位置に、表1(ii)に記載のアミノ酸残基を有する。表1に示すアミノ酸残基は、前記親プロテアーゼの起源であるプロテアーゼKP43(特許文献1)、及びそれに由来する変異プロテアーゼの間で高度に保存されているアミノ酸残基である(Saekiら,Journal of bioscience and Bioengineering,2007,103:501-508)。
【0029】
【0030】
本発明の変異体の親プロテアーゼは、アルカリ側(好ましくはpH8以上)でタンパク質分解活性を有するポリペプチドである。好ましくは、該親プロテアーゼは、アルカリ側(好ましくはpH8以上)に至適pHを有するポリペプチドである。より好ましくは、該親プロテアーゼは、配列番号1のアミノ酸配列からなるプロテアーゼ(特許文献1参照)が有する次の酵素学的性質のいずれかを有する:1)酸化剤耐性を有し、アルカリ側(pH8以上)で作用し、かつ安定である。ここで、酸化剤耐性を有するとは、当該プロテアーゼを50mM過酸化水素(5mM塩化カルシウムを含有)溶液中(20mMブリットン・ロビンソン緩衝液、pH10)で、20℃20分間放置した後の残存活性(合成基質法)が少なくとも50%以上であることをいう;2)50℃、pH10で10分間処理したとき80%以上の残存活性を示す;3)ジイソプロピルフルオルリン酸(DFP)及びフェニルメタンスルホニルフルオライド(PMSF)で活性が阻害される;4)SDS-PAGEによる分子量が43,000±2,000である。より好ましくは、当該親プロテアーゼは、上記1)~4)の酵素学的性質を全て有する。
【0031】
本発明の変異プロテアーゼは、前記親プロテアーゼのアミノ酸配列に対して、配列番号1のアミノ酸配列の前記(A)~(G)からなる群より選択される少なくとも1つの変異を施すことによって製造することができる。好ましくは、本発明の変異プロテアーゼは、前記親プロテアーゼのアミノ酸配列に対して、前記(A)~(G)からなる群より選択される少なくとも1つの変異に加えて、前記(H)の変異を施すことによって製造することができる。
【0032】
したがって、本発明の変異プロテアーゼは、下記(a)~(g)のアミノ酸残基からなる群より選択される少なくとも1つのアミノ酸残基を有する:
(a)配列番号1の191位に相当する位置におけるArg又はLys、好ましくはArg;
(b)配列番号1の17位に相当する位置におけるArg又はLys、好ましくはArg;
(c)配列番号1の141位に相当する位置におけるAla又はPhe、好ましくはAla;
(d)配列番号1の243位に相当する位置におけるArg又はLys、好ましくはLys;
(e)配列番号1の300位に相当する位置におけるArg又はLys、好ましくはLys;
(f)配列番号1の302位に相当する位置におけるArg又はLys、好ましくはArg;
(g)配列番号1の311位に相当する位置におけるArg又はLys、好ましくはArg。
好ましくは、本発明の変異プロテアーゼは、配列番号1のアミノ酸配列と少なくとも90%の配列同一性を有する。
【0033】
好ましくは、本発明の変異プロテアーゼは、前記(a)のアミノ酸残基を有する。好ましい実施形態において、本発明の変異プロテアーゼは、前記(a)のアミノ酸残基と、前記(b)~(g)からなる群より選択される少なくとも1つのアミノ酸残基とを有する。
【0034】
一実施形態において、本発明の変異プロテアーゼは、前記(a)のアミノ酸残基と、前記(b)及び(d)からなる群より選択される少なくとも1つのアミノ酸残基とを有する。別の一実施形態において、本発明の変異プロテアーゼは、前記(a)のアミノ酸残基と、前記(b)及び(d)のうちのいずれか1つのアミノ酸残基とを有する。好ましくは、該(a)のアミノ酸残基はArgであり、該(b)のアミノ酸残基はArgであり、該(d)のアミノ酸残基はLysである。
【0035】
一実施形態において、本発明の変異プロテアーゼは、前記(a)~(g)からなる群より選択される少なくとも1つのアミノ酸残基に加えて、下記(h)のアミノ酸残基を有する:
(h)配列番号1の82位に相当する位置におけるGln。
好ましい実施形態において、本発明の変異プロテアーゼは、前記(a)及び(h)のアミノ酸残基を有する。好ましくは、該(a)のアミノ酸残基はArgである。
【0036】
一実施形態において、本発明の変異プロテアーゼは、前記(b)~(g)からなる群より選択される少なくとも1つのアミノ酸残基を有するものであってもよい。好ましい実施形態において、本発明の変異プロテアーゼは、前記(e)及び(f)のアミノ酸残基を有する。好ましくは、該(e)のアミノ酸残基はLysであり、該(f)のアミノ酸残基はArgである。
【0037】
本発明の変異プロテアーゼは、界面活性剤を高濃度で含有する洗剤液(いわゆる高濃度洗剤液)中でのタンパク質汚れに対する洗浄性能が向上した変異プロテアーゼである。より詳細には、本発明の変異プロテアーゼは、高濃度洗剤液中において配列番号1のアミノ酸配列からなるプロテアーゼよりも高い洗浄性能を発揮することができる。好ましくは、本発明の変異プロテアーゼは、濃縮液体洗剤の原液中において配列番号1のアミノ酸配列からなるプロテアーゼよりも高い洗浄性能を発揮することができる。好ましくは、本発明の変異プロテアーゼは、通常洗浄に使用される程度に水で希釈した洗剤液(いわゆる通常の洗剤液)中では、配列番号1のアミノ酸配列からなるプロテアーゼと少なくとも同等、又はそれ以上の洗浄性能を発揮することができる。したがって、本発明の変異プロテアーゼは、洗剤用酵素として使用でき、特に、高濃度洗剤液による洗浄(例えば塗布洗浄又は漬け置き洗浄)に用いるための洗剤用の酵素として使用できる。例えば、本発明の変異プロテアーゼは、その原液又は高濃度洗剤液を汚れに直接塗布することでその汚れを洗浄するための濃縮液体洗剤に配合するプロテアーゼとして有効である。また例えば、本発明の変異プロテアーゼは、その原液又は高濃度洗剤液に汚れを浸漬することでその汚れを洗浄するための濃縮液体洗剤に配合するプロテアーゼとして有効である。
【0038】
本明細書における「タンパク質汚れ」としては、例えば、タンパク質を含む食品、タンパク質を含む身体由来成分(例えば血液、尿、垢、汗、皮脂等)などによる汚れが挙げられる。「タンパク質汚れ」のより具体的な例としては、衣類への食べこぼし、襟袖汚れなどが挙げられる。
【0039】
本明細書における「洗剤液」は、液体洗剤の原液、及び、液体洗剤又は固形洗剤(例えば粉末洗剤)を水で希釈して得られた洗剤水溶液を包含する。本明細書において、「高濃度洗剤液」とは、界面活性剤を高濃度で含有する洗剤液をいい、好ましくは、界面活性剤を10質量%以上、より好ましくは20質量%以上、例えば10~90質量%、好ましくは20~90質量%、より好ましくは20~75質量%含有する洗剤液をいう。高濃度洗剤液の例としては、濃縮液体洗剤の原液、またはそれを高濃度で含有する水溶液が挙げられる。本明細書において、「濃縮液体洗剤」とは、界面活性剤を40質量%以上、好ましくは40~90質量%、より好ましくは45~90質量%、さらに好ましくは50~75質量%含有する液体洗剤をいう。該「濃縮液体洗剤」の例としては、衣料用液体洗剤であれば、水槽式洗濯機で水30Lに対する標準使用量が7~13g又はそれ以下と表示されているものを挙げることができる。
【0040】
本明細書において、「高濃度洗剤液による洗浄」とは、洗浄対象(例えば、布、及び、食器や調理器具等の硬質表面)上の汚れに高濃度洗剤液を直接接触させ、必要に応じて所定時間放置又は洗浄した後に、該洗浄対象を水洗する洗浄方法をいう。「高濃度洗剤液による洗浄」の例としては、塗布洗浄、及び漬け置き洗浄が挙げられる。「塗布洗浄」とは、洗浄対象の汚れに高濃度洗剤液を直接塗布し、必要に応じて所定時間放置又は洗浄した後に、該洗浄対象を水洗する洗浄方法をいう。「漬け置き洗浄」とは、洗浄対象の汚れを高濃度洗剤液中に浸漬し、必要に応じて所定時間放置又は該高濃度洗剤液中で洗浄した後に、該洗浄対象を水洗する洗浄方法をいう。したがって、前記高濃度洗剤液による洗浄において、洗浄対象の汚れに高濃度洗剤液を直接接触させる手段としては、該汚れに対する該高濃度洗剤液の塗布(例えばロールオン、スプレー、滴下などによる)、該汚れの該高濃度洗剤液への浸漬、などが挙げられる。
【0041】
本発明の変異プロテアーゼは、前記(A)~(G)からなる群より選択される少なくとも1つの変異に加えて、前述した高濃度洗剤液中で親プロテアーゼより高い洗浄性能を維持できる限り、親プロテアーゼに対して他の任意の位置における変異(例えば、欠失、置換、付加、挿入)を有するものであってもよい。当該変異は、天然に生じたものであっても、人工的に導入したものであってもよい。ただし、好ましくは本発明の変異プロテアーゼは、少なくとも配列番号1の30位、68位、及び255位におけるアミノ酸残基が親プロテアーゼと同じである。より好ましくは、本発明の変異プロテアーゼは、配列番号1における前記表1(i)に記載の各位置に相当する位置におけるアミノ酸残基が、親プロテアーゼと同じである。
【0042】
本発明において、親プロテアーゼのアミノ酸残基を変異させる手段としては、当該技術分野で公知の各種変異導入技術を使用することができる。例えば、親プロテアーゼのアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチド(以下、親ポリヌクレオチドともいう)において、変異すべきアミノ酸残基をコードするヌクレオチド配列を、変異後のアミノ酸残基をコードするヌクレオチド配列に変異させ、さらにその変異ポリヌクレオチドからタンパク質を発現させることにより、目的の変異プロテアーゼを得ることができる。
【0043】
親ポリヌクレオチドへの目的の変異の導入は、例えば基本的には、該親ポリヌクレオチドを鋳型DNAとして用いるPCR増幅や各種DNAポリメラーゼによる複製反応に基づき、当業者に周知の様々な部位特異的変異導入法を用いて行うことができる。部位特異的変異導入法は、例えば、インバースPCR法やアニーリング法など(村松ら編、「改訂第4版 新遺伝子工学ハンドブック」、羊土社、p82-88)の任意の手法により行うことができる。Stratagene社のQuickChange II Site-Directed Mutagenesis Kitや、QuickChange Multi Site-Directed Mutagenesis Kit等の各種の市販の部位特異的変異導入用キットを使用することもできる。
【0044】
親ポリヌクレオチドへの部位特異的変異導入は、最も一般的には、導入すべきヌクレオチド変異を含む変異用プライマーを用いて行うことができる。該変異用プライマーは、親ポリヌクレオチドにおける変異すべきアミノ酸残基をコードするヌクレオチド配列を含む領域にアニーリングし、かつその変異すべきアミノ酸残基をコードするヌクレオチド配列(コドン)に代えて変異後のアミノ酸残基をコードするヌクレオチド配列(コドン)を有するヌクレオチド配列を含むように設計すればよい。変異前及び変異後のアミノ酸残基をコードするヌクレオチド配列(コドン)は、当業者であれば通常の教科書等に基づいて適宜認識し選択することができる。あるいは、部位特異的変異導入は、導入すべきヌクレオチド変異を含む相補的な2つのプライマーを別々に用いて変異部位の上流側及び下流側をそれぞれ増幅したDNA断片を、SOE(splicing by overlap extension)-PCR(Horton et al,Gene,1989,77(1):p61-68)により1つに連結する方法を用いることもできる。
【0045】
親ポリヌクレオチドを含むDNAは、親プロテアーゼのアミノ酸配列に基づいて、対応するヌクレオチド配列を化学合成することにより調製することができる。あるいは、親ポリヌクレオチドを含むDNAは、それを保持する微生物株から公知の手段で抽出することができる。変異用プライマーは、ホスホロアミダイト法(Nucleic Acids Research,1989,17:7059-7071)等の周知のオリゴヌクレオチド合成法により作製することができる。そのようなプライマー合成は、例えば市販のオリゴヌクレオチド合成装置(ABI社製など)を用いて実施することもできる。該変異用プライマーを含むプライマーセットを使用し、親ポリヌクレオチドを鋳型DNAとして上記のような部位特異的変異導入を行うことにより、目的の変異が導入された、変異プロテアーゼをコードするポリヌクレオチドを得ることができる。
【0046】
したがって、本発明はまた、変異プロテアーゼ遺伝子を提供する。本発明の変異プロテアーゼ遺伝子は、当該本発明の変異プロテアーゼをコードするポリヌクレオチドである。当該本発明のポリヌクレオチドは、一本鎖又は2本鎖のDNA、cDNA、RNAもしくは他の人工核酸を含み得る。該DNA、cDNA及びRNAは、化学合成されていてもよい。また当該本発明のポリヌクレオチドは、オープンリーディングフレーム(ORF)に加えて、非翻訳領域(UTR)のヌクレオチド配列を含んでいてもよい。
【0047】
本発明はまた、当該本発明の変異プロテアーゼをコードするポリヌクレオチドを含有するベクターを提供する。該ベクターは、該本発明のポリヌクレオチドを常法により任意のベクター中に挿入し連結することにより作製することができる。該ベクターの種類は特に限定されず、プラスミド、ファージ、ファージミド、コスミド、ウイルス、YACベクター、シャトルベクター等の任意のベクターであってよい。また該ベクターは、限定ではないが、好ましくは、細菌内、とりわけバチルス属細菌内で増幅可能なベクターであり、より好ましくは、バチルス属細菌内で導入遺伝子の発現を誘導可能な発現ベクターである。中でも、バチルス属細菌と他の生物のいずれでも複製可能なベクターであるシャトルベクターは、本発明の変異プロテアーゼを組換え生産する上で好適に用いることができる。好ましいベクターの例としては、限定するものではないが、pHA3040SP64(特開2013-233141号公報)、pHSP64R又はpASP64(特許第3492935号)、pHA64、pHY300PLK(大腸菌と枯草菌の両方を形質転換可能な発現ベクター;Ishikawa and Shibahara,Jpn J Genet,1985,60:235-243)、pAC3(Moriyama et al,Nucleic Acids Res,1988,16:8732)等のシャトルベクター;pUB110(Gryczan et al,J Bacteriol,1978,134:318-329)、pTA10607(Bron et al,Plasmid,1987,18:8-15)等のバチルス属細菌の形質転換に利用可能なプラスミド;分泌シグナルを組換えタンパク質に付与可能な分泌ベクター(山根他,「枯草菌分泌ベクターによる融合タンパク質」澱粉科学,34.(1987),163-170)等が挙げられる。また大腸菌由来のプラスミド(例えばpET22b(+)、pBR322、pBR325、pUC118、pUC119、pUC18、pUC19、pBluescript等)を用いることもできる。
【0048】
本発明の変異プロテアーゼを組換え生産する場合、前記ベクターは発現ベクターであることが好ましい。発現ベクターは、転写プロモーター、ターミネーター、リボソーム結合部位等の宿主生物における発現に必須な各種エレメント;ポリリンカー、エンハンサー等のシスエレメント;ポリA付加シグナル;リボソーム結合配列(SD配列);薬剤(例えばアンピシリン、ネオマイシン、カナマイシン、テトラサイクリン、クロラムフェニコール等)耐性遺伝子等の選択マーカー遺伝子、などの有用な配列を必要に応じて含み得る。
【0049】
本発明はまた、本発明の変異プロテアーゼをコードするポリヌクレオチド又は該ポリヌクレオチドを含有するベクターを含む、形質転換体を提供する。該形質転換体は、本発明の変異プロテアーゼをコードするポリヌクレオチド、又は該ポリヌクレオチドを含有するベクター(好ましくは組換え発現ベクター)を宿主に導入することにより製造することができる。したがって、該形質転換体は、本発明の変異プロテアーゼをコードする外来のポリヌクレオチドを含む。
【0050】
前記形質転換体の宿主としては、大腸菌や枯草菌等の細菌、酵母細胞を始めとする微生物の他、昆虫細胞、動物細胞(例えば、哺乳動物細胞)、植物細胞等の任意の細胞が挙げられる。該宿主は、好ましくはバチルス属細菌であり、より好ましくは枯草菌又はその変異株である。したがって、本発明の形質転換体は、好ましくは組換えバチルス属細菌であり、より好ましくは枯草菌又はその変異株の組換え体である。
【0051】
宿主の形質転換には、例えば、リン酸カルシウム法、エレクトロポレーション法、リポフェクション法、パーテイクルガン法、PEG法等の周知の形質転換技術を適用することができる。例えばバチルス属細菌に適用可能な形質転換法としては、コンピテントセル形質転換法(J Bacteriol,1967,93:1925-1937)、エレクトロポレーション法(FEMS Microbiol Lett,1990,55:135-138)、プロトプラスト形質転換法(Mol Gen Genet,1979,168:111-115)、Tris-PEG法(J Bacteriol,1983,156:1130-1134)などが挙げられる。
【0052】
前記本発明の形質転換体を培養することにより、本発明の変異プロテアーゼを製造することができる。したがって、本発明はまた、本発明の形質転換体を用いる変異プロテアーゼの製造方法を提供する。変異プロテアーゼ製造のための該形質転換体の培養は、当業者に一般的な方法に従って行うことができる。例えば、大腸菌や酵母細胞等の微生物宿主に基づく形質転換体を培養する培地としては、該微生物宿主が資化し得る炭素源、窒素源、無機塩類等を含有し、形質転換体の培養を効率的に行える培地であればよい。該培地は、天然培地及び合成培地のいずれを用いてもよい。例えば、組換えタンパク質を生産するための枯草菌形質転換体の培養には、LB培地、2×YT培地、2×L-マルトース培地、又はCSL発酵培地等を用いることができる。該培地には、形質転換体に導入した薬剤耐性遺伝子(選択マーカー遺伝子)の種類に対応した薬剤を添加してもよい。また、誘導性プロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した微生物を培養する場合は、必要に応じてインデューサーを培地に添加してもよい。例えば、Lacプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した微生物を培養するときにはイソプロピル-1-チオ-β-D-ガラクトシド(IPTG)等を、trpプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した微生物を培養するときにはインドール酢酸(IAA)等を培地に添加することができる。
【0053】
あるいは、本発明の変異プロテアーゼは、無細胞翻訳系を使用して、本発明の変異プロテアーゼをコードするポリヌクレオチド又はその転写産物から発現させてもよい。「無細胞翻訳系」とは、宿主となる細胞を機械的に破壊して得た懸濁液にタンパク質の翻訳に必要なアミノ酸等の試薬を加えて、in vitro転写翻訳系又はin vitro翻訳系を構成したものである。
【0054】
当該形質転換体又は無細胞翻訳系で製造された本発明の変異プロテアーゼは、タンパク質精製に用いられる一般的な方法、例えば遠心分離、硫酸アンモニウム沈殿、ゲルクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー等を単独で又は適宜組み合わせて用いることにより、培養液、細胞破砕液、無細胞翻訳系の反応液などから分離又は精製することができる。あるいは、遠心分離や限外濾過型フィルター等を用いて分離又は濃縮した培養上清や溶菌液上清等の溶液を、粗酵素液としてそのまま使用することができる。発現された変異プロテアーゼが細胞内から分泌されない場合には、その細胞を破砕してからタンパク質の分離精製を行えばよい。
【0055】
本発明において用いるDNA抽出、mRNAの調製、cDNAの作製、PCR、RT-PCR、ライブラリーの作製、ベクター中へのライゲーション、細胞の形質転換、DNAの塩基配列の決定、核酸化学合成、タンパク質のN末端側のアミノ酸配列決定、突然変異誘発、タンパク質の抽出等の手順は、通常の実験書に記載の方法によって行うことができる。そのような実験書としては、例えば、SambrookらのMolecular Cloning,A laboratory manual,2001,3rd Ed.,Sambrook,J.& Russell,DW.Cold Spring Harbor Laboratory Pressを挙げることができる。さらに、枯草菌の遺伝子組換え実験については、例えば吉川博文著、“7.2 枯草菌系”「続生化学実験講座1.遺伝子研究法II」,1986,東京化学同人社(東京),p150-169等の、枯草菌の遺伝子操作に関する一般的な実験書を参照することができる。
【0056】
本発明の製造方法により得られた変異プロテアーゼは、親プロテアーゼと比べて、高濃度洗剤液中での洗浄性能が向上しており、高濃度洗剤液による洗浄(例えば塗布洗浄又は漬け置き洗浄)用の洗剤に用いるプロテアーゼとして有用である。したがって、本発明の別の態様は、上述したとおりに親プロテアーゼのアミノ酸配列に対して、前記(A)~(G)からなる群より選択される少なくとも1つの変異を施すことを含む、プロテアーゼの高濃度洗剤液中におけるタンパク質汚れに対する洗浄性能の向上方法であり得る。
【0057】
本発明の変異プロテアーゼは、洗剤用酵素として有用であり、特に、高濃度洗剤液による洗浄(例えば塗布洗浄又は漬け置き洗浄)用の洗剤に配合する酵素としてより好適である。したがって、本発明はまた、本発明の変異プロテアーゼを含有する洗剤組成物を提供する。該洗剤組成物は、固形(例えば粉末)洗剤組成物であってもよいが、好ましくは液体洗剤組成物であり、より好ましくは濃縮液体洗剤である。また該洗剤組成物は、好ましくは塗布洗浄用又は漬け置き洗浄用の洗剤組成物であり、より好ましくは塗布洗浄用の洗剤組成物である。
【0058】
本発明の洗剤組成物における本発明の変異プロテアーゼの含有量は、プロテアーゼが活性を示す量であれば特に制限されないが、洗剤組成物1kg当たり0.1~25000Uが好ましく、0.1~5000Uがより好ましく、0.1~2500Uがさらに好ましい。本明細書におけるプロテアーゼの活性(U)は、以下の方法により測定される:1/15Mリン酸緩衝液(例えばpH7.4、和光純薬りん酸緩衝剤粉末(167-14491)1包(1包中Na2HPO4(無水)7.6g。KH2PO4(無水)1.8g含有)を1Lのイオン交換水に溶解した溶液)0.9mL、40mMGlt-Ala-Ala-Pro-Leu-p-ニトロアニリド/ジメチルスルホキシド溶液0.05mLを試験管に採り、30℃で5分間保温する。これに酵素液0.05mLを加えて30℃で10分間反応を行った後、5%(w/v)クエン酸水溶液2.0mLを加えて反応を停止し、分光光度計を用いて420nmにおける吸光度を測定する。ここで酵素1単位(U)は上記反応において1分間に1μmolのp-ニトロアニリンを生成する量とする。
【0059】
本発明の洗剤組成物は、本発明の変異プロテアーゼに加えて、界面活性剤及び水を含有する。界面活性剤としては、非イオン性界面活性剤、陰イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤、及び両性界面活性剤等の任意の界面活性剤を1種で又は2種以上組み合わせて用いることができる。本発明の洗剤組成物における該界面活性剤の含有量は、好ましくは10~90質量%、より好ましくは10~80質量%、さらに好ましくは30~75質量%である。本発明の洗剤組成物が濃縮液体洗剤の場合、該洗剤組成物における該界面活性剤の含有量は、好ましくは40~90質量%、より好ましくは45~90質量%、さらに好ましくは50~75質量%である。
【0060】
非イオン性界面活性剤としては、一般的に液体洗剤に配合されているC8~C22の炭化水素基を有し、C2オキシアルキレン基が数モル以上付加された非イオン性界面活性剤であればよいが、例えば、以下が挙げられる:
R1O-(AO)m-H(R1=C8-C22炭化水素、AO=C2-C5オキシアルキレン基、m=16~35)〔特開2010-275468号公報〕;
R1O-(EO)l-(AO)m-(EO)n-H(R1=C8-C18炭化水素、EO=C2オキシアルキレン基、AO=C3-C5オキシアルキレン基、l=3~30、m=1~5、l+n=14~50)〔特開2010-265445号公報、特開2011-63784号公報〕;
R1O-(EO)m/(AO)n-H(R1=C8-C22炭化水素、EO=C2オキシアルキレン基、AO=C3-C5オキシアルキレン基、m=10~30、n=0~5、EO及びAOはランダム又はブロック結合)〔特開2010-189551号公報〕;
R1(CO)lO-(EO)m/(AO)n-R2(R1=C8-C22炭化水素、EO=C2オキシアルキレン基、AO=C3-C5オキシアルキレン基、l=0~1、m=14~50、n=1~5、R2=水素(l=0)又はC1-C3アルキル基、EO及びAOはランダム又はブロック結合)〔特開2010-229385号公報〕;
R1O-(EO)m-(AO)n-H(R1=C8-C22炭化水素、EO=C2オキシアルキレン基、AO=C3-C5オキシアルキレン基、m=15~30、n=1~5)〔特開2010-229387号公報〕;
R1O-(AO)m/(Gly)n-H及び/又はR2-COO-(AO)p/(Gly)q-H(R1=C8-C22炭化水素基、R2=C7-C21炭化水素基、AO=C2-C3オキシアルキレン基、Gly=グリセロール基、m=0~5、n=2~10、p=0~5、q=2~10、AO及びGlyはランダム又はブロック結合)〔特開2010-254881号公報〕;
R1-COO-(PO)m/(EO)n-R2(R1=C7-C21炭化水素基,COO=カルボニルオキシ基、R2=C1-C3アルキル基、PO=オキシプロピレン基、EO=オキシエチレン基、m=0.3~5、n=8~25、PO及びEOはランダム又はブロック結合)〔特開2010-265333号公報〕;
R1O-(EO)l-(PO)m-(EO)n-H(R1=C8-C20炭化水素、EO=C2オキシアルキレン基、PO=オキシプロピレン基、l>=1、n>=1、0<m<l+n、EO及びPOはブロック結合)〔WO98/24865〕;
R1O-(EO)m-(PO)n-H(R1=C10-C16のアルキル基又はアルケニル基、EO=エチレンオキシド基、PO=プロピレンオキシド基、m=5~15、n=1~3)〔特開平8-157867号公報〕;
R1(CO)-(EO)m-OR2(R1=C11-C13直鎖又は分岐状アルキル基又はアルケニル基、R2=C1-C3アルキル基、EO=エチレンオキシド基、m=10~20)〔特開2008-7706号公報、特開2009-7451号公報、特開2009-155594号公報、特開2009-155606号公報〕;
R1(CO)-(AO)m-OR2(R1=C9-C13直鎖又は分岐状アルキル基又はアルケニル基、AO=C2-C4オキシアルキレン基、R2=C1-C3アルキル基、m=5~30)〔特開2009-144002号公報、特開2009-173858号公報、特開2010-189612号公報〕;ならびに、
脂肪酸アルカノールアミド、脂肪酸アルカノールグルカミド、アルキルポリグルコシド等。
【0061】
陰イオン界面活性剤としては、例えばカルボキシレート型陰イオン界面活性剤、スルホン酸型又は硫酸エステル型陰イオン界面活性剤、非石鹸系アニオン界面活性剤、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸又はその塩、ポリオキシベンゼンスルホン酸又はその塩、ポリオキシエチレンアルキル硫酸エステル塩、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸エステル塩、α-オレフィンスルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、α-スルホ脂肪酸塩、脂肪酸石鹸、リン酸エステル塩系界面活性剤、アシルアラニネート、アシルタウレート、アルキルエーテルカルボン酸、アルコール硫酸エステル等が挙げられる。
【0062】
陽イオン界面活性剤としては、例えば長鎖アルキル基を有する第4級アンモニウム塩、長鎖アルキル基を1つ有する3級アミン、アルキルトリメチルアンモニウム塩、ジアルキルジメチルアンモニウム塩、アルキルピリジニウム塩等が挙げられる。好ましくは炭素数8~22の長鎖アルキル基を1つ有する第4級アンモニウム型界面活性剤、炭素数8~22の長鎖アルキル基を1つ有する3級アミンが挙げられる。
【0063】
両性イオン活性剤としては、例えばアルキル酢酸ベタイン、アルカノールアミドプロピル酢酸ベタイン、アルキルイミダゾリン、アルキルアラニン等、アルキルベタイン型、アルキルアミドベタイン型、イミダゾリン型、アルキルアミノスルホン型、アルキルアミノカルボン酸型、アルキルアミドカルボン酸型、アミドアミノ酸型又はリン酸型の両性界面活性剤等が挙げられる。好ましくは炭素数10~18のアルキル基を有するスルホベタイン又はカルボベタインを挙げることができる。
【0064】
本発明の洗剤組成物は、さらに、洗剤組成物に通常使用される成分、例えば、水溶性ポリマー、水混和性有機溶剤、アルカリ剤、有機酸又はその塩、キレート剤、本発明の変異プロテアーゼ以外の他の酵素、酵素安定化剤、蛍光剤、再汚染防止剤、分散剤、色移り防止剤、仕上げ剤、漂白剤、酸化防止剤、可溶化剤、pH調製剤、緩衝剤、防腐剤、香料、塩、アルコール、糖類、などを含み得る。
【0065】
水溶性ポリマーとしては、例えば、(i)炭素数2~5のエポキシド由来の重合単位を含んで構成されるポリエーテル鎖部分と(ii)アクリル酸、メタクリル酸及びマレイン酸から選ばれる一種以上の不飽和カルボン酸単量体由来の重合単位を含んで構成されるポリマー鎖部分とを有し、(i)又は(ii)のいずれかが幹鎖となり、他方が枝鎖となったグラフト構造を有する高分子化合物(特開2010-275468号公報、特開平10-060496号公報);アルキレンテレフタレート単位及び/又はアルキレンイソフタレート単位と、オキシアルキレン単位及び/又はポリオキシアルキレン単位を有する水溶性ポリマー(特開2009-155606号公報)、などが挙げられる。本発明の洗剤組成物における当該水溶性ポリマーの含有量は、好ましくは0.2~10質量%、より好ましくは0.4~5質量%である。
【0066】
水混和性有機溶剤としては、例えば、アルカノール類のアルキレングリコール類やグリセリン、ポリアルキレングリコール類、(ポリ)アルキレングリコール(モノ又はジ)アルキルエーテル類、アルキルグリセリルエーテル類、(ポリ)アルキレングリコールの芳香族エーテル類が挙げられる。エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、又はヘキシレングリコールなどの炭素数2~6のアルキレングリコール類やグリセリン、又はポリエチレングリコールモノフェニルエーテル、エチレングリコールモノベンジルエーテル、ジエチレングリコールモノベンジルエーテル等が好ましい。本発明の洗剤組成物における当該水混和性有機溶剤の含有量は、好ましくは1~40質量%、より好ましくは1~35質量%である。
【0067】
アルカリ剤としては、例えば、C2-C4のアルカノールを1~3個有するアルカノールアミンとして、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ポリオキシアルキレンアミン、ジメチルアミノプロピルアミン等が挙げられる。モノエタノールアミン、トリエタノールアミンが好ましい。本発明の洗剤組成物における当該アルカリ剤の含有量は、好ましくは0~20質量%、より好ましくは0~10質量%である。
【0068】
有機酸又はその塩としては、例えば、飽和脂肪酸、コハク酸、マレイン酸、フマル酸、又はそれらの塩等の多価カルボン酸類;クエン酸、リンゴ酸、グリコール酸、p-ヒドロキシ安息香酸、安息香酸又はそれらの塩等のヒドロキシカルボン酸類、などが挙げられ、なかでもクエン酸又はその塩が好ましい。本発明の洗剤組成物における当該有機酸又はその塩の含有量は、好ましくは0~5質量%、より好ましくは0~3質量%である。
【0069】
キレート剤とは、金属イオンと配位結合をすることができる化合物をいう。洗剤組成物に添加されたキレート剤は、洗濯用水又は汚れの中のカルシウムイオン、マグネシウムイオン等の洗浄に悪影響を及ぼす金属イオンを封鎖する作用を有する。本発明の洗剤組成物に含まれ得るキレート剤の例としては、ニトリロ三酢酸、イミノ二酢酸、エチレンジアミン酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸、グリコールエーテルジアミン四酢酸、ヒドロキシエチルイミノ二酢酸、トリエチレンテトラアミン六酢酸、ジエンコル酸等のアミノポリ酢酸又はこれらの塩、ジグリコール酸、オキシジコハク酸、カルボキシメチルオキシコハク酸、クエン酸、乳酸、酒石酸、シュウ酸、リンゴ酸、オキシジコハク酸、グルコン酸、カルボキシメチルコハク酸、カルボキシメチル酒石酸等の有機酸又はこれらの塩、アミノトリ(メチレンホスホン酸)、1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸、エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)、及びこれらのアルカリ金属又は低級アミン塩、などが挙げられる。本発明の洗剤組成物におけるキレート剤の含有量は、好ましくは0.1~5質量%、より好ましくは0.1~4質量%である。
【0070】
再汚染防止剤及び分散剤としては、例えばポリアクリル酸、ポリマレイン酸、カルボキシメチルセルロース、重量平均分子量5000以上のポリエチレングリコール、無水マレイン酸-ジイソブチレン共重合体、無水マレイン酸-メチルビニルエーテル共重合体、無水マレイン酸-酢酸ビニル共重合体、ナフタレンスルホン酸塩ホルマリン縮合物、及び特開昭59-62614号公報の請求項1~21(1頁3欄5行~3頁4欄14行)記載のポリマーなどの再汚染防止剤及び分散剤を挙げることができる。本発明の洗剤組成物における当該再汚染防止剤及び分散剤の含有量は、それぞれ0.01~10質量%が好ましい。
【0071】
色移り防止剤としては、例えばポリビニルピロリドンが挙げられ、含有量は0.01~10質量%が好ましい。
【0072】
漂白剤としては、例えば過酸化水素、過炭酸塩、過硼酸塩などの漂白剤を、当該洗剤組成物中1~10質量%含有させることが好ましい。漂白剤を使用するときは、テトラアセチルエチレンジアミン(TAED)や特開平6-316700号公報記載などの漂白活性化剤(アクチベーター)を、当該洗剤組成物中0.01~10質量%含有させることができる。
【0073】
蛍光剤としては、例えばビフェニル型蛍光剤(チノパールCBS-Xなど)やスチルベン型蛍光剤(DM型蛍光染料など)が挙げられる。本発明の洗剤組成物における当該蛍光剤の含有量は0.001~2質量%が好ましい。
【0074】
本発明の変異プロテアーゼ以外の他の酵素としては、例えば、他のプロテアーゼ、セルラーゼ、β-グルカナーゼ、ヘミセルラーゼ、リパーゼ、ペルオキシダーゼ、ラッカーゼ、α-アミラーゼ、グルコアミラーゼ、クチナーゼ、ペクチナーゼ、レダクターゼ、オキシダーゼ、フェノールオキシダーゼ、リグニナーゼ、プルラナーゼ、ペクチン酸リアーゼ、キシログルカナーゼ、キシラナーゼ、ペクチンアセチルエステラーゼ、ポリガラクツロナーゼ、ラムノガラクツロナーゼ、ペクチンリアーゼ、マンナナーゼ、ペクチンメチルエステラーゼ、セロビオヒドロラーゼ、及びトランスグルタミナーゼ等の加水分解酵素、ならびにそれらの2種以上の混合物が挙げられる。
【0075】
酵素安定化剤としては、例えばホウ素化合物、カルシウムイオン源(カルシウムイオン供給化合物)、ヒドロキシ化合物、蟻酸などが挙げられ、酸化防止剤としては、ブチルヒドロキシトルエン、ジスチレン化クレゾール、亜硫酸ナトリウム及び亜硫酸水素ナトリウムなどが挙げられ、可溶化剤としては、パラトルエンスルホン酸、クメンスルホン酸、メタキシレンスルホン酸、安息香酸塩(防腐剤としての効果もある)などが挙げられる。さらに、本発明の洗剤組成物は、オクタン、デカン、ドデカン、トリデカンなどのパラフィン類、デセン、ドデセンなどのオレフィン類、塩化メチレン、1,1,1-トリクロロエタンなどのハロゲン化アルキル類、D-リモネンなどのテルペン類などの水非混和性有機溶剤、色素、香料、抗菌防腐剤、シリコーン等の消泡剤などを含有していてもよい。
【0076】
本発明の変異プロテアーゼを配合することができる洗剤組成物の好ましい例としては、特開2017-008303号公報に記載される液体洗剤組成物、及び特開2013-129729号公報に記載される液体洗剤組成物が挙げられる。これらの洗剤組成物に本発明の変異プロテアーゼを配合することにより、本発明の洗剤組成物を調製することができる。
【0077】
本発明の洗剤組成物は、限定するものではないが、好ましい例としては、衣料又は布製品(例えばシーツ、カーテン、カーペット、壁クロス等)の洗浄用の洗剤組成物、及び台所用(例えば食器又は調理器具用)の洗剤組成物が挙げられる。好ましくは、本発明に係る洗剤組成物は、高濃度洗剤液による洗浄用の洗剤組成物であり、より好ましくは塗布洗浄用又は漬け置き洗浄用の洗剤組成物であり、さらに好ましくは、塗布洗浄用の洗剤組成物である。
【0078】
本発明はまた、例示的実施形態として以下の物質、製造方法、用途、方法等を包含する。但し、本発明はこれらの実施形態に限定されない。
【0079】
〔1〕配列番号1のアミノ酸配列又はこれと少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつ下記(a)~(g)からなる群より選択される少なくとも1つのアミノ酸残基を有する、変異プロテアーゼ:
(a)配列番号1の191位に相当する位置におけるArg又はLys;
(b)配列番号1の17位に相当する位置におけるArg又はLys;
(c)配列番号1の141位に相当する位置におけるAla又はPhe;
(d)配列番号1の243位に相当する位置におけるArg又はLys;
(e)配列番号1の300位に相当する位置におけるArg又はLys;
(f)配列番号1の302位に相当する位置におけるArg又はLys;
(g)配列番号1の311位に相当する位置におけるArg又はLys。
〔2〕好ましくは、前記(a)のアミノ酸残基と、前記(b)~(g)からなる群より選択される少なくとも1つのアミノ酸残基とを有する、〔1〕記載の変異プロテアーゼ。
〔3〕好ましくは、前記(e)のアミノ酸残基と、前記(f)のアミノ酸残基とを有する、〔1〕記載の変異プロテアーゼ。
〔4〕好ましくは、前記(a)~(g)からなる群より選択される少なくとも1つのアミノ酸残基と、下記(h)のアミノ酸残基とを有する、〔1〕記載の変異プロテアーゼ:
(h)配列番号1の82位に相当する位置におけるGln。
〔5〕好ましくは、前記(a)のアミノ酸残基と、前記(h)のアミノ酸残基とを有する、〔4〕記載の変異プロテアーゼ。
〔6〕〔1〕~〔5〕のいずれか1項記載の変異プロテアーゼをコードするポリヌクレオチド。
〔7〕〔6〕記載のポリヌクレオチドを含有するベクター。
〔8〕〔6〕記載のポリヌクレオチド又は〔7〕記載のベクターを含む組換えバチルス属細菌。
〔9〕〔8〕記載の組換えバチルス属細菌を用いる変異プロテアーゼの製造方法。
〔10〕前記組換えバチルス属細菌を培養することを含む、〔8〕記載の方法。
〔11〕〔1〕~〔5〕のいずれか1項記載の変異プロテアーゼを含有する洗剤組成物。
〔12〕好ましくは高濃度洗剤液による洗浄用の洗剤組成物であり、より好ましくは塗布洗浄用又は漬け置き洗浄用の洗剤組成物であり、さらに好ましくは塗布洗浄用の洗剤組成物である、〔11〕記載の洗剤組成物。
〔13〕配列番号1のアミノ酸配列又はこれと少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列からなる親プロテアーゼに対して、下記(A)~(G)からなる群より選択される少なくとも1つの変異を施すことを含む、変異プロテアーゼの製造方法:
(A)配列番号1の191位又はこれに相当する位置におけるアミノ酸残基の、Arg又はLysへの置換;
(B)配列番号1の17位又はこれに相当する位置におけるアミノ酸残基の、Arg又はLysへの置換;
(C)配列番号1の141位又はこれに相当する位置におけるアミノ酸残基の、Ala又はPheへの置換;
(D)配列番号1の243位又はこれに相当する位置におけるアミノ酸残基の、Arg又はLysへの置換;
(E)配列番号1の300位又はこれに相当する位置におけるアミノ酸残基の、Arg又はLysへの置換;
(F)配列番号1の302位又はこれに相当する位置におけるアミノ酸残基の、Arg又はLysへの置換;
(G)配列番号1の311位又はこれに相当する位置におけるアミノ酸残基の、Arg又はLysへの置換。
〔14〕配列番号1のアミノ酸配列又はこれと少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列からなる親プロテアーゼに対して、下記(A)~(G)からなる群より選択される少なくとも1つの変異を施すことを含む、プロテアーゼの高濃度洗剤液中におけるタンパク質汚れに対する洗浄性能の向上方法:
(A)配列番号1の191位又はこれに相当する位置におけるアミノ酸残基の、Arg又はLysへの置換;
(B)配列番号1の17位又はこれに相当する位置におけるアミノ酸残基の、Arg又はLysへの置換;
(C)配列番号1の141位又はこれに相当する位置におけるアミノ酸残基の、Ala又はPheへの置換;
(D)配列番号1の243位又はこれに相当する位置におけるアミノ酸残基の、Arg又はLysへの置換;
(E)配列番号1の300位又はこれに相当する位置におけるアミノ酸残基の、Arg又はLysへの置換;
(F)配列番号1の302位又はこれに相当する位置におけるアミノ酸残基の、Arg又はLysへの置換;
(G)配列番号1の311位又はこれに相当する位置におけるアミノ酸残基の、Arg又はLysへの置換。
〔15〕好ましくは、前記親プロテアーゼに対して、前記(A)の変異と、前記(B)~(G)からなる群より選択される少なくとも1つの変異を施すことを含む、〔13〕又は〔14〕記載の方法。
〔16〕好ましくは、前記親プロテアーゼに対して、前記(E)の変異と、前記(F)の変異を施すことを含む、〔13〕又は〔14〕記載の方法。
〔17〕好ましくは、前記親プロテアーゼに対して、前記(A)~(G)からなる群より選択される少なくとも1つの変異と、下記(H)の変異を施すことを含む、〔13〕又は〔14〕記載の方法:
(H)配列番号1の82位又はこれに相当する位置におけるアミノ酸残基のGlnへの置換。
【実施例0080】
以下、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【0081】
実施例1 変異プロテアーゼの作製
特許文献5の参考例1に記載される野生型KP43プロテアーゼ発現プラスミドpHA64TSAは、テトラサイクリン耐性遺伝子及び、バチルス・エスピー KSM-64株のアルカリセルラーゼK-64遺伝子由来のプロモーター領域に連結された野生型KP43プロテアーゼのコード配列全長を含む。pHA64TSAを鋳型として、相補的プライマー対を用いたPCRによる部位特異的導入法(Nucleic Acids Research,2004,32(14):e115参照)によってKP43プロテアーゼ遺伝子に部位特異的変異を繰り返し導入することで配列番号1のプロテアーゼを発現するプラスミドを作製した。得られた配列番号1のプロテアーゼを発現するプラスミドを鋳型として、同様の手法で、親酵素である配列番号1のプロテアーゼに対して以下のアミノ酸置換:T311R、N302R、Y300K、N243K、S191R、Y17R、D141A、D141F、Y17R/S191R、S191R/N243K、Y300K/N302R、E82Q/S191R、又はS191F、を有する変異プロテアーゼを発現するプラスミドを作製した。以下、これらのプラスミドから発現される変異プロテアーゼを、各々T311R、N302R、Y300K、N243K、S191R、Y17R、D141A、D141F、Y17R/S191R、S191R/N243K、Y300K/N302R、E82Q/S191R、及びS191Fと称する。
【0082】
作製した親酵素又は変異プロテアーゼを発現するプラスミドを用いて、宿主菌であるバチルス・エスピーKSM9865株(FERM P-18566)を形質転換した。形質転換はエレクトロポレーション法を用いて行い、形質転換後の細胞をスキムミルク含有アルカリ寒天培地〔1%スキムミルク(ディフコ)、1%バクトトリプトン(ディフコ)、0.5%酵母エキス(ディフコ)、1%塩化ナトリウム、1.5%寒天、0.05%炭酸ナトリウム、15ppmテトラサイクリン;%は(w/v)%〕に塗抹して30℃で数日間培養した。寒天培地上に生育したコロニーのうち、スキムミルク溶解斑が見られるものをプロテアーゼ遺伝子が導入された形質転換体として選抜した。取得した形質転換体を5mLの種母培地〔6.0%ポリペプトンS、0.05%酵母エキス、1.0%マルトース、0.02%硫酸マグネシウム7水和物、0.1%リン酸2水素カリウム、0.25%炭酸ナトリウム、30ppmテトラサイクリン;%は(w/v)%〕に植菌し、30℃で16時間振盪培養した。次いで20mLの主培地〔8%ポリペプトンS、0.3%酵母エキス、10%マルトース、0.04%硫酸マグネシウム7水和物、0.2%リン酸2水素カリウム、1.5%無水炭酸ナトリウム、30ppmテトラサイクリン;%は(w/v)%〕に種母培養液を1%(v/v)植菌し、30℃で3日間振盪培養した。得られた培養液を遠心分離してプロテアーゼを含む培養上清を取得した。培養上清中に含まれるタンパク質濃度はプロテインアッセイラピッドキッドワコーII(富士フィルム和光純薬)を使用して測定した。
【0083】
実施例2 変異プロテアーゼの塗布洗浄力評価
市販の濃縮液体洗剤(アタックZEROレギュラー;花王株式会社)を電子レンジにて加熱し、製品中の酵素を失活させた。この液体洗剤に対して、実施例1で取得した各変異プロテアーゼを含む培養上清を、タンパク濃度が0.1g/Lとなるように添加し、よく攪拌して変異プロテアーゼを含む液体洗剤組成物(試験組成物)を調製した。対照として、親酵素を含む液体洗剤組成物(対照組成物)を同様の手順で調製した。得られた液体洗剤組成物を用いて、襟袖汚れモデルである人工汚染布DINGY_TN/CP/(CONSUMERTEC)を塗布洗浄した。すなわち、1.5cm四方に裁断したDINGY_TN/CP/上に試験組成物又は対照組成物を20μL滴下し、5分間静置した後、汚染布をターゴトメーター(上島製作所)の洗浄槽内の20℃に保温した600mLの水道水中に移し、60rpmで10分間洗浄した。塗布洗浄後の汚染布を洗浄槽から取り出し、水道水ですすぎ、乾燥させた。塗布洗浄前後の汚染布、及び別途準備した汚染布の原布の明度(L値)を分光測色計cm-700d(コニカミノルタ)を用いて測定し、以下の式を用いて汚染布の洗浄率を算出した。
洗浄率(%)=(L2-L1)/(L0-L1) × 100
(L0:汚染布の原布のL値、L1:洗浄前の汚染布のL値、L2:洗浄後の汚染布のL値)。
対照組成物に対する各試験組成物の相対洗浄率(試験組成物での洗浄率/対照組成物での洗浄率)を算出し、塗布洗浄における各変異プロテアーゼの親プロテアーゼに対する相対洗浄力(相対塗布洗浄力)を評価した。
【0084】
各変異プロテアーゼの相対塗布洗浄力(各変異プロテアーゼを含む試験組成物の相対洗浄率)を表2及び
図1に示す。S191Fを除くいずれの変異プロテアーゼも相対塗布洗浄力が1を上回っており、親酵素よりも明白に高い塗布洗浄力を示した。
【0085】
【0086】
配列番号1の親プロテアーゼに対する191位の変異の効果について表3及び
図2にまとめた。配列番号1の191位のセリン(S)をアルギニン(R)に置換したプロテアーゼ(S191R)は、親プロテアーゼと比べて塗布洗浄力が向上した。一方、191位のフェニルアラニン(F)への置換(S191F)は塗布洗浄力に影響を与えなかった。82位グルタミンと191位アルギニンを有する変異体(E82Q/S191R)はさらに高い塗布洗浄力を示した。
【0087】
【0088】
実施例3 変異プロテアーゼの安定性評価
市販の濃縮液体洗剤(アタックZEROレギュラー;花王株式会社)を電子レンジにて加熱し、製品中の酵素を失活させた。この液体洗剤に対して、実施例1で取得した変異プロテアーゼE82Q/S191Rを含む培養上清を、タンパク濃度が0.2g/Lとなるように添加し、よく攪拌して変異プロテアーゼを含む液体洗剤組成物(試験サンプル)を調製した。対照として、親酵素を含む液体洗剤組成物(対照サンプル)を同様の手順で調製した。酵素配合直後(0h)、及び40℃で2週間保存した後(2w)の試験サンプルのプロテアーゼ活性を以下の方法で測定した。Protazyme AK Tablets(Megazyme)1錠を、1mLの0.1Mリン酸バッファーに懸濁し、基質溶液とした。0h及び2wの試験サンプルは、それぞれ0.1Mリン酸バッファーで60倍に希釈した。基質溶液に該希釈したサンプルを1mL添加し、40℃で30分間インキュベートした。2%リン酸三ナトリウム水溶液を10mL添加して反応を停止し、攪拌後に反応液を1mLずつ1.5mLチューブに分取した。12000rpmで5分間遠心し、上清を分取して590nmにおける吸光度を測定した。試験サンプルの代わりに酵素を加えていない加熱失活液体洗剤を用いて同様に測定した吸光度をブランクとし、試験サンプルの吸光度とブランクとの差分を活性値とした。同様の手順で、0h及び2wの対照サンプルの活性値を求めた。2wのサンプルの活性値を0hのサンプルの活性値で割ることで二週間後の残存活性率を求め、その値を1/14乗することで40℃処理による1日当たりの活性維持率を求めた。1日当たりの活性維持率を底とする0.5の対数を求めてプロテアーゼ活性の半減期(日)とした。変異プロテアーゼの半減期を親プロテアーゼの半減期で割ることで相対安定性を求めた。変異体E82Q/S191Rの相対安定性は1.89であり、E82Q及びS191Rの変異導入によってプロテアーゼの安定性が大きく向上した。特許文献3には、82E又は82Qを有するプロテアーゼが液体洗剤中での安定性が高いことが記載されている。一方、本実施例の変異体E82Q/S191Rは、82Eを有する親プロテアーゼと比べて安定性が向上しており、S191Rの変異がプロテアーゼの安定性をさらに向上させることが示唆された。
【0089】
以上、本発明の実施形態を説明したが、これらが、本発明を、説明した特定の実施形態に限定することを意図するものではないことを理解すべきである。本発明の範囲内にある様々な他の変更及び修正は当業者には明白である。
本明細書に引用されている文献及び特許出願は、あたかもそれが本明細書に完全に記載されているかのように参考として援用される。