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特開2024-157922耐酸性微生物を抽出するための検水の前処理方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024157922
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】耐酸性微生物を抽出するための検水の前処理方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/24 20060101AFI20241031BHJP
   C12Q 1/04 20060101ALI20241031BHJP
   C12Q 1/6848 20180101ALI20241031BHJP
   G01N 1/10 20060101ALI20241031BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20241031BHJP
【FI】
C12Q1/24
C12Q1/04
C12Q1/6848 Z
G01N1/10 G
C12N15/09 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023072592
(22)【出願日】2023-04-26
(71)【出願人】
【識別番号】000175272
【氏名又は名称】三浦工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099841
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 恒彦
(72)【発明者】
【氏名】宮内 佑子
(72)【発明者】
【氏名】高井 政貴
(72)【発明者】
【氏名】小栗 保菜美
【テーマコード(参考)】
2G052
4B063
【Fターム(参考)】
2G052AA36
2G052EA01
2G052ED14
2G052FD02
2G052GA28
4B063QA01
4B063QA05
4B063QA18
4B063QQ06
4B063QQ07
4B063QQ42
4B063QR08
4B063QR32
4B063QR50
4B063QR62
4B063QR66
4B063QS10
4B063QS12
4B063QS14
4B063QS25
4B063QS36
4B063QS39
4B063QS40
(57)【要約】
【課題】クーリングタワーの循環冷却水から採取したレジオネラ属菌の死菌による汚染度の高い検水について、レジオネラ属菌の検査精度を高める。
【解決手段】検水をレジオネラ属菌が耐性を示すpH3.6に調整する。pH3.6を含む高pH領域において負極性の電荷を有しかつレジオネラ属菌が通過可能なグラスファイバー製のシリンジフイルターに対してpHを調整した上記検水を通過させ、検水中において正極性に帯電したレジオネラ属菌を静電引力によりシリンジフイルターに捕捉する。シリンジフイルターにpH4.2で電気伝導度が20μS/cmの緩衝液を通過させた後、レジオネラ属菌の等電点より高pHの緩衝液、例えばpH7で電気伝導度が20μS/cmの緩衝液をシリンジフイルターに通過させて通過液を確保する。この通過液を誘電泳動に適用し、それにより通過液から分離されたレジオネラ属菌を回収してリアルタイムPCR法により検査する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電泳動を利用して検水に含まれる耐酸性微生物を抽出するために、前記検水を前処理するための方法であって、
前記耐酸性微生物が耐性を示す酸性領域に前記検水のpHを調整する工程1と、
工程1で調整した前記検水のpH値を含む高pH領域において負極性の電荷を有しかつ前記耐酸性微生物が通過可能なろ過材に対し、工程1においてpHを調整した前記検水を通過させる工程2と、
工程2を経た前記ろ過材に対し、前記耐酸性微生物が耐性を示す酸性領域のpHでありかつ前記誘電泳動により前記耐酸性微生物を選択的に捕捉可能な電気伝導度を有する第1緩衝液を通過させる工程3と、
工程3を経た前記ろ過材に対して前記耐酸性微生物の等電点より高pHでありかつ前記誘電泳動により前記耐酸性微生物を選択的に捕捉可能な電気伝導度を有する第2緩衝液を通過させ、通過液を確保する工程4と、
を含む耐酸性微生物を抽出するための検水の前処理方法。
【請求項2】
前記ろ過材がグラスファイバー若しくはグラスウールまたはこれらの混合繊維を用いて形成されている、請求項1に記載の検水の前処理方法。
【請求項3】
第2緩衝液としてタンパク質、糖類、界面活性剤またはアルコール類を添加したものを用いる、請求項1または2に記載の検水の前処理方法。
【請求項4】
工程3と工程4との間において、前記耐酸性微生物の耐熱条件下で前記ろ過材を加熱する、請求項1または2に記載の検水の前処理方法。
【請求項5】
工程2の前に前記ろ過材を第2緩衝液により処理する、請求項1または2に記載の検水の前処理方法。
【請求項6】
前記耐酸性微生物が細菌、カビまたは酵母である、請求項1または2に記載の検水の前処理方法。
【請求項7】
検水に含まれる耐酸性微生物を抽出するための方法であって、
前記耐酸性微生物が耐性を示す酸性領域に前記検水のpHを調整する工程1と、
工程1で調整した前記検水のpH値を含む高pH領域において負極性の電荷を有しかつ前記耐酸性微生物が通過可能なろ過材に対し、工程1においてpHを調整した前記検水を通過させる工程2と、
工程2を経た前記ろ過材に対し、前記耐酸性微生物が耐性を示す酸性領域のpHである第1緩衝液を通過させる工程3と、
工程3を経た前記ろ過材に対して前記耐酸性微生物の等電点より高pHである第2緩衝液を通過させ、通過液を確保する工程4と、
工程4において確保した前記通過液を誘電泳動に適用する工程5と、
を含み、
第1緩衝液および第2緩衝液として、前記誘電泳動により前記耐酸性微生物を選択的に捕捉可能な電気伝導度を有するものを用いる、
耐酸性微生物の抽出方法。
【請求項8】
検水に含まれる耐酸性微生物の検査方法であって、
前記耐酸性微生物が耐性を示す酸性領域に前記検水のpHを調整する工程1と、
工程1で調整した前記検水のpH値を含む高pH領域において負極性の電荷を有しかつ前記耐酸性微生物が通過可能なろ過材に対し、工程1においてpHを調整した前記検水を通過させる工程2と、
工程2を経た前記ろ過材に対し、前記耐酸性微生物が耐性を示す酸性領域のpHである第1緩衝液を通過させる工程3と、
工程3を経た前記ろ過材に対して前記耐酸性微生物の等電点より高pHである第2緩衝液を通過させ、通過液を確保する工程4と、
工程4において確保した前記通過液を誘電泳動に適用する工程5と、
前記誘電泳動により前記通過液から分離された前記耐酸性微生物を回収する工程6と、
回収した前記耐酸性微生物を検査する工程7と、
を含み、
第1緩衝液および第2緩衝液として、前記誘電泳動により前記耐酸性微生物を選択的に捕捉可能な電気伝導度を有するものを用いる、
耐酸性微生物の検査方法。
【請求項9】
工程7は、
回収した前記耐酸性微生物から核酸を抽出する工程7Aと、
抽出された前記核酸を核酸増幅法により検査する工程7Bと、
を含む、請求項8に記載の耐酸性微生物の検査方法。
【請求項10】
工程7Aの前に、回収した前記耐酸性微生物に対して選択的細胞膜透過性色素による処理をする工程7Cをさらに含む、請求項9に記載の耐酸性微生物の検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検水の前処理方法、特に、誘電泳動を利用して検水に含まれる耐酸性微生物を抽出するために、検水を前処理するための方法に関する。なお、耐酸性微生物は、特に断りのない限り、耐酸性微生物の生体(例えば、耐酸性微生物が細菌の場合は生菌。)を意味する。
【背景技術】
【0002】
飲用水や浴槽水などの生活用水は、水源や環境などの諸要因により種々の微生物を微量に含むことがあり、その含有量が一定量を超えると感染症等を誘発するおそれがある。例えば、公衆浴場や宿泊施設での循環式の温泉水や浴槽水、或いは、クーリングタワーの循環冷却水において屡々検出されるレジオネラ属菌は、耐酸性微生物であってポンティアック熱や重篤な肺炎(レジオネラ肺炎)等の疾病の原因となる病原菌である。そこで、温泉水等の浴槽水については、条例によりレジオネラ属菌の規制値が10CFU/100mL未満と規定されるとともに、年に一度のレジオネラ属菌の検査が義務付けられており、また、クーリングタワーの循環冷却水については、別途100CFU/100mL未満の推奨値が設けられるとともに同様の検査が推奨されている。
【0003】
浴槽水や循環冷却水に含まれるレジオネラ属菌が規制値を超えるか否かを判定するための検査方法として、非特許文献1、2は、培養法を規定している。培養法では、浴槽水等から採取した検水を濃縮した後に夾雑菌の殺菌処理をすることで検査用試料を調製する。そして、検査用試料の一定量を選択培地に塗布して5~7日間培養し、湿潤性の青白および灰白の集落が出現した場合は検水に規制値以上のレジオネラ属菌が含まれるものと仮に判断し、確認試験を実施する。確認試験では、選択培地に出現した集落をL-システイン不含培地およびBCYEα培地に塗布して2~7日間さらに培養する。これでBCYEα培地のみに集落が形成された場合、検水に規制値以上のレジオネラ属菌が含まれるものと最終判断する。
【0004】
培養法は、培養に日数を要することから、検水の採取から結果の判定までに少なくとも10日前後の長期間を要し、この点が浴槽水や循環冷却水等の水質管理上の難点である。そこで、非特許文献1は、浴槽水が水質基準に適合しているか否かを判断するための検査方法として、レジオネラ属菌の生菌の核酸を定量的に検出可能な迅速検査法であるLC EMA-qPCR法(非特許文献3、4)を認めている。LC EMA-qPCR法では、検水をろ過濃縮後に酸処理することで検水中の夾雑微生物の生息を抑制し、レジオネラ属菌を選択的に増殖するための液体培養(Liquid Culture(LC))を開始する。続いて、液体培養された試料に対して選択的膜透過性色素であるエチジウムモノアジド(EMA)を添加するとともに光照射し、それによって生息を抑制された夾雑微生物およびレジオネラ属菌の死骸に由来の核酸をEMAにより修飾した後、この試料に対して迅速検査法であるリアルタイムポリメラーゼ連鎖反応法(qPCR法)を適用する。このqPCR法においては、生息を抑制された夾雑微生物およびレジオネラ属菌の死骸の両者に由来の核酸がEMAにより修飾されることでポリメラーゼ連鎖反応の鋳型とならないことから、レジオネラ属菌の生菌に由来の核酸が選択的に増幅し、当該生菌に由来の核酸を選択的に検出することができる。LC EMA-qPCR法によれば、浴槽水についてレジオネラ属菌に係る水質基準の適合・不適合を培養法よりも大幅に短縮された2日で判定可能とされている。
【0005】
しかし、LC EMA-qPCR法は夾雑微生物等による汚れの比較的少ない浴槽水を検査対象とするものであり、夾雑微生物等、特に、レジオネラ属菌の死菌による汚染度の高い循環冷却水が検査対象の場合は検査精度が低下する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】令和元年9月19日 厚生労働省医薬・生活衛生局生活衛生課長通知「公衆浴場における浴槽水等のレジオネラ属菌検査方法について」
【非特許文献2】日本工業規格 JIS K 0350-50-10:2006、「工業用水・工場排水中のレジオネラ試験方法」
【非特許文献3】タカラバイオ株式会社、レジオネラ属菌検査 生菌検出法(LC EMA-qPCR法) [検索日 2023.04.25]、インターネット <URL:https://catalog.takara-bio.co.jp/product/basic_info.php?unitid=U100007673>
【非特許文献4】タカラバイオ株式会社、Viable Bacteria Selectionシステムによる生菌由来DNAの選択的検出(EMA-PCR法) [検索日 2023.04.25]、インターネット <URL:https://catalog.takara-bio.co.jp/product/basic_info.php?unitid=U100006890#ema-pcr>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、夾雑微生物等による汚染度の高い検水、特に、耐酸性微生物の死骸による汚染度の高い検水に含まれる耐酸性微生物の検査精度を高めることができるようにするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、誘電泳動を利用して検水に含まれる耐酸性微生物を抽出するために、検水を前処理するための方法に関するものである。この前処理方法は、耐酸性微生物が耐性を示す酸性領域に検水のpHを調整する工程1と、工程1で調整した検水のpH値を含む高pH領域において負極性の電荷を有しかつ耐酸性微生物が通過可能なろ過材に対し、工程1においてpHを調整した検水を通過させる工程2と、工程2を経たろ過材に対し、耐酸性微生物が耐性を示す酸性領域のpHでありかつ誘電泳動により耐酸性微生物を選択的に捕捉可能な電気伝導度を有する第1緩衝液を通過させる工程3と、工程3を経たろ過材に対して耐酸性微生物の等電点より高pHでありかつ誘電泳動により耐酸性微生物を選択的に捕捉可能な電気伝導度を有する第2緩衝液を通過させ、通過液を確保する工程4と、を含む。
【0009】
工程1においてpHが調整された検水において、耐酸性微生物は正極性の電荷を有する状態で安定に生息するのに対し、耐酸性微生物以外の夾雑微生物は検水の酸性環境において生息を抑制される。工程2において、工程1を経た検水をろ過材に通過させると、ろ過材は負極性に帯電し、検水中において正極性に帯電する耐酸性微生物を静電引力により引き付けて捕捉する。一方、検水において生息を抑制された夾雑微生物は、検水とともにろ過材を通過する。そして、工程3においてろ過材に対して第1緩衝液を通過させると、耐酸性微生物はろ過材に保持され続ける一方でろ過材に残留する検水が第1緩衝液により置換され、また、工程4においてろ過材に対して第2緩衝液を通過させると、第2緩衝液のpH環境により耐酸性微生物は負極性の電荷を得ることから負極性に帯電するろ過材に対して反発し、ろ過材から離脱して第2緩衝液へ移行する。したがって、工程4においてろ過材を通過した第2緩衝液による通過液を確保すると、耐酸性微生物を含む前処理液が得られる。この前処理液は、第1緩衝液および第2緩衝液のいずれもが誘電泳動により耐酸性微生物を選択的に捕捉可能な電気伝導度を有することから、そのまま誘電泳動に適用することができ、誘電泳動に適用すると耐酸性微生物が捕捉される。
【0010】
本発明に係る前処理方法において、ろ過材は、例えば、グラスファイバー若しくはグラスウールまたはこれらの混合繊維を用いて形成されている。
【0011】
本発明に係る前処理方法において用いる第2緩衝液は、タンパク質、糖類、界面活性剤またはアルコール類を添加したものであってもよい。
【0012】
本発明に係る前処理方法の一形態では、工程3と工程4との間において、耐酸性微生物の耐熱条件下でろ過材を加熱する。また、本発明に係る前処理方法の他の一形態では、工程2の前にろ過材を第2緩衝液により処理する。これらの形態に係る操作は併用されてもよい。
【0013】
本発明に係る前処理方法が適用される検水に含まれる耐酸性微生物は、例えば、細菌、カビまたは酵母である。
【0014】
他の観点に係る本発明は、検水に含まれる耐酸性微生物を抽出するための方法に関するものである。この抽出方法は、耐酸性微生物が耐性を示す酸性領域に検水のpHを調整する工程1と、工程1で調整した検水のpH値を含む高pH領域において負極性の電荷を有しかつ耐酸性微生物が通過可能なろ過材に対し、工程1においてpHを調整した検水を通過させる工程2と、工程2を経たろ過材に対し、耐酸性微生物が耐性を示す酸性領域のpHである第1緩衝液を通過させる工程3と、工程3を経たろ過材に対して耐酸性微生物の等電点より高pHである第2緩衝液を通過させ、通過液を確保する工程4と、工程4において確保した通過液を誘電泳動に適用する工程5と、を含む。ここでは、第1緩衝液および第2緩衝液として、誘電泳動により耐酸性微生物を選択的に捕捉可能な電気伝導度を有するものを用いる。
【0015】
この抽出方法では、本発明に係る前処理方法と同じく、工程4においてろ過材を通過した第2緩衝液による通過液を確保すると、耐酸性微生物を含む前処理液が得られる。この通過液は、第1緩衝液および第2緩衝液のいずれもが誘電泳動により耐酸性微生物を選択的に捕捉可能な電気伝導度を有することから、工程5においてそのまま誘電泳動に適用することができる。そして、工程5において誘電泳動に適用された通過液に含まれる耐酸性微生物は、誘電泳動により選択的に捕捉され、その一方で通過液に混入している当該微生物および夾雑微生物の死骸はそのまま通過液に残留する。この結果、検水に含まれていた耐酸性微生物の生体が抽出されることになる。
【0016】
さらに他の観点に係る本発明は、検水に含まれる耐酸性微生物の検査方法に関するものである。この検査方法は、耐酸性微生物が耐性を示す酸性領域に検水のpHを調整する工程1と、工程1で調整した検水のpH値を含む高pH領域において負極性の電荷を有しかつ耐酸性微生物が通過可能なろ過材に対し、工程1においてpHを調整した検水を通過させる工程2と、工程2を経たろ過材に対し、耐酸性微生物が耐性を示す酸性領域のpHである第1緩衝液を通過させる工程3と、工程3を経たろ過材に対して耐酸性微生物の等電点より高pHである第2緩衝液を通過させ、通過液を確保する工程4と、工程4において確保した通過液を誘電泳動に適用する工程5と、誘電泳動により通過液から分離された耐酸性微生物を回収する工程6と、回収した耐酸性微生物を検査する工程7と、を含む。ここでは、第1緩衝液および第2緩衝液として、誘電泳動により耐酸性微生物を選択的に捕捉可能な電気伝導度を有するものを用いる。
【0017】
この検査方法では、本発明に係る抽出方法と同じく、工程4の通過液に含まれる耐酸性微生物が工程5において選択的に捕捉される。そして、工程6において捕捉された耐酸性微生物を回収し、工程7においてこれを検査すると、検水に含まれていた耐酸性微生物をその死骸や夾雑微生物の影響を抑えて評価することができる。
【0018】
この検査方法の一形態において、工程7は、回収した前記耐酸性微生物から核酸を抽出する工程7Aと、抽出された核酸を核酸増幅法により検査する工程7Bとを含む。この形態の一例は、工程7Aの前に、回収した耐酸性微生物に対して選択的細胞膜透過性色素による処理をする工程7Cをさらに含む。
【発明の効果】
【0019】
本発明の前処理方法によれば、夾雑微生物等による汚染度の高い検水、特に、耐酸性微生物の死骸による汚染度の高い検水に含まれる耐酸性微生物を誘電泳動の利用により選択的に抽出することができる。
【0020】
本発明の抽出方法によれば、夾雑微生物等による汚染度の高い検水、特に、耐酸性微生物の死骸による汚染度の高い検水に含まれる耐酸性微生物を選択的に抽出することができる。
【0021】
本発明の検査方法によれば、夾雑微生物等による汚染度の高い検水、特に、耐酸性微生物の死骸による汚染度の高い検水に含まれる耐酸性微生物の検査精度を高めることができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
検水に含まれる耐酸性微生物の検査方法では、誘電泳動を利用して検水から耐酸性微生物を抽出し、抽出した耐酸性微生物を検査する。ここで対象となる検水は、耐酸性微生物による汚染状況を評価する必要のある水、すなわち評価対象水から検査用試料として採取した水である。評価対象となる水は、特に限定されるものではなく、例えば、河川水、湖沼水および地下水などの環境水、上水、工業用水および下水のほか、循環式の温泉水や浴槽水およびクーリングタワーの循環冷却水等の各種の用水である。また、評価対象となる水に含まれる検査対象の耐酸性微生物は、耐酸性を有する微生物であり、通常、レジオネラ属菌やサルモネラ菌等の細菌、カビまたは酵母である。耐酸性微生物の範疇には好酸性微生物も含まれる。
【0023】
検水からの耐酸性微生物の抽出では、先ず、検水を前処理する。
検水の前処理では、検水のpHを検査対象の耐酸性微生物が耐性を示す酸性領域、好ましくは検査対象の耐酸性微生物の等電点より低pHに調整する(工程1)。例えば、検査対象の耐酸性微生物がレジオネラ属菌(一般的な細菌の等電点は概ね4~5であることが知られており、レジオネラ属菌の等電点もこの範囲にある。)の場合、本工程において検水のpHは2~6の範囲内、特に、3.0~4.5の範囲内に調整するのが好ましい。
【0024】
検水のpHは、検水のpHを低下させることのできる酸性の薬剤を用いて調整することができる。薬剤としては、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、ホウ酸若しくはフッ化水素酸などの無機酸またはクエン酸、酢酸、ギ酸若しくはシュウ酸などの有機酸を用いることができる。これらの薬剤は、二種以上のものが併用されてもよい。
【0025】
本工程においてpHが調整されることにより、検水に含まれる各種の微生物のうち、耐酸性微生物は正極性の電荷を有する状態で安定に生息するが、耐酸性微生物以外の夾雑微生物は検水の酸性環境において生息を抑制される。
【0026】
次に、ろ過材に対し、工程1においてpHを調整した検水を通過させる(工程2)。この工程において用いるろ過材は、工程1で調整した検水のpH値を含む高pH領域において負極性の電荷を有するものである。このようなろ過材は、工程1で調整した検水のpH値を含む高pH領域において負極性に帯電する素材を用いることで形成することができる。そのような素材の例としては、グラスファイバー、グラスウールおよびこれらの混合繊維、石英ウール並びに陽イオン交換樹脂を挙げることができる。これらのうち、グラスファイバー、グラスウールまたはこれらの混合繊維を用いるのが好ましい。
【0027】
ろ過材は、上述の素材を用いて検水を通水可能に形成されたものであれば、形態が限定されるものではない。例えば、素材をろ紙状等に成形したものでもよいし、本工程において検水を通過させる通水路に素材を充填したものであってもよい。但し、ろ過材は、後記の工程4においてろ過材から耐酸性微生物を溶出させる必要があることから、検査対象の耐酸性微生物が通過可能なように設定する必要がある。例えば、検査対象の耐酸性微生物がレジオネラ属菌であってろ紙状のろ過材を用いる場合、当該ろ過材の補粒子径は0.2μm以上、特に0.4μm以上に設定するのが好ましい。
【0028】
工程1においてpHが調整された検水を本工程においてろ過材に通過させると、ろ過材は検水のpH環境に晒されることで負極性に帯電する。これに対し、ろ過材を通過する検水中の耐酸性微生物およびその死骸は正極性に帯電することから、静電引力によりろ過材に引き付けられ、ろ過材に捕捉される。この結果、検水中の耐酸性微生物およびその死骸(以下、耐酸性微生物等と言うことがある。)は検水からろ過材上に分離され、一部の夾雑微生物およびその死骸を含む検水はろ過材を通過する。
【0029】
本工程の終了後であって次の工程に移る前に、必要により、耐酸性微生物等を捕捉したろ過材に対して加熱処理を施してもよい。加熱処理は、ろ過材において検査対象の耐酸性微生物とともに捕捉された一部の夾雑微生物の生息抑制効果を高めることを目的とするものである。
【0030】
ろ過材の加熱処理では、検査対象の耐酸性微生物の耐熱条件下でろ過材を加熱する。例えば、検査対象の耐酸性微生物がレジオネラ属菌の場合、ろ過材の加熱温度は40℃~レジオネラ属菌の耐熱温度未満、特に、60℃未満に設定するのが好ましい。
【0031】
次に、ろ過材に対して緩衝液を供給して通過させる(工程3)。これにより、ろ過材に耐酸性微生物等とともに残留する検水は、この緩衝液により置換される。
【0032】
ここで用いる緩衝液(以下、「第1緩衝液」という。)は、検査対象の耐酸性微生物が耐性を示す酸性領域にpHが調整されたもの、好ましくは当該pHが工程1で調整した検水のpHから検査対象の耐酸性微生物の等電点以下の範囲に調整されたものであって、検査対象の耐酸性微生物を含むものを誘電泳動に適用したときに当該耐酸性微生物が選択的に捕捉され得る電気伝導度を有するものである。このような第1緩衝液としては、通常、pHおよび電気伝導度が上述のように調整されたものであれば種々のもの用いることができる。例えば、塩酸-塩化カリウム緩衝液やリン酸緩衝液等の無機系緩衝液、クエン酸緩衝液や酢酸緩衝液等の有機系緩衝液またはグリシン-塩酸緩衝液等の無機系と有機系との混合緩衝液であって、pHおよび電気伝導度が上述のように調整されたものが用いられる。第1緩衝液の電気伝導度は、電解質濃度を制御すること、例えば、所要の緩衝液を脱イオン水により希釈することで調整することができる。第1緩衝液の電気伝導度は、後記する第2緩衝液と実質的に同じになるよう調整するのが好ましい。
【0033】
検査対象の耐酸性微生物がレジオネラ属菌の場合、それが耐性を示す酸性領域の下限pHは2であることから、例えば、工程1において検水のpHを3.5に設定した場合、第1緩衝液は、pHが3.5~5.0程度の範囲内に調整されかつ電気伝導度が100μS/cm以下、特に、25μS/cm以下に調整されたものを用いるのが好ましい。この例において電気伝導度の下限は特に限定されるものではないが、通常は1μS/cm以上、特に、15μS/cm以上に設定するのが好ましい。
【0034】
次に、ろ過材に対して第1緩衝液とは別の緩衝液を供給し、ろ過材を通過した当該緩衝液を通過液として確保する(工程4)。ここで用いる緩衝液(以下、「第2緩衝液」という。)は、検査対象となる耐酸性微生物の等電点よりも高pHに調整したものであって、検査対象の耐酸性微生物を含むものを誘電泳動に適用したときに当該耐酸性微生物が選択的に捕捉され得る電気伝導度を有するものである。このような第2緩衝液としては、通常、pHおよび電気伝導度が上述のように調整されたものであれば種々のもの用いることができる。例えば、リン酸緩衝液、炭酸塩緩衝液、重炭酸緩衝液および塩化カリウム-水酸化ナトリウム緩衝液等の無機系緩衝液またはクエン酸緩衝液等の有機系緩衝液であって、pHおよび電気伝導度が上述のように調整されたものが用いられる。第2緩衝液の電気伝導度は、第1緩衝液と同じく、電解質濃度を制御すること、例えば、所要の緩衝液を脱イオン水により希釈することで調整することができる。
【0035】
この工程においてろ過材に対して第2緩衝液を通過させると、ろ過材に捕捉された耐酸性微生物等は第2緩衝液のpH環境に晒されることで負極性に帯電し、同じく負極性に帯電しているろ過材に対して反発する。この結果、耐酸性微生物等はろ過材から離脱して第2緩衝液へ移行し、第2緩衝液とともにろ過材を通過する。ここで、ろ過材に耐酸性微生物等とともに残留していた検水は先の工程3において第1緩衝液に置換されていることから、第2緩衝液がろ過材を通過することで得られる通過液の電気伝導度は、検査対象の耐酸性微生物を誘電泳動により選択的に捕捉可能な電気伝導度に維持される。したがって、通過液は、後記する耐酸性微生物を抽出するための誘電泳動に対してそのまま適用することができる。
【0036】
この工程では、通常、ろ過材を通過させる第2緩衝液の総量が多いほどろ過材に捕捉された耐酸性微生物等の溶出率(すなわち、ろ過材に捕捉された耐酸性微生物等の回収率。)を高めることができる。一方、第2緩衝液としてタンパク質、糖類、アルコール類または界面活性剤を添加したものを用いると、ろ過材からの耐酸性微生物等の溶出を促進することができ、ろ過材に通過させる第2緩衝液の総量を抑えながら耐酸性微生物等の溶出率を高めることができる。
【0037】
上述のタンパク質等の添加剤を含む第2緩衝液において、各添加剤の添加濃度は、通常、後記する範囲になるよう調節するのが好ましい。この範囲より添加濃度が低い場合、添加剤による耐酸性微生物等の溶出促進効果が得られにくい可能性がある。また、この範囲より添加濃度が高い場合、耐酸性微生物の検査結果の信頼性が添加剤の影響により損なわれる可能性がある。
【0038】
第2緩衝液に添加可能なタンパク質としては、例えば、牛肉エキス、ウシ血清アルブミンおよびウシガンマグロブリンなどが挙げられる。タンパク質は、二種以上のものが併用されてもよい。第2緩衝液におけるタンパク質の添加濃度は、通常、0.1~5.0W/V%に設定するのが好ましく、1.0~3.0W/V%に設定するのがより好ましい。
【0039】
第2緩衝液に添加可能な糖類は、特に限定されるものではないが、具体例としてはセドヘプツロースおよびコリオースなどの七単糖ケトース、アロース、タロース、グロース、グルコース、アルトロース、マンノース、ガラクトースおよびイドースなどの六炭糖アルドース、プシコース、フルクトース、ソルボースおよびタガトースなどの六炭糖ケトース、リボース、リキソース、キシロース、アラビノースおよびアピオースなどの五炭糖アルドース、リブロースおよびキシルロースなどの五炭糖ケトース、エリトロースおよびトレオースなどの四炭糖アルドース、エリトルロースなどの四炭糖ケトース、グリセルアルデヒドなどの三炭糖アルドース並びにジヒドロキシアセトンなどの三炭糖ケトースを挙げることができる。糖類は、二種以上のものが併用されてもよい。
【0040】
第2緩衝液における糖類の添加濃度は、通常、0.1~5.0W/V%に設定するのが好ましく、0.5~3.0W/V%に設定するのがより好ましい。
【0041】
第2緩衝液に添加可能なアルコール類は、特に限定されるものではないが、具体例としてはメタノール、エタノールおよびイソプロパノールなどの一価の低級アルコール、エチレングリコールなどの二価アルコール、グリセリンなどの三価アルコールを挙げることができる。アルコール類は、二種以上のものが併用されてもよい。第2緩衝液におけるアルコール類の添加濃度は、通常、5.0~15.0W/V%に設定するのが好ましく、8.0~10.0W/V%に設定するのがより好ましい。
【0042】
第2緩衝液に添加可能な界面活性剤は、特に限定されるものではなく、石鹸や各種の合成界面活性剤を用いることができる。利用可能な合成界面活性剤の具体例としては、カルボン酸型、スルホン酸型、硫酸エステル型およびリン酸エステル型等のアニオン系界面活性剤、第四級アンモニウム塩型、アルキルアミン塩型およびピリジン誘導体等のカチオン系界面活性剤、アルキルベタイン型、脂肪酸アミドプロピルベタイン型、アルキルイミダゾール型、アミノ酸型およびアミンオキシド型等の両性界面活性剤並びにエステル型、エーテル型、エステルエーテル型、アルカノールアミド型、アルキルグリコシドおよび高級アルコール等のノニオン系界面活性剤を挙げることができる。界面活性剤は、二種以上のものが併用されてもよい。
【0043】
第2緩衝液における界面活性剤の添加濃度は、通常、0.01~5.0W/V%に設定するのが好ましく、0.1~1.0W/V%に設定するのがより好ましい。
【0044】
上述の添加剤は、二種類以上のものが併用されてもよいが、アルコール類または界面活性剤を選択するのが特に好ましい。
【0045】
以上の工程による検水の前処理では、工程2の前に、工程2で用いるろ過材を第2緩衝液により処理してもよい。具体的には、第2緩衝液にろ過材を浸漬したり、ろ過材に対して第2緩衝液を通過させたりすることで、ろ過材を第2緩衝液により処理してもよい。ろ過材を第2緩衝液により処理しておくと、工程2においてろ過材が耐酸性微生物等を引き付ける静電引力が緩和されることから、工程4において第2緩衝液を通過させたときにろ過材に捕捉された耐酸性微生物等の溶出率を高めやすくなる。
【0046】
検水からの耐酸性微生物の抽出では、次に、上述の前処理の工程4において確保した通過液を誘電泳動に適用する(工程5)。誘電泳動では、電極に電圧を印加したときに、通過液(すなわち、第2緩衝液)中の耐酸性微生物を選択的に電極に捕捉することができ、電極への電圧印加を停止したときに、電極に捕捉した耐酸性微生物を第2緩衝液中へ離脱させることができる。したがって、耐酸性微生物等、すなわち、検査対象となる耐酸性微生物とその死骸を含む通過液を誘電泳動に適用すると、通過液中の耐酸性微生物が誘電泳動装置の電極に捕捉され、耐酸性微生物の死骸は電極により捕捉されずに通過液中に残留する。これにより、耐酸性微生物とその死骸とが分離され、結果的に耐酸性微生物は電極上に抽出されることになる。
【0047】
検水に含まれる耐酸性微生物の検査では、工程5において通過液から分離された耐酸性微生物を回収する(工程6)。ここでは、誘電泳動装置へ第2緩衝液を供給しながら電極への電圧印加を停止すると、耐酸性微生物が電極から離脱し、第2緩衝液へ移行する。したがって、誘電泳動装置からの第2緩衝液を確保すると、耐酸性微生物を回収することができる。
【0048】
次に、回収した耐酸性微生物を検査する(工程7)。検査法としては、PCR法(ポリメラーゼ連鎖反応法)、qPCR法若しくはLAMP法(Loop-mediated Isothermal Amplification法)等の核酸増幅法、イムノクロマト法等の抗体法またはATP測定法等の種々の迅速検査法を用いることができる。また、イムノアッセイ法の一つであるELISA法や、レジオネラ属菌等について一般的な培養法が用いられてもよい。これらのうち、検査結果を迅速に得ることができ、検査精度も高いことから、核酸増幅法を採用するのが好ましい。
【0049】
この工程では、これまでの工程により検水から抽出した耐酸性微生物を検査対象とすることから、検水に含まれる夾雑微生物や耐酸性微生物の死骸等の影響による偽陽性や偽陰性が生じにくく、例えばレジオネラ属菌であれば、その水質基準の判定において用いられる培養法による判定結果との一致率が高く、信頼性の高い検査結果が得られる。
【0050】
核酸増幅法により本工程を実行するとき、工程6において回収した耐酸性微生物から核酸であるDNAまたはRNAを抽出し(工程7A)、RNAの場合は逆転写反応を適用した後、当該核酸に対して核酸増幅法を適用する(工程7B)。この場合、工程6において回収した耐酸性微生物に対してエチジウムモノアジド(EMA)やプロピジウムモノアジド(PMA)等の選択的細胞膜透過性色素による処理をするのが好ましい(工程7C)。選択的細胞膜透過性色素による処理をすると、回収した耐酸性微生物とともに存在する死骸に由来の核酸が選択的膜透過性色素により修飾され、死骸に由来の核酸が工程7Bにおいて増幅するのが阻止される。したがって、工程7Bでは、死骸の核酸の増幅による結果が反映されにくくなることから、より信頼性の高い検査結果が得られる。
【0051】
検査対象の耐酸性微生物がレジオネラ属菌の場合であって検査法としてイムノクロマト法を採用するとき、レジオネラ属菌検査用のイムノクロマト試験紙が用いられてもよい。レジオネラ属菌検査用のイムノクロマト試験紙は市販のものを用いることができる。例えば、尿中のレジオネラニューモフィラ血清型1抗原(LPS)検出試薬である「チェックレジオネラ」(SA Scientific, INC.社の商品名)や「Qライン極東レジオネラ」(極東製薬工業株式会社の商品名)などを用いることができる。
【実施例0052】
[実施例]
以下の手順に従い、クーリングタワーから採取した循環冷却水に含まれるレジオネラ属菌数を調べた。ここでは、クーリングタワーから採取した循環冷却水を50倍に濃縮し、検水を調製した。この検水1.5mLに対して0.2M酢酸緩衝液(pH3.6)を1.5mL添加することでpHを3.8に調整し、5分間静置した(工程1)。そして、pH7で電気伝導度20μS/cmの市販の誘電泳動用緩衝液(株式会社AFIテクノロジーの商品名「エレスタバッファ」)を1.0mL通液することで処理したシリンジフイルタ-(テクノラボエスシィ株式会社のグラスファイバー製/直径13mm、孔径1.00μm)に対して工程1で5分間静置後の検水の全量(3.0mL)を通水した(工程2)。
【0053】
工程2を経たシリンジフイルターに対し、希釈した酢酸緩衝液(pH4.2、電気伝導度20μS/cm)を3.0mL通液し(工程3)、さらに工程2で用いた誘電泳動用緩衝液4.0mLを通液し、通過した誘電泳動用緩衝液を確保した。そして、確保した誘電泳動用緩衝液を8,000g×5分間の条件により4℃で遠心分離処理し、上清2.5mLを廃棄することでその体積を工程1で用いた検水と同じ1.5mLに濃縮した(工程4)。
【0054】
工程4において濃縮した誘電泳動用緩衝液を耐酸性微生物等の微生物の生体と死骸とを分離可能な誘電泳動装置(株式会社AFIテクノロジーの商品名「ELESTA PixeeMo」)に適用して誘電泳動処理し(工程5)、その終了後に誘電泳動装置の電極を工程2で用いた誘電泳動用緩衝液により洗浄して洗浄液を確保した(工程6)。
【0055】
次に、確保した洗浄液に選択的膜透過性色素であるエチジウムモノアジドを添加して光照射した(工程7C)。このように処理された洗浄液からLysis Bufferを用いた手法により核酸(DNA)を抽出し(工程7A)、抽出した核酸をリアルタイムPCR検査装置(タカラバイオ株式会社の商品名「Thermal Cycler Dice Real Time System III」)により検査することでコピー数を定量した(工程7B)。そして、浴槽水に含まれるレジオネラ属菌の検査方法において認められた迅速検査法であるLC EMA-qPCR法での手法により、コピー数からレジオネラ属菌数を換算した。
【0056】
異なる3種類の循環冷却水からそれぞれ採取して調製した3種類の検水(検水1~3)について、上述の工程によりレジオネラ属菌数を調べた結果を表1に示す。なお、循環冷却水の採取からレジオネラ属菌数が判明するまでに要した時間は約250分であった。
【0057】
[比較例]
非特許文献2の培養法に従い、クーリングタワーから採取した循環冷却水に含まれるレジオネラ属菌数を調べた。ここでは、クーリングタワーから採取した循環冷却水を50倍に濃縮し、検水を調製した。そして、この検水1.0mLに対して塩酸-塩化カリウム緩衝液(pH2.2)を1.0mL添加し、5分間静置した。このように処理した検水をレジオネラ属菌の選択分離培地であるGVPC培地(日水製薬株式会社社製)に塗布し、36℃で7日間培養した。GVPC培地に形成された集落のうち、レジオネラ属菌と思われるものをBCYEα寒天培地(日水製薬株式会社製)とL-システイン不含培地である羊血寒天培地(日水製薬株式会社社製)のそれぞれに釣菌し、36℃で5~7日間培養することでレジオネラ属菌数を求めた。
【0058】
実施例と同じ3種類の循環冷却水からそれぞれ採取して調製した3種類の検水(検水1~3)について、上述の工程によりレジオネラ属菌数を調べた結果を表1に示す。表1によると実施例の菌数換算値は比較例の菌数と同じオーダー(桁数)であり、実施例の結果は比較例の結果と同等の信頼性を有する。
【0059】
【表1】