(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024157927
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】慣性センサ
(51)【国際特許分類】
G01C 19/5691 20120101AFI20241031BHJP
B81B 3/00 20060101ALI20241031BHJP
【FI】
G01C19/5691
B81B3/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023072604
(22)【出願日】2023-04-26
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】520124752
【氏名又は名称】株式会社ミライズテクノロジーズ
(74)【代理人】
【識別番号】110001128
【氏名又は名称】弁理士法人ゆうあい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】和田 章良
(72)【発明者】
【氏名】大竹 伸幸
(72)【発明者】
【氏名】水谷 厚司
(72)【発明者】
【氏名】宮脇 正太郎
(72)【発明者】
【氏名】片山 雅之
(72)【発明者】
【氏名】加藤 哲弥
【テーマコード(参考)】
2F105
3C081
【Fターム(参考)】
2F105AA02
2F105BB01
2F105BB02
2F105CC04
2F105CD03
2F105CD05
3C081AA13
3C081BA42
3C081BA48
3C081BA75
3C081CA14
3C081CA20
3C081CA33
3C081CA36
3C081DA03
3C081DA06
3C081DA29
3C081DA31
3C081EA02
(57)【要約】
【課題】微小振動体と実装基板との接合強度と、動作時の微小振動体の振動の対称性とが確保された慣性センサを提供する。
【解決手段】曲面部21と、曲面部21から延設された有底筒状の接続部22とを有する微小振動体2が、接合部材52により実装基板3に接合されてなる慣性センサ1は、微小振動体2に環状部材6が取り付けられている。実装基板3は、枠体形状の内枠部51を有し、接続部22と内枠部51とが接合部材52により接合されている。接続部22のうち実装基板3と向き合う実装面22bに隣接する面を側面22cとして、環状部材6は、枠体形状であり、側面22cに取り付けられる。環状部材6は、実装基板3のうち内枠部51と接続部22との間に位置する領域のすべてを覆っている。接合部材52は、内枠部51のうち内壁面51bの全域を覆うとともに、環状部材6に当接している。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
慣性センサであって、
半球形状の三次元曲面を有する曲面部(21)と、前記曲面部から前記半球形状の中心に向かって延設された有底筒状の接続部(22)とを有する微小振動体(2)と、
前記接続部の直下に位置する領域を接合領域として、前記接合領域を囲む枠体形状の内枠部(51)を有する実装基板(3)と、
前記接続部と前記内枠部とを接合する接合部材(52)と、
前記接続部のうち前記実装基板と向き合う面を実装面(22b)とし、前記実装面に隣接する面を側面(22c)として、前記側面に取り付けられる枠体形状の環状部材(6)と、を備え、
前記環状部材は、前記実装基板のうち前記内枠部と前記接続部との間に位置する領域のすべてを覆っており、
前記接合部材は、前記内枠部のうち内壁面(51b)の全域を覆うとともに、前記環状部材に当接している、慣性センサ。
【請求項2】
前記環状部材は、前記接合部材よりもヤング率が低い材料で構成されている、請求項1に記載の慣性センサ。
【請求項3】
前記環状部材は、熱により収縮する樹脂材料で構成されている、請求項2に記載の慣性センサ。
【請求項4】
前記環状部材は、前記接続部に取り付けられる前の内径が前記側面の外径よりも小さく、弾性変形する樹脂材料で構成されている、請求項2に記載の慣性センサ。
【請求項5】
前記樹脂材料は、250度以上の耐熱性を有する、請求項3または4に記載の慣性センサ。
【請求項6】
前記環状部材は、前記側面に密着すると共に、前記微小振動体とは化学結合していない、請求項1に記載の慣性センサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、三次元曲面を有する微小振動体を用いた慣性センサに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車両の自動運転のシステム開発が進められており、この種のシステムでは、高精度の自己位置の推定技術が必要である。例えば、いわゆるレベル3の自動運転向けに、GNSSとIMUとを備える自己位置推定システムの開発が進められている。GNSSとは、Global Navigation Satellite Systemの略称である。IMUは、Inertial Measurement Unitの略称であり、例えば、3軸のジャイロセンサと3軸の加速度センサから構成される6軸の慣性力センサである。将来的に、いわゆるレベル4以上の自動運転を実現するためには、現状よりもさらに高感度のIMUが求められる。
【0003】
このような高感度のIMUを実現するためのジャイロセンサとしては、BRGが有力視されており、ワイングラスモードで振動する略半球形状の三次元曲面を有する微小振動体が実装基板に搭載されてなる。BRGとは、Bird-bath Resonator Gyroscopeの略称である。この微小振動体は、振動の状態を表すQ値が106以上に達するため、従来よりも高感度が見込まれる。
【0004】
この種の微小振動体を用いた慣性センサは、例えば、特許文献1に記載のものが挙げられる。この慣性センサは、微小振動体のうち略半球形の三次元曲面の頂点付近からその半球の内側中心に向かって凹むように延設された有底筒状の接続部が、実装基板のうち略環状枠体に囲まれた接合領域に挿入されている。この慣性センサは、微小振動体の全面を覆う表面電極と実装基板の接合領域に形成された配線とが接合され、実装基板の当該配線を介して微小振動体の表面電極に所定の電圧を印加でき、微小振動体とこれを囲む複数の電極部との静電容量の変化を検出可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許出願公開第2009/0094024号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の慣性センサは、微小振動体の接続部の底面のみが実装基板の配線に接合されているため、接合強度が低く、外部から何らかの衝撃が加わった場合、微小振動体が実装基板から剥離するおそれがある。微小振動体と実装基板との剥離を抑制するため、焼結銀等の接合部材を用いて、微小振動体の接続部の底面に加えて、接続部の底面近傍の側面と実装基板の略環状枠体とを接合することが考えられる。
【0007】
しかしながら、微小振動体と実装基板との接合時に、接合部材が略環状枠体に沿って這い上がることになるが、この這い上がりに偏りが生じると、微小振動体の接続部の側面を固定する接合部材の高さにバラツキが生じる。このようなバラツキが生じると、微小振動体のうち接続部側面における接合部材の高さが高い部分と低い部分とで固定の度合いに差が生じ、微小振動体を振動させたときに振動が対称でなくなってしまい、慣性センサの感度が低下してしまう。
【0008】
本発明は、上記の点に鑑み、微小振動体と実装基板とを接合部材で接合し、これらの接合強度を確保しつつも、動作時における微小振動体の振動の対称性が確保された慣性センサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の慣性センサは、半球形状の三次元曲面を有する曲面部(21)と、曲面部から半球形状の中心に向かって延設された有底筒状の接続部(22)とを有する微小振動体(2)と、接続部の直下に位置する領域を接合領域として、接合領域を囲む枠体形状の内枠部(51)を有する実装基板(3)と、接続部と内枠部とを接合する接合部材(52)と、接続部のうち実装基板と向き合う面を実装面(22b)とし、実装面に隣接する面を側面(22c)として、側面に取り付けられる枠体形状の環状部材(6)と、を備え、環状部材は、実装基板のうち内枠部と接続部との間に位置する領域のすべてを覆っており、接合部材は、内枠部のうち内壁面(51b)の全域を覆うとともに、環状部材に当接している。
【0010】
これにより、微小振動体の接続部の側面に環状部材が取り付けられ、微小振動体と実装基板との接合時に接合部材が内枠部に沿って這い上がる際に、環状部材により接合部材の流れがせき止められる構造の慣性センサとなる。このため、この慣性センサは、微小振動体と実装基板との接合強度が確保されると共に、接続部側面における接合部材の高さが均一化され、動作時における微小振動体の振動の対称性が確保される構造となっている。
【0011】
なお、各構成要素等に付された括弧付きの参照符号は、その構成要素等と後述する実施形態に記載の具体的な構成要素等との対応関係の一例を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施形態に係る慣性センサの一例を示す斜視断面図である。
【
図2】微小振動体およびこれに取り付けられる環状部材を示す断面図である。
【
図5】実施形態に係る慣性センサの製造工程のうち微小振動体の実装工程を示すフローチャートである。
【
図6】実施形態に係る慣性センサの実装工程のうち実装基板および環状部材の用意工程を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、同一符号を付して説明を行う。
【0014】
(実施形態)
実施形態に係る慣性センサ1について、図面を参照して説明する。
【0015】
図1では、慣性センサ1の構成を分かり易くするため、慣性センサ1のうち後述する下部基板4、上部基板5、環状部材6および微小振動体2の一部を省略しつつ、微小振動体2の断面構成を部分的に示している。
図3では、慣性センサ1の構成を分かり易くするため、別断面に位置する後述の電極部53および電極膜531の外郭を破線で示している。
【0016】
以下、説明の便宜上、
図1に示すように、実装基板3のなす平面方向の一方向を「x方向」と、同平面上においてx方向に直交する方向を「y方向」と、xy平面に対する法線方向を「z方向」と、それぞれ称する。
図2以降の図中のx、y、z方向は、
図1のx、y、z方向にそれぞれ対応するものである。また、本明細書における「上」とは、図中のz方向に沿った方向であって、矢印側を意味し、「下」とは上の反対側を意味する。さらに、本明細書では、z方向上側から慣性センサ1、微小振動体2あるいは実装基板3を見た状態を「上面視」と称することがある。
【0017】
実施形態に係る慣性センサ1は、例えば
図1に示すように、微小振動体2が実装基板3に搭載され、BRGのようにジャイロセンサ等の慣性センサを構成するのに用いられると好適であるが、クロックデバイス等の他の用途にも採用されうる。本明細書では、慣性センサ1がBRGとされる場合を代表例として説明するが、この用途に限定されるものではない。
【0018】
〔慣性センサ〕
微小振動体2を有する慣性センサ1の一例について説明する。慣性センサ1は、例えば
図1に示すように、微小振動体2と、実装基板3と、環状部材6とを備え、微小振動体2の一部が実装基板3に接合されてなる。慣性センサ1は、例えば、ワイングラスモードで振動することが可能な薄肉の微小振動体2の曲面部21と実装基板3のうち複数の電極部53との間における静電容量の変化に基づいて、慣性センサ1に印加された角速度を検出する構成となっている。
【0019】
微小振動体2は、例えば
図2に示すように、略半球形状の三次元曲面の外形を含む曲面部21と、曲面部21のなす仮想半球の頂点側から当該半球の中心側に向かうように延設された接続部22と、これらの表裏面を覆う表面電極23とを備える。微小振動体2は、例えば、曲面部21が椀状の三次元曲面を有し、その振動のQ値が10
5以上となっている。
【0020】
微小振動体2は、例えば、曲面部21および接続部22を有する基部が、石英ガラス、ホウケイ酸ガラスなどの添加物含有のガラス、金属ガラス、シリコン等によりなるリフロー材料で構成される。なお、微小振動体2の基部は、三次元曲面形状とされた曲面部21および接続部22を形成でき、ワイングラスモードでの振動が可能なリフロー材料で構成されていればよく、前述の材料例に限定されない。微小振動体2は、例えば、後述する形成工程により、上記した材料で構成された薄肉基材を加工して形成されることで、曲面部21および接続部22の厚みが10μm~100μmといった具合のマイクロメートルオーダーの薄肉部材となっている。微小振動体2は、例えば、実装基板3の厚み方向に沿った方向を高さ方向として、高さ方向の寸法が2.5mm、後述するリム211の表面2a側の外径が5mmといったミリサイズの形状となっている。
【0021】
微小振動体2は、例えば、厚み100μm以下の石英板を、凹部と凹部の中心にて石英板の加熱軟化時にその一部を支える支柱部とを備える図示しない型にセットし、火炎等の加熱手段により軟化させつつ、凹部内を真空引きすることで曲面部21が形成される。例えば、この工程により、石英板のうち図示しない型の支柱部に支えられた部分が曲面部21に対して有底筒状に凹んだ形状の接続部22となり、凹部から外側にはみ出した部分については加工されずに残るが、後工程で除去される。そして、例えば、図示しない型の凹部を常圧に戻して、略半球形の曲面部21が形成された石英板を型から取り外し、任意の硬化性樹脂材料によりなる封止材で石英板を封止する。その後、例えば、封止材ごとを加工後の石英板のうち不要な部分を研磨およびCMPにより除去した後、加熱や薬液等の任意の方法により封止材をすべて除去し、石英板を取り出す。CMPとは、Chemical Mechanical Polishingの略称である。微小振動体2の基部は、例えば、上記のような製造プロセスにより製造されるが、この製法例に限定されるものではなく、他の公知の方法を採用されても構わない。例えば、微小振動体2の基部は、曲面部21および接続部22が形成された石英板を封止せずに、曲面部21よりも外側の不要部分をレーザ加工により除去されて形成されてもよい。その後、微小振動体2の基部に任意の成膜法によって表面電極23を成膜することで、微小振動体2を製造することができる。
【0022】
曲面部21のうち接続部22とは反対側の端部をリム211として、リム211は、例えば、略円筒形状とされる。なお、ここでいう略円筒形状とは、リム211の外側面および内側面の上端から下端までの径が同一の円筒形状だけでなく、当該上端から下端までの径が変動する筒形状も含む。言い換えると、曲面部21は、環状曲面形状の環状部とされたリム211を有する構成となっている。微小振動体2は、外径が大きいほうの面を表面2aとし、その反対面を裏面2bとして、実装基板3に搭載された際に、リム211が、表面2a側が実装基板3のうち複数の電極部53と向き合うと共に、複数の電極部53の間隔が等間隔となるように搭載される。微小振動体2は、実装基板3への実装時において、リム211を含む曲面部21が他の部材とは接触しない中空状態になる部位である。微小振動体2は、実装基板3に搭載されたとき、中空状態のリム211がワイングラスモードで振動可能な構造である。
【0023】
接続部22は、実装基板3等の他の部材と接続される接続部位であり、例えば、有底筒状の凹部となっている。接続部22のうち表面2a側の凹部底面22aは、例えば、微小振動体2を実装基板3に搭載する際の吸着搬送に用いられる吸着面とされうる。接続部22のうち凹部底面22aとは反対側、すなわち裏面2b側の面は、実装基板3と向き合う実装面22bとなっている。接続部22のうち裏面2b側の側面には、環状部材6が取り付けられている。
【0024】
表面電極23は、例えば、限定するものではないが、下地側からCr(クロム)あるいはTi(チタン)と、Au(金)やPt(白金)等の任意の導電性材料との積層膜で構成される。表面電極23は、例えば、スパッタリング、蒸着、CVDやALD等の任意の成膜法により微小振動体2の表面2aおよび裏面2bに成膜される。CVDとは、Chemical Vapor Depositionの略称である。ALDとは、Atomic Layer Depositionの略称である。表面電極23は、例えば、少なくとも実装面22bおよびリム211の表面2aに成膜され、これらの部位が電気的に接続される構成となっている。表面電極23は、微小振動体2の表裏面の全域を覆うベタ形状であってもよいし、フォトリソグラフィーエッチング法などによりパターニングされ、表裏面の一部を覆うパターン形状であってもよい。微小振動体2は、例えば、表面電極23のうち接続部22の実装面22bを覆う部分が、導電性材料によりなる接合部材52を介して実装基板3に接続される。
【0025】
実装基板3は、例えば
図1に示すように、下部基板4と、上部基板5とを備え、これらが接合された構成となっている。例えば、実装基板3は、絶縁材料のホウケイ酸ガラスにより構成された下部基板4にエッチング加工および配線成膜を施した後、半導体材料のSi(シリコン)により構成された上部基板5を下部基板4に陽極接合し、パターニングを行うことで得られる。実装基板3は、例えば、上部基板5の側に、複数の内枠部51と、内枠部51を囲むように互いに離れて配置された複数の電極部53と、複数の電極部53から離れてこれらを囲む外枠部54とを備える。また、実装基板3は、下部基板4側に、例えば、内枠部51と複数の電極部53とを隔てつつ、複数の内枠部51を囲む円環形状の溝41と、溝41の内側と外側とを跨ぐ複数の配線42とを備える。
【0026】
溝41は、例えば、
図3に示すように、内枠部51と複数の電極部53との間に設けられる溝であり、ウェットエッチングにより形成される。溝41は、微小振動体2のリム211の外径に対応する寸法とされ、微小振動体2を実装基板3に実装したときに、リム211を実装基板3に接触させないために設けられる。
【0027】
配線42は、例えばAl(アルミニウム)等の導電性材料により構成されると共に、複数の電極部53の間を通過する配置とされ、複数の電極部53とは電気的に独立している。配線42は、例えば、複数設けられると共に、下部基板4において溝41を跨ぎつつ、一端側が内枠部51に、他端が外枠部54にそれぞれ接続されており、これらを電気的に接続している。これにより、実装基板3は、外枠部54、配線42および内枠部51を介して、微小振動体2の表面電極23に電圧印加が可能となっている。
【0028】
内枠部51は、例えば、下部基板4に陽極接合された上部基板5にDRIEなどのドライエッチングを行うことで、複数の電極部53、外枠部54と共に形成される。DRIEとは、Deep Reactive Ion Etchingの略称である。内枠部51は、例えば、上面視にて円環形状とされ、その囲まれた領域内に微小振動体2の接続部22を挿入が可能な構成とされる。言い換えると、内枠部51は、実装基板3のうち微小振動体2の実装面22bの直下に位置する領域を接合領域として、接合領域を囲む枠体形状となっている。例えば、実装基板3のうち内枠部51に囲まれた領域に接合部材52を配置した後、接合部材52上に微小振動体2の接続部22をマウントして、加熱・固化することで、実装基板3に微小振動体2が搭載される。
【0029】
接合部材52は、例えば、焼結銀などの導電性材料によりなり、微小振動体2の接続部22を実装基板3に固定する。接合部材52は、接続部22の実装面22b、および実装面22bに隣接する側面22cの一部を覆った状態で微小振動体2を実装基板3に固定している。接合部材52は、微小振動体2や表面電極23と接合可能な導電性材料であればよいが、ペースト材のように樹脂材料の成分を含むものでなく、焼結材のような樹脂材料の成分を含まないものが用いられることが好ましい。これにより、接合部材52のヤング率を高くすることができると共に、樹脂成分によるアウトガスが抑制され、慣性センサ1の感度低下を抑制できるためである。接合部材52は、例えば、後述する製造工程により、少なくとも内枠部51のうち接続部22側の内壁面51bの全域を覆うと共に、環状部材6に当接しており、内枠部51の上面51aの一部を覆った状態となっている。
【0030】
複数の電極部53は、互いに離れて配置されると共に、例えば
図3に示すように、それぞれ上面に電極膜531が形成されている。複数の電極部53は、例えば、電極膜531に図示しないワイヤが接続され、図示しない外部の回路基板等と電気的に接続されることで、その電位の制御が可能となっている。複数の電極部53は、例えば、上面視にて、微小振動体2のリム211を囲みつつ、xy平面上において1つの環を描くように等間隔で互いに離れて配置される。複数の電極部53は、いずれも、微小振動体2が搭載されたとき、微小振動体2のリム211と所定の距離を隔てた状態となり、それぞれが微小振動体2とキャパシタを形成する。つまり、実装基板3は、複数の電極部53を介して、微小振動体2との間の静電容量を検出したり、微小振動体2との間に静電引力を生じさせ、微小振動体2をワイングラスモードで振動させたりすることが可能となっている。言い換えると、複数の電極部53は、一部が静電容量を検出する検出電極とされ、残部が微小振動体2を駆動させる駆動電極とされる。
【0031】
外枠部54は、例えば、上面視にて、内枠部51およびこの周囲に配置された複数の電極部53を囲む1つの枠体形状とされる。外枠部54は、例えば、上面にAl等によりなる電極膜541を少なくとも1つ備え、電極膜541に図示しないワイヤが接続される。
【0032】
環状部材6は、例えば、内枠部51の上面51aよりもz方向上に位置すると共に、微小振動体2と実装基板3との接合時に接合部材52が内枠部51に囲まれた空間内における這い上がりを均一化するために配置される補助部材である。具体的には、環状部材6は、微小振動体2と実装基板3との接合前に、接続部22の側面22cに予め取り付けられており、微小振動体2と実装基板3との接合時に接合部材52のz方向上側への流れをせき止めることで、接合部材52の這い上がりを均一化する。環状部材6は、例えば、
図4に示すようにリング状とされ、
図3に示すように実装基板3のうち内枠部51と微小振動体2の接続部22の側面22cとの間に位置する領域の全域を覆っている。環状部材6は、曲面部21の振動特性への影響を低減するため、接続部22の側面22cに密着しているが、化学的に結合していない状態となっている。環状部材6は、接合部材52を用いた接合工程における熱劣化抑制の観点から、接合部材52の融点よりも高い温度、例えば250℃以上の耐熱性を有する樹脂材料で構成されている。言い換えると、環状部材6は、接合部材52を用いた微小振動体2と実装基板3との接合工程における温度に耐えることができる樹脂材料で構成される。
【0033】
環状部材6は、例えば、PTFEなどのフッ素系樹脂材料やシリコン系樹脂材料で構成され、接合部材52を用いた接合工程前に加熱等により収縮させられることで、微小振動体2と上記した密着状態になっている。PTFEとは、polytetrafluoroethyleneの略称である。
【0034】
環状部材6は、上記以外にも、例えば、弾性変形する樹脂材料で構成されると共に、接続部22の側面22cに取り付けられる前の内径が、側面22cの外径よりも小さく、物理的な収縮、すなわち復元力により接続部22の側面22cに取り付けられてもよい。この場合、環状部材6は、例えば、フッ素ゴム(FKM)やシリコーンゴムなどの樹脂材料で構成されうる。
【0035】
環状部材6は、微小振動体2の振動特性への影響を低減する観点から、微小振動体2および接合部材52よりもヤング率が低い材料、すなわち柔らかい材料で構成されることが好ましい。これは、微小振動体2や接合部材52と近いヤング率の場合、環状部材6が振動に影響を及ぼすこととなり、環状部材自体の対称性が求められるためである。
【0036】
なお、環状部材6は、内枠部51と接続部22の側面22cとの間に位置する領域の全域を覆う枠体形状であればよく、外側の外郭については円形でなくてもよく、円環形状以外の他の形状に適宜変更されうる。また、環状部材6、例えば、公知の樹脂成形方法により得られる。さらに、環状部材6は、微小振動体2の基部および表面電極23とは化学的に結合しない材料であればよく、上記した材料例に限定されず、基部や表面電極23の材料に応じて適宜変更されてもよい。
【0037】
以上が、微小振動体2を備える慣性センサ1の基本的な構成である。慣性センサ1は、例えば、微小振動体2および実装基板3を用意し、図示しないマウンタ装置で保持された実装基板3に接合部材52を塗布した後、微小振動体2を図示しない搬送装置で吸着搬送し、加熱接合することで製造される。
【0038】
なお、上記の慣性センサ1は、あくまで一例であり、微小振動体2が搭載される実装基板3については、配線42、内枠部51、電極部53および外枠部54の数、形状、寸法や配置等が適宜変更されてもよい。例えば、上記したレーザ加工により基部20の不要部分が除去されて得られた微小振動体2がz方向においてリム211の下端が実装面22bよりも上方向に位置する構成である場合、実装基板3は、溝41を有しない構成であってもよい。また、外枠部54は、複数の電極部53を第1電極部として、微小振動体2と電気的に接続され、微小振動体2の表面電極23に電圧を印加可能な第2電極部として機能すればよく、枠体形状でなくてもよく、形状や配置については適宜変更されうる。
【0039】
〔微小振動体の接合工程〕
次に、慣性センサ1の製造工程のうち微小振動体2を実装基板3に接合する工程について、
図5~
図11を参照して説明する。
【0040】
例えば、上記した方法により微小振動体2および実装基板3を用意しつつ、
図5に示すように、ステップS110にて、環状部材6を用意する。そして、例えば
図6に示すように、用意した環状部材6を実装基板3の内枠部51の上面51aに載置する。このとき、例えば、実装基板3は、図示しないマウンタ装置で保持された状態となっている。
【0041】
続いて、ステップS120にて、例えば
図7に示すように、微小振動体2を図示しない真空吸着機構を有する搬送装置により搬送し、接続部22の実装面22bが実装基板3の内枠部51で囲まれた領域の中心に位置するように、実装基板3に載置する。このとき、実装基板3は、まだ接合部材52が配置されていない。なお、微小振動体2と実装基板3との位置合わせは、例えば、図示しない撮像装置により搬送中の微小振動体2を撮像し、公知の画像認証技術によるエッジ検出により曲面部21の特徴点を抽出し、この特徴点に基づいて相対位置を調整することで可能である。
【0042】
次のステップS130では、環状部材6を微小振動体2の接続部22の側面22cに固定する。具体的には、例えば、環状部材6が加熱により収縮する樹脂材料で構成されたものである場合には、図示しないマウンタ装置の加熱機構により実装基板3を接合部材52による接合工程よりも高い温度で加熱し、環状部材6を熱収縮させる。例えば、環状部材6がPTEFにより構成されている場合には、327℃で10分間の加熱処理を行うことにより、
図8に示すように、環状部材6を微小振動体2の接続部22の側面22cに密着した状態とすることができる。
【0043】
また、環状部材6が弾性変形する樹脂材料で構成されている場合には、図示しない治具により環状部材6の内径が接続部22の側面22cの外径よりも大きい状態となるように広げた状態で保持しておく。そして、微小振動体2を実装基板3に載置した後、図示しない治具による環状部材6の保持を解除し、環状部材6を当該治具に固定する前の内径、すなわち接続部22の側面22cの外径よりも小さい径に戻す。これにより、環状部材6は、復元力が作用し、微小振動体2の接続部22の側面22cに密着した状態となる。
【0044】
上記したように、環状部材6は、例えば加熱あるいは機械的な手法により微小振動体2に密着固定されるが、この固定の手法については任意であり、環状部材6の構成材料に応じて適宜変更されうる。
【0045】
次いで、ステップS140では、例えば
図9に示すように、環状部材6が固定された微小振動体2を図示しない搬送装置により搬送し、実装基板3から一旦離れた状態とする。そして、ステップS150では、接合部材52を実装基板3のうち内枠部51に囲まれた領域に配置する。
【0046】
次のステップS160では、例えば
図10に示すように、微小振動体2を図示しない搬送装置により接合部材52が配置された実装基板3に再び載置する組付けを行う。このとき、環状部材6は、微小振動体2が接合部材52の厚み分だけ実装基板3から浮いた状態となるため、内枠部51の上面51aと隙間を隔てて配置された状態となる。
【0047】
続けて、ステップS170では、図示しない加熱機構により実装基板3を加熱し、接合部材52の加熱固化を行い、微小振動体2と実装基板3とを接合する。例えば、接合部材52として焼結銀を用いる場合には、図示しない搬送装置により微小振動体2を実装基板3に押し付けた状態とし、250℃で30分間の加熱を行うことで接合部材52を焼結する。このとき、接合部材52は、例えば
図11に示すように、微小振動体2を介した押圧により内枠部51の内壁面51bに沿って這い上がる。そして、這い上がった接合部材52は、微小振動体2に取り付けられた環状部材6によってそれ以上z方向上側に向かうことが妨げられ、上面51aに沿ってxy平面の方向に流れることとなる。この結果、接合部材52は、
図3に示すように、内枠部51の内壁面51bの全域を覆いつつ、接続部22の側面22cを覆う部分の高さが均一化された後に固化した状態となる。
【0048】
以上が、微小振動体2への環状部材6の取り付け、および微小振動体2と実装基板3との接合の基本的な工程である。
【0049】
本実施形態によれば、微小振動体2の接続部22の側面22cに環状部材6が取り付けられ、実装基板3のうち内枠部51と接続部22との間の全域を環状部材6が覆われることで、接合部材52のうち側面22cを覆う部分の高さバラツキが抑制される。このため、微小振動体2と実装基板3との接合強度を確保しつつ、微小振動体2の側面22cの固定度合いのバラツキが抑制されることで、動作時における微小振動体2の振動の対称性が確保され、ひいてはセンサ感度が向上した慣性センサ1となる。
【0050】
また、環状部材6を微小振動体2に予め取り付けた後に、接合部材52による実装基板3との接合を行うことで、接合部材52の流れを制御でき、接合部材52のうち側面22cを覆う部分の高さバラツキが低減された慣性センサ1となる。また、環状部材6を用いることにより、接合部材52の流れを制御するために微小振動体2に別途加工を行う必要がなくなり、微小振動体2の振動特性が低下することを防ぐことができる。さらに、環状部材6を微小振動体2の基部や接合部材52よりもヤング率が低い材料や微小振動体2と化学結合しない材料で構成することで、微小振動体2の振動特性への影響を低減でき、高感度の慣性センサ1となる。
【0051】
また、接合部材52として、樹脂成分を有しない材料を用いる場合には、接合部材52の剛性のバラツキが抑制され、微小振動体2の振動特性への影響が低減されるため、高感度の慣性センサ1となる。
【0052】
(他の実施形態)
本開示は、実施例に準拠して記述されたが、本開示は当該実施例や構造に限定されるものではないと理解される。本開示は、様々な変形例や均等範囲内の変形をも包含する。加えて、様々な組み合わせや形態、さらには、それらの一要素のみ、それ以上、あるいはそれ以下、を含む他の組み合わせや形態をも、本開示の範疇や思想範囲に入るものである。
【0053】
なお、上記各実施形態において、実施形態を構成する要素は、特に必須であると明示した場合および原理的に明らかに必須であると考えられる場合等を除き、必ずしも必須のものではないことは言うまでもない。また、上記各実施形態において、実施形態の構成要素の個数、数値、量、範囲等の数値が言及されている場合、特に必須であると明示した場合および原理的に明らかに特定の数に限定される場合等を除き、その特定の数に限定されるものではない。また、上記各実施形態において、構成要素等の形状、位置関係等に言及するときは、特に明示した場合および原理的に特定の形状、位置関係等に限定される場合等を除き、その形状、位置関係等に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0054】
2 微小振動体
21 曲面部
22 接続部
22b 実装面
22c 側面
3 実装基板
51 内枠部
51b 内壁面
52 接合部材
6 環状部材