(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024157928
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】半導体装置およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 29/78 20060101AFI20241031BHJP
H01L 29/12 20060101ALI20241031BHJP
H01L 29/06 20060101ALI20241031BHJP
H01L 21/336 20060101ALI20241031BHJP
H01L 21/02 20060101ALI20241031BHJP
H01L 21/304 20060101ALI20241031BHJP
H01L 21/301 20060101ALI20241031BHJP
【FI】
H01L29/78 652N
H01L29/78 652T
H01L29/06 301M
H01L29/06 301V
H01L29/78 658K
H01L21/02 B
H01L21/304 611Z
H01L21/78 Q
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023072605
(22)【出願日】2023-04-26
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】520124752
【氏名又は名称】株式会社ミライズテクノロジーズ
(74)【代理人】
【識別番号】110001128
【氏名又は名称】弁理士法人ゆうあい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】加藤 孝三
(72)【発明者】
【氏名】長里 喜隆
(72)【発明者】
【氏名】牛島 隆志
(72)【発明者】
【氏名】石田 崇
【テーマコード(参考)】
5F057
5F063
【Fターム(参考)】
5F057AA01
5F057AA19
5F057BA15
5F057BB06
5F057CA02
5F057CA14
5F057CA31
5F057DA19
5F057DA22
5F057DA31
5F057FA15
5F057FA22
5F063AA01
5F063AA48
5F063BA07
5F063BA22
5F063BA33
5F063CB03
5F063CB07
5F063CB29
5F063CC49
5F063DD01
5F063DD27
5F063DD68
5F063EE07
5F063EE22
5F063EE23
5F063EE43
5F063EE44
(57)【要約】
【課題】分割前に行った特性検査の精度を維持し易くする。
【解決手段】半導体素子が形成され、一面10aおよび一面10aと反対側の他面10bを有し、窒化ガリウムで構成される半導体基板10を備え、半導体基板10は、半導体素子が形成されるセル領域1およびセル領域1を囲む外周領域2を有し、外周領域2には、一面10aが凹まされた凹部15が形成されるようにする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体装置であって、
半導体素子が形成され、一面(10a)および前記一面と反対側の他面(10b)を有し、窒化ガリウムで構成される半導体基板(10)を備え、
前記半導体基板は、前記半導体素子が形成されるセル領域(1)および前記セル領域を囲む外周領域(2)を有し、
前記外周領域には、前記一面が凹まされた凹部(15、16)が形成されている半導体装置。
【請求項2】
前記半導体基板は、平面矩形状とされており、
前記凹部は、前記半導体基板の平面形状における外形線のうちの相対する2辺に沿って形成されている請求項1に記載の半導体装置。
【請求項3】
前記凹部は、前記半導体基板の平面形状における外形線のそれぞれの辺に沿って形成されている請求項1に記載の半導体装置。
【請求項4】
前記凹部は、前記一面の外周領域が凹まされたベベル構造(15)である請求項1ないし3のいずれか1つに記載の半導体装置。
【請求項5】
前記凹部は、トレンチ(16)で構成されている請求項1ないし3のいずれか1つに記載の半導体装置。
【請求項6】
前記トレンチは、埋込物(17)によって埋め込まれている請求項5に記載の半導体装置。
【請求項7】
半導体素子が形成され、一面(10a)および前記一面と反対側の他面(10b)を有し、窒化ガリウムで構成される半導体基板(10)を備え、
前記半導体基板は、前記半導体素子が形成されるセル領域(1)および前記セル領域を囲む外周領域(2)を有し、
前記外周領域には、前記一面が凹まされた凹部(15、16)が形成されている半導体装置の製造方法であって、
一面(200a)および前記一面と反対側の他面(200b)を有し、窒化ガリウムで構成され、複数の装置形成領域(RA)を有する加工ウェハ(200)を用意することと、
前記加工ウェハの一面側に前記半導体素子を形成することと、
前記半導体素子の特性検査を行うことと、
前記特性検査を行った後、前記加工ウェハの他面側から当該加工ウェハの内部にレーザ光(L)を照射することにより、前記加工ウェハの内部に、前記加工ウェハの面方向に沿った変質層(220)を形成することと、
前記変質層を境界として前記加工ウェハを分割することにより、前記加工ウェハを、前記加工ウェハの一面側の装置構成ウェハ(230)と、前記加工ウェハの他面側のリサイクルウェハ(240)とに分割することと、
前記装置構成ウェハを個片化することと、を行い、
前記半導体素子を形成することでは、前記装置形成領域の外縁部に前記凹部を形成することを行う半導体装置の製造方法。
【請求項8】
前記半導体素子を形成することでは、前記凹部としてのベベル構造(15)を形成する請求項7に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項9】
前記半導体素子を形成することでは、前記凹部としてのトレンチ(16)を形成する請求項7に記載の半導体装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化ガリウム(以下では、GaNともいう)で構成される半導体装置、およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、GaNで構成される加工ウェハを分割する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。具体的には、この方法では、加工ウェハを用意した後、レーザ光を照射して加工ウェハの内部に面方向に沿った変質層を形成する。そして、この方法では、変質層を分割の起点として加工ウェハを2つのウェハに分割している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、本発明者らは、加工ウェハを用いて半導体装置を製造することを検討している。具体的には、本発明者らは、加工ウェハに複数の半導体素子を形成した状態で加工ウェハを分割し、半導体素子が形成された側を装置構成ウェハとしてこの装置構成ウェハを個片化することで半導体装置を製造することを検討している。この場合、検査を簡素化するため、加工ウェハの状態で各半導体素子の電気的特性等の特性検査を行った後、加工ウェハを装置構成ウェハに分割することが考えられる。
【0005】
しかしながら、加工ウェハを分割すると分割した面が荒れるため、トワイマン効果等によって装置構成ウェハに応力が印加され易くなる。このため、分割前の加工ウェハの状態で半導体素子に印加される応力と、分割後の装置構成ウェハの状態で半導体素子に印加される応力とが異なり易い。特に、装置構成ウェハの厚さを薄くするほど、分割前の加工ウェハの状態で半導体素子に印加される応力と、分割後の装置構成ウェハの状態で半導体素子に印加される応力との差が大きくなり易い。このため、分割前に行った特性検査の精度を維持することが困難となる可能性がある。
【0006】
本発明は上記点に鑑み、分割前に行った特性検査の精度を維持し易くできる半導体装置およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための請求項1は、半導体装置であって、半導体素子が形成され、一面(10a)および一面と反対側の他面(10b)を有し、窒化ガリウムで構成される半導体基板(10)を備え、半導体基板は、半導体素子が形成されるセル領域(1)およびセル領域を囲む外周領域(2)を有し、外周領域には、一面が凹まされた凹部(15、16)が形成されている。
【0008】
これによれば、外周領域に凹部が形成されているため、加工ウェハを分割して装置構成ウェハを構成する際、凹部にて応力を緩和することができる。つまり、加工ウェハを分割する前後で半導体素子に印加される応力が大きく異なることを抑制できる。したがって、加工ウェハを分割する前に行う特性検査の精度を維持し易くできる。
【0009】
請求項7は、請求項1の半導体装置に関する製造方法であって、一面(200a)および一面と反対側の他面(200b)を有し、窒化ガリウムで構成され、複数の装置形成領域(RA)を有する加工ウェハ(200)を用意することと、加工ウェハの一面側に半導体素子を形成することと、半導体素子の特性検査を行うことと、特性検査を行った後、加工ウェハの他面側から当該加工ウェハの内部にレーザ光(L)を照射することにより、加工ウェハの内部に、加工ウェハの面方向に沿った変質層(15)を形成することと、変質層を境界として加工ウェハを分割することにより、加工ウェハを、加工ウェハの一面側の装置構成ウェハ(230)と、加工ウェハの他面側のリサイクルウェハ(240)とに分割することと、装置構成ウェハを個片化することと、を行い、半導体素子を形成することでは、装置形成領域の外縁部に凹部を形成することを行う。
【0010】
これによれば、装置形成領域の外縁部に凹部が形成されているため、加工ウェハを分割して装置構成ウェハを構成する際、凹部にて応力を緩和することができる。つまり、加工ウェハを分割する前後で半導体素子に印加される応力が大きく異なることを抑制できる。したがって、加工ウェハを分割する前に行う特性検査の精度を維持し易くできる。
【0011】
なお、各構成要素等に付された括弧付きの参照符号は、その構成要素等と後述する実施形態に記載の具体的な構成要素等との対応関係の一例を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】第1実施形態における半導体装置の断面図である。
【
図3A】
図1に示す半導体装置の製造工程を示す断面図である。
【
図3B】
図3Aに続く半導体装置の製造工程を示す断面図である。
【
図3C】
図3Bに続く半導体装置の製造工程を示す断面図である。
【
図3D】
図3Cに続く半導体装置の製造工程を示す断面図である。
【
図3E】
図3Dに続く半導体装置の製造工程を示す断面図である。
【
図3F】
図3Eに続く半導体装置の製造工程を示す断面図である。
【
図3G】
図3Fに続く半導体装置の製造工程を示す断面図である。
【
図3H】
図3Gに続く半導体装置の製造工程を示す断面図である。
【
図3I】
図3Hに続く半導体装置の製造工程を示す断面図である。
【
図3J】
図3Iに続く半導体装置の製造工程を示す断面図である。
【
図3K】
図3Jに続く半導体装置の製造工程を示す断面図である。
【
図4】
図3Bに対応する加工ウェハの平面図である。
【
図5】
図3Cに対応する加工ウェハのうちの装置形成領域およびダイシングラインを示す拡大平面図である。
【
図6】本実施形態における分割前後のドレイン電流とゲート電圧との関係を示す図である。
【
図7】比較例における分割前後のドレイン電流とゲート電圧との関係を示す図である。
【
図8】本実施形態および比較例における分割前後の閾値電圧を示す図である。
【
図9】シミュレーションで用いたベベル構造を説明するための図である。
【
図10】本実施形態および比較例における分割前後の閾値電圧と閾値電圧の変動量差を示す図である。
【
図11】圧縮応力と閾値電圧との関係を示す図である。
【
図12】装置構成ウェハの一面からの距離と応力との関係を示す図である。
【
図13】第2実施形態における半導体装置の断面図である。
【
図14】第3実施形態における半導体装置の断面図である。
【
図15】他の実施形態における加工ウェハのうちの装置形成領域およびダイシングラインを示す拡大平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、同一符号を付して説明を行う。
【0014】
(第1実施形態)
第1実施形態について、図面を参照しつつ説明する。本実施形態では、縦型であるnチャネル型のMOSFET(metal oxide semiconductor field-effect transistorの略)が形成されている半導体装置を例に挙げて説明する。なお、本実施形態の半導体装置は、例えば、自動車等の車両に搭載され、車両用の各種電子装置を駆動するための半導体装置を構成するのに適用されると好適である。
【0015】
半導体装置S1は、
図1および
図2に示されるように、セル領域1およびセル領域1を囲む外周領域2を有している。なお、
図1は、
図2中のI-I線に沿った断面図に相当している。そして、半導体装置S1は、セル領域1にMOSFETが形成されて構成されている。MOSFETは、metal oxide semiconductor field effect transistorの略である。
具体的には、半導体装置S1は、n
+型のGaNで構成される基板11を備えている。本実施形態では、基板11にてドレイン層が構成される。基板11上には、n型のGaNで構成されるドリフト層12が形成されている。ドリフト層12の表層部には、p型のベース層13が形成されている。このベース層13は、MOSFETのチャネルを構成する層である。ベース層13の表層部には、n
+型とされたソース領域14が形成されている。
【0016】
本実施形態では、基板11、ドリフト層12、ベース層13、ソース領域14等を含んで半導体基板10が構成されている。以下、半導体基板10のうちの基板11側の面を半導体基板10の他面10bとし、半導体基板10のうちのソース領域14側の面を一面10aとして説明する。なお、本実施形態の半導体基板10(すなわち、半導体装置S1)は、平面矩形状とされている。
【0017】
そして、半導体基板10の一面10aには、外周領域2に、凹部としてのベベル構造15が形成されている。本実施形態では、ベベル構造15は、セル領域1側からセル領域1と反対側に向かって深さが徐々に深くなるテーパ状に形成されている。また、ベベル構造15は、半導体基板10の平面形状における外形線に沿って形成されており、少なくとも半導体基板10の平面形状における外形線のうちの相対する二辺に沿って形成された部分を含んで構成されている。本実施形態では、ベベル構造15は、各外形線に沿って枠状に形成されている。つまり、ベベル構造15は、セル領域1を囲むように形成されている。なお、ベベル構造15の深さは適宜変更可能であるが、半導体基板10の厚さ未満とされている。
【0018】
半導体基板10の一面10a上には、酸化膜等で構成される絶縁膜20が形成されている。本実施形態では、絶縁膜20は、少なくともベース層13上に位置する部分に形成されている。そして、絶縁膜20上には、ゲート電極31が形成されている。また、図示を省略しているが、半導体基板10の一面10a上には、ベース層13およびソース領域14と電気的に接続されるソース電極も配置されている。
【0019】
半導体基板10の他面10b側には、基板11と電気的に接続されるドレイン電極32が形成されている。
【0020】
以上が本実施形態における半導体装置の構成である。
【0021】
このような半導体装置では、ゲート電極31に所定の閾値電圧以上の電圧が印加されると、ベース層13のうちのゲート電極31と対向する部分に反転層が形成される。そして、反転層を通じてソース領域14と基板11(すなわち、ドレイン層)との間に電流が流れる。
【0022】
次に、上記半導体装置の製造方法について、
図3A~
図3Kを参照しつつ説明する。
【0023】
まず、
図3Aに示されるように、一面100aおよび他面100bを有し、バルクウェハ状とされているGaNウェハ100を用意する。例えば、GaNウェハ100は、シリコン、酸素、ゲルマニウム等がドーパントされ、不純物濃度が5×10
17~5×10
19cm
-3とされたものが用いられる。なお、GaNウェハ100の厚みについては任意であるが、例えば400μm程度のものが用意される。また、本実施形態のGaNウェハ100は、一面100aがガリウム面とされると共に他面100bが窒素面とされている。また、このGaNウェハ100は、下記半導体装置S1の製造工程を行った後では、後述する
図3Kのリサイクルウェハ240を再利用することで用意される。
【0024】
次に、
図3Bおよび
図4に示されるように、GaNウェハ100の一面100a上に10~100μm程度のGaNで構成されるエピタキシャル膜110を形成し、複数の装置形成領域RAがダイシングラインDLで区画される加工ウェハ200を用意する。本実施形態のエピタキシャル膜110は、GaNウェハ100の一面100a側から、n
+型のエピタキシャル層、n
-型のエピタキシャル層が順に成膜されて構成される。n
+型のエピタキシャル膜は、例えば、シリコン、酸素、ゲルマニウム等がドーパントされ、不純物濃度が5×10
17~1×10
18cm
-3程度とされる。n
-型のエピタキシャル層は、例えば、シリコン等がドーパントされ、不純物濃度が1×10
16~1×10
17cm
-3程度とされる。なお、本実施形態では、n
+型のエピタキシャル層を含んで半導体装置S1における基板11が構成され、n
-型のエピタキシャル層にてドリフト層等が構成される。また、本実施形態では、ダイシングラインDLで囲まれる各装置形成領域RAは、平面矩形状とされている。
【0025】
以下では、加工ウェハ200のうちのエピタキシャル膜110側の面を加工ウェハ200の一面200aとし、加工ウェハ200のうちのGaNウェハ100側の面を加工ウェハ200の他面200bとする。そして、各装置形成領域RAは、加工ウェハ200の一面200a側に構成される。
【0026】
次に、
図3Cに示されるように、一般的な半導体製造プロセスのうちの一面200a側に対するプロセスである表面側プロセスを行う。具体的には、表面側プロセスとして、イオン注入、蒸着、ウェットプロセス等を適宜行い、上記のベース層13、ソース領域14、絶縁膜20、ゲート電極31、ソース電極等を形成する。また、本実施形態では、装置形成領域RAの外周領域2にベベル構造15を形成する。本実施形態では、
図3Cおよび
図5に示されるように、各装置形成領域RAのセル領域1を囲みつつ、各装置形成領域RAから隣合う各装置形成領域RAの間のダイシングラインDLに達するようにベベル構造15を形成する。なお、
図5は、絶縁膜20等を省略した加工ウェハ200の平面図である。
【0027】
その後、
図3Dに示されるように、各装置形成領域RAに形成された半導体素子に対し、プローブ針PNを当接させて各半導体素子における電気的特性等の特性検査を行う。
【0028】
次に、
図3Eに示されるように、加工ウェハ200の一面20a側に保持部材300を配置する。なお、保持部材300を配置する前には、必要に応じ、加工ウェハ200の一面200a側に、レジスト等で構成される表面保護膜を形成する。
【0029】
保持部材300は、例えば、基材310と粘着剤320とを有するダイシングテープ等が用いられる。基材310は、製造工程中に反り難い材料で構成され、例えば、ガラス、シリコン基板、セラミックス等で構成される。粘着剤320は、粘着力を変化させることができる材料で構成され、例えば、温度や光によって粘着力が変化するものが用いられる。この場合、粘着剤320は、例えば、紫外線硬化樹脂、ワックス、両面テープ等で構成される。但し、粘着剤320は、後述する
図3Iのドレイン電極32を形成する際にも粘着力を維持する材料で構成される。
【0030】
次に、
図3Fに示されるように、加工ウェハ200の他面200bからレーザ光Lを照射し、ダイシングラインDLに装置用変質層210を形成する。本実施形態では、レーザ光Lを発振するレーザ光源、レーザ光の光軸を変えるように配置されたダイクロイックミラー、レーザ光を集光するための集光レンズ、および変位可能なステージ等を有するレーザ装置を用意する。そして、装置用変質層210を形成する際には、加工ウェハ200をステージに載置し、レーザ光Lの集光点がダイシングラインDLに沿って相対的に走査されるように、ステージ等の位置を調整する。
【0031】
これにより、ダイシングラインDLには、熱エネルギーによってガリウムと窒素とが分解された装置用変質層210が形成される。より詳しくは、レーザ光Lを照射することにより、窒素がガスとして蒸発すると共にガリウムが析出された装置用変質層210が形成される。なお、装置用変質層210は、窒素が分離されることにより、微小な空孔が構成された状態となっている。
【0032】
また、本実施形態では、装置用変質層210を形成する際には、ステージ等を適宜移動させ、加工ウェハ200の厚さ方向の異なる二箇所以上の複数箇所に集光点が移動するようにレーザ光Lを照射する。この場合、加工ウェハ200の厚さ方向の異なる箇所に装置用変質層210が形成されるが、各装置用変質層210は、互いに離れていてもよいし、繋がっていてもよい。また、加工ウェハ200の厚さ方向の異なる二箇所以上の複数個所に集光点を移動させる場合には、加工ウェハ200の一面200a側から他面200b側に向かって集光点が移動される。
【0033】
なお、本実施形態の装置用変質層210は、後述する
図3Gのウェハ用変質層220を形成する際、ウェハ用変質層220を形成することによって発生する窒素が装置用変質層210の空孔を介して外部に放出できるように形成される。また、特に限定されるものではないが、本実施形態では、装置用変質層210を形成する際には、レーザ光Lとして、固体レーザ光であって、波長が532nmのグリーンレーザが用いられる。そして、レーザ光Lは、加工点出力が2μJ、パルス幅が500ps、加工速度が500mm/sとされて照射される。但し、これらの条件は1例であり、本発明者らは、レーザ光Lの加工点出力がさらに低い場合やパルス幅がさらに短い場合等においても、適切に装置用変質層210が形成されることを確認している。また、本発明者らは、レーザ光Lの加工点出力がさらに高い場合やパルス幅がさらに長い場合等においても、適切に装置用変質層210が形成されることを確認している。
【0034】
続いて、
図3Gに示されるように、加工ウェハ200の他面200bからレーザ光Lを照射し、加工ウェハ200の一面200aから所定深さDとなる位置に、加工ウェハ200の面方向に沿ったウェハ用変質層220を形成する。本実施形態では、上記の装置用変質層210を形成する際のレーザ装置を用いてウェハ用変質層220を形成する。
【0035】
そして、ウェハ用変質層220を形成する場合には、レーザ光Lの集光点が加工ウェハ200の面方向に沿って相対的に走査されるように、ステージ等の位置を調整する。これにより、加工ウェハ200には、面方向に沿ったウェハ用変質層220が形成される。なお、ウェハ用変質層220は、上記装置用変質層210と同様に、窒素がガスとして蒸発すると共にガリウムが析出された構成とされる。
【0036】
この場合、本実施形態では、装置用変質層210と交差する、または装置用変質層210の直下を通るようにウェハ用変質層220を形成する。これにより、ウェハ用変質層220を形成する際の窒素が装置用変質層210を介して抜け易くなり、ウェハ用変質層220を形成する際に各装置形成領域RAに大きな歪みが印加されることを抑制できる。
【0037】
なお、ウェハ用変質層220を形成する際の所定深さDは、半導体装置S1のハンドリングのし易さやオン抵抗等に応じて設定され、例えば、50μm程度とされる。そして、ウェハ用変質層220は、エピタキシャル膜110の厚さに応じて形成される場所が変更され、エピタキシャル膜110の内部、エピタキシャル膜110とGaNウェハ100との境界、またはGaNウェハ100の内部のいずれかに形成される。そして、ウェハ用変質層220がエピタキシャル膜110の内部またはエピタキシャル膜110とGaNウェハ100との境界に形成されると、基板11は、n+型のエピタキシャル層で構成される。ウェハ用変質層220がGaNウェハ100の内部に形成されると、基板11は、n+型のエピタキシャル層およびGaNウェハ100で構成される。本実施形態では、エピタキシャル膜110とGaNウェハ100との境界にウェハ用変質層220を形成する例を説明する。
【0038】
以下では、加工ウェハ200のうちのウェハ用変質層220より一面200a側の部分を装置構成ウェハ230とし、加工ウェハ200のうちのウェハ用変質層220より他面200b側の部分をリサイクルウェハ240として説明する。
【0039】
次に、
図3Hに示されるように、加工ウェハ200の他面10b側に補助部材400を配置する。なお、補助部材400は、保持部材300と同様に、例えば、基材410と粘着剤420とを有するダイシングテープ等が用いられる。基材410は、例えば、ガラス、シリコン基板、セラミックス等で構成される。粘着剤420は、例えば、紫外線硬化樹脂、ワックス、両面テープ等で構成される。そして、保持部材300および補助部材400を把持して加工ウェハ200の厚さ方向に引張力等を印加し、ウェハ用変質層220を境界(すなわち分岐の起点)として装置構成ウェハ230とリサイクルウェハ240とに分割する。
【0040】
この際、分割された面は荒れた状態となっているため、トワイマン効果によって装置構成ウェハ230が反り易くなる。しかしながら、本実施形態では、ベベル構造15が形成されており、具体的には後述するが、ベベル構造15によって応力を緩和することができる。したがって、加工ウェハ200を分割する前後において、半導体素子に印加される応力が大きく異なることを抑制できる。
【0041】
以下では、装置構成ウェハ230のうちのソース領域14等が形成されている側の面を一面230aとし、装置構成ウェハ230のうちの分割された面側を他面230bとし、リサイクルウェハ240のうちの分割された面側を一面240aとして説明する。そして、装置構成ウェハ230における他面230b側の部分にて半導体装置S1における基板11が構成され、基板11上の部分がドレイン12層となる。また、
図3H以降の各図では、装置構成ウェハ230の他面230bおよびリサイクルウェハ240の一面240aに残存するウェハ用変質層220等を適宜省略して示している。
【0042】
その後、
図3Iに示されるように、一般的な半導体製造プロセスを行い、残りの半導体製造プロセスとして、装置構成ウェハ230の他面230bに、ドレイン電極32等を形成する裏面側プロセスを行う。
【0043】
なお、ドレイン電極32等の裏面側プロセスを行う前に、必要に応じて、CMP(chemical mechanical polishingの略)法等で装置構成ウェハ230の他面230bを平坦化する工程を行うようにしてもよい。
図3Iは、装置構成ウェハ230の他面230bを平坦化した場合の図を示している。また、ドレイン電極32を形成する工程を行った後、必要に応じて、ドレイン電極32と装置構成ウェハ230の他面230bとをオーミック接触とするためのレーザアニールなどの加熱処理を行うようにしてもよい。
【0044】
続いて、
図3Jに示されるように、保持部材300をエキスパンドし、装置用変質層210を境界(すなわち、分岐の起点)として各装置形成領域RAを分割する。これにより、上記半導体装置S1が装置単位に個片化される。
【0045】
その後、加熱処理や光を照射する等して粘着剤320の粘着力を弱まらせ、半導体装置S1をピックアップする。これにより、本実施形態の半導体装置S1が製造される。なお、各装置形成領域RAを分割する前には、必要に応じ、ドレイン電極32のうちの各装置形成領域RAの境界にスリット等を形成しておくことにより、装置形成領域RA毎のドレイン電極32を容易に分割できる。この場合、
図3Iの工程において、分割される部分を覆うメタルマスクを用意し、分割される部分にドレイン電極32が形成されないようにしてもよい。
【0046】
以上が本実施形態における半導体装置の製造方法である。
【0047】
そして、本発明者らは、上記の製造方法で製造される半導体装置S1について、加工ウェハ200を分割する前後の閾値電圧を調査して
図6に示される結果を得た。また、本発明者らは、
図3Cにてベベル構造15を形成せずに製造した半導体装置を比較例の半導体装置とし、この半導体装置についても、加工ウェハ200を分割する前後の閾値電圧を調査して
図7に示される結果を得た。そして、
図6および
図7の結果を纏めると、
図8のようになる。
【0048】
なお、分割前の閾値電圧とは、加工ウェハ200の状態で測定した閾値電圧のことであり、分割後の閾値電圧とは、加工ウェハ200を分割して装置構成ウェハ230の状態で測定した閾値電圧のことである。また、
図6に示される結果は、
図9に示されるように、ベベル構造15の幅aを33.3μmとし、一面10aのうちのベベル構造15で挟まれる部分の幅bを600μmとし、ベベル構造15の深さcを3.5μmとし、ベベル構造15のテーパ角度θを6°とした場合の結果である。また、比較例の半導体装置は、ベベル構造15が形成されていない以外は、上記と同じ製造方法によって製造された半導体装置である。そして、閾値電圧は、1×10
-9Aのドレイン電流Idが流れた際の電圧とし、
図8のエラーバーは、平均±標準偏差を示している。また、
図8は、分割前の閾値電圧を測定したサンプルが12個であり、分割後の閾値電圧を測定したサンプルが9個である。
【0049】
図6~
図8に示されるように、本実施形態と比較例とを比較すると、加工ウェハ200を分割する前後において、本実施形態の方が比較例よりも閾値電圧の変動量が小さいことが確認される。このため、ベベル構造15により、加工ウェハ200を分割する際の応力が緩和されているといえる。
【0050】
また、加工ウェハ200を分割する前後の閾値電圧の比較は、
図10のようにも示される。
図10に示されるように、本実施形態と比較例では、加工ウェハ200を分割する前後において、閾値電圧の変動量差が1.2Vであることが確認される。
【0051】
ここで、本発明者らは、支持台上にMOSFETが形成された半導体装置を配置し、4点曲げ試験を行って発生する応力と閾値電圧との関係を調査して
図11に示される結果を得た。
図11に示されるように、半導体装置に発生する圧縮応力と閾値電圧との関係は、圧縮応力をy、閾値電圧をxとすると、下記数式1で示される。
【0052】
[数1]y=-0.0035x+4.6422…(数式1)
このため、本実施形態のベベル構造15によって緩和される圧縮応力は、閾値電圧の変動量差が+1.2Vであるため、1.2/0.0035≒343(MPa)と見積もられる。つまり、ベベル構造15により、加工ウェハ200を分割した際に発生する応力を緩和できることが確認される。
【0053】
さらに、本発明者らは、本実施形態と比較例について応力を検討したところ、
図12に示される結果を得た。なお、
図12は、装置構成ウェハ230の状態でのラマン分析による応力評価を行った結果を示している。また、
図12は、装置構成ウェハ230の厚さを50μmとした際の結果である。
【0054】
図12に示されるように、本実施形態では、比較例よりも、装置構成ウェハ230の一面230a側の応力を緩和できていることが確認される。このため、上記の製造方法によって製造される半導体装置S1においても、一面10a側の応力が緩和された状態となる。
【0055】
以上説明した本実施形態によれば、外周領域2に凹部としてのベベル構造15が形成されている。このため、加工ウェハ200を分割して装置構成ウェハ230を構成する際、ベベル構造15にて応力を緩和することができる。つまり、加工ウェハ200を分割する前後で半導体素子に印加される応力が大きく異なることを抑制できる。したがって、加工ウェハ200を分割する前に行う特性検査の精度を維持し易くできる。
【0056】
(1)本実施形態では、ベベル構造15は、セル領域1を囲むように形成されている。このため、外周領域2からセル領域1に印加され得る応力を均一的に緩和することができる。
【0057】
(第2実施形態)
第2実施形態について説明する。本実施形態は、第1実施形態に対し、ベベル構造15の代わりにトレンチを形成したものである。その他に関しては、第1実施形態と同様であるため、ここでは説明を省略する。
【0058】
本実施形態の半導体装置S1は、
図13に示されるように、ベベル構造15の代わりに、凹部としてのトレンチ16が形成されている。なお、トレンチ16は、上記第1実施形態と同様に、セル領域1を囲むように外周領域2に形成されている。また、トレンチ16の深さは、半導体基板10の厚さ未満とされている。
【0059】
このような半導体装置は、上記
図3Cの工程において、ベベル構造15の代わりにトレンチ16を形成することによって製造される。
【0060】
以上説明した本実施形態によれば、外周領域2に凹部としてのトレンチ16が形成されている。このため、上記第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0061】
(第3実施形態)
第3実施形態について説明する。本実施形態は、第2実施形態に対し、トレンチ16に埋込物を配置したものである。その他に関しては、第2実施形態と同様であるため、ここでは説明を省略する。
【0062】
本実施形態の半導体装置は、
図14に示されるように、トレンチ16内が埋込物17によって埋め込まれている。埋込物17は、例えば、酸化膜、ポリシリコン、金属膜等が採用される。なお、埋込物17を金属膜で構成する場合には、トレンチ16の壁面に沿って絶縁膜を配置するようにしてもよい。
【0063】
以上説明した本実施形態によれば、外周領域2に凹部としてのトレンチ16が形成されている。このため、上記第2実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0064】
(1)本実施形態では、トレンチ16に埋込物17が埋め込まれている。このため、トレンチ16に異物が入り込むことを抑制でき、異物によって半導体装置S1の特性が変動することを抑制できる。
【0065】
(他の実施形態)
本開示は、実施形態に準拠して記述されたが、本開示は当該実施形態や構造に限定されるものではないと理解される。本開示は、様々な変形例や均等範囲内の変形をも包含する。加えて、様々な組み合わせや形態、さらには、それらに一要素のみ、それ以上、あるいはそれ以下、を含む他の組み合わせや形態をも、本開示の範疇や思想範囲に入るものである。
【0066】
例えば、上記各実施形態では、半導体素子として、縦型であるnチャネル型のMOSトランジスタが形成された例を説明した。しかしながら、半導体素子は、pチャネル型のMOSトランジスタであってもよいし、横型とされていてもよい。また、半導体素子は、発光ダイオード等の光半導体素子や半導体レーザ等であってもよい。
【0067】
また、上記各実施形態では、レーザ光Lを照射することによって装置用変質層210を形成する例について説明した。しかしながら、例えば、装置用変質層210の代わりに、ダイシングブレード等で溝を形成するようにしてもよい。
【0068】
さらに、上記各実施形態では、ウェハ用変質層220を形成する前に装置用変質層210を形成する例について説明した。しかしながら、例えば、装置用変質層210を形成せずにウェハ用変質層220を形成して加工ウェハ200を装置構成ウェハ230とリサイクルウェハ240とに分割し、装置構成ウェハ230に残りの工程を行ってから装置構成ウェハ230をダイシングブレード等で個片化するようにしてもよい。
【0069】
そして、上記第1実施形態では、セル領域1を囲むようにベベル構造15を形成する例について説明した。しかしながら、ベベル構造15は、例えば、
図15に示されるように、半導体基板10の平面形状における外形線のうち、一方の相対する二辺に沿って形成され、他方の相対する二辺の近傍には備えられていなくてもよい。
【符号の説明】
【0070】
10 半導体基板
10a 一面
10b 他面
15 ベベル構造(凹部)
16 トレンチ(凹部)