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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024157937
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】酸素遮断装置および鋳造装置
(51)【国際特許分類】
   B22D 18/04 20060101AFI20241031BHJP
【FI】
B22D18/04 Y
B22D18/04 V
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023072617
(22)【出願日】2023-04-26
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110001128
【氏名又は名称】弁理士法人ゆうあい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】南 智都
(72)【発明者】
【氏名】馬場 幸治
(72)【発明者】
【氏名】平田 裕司
(72)【発明者】
【氏名】沢本 節夫
(72)【発明者】
【氏名】井上 誠
(72)【発明者】
【氏名】片岡 祐将
(57)【要約】
【課題】溶湯が酸素に触れることを抑制する酸素遮断装置および鋳造装置を提供する。
【解決手段】酸素遮断装置40が用いられる鋳造装置のガス噴射口426は、溶湯流路420およびガス流路424と連通している。これにより、ガス噴射口426は、ガス流路424を流れる不活性ガスを、流れ方向Dfと交差する方向に溶湯流路420内へ噴射することで、ガス噴射口426は、溶湯流路420内の溶湯と酸素との接触を遮断する。また、ガス噴射口426は、流れ方向Dfに間隔を空けて複数並んでいる。さらに、ガス流路424は、流れ方向Dfに延びる軸を中心とする螺旋状に形成されているとともに、溶湯流路420を囲っている。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素遮断装置であって、
開閉方向に移動する可動金型(22)および前記可動金型が閉じるときに前記可動金型とともに鋳造品(X)の形状に対応するキャビティ(26)を形成する固定金型(24)を有する金型(20)と、溶湯が保持される保持室(32)を有する保持部(30)と、に接続されている接続部(42)を備え、
前記接続部は、
前記キャビティおよび前記保持室と連通する溶湯流路(420)と、
不活性ガスを導入するガス導入口(422)と、
前記ガス導入口と連通していることにより、前記ガス導入口からの不活性ガスが流れるガス流路(424)と、
前記溶湯流路および前記ガス流路と連通していることにより、前記ガス流路を流れる不活性ガスを、前記溶湯流路を流れる溶湯の流れ方向(Df)と交差する方向に前記溶湯流路内へ噴射することで、前記溶湯流路内の溶湯と酸素との接触を遮断するガス噴射口(426)と、
を有し、
前記ガス噴射口は、前記流れ方向に間隔を空けて複数並んでおり、
前記ガス流路は、前記流れ方向に延びる軸を中心とする螺旋状に形成されているとともに、前記溶湯流路を囲っている酸素遮断装置。
【請求項2】
前記流れ方向における位置が互いに異なる前記ガス噴射口は、前記流れ方向に延びる軸を中心とする周方向に間隔を空けて並んでいる請求項1に記載の酸素遮断装置。
【請求項3】
前記ガス導入口は、前記流れ方向と直交するとともに前記溶湯流路の中心を通る面(So)よりも、前記保持部側に配置されている請求項1または2に記載の酸素遮断装置。
【請求項4】
前記ガス噴射口は、前記キャビティ内の溶湯が凝固する場合に、溶湯への加圧が停止するとき、前記ガス流路を流れる不活性ガスを噴射する請求項1または2に記載の酸素遮断装置。
【請求項5】
前記ガス噴射口は、前記キャビティ内の溶湯が凝固し、前記可動金型が開くとき、前記ガス流路を流れる不活性ガスを噴射する請求項1または2に記載の酸素遮断装置。
【請求項6】
前記ガス噴射口は、前記保持室および前記溶湯流路内に溶湯が保持されている状態で前記可動金型が閉じるとき、前記ガス流路を流れる不活性ガスを噴射する請求項1または2に記載の酸素遮断装置。
【請求項7】
前記ガス噴射口は、前記保持室から前記溶湯流路を経由して前記キャビティに溶湯が流れるとき、不活性ガスの噴射を停止する請求項1または2に記載の酸素遮断装置。
【請求項8】
鋳造装置であって、
開閉方向に移動する可動金型(22)および前記可動金型が閉じるときに前記可動金型とともに鋳造品(X)の形状に対応するキャビティ(26)を形成する固定金型(24)を有する金型(20)と、
溶湯が保持される保持室(32)を有する保持部(30)と、
前記金型および前記保持部と接続されている接続部(42)を有する酸素遮断装置(40)と、
を備え、
前記接続部は、
前記キャビティおよび前記保持室と連通する溶湯流路(420)と、
不活性ガスを導入するガス導入口(422)と、
前記ガス導入口と連通していることにより、前記ガス導入口からの不活性ガスが流れるガス流路(424)と、
前記溶湯流路および前記ガス流路と連通していることにより、前記ガス流路を流れる不活性ガスを、前記溶湯流路を流れる溶湯の流れ方向(Df)と交差する方向に前記溶湯流路内へ噴射することで、前記溶湯流路内の溶湯と酸素との接触を遮断するガス噴射口(426)と、
を有し、
前記ガス噴射口は、前記流れ方向に間隔を空けて複数並んでおり、
前記ガス流路は、前記流れ方向に延びる軸を中心とする螺旋状に形成されているとともに、前記溶湯流路を囲っている鋳造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、酸素遮断装置および鋳造装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、特許文献1に記載されているように、低圧鋳造機で用いられ金型の溶湯流路と溶湯との間の通路へ不活性ガスを供給するための不活性ガス吹込装置が知られている。この不活性ガス吹込装置では、溶湯流路と通路とを連通する空洞部が中心部に形成される。また、不活性ガスを供給するための供給口が外周部に形成される。さらに、供給口と連通して空洞部へ通じ、この空洞部における開口部が低背位の開口口に形成された不活性ガスの供給路を有し、少なくとも開口部がセラミックスにより構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7-204824号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載された不活性ガス吹込装置では、同一平面上の浅溝から放射線状に不活性ガスを吹き込む場合、不活性ガス同士が互いにぶつかり乱流を発生させ、空気を巻き込む。このため、溶湯が空気中の酸素と接触することにより酸化する場合がある。そして、溶湯が酸化すると、溶湯表面に酸化膜または酸化物が生成される。これにより、酸化膜または酸化物が鋳造品に入り、欠陥が生じる。
【0005】
本開示は、溶湯が酸素に触れることを抑制する酸素遮断装置および鋳造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の発明は、酸素遮断装置であって、開閉方向に移動する可動金型(22)および可動金型が閉じるときに可動金型とともに鋳造品(X)の形状に対応するキャビティ(26)を形成する固定金型(24)を有する金型(20)と、溶湯が保持される保持室(32)を有する保持部(30)と、に接続されている接続部(42)を備え、接続部は、キャビティおよび保持室と連通する溶湯流路(420)と、不活性ガスを導入するガス導入口(422)と、ガス導入口と連通していることにより、ガス導入口からの不活性ガスが流れるガス流路(424)と、溶湯流路およびガス流路と連通していることにより、ガス流路を流れる不活性ガスを、溶湯流路を流れる溶湯の流れ方向(Df)と交差する方向に溶湯流路内へ噴射することで、溶湯流路内の溶湯と酸素との接触を遮断するガス噴射口(426)と、を有し、ガス噴射口は、流れ方向に間隔を空けて複数並んでおり、ガス流路は、流れ方向に延びる軸を中心とする螺旋状に形成されているとともに、溶湯流路を囲っている酸素遮断装置である。
【0007】
また、請求項8に記載の発明は、鋳造装置であって、開閉方向に移動する可動金型(22)および可動金型が閉じるときに可動金型とともに鋳造品(X)の形状に対応するキャビティ(26)を形成する固定金型(24)を有する金型(20)と、溶湯が保持される保持室(32)を有する保持部(30)と、金型および保持部と接続されている接続部(42)を有する酸素遮断装置(40)と、を備え、接続部は、キャビティおよび保持室と連通する溶湯流路(420)と、不活性ガスを導入するガス導入口(422)と、ガス導入口と連通していることにより、ガス導入口からの不活性ガスが流れるガス流路(424)と、溶湯流路およびガス流路と連通していることにより、ガス流路を流れる不活性ガスを、溶湯流路を流れる溶湯の流れ方向(Df)と交差する方向に溶湯流路内へ噴射することで、溶湯流路内の溶湯と酸素との接触を遮断するガス噴射口(426)と、を有し、ガス噴射口は、流れ方向に間隔を空けて複数並んでおり、ガス流路は、流れ方向に延びる軸を中心とする螺旋状に形成されているとともに、溶湯流路を囲っている鋳造装置である。
【0008】
これにより、ガス噴射口からの不活性ガスが、螺旋状に多重に噴射される。このため、溶湯流路の全領域において正圧が保持されるとともに、溶湯流路からキャビティに対応する固定金型の空間に向かって圧力差による不活性ガスの流れができる。したがって、固定金型の空間に侵入した空気が溶湯流路に侵入できない。このため、固定金型の空間に侵入した空気と、保持室に保持された溶湯との接触が抑制される。よって、空気中の酸素と、保持室に保持された溶湯との接触が抑制される。したがって、溶湯が酸素に触れることが抑制される。
【0009】
なお、各構成要素等に付された括弧付きの参照符号は、その構成要素等と後述する実施形態に記載の具体的な構成要素等との対応関係の一例を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】第1実施形態の酸素遮断装置が用いられる鋳造装置の断面図。
図2】酸素遮断装置の斜視図。
図3】酸素遮断装置の上面図。
図4図3のIV-IV線断面図。
図5図4のV部拡大図。
図6】キャビティに溶湯が流れるときの鋳造装置の断面図。
図7】キャビティ内で溶湯が凝固するときの鋳造装置の断面図。
図8】鋳造品が完成するときの鋳造装置の断面図。
図9】鋳造品を再度製造するときの鋳造装置の断面図。
図10】第2実施形態の酸素遮断装置の断面図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、実施形態について図面を参照しつつ説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、同一符号を付し、その説明を省略する。
【0012】
(第1実施形態)
本実施形態の酸素遮断装置は、溶湯が酸素に触れることを抑制する。具体的には、酸素遮断装置は、低圧鋳造または高圧鋳造を行う鋳造装置に用いられる。まず、この鋳造装置について説明する。
【0013】
図1に示すように、鋳造装置10は、金型20、保持部30、中間ストーク35および酸素遮断装置40を備えている。
【0014】
金型20は、可動金型22および固定金型24を有する。可動金型22は、図示しない設備の駆動装置によって駆動する。また、可動金型22は、開閉方向に移動する。さらに、ここでは、開方向Doは、天方向と一致する。また、閉方向Dcは、地方向と一致する。固定金型24は、可動金型22が閉じるときに可動金型22とともにキャビティ26を形成する。キャビティ26は、鋳造品Xの形状に対応する空間である。
【0015】
保持部30は、保持室32を有する。保持室32は、溶湯が保持される空間である。さらに、保持室32は、溶湯を保持する図示しない保持炉と連通している。なお、溶湯は、アルミニウム等を含む金属が鋳造用に溶融されたものである。
【0016】
酸素遮断装置40は、ここでは、金型20および保持部30の間に配置された中間ストーク35に取り付けられており、酸素と溶湯との接触を遮断する。具体的には、酸素遮断装置40は、接続部42を有する。接続部42は、固定金型24および保持部30に接続されている。また、接続部42は、例えば、3Dプリンタ等により、金属等で四角柱状に形成されている。さらに、開閉方向における接続部42の長さは、例えば、10~500mmとされている。なお、接続部42の形状は、四角柱状であることに限定されないで、例えば、多角柱状や円柱状等であってもよい。
【0017】
また、接続部42は、図1図5に示すように、溶湯流路420、ガス導入口422、ガス流路424およびガス噴射口426を含む。
【0018】
溶湯流路420は、図1に示すように、キャビティ26および保持室32と連通する。さらに、図示しない設備の加圧装置によって保持炉に保持された溶湯が加圧されると、保持炉から保持室32および溶湯流路420を経由してキャビティ26に溶湯が流れる。また、ここでは、溶湯流路420を流れる溶湯の流れ方向Dfは、開方向Doおよび天方向と一致する。さらに、溶湯流路420は、例えば、開閉方向に延びる円錐台状の空間とされている。
【0019】
ここで、図4に示すように、流れ方向Dfと直交する方向における溶湯流路420およびキャビティ26の境界部の長さを第1境界部長さL1とする。また、流れ方向Dfと直交する方向における溶湯流路420および保持室32の境界部の長さを第2境界部長さL2とする。そして、第1境界部長さL1および第2境界部長さL2は、例えば、0.05~200mmとされている。さらに、第1境界部長さL1と第2境界部長さL2とが異なっている。ここでは、第1境界部長さL1は、第2境界部長さL2よりも小さくなっている。これにより、溶湯流路420は、溶湯を保持室32に戻しやすくしている。
【0020】
ガス導入口422は、図示しない設備のバルブおよびボンベ等が取り付けられていることにより、アルゴンや窒素等の不活性ガスを導入する。導入される不活性ガスの量は、例えば、0.1~50L/minである。また、ガス導入口422は、図2図4に示すように、例えば、流れ方向Dfと直交する方向に延びる円柱状の空間とされている。さらに、ガス導入口422の直径は、例えば、0.05~50mmとされている。なお、ガス導入口422の形状は、円柱状であることに限定されないで、例えば、ねじ穴状であってもよい。この場合、ガス導入口422の管用テーパねじサイズは、例えば、Rc1/16~Rc1とされる。また、ガス導入口422の形状は、例えば、多角柱状であってもよい。
【0021】
さらに、ガス導入口422は、図4に示すように、中心面Soよりも、保持部30側に配置されている。なお、中心面Soは、流れ方向Dfと直交するとともに溶湯流路420の中心を通る面である。
【0022】
ガス流路424は、ガス導入口422と連通している。これにより、ガス流路424では、ガス導入口422からの不活性ガスが流れる。また、ガス流路424は、図2および図3に示すように、流れ方向Dfに延びる軸を中心とする螺旋状の空間とされているとともに、溶湯流路420を囲っている。さらに、図4に示すように、接続部42の中心を通りつつ流れ方向Dfに切断したときのガス流路424の部分断面形状は、円形状とされている。接続部42の中心を通りつつ流れ方向Dfに切断したときのガス流路424の断面における円形部分の直径は、例えば、ガス導入口422の直径と同じであり、0.05~50mmとされている。また、流れ方向Dfと直交する方向におけるガス流路424の直径は、例えば、3~200mmとされている。さらに、流れ方向Dfにおけるガス流路424の間隔の長さは、例えば、0.55~50.5mmとされている。なお、接続部42の中心を通りつつ流れ方向Dfに切断したときのガス流路424の部分断面形状は、円形状であることに限定されないで、例えば、四角形状、多角形状および楕円形状等であってもよい。また、図4において、流れ方向Dfと直交する方向におけるガス流路424の直径がLhにて示されている。さらに、流れ方向Dfにおけるガス流路424の間隔の長さがLjにて示されている。
【0023】
ガス噴射口426は、溶湯流路420およびガス流路424と連通している。これにより、ガス噴射口426は、ガス流路424を流れる不活性ガスを、流れ方向Dfと交差する方向に溶湯流路420内へ噴射する。これによって、ガス噴射口426は、溶湯流路420内の溶湯と酸素との接触を遮断する。なお、流れ方向Dfと交差する方向は、ここでは、流れ方向Dfと直交する方向である。
【0024】
また、ガス噴射口426は、流れ方向Dfに間隔を空けて複数並んでいる。さらに、ここでは、ガス流路424が螺旋状であることから、ガス噴射口426は、螺旋上に並ぶ。このため、流れ方向Dfにおける位置が互いに異なるガス噴射口426は、流れ方向Dfに延びる軸を中心とする周方向に間隔を空けて並んでいる。これにより、流れ方向Dfにおける位置が互いに異なるガス噴射口426は、ガス流路424の螺旋状に沿って周方向に間隔を保ちながら、周方向にずれて並んでいる。また、周方向に互いに隣り合うガス噴射口426同士の間における周方向の角度は、例えば、5°以上、90°未満とされている。なお、図3において、周方向に互いに隣り合うガス噴射口426同士の間における周方向の角度がθkにて示されている。
【0025】
さらに、ガス噴射口426は、図5に示すように、複数のスリット428を含む。スリット428は、流れ方向Dfに間隔を空けて並んでいる。また、スリット428は、例えば、四角形状に形成されている。さらに、スリット428は、流れ方向Dfに対して傾斜している。また、一方向におけるスリット428の長さは、例えば、0.05~50mmとされている。さらに、一方向と直交する方向におけるスリット428の長さは、例えば、0.05~50mmとされている。また、スリット428が並ぶ方向の間隔の長さは、例えば、0.05~50mmとされている。なお、図5において、一方向におけるスリット428の長さがLmにて示されている。さらに、一方向と直交する方向におけるスリット428の長さがLnにて示されている。また、スリット428が並ぶ方向の間隔の長さがLpにて示されている。さらに、流れ方向Dfに対するスリット428の傾斜角度がθgにて示されている。また、スリット428は、流れ方向Dfに対して傾斜していることに限定されないで、流れ方向Dfに対して傾斜していなくてもよい。さらに、スリット428の角部は、例えば、R0~R25のR面取りがされてもよい。また、スリット428の角部は、例えば、C0~C25のC面取りがされてもよい。さらに、スリット428の形状は、四角形状であることに限定されないで、例えば、多角形状、円形状や楕円形状等であってもよい。また、図5において、スリット428の角部がCsにて示されている。
【0026】
以上のように、酸素遮断装置40が用いられる鋳造装置10は、構成されている。次に、この鋳造装置10を用いた鋳造品Xの製造について、図1および図6図9を参照して説明する。
【0027】
図1に示すように、駆動装置によって、可動金型22が閉方向Dcに移動することで固定金型24を閉じる。このため、鋳造品Xの形状に対応するキャビティ26が形成される。
【0028】
続いて、加圧装置によって、保持炉に保持された溶湯が加圧される。これにより、図6に示すように、保持炉から保持室32および溶湯流路420を経由してキャビティ26に溶湯が流れる。なお、図において、溶湯がドット柄で示されている。また、このとき、バルブは、閉じている。このため、ガス導入口422は、不活性ガスを導入しない。したがって、不活性ガスは、ガス噴射口426から溶湯流路420に噴射されない。さらに、このとき、キャビティ26内に入り切らない溶湯は、溶湯流路420および保持室32にて保持される。
【0029】
続いて、キャビティ26内の溶湯が凝固するとき、溶湯への加圧が停止するタイミングで、バルブを開く。これにより、ガス導入口422は、不活性ガスを導入する。導入された不活性ガスは、ガス流路424を流れる。ガス流路424を流れた不活性ガスは、図7に示すように、ガス噴射口426から溶湯流路420に噴射される。このため、このとき、鋳造装置10の外部から隙間等を介して侵入する空気中の酸素と溶湯流路420内の溶湯との接触が遮断される。なお、図7において、ガス噴射口426からの不活性ガスの流れが矢印で模式的に示されている。
【0030】
続いて、駆動装置によって、図8に示すように、可動金型22が開方向Doに移動することで固定金型24を開く。このとき、可動金型22に凝固収縮し抱き付いたキャビティ26内の凝固した鋳造品Xが開方向Doに移動する。この可動金型22に凝固収縮し抱き付いた鋳造品Xが可動金型22から外される。これにより、鋳造品Xが完成する。
【0031】
また、このとき、固定金型24を開くことによって、キャビティ26に対応する固定金型24の空間に空気が侵入する。さらに、この固定金型24の空間が溶湯流路420と連通している。このため、固定金型24の空間に侵入した空気は、溶湯流路420内の溶湯に触れようとする。しかし、不活性ガスがガス噴射口426から溶湯流路420に噴射されている。また、ガス噴射口426からの不活性ガスは、螺旋状に多重に噴射される。これにより、溶湯流路420の全領域において正圧が保持されるとともに、溶湯流路420からキャビティ26に対応する固定金型24の空間に向かって圧力差による不活性ガスの流れができる。したがって、固定金型24の空間に侵入した空気が溶湯流路420に侵入できない。このため、固定金型24の空間に侵入した空気と、保持室32に保持された溶湯との接触が抑制される。よって、空気中の酸素と、保持室32に保持された溶湯との接触が抑制される。なお、図8において、ガス噴射口426からの不活性ガスの流れが矢印で模式的に示されている。また、キャビティ26に対応する固定金型24の空間に侵入する空気が、Airおよび矢印で模式的に示されている。
【0032】
続いて、再度、鋳造品Xを製造するため、図9に示すように、駆動装置によって、可動金型22が閉方向Dcに移動することで固定金型24を閉じる。このため、鋳造品Xの形状に対応するキャビティ26が形成される。このとき、不活性ガスがガス噴射口426から溶湯流路420に噴射されている。また、ガス噴射口426からの不活性ガスは、螺旋状に多重に噴射される。これにより、溶湯流路420の全領域において正圧が保持されるとともに、溶湯流路420からキャビティ26に対応する固定金型24の空間に向かって圧力差による不活性ガスの流れができる。このため、可動金型22が閉じるまでに、キャビティ26に対応する固定金型24の空間に侵入する空気中の酸素と溶湯との接触が遮断される。なお、図9において、ガス噴射口426からの不活性ガスの流れが矢印で模式的に示されている。
【0033】
続いて、キャビティ26が形成された後、バルブを閉じる。このため、ガス導入口422は、不活性ガスを導入しない。したがって、不活性ガスがガス噴射口426から溶湯流路420に噴射されない。また、バルブを閉じた後、加圧装置によって、保持炉に保持された溶湯が加圧される。これにより、図6に示すように、保持室32および溶湯流路420に保持された溶湯がキャビティ26に流れる。
【0034】
続いて、キャビティ26内の溶湯が凝固するとき、溶湯への加圧を停止するタイミングで、上記と同様に、バルブを開く。これにより、ガス導入口422は、不活性ガスを導入する。導入された不活性ガスは、ガス流路424を流れる。ガス流路424を流れた不活性ガスは、図7に示すように、ガス噴射口426から溶湯流路420に噴射される。このため、このとき、鋳造装置10の外部から隙間等を介して侵入する空気中の酸素と溶湯流路420内の溶湯との接触が遮断される。
【0035】
続いて、駆動装置によって、図8に示すように、可動金型22が開方向Doに移動することで固定金型24を開く。このとき、可動金型22に凝固収縮し抱き付いたキャビティ26内の凝固した鋳造品Xが開方向Doに移動する。この可動金型22に凝固収縮し抱き付いた鋳造品Xが可動金型22から外される。これにより、次の鋳造品Xが完成する。なお、このとき、上記したように、固定金型24を開くことによって、キャビティ26に対応する固定金型24の空間に空気が侵入する。さらに、この固定金型24の空間が溶湯流路420と連通しているため、この侵入した空気は、溶湯流路420内の溶湯に触れようとする。しかし、不活性ガスがガス噴射口426から溶湯流路420に噴射されている。また、ガス噴射口426からの不活性ガスは、螺旋状に多重に噴射される。これにより、溶湯流路420の全領域において正圧が保持されるとともに、溶湯流路420からキャビティ26に対応する固定金型24の空間に向かって圧力差による不活性ガスの流れができる。したがって、固定金型24の空間に侵入した空気が溶湯流路420に侵入できない。このため、固定金型24の空間に侵入した空気と、保持室32に保持された溶湯との接触が抑制される。よって、空気中の酸素と、保持室32に保持された溶湯との接触が抑制される。
【0036】
以上のように、鋳造装置10の一連の動作によって、鋳造品Xが製造される。次に、酸素遮断装置40が用いられる鋳造装置10では、溶湯が酸素に触れることが抑制されることについて説明する。
【0037】
ここで、特許文献1に記載された不活性ガス吹込装置では、同一平面上の浅溝から放射線状に不活性ガスを吹き込む場合、不活性ガス同士が互いにぶつかり乱流を発生させ、空気を巻き込む。このため、溶湯が空気中の酸素と接触することにより酸化する場合がある。そして、溶湯が酸化すると、溶湯表面に酸化膜または酸化物が生成される。また、不活性ガスを供給する開口部がセラミックスにより構成されていることから、開口部における溶湯の凝固が発生しにくい。しかし、溶湯が未凝固であっても、開口部において溶湯が詰まることにより、不活性ガスが供給されないことがある。不活性ガスが供給されないと、溶湯が空気中の酸素と触れて酸化する。これにより、酸化膜または酸化物が鋳造品Xに入り、欠陥が生じる。
【0038】
さらに、ここで、溶湯が酸素に触れると酸化することから、溶湯表面に酸化膜または酸化物が生成される。その溶湯が加圧されてキャビティ26内に入り凝固し、酸化膜または酸化物の介在物をもつ鋳造品Xが製造される。また、生成された酸化膜および酸化物の硬度は、鋳造品X内に酸化膜または酸化物の介在物がない部位の硬度と比較して高い。このため、鋳造品X内に酸化膜または酸化物の介在物があると、鋳造品Xを切削加工等の機械加工を行う場合に、工具の摩耗および破損が生じやすい。
【0039】
さらに、ここで、鋳造品Xと押出材や板材等の部材とを摩擦攪拌接合等の接合を行うことにより、水や油、気体等の流体が流れる流路を形成することがある。また、酸化膜および酸化物は、塑性流動しにくい等のことから、酸化膜および酸化物を摩擦攪拌することは容易でない。このため、鋳造品Xに酸化膜および酸化物が入ると、接合品に欠陥が生じやすい。
【0040】
これらに対して、本実施形態の酸素遮断装置40が用いられる鋳造装置10では、ガス噴射口426は、溶湯流路420およびガス流路424と連通している。これにより、ガス噴射口426は、ガス流路424を流れる不活性ガスを、流れ方向Dfと交差する方向に溶湯流路420内へ噴射することで、溶湯流路420内の溶湯と酸素との接触を遮断する。また、ガス噴射口426は、流れ方向Dfに間隔を空けて複数並んでいる。さらに、図2図4に示すように、ガス流路424は、流れ方向Dfに延びる軸を中心とする螺旋状に形成されているとともに、溶湯流路420を囲っている。
【0041】
これにより、ガス噴射口426からの不活性ガスが、螺旋状に多重に噴射される。このため、溶湯流路420の全領域において正圧が保持されるとともに、溶湯流路420からキャビティ26に対応する固定金型24の空間に向かって圧力差による不活性ガスの流れができる。したがって、固定金型24の空間に侵入した空気が溶湯流路420に侵入できない。このため、固定金型24の空間に侵入した空気と、保持室32に保持された溶湯との接触が抑制される。よって、空気中の酸素と、保持室32に保持された溶湯との接触が抑制される。したがって、溶湯が酸素に触れることが抑制される。これにより、鋳造品Xに酸化膜および酸化物が入ることが抑制される。このため、鋳造品Xを切削加工等の機械加工を行う場合に、工具の摩耗および破損が抑制される。また、鋳造品Xと押出材や板材等の部材とを摩擦攪拌接合等の接合を行う場合に、接合品の欠陥が抑制される。さらに、ガス流路424が螺旋状に形成されていることにより、ガス導入口422から導入された不活性ガスの流れる方向が限定される。このため、ガス噴射口426から噴射された不活性ガスが金型20側に流れる流路が形成されやすくなる。また、ガス流路424の大きさを必要最低限にすることができることから、接続部42の大型化が抑制される。よって、酸素遮断装置40をコンパクトにすることができる。
【0042】
また、酸素遮断装置40が用いられる鋳造装置10では、以下に記載する効果も奏する。
【0043】
[1]図2図4に示すように、流れ方向Dfにおける位置が互いに異なるガス噴射口426は、流れ方向Dfに延びる軸を中心とする周方向に間隔を空けて並んでいることにより、ずれて並んでいる。
【0044】
これにより、ガス噴射口426からの不活性ガスが、螺旋状に多重に噴射されやすくなる。このため、溶湯流路420の全領域において正圧が保持されるとともに、溶湯流路420からキャビティ26に対応する固定金型24の空間に向かって圧力差による不活性ガスの流れができる。したがって、固定金型24の空間に侵入した空気が溶湯流路420に侵入できない。このため、固定金型24の空間に侵入した空気と、保持室32に保持された溶湯との接触が抑制される。よって、空気中の酸素と、保持室32に保持された溶湯との接触が抑制される。
【0045】
[2]図4に示すように、ガス導入口422は、流れ方向Dfと直交するとともに中心面Soよりも、保持部30側に配置されている。
【0046】
これにより、上記と同様に、ガス噴射口426からの不活性ガスが、螺旋状に多重に噴射されやすくなる。このため、溶湯流路420の全領域において正圧が保持されるとともに、溶湯流路420からキャビティ26に対応する固定金型24の空間に向かって圧力差による不活性ガスの流れができる。したがって、固定金型24の空間に侵入した空気が溶湯流路420に侵入できない。このため、固定金型24の空間に侵入した空気と、保持室32に保持された溶湯との接触が抑制される。よって、空気中の酸素と、保持室32に保持された溶湯との接触が抑制される。
【0047】
[3]図7に示すように、ガス噴射口426は、キャビティ26内の溶湯が凝固する場合に、溶湯への加圧が停止するとき、ガス流路424を流れる不活性ガスを噴射する。
【0048】
これにより、キャビティ26内の溶湯が凝固するときに、鋳造装置10の外部から隙間等を介して侵入する空気中の酸素と溶湯流路420内の溶湯との接触が遮断される。
【0049】
[4]図8に示すように、ガス噴射口426は、キャビティ26内の溶湯が凝固し、可動金型22が開くとき、ガス流路424を流れる不活性ガスを噴射する。
【0050】
これにより、可動金型22が開くときに、キャビティ26に対応する固定金型24の空間に侵入する空気中の酸素と溶湯との接触が遮断される。
【0051】
[5]図9に示すように、ガス噴射口426は、保持室32および溶湯流路420内に溶湯が保持されている状態で可動金型22が閉じるとき、ガス流路424を流れる不活性ガスを噴射する。
【0052】
これにより、可動金型22が閉じるまでに、キャビティ26に対応する固定金型24の空間に侵入する空気中の酸素と溶湯との接触が遮断される。
【0053】
[6]図6に示すように、ガス噴射口426は、保持室32から溶湯流路420を経由してキャビティ26に溶湯が流れるとき、不活性ガスの噴射を停止する。
【0054】
これにより、キャビティ26内の溶湯に不活性ガスが入ることが抑制される。このため、鋳造品Xに空洞等の欠陥が生じることが抑制される。
【0055】
(第2実施形態)
第2実施形態では、第1境界部長さL1は、第2境界部長さL2よりも小さくなっていることに代えて、図10に示すように、第1境界部長さL1は、第2境界部長さL2以上である。このような第2実施形態であっても、第1実施形態と同様の効果を奏する。
【0056】
(他の実施形態)
本開示は、上記実施形態に限定されるものではなく、上記実施形態に対して、適宜変更が可能である。また、上記各実施形態において、実施形態を構成する要素は、特に必須であると明示した場合および原理的に明らかに必須であると考えられる場合等を除き、必ずしも必須のものではないことは言うまでもない。
【0057】
上記各実施形態では、開閉方向は、天地方向と一致する。これに対して、開閉方向は、天地方向に限定されないで、例えば、天地方向と直交する方向であってもよい。
【0058】
上記各実施形態では、酸素遮断装置40は、中間ストーク35に取り付けられている。これに対して、酸素遮断装置40は、中間ストーク35に取り付けられることに限定されないで、例えば、金型20に取り付けられてもよい。
【0059】
上記各実施形態は、適宜組み合わされてもよい。
【符号の説明】
【0060】
10 鋳造装置
22 可動金型
24 固定金型
30 保持部
40 酸素遮断装置
42 接続部
420 溶湯流路
422 ガス導入口
424 ガス流路
426 ガス噴射口
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10