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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024157941
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】炭化珪素半導体装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 29/78 20060101AFI20241031BHJP
   H01L 29/06 20060101ALI20241031BHJP
   H01L 29/12 20060101ALI20241031BHJP
   H01L 29/739 20060101ALI20241031BHJP
   H01L 21/336 20060101ALI20241031BHJP
【FI】
H01L29/78 652N
H01L29/78 652F
H01L29/78 652H
H01L29/78 652J
H01L29/78 652P
H01L29/78 652T
H01L29/78 653C
H01L29/78 655A
H01L29/78 657F
H01L29/78 658A
H01L29/78 658G
H01L29/06 301G
H01L29/06 301V
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023072621
(22)【出願日】2023-04-26
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110001128
【氏名又は名称】弁理士法人ゆうあい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】片野 拓真
(57)【要約】
【課題】耐量の律速場所にかかわらずスイッチング耐量を向上できるSiC半導体装置を提供する。
【解決手段】トレンチゲート構造の半導体素子が形成されるSiC半導体装置において、セル領域1に、n型のJFET層14とp型の第1ディープ層15とを形成する。そして、セル領域1の外周に位置する繋ぎ部2bにおいて、JFET層14におけるセル領域1の外周側の終端位置となる外周終端位置Poがゲート配線26におけるセル領域1側の終端位置となる内周終端位置Piよりもセル領域1側に位置するように配置する。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トレンチゲート構造の半導体素子が形成されたセル領域(1)と、前記セル領域を囲む外周に、外周耐圧構造(16)を構成する外周耐圧構造部(2a)および前記外周耐圧構造部と前記セル領域との間に位置する繋ぎ部(2b)が備えられた外周領域(2)と、を有する炭化珪素半導体装置であって、
第1導電型または第2導電型の炭化珪素で構成された基板(11)と、
前記基板の上に形成され、前記基板よりも低不純物濃度とされた第1導電型の第1不純物領域(13)と、を有し、
前記セル領域には、
前記第1不純物領域の表層部に形成され、前記第1不純物領域よりも高不純物濃度とされた第1導電型の炭化珪素からなるJFET層(14)と、
前記第1不純物領域の表層部に形成され、前記基板の面方向において前記JFET層と交互に配置された第2導電型の炭化珪素からなるディープ層(15)と、
前記JFET層および前記ディープ層上に形成された第2導電型の炭化珪素からなるベース層(18)と、
前記ベース層よりも深く一方向を長手方向として複数本並べられたゲートトレンチ(21)の内壁面に形成されたゲート絶縁膜(22)と、前記ゲートトレンチ内において、前記ゲート絶縁膜の上に形成されたゲート電極(23)と、を有するトレンチゲート構造と、
前記ベース層の表層部において前記トレンチゲート構造と接して形成され、前記第1不純物領域よりも高不純物濃度とされた第1導電型の炭化珪素からなる第2不純物領域(19)と、
前記第2不純物領域および前記ベース層に電気的に接続される第1電極(25)と、
前記基板の裏面側に配置され、前記基板と電気的に接続される第2電極(28)と、を有した前記半導体素子が構成され、
前記繋ぎ部には、
前記セル領域から延設されており、前記第1不純物領域の上に形成された前記ゲート絶縁膜と、
前記セル領域から延設されており、前記ゲート絶縁膜の上に配置された前記ゲート電極と、
前記ゲート電極に接続されたゲート配線(26)と、が備えられ、
前記JFET層における前記セル領域の外周側の終端位置となる外周終端位置(Po)が前記ゲート配線における前記セル領域側の終端位置となる内周終端位置(Pi)よりも前記セル領域側とされている、炭化珪素半導体装置。
【請求項2】
前記JFET層は、前記セル領域にのみ形成されている、請求項1に記載の炭化珪素半導体装置。
【請求項3】
前記基板の表面に対する法線方向において、前記JFET層を形成するためのイオン注入層の形成範囲と前記第2不純物領域を形成するためのイオン注入層の形成範囲が揃っている、請求項1または2に記載の炭化珪素半導体装置。
【請求項4】
前記基板の表面に対する法線方向において、前記JFET層を形成するためのイオン注入層の形成範囲と前記第2不純物領域を形成するためのイオン注入層の形成範囲、および、前記ベース層を形成するためのイオン注入層の形成範囲が揃っている、請求項1または2に記載の炭化珪素半導体装置。
【請求項5】
トレンチゲート構造の半導体素子が形成されたセル領域(1)と、前記セル領域を囲む外周に、外周耐圧構造(16)を構成する外周耐圧構造部(2a)および前記外周耐圧構造部と前記セル領域との間に位置する繋ぎ部(2b)が備えられた外周領域(2)と、を有する炭化珪素半導体装置であって、
第1導電型または第2導電型の炭化珪素で構成された基板(11)と、
前記基板の上に形成され、前記基板よりも低不純物濃度とされた第1導電型の第1不純物領域(13)と、を有し、
前記セル領域には、
前記第1不純物領域の表層部に形成され、前記第1不純物領域よりも高不純物濃度とされた第1導電型の炭化珪素からなるJFET層(14)と、
前記第1不純物領域の表層部に形成され、前記基板の面方向において前記JFET層と交互に配置された第2導電型の炭化珪素からなるディープ層(15)と、
前記JFET層および前記ディープ層上に形成された第2導電型の炭化珪素からなるベース層(18)と、
前記ベース層よりも深く一方向を長手方向として複数本並べられたゲートトレンチ(21)の内壁面に形成されたゲート絶縁膜(22)と、前記ゲートトレンチ内において、前記ゲート絶縁膜の上に形成されたゲート電極(23)と、を有するトレンチゲート構造と、
前記ベース層の表層部において前記トレンチゲート構造と接して形成され、前記第1不純物領域よりも高不純物濃度とされた第1導電型の炭化珪素からなる第2不純物領域(19)と、
前記第2不純物領域および前記ベース層に電気的に接続される第1電極(25)と、
前記基板の裏面側に配置され、前記基板と電気的に接続される第2電極(28)と、を有した前記半導体素子が構成され、
前記繋ぎ部には、
前記セル領域から延設されており、前記第1不純物領域の上に形成された前記ゲート絶縁膜と、
前記セル領域から延設されており、前記ゲート絶縁膜の上に配置された前記ゲート電極と、
前記ゲート電極に接続されたゲート配線(26)と、が備えられ、
前記JFET層は、前記セル領域および前記繋ぎ部のうちの前記セル領域側にのみ形成されている、炭化珪素半導体装置。
【請求項6】
トレンチゲート構造の半導体素子が形成されたセル領域(1)と、前記セル領域を囲む外周に、外周耐圧構造(16)を構成する外周耐圧構造部(2a)および前記外周耐圧構造部と前記セル領域との間に位置する繋ぎ部(2b)が備えられた外周領域(2)と、を有する炭化珪素半導体装置であって、
第1導電型または第2導電型の炭化珪素で構成された基板(11)と、
前記基板の上に形成され、前記基板よりも低不純物濃度とされた第1導電型の第1不純物領域(13)と、を有し、
前記セル領域には、
前記第1不純物領域の表層部に形成され、前記第1不純物領域よりも高不純物濃度とされた第1導電型の炭化珪素からなるJFET層(14)と、
前記第1不純物領域の表層部に形成され、前記基板の面方向において前記JFET層と交互に配置された第2導電型の炭化珪素からなるディープ層(15)と、
前記JFET層および前記ディープ層上に形成された第2導電型の炭化珪素からなるベース層(18)と、
前記ベース層よりも深く一方向を長手方向として複数本並べられたゲートトレンチ(21)の内壁面に形成されたゲート絶縁膜(22)と、前記ゲートトレンチ内において、前記ゲート絶縁膜の上に形成されたゲート電極(23)と、を有するトレンチゲート構造と、
前記ベース層の表層部において前記トレンチゲート構造と接して形成され、前記第1不純物領域よりも高不純物濃度とされた第1導電型の炭化珪素からなる第2不純物領域(19)と、
前記第2不純物領域および前記ベース層に電気的に接続される第1電極(25)と、
前記基板の裏面側に配置され、前記基板と電気的に接続される第2電極(28)と、を有した前記半導体素子が構成され、
前記繋ぎ部には、
前記セル領域から延設されており、前記第1不純物領域の上に形成された前記ゲート絶縁膜と、
前記セル領域から延設されており、前記ゲート絶縁膜の上に配置された前記ゲート電極と、
前記ゲート電極に接続されたゲート配線(26)と、が備えられ、
前記JFET層は、前記繋ぎ部にも形成されており、該JFET層のうち前記ゲート配線における前記セル領域側の終端位置となる内周終端位置(Pi)よりも外側の部分は、第1導電型不純物濃度が前記第1不純物領域以下になっている、炭化珪素半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、トレンチゲート構造の半導体素子を有する炭化珪素(以下では、SiCともいう)半導体装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
トレンチゲート構造のMOSFETを有するSiC半導体装置では、MOSFETが形成されたセル領域の外周までゲート絶縁膜が延設されるとともにその上にフィールド酸化膜が配置される。そして、セル領域に備えられたMOSFETのゲート電極がセル領域の外周まで配置されたゲート絶縁膜やフィールド絶縁膜上まで延設され、ゲート配線に接続される。
このように構成されるSiC半導体装置では、高速スイッチング時に変位電流が流れることによってゲート絶縁膜などの薄い絶縁膜が破壊され易い。このため、特許文献1では、セル領域のソースコンタクトからゲート絶縁膜とフィールド絶縁膜との境界部となる段差部までの距離を短く設定することで電流経路の距離が短くなるようにしている。これにより、電流経路抵抗が低下し、変位電流に起因するゲート絶縁膜の破壊が抑制されて、スイッチング耐量を向上させられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2015-57850号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の構造では、フィールド酸化膜の段差部以外の箇所でSiC半導体装置の耐量が律速している場合には、特許文献1の構成としても電流経路抵抗を下げるという効果が得られず、スイッチング耐量を向上させられない。
【0005】
本開示は、耐量の律速場所にかかわらずスイッチング耐量を向上できるSiC半導体装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の1つの観点は、トレンチゲート構造の半導体素子が形成されたセル領域(1)と、セル領域を囲む外周に、外周耐圧構造(16)を構成する外周耐圧構造部(2a)および外周耐圧構造部とセル領域との間に位置する繋ぎ部(2b)が備えられた外周領域(2)と、を有するSiC半導体装置であって、第1導電型または第2導電型のSiCで構成された基板(11)と、基板の表面上に形成され、基板よりも低不純物濃度とされた第1導電型の第1不純物領域(13)と、を有している。セル領域には、第1不純物領域の表層部に形成され、第1不純物領域よりも高不純物濃度とされた第1導電型のSiCからなるJFET層(14)と、第1不純物領域の表層部に形成され、基板の面方向においてJFET層と交互に配置された第2導電型のSiCからなるディープ層(15)と、JFET層およびディープ層上に形成された第2導電型のSiCからなるベース層(18)と、ベース層よりも深く一方向を長手方向として複数本並べられたゲートトレンチ(21)の内壁面に形成されたゲート絶縁膜(22)と、ゲートトレンチ内において、ゲート絶縁膜の上に形成されたゲート電極(23)と、を有するトレンチゲート構造と、ベース層の表層部においてトレンチゲート構造と接して形成され、第1不純物領域よりも高不純物濃度とされた第1導電型のSiCからなる第2不純物領域(19)と、第2不純物領域およびベース層に電気的に接続される第1電極(25)と、基板の裏面側に配置され、基板と電気的に接続される第2電極(28)と、を有した半導体素子が構成されている。また、繋ぎ部には、セル領域から延設されており、第1不純物領域の上に形成されたゲート絶縁膜と、セル領域から延設されており、ゲート絶縁膜の上に配置されたゲート電極と、ゲート電極に接続されたゲート配線(26)と、が備えられている。そして、JFET層におけるセル領域の外周側の終端位置となる外周終端位置(Po)がゲート配線におけるセル領域側の終端位置となる内周終端位置(Pi)よりもセル領域側とされている。
【0007】
このように、特に、ゲート配線の下方ではゲート絶縁膜にかかる電界が大きくなりやすいが、その部分において、JFET層が形成されないようにし、JFET層の外周終端位置がゲート配線の内周終端位置よりセル領域側となるようにしている。このような構造とされているため、pn接合を構成するp型層とn型層の不純物濃度が小さくなり、スイッチングの際の電圧急増時に発生する変位電流を小さくできる。したがって、変位電流に起因する電界集中が緩和され、ゲート絶縁膜の破壊を抑制できて、スイッチング耐量を向上させられる。そして、耐量の律速場所にかかわらず、この効果を得ることができる。よって、耐量の律速場所にかかわらずスイッチング耐量を向上できるSiC半導体装置とすることが可能となる。
【0008】
本開示の第2の観点では、JFET層は、セル領域および繋ぎ部のうちのセル領域側にのみ形成されている。
【0009】
このように、セル領域および繋ぎ部のうちのセル領域側にはJFET層を形成しているが、その外側にはJFET層が形成されていない構造になっている。このため、繋ぎ部のうちの外縁側の部分のpn接合は低濃度層とディープ層とによって構成されることになる。このため、第1の観点の効果を得ることができる。
【0010】
本開示の第3の観点では、JFET層は、繋ぎ部にも形成されており、該JFET層のうちゲート配線におけるセル領域側の終端位置となる内周終端位置よりも外側の部分は、第1導電型不純物濃度が第1不純物領域以下になっている。
【0011】
このように、繋ぎ部にJFET層が形成されていても、ゲート配線の内周終端位置よりも外側において第1導電型不純物濃度を低くすれば、外周領域でのpn接合を構成するp型層とn型層の不純物濃度が低くなる。したがって、時間変化量dV/dtが小さくなり、変位電流を小さくできるため、スイッチング耐量を向上できて、耐量の律速場所にかかわらずスイッチング耐量を向上できるSiC半導体装置とすることが可能となる。
【0012】
なお、各構成要素等に付された括弧付きの参照符号は、その構成要素等と後述する実施形態に記載の具体的な構成要素等との対応関係の一例を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】第1実施形態にかかるSiC半導体装置の平面図である。
図2図1中の領域RAをII方向から見たときの斜視断面図。
図3図1中のIII-III線に沿った断面図である。
図4図1中のIV-IV線に沿った断面図である。
図5】外周領域で発生した変位電流について説明した断面図である。
図6A】第1実施形態のSiC半導体装置の製造工程を示した断面図である。
図6B図6Aに続く製造工程を示した断面図である。
図6C図6Bに続く製造工程を示した断面図である。
図6D図6Cに続く製造工程を示した断面図である。
図6E図6Dに続く製造工程を示した断面図である。
図7】第2実施形態にかかるSiC半導体装置の断面図である。
図8A】第1実施形態のSiC半導体装置の製造工程を示した断面図である。
図8B図8Aに続く製造工程を示した断面図である。
図8C図8Bに続く製造工程を示した断面図である。
図8D図8Cに続く製造工程を示した断面図である。
図8E図8Dに続く製造工程を示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、同一符号を付して説明を行う。
【0015】
(第1実施形態)
第1実施形態について、図面を参照しつつ説明する。本実施形態のSiC半導体装置は、図1に示されるように、素子動作するアクティブ領域となるセル領域1と、セル領域1を囲む外周領域2とを有する構成とされている。
【0016】
なお、図1中のセル領域1の下方には、SiC半導体装置にセル領域1に備えられる素子の制御用や温度検出用などの各種パッド3が形成されている。
【0017】
外周領域2は、図2に示されるように、外周耐圧構造が構成された外周耐圧構造部に相当するガードリング部2aと、ガードリング部2aよりも内側に配置される繋ぎ部2bとを有する構成とされている。言い換えると、外周領域2は、ガードリング部2aと、セル領域1とガードリング部2aとの間に配置される繋ぎ部2bとを有する構成とされている。
【0018】
以下、セル領域1にトレンチゲート構造の半導体素子としてnチャネルの縦型MOSFETが備えられたSiC半導体装置について、図2図4を参照しつつ説明する。また、以下では、後述する半導体基板10の面方向における一方向をX軸方向とし、半導体基板の10面方向における一方向と交差する方向をY軸方向とし、X軸方向およびY軸方向と交差する方向をZ軸方向として説明する。ここでは、X軸方向とY軸方向とZ方向を互いに直交した軸としている。また、本実施形態におけるZ軸方向は、後述する半導体基板10の厚さ方向に相当し、後述する基板11と低濃度層13との積層方向にも相当している。Y軸方向は、例えば、<11-20>方向とされる。
【0019】
SiC半導体装置は、縦型MOSFETの素子形成がされた半導体基板10を用いて構成されている。半導体基板10は、SiCからなるn型の基板11に対してSiCで構成される各種半導体層を形成することで構成される。本実施形態では、基板11として、例えば、(0001)Si面に対して0~8°のオフ角を有し、窒素やリン等のn型不純物濃度が1.0×1019/cmとされ、厚さが300μm程度とされたものが用いられる。縦型MOSFETの場合、基板11は、ドレイン領域を構成するものとなる。
【0020】
基板11の表面上には、必要に応じて、SiCからなるn型のバッファ層12が形成されている。バッファ層12は、基板11の表面にエピタキシャル成長を行うことによって構成される。そして、バッファ層12は、n型不純物濃度が、基板11と、後述する低濃度層13との間の濃度とされ、厚さが1μm程度とされている。
【0021】
バッファ層12の表面上には、例えば、n型不純物濃度が5.0×1015~2.0×1016/cmとされ、厚さが7~15μm程度とされたSiCからなるn型の低濃度層13が形成されている。この低濃度層13は、不純物濃度がZ軸方向において一定とされていてもよいが、濃度分布に傾斜が付けられ、低濃度層13のうちの基板11側の方が基板11から離れる側よりも高濃度となるようにされると好ましい。なお、本実施形態では、低濃度層13が第1不純物領域に相当する。
【0022】
セル領域1における低濃度層13の表層部には、JFET層14および第1ディープ層15が形成されている。本実施形態では、JFET層14および第1ディープ層15は、それぞれX軸方向に沿って延設されると共に、Y軸方向において交互に繰り返し並べて配置された線状部分を有している。つまり、JFET層14および第1ディープ層15は、基板11の表面に対する法線方向(以下では、単に法線方向ともいう)において、それぞれX軸方向に沿って延設されたストライプ状とされ、それらがY軸方向に沿って交互に並べられたレイアウトとなる構成とされている。なお、基板11の表面に対する法線方向においてとは、言い換えると、基板11の表面に対する法線方向から視たときということもできる。また、基板11の表面に対する法線方向とは、後述するドリフト層17とベース層18との積層方向に沿った方向でもあり、Z軸方向に沿った方向である。
【0023】
JFET層14は、低濃度層13よりも高不純物濃度とされたn型とされており、厚さが0.3~1.5μmとされている。本実施形態では、JFET層14は、n型不純物濃度が5.0×1016~1.0×1017/cm程度とされている。第1ディープ層15は、p型不純物濃度が2.0×1017~2.0×1018/cm程度とされている。
【0024】
また、第1ディープ層15については、JFET層14と同じ深さでも、JFET層14より深くもしくは浅くても良いが、本実施形態では第1ディープ層15をJFET層14より浅く形成している。つまり、第1ディープ層15は、底部がJFET層14内に位置するように形成されている。言い換えると、第1ディープ層15は、低濃度層13との間にJFET層14が位置するように形成されている。これにより、第1ディープ層15の間におけるJFET層14内への空乏層の拡がりを抑制して、オン抵抗低減を図っている。なお、このようなJFET層14および第1ディープ層15は、低濃度層13の表層部に適宜不純物をイオン注入することで形成される。
【0025】
一方、外周領域2のうちのガードリング部2aにおける低濃度層13の表層部には、外周耐圧構造として、セル領域1を囲むように、複数本のp型のガードリング16が備えられている。本実施形態では、ガードリング16の上面レイアウトは、法線方向において、四隅が丸められた四角形状や円形状等とされている。
【0026】
さらに、外周領域2のうちの繋ぎ部2bにおける低濃度層13の表層部には、p型の繋ぎ層15aが備えられている。繋ぎ層15aは、内縁側がセル領域1を囲むように配置され、外縁側がガードリング部2aとの境界位置まで配置されている。繋ぎ層15aは、第1ディープ層15を繋ぎ部2bまで延設することで形成され、第1ディープ層15と同じ深さ、同じp型不純物濃度とされている。
【0027】
なお、外周領域2のうち繋ぎ部2bの一部、具体的には繋ぎ部2bのうちのセル領域1側にはJFET層14が形成されているが、その外側にはJFET層14が形成されていない。このため、JFET層14が第1ディープ層15よりも深い位置まで形成されている位置では、繋ぎ層15aのうちのセル領域1側の下方にはJFET層14が存在するが、繋ぎ部2bのうちの外縁側やガードリング部2a側にはJFET層14が存在していない。
【0028】
また、セル領域1におけるJFET層14および第1ディープ層15上には、ベース層18、ソース領域19、コンタクト領域20等が形成されている。
【0029】
ベース層18は、p型とされ、JFET層14および第1ディープ層15上に形成されている。このため、第1ディープ層15は、ベース層18と接続された状態となっている。ベース層18は、例えば、p型不純物濃度が5.0×1016~2.0×1019/cmとされ、厚さが2.0μm程度とされている。
【0030】
ソース領域19は、n型とされており、ベース層18の表層部に形成されている。コンタクト領域20は、p型とされており、ベース層18の表層部に形成されている。具体的には、ソース領域19は、後述するトレンチ21の側面に接するように形成されており、コンタクト領域20は、ソース領域19を挟んで後述するトレンチ21と反対側に形成されている。本実施形態では、ソース領域19は、表層部におけるn型不純物濃度、すなわち表面濃度が例えば1.0×1018/cmとされ、厚さが0.3μm程度とされている。コンタクト領域20は、表層部におけるp型不純物濃度、すなわち表面濃度が例えば1.0×1021/cmとされ、厚さが0.3μm程度とされている。なお、本実施形態では、ソース領域19が第2不純物領域に相当する。
【0031】
外周領域2のうちの繋ぎ部2bにおける低濃度層13、JFET層14、第1ディープ層15、繋ぎ層15a上には、ベース層18、コンタクト領域20および低濃度層13の表層部分等が形成されている。繋ぎ部2bのうちの内縁側では、ベース層18およびコンタクト領域20が繋ぎ層15a上に形成されており、セル領域1から延設されている。また、繋ぎ部2bのうちの外縁側ではベース層18およびコンタクト領域20が形成されておらず、低濃度層13の表層部分が形成されている。つまり、本実施形態では、外周領域2におけるベース層18およびコンタクト領域20は、セル領域1から延設されて繋ぎ部2bのうちの途中まで形成されており、それより外側の繋ぎ部2bおよびガードリング部2aには形成されていない。また、セル領域1と外周領域2との境界位置から繋ぎ部2bの途中までは、繋ぎ部2bの表層の全面がコンタクト領域20とされ、それより外側では繋ぎ部2bおよびガードリング部2aの表層の全面が低濃度層13とされている。
【0032】
本実施形態では、以上のように、基板11、バッファ層12、低濃度層13、JFET層14、第1ディープ層15、ベース層18、ソース領域19、コンタクト領域20等を含んで半導体基板10が構成されている。そして、半導体基板10を構成する各層がSiCで構成されているため、半導体基板10は、SiCで構成されているといえる。また、本実施形態では、セル領域1や繋ぎ部2bのうちの内縁側において、半導体基板10の一面10aがソース領域19やコンタクト領域20などで構成され、半導体基板10の他面10bが基板11で構成されている。
【0033】
なお、JFET層14、第1ディープ層15、繋ぎ層15a、ガードリング16、ベース層18、ソース領域19、コンタクト領域20は、本実施形態ではイオン注入で形成されたイオン注入層で構成されている。
【0034】
また、セル領域1において、半導体基板10には、ソース領域19やベース層18等を貫通して、一面10a側からJFET層14および第1ディープ層15に達するトレンチ21が形成されている。トレンチ21は、ゲートトレンチに相当し、底面がJFET層14および第1ディープ層15内に位置する深さとされ、幅が例えば0.4~0.8μmとされている。
【0035】
また、トレンチ21は、Y軸方向に沿って延びるように複数本が延設されると共に、図3に示すようにX軸方向において間隔B1ずつ空けて等間隔で並べられてストライプ状となるように形成されている。つまり、本実施形態では、トレンチ21は、長手方向が第1ディープ層15の長手方向と直交するように形成されている。
【0036】
トレンチ21の底部には、トレンチ21の底面と接するように、電界緩和層となる第2ディープ層30が形成されている。本実施形態では、第2ディープ層30は、第1ディープ層15よりも低不純物濃度のp型層によって構成されている。具体的には、第2ディープ層30は、トレンチ21の長手方向に沿って形成されている。つまり、第2ディープ層30は、第1ディープ層15と交差するY軸方向に沿って延設されている。また、本実施形態の第2ディープ層30は、JFET層14および第1ディープ層15を貫通して底面が低濃度層13に達するように形成されている。
【0037】
第2ディープ層30をトレンチ21の底面に沿って形成することで、トレンチ21の底部に位置するゲート絶縁膜22への電界の侵入を抑制でき、酸化膜破壊を抑制できる。また、第2ディープ層30をトレンチ21の底面と接するように形成することで、ゲート電極23と下部電極28との間の静電容量、すなわち帰還容量を小さくでき、スイッチング速度を向上できる。さらに、第2ディープ層30をJFET層14および第1ディープ層15を貫通して底面が低濃度層13に達するように形成しているため、第2ディープ層30間に配置されるJFET層14への電界の這い上がりが抑制され、耐圧を向上できる。加えて、過電圧が印加された際に下方に突出する第2ディープ層30でブレークダウンが発生し易くなるため、セル領域1でブレークダウンを発生させ易くなり、アバランシェ耐量の向上を図ることができる。
【0038】
なお、第2ディープ層30は、Y軸方向に沿って複数に分断されて形成されていてもよい。但し、第2ディープ層30は、第1ディープ層15を介してベース層18と電気的に接続されるように形成されている。
【0039】
また、トレンチ21には、内壁面にゲート絶縁膜22が形成され、ゲート絶縁膜22上には、ドープドPoly-Si等によって構成されるゲート電極23が形成されている。これにより、トレンチゲート構造が構成されている。特に限定されるものではないが、ゲート絶縁膜22は、トレンチ21の内壁面を熱酸化する、またはCVD(chemical vapor depositionの略)法で絶縁膜を成膜することで形成される。ゲート絶縁膜22は、厚さがトレンチ21の側面側および底面側で共に100nm程度とされている。
【0040】
ゲート絶縁膜22は、トレンチ21の内壁面に加えて半導体基板10の一面10aにも形成されている。そして、セル領域1において、ゲート絶縁膜22には、コンタクトホール22aが形成され、ソース領域19およびコンタクト領域20が露出させられている。
【0041】
半導体基板10の一面10a上には、セル領域1の外縁を囲むようにフィールド酸化膜241が形成され、さらにゲート電極23やゲート絶縁膜22およびフィールド酸化膜241等を覆うように、層間絶縁膜242が形成されている。層間絶縁膜242は、BPSG(Borophosphosilicate Glassの略)等で構成されている。なお、図2では、半導体基板10の一面10aより上方に位置する側に位置するフィールド酸化膜241や層間絶縁膜242等を省略してある。
【0042】
図3に示すように、層間絶縁膜242には、セル領域1において、コンタクトホール22aと連通してソース領域19やコンタクト領域20を露出させるコンタクトホール242aが形成されている。また、図4に示すように、層間絶縁膜242には、ゲート電極23のうちの繋ぎ部2bまで延設された部分を露出させるコンタクトホール242bが形成されている。
【0043】
層間絶縁膜242上には、コンタクトホール22aおよびコンタクトホール242aを通じてソース領域19およびコンタクト領域20と電気的に接続される上部電極25が形成されている。上部電極25は、外部との電気的な接続が行えるようになっている。本実施形態では、上部電極25が第1電極に相当している。また、層間絶縁膜242上には、コンタクトホール242bを通じてゲート電極23と電気的に接続されるゲート配線26が形成されている。ゲート配線26は、図1中には示していないが、セル領域1の外縁部分に沿って形成されており、例えば図1に示した四角形のチップとされたSiC半導体装置のうちの右側と左側および下側の各辺に沿って形成されている。
【0044】
上記したようにJFET層14は、セル領域1および繋ぎ部2bのうちのセル領域1側にのみ形成されているが、ゲート配線26の下方には配置されないようにしている。つまり、つまり、図4に示すJFET層14のうちセル領域1の外周側に位置する外周終端位置Poがゲート配線26のうちセル領域1側に位置する内周終端位置Piよりセル領域1側となるようにしている。そして、内周終端位置Piより外側は、繋ぎ層15aが形成されているか、低濃度層13となるようにしている。
【0045】
本実施形態の上部電極25は、例えば、Ni/Al等の複数の金属にて構成されている。そして、複数の金属のうちのn型SiC、すなわちソース領域19を構成する部分と接触する部分は、n型SiCとオーミック接触可能な金属で構成されている。また、複数の金属のうちの少なくともp型SiC、すなわちコンタクト領域20と接触する部分は、p型SiCとオーミック接触可能な金属で構成されている。なお、ゲート配線26は、上部電極25と同様の構成とされていてもよいし、Al-Si等で構成されていてもよい。
【0046】
さらに、繋ぎ部2bおよびガードリング部2aを覆うように、ポリイミド等によって構成される保護膜27が形成されている。本実施形態では、保護膜27は、上部電極25と後述する下部電極28との間で沿面放電が発生することを抑制するため、外周領域2からセル領域1の外縁部上まで形成されている。具体的には、保護膜27は、セル領域1において、上部電極25のうちの外周領域2側の部分を覆いつつ、上部電極25のうちの内縁側の部分を露出させるように形成されている。
【0047】
半導体基板10の他面10b側には、基板11と電気的に接続される下部電極28が形成されている。なお、本実施形態では、下部電極28が第2電極に相当している。
【0048】
本実施形態のSiC半導体装置では、このような構造により、nチャネルタイプの反転型であるトレンチゲート構造のMOSFETが形成されている。
【0049】
以上が本実施形態におけるSiC半導体装置の構成である。なお、本実施形態では、n型、n型、n型が第1導電型に相当しており、p型、p型が第2導電型に相当している。次に、上記SiC半導体装置の作動について説明する。
【0050】
まず、上記SiC半導体装置は、ゲート電極23にゲート電圧が印加される前のオフ状態では、ベース層18に反転層が形成されない。このため、下部電極28に正の電圧、例えば1600Vが印加されたとしても、ソース領域19からベース層18内に電子が流れず、上部電極25と下部電極28との間には電流が流れない。
【0051】
また、ゲート電極23にゲート電圧が印加される前の状態では、ドレイン-ゲート間に電界がかかり、ゲート絶縁膜22の底部に電界集中が発生し得る。しかしながら、上記SiC半導体装置では、トレンチ21よりも深い位置に、第1ディープ層15およびJFET層14が備えられている。このため、第1ディープ層15およびJFET層14との間に構成される空乏層により、ドレイン電圧の影響による等電位線のせり上がりが抑制され、高電界がゲート絶縁膜22に入り込み難くなる。さらに、トレンチ21の底部に電界緩和層となる第2ディープ層30が備えられているため、より高電界がゲート絶縁膜22に入り込み難くなる。したがって、本実施形態では、ゲート絶縁膜22が破壊されることを抑制できる。
【0052】
また、ゲート電極23に所定のゲート電圧が印加されると、ベース層18のうちのトレンチ21に接している表面にチャネルが形成される。このため、上部電極25から注入された電子は、ソース領域19からベース層18に形成されたチャネルを通った後、JFET層14を通過して低濃度層13に流れ、その後にドレイン層としての基板11を通過して下部電極28へ流れる。これにより、上部電極25と下部電極28との間に電流が流れ、SiC半導体装置がオン状態となる。なお、本実施形態では、チャネルを通過した電子がJFET層14および低濃度層13を通過して基板11へ流れるため、JFET層14および低濃度層13を有するドリフト層17が構成されているといえる。
【0053】
ここで、上記したように、JFET層14をセル領域1および繋ぎ部2bのうちのセル領域1側にしか配置せずに、それよりも外側には配置しないようにしている。このような構成にすることで、ゲート電圧の印加に基づいて縦型MOSFETをオンオフさせる際のスイッチング耐量を向上できる。以下、このスイッチング耐量について説明する。
【0054】
図5は、JFET層14をセル領域1だけでなく繋ぎ部2bなどにも形成した場合を想定した比較例を示している。図5は、隣り合うトレンチゲート構造同士の間、つまりトレンチゲート構造ではない位置において、トレンチゲート構造の長手方向となるY方向に沿ってSiC半導体装置を切断した断面での変位電流A1の様子を示している。
【0055】
縦型MOSFETの高速スイッチング時には、図5中の破線矢印で示すように変位電流A1が流れる。すなわち、外周領域2では、下部電極28から基板11、低濃度層13およびJFET層14を通って繋ぎ層15aに進んだのち、ベース層18およびコンタクト領域20に至り、コンタクト領域20内において半導体基板10の面方向に移動しながら上部電極25に変位電流A1が流れる。このときの変位電流A1は、スイッチング時に発生する高電圧の時間変化量dV/dtに比例する。そして、外周領域2でのpn接合を構成するp型層とn型層の不純物濃度が高いほどソース-ドレイン間容量が大きくなるために時間変化量dV/dtが大きくなり、変位電流A1が大きくなる。図5に示す比較例のように繋ぎ部2bにJFET層14が形成されている場合、pn接合がJFET層14と繋ぎ層15aとによって構成されることになり、不純物濃度が大きくなる。このため、変位電流A1が大きくなって、電界集中が生じると薄いゲート絶縁膜22が破壊され、スイッチング耐量が得られなくなる。特に、図中に示したゲート絶縁膜22とフィールド酸化膜241との境界位置RBにおいて絶縁破壊が生じる。
【0056】
これに対して、本実施形態のように繋ぎ部2bのうちの少なくとも外縁側にJFET層14を備えないようにすれば、その部分のpn接合は低濃度層13と第1ディープ層15とによって構成されることになる。このような構造とされているため、本実施形態の場合、比較例と比べてpn接合を構成するp型層とn型層の不純物濃度が小さくなり、スイッチングの際の電圧急増時に発生する変位電流A1を小さくできる。このため、変位電流A1に起因する電界集中が緩和され、ゲート絶縁膜22の破壊を抑制できて、スイッチング耐量を向上させられる。
【0057】
特に、ゲート配線26の下方ではゲート絶縁膜22にかかる電界が大きくなりやすい。このため、ゲート配線26の下方において、JFET層14が形成されないようにし、JFET層14のうちのセル領域1の外周側の終端位置となる外周終端位置Poがゲート配線26の内周終端位置Piよりもセル領域1側となるようにするよい。このような構造にすると、よりゲート絶縁膜22の破壊を抑制できて、スイッチング耐量を向上させられる。
【0058】
続いて、本実施形態のSiC半導体装置の製造方法について図6A図6Eを参照して説明する。なお、図6A図6Eは、図4のうちのセル領域1と繋ぎ部2bの断面に相当する製造工程を示している。
【0059】
まず、図6Aに示すように、基板11を用意したのち、基板11の一面側にバッファ層12および低濃度層13をエピタキシャル成長させる。そして、低濃度層13の表面にJFET層14と対応する部分が開口した図示しないマスクを配置したのちn型不純物をイオン注入してJFET層14を形成する。
【0060】
続いて、再び第1ディープ層15と対応する部分が開口した図示しないマスクを形成したのちp型不純物をイオン注入して、図6Bに示すように第1ディープ層15を形成する。このとき、第1ディープ層15となる部分までJFET層14が形成されているが、p型不純物のドーズ量を多くすることでp型に打ち返して第1ディープ層15を形成できる。また、ベース層18と対応する部分が開口した図示しないマスクを形成したのち、p型不純物をイオン注入してベース層18を形成する。さらに、コンタクト領域20と対応する部分が開口したマスクを用いてp型不純物を更にイオン注入してベース層18の上にコンタクト領域20を形成する。
【0061】
この後、ソース領域19と対応する部分が開口した図示しないマスクを形成したのちn型不純物をイオン注入して、図6Cに示すようにソース領域19を形成する。このとき、ソース領域19となる部分までコンタクト領域20が形成されているが、n型不純物のドーズ量を多くすることでn型に打ち返してソース領域19を形成できる。
【0062】
次に、図6Dに示すようにトレンチ21と対応する部分が開口するマスク50を配置したのち、ドライエッチングによりトレンチ21を形成する。また、同じマスク50を用いてp型不純物をイオン注入し、トレンチ21の底部に第2ディープ層30を形成する。
【0063】
続いて、図6Eに示すように、熱酸化もしくはCVDによってゲート絶縁膜22を形成したのち、ドープドポリシリコンの成膜およびパターニングによってゲート電極23を形成する。さらに、フィールド酸化膜241や層間絶縁膜242の形成工程を行ったのち、層間絶縁膜242に対してコンタクトホール242a、242bを形成する。その後は、上部電極25やゲート配線26の形成工程、保護膜27の形成工程、基板11の裏面側への下部電極28の形成工程を従来から行われている工程で実施する。これにより、本実施形態にかかるSiC半導体装置が完成する。
【0064】
このようにして形成したSiC半導体装置は、繋ぎ部2bのうちのセル領域1側にはJFET層14が形成されているが、その外側にはJFET層14が形成されていない構造になる。また、JFET層14が繋ぎ部2bのうちのゲート配線26の下方には配置されず、ゲート配線26よりもセル領域1側のみに配置された構造になる。
【0065】
以上説明したように、本実施形態のSiC半導体装置では、繋ぎ部2bのうちのセル領域1側にはJFET層14を形成しつつも、その外側にはJFET層14が形成されないようにしている。このため、繋ぎ部2bのうちの外縁側の部分のpn接合は低濃度層13と第1ディープ層15とによって構成されることになる。このような構造とされているため、pn接合を構成するp型層とn型層の不純物濃度が小さくなり、スイッチングの際の電圧急増時に発生する変位電流A1を小さくできる。したがって、変位電流A1に起因する電界集中が緩和され、ゲート絶縁膜22の破壊を抑制できて、スイッチング耐量を向上させられる。そして、耐量の律速場所にかかわらず、この効果を得ることができる。よって、耐量の律速場所にかかわらずスイッチング耐量を向上できるSiC半導体装置とすることが可能となる。また、スイッチング耐量を向上させられるため、縦型MOSFETのスイッチングの高速化を実現できる。
【0066】
特に、ゲート配線26の下方ではゲート絶縁膜22にかかる電界が大きくなりやすいが、その部分において、JFET層14が形成されないようにし、JFET層14の外周終端位置Poがゲート配線26の内周終端位置Piよりセル領域1側となるようにしている。このため、よりゲート絶縁膜22の破壊を抑制できて、スイッチング耐量を向上させられる。
【0067】
また、特許文献1のように、電流経路の距離を短くすると、ソースコンタクトやフィールド酸化膜、トレンチなどの構造物の端部が密集するが、各構成を精度よく製造するのが難しく、製造プロセスが不安定になって、歩留まりを低下させる。これに対し、本実施形態の構成によれば、電流経路の距離にかかわらずスイッチング耐量を向上できるため、歩留まりの低下も抑制できる。
【0068】
さらに、JFET層14の形成位置をセル領域1および繋ぎ部2bのうちのセル領域1側に限定するだけでスイッチング耐量の向上が図れるため、従来の製造方法に対してJFET層14の形成用マスクを変更するだけで良い。このため、製造工程の簡略化を図ることが可能となる。
【0069】
(第2実施形態)
第2実施形態について説明する。本実施形態は、第1実施形態に対してJFET層14の形成範囲などを変更したものであり、その他については第1実施形態と同様であるため、第1実施形態と異なる部分についてのみ説明する。
【0070】
第1実施形態では、セル領域1や繋ぎ部2bのうちのセル領域1側にJFET層14を形成していたが、本実施形態では、JFET層14の形成範囲をセル領域1のみとしている。
【0071】
また、第1実施形態では、JFET層14やソース領域19を形成するためのイオン注入層の形成範囲についてはそれぞれで設定していたが、本実施形態では、基板11の表面に対する法線方向において、JFET層14やソース領域19を形成するためのイオン注入層の形成範囲を揃えるようにしている。
【0072】
具体的には、図7に示すように、JFET層14がセル領域1のみに形成されており、繋ぎ部2bを含む外周領域2にはJFET層14が形成されていない。そして、JFET層14を形成する際のイオン注入層の形成範囲がセル領域1のみとなるようにしている。また、後述する図8Bに示すように、ソース領域19を形成する際のn型不純物のイオン注入範囲をJFET層14の形成範囲と同じとしている。
【0073】
なお、JFET層14を形成するためのイオン注入層の形成範囲とは、基板11の法線方向から見てJFET層14を形成する際にn型不純物のイオン注入が行われるすべての範囲を意味している。この範囲には、p型不純物の打ち返しによってp型の第1ディープ層15となる部分も含まれる。また、ソース領域19を形成する際のイオン注入層の形成範囲とは、基板11の法線方向から見てソース領域19を形成する際にn型不純物のイオン注入が行われるすべての範囲を意味している。この範囲にも、p型不純物の打ち返しによってp型のコンタクト領域20となる部分も含まれる。また、イオン注入層の形成範囲を揃えるとは、同じであることが好ましいが、同じ形成範囲になることを狙って製造されていることを意味し、製造誤差が含まれていても構わない。また、図7中に示した一点鎖線は、ソース領域19を形成する際のn型不純物のイオン注入範囲を示している。
【0074】
このように、JFET層14とソース領域19を形成する際のイオン注入層の形成範囲を揃えると、JFET層14やソース領域19をイオン注入で形成する場合のイオン注入用マスクを共通化させられる。図8A図8Eを参照して、本実施形態にかかるSiC半導体装置の製造方法について説明する。なお、図8A図8Eは、図4のうちのセル領域1と繋ぎ部2bの断面に相当する製造工程を示している。
【0075】
まず、図8Aに示す工程では、図6Aと同様に基板11の上にバッファ層12および低濃度層13を形成したのち、JFET層14を形成する。このとき、低濃度層13の表面にJFET層14と対応する部分が開口したマスク51を配置したのちn型不純物をイオン注入してJFET層14を形成することで、セル領域1のみにイオン注入が行われるようにする。続いて、図8Bに示すように、JFET層14の形成時に使用したマスク51をそのまま用いて、n型不純物をイオン注入してソース領域19を形成する。なお、JFET層14とソース領域19の形成については、イオン注入エネルギーを変えることで注入深さを異ならせている。
【0076】
続いて、図8Cに示す工程では、図6Cと同様の工程を行うことで第1ディープ層15、ベース層18およびコンタクト領域20を形成する。コンタクト領域20を形成する際には、ソース領域19がコンタクト領域20となる部分まで形成された状態になっているが、p型不純物のドーズ量を多くすることでp型に打ち返してコンタクト領域20を形成できる。
【0077】
さらに、図8Dに示す工程として図6Dと同様の工程を行うことでトレンチ21を形成したのち第2ディープ層30を形成する。さらに、図8Eに示す工程として図6Eと同様の工程を行うことで、ゲート絶縁膜22の形成工程、ゲート電極23の形成工程、フィールド酸化膜241や層間絶縁膜242の形成工程、層間絶縁膜242へのコンタクトホール242a、242bの形成工程を行う。その後、上部電極25やゲート配線26の形成工程、保護膜27の形成工程、基板11の裏面側への下部電極28の形成工程を実施する。これにより、本実施形態にかかるSiC半導体装置が完成する。
【0078】
以上説明したように、本実施形態では、JFET層14やソース領域19を形成するためのイオン注入層の形成範囲を揃えるようにしている。これにより、JFET層14やソース領域19のイオン注入用マスクを共用でき、製造工程の簡略化、製造コスト削減を図ることが可能となる。
【0079】
(他の実施形態)
本開示は、実施形態に準拠して記述されたが、本開示は当該実施形態や構造に限定されるものではないと理解される。本開示は、様々な変形例や均等範囲内の変形をも包含する。加えて、様々な組み合わせや形態、さらには、それらに一要素のみ、それ以上、あるいはそれ以下、を含む他の組み合わせや形態をも、本開示の範疇や思想範囲に入るものである。
【0080】
例えば、上記各実施形態では、繋ぎ部2bにおいて、低濃度層13の表層部にベース層18やコンタクト領域20を備える構造とされているが、これらの一方もしくは双方が繋ぎ部2bに備えられていない構造とされていても良い。ベース層18をセル領域1のみに形成する場合、第2実施形態のようにJFET層14やソース領域19のイオン注入用マスクを用いてベース層18を形成することもできる。このようにすれば、JFET層14やソース領域19に加えてベース層18のイオン注入用マスクについても共用できるため、さらに製造工程の簡略化、製造コスト削減を図ることが可能となる。
【0081】
上記第1実施形態では、繋ぎ部2bのうち、JFET層14の外周終端位置Poがゲート配線26の内周終端位置Piよりセル領域1側となるようにし、それより外側は、繋ぎ層15aが形成されているか、低濃度層13になっている。つまり、ゲート配線26の内周終端位置Piよりも外側において、JFET層14を形成していない。これに対して、ゲート配線26の内周終端位置Piよりも外側にもJFET層14を形成しつつ、その部分のn型不純物濃度が低濃度層13以下となるようにしても良い。このように、JFET層14が形成されていても、ゲート配線26の内周終端位置Piよりも外側においてn型不純物濃度を低くすれば、外周領域2でのpn接合を構成するp型層とn型層の不純物濃度が低くなり、ソース-ドレイン間容量を低減できる。したがって、第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0082】
また、上記実施形態において、第2ディープ層30の底面を浅くし、JFET層14および第1ディープ層15内に位置するようにしてもよい。つまり、第2ディープ層30は、低濃度層13に達しないように形成されていてもよい。これによれば、第2ディープ層30から空乏層が伸び難くなるため、オン抵抗の低減を図ることができる。
【0083】
また、上記第1実施形態において、JFET層14、第1ディープ層15、ベース層18やコンタクト領域20もしくはソース領域19についてイオン注入で形成した。これらのうちの一部もしくは全部がエピタキシャル成長によって形成したエピタキシャル層で構成されていてもよい。
【0084】
また、上記実施形態では、JFET層14および第1ディープ層15の表面にベース層18を形成したが、これらの間に低濃度層13よりもn型不純物濃度が高くされたn型の電流分散層を形成しても良い。その場合、電流分散層に加えて、トレンチ21の両側にp型の連結層を形成し、これら電流分散層や連結層の上にベース層18が形成されるようにしても良い。この場合、連結層を通じて第1ディープ層15とベース層18とが連結される構造になる。また、低濃度層13、JFET層14、および電流分散層が繋がり、これらによってドリフト層17が構成されることになる。このような構造とする場合も、第2ディープ層30については、第1ディープ層15より深くまで形成されていても良いし、第1ディープ層15の厚み内となる深さで形成されていても良い。
【0085】
また、上記実施形態では、セル領域1に備える半導体素子として、第1導電型をn型、第2導電型をp型としたnチャネルタイプのトレンチゲート構造の縦型MOSFETを例に挙げた。しかしながら、これは一例を挙げたに過ぎず、例えばnチャネルタイプに対して各構成要素の導電型を反転させたpチャネルタイプのトレンチゲート構造の縦型MOSFETとしてもよい。さらに、縦型MOSFETではなく、同様の構造の縦型IGBTとしてもよい。IGBTの場合、上記各実施形態における基板11の導電型をn型からp型に変更する以外は、上記実施形態で説明した縦型MOSFETと同様である。
【0086】
なお、結晶の方位を示す場合、本来ならば所望の数字の上にバー(-)を付すべきであるが、電子出願に基づく表現上の制限が存在するため、本明細書においては、所望の数字の前にバーを付してある。
【符号の説明】
【0087】
1…セル領域、2…外周領域、2a…ガードリング部、2b…繋ぎ部、11…基板
13…低濃度層(第1不純物領域)、14…JFET層、15…第1ディープ層
16…ガードリング、17…ドリフト層、18…ベース層、19…ソース領域
20…コンタクト領域、21…トレンチ、22…ゲート絶縁膜、23…ゲート電極
24…層間絶縁膜、25…上部電極(第1電極)、26…ゲート配線
27…保護膜、28…下部電極(第2電極)、30…第2ディープ層
Pi…内周終端位置、Po…外周終端位置
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図6C
図6D
図6E
図7
図8A
図8B
図8C
図8D
図8E