(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024157952
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】電磁クラッチ及びトルクカム
(51)【国際特許分類】
F16D 27/115 20060101AFI20241031BHJP
F16D 27/01 20060101ALI20241031BHJP
F16D 27/112 20060101ALI20241031BHJP
F16D 13/24 20060101ALI20241031BHJP
F16D 27/11 20060101ALI20241031BHJP
F16D 13/52 20060101ALI20241031BHJP
【FI】
F16D27/115
F16D27/01
F16D27/112 D
F16D13/24
F16D27/11
F16D13/52 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023072651
(22)【出願日】2023-04-26
(71)【出願人】
【識別番号】000236665
【氏名又は名称】不二ラテックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110629
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 雄一
(74)【代理人】
【識別番号】100166615
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 大輔
(72)【発明者】
【氏名】宮園 好之
(72)【発明者】
【氏名】高橋 美咲
(72)【発明者】
【氏名】寺岡 正夫
【テーマコード(参考)】
3J056
【Fターム(参考)】
3J056AA38
3J056AA53
3J056AA60
3J056BA04
3J056BA05
3J056BB12
3J056CC37
(57)【要約】
【課題】引きずりトルクの発生を抑制することを可能にする電磁クラッチを提供する。
【解決手段】一方の部材15に摩擦係合する一方のカム部材77と他方の部材13に回転係合する他方のカム部材79とが相対回転して発揮するカム作用により一対のカム部材77、79間を軸方向に離間移動させるスラスト力を発生すると共に一対の部材15、13間のトルク伝達を行なうトルクカム7と、一方の部材15に支持され摩擦係合を行わせるための電磁力を通電により発生させる電磁機構3と、一方の部材15及び他方のカム部材79間に配置されてスラスト力により締結される摩擦クラッチ11と、電磁機構3への通電停止により一方及び他方のカム部材77、79間の相対回転を戻すように付勢する付勢機構12とを備えたことを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方の部材に摩擦係合する一方のカム部材と他方の部材に回転係合する他方のカム部材とが相対回転して発揮するカム作用により前記一対のカム部材間を軸方向に離間移動させるスラスト力を発生すると共に前記一対の部材間のトルク伝達を行なうトルクカムと、
前記一方の部材に支持され前記摩擦係合を行わせるための電磁力を通電により発生させる電磁機構と、
前記一方の部材及び前記他方のカム部材間に配置されて前記スラスト力により締結される摩擦クラッチと、
前記電磁機構への通電停止により前記一方及び他方のカム部材間の相対回転を戻すように付勢する付勢機構と、
を備えた電磁クラッチ。
【請求項2】
請求項1記載の電磁クラッチであって、
前記電磁機構に対して相対回転可能且つ吸着移動可能に配置され前記吸着により前記摩擦係合を行うアーマチャと、
前記一方のカム部材と前記アーマチャとが共に回転方向に係合すると共に軸方向に相対移動可能な結合部材と、
を備えた電磁クラッチ。
【請求項3】
請求項1又は2記載の電磁クラッチであって、
前記付勢機構は、前記一方及び他方のカム部材の回転方向間に介設された弾性体を備えた、
電磁クラッチ。
【請求項4】
請求項1又は2記載の電磁クラッチであって、
前記付勢機構は、前記一方のカム部材側の内周に備えたチェック凹部と、前記他方の部材に配置され前記チェック凹部に嵌合するチェック体と、前記チェック体を前記チェック凹部に弾接させるチェックスプリングと、
を備えた電磁クラッチ。
【請求項5】
請求項1又は2記載の電磁クラッチであって、
前記付勢機構は、前記一方及び他方のカム部材の対向側にそれぞれ配置された永久磁石を備えた、
電磁クラッチ。
【請求項6】
請求項1又は2記載の電磁クラッチであって、
前記付勢機構は、前記一方及び他方のカム部材の対向間に配置され一端部が一方のカム部材に取り付けられ他端部が他方のカム部材に取り付けられた引張スプリングを備えた、
電磁クラッチ。
【請求項7】
請求項1又は2記載の電磁クラッチであって、
前記付勢機構は、前記他方のカム部材と前記電磁機構側の部材との間に配置され前記他方のカム部材を前記一方のカム部材側へ付勢する弾性体を備えた、
電磁クラッチ。
【請求項8】
請求項1又は2記載の電磁クラッチであって、
前記摩擦クラッチは、コーンクラッチであり、
前記他方のカム部材と前記他方の部材間に、前記他方のカム部材をハブとし、前記他方の部材に固定されたハブの外周に配置されたスペーサーからなるオルダム継手を介設した、
電磁クラッチ。
【請求項9】
一対のカム部材が相対回転して発揮するカム作用により前記一対のカム部材間を軸方向に離間移動させるスラスト力を発生すると共にトルク伝達を行なうトルクカムであって、
前記相対回転を戻すように一対のカム部材間を付勢する付勢機構を備えた、
トルクカム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁クラッチ及びトルクカムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電磁クラッチとして特許文献1、2に記載の電磁クラッチがある。
【0003】
この電磁クラッチは、電磁機構により働くトルクカムと摩擦クラッチとを備えている。
【0004】
従って、電磁機構への通電によりトルクカムの一対のカム部材を回転方向にずれるように相対回転させることでカム作用を発揮させ、摩擦クラッチを締結してトルクカム及び摩擦クラッチによりトルク伝達を行わせることができる。
【0005】
しかし、電磁機構への通電を遮断した時、トルクカムの一対のカム部材の相対回転の戻りが遅れて引きずりトルクが発生しやすいという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2021-81004号公報
【特許文献2】特開2020-128775号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
解決しようとする問題点は、引きずりトルクが発生し易かった点である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願発明の電磁クラッチは、引きずりトルクの発生を抑制するために、一方の部材に摩擦係合する一方のカム部材と他方の部材に回転係合する他方のカム部材とが相対回転して発揮するカム作用により前記一対のカム部材間を軸方向に離間移動させるスラスト力を発生すると共に前記一方及び他方の部材間のトルク伝達を行なうトルクカムと、前記一方の部材に支持され前記摩擦係合を行わせるための電磁力を通電により発生させる電磁機構と、前記一方の部材及び前記他方のカム部材間に配置されて前記スラスト力により締結される摩擦クラッチと、前記電磁機構への通電停止により前記一方及び他方のカム部材間の相対回転を戻すように付勢する付勢機構とを備えたことを特徴とする。
【0009】
本願発明のトルクカムは、一対のカム部材が相対回転して発揮するカム作用により前記一対のカム部材間を軸方向に離間移動させるスラスト力を発生すると共にトルク伝達を行なうトルクカムであって、前記相対回転を戻すように前記一対のカム部材間を付勢する付勢機構を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本願発明の電磁クラッチは、上記構成であるから、電磁機構への通電停止により付勢機構が一対のカム部材の相対回転を戻すように付勢するからカム作用が解除され、引きずりトルクの発生を抑制できる。
【0011】
本願発明のトルクカムは、上記構成であるから、付勢機構が一対のカム部材の相対回転を戻すように付勢するからカム作用が解除され、引きずりトルクの発生を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、実施例1に係り、電磁クラッチの断面図である。
【
図2】
図2は、
図1の電磁クラッチにおけるII-II線矢視における要部断面図である。
【
図3】
図3(A)は、位相が一方へずれたトルクカムの概略断面図、(B)は、位相が一方へずれたトルクカム及び付勢機構の概略断面図、(C)は、位相が戻ったトルクカムの概略断面図、(D)は、位相が戻ったトルクカム及び付勢機構の概略断面図、(E)は、位相が他方へずれたトルクカムの概略断面図、(F)は、位相が他方へずれたトルクカム及び付勢機構の概略断面図である。
【
図4】
図4は、比較例に係るヒステリシスを示すグラフである。
【
図5】
図5は、実施例に係るヒステリシスを示すグラフである。
【
図6】
図6は、実施例2に係り、電磁クラッチの断面図である。
【
図7】
図7は、実施例3に係り、電磁クラッチの断面図である。
【
図8】
図8は、実施例4に係り、電磁クラッチの断面図である。
【
図9】
図9は、
図8の電磁クラッチにおける付勢機構に係り、
図8のIX-IX線矢視における要部断面図である。
【
図11】
図11は、実施例5に係り、電磁クラッチの断面図である。
【
図16】
図16は、実施例6に係り、電磁クラッチの断面図である。
【
図17】
図17は、実施例7に係り、電磁クラッチの断面図である。
【
図18】
図18は、実施例8に係り、電磁クラッチの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、引きずりトルクの発生を抑制することを可能にするという目的を、以下のように実現した。
【0014】
本発明の電磁クラッチは、一方の部材に摩擦係合する一方のカム部材と他方の部材に回転係合する他方のカム部材とが相対回転して発揮するカム作用により前記一対のカム部材間を軸方向に離間移動させるスラスト力を発生すると共に前記一方及び他方の部材間のトルク伝達を行なうトルクカムと、前記一方の部材に支持され前記摩擦係合を行わせるための電磁力を通電により発生させる電磁機構と、前記一方の部材及び前記他方のカム部材間に配置されて前記スラスト力により締結される摩擦クラッチと、前記電磁機構への通電停止により前記一方及び他方のカム部材間の相対回転を戻すように付勢する付勢機構とを備えた形態で実現した。
【0015】
前記電磁機構に対して相対回転可能且つ吸着移動可能に配置され前記吸着により前記摩擦係合を行うアーマチャと、前記一方のカム部材と前記アーマチャとが共に回転方向に係合すると共に軸方向に相対移動可能な結合部材とを備えた形態で実現した。
【0016】
前記付勢機構は、前記一方及び他方のカム部材の回転方向間に介設された弾性体を備えた形態で実現した。
【0017】
前記付勢機構は、前記一方のカム部材の内周側に備えたチェック凹部と、前記他方の部材に配置され前記チェック凹部に嵌合するチェック体と、前記チェック体を前記チェック凹部に弾接させるチェックスプリングとを備えた形態で実現した。
【0018】
前記付勢機構は、前記一方及び他方のカム部材の対向側にそれぞれ配置された永久磁石を備えた形態で実現した。
【0019】
前記付勢機構は、前記一方及び他方のカム部材の対向間に配置され一端部が一方のカム部材に取り付けられ他端部が他方のカム部材に取り付けられた引張スプリングを備えた形態で実現した。
【0020】
前記付勢機構は、前記他方のカム部材と前記電磁機構側の部材との間に配置され前記他方のカム部材を前記一方のカム部材側へ付勢する皿ばねを備えた形態で実現した。
【0021】
前記摩擦クラッチは、コーンクラッチであり、前記他方のカム部材と前記他方の部材間に、前記他方のカム部材をハブとし、前記他方の部材に固定されたハブの外周に配置されたスペーサーからなるオルダム継手を介設した形態で実現した。
【0022】
本発明のトルクカムは、一対のカム部材が相対回転して発揮するカム作用により前記一対のカム部材間を軸方向に離間移動させるスラスト力を発生すると共にトルク伝達を行なうトルクカムであって、前記相対回転を戻すように前記一対のカム部材間を付勢する付勢機構を備えた形態で実現した。
【実施例0023】
【0024】
電磁クラッチ1は、電磁機構3と、アーマチャ5と、トルクカム7と、摩擦クラッチ11と、付勢機構12とを備えている。
【0025】
[電磁機構]
電磁機構3は、相対回転可能な一対の部材の一方に支持され、摩擦係合を行わせるための電磁力を通電により発生させるものである。一対の部材は、特に限定はされないが、実施例ではシャフト13とハウジング15とで構成している。ハウジング15が一対の部材の一方を構成し、シャフト13が一対の部材の他方を構成する。但し、一対の部材の一方、他方は、一対の部材間の相対的な関係であり、ハウジング15が一対の部材の他方を構成し、シャフト13が一対の部材の一方を構成してもよい。ハウジング15及びシャフト13の相対回転は、例えば固定配置されたハウジング15側に対するシャフト13の回転である。但し、一対の部材の双方が回転することにより相対回転させることもできる。
【0026】
シャフト13は、磁石支持部19と基部21と出力部23とで段付き状に形成されている。基部21の端部外周には、噛合歯25が形成されている。出力部23には、スプライン23aが形成されている。
【0027】
ハウジング15は、アルミ合金等により一端が開口された有底円筒状に形成されている。ハウジング15は、周壁部27と端壁部29とを備えている。周壁部27の開口部内周に雌ねじ部31を備えている。
【0028】
電磁機構3は、電磁コイル33と磁性体製のコア35とを備えている。電磁コイル33は、コア35の凹部に樹脂39を介して位置決められている。電磁コイル33のリード線40は外部に引き出され、コントローラを介してバッテリ等に接続されている。コントローラは、電磁コイル33の励磁、PWM制御による励磁電流の通電、通電停止などを行う。
【0029】
コア35の端部外周には雄ねじ部41が形成されている。コア35の内端部にクラッチ支持筒部43が軸方向に延長形成されている。コア35はハウジング15内に嵌合配置されている。コア35の雄ねじ部41は、ハウジング15の雌ねじ部35に螺合結合されている。コア35の外周には、オーリング45が支持され、ハウジング15の周壁部27に密接している。コア35の雄ねじ部41には、ハウジング15外で止めナット47が螺合され、ハウジング15の外端に対して締結されている。コア35は、ハウジング15と一体的に結合され、ハウジング15側の部材としても機能している。
【0030】
ナット47を使用するメリットとして、「ゆるみ止め」と「縦方向のガタ調整」とが挙げられる。「縦方向のガタ調整」をすることによりバックラッシを小さくすることができ、トルク伝達の応答性を向上することができる。
【0031】
クラッチ支持筒部43は、ハウジング15の周壁部27内に渡って嵌合し、ハウジング15を一体的に補強している。クラッチ支持筒部43は、ハウジング15の端壁部29の外周側内に突き当てられている。
【0032】
コア35の内周には、シール用の支持凹部49の軸方向両側にラジアル軸受用の嵌合凹部51、53が形成されている。コア35の軸方向内端部内周には、スラスト軸受用の嵌合凹部55がラジアル軸受用の嵌合凹部53に隣接して段付き状に形成されている。コア35の軸方向外端面には、ラジアル軸受の嵌合凹部51の外周側に凸部57が周回状に形成されている。凸部57の外周側でコア35の外端面には、外部取り付け用の雌ねじ穴59が形成されている。
【0033】
コア35の内周は、シャフト13の磁石支持部19外周に嵌合されている。コア35のシール用の支持凹部49にシール部材61が支持され、シャフト13の磁石支持部19外周面に密接している。コア35のラジアル軸受用の嵌合凹部51、53には、ラジアル軸受63、65がそれぞれ支持され、シャフト13の磁石支持部19外周を嵌合支持している。ラジアル軸受63のインナーレースは、シャフト13の磁石支持部19外周に嵌合支持されたストッパーリング67により位置決められている。ラジアル軸受65のインナーレースは、シャフト13の磁石支持部19と基部21との間の段付き部端面に突き当てられている。
【0034】
クラッチ支持筒部43は、スプライン状のスリット69を備えている。スリット69は、スプライン係合用として機能する。
【0035】
[アーマチャ]
アーマチャ5は、電磁機構3に対して相対回転可能且つ吸着移動可能に配置され吸着により摩擦係合を行うに配置されている。アーマチャ5は、リング状に形成され、クラッチ支持筒部43の内周に配置されている。アーマチャ5は、電磁機構3のコア35に吸着移動可能に対向している。アーマチャ5の内周には、インナースプラインが形成されている。アーマチャ5の背面は、テーパー状に形成されている。アーマチャ5は、内周側に配置された筒状の結合部材71の外周にスプライン係合している。
【0036】
電磁クラッチ1は、電磁機構3及びアーマチャ5間に摩擦係合用のパイロットクラッチ73を備えている。パイロットクラッチ73は、インナープレート及びアウタープレートからなっている。パイロットクラッチ73のインナープレート及びアウタープレートは、磁路を迂回させる窓を備えている。パイロットクラッチ73のインナープレートは、内周の結合部材71にスプライン係合している。パイロットクラッチ73のアウタープレートは、クラッチ支持筒部43のスリット69にスプライン状に係合している。
【0037】
結合部材71は、スラスト軸受用の嵌合凹部55に支持されたスラスト軸受75に一端が突き当てられている。
【0038】
[トルクカム]
図2は、
図1の電磁クラッチにおけるII―II線矢視における要部断面図である。
図3(A)は、位相が一方へずれたトルクカムの概略断面図、(B)は、位相が一方へずれたトルクカム及び付勢機構の概略断面図、(C)は、位相が戻ったトルクカムの概略断面図、(D)は、位相が戻ったトルクカム及び付勢機構の概略断面図、(E)は、位相が他方へずれたトルクカムの概略断面図、(F)は、位相が他方へずれたトルクカム及び付勢機構の概略断面図である。
【0039】
図1~
図3で示すトルクカム7は、一対のカム部材77、79の相対回転により発揮するカム作用で両カム部材77、79間を軸方向に離間移動させるスラスト力を発生すると共にトルク伝達を行う。カム部材77、79には、対向面にそれぞれカム溝77a、79aが形成されている。カム溝77a、79aは、回転方向に対しカム角θを有している。カム角θの設定は電磁クラッチ1の仕様により種々設定することができる。カム溝77a、79a間には、カムボール81が嵌合配置されている。カムボール81は、回転方向に120°配置で3個備えられ、リテーナー83で保持されている。リテーナー83は、リング状板材であり、カム部材77、79間に配置されている。
【0040】
カム部材77、79の一方であるカム部材77は、同他方であるカム部材79よりも小径に形成されている。カム部材77のアーマチャ5側の面は、アーマチャ5の背面に対向する凹状のテーパー面となっている。
【0041】
ここで、
図10の類似の構造をも参照しながら説明すると、カム部材77には、カム部材79に対向する面に周方向に傾斜したカム溝77aを120°等間隔配置で備えている。カム溝77aの周方向間には、後述するコイルスプリング用の凹部77bが120°等間隔配置で備えられている。但し、参照する
図10での凹部77bは、カム部材77の径方向中間部に備えられて径方向で閉じ形状となっているが、実施例1の凹部77bは、カム部材77の外周に開放形状となっている。このカム部材77は、内周一側が結合部材71の端部側にスプライン係合し、ストッパーリング84により位置決められている。
【0042】
カム部材79は、外周面が一方のカム部材77の外周よりも径が大きく、突出するように形成されている。カム部材79には、カム部材77に対向する面に後述のようにカム溝及びコイルスプリング用の凹部が対向して備えられている。カム部材79の外周面は、コーン面として形成されている。カム部材79は、内周の噛合歯87がシャフト13の端部外周の噛合歯25に噛合っている。
【0043】
[摩擦クラッチ]
摩擦クラッチ11は、ハウジング15側のクラッチ支持筒部43及びカム部材79間に配置されてトルクカム7のスラスト力により締結されるようになっている。
【0044】
摩擦クラッチ11は、カム部材79の外周面とクラッチリング89の内周面とにより構成されるコーンクラッチである。クラッチリング89は、クラッチ支持筒部43のスリット69にスプライン状に係合している。クラッチリング89とハウジング15の端壁部29との間にブッシュ91が介設されている。ブッシュ91は、クラッチリング89から入力されるスラスト力をハウジング15の端壁部29で受けるためのものである。
【0045】
カム部材77、79間にカムスラスト力が働くと、カム部材79が軸方向移動してカム部材79の外周面とクラッチリング89の内周面とがコーンクラッチ11として摩擦係合する。
【0046】
[付勢機構]
図1~
図3の付勢機構12は、電磁機構3への通電停止により一対のカム部材77、79間の相対回転を戻すように付勢するものである。付勢機構12は、一対のカム部材77、79の回転方向間に介設された弾性体として3個のコイルスプリング93を備えている。
【0047】
コイルスプリング93は、カム部材77、79間の凹部77b、79bで構成される収容部95に収容配置されている。収容部95は、カム部材77側の当接壁77c、77dとカム部材79側の当接壁79c、79dとを備えている。
【0048】
収容部95内でコイルスプリング93の一端は、当接壁77c、79cで受けられ、同他端は、当接壁77d、79dで受けられる。
【0049】
つまり、コイルスプリング93は、回転方向に120°配置で回転方向等間隔に3個備えられている。このコイルスプリング93は、カムボール81間に等間隔に配置され、前記リテーナー83に支持されている。リテーナー83には、コイルスプリング93用の支持孔97に支持凸部97aが備えられている。支持凸部97aは、支持孔97内で回転方向両側に突出配置されている。コイルスプリング93は。支持孔97内に収容され、両端部が支持凸部97aに嵌合支持されている。
【0050】
[制動]
かかる構成の電磁クラッチ1は、例えばハウジング15側のコア35が固定側に取り付けられ、シャフト13が、制動対象に結合される。但し、電磁クラッチ1は、車両のトルク伝達装置などとしても用いることができる。
【0051】
電磁コイル33への通電がオフのとき、トルクカム7は、
図3(C)、(D)のようにニュートラル状態であり、パイロットクラッチ73及びコーンクラッチ11の締結はない。
【0052】
このため、制動対象からシャフト13に回転入力が有っても、シャフト13と共にトルクカム7、結合部材71、及びアーマチャ5がハウジング15及びコア35に対して相対回転するから、シャフト13の自由な回転が許容される。
【0053】
電磁コイル33が通電制御されるとアーマチャ5が電磁力に応じてコア35に引き付けられる。この引き付けによりパイロットクラッチ73が締結され、結合部材71がコア35に対して磁力に応じた回転抵抗を受ける。他方、シャフト13の回転によりトルクカム7のカム部材79が回転力を受ける。
【0054】
カム部材77に働く結合部材71を介した電磁機構3側による回転抵抗とカム部材79に働くシャフト13側の回転力とによりカム部材79がカム部材77に対して相対回転し
図3(A)、(B)のようにカムボール81の両側でカム溝77a、79aが位置ずれし、カムボール81及びカム溝77a、79a間で
図3(A)矢印のようにカムスラスト力が発生する。
【0055】
このカムスラスト力によりコーンクラッチ11がカムスラスト力に応じて摩擦係合しカム部材79を介してハウジング15側に対する制動力がシャフト13に働く。
【0056】
また、電磁機構3によるアーマチャ5の回転抵抗は、トルクカム7を介してシャフト13に働く。
【0057】
従って、シャフト13は、電磁コイル33への通電のオンによりカムスラスト力に応じたコーンクラッチ11の締結による制動力と電磁力に応じたパイロットクラッチ73による回転抵抗とにより制動力を受け、対象を制動することができる。
【0058】
コントローラにより電磁コイル33の励磁電流を制御すると、アーマチャ5の引き付け力が変化してアーマチャ5によるシャフト13に対する回転抵抗及びトルクカム7のカムスラスト力が変わり、シャフト13に対する制動力の大きさを調整することができる。
【0059】
このとき、トルクカム7のスラスト力は、カム部材77の突当部85から結合部材71、スラスト軸受75を介してコア35に入力されるからカム部材77からアーマチャ5にカムスラスト力が入力されることは無い。
【0060】
図3(A)のようにトルクカム7が働いているときは、
図3(B)のように収容部95内のコイルスプリング93は、当接壁79c、77d間で圧縮され、回転方向(矢印)の弾発力を蓄積する。
【0061】
このため、電磁コイル33の通電がオフになりトルクカム7がフリーになるとコイルスプリング93の弾発力によりカム部材77、79が相対回転を戻すように付勢される。この付勢によりトルクカム7は、
図3(C)、(D)のようにニュートラル状態に戻り、トルクカム7の増幅作用が無くなり、コーンクラッチ11の引きずりトルクを無くすか、抑制することができる。
【0062】
図3(A)とは逆方向の相対回転によりトルクカム7が
図3(E)のように働いているときは、
図3(F)のように収容部95内のコイルスプリング93は、当接壁79d、77c間で圧縮され、回転方向(矢印)の弾発力を蓄積する。
【0063】
このため、電磁コイル33の通電がオフになりトルクカム7がフリーになるとコイルスプリング93の弾発力によりカム部材77、79が相対回転を戻すように付勢される。この付勢によりトルクカム7は、
図3(C)、(D)のようにニュートラル状態に戻り、コーンクラッチ11での引きずりトルクを無くすか、抑制することができる。
【0064】
[作用効果]
本発明実施例の電磁クラッチ1は、電磁コイル33の通電制御により働かせたトルクカム7、コーンクラッチ11を、電磁コイル33の通電オフにより直ちに復帰させることができる。つまり通電オフによりトルクカム7がフリーになるとコイルスプリング93の弾発力によりカム部材77、79が前記
図4のように相対回転を戻すように付勢され、トルクカム7をニュートラル状態に戻すことができる。
【0065】
このため、コーンクラッチ11での引きずりトルクを無くすか、抑制することができ、オン、オフのレスポンスの良い制動を実現できる。
【0066】
図4は、比較例に係るヒステリシスを示すグラフである。
図5は、実施例に係るヒステリシスを示すグラフである。
図4、
図5は、横軸が制御電流、縦軸が発生トルクを示す。電流オンにより発生トルクが上昇傾向を示し、電流オフにより発生トルクが下降傾向となる。
【0067】
図4のように、
図1の電磁クラッチ1において付勢機構12を備えない場合に電磁コイル33へ与える電流変化とシャフト13での発生トルクの変化に関し大きなヒステリシスH1を招いている。このヒステリシスH1に起因して電流オフ時においてもコーンクラッチ11の締結状態がある程度維持され大きな引きずりトルクT1が発生した。
【0068】
これに対し
図5のように、付勢機構12を備えた電磁クラッチ1のヒステリシスH2は、
図4の比較例に対して抑制され、H1>H2の関係を得ることができた。
【0069】
このため、発生する引きずりトルクT2もT2<T1の関係となり、大幅に抑制することができた。
【0070】
前記制動力付与により、アーマチャ5とトルクカム7とが軸力に関して切り離されているから、パイロットクラッチ73側の押し付けによる反力がコーンクラッチ11に入力されるということが無く、いわゆるセルフロックを抑制することができる。
【0071】
しかも、電磁機構3が働くとき、電磁力に応じて働くトルクカム7のカムスラスト力によるコーンクラッチ11の摩擦係合力と電磁力に応じたアーマチャ5の回転抵抗とがシャフト13に入力されるため、かかる点においても小型で大きなトルクを得ることができる。なお、実施例1では、アーマチャ5を、パイロットクラッチ73を介して電磁クラッチ1に吸着させる構造としたが、アーマチャ5及びパイロットクラッチ73を省略し、クラッチ部材77を電磁クラッチ1に直接吸着させ、或いは摩擦板を介して吸着させる構造にすることもできる。かかる構造では、付勢機構12を用いるとコーンクラッチ11での引きずりトルクとクラッチ部材77及び電磁クラッチ1間での引きずりトルクとを規制できる。
第1シャフト13Aは、固定側のケース98にラジアル軸受99により回転自在に支持されている。シャフト13Aの軸方向の内端部には、軸支持孔100が備えられ、内端部の外周にコア連携部101を備えている。コア連携部101は、第1シャフト13Aの軸方向内端部を構成する内周部、径方向部、及び外周部からなる。第1シャフト13Aの内周部は、前記軸支持孔100を形成しており筒状になっている。第1シャフト13Aの径方向部は、内周部の軸方向端部から径方向にフランジ状に延びている。第1シャフト13Aの外周部は、内周部の径方向外側で径方向部の外周縁から電磁コイル33側へ筒状に延びている。径方向部及び外周部間に絶縁部103が介設されている。コア連携部101の端部にクラッチ支持筒部43が軸方向に延長形成されている。
コア連携部101の内周部及び外周部間には、コア35が相対回転可能に嵌合配置されている。コア35は、樹脂を介して電磁コイル33を支持している。このコア35は、第1シャフト13Aの外周面にラジアル軸受104により支持されている。コア35とコア連携部101の内周部及び径方向部の間には、隙間が形成されている。
実施例1で示した結合部材71を、本実施例ではカム部材77が兼用する。カム部材77を第1シャフト13Aの径方向部に対して軸方向に支持するのは実施例1のスラスト軸受75に代えてスラストニードル軸受75とした。カム部材79には、スプライン状のスリット105が形成されている。
カム部材79とクラッチ支持筒部43との間には、実施例1のコーンクラッチ11に代えて多板クラッチの摩擦クラッチ11とした。摩擦多板クラッチ11は、インナープレートが内周のカム部材79のスリット105にスプライン状に係合している。摩擦多板クラッチ11のアウタープレートは、クラッチ支持筒部43のスリット69にスプライン状に係合している。摩擦多板クラッチ11は、一側がハウジング15の周回突状部15aに対向し、他側に押圧リング11aが対向する。押圧リング11aは、ストッパーリング11bにより位置決められている。
第2シャフト13Bは、内端部が第1シャフト13Aの軸支持孔100に挿入されラジアルニードル軸受106介して相対回転自在に支持されている。第2シャフト13Bは、ハウジング15に対しラジアル軸受107により相対回転自在に支持され、ラジアル軸受107よりも外側で第2シャフト13Bとハウジング15との間にシール部材109が介設されている。
第2シャフト13Bには、ハウジング15内においてフランジ部111が形成され、フランジ部111に噛合歯111aが備えられている。噛合歯111aは、カム部材79のスリット105にスプライン状に係合している。
このため、第1、第2シャフト13A、13B間に相対回転の入力が有っても、第1シャフト13A及びハウジング15と第2シャフト13B、トルクカム7、及びアーマチャ5とが相対回転するから、第1、第2シャフト13A、13B間の自由な相対回転が許容される。
電磁コイル33が通電制御されるとアーマチャ5が電磁力に応じてコア35に引き付けられる。この引き付けによりパイロットクラッチ73が締結され、カム部材77が第1シャフト13Aに対して磁力に応じた回転力を受ける。他方、第2シャフト13Bの回転によりトルクカム7のカム部材79が回転力を受ける。
このカムスラスト力がカム部材79からストッパーリング11bで位置決められた押圧リング11aを介して摩擦多板クラッチ11に伝達される。こうして摩擦多板クラッチ11がカムスラスト力に応じて摩擦係合し第1、第2シャフト13A、13B間に制動力が働く。
また、本実施例2では、第1、第2シャフト13A、13B間の相対回転を制限することができる。結合部材71を、カム部材77で兼用することができる。この実施例では、第1シャフト13Aが回転するとき、カムボール81に遠心力が働く。この遠心力はカム溝77a、79aに働き、トルクカム7にスラスト力を発生させようとする。これに対し、付勢機構12が遠心力に対抗するようにカム部材77、79間に働くため、遠心力による不用意に摩擦多板クラッチ11が締結されることを抑制できる。