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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024157955
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】エンジン制御装置
(51)【国際特許分類】
   F02D 13/02 20060101AFI20241031BHJP
【FI】
F02D13/02 H
F02D13/02 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023072656
(22)【出願日】2023-04-26
(71)【出願人】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立Astemo株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145023
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 学
(74)【代理人】
【識別番号】100105887
【弁理士】
【氏名又は名称】来山 幹雄
(74)【代理人】
【識別番号】100182028
【弁理士】
【氏名又は名称】多原 伸宜
(72)【発明者】
【氏名】小森 拓弥
(72)【発明者】
【氏名】秋元 豊
【テーマコード(参考)】
3G092
【Fターム(参考)】
3G092AA01
3G092AA11
3G092AC04
3G092DA04
3G092DC01
3G092FA11
3G092HA05Z
3G092HA06Z
3G092HD05Z
3G092HE03Z
3G092HE08Z
3G092HF09Z
(57)【要約】
【課題】カムを低速カムから高速カムに切り替える際に、カム切り替え機構が受ける不要な影響を抑制することができるエンジン制御装置を提供する。
【解決手段】エンジン制御装置100では、制御部151が、エンジン1の回転速度が所定の閾値回転速度以上であるときに、カムアクチュエータ50を介して、低負荷領域用カム22aから高負荷領域用カム22bに切り替え、所定の閾値回転速度は、エンジンの回転速度の上昇度合いを示す値が大きいほど、より低い回転速度となるように低減される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カムシャフト本体部と、プロフィールが互いに異なる低負荷領域用カム及び高負荷領域用カムが形成されて、前記カムシャフト本体部の長手軸の方向に沿って摺動し、かつ前記カムシャフト本体部と共に前記長手軸を回転軸として回転するカムピースと、前記カムピースの外周部に形成されたガイド溝と、を含むカムシャフトを有するエンジンの運転状態を制御する制御部を備えたエンジン制御装置であって、
前記エンジンに対しては、前記ガイド溝に対して係合する係合ピンを有する共に、前記係合ピンを、前記ガイド溝に対して係合させるように前記ガイド溝に対して突出させるカムアクチュエータが適用され、
前記制御部は、前記カムアクチュエータを介し、前記係合ピンを前記ガイド溝に係合させ、前記ガイド溝に係合された前記係合ピンが、前記カムシャフトの回転に伴って前記ガイド溝に沿って相対移動されることによって前記カムピースを押して、前記カムピースを前記長手軸の前記方向に沿って摺動させることにより、前記エンジンの前記運転状態に応じて、前記低負荷領域用カムと前記高負荷領域用カムとを切り替え、
前記制御部は、前記エンジンの回転速度が所定の閾値回転速度以上であるときには、前記カムアクチュエータを介して、前記低負荷領域用カムから前記高負荷領域用カムに切り替え、
前記所定の閾値回転速度は、前記エンジンの回転速度の上昇度合いを示す値が大きいほど、より低い回転速度となるように低減されることを特徴とするエンジン制御装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記回転速度の前記上昇度合いを示す値として、前記回転速度の偏差を用いて算出される値を用いることを特徴とする請求項1に記載のエンジン制御装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記回転速度の前記上昇度合いを示す値として、前記エンジンのスロットルバルブの開度に対応する値の偏差を用いて算出される値を用いることを特徴とする請求項1に記載のエンジン制御装置。
【請求項4】
前記所定の閾値回転速度は、前記スロットル弁の前記開度に応じて変化するように予め設定されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のエンジン制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジン制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車両等に搭載される内燃機関であるエンジンが、互いのカムプロフィールが相違する2種類のカムを有しており、エンジンの運転状態を制御するエンジン制御装置が、2種類のカムを一方から他方に切り替えて、エンジンの吸排気バルブの開閉タイミングや、かかる開閉タイミングに加えて吸排気バルブのリフト量を変更する構成が採用される場合がある。
【0003】
かかる状況下で、特許文献1は、動弁制御装置、エンジン及び自動二輪車に関し、カムが高速カムに切り替えられている場合において、エンジンの回転速度が低速カム切り替えしきい値VLを下回ったとき、カムを高速カムから低速カムに切り替え、かつカムが高速カムから低速カムに切り替えられたときに、高速カム切り替えしきい値VHを一時的に高くするという構成と、カムが低速カムに切り替えられている場合において、エンジンの回転速度が低速カム切り替えしきい値VLよりも高い高速カム切り替えしきい値VHを上回ったとき、カムを低速カムから高速カムに切り替え、かつカムが低速カムから高速カムに切り替えられたとき、低速カム切り替えしきい値VLを一時的に低くするという構成と、を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010-156215号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、本発明者の検討によれば、特許文献1の構成においては、カムが低速カムに切り替えられている場合において、エンジン回転速度が低速カム切り替え閾値VLよりも高い高速カム切り替え閾値VHを上回ったとき、カムを低速カムから高速カムに切り替える構成を有するものであるため、エンジン回転速度が低速カム切り替え閾値VLよりも高い高速カム切り替え閾値VHを上回る際に、エンジン回転速度の上昇度合いが相対的に大きくなっている場合には、カムを低速カムから高速カムに切り替える際のカム切り替え機構に相対的に大きな外力が印加される場合が考えられる。かかる場合、カム切り替え機構に不要な影響が出る傾向も考えられ、かかる点で改良の余地がある。
【0006】
本発明は、以上の検討を経てなされたものであり、カムを低速カムから高速カムに切り替える際に、カム切り替え機構が受ける不要な影響を抑制することができるエンジン制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以上の目的を達成するべく、本発明は
カムシャフト本体部と、プロフィールが互いに異なる低負荷領域用カム及び高負荷領域用カムが形成されて、前記カムシャフト本体部の長手軸の方向に沿って摺動し、かつ前記カムシャフト本体部と共に前記長手軸を回転軸として回転するカムピースと、前記カムピースの外周部に形成されたガイド溝と、を含むカムシャフトを有するエンジンの運転状態を制御する制御部を備えたエンジン制御装置であって、前記エンジンに対しては、前記ガイド溝に対して係合する係合ピンを有する共に、前記係合ピンを、前記ガイド溝に対して係合させるように前記ガイド溝に対して突出させるカムアクチュエータが適用され、前記制御部は、前記カムアクチュエータを介し、前記係合ピンを前記ガイド溝に係合させ、前記ガイド溝に係合された前記係合ピンが、前記カムシャフトの回転に伴って前記ガイド溝に沿って相対移動されることによって前記カムピースを押して、前記カムピースを前記長手軸の前記方向に沿って摺動させることにより、前記エンジンの前記運転状態に応じて、前記低負荷領域用カムと前記高負荷領域用カムとを切り替え、前記制御部は、前記エンジンの回転速度が所定の閾値回転速度以上であるときには、前記カムアクチュエータを介して、前記低負荷領域用カムから前記高負荷領域用カムに切り替え、前記所定の閾値回転速度は、前記エンジンの回転速度の上昇度合いを示す値が大きいほど、より低い回転速度となるように低減されることを一局面とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一局面にかかるエンジン制御装置によれば、低負荷領域用カムと高負荷領域用カムとを切り替えるための所定の閾値回転速度が、エンジンの回転速度の上昇度合いを示す値が大きいほど、より低い回転速度となるように低減されるものであるため、カムを低速カムから高速カムに切り替える際、つまり低負荷領域用カムから高負荷領域用カムに切り替える際に、カム切り替え機構であるカムアクチュエータの特に係合ピンが受ける不要な影響を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本発明の実施形態におけるエンジン制御装置の構成を、それが適用されるエンジンと共に示す模式的な模式図である。
図2図2は、本実施形態におけるエンジン制御装置が適用されるエンジンのカムシャフトを、それに適用されるカムアクチュエータと共に示す模式的な構成図であり、図2(a)から図2(e)に向けて、カムシャフトが回転しながらカムアクチュエータの第1ピン及び第2ピンが移動する様子を時系列的に示している。
図3図3は、本実施形態におけるエンジン制御装置が実行するカム切り替え処理の一例を示すフローチャートである。
図4図4(a)は、本実施形態におけるエンジン制御装置が実行するカム切り替え処理の一例を示すタイムチャートであり、図4(b)は、本実施形態におけるエンジン制御装置が実行するカム切り替え処理に対する比較例を示すタイムチャートである。
図5図5は、本実施形態におけるエンジン制御装置のカム切り替え処理の別例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を適宜参照して、本発明の実施形態におけるエンジン制御装置につき、詳細に説明する。なお、図中、x軸、y軸及びz軸は、3軸直交座標系を成す。
【0011】
<エンジンの構成>
まず、図1及び図2を参照して、本実施形態におけるエンジン制御装置が適用されるエンジンの構成について、詳細に説明する。
【0012】
図1は、本実施形態におけるエンジン制御装置の構成を、それが適用されるエンジンと共に示す模式的な模式図である。また、図2は、本実施形態におけるエンジン制御装置が適用されるエンジンのカムシャフトを、それに適用されるカムアクチュエータと共に示す模式的な構成図であり、図2(a)から図2(e)に向けて、カムシャフトが回転しながらカムアクチュエータの第1ピン及び第2ピンが移動する様子を時系列的に示している。
【0013】
図1に示すように、エンジン1は、典型的には、図示を省略する自動二輪車等の車両に搭載されて、1サイクルが4ストロークのレシプロ型の内燃機関であって、エンジン制御装置100によりその運転状態が制御されるものであり、シリンダブロック2を備えている。なお、図中では、説明の便宜上、エンジン1を単数の気筒2aのみを有するものとして示しているが、エンジン1は複数の気筒2aを有するものであってもよく、気筒2aの配列も直列、水平対向やV型等であってもよい。また、エンジン1は、典型的には水冷式であって、シリンダブロック2の側壁内の冷却水通路3には、冷却水通路3を流通する冷却水の温度を検出する水温センサ101が設けられている。かかる水温センサ101は、シリンダブロック2の側壁内の冷却水通路を流通する冷却水の温度に応じた電圧を呈する電気信号をエンジン制御装置100に出力する。なお、エンジン1が空冷式である場合には、水温センサ101の代わりに、シリンダブロック2等にエンジン1の温度を検出自在な図示を省略する温度センサが設けられることになる。
【0014】
シリンダブロック2の内部には、ピストン4が配置されている。ピストン4は、コンロッド5を介してクランクシャフト6に連結されている。クランクシャフト6には、それと共に同軸に回転するリラクタ7が設けられている。リラクタ7の外周部には、その周方向に所定のパターンで並置された複数の歯部7aが立設されている。複数の歯部7aの近傍には、エンジン制御装置100がエンジン1の回転速度を算出するように、クランクシャフト6の回転角度(回転位置)を検出するクランク角センサ102が、シリンダブロック2の下部に装着され図示を省略するロアケース等に設けられている。かかるクランク角センサ102は、クランクシャフト6の回転に伴って回転するリラクタ7の複数の歯部7a及びそれらの間の凹部に応じた高低の電圧を呈する電気信号をエンジン制御装置100に出力する。
【0015】
シリンダブロック2の上部には、シリンダヘッド8が装着されている。シリンダブロック2の内壁面、ピストン4の上面、及びシリンダヘッド8の内壁面が協働して画成する内部空間は、燃焼室9となる。
【0016】
シリンダブロック2及びシリンダヘッド8には、1つの気筒2aに対して、その燃焼室9内で燃料及び空気から生成される混合気に点火する点火栓10が設けられている。点火栓10の点火動作は、エンジン制御装置100により、図示を省略する点火コイルへの通電が制御されることによって制御される。
【0017】
シリンダヘッド8には、燃焼室9と吸気通路11aとを開閉自在に連通させる吸気バルブ12が設けられている。吸気通路11aは、シリンダヘッド8及びシリンダヘッド8に装着される吸気管11内に形成される。吸気管11には、吸気通路11a内に燃料を噴射する燃料噴射弁13、及び燃料噴射弁13の上流側に配置されると共にスロットル装置14の構成部品であるスロットルバルブ14aが設けられている。吸気管11には、吸気バルブ12及びスロットルバルブ14aの間で、吸気管11内に流入する空気の圧力(吸気圧)を検出する吸気圧センサ103が設けられている。かかる吸気圧センサ103は、吸気圧に応じた電圧を呈する電気信号をエンジン制御装置100に出力する。スロットルバルブ14aに対しては、その開度を検出するスロットル開度センサ104が、スロットル装置14の本体部等に装着されている。かかるスロットル開度センサ104は、スロットルバルブ14aの開度(スロットル開度)に応じた電圧を呈する電気信号をエンジン制御装置100に出力する。燃料噴射弁13の燃料噴射動作(開弁動作)は、エンジン制御装置100により、図示を省略するそのソレノイドバルブへの通電が制御されることによって制御される。なお、燃料噴射弁13は、燃焼室9内に直接燃料を噴射するものであってもよい。
【0018】
また、シリンダヘッド8には、吸気管11の反対側に排気管15が装着され、シリンダヘッド8及び排気管15内には、燃焼室9と連通する排気通路15aが形成されている。また、シリンダヘッド8には、燃焼室9と排気通路15aとを開閉自在に連通させ排気バルブ16が設けられている。排気管15には、排気バルブ16よりも下流側で、燃焼室9から排出される排気ガスの浄化を行う典型的には三元触媒である触媒17が設けられると共に、触媒17に近接したその上流側で、排気ガス中の酸素濃度を検出するO2センサ105が設けられている。かかるO2センサ105は、触媒17の上流側における排気ガス中の酸素濃度に応じた電圧を呈する電気信号をエンジン制御装置100に出力する。
【0019】
吸気側カムシャフト20は、吸気バルブ12に連絡して図示を省略したロッカーアームに設けられたニードルベアリング等のロッカーアームローラBに対応して、シリンダヘッド8内で図示を省略するカムキャリアに回転自在に設けられ、y軸と平行な方向に延在してその回転軸Aを有する。また、吸気側カムシャフト20は、回転軸Aの方向を長手方向として延在し、かつ回転軸Aを中心軸とする円柱状のカムシャフト本体部21、及びカムシャフト本体部21と共に回転軸Aの周りを回転自在であって、かつカムシャフト本体部21に対して、y軸と平行な方向、つまり回転軸Aと平行な方向に摺動して移動(相対移動)自在に装着されたカムピース22を備える。なお、ロッカーアームに関しては、ロッカーアームローラBを省略し、吸気側カムシャフト20が直接ロッカーアームの端部に連絡するものであってもよい。また、かかるロッカーアームの代わりにスイングアームが適用されていてもよいし、ロッカーアームやスイングアームが省略されて、吸気側カムシャフト20が直接吸気バルブ12に連絡してもよい。
【0020】
カムシャフト本体部21は、クランクシャフト6に対して、図示を省略するタイミングチェーン等を介して連結され、クランクシャフト6が回転することに伴って、回転軸Aの周りに回転する。
【0021】
カムピース22は、y軸と平行な方向、つまり回転軸Aと平行な方向で互いに隣リ合って並置されるように設けられた低負荷領域用カムプロフィールを呈する低負荷領域用カム22a及び高負荷領域用カムプロフィールを呈する高負荷領域用カム22bを有する。また、低負荷領域用カム22a及び高負荷領域用カム22bが形成された部分以外のカムピース22の外周部において、その外周面を回転軸Aに向かうように径方向の内側に向かって窪ませたガイド溝23aから23cが設けられている。ガイド溝23aは、径方向に直交するカムピース22の外周部の周方向に延在し、ガイド溝23b及び23cは、ガイド溝23aから分岐して、回転軸Aと平行な方向で互いに隣リ合って並置された態様で、互いに平行にカムピース22の外周部の周方向に延在する。低負荷領域用カム22a及び高負荷領域用カム22bは、ロッカーアームローラBに選択的に連絡する。
【0022】
排気側カムシャフト30は、排気バルブ16に連絡する図示を省略したロッカーアームローラに対応して、シリンダヘッド8内でカムキャリアに回転自在に設けられ、吸気側カムシャフト20と平行な方向に延在してその回転軸を有する。また、排気側カムシャフト30は、その回転軸の方向を長手方向として延在し、かつその回転軸を中心軸とする円柱状のカムシャフト本体部31、及びカムシャフト本体部31と共にその回転軸の周りを回転自在に設けられたカムピース32を備える。排気側カムシャフト30のカムピース32には、吸気側カムシャフト20のカムピース22とは異なり、低負荷領域用カム及び高負荷領域用カムは設けられてはいない。但し、必要に応じて、吸気側カムシャフト20のカムピース22の低負荷領域用カム22a及び高負荷領域用カム22bを維持した態様で、又はこれらを省略した態様で、排気側カムシャフト30のカムピース32に対して、低負荷領域用カム及び高負荷領域用カムを設けて、これらを互いに切り替えられるように構成してもよい。カムピース32は、ロッカーアームローラに連絡する。なお、排気側カムシャフト30に関しても、ロッカーアームは、ニードルベアリング等のローラを備えるものであってもよい。また、かかるロッカーアームの代わりにスイングアームが適用されていてもよいし、ロッカーアームやスイングアームが省略されて、排気側カムシャフト30が直接吸気バルブ12に連絡してもよい。
【0023】
カムアクチュエータ50は、その筐体50aがシリンダヘッド8等に装着され、筐体50a内に、第1ソレノイド51及び第2ソレノイド52、並びに第1ピン53及び第2ピン54を収容して有する。第1ソレノイド51が通電されると、第1ピン53が筐体50aから外方に突出され、第2ソレノイド52が通電されると、第2ピン54が筐体50aから外方に突出される。一方で、筐体50aから外方に突出されている第1ピン53に外力を印加し、それを強制的に筐体50a内に向かって押し込むと、それに応じて第1ソレノイド51への通電は停止され、第1ピン53は筐体50aに向けて引き込まれる。同様に、筐体50aから外方に突出されている第2ピン54に外力を印加し、それを強制的に筐体50a内に向かって押し込むと、それに応じて第2ソレノイド52への通電は停止され、第2ピン54は筐体50aに向けて引き込まれる。
【0024】
ここで、低負荷領域用カム22aがロッカーアームローラBを介して吸気バルブ12に対して連絡済みの状態で、吸気側カムシャフト20が回転している場合には、第1ソレノイド51及び第2ソレノイド52への通電は停止されており、図2(a)に示すように、第1ピン53及び第2ピン54は、筐体50aに対して引き込まれた状態にあると共に、第1ピン53は、位置的にはガイド溝23bに対応し、第2ピン54は、位置的にはガイド溝23aに対応している。次に、低負荷領域用カム22aから高負荷領域用カム22bに切り替えて、高負荷領域用カム22bを吸気バルブ12に対して連絡させる場合には、第1ソレノイド51が通電され、図2(b)に示すように、第1ピン53を筐体50aから外方に突出させて、第1ピン53をガイド溝23bに係合させる。かかる状態で吸気側カムシャフト20が回転するため、図2(c)に示すように、第1ピン53はガイド溝23bに沿って移動(相対移動)され、これに応じて、カムピース22全体は、カムシャフト本体部21に対してy軸の負方向側に向けて押されて移動(摺動)される。次に、図2(d)に示すように、第1ピン53がガイド溝23aに到達した状態で、高負荷領域用カム22bは、ロッカーアームローラBに位置的に対応した状態となってこれに連絡し、更に図2(e)に示すように、第1ピン53がガイド溝23aの終端部に到達してその終端部を乗り越えると、第1ピン53に外力が印加されて、第1ピン53は強制的に筐体50a内に向かって押し込まれ、それに応じて第1ソレノイド51への通電は停止され、第1ピン53は筐体50aに向けて引き込まれる。この際、高負荷領域用カム22bは、ロッカーアームローラBを介して吸気バルブ12に対して連絡された状態となっている。
【0025】
また、かかる状態で、高負荷領域用カム22bから低負荷領域用カム22aに切り替えて、低負荷領域用カム22aを吸気バルブ12に対して連絡させる場合には、第2ソレノイド52が通電され、第2ピン54を筐体50aから外方に突出させて、これをガイド溝23cに係合させる。次に、第2ピン54をガイド溝23cに沿って移動(相対移動)させ、これに応じて、カムピース22全体は、カムシャフト本体部21に対してy軸の正方向側に向けて押されて移動(摺動)される。次に、第2ピン54がガイド溝23aに到達した状態で、低負荷領域用カム22aは、ロッカーアームローラBに位置的に対応した状態となってこれに連絡し、更に第2ピン54がガイド溝23aの終端部に到達してその終端部を乗り越えると、第2ピン54に外力が印加されて、これが強制的に筐体50a内に向かって押し込まれ、それに応じて第2ソレノイド52への通電は停止され、第2ピン54は筐体50aに向けて引き込まれる。この際、低負荷領域用カム22aは、ロッカーアームローラBを介して吸気バルブ12に対して連絡された状態となっている。
【0026】
シリンダヘッド8内では、第1カムポジションセンサ106が、低負荷領域用カム22aに対向してカムキャリア等に装着されており、第1カムポジションセンサ106は、例えばホール効果を利用して低負荷領域用カム22aの回転位置を検出する。かかる第1カムポジションセンサ106は、低負荷領域用カム22aの回転位置に応じた電圧を呈する電気信号をエンジン制御装置100に出力する。また、シリンダヘッド8内では、第2カムポジションセンサ107が、シリンダヘッド8内で高負荷領域用カム22bに対向してカムキャリア等に装着されており、第2カムポジションセンサ107は、例えばホール効果を利用して高負荷領域用カム22bの回転位置を検出する。かかる第2カムポジションセンサ107は、高負荷領域用カム22bの回転位置に応じた電圧を呈する電気信号をエンジン制御装置100に出力する。
【0027】
車両の図示を省略するハンドル等には、アクセル開度センサ108が装着され、アクセル開度センサ108は、車両の図示を省略するアクセル操作部材であるアクセルグリップ等の操作量(アクセル開度)を検出する。かかるアクセル開度センサ108は、アクセル開度に応じた電圧を呈する電気信号をエンジン制御装置100に出力する。また、車両の図示を省略する従動輪である前輪には、車速センサ109が装着され、車速センサ109は、エンジン制御装置100が車速を算出するように、前輪の回転速度を検出する。かかる車速センサ109は、前輪の回転速度に応じた電圧を呈する電気信号をエンジン制御装置100に出力する。
【0028】
<エンジン制御装置の構成>
次に、図1及び図2を参照して、本実施形態におけるエンジン制御装置100の構成について、詳細に説明する。
【0029】
まず、図1に示すように、エンジン制御装置100は、車両に搭載されてエンジン1の動作を制御する電子制御装置であるECU(Electronic Control Unit)により構成されている。
【0030】
かかるECUは、CPU(Central Processing Unit:中央処理ユニット)150や図示を省略するメモリ等から成る演算処理装置であり、メモリには、必要な制御・処理プログラム及び制御・処理データが記憶され、CPU150やメモリ等は、マイクロコンピュータを構成している。
【0031】
具体的には、CPU150は、制御部151を備え、制御部151は、各種センサ類である水温センサ101、クランク角センサ102、吸気圧センサ103、スロットル開度センサ104、O2センサ105、第1カムポジションセンサ106、第2カムポジションセンサ107、アクセル開度センサ108及び車速センサ109からの出力信号に基づいて取得した各々の取得値に基づくと共に、メモリから必要な制御・処理プログラム及び制御・処理データを読み出して、制御・処理プログラムを実行することによって、各種制御対象である点火栓10及び燃料噴射弁13等の動作を制御することにより、エンジン1の運転状態を制御する。なお、図中では、制御部151を、CPU150が制御・処理プログラムを実行する際の機能ブロックとして示す。
【0032】
また、制御部151は、図2を参照して前述したように、カムアクチュエータ50を介し、第1ピン53及び第2ピン54をガイド溝23aから23cに対応して係合させ、ガイド溝23aから23cに係合された第1ピン53及び第2ピン54が、カムシャフト20の回転に伴って、ガイド溝23aから23cに沿って対応して相対移動することに応じて、カムピース22をカムシャフト20の長手軸(回転軸A)に平行な方向に相対移動(摺動)させることにより、エンジン1の運転状態、特にエンジン1の回転速度(エンジン回転速度)に応じて、低負荷領域用カム22aと高負荷領域用カム22bとを切り替える。また、制御部151は、エンジン1が始動されクランクシャフト6が回転している状態で、第1カムポジションセンサ106及び第2カムポジションセンサ107からの各々の出力信号に基づいて、低負荷領域用カム22a及び高負荷領域用カム22bのいずれが吸気バルブ12に対して連絡された状態となっているかということを判別することが可能である。
【0033】
この際、制御部151は、エンジン回転速度が所定の閾値回転速度以上であるときに、カムアクチュエータ50を介して、第1ピン53をガイド溝23bから23aに係合させるように移動(相対移動)し、低負荷領域用カム22aから高負荷領域用カム22bに切り替える。なお、制御部151は、低負荷領域用カム22aから高負荷領域用カム22bに切り替える際に用いる所定の閾値回転速度を用いて、エンジン回転速度がかかる所定の閾値回転速度未満であるときに、カムアクチュエータ50を介して、第2ピン54をガイド溝23cから23aに係合させるように移動(相対移動)し、高負荷領域用カム22bから低負荷領域用カム22aに切り替えてもよい。
【0034】
詳しくは、まず、制御部151が、低負荷領域用カム22aが吸気バルブ12に対して連絡された状態となっていることを判別している場合、つまり低負荷領域用カム22aがロッカーアームローラBを介して吸気バルブ12に対して連絡済みの状態で、吸気側カムシャフト20が回転している場合には、制御部151は、第1ソレノイド51及び第2ソレノイド52への通電を停止しており、図2(a)に示すように、第1ピン53及び第2ピン54は、筐体50aに対して引き込まれた状態にあると共に、第1ピン53は、位置的にはガイド溝23bに対応し、第2ピン54は、位置的にはガイド溝23aに対応している。次に、低負荷領域用カム22aから高負荷領域用カム22bに切り替えて、高負荷領域用カム22bを吸気バルブ12に対して連絡させる場合には、制御部151は、第1ソレノイド51を通電し、図2(b)に示すように、第1ピン53を筐体50aから外方に突出させて、第2ピン53をガイド溝23bに係合させる。かかる状態で吸気側カムシャフト20が回転するため、図2(c)に示すように、第1ピン53はガイド溝23bに沿って相対移動され、これに応じて、カムピース22全体は、カムシャフト本体部21に対してy軸の負方向側に向けて相対移動される。次に、図2(d)に示すように、第1ピン53がガイド溝23aに到達した状態で、高負荷領域用カム22bは、ロッカーアームローラBに位置的に対応した状態となってこれに連絡し、更に図2(e)に示すように、第1ピン53がガイド溝23aの終端部に到達してその終端部を乗り越えると、第1ピン53に外力が印加されて、第1ピン53は強制的に筐体50a内に向かって押し込まれ、制御部151は、それに応じて第1ソレノイド51への通電を停止し、第1ピン53は筐体50aに向けて引き込まれる。この際、高負荷領域用カム22bは、ロッカーアームローラBを介して吸気バルブ12に対して連絡された状態となっている。
【0035】
ここで、制御部151は、かかる所定の閾値回転速度を、エンジン回転速度の上昇度合いを示す値が大きいほど、より低い回転速度となるように低減することにより、カムを低速カムから高速カムに切り替える際、つまり低負荷領域用カム22aから高負荷領域用カム22bに切り替える際に、カム切り替え機構であるカムアクチュエータ50の特に係合ピンである第1ピン53が、高速で回転するカムピース22のガイド溝23bに衝突し、この際に生じ得る第1ピン53の変形等の不要な影響を抑制することを可能とする。具体的には、例えば、エンジン回転速度の上昇度合いを示す値に対する減算値を、エンジン回転速度の上昇度合いを示す値が大きいほど大きい値を取るように予め規定したテーブルデータとしてメモリに記憶しておき、制御部151が、かかるテーブルデータをメモリから読み出す等して参照し、エンジン回転速度の上昇度合いを示す値に対応した減算値を算出し、所定の閾値回転速度から減算値を減算することにより、所定の閾値回転速度を低減すればよい。
【0036】
この際、エンジン回転速度の上昇度合いを適切に示す値としては、制御部151の簡素な演算で得ることができて、その演算負荷を抑制し得るという観点からは、最新のエンジン回転速度(最新回転速度)と、それよりも時系列的に前のエンジン回転速度(過去回転速度)と、の偏差(エンジン回転速度の偏差)を用いることが好ましい。その他に、エンジン回転速度の上昇度合いを示す値としては、制御部151の演算負荷は若干増えるものの比較的軽度であって、制御部151がエンジン回転速度の上昇度合いをより正確に把握し得るという観点からは、エンジン回転速度の偏差を過去回転速度で除して百分率に換算したエンジン回転速度の上昇率や、エンジン回転速度の偏差を、過去回転速度が得られた時刻から最新回転速度が得られた時刻までの時間(期間)で除したエンジン回転速度の上昇速度を用いることも可能である。
【0037】
また、エンジン回転速度の偏差と同等にエンジン回転速度の上昇度合いを実用上十分なレベルで適切に示す別の値としては、エンジン回転速度の偏差を用いる代わりに、スロットル開度の偏差を用いてもよい。かかるスロットル開度の偏差は、最新のスロットル開度(最新開度)と、それよりも時系列的に前のスロットル開度(過去開度)と、の偏差である。その他に、エンジン回転速度の上昇度合いを示す値としては、エンジン回転速度の上昇率と同等にスロットル開度の上昇率(スロットル開度の偏差を過去開度で除して百分率に換算したもの)や、エンジン回転速度の上昇速度と同等にスロットル開度の上昇速度(スロットル開度の偏差を、過去開度が得られた時刻から最新開度が得られた時刻までの時間(期間)で除したもの)を用いることも可能である。なお、スロットル装置14が電子制御スロットル装置である場合には、スロットル開度は、運転者の意図する要求スロットル開度をよく反映したものとなるが、スロットル装置14が機械式のスロットル装置である場合には、運転者の意図する要求スロットル開度をよく反映するものとして、スロットル開度に代えてアクセル開度を用いてもよい。つまり、スロットルバルブ14の開度に対応する値として、スロットル開度自体の他に、アクセル開度を想定し、スロットル開度の偏差等に代えて、アクセル開度の偏差等を用いてもよい。
【0038】
なお、所定の閾値回転速度は、スロットル開度に応じて変化する値を呈するように予めテーブルデータとして設定されて、メモリに記憶されていてもよい。このように所定の閾値回転速度をエンジン回転速度の変化の起因となるスロットル開度に応じて変化するように設定することにより、より適切な大きさの閾値回転速度を設定して、より適切に低負荷領域用カム22aと高負荷領域用カム22bとの切り替えを行うことが可能となる。
【0039】
<カム切り替え処理の一例>
以上のような構成を有するエンジン制御装置100が実行するカム切り替え処理の一例について、以下、図3及び図4をも参照して詳細に説明する。
【0040】
図3は、本実施形態におけるエンジン制御装置が実行するカム切り替え処理の一例を示すフローチャートである。また、図4(a)は、本実施形態におけるエンジン制御装置が実行するカム切り替え処理の一例を示すタイムチャートであり、図4(b)は、本実施形態におけるエンジン制御装置が実行するカム切り替え処理に対する比較例を示すタイムチャートである。なお、図4(a)及び図4(b)中では、下段から上段に向けて、低負荷領域用カム22a及び高負荷領域用カム22bのいずれが適用されているかを現わすカムポジション、エンジン回転速度NEの偏差の値、エンジン回転速度NEの値、閾値回転速度の値、及びスロットル開度THの値を各々示している。
【0041】
まず、図3に示すカム切り替え処理は、典型的には、車両の図示を省略する電源スイッチがオフ状態からオン状態に切り替えられてエンジン制御装置100のCPU150が稼働したタイミングで開始となり、カム切り替え処理はステップS1の処理に進む。なお、かかるカム切り替え処理は、CPU150が稼働している期間内で10ms等の所定周期毎に繰り返して実行されるものである。
【0042】
ステップS1の処理では、制御部151が、エンジン回転速度NEを算出する。具体的には、制御部151は、クランク角センサ102からの出力信号に基づいて、エンジン回転速度NEを検出する。これにより、ステップS1の処理は完了し、カム切り替え処理はステップS2の処理に進む。
【0043】
ステップS2の処理では、制御部151が、エンジン回転速度NEの上昇度合いを示す値として、エンジン回転速度NEの偏差を算出する。具体的には、制御部151は、今回のカム切り替え処理のステップS1の処理で得られたエンジン回転速度NE(最新回転速度)から今回のカム切り替え処理よりも前に実行されたカム切り替え処理のステップS1の処理で得られたエンジン回転速度NE(過去回転速度)を減算することにより、エンジン回転速度NEの偏差を算出する。ここで、過去回転速度として、今回のカム切り替え処理よりもn回(nは1以上の自然数)前に実行されたカム切り替え処理のステップS1の処理で得られたものを用いることができ、nの値は、例えばエンジン1の応答性といった仕様等を考慮して選択すればよく、このように選択した過去回転速度の値は、その算出時にメモリに記憶されていたものを今回読み出して用いることになる。なお、エンジン回転速度NEの上昇度合いを示す値としては、エンジン回転速度NEの偏差の代わりに、エンジン回転速度NEの上昇率やエンジン回転速度NEの上昇速度を用いてもよい。これにより、ステップS2の処理は完了し、カム切り替え処理はステップS3の処理に進む。
【0044】
ステップS3の処理では、制御部151が、今回のカム切り替え処理のステップS2の処理で得られたエンジン回転速度NEの偏差が予め設定された所定値以上であるか否かを判別する。このようにエンジン回転速度NEの偏差が所定値以上であるか否かを判別する理由は、エンジン回転速度NEの偏差が所定位置未満の実用上無視し得るような大きさである場合には、エンジン回転速度NEの上昇度合い自体が小さいため、特に低負荷領域用カム22aから高負荷領域用カム22bに切り替える際に、カム切り替え機構であるカムアクチュエータ50の特に係合ピンである第1ピン53が、高速で回転するカムピース22のガイド溝23bに衝突し、この際に生じ得る第1ピン53の変形等の不要な影響が生じる可能性が低いことを考慮したものである。判別の結果、エンジン回転速度NEの偏差が所定値以上である場合(ステップS3:Yes)、制御部151は、カム切り替え処理をステップS4の処理に進める。一方、エンジン回転速度NEの偏差が所定値未満である場合には(ステップS3:No)、制御部151は、カム切り替え処理をステップS5の処理に進める。なお、ステップS3の処理は、処理の簡素化等の観点から、必要に応じて省略してもよく、このようにステップS3の処理を省略した場合には、ステップS2の処理は、直接ステップS4の処理に進む。
【0045】
ここで、図4(a)において、スロットル開度THが増大してエンジン回転速度NEが増加し始める時刻t1の後の時刻t2で、エンジン回転速度NEの偏差が所定値に到達し、時効t2以降で、エンジン回転速度NEの偏差が所定値以上となっている。一方で、図4(b)において、スロットル開度THが増大してエンジン回転速度NEが増加し始める時刻t11の後の時刻t12で、エンジン回転速度NEの偏差が所定値に到達し、時効t12以降で、エンジン回転速度NEの偏差が所定値以上となっている。
【0046】
ステップS4の処理では、制御部151が、所定の閾値回転速度を低減する。具体的には、制御部151は、エンジン回転速度の上昇度合いを示す値としてのエンジン回転速度NEの偏差に対応する減算値を、メモリ中のテーブルデータを参照して算出し、所定の閾値回転速度からかかる減算値を減算することにより、所定の閾値回転速度を低減する。ここで、かかるテーブルデータには、エンジン回転速度NEの偏差が大きいほど大きい値を呈する減算値を予め設定している。これにより、ステップS4の処理は完了し、カム切り替え処理はステップS6の処理に進む。
【0047】
ここで、図4(a)において、時刻t2で、エンジン回転速度NEの偏差が所定値に到達することに応じて、所定の閾値回転速度が低減されている。一方で、図4(b)においては、時刻t12で、所定の閾値回転速度が低減されることはない。
【0048】
ステップS5の処理では、制御部151が、所定の閾値回転速度を低減することなくそのまま維持する。これにより、ステップS5の処理は完了し、カム切り替え処理はステップS6の処理に進む。
【0049】
ステップS6の処理では、制御部151が、エンジン回転速度NEがステップS4の処理又はステップS5の処理を経た所定の閾値回転速度以上であるか否か判別する。判別の結果、エンジン回転速度NEがステップS4の処理又はステップS5の処理を経た所定の閾値回転速度以上である場合(ステップS6:Yes)、制御部151は、カム切り替え処理をステップS7の処理に進める。一方、エンジン回転速度NEがステップS4の処理又はステップS5の処理を経た所定の閾値回転速度未満である場合には(ステップS6:No)、制御部151は、カム切り替え処理をステップS8の処理に進める。
【0050】
ステップS7の処理では、制御部151が、高負荷領域用カム22bを適用する。具体的には、制御部151は、カムアクチュエータ50の第1ソレノイド51を通電し、第1ピン53をガイド溝23bから23aに係合させるように相対移動し、カムを低負荷領域用カム22aから高負荷領域用カム22bに切り替える。これにより、今回の一連のカム切り替え処理は終了する。
【0051】
ここで、図4(a)において、時刻t3で、低負荷領域用カム22aから高負荷領域用カム22bに切り替えられている。一方で、図4(b)においては、図4(a)の時刻t3よりも後の時刻に相当する時刻t13で、低負荷領域用カム22aから高負荷領域用カム22bに切り替えられているため、その際のエンジン回転速度NEの値は、図4(a)の時刻t3におけるエンジン回転速度NEの値よりも大きくなっており、これに伴ってカムシャフト20の回転速度もより増加している。
【0052】
ステップS8の処理では、制御部151が、低負荷領域用カム22aを適用する。具体的には、制御部151は、カムアクチュエータ50の第2ソレノイド52を通電し、第2ピン54をガイド溝23cから23aに係合させるように相対移動し、カムを高負荷領域用カム22bから低負荷領域用カム22aに切り替える。これにより、今回の一連のカム切り替え処理は終了する。
【0053】
<カム切り替え処理の別例>
次に、エンジン制御装置100が実行するカム切り替え処理の別例について、以下、図5をも参照して詳細に説明する。なお、かかるカム切り替え処理の別例では、前述したカム切り替え処理の一例に対して、エンジン回転速度の上昇度合いを示す値として、エンジン回転速度の偏差の代わりにスロットル開度の偏差を用いることが主たる相違点であるため、かかる相違点に着目して説明することとし、カム切り替え処理の一例のものと同じ内容の工程については適宜説明を省略する。
【0054】
図5は、本実施形態におけるエンジン制御装置が実行するカム切り替え処理の別例を示すフローチャートである。
【0055】
まず、図5に示すステップS11の処理では、制御部151が、スロットル開度THを算出する。具体的には、制御部151は、スロットル開度センサ104からの出力信号に基づいて、スロットル開度THを検出する。これにより、ステップS11の処理は完了し、カム切り替え処理はステップS12の処理に進む。
【0056】
ステップS12の処理では、制御部151が、エンジン回転速度NEの上昇度合いを示す値として、スロットル開度THの偏差を算出する。具体的には、制御部151は、今回のカム切り替え処理のステップS11の処理で得られたスロットル開度TH(最新開度)から今回のカム切り替え処理よりも前に実行されたカム切り替え処理のステップS11の処理で得られたスロットル開度TH(過去開度)を減算することにより、スロットル開度THの偏差を算出する。ここで、過去開度として、今回のカム切り替え処理よりもn回(nは1以上の自然数)前に実行されたカム切り替え処理のステップS11の処理で得られたものを用いることができ、nの値は、例えばエンジン1の応答性といった仕様等を考慮して選択すればよく、このように選択した過去開度の値は、その算出時にメモリに記憶されていたものを今回読み出して用いることになる。なお、エンジン回転速度NEの上昇度合いを示す値としては、スロットル開度THの偏差の代わりに、スロットル開度THの上昇率やスロットル開度THの上昇速度を用いてもよい。また、スロットル開度THの代わりにアクセル開度を用いて、この偏差等を算出してもよい。これにより、ステップS12の処理は完了し、カム切り替え処理はステップS13の処理に進む。
【0057】
ステップS13の処理では、制御部151が、今回のカム切り替え処理のステップS12の処理で得られたスロットル開度THの偏差が予め設定された所定値以上であるか否かを判別する。判別の結果、スロットル開度THの偏差が所定値以上である場合(ステップS13:Yes)、制御部151は、カム切り替え処理をステップS4の処理に進める。一方、スロットル開度THの偏差が所定値未満である場合には(ステップS13:No)、制御部151は、カム切り替え処理をステップS5の処理に進める。なお、ステップS13の以降の処理は、前述したカム切り替え処理の一例のものと同じである。
【0058】
以上の本実施形態におけるエンジン制御装置100の第1の局面では、カムシャフト本体部21と、プロフィールが互いに異なる低負荷領域用カム22a及び高負荷領域用カム22bが形成されて、カムシャフト本体部21の長手軸Aの方向に沿って摺動し、かつカムシャフト本体部21と共に長手軸Aを回転軸として回転するカムピース22と、カムピース22の外周部に形成されたガイド溝23aから23cと、を含むカムシャフト20を有するエンジン1の運転状態を制御する制御部151を備えたエンジン制御装置100であって、エンジン1に対しては、ガイド溝23aから23cに対して係合する係合ピン53及び54を有する共に、係合ピン53及び54を、ガイド溝23aから23cに対して係合させるようにガイド溝23aから23cに対して突出させるカムアクチュエータ50が適用され、制御部151は、カムアクチュエータ50を介し、係合ピン53及び54をガイド溝23aから23cに係合させ、ガイド溝23aから23cに係合された係合ピン53及び54が、カムシャフト20の回転に伴ってガイド溝23aから23cに沿って相対移動されることによってカムピース22を押して、カムピース22を長手軸Aの方向に沿って摺動させることにより、エンジン1の運転状態に応じて、低負荷領域用カム22aと高負荷領域用カム22bとを切り替え、制御部151は、エンジン1の回転速度が所定の閾値回転速度以上であるときには、カムアクチュエータ50を介して、低負荷領域用カム22aから高負荷領域用カム22bに切り替え、所定の閾値回転速度は、エンジン1の回転速度の上昇度合いを示す値が大きいほど、より低い回転速度となるように低減されるものであるため、カムを低速カムから高速カムに切り替える際、つまり低負荷領域用カム22aから高負荷領域用カム22bに切り替える際に、カム切り替え機構であるカムアクチュエータ50の特に係合ピン53が受ける不要な影響を抑制することができる。
【0059】
また、本実施形態におけるエンジン制御装置100の第2の局面では、第1の局面に加えて、制御部151は、エンジン1の回転速度の上昇度合いを示す値として、エンジン1の回転速度の偏差を用いて算出される値、典型的にはエンジン1の回転速度の偏差自体、エンジン1の回転速度の上昇率又はエンジン1の回転速度の上昇速度を用いるものであるため、演算を不要に複雑化することを抑制しながら、エンジン1の回転速度の上昇度合いを示す値をより適切に得ることができる。
【0060】
また、本実施形態におけるエンジン制御装置100の第3の局面では、第1の局面に加えて、制御部151は、エンジン1の回転速度の上昇度合いを示す値として、エンジンのスロットルバルブ14aの開度に対応する値の偏差を用いて算出される値、典型的にはスロットルバルブ14aの開度の偏差自体、スロットルバルブ14aの開度の上昇率、又はスロットルバルブ14aの開度の上昇速度、またこれらの他に、アクセル開度の偏差、アクセル開度の上昇率、及びアクセル開度の上昇速度を用いるものであるため、演算を不要に複雑化することを抑制しながら、エンジン1の回転速度の上昇度合いを示す値を実用上十分な適切さで得ることができる。
【0061】
また、本実施形態におけるエンジン制御装置100の第4の局面では、第1から第3の局面のいずれかに加えて、所定の閾値回転速度は、スロットルバルブ14aの開度に応じて変化するように予め設定されているものであるため、より適切な大きさの閾値回転速度を設定して、より適切に低負荷領域用カム22aと高負荷領域用カム22bとの切り替えを行うことができる。
【0062】
本発明は、部材の種類、形状、配置、個数等は前述の実施形態に限定されるものではなく、その構成要素を同等の作用効果を奏するものに適宜置換する等、発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能であることはもちろんである。
【産業上の利用可能性】
【0063】
以上のように、本発明においては、カムを低速カムから高速カムに切り替える際に、カム切り替え機構が受ける不要な影響を抑制することができるエンジン制御装置を提供するを提供することができるものであり、その汎用普遍的な性格から自動二輪車のエンジン制御装置に広範に適用され得るものと期待される。
【符号の説明】
【0064】
1…エンジン(内燃機関)
2…シリンダブロック
2a…気筒
3…クーラント通路
4…ピストン
5…コンロッド
6…クランクシャフト
7…リラクタ
7a…歯部
8…シリンダヘッド
9…燃焼室
10…点火栓
11…吸気管
11a…吸気通路
12…吸気バルブ
13…燃料噴射弁
14…スロットル装置
14a…スロットルバルブ
15…排気管
15a…排気通路
16…排気バルブ
17…触媒
20…吸気側カムシャフト
21…カムシャフト本体部
22…カムピース
22a…低負荷領域用カム
22b…高負荷領域用カム
23aから23c…ガイド溝
30…排気側カムシャフト
31…カムシャフト本体部
32…カムピース
50…カムアクチュエータ
50a…筐体
51…第1ソレノイド
52…第2ソレノイド
53…第1ピン
54…第2ピン
100…エンジン制御装置
101…水温センサ
102…クランク角センサ
103…吸気圧センサ
104…スロットル開度センサ
105…O2センサ
106…第1カムポジションセンサ
107…第2カムポジションセンサ
108…アクセル開度センサ
109…車速センサ
150…CPU
151…制御部
B‥ロッカーアームローラ
図1
図2
図3
図4
図5