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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024015796
(43)【公開日】2024-02-06
(54)【発明の名称】密閉型電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 50/342 20210101AFI20240130BHJP
   H01M 50/15 20210101ALI20240130BHJP
【FI】
H01M50/342 101
H01M50/15
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022118103
(22)【出願日】2022-07-25
(71)【出願人】
【識別番号】520184767
【氏名又は名称】プライムプラネットエナジー&ソリューションズ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】399107063
【氏名又は名称】プライムアースEVエナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000291
【氏名又は名称】弁理士法人コスモス国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】内田 陽三
(72)【発明者】
【氏名】江原 強
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 友紀
(72)【発明者】
【氏名】土屋 詔一
(72)【発明者】
【氏名】浅井 正孝
(72)【発明者】
【氏名】浅野 剛史
(72)【発明者】
【氏名】内村 将大
【テーマコード(参考)】
5H011
5H012
【Fターム(参考)】
5H011AA13
5H011CC02
5H011CC06
5H012AA07
5H012BB02
5H012DD01
5H012DD05
5H012EE01
5H012FF01
5H012GG01
(57)【要約】
【課題】電池ケースの内圧が上昇して開弁圧に達した場合に、電池ケース内のガスを速やかに外部に排出させることが可能な樹脂からなる安全弁を有する密閉型電池を提供する。
【解決手段】電極体50と、電極体50を収容する電池ケース30と、を備える密閉型電池1において、電池ケース50は、開口21bを有し、電極体50を収容するケース本体21と、ケース本体21の開口21bを閉塞する板状の蓋体10とを備える。蓋体10は、樹脂からなる安全弁18を有する。安全弁18には、蓋体10の厚み方向に凹む形態の溝であって平面視環状の環状溝18mが形成されている。安全弁18のうち環状溝18mの底18tが形成されている平面視環状の部位は、安全弁18のうちで最も厚みが薄い環状最薄部18sである。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極体と、前記電極体を収容する電池ケースと、を備える密閉型電池において、
前記電池ケースは、
開口を有し、前記電極体を収容するケース本体と、
前記ケース本体の前記開口を閉塞する板状の蓋体と、を備え、
前記蓋体は、樹脂からなる安全弁を有し、
前記安全弁には、前記蓋体の厚み方向に凹む形態の溝であって平面視環状の環状溝が形成されており、
前記安全弁のうち前記環状溝の底が形成されている平面視環状の部位は、前記安全弁のうちで最も厚みが薄い環状最薄部である
密閉型電池。
【請求項2】
請求項1に記載の密閉型電池であって、
前記環状溝は、平面視円環状をなす円環状溝であり、
前記環状最薄部は、平面視円環状をなす円環状最薄部である
密閉型電池。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の密閉型電池であって、
前記安全弁には、前記溝として、前記環状溝に加えて、平面視で前記環状溝に囲まれた領域を2等分する平面視直線状の直線状溝も形成されており、
前記安全弁のうちで最も厚みが薄い最薄部は、前記安全弁のうち前記直線状溝の底が形成されている平面視直線状の部位である直線状最薄部と、前記環状最薄部とである
密閉型電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、密閉型電池に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、電極体と、この電極体を収容する金属製の電池ケースと、を備える密閉型電池が開示されている。電池ケースは、開口を有する矩形箱状のケース本体と、このケース本体の開口を閉塞する金属製の蓋部材と、を備える。ケース本体と蓋部材とは、溶接により一体とされ、電池ケースを構成している。蓋部材の中央部には、安全弁が設けられている。この安全弁は、蓋部材と一体的に金属によって形成されている。
【0003】
安全弁は、蓋部材の他の部分よりも薄く形成されると共に、その上面には溝が形成されている。これにより、安全弁は、電池ケースの内部の内圧が所定圧力(開弁圧)に達した際に作動する。すなわち、電池ケースの内圧が開弁圧に達すると、安全弁のうち溝が形成されている部位(平面視で溝の底と重なる部位)が破断することによって安全弁が開弁し、電池ケースの内部のガスが外部に放出される。これにより、電池ケースの内圧が上昇し過ぎる(危険な内圧に達する)ことを防止することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2018-041668号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、前述の安全弁に形成されている溝は、平面視直線状の溝である。このため、電池ケースの内圧が開弁圧に達すると、安全弁のうち溝が形成されている直線状部位が破断することによって、スリット形状のガス排出孔が形成され、このスリット形状のガス排出孔を通じて電池ケースの外部にガスが排出される。しかしながら、スリット形状のガス排出孔では、電池ケース内のガスを速やかに外部に排出させることが難しかった。このため、電池ケース内のガスを速やかに外部に排出させることができる安全弁が求められていた。さらには、多種多様な密閉型電池に対して、安全弁を簡易に且つ適切に形成するために、安全弁を樹脂製にすることが求められていた。
【0006】
本発明は、かかる現状に鑑みてなされたものであって、電池ケースの内圧が上昇して開弁圧に達した場合に、電池ケース内のガスを速やかに外部に排出させることが可能な樹脂からなる安全弁を有する密閉型電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本発明の一態様は、電極体と、前記電極体を収容する電池ケースと、を備える密閉型電池において、前記電池ケースは、開口を有し、前記電極体を収容するケース本体と、前記ケース本体の前記開口を閉塞する板状の蓋体と、を備え、前記蓋体は、樹脂からなる安全弁を有し、前記安全弁には、前記蓋体の厚み方向に凹む形態の溝であって平面視環状の環状溝が形成されており、前記安全弁のうち前記環状溝の底が形成されている平面視環状の部位は、前記安全弁のうちで最も厚みが薄い環状最薄部である密閉型電池である。
【0008】
上述の密閉型電池では、安全弁のうち環状溝の底が形成されている平面視環状の部位が、安全弁のうちで最も厚みが薄い環状最薄部となっている。すなわち、安全弁のうち平面視で環状溝の底と重なる環状の部位が、安全弁のうちで最も厚みが薄い環状最薄部となっている。このため、電池ケースの内圧が開弁圧に達することによって安全弁が開裂するときは、環状最薄部が破断することによって、環状最薄部の破断面に囲まれた筒状のガス排出孔が形成される。例えば、環状溝が平面視円環状である安全弁の場合は、環状最薄部は、環状溝の底と同等の平面視円環状を有する円環状最薄部となるので、当該安全弁が開裂するときは、円環状最薄部が破断することによって、円環状最薄部の破断面に囲まれた円筒形状(または略円筒形状)のガス排出孔が形成される。
【0009】
以上説明したように、上述の密閉型電池では、電池ケースの内圧が開弁圧に達したときは、安全弁の環状最薄部が破断することによって筒状のガス排出孔が形成されるので、電池ケース内のガスが外部に排出され易くなる。このため、電池ケース内で発生したガスによって電池ケースの内圧が上昇して開弁圧に達した場合には、筒状のガス排出孔を通じて電池ケース内のガスを速やかに外部に排出して、電池ケースの内圧を速やかに低減することができる。
【0010】
なお、環状溝としては、平面視円環状の円環状溝、平面視楕円環状の楕円状溝などを挙げることができる。また、安全弁には、溝として、環状溝のみならず、他の溝(例えば、直線状の溝)が形成されていても良い。この場合、前記安全弁のうちで最も厚みが薄い部位は、環状最薄部のみならず、安全弁のうち他の溝の底が形成されている部位も含まれるようにしても良い。すなわち、前記安全弁のうちで最も厚みが薄い最薄部は、環状最薄部と、前記他の溝によって構成される他の最薄部とであっても良い。
【0011】
また、蓋体としては、例えば、金属板からなる蓋本体部であって当該蓋本体部を厚み方向に貫通する筒状の貫通孔を有する蓋本体部と、前記貫通孔を閉塞する安全弁と、を備える蓋体を挙げることができる。また、蓋体として、樹脂からなる樹脂蓋体であって、当該樹脂蓋体の一部として安全弁を含む樹脂蓋体を挙げることもできる。
【0012】
(2)さらに、前記(1)の密閉型電池であって、前記環状溝は、平面視円環状をなす円環状溝であり、前記環状最薄部は、平面視円環状をなす円環状最薄部である密閉型電池とすると良い。
【0013】
環状最薄部を円環状最薄部とすることで、安全弁が開裂するときは、円環状最薄部が破断することによって、円環状最薄部の破断面に囲まれた円筒形状(または略円筒形状)のガス排出孔を形成することができる。これにより、電池ケース内のガスを速やかに外部に排出して、電池ケースの内圧を速やかに低減することができる。
【0014】
(3)さらに、前記(1)または(2)の密閉型電池であって、前記安全弁には、前記溝として、前記環状溝に加えて、平面視で前記環状溝に囲まれた領域を2等分する平面視直線状の直線状溝も形成されており、前記安全弁のうちで最も厚みが薄い最薄部は、前記安全弁のうち前記直線状溝の底が形成されている平面視直線状の部位である直線状最薄部と、前記環状最薄部とである密閉型電池とすると良い。
【0015】
上述の密閉型電池では、安全弁の最薄部として、環状最薄部に加えて、直線状最薄部を有する。なお、直線状最薄部は、平面視で環状最薄部によって囲まれた領域を2等分する平面視直線状の最薄部である。従って、安全弁が開裂するときは、直線状最薄部と環状最薄部が破断する。このため、環状最薄部のみが破断することによってガス排出孔が形成される場合よりも、速やかにガス排出孔を形成することが可能となり、電池ケース内のガスを速やかに外部に排出して、電池ケースの内圧を速やかに低減することができる。
【0016】
(4)さらに、前記(1)~(3)のいずれかの密閉型電池であって、前記環状溝は、当該溝の開口から前記底に向かうにしたがって当該溝の幅寸法が小さくなる断面V字形状を有する密閉型電池とするのが好ましい。
【0017】
断面V字形状を有する溝は、底の幅寸法が極めて小さいので、環状最薄部の幅寸法(環状最薄部の内周と外周との間の距離であり、厚み方向に直交する方向の寸法)も極めて小さくなる。これにより、環状最薄部が破断することによって形成される破断面の位置精度が高くなるので、当該破断面に囲まれた筒状のガス排出孔の寸法精度が高くなる。これにより、複数の電池間において、ガス排出孔の大きさのバラツキを小さくすることができるので、ガス排出速度のバラツキを小さくすることができる。
【0018】
(5)さらに、前記(1)~(4)のいずれかの密閉型電池であって、前記蓋体は、金属板からなる蓋本体部であって、当該蓋本体部を厚み方向に貫通する筒状の貫通孔を有する蓋本体部と、前記貫通孔を閉塞する前記安全弁と、を備え、前記蓋本体部は、前記貫通孔の開口を囲む環状シール面を含み、前記安全弁は、前記環状シール面と気密に接合する環状接合部と、平面視で前記貫通孔の内側に位置する平板状部位と、を有し、前記環状溝及び前記環状最薄部は、前記平板状部位に形成されており、前記電池ケースの内圧が開弁圧に達すると、前記環状最薄部が破断することによって、前記環状最薄部の破断面に囲まれた筒状のガス排出孔が形成される密閉型電池とするのが好ましい。
【0019】
上述の密閉型電池では、安全弁は、金属板からなる蓋本体部の貫通孔を閉塞する態様の安全弁である。この安全弁は、蓋本体部のうち貫通孔の開口を囲む環状シール面と気密に接合する環状接合部を有する。このような環状接合部を有することで、安全弁が蓋本体部に対して気密に接合されると共に、貫通孔が安全弁によって封止される。
さらに、この安全弁では、環状溝及び環状最薄部が、平面視で貫通孔の内側に位置する平板状部位に形成されている。従って、電池ケースの内圧が開弁圧に達すると、環状最薄部が破断することによって、環状最薄部の破断面に囲まれた筒状のガス排出孔が、平面視で貫通孔の内側の位置に形成される。これにより、環状最薄部の破断面に囲まれた筒状のガス排出孔の全体を通じて、電池ケース内のガスを外部に排出することができる。
【0020】
(6)さらに、前記(5)の密閉型電池であって、前記環状シール面は、凹凸形状を有する環状粗化面であり、前記安全弁は、前記環状粗化面の凹部内に前記環状接合部を形成する樹脂が入り込む態様で、前記環状粗化面と気密に接合している密閉型電池とするのが好ましい。
【0021】
上述の密閉型電池では、蓋本体部の環状粗化面の凹部内に環状接合部を形成する樹脂が入り込む態様で、安全弁の環状接合部が環状粗化面と気密に接合している。換言すれば、蓋本体部の環状粗化面の凸部が、安全弁の環状接合部に食い込むことによるアンカー効果によって、安全弁の環状接合部が環状粗化面と気密に接合している。このため、安全弁の環状接合部と蓋本体部の環状粗化面との間の気密性が高くなるので、密閉型電池の気密性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】実施形態にかかる密閉型電池の平面図(上面図)である。
図2】同密閉型電池の正面図である。
図3図1のB-B断面図である。
図4図3のC部拡大図である。
図5】蓋体のうち安全弁を含む部位の下面視拡大図である。
図6図1のJ-J断面図である。
図7】蓋体の平面図(上面図)である。
図8図7のD-D断面図である。
図9】蓋本体部の平面図(上面図)である。
図10図9のE-E断面図である。
図11図10のF部拡大図である。
図12】実施形態の安全弁が開裂したときの説明図である。
図13】比較例1にかかる蓋体のうち安全弁を含む部位の下面視拡大図である。
図14】同蓋体のうち安全弁を含む部位の拡大断面図である。
図15】比較例1の安全弁が開裂したときの説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
次に、本発明の実施形態について説明する。本実施形態の密閉型電池1は、リチウムイオン二次電池であり、電池ケース30と、電池ケース30内に収容された電極体50と、正極端子41と、負極端子42とを備える(図1図3参照)。電池ケース30は、ハードケースであり、直方体箱状をなしている。この電池ケース30は、角形有底筒状をなす金属製のケース本体21と、ケース本体21の開口21bを閉塞する矩形平板状の蓋体10とを備える(図1図3参照)。蓋体10は、金属からなる平板状の蓋本体部11と、樹脂からなる安全弁18とを有する。
【0024】
蓋本体部11には、2つの矩形筒状の第1貫通孔16及び第2貫通孔17が形成されている(図7及び図9参照)。第1貫通孔16には正極端子41が挿通されており、第2貫通孔17には負極端子42が挿通されている(図1及び図2参照)。なお、蓋本体部11の第1貫通孔16の内周面と正極端子41の外周面との間、及び、蓋本体部11の第2貫通孔17の内周面と負極端子42の外周面との間には、筒状の絶縁部材(図示省略)が介在している。さらに、蓋本体部11には、当該蓋本体部11を厚み方向に貫通する円筒形状の第3貫通孔12が形成されている(図3参照)。この第3貫通孔12は、蓋本体部11の外表面11b(上面)と内表面11c(下面)との間を貫通する。
【0025】
電極体50は、正極板60と、負極板70と、正極板60と負極板70との間に介在するセパレータ80と、を有する。より具体的には、電極体50は、複数枚の正極板60と、複数枚の負極板70と、複数枚のセパレータ80とを備え、正極板60と負極板70とがセパレータ80を介して、積層方向DLに交互に積層された積層電極体である(図3参照)。なお、電極体50の内部には、図示しない電解液が含まれている。電池ケース30の内部の底面側にも、図示しない電解液が収容されている。電極体50のうち正極板60は、正極集電タブ(図示なし)を通じて正極端子41に接続されている。また、負極板70は、負極集電タブ(図示なし)を通じて負極端子42に接続されている。
【0026】
また、蓋本体部11は、第3貫通孔12の開口12bを囲む円環状の環状シール面15を含む(図9図11参照)。本実施形態では、蓋本体部11の外表面11bのうち第3貫通孔12の開口12bを囲む円環状の孔周囲面13が、環状シール面15となっている。
【0027】
さらに、蓋体10は、蓋本体部11の第3貫通孔12を閉塞する安全弁18を備える。この安全弁18は、鍔付きの有底円筒状をなし、環状シール面15と気密に接合する環状接合部18bと、平面視で第3貫通孔12の内側に位置する内側部18cとを有する(図3及び図4参照)。内側部18cは、蓋本体部11の厚み方向(図3において上下方向)に延びる円筒状部位18jと、この円筒状部位18jの内周面に対して径方向内側に位置する円板状の平板状部位18hとからなる。なお、本実施形態では、安全弁18は、有底円筒形状をなす第1部位18dと、第1部位18dの外周面に対して径方向外側に位置する円環状の第2部位18fとからなる。第1部位18dが、内側部18cとなっており、第2部位18fのうち環状シール面15に近接する部位が、環状接合部18bとなっている。
【0028】
なお、安全弁18は、電解液の透過性が低い樹脂によって形成するのが好ましく、例えば、PPS(ポリフェニレンスルファイド)、PAS(ポリアリーレンサルファイド)、オレフィン樹脂、またはフッ素樹脂によって形成するのが好ましい。本実施形態では、PPSによって安全弁18を形成している。
【0029】
前述のように、安全弁18は、環状シール面15と気密に接合する環状接合部18bを有している(図3及び図4参照)。なお、環状接合部18bは、平面視円環状をなしている(図9参照)。このような環状接合部18bを有することで、安全弁18が蓋本体部11に対して気密に接合されると共に、第3貫通孔12が安全弁18によって封止される。
【0030】
特に、本実施形態では、蓋本体部11の環状シール面15は、凹凸形状を有する環状粗化面14である(図10及び図11参照)。この環状粗化面14は、平面視円環状をなしている(図9参照)。そして、安全弁18は、環状粗化面14の凹部14b内に、環状接合部18bを形成する樹脂が入り込む態様で、環状粗化面14と気密に接合している(図4参照)。換言すれば、環状粗化面14の凸部14cが、安全弁18の環状接合部18bに食い込むことによるアンカー効果によって、安全弁18の環状接合部18bが環状粗化面14と気密に接合している。このため、環状接合部18bと環状粗化面14との間の気密性が高くなるので、密閉型電池1の気密性を高めることができる。
【0031】
なお、環状粗化面14は、蓋本体部11の外表面11bの孔周囲面13に対して、公知の表面粗化処理を行うことによって形成することができる。表面粗化処理としては、例えば、レーザ表面処理、サンドブラスト処理、陽極酸化処理などを挙げることができる。このうち、レーザ表面処理としては、例えば、特開2022-28587号公報に開示されているレーザ表面処理を挙げることができる。なお、本実施形態では、レーザ表面処理によって、蓋本体部11の孔周囲面13を環状粗化面14にしている。
【0032】
また、蓋本体部11と安全弁18とは、インサート成形によって一体成形されている。具体的には、蓋本体部11と安全弁18とは、インサート成形によって蓋本体部11に安全弁18が一体成形された蓋体10(インサート成形品)を構成している(図7及び図8参照)。この蓋体10は、以下のようにして作製される。具体的には、まず、環状粗化面14を有する蓋本体部11(図9図11参照)を用意する。次いで、この蓋本体部11をインサート部品として、樹脂の射出成形によって安全弁18を成形することで、蓋本体部11と安全弁18とが一体成形された蓋体10(インサート成形品、図7及び図8参照)が作製される。
【0033】
このように、インサート成形によって蓋本体部11と安全弁18とが一体成形された蓋体10を用いることで、蓋本体部11に形成されている第3貫通孔12が安全弁18によって封止された密閉型電池1を、容易に且つ適切に製造することができる。なお、安全弁18を成形するために射出された樹脂の一部(環状接合部18bになる樹脂)が、蓋本体部11の環状粗化面14の凹部14b内に入り込むことで、安全弁18の環状接合部18bが蓋本体部11の環状粗化面14と気密に接合する(図4参照)。
【0034】
ところで、安全弁18の平板状部位18hの下面18g側には、蓋体10及び蓋本体部11の厚み方向に凹む形態の溝であって、平面視円環状の円環状溝18mが形成されている(図5及び図6参照)。さらに、安全弁18のうち円環状溝18mの底18tが形成されている平面視円環状の部位は、安全弁18のうちで最も厚みが薄い円環状最薄部18sとなっている。すなわち、安全弁18のうち平面視で円環状溝18mの底18tと重なる環状の部位が、安全弁18のうちで最も厚みが薄い円環状最薄部18sとなっている(図5及び図6参照)。
【0035】
このため、電池ケース30の内圧が開弁圧に達することによって安全弁18が開裂するときは、円環状最薄部18sが破断することによって、円環状最薄部18sの破断面18vに囲まれた円筒形状(または略円筒形状)のガス排出孔GH1が形成される(図12参照)。
【0036】
以上説明したように、本実施形態の密閉型電池1では、電池ケース30の内圧が開弁圧に達したときは、安全弁18の円環状最薄部18sが破断することによって円筒状のガス排出孔GH1が形成されるので、電池ケース30内のガスが外部に排出され易くなる。このため、電池ケース30内で発生したガスによって電池ケース30の内圧が上昇して開弁圧に達した場合には、円筒状のガス排出孔GH1を通じて電池ケース30内のガスを速やかに外部に排出して、電池ケース30の内圧を速やかに低減することができる。
【0037】
しかも、本実施形態の安全弁18には、前記溝として、円環状溝18mに加えて、平面視で円環状溝18mに囲まれた領域SAを2等分する平面視直線状の直線状溝18nも形成されている(図5及び図6参照)。そして、安全弁18のうちで最も厚みが薄い最薄部は、安全弁18のうち直線状溝18nの底18uが形成されている平面視直線状の部位である直線状最薄部18rと、円環状最薄部18sとになっている。すなわち、安全弁18の最薄部として、円環状最薄部18sに加えて、直線状最薄部18rを有する。なお、直線状最薄部18rは、平面視で円環状最薄部18sによって囲まれた領域を2等分する平面視直線状の最薄部である。
【0038】
従って、安全弁18が開裂するときは、直線状最薄部18rと円環状最薄部18sが破断する。このため、円環状最薄部18sのみが破断することによってガス排出孔GH1が形成される場合よりも、速やかにガス排出孔GH1を形成することが可能となり、電池ケース30内のガスを速やかに外部に排出して、電池ケース30の内圧を速やかに低減することができる。
【0039】
さらに、本実施形態では、円環状溝18mは、当該円環状溝18mの開口から底18tに向かうにしたがって当該円環状溝18mの幅寸法が小さくなる断面V字形状を有する。このような断面V字形状を有する円環状溝18mは、底18tの幅寸法が極めて小さいので、円環状最薄部18sの幅寸法(円環状最薄部18sの内周と外周との間の距離であり、厚み方向に直交する方向の寸法)も極めて小さくなる。これにより、円環状最薄部18sが破断することによって形成される破断面18vの位置精度が高くなるので、当該破断面18vに囲まれた円筒状のガス排出孔GH1の寸法精度が高くなる。これにより、複数の密閉型電池1の間において、ガス排出孔GH1の大きさのバラツキを小さくすることができるので、ガス排出速度のバラツキを小さくすることができる。
【0040】
以上説明したように、本実施形態の密閉型電池1は、安全弁18の環状接合部18bを蓋本体部11の環状シール面15に気密に接合させる態様で電池ケース30の内部を気密にしつつも、電池ケース30の内圧が開弁圧に達した場合には、安全弁18が開弁することによって電池ケース30内のガスを外部に排出して、電池ケース30の内圧が上昇し過ぎるのを防止することができる。
【0041】
ところで、安全弁18の円環状最薄部18s及び直線状最薄部18rの厚みを調整することで、安全弁18の開弁圧を調整することが可能となる。円環状最薄部18s及び直線状最薄部18rの厚みに応じて円環状最薄部18s及び直線状最薄部18rの破壊強度が変わるからである。なお、安全弁18の開弁圧は、安全弁18の円環状最薄部18s及び直線状最薄部18rの破壊によりガス排出孔GH1が形成されるときの、電池ケース30の内圧である。
【0042】
本実施形態の密閉型電池1では、円環状最薄部18s及び直線状最薄部18rの厚みTによって、安全弁18の開弁圧を定めている。このように、円環状最薄部18s及び直線状最薄部18rの厚みTによって開弁圧を設定することで、開弁圧を精度良く設定することができる。
【0043】
【表1】
【0044】
表1は、円環状最薄部18s及び直線状最薄部18rの厚みT(mm)と開弁圧(MPa)との対応表である。表1に示すように、例えば、円環状最薄部18s及び直線状最薄部18rの厚みTを0.06mmとした密閉型電池1では、開弁圧を1.4MPaに定めることができる。また、円環状最薄部18s及び直線状最薄部18rの厚みTを0.10mmとした密閉型電池1では、開弁圧を2.0MPaに定めることができる。また、円環状最薄部18s及び直線状最薄部18rの厚みTを0.15mmとした密閉型電池1では、開弁圧を2.7MPaに定めることができる。このように、安全弁18の円環状最薄部18s及び直線状最薄部18rの厚みTによって、安全弁18の開弁圧を定めることができる。
【0045】
<実施例1と比較例1>
実施例1として、円環状最薄部18s及び直線状最薄部18rの厚みTを0.06mmとした密閉型電池1を用意した。また、比較例1として、実施例1の密閉型電池1と比べて安全弁のみが異なる密閉型電池を用意した。具体的には、比較例1の安全弁118は、図13及び図14に示すように、実施例1の安全弁18と比べて、溝として円環状溝18mを有することなく直線状溝118nのみを有する点と、最薄部として円環状最薄部18sを有することなく直線状最薄部118rのみを有する点とが異なり、その他は同等である。なお、比較例1の密閉型電池は、実施例1の密閉型電池1と同様に、直線状最薄部118rの厚みTを0.06mmとしている。このため、比較例1の密閉型電池は、実施例1の密閉型電池1と同様に、開弁圧が1.4MPaに定められている。
【0046】
<ガス排出試験>
実施例1及び比較例1の密閉型電池について、ガス排出試験を行った。具体的には、各々の密閉型電池について、電池電圧値が5.0Vに達するまで充電することで過充電状態とし、電池ケース内にガスを発生させた。これにより、各々の密閉型電池の内圧を、開弁圧の1.4MPaにまで上昇させて、安全弁を開裂させた。そして、各々の密閉型電池について、安全弁が開裂した時から、電池ケース内のガスが無くなるまでの時間(ガス排出時間とする)を測定した。すなわち、安全弁の開裂によって電池ケース内からガスの排出が開始された時から、電池ケース内からガスの排出が終了するまでの、ガス排出時間を測定した。
【0047】
比較例1の密閉型電池では、ガス排出時間が12.0秒となった。これに対し、実施例1の密閉型電池1では、ガス排出時間が4.2秒となり、比較例1の密閉型電池と比較して、ガス排出時間を約1/3の時間に短縮することができた。このような結果となった理由は、以下の通りである。
【0048】
比較例1の密閉型電池は、安全弁118の平板状部位118hに、溝として直線状溝118nのみを有し、最薄部として直線状最薄部118rのみを有する(図13及び図14)。このため、比較例1の密閉型電池では、電池ケースの内圧が開弁圧に達すると、図15に示すように、安全弁118の直線状最薄部118rが破断することによって、スリット形状のガス排出孔GH2が形成され、このスリット形状のガス排出孔GH2を通じて電池ケースの外部にガスが排出される。しかしながら、スリット形状のガス排出孔GH2では、電池ケース内のガスを速やかに外部に排出させることが難しい。
【0049】
これに対し、実施例1の密閉型電池1は、安全弁18の平板状部位18hに、溝として円環状溝18mを有し、最薄部として円環状最薄部18sを有している(図5及び図6参照)。このため、実施例1の密閉型電池1では、電池ケース30の内圧が開弁圧に達すると、安全弁18の円環状最薄部18sが破断することによって円筒状のガス排出孔GH1が形成されるので、スリット形状のガス排出孔GH2が形成される比較例1の密閉型電池に比べて、電池ケース30内のガスが外部に排出され易くなる。このため、実施例1の密閉型電池1では、比較例1の密閉型電池と比較して、ガス排出時間を約1/3の時間に短縮することができた。
【0050】
以上において、本発明を実施形態に即して説明したが、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で、適宜変更して適用できることはいうまでもない。
【0051】
例えば、実施形態では、蓋体10として、インサート成形によって蓋本体部11に安全弁18が一体成形された蓋体10を用いた。しかしながら、蓋本体部11に樹脂フィルムからなる樹脂安全弁を溶着した蓋体を用いるようにしても良い。また、蓋体として、樹脂からなる樹脂蓋体であって、当該樹脂蓋体の一部として安全弁を含む樹脂蓋体を用いるようにしても良い。この樹脂蓋体は、例えば、樹脂の射出成形によって作製することができる。
【0052】
また、実施形態の安全弁18では、溝として円環状溝18mと直線状溝18nを設け、最薄部として円環状最薄部18sと直線状最薄部18rを設けた。しかしながら、溝として円環状溝18mのみを設け、最薄部として円環状最薄部18sのみを設けるようにしても良い。また、実施形態の安全弁18では、環状溝として円環状溝18mを設け、環状最薄部として円環状最薄部18sを設けた。しかしながら、環状溝として、平面視楕円環状の楕円状溝など、他の形態の環状溝を設け、環状最薄部として、楕円状最薄部など、他の形態の環状最薄部を設けるようにしても良い。
【符号の説明】
【0053】
1 密閉型電池
10 蓋体
11 蓋本体部
12 第3貫通孔
14 環状粗化面(環状シール面)
14b 凹部
18 安全弁
18b 環状接合部
18h 平板状部位
18m 円環状溝(環状溝)
18n 直線状溝
18t,18u 底
18r 直線状最薄部
18s 円環状最薄部(環状最薄部)
21 ケース本体
21b 開口
30 電池ケース
50 電極体
GH1 ガス排出孔
図1
図2
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