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特開2024-157980パーフルオロポリエーテル誘導体、潤滑剤及び磁気記録媒体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024157980
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】パーフルオロポリエーテル誘導体、潤滑剤及び磁気記録媒体
(51)【国際特許分類】
   C07C 69/40 20060101AFI20241031BHJP
   C10M 149/00 20060101ALI20241031BHJP
   C07C 211/63 20060101ALI20241031BHJP
   G11B 5/725 20060101ALI20241031BHJP
   G11B 5/84 20060101ALI20241031BHJP
   C10M 147/04 20060101ALN20241031BHJP
   C10N 40/18 20060101ALN20241031BHJP
   C10N 30/06 20060101ALN20241031BHJP
【FI】
C07C69/40 CSP
C10M149/00
C07C211/63
G11B5/725
G11B5/84 Z
C10M147/04
C10N40:18
C10N30:06
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023072701
(22)【出願日】2023-04-26
(71)【出願人】
【識別番号】000146180
【氏名又は名称】株式会社MORESCO
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】近藤 洋文
(72)【発明者】
【氏名】黒田 光範
【テーマコード(参考)】
4H006
4H104
5D112
【Fターム(参考)】
4H006AA01
4H006AA03
4H006AB60
4H006BS70
4H006KA06
4H104CD04A
4H104CE19A
4H104LA03
4H104PA16
5D112AA07
5D112BC02
(57)【要約】
【課題】磁気記録媒体の耐久性を改善可能な潤滑剤を提供する。
【解決手段】下記式(2)の構造を含む特定の式で表される、パーフルオロポリエーテル誘導体。
【化1】
(式(2)中、mは0~10の整数であり、Rは炭素数20以下の炭化水素基または水素原子であり、R’は環状炭化水素基であり、R、R、R、Rはそれぞれ炭素数30以下の炭化水素または水素原子であり、そのうちの少なくとも一つは炭素数30以下の炭化水素基である。)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される、パーフルオロポリエーテル誘導体。
【化1】
式(1)中、
Xはそれぞれ独立して下記式(2)または任意の置換基であり、Xの少なくとも一方は下記式(2)であり、
【化2】
(式(2)中、mは0~10の整数であり、Rは炭素数20以下の炭化水素基または水素原子であり、R’は環状炭化水素基であり、R、R、R、Rはそれぞれ炭素数30以下の炭化水素基または水素原子であり、そのうちの少なくとも一つは炭素数30以下の炭化水素基である。)
は、下記式(3)で示される。
【化3】
(式(3)中、j、k、p、q、r、及びsはそれぞれ、3~70の実数である。)
【請求項2】
下記式(4)で表される、パーフルオロポリエーテル誘導体。
【化4】
式(4)中、
Xは下記式(2)で示され、
【化5】
(式(2)中、mは0~10の整数であり、Rは炭素数20以下の炭化水素基または水素原子であり、R’は環状炭化水素基であり、R、R、R、Rはそれぞれ炭素数30以下の炭化水素基または水素原子であり、そのうちの少なくとも一つは炭素数30以下の炭化水素基である。)
は、下記式(3)で示される。
【化6】
(式(3)中、j、k、p、q、r、及びsはそれぞれ、3~70の実数である。)
【請求項3】
請求項1または2に記載のパーフルオロポリエーテル誘導体のうち少なくとも一種類を含む、パーフルオロポリエーテル組成物。
【請求項4】
請求項1または2に記載のパーフルオロポリエーテル誘導体を含む、潤滑剤。
【請求項5】
非磁性支持体と、前記非磁性支持体上に積層された磁性層とを備え、前記磁性層は、請求項4に記載の潤滑剤を含む、磁気記録媒体。
【請求項6】
非磁性支持体と、前記非磁性支持体上に積層された磁性層と、前記磁性層上に積層された潤滑剤層とを備え、前記潤滑剤層は、請求項4に記載の潤滑剤を含む、磁気記録媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はパーフルオロポリエーテル誘導体、潤滑剤及び磁気記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
データ記録方法の一つである磁気テープシステムは、単位体積当たりの記録密度が高いため、大容量のデータを記録する媒体として広く使用されている。磁気テープの記録再生特性の向上には、磁気テープ表面を平滑化させ、磁気ヘッド-磁気テープ(メディア)間のスペーシングをできるだけ低下させることが必要となる。近年、テープ表面の平滑化が進んでいるため、磁気ヘッドと磁気テープとの摩擦が大きくなっている。そのため、磁気ヘッドと磁気記録媒体との間の摩擦係数を改善し、磁気記録媒体耐久性を向上させることができる潤滑剤の開発が求められている。
【0003】
従来の磁気記録媒体では潤滑剤として、長鎖炭化水素系のエステル、カルボン酸、またはそれらの混合物が使用されてきた。しかしながら、これらを磁気記録媒体表面に塗布した場合、表面が平滑化された磁気記録媒体での摩擦係数は高く、また熱安定性もよくないために長期保存における潤滑剤の劣化が避けられない。そのため、パーフルオロアルキル基またはパーフルオロポリエーテル(PFPE)誘導体を主とする潤滑剤が分子設計及び合成されている。
【0004】
その中で、特許文献1には、パーフルオロアルキルカルボン酸アンモニウム塩が、特許文献2には末端にカルボキシル基を持つPFPEのアンモニウム塩が、薄膜磁気記録媒体の潤滑剤として提案されている。
【0005】
また、磁気記録媒体用潤滑剤として特許文献3には、コハク酸の片方のカルボン酸が部分フッ化アルキル系エステル化され、もう一方のカルボン酸がアンモニウム塩である化合物が、薄膜磁気記録媒体の潤滑剤として提案されている。特許文献4には、両末端に水酸基を持つPFPEがコハク酸誘導体で修飾され、そのジカルボン酸ジアンモニウム塩誘導体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平1-9961号公報
【特許文献2】特開平3-252921号公報
【特許文献3】特開2000-353310号公報
【特許文献4】特開2003-55310号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記のような従来技術では、磁気記録媒体の分野においては、特に表面に潤滑剤を塗布した磁気記録媒体では、使用される潤滑剤の能力不足に起因して、例えば走行試験において再生出力がレベルダウンする等、実用特性のさらなる改良が求められている。また長期使用により摩擦係数が上昇し、信頼性に不安が残る。
【0008】
本発明の一態様は、前記問題点を鑑みなされたものであり、その目的は、磁気記録媒体の耐久性を改善可能な潤滑剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、特定の構造を有する化合物が、磁気記録媒体の摩擦係数を従来技術よりも低下させ、耐久性を改善できることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は以下の構成を含む。
【0010】
<1>下記式(1)で表される、パーフルオロポリエーテル誘導体。
【化1】
式(1)中、
Xはそれぞれ独立して下記式(2)または任意の置換基であり、Xの少なくとも一方は下記式(2)であり、
【化2】
(式(2)中、mは0~10の整数であり、Rは炭素数20以下の炭化水素基または水素原子であり、R’は環状炭化水素基であり、R、R、R、Rはそれぞれ炭素数30以下の炭化水素基または水素原子であり、そのうちの少なくとも一つは炭素数30以下の炭化水素基である。)
は、下記式(3)で示される。
【化3】
(式(3)中、j、k、p、q、r、及びsはそれぞれ、3~70の実数である。)
<2>
下記式(4)で表される、パーフルオロポリエーテル誘導体。
【化4】
式(4)中、
Xは下記式(2)で示され、
【化5】
(式(2)中、mは0~10の整数であり、Rは炭素数20以下の炭化水素基または水素原子であり、R’は環状炭化水素基であり、R、R、R、Rはそれぞれ炭素数30以下の炭化水素基または水素原子であり、そのうちの少なくとも一つは炭素数30以下の炭化水素基である。)
は、下記式(3)で示される。
【化6】
(式(3)中、j、k、p、q、r、及びsはそれぞれ、3~70の実数である。)
<3><1>または<2>に記載のパーフルオロポリエーテル誘導体のうち少なくとも一種類を含む、パーフルオロポリエーテル組成物。
<4><1>または<2>に記載のパーフルオロポリエーテル誘導体を含む、潤滑剤。
<5>非磁性支持体と、前記非磁性支持体上に積層された磁性層とを備え、前記磁性層は、<4>に記載の潤滑剤を含む、磁気記録媒体。
<6>非磁性支持体と、前記非磁性支持体上に積層された磁性層と、前記磁性層上に積層された潤滑剤層とを備え、前記潤滑剤層は、<4>に記載の潤滑剤を含む、磁気記録媒体。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一態様によれば、磁気記録媒体の耐久性を改善可能な潤滑剤を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施形態に係る磁気テープの断面模式図である。
図2】本発明の一実施形態に係る摩擦測定に用いた磁気テープに潤滑剤が塗布されたサンプルの断面模式図である。
図3】本発明の一実施形態に係る図1の磁性層1の構造である。
図4】本発明の一実施形態に係る図1の非磁性層2の構造である。
図5】本発明の一実施形態に係る磁気ディスクの断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。ただし、本発明はこれに限定されるものではなく、記述した範囲内で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。なお、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A~B」は、「A以上、B以下」を意図する。
【0014】
〔1.本発明の概要〕
従来の磁気記録媒体の潤滑剤として使用されてきた長鎖炭化水素系のエステル、カルボン酸、またはそれらの混合物は、磁気記録媒体表面に塗布した場合、表面が平滑化された磁気記録媒体での摩擦係数は高くなる。また、熱安定性もよくないために長期保存における潤滑剤の劣化が避けられない。そこで、パーフルオロアルキル基またはパーフルオロポリエーテル(PFPE)誘導体を主とする潤滑剤が分子設計及び合成されてきたが、特許文献1~4に開示されているような潤滑剤を磁気記録媒体表面に塗布した場合にも、表面が平滑化された磁気記録媒体では依然として摩擦係数は高く、耐久性も低い。
【0015】
そこで、上記の課題を解決するために本発明者が鋭意研究を重ねた結果、極性基であるエステル基及びカルボン酸アンモニウム塩をパーフルオロポリエーテルの片方の末端に合計2個以上含有しているパーフルオロポリエーテル誘導体を用いることで、表面が平滑化された磁気記録媒体とヘッドとの間に生じる摩擦をより低減できることを見出した。
【0016】
〔2.パーフルオロポリエーテル誘導体〕
本発明の一実施形態に係るパーフルオロポリエーテル誘導体は、下記式(1)で表される。
【0017】
【化7】
式(1)中、Xはそれぞれ独立して下記式(2)または任意の置換基であり、少なくとも一方は式(2)である。任意の置換基としては、例えば、水素原子、水酸基、アルコキシ基、チオール基、ハロゲン原子、及びエーテル結合、エステル結合を有する基等が挙げられる。
【化8】
式(2)中、mは0~10の整数である。mがこの範囲であれば、摩擦係数を低減し潤滑性を向上させることができる。後に述べる合成上の観点から、mは0~8の整数であることが好ましい。
【0018】
式(2)中、Rは炭素数20以下の炭化水素基または水素原子である。前記炭化水素基の炭素数の下限値は特に限定されず、通常は1以上である。Rがこの範囲であれば、得られるパーフルオロポリエーテル誘導体が磁気テープの摩擦を低減し、潤滑性が向上しやすくなる。潤滑性向上の観点から、Rは炭化水素基であることが好ましく、前記炭化水素基の炭素数は8以上であることがより好ましい。溶媒への溶解性の観点からは、Rは水素原子または炭素数18以下の炭化水素基であることが好ましい。なお、前記炭化水素基の炭素数は、得られるパーフルオロポリエーテル誘導体の溶媒への溶解性を考慮して決定することができる。
【0019】
式(2)中、R’は環状炭化水素基である。通常、前記環状炭化水素基の炭素数は3~12である。環状炭化水素基の例としては、芳香環または脂環式炭化水素が挙げられる。芳香環の例としては、ベンゼン環、ナフタレン環等が挙げられる。脂環式炭化水素としては、シクロヘキサン、シクロペンタン等が挙げられる。
【0020】
式(2)中、R、R、R、Rは炭素数30以下の炭化水素基または水素原子であり、そのうちの少なくとも一つは炭素数30以下の炭化水素基である。R、R、R、Rは好ましくは炭素数24以下の炭化水素基または水素原子であり、より好ましくは炭素数20以下の炭化水素基または水素原子であり、さらに好ましくは炭素数18以下の炭化水素基または水素原子である。摩擦係数の低減の観点から、R~Rに含まれる炭素数の合計は、10~48であることが好ましく、20~48であることがより好ましい。
【0021】
前記R、R、R、R及びRが炭化水素基である場合、直鎖状であってもよく、分岐鎖、二重結合、フッ素、芳香環、ヘテロ元素、複素環等を含んでいてもよい。摩擦係数の低減の観点から直鎖状であることがより好ましい。
【0022】
式(1)中、Rは、下記式(3)で示される。
【化9】
【0023】
式(3)中、j、k、p、q、r、及びsはそれぞれ平均重合度を表し、3~70の実数である。j、k、p、q、r、及び/またはsが3未満では分子量が小さく、潤滑効果が望めない。また70を超えると炭化水素系溶媒に溶解しにくくなる。j、k、p、q、r、及びsは、好ましくは5~50の実数であり、より好ましくは5~30の実数である。式(3)で示される骨格は、上から順にフォンブリン骨格、C2骨格、デムナム骨格、クライトックス骨格、C4骨格とも称される。
【0024】
また、本発明の他の一実施形態に係るパーフルオロポリエーテル誘導体は、下記式(4)で表される。
【化10】
式(4)中、Xは上記式(2)で示される。式(4)中、Rは、上記式(3)で示される。
【0025】
以下、前記式(4)で表されるパーフルオロポリエーテル誘導体を誘導体A、前記式(1)で表されるパーフルオロポリエーテル誘導体を誘導体Bとも称する。
【0026】
従来、下記式(5)及び下記式(6)で表されるパーフルオロポリエーテル化合物が知られている。この下記式(5)で表されるパーフルオロポリエーテル化合物はD2M、下記式(6)で表されるパーフルオロポリエーテル化合物はDDOHとも称される。
【化11】
【化12】
前記式(5)及び式(6)において、kは3~70の実数である。
【0027】
誘導体A及び誘導体Bはそれぞれ、D2M、DDOHが有する水酸基の少なくとも一部を変性した構造を有する。具体的には、誘導体AではD2Mの水酸基が、エステル基及びカルボン酸アンモニウム塩を有する官能基によって置換されている。誘導体Bでは、2個の水酸基のうち少なくとも一つが、同様にエステル基及びカルボン酸アンモニウム塩を有する官能基によって置換されている。つまり、誘導体Bは水酸基の一方のみを変性した化合物、または水酸基の2個を変性した化合物である。
【0028】
前記パーフルオロポリエーテル誘導体は、極性基であるエステル基及びカルボン酸アンモニウム塩をパーフルオロポリエーテルの片方の末端に合計2個以上含有している。それゆえ、前記パーフルオロポリエーテル誘導体を含む潤滑剤を磁性層に塗布すると、D2M、DDOHで表される化合物のように2個以下の水酸基を有する化合物を含む従来の潤滑剤と比較して、磁性層により強く配向吸着する。そのため、前記パーフルオロポリエーテル誘導体を含む潤滑剤は、従来の潤滑剤よりも磁気記録媒体の摩擦係数をより低下させることができる。また、前記パーフルオロポリエーテル誘導体を含む潤滑剤は、低い摩擦係数を維持することができる。よって、磁気記録媒体の耐久性、特に現在求められている高密度記録を可能にする平滑性を持った高い電磁変換特性を有する磁気記録媒体の耐久性を向上させることができる。
【0029】
〔3.パーフルオロポリエーテル誘導体の製造方法〕
前記式(1)及び式(4)で表されるパーフルオロポリエーテル誘導体の製造方法については特に限定されるものではない。例えば、まず、パーフルオロポリエーテル化合物と、無水コハク酸等のジカルボン酸無水物とを反応させて無水コハク酸変性品を得る。その後、得られた無水コハク酸変性品と、アミン化合物とを反応させること等により、前記パーフルオロポリエーテル誘導体が得られる。
【0030】
前記パーフルオロポリエーテル化合物としては例えば、上述のD2M、DDOHが挙げられるが、これに限定されるものではない。ジカルボン酸無水物の例としては、コハク酸無水物、無水マレイン酸、マロン酸無水物、グルタル酸無水物、アジピン酸無水物等、および、それらを炭素数1~30の炭化水素基で置換したメチルコハク酸無水物、ブチルコハク酸無水物、へキシルコハク酸無水物、オクチルコハク酸無水物、ドデシルコハク酸無水物、ヘキサデシルコハク酸無水物、オクタデシルコハク酸無水物等が挙げられる。このコハク酸無水物誘導体の側鎖は、上述の誘導体A及びBのRで表される炭化水素基に相当する。また、前記アミン化合物は、アンモニア、および/または1級~3級アミン化合物を使用でき、3級アミン化合物であることが好ましい。前記アミン化合物の炭素の合計は、通常0~120である。前記アミン化合物は例えば、ジメチルオクタデシルアミン、トリオクチルアミン等が挙げられる。
【0031】
誘導体Aは、具体的には以下の方法により合成され得る。まず、D2Mとコハク酸無水物誘導体1等量とを油浴下で加熱撹拌しながら反応させる。反応終了後、得られた反応生成物を溶媒に溶解させて、不純物を濾過し、さらに溶媒を除去し、シリカゲルクロマトグラフィーにより精製して無水コハク酸変性品が得られる。油浴温度は好ましくは、110~150℃であり、反応時間は好ましくは5~15時間である。反応終了後に溶解させる溶媒としては例えば、ジイソプロピルエーテル、ジエチルエーテル、VertrelTM-XF(三井・デュポンフロロケミカル製)等が挙げられる。次に、得られた無水コハク酸変性品とアミン化合物1等量とを100~150℃で2~8時間加熱攪拌しながら反応させる。その後、反応物を冷却しn-ヘキサン可溶部分を取り除くことにより誘導体Aが得られる。
【0032】
得られた化合物の同定は、例えば核磁気共鳴スペクトル(NMR)またはフーリエ変換赤外分光(FTIR)測定によって行うことができる。FTIR測定により同定する場合、水酸基、エステル基、またはカルボキシル基に帰属されるIRピークを測定することで、目的の化合物であるかどうかを確認することができる。
【0033】
誘導体Bは、DDOHとコハク酸無水物誘導体を1等量または2等量とを用いることで得られる。1等量を用いた場合には片方のXは水酸基である。また、Xが一つのものと二つのモノを含むパーフルオロポリエーテル組成物は、DDOHと反応させるコハク酸無水物誘導体のモル比率を1~2等量の範囲で変更することによって得ることができ、その比率は、反応段階で用いる化合物のモル比率を変化させることで容易に変更することができる。
【0034】
本発明の一実施形態には、誘導体A及び/またはBを含む組成物も包含される。本明細書では、当該組成物をパーフルオロポリエーテル組成物とも称する。誘導体A及びBを混合する場合、混合比率は特に限定されない。パーフルオロポリエーテル組成物は、誘導体A及びBの性能を損なわない範囲でその他成分を含んでいてもよい。前記パーフルオロポリエーテル組成物に誘導体A及びB以外の化合物を含む場合、誘導体A及び/またはBの含有率は50wt%超が好ましく、80wt%以上がより好ましく、90wt%以上がさらに好ましい。
【0035】
〔4.潤滑剤〕
本発明の一実施形態に係る潤滑剤は、上述のパーフルオロポリエーテル誘導体、または上述のパーフルオロポリエーテル組成物を含む。換言すれば、本発明の一実施形態に係る潤滑剤は、誘導体A及びBのうち、少なくとも一種類を含む。また、誘導体A及びBのうち、少なくとも一種類を含んでいれば、それ以外の化合物を混合して用いてもよい。
【0036】
特に表面が平滑化された磁気記録媒体においては、表面に潤滑剤が塗布される。従来、この潤滑剤の能力不足に起因して、例えば走行試験において磁気テープの再生出力が低下することがあった。この場合、実用特性に不満が残る。また、走行試験を繰り返し実施することにより摩擦係数が上昇する場合、長期にわたっての信頼性にも不安が残る。これらの観点から、本発明者は、磁気記録媒体の耐久性を改善し得る潤滑剤を検討した。
【0037】
本発明の一実施形態に係る潤滑剤を磁気記録媒体に用いることにより、各種使用条件下において優れた潤滑性が保たれるとともに、長期間使用しても潤滑効果が持続される。これにより、優れた走行性、耐摩耗性、耐久性等を提供できる。また、前記磁気記録媒体以外にも、磁性層を含まない例えば耐久性を改善した高分子フィルム等の潤滑特性の向上も可能となる。
【0038】
潤滑剤はその性能を損なわない範囲で、誘導体A、誘導体B以外のその他の成分を含んでいてもよい。例えば、本発明の一実施形態に係る潤滑剤は、さらに、溶媒を含んでいてもよい。前記溶媒の例としては、ジイソプロピルエーテル、n-ヘキサン、メチルエチルケトン、トルエン、シクロヘキサノン、もしくはメタノール等の炭化水素系溶媒、VertrelTM-XF(三井・デュポンフロロケミカル製)等のフッ素系溶媒、およびそれらの混合溶媒が挙げられる。
【0039】
前記溶媒を含む潤滑剤中の誘導体A、誘導体Bの含有量は、潤滑剤の性能を損なわない範囲であれば特に限定されるものではないが、0.001~40.0g/Lであることが好ましく、0.05~20.0g/Lであることがより好ましい。
【0040】
〔5.磁気記録媒体〕
本発明の一実施形態に係る磁気記録媒体は、非磁性支持体と、前記非磁性支持体上に積層された磁性層とを備え、前記磁性層は、上述の潤滑剤を含んでいてもよい(磁性層に潤滑剤が内添されていてもよい)。または、本発明の一実施形態に係る磁気記録媒体は、非磁性支持体と、前記非磁性支持体上に積層された磁性層と、前記磁性層上に積層された潤滑剤層とを備え、前記潤滑剤層は、上述の潤滑剤を含んでいてもよい。
【0041】
本明細書において「磁気記録媒体」としては、磁気テープ、磁気ディスク等が挙げられる。摩擦係数を低下させ、耐久性を向上しやすい観点から、磁気記録媒体は磁気テープ及び磁気ディスクであることが好ましい。
【0042】
図1及び2は本発明の一実施形態に係る磁気テープの構成を示す断面模式図である。図1の磁気テープ15は、磁性層1と、非磁性層2、支持体であるベースフィルム3及びバックコート層4とがこの順に積層されてなる。図1の磁気テープは、潤滑剤が磁性層1及び非磁性層2に内添されている。図3に磁性層1の構造を示すが、磁性層1は研磨剤等の顔料6と、磁性粉末7と、バインダー、潤滑剤等を含む有機層8とを含んでいる。そのため、磁性層1の内部から表面へ潤滑剤が染み出し、磁気テープ表面の摩擦係数を継続的に低下させる。図4に非磁性層2の構造を示すが、非磁性層2は顔料6と、非磁性粉末9と、バインダー、潤滑剤等を含む有機層8とを含んでいる。
【0043】
図2の磁気テープ15では、磁性層1の上に、前記潤滑剤を含む潤滑剤トップコート層5が形成されている。この場合、潤滑剤トップコート層5が磁性層1に強く配向吸着することにより、摩擦係数を低下させ、磁気テープ15の耐久性を維持することができる。この場合、磁性層1に潤滑剤が内添されていても、内添されていなくもよい。
【0044】
顔料6としては例えば、アルミナ等の研磨剤やカーボンブラック粉末等が挙げられる。磁性粉末7としては例えば、γ-Fe、コバルト被着γ-Fe等の強磁性酸化鉄系粒子、強磁性二酸化クロム系粒子、Fe、Co、Ni等の金属、これらを含んだ合金からなる強磁性金属系粒子、六角板状の六方晶系フェライト微粒子等が挙げられる。六方晶フェライト、イプシロン型酸化鉄(ε酸化鉄)、Co含有スピネルフェライト、ガンマヘマタイト、マグネタイト、二酸化クロム、コバルト被着酸化鉄等が挙げられる。
【0045】
前記有機層8に含まれるバインダーとしては、塩化ビニル、酢酸ビニル、ビニルアルコール、塩化ビニリデン、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、スチレン、ブタジエン、アクリロニトリル等の重合体、またはこれら二種以上を組み合わせた共重合体、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂等が例示される。前記バインダーには、磁性粉末の分散性を改善するために、スルホン酸基、カルボキシル基、リン酸基等の親水性極性基が導入されてもよい。バインダーは一般に磁気記録媒体に使用されるものであれば特に限定されず、例えば、架橋反応が行われたポリウレタン系樹脂または塩化ビニル系樹脂、熱硬化性樹脂、または反応型樹脂等が挙げられる。
【0046】
ベースフィルム3は、磁気テープの支持体として機能する層である。ベースフィルム3の材料としては例えば、ポリエステル、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリブチレンナフタレート(PBN)、ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレート(PCT)、ポリエチレン-p-オキシベンゾエート(PEB)、アラミド(芳香族ポリアミド)及びポリエチレンビスフェノキシカルボキシレート等の1種類以上が挙げられる。
【0047】
バックコート層4は、磁気テープの走行性を改善するための層である。バックコート層4の材料としては例えば、カーボン及び炭酸カルシウム等を含んだポリウレタン系樹脂、ニトロセルロース系樹脂、ポリエステル系樹脂、が挙げられる。
【0048】
図5は本発明の一実施形態に係る磁気ディスクの構成を示す断面模式図である。磁気ディスク16は潤滑剤層10と、保護層11と、磁性層12と、下地層13と、基板14がこの順に積層されてなり、前記潤滑剤層10が前記潤滑剤を含む。別の実施形態においては、磁性層の下に下層、下層の下に配置される軟磁性下層及び1層以上の軟磁性層の下に配置される接着層を含んでいてもよい。
【0049】
潤滑層以外の磁気ディスクの各層は、磁気ディスクの個別の層に好適であると当該技術分野において知られている材料を含むことができる。例えば、保護層11としては、カーボン膜が挙げられる。
【0050】
潤滑層以外の層を得る方法は特に限定されず、公知の技術に基づいて合成してもよいし、市販品を用いてもよい。
【実施例0051】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明の一態様をより詳細に説明するが、本発明の態様はこれらに限定されるものではない。
【0052】
<磁気テープサンプルの作製>
図2に示す構造を有する磁気テープサンプルを以下のように作製した。市販の磁気テープであるUltrium7(富士フイルム社製)を用意した。また、表1及び表2に記載の化合物及び比較化合物を8g/Lの濃度で磁気テープ表面にディッピング塗布することで、磁気テープサンプルを得た。その時に用いた溶媒は表3に示す。
【0053】
<摩擦試験方法>
摩擦係数は、トライボギア摩擦摩耗試験機 TYPE:40(Heidon製)を用いて測定した。具体的な測定方法としては、25℃において、ガラスプレート上に潤滑剤を塗布した磁気テープを固定し、磁気テープに10mmφのSUS球を接触させ、荷重50gをかけた。その状態でSUS球をサンプル上にて移動速度1mm/sで、走行距離5mmを5回及び20回(10往復)走行させ、その際に生じた摩擦力をひずみゲージによって測定した。なお、球の移動速度は磁気テープの低速走行を想定して設定した。
【0054】
<FTIR測定>
FTIR測定は、フーリエ変換赤外分光装置(サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社製、商品名:Nicolet iS10 FTIR)を用いてATR法(ダイヤモンドプリズム)で行った。
【0055】
〔実施例1〕
化合物1の合成を、以下の式(7)の通りに行った。
【化13】
【0056】
末端に2個の水酸基を持つ分子量2010のパーフルオロポリエーテル(DDOH)20.28gと、DDOHに対して1等量のオクタデシルコハク酸無水物3.52gとを、温度150℃の油浴下で攪拌させながら3時間反応させた。反応終了後、ジイソプロピルエーテルに溶解させて濾過した。シリカゲルカラムクロマトを行い精製して、DDOHモノオクタデシル無水コハク酸変性品を得た。DDOHオクタデシル無水コハク酸変性品に対して、1等量のジメチルオクタデシルアミンを加え、80℃で1時間加熱攪拌した。その後、冷却し、冷却後にn-ヘキサン可溶部分を取り除いて化合物1を得た。
【0057】
得られた化合物をFTIR測定によって同定した。DDOHモノオクタデシル無水コハク酸変性品ではエステル基に帰属されるカルボニル基のピークが1770cm-1に、カルボキシル基に帰属されるカルボニル基のピークが1710cm-1に確認された。化合物1はエステル基に帰属されるカルボニル基のピーク位置は変わらない一方で、1710cm-1のカルボキシル基に帰属されるカルボニル基のピークが消失し、カルボン酸塩に帰属されるカルボニル基のピークが1600cm-1付近に出現した。これにより、カルボン酸がアミン化合物と反応し、カルボン酸アンモニウム塩を形成したことが示唆された。それ以外の吸収としては、下記ピークが観察されたことから、得られた化合物には水酸基、炭化水素基、エステル基、カルボン酸塩及びパーフルオロポリエーテル基が存在していることがわかった。これにより得られた化合物が、化合物1であることが同定された。なお、化合物1においてはk=11であった。
水酸基に帰属されるピーク:3443cm-1
CH伸縮振動に帰属されるピーク:2937cm-1
CF伸縮振動に帰属されるピーク:1110~1250cm-1
【0058】
〔実施例2〕
化合物2の合成を、以下の式(8)の通りに行った。
【化14】
【0059】
DDOH20.85gと、DDOHに対して2等量のオクタデシルコハク酸無水物7.19gとを、実施例1と同様の方法により反応させ精製して、DDOHビスオクタデシル無水コハク酸変性品を得た。DDOHビスオクタデシル無水コハク酸変性品に対して、2等量のジメチルオクタデシルアミンを加え、80℃で1時間加熱攪拌した。その後、冷却し、冷却後にn-ヘキサン可溶部分を取り除き、式(8)に示される化合物2を得た。
【0060】
得られた化合物を実施例1と同様にFTIR測定によって同定した。下記のピークが観察された。このことから、得られた化合物には炭化水素基、エステル基、カルボン酸塩及びパーフルオロポリエーテル基が存在していることがわかった。これにより得られた化合物が、化合物2であることが同定された。なお、化合物2においてはk=11であった。
CH伸縮振動に帰属されるピーク:2926cm-1及び2857cm-1
エステル基に帰属されるカルボニル基のピーク:1751cm-1
カルボン酸塩に帰属されるカルボニル基のブロードなピーク:1602cm-1
CF伸縮振動に帰属されるピーク:1120~1270cm-1
【0061】
〔実施例3〕
化合物3の合成を、以下の式(9)の通りに行った。
【化15】
【0062】
実施例1と同様にしてDDOH20.55gと、DDOHに対して1等量のヘキサデシルコハク酸無水物3.56gとを、実施例1と同様の方法により反応させ、精製し、DDOHモノヘキサデシルコハク酸変性品を得た。DDOHモノヘキサデシルコハク酸変性品に対して1等量のジメチルオクタデシルアミンを加え、80℃で1時間加熱攪拌した。その後、冷却し、冷却後にn-ヘキサン可溶部分を取り除き、化合物3を得た。
【0063】
得られた化合物を実施例1と同様にFTIR測定によって同定した。下記のピークが観察された。このことから、得られた化合物には炭化水素基、エステル基、カルボン酸塩及びパーフルオロポリエーテル基が存在していることがわかった。これにより得られた化合物が、化合物3であることが同定された。なお、化合物3においてはk=11であった。
CH伸縮振動に帰属されるピーク:2927cm-1及び2858cm-1
エステル基に帰属されるカルボニル基のピーク:1740cm-1
カルボン酸塩に帰属されるカルボニル基のブロードなピーク:1601cm-1
CF伸縮振動に帰属されるピーク:1120~1270cm-1
【0064】
〔実施例4〕
化合物4の合成を、以下の式(10)の通りに行った。
【化16】
【0065】
実施例2と同様に、DDOH20.55gと、DDOHに対して2等量のヘキサデシルコハク酸無水物6.49gとを、実施例2と同様の方法により反応させ、精製して、DDOHビスヘキサデシルコハク酸変性品を得た。DDOHビスヘキサデシルコハク酸変性品に対して、2等量のジメチルオクタデシルアミンを加え、80℃で1時間加熱攪拌した。その後、冷却し、冷却後にn-ヘキサン可溶部分を取り除き、化合物4を得た。
【0066】
得られた化合物を実施例1と同様にFTIR測定によって同定した。下記のピークが観察された。このことから、得られた化合物には炭化水素基、エステル基、カルボン酸塩及びパーフルオロポリエーテル基が存在していることがわかった。これにより得られた化合物が、化合物4であることが同定された。なお、化合物2においてはk=11であった。
CH伸縮振動に帰属されるピーク:2925cm-1及び2856cm-1
エステル基に帰属されるカルボニル基のピーク:1745cm-1
カルボン酸塩に帰属されるカルボニル基のブロードなピーク:1590cm-1
CF伸縮振動に帰属されるピーク:1115~1280cm-1
【0067】
〔実施例5〕
化合物5の合成を、以下の式(11)の通りに行った。
【化17】
【0068】
実施例1と同様にしてDDOH21.35gと、DDOHに対して1等量のドデシルコハク酸無水物3.06gとを、実施例1と同様の方法により反応させ、精製し、DDOHモノドデシルコハク酸変性品を得た。DDOHモノドデシルコハク酸変性品に対して1等量のジメチルオクタデシルアミンを加え、80℃で1時間加熱攪拌した。その後、冷却し、冷却後にn-ヘキサン可溶部分を取り除き、化合物5を得た。
【0069】
得られた化合物を実施例1と同様にFTIR測定によって同定した。下記のピークが観察された。このことから、得られた化合物には炭化水素基、エステル基、カルボン酸塩及びパーフルオロポリエーテル基が存在していることがわかった。これにより得られた化合物が、化合物5であることが同定された。
CH伸縮振動に帰属されるピーク:2928cm-1及び2859cm-1
エステル基に帰属されるカルボニル基のピーク:1735cm-1
カルボン酸塩に帰属されるカルボニル基のブロードなピーク:1600cm-1
CF伸縮振動に帰属されるピーク:1110~1270cm-1
【0070】
〔実施例6〕
化合物6の合成を、以下の式(12)の通りに行った。
【化18】
【0071】
実施例2と同様に、DDOH25.00gと、DDOHに対して2等量のドデシルコハク酸無水物6.52gとを、実施例2と同様の方法により反応させ、精製してDDOHビスドデシルコハク酸変性品を得た。DDOHビスドデシルコハク酸変性品に対して、2等量のジメチルオクタデシルアミンを加え、80℃で1時間加熱攪拌した。その後、冷却し、冷却後にn-ヘキサン可溶部分を取り除き、化合物6を得た。
【0072】
得られた化合物を実施例1と同様にFTIR測定によって同定した。下記のピークが観察された。このことから、得られた化合物には炭化水素基、エステル基、カルボン酸塩及びパーフルオロポリエーテル基が存在していることがわかった。これにより得られた化合物が、化合物6であることが同定された。なお、化合物6においてはk=11であった。
CH伸縮振動に帰属されるピーク:2924cm-1及び2855cm-1
エステル基に帰属されるカルボニル基のピーク:1750cm-1
カルボン酸塩に帰属されるカルボニル基のブロードなピーク:1590cm-1
CF伸縮振動に帰属されるピーク:1115~1285cm-1
【0073】
〔実施例7〕
化合物7の合成を、以下の式(13)の通りに行った。
【化19】
【0074】
実施例2と同様に、DDOH20.55gと、DDOHに対して2等量のオクチルコハク酸無水物2.25gとを、実施例2と同様の方法により反応させ、精製してDDOHビスオクチルコハク酸変性品を得た。DDOHビスオクチルコハク酸変性品に対して、2等量のトリオクチルアミンを加え、80℃で1時間加熱攪拌した。その後、冷却し、冷却後にn-ヘキサン可溶部分を取り除き化合物7を得た。
【0075】
得られた化合物を実施例1と同様にFTIR測定によって同定した。下記のピークが観察された。このことから、得られた化合物には炭化水素基、エステル基、カルボン酸塩及びパーフルオロポリエーテル基が存在していることがわかった。これにより得られた化合物が、化合物7であることが同定された。なお、化合物7においてはk=11であった。
CH伸縮振動に帰属されるピーク:2925cm-1及び2859cm-1
エステル基に帰属されるカルボニル基のピーク:1750cm-1
カルボン酸塩に帰属されるカルボニル基のブロードなピーク:1570cm-1
CF伸縮振動に帰属されるピーク:1115~1285cm-1
【0076】
〔実施例8〕
化合物8の合成を、以下の式(14)の通りに行った。
【化20】
【0077】
D2M40.05gと、D2Mに対して1.4等量のオクタデシルコハク酸無水物とを、油浴温度150℃で攪拌させながら11時間反応させた。反応初期は分離していたが徐々に上層のコハク酸無水物の層が減少した。その後、冷却し、冷却後に過剰に加えたオクタデシルコハク酸無水物を取り除き、ジイソプロピルエーテルに溶解させて濾過後、溶媒を除去した。カラムクロマトで精製後得られたD2Mのオクタデシル無水コハク酸変性品に対して、1等量のジメチルオクタデシルアミンを加え、80℃で1時間加熱攪拌した。その後、冷却し、n-ヘキサン可溶部分を取り除き、化合物8を得た。
【0078】
得られた化合物を実施例1と同様にFTIR測定によって同定した。下記のピークが観察された。このことから、得られた化合物には炭化水素基、エステル基、カルボン酸塩及びパーフルオロポリエーテル基が存在していることがわかった。これにより得られた化合物が、化合物8であることが同定された。なお、化合物8においてはk=10であった。
CH伸縮振動に帰属されるピーク:2927cm-1及び2856cm-1
エステル基に帰属されるカルボニル基のピーク:1740cm-1
カルボン酸塩に帰属されるカルボニル基のブロードなピーク:1585cm-1
CF伸縮振動に帰属されるピーク:1120~1275cm-1
【0079】
〔比較例1〕
比較化合物1の合成を、以下の式(15)の通りに行った。比較化合物1は、実施例1の式(7)における中間体である、DDOHモノオクタデシル無水コハク酸変性品である。化合物1と比較化合物1との比較により、摩擦耐久性に対するカルボン酸アンモニウム塩の効果を比較することができる。なお、比較化合物1においてはk=11であった。
【化21】
【0080】
〔比較例2〕
比較化合物2の合成を、以下の式(16)の通りに行った。比較化合物2は、実施例2の式(8)における中間体である、DDOHビスオクタデシル無水コハク酸変性品である。化合物2と比較化合物2との比較により、摩擦耐久性に対するカルボン酸アンモニウム塩の効果を比較することができる。なお、比較化合物2においてはk=11であった。
【化22】
【0081】
〔比較例3〕
比較化合物3の合成を、特許文献4と同様にして行った。
【化23】
なお、比較化合物3は特許文献4に開示されている化合物であり、p=1~9、q=1~9である。本発明に係る化合物との比較により、極性基がパーフルオロポリエーテルの両末端にあるか片方の末端かでの比較が可能となる。
【0082】
〔比較例4〕
比較化合物4の合成を、特許文献2と同様にして行った。
【化24】
なお、比較化合物4は特許文献2に開示されている化合物であり、k=3~70の整数であり、極性基はカルボン酸アンモニウム塩のみである化合物である。化合物1~6と、本比較化合物4との比較により、極性基がエステル基を含めて複数個存在するコハク酸アンモニウム塩誘導体と、極性基がカルボン酸アンモニウム塩のみである従来技術との比較が可能である。
【0083】
化合物の構造式と比較化合物の構造式をそれぞれ表1及び表2に示す。
【表1】
【表2】
【0084】
<磁気テープ摩擦試験の結果>
表1及び表2の化合物及び比較化合物を、表3の溶媒を用いて濃度8g/Lに希釈して、磁気テープにディッピング塗布した。実施例1~8と、比較例1~3の磁気テープについて、摩擦試験による摩擦係数(5回目、20回目)および摩擦痕の結果を表3にまとめる。
【表3】
【0085】
実施例は比較例に対して、摩擦係数が低く抑えられており、磁気テープの耐久性に優れていることがわかる。具体的には、実施例1~8は、アミン化合物を反応させる前のカルボン酸化合物である比較例1及び2よりも摩擦係数が低く安定している。また比較例3は、パーフルオロポリエーテルの両末端にカルボン酸アンモニウム塩を有するのに対して、実施例1から8では片方の末端にのみカルボン酸アンモニウム塩を有している。つまりパーフルオロポリエーテルの片方の末端に極性基が存在することにより、摩擦係数は低く改善できることがわかる。また、パーフルオロポリエーテルとカルボン酸アンモニウム塩との間にエステル基を持つ実施例1~8では、当該エステル基を持たない比較例4と比較しても優れた摩擦特性を示すことがわかる。
【0086】
化合物1及び2は、比較化合物1及び2をそれぞれアンモニウム塩にした化合物であるが、アンモニウム塩にすることにより摩擦係数は低下し、かつ走行回数の増加による摩擦係数の上昇が小さくなることがわかる。実際の磁気テープシステムにおける磁気テープの走行では、スタート及びストップが繰り返される。スタート及びストップの際は走行速度が低速となる。トライボギアによる摩擦測定試験での摩擦係数が低ければ、走行速度が低速の場合の摩擦が小さく、耐久性が向上すると考えられる。このことから、アンモニウム塩とすることにより耐久性が改善されることが示唆される。また、コハク酸のモノ変性品とビス変性品とでは後者の方が摩擦低下に効果があることがわかる。
【0087】
また、パーフルオロポリエーテルの片方の末端にカルボン酸アンモニウム塩を1つ有する化合物(化合物1、3、5、8)と2つ有する化合物(化合物2、4、6、7)の摩擦係数をそれぞれ比較すると、2つ有する化合物は摩擦係数が低い。このことから片方の末端にカルボン酸アンモニウム塩を2つ有することが摩擦低下に効果的であることがわかった。片方の末端にカルボン酸アンモニウム塩を2つもつ化合物は、1つだけもつ化合物に比べて、1分子当たりの吸着サイトが2倍になるため、摩擦係数が低くなり、テープ表面の潤滑油膜の摩擦に対する耐久性が上がるためと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明は、磁気記録媒体用の潤滑剤として好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0089】
1 磁性層
2 非磁性層
3 ベースフィルム
4 バックコート層
5 潤滑剤トップコート層
6 顔料
7 磁性粉末
8 有機層
9 非磁性粉末
10 潤滑剤層
11 保護層
12 磁性層
13 下地層
14 基板
15 磁気テープ
16 磁気ディスク
図1
図2
図3
図4
図5