(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024157984
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】エアディスパーサ及びこれを備えるスプレードライヤ設備
(51)【国際特許分類】
F26B 21/00 20060101AFI20241031BHJP
F26B 17/10 20060101ALI20241031BHJP
F26B 17/24 20060101ALI20241031BHJP
F26B 3/12 20060101ALI20241031BHJP
B05B 3/02 20060101ALI20241031BHJP
【FI】
F26B21/00 C
F26B17/10 A
F26B17/10 B
F26B17/24
F26B3/12
B05B3/02 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023072715
(22)【出願日】2023-04-26
(71)【出願人】
【識別番号】515137200
【氏名又は名称】アイエス ジャパン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】阿部 幾郎
【テーマコード(参考)】
3L113
4F033
【Fターム(参考)】
3L113AA07
3L113AB03
3L113AC03
3L113AC45
3L113AC46
3L113AC48
3L113AC52
3L113AC54
3L113AC55
3L113AC63
3L113AC67
3L113AC76
3L113BA02
3L113DA02
3L113DA22
4F033PA18
4F033PB22
4F033PD02
(57)【要約】
【課題】乾燥室内に供給される熱風の速度を制御することが可能なエアディスパーサを提供する。
【解決手段】スプレードライヤ設備を構成する乾燥室の上部に設置され、乾燥室内に供給される熱風の旋回流を制御するためのエアディスパーサ11であって、中央に円形の第1開口111bが設けられたドーナツ状の外形を有し、前記ドーナツ状の外形の内部に環状の風道111aが形成されるハウジング111と、第1開口111bに挿入される逆円錐台形状の壁部を有し、第1開口111bと前記壁部との間に環状の熱風吹出口を形成するロアパーツ112と、前記熱風吹出口の幅W1を全周にわたって均一に変化させることが可能であり、前記熱風吹出口を通過する熱風の速度を変化させるための風速調整手段114、115と、を備える。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スプレードライヤ設備を構成する乾燥室の上部に設置され、前記乾燥室内に供給される熱風の旋回流を制御するためのエアディスパーサであって、
中央に円形の第1開口が設けられたドーナツ状の外形を有し、前記ドーナツ状の外形の内部に環状の風道が形成されるハウジングと、
前記第1開口に挿入される逆円錐台形状の壁部を有し、前記第1開口と前記壁部との間に環状の熱風吹出口を形成するロアパーツと、
前記熱風吹出口の幅を全周にわたって均一に変化させることが可能であり、前記熱風吹出口を通過する熱風の速度を変化させるための風速調整手段と、
を備えるエアディスパーサ。
【請求項2】
前記風速調整手段として、前記ハウジングの前記第1開口の直径よりも小さく、且つ前記ロアパーツの前記壁部のうち、前記第1開口に挿入された部分の外径よりも大きい直径を有する円形の第2開口が設けられた少なくとも1つのアタッチメントを備え、
前記ハウジングと前記ロアパーツとの間に前記アタッチメントを介在させることによって、前記熱風吹出口の幅を全周にわたって均一に変化させることが可能な請求項1に記載のエアディスパーサ。
【請求項3】
前記風速調整手段として、前記ハウジングの前記第1開口に挿入された前記ロアパーツを昇降させることが可能な駆動機構と、前記ハウジングと前記ロアパーツとの間を密閉し、前記ハウジングの前記風道から前記熱風吹出口に供給される熱風の漏出を防止するためのシール機構と、を備え、
前記ハウジングの前記第1開口に挿入された前記ロアパーツを昇降させることによって、前記熱風吹出口の幅を全周にわたって均一に変化させることが可能な請求項1に記載のエアディスパーサ。
【請求項4】
前記駆動機構として、前記ハウジングと前記ロアパーツとの間に結合される複数の油圧シリンダを備え、前記ハウジングが、各油圧シリンダによって前記ハウジングの中央に支持される請求項3に記載のエアディスパーサ。
【請求項5】
前記シール機構として、伸縮自在な筒状のベローズを備え、前記ベローズは、前記ハウジングの中央に設けられ、且つ前記ロアパーツの上部外周を覆い、前記ハウジングと前記ロアパーツとの間を密閉する請求項3に記載のエアディスパーサ。
【請求項6】
前記シール機構として、摺動用のパッキンを備え、前記パッキンは、前記ハウジング及び前記ロアパーツの少なくとも一方の側に設けられ、前記ハウジングと前記ロアパーツとの間を密閉する請求項3に記載のエアディスパーサ。
【請求項7】
乾燥室内に噴霧される原液を熱風によって瞬時に乾燥させて粉体を生成するスプレードライヤ設備であって、
請求項1~6のいずれか1項に記載のエアディスパーサと、
前記乾燥室内に供給される熱風の温度分布を均一に近づけるための第1手段と、
前記乾燥室内に噴霧される原液の液滴径を一定に近づけるための第2手段と、
前記乾燥室内の温度分布を一定に保つための第3手段と、
少なくとも前記乾燥室内において、乾燥に必要な粉体の滞留時間を確保するための第4手段と、
前記乾燥室内の圧力を一定に保つための第5手段と、を備え、
60℃~30℃の範囲内の一定温度の熱風によって粉体の生成を可能としたスプレードライヤ設備。
【請求項8】
空気を送り込むための送風機と、
前記送風機から送り込まれた空気を加熱して熱風を生成するためのエアヒータと、
熱風を前記乾燥室内に供給するためのエアディスパーサと、
前記第1手段としての少なくとも1つのミキサー、温度センサ及び第1制御部と、を備え、
前記ミキサーは、少なくとも前記エアディスパーサの熱風の入口に設けられ、熱風の流路に配置された複数の撹拌羽を有し、前記撹拌羽によって撹拌された熱風の温度分布を均一に近づけ、
前記温度センサは、前記ミキサーよりも下流に設けられ、前記ミキサーによって温度分布を均一化された熱風の温度を検出し、
前記第1制御部は、前記温度センサの検出結果に基づいて、前記エアヒータの発熱量を制御することにより、前記乾燥室内に供給される熱風の温度を60℃~30℃の範囲内の一定温度に保つ、請求項7に記載のスプレードライヤ設備。
【請求項9】
原液を貯蔵する原液タンクと、
前記原液タンクに貯蔵された原液を移送するための原液ポンプと、
前記原液ポンプから供給された原液を前記乾燥室内に噴霧させるためのロータリアトマイザと、
前記第2手段としての脈動低減機構と、を備え、
前記脈動低減機構は、前記原液ポンプに組み込まれ、又は/及び、前記原液ポンプと前記ロータリアトマイザとの間の配管に設けられ、前記原液ポンプによって移送される原液の脈動を低減させることにより、前記ロータリアトマイザに供給される原液の瞬間流量を一定に近づけ、前記ロータリアトマイザから噴霧される原液の液滴径を10μm~100μmの範囲内の一定値に近づける、請求項7に記載のスプレードライヤ設備。
【請求項10】
前記第3手段としての保温空気層を備え、
前記保温空気層は、前記乾燥室の外壁を覆う空気層を形成し、前記乾燥室内の温度分布に生じた温度差を前記空気層に放熱又は吸熱させることによって、前記乾燥室内の温度分布を一定に保つ、請求項7に記載のスプレードライヤ設備。
【請求項11】
空気を送り込むための送風機と、
前記第4手段としての第2制御部と、を備え、
前記第2制御部は、前記送風機の送風量を制御することにより、少なくとも前記乾燥室内において、乾燥に必要な粉体の滞留時間を20秒~60秒の範囲内の一定時間を確保する請求項7に記載のスプレードライヤ設備。
【請求項12】
粉体の生成に用いられた熱風を排出するための排風機と、
前記第5手段としての圧力センサ及び第3制御部と、を備え、
前記圧力センサは、前記乾燥室内の圧力を検出し、
前記第3制御部は、前記圧力センサの検出結果に基づいて、前記排風機の排風量を制御することにより、前記乾燥室内の圧力を一定に保つ、請求項7に記載のスプレードライヤ設備。
【請求項13】
空気を送り込むための送風機と、
前記送風機から送り込まれた空気を加熱して熱風を生成するためのエアヒータと、
粉体の生成に用いられた熱風を排出するための排風機と、を備え、
前記エアヒータは、電気を熱源として熱を生成する構成であり、
粉体を生成するための熱風の温度が60℃~30℃の範囲内の一定温度であり、
前記乾燥室の出口における熱風の温度が42℃以下である、請求項7に記載のスプレードライヤ設備。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乾燥室内に供給される熱風の速度を制御することが可能なエアディスパーサ、及び従来よりも低温の熱風によって粉体を生成することが可能なスプレードライヤ設備に関する。
【背景技術】
【0002】
スプレードライヤは、原液を乾燥室内に噴霧し、連続的に熱風に接触させることで、瞬時に粉体を生成する乾燥設備である。噴霧の方式には、一般に、ノズル方式又はロータリアトマイザ方式が採用される。以下、スプレードライヤの構成について説明する。
図11は、本出願人の既存技術に係るスプレードライヤ設備を示す概略図である。
【0003】
図11に示すスプレードライヤ設備100は、乾燥室101及びサイクロン102を備える。このスプレードライヤ設備100は、二点捕集方式を採用しており、乾燥室101の下部と、サイクロン102の下部との二点において、生成された粉体が捕集される。乾燥室101では、流動性に優れた粉体が生成される。この粉体は、乾燥室101内を落下して、その下部に捕集される。一方、比較的に軽い粉体や微小な粉体は、ブロワーによって乾燥室101外へ吸引され、サイクロン102において捕集される。
【0004】
次に、乾燥室101の構成について、
図12及び
図13を参照しつつ説明する。
図12(a)において、乾燥室101は、上方が円筒形、下方が逆円錐形の壁部を有する。乾燥室101の天井には、エアディスパーサ110が設置されている。エアディスパーサ110の中央には、ロータリアトマイザ120が取り付けられている。一方、乾燥室101の壁面には、この壁面の形状に沿って曲折されたパイプ状のエアブルーム130が対向配置されている。
【0005】
図12(b)に示すように、エアディスパーサ110は、ハウジング111及びロアパーツ112を備える。ハウジング111は、中心が円形に開口したドーナツ状の外形を有する。ハウジング111内部には、環状の風道が形成されている。この風道は、ハウジング111中心の前記開口を包囲する。ハウジング111内部の風道に供給された熱風は、風道の形状に沿って旋回し、ロアパーツ112の外周面に向かって排出される。
【0006】
図13(a)に示すように、ロアパーツ112は、主として逆円錐状の壁部からなる。ロアパーツ112は、ハウジング111中心の前記開口内に懸架されている。ロアパーツ112のテーパー状の外周面は、ハウジング111からの熱風旋回流に曝される。ロアパーツ112の外周面の上部には、複数の上部ガイドベーン112aが、所定の角度で配置されている。ロアパーツ112の外周面における上部ガイドベーン112aの下側は、ガイドコーン112bによって包囲されている。ガイドコーン112bの内周面には、複数の下部ガイドベーン112cが、所定の角度で配置されている。
図13(b)に、上部ガイドベーン112a及び下部ガイドベーン112cの配置状態を示す。
【0007】
このようなロアパーツ112の下端開口には、ロータリアトマイザ120が懸架されている。ロータリアトマイザ120は、モータによって高速回転する円盤を備える。高速回転する円盤の中心に原液が供給されると、原液は、円盤面で加速され、円盤の周縁から高速飛散される。これにより、原液は、霧状となって乾燥室101内に噴霧される。そして、乾燥室101内に噴霧された原液は、エアディスパーサ110から乾燥室101内に供給される熱風旋回流に接触し、瞬間的に乾燥及び造粒される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2016-217629号公報
【特許文献2】特開2016-223689号公報
【特許文献3】特開2017-009171号公報
【特許文献4】特開2017-150808号公報
【特許文献5】特開2018-143927号公報
【特許文献6】特開2022-189024号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来のスプレードライヤ設備は、製造される粉体製品の品質を一定に保つため、比較的高温の熱風によって原液を乾燥させていた。例えば、研究開発用の小型スプレードライヤ設備であれば、乾燥室101の入口(エアディスパーサ110の内部に形成される環状の熱風吹出口と同義)における熱風の温度は、140℃~200℃程度に設定される。また、粉体製品の量産に用いられる小型、中型及び大型スプレードライヤ設備であれば、乾燥室101の入口における熱風の温度は、220℃~300℃程度に設定される。
【0010】
<粉体製品の品質低下の問題>
140℃以上の熱風の温度は、原液を瞬時に乾燥させるのに十分過ぎる高温である。高温に曝されて過剰に乾燥された粉体は、嵩が減少して硬くなり、品質が低い。
【0011】
<省エネルギー及びCO2削減の問題>
空気を加熱して熱風を生成するための熱源として、電気、液化天然ガス(LNG)、液化石油ガス(LPG)、灯油、重油などが用いられる。熱風の温度が高くなるほど、これら熱源の消費量が多くなる。従来は、140℃以上の過剰に高温の熱風を生成するために、熱源が無駄に消費されていた。また、200℃を超える高温の熱風を、電気ヒータによって大量かつ継続的に生成することは難しい。このため、200℃を超える高温の熱風を生成する場合は、電気以外の化石燃料が熱源に用いられる。しかし、化石燃料を熱源に用いると、大気中に大量の二酸化炭素が放出されることとなり、地球温暖化が進行してしまう。
【0012】
<屋内温度の問題>
乾燥室101の入口に供給される熱風の温度が高いほど、スプレードライヤ設備から排出される熱風の温度も高くなる。スプレードライヤ設備が屋内に設置される場合は、スプレードライヤ設備から排出される熱風によって、屋内が高温に加熱されてしまう。粉体製品の製造に携わる作業者は、常に、高温下で作業しなければならなかった。例えば、粉体製品の量産に用いられる小型、中型及び大型スプレードライヤ設備では、乾燥室101の入口における熱風の温度が220℃~300℃程度であり、乾燥室101の出口における熱風の温度が100℃~120℃程度である。少なくとも、乾燥室101の出口における熱風の温度を100℃未満に下げることができれば、最終的にスプレードライヤ設備から排出される熱風の温度が許容範囲内になる。
【0013】
<低温乾燥の問題>
本出願人は、既存のスプレードライヤ設備をそのまま用いて、乾燥室101の入口における熱風の温度を120℃に設定して粉体製品の製造を試みた。しかし、120℃の熱風では、乾燥室内に噴霧された原液を十分に乾燥させることができず、未乾燥の液滴が乾燥室の内壁面に付着してしまった。乾燥室の内壁面に付着した液滴は、時間の経過とともに乾燥し、硬化粉となって剥がれ落ち、粉体製品の不均一化を招いた。
【0014】
<熱風の更なる温度低下>
本出願人は、特開2022-189024号公報(特許文献6)において、120℃~70℃の低温の熱風によって粉体製品を製造することが可能なスプレードライヤ設備を提案する。しかし、省エネルギー及びCO2削減の観点から、粉体製品を製造するための熱風の温度はより低いことが望ましい。特に、2022年のロシアのウクライナ侵攻以来、国際的な燃料価格が高騰しており、経済的な観点からも、熱風の更なる温度低下が望まれる。
【0015】
<本発明の目的>
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、乾燥室内に供給される熱風の速度を制御することが可能なエアディスパーサ、及び60℃~30℃の低温の熱風によって粉体を生成することができ、これにより、粉体製品の品質を向上させることができ、省エネルギー及びCO2削減に寄与し、さらに、作業者の労働環境の改善を図ることができるスプレードライヤ設備の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
(1)上記目的を達成するために、本発明のエアディスパーサは、スプレードライヤ設備を構成する乾燥室の上部に設置され、前記乾燥室内に供給される熱風の旋回流を制御するためのエアディスパーサであって、中央に円形の第1開口が設けられたドーナツ状の外形を有し、前記ドーナツ状の外形の内部に環状の風道が形成されるハウジングと、前記第1開口に挿入される逆円錐台形状の壁部を有し、前記第1開口と前記壁部との間に環状の熱風吹出口を形成するロアパーツと、前記熱風吹出口の幅を全周にわたって均一に変化させることが可能であり、前記熱風吹出口を通過する熱風の速度を変化させるための風速調整手段と、を備える。
【0017】
(2)好ましくは、上記(1)のエアディスパーサにおいて、前記風速調整手段として、前記ハウジングの前記第1開口の直径よりも小さく、且つ前記ロアパーツの前記壁部のうち、前記第1開口に挿入された部分の外径よりも大きい直径を有する円形の第2開口が設けられた少なくとも1つのアタッチメントを備え、前記ハウジングと前記ロアパーツとの間に前記アタッチメントを介在させることによって、前記熱風吹出口の幅を全周にわたって均一に変化させる。
【0018】
(3)好ましくは、上記(1)のエアディスパーサにおいて、前記風速調整手段として、前記ハウジングの前記第1開口に挿入された前記ロアパーツを昇降させることが可能な駆動機構と、前記ハウジングと前記ロアパーツとの間を密閉し、前記ハウジングの前記風道から前記熱風吹出口に供給される熱風の漏出を防止するためのシール機構と、を備え、
前記ハウジングの前記第1開口に挿入された前記ロアパーツを昇降させることによって、前記熱風吹出口の幅を全周にわたって均一に変化させる。
【0019】
(4)好ましくは、上記(3)のエアディスパーサにおいて、前記駆動機構として、前記ハウジングと前記ロアパーツとの間に結合される複数の油圧シリンダを備え、前記ハウジングが、各油圧シリンダによって前記ハウジングの中央に支持される。
【0020】
(5)好ましくは、上記(3)のエアディスパーサにおいて、前記シール機構として、伸縮自在な筒状のベローズを備え、前記ベローズは、前記ハウジングの中央に設けられ、且つ前記ロアパーツの上部外周を覆い、前記ハウジングと前記ロアパーツとの間を密閉する。
【0021】
(6)好ましくは、上記(3)のエアディスパーサにおいて、前記シール機構として、摺動用のパッキンを備え、前記パッキンは、前記ハウジング及び前記ロアパーツの少なくとも一方の側に設けられ、前記ハウジングと前記ロアパーツとの間を密閉する。
【0022】
(7)上記目的を達成するために、本発明のスプレードライヤ設備は、乾燥室内に噴霧される原液を熱風によって瞬時に乾燥させて粉体を生成するスプレードライヤ設備であって、上記(1)~(6)のいずれかのエアディスパーサと、前記乾燥室内に供給される熱風の温度分布を均一に近づけるための第1手段と、前記乾燥室内に噴霧される原液の液滴径を一定に近づけるための第2手段と、前記乾燥室内の温度分布を一定に保つための第3手段と、少なくとも前記乾燥室内において、乾燥に必要な粉体の滞留時間を確保するための第4手段と、前記乾燥室内の圧力を一定に保つための第5手段と、を備え、60℃~30℃の範囲内の一定温度の熱風によって粉体の生成を可能とする。
【0023】
(8)好ましくは、上記(7)のスプレードライヤ設備において、空気を送り込むための送風機と、前記送風機から送り込まれた空気を加熱して熱風を生成するためのエアヒータと、熱風を前記乾燥室内に供給するためのエアディスパーサと、前記第1手段としての少なくとも1つのミキサー、温度センサ及び第1制御部と、を備え、前記ミキサーは、少なくとも前記エアディスパーサの熱風の入口に設けられ、熱風の流路に配置された複数の撹拌羽を有し、前記撹拌羽によって撹拌された熱風の温度分布を均一に近づけ、前記温度センサは、前記ミキサーよりも下流に設けられ、前記ミキサーによって温度分布を均一化された熱風の温度を検出し、前記第1制御部は、前記温度センサの検出結果に基づいて、前記エアヒータの発熱量を制御することにより、前記乾燥室内に供給される熱風の温度を60℃~30℃の範囲内の一定温度に保つ。
【0024】
(9)好ましくは、上記(7)のスプレードライヤ設備において、原液を貯蔵する原液タンクと、前記原液タンクに貯蔵された原液を移送するための原液ポンプと、前記原液ポンプから供給された原液を前記乾燥室内に噴霧させるためのロータリアトマイザと、前記第2手段としての脈動低減機構と、を備え、前記脈動低減機構は、前記原液ポンプに組み込まれ、又は/及び、前記原液ポンプと前記ロータリアトマイザとの間の配管に設けられ、前記原液ポンプによって移送される原液の脈動を低減させることにより、前記ロータリアトマイザに供給される原液の瞬間流量を一定に近づけ、前記ロータリアトマイザから噴霧される原液の液滴径を10μm~100μmの範囲内の一定値に近づける。
【0025】
(10)好ましくは、上記(7)のスプレードライヤ設備において、前記第3手段としての保温空気層を備え、前記保温空気層は、前記乾燥室の外壁を覆う空気層を形成し、前記乾燥室内の温度分布に生じた温度差を前記空気層に放熱又は吸熱させることによって、前記乾燥室内の温度分布を一定に保つ。
【0026】
(11)好ましくは、上記(7)のスプレードライヤ設備において、空気を送り込むための送風機と、前記第4手段としての第2制御部と、を備え、前記第2制御部は、前記送風機の送風量を制御することにより、少なくとも前記乾燥室内において、乾燥に必要な粉体の滞留時間を20秒~60秒の範囲内の一定時間を確保する。
【0027】
(12)好ましくは、上記(7)のスプレードライヤ設備において、粉体の生成に用いられた熱風を排出するための排風機と、前記第5手段としての圧力センサ及び第3制御部と、を備え、前記圧力センサは、前記乾燥室内の圧力を検出し、前記第3制御部は、前記圧力センサの検出結果に基づいて、前記排風機の排風量を制御することにより、前記乾燥室内の圧力を一定に保つ。
【0028】
(13)好ましくは、上記(7)のスプレードライヤ設備において、空気を送り込むための送風機と、前記送風機から送り込まれた空気を加熱して熱風を生成するためのエアヒータと、粉体の生成に用いられた熱風を排出するための排風機と、を備え、前記エアヒータは、電気を熱源として熱を生成する構成であり、粉体を生成するための熱風の温度が60℃~30℃の範囲内の一定温度であり、前記乾燥室の出口における熱風の温度が42℃以下である。
【発明の効果】
【0029】
本発明のエアディスパーサによれば、乾燥室内に供給される熱風の速度を制御することが可能となる。すなわち、乾燥室内に噴霧される原液を乾燥させるための熱風の温度に応じて、この熱風の速度を最適に調整することができる。例えば、乾燥室内に供給される熱風の速度を速くすることにより、乾燥室内に噴霧される原液に接触する単位時間当たりの風量を増大させることが可能となる。この結果、従来よりも低温の熱風によって、乾燥室内に噴霧される原液を乾燥させることができるようになる。
【0030】
そして、このようなエアディスパーサを備えた本発明のスプレードライヤ設備によれば、60℃~30℃の一定温度の熱風によって粉体を生成することが可能となる。これにより、粉体製品の品質を向上させることができ、省エネルギー及びCO2削減に寄与し、さらに、作業者の労働環境の改善を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態に係るスプレードライヤ設備を示す概略図である。
【
図2】
図2は、本発明の第1実施形態に係るエアディスパーサの分解図であり、
図1のスプレードライヤ設備に設けられる。
【
図4】
図4は、本発明の第2実施形態に係るエアディスパーサの概略図であり、
図1のスプレードライヤ設備に設けられる。
【
図5】
図5は、
図4のエアディスパーサを構成するロアパーツの昇降動作を示す概略図であり、
図5(a)は上記ロアパーツの下降状態、
図5(b)は上記ロアパーツの上昇状態を示す。
【
図6】
図6は、本発明の第3実施形態に係るエアディスパーサの概略図であり、
図1のスプレードライヤ設備に設けられる。
【
図7】
図7は、
図6のエアディスパーサを構成するロアパーツの昇降動作を示す概略図であり、
図7(a)は上記ロアパーツの下降状態、
図7(b)は上記ロアパーツの上昇状態を示す。
【
図8】
図8は、
図1のスプレードライヤ設備に設けられるミキサーを示すものであり、
図8(a)は正面図、
図8(b)は
図8(a)のA-A線断面図である。
【
図9】
図9は、上記スプレードライヤ設備に設けられるロータリアトマイザを示す断面図である。
【
図10】
図10は、上記ロータリアトマイザに設けられた上ディストリビュータ、下ディストリビュータ及び回転ホイールを示すものであり、
図10(a)は分解図、
図10(b)は組立図、
図10(c)は回転ホイールの平面図、
図10(d)は原液の流れを示す模式図である。
【
図11】
図11は、従来のスプレードライヤ設備を示す概略図である。
【
図12】
図12は、従来のスプレードライヤ設備を構成する乾燥室を示すものあり、
図12(a)は乾燥室全体の概略図、
図12(b)は上記乾燥室に備えられたエアディスパーサの概略図である。
【
図13】
図13は、上記エアディスパーサを構成するロアパーツを示すものであり、
図13(a)はロアパーツの概略図、
図13(b)は上記ロアパーツの上部ガイドベーン及び下部ガイドベーンの角度を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の実施形態に係るエアディスパーサ、及びこれを備えたスプレードライヤ設備について、
図1~
図10を参照しつつ説明する。
【0033】
1.スプレードライヤ設備の概要
図1に示すように、本実施形態のスプレードライヤ設備1は、乾燥室10、サイクロン40及びバグフィルタ50を備える。このスプレードライヤ設備1は、二点捕集方式を採用しており、サイクロン40の下部と、バグフィルタ50の下部との二点において、生成された粉体製品が捕集される。乾燥室10内で生成された粉体は、乾燥室10の下部からサイクロン40に吸引される。サイクロン40は、吸引された粉体を遠心力で分離させ、流動性に優れた粉体を捕集する。比較的に軽い粉体や微小な粉体は、サイクロン40からバグフィルタ50に吸引され、バグフィルタ50に捕集される。
【0034】
乾燥室10の天井には、エアディスパーサ11が設置されている。エアディスパーサ11の中央には、ロータリアトマイザ20が取り付けられている。例えば、
図2及び
図3に示すように、本実施形態のエアディスパーサ11は、
図12(b)に示すものと同様のハウジング111及びロアパーツ112を備える。ハウジング111は、中心が円形に開口したドーナツ状の外形を有する。ハウジング111の内部には、環状の風道111aが形成される。この風道111aは、ハウジング111の中央に設けられた円形の第1開口111bを包囲する。一方、ロアパーツ112は、逆円錐台形状の壁部を有する。ロアパーツ112の壁部は、ハウジング111の第1開口111bに挿入され、この壁部と第1開口111bとの間に環状の熱風吹出口が形成される。ハウジング111の内部の風道111aに供給された熱風は、風道111aの形状に沿って旋回し、環状の熱風吹出口からロアパーツ112の逆円錐台形状の壁部に向かって排出される。
【0035】
ロアパーツ112の下端開口には、
図9に示すロータリアトマイザ20が懸架されている。ロータリアトマイザ20は、モータ22によって高速回転する円盤状の回転ホイール27を備える。高速回転する回転ホイール27の入口27b(
図10(c)を参照)に原液が供給されると、原液は、円盤面で加速され、円盤の周縁に設けられた格子状の出口から高速飛散される。これにより、原液は、霧状となって乾燥室10内に噴霧される。そして、乾燥室10内に噴霧された原液は、エアディスパーサ11の熱風吹出口から乾燥室10内に供給される熱風旋回流に接触し、瞬間的に乾燥及び造粒される。
【0036】
なお、次に述べる本発明の低温乾燥の技術は、乾燥室10の直径が960~8000mm程度、水分蒸発量1~1200kg/程度のスプレードライヤ設備1に適用することが可能である。
【0037】
2.低温乾燥を実現するための手段
図2~
図7は、本発明の第1~第3実施形態に係るエアディスパーサ11を示す。第1~第3本実施形態のエアディスパーサ11は、いずれも乾燥室10内に供給される熱風の速度を制御することが可能な構成となっている。すなわち、乾燥室10内に噴霧される原液を乾燥させるための熱風の温度に応じて、この熱風の速度を最適に調整することができる。以下、第1~第3実施形態に係るエアディスパーサ11について、
図2~
図7を参照しつつ説明する。
【0038】
2-1.第1実施形態に係るエアディスパーサ
図2及び
図3は、本発明の第1実施形態に係るエアディスパーサ11を示す。第1実施形態のエアディスパーサ11は、乾燥室10内に供給される熱風の風速調整手段としてのアタッチメント113を備える。
【0039】
図2に示すように、アタッチメント113は、円環状の金属板であり、円形の第2開口113aが設けられている。第2開口の直径R2は、ハウジング111の第1開口111bの直径R1よりも小さく、且つロアパーツ112の逆円錐台形状の壁部のうち、第1開口111bに挿入された部分の外径よりも大きい。
【0040】
図3に示すように、アタッチメント113は、ハウジング111の第1開口111bと中心軸を一致させて、第1開口111bの上縁部に装着される。これにより、ハウジング111とロアパーツ112との間にアタッチメント113が介在し、熱風吹出口の幅が全周にわたって均一に変化する。具体的には、ハウジング111の内部に形成される環状の熱風吹出口の外径が、第1開口111bの直径R1から第2開口113aの直径R2に減少される。これにより、熱風吹出口から乾燥室10内に供給される熱風の速度が速くなり、乾燥室10内に噴霧される原液に接触する単位時間当たりの風量が増大する。この結果、従来よりも低温の熱風によって、乾燥室10内に噴霧される原液を乾燥させることが可能となる。
【0041】
好ましくは、第2開口113aの直径R2が異なる複数のアタッチメント113を用意し、熱風の温度に応じて、原液の乾燥に最適な風速となるアタッチメント113を選択的に使用するとよい。
【0042】
2-2.第2実施形態に係るエアディスパーサ
図4及び
図5は、本発明の第2実施形態に係るエアディスパーサ11を示す。第2実施形態のエアディスパーサ11は、乾燥室10内に供給される熱風の風速調整手段としての複数の油圧シリンダ114及びベローズ115を備える。
【0043】
図4に示すように、複数の油圧シリンダ114は、ハウジング111に対してロアパーツ112を昇降させるための駆動機構を構成する。各油圧シリンダ114は、シリンダチューブを上に向け、ピストンロッドを下に向けて垂直に設置される。ピストンロッドの先端は、ハウジング111の中央の段差部に結合される。一方、シリンダチューブの後端は、ロアパーツ112の上縁から外側に突出するフランジ部に結合される。各油圧シリンダ114は、ハウジング111に対してロアパーツ112を昇降可能に支持する。油圧シリンダ114の数は、3つ以上であることが好ましい。例えば、3つの油圧シリンダ114を120°間隔でハウジング111の段差部に設置し、第1開口111bに挿入されたロアパーツ112のフランジ部を3点で支持する。
【0044】
ベローズ115は、伸縮性及び気密性を備えた筒状の蛇腹で構成される。ベローズ115の下端は、ハウジング111の中央の段差部に気密接合される。一方、ベローズ115の上端は、ロアパーツ112のフランジ部に気密接合される。ベローズ115は、ハウジング111の中央から突出するロアパーツ112の上部外周を覆い、ハウジング111とロアパーツ112との間を密閉する。このようなベローズ115は、複数の油圧シリンダ114によってロアパーツ112を昇降させたときに伸縮し、ハウジング111の風道111aから熱風吹出口に供給される熱風の漏出を防止する。
【0045】
本実施形態のエアディスパーサ11では、ハウジング111の第1開口111bと、これに挿入されるロアパーツ112の逆円錐台形状の壁部とによって、環状の熱風吹出口(
図5中のW1を参照)が形成される。
【0046】
図5(a)は、ロアパーツ112の下降状態を示す。複数の油圧シリンダ114のピストンロッドを収縮させると、ロアパーツ112は下降状態になる。ロアパーツ112を下降させると、ロアパーツ112の逆円錐台形状の壁部が第1開口111bに接近し、環状の熱風吹出口の幅W1は狭くなる。これにより、熱風吹出口から乾燥室10内に供給される熱風の速度が速くなる。
【0047】
ここで、
図4に示すガイドコーン112bは、ロアパーツ112の逆円錐台形状の壁に固定されていない。このため、
図5(a)に示すように、ロアパーツ112を下降させると、ロアパーツ112の逆円錐台形状の壁部が、ガイドコーン112bの内面に接近し、両者の間に形成される熱風の流路の幅W2は狭くなる。これにより、ロータリアトマイザ20の回転ホイール27(
図4を参照)に向かう熱風の速度が速くなる。
【0048】
図5(b)は、ロアパーツ112の上昇状態を示す。複数の油圧シリンダ114のピストンロッドを伸長させると、ロアパーツ112は上昇状態になる。ロアパーツ112を上昇させると、ロアパーツ112の逆円錐台形状の壁部が第1開口111bから離反し、環状の熱風吹出口の幅W1は広くなる。これにより、熱風吹出口から乾燥室10内に供給される熱風の速度が遅くなる。
【0049】
さらに、
図5(b)に示すように、ロアパーツ112を上昇させると、ロアパーツ112の逆円錐台形状の壁部が、ガイドコーン112bの内面から離反し、両者の間に形成される熱風の流路の幅W2は広くなる。これにより、ロータリアトマイザ20の回転ホイール27(
図4を参照)に向かう熱風の速度が遅くなる。
【0050】
以上述べたように、第2実施形態に係るエアディスパーサ11によれば、ハウジング111の第1開口111bに挿入されたロアパーツ112を昇降させることによって、熱風吹出口の幅W1と、回転ホイール27に向かう熱風の流路の幅W2とを全周にわたって均一に変化させることが可能となる。これにより、熱風の温度に応じて、原液の乾燥に最適な風速に調整することができる。
【0051】
2-3.第3実施形態に係るエアディスパーサ
図6及び
図7は、本発明の第3実施形態に係るエアディスパーサ11を示す。第3実施形態のエアディスパーサ11は、乾燥室10内に供給される熱風の風速調整手段としての複数の油圧シリンダ114、環状ガイド116及びパッキン117を備える。
【0052】
なお、ロアパーツ112を昇降させるための駆動機構である複数の油圧シリンダ114は、上述した第2実施形態と同じ構成であるため、同一の符号を付して詳細な説明は省略する。
【0053】
図6に示すように、環状ガイド116及びパッキン117は、第2実施形態のベローズ115に代替されるシール機構である。環状ガイド116は、ロアパーツ112の上部外径よりも若干大きい内径を有する軸受部材である。環状ガイド116の内周には、パッキン117を収納するための環状の凹溝が設けられている。このような環状ガイド116は、ハウジング111の第1開口111bと中心軸を一致させて、ハウジング111の中央の段差部に固定される。一方、パッキン117は、例えば、断面がU字形、V字形、L字形、J字形などの摺動用のリップパッキンである。
【0054】
ハウジング111の第1開口111bにロアパーツ112が挿入されると、ロアパーツ112の上部外周面が、環状ガイド116の内周面に対向する。複数の油圧シリンダ114によるロアパーツ112の昇降動作は、環状ガイド116によってガイドされる。一方、パッキン117は、セルフシール作用により、ハウジング111とロアパーツ112との間を密閉する。すなわち、ハウジング111とロアパーツ112との間に形成される内部空間の圧力は、風道111aから供給される熱風によって高まる。この圧力を受けてパッキン117が全周にわたって変形し、ロアパーツ112の上部外周面に密着する。このようなパッキン117のセルフシール作用により、ロアパーツ112を昇降させた場合でも、風道111aから熱風吹出口に供給される熱風の漏出が防止される。
【0055】
図7(a)、(b)に示すように、第3実施形態に係るエアディスパーサ11によれば、ハウジング111の第1開口111bに挿入されたロアパーツ112を昇降させることによって、熱風吹出口の幅W1と、回転ホイール27に向かう熱風の流路の幅W2とを全周にわたって均一に変化させることが可能となる。これにより、熱風の温度に応じて、原液の乾燥に最適な風速に調整することができる。
【0056】
2-4.より精密な制御を実現するための第1~第5手段
本実施形態のスプレードライヤ設備1は、60℃~30℃の比較的低温の熱風によって、粉体製品の大量生産を可能とするための第1~第5手段を備える。
【0057】
2-4-1.第1手段
第1手段は、乾燥室10内に供給される熱風の温度分布を均一に近づける。熱風は、
図1に示す第1フィルタ12、送風機13、エアヒータ14及び第2フィルタ15によって生成され、ダクト81を通じてエアディスパーサ11に供給される。
【0058】
送風機13は、第1フィルタ12を介して、外部の空気をダクト81内に送り込む。空気中に含まれる塵埃などの不純物は、第1フィルタ12によって除去され、浄化された空気がダクト81に送り込まれる。ダクト81に送り込まれた空気は、エアヒータ14によって加熱されて所定温度の熱風となる。熱風は、第2フィルタ15によって浄化される。第2フィルタ15としては、HEPAフィルタ(High Efficiency Particulate Air Filter)を用いることが好ましい。HEPAフィルタは、定格風量で粒径が0.3μmの粒子に対して99.97%以上の粒子捕集率を有しており、かつ初期圧力損失が245Pa以下の性能を有する。第2フィルタ15によって浄化された熱風は、ダクト81を通じてエアディスパーサ11の入口11aに供給される。
【0059】
ここで、本実施形態のスプレードライヤ設備1は、上述した第1手段として、少なくとも1つのミキサー16、温度センサ11b及び第1制御部71を備える。このような第1手段により、乾燥室10内に供給される熱風の温度分布を均一に近づけることができる。
【0060】
ミキサー16は、少なくともエアディスパーサ11の熱風の入口11aに設けられる。
図8(a)、(b)に示すように、ミキサー16は、金属板から作られた本体16a及び複数の撹拌羽16dを有する。本体16aは、
図1に示すダクト81の出口と、エアディスパーサ11の入口11aとにそれぞれ設けられたフランジの形状に対応する円形となっている。本体16aには、ボルトを挿通するための複数の貫通孔16bが等間隔で設けられている。本体16aの中央には、ダクト81の出口と、エアディスパーサ11の入口11aとのそれぞれの内径と同じ直径の開口16cが形成されている。開口16cの円周に沿って、複数の撹拌羽16dが等間隔に設けられている。
【0061】
ダクト81から供給される熱風は、
図8(b)中の矢印で示す送風方向に流れ、ミキサー16を通過する。このとき、熱風が複数の撹拌羽16dによって撹拌される。これにより、ミキサー16を通過して、エアディスパーサ11の入口11aに供給される熱風の温度分布が均一に近づく。その後、熱風は、エアディスパーサ11のハウジング内部の風道の形状に沿って旋回し、ロアパーツ112の逆円錐台形状の壁部に向かって排出される。
【0062】
ここで、エアディスパーサ11の入口11aに供給される熱風の温度分布が不均一となる原因は、エアヒータ14の出口からエアディスパーサ11の入口11aまでの間のダクト81の温度分布が不均一になるからである。ダクト81の外周壁は、外部環境の温度の影響を受けるため、ダクト81の断面方向に温度分布に不均一を生じる。この結果、ダクト81を流れる熱風の断面方向に温度分布の不均一が生じる。このような熱風の温度分布の不均一は、ミキサー16の複数の撹拌羽16dによって解消される。ダクト81の長さ及び内径は、スプレードライヤ設備1の処理能力に応じて設定されるが、例えば、長さ2mm、内径100mmである。この場合、ミキサー16の開口16cの直径も100mmとなる。無駄な放熱を最小に抑えるために、ダクト81の長さは、短いほど好ましい。ダクト81を長くする場合には、その途中に別のミキサー16を追加することが好ましい。さらに、ダクト81の断面方向の温度分布を均一にするため、ダクト81の外周壁を断熱材で被覆してもよい。
【0063】
図1に示すように、温度センサ11bは、エアディスパーサ11の入口11aの直後のハウジング111内に設けられており、ミキサー16によって温度分布を均一化された熱風の温度を検出する。温度センサ11bによって検出された温度情報は、第1制御部71に送信される。第1制御部71は、温度センサ11bからの温度情報に基づいて、エアヒータ14の発熱量を可変制御する。これにより、エアディスパーサ11の入口11aにおける熱風の温度が60℃~30℃の範囲内の一定温度に保たれる。
【0064】
ここで、第1制御部71としては、市販されている温度指示調節計を用いることができる。本実施形態では、ミキサー16によって温度分布を均一化された熱風の温度を温度センサ11bによって検出しているので、温度センサ11bから送信される温度情報の精度が高い。これにより、第1制御部71によるエアヒータ14の発熱量の制御も高精度に行われるようになる。
【0065】
上述した第1手段によれば、乾燥室10内に噴霧される原液を乾燥させるための熱風の温度分布が均一化される。これにより、熱風の温度が60℃~30℃の範囲内の低温であったとしても、乾燥室10内に噴霧される原液の液滴が、一定温度の熱風に曝されて均一に乾燥される。
【0066】
2-4-2.第2手段
第2手段は、乾燥室10内に噴霧される原液の液滴径を一定に近づける。原液は、
図1に示す原液タンク31に貯蔵される。原液タンク31に貯蔵された原液は、原液ポンプ32によって移送され、配管82を通じてロータリアトマイザ20に供給される。ロータリアトマイザ20は、原液ポンプ32から供給された原液を乾燥室10内に噴霧させる。
【0067】
図9に示すように、ロータリアトマイザ20は、ベースプレート21の上方に取り付けられたモータ22を備える。モータ22の回転軸は、スピンドル23に連結される。スピンドル23は、ベースプレート21の中央を垂直に貫通する。スピンドル23の下端側は、下部フランジ25の軸受に回転可能に保持される。一方、ベースプレート21の図中右側には、原液パイプ24が斜めに貫通する。原液パイプ24の上端は、原液の入口24aとなっている。原液パイプ24の下端は、原液の出口24bとなっている。原液パイプ24の出口24bは、下部フランジ25に設けられた貫通孔25aに連通する。下部フランジ25の下面には、上ディストリビュータ26Aが取り付けられる。
【0068】
図10(a)、(b)に示すように、上ディストリビュータ26Aは、下ディストリビュータ26Bの中に収納される。下ディストリビュータ26Bの下方には、回転ホイール27が配置される。上ディストリビュータ26Aには、第1流路261、第2流路262及び第3流路263が形成される。一方、下ディストリビュータ26Bには、第4流路264が形成される。第1流路261及び第2流路262は、第3流路263の上端縁を包囲する円環状の凹部である。第3流路263と第4流路264とは、互いに同一の内径を有する。
図10(b)、(c)に示すように、上ディストリビュータ26Aを下ディストリビュータ26Bの中に収納した状態において、第1流路261、第2流路262、第3流路263及び第4流路264は、回転ホイール27の原液入口27bに連続する1つの流路を形成する。
【0069】
図9に示すように、スピンドル23の下端側は、上ディストリビュータ26A及び下ディストリビュータ26Bの中央を貫通し、回転ホイール27の取付孔27aに結合される。上ディストリビュータ26Aの第1流路261には、下部フランジ25の貫通孔25aを通じて、原液パイプ24の出口24bから原液が供給される。第1流路261に供給された原液は、
図10(d)に示すように第1流路261、第2流路262、第3流路263及び第4流路264を流れ、回転ホイール27の原液入口27bに均一に供給される。回転ホイール27は、モータ22によって高速回転され、遠心力により原液の液滴を水平方向に噴霧させる。例えば、回転ホイール27の直径は50mmであり、回転数30000rpmで高速回転させる。
【0070】
なお、ロータリアトマイザ20におけるベースプレート21の下側から下ディストリビュータ26Bまでの構成要素は、逆円錐台形のジャケットスカート28に覆われる。ジャケットスカート28の内部空間には、保温材が充填される。
【0071】
ここで、本実施形態のスプレードライヤ設備1は、上述した第2手段として、
図1に示す脈動低減機構32a、33のうちの少なくとも一方を備える。脈動低減機構32aは、原液ポンプ32に組み込まれる。一方、脈動低減機構33は、原液ポンプ32の出口と、ロータリアトマイザ20の原液パイプ24の入口24との間の配管82に設けられる。脈動低減機構32a、33は、原液ポンプ32によって移送される原液の脈動を低減させることにより、ロータリアトマイザ20に供給される原液の瞬間流量を一定に近づけ、ロータリアトマイザ20から噴霧される原液の液滴径を10μm~100μmの範囲内の一定値に近づける。
【0072】
原液ポンプ32に組み込まれる脈動低減機構32aとして、例えば、原液ポンプ32を、2つ以上のローラを備えたチューブポンプとし、第1ローラがチューブから離れたときに生じる脈動を、第2ローラの加速動作によって打ち消す構成にする。また例えば、原液ポンプ32を、2つ以上のダイヤフラムを備えた多連型往復動ポンプとし、各ダイヤフラムの往復動の開始タイミングをずらす構成とする。2つのダイヤフラムを備える場合は、往復動の開始タイミングを180度ずらす。3つのダイヤフラムを備える場合は、往復動の開始タイミングを120度ずらす。ダイヤフラムの数が多い方が、原液の脈動がより低減される。
【0073】
一方、配管82に設けられる脈動低減機構33として、例えば、配管82にエアチャンバ又はアキュムレータを設けてもよい。エアチャンバは、空気室の空気圧を利用して原液ポンプ32の脈動を押さえる。アキュムレータは、球状の容器内にゴム膜で隔離された窒素ガスが封入された構成となっている。封入された窒素ガスが、ゴム膜を介して膨張と収縮とを繰り返すことにより、原液の脈動を吸収する。
【0074】
上述した第2手段によれば、原液ポンプ32によって移送される原液の脈動を低減され、ロータリアトマイザ20の原液パイプ24の入口24aに供給される原液の瞬間流量を一定に近づけることができる。これにより、単位時間あたりに一定量の原液が、上ディストリビュータ26Aの第1流路261に供給され、
図10(d)に示す流れによって、回転ホイール27の原液入口27bに均一に供給される。この結果、ロータリアトマイザ20から噴霧される原液の液滴径が10μm~100μmの範囲内の一定値に近づく。10μm~100μmは、60℃~30℃の範囲内の低温の熱風により乾燥させることが可能な原液の液滴径の数値範囲である。
【0075】
2-4-3.第3手段
第3手段は、乾燥室10内の温度分布を一定に保つ。実施形態のスプレードライヤ設備1は、第3手段として、
図1に示す保温空気層10aを備える。保温空気層10aは、乾燥室10の外壁を覆う空気層を形成する。保温空気層10aは、乾燥室10内の温度分布に生じた温度差を空気層に放熱又は吸熱させることによって、乾燥室10内の温度分布を一定に保つ。
【0076】
2-4-4.第4手段
第4手段は、粉体製品の品質に影響する乾燥のための設備において、乾燥に必要な粉体の滞留時間を確保する。実施形態のスプレードライヤ設備1は、第4手段として、
図1に示す第2制御部72を備える。第2制御部72は、送風機13の送風量を予め設定された値に制御することにより、乾燥室10及びサイクロン40内に、粉体を20秒~60秒の範囲内の一定時間だけ滞留させる。20秒~60秒は、60℃~30℃の範囲内の低温の熱風によって、液滴径10μm~100μmの原液を十分に乾燥させるために必要な滞留時間の数値範囲である。
【0077】
なお、スプレードライヤ設備1が、乾燥室10とバグフィルタ50とで構成されている場合、第2制御部72は、乾燥室10内における粉体の滞留時間が20秒~60秒となるように、送風機13の送風量を制御してもよい。また、スプレードライヤ設備1が、乾燥室10及びサイクロン40に加えて、第3の乾燥設備を備えている場合、第2制御部72は、乾燥室10、サイクロン40及び第3の乾燥設備における粉体の滞留時間が20秒~60秒となるように、送風機13の送風量を制御してもよい。
【0078】
2-4-5.第5手段
第5手段は、乾燥室10内の圧力を一定に保つ。実施形態のスプレードライヤ設備1は、第5手段として、
図1に示す圧力センサ10b及び第3制御部73を備える。
【0079】
図1に示すように、バグフィルタ50の排気口は、ダクト81を介して、排風機60の入口に接続されている。排風機60は、粉体の生成に用いられた熱風を、スプレードライヤ設備1の外部に排出する。排風機60の排風量は、乾燥室10内の圧力に影響を与える。圧力センサ10bは、乾燥室10内の圧力を検出し、圧力情報を第3制御部72に送信する。第3制御部72は、圧力センサ10bの検出結果に基づいて、排風機60の排風量を可変制御する。これにより、乾燥室10内が一定圧力に保たれる。
【0080】
3.作用効果
本実施形態のスプレードライヤ設備1は、上述したエアディスパーサ11及び第1~第5手段によって、粉体製品の製造過程における下記a)~f)の状態を維持することができ、60℃~30℃の低温の熱風による粉体製品の製造が可能となる。
a)乾燥室10内に供給される熱風の温度分布を均一に近づける。
b)乾燥室10内に供給される熱風の温度に応じて風速を最適化する。
c)乾燥室10内に噴霧される原液の液滴径を一定に近づける。
d)乾燥室10内の温度分布を一定に保つ。
e)乾燥室10及びサイクロン40内における粉体の滞留時間を確保する。
f)乾燥室10内の圧力を一定に保つ。
【0081】
60℃~30℃の低温の熱風によって製造された粉体製品は、高温によって過剰に乾燥されておらず、嵩が増加して軟らかくなり、品質が向上する。
【0082】
空気を60℃~30℃に加熱するための熱源は、電気で十分であり、加熱に必要な消費電力を節約することができる。また、熱源に化石燃料を使用する必要がないので、大気中に二酸化炭素を排出しない。したがって、本実施形態のスプレードライヤ設備1は、省エネルギー及びCO2削減に寄与する。
【0083】
60℃~30℃の低温の熱風によって、液滴径10μm~100μmの原液を乾燥させた場合、乾燥室10の出口における熱風の温度は、42℃~29℃の範囲内になる。その後、サイクロン40及びバグフィルタ50を経て、排風機60から排気される熱風の温度は、さらに低くなる。これにより、スプレードライヤ設備1から排出される熱風によって、屋内が高温に加熱されてしまうことがなく、作業者の労働環境の改善を図ることができる。
【0084】
4.その他
本発明のスプレードライヤ設備は、上述した実施形態に限定されるものではない。例えば、
図1に示すスプレードライヤ設備1は、二点捕集方式の大気開放型である。しかし、本発明の低温乾燥の技術は、二点捕集方式以外の大気開放型又は循環型のスプレードライヤ設備にも適用することができる。
【0085】
本発明のスプレードライヤ設備は、60℃~30℃の極めて低温の熱風によって対象物を乾燥させることが可能である。このため、気温が40℃~30℃の環境において、本発明のスプレードライヤ設備を使用する場合は、外気を加熱しないで、そのまま対象物の乾燥に用いることができ、自然熱を有効活用することができる。例えば、40℃~30℃の外気は、厳密な品質が要求されない汚泥乾燥にそのまま用いることが可能である。
【0086】
さらに、40℃~30℃の外気を用いて対象物を乾燥させた場合、本発明のスプレードライヤ設備の排気温度は、39℃~29℃の範囲内となり、このような低温の排気を、別の対象物の冷却に有効利用することができる。
【符号の説明】
【0087】
1 スプレードライヤ設備
10 乾燥室
10a 空気層
10b 圧力センサ
11 エアディスパーサ
11a 入口
11b 温度センサ
111 ハウジング
111a 風道
111b 第1開口
112 ロアパーツ
112a 上部ガイドベーン
112b ガイドコーン
112c 下部ガイドベーン
113 アタッチメント(風速調整手段)
113a 第2開口
114 油圧シリンダ(駆動機構)
115 ベローズ(シール機構)
116 環状ガイド
117 パッキン(シール機構)
12 第1フィルタ
13 送風機
14 エアヒータ
15 第2フィルタ
16 ミキサー
16a 本体
16b 貫通孔
16c 開口
16d 撹拌羽
20 ロータリアトマイザ
21 ベースプレート
22 モータ
23 スピンドル
24 原液パイプ
24a 入口
24b 出口
25 下部フランジ
25a 貫通孔
26A 上ディストリビュータ
26B 下ディストリビュータ
261 第1流路
262 第2流路
263 第3流路
264 第4流路
265 収納部
27 回転ホイール
27a 取付孔
27b 原液入口
28 ジャケットスカート
31 原液タンク
32 原液ポンプ
32a 脈動低減機構
33 脈動低減機構
40 サイクロン
50 バグフィルタ
60 排風機
71 第1制御部
72 第2制御部
73 第3制御部
81 ダクト
82 配管