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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024157987
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】樹脂組成物及び成形体
(51)【国際特許分類】
   C08L 23/00 20060101AFI20241031BHJP
   C08L 71/12 20060101ALI20241031BHJP
   C08L 23/10 20060101ALI20241031BHJP
   C08G 65/44 20060101ALI20241031BHJP
【FI】
C08L23/00
C08L71/12
C08L23/10
C08G65/44
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023072723
(22)【出願日】2023-04-26
(71)【出願人】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100165951
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 憲悟
(72)【発明者】
【氏名】今井 誠
(72)【発明者】
【氏名】福圓 真一
【テーマコード(参考)】
4J002
4J005
【Fターム(参考)】
4J002BB001
4J002BB121
4J002BB141
4J002BP021
4J002CH072
4J002FD010
4J002FD020
4J002FD050
4J002FD070
4J002FD090
4J002FD130
4J002FD160
4J002FD170
4J005AA26
4J005BB02
(57)【要約】
【課題】流動性を維持しつつ、樹脂の密着性に優れた、ポリフェニレンエーテル及びポリオレフィンを含む樹脂組成物を提供することを目的とする。
【解決手段】上記目的を達成するべく、本発明は、ポリフェニレンエーテル(A)及びポリオレフィン(B)を含む樹脂組成物であって、前記ポリフェニレンエーテル(A)及び前記ポリオレフィン(B)の合計量に対する、前記ポリフェニレンエーテル(A)の含有比率が0.1~30.0質量%、前記ポリオレフィン(B)の含有比率が70~99.9質量%であり、前記ポリフェニレンエーテル(A)の、25℃におけるn-ヘキサンへの溶解度が、5質量%以上であることを特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリフェニレンエーテル(A)及びポリオレフィン(B)を含む樹脂組成物であって、
前記ポリフェニレンエーテル(A)及び前記ポリオレフィン(B)の合計量に対する、前記ポリフェニレンエーテル(A)の含有比率が0.1~30.0質量%、前記ポリオレフィン(B)の含有比率が70~99.9質量%であり、
前記ポリフェニレンエーテル(A)の、25℃におけるn-ヘキサンへの溶解度が、5質量%以上であることを特徴とする、樹脂組成物。
【請求項2】
前記ポリフェニレンエーテル(A)のガラス転移温度が、100~180℃であることを特徴とする、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記ポリフェニレンエーテル(A)が、下記式(3)で表される部分構造を有することを特徴とする、請求項1に記載の樹脂組成物。
【化1】
(式(3)中、R31は、各々独立して、置換されていてもよい炭素数1~8の直鎖アルキル基又は2つのR31が結合した炭素数1~8の環状アルキル構造であり、R32は、各々独立して、置換されていてもよい炭素数1~8のアルキレン基であり、bは、各々独立して、0又は1であり、R33は、水素原子、置換されていてもよい炭素数1~8のアルキル基又は置換されていてもよいフェニル基である。)
【請求項4】
前記ポリフェニレンエーテル(A)は、下記式(1)のフェノールから誘導された繰り返し単位、及び、下記式(2)のフェノールから誘導された繰り返し単位を含み、
前記式(1)のフェノールから誘導された繰り返し単位の合計100mol%に対して、前記式(1)のフェノールから誘導された繰り返し単位の含有比率が5~89mol%、前記式(2)のフェノールから誘導された繰り返し単位の含有比率が11~95mol%であり、
30℃で0.5g/dLの濃度のクロロホルム溶液で測定された還元粘度(ηsp/c)が、0.03~0.30dL/gであることを特徴とする、請求項3に記載の樹脂組成物。
【化2】
(式(1)中、R11は、各々独立して、置換されていてもよい炭素数1~6の飽和炭化水素基、置換されていてもよい炭素数6~12のアリール基又はハロゲン原子であり、R12は、各々独立して、水素原子、置換されていてもよい炭素数1~6の炭化水素基、置換されていてもよい炭素数6~12のアリール基又はハロゲン原子である。)
【化3】
(式(2)中、R22は、各々独立して、水素原子、置換されていてもよい炭素数1~20の飽和若しくは不飽和炭化水素基、置換されていてもよい炭素数6~12のアリール基又はハロゲン原子であり、2つのR22は両方が水素原子でなく、R21は下記式(3)で表される部分構造である。
【化4】
(式(3)中、R31は、各々独立して、置換されていてもよい炭素数1~8の直鎖アルキル基又は2つのR31が結合した炭素数1~8の環状アルキル構造であり、R32は各々独立に、置換されていてもよい炭素数1~8のアルキレン基であり、bは各々独立に、0又は1であり、R33は、水素原子、置換されていてもよい炭素数1~8のアルキル基又は置換されていてもよいフェニル基である。))
【請求項5】
前記式(3)で表される部分構造が、tert-ブチル基であることを特徴とする、請求項3に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
前記ポリオレフィン(B)が、ポリプロピレン(B1)であることを特徴とする、請求項3に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1~6のいずれかに記載の樹脂組成物を含む、成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物及び成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリオレフィンは安価で多種用途にて使用されているプラスチック材料である。ポリオレフィンは、優れた加工性を有している。また、電気絶縁性や耐薬品性・低吸水性の面でも優れている。例えば、包装フィルム、梱包資材、ケーブル絶縁用途やボトル・玩具・自動車内外装部品など多岐に利用されている。
【0003】
しかしながら、ポリオレフィンはガラス転移温度が低く、耐熱性が求められる用途での使用は性能不足であった。また、無機充填剤を用いる事で耐熱性の向上を図る技術が広く知られているが、無機充填剤を用いる事で流動性が下がり、加工性へ悪影響を与えるという問題があった。
そのため、特許文献1には、ポリエチレン等のポリオレフィンにポリフェニレンエーテルを添加することで、無機充填剤添加と比べて流動性を維持したまま、耐熱変形性、曲げ弾性率及び難燃性の向上を図った技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2017-500417号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
例えば、基盤や回路に用いられる金属に触れるようなカバーやカバーフィルムの様な形態においては、リユース時等に好適な作業性を得るため、金属側から樹脂が剥離しないことが求められている。
上記の通り、特許文献1には、ポリオレフィンにポリフェニレンエーテルを添加することで流動性を維持したまま耐熱変形性、曲げ弾性率及び難燃性を向上できることが開示されているが、特許文献1に記載の技術においても、金属との密着性については、さらなる改善を図る必要があった。
【0006】
そこで本発明においては、流動性を維持しつつ、樹脂の密着性に優れた、ポリフェニレンエーテル及びポリオレフィンを含む樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記従来技術の課題を解決するため、鋭意検討を行った結果、特定の構造を有するポリフェニレンエーテルとポリオレフィンとを特定の割合で組み合わせることによって、25℃におけるn-ヘキサンへの溶解度を高めることができ、上述した従来技術の課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、以下の通りである。
[1]ポリフェニレンエーテル(A)及びポリオレフィン(B)を含む樹脂組成物であって、
前記ポリフェニレンエーテル(A)及び前記ポリオレフィン(B)の合計量に対する、前記ポリフェニレンエーテル(A)の含有比率が0.1~30.0質量%、前記ポリオレフィン(B)の含有比率が70~99.9質量%であり、
前記ポリフェニレンエーテル(A)の、25℃におけるn-ヘキサンへの溶解度が、5質量%以上であることを特徴とする、樹脂組成物。
[2]前記ポリフェニレンエーテル(A)のガラス転移温度が、100~180℃であることを特徴とする、前記[1]に記載の樹脂組成物。
[3]前記ポリフェニレンエーテル(A)が、下記式(3)で表される部分構造を有することを特徴とする、前記[1]又は[2]に記載の樹脂組成物。
【化1】
(式(3)中、R31は、各々独立して、置換されていてもよい炭素数1~8の直鎖アルキル基又は2つのR31が結合した炭素数1~8の環状アルキル構造であり、R32は、各々独立して、置換されていてもよい炭素数1~8のアルキレン基であり、bは、各々独立して、0又は1であり、R33は、水素原子、置換されていてもよい炭素数1~8のアルキル基又は置換されていてもよいフェニル基である。)
[4]前記ポリフェニレンエーテル(A)は、下記式(1)のフェノールから誘導された繰り返し単位、及び、下記式(2)のフェノールから誘導された繰り返し単位を含み、
前記式(1)のフェノールから誘導された繰り返し単位の合計100mol%に対して、前記式(1)のフェノールから誘導された繰り返し単位の含有比率が5~89mol%、前記式(2)のフェノールから誘導された繰り返し単位の含有比率が11~95mol%であり、
30℃で0.5g/dLの濃度のクロロホルム溶液で測定された還元粘度(ηsp/c)が、0.03~0.30dL/gであることを特徴とする、前記[1]~[3]のいずれかに記載の樹脂組成物。
【化2】
(式(1)中、R11は、各々独立して、置換されていてもよい炭素数1~6の飽和炭化水素基、置換されていてもよい炭素数6~12のアリール基又はハロゲン原子であり、R12は、各々独立して、水素原子、置換されていてもよい炭素数1~6の炭化水素基、置換されていてもよい炭素数6~12のアリール基又はハロゲン原子である。)
【化3】
(式(2)中、R22は、各々独立して、水素原子、置換されていてもよい炭素数1~20の飽和若しくは不飽和炭化水素基、置換されていてもよい炭素数6~12のアリール基又はハロゲン原子であり、2つのR22は両方が水素原子でなく、R21は下記式(3)で表される部分構造である。
【化4】
(式(3)中、R31は、各々独立して、置換されていてもよい炭素数1~8の直鎖アルキル基又は2つのR31が結合した炭素数1~8の環状アルキル構造であり、R32は、各々独立して、置換されていてもよい炭素数1~8のアルキレン基であり、bは、各々独立して、0又は1であり、R33は、水素原子、置換されていてもよい炭素数1~8のアルキル基又は置換されていてもよいフェニル基である。))
[5]前記式(3)で表される部分構造が、tert-ブチル基であることを特徴とする、前記[1]~[4]のいずれかに記載の樹脂組成物。
[6]前記ポリオレフィン(B)が、ポリプロピレン(B1)であることを特徴とする、前記[1]~[5]のいずれかに記載の樹脂組成物。
[7]前記[1]~[6]のいずれかに記載の樹脂組成物を含む、成形体。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、流動性を維持しつつ、樹脂との密着性を向上させた樹脂組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という。)について詳細に説明する。
以下の本実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明を以下の内容に限定する趣旨ではない。本発明は、その要旨の範囲内で種々変形して実施できる。
【0011】
なお、本実施形態では、共重合体を構成する構成単位のことを「~単量体単位」といい、重合体の材料として記載する場合は「単位」を省略し、単に「~単量体」と記載する。
【0012】
[樹脂組成物]
本実施形態の樹脂組成物は、ポリフェニレンエーテル(A)及びポリオレフィン(B)を含む樹脂組成物である。
そして、本実施形態では、前記ポリフェニレンエーテル(A)及び前記ポリオレフィン(B)の合計量に対する、前記ポリフェニレンエーテル(A)の含有比率が0.1~30.0質量%、前記ポリオレフィン(B)の含有比率が70~99.9質量%であり、
前記ポリフェニレンエーテル(A)の、25℃におけるn-ヘキサンへの溶解度が、5質量%以上である。
【0013】
<ポリフェニレンエーテル(A)>
前記ポリフェニレンエーテル(A)は、25℃におけるn-ヘキサンへの溶解度が5質量%以上である。
前記ポリフェニレンエーテル(A)の25℃におけるn-ヘキサンへの溶解度が高いほど、炭化水素系溶媒や炭化水素系樹脂への親和性や相溶性が高いことを示している。その結果、本実施形態の樹脂組成物は、流動性を維持しつつ、樹脂の密着性が高まる。同様の観点から、前記ポリフェニレンエーテル(A)の25℃におけるn-ヘキサンへの溶解度は、好ましくは固形分濃度5質量%以上、より好ましくは固形分濃度10質量%以上、さらに好ましくは固形分濃度20質量%以上である。
【0014】
なお、前記ポリフェニレンエーテル(A)の25℃におけるn-ヘキサンへの溶解度は、ポリフェニレンエーテル(A)の分子量を低分子量化することに加え、第3級炭素を含む分岐した置換基又は長鎖アルキル基を導入することで向上することが可能である。
【0015】
また、前記ポリフェニレンエーテル(A)のガラス転移温度は、100~180℃であることが好ましい。ポリオレフィンを押出加工する際の加工性の観点から180℃以下であることが好ましく、より好ましくは170℃以下、さらに好ましくは160℃以下である。また、樹脂組成物の軟化点をより上昇させる観点から100℃以上であることが好ましく、より好ましくは110℃以上、さらに好ましくは120℃以上である。
【0016】
前記ポリフェニレンエーテル(A)は、25℃におけるn-ヘキサンへの溶解度を向上させる観点から、式(3)で表される部分構造を有することが好ましい。
【化5】
(式(3)中、R31は、各々独立して、置換されていてもよい炭素数1~8の直鎖アルキル基又は2つのR31が結合した炭素数1~8の環状アルキル構造であり、R32は、各々独立して、置換されていてもよい炭素数1~8のアルキレン基であり、bは、各々独立して、0又は1であり、R33は、水素原子、置換されていてもよい炭素数1~8のアルキル基又は置換されていてもよいフェニル基である。)
【0017】
上記式(3)で表される部分構造としては、好ましくは、2級及び/又は3級炭素を含む基であり、例えばイソプロピル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、tert-アミル基、2,2-ジメチルプロピル基、シクロヘキシル基や、これらの末端にフェニル基を有する構造等が挙げられる。ポリフェニレンエーテルのガラス転移温度を100~180℃の範囲に調整しつつ、25℃におけるn-ヘキサンへの溶解度を向上させる観点より、より好ましくは、tert-ブチル基、シクロヘキシル基であり、さらに好ましくはtert-ブチル基である。
なお、前記R31の炭素数1~8の直鎖アルキル基における置換基、前記R32の炭素数1~8のアルキレン基における置換基、並びに、前記R33の炭素数1~8のアルキル基及びフェニル基における置換基としては、炭素数1~10の飽和又は不飽和炭化水素基、炭素数6~10のアリール基、ハロゲン原子が挙げられる。
【0018】
前記ポリフェニレンエーテル(A)は、下記式(1)のフェノールから誘導された繰り返し単位、及び、下記式(2)のフェノールから誘導された繰り返し単位を含むことができ、化合物中の繰り返し単位が、下記式(1)のフェノールから誘導された繰り返し単位及び下記式(2)のフェノールから誘導された繰り返し単位のみからなっていてもよい。
【化6】
(式(1)中、R11は、各々独立して、置換されていてもよい炭素数1~6の飽和炭化水素基、置換されていてもよい炭素数6~12のアリール基又はハロゲン原子であり、R12は、各々独立して、水素原子、置換されていてもよい炭素数1~6の炭化水素基、置換されていてもよい炭素数6~12のアリール基又はハロゲン原子である。)
【0019】
上記式(1)中、R11は、各々独立して、炭素数1~6の飽和炭化水素基又は炭素数6~12のアリール基であることが好ましく、ポリフェニレンエーテル(A)のガラス転移温度を100~180℃の範囲に調整しつつ、25℃におけるn-ヘキサンへの溶解度を向上させる観点より、より好ましくはメチル基又はフェニル基さらに好ましくはメチル基である。式(1)中、2つのR11は、共に同じ構造であることが好ましい。
上記R11の炭素数1~6の飽和炭化水素基、炭素数6~12のアリール基における置換基としては、炭素数1~10の飽和又は不飽和炭化水素基、炭素数6~10のアリール基、ハロゲン原子が挙げられる。
【0020】
上記式(1)中、R12は、各々独立して、水素原子又は炭素数1~6の炭化水素基であることが好ましく、より好ましくは水素原子又はメチル基である。式(1)中、2つのR12は、異なることが好ましく、ポリフェニレンエーテル(A)のガラス転移温度を100~180℃の範囲に調整しつつ、25℃におけるn-ヘキサンへの溶解度を向上させる観点より、一方が水素原子、他方が炭素数1~6の炭化水素基(好ましくはメチル基)であることがより好ましい。
上記R12の炭素数1~6の炭化水素基、炭素数6~12のアリール基における置換基としては、炭素数1~10の飽和又は不飽和炭化水素基、炭素数6~10のアリール基、ハロゲン原子が挙げられる。
【0021】
【化7】
(式(2)中、R22は、各々独立して、水素原子、置換されていてもよい炭素数1~20の飽和若しくは不飽和炭化水素基、置換されていてもよい炭素数6~12のアリール基又はハロゲン原子であり、2つのR22は両方が水素原子でなく、R21は上記式(3)で表される部分構造である。)
【0022】
上記式(2)中、R22は、各々独立して、水素原子、炭素数1~15の飽和若しくは不飽和炭化水素基、又は炭素数1~6のアルキル基で置換されていてもよい炭素数6~12のアリール基であることが好ましく、ポリフェニレンエーテル(A)のガラス転移温度を100~180℃の範囲に調整しつつ、25℃におけるn-ヘキサンへの溶解度を向上させる観点より、水素原子、炭素数1~6の炭化水素基、又は炭素数1~6のアルキル基で置換されていてもよい炭素数6~10のアリール基であることがより好ましく、さらに好ましくは水素原子又はメチル基である。式(2)中、2つのR22は異なることが好ましく、一方が水素原子、他方が炭素数1~6の炭化水素基(好ましくはメチル基)であることがより好ましい。
上記R22の炭素数1~20の飽和又は不飽和炭化水素基、炭素数6~12のアリール基における置換基としては、炭素数1~10の飽和又は不飽和炭化水素基、炭素数6~10のアリール基、ハロゲン原子が挙げられる。
【0023】
本実施形態において、前記ポリフェニレンエーテル(A)をNMR、質量分析等の手法で解析することによりその構造を同定できる。前記ポリフェニレンエーテルの構造を同定する具体的方法としては、フラグメンテーションを起こしにくいことが知られている電界脱離質量分析法(FD-MS)を実施し、検出されるイオンの間隔により繰り返しユニットを推定することが可能である。さらに、電子イオン化法(EI)でフラグメントイオンのピーク解析やNMRによる構造解析と組み合わせることでポリフェニレンエーテルの構造を推定する方法が挙げられる。
【0024】
また、前記ポリフェニレンエーテル(A)は、上式(1)のフェノールから誘導された繰り返し単位と式(2)のフェノールから誘導された繰り返し単位の合計100mol%に対して、前記式(1)のフェノールから誘導された繰り返し単位の含有比率が5~89mol%であり、前記式(2)のフェノールから誘導された繰り返し単位の含有比率が11~95mol%であることが好ましい。
樹脂組成物の耐熱性や、樹脂組成物の特性バランスが優れたものとなる観点から、上記式(2)のフェノールから誘導された繰り返し単位は、18mol%以上であることが好ましく、より好ましくは20mol%以上である。同様の観点から、上記式(1)のフェノールから誘導された繰り返し単位は、82mol%以下であることが好ましく、より好ましくは80mol%以下である。
なお、前記ポリフェニレンエーテル(A)に含まれる式(1)のフェノールから誘導された繰り返し単位は、1種であっても複数種であってもよい。また、前記ポリフェニレンエーテルに含まれる式(2)のフェノールから誘導された繰り返し単位は、1種であっても複数種であってもよい。
【0025】
さらに、前記ポリフェニレンエーテル(A)に含まれるモノマー単位(例えば、ポリフェニレンエーテルに含まれるフェノールに由来する全モノマー単位)100mol%に対して、上記式(1)のフェノールから誘導された繰り返し単位と式(2)のフェノールから誘導された繰り返し単位の合計量は、75mol%以上であることが好ましく、より好ましくは90mol%以上、さらに好ましくは95mol%以上である。
【0026】
上記式(1)のフェノールから誘導された繰り返し単位と式(2)のフェノールから誘導された繰り返し単位のそれぞれの割合は、例えばH NMR、13C NMR等の解析手法を用いて求めることができ、より具体的には、後述の実施例に記載の方法により測定することができる。
【0027】
上記式(1)のフェノールは未置換のオルト位を有さないため(即ち、ヒドロキシル基が結合する炭素原子の2つのオルト位の炭素原子には水素原子が結合しないため)、フェノール性ヒドロキシル基とパラ位の炭素原子だけにおいて別のフェノール性モノマーと反応できる。従って、式(1)から誘導された繰り返し単位は、下記式(8)の構造を有する繰り返し単位を含む。
【化8】
(式(8)中、R11とR12は式(1)と同様である。)
【0028】
上記式(2)のフェノールは、フェノール性ヒドロキシル基に加えて、フェノールのオルト位又はパラ位のいずれかで別のフェノール性モノマーと反応可能である。従って、式(2)のフェノールから誘導された繰り返し単位は、下記式(9)、下記式(10)のモノマー単位あるいはこれらの組み合わせを有する。
【化9】
【化10】
(式(9)、式(10)中のR21、R22は式(2)と同様である。)
【0029】
前記ポリフェニレンエーテルの30℃において0.5g/dLの濃度のクロロホルム溶液で測定された還元粘度は、樹脂組成物の耐熱性や、樹脂組成物の特性バランスが優れたものとなる観点から、0.03~0.30dL/gであることが好ましく、より好ましくは0.06~0.30dL/gである。
なお、前記ポリフェニレンエーテルの還元粘度は、後述の実施例に記載した方法により測定することができる。
【0030】
本実施形態におけるポリフェニレンエーテル(A)は、式(1)のフェノール及び式(2)のフェノールに加え、下記式(11)の2価フェノールに由来する構造を含有する3元共重合体を、不純物(本明細書において、単に「不純物A」と称する場合がある。)として含有しても良い。
前記ポリフェニレンエーテル(A)は、前記ポリフェニレンエーテルと上記不純物Aとの混合物であってもよい。前記ポリフェニレンエーテル100モル%に対する前記不純物Aのモル割合としては、10モル%以下であることが好ましく、より好ましくは5モル%以下である。
【化11】
(式(11)中、R11とR12は式(1)と同様である。zは0又は1であり、Yは、以下の構造:
【化12】
(式中、R41は、各々独立して、置換されていてもよい炭素数1~6の炭化水素基、置換されていてもよい炭素数6~12のアリール基、及びハロゲン原子のいずれか)
のうちのいずれかである。)
【0031】
前記不純物Aは、例えば、1価フェノールの酸化重合の際に副生成物として発生する下記式(12)と1価フェノールから構成されるポリフェニレンエーテルとの反応により、式(11)のz=0である2価フェノール由来の構造を含有する3元共重合体として合成され得る。
【化13】
(式(12)中、R11とR12は式(1)と同様である。)
【0032】
前記ポリフェニレンエーテル(A)は、ポリフェニレンエーテルに含まれる水酸基が官能基(例えば、不飽和炭素結合を含む官能基等)へ変性された変性ポリフェニレンエーテルであっても良い。
【0033】
前記ポリフェニレンエーテル(A)は下記式(4)、式(5)、式(6)及び式(7)からなる群から選ばれる少なくとも一つの部分構造を有しても良い。
【化14】
【化15】
【化16】
(式(6)中、Rは、水素原子又は炭素数1~10の飽和若しくは不飽和の炭化水素基であり、上記飽和若しくは不飽和の炭化水素はRの合計炭素数が1~10個となる範囲内で置換基を有していてもよい。)
【化17】
(式(7)中、Rは、炭素数1~10の飽和又は不飽和の2価の炭化水素基であり、上記飽和又は不飽和の2価の炭化水素はRの合計炭素数が1~10個となる範囲内で置換基を有していてもよく、Rは、水素原子又は炭素数1~10の飽和若しくは不飽和の炭化水素基であり、該飽和又は不飽和の炭化水素はRの合計炭素数が1~10個となる範囲内で置換基を有していてもよい。)
【0034】
なお、上記式(4)、式(5)、式(6)、式(7)からなる群から選ばれる少なくとも一つで表される部分構造は、ポリフェニレンエーテルに含まれる水酸基と直接結合してよい。
【0035】
上記式(4)、式(5)、式(6)、式(7)からなる群から選ばれる少なくとも一つで表される部分構造を導入した変性ポリフェニレンエーテルに含まれる式(1)のフェノールから誘導された繰り返し単位と式(2)のフェノールから誘導された繰り返し単位のそれぞれの割合は、例えば、H NMR、13C NMR等の解析手法を用いて求めることができる。
【0036】
<ポリフェニレンエーテルの製造方法>
前記ポリフェニレンエーテル(A)は、例えば、上記式(1)、式(2)で表される一価のフェノール化合物の酸化重合を行う工程を少なくとも含む方法により得られる。上記酸化重合を行う工程は、上記式(1)のフェノール及び式(2)のフェノールを少なくとも含む原料を酸化重合することが好ましい。
【0037】
上記式(1)で表される一価のフェノール化合物としては、例えば、2,6-ジメチルフェノール、2-メチル-6-エチルフェノール、2,6-ジエチルフェノール、2-エチル-6-n-プロピルフェノール、2-メチル-6-クロルフェノール、2-メチル-6-ブロモフェノール、2-メチル-6-n-プロピルフェノール、2-エチル-6-ブロモフェノール、2-メチル-6-n-ブチルフェノール、2,6-ジ-n-プロピルフェノール、2-エチル-6-クロルフェノール、2-メチル-6-フェニルフェノール、2,6-ジフェニルフェノール、2-メチル-6-トリルフェノール、2,6-ジトリルフェノール、2,3,6-トリメチルフェノール、2,3-ジエチル-6-n―プロピルフェノール、2,3,6-トリブチルフェノール、2,6-ジ-n-ブチル-3-メチルフェノール、2,6-ジメチル-3-n-ブチルフェノール、2,6-ジメチル-3-tert-ブチルフェノール等が挙げられる。中でも、特に、安価であり入手が容易であるため、2,6-ジメチルフェノール、2,3,6-トリメチルフェノール、2,6-ジフェニルフェノールが好ましい。
上記式(1)で表される一価のフェノール化合物は、1種を単独で用いてもよいし、複数種を組み合わせて用いてもよい。
【0038】
上記式(2)で表される一価のフェノール化合物としては、例えば2-イソプロピル-5-メチルフェノール、2-シクロヘキシル-5-メチルフェノール、2-tert-ブチル-5-メチルフェノール、2-イソブチル-5-メチルフェノール等が挙げられる。多分岐化抑制、ゲル化抑制の観点より嵩高い置換基である2-tert-ブチル-5-メチルフェノール、2-シクロヘキシル-5-メチルフェノールがより好ましい。
上記式(2)で表される一価のフェノール化合物は、1種を単独で用いてもよいし、複数種を組み合わせて用いてもよい。
【0039】
通常、オルト位に水素原子を有するフェノールの酸化重合(例えば、2-メチルフェノール、2,5-ジメチルフェノール、2-フェニルフェノール)はオルト位においてもエーテル結合が形成され得るため、酸化重合時のフェノール化合物の結合位置の制御が困難となり、平均水酸基数が3個/分子以上の分岐状に重合された高分子量なポリマーが得られ、最終的には溶剤に不溶なゲル成分が発生する。
一方、上記式(2)で表される片側のオルト位に嵩高い置換基を有するフェノールを用いた場合には反対側のオルト位に水素原子を有するにも関わらず、酸化重合時のフェノール化合物の結合位置の制御が可能となり、平均水酸基が2.5個/分子未満のポリフェニレンエーテルを得ることができる。
【0040】
前記ポリフェニレンエーテル(A)の分子量は、上記式(1)から誘導された繰り返し単位と上記式(2)から誘導された繰り返し単位との合計に対する上記式(2)から誘導された繰り返し単位のモル割合により調整することが可能である。すなわち、上記式(2)から誘導された繰り返し単位のモル割合が高い場合には到達する分子量(還元粘度)を下げることでき、上記式(2)から誘導された繰り返し単位のモル割合が低い場合には分子量(還元粘度)が高く調整可能である。当該理由については明らかではないが、上記式(2)のオルト位の嵩高い置換により、高分子量化が抑制されていると推測される。
【0041】
(酸化重合工程)
また、前記ポリフェニレンエーテル(A)の製造方法では、酸化重合工程において、重合溶剤としてポリフェニレンエーテルの良溶剤である芳香族系溶剤を用いることができる。
ここで、ポリフェニレンエーテルの良溶剤とは、ポリフェニレンエーテルを溶解させることができる溶剤であり、このような溶剤を例示すると、ベンゼン、トルエン、キシレン(o-、m-、p-の各異性体を含む)、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素やクロロベンゼン、ジクロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素;ニトロベンゼンのようなニトロ化合物;等が挙げられる。
【0042】
用いられる重合触媒としては、一般的にポリフェニレンエーテルの製造に用いることが可能な公知の触媒系を使用できる。一般的に知られている触媒系としては、酸化還元能を有する遷移金属イオンと当該遷移金属イオンと錯形成可能なアミン化合物からなるものが知られており、例えば、銅化合物とアミン化合物からなる触媒系、マンガン化合物とアミン化合物からなる触媒系、コバルト化合物とアミン化合物からなる触媒系、等である。重合反応は若干のアルカリ性条件下で効率よく進行するため、ここに若干のアルカリもしくは更なるアミン化合物を加えることもある。
【0043】
また、好適に使用される重合触媒は、触媒の構成成分として銅化合物、ハロゲン化合物並びにアミン化合物からなる触媒であり、より好ましくは、アミン化合物として下記式(13)で表されるジアミン化合物を含む触媒である。
【化18】
(式(13)中、R14、R15、R16、R17は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1から6の直鎖状又は分岐状アルキル基であり、全てが同時に水素原子ではない。R18は、炭素数2から5の直鎖状又はメチル分岐を持つアルキレン基である。)
【0044】
ここで述べられた触媒成分の銅化合物の例を列挙する。好適な銅化合物としては、第一銅化合物、第二銅化合物又はそれらの混合物を使用することができる。第二銅化合物としては、例えば、塩化第二銅、臭化第二銅、硫酸第二銅、硝酸第二銅等を例示することができる。また、第一銅化合物としては、例えば、塩化第一銅、臭化第一銅、硫酸第一銅、硝酸第一銅等を例示することができる。これらの中で特に好ましい金属化合物は、塩化第一銅、塩化第二銅、臭化第一銅、臭化第二銅である。またこれらの銅塩は、酸化物(例えば酸化第一銅)、炭酸塩、水酸化物等と対応するハロゲン又は酸から使用時に合成しても良い。しばしば用いられる方法は、先に例示の酸化第一銅とハロゲン化水素(又はハロゲン化水素の溶液)を混合して作製する方法である。
【0045】
ハロゲン化合物としては、例えば、塩化水素、臭化水素、ヨウ化水素、塩化ナトリウム、臭化ナトリウム、ヨウ化ナトリウム、塩化カリウム、臭化カリウム、ヨウ化カリウム、塩化テトラメチルアンモニウム、臭化テトラメチルアンモニウム、ヨウ化テトラメチルアンモニウム、塩化テトラエチルアンモニウム、臭化テトラエチルアンモニウム、ヨウ化テトラエチルアンモニウム等である。また、これらは、水溶液や適当な溶剤を用いた溶液として使用できる。これらのハロゲン化合物は、成分として単独でも用いられるし、2種類以上組み合わせて用いても良い。好ましいハロゲン化合物は、塩化水素の水溶液、臭化水素の水溶液である。
【0046】
これらの化合物の使用量は、特に限定されないが、銅原子のモル量に対してハロゲン原子として2倍以上20倍以下が好ましく、重合反応に添加するフェノール化合物100モルに対して好ましい銅原子の使用量としては0.02モルから0.6モルの範囲である。
【0047】
次に、触媒成分のジアミン化合物の例を列挙する。例えば、N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン、N,N,N’-トリメチルエチレンジアミン、N,N’-ジメチルエチレンジアミン、N,N-ジメチルエチレンジアミン、N-メチルエチレンジアミン、N,N,N’,N’-テトラエチルエチレンジアミン、N,N,N’-トリエチルエチレンジアミン、N,N’-ジエチルエチレンジアミン、N,N-ジエチルエチレンジアミン、N-エチルエチレンジアミン、N,N-ジメチル-N’-エチルエチレンジアミン、N,N’-ジメチル-N-エチルエチレンジアミン、N-n-プロピルエチレンジアミン、N,N’-n-プロピルエチレンジアミン、N-i-プロピルエチレンジアミン、N,N’-i-プロピルエチレンジアミン、N-n-ブチルエチレンジアミン、N,N’-n-ブチルエチレンジアミン、N-i-ブチルエチレンジアミン、N,N’-i-ブチルエチレンジアミン、N-tert-ブチルエチレンジアミン、N,N’-tert-ブチルエチレンジアミン、N,N,N’,N’-テトラメチル-1,3-ジアミノプロパン、N,N,N’-トリメチル-1,3-ジアミノプロパン、N,N’-ジメチル-1,3-ジアミノプロパン、N-メチル-1,3-ジアミノプロパン、N,N,N’,N’-テトラメチル-1,3-ジアミノ-1-メチルプロパン、N,N,N’,N’-テトラメチル-1,3-ジアミノ-2-メチルプロパン、N,N,N’,N’-テトラメチル-1,4-ジアミノブタン、N,N,N’,N’-テトラメチル-1,5-ジアミノペンタン等が挙げられる。本実施形態にとって好ましいジアミン化合物は、2つの窒素原子をつなぐアルキレン基の炭素数が2又は3のものである。これらのジアミン化合物の使用量は、特に限定されないが、重合反応に添加するフェノール化合物100モルに対して0.01モルから10モルの範囲が好ましい。
【0048】
本実施形態においては、重合触媒の構成成分として、第1級アミン及び第2級モノアミンを含むことができる。第2級モノアミンとしては、以下に限定されるものではないが、例えば、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジ-n-プロピルアミン、ジ-i-プロピルアミン、ジ-n-ブチルアミン、ジ-i-ブチルアミン、ジ-tert-ブチルアミン、ジペンチルアミン類、ジヘキシルアミン類、ジオクチルアミン類、ジデシルアミン類、ジベンジルアミン類、メチルエチルアミン、メチルプロピルアミン、メチルブチルアミン、シクロヘキシルアミン、N-フェニルメタノールアミン、N-フェニルエタノールアミン、N-フェニルプロパノールアミン、N-(m-メチルフェニル)エタノールアミン、N-(p-メチルフェニル)エタノールアミン、N-(2’,6’-ジメチルフェニル)エタノールアミン、N-(p-クロロフェニル)エタノールアミン、N-エチルアニリン、N-ブチルアニリン、N-メチル-2-メチルアニリン、N-メチル-2,6-ジメチルアニリン、ジフェニルアミン等が挙げられる。
【0049】
本実施形態における重合触媒の構成成分として、第3級モノアミン化合物を含むこともできる。第3級モノアミン化合物とは、脂環式第3級アミンを含めた脂肪族第3級アミンである。例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、トリイソブチルアミン、ジメチルエチルアミン、ジメチルプロピルアミン、アリルジエチルアミン、ジメチル-n-ブチルアミン、ジエチルイソプロピルアミン、N-メチルシクロヘキシルアミン等が挙げられる。これらの第3級モノアミンは、単独でも用いられるし、2種類以上組み合わせて用いても良い。これらの使用量は、特に限定されないが、重合反応に添加するフェノール化合物100モルに対して15モル以下の範囲が好ましい。
【0050】
本実施形態では、従来より重合活性に向上効果を有することが知られている界面活性剤を添加することについて、何ら制限されない。そのような界面活性剤として、例えば、Aliquat336やCapriquatの商品名で知られるトリオクチルメチルアンモニウムクロライドが挙げられる。その使用量は、重合反応混合物の全量100質量%に対して0.1質量%を超えない範囲が好ましい。
【0051】
酸素含有ガスとしては、純酸素の他、酸素と窒素等の不活性ガスとを任意の割合で混合したもの、空気、更には空気と窒素等の不活性ガスとを任意の割合で混合したもの等が使用できる。重合反応中の系内圧力は、常圧で充分であるが、必要に応じて減圧でも加圧でも使用できる。
【0052】
重合の温度は、特に限定されないが、低すぎると反応が進行しにくく、また高すぎると反応選択性の低下やゲルが生成するおそれがあるので、0~60℃の範囲が好ましく、より好ましくは10~40℃の範囲である。
【0053】
ポリフェニレンエーテルの製造方法では、アルコール等の貧溶剤中で重合を行うこともできる。
【0054】
(銅抽出及び副生成物除去工程)
本実施形態において、重合反応終了後の後処理方法については、特に制限はない。通常、塩酸や酢酸等の酸、又はエチレンジアミン4酢酸(EDTA)及びその塩、ニトリロトリ酢酸及びその塩等を反応液に加えて、触媒を失活させる。また、ポリフェニレンエーテルの重合により生じる二価フェノール体の副生成物を除去処理する方法も、従来既知の方法を用いて行うことができる。上記の様に触媒である金属イオンが実質的に失活されている状態であれば、該混合物を加熱するだけで脱色される。また既知の還元剤を必要量添加する方法でも可能である。既知の還元剤としては、ハイドロキノン、亜二チオン酸ナトリウム等が挙げられる。
【0055】
(液液分離工程)
ポリフェニレンエーテルの製造方法においては、銅触媒を失活させた化合物を抽出するため水を添加し、有機相と水相に液液分離を行った後、水相を除去することで有機相から銅触媒を除去してよい。この液液分離工程は、特に限定しないが、静置分離、遠心分離機による分離等の方法が挙げられる。上記液液分離を促進させるためには、公知の界面活性剤等を用いてもよい。
【0056】
(濃縮・乾燥工程)
続いて、本実施形態のポリフェニレンエーテルの製造方法においては、液液分離後の上記ポリフェニレンエーテルが含まれた有機相を、溶剤を揮発させることで濃縮・乾燥させてよい。
【0057】
上記有機相に含まれる溶剤を揮発させる方法としては、特に限定はしないが、有機相を高温の濃縮槽に移し溶剤を留去させて濃縮する方法やロータリーエバポレーター等の機器を用いてトルエンを留去させて濃縮する方法等が挙げられる。
【0058】
乾燥工程における乾燥処理の温度としては、少なくとも60℃以上が好ましく、80℃以上がより好ましく、120℃以上が更に好ましく、140℃以上が最も好ましい。ポリフェニレンエーテルの乾燥を60℃以上の温度で行うと、ポリフェニレンエーテル粉体中の高沸点揮発成分の含有量を効率よく低減できる。
【0059】
ポリフェニレンエーテルを高効率で得るためには、乾燥温度を上昇させる方法、乾燥雰囲気中の真空度を上昇させる方法、乾燥中に撹拌を行う方法等が有効であるが、特に、乾燥温度を上昇させる方法が製造効率の観点から好ましい。乾燥工程は、混合機能を備えた乾燥機を使用することが好ましい。混合機能としては、撹拌式、転動式の乾燥機等が挙げられる。これにより処理量を多くすることができ、生産性を高く維持できる。
【0060】
前記ポリフェニレンエーテル(A)は、上記式(1)のフェノールから誘導されるポリフェニレンエーテルを酸化剤の存在下で上記式(2)のフェノール化合物と平衡化する再分配反応によって製造することもできる。再分配反応は、当該技術において公知であり、例えばCooperらの米国特許第3496236号明細書、及びLiskaらの米国特許第5880221号明細書に記載されている。
【0061】
(変性反応工程)
未変性ポリフェニレンエーテルの水酸基へ官能基を導入する方法に限定はなく、例えば、未変性ポリフェニレンエーテルの水酸基と、炭素-炭素二重結合を有するカルボン酸(以下カルボン酸)とのエステル結合の形成反応により得られる。エステル結合の形成法は、公知の様々な方法を利用することができる。たとえば、a.カルボン酸ハロゲン化物とポリマー末端の水酸基との反応、b.カルボン酸無水物との反応によるエステル結合の形成、c.カルボン酸との直接反応、d.エステル交換反応による方法、等があげられる。aのカルボン酸ハロゲン化物との反応は最も一般的な方法の一つである。カルボン酸ハロゲン化物としては、塩化物、臭化物が一般的に用いられるが、他のハロゲンを利用してもかまわない。反応は、水酸基との直接反応、水酸基のアルカリ金属塩との反応いずれでも構わない。カルボン酸ハロゲン化物と水酸基との直接反応ではハロゲン化水素等の酸が発生するため、酸をトラップする目的でアミン等の弱塩基を共存させてもよい。bのカルボン酸無水物との反応やcのカルボン酸との直接反応では、反応点を活性化し、反応を促進するために、例えばカルボジイミド類やジメチルアミノピリジン等の化合物を共存させてもかまわない。dのエステル交換反応の場合は、必要に応じて、生成したアルコール類の除去を行うことが望ましい。また、反応を促進させるために公知の金属触媒類を共存させてもかまわない。反応後は、アミン塩等の副生物等を除くために、水、酸性、又はアルカリ性の水溶液で洗浄してもかまわないし、ポリマー溶液をアルコール類のような貧溶媒中に滴下し、再沈殿により、目的物を回収してもかまわない。またポリマー溶液を洗浄後、減圧下に溶媒を留去し、ポリマーを回収してもかまわない。
【0062】
本実施形態の変性ポリフェニレンエーテルの製造方法は、上述の多官能変性ポリフェニレンエーテルの製造方法に限定されることなく、上述の、酸化重合工程、銅抽出及び副生成物除去工程、液液分離工程、濃縮・乾燥工程の順序や回数等を適宜調整してよい。
【0063】
<ポリオレフィン(B)>
前記ポリオレフィンに関しては、特に限定はなく使用することができる。その中でも好ましくはポリプロピレン系樹脂が挙げられ、ポリプロピレン系樹脂としては、特に限定されることなく、例えば、プロピレンを繰り返し単位構造とする単独重合体及び/又は共重合体等が挙げられ、結晶性プロピレン単独重合体、結晶性プロピレン-エチレンブロック共重合体、結晶性プロピレン単独重合体と結晶性プロピレン-エチレンブロック共重合体との混合物が好ましい。
結晶性プロピレン-エチレンブロック共重合体としては、特に限定されることなく、例えば、結晶性プロピレン単独重合体部分とプロピレン-エチレンランダム共重合体部分とを有するもの等が挙げられる。
なお、樹脂組成物中のポリプロピレン含有量は、例えば、樹脂組成物を凍結粉砕してパウダー状にした後、そのパウダーを23℃のクロロホルムに溶解させ、その不溶分のうち、150℃のo-ジクロロベンゼンに溶解する画分をさらに回収し、その画分をNMRにより測定することにより求めることができる。
【0064】
本実施形態の樹脂組成物では、樹脂組成物の性能バランス、樹脂の密着性の観点から、前記ポリフェニレンエーテル(A)及び前記ポリオレフィン(B)の量に対する、ポリフェニレンエーテル(A)の含有比率が0.1~30.0質量%であり、ポリオレフィン(B)の含有比率が70.0~99.9質量%である。また、樹脂密着性の観点から、ポリフェニレンエーテル(A)の含有比率が0.1~28.0質量%であり、ポリオレフィン(B)の含有比率が72.0~99.9質量%であることが好ましい。同様の観点から、ポリフェニレンエーテル(A)の含有比率が1.0~26.0質量%であり、ポリオレフィン(B)の含有比率が74.0~99.0質量%であることがより好ましく、ポリフェニレンエーテル(A)の含有比率が3.0~25.0質量%であり、ポリオレフィン(B)の含有比率が75.0~97.0質量%であることがさらに好ましい。
【0065】
<熱可塑性樹脂>
本実施形態の樹脂組成物で任意選択的に用いられる(A)(B)成分以外の熱可塑性樹脂としては、特に限定されることなく、例えば、ポリスチレン、シンジオタクチックポリスチレン、ハイインパクトポリスチレン等が挙げられる。
【0066】
<添加剤>
本実施形態の樹脂組成物は、必要に応じて任意の添加剤を配合することができる。
添加剤の種類は、熱可塑性樹脂に一般的に用いられるものであれば特に制限はない。
例えば、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、水酸化マグネシウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、シリカ、クレー、タルク、マイカ、ウォラストナイト、モンモリロナイト、ゼオライト、アルミナ、酸化チタン、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、スラッグウール、ガラス繊維等の無機充填剤;カーボンブラック、酸化鉄等の顔料;ステアリン酸、ベヘニン酸、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、エチレンビスステアロアミド等の滑剤;離型剤、パラフィン系プロセスオイル、ナフテン系プロセスオイル、芳香族系プロセスオイル、パラフィン、有機ポリシロキサン、ミネラルオイル等の軟化剤、ポリエチレングリコールや脂肪酸エステル類等の可塑剤;ヒンダードフェノール系酸化防止剤、リン系熱安定剤等の酸化防止剤;ヒンダードアミン系光安定剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、難燃剤、帯電防止剤;有機繊維、ガラス繊維、炭素繊維、金属ウィスカ等の補強剤;着色剤が挙げられ、これらの他の添加剤や、これらの混合物等、「ゴム・プラスチック配合薬品」(日本国ラバーダイジェスト社編)等に記載されたものが挙げられる。 添加剤の配合量は特に限定されるものではなく、樹脂組成物100質量部に対して、通常、50質量部以下である。
【0067】
[樹脂組成物の製造方法]
本実施形態の樹脂組成物は、上述した(A)及び(B)成分、さらにその他成分を溶融混錬することにより製造することができる。
【0068】
溶融混錬を行う溶融混練機としては、以下に限定されないが、例えば、単軸押出機、二軸押出機を含む多軸押出機、ロール、ニーダー、ブラベンダープラストグラフ、バンバリーミキサー等による加熱溶融混練機が挙げられるが、特に、混練性の観点から、二軸押出機が好ましい。具体的には、COPERION社製のZSKシリーズ、東芝機械(株)製のTEMシリーズ、日本製鋼所(株)製のTEXシリーズ等が挙げられる。
【0069】
押出機を用いた好ましい製造方法を以下に述べる。押出機のL/D(バレル有効長/バレル内径)は、20以上60以下の範囲であることが好ましく、より好ましくは30以上60以下である。
【0070】
押出機の構成は、特に限定されることなく、例えば、原料が流れる方向について上流側に第1原料供給口、該第1原料供給口よりも下流に第1真空ベント又はオープンベント、該第1真空ベントよりも下流に第2真空ベント又はオープンベントを備える事もできる。
【0071】
[成形体]
本実施形態の成形体は、前述の本実施形態の樹脂組成物からなる。
本実施形態の成形体としては、特に限定されることなく、例えば、自動車部品、電気機器の内外装部品、その他の部品等が挙げられる。自動車部品としては、特に限定されることなく、例えば、バンパー、フェンダー、ドアーパネル、各種モール、エンブレム、エンジンフード、ホイールキャップ、ルーフ、スポイラー、各種エアロパーツ等の外装部品;インストゥルメントパネル、コンソールボックス、トリム等の内装部品;自動車、電気自動車、ハイブリッド電気自動車等に搭載される二次電池電槽部品;リチウムイオン二次電池部品等が挙げられる。また、電気機器の内外装部品としては、特に限定されることなく、例えば、各種コンピューター及びその周辺機器、ジャンクションボックス、各種コネクター、その他のOA機器、テレビ、ビデオ、各種ディスクプレーヤー等のキャビネット、シャーシ、冷蔵庫、エアコン、液晶プロジェクターに用いられる部品等が挙げられる。その他の部品としては、金属導体又は光ファイバーに被覆を施すことによって得られる電線・ケーブル、固体メタノール電池用燃料ケース、燃料電池配水管、水冷用タンク、ボイラー外装ケース、インクジェットプリンターのインク周辺部品・部材、家具(椅子等)、シャーシ、水配管、継ぎ手等や形状としてシート・フィルム等も挙げられる。
この中でも、基盤や回路に用いられる金属に触れるようなカバーやカバーフィルムの様な成形体であることが好ましい。
【実施例0072】
以下、具体的な実施例及び比較例を挙げて本発明について詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
実施例及び比較例におけるポリフェニレンエーテル(A)、ポリオレフィン(B)樹脂組成物に関する測定方法を、以下に示す。
【0073】
(ポリフェニレンエーテル(A)の製造)
(1)製造例1
重合槽底部に酸素含有ガス導入のためのスパージャー、撹拌タービン翼及びバッフルを備え、重合槽上部のベントガスラインに還流冷却器を備えた40リットルのジャケット付き重合槽に、30.9L/分の流量で窒素ガスを吹き込みながら、2.4gの酸化第二銅、18.1gの47質量%臭化水素水溶液、5.8gのジ-tert-ブチルエチレンジアミン、28.1gのジ-n-ブチルアミン、85.6gのブチルジメチルアミン、17.9kgのトルエン、及び853gの2,6-ジメチルフェノール、1147gの2-tert-ブチル-5-メチルフェノールを入れ、均一溶液とした。次に、重合槽へ21.0L/分の速度で乾燥空気をスパージャーより導入し始め、重合を開始した。乾燥空気を120分間通気し、重合混合物を得た。なお、重合中は内温が40℃になるようコントロールした。重合終結時の重合混合物(重合液)は均一な溶液状態であった。
乾燥空気の通気を停止し、重合混合物に25.9gのエチレンジアミン四酢酸4ナトリウム塩(同仁化学研究所製試薬)を水2kgの水溶液として添加した。70℃で150分間、重合混合物を撹拌し、その後20分静置し、液-液分離により有機相と水相とを分離した。上記有機相をロータリーエバポレーターによりポリマー濃度が30質量%になるまで濃縮した。
上記溶液を、ポリマー溶液に対するメタノールの比が4となるメタノールを混合し、ポリマーの析出を行った。ガラスフィルターを用いた減圧濾過により湿潤ポリフェニレンエーテルを得た。さらに湿潤ポリフェニレンエーテルに対するメタノールの比が3となる量のメタノールにより湿潤ポリフェニレンエーテルを洗浄した。上記洗浄操作を三回行った。ついで、湿潤ポリフェニレンエーテルを、120℃、1mmHgで120分保持し、乾燥状態のポリフェニレンエーテルを得た。
【0074】
(製造例2)
反応器底部に酸素含有ガス導入の為のスパージャー、攪拌タービン翼及びバッフル、反応器上部のベントガスラインに還流冷却器を備えた4.1リットルのジャケット付き反応器に、0.88gの塩化第二銅2水和物、3.76gの35%塩酸、33.57gのN,N,N’,N’-テトラメチルプロパンジアミン、850gのn-ブタノール及び1982gのメタノール、630gの2,6-ジメチルフェノールを入れた。使用した溶剤の組成重量比はn-ブタノール:メタノール=30:70であった。次いで激しく攪拌しながら反応器へ410mL/分の速度で酸素をスパージャーより導入し始めると同時に、重合温度は40℃を保つようにジャケットに熱媒を通して調節した。重合液は次第にスラリーの様態を呈した。
酸素を導入し始めてから200分後、酸素含有ガスの通気をやめ、この重合混合物に4.56gのエチレンジアミン四酢酸3カリウム塩(同仁化学研究所製試薬)を溶かした50%水溶液を添加し、次いで8.52gのハイドロキノン(和光純薬社製試薬)を溶かした20%メタノール溶液を少量ずつ添加した。攪拌タービン翼及びバッフル、反応器上部のベントガスラインに還流冷却器を備えた4.1リットルのジャケット付き反応器に得られた重合液を移し、60℃で3時間反応させた。反応終了後、濾過して、メタノール洗浄液(b)と、洗浄されるポリフェニレンエーテル(a)との質量比(b/a)が4となる量の洗浄液(b)で3回洗浄し、湿潤ポリフェニレンエーテルを得た。次いで120℃で4時間、真空乾燥し乾燥ポリフェニレンエーテルを得た。
【0075】
(製造例3)
反応器底部に酸素含有ガス導入の為のスパージャー、攪拌タービン翼及びバッフル、反応器上部のベントガスラインに還流冷却器を備えた1.5リットルのジャケット付き反応器に、予め調整した0.092gの酸化第一銅及び0.69gの47%臭化水素の混合物と、0.22gのN,N’-ジ-tert-ブチルエチレンジアミン、3.27gのジメチル-n-ブチルアミン、1.07gのジ-n-ブチルアミン、714.65gのトルエン、66.53gの2,6-ジメチルフェノール、13.47gの2,2-ビス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパンを入れた。次いで、激しく攪拌しながら反応器へ0.84L/分の速度で空気をスパージャーより導入し始めると同時に、重合温度は20℃を保つようにジャケットに熱媒を通して調節した。空気を導入し始めてから150分後、空気の通気をやめ、反応器内の窒素ガス置換を行った後、この重合混合物に0.99gのエチレンジアミン四酢酸四ナトリウム塩四水和物(同仁化学研究所製試薬)を水160gの水溶液として添加した。次いで70℃に加温し、70℃にて2時間銅抽出を実施した。その後、静置分離により未変性ポリフェニレンエーテル溶液(有機相)と、触媒金属を移した水相を分離した。上記有機相をロータリーエバポレーターによりポリマー濃度が30質量%になるまで濃縮した。
上記溶液を、ポリマー溶液に対するメタノールの比が4となるメタノールを混合し、ポリマーの析出を行った。ガラスフィルターを用いた減圧濾過により湿潤ポリフェニレンエーテルを得た。さらに湿潤ポリフェニレンエーテルに対するメタノールの比が3となる量のメタノールにより湿潤ポリフェニレンエーテルを洗浄した。上記洗浄操作を三回行った。ついで、湿潤ポリフェニレンエーテルを、120℃、1mmHgで120分保持し、乾燥状態のポリフェニレンエーテルを得た。
【0076】
〔ポリフェニレンエーテルの分析〕
上述した各製造例によって得られたポリフェニレンエーテルについて、以下の分析を行った。各分析結果を表1に示す。
【0077】
(1)ポリフェニレンエーテルに含まれる、式(1)のフェノールから誘導された繰り返し単位及び式(2)のフェノールから誘導された繰り返し単位との合計に対する、式(1)又は式(2)のフェノールから誘導された繰り返し単位の含有割合
上述した製造例で得られた未変性ポリフェニレンエーテルを、重クロロホルムに溶解し、テトラメチルシランを内部標準として用い、H-NMR測定(JEOL製500MHz)を行った。測定の際、ポリフェニレンエーテルは事前に140℃、1mmHgで8時間保持することでトルエンや水等の揮発成分を除去し、乾燥状態の未変性ポリフェニレンエーテルとして測定を行った。式(1)及び式(2)のフェノールから誘導される単位のシグナルを同定し、それぞれの比率を算出した。
例えば、得られた未変性ポリフェニレンエーテルにおいて、上記式(1)のフェノールから誘導された繰り返し単位、即ち、2,6-ジメチルフェノール由来構造(2,6-ジメチルフェニレンユニット)に由来するシグナルと、上記式(2)のフェノールから誘導された繰り返し単位、即ち、2-tert-ブチル-5-メチルフェノール由来構造(2-tert-ブチル-5-メチルフェニレンユニット)に由来するシグナルの帰属方法については下記の通り解析した。各フェノールから誘導された繰り返し単位のピークは次の領域に現れる。
2,6-ジメチルフェニレンユニット及び2-tert-ブチル-5-メチルフェニレンユニットのメチル基の水素原子由来のピーク(それぞれ6H、3Hずつ):1.60~2.50ppm(ただし、トルエンのメチル基の水素原子由来のピークを除く)
2-tert-ブチル-5-メチルフェニレンユニットのtert-ブチル基の水素原子由来のピーク(9H):1.00~1.52ppm(ただし、水の水素原子由来のピークを除く)
上記シグナルの積分値を調べ、以下に示す数式(1)により2,6-ジメチルフェニレンユニットのメチル基の水素原子由来のピークの1プロトン当たりの積分値を求めることができる。
E={C-3×(D/9)}/6 ・・・数式(1)
C:2,6-ジメチルフェニレンユニット及び2-tert-ブチル-5-メチルフェニレンユニットのメチル由来のピークの積分値
D:2-tert-ブチル-5-メチルフェニレンユニットのtert-ブチル由来のピークの積分値
E:2,6-ジメチルフェニレンユニットのメチル由来のピークの1プロトン当たりの積分値
さらに、以下に示す数式(2)及び(3)により、上記式(1)又は上記式(2)のフェノールから誘導された繰り返し単位の割合(mol%)を計算することができる。
式(1)のフェノールから誘導された繰り返し単位の割合(mol%)=E/{(D/9)+E}×100 ・・・数式(2)
式(2)のフェノールから誘導された繰り返し単位の割合(mol%)=(D/9)/{(D/9)+E}×100 ・・・数式(3)
【0078】
(2)ポリフェニレンエーテルの還元粘度(ηsp/c)
得られたポリフェニレンエーテルの0.5g/dLのクロロホルム溶液を調整し、ウベローデ粘度管を用いて30℃における還元粘度(ηsp/c)(dL/g)を求めた。
【0079】
(3)ポリフェニレンエーテルのガラス転位温度
得られたポリフェニレンエーテルのガラス転移温度は、示差走査熱量計DSC(PerkinElmer社製-Pyrisl)を用いて測定した。窒素雰囲気中、毎分20℃の昇温速度で室温から230℃まで加熱後、50℃まで毎分20℃で降温し、その後、毎分20℃の昇温速度でガラス転移温度を測定した。
【0080】
(4)ポリフェニレンエーテルの25℃におけるn-ヘキサンへの溶解度
得られたポリフェニレンエーテルを用いて、ヘキサンに対する溶解度を測定した。
測定方法は、次の通り実施した。まず、400mgのポリフェニレンエーテルをサンプル管に入れ、25℃の環境下でマグネチックスターラーを用いて緩く攪拌しながら、25℃のn-ヘキサンを徐々に加えサンプル管内部の様子を観察し、完全に溶解した際のポリフェニレンエーテル(A)の濃度を、25℃における溶解度とした。
【0081】
【表1】
【0082】
次に、後述する実施例及び比較例に用いた原材料を以下に示す。
(A)ポリフェニレンエーテル
(A-1) 製造例1によって合成されたポリフェニレンエーテル
(A-2) 製造例2によって合成されたポリフェニレンエーテル
(A-3) 製造例3によって合成されたポリフェニレンエーテル
【0083】
(B)ポリオレフィン
(B-1)ポリプロピレン MFR=14、曲げ強度63MPa
(B-2)ポリプロピレン MFR=66、曲げ強度46MPa
【0084】
〔実施例1~5、比較例1~7〕
以下、各実施例及び各比較例について詳述する。
各実施例及び各比較例の樹脂組成物の製造に用いる溶融混練機として、二軸押出機(コペリオン社製、ZSK-25)を用いた。押出機のL/Dは、35とした。
二軸押出機の構成は、原料が流れる方向について上流側に第1原料供給口、該第1原料供給口よりも下流に第1オープンベント、該第1真空ベントよりも下流に第2真空ベントを備えるものとした。
二軸押出機のバレル設定温度は、第1原料供給口からダイス口までを210℃、ダイス口を220℃の設定とし、スクリュー回転数300rpm、押出レート15kg/hの条件で樹脂組成物のペレットを製造した。
【0085】
〔評価〕
得られた樹脂組成物のサンプルについて、以下の評価を行った。
実施例1~5で得られた樹脂組成物のサンプルの評価結果は、表1に示し、比較例1~7で得られた樹脂組成物のサンプルの評価結果は、表2に示す。
(1)曲げ強度
得られた樹脂組成物ペレットを、シリンダー温度230℃に設定した小型射出成形機(商品名:IS-100GN、東芝機械社製)に供給し、金型温度40℃、射出圧力60MPa、射出時間20秒、冷却時間15秒の条件で成形し、評価用ISOダンベルを作製した。このISOダンベルを、ISO 178に従い、曲げ強度(MPa)を測定した。
なお、測定値は、使用したポリオレフィン単独の値に対し、同等若しくは向上しているものを優れているとした。
【0086】
(2)MFR
得られた樹脂組成ペレットを、ISO1133に準じ、温度190℃、荷重10kgの条件で測定した。なお、測定値は、大きいほど、流動性に優れ好ましい。
【0087】
(3)剥離試験
得られた樹脂組成物ペレットを、シリンダー温度230℃に設定した小型射出成形機(商品名:IS-100GN、東芝機械社製)に供給し、金型温度40℃、射出圧力60MPa、射出時間20秒、冷却時間20秒の条件で成形し、評価用縦横60mm×厚み2mmの平板を作製した。
平板に縦横1mm×1mm幅でカッターナイフにて切り込みを各11本入れ、100個のマス目状切り込みを作成した。
マス目状上に、銅板を乗せた状態で150℃の熱風オーブン内に168時間安置した。
取り出し後、銅板を剥がした際に薄皮の様な剥離が発生したマス数をカウントした。なお、剥離枚数が少ないほど樹脂間の密着性が良いと判断した。
【0088】
【表2】
【0089】
【表3】
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明の樹脂組成物は、流動性に優れ且つ機械強度を保持したPOアロイ樹脂とてして種々分野において、産業上の利用可能性を有している。