特開 2024-158000 密封型転がり軸受

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)

(12)【公報種別】公開特許公報(A)

(11)【公開番号】P2024158000

(43)【公開日】2024-11-08

(54)【発明の名称】密封型転がり軸受

(51)【国際特許分類】

   F16C 33/78 20060101AFI20241031BHJP

   F16J 15/3204 20160101ALI20241031BHJP

【ＦＩ】

F16C33/78 E

F16J15/3204 201

【審査請求】未請求

【請求項の数】3

【出願形態】ＯＬ

(21)【出願番号】P 2023072746

(22)【出願日】2023-04-26

(71)【出願人】

【識別番号】000004204

【氏名又は名称】日本精工株式会社

(72)【発明者】

【氏名】島崎 聡

(72)【発明者】

【氏名】迫田 裕成

(72)【発明者】

【氏名】林 慎一郎

【テーマコード（参考）】

3J006

3J216

【Ｆターム（参考）】

3J006AB05

3J006AE12

3J006AE15

3J006AE30

3J006AE34

3J006AE38

3J006AE41

3J006CA01

3J216AA02

3J216AA03

3J216AA12

3J216AB05

3J216BA23

3J216BA30

3J216CA01

3J216CA04

3J216CB03

3J216CB12

3J216CB13

3J216CB19

3J216CC03

3J216CC17

3J216CC33

3J216DA01

(57)【要約】

【課題】シール部材の組付容易性と密封性を維持しながら、シール部材の連れ回りを防止する。
【解決手段】内輪１および外輪２と、これら内輪１と外輪２の間に転動自在に配置された複数の転動体３と、外輪２に形成されたシール嵌合溝５に外周部７ａが嵌め込まれることで固定され、内輪１に形成されたシール溝６の内壁に、内周部に形成されたシールリップ７ｂを摺接させることで、内輪１と外輪２の間をシールするシール部材７と、を備える密封型転がり軸受において、シール部材７のシール部材嵌合部７ａに、周方向みぞが設けられている。
【選択図】図１

【特許請求の範囲】

【請求項1】

内輪および外輪と、これら内輪と外輪の間に転動自在に配置された複数の転動体と、前記外輪または内輪に形成されたシール嵌合溝にシール部材嵌合部が嵌め込まれて前記内輪と外輪の間をシールするシール部材と、を備える密封型転がり軸受において、
前記シール部材の前記シール部材嵌合部に、少なくとも一つの周方向みぞが設けられていることを特徴とする密封型転がり軸受。

【請求項2】

前記周方向みぞが前記シール部材の前記シール部材嵌合部の軸受内側面に設けられていることを特徴とする請求項１に記載の密封型転がり軸受。

【請求項3】

前記周方向みぞが前記シール部材の前記シール部材嵌合部の軸受外側面に設けられていることを特徴とする請求項１に記載の密封型転がり軸受。

【発明の詳細な説明】

【技術分野】

【0001】

本発明は、自動車のエンジン補機用、例えばアイドラプーリ用あるいはコンプレッサ
プーリ用などに使用され、軸受内部から外部への潤滑剤の漏れ防止と軸受外部から内部へ
の水・泥・塵埃の侵入防止を図った密封型転がり軸受に関するものである。

【背景技術】

【0002】

図５（ａ）は従来の密封型転がり軸受のシール部材の断面図、図５（ｂ）は従来の密封型転がり軸受のシール部材を取り付けた部分の部分断面図、図８、９は特許文献１に記載された従来の密封型転がり軸受におけるシール部材を取り付けた部分の部分断面図である。

【0003】

図５（ｂ）に示すように、密封型転がり軸受は、外輪２のシール嵌合溝５の内壁におけるシール部材７との当たり面５ａが円周方向にフラットな面で構成されており、外輪２のシール嵌合溝５の内部に、シール部材７の嵌合部７ａを、その部分のゴム９を弾性変形させつつ嵌め込むことで、シール部材７のゴム９と外輪２の間の摩擦により、シール部材７を離脱しないように、また、連れ回りしないように、外輪２に固定している。
ところで、外輪のシール嵌合溝５の当たり面５ａや、部材７の嵌合部である嵌合部７ａの寸法のばらつきに対して嵌合力のロバスト性が低く、図６（ａ）に示すように外輪のシール嵌合溝５との締め代が小さい場合には、図７に示すように嵌合力が低下し、嵌合部が連れ回ってしまう可能性がある。図６（ｂ）に示すようにシール嵌合溝５との締め代が大きい場合には、組み込み時に過大な力が発生し、図６（ｃ）に示す変形模式図ようにシール部材７が変形してしまい、シールリップ７ｂの密封性が低下する可能性がある。

【0004】

上述の連れ回りの問題を解決するため、特許文献１に記載の密封型転がり軸受は、図８に示すように前記シール嵌合溝５の内壁の円周方向の少なくとも１箇所に凹部５ｂを設け、外輪２に形成したシール嵌合溝５にシール部材７の嵌合部７ａを弾性変形させつつ嵌め込んだ際に、シール部材７の嵌合部７ａが凹部５ｂに弾性変形して係合部を形成することや、図９に示すように凹部５ｂに嵌まる凸部９ａがシール部材側に設けられて、凹部５ｂと凸部９ａの係合することにより、更なるシール部材７の連れ回り抑制効果を得ることができることが知られている。

【先行技術文献】

【特許文献】

【0005】

【特許文献1】特開２００９－２８１５４７号公報

【発明の概要】

【発明が解決しようとする課題】

【0006】

ところで、外輪２に設けた凹部５ｂにシール部材７の嵌合部７ａが噛み合うことで連れ周りを防止する構造であるため、外輪２に凹部５ｂを加工するには、旋盤で加工できる軌道面２ａなどと違う工程が必要であり、コストが上昇する可能性がある。また、外輪２の凹部５ｂとシール部材７の凸部９ａの位置を合わせる必要が生じ、設備の追加やサイクルタイムの増加などコストが上昇する可能性がある。加えて、外輪２のシール嵌合溝５や、シール部材７の嵌合部である嵌合部７ａの寸法のばらつきに対して嵌合力のロバスト性が低く、シール嵌合溝５との締め代が大きい場合には、組み込み時に過大な力が発生しシール部材７が変形してしまう可能性がある。

【0007】

本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、シール部材７の組付容易性と密封性を維持しつつ、コストの上昇を抑えながら、シール部材７の連れ回り防止を図れるようにした密封型転がり軸受を提供することにある。

【課題を解決するための手段】

【0008】

前述した目的を達成するために、本発明に係る密封型転がり軸受は、下記を特徴としている。
内輪および外輪と、これら内輪と外輪の間に転動自在に配置された複数の転動体と、前記外輪に形成されたシール嵌合溝に嵌合部が嵌め込まれて前記内輪と外輪の間をシールするシール部材と、を備える密封型転がり軸受において、
前記シール部材のシール溝と嵌合するシール嵌合部の周方向にみぞ（凹凸）を設けている。

【0009】

上記の構成の密封型転がり軸受によれば、シール溝と嵌合するシールの嵌合部の周方向にみぞ（凹凸）を設けているため、外輪に形成したシール嵌合溝にシール部材の嵌合部を弾性変形させつつ嵌め込んだ際に、シールの嵌合部のコンプライアンスが高く、図７に示すように外輪シール溝やシールの寸法ばらつきに対して嵌合力のロバスト性が高く、従来よりも締め代を大きく設定することが可能であり、シールの連れ周り防止と、シールの変形防止を両立できる。

【発明の効果】

【0010】

この発明考案は、シール溝と嵌合するシールの嵌合部に周方向にみぞ（凹凸）を設けているためシールの嵌合部のコンプライアンスが高く、外輪シール溝やシールの寸法ばらつきに対して嵌合力のロバスト性が高く、従来よりも締め代を大きく設定することが可能であり、シールの連れ周り防止と、シールの変形防止を両立できる。
また、外輪に新たな加工を施すことなく、シール部材の周方向にみぞ（凹凸）を設ける構造を採用しており、外輪への追加の加工やシール部材の位置合わせが不要であることから、コストも抑制可能である。

【図面の簡単な説明】

【0011】

【図1】（ａ）は本発明の第１実施形態のシール部材の断面図、（ｂ）は密封型転がり軸受にシール部材を取り付けた部分の拡大断面図である。

【図2】（ａ）は本発明の第１実施形態の変形例1のシール部材の断面図、（ｂ）は密封型転がり軸受にシール部材を取り付けた部分の拡大断面図である。

【図3】（ａ）は本発明の第２実施形態のシール部材の断面図、（ｂ）は密封型転がり軸受にシール部材を取り付けた部分の拡大断面図である。

【図4】（ａ）は本発明の第２実施形態の変形例２のシール部材の断面図、（ｂ）は密封型転がり軸受にシール部材を取り付けた部分の拡大断面図である。

【図5】（ａ）従来の密封型転がり軸受軸受におけるシール部材の断面図、（ｂ）は従来の密封型転がり軸受にシール部材を取り付けた部分の拡大断面図である。

【図6】（ａ）は従来の軸受における外輪のシール嵌合溝５との締め代が小さい場合を表す図、（ｂ）は従来の軸受における外輪のシール嵌合溝５との締め代が小さい場合を表す図、（ｃ）はシールを組み込んだ際の変形を表す模式図である。

【図7】は締め代と嵌合力の関係を表した模式図である。

【図8】は従来の密封型転がり軸受におけるシール部材取り付けた部分の拡大断面図である。

【図9】は従来の密封型転がり軸受におけるシール部材取り付けた部分の拡大断面図である。

【発明を実施するための形態】

【0012】

以下、本発明に係る好適な実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、本実施形態の密封型転がり軸受は、シール部材を外輪のシール嵌合溝に組み付ける組み付け構造を特徴としており、その他の構成は、図８,９に示すものと実質的に同一であるため、同一又は同等部分に同一符号を付して説明している。

【0013】

（実施形態１）
図１（ａ）は第１実施形態の密封型転がり軸受のシール部材の断面図、図１（ｂ）は第１実施形態の密封型転がり軸受のシール部材を取り付けた部分の部分断面図である。

【0014】

この密封型転がり軸受は、外周面に内輪軌道面１ａ（図示略）を有する内輪１と、内周面に外輪軌道面２ａ（図示略）を有する外輪２と、内輪軌道面１ａと外輪軌道面２ａとの間に転動自在に配置された複数の玉３（転動体：図示略）と、これら複数の玉を円周方向に所定の間隔で保持する保持器４（図示略）と、内輪１と外輪２の間を密封するシール部材７と、内輪１と外輪２の間の空間に封 入された潤滑剤（図示略）とを備えている。シール部材７は、環状の鋼板８を芯金として合成ゴム９で成形したものであり、外輪２の内周面のうち外輪軌道面２ａの両外側に形成されたシール嵌合溝５に嵌合部７ａが嵌め込まれることで外輪２に固定され、内輪１に形成されたシール溝６の内壁に、内周部に形成されたシールリップ７ｂを摺接させる。

【0015】

そして、この軸受では、前記シール部材７の外輪２のシール嵌合溝５と嵌合するシール嵌合部７ａの軸受内側面１０に周方向にみぞ（凹部）１０ａを設けている。

【0016】

このように、シール嵌合部７ａの軸受内側面１０に周方向に凹部１０ａを設けることにより、シールの嵌合部のコンプライアンスが高く、図７に示すように外輪シール溝５やシール嵌合部７ａの寸法ばらつきに対して嵌合力のロバスト性が高くでき、シール部材７が連れ回ろうとする力を抑制することができ、シール部材７の連れ回り現象の防止を図ることができる。

【0017】

（変形例１）
図２（ａ）は変形例１の密封型転がり軸受のシール部材の断面図、図２（ｂ）は変形例１の密封型転がり軸受のシール部材を取り付けた部分の部分断面図である。

【0018】

変形例１では、前記シール部材７の外輪２のシール嵌合溝５と嵌合するシール嵌合部７ａの軸受内側面１０に周方向にみぞ（凹部）１０ａに加えて、みぞ（凹部）１０ａを設けている。

【0019】

このように、シール嵌合部７ａの軸受内側面１０に周方向にみぞを複数（凹凸部）を設けることにより、シールの嵌合部のコンプライアンスをより高くでき、図７に示すように外輪シール溝５やシール嵌合部７ａの寸法ばらつきに対して嵌合力のロバスト性をより高くできる。

【0020】

（実施形態２）
図３（ａ）は第２実施形態の密封型転がり軸受のシール部材の断面図、図３（ｂ）は第２実施形態の密封型転がり軸受のシール部材を取り付けた部分の部分断面図である。

【0021】

この第２実施形態の軸受では、前記シール部材７の外輪２のシール嵌合溝５に嵌合するシール嵌合部７ａの軸受外側面１１に周方向にみぞ（凹部）１１ａを設けている。第１実施形態と同じように、シールの嵌合部のコンプライアンスが高く、図７に示すように外輪シール溝５やシール嵌合部７ａの寸法ばらつきに対して嵌合力のロバスト性が高くでき、シール部材７が連れ回ろうとする力を抑制することができ、シール部材７の連れ回り現象の防止を図ることができる。

【0022】

（変形例２）
図４（ａ）は変形例１の密封型転がり軸受のシール部材の断面図、図４（ｂ）は変形例１の密封型転がり軸受のシール部材を取り付けた部分の部分断面図である。

【0023】

変形例２では、前記シール部材７の外輪２のシール嵌合溝５と嵌合するシール嵌合部７ａの軸受内側面１１に周方向にみぞ（凹部）１１ａに加えて、みぞ（凹部）１１ｂを設けている。

【0024】

このように、シール嵌合部７ａの軸受内側面１１に周方向にみぞ（凹部）を複数（凹凸部）を設けることにより、変形例２と同じくシールの嵌合部のコンプライアンスをより高くでき、図７に示すように外輪シール溝５やシール嵌合部７ａの寸法ばらつきに対して嵌合力のロバスト性をより高くできる。

【0025】

本発明は、上述した実施形態に限定されるものでなく、適宜、変更、改良などが可能である。例えば、係合部が真円または楕円のシール溝形状、シール部材形状によって形成されてもよい。
また、説明上、外輪にシール嵌合溝を設けているが、内輪にシール嵌合溝を設けた場合にも適用できるものである。
また、本発明は、単列の４点接触型の玉軸受や、３点接触型の玉軸受や深溝玉軸受、複列のアンギュラ軸受などに広く適用できるものである。

【0026】

なお、本明細書における表現である、“同じ”、“一致”とは、完全な同じ、一致だけでなく、一定の誤差範囲内の実質的な同じ、一致も含む。

【符号の説明】

【0027】

１ 内輪
１ａ 内輪軌道面
２ 外輪
２ａ 外輪軌道面
３ 玉（転動体）
５ シール嵌合溝
６ シール溝
７ シール部材
７ａ シール部材嵌合部
７ｂ シールリップ
１０ シール嵌合部の軸受内側面
１０ａ １０ｂ 軸受内側面の周方向みぞ（凹凸部）
１１ シール嵌合部の軸受外側面
１１ａ １１ｂ 軸受外側面の周方向みぞ（凹凸部）

【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】