(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024158005
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】四輪駆動車両の制御装置
(51)【国際特許分類】
B60K 17/354 20060101AFI20241031BHJP
B60K 17/34 20060101ALI20241031BHJP
【FI】
B60K17/354
B60K17/34 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023072772
(22)【出願日】2023-04-26
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085361
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 治幸
(74)【代理人】
【識別番号】100147669
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 光治郎
(72)【発明者】
【氏名】河井 健輔
【テーマコード(参考)】
3D043
【Fターム(参考)】
3D043AA01
3D043AB17
3D043EA05
3D043EE07
3D043EF09
3D043EF14
3D043EF21
3D043EF24
(57)【要約】
【課題】四輪駆動車両全体の駆動力の低下を抑制しつつ一対の後輪のスリップが助長されるのを抑制できる、四輪駆動車両の制御装置を提供する。
【解決手段】走行用の動力源が一対の前輪26と一対の後輪36とで別々であり、前進走行中において一対の前輪26でのスリップを検出すると前輪駆動力Fwfを低下させるとともに後輪駆動力Fwrを前輪駆動力Fwfの低下分である所定量ΔFwfだけ増加させる、四輪駆動車両10の電子制御装置(=制御装置)90は、一対の前輪26が所定の低μ路に進入してスリップしており且つ一対の後輪36も所定の低μ路に進入すると判定した場合には、一対の後輪36がスリップしないように後輪駆動力Fwrに上限を設定する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行用の動力源が一対の前輪と一対の後輪とで別々であり、前進走行中において前記一対の前輪でのスリップを検出すると前記一対の前輪の駆動力を低下させるとともに前記一対の後輪の駆動力を前記一対の前輪の駆動力の低下分だけ増加させる、四輪駆動車両の制御装置であって、
前記一対の前輪が所定の低μ路に進入してスリップしており且つ前記一対の後輪も前記所定の低μ路に進入すると判定した場合には、前記一対の後輪がスリップしないように前記一対の後輪の駆動力に上限を設定する
ことを特徴とする四輪駆動車両の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
走行用の動力源が一対の前輪と一対の後輪とで別々である四輪駆動車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
走行用の動力源が一対の前輪と一対の後輪とで別々である四輪駆動車両の制御装置であって、蓄電装置の充電状態値に応じて一対の前輪及び一対の後輪の間における駆動力配分を制御するものが知られている。例えば、特許文献1に記載のものがそれである。特許文献1では、四輪駆動車両が低μ路を走行している場合、スリップした駆動輪の駆動力が低下させられるとともにスリップしていない駆動輪の駆動力がそのまま維持されることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の四輪駆動車両の制御装置では、スリップした駆動輪の駆動力が低下させられる。そのため、四輪駆動車両全体の駆動力は、スリップした駆動輪の駆動力の低下分だけ一律に低下させられてしまう。そこで、例えば前進走行中において四輪駆動車両が低μ路に進入した場合、一対の前輪でのスリップを検出すると一対の前輪の駆動力を低下させるとともに一対の後輪の駆動力を一対の前輪の駆動力の低下分だけ増加させることが考えられる。この場合、一対の後輪の駆動力が増加させられることで一対の後輪のスリップが助長されるおそれがある。
【0005】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、四輪駆動車両全体の駆動力の低下を抑制しつつ一対の後輪のスリップが助長されるのを抑制できる、四輪駆動車両の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の要旨とするところは、走行用の動力源が一対の前輪と一対の後輪とで別々であり、前進走行中において前記一対の前輪でのスリップを検出すると前記一対の前輪の駆動力を低下させるとともに前記一対の後輪の駆動力を前記一対の前輪の駆動力の低下分だけ増加させる、四輪駆動車両の制御装置であって、前記一対の前輪が所定の低μ路に進入してスリップしており且つ前記一対の後輪も前記所定の低μ路に進入すると判定した場合には、前記一対の後輪がスリップしないように前記一対の後輪の駆動力に上限を設定することにある。
【発明の効果】
【0007】
本発明の四輪駆動車両の制御装置によれば、前記一対の前輪が所定の低μ路に進入してスリップしており且つ前記一対の後輪も前記所定の低μ路に進入すると判定された場合には、前記一対の後輪がスリップしないように前記一対の後輪の駆動力に上限が設定される。これにより、四輪駆動車両全体の駆動力の低下が抑制されつつ一対の後輪のスリップが助長されるのが抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の実施例に係る電子制御装置が搭載された車両の概略構成図である。
【
図2】電子制御装置の制御作動を説明するフローチャートの例である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施例を図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、実施例において図は適宜簡略化或いは変形されており、各部の寸法比及び形状等は必ずしも正確に描かれていない。
【実施例0010】
図1は、本発明の実施例に係る電子制御装置90が搭載された四輪駆動車両10(以下、単に「車両10」と記す。)の概略構成図である。
【0011】
車両10は、前輪駆動装置20、一対の前輪26、前輪駆動装置20の出力トルクを一対の前輪26に伝達する一対の車軸24、後輪駆動装置30、一対の後輪36、後輪駆動装置30の出力トルクを一対の後輪36に伝達する一対の車軸34、及びインバータ50を備え、これらはいずれも周知の構成である。一対の前輪26及び一対の後輪36は、それぞれ駆動輪である。なお、トルクは、駆動力×回転半径で表されて互いに変換可能であり、以下において特に区別しない場合にはトルクと駆動力とは同意である。
【0012】
前輪駆動装置20は、走行用の動力源である第1電動機MG1と、第1電動機MG1の出力トルクであるMG1トルクTmg1[Nm]を最終的に減速しトルクを増やして一対の車軸24に伝える終減速機22と、を含み、これらは周知の構成である。前輪駆動装置20は、第1電動機MG1と終減速機22との間の動力伝達経路上に自動変速機を含んでも良い。
【0013】
後輪駆動装置30は、走行用の動力源である第2電動機MG2と、第2電動機MG2の出力トルクであるMG2トルクTmg2[Nm]を最終的に減速しトルクを増やして一対の車軸34に伝える終減速機32と、を含み、これらは周知の構成である。後輪駆動装置30は、第2電動機MG2と終減速機32との間の動力伝達経路上に自動変速機を含んでも良い。
【0014】
第1電動機MG1及び第2電動機MG2は、例えば電動機機能及び発電機機能を有する回転電気機械であって、所謂モータジェネレータである。なお、第1電動機MG1及び第2電動機MG2は、それぞれ電動機機能を有していれば発電機機能を有さない回転電気機械であっても良い。
【0015】
一対の前輪26を駆動する走行用の動力源は、第1電動機MG1であり、一対の後輪36を駆動する走行用の動力源は第2電動機MG2である。このように、車両10は、走行用の動力源が一対の前輪26と一対の後輪36とで別々である。したがって、車両10は、前輪駆動力Fwf[N]と後輪駆動力Fwr[N]とを独立に付与できる。なお、前輪駆動力Fwfは、一対の前輪26の左右輪の駆動力の合計であり、後輪駆動力Fwrは、一対の後輪36の左右輪の駆動力の合計である。
【0016】
車両10は、電子制御装置90を備える。電子制御装置90は、例えばCPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、CPUはRAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより車両10の各種制御を実行する。なお、電子制御装置90は、本発明における「制御装置」に相当する。
【0017】
電子制御装置90には、車両10に備えられた各種センサ等(例えば車輪速センサ70、加速度センサ72、アクセル開度センサ74、車速センサ76など)による検出値に基づく各種信号等(例えば一対の前輪26及び一対の後輪36の各車輪速Nw[rpm](左前輪車輪速NwfL,右前輪車輪速NwfR,左後輪車輪速NwrL,右後輪車輪速NwrR)、車両10の前後方向Xの加速度Ax[m/sec2]及び左右方向Yの加速度Ay[m/sec2]、運転者の加速操作の大きさを表す運転者のアクセル操作量であるアクセル開度θacc[%]、車速V[km/h]など)が、それぞれ入力される。
【0018】
電子制御装置90からは、車両10に設けられた各装置(例えばMG1トルクTmg1及びMG2トルクTmg2をそれぞれ制御する電源回路であるインバータ50など)に各種指令信号(例えば、第1電動機MG1を駆動制御するための第1電動機制御信号Smg1及び第2電動機MG2を駆動制御するための第2電動機制御信号Smg2など)が出力される。
【0019】
電子制御装置90は、車両10に要求される駆動力Fw[N]である要求駆動力Fwdem[N]を算出する。要求駆動力Fwdemは、車両10の駆動輪全体に対して要求される駆動力である。例えば、アクセル開度θacc及び車速Vと要求駆動力Fwdemとの間の関係が実験的に或いは設計的に予め定められた要求駆動力マップを用いて、要求駆動力Fwdemが算出される。
【0020】
図2は、電子制御装置90の制御作動を説明するフローチャートの例である。
図2のフローチャートは、車両10が前進走行中に繰り返し実行される。
【0021】
まず、ステップS10(以下、「ステップ」を省略する。)において、車両10が直進して所定の低μ路に進入したか否かが判定される。「所定の低μ路」は、車両10が進入した場合に一対の前輪26がスリップするほど、車両10のタイヤと路面との間の摩擦係数μが低い走行路である。例えば、以下の条件(a)~(c)が全て成立している場合、S10の判定が肯定される。
【0022】
条件(a)は、加速度Ayが判定値Ay_jdg以下であることである。判定値Ay_jdgは、車両10が直進中であることを判定するために予め実験的に或いは設計的に定められた所定の判定値である。車両10が直進中であれば、一対の前輪26が所定の低μ路へ進入したのに続いて一対の後輪36も所定の低μ路に進入するものと判定される。
【0023】
条件(b)は、一対の前輪26がスリップ状態であることである。例えば、一対の前輪26における左前輪車輪速NwfL及び右前輪車輪速NwfRとタイヤ径とから推定される車速Vの推定値が実際の車速Vよりも大きい場合には、一対の前輪26がスリップ状態であると判定される。
【0024】
条件(c)は、車速Vが判定値V_jdg以上であることである。判定値V_jdgは、走行開始時及び走行停止時ではなく車両10がある程度の速度Vで前進走行中であることを判定するために、予め実験的に或いは設計的に定められた所定の判定値である。走行開始時及び走行停止時では、所定の低μ路でなくとも一対の前輪26がスリップする場合があるからである。
【0025】
S10の判定が否定の場合、リターンとなる。この場合、すなわち前進走行中の車両10が所定の低μ路に進入する前における、車両10の駆動力Fwの駆動力配分制御は、例えば次のように実行される。
【0026】
車両10の駆動輪全体の駆動力Fwは、要求駆動力Fwdemとなるように制御される。静荷重分配比sは、式(1)により算出される。なお、W[kg]は、車両10の車重であり、Wsf[kg]は、静的な前輪軸重(=車両10の静止状態において一対の車軸24に加わる接地荷重)であり、Wsr[kg]は、静的な後輪軸重(=車両10の静止状態において一対の車軸34に加わる接地荷重)である。接地荷重とは、一対の車軸24又は一対の車軸34に作用する力のうち、鉛直方向の成分である。これら車重W、静的な前輪軸重Wsf、静的な後輪軸重Wsrは、車両10に搭載された部品及びそれら部品の重量配分に基づいてそれぞれ予め定まっている。静荷重分配比sは、車両10の静止状態における車重Wに対する静的な後輪軸重Wsrの比率である。
s=Wsr/(Wsf+Wsr)=Wsr/W ・・・・・ (1)
【0027】
例えば、車両走行状態(例えば、加速時、一定速度での走行時、減速時等)及び車両10の静荷重分配比sに応じて、予め定められた分配比i{=Fwr/(Fwf+Fwr)=Fwr/Fw}が設定される。前輪駆動力Fwf及び後輪駆動力Fwrは、式(2),(3)により算出される。
Fwf=Fwdem×(1-i) ・・・・・ (2)
Fwr=Fwdem×i ・・・・・ (3)
前輪駆動力Fwf及び後輪駆動力Fwrが式(2),(3)で算出されたものとなるように、電子制御装置90は、MG1トルクTmg1及びMG2トルクTmg2をそれぞれ制御する。
【0028】
S10の判定が肯定の場合、すなわち前進走行中の車両10が所定の低μ路に進入した場合における、車両10の駆動力Fwの駆動力配分制御は、例えば次のように実行される。
【0029】
まず、S20において、動荷重分配比dが算出される。動荷重分配比dは、例えば式(4)により算出される。h[m]は、車両10の重心高、L[m]は、ホイールベース長である。動荷重分配比dは、車両10の走行状態における車重Wに対する動的な後輪軸重Wdr[kg]の比率である。
d=s + (Ax・h)/(g・L) ・・・・・ (4)
【0030】
次に、S30において、動的な前輪軸重Wdf[kg]及び動的な後輪軸重Wdrが算出される。動的な前輪軸重Wdf及び動的な後輪軸重Wdrは、例えば式(5),(6)により算出される。
Wdf=W×(1-d) ・・・・・ (5)
Wdr=W×d ・・・・・ (6)
【0031】
次に、S40において、トラクションコントロールが実行される。トラクションコントロールとは、一対の前輪26がスリップしなくなるまで、前輪駆動力Fwfを低下させる制御である。トラクションコントロールによる前輪駆動力Fwfの低下分を所定量ΔFwf[N]と記すこととする。
【0032】
次に、S50において、摩擦係数μが算出される。摩擦係数μは、例えば式(7)により算出される。g[m/sec2]は、重力加速度(標準重力加速度は、9.80665[m/sec2])である。
μ=Fwf/(Wdf×g) ・・・・・ (7)
【0033】
次に、S60において、一対の後輪36の牽引可能駆動力Fwrt[N]が算出される。牽引可能駆動力Fwrtは、一対の後輪36が摩擦係数μである所定の低μ路に進入してもスリップせず、車両10を前進方向に牽引可能な駆動力の上限値(=限界値)である。牽引可能駆動力Fwrtは、例えば式(8)により算出される。
Fwrt=μ×(Wdr×g) ・・・・・ (8)
【0034】
次に、S70において、後輪駆動力Fwrが所定量ΔFwfだけ増加させられる。ただし、後輪駆動力Fwrは、牽引可能駆動力Fwrtで制限される。すなわち、後輪駆動力Fwrが牽引可能駆動力Fwrt以下である場合には、第2電動機MG2から一対の後輪36には所定量ΔFwfだけ増加させられた後輪駆動力Fwrが出力される。一方、所定量ΔFwfだけ増加させられた後輪駆動力Fwrが牽引可能駆動力Fwrtを超過する場合には、第2電動機MG2から一対の後輪36には牽引可能駆動力Fwrtが出力される。
【0035】
前輪駆動力FwfがS40のトラクションコントロールで制御されたものとなるように、及び、後輪駆動力FwrがS70で定められたものとなるように、電子制御装置90は、MG1トルクTmg1及びMG2トルクTmg2をそれぞれ制御する。S70の実行後は、リターンとなる。
【0036】
本実施例の電子制御装置90によれば、前進走行中において一対の前輪26が所定の低μ路に進入してスリップしており且つ一対の後輪36も所定の低μ路に進入すると判定された場合には、前輪駆動力Fwfを低下させるとともに後輪駆動力Fwrを前輪駆動力Fwfの低下分である所定量ΔFwfだけ増加させる。ただし、一対の後輪36がスリップしないように後輪駆動力Fwrの上限が牽引可能駆動力Fwrtに設定される。これにより、車両10全体の駆動力の低下が抑制されつつ一対の後輪36のスリップが助長されるのが抑制される。
【0037】
なお、上述したのは本発明の実施例であり、本発明はその趣旨を逸脱しない範囲において当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【0038】
前述の実施例では、一対の前輪26及び一対の後輪36のそれぞれの走行用の「動力源」は、第1電動機MG1のみ又は第2電動機MG2のみであったが、本発明はこれに限らない。例えば、「動力源」は、エンジンとそのエンジンの動力を動力分割機構により電動機及び一対の駆動輪(一対の前輪26や一対の後輪36)に分割するものであっても良い。
10:四輪駆動車両、26:一対の前輪、36:一対の後輪、90:電子制御装置(制御装置)、Fwf:前輪駆動力(一対の前輪の駆動力)、Fwr:後輪駆動力(一対の後輪の駆動力)、Fwrt:牽引可能駆動力(上限)、MG1:第1電動機(動力源)、MG2:第2電動機(動力源)、ΔFwf:所定量(低下分)