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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024158008
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】作業機及びステータ
(51)【国際特許分類】
   H02K 1/14 20060101AFI20241031BHJP
【FI】
H02K1/14 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023072781
(22)【出願日】2023-04-26
(71)【出願人】
【識別番号】000005094
【氏名又は名称】工機ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100136375
【弁理士】
【氏名又は名称】村井 弘実
(74)【代理人】
【識別番号】100079290
【弁理士】
【氏名又は名称】村井 隆
(72)【発明者】
【氏名】小堀 賢志
(72)【発明者】
【氏名】谷本 英之
【テーマコード(参考)】
5H601
【Fターム(参考)】
5H601AA02
5H601BB09
5H601CC01
5H601CC15
5H601DD01
5H601DD11
5H601DD31
5H601EE27
5H601EE34
5H601GA02
5H601GA03
5H601GA21
5H601GA37
5H601GB05
5H601GB12
5H601GB33
5H601JJ04
(57)【要約】
【課題】ステータの固有振動数の低下幅を大きくすること、又はステータの固有振動数を低下させることに伴う性能低下を抑制することの可能なステータ及び作業機を提供する。
【解決手段】作業機の有するモータのステータは、ステータコア34を有する。ステータコア34は、略円環状のヨーク38と、ヨーク38から径方向の内側に延びるティース39と、を有する。ティース39は、周方向に60度間隔で6個設けられる。各ティース39に巻線37が巻かれる。ステータコア34は、スリット40を有する。スリット40は、ステータコア34の剛性を低下させ、ステータの固有振動数を低下させるために設けられる。スリット40の長さLは、スリット40の幅W以上であり、ヨーク38の厚さT以上である。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステータと、前記ステータに対して回転するロータと、を有するモータと、
前記モータを収容するハウジングと、
を備えた作業機であって、
前記ステータは、
略円環状のヨークと、
前記ヨークから前記ヨークの径方向の内側に延び巻線が巻かれるティースと、
を有し、
前記ティースを前記径方向の外側に投影した範囲内において前記径方向の内側に延び、軸方向に延びる少なくとも1つのスリット又は穴部を有し、
前記径方向における前記スリット又は前記穴部の長さが、前記径方向における前記ヨークの厚さの半分以上であり、かつ前記スリット又は前記穴部の最大幅以上である、
ことを特徴とする作業機。
【請求項2】
請求項1に記載の作業機であって、
前記スリット又は前記穴部は、前記ヨークの外周面のうち記ティースを前記径方向の外側に投影した範囲内から前記径方向の内側に延びる、
ことを特徴とする作業機。
【請求項3】
請求項1に記載の作業機であって、
前記径方向における前記スリット又は前記穴部の長さが、前記径方向における前記ヨークの厚さ以上である、
ことを特徴とする作業機。
【請求項4】
ステータと、前記ステータに対して回転するロータと、を有するモータと、
前記モータを収容するハウジングと、
を備えた作業機であって、
前記ステータは、
略円環状のヨークと、
前記ヨークから前記ヨークの径方向の内側に延び巻線が巻かれるティースと、
を有し、
前記ティースを前記径方向の外側に投影した範囲内において前記径方向の内側に延び、軸方向に延びる少なくとも1つのスリット又は穴部を有し、
前記径方向における前記スリット又は前記穴部の長さが、前記径方向における前記ヨークの厚さ以上である、
ことを特徴とする作業機。
【請求項5】
請求項4に記載の作業機であって、
前記スリット又は前記穴部は、前記ヨークの外周面のうち前記ティースを前記径方向の外側に投影した範囲内から前記径方向の内側に延びる、
ことを特徴とする作業機。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項に記載の作業機であって、
前記スリット又は前記穴部は、前記ティースの内部まで延びる、
ことを特徴とする作業機。
【請求項7】
請求項1から5のいずれか一項に記載の作業機であって、
前記ステータの中心から前記スリット又は前記穴部の先端部までの距離は、前記中心から前記ヨークの内面までの距離よりも短い、
ことを特徴とする作業機。
【請求項8】
請求項1から5のいずれか一項に記載の作業機であって、
前記ヨークの周方向において、前記スリット又は前記穴部は、前記ティースの中心部と同じ位置にある、
ことを特徴とする作業機。
【請求項9】
請求項1から5のいずれか一項に記載の作業機であって、
前記ステータは、前記ヨークの周方向における位置が互いに異なる複数の前記ティースを有し、
前記ヨークは、全ての前記ティースを前記径方向の外側に投影した各範囲内において前記径方向の内側に延びる複数の前記スリット又は前記穴部を有する、
ことを特徴とする作業機。
【請求項10】
請求項1から5のいずれか一項に記載の作業機であって、
前記ステータは、前記ヨークの周方向における位置が互いに異なる複数の前記ティースを有し、
前記ヨークは、一部の前記ティースを前記径方向の外側に投影した範囲内において前記径方向の内側に延び、軸方向に延びるスリット又は穴部を有し、残りの前記ティースを前記径方向の外側に投影した範囲内から前記径方向の内側に延びるスリット又は穴部を有さない、
ことを特徴とする作業機。
【請求項11】
略円環状のヨークと、前記ヨークから前記ヨークの径方向の内側に延び巻線が巻かれるティースと、を有し、
前記ティースを前記径方向の外側に投影した範囲内において前記径方向の内側に延び、軸方向に延びる少なくとも1つのスリット又は穴部を有し、
前記径方向における前記スリット又は前記穴部の長さが、前記径方向における前記ヨークの厚さの半分以上であり、かつ前記スリット又は前記穴部の最大幅以上である、
ことを特徴とするステータ。
【請求項12】
略円環状のヨークと、前記ヨークから前記ヨークの径方向の内側に延び巻線が巻かれるティースと、を有し、
前記ティースを前記径方向の外側に投影した範囲内において前記径方向の内側に延び、軸方向に延びる少なくとも1つのスリット又は穴部を有し、
前記径方向における前記スリット又は前記穴部の長さが、前記径方向における前記ヨークの厚さ以上である、
ことを特徴とするステータ。
【請求項13】
請求項11又は12に記載のステータにおいて、
前記スリット又は前記穴部は、前記ヨークの外周面のうち前記ティースを前記径方向の外側に投影した範囲内から前記径方向の内側に延びる、
ことを特徴とするステータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業機及びステータに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ステータのヨーク外周に半円状の切り欠きを設けることでステータの固有振動数を低下させ、モータ音を低減した電動工具が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2014-94418号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者の知見によれば、特許文献1の構成は、切り欠きが半円状のため、ステータの固有振動数の低下幅が小さい、あるいはヨークの磁路が狭くなり性能が低下するという課題がある。
【0005】
本発明の目的は、下記の課題1、2の少なくともいずれかを解決することである。
・課題1…ステータの固有振動数の低下幅を大きくすることの可能なステータ及び作業機を提供すること。
・課題2…ステータの固有振動数を低下させることに伴う性能低下を抑制可能なステータ及び作業機を提供すること。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のある態様は、作業機である。この作業機は、
ステータと、前記ステータに対して回転するロータと、を有するモータと、
前記モータを収容するハウジングと、
を備えた作業機であって、
前記ステータは、
略円環状のヨークと、
前記ヨークから前記ヨークの径方向の内側に延び巻線が巻かれるティースと、
を有し、
前記ティースを前記径方向の外側に投影した範囲内において前記径方向の内側に延び、軸方向に延びる少なくとも1つのスリット又は穴部を有し、
前記径方向における前記スリット又は前記穴部の長さが、前記径方向における前記ヨークの厚さの半分以上であり、かつ前記スリット又は前記穴部の最大幅以上である、ことを特徴とする。
【0007】
本発明の別の態様は、作業機である。この作業機は、
ステータと、前記ステータに対して回転するロータと、を有するモータと、
前記モータを収容するハウジングと、
を備えた作業機であって、
前記ステータは、
略円環状のヨークと、
前記ヨークから前記ヨークの径方向の内側に延び巻線が巻かれるティースと、
を有し、
前記ティースを前記径方向の外側に投影した範囲内において前記径方向の内側に延び、軸方向に延びる少なくとも1つのスリット又は穴部を有し、
前記径方向における前記スリット又は前記穴部の長さが、前記径方向における前記ヨークの厚さ以上である、ことを特徴とする。
【0008】
本発明の別の態様は、ステータである。このステータは、
略円環状のヨークと、前記ヨークから前記ヨークの径方向の内側に延び巻線が巻かれるティースと、を有し、
前記ティースを前記径方向の外側に投影した範囲内において前記径方向の内側に延び、軸方向に延びる少なくとも1つのスリット又は穴部を有し、
前記径方向における前記スリット又は前記穴部の長さが、前記径方向における前記ヨークの厚さの半分以上であり、かつ前記スリット又は前記穴部の最大幅以上である、ことを特徴とする。
【0009】
本発明の別の態様は、ステータである。このステータは、
略円環状のヨークと、前記ヨークから前記ヨークの径方向の内側に延び巻線が巻かれるティースと、を有し、
前記ティースを前記径方向の外側に投影した範囲内において前記径方向の内側に延び、軸方向に延びる少なくとも1つのスリット又は穴部を有し、
前記径方向における前記スリット又は前記穴部の長さが、前記径方向における前記ヨークの厚さ以上である、ことを特徴とする。
【0010】
本発明の作業機は「電動作業機」や「電動工具」、「電気機器」等と表現されてもよく、そのように表現されたものも本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、上記の課題1、2の少なくともいずれかを解決することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】(A)は、本発明の実施形態1に係る作業機1の断面図。(B)は、作業機1のモータ30の断面図
図2】モータ30のステータの斜視図。
図3】モータ30のステータの断面図。
図4図3の一部を拡大した断面図。
図5図3に寸法D1~D3を記した断面図。
図6】ステータコア34の断面図。
図7】ステータコア34が電磁加振力によって変形した状態の断面図であり、モード1の変形を示す断面図。
図8】ステータコア34が電磁加振力によって変形した状態の断面図であり、モード2の変形を示す断面図。
図9】モータ30の回転数と騒音レベルとの関係の一例を示すグラフであって、ステータコア34にスリット40を設けたことによりステータの固有振動数が低下してモータ30の無負荷回転数から離れ、無負荷回転数での騒音レベルが低下したことを示すグラフ。
図10】モータ30の回転数と騒音レベルとの関係の一例を示すグラフであって、ステータコア34にスリット40を設けたことによりステータの固有振動数が低下してモータ30の実用回転数範囲から離れ、実用回転数範囲での騒音レベルが低下したことを示すグラフ。
図11】モータ30の回転数と騒音レベルとの関係の別例を示すグラフであって、ステータコア34にスリット40を設けたことによりステータの固有振動数が低下してモータ30の無負荷回転数から離れ、無負荷回転数での騒音レベルが低下したことを示すグラフ。
図12】モータ30の回転数と騒音レベルとの関係の別例を示すグラフであって、ステータコア34にスリット40を設けたことによりステータの固有振動数が低下してモータ30の実用回転数範囲から離れ、実用回転数範囲での騒音レベルが低下したことを示すグラフ。
図13】ステータコア34の径方向におけるスリット40の長さとステータのモード1、モード2の各固有振動数との関係を示すグラフ。
図14図13に示すスリット40の長さとステータのモード1、モード2の各固有振動数の関係を、スリット40の長さが0mmの場合(スリット40が存在しない場合)を100%として正規化したグラフ。
図15】本発明の実施形態2におけるモータのステータの断面図。
図16】本発明の実施形態3におけるモータのステータの断面図。
図17】本発明の実施形態4におけるモータのステータの要部拡大断面図。
図18】本発明の実施形態5におけるモータのステータコア34Dの断面図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(実施形態1)
図1図14は、本発明の実施形態1に関する。本実施形態は、モータ30及びそのステータ、並びにモータ30を有する作業機1に関する。作業機1は、携帯丸鋸である。
【0014】
図1(A)に示すように、作業機1は、ハウジング10と、ハウジング10に収容されたモータ30と、を有する。モータ30の回転は、減速機構11を介して先端工具としての鋸刃12に伝達される。作業機1の構成は、後述するモータ30の構成を除き周知なので、これ以上の詳細な説明は省略する。
【0015】
図1(B)~図4に示すように、モータ30は、インナーロータ型のブラシレスモータであって、モータ軸31、ロータコア32、ロータマグネット33、ステータコア34、第1インシュレータ35、第2インシュレータ36、巻線37(ステータコイル)を有する。なお、図1(B)では巻線37の図示が省略されている。互いに同軸であるモータ軸31、ロータコア32、ステータコア34(及び後述のヨーク38)の共通する軸方向、径方向、周方向を以下、それぞれ「軸方向」、「径方向」、「周方向」と表記する。
【0016】
モータ軸31の周囲にロータコア32が設けられる。モータ軸31とロータコア32が一体に回転する。ロータコア32にロータマグネット33が挿入保持される。ロータマグネット33は、例えば、周方向に90度間隔(等角度間隔)で4個設けられる。すなわちロータは4極である。モータ軸31、ロータコア32、ロータマグネット33は、モータ30のロータを構成し、後述のステータに対して回転する。
【0017】
ステータコア34は、ハウジング10に支持され、ロータコア32の周囲を囲む。図3に示すように、ステータコア34は、略円環状のヨーク38と、ヨーク38から径方向の内側に延びるティース39と、を有する。ティース39は、例えば、周方向に60度間隔(等角度間隔)で6個設けられる。すなわちステータは6スロットである。各ティース39に第1インシュレータ35及び第2インシュレータ36を介して巻線37が巻かれる。第1インシュレータ35及び第2インシュレータ36は、例えば樹脂成形体であり、ステータコア34と巻線37との間を絶縁する。ステータコア34、第1インシュレータ35、第2インシュレータ36、巻線37は、モータ30のステータを構成する。
【0018】
ステータコア34は、スリット40を有する。スリット40は、ステータコア34の剛性を低下させ、ステータの固有振動数(以下「ステータ固有振動数」)を低下させるために設けられる。スリット40は、溝や切欠き、切込み等とも称される。
【0019】
スリット40は、各々のティース39に対応して、周方向に60度間隔(等角度間隔)で6個設けられる。各スリット40は、ヨーク38の外周面のうち各ティース39を径方向の外側に投影した範囲(以下「ティース投影範囲」)内の部分から径方向の内側に延びる。図4に、1つのティース39についてのティース投影範囲Rを示す。図4に現れない各ティース39についても同様にティース投影範囲が定義される。好ましくは、各スリット40は、軸方向から見て各ティース投影範囲内の中央位置から径方向の内側に、径方向と平行に直線的に延びる。換言すれば、周方向においてスリット40は、ティース39の中心部と同じ位置にあるとよい。図2に示すように、各スリット40は、軸方向におけるステータコア34の一端から他端まで連なる。なお、各スリット40は、軸方向においてステータコア34の一部のみに設けられてもよい。
【0020】
図4に示すように、径方向におけるスリット40の長さLは、スリット40の幅W以上(L≧W)、すなわち周方向におけるスリット40の長さ以上である。本実施形態においてスリット40は、径方向の内側の端部のR部分を除き、径方向及び軸方向の全長に渡って幅が等しい。このため、図4に示すスリット40の幅Wは、スリット40の最大幅である。すなわち、径方向におけるスリット40の長さLは、スリット40の最大幅以上である。なお、スリット40が現れる各図において、見やすさのためにスリット40の幅を実際よりも大きく描いている。
【0021】
図4に示すように、径方向におけるスリット40の長さLは、径方向におけるヨーク38の厚さT以上(L≧T)、すなわちスリット40の位置におけるヨーク38の外周面(スリット40の径方向の外側の端部)からティース39の突出元までの距離以上である。図4の例では、L>Tであり、スリット40はティース39の内部まで延びる。ティース39の内部におけるスリット40の幅Wは、磁路の断面積を確保する観点から、径方向におけるスリット40の長さLよりも十分に短いとよく、好ましくはW≦L/7である。ステータ固有振動数の目標値次第ではL<Tでもよいが、ステータ固有振動数を効果的に低下させる観点で、径方向におけるスリット40の長さLは、径方向におけるヨーク38の厚さTの半分以上(L≧T/2)であるとよい。
【0022】
図5に示すように、ステータコア34の中心Oを中心としスリット40の径方向の内側の端部を通る仮想円の直径D3は、中心Oを中心としヨーク38の内面(円筒側面形状の内周面部分)を通る仮想円の直径D2よりも短い。ヨーク38の厚さt1は、中心Oを中心としヨーク38の外面(円筒側面形状の外周面部分であってハウジング10に対する回り止め用の凸部を除く外周面部分)を通る仮想円の直径D1と前述の直径D2との差の半分(t1=(D1-D2)/2)で定義される。図4に示す厚さTも、この定義に従うヨーク38の厚さt1と等しい(T=t1)。幅t2は、スリット40の周方向の両側におけるティース39の幅である。中心Oを中心としティース39の先端(径方向の内側の端部)を通る仮想円の直径D4と前述の直径D3との差の半分((D3-D4)/2)は、磁路の断面積を確保する観点から、幅t2以上であることが望ましい。
【0023】
図4図5に示す各寸法の一例を以下に示す。
・W=1mm
・T=3.5mm
・L=7mm
・D1=55mm
・D2=48mm
・D3=36~51.5mm
・D4=28.5mm
・t1=3.5mm(=T=(D1-D2)/2)
・t2=3.5mm
【0024】
図6図8を参照し、電磁加振力によるステータコア34の変形について説明する。電磁加振力は、ステータに対してロータを回転させる際に生じる。電磁加振力は、ステータと、ステータに対して回転するロータと、の間の磁気的な引力と斥力の組合せで生じる。周方向の一部でロータとステータとが引き合い、周方向の他の一部でロータとステータとが反発し合うことで、図7及び図8に示すようにステータコア34が楕円状に変形する。なお、図7及び図8では見やすさのためにステータコア34の変形を実際よりも大きく描いている。また、図6図8は、図2図5のステータコア34の形状を簡略化して図示している。
【0025】
本実施形態の例では、電磁加振力によるステータコア34の変形は、図7に示すモード1と、図8に示すモード2と、の2種類がある。モード1とモード2の各々について固有振動数がある。電磁加振力によりステータコア34がどのように変形するかは、ハウジング10に対するステータコア34の組み付け構造や回り止め用の凸部も含めたステータコア34の全体的な形状などによって異なる。
【0026】
本実施形態ではモータ30のロータの極数は4極なので、モータ30の回転数(以下「モータ回転数」)の4倍、8倍、12倍、・・・の周波数がステータ固有振動数付近になるとき、ステータコア34の変形による振動が大きくなり、騒音レベルが高くなる。図7図8に示すように、スリット40は、自身が幅方向に伸縮することでステータコア34の変形を容易とし、その結果としてステータ固有振動数を低下させるように機能する。
【0027】
図9は、モータ回転数と騒音レベルとの関係の一例を示すグラフであって、ステータコア34にスリット40を設けたことによりステータ固有振動数が低下してモータ30の無負荷回転数から離れ、無負荷回転数での騒音レベルが低下したことを示すグラフである。
【0028】
図9及び後述の図10図12において、f1は本実施形態におけるモード1のステータ固有振動数、f2は本実施形態におけるモード2のステータ固有振動数、f1’は比較例におけるモード1のステータ固有振動数、f2’は比較例におけるモード2のステータ固有振動数を示す。比較例は、本実施形態のステータコア34からスリット40を無くしたものである。
【0029】
無負荷回転数は、鋸刃12が被加工材に接触していない状態(先端工具が相手材に接触していない状態)でモータ30を駆動した場合のモータ回転数である。モータ回転数が無負荷回転数であるときは、作業音が発生しない分、モータ30の騒音が気になりやすい。スリット40を設けることで図9に示すようにステータ固有振動数f1、f2を無負荷回転数から遠ざけることで、騒音が気になりやすい無負荷回転数におけるステータコア34の変形を抑制し、騒音レベルを効果的に低下させることができる。
【0030】
図10は、モータ回転数と騒音レベルとの関係の一例を示すグラフであって、ステータコア34にスリット40を設けたことによりステータ固有振動数が低下してモータ30の実用回転数範囲から離れ、実用回転数範囲での騒音レベルが低下したことを示すグラフである。実用回転数範囲は、作業機1の実使用で想定されるモータ回転数の範囲である。実用回転数範囲は、連続する回転数範囲でなくてもよく、離散的な回転数の集合であってもよい。スリット40を設けることで図10に示すようにステータ固有振動数f1、f2を実用回転数範囲から遠ざけることで、実用回転数範囲におけるステータコア34の変形を抑制し、騒音レベルを効果的に低下させることができる。
【0031】
図11は、モータ回転数と騒音レベルとの関係の別例を示すグラフであって、ステータコア34にスリット40を設けたことによりステータ固有振動数が低下してモータ30の無負荷回転数から離れ、無負荷回転数での騒音レベルが低下したことを示すグラフである。図11と前述の図9との差は、本実施形態のステータ固有振動数f1、f2が互いに近接し、また比較例のステータ固有振動数f1’、f2’が互いに近接し、騒音レベルのピークが1つになっている点である。図11の場合も、図9の場合と同様の騒音低減効果が得られる。
【0032】
図12は、モータ回転数と騒音レベルとの関係の別例を示すグラフであって、ステータコア34にスリット40を設けたことによりステータ固有振動数が低下してモータ30の実用回転数範囲から離れ、実用回転数範囲での騒音レベルが低下したことを示すグラフである。図12と前述の図10との差は、図11と前述の図9との差と同じであり、本実施形態のステータ固有振動数f1、f2が互いに近接し、また比較例のステータ固有振動数f1’、f2’が互いに近接し、騒音レベルのピークが1つになっている点である。図12の場合も、図10の場合と同様の騒音低減効果が得られる。
【0033】
図13は、ステータコア34の径方向におけるスリット40の長さとモード1、モード2のステータ固有振動数との関係を示すグラフである。図14は、図13に示すスリット40の長さとモード1、モード2のステータ固有振動数の関係を、スリット40の長さが0mmの場合(スリット40が存在しない場合)を100%として正規化したグラフである。これらの図より、径方向におけるスリット40の長さが長いほど、モード1とモード2のいずれについてもステータ固有振動数が低下する。径方向におけるスリット40の長さ(スリット40の深さ)は、目標とするステータ固有振動数に応じて適宜設定できる。
【0034】
本実施の形態は、下記の作用効果を奏する。
【0035】
(1) 図4に示すように、径方向におけるスリット40の長さLは、径方向におけるヨーク38の厚さTの半分以上であり、かつスリット40の幅W以上である。スリット40が長いほどステータ固有振動数が低下する関係にあるため、スリット40の長さLが径方向におけるヨーク38の厚さTの半分以上であることで、スリット40の長さLが径方向におけるヨーク38の厚さTの半分に満たない場合と比較して、ステータ固有振動数をより大きく低下させることができる。他方、スリット40の幅Wが広いと磁路の断面積が小さくなるという課題があるが、スリット40の形状として長さLが幅W以上である形状とすることで、長さLが幅W未満である形状の場合と比較して、スリット40のために磁路の断面積が小さくなる影響を抑制し、モータ30の性能低下を抑制できる。
【0036】
(2) 図4に示すように、径方向におけるスリット40の長さLは径方向におけるヨーク38の厚さT以上であり、スリット40はティース39の内部まで延びる。このため、スリット40の長さLが径方向におけるヨーク38の厚さTに満たない場合と比較して、ステータ固有振動数をより大きく低下させることができる。このとき、ティース39の内部におけるスリット40の幅Wを径方向におけるスリット40の長さLよりも十分に短くする(例えばW≦L/7とする)ことで、スリット40のために磁路の断面積が小さくなる影響を抑制し、モータ30の性能低下を抑制できる。
【0037】
(3) スリット40によりステータ固有振動数が低下するため、無負荷時においては、仮に電磁加振力とステータ固有振動数による共振が発生しても、低回転領域での共振となるため、共振時のステータコア34の変形の振幅を抑制でき、騒音を抑制できる。
【0038】
(4) スリット40によりステータ固有振動数を低下させる構成のため、ステータ固有振動数を低下させることによるモータ30の性能低下を抑制できる。例えばステータコア34の剛性を下げるために径方向におけるヨーク38の厚さを薄くすると、ヨーク38の磁気抵抗が大きくなってモータ30の性能が低下する。本実施形態によればそのような課題を好適に解決できる。
【0039】
(5) 周方向においてスリット40とティース39の中心部の位置を同じにしているため、周方向においてスリット40がティース39の中心部に対してずれている場合と比較して、スリット40の周方向の一方側のティース39の幅が狭くなって磁路の断面積が小さくなることが抑制され、性能低下が抑制される。
【0040】
(6) スリット40は、各々のティース39に対応して6個(ティース39と同数)設けられる。このため、ティース39が5個以下の場合と比較してステータ固有振動数を大きく低下させることができる。
【0041】
(実施形態2)
図15は、本発明の実施形態2におけるモータのステータの断面図である。本実施形態のステータコア34Aは、実施形態1のステータコア34から一部のスリット40を無くしたものである。図示の例では、3個のスリット40が回転非対称に、すなわち非等角度間隔で設けられる。スリット40の個数(本数)は任意である。スリット40の個数は、目標とするステータ固有振動数に応じて適宜設定できる。本実施形態では、実施形態1と比較してスリット40の数が少ない分、ステータ固有振動数を低下させる効果は小さくなるが、ステータコア34Aの変形量はステータコア34の変形量より小さくなる。また、複数のスリット40が回転非対称に設けられるため、ステータコア34の所定方向への楕円変形を阻害し、当該所定方向への楕円変形による騒音を抑制できる。本実施形態のその他の点は実施形態1と同様であり、同様の作用効果を奏する。
【0042】
(実施形態3)
図16は、本発明の実施形態3におけるモータのステータの断面図である。本実施形態のステータコア34Bは、実施形態1のステータコア34から一部のスリット40を無くしたものである。図示の例では、3個のスリット40が回転対称に、すなわち等角度間隔で設けられる。スリット40の個数(本数)は任意である。スリット40の個数は、目標とするステータ固有振動数に応じて適宜設定できる。本実施形態では、実施形態1と比較してスリット40の数が少ない分、ステータ固有振動数を低下させる効果は小さくなるが、ステータコア34Aの変形量はステータコア34の変形量より小さくなる。本実施形態のその他の点は実施形態1と同様であり、同様の作用効果を奏する。
【0043】
(実施形態4)
図17は、本発明の実施形態4におけるモータのステータの要部拡大断面図である。本実施形態のステータコア34Cは、実施形態1のスリット40がスリット40Cに替わったものである。スリット40Cは、スリット40と比較して、径方向の外側の端部が他の部分と比較して幅広になった点で相違し、その他の点で一致する。スリット40がスリット40Cに替わったことにより削られた部分は、もともと磁路として部分的に広くなっていた場所のため、スリット40Cのために磁路の断面積が小さくなる影響は、スリット40のために磁路の断面積が小さくなる影響と同等程度に抑制される。本実施形態のその他の点は実施形態1と同様であり、同様の作用効果を奏する。なお、実施形態1の一部のスリット40のみをスリット40Cに置換してもよい。また、実施形態2、実施形態3のスリット40の一部又は全部をスリット40Cに置換してもよい。
【0044】
(実施形態5)
図18は、本発明の実施形態5におけるモータのステータコア34Dの断面図である。本実施形態のステータコア34Dは、実施形態1のスリット40が長穴(穴部)40Dに替わったものである。長穴40Dは、ステータコア34Dの軸方向の一端から他端にわたって延びている。長穴40Dは、ステータコア34Dの外周面には設けられていない。すなわち、長穴40Dは、ステータの内部に形成されており、ステータコア34Dの外周面の内側から径方向内側に延びている。その他の点は実施形態1と同様であり、同様の作用効果を奏する。図15及び図16に示す実施形態2、3のスリット40を長穴40Dに替えてもよい。なお、長穴40Dは、ステータコア34Dの軸方向において一部のみに設けてもよい。また、長穴40Dは、ステータコア34Dの軸方向の一部で、ステータコア34Dの外周面から径方向内側に延びるように設けてもよい。この構成は実施形態1他のスリット40、40Cにも適用できる。
【0045】
以上、実施の形態を例に本発明を説明したが、本発明は実施の形態に限定されない。実施の形態で具体的に説明した各事項には請求項に記載の範囲で種々の変形が可能である。
【0046】
実施の形態で具体的な数値として例示したロータの極数やステータのスロット数、各寸法、ステータ固有振動数等は、発明の範囲を何ら限定するものではなく、要求される仕様に合わせて任意に変更できる。本発明の作業機は、実施形態で例示した携帯丸鋸に限定されず、卓上切断機等の他の種類の切断作業機であってもよいし、切断以外の加工、例えば穴あけ、研削、研磨、切削等の加工を行う作業機であってもよいし、ねじ締めや釘打ち等を行う作業機であってもよいし、クリーナやブロワ、空気圧縮機(コンプレッサ)などであってもよい。本発明は、モータを有する任意の種類の作業機に適用できる。本発明のステータは、作業機以外の電気機器のモータのステータとしても利用できる。
【符号の説明】
【0047】
1…作業機、10…ハウジング、11…減速機構、12…鋸刃(先端工具)、30…モータ、31…モータ軸、32…ロータコア、33…ロータマグネット、34、34A~34C…ステータコア、35…第1インシュレータ、36…第2インシュレータ、37…巻線(ステータコイル)、38…ヨーク、39…ティース、40…スリット。
図1
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