(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024158016
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】発熱装置及び発熱方法
(51)【国際特許分類】
F24V 30/00 20180101AFI20241031BHJP
【FI】
F24V30/00 302
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023072796
(22)【出願日】2023-04-26
(71)【出願人】
【識別番号】512261078
【氏名又は名称】株式会社クリーンプラネット
(74)【代理人】
【識別番号】110002675
【氏名又は名称】弁理士法人ドライト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉野 伸
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 允俊
(57)【要約】
【課題】環境温度の影響を低減しながら、ヒータにより加熱される発熱体の温度を確保し、発熱体による発熱効率を高めることができる発熱装置及び発熱方法を提供する。
【解決手段】周方向に離間した径が異なる複数の円筒状又は外周側ほど径が大きくなる断面が渦巻き状の支持体の表面に、水素の吸蔵放出により発熱する多層膜が形成された発熱体14と、発熱体の中心のヒータ12と、発熱体を格納する密閉容器11と、密閉容器の内壁面と発熱体の最外層の間の円筒状の隔壁部13と、密閉容器に水素含有ガスを供給する供給ラインと、水素含有ガスを排出する排出ラインと、を備え、ヒータの表面、発熱体の表面、及び隔壁部の内周面の間の各空間に水素透過を阻害しない熱伝導性物質15が充填され、密閉容器の内壁面11aは高放射化処理が施され、隔壁部の外周面は、高放射化処理が施されている、又は、隔壁部は、放射率が0.6以上の材料からなる構成とする。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質体、水素透過膜、及びプロトン導電体のうち少なくともいずれかにより形成され、周方向に離間して配置された径が異なる複数の円筒状又は外周側ほど径が大きくなる断面が渦巻き状の形状である支持体の表面に、水素の吸蔵と放出とにより熱を発生する多層膜が形成された発熱体と、
前記発熱体の中心に設けられた柱状のヒータと、
前記発熱体を格納する密閉容器と、
前記密閉容器の内部において前記密閉容器の内壁面と前記発熱体の最外層の間に設けられた円筒状の隔壁部と、
前記密閉容器に水素を含むガスを供給する供給ラインと、
前記発熱体における前記水素の吸蔵と放出とにより前記発熱体における発熱に供した前記水素を含むガスを排出する排出ラインと、
を備え、
前記ヒータの表面、前記発熱体の表面、及び前記隔壁部の内周面の間の各空間に水素透過を阻害しない熱伝導性物質が充填されており、
前記密閉容器の内壁面は、高放射化処理が施された表面であり、
前記隔壁部の外周面は、高放射化処理が施された表面である、又は、前記隔壁部は、放射率が0.6以上の材料からなる
発熱装置。
【請求項2】
前記多層膜は、水素吸蔵金属又は水素吸蔵合金で形成された厚さ1000nm未満の第1層と、前記第1層とは異なる水素吸蔵金属、水素吸蔵合金又はセラミックスで形成された厚さ1000nm未満の第2層とを備える
請求項1に記載の発熱装置。
【請求項3】
前記熱伝導性物質は、熱伝導性粒子又は熱伝導性メッシュにより構成されている
請求項1に記載の発熱装置。
【請求項4】
前記密閉容器の内壁面は、黒化処理が施された表面である
請求項1に記載の発熱装置。
【請求項5】
前記隔壁部の外周面は、黒化処理が施された表面である
請求項1に記載の発熱装置。
【請求項6】
多孔質体、水素透過膜、及びプロトン導電体のうち少なくともいずれかにより形成され、周方向に離間して配置された径が異なる複数の円筒状又は外周側ほど径が大きくなる断面が渦巻き状の形状である支持体の表面に、水素の吸蔵と放出とにより熱を発生する多層膜が形成された発熱体を、高放射化処理が施された内壁面を有する密閉容器に収容し、
前記発熱体の中心に柱状のヒータを設置し、
前記密閉容器の内部において前記密閉容器の内壁面と前記発熱体の最外層の間に、高放射化処理が施された外周面を有する、又は、放射率が0.6以上の材料からなる、円筒状の隔壁部を設け、
前記ヒータの表面、前記発熱体の表面、及び前記隔壁部の内周面の間の各空間に水素透過を阻害しない熱伝導性物質を充填し、
前記密閉容器に水素を含むガスを供給し、前記発熱体における前記水素の吸蔵と放出とにより前記発熱体において発熱させ、発熱に供した前記水素を含むガスを排出する
発熱方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発熱装置及び発熱方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水素吸蔵合金は、一定の反応条件の下で多量の水素を繰り返して吸蔵及び放出する特性を有しており、この水素の吸蔵と放出時にかなりの反応熱を伴うことが知られている。この反応熱を利用したヒートポンプシステム、熱輸送システム、冷熱(冷凍)システムなどの熱利用システムや水素貯蔵システムが提案されている(例えば、特許文献1,2参照)。
【0003】
ところで、本出願人などは、水素吸蔵合金などを用いた発熱体を備える発熱装置において、前記発熱体を、支持体とこの支持体に支持された多層膜とで構成することによって、当該発熱体への水素の吸蔵時と当該発熱体からの水素の放出時において熱が発生する知見を得た。そして、本出願人などは、このような知見に基づいて熱利用システム及び発熱装置を先に提案した(特許文献3参照)。
【0004】
具体的には、発熱装置の発熱体が備える支持体は、多孔質体、水素透過膜又はプロトン誘電体の少なくとも何れかで構成され、この支持体に支持される多層膜は、例えば、水素吸蔵金属又は水素吸蔵合金で構成された厚さ1000nm未満の第1層と、前記第1層とは異なる水素吸蔵金属、水素吸蔵合金又はセラミックスで構成された厚さ1000nm未満の第2層とを交互に積層することによって構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭56-100276号公報
【特許文献2】特開昭58-022854号公報
【特許文献3】特許第6749035号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献3において提案された発熱装置において、環境温度の影響を低減しながら、発熱体の近傍に設けられるヒータにより加熱される発熱体の温度を確保し、発熱体による発熱効率を高めることが求められている。
【0007】
本発明は、環境温度の影響を低減しながら、発熱体の近傍に設けられるヒータにより加熱される発熱体の温度を確保し、発熱体による発熱効率を高めることができる発熱装置及び発熱方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る発熱装置は、多孔質体、水素透過膜、及びプロトン導電体のうち少なくともいずれかにより形成され、周方向に離間して配置された径が異なる複数の円筒状又は外周側ほど径が大きくなる断面が渦巻き状の形状である支持体の表面に、水素の吸蔵と放出とにより熱を発生する多層膜が形成された発熱体と、前記発熱体の中心に設けられた柱状のヒータと、前記発熱体を格納する密閉容器と、前記密閉容器の内部において前記密閉容器の内壁面と前記発熱体の最外層の間に設けられた円筒状の隔壁部と、前記密閉容器に水素を含むガスを供給する供給ラインと、前記発熱体における前記水素の吸蔵と放出とにより前記発熱体における発熱に供した前記水素を含むガスを排出する排出ラインと、を備え、前記ヒータの表面、前記発熱体の表面、及び前記隔壁部の内周面の間の各空間に水素透過を阻害しない熱伝導性物質が充填されており、前記密閉容器の内壁面は、高放射化処理が施された表面であり、前記隔壁部の外周面は、高放射化処理が施された表面である、又は、前記隔壁部は、放射率が0.6以上の材料からなる。
【0009】
本発明に係る発熱方法は、多孔質体、水素透過膜、及びプロトン導電体のうち少なくともいずれかにより形成され、周方向に離間して配置された径が異なる複数の円筒状又は外周側ほど径が大きくなる断面が渦巻き状の形状である支持体の表面に、水素の吸蔵と放出とにより熱を発生する多層膜が形成された発熱体を、高放射化処理が施された内壁面を有する密閉容器に収容し、前記発熱体の中心に柱状のヒータを設置し、前記密閉容器の内部において前記密閉容器の内壁面と前記発熱体の最外層の間に、高放射化処理が施された外周面を有する、又は、放射率が0.6以上の材料からなる、円筒状の隔壁部を設け、前記ヒータの表面、前記発熱体の表面、及び前記隔壁部の内周面の間の各空間に水素透過を阻害しない熱伝導性物質を充填し、前記密閉容器に水素を含むガスを供給し、前記発熱体における前記水素の吸蔵と放出とにより前記発熱体において発熱させ、発熱に供した前記水素を含むガスを排出する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、環境温度の影響を低減しながら、発熱体の近傍に設けられるヒータにより加熱される発熱体の温度を確保し、発熱体による発熱効率を高めることができる発熱装置及び発熱方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施形態に係る発熱装置の構成を示すブロック図である。
【
図2】密閉容器の内部に発熱体を格納してなる発熱装置主要部の断面図である。
【
図4】第1層と第2層とを有する積層体の構造を示す断面図である。
【
図5】過剰熱の発生を説明するための説明図である。
【
図6】第1層と第2層と第3層とを有する第1変形例の発熱体を説明するための説明図である。
【
図7】第1層と第2層と第3層と第4層とを有する第2変形例の発熱体を説明するための説明図である。
【
図8】第3変形例に係る発熱装置の構成を示すブロック図である。
【
図9】第4変形例に係る密閉容器の内部に発熱体を格納してなる発熱装置主要部の断面図である。
【
図10】第1実験例に係る発熱装置の密閉容器内のシミュレーションにより求めた温度プロファイルを示すグラフである。
【
図11】第2実験例に係る発熱装置の密閉容器内のシミュレーションにより求めた温度プロファイルを示すグラフである。
【
図12】第3実験例に係る発熱装置の密閉容器内のシミュレーションにより求めた温度プロファイルを示すグラフである。
【
図13】第4実験例に係る発熱装置の密閉容器内のシミュレーションにより求めた温度プロファイルを示すグラフである。
【
図14】第5実験例に係る発熱装置の密閉容器内のシミュレーションにより求めた温度プロファイルを示すグラフである。
【
図15】第6実験例に係る発熱装置の密閉容器内のシミュレーションにより求めた温度プロファイルを示すグラフである。
【
図16】第7実験例に係る発熱装置の密閉容器内のシミュレーションにより求めた温度プロファイルを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[実施形態]
本実施形態に係る発熱装置1について
図1を参照して説明する。
【0013】
(発熱装置1)
図1は本実施形態に係る発熱装置1の構成を示すブロック図である。図示の発熱装置1は、密閉容器11の内部に発熱体14(後述)を格納してなる発熱装置主要部10と、発熱体14の温度を調整する温度調整部Tと、密閉容器11に水素を含むガスを供給する供給ラインL1と、密閉容器11内の水素を含むガスを排出する排出ラインを構成する排出配管29と、発熱体14へ吸蔵され、発熱体14から放出された水素を供給ラインL1へと戻して回収する水素回収ラインL3とを備えている。以降においては、水素を含むガスを水素系ガスと称する。
【0014】
(発熱装置主要部10)
発熱装置1の密閉容器11に格納された発熱体14の構造について
図2を参照して説明する。
図2は密閉容器11の内部に発熱体14を格納してなる発熱装置主要部10の断面図である。
図2に示すように、発熱装置主要部10は、密閉容器11に、ヒータ12、隔壁部13、及び発熱体14が格納されて構成されている。
【0015】
発熱体14は、多孔質体、水素透過膜、及びプロトン導電体のうち少なくともいずれかにより形成され、周方向に離間して配置された径が異なる複数の円筒状である支持体の表面に、水素の吸蔵と放出とにより熱を発生する多層膜が形成された構成(後述)を有する。
図2においては4層の円筒状の支持体を有する4層構成の発熱体14を示しているが、層の数は特に限定はない。各発熱体14の間隔は特に限定はないが、例えば隣接する発熱体14の間の周方向の距離が、それぞれ均等となるように設けられている。発熱体14の層数は、特に限定はないが、例えば2層以上13層以下とすることができる。
【0016】
ヒータ12は、円柱状の形状を有し、発熱体14の中心に設けられている。ヒータ12は、円柱状に限定されず、円柱以外の柱状であってもよい。
【0017】
隔壁部13は、円筒状の形状を有し、密閉容器11の内部において密閉容器11の内壁面11aと発熱体14の最外層の間に設けられている。隔壁部13は、例えば発熱体14を構成する支持体と同様な材料により構成されている。
【0018】
ヒータ12の表面、発熱体14の表面、及び隔壁部13の内周面の間の各空間に、水素透過を阻害しない熱伝導性物質15が充填されている。熱伝導性物質15は、例えば、熱伝導性粒子又は熱伝導性メッシュにより構成されている。熱伝導性粒子は、金属あるいはセラミックス等の熱伝導性の材料からなる粒子であり、例えば平均粒径が0.01mm~1mm、具体的には0.1mmである。熱伝導性メッシュは、例えば開口径が0.1mm~10mmの開口を有するパンチングメタルあるいは金属網状構造物等の金属材料からなるメッシュ、あるいは、同様の開口を有するセラミック材料からなるメッシュである。上記の熱伝導性粒子又は熱伝導性メッシュを構成する導電性材料としては、例えばステンレススチール、チタン、ニッケル合金、及び金(Au)等の金属、あるいは、窒化ケイ素、炭化ケイ素、アルミナ、及びジルコニア等のセラミック材料が挙げられる。
【0019】
密閉容器11の内壁面11aは、高放射化処理が施された表面である。具体的には、密閉容器11の内壁面11aは、黒化処理が施された表面である。黒化処理としては、例えばベンタブラック(オーシャンフォトニクス株式会社)等のブラックコーティング処理が挙げられる。
【0020】
隔壁部13の外周面は、高放射化処理が施された表面である、あるいは、隔壁部13は放射率が0.6以上の材料からなる。隔壁部13の外周面は、密閉容器11の内壁面11aと同様に、黒化処理等の高放射化処理が施された表面とすることができる。あるいは、隔壁部13が、放射率が0.6以上の材料で形成されている場合には、隔壁部13の外周面は高放射化処理がされていなくてもよい。放射率が0.6以上の材料は、例えば、窒化ケイ素及び炭化ケイ素が挙げられる。発熱体14の放射率は0.1~0.2程度であり、隔壁部13の外周面の放射率は発熱体14の放射率より高いことが好ましい。
【0021】
密閉容器11の外周には、所定温度の冷却水により密閉容器11を外周から冷却する冷却装置(不図示)が設けられている。
【0022】
(発熱体14)
次に、発熱体14の詳細な構造について
図3及び
図4を参照して説明する。
図3に示すように、発熱体14は、支持体61と多層膜62とを有する積層体14aを有する。
【0023】
ここでは、例えば、25℃程度の水素系ガスが発熱体14へ吸蔵され、発熱体14から放出されることにより、当該水素系ガスが発熱体14により加熱され、発熱体14を透過した後には50℃以上1000℃以下、好ましくは600℃以上1000℃以下の水素系ガスとなる。水素系ガスが発熱体14を透過する構成であってもよい。水素系ガスが透過する方向は特に限定はない。紙面左側末端の支持体61から紙面右側末端の多層膜62に向けて水素系ガスが透過する場合でもよく、紙面右側末端の多層膜62から紙面左側末端の支持体61に向けて水素系ガスが透過するようにしてもよい。
【0024】
支持体61は、水素系ガスが発熱体14へ吸蔵され、発熱体14から放出されるのを可能にする構成であればよく、多孔質体、水素透過膜、及びプロトン導電体のうち少なくともいずれかにより形成される。支持体61は、この例では表面及び裏面を有する板状に形成されている。多孔質体は、例えば水素系ガスの通過を可能とするサイズの孔を有する。多孔質体は、例えば、金属、非金属、セラミックスなどにより形成される。多孔質体は、水素系ガスと多層膜62との反応(以下、発熱反応という)を阻害しない材料により形成されることが好ましい。水素透過膜は、例えば、水素吸蔵金属又は水素吸蔵合金により形成される。水素吸蔵金属としては、Ni、Pd、V、Nb、Ta、Tiなどが用いられる。水素吸蔵合金としては、LaNi5、CaCu5、MgZn2、ZrNi2、ZrCr2、TiFe、TiCo、Mg2Ni、Mg2Cuなどが用いられる。水素透過膜は、メッシュ状のシートを有するものを含む。プロトン導電体としては、BaCeO3系(例えばBa(Ce0.95Y0.05)O3-6)、SrCeO3系(例えばSr(Ce0.95Y0.05)O3-6)、CaZrO3系(例えばCaZr0.95Y0.05O3-α)、SrZrO3系(例えばSrZr0.9Y0.1O3-α)、β Al2O3、β Ga2O3などが用いられる。
【0025】
図4に示すように、多層膜62は、支持体61に設けられる。多層膜62は、水素吸蔵金属又は水素吸蔵合金により形成される第1層71と、第1層71とは異なる水素吸蔵金属、水素吸蔵合金又はセラミックスにより形成される第2層72とにより形成される。支持体61と第1層71と第2層72との間には、後述する異種物質界面73が形成される。
図4では、多層膜62は、支持体61の一方の面(例えば表面)に、第1層71と第2層72がこの順で交互に積層されている。第1層71と第2層72とは、それぞれ5層とされている。なお、第1層71と第2層72の各層の層数は適宜変更してもよい。多層膜62は、支持体61の表面に、第2層72と第1層71がこの順で交互に積層されたものでもよい。多層膜62は、第1層71と第2層72をそれぞれ1層以上有し、異種物質界面73が1以上形成されていればよい。
【0026】
第1層71は、例えば、Ni、Pd、Cu、Mn、Cr、Fe、Mg、Co、これらの合金のうち、いずれかにより形成される。第1層71を形成する合金は、Ni、Pd、Cu、Mn、Cr、Fe、Mg、Coのうち2種以上からなる合金であることが好ましい。第1層71を形成する合金として、Ni、Pd、Cu、Mn、Cr、Fe、Mg、Coに添加元素を添加させた合金を用いてもよい。
【0027】
第2層72は、例えば、Ni、Pd、Cu、Mn、Cr、Fe、Mg、Co、これらの合金、SiCのうち、いずれかにより形成される。第2層72を形成する合金は、Ni、Pd、Cu、Mn、Cr、Fe、Mg、Coのうち2種以上からなる合金であることが好ましい。第2層72を形成する合金として、Ni、Pd、Cu、Mn、Cr、Fe、Mg、Coに添加元素を添加させた合金を用いてもよい。
【0028】
第1層71と第2層72との組み合わせとしては、元素の種類を「第1層71-第2層72(第2層72-第1層71)」として表すと、Pd-Ni、Ni-Cu、Ni-Cr、Ni-Fe、Ni-Mg、Ni-Coであることが好ましい。第2層72をセラミックスとした場合は、「第1層71-第2層72」が、Ni-SiCであることが好ましい。
【0029】
図5に示すように、異種物質界面73は水素原子を透過させる。
図5は、面心立法構造の水素吸蔵金属により形成される第1層71及び第2層72において、第1層71の金属格子中の水素原子が、異種物質界面73を透過して第2層72の金属格子中へ移動する様子を示した概略図である。水素は軽く、ある物質Aと物質Bの水素が占めるサイト(オクトヘドラルやテトラヘドラルサイト)をホッピングしながら量子拡散していくことが分かっている。このため、発熱体14に吸蔵された水素は、多層膜62の内部をホッピングしながら量子拡散する。発熱体14では、第1層71、異種物質界面73、第2層72を水素が量子拡散により透過する。
【0030】
第1層71の厚みと第2層72の厚みは、それぞれ1000nm未満であることが好ましい。第1層71と第2層72の各厚みが1000nm以上となると、水素が多層膜62を透過し難くなる。また、第1層71と第2層72の各厚みが1000nm未満であることにより、バルクの特性を示さないナノ構造を維持することができる。第1層71と第2層72の各厚みは、500nm未満であることがより好ましい。第1層71と第2層72の各厚みが500nm未満であることにより、完全にバルクの特性を示さないナノ構造を維持することができる。
【0031】
次に発熱体14の製造方法の一例を説明する。この場合、板状の支持体61を準備し、蒸着装置を用いて、第1層71や第2層72となる水素吸蔵金属又は水素吸蔵合金を気相状態にして、凝集や吸着によって支持体61の表面に、第1層71及び第2層72を交互に成膜する。これにより、支持体61の表面に多層膜62を有した積層体14aが形成される。なお、第1層71及び第2層72は真空状態で連続的に成膜することが好ましい。これにより、第1層71及び第2層72の間には、自然酸化膜が形成されずに、異種物質界面73のみが形成される。蒸着装置としては、水素吸蔵金属又は水素吸蔵合金を物理的な方法で蒸着させる物理蒸着装置が用いられる。物理蒸着装置としては、スパッタリング装置、真空蒸着装置、CVD(Chemical Vapor Deposition)装置が好ましい。また、電気めっき法により、支持体61の表面に水素吸蔵金属又は水素吸蔵合金を析出させ、第1層71及び第2層72を交互に成膜してもよい。
【0032】
図4では、多層膜62は、支持体61の一方の面(例えば表面)に積層された構成としているが、これに限定されず、多層膜62は、支持体61の他方の面(例えば裏面)に積層された構成としてもよく、また、多層膜62は、支持体61の両方の面(表面及び裏面)に積層された構成としてもよい。
【0033】
以下、
図1を参照して、発熱装置1について、発熱装置主要部10以外の構成である、温度調整部T、供給ラインL1、排出配管29、及び水素回収ラインL3についてそれぞれ説明する。
【0034】
(温度調整部T)
温度調整部Tは、発熱体14の温度を調整して該発熱体14を発熱に最適な温度(例えば、50℃~1500℃)に維持するものであって、ヒータ12(
図2参照)と、該ヒータ12に電力を供給する電源20と、ヒータ12の温度を検出する熱電対などの温度センサ21と、該温度センサ21よって検出された温度に基づいて電源20の出力を制御する制御部22を備えている。なお、制御部22は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)などの記憶部などを備えており、CPUにおいては、ROMやRAMに格納されているプログラムやデータなどを用いて各種の演算処理が実行される。
【0035】
(供給ラインL1)
供給ラインL1は、低温の水素と熱媒体を供給配管23から密閉容器11内へと供給するものであって、供給配管23は、循環ポンプ24の吐出側から延びており、その端部は、密閉容器11に差し込まれて該密閉容器11の上部に開口している。
【0036】
循環ポンプ24の吸入側には、熱利用装置(不図示)から延びる回収配管25が接続されており、循環ポンプ24の吐出側から延びる供給配管23には、バッファタンク26と電動式の圧力調整弁(減圧弁)27及びフィルタ28が設けられている。そして、循環ポンプ24と圧力調整弁27は、制御部22に電気的に接続されており、これらの循環ポンプ24と圧力調整弁27は、制御部22から出力される制御信号によってその動作が制御される。なお、循環ポンプ24には、例えば、メタルベローズポンプが使用される。
【0037】
バッファタンク26は、水素と熱媒体を貯留してこれらの水素と熱媒体の流量の変動を吸収するためのものである。また、圧力調整弁27は、制御部22からの制御信号を受信してその開度が調整されることによって、バッファタンク26から供給される水素と熱媒体の圧力を調整する機能を果たす。
【0038】
また、フィルタ28は、水素と熱媒体に含まれる不純物を除去するためのものである。ここで、発熱体14を透過する水素の量(水素透過量)は、発熱体14の温度、発熱体14の内外における圧力差、発熱体14の外周面の表面状態に依存するが、水素に不純物が含まれている場合には、不純物が発熱体14の外周面に付着して該発熱体14の表面状態を悪化させることがある。発熱体14の表面状態が悪化した場合には、該発熱体14の多層膜62の表面における水素分子の吸着及び解離が阻害されて水素透過量が減少するという不具合が発生する。発熱体14の多層膜62の表面における水素分子の吸着及び解離を阻害するものとしては、例えば、水(水蒸気を含む)、炭化水素(メタン、エタン、メタノール、エタノールなど)、C、S、Siなどが考えられる。
【0039】
フィルタ28が水素や熱媒体に含まれる不純物としての水(水蒸気を含む)、炭化水素、C、S、Siなどを除去することによって、発熱体14における水素透過量の減少が抑制される。
【0040】
(排出配管29)
排出配管29は、密閉容器11内に格納された発熱体14を透過しなかった水素(非透過水素)を含む密閉容器11内の水素系ガスを密閉容器11の底部から密閉容器11外へと排出するものである。排出配管29には、水素分離器等の処理部32aが必要に応じて設けられており、この処理部32aを経た水素は、水素配管33から回収配管25へと戻される。
【0041】
(水素回収ラインL3)
水素回収ラインL3は、密閉容器11内に格納された発熱体14における発熱に供された水素を含む水素系ガスを回収配管25へと戻すラインであって、発熱体14の円筒状の支持体61の上端部に連結されたヘッダ30から密閉容器11の上部を貫通して上方へと延びる水素回収配管31を回収配管25に接続して構成されている。なお、発熱体14の下端部は、封止又は不図示のヘッダに接続された構成となっていてもよい。
【0042】
(発熱装置1の作用)
次に、以上のように構成された発熱装置1の作用について説明する。
【0043】
制御部22からの制御信号によって循環ポンプ24が駆動されると、該循環ポンプ24から吐出される水素系ガスは、供給ラインL1の供給配管23から密閉容器11内の上部に導入される。なお、水素系ガスは、供給配管23を流れる過程においてバッファタンク26によって圧力変動が抑制されるとともに、圧力調整弁27によって所定値に減圧される。
【0044】
また、発熱体14に設けられたヒータ12(
図2参照)は、電源20から供給される電力によって発熱し、発熱体14を所定温度(例えば、50℃~1500℃)に加熱する。なお、前述のように発熱体14の温度は、温度センサ21によって検出される温度に基づいて電源20の出力が制御部22によって制御されることによって適正な値に調整される。
【0045】
上述のように、密閉容器11内に導入された水素は、発熱体14の多層膜62を透過して上方に向かって流れてヘッダ30内へと導入される。発熱装置1においては、各発熱体14の外部に水素が供給され、各発熱体14の内部の水素(透過水素)が排出されることによって、各発熱体14の内外に水素分圧の差が生じ、この水素分圧の差によって水素が各発熱体14の多層膜62を透過し、この水素の透過によって各発熱体14が発熱する。具体的には、各発熱体14の多層膜62の一方の表面(例えば支持体61とは反対側の面)に水素分子が吸着し、この水素分子が2つの水素原子に解離する。そして、解離した水素原子が多層膜62の内部に侵入(吸蔵)し、この水素原子が多層膜62の他方の表面(例えば支持体61と接する面)で再結合して水素分子として放出される。このように、水素原子が多層膜62の表面から内周面へと移動する際に、この水素原子が異種物質界面73(
図5参照)を量子拡散によって透過し、あるいは、水素原子が異種物質界面73を量子拡散によって拡散して、各発熱体14において加熱温度以上の過剰熱を発生させることができる。発熱装置1においては、水素が各発熱体14を連続的に透過することがあり、過剰熱を効率的に発生させることができる。
【0046】
上述のように、発熱体14での吸蔵及び放出により該発熱体14の発熱に供された水素を含む水素系ガスは、ヘッダ30を介して水素回収配管31を経て回収配管25へと流れ、回収配管25を流れる水素系ガスと合流し、水素系ガスは循環ポンプ24によって昇圧された後、供給配管23を通って密閉容器11内に再び導入される。
【0047】
また、発熱体14を透過しなかった水素(非透過水素)を含む密閉容器11内の水素系ガスは、排出配管29から密閉容器11外へと排出され、水素分離器等の処理部32aを経て水素配管33から回収配管25へと戻される。
【0048】
密閉容器11内において発熱体14において発生した熱は、ヒータ12の表面と隔壁部13の内周面との間の空間では熱伝導により、隔壁部13の外周面と密閉容器11の内壁面11aとの間の空間では主に放射により伝導され、最終的に密閉容器11の外周に設けられた冷却装置(不図示)の冷却水(熱媒体)に伝導される。熱媒体(冷却水)は、熱利用装置(不図示)へと輸送され、この熱媒体によって回収された熱が熱利用装置に供給される。
【0049】
以後、上記と同様の動作が繰り返されて水素系ガスが閉ループを循環し、その課程でこれらの水素系ガスが発熱体14の発熱に供されるとともに、発熱体14において発生した熱を回収した熱媒体(冷却水)が熱利用装置に供給され、この熱によって熱利用装置が駆動される。そして、熱利用装置の駆動に供されて温度の下がった冷却水(熱媒体)は再び冷却装置に戻され、以下、同様の作用が繰り返される。
【0050】
(発熱装置1の効果)
本実施形態の発熱装置1によれば、ヒータ12の表面、発熱体14の表面、及び隔壁部13の内周面の間の各空間に、水素透過を阻害しない熱伝導性物質15が充填されていることにより、複数の層からなる発熱体14の層間の温度差を小さく保ちながらヒータ12からの熱で発熱体14の各層を加熱できる。また、密閉容器11の内壁面11aは高放射化処理が施された表面であり、隔壁部13の外周面は、高放射化処理が施された表面であるか、あるいは隔壁部13は放射率が0.6以上の材料からなり、隔壁部13の外周面と密閉容器11の内壁面11aとの間の空間での熱伝導の機構が熱伝導物質15による熱伝導より伝導率が低減された主に放射による熱伝導となることにより、環境温度の影響を低減しながら、熱を密閉容器11の外部へと伝導できる。これらから、環境温度の影響を低減しながら、発熱体の近傍に設けられるヒータにより加熱される発熱体の温度を確保し、発熱体の層数を増加することが可能となり、発熱体による発熱効率を高めることができる。
【0051】
(発熱方法)
本実施形態の発熱方法は、上記の本実施形態の発熱装置1を用いて実施できる。まず、多孔質体、水素透過膜、及びプロトン導電体のうち少なくともいずれかにより形成され、周方向に離間して配置された径が異なる複数の円筒状である支持体61の表面に、水素の吸蔵と放出とにより熱を発生する多層膜62が形成された発熱体14を、高放射化処理が施された内壁面11aを有する密閉容器11に収容し、発熱体14の中心に円柱状のヒータ12を設置し、密閉容器11の内部において密閉容器11の内壁面11aと発熱体14の最外層の間に、高放射化処理が施された外周面を有する、又は、放射率が0.6以上の材料からなる、円筒状の隔壁部13を設ける。次に、ヒータ12の表面、発熱体14の表面、及び隔壁部13の内周面の間の各空間に水素透過を阻害しない熱伝導性物質15を充填する。続いて、密閉容器11に水素を含むガスを供給し、発熱体14における水素の吸蔵と放出とにより発熱体14において発熱させ、発熱に供した水素を含むガスを排出する。
【0052】
(発熱方法の効果)
本実施形態の発熱方法によれば、ヒータ12の表面、発熱体14の表面、及び隔壁部13の内周面の間の各空間に、水素透過を阻害しない熱伝導性物質15が充填されていることにより、複数の層からなる発熱体14の層間の温度差を小さく保ちながらヒータ12からの熱で発熱体14の各層を加熱できる。また、密閉容器11の内壁面11aが、高放射化処理が施された表面であり、隔壁部13の外周面は、高放射化処理が施された表面であるか、あるいは隔壁部13は放射率が0.6以上の材料からなり、隔壁部13の外周面と密閉容器11の内壁面11aとの間の空間での熱伝導の機構が熱伝導物質15による熱伝導より伝導率が低減された主に放射による熱伝導となることにより、環境温度の影響を低減しながら、熱を密閉容器11の外部へと伝導できる。これらから、環境温度の影響を低減しながら、発熱体の近傍に設けられるヒータにより加熱される発熱体の温度を確保し、発熱体の層数を増加することが可能となり、発熱体による発熱効率を高めることができる。
【0053】
本発明は、上記実施形態に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更が可能である。以下、実施形態の変形例について説明する。変形例の図面及び説明では、上記実施形態と同一又は同等の構成要素及び部材に対し同一の符号を付する。上記実施形態と重複する説明を適宜省略し、上記実施形態と相違する構成について重点的に説明する。
【0054】
[第1変形例]
発熱装置1は、発熱体14の代わりに、
図6に示す発熱体75を備える。
図6に示す発熱体75は、積層体の多層膜62が、第1層71と第2層72に加えて、第3層77をさらに有する。第3層77は、第1層71及び第2層72とは異なる水素吸蔵金属、水素吸蔵合金、又はセラミックスにより形成される。第3層77の厚みは、1000nm未満であることが好ましい。
図6では、第1層71と第2層72と第3層77は、支持体61の表面に、第1層71、第2層72、第1層71、第3層77の順に積層されている。なお、第1層71と第2層72と第3層77は、支持体61の表面に、第1層71、第3層77、第1層71、第2層72の順に積層されてもよい。すなわち、多層膜62は、第2層72と第3層77の間に第1層71を設けた積層構造とされている。多層膜62は、第3層77を1層以上有していればよい。第1層71と第3層77との間に形成される異種物質界面78は、異種物質界面73と同様に、水素原子を透過させる。
【0055】
第3層77は、例えば、Ni、Pd、Cu、Cr、Fe、Mg、Co、これらの合金、SiC、CaO、Y2O3、TiC、LaB6、SrO、BaOのうちいずれかにより形成される。第3層77を形成する合金は、Ni、Pd、Cu、Cr、Fe、Mg、Coのうち2種以上からなる合金であることが好ましい。第3層77を形成する合金として、Ni、Pd、Cu、Cr、Fe、Mg、Coに添加元素を添加させた合金を用いてもよい。
【0056】
特に、第3層77は、CaO、Y2O3、TiC、LaB6、SrO、BaOのいずれかにより形成されることが好ましい。CaO、Y2O3、TiC、LaB6、SrO、BaOのいずれかにより形成される第3層77を有する発熱体75は、水素の吸蔵量が増加し、異種物質界面73及び異種物質界面78を透過する水素の量が増加し、過剰熱の高出力化が図れる。CaO、Y2O3、TiC、LaB6、SrO、BaOのいずれかにより形成される第3層77は、厚みが10nm以下であることが好ましい。これにより、多層膜62は、水素原子を容易に透過させる。CaO、Y2O3、TiC、LaB6、SrO、BaOのいずれかにより形成される第3層77は、完全な膜状に形成されずに、アイランド状に形成されてもよい。また、第1層71及び第3層77は、真空状態で連続的に成膜することが好ましい。これにより、第1層71及び第3層77の間には、自然酸化膜が形成されずに、異種物質界面78のみが形成される。
【0057】
第1層71と第2層72と第3層77との組み合わせとしては、元素の種類を「第1層71-第3層77-第2層72」として表すと、Pd-CaO-Ni、Pd-Y2O3-Ni、Pd-TiC-Ni、Pd-LaB6-Ni、Ni-CaO-Cu、Ni-Y2O3-Cu、Ni-TiC-Cu、Ni-LaB6-Cu、Ni-Co-Cu、Ni-CaO-Cr、Ni-Y2O3-Cr、Ni-TiC-Cr、Ni-LaB6-Cr、Ni-CaO-Fe、Ni-Y2O3-Fe、Ni-TiC-Fe、Ni-LaB6-Fe、Ni-Cr-Fe、Ni-CaO-Mg、Ni-Y2O3-Mg、Ni-TiC-Mg、Ni-LaB6-Mg、Ni-CaO-Co、Ni-Y2O3-Co、Ni-TiC-Co、Ni-LaB6-Co、Ni-CaO-SiC、Ni-Y2O3-SiC、Ni-TiC-SiC、Ni-LaB6-SiCであることが好ましい。
【0058】
[第2変形例]
発熱装置1は、発熱体14の代わりに、
図7に示す発熱体80を備える。
図7に示す発熱体80は、積層体の多層膜62が、第1層71と第2層72と第3層77に加えて、第4層82をさらに有する。第4層82は、第1層71、第2層72及び第3層77とは異なる水素吸蔵金属、水素吸蔵合金、又はセラミックスにより形成される。第4層82の厚みは、1000nm未満であることが好ましい。
図7では、第1層71と第2層72と第3層77と第4層82は、支持体61の表面に、第1層71、第2層72、第1層71、第3層77、第1層71、第4層82の順に積層されている。なお、第1層71と第2層72と第3層77と第4層82は、支持体61の表面に、第1層71、第4層82、第1層71、第3層77、第1層71、第2層72の順に積層してもよい。すなわち、多層膜62は、第2層72、第3層77、第4層82を任意の順に積層し、かつ、第2層72、第3層77、第4層82のそれぞれの間に第1層71を設けた積層構造とされている。多層膜62は、第4層82を1層以上有していればよい。第1層71と第4層82との間に形成される異種物質界面83は、異種物質界面73及び異種物質界面78と同様に、水素原子を透過させる。
【0059】
第4層82は、例えば、Ni、Pd、Cu、Cr、Fe、Mg、Co、これらの合金、SiC、CaO、Y2O3、TiC、LaB6、SrO、BaOのうちいずれかにより形成される。第4層82を形成する合金は、Ni、Pd、Cu、Cr、Fe、Mg、Coのうち2種以上からなる合金であることが好ましい。第4層82を形成する合金として、Ni、Pd、Cu、Cr、Fe、Mg、Coに添加元素を添加させた合金を用いてもよい。
【0060】
特に、第4層82は、CaO、Y2O3、TiC、LaB6、SrO、BaOのいずれかにより形成されることが好ましい。CaO、Y2O3、TiC、LaB6、SrO、BaOのいずれかにより形成される第4層82を有する発熱体80は、水素の吸蔵量が増加し、異種物質界面73、異種物質界面78、及び異種物質界面83を透過する水素の量が増加し、過剰熱の高出力化が図れる。CaO、Y2O3、TiC、LaB6、SrO、BaOのいずれかにより形成される第4層82は、厚みが10nm以下であることが好ましい。これにより、多層膜62は、水素原子を容易に透過させる。CaO、Y2O3、TiC、LaB6、SrO、BaOのいずれかにより形成される第4層82は、完全な膜状に形成されずに、アイランド状に形成されてもよい。また、第1層71及び第4層82は、真空状態で連続的に成膜することが好ましい。これにより、第1層71及び第4層82の間には、自然酸化膜が形成されずに、異種物質界面83のみが形成される。
【0061】
第1層71と第2層72と第3層77と第4層82との組み合わせとしては、元素の種類を「第1層71-第4層82-第3層77-第2層72」として表すと、Ni-CaO-Cr-Fe、Ni-Y2O3-Cr-Fe、Ni-TiC-Cr-Fe、Ni-LaB6-Cr-Feであることが好ましい。
【0062】
なお、複数の層からなる発熱体としては、
図4に示す発熱体14、
図6に示す発熱体75、及び
図7に示す発熱体80から2種以上を混合して用いてもよい。例えば、内周側の発熱体と外周側の発熱体とで、異なる層構成の発熱体を用いてもよい。複数の層構成の発熱体を、任意の順番で配置した構成としてもよい。また、多層膜62の構成、例えば、各層の厚みの比率、各層の層数、材料は、使用される温度に応じて適宜変更してもよい。
【0063】
[第3変形例]
図8は本変形例に係る発熱装置1aの構成を示すブロック図である。図示の発熱装置1aは、密閉容器11の内部に発熱体14を格納してなる発熱装置主要部10と、発熱体14の温度を調整する温度調整部Tと、密閉容器11に水素系ガスを供給する供給ラインL1と、密閉容器11内の水素系ガスを排出する排出ラインL2と、発熱体14をへ吸蔵され、発熱体14から放出された水素を供給ラインL1へと戻して回収する水素回収ラインL3とを備えている。水素系ガスは熱媒体を含む。熱媒体としては、熱伝導率に優れかつ化学的に安定したものが好ましく、例えば、ヘリウムガスやアルゴンガスなどの希ガス、水素ガス、窒素ガス、水蒸気、空気、二酸化炭素、水素化物を形成するガスなどが使用される。
【0064】
排出ラインL2は、密閉容器11内に格納された発熱体14を透過しなかった水素(非透過水素)を含む水素系ガスを密閉容器11の底部から延びる排出配管29から密閉容器11外へと排出するものである。非透過水素と熱媒体は、発熱体14によって加熱されて高温となる。排出配管29には、水素と熱媒体とを分離するための水素分離器32が設けられており、この水素分離器32によって分離された水素は、水素配管33から回収配管25へと戻される。また、水素分離器32において水素が分離除去された熱媒体は、熱利用装置(不図示)へと輸送され、この熱媒体によって回収された熱が熱利用装置に供給される。
【0065】
上記を除いては、上記の実施形態の発熱装置1と同様の構成である。上記の実施形態の発熱装置1は、密閉容器11の外周に冷却装置(不図示)が設けられた構成であるが、本変形例では冷却装置は設けられていなくてもよい。冷却装置が設けた場合には、上記の実施形態と同様に冷却水に熱を伝導して熱を回収することもできる。
【0066】
本変形例の発熱装置1aによれば、環境温度の影響を低減しながら、発熱体の近傍に設けられるヒータにより加熱される発熱体の温度を確保し、発熱体の層数を増加することが可能となり、発熱体による発熱効率を高めることができる。
【0067】
[第4変形例]
発熱体14は、周方向に離間して配置された径が異なる複数の円筒状に限定されず、外周側ほど径が大きくなる断面が渦巻き状の形状であってもよい。
図9は、本変形例に係る密閉容器11の内部に発熱体14Xを格納してなる発熱装置主要部10Xの断面図である。
図9に示した発熱体14Xは、外周側ほど径が大きくなる断面が渦巻き状の形状である。発熱体14Xの巻き数は、
図2に示した発熱体14の層数と同程度である。上記を除いては、上記の実施形態の発熱装置1と同様の構成である。
【0068】
[第1実験例]
図10は第1実験例に係る発熱装置の密閉容器内のシミュレーションにより求めた温度プロファイルを示すグラフである。上記の実施形態の発熱装置において、ヒータの外周に設けられる発熱体の層数を4層とし、発熱体から数えると5層目となる隔壁部を設け、ヒータの表面から隔壁部の内周面までの空間に充填された熱伝導性物質の熱伝導率を0.3W/m/K、密閉容器の内壁面の放射率を0.45、隔壁部の外周面の放射率を0.18とし、ヒータの出力を30W、発熱部における過剰熱を270W、冷却水量0.6L/min、冷却水温度25℃、として発熱装置を駆動した時の密閉容器内の温度プロファイルをシミュレーションにより求めた。結果を
図10中のグラフbで示す。横軸はヒータの中心から密閉容器までの周方向の位置(mm)を示し、縦軸は温度(℃)を示す。ここで、密閉容器の内壁面と隔壁部の外周面は高放射化処理が施されていない表面である。
図10において、ヒータの表面HS、ヒータの表面HSから隔壁部の内周面までの領域A1、隔壁部の外周面から密閉容器の内周面までの領域A2、及び密閉容器CHの位置をそれぞれ示し、発熱体が水素の透過により発熱するのに十分な温度T1を示す。領域A1は主として熱伝導性物質により熱伝導がなされる領域であり、領域A2は放射により熱伝導がなされる領域である。また、
図10において、グラフbにおける発熱体から数えると5層目となる隔壁部の位置L5(b)を示す。
【0069】
グラフbの温度プロファイルを示す上記の発熱装置に対して、隔壁部を設けず、熱伝導性物質を充填しないことのみが異なる発熱装置において、上記と同様にヒータの出力を30W、発熱部における過剰熱を270W、冷却水量0.6L/min、冷却水温度25℃、として発熱装置を駆動した時の密閉容器内の温度プロファイルをシミュレーションにより求めた。結果を
図10中のグラフaで示す。
【0070】
グラフbの発熱体から数えると5層目となる隔壁部の位置L5(b)の温度は、発熱体が水素の透過により発熱するのに十分な温度T1より高かった。グラフaでは、ヒータの表面の温度はヒータの耐熱温度1000℃を超えていた。グラフa及びbの比較から、隔壁部を設け、熱伝導性物質を充填することにより、ヒータの表面の温度を400℃程度下げても、発熱体は水素の透過により発熱するのに十分な温度T1以上の温度を確保していた。
【0071】
[第2実験例]
図11は第2実験例に係る発熱装置の密閉容器内のシミュレーションにより求めた温度プロファイルを示すグラフである。
図11中のグラフcは、
図10中のグラフbと同一の温度プロファイルであり、上記の実施形態の発熱装置において、ヒータの外周に設けられる発熱体の層数を4層とし、発熱体から数えると5層目となる隔壁部を設け、ヒータの表面から隔壁部の内周面までの空間に充填された熱伝導性物質の熱伝導率を0.3W/m/K、密閉容器の内壁面の放射率を0.45、隔壁部の外周面の放射率を0.18とし、ヒータの出力を30W、発熱部における過剰熱を270W、冷却水量0.6L/min、冷却水温度25℃、として発熱装置を駆動した時の温度プロファイルである。ここで、密閉容器の内壁面と隔壁部の外周面は高放射化処理が施されていない表面である。
図11において、グラフcにおける発熱体から数えると5層目となる隔壁部の位置L5(c)を示す。
【0072】
グラフcの温度プロファイルを示す上記の発熱装置に対して、密閉容器の内壁面の放射率を0.9、隔壁部の外周面の放射率を0.9とし、黒化処理により高放射化された表面としたことのみが異なる発熱装置において、上記と同様にヒータの出力を30W、発熱部における過剰熱を270W、冷却水量0.6L/min、冷却水温度25℃、として発熱装置を駆動した時の密閉容器内の温度プロファイルをシミュレーションにより求めた。結果を
図11中のグラフdで示す。
図11において、グラフdにおける発熱体から数えると5層目となる隔壁部の位置L5(d)を示す。
【0073】
グラフdにおいて発熱体から数えると5層目となる隔壁部の位置L5(d)の温度は、発熱体が水素の透過により発熱するのに十分な温度T1より低かった。グラフc及びdの比較から、密閉容器の内壁面の放射率を0.9、隔壁部の外周面の放射率を0.9として黒化処理により高放射化された表面とすることにより、ヒータの表面の温度は300℃以上低下した。ヒータの表面の温度が300℃以上低下したので、発熱体の層数や巻き数を増加させることができることが確認された。
【0074】
[第3実験例]
図12は第3実験例に係る発熱装置の密閉容器内のシミュレーションにより求めた温度プロファイルを示すグラフである。
図12中のグラフeは、
図11中のグラフdと同一の温度プロファイルであり、上記の実施形態の発熱装置において、ヒータの外周に設けられる発熱体の層数を4層とし、発熱体から数えると5層目となる隔壁部を設け、ヒータの表面から隔壁部の内周面までの空間に充填された熱伝導性物質の熱伝導率を0.3W/m/K、密閉容器の内壁面の放射率を0.9、隔壁部の外周面の放射率を0.9とし、ヒータの出力を30W、発熱部における過剰熱を270W、冷却水量0.6L/min、冷却水温度25℃、として発熱装置を駆動した時の温度プロファイルである。ここで、密閉容器の内壁面と隔壁部の外周面は黒化処理による高放射化が施された表面である。
図12において、グラフeに対応する、ヒータの表面HSから隔壁部の内周面までの領域A1(e)、及び隔壁部の外周面から密閉容器の内周面までの領域A2(e)を示す。領域A1(e)は主として熱伝導性物質により熱伝導がなされる領域であり、領域A2(e)は放射により熱伝導がなされる領域である。
図12において、グラフeにおける発熱体から数えると5層目となる隔壁部の位置L5(e)を示す。
【0075】
グラフeの温度プロファイルを示す上記の発熱装置に対して、発熱体の層数を7層としたことのみが異なる発熱装置において、上記と同様にヒータの出力を30W、発熱部における過剰熱を550W、冷却水量0.6L/min、冷却水温度25℃、として発熱装置を駆動した時の密閉容器内の温度プロファイルをシミュレーションにより求めた。結果を
図12中のグラフfで示す。
【0076】
グラフfの温度プロファイルを示す上記の発熱装置に対して、冷却水量を6L/minとしたことのみ異なるようにして発熱装置を駆動した時の密閉容器内の温度プロファイルをシミュレーションにより求めた。結果を
図12中のグラフgで示す。
【0077】
グラフfの温度プロファイルを示す上記の発熱装置に対して、冷却水温度を200℃としたことのみ異なるようにして発熱装置を駆動した時の密閉容器内の温度プロファイルをシミュレーションにより求めた。結果を
図12中のグラフhで示す。
【0078】
図12において、グラフf,g,hに対応する、ヒータの表面HSから隔壁部の内周面までの領域A1(f,g,h)、及び隔壁部の外周面から密閉容器の内周面までの領域A2(f,g,h)を示す。領域A1(f,g,h)は主として熱伝導性物質により熱伝導がなされる領域であり、領域A2(f,g,h)は放射により熱伝導がなされる領域である。また、
図12において、グラフf,g,hにおいて7層目の発熱体の位置L7(f,g,h)と、発熱体から数えると8層目となる隔壁部の位置L8(f,g,h)とを示す。
【0079】
グラフf,g,hにおいて7層目の発熱体より内周側の発熱体の温度は発熱体が水素の透過により発熱するのに十分な温度T1より高かったが、グラフf,g,hにおいて7層目の発熱体の位置L7(f,g,h)の温度と、発熱体から数えると8層目となる隔壁部の位置L8(f,g,h)の温度とは、発熱体が水素の透過により発熱するのに十分な温度T1より低かった。グラフf,g,hに示されるように、発熱体の層数を4層から7層に増加させることで過剰熱を増加させることができ、この時のヒータ表面の温度は1000℃以下に留まっていた。冷却水の温度及び量は、発熱体の温度への影響は小さかった。
【0080】
[第4実験例]
図13は第4実験例に係る発熱装置の密閉容器内のシミュレーションにより求めた温度プロファイルを示すグラフである。上記の実施形態の発熱装置において、ヒータの外周に設けられる発熱体の層数を10層とし、発熱体から数えると11層目となる隔壁部を設け、ヒータの表面から隔壁部の内周面までの空間に充填された熱伝導性物質の熱伝導率を0.6W/m/K、密閉容器の内壁面の放射率を0.9、隔壁部の外周面の放射率を0.9とし、ヒータの出力を30W、発熱部における過剰熱を900W、冷却水量0.6L/min、冷却水温度25℃、として発熱装置を駆動した時の密閉容器内の温度プロファイルをシミュレーションにより求めた。結果を
図13中のグラフiで示す。ここで、密閉容器の内壁面と隔壁部の外周面は黒化処理による高放射化が施された表面である。
【0081】
グラフiの温度プロファイルを示す上記の発熱装置に対して、冷却水量を6L/minとしたことのみ異なるようにして発熱装置を駆動した時の密閉容器内の温度プロファイルをシミュレーションにより求めた。結果を
図13中のグラフjで示す。
【0082】
グラフiの温度プロファイルを示す上記の発熱装置に対して、冷却水量を6L/minとし、冷却水温度を200℃としたことのみ異なるようにして発熱装置を駆動した時の密閉容器内の温度プロファイルをシミュレーションにより求めた。結果を
図13中のグラフkで示す。
【0083】
図13において、グラフi,kにおいて10層目の発熱体の位置L10(i,k)と、発熱体から数えると11層目となる隔壁部の位置L11(i,k)とを示す。また、グラフjにおいて10層目の発熱体の位置L10(j)と、発熱体から数えると11層目となる隔壁部の位置L11(j)とを示す。
【0084】
グラフi,kにおける10層目の発熱体の位置L10(i,k)の温度と、グラフjにおける10層目の発熱体の位置L10(j)の温度とは、発熱体が水素の透過により発熱するのに十分な温度T1より高かった。グラフf,g,hに示されるように、発熱体の層数を10層に増加させることで過剰熱をさらに増加させることができ、この時のヒータ表面の温度は1000℃以下に留まっていた。冷却水の温度及び量は、発熱体の温度への影響は小さかった。
【0085】
上記の第1~第4実験例から、以下のように考察される。発熱層の層間の温度差を小さくするためには、ヒータの表面から隔壁部の内周面までの空間に充填された熱伝導性物質の熱伝導率を高め、例えばセラミックスの熱伝導率と同等とすることが好ましい。また、発熱体の最外層の温度は、発熱体の発熱量、即ち発熱体の層数に依存すると考えられ、発熱体の最外層の温度を発熱体が水素の透過により発熱するのに十分な温度T1より高めるためには、発熱体の層数を増加させることが好ましい。
【0086】
密閉容器の外部の影響により温度が低められても、最外周の発熱体の位置において発熱体が水素の透過により発熱するのに十分な温度T1より高くなるように設計することが求められるが、密閉容器の外部の影響により温度が低められる条件としては、例えば冷却水の水量を17L/min(1t/h相当)にまで増加させ、冷却水の温度を25℃とすることが考えられる。
【0087】
[第5実験例]
図14は第5実験例に係る発熱装置の密閉容器内のシミュレーションにより求めた温度プロファイルを示すグラフである。上記の実施形態の発熱装置において、ヒータの外周に設けられる発熱体の層数を13層とし、発熱体から数えると14層目となる隔壁部を設け、ヒータの表面から隔壁部の内周面までの空間に充填された熱伝導性物質の熱伝導率を4W/m/K、密閉容器の内壁面の放射率を0.9、隔壁部の外周面の放射率を0.9とし、ヒータの出力を0W、発熱部における過剰熱を1300W、冷却水量17L/min、冷却水温度25℃、として発熱装置を駆動した時の密閉容器内の温度プロファイルをシミュレーションにより求めた。結果を
図14中のグラフlで示す。ここで、密閉容器の内壁面と隔壁部の外周面は黒化処理による高放射化が施された表面である。
【0088】
グラフlの温度プロファイルを示す上記の発熱装置に対して、冷却水の温度を600℃としたことのみ異なるようにして発熱装置を駆動した時の密閉容器内の温度プロファイルをシミュレーションにより求めた。結果を
図14中のグラフmで示す。
【0089】
図14において、グラフlにおいて13層目の発熱体の位置L13(l)と、発熱体から数えると14層目となる隔壁部の位置L14(l)とを示す。また、グラフmにおいて13層目の発熱体の位置L13(m)と、発熱体から数えると14層目となる隔壁部の位置L14(m)とを示す。
【0090】
グラフlにおける13層目の発熱体の位置L13(l)の温度と、グラフmにおける13層目の発熱体の位置L13(m)の温度とは、発熱体が水素の透過により発熱するのに十分な温度T1より高かった。グラフmに示されるように、冷却水温度を600℃としても、ヒータ表面の温度は1000℃以下に留まっていた。
【0091】
以下に、熱伝導性物質の熱伝導率について考察する。流体が単層の場合の流体静止時の充填層の有効熱伝導率は、下記式(1)で示される。
【0092】
【0093】
ここで、ke
0は充填層の有効熱伝導率、kfは気体の熱伝導率、εは平均空隙率、hrvは空隙率、充填物質の放射率と温度の関数、dpは充填物資の平均粒子径、ξは平均空隙率、充填物質の放射率・平均粒子径、温度、気体の熱伝導率の関数、kpは充填物質の熱伝導率である。
【0094】
粒子と気体とが充填されて充填層が形成された場合の充填層の熱伝導率は、表1に示すように算出される。ここでは、粒子は窒化ケイ素からなり、気体としてH2及びArを例とする。表1は、気体、気体の圧力(Pa)、気体の熱伝導率(W/m/K)、粒子の熱伝導率(W/m/K)、粒子の充填率、及び充填層の熱伝導率(W/m/K)をまとめて示す。
【0095】
【0096】
表1に示すように、窒化ケイ素粒子とH2とを用いた場合、H2を400Paの高圧で用いると、充填層の熱伝導率は7.7W/m/Kまでの高い値が得られる。気体の種類と粒子の組成の選択により、例えば4W/m/K程度の熱伝導率は十分に実現可能な範囲となっている。
【0097】
[第6実験例]
図15は第6実験例に係る発熱装置の密閉容器内のシミュレーションにより求めた温度プロファイルを示すグラフである。上記の実施形態の発熱装置において、ヒータの外周に設けられる発熱体の層数を13層とし、発熱体から数えると14層目となる隔壁部を設け、ヒータの表面から隔壁部の内周面までの空間に充填された熱伝導性物質の熱伝導率を4W/m/K、密閉容器の内壁面の放射率を0.9、隔壁部の外周面の放射率を0.9とした発熱装置で、ヒータによる加熱開始時(即ち、過剰熱0Wの時点)としたときの密閉容器内の温度プロファイルをシミュレーションにより求めた。ヒータの出力を200W~1000Wとし、冷却水量17L/min、冷却水温度25℃とした。結果を
図15中のグラフn,o,p,q,rで示す。グラフnはヒータ出力1000W、グラフoはヒータ出力800W、グラフpはヒータ出力600W、グラフqはヒータ出力400W、グラフrはヒータ出力200Wに対応する。ここで、密閉容器の内壁面と隔壁部の外周面は黒化処理による高放射化が施された表面である。
【0098】
ヒータの出力1000Wのときに、内周側から6層目の発熱体までが、発熱体が水素の透過により発熱するのに十分な温度T1より高かった。内周側の1層目から6層目の発熱体においては発熱が可能となっており、ヒータの温度が上昇する。ヒータの加熱により発熱が開始した後は、ヒータの温度が1000℃を超えないようにヒータの出力を抑制し、最終的にはヒータ出力が0Wとなるように、制御することが考えられる。
【0099】
[第7実験例]
図16は第7実験例に係る発熱装置の密閉容器内のシミュレーションにより求めた温度プロファイルを示すグラフである。上記の実施形態の発熱装置において、ヒータの外周に設けられる発熱体の層数を13層とし、発熱体から数えると14層目となる隔壁部を設け、密閉容器内にArを大気圧で導入し、ヒータの表面から隔壁部の内周面までの空間に充填された熱伝導性物質の熱伝導率を1.5W/m/K、密閉容器の内壁面の放射率を0.9、隔壁部の外周面の放射率を0.9とし、ヒータの出力を0W、発熱部における過剰熱を1300W、冷却水量17L/min、冷却水温度25℃~550℃、として発熱装置を駆動した時の密閉容器内の温度プロファイルをシミュレーションにより求めた。結果を
図16中のグラフs,tで示す。グラフsは冷却水温度25℃、グラフtは冷却水温度550℃に対応する。ここで、密閉容器の内壁面と隔壁部の外周面は黒化処理による高放射化が施された表面である。
【0100】
発熱体において発生する過剰熱は、ヒータの表面から隔壁部の内周面までの空間に充填された熱伝導性物質の熱伝導率が4W/m/Kの場合と大きく変わらない結果となった。ヒータが耐熱温度を超えないように、冷却水温度は550℃以下とすることが好ましい。
【符号の説明】
【0101】
1、1a 発熱装置
10、10X 発熱装置主要部
11 密閉容器
12 ヒータ
13 隔壁部
14、14X 発熱体
15 熱伝導性物質
20 電源
21 温度センサ
22 制御部
23 供給配管
24 循環ポンプ
25 回収配管
26 バッファタンク
27 圧力調整弁
28 フィルタ
29 排出配管
30 ヘッダ
31 水素回収配管
32 水素分離器
32a 処理部
33 水素配管