(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024158031
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】バイポーラ型積層電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
H02J 7/02 20160101AFI20241031BHJP
H01M 10/44 20060101ALI20241031BHJP
H01M 10/48 20060101ALI20241031BHJP
【FI】
H02J7/02 G
H01M10/44 Q
H01M10/48 P
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023072832
(22)【出願日】2023-04-27
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 達人
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 典輝
(72)【発明者】
【氏名】小林 極
(72)【発明者】
【氏名】竹下 慎也
(72)【発明者】
【氏名】松田 千裕
【テーマコード(参考)】
5G503
5H030
【Fターム(参考)】
5G503AA01
5G503BA01
5G503BB02
5G503CA08
5G503HA03
5H030AA10
5H030AS08
5H030BB01
5H030FF41
5H030FF42
5H030FF43
5H030FF44
5H030FF52
(57)【要約】
【課題】本開示は、初回充電の時間が短縮されたバイポーラ型積層電池の製造方法を提供することを主目的とする。
【解決手段】本開示においては、バイポーラ型積層電池の製造方法であって、複数の電池セルが直列に接続され、かつ、厚さ方向に積層された、バイポーラ型積層体を準備する、準備工程と、上記複数の上記電池セルのうちも1つの充電が完了するまで、上記複数の上記電池セルを一括充電する、一括充電工程と、上記一括充電工程の後に、処理1から処理8を順次行う個別充電工程と、を有するバイポーラ型積層電池の製造方法。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
バイポーラ型積層電池の製造方法であって、
複数の電池セルが直列に接続され、かつ、厚さ方向に積層された、バイポーラ型積層体を準備する、準備工程と、
前記複数の前記電池セルのうち1つの充電が完了するまで、前記複数の前記電池セルを一括充電する、一括充電工程と、
前記一括充電工程の後に、下記処理1から下記処理8を順次行う個別充電工程と、を有するバイポーラ型積層電池の製造方法。
処理1:充電が完了していない充電未完了電池セルごとに、充電が完了するまでに要する時間を算出する。
処理2:前記厚さ方向における前記バイポーラ型積層体の両端および前記充電が完了した電池セルを壁と定義する。
処理3:前記壁で囲まれた複数の領域に対して、前記領域に属する前記充電未完了電池セルの数が直列可能な電池セルの数より多いか否か判定する。
処理4:前記充電未完了電池セルの数が前記直列可能な電池セルの数より多いと判定された領域に対して、前記処理1で算出した時間が最も短い充電未完了電池セルを保留セルとし、前記直列可能な電池セルの数以下の領域となるまで分割する。
処理5:前記保留セルが複数設定された場合において、前記処理1で算出した時間が長い保留セルから順に充電可能か否かを判定する。
処理6:前記処理5後の前記領域を、それぞれ直列充電する。
処理7:前記充電未完了電池セルのうちいずれかの充電が完了した場合、前記直列充電を停止する。
処理8:前記充電未完了電池セルの全ての充電が完了するまで、前記処理1から前記処理7を繰り返す。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、バイポーラ型積層電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
複数の電池セルが直列接続された積層体を充電(初回充電)して積層電池を製造する方法が知られている。ここで、直列接続された複数の電池セルを一括充電(直列充電)すると、各電池セルの容量バラツキにより、充電率にバラツキが生じ、積層電池の総充電量が目減りする場合がある。この場合、充電率が低い電池セルに合わせて一括充電を継続すると、満充電状態の電池セルが過充電されてしまう恐れがある。この点について、特許文献1には、直列接続電池とその電力供給減となる発電機との間にスイッチを設け、制御装置から各電池を個別又は複数同時に選択できるようにする、リチウムイオン電池の充電方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
生産性向上の観点から、電池の製造における初回充電の時間を短縮できることが好ましい。本開示は、上記実情に鑑みてなされたものであり、初回充電の時間が短縮されたバイポーラ型積層電池の製造方法を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
[1]
バイポーラ型積層電池の製造方法であって、複数の電池セルが直列に接続され、かつ、厚さ方向に積層された、バイポーラ型積層体を準備する、準備工程と、上記複数の上記電池セルのうち1つの充電が完了するまで、上記複数の上記電池セルを一括充電する、一括充電工程と、上記一括充電工程の後に、所定の処理1から処理8を順次行う個別充電工程と、を有するバイポーラ型積層電池の製造方法。
【発明の効果】
【0006】
本開示においては、初回充電の時間が短縮されたバイポーラ型積層電池の製造方法を提供できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本開示におけるバイポーラ型積層体、電池セルおよびバイポーラ電極を例示する、概略断面図である。
【
図2】本開示における個別充電工程を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本開示におけるバイポーラ型積層電池の製造方法について、詳細に説明する。なお、本開示において「バイポーラ型」とはバイポーラ電極を有していることを意味する。また、本開示においてバイポーラ型積層電池を、単に積層電池と称する場合がある。本開示では、まず、複数の電池セルが直列に接続され、かつ、厚さ方向に積層された、バイポーラ型積層体を準備する(準備工程)。次いで、上記複数の上記電池セルのうち1つの充電が完了するまで、上記複数の上記電池セルを一括充電する(一括充電工程)。そして、上記一括充電工程の後に、所定の処理1から処理8を順次行う(個別充電工程)。
【0009】
本開示によれば、一括充電した後に、充電未完了電池セルに対して、所定の処理1から処理8を順次行い個別充電するため、初回充電の時間を短縮できる。
【0010】
複数の電池セルが直列に接続された積層体を一括充電した場合、容量のばらつきなどにより、1つの電池セルの充電が完了しても(満充電となっても)、充電が完了していない電池セル(充電未完了電池セル)が含まれ、電池の総充電量が目減りする場合がある。また、容量が低い電池セルに合わせて一括充電を継続した場合、電池セルが過充電となる恐れがある。その場合に、一括充電後、充電未完了電池セルを個別充電することが想定される。
【0011】
ここで、バイポーラ型積層電池では、隣接する電池セルの正極と負極とが集電体層を挟んで表裏一体となっているため、直列接続部を単純に切り離すことが困難であり、電池セルを個別に充電することが困難である。そのため、例えば、電源に接続された電池セルと、電源に接続されていない電池セルとを、厚さ方向において交互に連続させた状態とすることで、バイポーラ型積層体の直列接続部を疑似的に切り離し、充電する電池セルおよび充電しない電池セルを交互に切り替えながら個別充電することが考えられる。しかしながら、厚さ方向において隣接する電池セルを交互に充電した場合、満充電状態の電池セルに電源が接続され、満充電となっていない電池セルに電源が接続されない場合も想定され、効率的に個別充電できない恐れがある。
【0012】
これに対して本開示においては、個別充電工程で、充電未完了電池セルを複数の領域に組み分けし、領域ごとに直列充電する。特に、満充電までに要する時間が長い電池セルが優先的に上記領域に組み分けられるような処理を行い個別充電する。その結果、効率的に個別充電でき、充電に要する時間を短縮することができる。
【0013】
1.準備工程
本開示における準備工程は、複数の電池セルが直列に接続され、かつ、厚さ方向に積層された、バイポーラ型積層体を準備する工程である。
【0014】
図1は、準備工程で準備するバイポーラ型積層体を説明する概略断面図である。
図1(a)に示すように、バイポーラ型積層体20では、複数の電池セル(10a、10b、10c)が直列に接続され、かつ、厚さ方向D
Tに積層されている。バイポーラ型積層体における電池セルの数は、特に限定されないが、通常3以上であり、10以上であってもよく、100以上であってもよい。なお、図示しないが、バイポーラ型積層体の周囲は、樹脂等の封止材で封止されていてもよい。
【0015】
図1(b)に示すように、電池セル10は、通常、正極活物質層1と、負極活物質層2と、正極活物質層1および負極活物質層2の間に配置された電解質層3と、正極活物質層1の集電を行う正極集電体4と、負極活物質層2の集電を行う負極集電体5と、を有している。
【0016】
正極活物質層、負極活物質層、電解質層、正極集電体および負極集電体は、電池に用いられる従来公知の部材とすることができる。なお、電解質層は、電解質として液体電解質(電解液)を含有する液体電解質層であってもよく、電解質として固体電解質を含有する固体電解質層であってもよい。
【0017】
また、
図1(a)に示すように、バイポーラ型積層体20は、バイポーラ電極(11a、11b)を備えている。
図1(c)に示すように、バイポーラ電極11は、集電体層6と、集電体層6の一方の表面上に配置された正極活物質層1と、集電体層6の他方の表面上に配置された負極活物質層2と、を有する。正極活物質層および負極活物質層については上述したとおりである。また、集電体層は、正極集電体および負極集電体の両方として機能する。集電体層の材料は、上述した正極集電体および負極集電体の材料と同様とすることができる。バイポーラ型積層体におけるバイポーラ電極の数は、電池セルの数をNとした場合、通常、N-1(Nは2以上の整数)である。
【0018】
2.一括充電工程
本開示における一括充電工程は、上記複数の上記電池セルのうちも1つの充電が完了するまで、上記複数の上記電池セルを一括充電する工程である。なお、一括充電工程においては、SOC(state of charge)が所定の値に到達した場合、「充電が完了」した、と判断することができる。
【0019】
3.個別充電工程
本開示における個別充電工程は、一括充電工程の後に、所定の処理1から処理8を順次行う工程である。
【0020】
本開示における個別充電工程を、
図2を用いて説明する。
図2は、12個の電池セル(10a~10l)が積層されたバイポーラ型積層体に対して、上記一括充電工程を行った後の状態を示している。また、
図2において、直列可能な電池セルの数は4個と設定している。なお、直列可能な電池セルの数は、使用する電源に応じて適宜調整することができる。
【0021】
図2(a)に示すように、1個の電池セル(10j)の充電が完了した場合に、一括充電は終了している。つまり、電池セル10a~10iおよび10k~10lが、充電が完了していない充電未完了電池セルである。また、
図2における電池セルに示された数字は、後述する処理1で算出された、充電が完了するまでに要する時間(残りの充電時間)を意味する。なお、個別充電工程の説明においては、充電未完了電池セルを単に電池セルと称する場合がある。また、
図2における上下方向が厚さ方向である。
【0022】
まず、
図2(a)に示すように、充電未完了電池セルごとに充電が完了するまでに要する時間を算出する(処理1)。時間については、全ての電池セルの電圧および通電可能電流などの数値に基づき算出することができる。
【0023】
次いで、上記厚さ方向における上記バイポーラ型積層体の両端および上記充電が完了した電池セルを壁と定義する(処理2)。そして、上記壁で囲まれた複数の領域に対して、上記領域に属する上記充電未完了電池セルの数が直列可能な電池セルの数より多いか否か判定する(処理3)。
【0024】
図2(a)に示すように、厚さ方向(紙面上下方向)において、バイポーラ型積層体の両端は、電池セル10aの上端と、電池セル10lの下端である。また、充電が完了した電池セル10jが壁である。なお、
図2においては、電池セル10aの上端を第1壁、電池セル10lの下端を第2壁、充電が完了した電池セルを第3壁、と記している。
図2(a)に示すように、第1壁および第3壁で囲われた領域αに属する充電未完了電池セル(10a~10i)の数は9個であり、直列可能な電池セルの数である4個よりも多い。一方、第2壁および第3壁で囲われた領域βに属する充電未完了電池セル(10kおよび10l)の数は2個であり、直列可能な電池セルの数である4個以下である。そのため、領域αに対して後述する処理4を行う。
【0025】
処理4は、上記充電未完了電池セルの数が上記直列可能な電池セルの数より多いと判定された領域に対して、上記処理1で算出した時間が最も短い充電未完了電池セルを保留セルとし、上記直列可能な電池セルの数以下となるまで分割する処理である。
図2(b)に示すように、領域αに属する電池セルの内、電池セル10dの残り充電時間が最も短いため、保留セルと設定する。保留セル(電池セル10d)を上述した壁と同様に取り扱い、領域αを領域α
1および領域α
2に分割する。分割後においても、領域α
2に属する充電未完了電池セル(10e~10i)の数は5個であるため、
図2(c)に示すように、充電未完了電池セル(10e~10i)の内で、残り充電時間が最も短い電池セル10eを保留セルとして、さらに領域α
2を分割する(領域α
2′)。領域α
2′に属する充電未完了電池セル(10f~10i)の数は4個であるため、ここで、分割(処理4)を終了する。ここで、1度の分割において、残り充電時間が同じ、かつ、最も短い電池セルが複数得られた場合、厚さ方向において、積層体の内側に位置する電池セルを優先的に保留セルと設定することが好ましい。
【0026】
図2(c)に示すように、上記処理4において保留セルが複数設定されているため(電池セル10d、10e)、処理5では、処理1で算出した時間が長い保留セルから順に充電可能か否かを判定する。つまり、分割を複数行った場合、直列可能な電池セルの数よりも、領域に属する電池セルの数が少なくなる場合があり、保留セルを上記領域に組み込み充電が可能か否か(保留セルを組み込んでも直列可能な電池セル以下となるか否か)を判定する。
【0027】
まず、保留セルの内、残り充電時間が長い保留セル(10e)に対して上記判定を行う。保留セル10eは領域α1に属する電池セルと隣接せず、電池セル10a~10cとともに直列充電できないため、領域α1には組み込めない。また、保留セル10eを領域α2′に組み込んだ場合、領域α2に属する電池セルの数が直列可能な電池セルの数を超えるため、領域α2′に組み込むこともできない。よって、保留セル10eは充電ができないと判定される。一方、保留セル10dは領域α1に属する電池セルと隣接し、かつ、領域α1に組み込んだ場合であっても領域α1に属する電池セルの数が直列可能な電池セルの数以下となる。よって、保留セル10eは、領域α1に組み込むことができ、かつ、充電ができると判定される。その結果、領域α1は、電池セル10a~10dを含む領域α1′と設定される。
【0028】
なお、上記処理3において、上記充電未完了電池セルの数が直列可能な電池セルの数より多い領域が無いと判定された場合、上記処理4および処理5を行わず、各領域を直列充電してもよい。
【0029】
図2(d)、(e)に示すように、上記処理5後の領域α
1′、α
2′およびβを、それぞれ直列充電し(処理6)、充電未完了電池セルのうちいずれかの充電が完了した場合、直列充電を停止する(処理7)。
図2(e)に示すように、充電残り時間が最も短かった電池セル10dおよび電池セル10kの充電が完了した時点で直列充電を停止する。充電が完了したか否かは、SOCを算出して判断してもよく、上記処理1で算出した時間により判断してもよい。そして、充電未完了電池セルの全ての充電が完了するまで、上記処理1から上記処理7を繰り返す(処理8)。
図2(e)に示すように、充電が完了した電池セル10dおよび10lを新たな壁として、上記処理を繰り返す。
【0030】
4.バイポーラ型積層電池
本開示におけるバイポーラ型積層電池は、上述した個別充電工程の後に、積層体をエージングするエージング工程を経て製造されてもよい。
【0031】
本開示における積層電池は、上述したバイポーラ電極を有する。また、電池の構造は、上述したバイポーラ型積層体と同様である。
【0032】
積層電池の種類としては、典型的には、リチウムイオン電池である。また、電池は、電解質層が液系電解質である液系電池であってもよく、電解質層が固体電解質層である全固体電池であってもよいが、典型的には液系電池である。また、積層電池の用途としては、例えば、ハイブリッド車(HEV)、プラグインハイブリッド車(PHEV)、電気自動車(BEV)、ガソリン自動車、ディーゼル自動車等の車両の電源が挙げられる。特に、ハイブリッド車(HEV)、プラグインハイブリッド車(PHEV)または電気自動車(BEV)の駆動用電源に用いられることが好ましい。また、積層電池は、車両以外の移動体(例えば、鉄道、船舶、航空機)の電源として用いられてもよく、情報処理装置等の電気製品の電源として用いられてもよい。
【0033】
なお、本開示は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本開示における特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本開示における技術的範囲に包含される。
【実施例0034】
本開示における一括充電工程および個別充電工程を有する製造方法をシミュレーションし、個別充電に要する時間を評価した。なお、シミュレーションにおけるバイポーラ積層体としては電池セル120個が直列に接続された積層体を設定した。また、シミュレーションにおける電源としては4直列対応の電源を設定した。つまり、直列可能な電池セルの数を4個に設定した。
【0035】
3.2万回実施したシミュレーションから、本開示における製造方法では、個別充電に要した時間について、平均時間は12.92時間であり、最短時間は8.56時間であり、最長時間は21.46時間であり、充電時間のばらつきは±10h(標準偏差:σ=2.5h)であった。なお、一括充電後の個別充電を、本開示における方法以外の方法で行う製造方法をシミュレーションした場合、一括充電後の個別充電に要する時間の平均時間は24.44時間であり、最短時間は16.52時間であり、最長時間は38.25時間であった。
【0036】
この結果から、本開示における製造方法では、充電時間を短縮でき効率的にバイポーラ型積層電池を製造できることが確認された。