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特開2024-158042バリ取りシステム、バリ取り方法、及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024158042
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】バリ取りシステム、バリ取り方法、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   G05B 19/4093 20060101AFI20241031BHJP
   B23Q 15/00 20060101ALI20241031BHJP
【FI】
G05B19/4093 A
B23Q15/00 301J
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023072876
(22)【出願日】2023-04-27
(71)【出願人】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100125645
【弁理士】
【氏名又は名称】是枝 洋介
(74)【代理人】
【識別番号】100145609
【弁理士】
【氏名又は名称】楠屋 宏行
(74)【代理人】
【識別番号】100149490
【弁理士】
【氏名又は名称】羽柴 拓司
(72)【発明者】
【氏名】濱口 聖士
(72)【発明者】
【氏名】飛田 正俊
【テーマコード(参考)】
3C269
【Fターム(参考)】
3C269AB07
3C269AB33
3C269BB09
3C269EF02
3C269EF59
3C269EF71
3C269KK08
3C269MN42
(57)【要約】
【課題】バリ取りの自動化の実現を図ることが可能なバリ取りシステムを提供する。
【解決手段】バリ取りシステムは、対象物の形状を表すデータに基づいて、対象物の稜線の中からバリ取りの対象となる作業線を特定する特定部と、作業線への進入、作業線に沿った移動、及び作業線からの退避を含む、バリ取り工具の目標軌跡を算出する算出部と、目標軌跡に基づいてバリ取り工具を移動させる工作機械と、を備える。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物の形状を表すデータに基づいて、前記対象物の稜線の中からバリ取りの対象となる作業線を特定する特定部と、
前記作業線への進入、前記作業線に沿った移動、及び前記作業線からの退避を含む、バリ取り工具の目標軌跡を算出する算出部と、
前記目標軌跡に基づいて前記バリ取り工具を移動させる工作機械と、
を備える、バリ取りシステム。
【請求項2】
前記目標軌跡は、前記作業線への進入角度及び前記作業線からの退避角度を含む、
請求項1に記載のバリ取りシステム。
【請求項3】
前記特定部は、前記作業線の端点の種類を特定し、
前記算出部は、前記端点の種類に応じて、前記端点における前記作業線への進入又は前記作業線からの退避の種類を選択する、
請求項1に記載のバリ取りシステム。
【請求項4】
前記特定部は、前記作業線の端点において前記作業線に沿った方向に前記バリ取り工具が通り抜け可能であるか否か特定する、
請求項1に記載のバリ取りシステム。
【請求項5】
前記算出部は、前記作業線の端点において前記バリ取り工具が通り抜け可能である場合に、前記端点における前記作業線への進入角度又は前記作業線からの退避角度を前記作業線に対して鈍角に設定する、
請求項4に記載のバリ取りシステム。
【請求項6】
前記算出部は、前記作業線の端点において前記バリ取り工具が通り抜け不能である場合に、前記端点における前記作業線への進入角度又は前記作業線からの退避角度を前記作業線に対して鋭角に設定する、
請求項4に記載のバリ取りシステム。
【請求項7】
前記目標軌跡は、
前記作業線の第1中途点に進入し、前記作業線の第1端点に向かって移動し、前記第1端点から退避する第1軌跡と、
前記作業線の前記第1中途点よりも前記第1端点に近い第2中途点に進入し、前記作業線の第2端点に向かって移動し、前記第2端点から退避する第2軌跡と、
を含む、
請求項1に記載のバリ取りシステム。
【請求項8】
前記特定部は、前記稜線の中から所定形状の角部を特定し、前記角部の間の区間を前記作業線として特定する、
請求項1に記載のバリ取りシステム。
【請求項9】
前記特定部は、前記稜線の中から曲率半径が所定以下である凹部を前記角部として特定する、
請求項8に記載のバリ取りシステム。
【請求項10】
前記特定部は、前記稜線の中から線分の角度変化が所定以上である角を前記角部として特定する、
請求項8に記載のバリ取りシステム。
【請求項11】
前記バリ取り工具を前記作業線に沿って移動させたときの、前記バリ取り工具と他の稜線との干渉を確認する確認部をさらに備える、
請求項1に記載のバリ取りシステム。
【請求項12】
前記確認部は、前記バリ取り工具と前記他の稜線との干渉が生じる場合、前記作業線の中から干渉が生じる点を除外する、
請求項11に記載のバリ取りシステム。
【請求項13】
対象物の形状を表すデータに基づいて、前記対象物の稜線の中からバリ取りの対象となる作業線を特定し、
前記作業線への進入、前記作業線に沿った移動、及び前記作業線からの退避を含む、バリ取り工具の目標軌跡を算出し、
工作機械により、前記目標軌跡に基づいて前記バリ取り工具を移動させる、
バリ取り方法。
【請求項14】
対象物の形状を表すデータに基づいて、前記対象物の稜線の中からバリ取りの対象となる作業線を特定すること、
前記作業線への進入、前記作業線に沿った移動、及び前記作業線からの退避を含む、バリ取り工具の目標軌跡を算出すること、及び
前記目標軌跡を表すデータを、前記バリ取り工具を備える工作機械へ出力すること、
をコンピュータに実行させるためのプログラム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バリ取りシステム、バリ取り方法、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、対象物の稜線が視覚センサにより検出されるように相対移動手段を作動させ、視覚センサにより得られる検出稜線を用いてバリ取り動作プログラムを生成し、バリ取り動作プログラムが、バリ取りツールが検出稜線に基づく軌跡に沿って移動するようにロボットを動作させる、バリ取り装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2018-94638号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記文献には、バリ取りツールが検出稜線に基づく軌跡に沿って移動することが記載されているものの、実際にバリ取り作業を実現するための軌跡生成について十分に開示されていない。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、バリ取りの自動化の実現を図ることが可能なバリ取りシステム、バリ取り方法、及びプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明の一の態様のバリ取りシステムは、対象物の形状を表すデータに基づいて、前記対象物の稜線の中からバリ取りの対象となる作業線を特定する特定部と、前記作業線への進入、前記作業線に沿った移動、及び前記作業線からの退避を含む、バリ取り工具の目標軌跡を算出する算出部と、前記目標軌跡に基づいて前記バリ取り工具を移動させる工作機械と、を備える。これによれば、バリ取りの自動化の実現を図ることが可能となる。
【0007】
上記態様において、前記目標軌跡は、前記作業線への進入角度及び前記作業線からの退避角度を含んでもよい。これによれば、進入角度及び退避角度を含む目標軌跡を算出することが可能となる。
【0008】
上記態様において、前記特定部は、前記作業線の端点の種類を特定し、前記算出部は、前記端点の種類に応じて、前記端点における前記作業線への進入又は前記作業線からの退避の種類を選択してもよい。これによれば、端点の種類に応じた進入又は退避の種類を選択することが可能となる。
【0009】
上記態様において、前記特定部は、前記作業線の端点において前記作業線に沿った方向に前記バリ取り工具が通り抜け可能であるか否か特定してもよい。これによれば、バリ取り工具が通り抜け可能であるか否かを端点の種類として特定することが可能となる。
【0010】
上記態様において、前記算出部は、前記作業線の端点において前記バリ取り工具が通り抜け可能である場合に、前記端点における前記作業線への進入角度又は前記作業線からの退避角度を前記作業線に対して鈍角に設定してもよい。これによれば、バリ取り工具が通り抜け可能である場合に適切な進入角度又は退避角度を設定することが可能となる。
【0011】
上記態様において、前記算出部は、前記作業線の端点において前記バリ取り工具が通り抜け不能である場合に、前記端点における前記作業線への進入角度又は前記作業線からの退避角度を前記作業線に対して鋭角に設定してもよい。これによれば、バリ取り工具が通り抜け不能である場合に適切な進入角度又は退避角度を設定することが可能となる。
【0012】
上記態様において、前記目標軌跡は、前記作業線の第1中途点に進入し、前記作業線の第1端点に向かって移動し、前記第1端点から退避する第1軌跡と、前記作業線の前記第1中途点よりも前記第1端点に近い第2中途点に進入し、前記作業線の第2端点に向かって移動し、前記第2端点から退避する第2軌跡と、を含んでもよい。これによれば、比較的高精度の制御が必要となる端点への進入を行わずに、作業線全体のバリ取りが可能となる。
【0013】
上記態様において、前記特定部は、前記稜線の中から所定形状の角部を特定し、前記角部の間の区間を前記作業線として特定してもよい。これによれば、稜線から角部を除外した区間を作業線とすることが可能となる。
【0014】
上記態様において、前記特定部は、前記稜線の中から曲率半径が所定以下である凹部を前記角部として特定してもよい。これによれば、曲率半径が所定以下である凹部を除外することが可能となる。
【0015】
上記態様において、前記特定部は、前記稜線の中から線分の角度変化が所定以上である角を前記角部として特定してもよい。これによれば、線分の角度変化が所定以上である角を除外することが可能となる。
【0016】
上記態様において、前記バリ取り工具を前記作業線に沿って移動させたときの、前記バリ取り工具と他の稜線との干渉を確認する確認部をさらに備えてもよい。これによれば、バリ取り工具と稜線との干渉を確認することが可能となる。
【0017】
上記態様において、前記確認部は、前記バリ取り工具と前記他の稜線との干渉が生じる場合、前記作業線の中から干渉が生じる点を除外してもよい。これによれば、干渉が生じる点を除外することが可能となる。
【0018】
また、本発明の他の態様のバリ取り方法は、対象物の形状を表すデータに基づいて、前記対象物の稜線の中からバリ取りの対象となる作業線を特定し、前記作業線への進入、前記作業線に沿った移動、及び前記作業線からの退避を含む、バリ取り工具の目標軌跡を算出し、工作機械により、前記目標軌跡に基づいて前記バリ取り工具を移動させる。これによれば、バリ取りの自動化の実現を図ることが可能となる。
【0019】
また、本発明の他の態様のプログラムは、対象物の形状を表すデータに基づいて、前記対象物の稜線の中からバリ取りの対象となる作業線を特定すること、前記作業線への進入、前記作業線に沿った移動、及び前記作業線からの退避を含む、バリ取り工具の目標軌跡を算出すること、及び前記目標軌跡を表すデータを、前記バリ取り工具を備える工作機械へ出力すること、をコンピュータに実行させる。これによれば、バリ取りの自動化の実現を図ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】バリ取りシステムの構成例を示す図である。
図2】制御装置の構成例を示す図である。
図3】バリ取り方法の手順例を示す図である。
図4】作業線特定処理の手順例を示す図である。
図5】対象物の形状データの例を示す図である。
図6】バリ取り工具の例を示す図である。
図7】小R部の例を示す図である。
図8】直角部の例を示す図である。
図9】作業線の特定を説明するための図である。
図10】通り抜け可能な端点の例を示す図である。
図11】通り抜け不能な端点の例を示す図である。
図12】端点の種類の特定を説明するための図である。
図13】短い作業線の除去を説明するための図である。
図14】干渉確認処理の手順例を示す図である。
図15】対象物とバリ取り工具の関係を示す図である。
図16】バリ取り工具の干渉を説明するための図である。
図17】軌跡算出処理の手順例を示す図である。
図18】作業線管理テーブルの例を示す図である。
図19】目標軌跡の算出を説明するための図である。
図20】目標軌跡の算出を説明するための図である。
図21】目標軌跡の算出を説明するための図である。
図22】目標軌跡の算出を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、本明細書と各図において、既出の図に関して前述したものと同様の要素には、同一の符号を付して、詳細な説明を適宜省略することがある。
【0022】
図1は、バリ取りシステム100の構成例を示す模式図である。バリ取りシステム100は、制御装置1及び産業用ロボット2を備えている。バリ取りシステム100は、対象物Wの稜線に生じたバリを除去するためのシステムである。
【0023】
制御装置1は、CPU、RAM、ROM、不揮発性メモリ、及び入出力インターフェース等を含むコンピュータを備えている。制御装置1のCPUは、ROM又は不揮発性メモリからRAMにロードされたプログラムに従って情報処理を実行する。
【0024】
プログラムは、例えば光ディスク又はメモリカード等の情報記憶媒体を介して供給されてもよいし、例えばインターネット又はLAN等の通信ネットワークを介して供給されてもよい。
【0025】
産業用ロボット2は、工作機械の例であり、制御装置1からの制御指令に基づいてバリ取り工具3を移動させる機械である。産業用ロボット2は、ロボットアームの先端にバリ取り工具3を備えている。
【0026】
図2は、制御装置1の構成例を示すブロック図である。制御装置1は、作業線特定部11、干渉確認部12、及び軌跡算出部13を備えている。これらの機能部は、制御装置1のCPUがプログラムに従って情報処理を実行することにより実現される。
【0027】
制御装置1は、記憶装置19と接続されている。記憶装置19は、対象物Wの形状を表す形状データを記憶している。形状データは、例えばCADデータである。これに限らず、形状データは、対象物Wの形状を計測した計測データであってもよい。
【0028】
図3は、バリ取りシステム100において実現されるバリ取り方法の手順例を示すフロー図である。制御装置1は、同図に示す情報処理をプログラムに従って実行することにより、作業線特定部11、干渉確認部12、及び軌跡算出部13として機能する。
【0029】
まず、制御装置1は、対象物Wの稜線の中からバリ取りの対象となる作業線を特定する作業線特定処理S1を実行する(作業線特定部11としての処理)。
【0030】
次に、制御装置1は、バリ取り工具3と作業線との干渉を確認する干渉確認処理S2を実行する(干渉確認部12としての処理)。
【0031】
次に、制御装置1は、バリ取り工具3の目標軌跡を算出する軌跡算出処理S3を実行する(軌跡算出部13としての処理)。
【0032】
目標軌跡を含む制御指令は、産業用ロボット2に出力される。産業用ロボット2は、教示された目標軌跡に沿ってバリ取り工具3を移動させて対象物Wのバリを除去する。
【0033】
作業線特定処理S1、干渉確認処理S2、及び軌跡算出処理S3のそれぞれについては、詳細を後述する。
【0034】
作業線特定処理S1について説明する。図4は、作業線特定処理S1の手順例を示すフロー図である。図5は、対象物Wの形状データの例を示す図である。形状データは、ノードNと、ノードN間を結ぶリンクLとを含んでいる。
【0035】
作業線特定処理S1では、制御装置1は、対象物Wの稜線の中からバリ取りの対象となる作業線を特定する。すなわち、対象物Wの稜線の形状を認識し、バリ取りが可能な線分とそうでない線分とに分類し、バリ取りが可能な線分を作業線として特定する。
【0036】
図4に示すように、S11において、制御装置1は、対象物Wの稜線を「円」と「それ以外」に分ける。基本的に稜線は閉曲線で構成されるので、制御装置1は、対象物Wの稜線を閉曲線ごとにグループ分けし、それぞれの閉曲線が円であるか否か判定する。
【0037】
図5の例では、グループGb,Gcの閉曲線が「円」と判定され、グループGaの閉曲線が「それ以外」と判定される。
【0038】
グループ分けの手法には、様々な手法が存在する。例えば、任意の開始点の座標と、開始点から順に辿った現在点の座標との差分が一定値以下になった場合に、開始点に戻ったと判定し、開始点から現在点までの一連の点群を1つの閉曲線としてグループ分けする手法がある。
【0039】
閉曲線が円であるか否か判定する手法にも、様々な手法が存在する。例えば、閉曲線の各点の座標データから点間のベクトル、ベクトルの角度変化、及び角度変化の曲率を算出し、ベクトルの角度変化の総和が360度となり、その間の曲率がほぼ一定である場合に「円」と判断する手法がある。
【0040】
S12において、制御装置1は、上記S11で「それ以外」に分類された稜線(グループGaの閉曲線)の中から、バリ取り困難部DNを特定する。バリ取り困難部DNは、所定形状の角部である。具体的には、バリ取り困難部DNは、小R部SR又は直角部TKである。図6ないし図8は、バリ取り困難部DNを説明するための図である。
【0041】
小R部SRは、曲率半径が所定以下である凹部(隅部)である。図6に示すように、バリ取り工具3は一般に円錐形状であるが、先端ではなく側面の中途を対象物Wに接触させるため、対象物Wに接触する部分(以下「接触部31」という)は円形状である。
【0042】
このため、図7に示すように、接触部31よりも曲率半径が小さい凹部には、接触部31をうまく接触させることができず、バリ取りが困難である。そこで、曲率半径が所定以下である小R部SRをバリ取り困難部DNとして特定する。
【0043】
曲率半径は、上述したベクトルの角度変化に基づいて算出され、曲率半径が所定以下である点の集合が、小R部SRとして特定される。なお、小R部SRとして特定される点の集合は、両端の点以外が除去されてもよい。
【0044】
図8に示すように、直角部TKは、ベクトルの角度変化が所定以上である角(凸部)である。直角部TKは、直角に限らず、ほぼ直角及び鋭角に折れ曲がった角も含むものとする。直角部TKは、凸部だけでなく、凹部を含んでもよい。
【0045】
直角部TKがある場合、バリ取り工具3を移動させて直角部TK前後の稜線を連続してバリ取りすることが困難である。そこで、ベクトルの角度変化が所定以上である直角部TKをバリ取り困難部DNとして特定する。
【0046】
S13において、制御装置1は、上記S12で特定されたバリ取り困難部DNの間の区間を作業線WL1~12として特定する。図9は、作業線WL1~12の特定を説明するための図である。以下、作業線WL1~12を総称して「作業線WL」ともいう。
【0047】
作業線WLは、隣り合う2つのバリ取り困難部DNの間の区間、すなわち、或るバリ取り困難部DNから次のバリ取り困難部DNまでの区間である。
【0048】
さらに、制御装置1は、作業線WLの端点が通り抜け可能であるか通り抜け不能であるか、端点の種類を特定する。通り抜け可能/不能とは、作業線WLの端点においてバリ取り工具3が作業線WLに沿った方向に通り抜け可能であるか否か、すなわち作業線WLに沿って移動するバリ取り工具3がそのまま直進可能であるか否かを指す。
【0049】
具体的には、通り抜け可能/不能は、作業線WLのベクトルと、端点近傍の側面の法線ベクトルとの内積を算出することで判定される。
【0050】
図10は、通り抜け可能な端点TNの例を示す図である。図11は、通り抜け不能な端点NNの例を示す図である。図12は、作業線WL1~12の各端点の分類結果を示す図である。以降の図において、通り抜け可能な端点TNは三角で表し、通り抜け不能な端点NNは四角で表す。
【0051】
例えば図10に示すように、作業線WLの端点TNに向かうベクトルVwと、その近傍の側面の法線ベクトルVnとの内積が正である場合、すなわち同方向を向いている場合には、端点TNは通り抜け可能と判定される。なお、端点TNから離れるベクトルについては、内積が負である場合に、通り抜け可能と判定される。
【0052】
一方、図11に示すように、作業線WLの端点NNに向かうベクトルVwと、その近傍の側面の法線ベクトルVnとの内積が負である場合、すなわち逆方向を向いている場合には、端点NNは通り抜け不能と判定される。なお、端点NNから離れるベクトルについては、内積が正である場合に、通り抜け不能と判定される。
【0053】
S14において、制御装置1は、設定値以下の長さの作業線WLをバリ取り作業の対象から除外する。図13に示すように、図中左下の二点鎖線で囲んだ領域において、設定値以下の作業線WL4,WL5が除外されている。設定値は、例えばバリ取り工具3の大きさ等を考慮してユーザにより決定される。
【0054】
干渉確認処理S2について説明する。図14は、干渉確認処理S2の手順例を示すフロー図である。なお、干渉とは、部材同士が当たる、接触する、又はぶつかることを指す。
【0055】
S21において、制御装置1は、バリ取り工具3の接触部31の形状を取得する。上述したように、接触部31の形状は円形状である。具体的には、制御装置1は、バリ取り工具3の3次元モデルから接触部31に対応する円形状の断面を、接触部31の形状として抽出する。
【0056】
S22において、制御装置1は、作業線WLの各位置に接触部31の形状を配置して干渉を確認する。すなわち、制御装置1は、バリ取り工具3を作業線WLに沿って移動させたときの、バリ取り工具3と他の稜線の干渉を確認し、干渉が生じる場合に、作業線WLから干渉が生じる点を除外する。
【0057】
図15に示すように、バリ取り工具3は、その中心軸が対象物Wの稜線から接触部31の半径に対応する距離Cだけ離れるように配置される。距離Cは、バリ取りの程度に応じて調整される。
【0058】
図16において、各作業線WLに沿って配置された二点鎖線は、各作業線WLに接触部31を接触させるときのバリ取り工具3の中心軸の軌跡を表している。
【0059】
例えば、作業線WL12の図中左側の端点NNに配置された接触部31の形状は、隣の作業線WL1と接触し、作業線WL12の図中右側の端点NNに配置された接触部31の形状は、隣の作業線WL11と接触する。このため、これらの端点NNは干渉が生じる点として除外され、作業線WL12は短縮される。
【0060】
また、作業線WL7の図中右側の端点NNに配置された接触部31の形状は、隣の作業線WL8と接触する。このため、この端点NNは干渉が生じる点として除外され、作業線WL7は短縮される。
【0061】
このように、バリ取り工具3の接触部31の形状を作業線WLの各位置に配置することで、干渉の有無を精度良く判定することが可能となる。
【0062】
軌跡算出処理S3について説明する。図17は、軌跡算出処理S3の手順例を示すフロー図である。図18は、作業線管理テーブルの例を示す図である。図19ないし図22は、作業線WL1~12に基づく目標軌跡TT1~12の算出を説明するための図である。以下、目標軌跡TT1~12を総称して「目標軌跡TT」ともいう。
【0063】
軌跡算出処理S3では、制御装置1は、作業線WLのバリ取りを行うためのバリ取り工具3の目標軌跡TTを算出する。
【0064】
目標軌跡TTは、作業線WLに沿った本経路Tmだけでなく、作業線WLへの進入経路Ti及び作業線WLからの退避経路Toも含んでいる。進入経路Tiは、作業線WLに対する進入角度θiで表される。退避経路Toは、作業線WLに対する退避角度θoで表される(図20及び図21参照)。
【0065】
以下に説明する例では、作業線WLのバリ取りは、反時計回り方向にバリ取り工具3を移動させながら行うものとする。このため、作業線WLの2つの端点のうち、反時計回り方向の上流の端点を「進入側端点」とし、下流の端点を「退避側端点」とする。
【0066】
制御装置1は、作業線WLを管理するための作業線管理テーブルを参照して、目標軌跡TTを算出する。図18に示すように、作業線管理テーブルには、「番号」、「進入側端点」、「退避側端点」、「設計値」、及び「軌跡分割」のフィールドを含んでいる。
【0067】
「番号」は、作業線WLを識別するための番号を表す。「進入側端点」は、進入側端点が通り抜け可能な端点TNであるか(図11参照)、通り抜け不能な端点NNであるか(図12参照)表す。「退避側端点」は、退避側端点が通り抜け可能な端点TNであるか、通り抜け不能な端点NNであるか表す。
【0068】
「設計値」は、バリ取り工具3の中心軸を作業線WLから離す距離Cを表す(図15参照)。「軌跡分割」は、後述する目標軌跡TTの分割を行うか否かを表す。
【0069】
図17に示すように、S31において、制御装置1は、作業線WLの端点の通り抜け可否に応じて、目標軌跡TTの進入角度θi又は退避角度θoを決定する。制御装置1は、それぞれの作業線WLについて目標軌跡TTを算出する(図19参照)。
【0070】
例えば図20に示すように、制御装置1は、作業線WL8の進入側端点が通り抜け可能な端点TNである場合、進入側端点における作業線WL8への進入角度θiを鈍角に設定する。同様に、制御装置1は、作業線WL8の退避側端点が通り抜け可能な端点TNである場合、退避側端点における作業線WL8からの退避角度θoを鈍角に設定する。
【0071】
また、図21に示すように、制御装置1は、作業線WL9の進入側端点が通り抜け不能な端点NNである場合、進入側端点における作業線WL9への進入角度θiを鋭角に設定する。同様に、制御装置1は、作業線WL9の退避側端点が通り抜け不能な端点NNである場合、退避側端点における作業線WL9からの退避角度θoを鋭角に設定する。
【0072】
S32において、制御装置1は、目標軌跡TTを含む制御指令を生成する。すなわち、制御装置1は、産業用ロボット2がバリ取り工具3を目標軌跡TTに沿って移動させるためのロボット動作プログラムを生成する。制御指令は、目標軌跡TTの各経路における速度などもさらに含んでいる。
【0073】
本実施形態によれば、目標軌跡TTに、作業線WLに沿った本経路Tmだけでなく、作業線WLへの進入経路Ti及び作業線WLからの退避経路Toも含めることが可能となる。すなわち、作業線WLにバリ取り工具3をどのように近づけるか、作業線WLからバリ取り工具3をどのように離脱させるかといった動作を設定することができる。
【0074】
特に、作業線WLが通り抜け不能な端点NNを有する場合に、当該端点NNにおける進入角度θi又は退避角度θoを鋭角とすることで、バリ取り工具3を他の稜線と当たらないように進入又は退避させることが可能となる。
【0075】
目標軌跡TTの分割について説明する。図22に示すように、目標軌跡TTは、互いにオーバーラップした第1軌跡Taと第2軌跡Tbを含んでもよい。
【0076】
具体的には、第1軌跡Taは、作業線WL11の第1中途点M1に進入する進入経路Tai、第1中途点M1から第1端点TN1に向かって移動する本経路Tam、及び第1端点TN1から退避する退避経路Taoを含んでいる。
【0077】
第2軌跡Tbは、作業線WL11の第1中途点M1よりも第1端点TN1に近い第2中途点M2に進入する進入経路Tbi、第2中途点M2から第2端点TN2に向かって移動する本経路Tbm、及び第2端点Tn2から退避する退避経路Tboを含んでいる。
【0078】
バリ取り工具3を作業線WLの端点に進入させることは高い精度を必要とするが、図22に示すように、作業線WLの中途に進入するように目標軌跡TTを2つの軌跡Ta,Tbに分割することで、作業線WL全体のバリ取りを行いつつも、端点への進入を避けて制御の容易性を向上させることが可能となる。
【0079】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は以上に説明した実施形態に限定されるものではなく、種々の変更が当業者にとって可能であることはもちろんである。
【符号の説明】
【0080】
1 制御装置、2 産業用ロボット(工作機械の例)、3 バリ取り工具、11 作業線特定部、12 干渉確認部、13 軌跡算出部、100 バリ取りシステム

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