IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社イバノの特許一覧

<>
  • 特開-内面補修方法 図1
  • 特開-内面補修方法 図2
  • 特開-内面補修方法 図3
  • 特開-内面補修方法 図4
  • 特開-内面補修方法 図5
  • 特開-内面補修方法 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024158049
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】内面補修方法
(51)【国際特許分類】
   F16L 57/00 20060101AFI20241031BHJP
   E03F 1/00 20060101ALI20241031BHJP
   E03F 7/00 20060101ALI20241031BHJP
   E03C 1/12 20060101ALI20241031BHJP
   E03C 1/122 20060101ALI20241031BHJP
【FI】
F16L57/00 B
E03F1/00 Z
E03F7/00
E03C1/12 A
E03C1/122 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023072889
(22)【出願日】2023-04-27
(71)【出願人】
【識別番号】517054464
【氏名又は名称】株式会社イバノ
(74)【代理人】
【識別番号】110002136
【氏名又は名称】弁理士法人たかはし国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】野村 和秀
【テーマコード(参考)】
2D061
2D063
3H024
【Fターム(参考)】
2D061AA05
2D061AC10
2D061BB10
2D061DE30
2D063AA07
2D063EA06
3H024BA04
(57)【要約】      (修正有)
【課題】厨房の床に存在する排水溝、グリストラップ又はインバート枡の内面の補修方法を提供すること。
【解決手段】厨房の床に存在する、内面がコンクリート若しくはモルタルで形成された、排水溝11、グリストラップ12、又は、インバート枡13の内面の補修方法であって、(1)界面活性剤、水溶性有機溶剤、及び、水を含有するpH11以上の強アルカリ洗浄剤を用いて、該内面の油性汚れを取り除く工程、(2)メチルメタクリレート、及び、ラジカル重合開始剤を含有するプライマー層形成液を付与してプライマー層を形成する工程、(3)メチルメタクリレート、ラジカル重合開始剤、及び、チクソトロピー付与粉体を含有する補修液を、該内面に付与して補修構造体を形成し、次いで経時的に固化させる工程、を行う内面補修方法;該内面補修方法を使用して補修してなる排水溝・グリストラップ・インバート枡、及び、該内面補修方法用である補修液。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
厨房の床に存在する、内面がコンクリート若しくはモルタルで形成された、排水溝、グリストラップ(Grease Trap)、又は、インバート(Invert)枡の内面の補修方法であって、
(2)界面活性剤、水溶性有機溶剤、及び、水を含有するpH11以上の強アルカリ洗浄剤を用いて、該内面の油性汚れを取り除く工程、
(4)メチルメタクリレート、及び、ラジカル重合開始剤を含有するプライマー層形成液を付与してプライマー層を形成する工程、並びに、
(5)メチルメタクリレート、ラジカル重合開始剤、及び、チクソトロピー付与粉体を含有する補修液を、該内面に付与して補修構造体を形成し、次いで経時的に固化させる工程、
を行うことを特徴とする内面補修方法。
【請求項2】
前記工程(2)に先立って、
(1)前記内面に対して、水噴射による高圧洗浄を行う工程、
を更に行う請求項1に記載の内面補修方法。
【請求項3】
前記工程(4)に先立って、
(3)熱硬化性エポキシ樹脂を用いて、該内面に存在する不陸及び/又は隙間を充填する工程、
を更に行う請求項1に記載の内面補修方法。
【請求項4】
前記工程(5)の後に、
(6)メチルメタクリレート、及び、ラジカル重合開始剤を含有するトップコート層形成液を付与してトップコート層を形成する工程、
を更に行う請求項1に記載の内面補修方法。
【請求項5】
前記プライマー層形成液及び/又は前記補修液が、更に無機フィラーを含有する請求項1に記載の内面補修方法。
【請求項6】
前記プライマー層形成液及び/又は前記補修液は、前記無機フィラーを、前記プライマー層形成液中のメチルメタクリレート100質量部、又は、前記補修液中のメチルメタクリレート100質量部に対して、30質量部以上160質量部以下で含有する請求項5に記載の内面補修方法。
【請求項7】
前記ラジカル重合開始剤が有機過酸化物である請求項1に記載の内面補修方法。
【請求項8】
前記補修液が実質的に希釈溶剤を含有しない請求項1に記載の内面補修方法。
【請求項9】
前記補修液を、500g/m以上3000g/m以下で前記内面に付与することによって前記補修構造体を形成する請求項1に記載の内面補修方法。
【請求項10】
前記補修液を、前記内面に、刷毛又はスプレー装置を用いて付与する請求項1に記載の内面補修方法。
【請求項11】
前記プライマー層と前記補修構造体と前記トップコート層とを形成する場合、該プライマー層と該補修構造体と該トップコート層の合計付着量が、700g/m以上5000g/m以下である請求項4に記載の内面補修方法。
【請求項12】
21:00から翌日の9:00までの時間内の何れかの時間帯で補修を完結させる請求項1に記載の内面補修方法。
【請求項13】
請求項1ないし請求項12の何れかの請求項に記載の内面補修方法を使用して補修されることによって、排水溝、グリストラップ、又は、インバート枡の内面に、「メチルメタクリレート重合物、チクソトロピー付与粉体、及び、無機フィラーを少なくとも含有する硬化補修構造体」を有することになった、補修後の、排水溝、グリストラップ、又は、インバート枡。
【請求項14】
請求項1ないし請求項12の何れかの請求項に記載の内面補修方法用のものであることを特徴とする補修液。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、厨房の床に存在する、排水溝、グリストラップ、又は、インバート枡の内面の補修方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
業務用の厨房の床には、油性成分等の廃棄物を含有した水を排水する「一般にはグレーティングで蓋をされた排水溝」や;一般には排水溝や排水管の末端に存在し、排水中の油分を分離して阻集するグリストラップ(油脂分離阻集器)や;「一般にはポリ塩化ビニルでできた排水管」の途中に設けられ、排水を円滑に流すためのインバート枡;等が存在する。
【0003】
業務用の厨房では、排水漏れ(漏水)や汚れの蓄積を防止・抑制するために、定期的に、排水溝、グリストラップ、インバート枡等を補修又は交換しなければならない。
厨房に関わらず、排水溝や排水枡の内面は、現在通常は、モルタルやエポキシ樹脂で製造若しくは補修されている。
【0004】
特許文献1には、接続管の形状に特徴のある排水枡の製造方法が記載されているが、接着部分は、エポキシ系接着剤が用いられている。
特許文献2には、排水管(下水管)と枡とを接続させる流出側用の枡用ソケットが記載されているが、接着部分は、エポキシ系接着剤が用いられている。
特許文献3には、排水管(下水管)と中継構造体の接続構造が記載されているが、接着部分は、エポキシ系接着剤が用いられている。
【0005】
特許文献1ないし3は、何れも製造時のものであり、排水管、排水溝、排水枡等の補修時のものではないが、特許文献4には、下水道取付管の更生方法に関する発明が記載されており、ここでも、接着部分等にはエポキシアクリレート樹脂液が用いられている。ここで、エポキシアクリレート樹脂は、エポキシ環の開環重合で重合して硬化して接着性を示すものなので、エポキシ系樹脂の一種である。
【0006】
また、特許文献5には、排水枡内の隔離された空間から水を吸い上げ、その後に該空間を充填する排水枡の補修方法が記載されているが、その際の充填材として、セメントペーストやモルタル等のクラウドが用いられている。
【0007】
排水溝、排水枡等が経年劣化したときには、それらを交換することが主流であるが、補修する際には、その材料としては、上記した通り、一般にはエポキシ系樹脂やモルタルが用いられている。
【0008】
一方、(メタ)アクリレートの有する炭素間2重結合がラジカル重合して硬化することを利用するアクリル系材料は、空気(酸素)による重合阻害があり、空気中では十分に硬化しないか、又は、硬化速度が遅く、密着性にも劣ると考えられていた。特に、メチルメタクリレート(MMA)モノマーは、上記した性質を有する上に、水による悪影響を受け易いと考えられていた。
【0009】
一方、厨房の床に存在する、排水溝、グリストラップ、又は、インバート枡の耐用年数は短く、以前に設置・新設された排水溝、グリストラップ、又は、インバート枡が劣化し、そこから排水漏れ(漏水)を起こすケースが多くなってきている。
その際、掘削してそれらを交換するのでは、コストが極めて多くかかり、また、交換に必要な日数(工期)も長くかかっていた。従来の補修方法では、補修材料がエポキシ樹脂でもモルタルでも、最短で1日以上、通常約1週間近くかかっていた。
【0010】
しかし、厨房では、特にレストラン等の業務用厨房では、補修に必要な工期すなわち厨房の使用停止期間が長くなると、その間、営業を停止せざるを得ず、その間の損害(売上減少)は莫大なものとなっていた。
【0011】
更に、補修をするにしても、従来のエポキシ系材料では、柔軟性が低く接着性が悪く、例えば補修個所が2~3年しかもたず、上記した厨房の補修に対する要望に応えられていなかった。
また、従来の所謂「水中ボンド」は、エポキシ樹脂を材料として使用しており、上記問題点があることに加え、該材料は油性成分に対する耐性がなく、かつ、水流に対しても耐性が低かった。
また、防水モルタルも補修材料として用いられているが、該材料も静止水に対しては耐性があるものの、排水溝、グリストラップ、インバート枡の内の水流に対しては耐性が低かった。
【0012】
このように、厨房における排水溝、グリストラップ、又は、インバート枡の補修には、多くの要望や厳しい条件が必要であるため、公知の技術では、それらに十分に応えられていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2001-132083号公報
【特許文献2】特開2008-297772号公報
【特許文献3】特開2013-040477号公報
【特許文献4】特開平11-107360号公報
【特許文献5】特開2010-281049号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は上記背景技術に鑑みてなされたものであり、その課題は、厨房の床に存在する、内面がコンクリート若しくはモルタルで形成された、排水溝、グリストラップ(Grease Trap)、又は、インバート(Invert)枡の内面の優れた補修方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者は、前記問題点や上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、メチルメタクリレート(MMA)を主成分とした特定の補修液を用いて、かつ特定の工程を有する補修方法を使用すれば、厨房に存在する、排水溝、グリストラップ、又は、インバート枡の内面の油性成分による油性汚れの悪影響を回避でき;耐水性、機械的強度、経年での耐久性に優れ;密着性・接着性が悪いと言われるコンクリート若しくはモルタルで形成された上記内面への密着性・接着性・塗布性に優れ;流水によっても劣化せず;更に、硬化性能が良好であるために、「厨房を使用できない期間」を短くできてレストラン等の営業に損失を与えないこと;等を見出して本発明に至った。
【0016】
すなわち、本発明は、厨房の床に存在する、内面がコンクリート若しくはモルタルで形成された、排水溝、グリストラップ(Grease Trap)、又は、インバート(Invert)枡の内面の補修方法であって、
(2)界面活性剤、水溶性有機溶剤、及び、水を含有するpH11以上の強アルカリ洗浄剤を用いて、該内面の油性汚れを取り除く工程、
(4)メチルメタクリレート、及び、ラジカル重合開始剤を含有するプライマー層形成液を付与してプライマー層を形成する工程、並びに、
(5)メチルメタクリレート、ラジカル重合開始剤、及び、チクソトロピー付与粉体を含有する補修液を、該内面に付与して補修構造体を形成し、次いで経時的に固化させる工程、
を行うことを特徴とする内面補修方法を提供するものである。
【0017】
また、本発明は、前記工程(5)の後に、
(6)メチルメタクリレート、及び、ラジカル重合開始剤を含有するトップコート層形成液を付与してトップコート層を形成する工程を更に行う前記の内面補修方法を提供するものである。
【0018】
また、本発明は、前記プライマー層形成液及び/又は前記補修液が、更に無機フィラーを含有する前記の内面補修方法を提供するものである。
【0019】
また、本発明は、前記ラジカル重合開始剤が有機過酸化物である前記の内面補修方法を提供するものである。
【0020】
また、本発明は、前記補修液が実質的に希釈溶剤を含有しない前記の内面補修方法を提供するものである。
【0021】
また、本発明は、前記補修液を、500g/m以上3000g/m以下で前記内面に付与することによって前記補修構造体を形成する前記の内面補修方法を提供するものである。
【0022】
また、本発明は、前記の内面補修方法を使用して補修されることによって、排水溝、グリストラップ、又は、インバート枡の内面に、「メチルメタクリレート重合物、チクソトロピー付与粉体、及び、無機フィラーを少なくとも含有する硬化補修構造体」を有する、排水溝、グリストラップ、又は、インバート枡を提供するものである。
【0023】
また、本発明は、前記の内面補修方法用のものであることを特徴とする補修液を提供するものである。
【発明の効果】
【0024】
本発明は、前記した従来の問題点や課題を解決し、厨房に存在する、排水溝、グリストラップ、又は、インバート枡の内面を、コンクリート・モルタルに対する密着性(塗膜性、接着性等)、耐水性、経年耐久性、排水管との接続補強性、等を担保した上で、短期間で、低コストで、簡便に補修できる。
【0025】
特に、厨房の床に設置された、排水溝、グリストラップ、又は、インバート枡の内部には、油性の廃棄物が沈積・滞留しており、該内部の表面に、強くこびり付いている場合も多い。
その点、家庭の台所では、天ぷら油等の油は取り除いて別途処分されるので、流し(シンク)から出る排水には油分がないことが多く、従って、一般の家屋やマンションの排水枡の内面には、油が沈積・滞留していたり、強くこびり付いていることは極めて少ない。
【0026】
しかしながら、上記した通り、レストラン等の厨房では、油も水と一緒に排水内に流されることが多く、そのため、厨房の床に設置された、排水溝、グリストラップ、又は、インバート枡の内部には油分が沈積・滞留・こびり付いている。尤も、グリストラップは、そもそも油分を沈積させて除去するものであるから、その内部の表面には、油分が当然に蓄積されている。
【0027】
本発明によれば、他の場所の排水枡等に比べ、油分が特異的に多い「厨房の床に設置された、排水溝、グリストラップ、又は、インバート枡」であっても、その内部を、密着性(塗膜性、接着性等)、耐水性、耐久性を担保した上で、短期間で、低コストで、簡便に補修することができる。
【0028】
一般に、アスファルトの表面や、鉄(管)等の金属(管)の表面や、その他の材質の表面に比較して、コンクリートやモルタルの表面は、有機塗膜の密着性・接着性が著しく劣る。しかも、油性汚れ(皮膜)がその表面に僅かでもあると、その表面に対する密着性・接着性は、更に低下する。
本発明の特定の工程を有する内面補修方法やプライマー層形成液・補修液によれば、一般に密着性・接着性が著しく劣るコンクリートやモルタルの表面であっても、強固な密着性・接着性が実現できる。
【0029】
エポキシ樹脂を含有する補修液や、一般にはエポキシ樹脂で構成されている所謂「水中ボンド」による内面の補修では、厨房から出る排水中に含有される油分によって、2~3年で内面の補修塗膜が劣化する。また、該水中ボンドでは、静止した水に対しては若干耐性はあるものの、常に水が流れている厨房の、表面がコンクリートやモルタルの排水溝、グリストラップ、又は、インバート枡では、耐水性が更に低下する。
エポキシ環が開環重合してなる硬化後のエポキシ樹脂は、柔軟性がなく接着性に劣り、該接着性は、下地がコンクリート又はモルタルのときに特に悪くなる。更に、長年経時で(例えば地震等で)排水管がずれたりしたときにも特に顕著に悪化する。
汎用されているエポキシ系の補修液では、補修部分が2、3年程度しか持たないことがあるが、本発明によれば補修された内面は半永久的に持つ。
【0030】
また、防水モルタルで補修した場合であっても、常に長期に亘って水が流れていることで、該流水に対する耐性に劣る。従って、常に流水に曝される厨房の排水溝、グリストラップ、インバート枡では耐久性に劣る。
本発明によれば、補修された内面は流水に対しても耐久性が極めて高い。
【0031】
上記した通り、厨房内の、排水溝、グリストラップ、インバート枡の内面は、コンクリート又はモルタルで構成されているところ、エポキシ樹脂やモルタル・セメントペーストでは、その表面に対する密着性が悪く、特に油分の存在や流水での経年劣化が激しい。
また、本発明における特定組成の補修液ではなく、単にメチルメタクリレートを含有するだけの補修液では、空気中の酸素の影響を受けて硬化し難い上に、コンクリートやモルタルの表面に対する密着性が悪く、経年で剥離する等の劣化が起こる。
【0032】
本発明における補修液を用いれば、厨房の床に設置された、排水溝、グリストラップ、インバート枡の内部を、コンクリート・モルタル密着性(塗膜性、接着性等)、耐水性、経年耐久性、ポリ塩化ビニル等でできている排水管との接続補強性、等を担保して補修することができる。
【0033】
また、本発明における特定の補修液を用いても、内面を通常の洗浄液で洗浄しただけでは、密着性、耐水性、耐久性を十分にし難い場合もあるが、本発明の工程(2)における特定の強アルカリ洗浄剤を用いれば、本発明における特定の補修液を用いて、内面への密着性、耐水性、耐久性を確保できるようになる。
【0034】
グリストラップやインバート枡に繋がっている排水管(通常はポリ塩化ビニル製)との継ぎ目部分13cが剥がれたり、該継ぎ目部分13cの近傍等が破損したりした際、本発明における特定の補修液を付与して補修すれば、硬化後も柔軟性があるため、異材料同士であっても良好に該部分の補修ができる。
【0035】
本発明における補修液の主成分であるメチルメタクリレート(以下、「MMA」と略記する場合がある)は、常温で液体であり、炭素間2重結合を有し、熱重合開始剤や光重合開始剤の存在下に熱や光で重合(主にはラジカル重合)をして、ポリメチルメタクリレートを形成する。
その際の重合反応によって接着性(密着性)・塗膜性・機械的強度・耐水性等を発現するが、ラジカル重合反応は一般に空気中の酸素によって阻害されるため、空気中では重合し難いと言われており、特に薄膜の場合は、重合条件によっては、全く重合反応が進まない場合もある。
【0036】
しかしながら、排水溝、グリストラップ、又は、インバート枡の内面を補修しようとすると、必然的に薄膜では機械的強度・防水性能の点から不十分なため、ある程度は厚く塗布する必要がある。それも一因となり、少なくとも、メチルメタクリレート、ラジカル重合開始剤及びチクソトロピー付与粉体を含有する本発明における補修液は、空気(酸素)の影響を受け難く、MMAは好適に重合し硬化性・接着性を発揮する。
【0037】
更に、無機フィラーを含有させることで厚膜にでき、厚膜にすることで、及び/又は、該無機フィラーや該チクソトロピー付与粉体の存在自体によって、酸素の拡散が抑制され、酸素の影響を受けなくなり(酸素による失活がなくなり)、ラジカル重合が好適に進行して、好適な補修塗膜が形成される。
【0038】
補修液の組成や、補修液付与後の条件(送風や気温)によって、付与直後の補修液の表面に薄い皮膜様のものができる(以下、「パラフィン現象」と言うことがある)。このパラフィン現象によって、(該作用原理には限定されないが、酸素の侵入又は拡散が阻害されると考えられ)、その後の硬化反応(ラジカル重合)が進行して、接着性の良い「硬化した補修構造体」が完成する。
【0039】
本発明によれば、酸素(空気)の影響を意外にも受け難く、水の影響も受け難い。
従って、本発明によれば、MMAの有する弱点が表れないことに加え、柔軟性が高いと言う長所が表れて、汎用のエポキシ系やモルタル系の補修液より総合的に優れるようになる。
【0040】
また、本発明の補修液が硬化してなる補修構造体、すなわち「MMAが重合してなるポリメチルメタクリレートを主成分とする補修構造体」は、柔軟性があり、コンクリートかモルタルでできているグリストラップやインバート枡と、ポリ塩化ビニルでできている排水管が、異なる材質でできていても、それぞれの材質に追従し強固な接着性を有する。
【0041】
本発明における補修液を用い、更に該補修液を用いて本発明の工程を行えば、上記した良効果を発揮すると共に、トータルの工期(補修時間)を短縮できる。
エポキシ樹脂やモルタルによる補修では、厨房を使用できるようになるまでに、最短でも1、2日以上、通常は1週間近くはかかるところ、本発明の内面補修方法によれば、長くても半日で厨房を使用できるようになる。
従って、レストランの厨房等では、本発明を使用して夜に補修工事を行えば、営業を休むことなく継続させることができるので、営業停止による大きな損失(売り上げの減少)を回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
図1】本発明の内面補修方法の工程を示す流れ図であり、四角枠で囲った工程が必須工程である。
図2】本発明の内面補修方法の対象である、排水溝、グリストラップ、インバート枡の、厨房の床における存在位置の一例を示す概略平面図である。
図3】インバート枡の構造の一例を示す概略斜視図である。
図4】本発明の内面補修方法の工程を行うことによって形成されるプライマー層、硬化後の補修構造体、トップコート層の一例を示す概略断面図である。
図5】本発明の内面補修方法の各工程を、厨房の排水溝に対して行ったときの、各工程中又は各工程後の写真である。
図6】本発明の内面補修方法の各工程を、厨房のインバート枡に対して行ったときの、各工程中又は各工程後の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0043】
以下、本発明について説明するが、本発明は、以下の具体的態様に限定されるものではなく、技術的思想の範囲内で任意に変形することができる。
【0044】
本発明の内面補修方法は、厨房の床に存在する、内面がコンクリート若しくはモルタルで形成された、排水溝、グリストラップ(Grease Trap)、又は、インバート(Invert)枡の内面の補修方法であって、
(2)界面活性剤、水溶性有機溶剤、及び、水を含有するpH11以上の強アルカリ洗浄剤を用いて、該内面の油性汚れを取り除く工程、
(4)メチルメタクリレート、及び、ラジカル重合開始剤を含有するプライマー層形成液を付与してプライマー層を形成する工程、並びに、
(5)メチルメタクリレート、ラジカル重合開始剤、及び、チクソトロピー付与粉体を含有する補修液を、該内面に付与して補修構造体を形成し、次いで経時的に固化させる工程、
を行うことを特徴とする。
【0045】
[本発明の内面補修方法の対象]
本発明の内面補修方法の補修の対象は、厨房の床に存在する、内面がコンクリート若しくはモルタルで形成された、排水溝11、グリストラップ(Grease Trap)12、又は、インバート(Invert)枡13の内面である。
ここで、「内面」とは、壁面や底面以外に、排水管14との接続部分(図3参照)、インバート内(図3参照)、排水溝11や枡等を覆っているグレーティングや網目蓋の縁を排水溝11や枡等の上に載せておく(支持する)「排水溝や枡等の上部縁の凹部分」(図5、6参照)も含まれる。
【0046】
<排水溝>
厨房の床の排水溝11の存在位置の一例を図2に示す。通常、厨房の排水溝11は、グレーティングで覆われていて、厨房での作業者にとって、該排水溝11が邪魔にならないようになっている。
【0047】
本発明の内面補修時には、該グレーティングを一時的に取り除き、排水溝11の内部を補修する(図5参照)。
該排水溝11には、厨房内の食洗機や流し(シンク)等からの排水管14が接続されている。本発明の内面補修時には、該接続部分も補強・補修することが好ましい。
【0048】
<グリストラップ>
「グリストラップ(Grease Trap)」とは、業務用の厨房に設置が義務付けられている「油脂分離阻集器」のことである。
厨房の床のグリストラップ(Grease Trap)12の存在位置の一例を図2に示す。通常、厨房のグリストラップ12は、蓋で覆われていて、厨房での作業者にとって、該グリストラップ12が邪魔にならないようになっている。
本発明の内面補修時には、該蓋を一時的に取り除き、グリストラップ12の内部12aを補修する(図5参照)。
【0049】
グリストラップ12は、大きなゴミをバスケット等で取り除く第1槽、油分や細かい汚泥を分離する第2槽、油分や細かい汚泥を分離した後の水だけを排水するための第3槽の計3槽からできていることがあるが、本発明の内面補修方法では、それら3槽とも補修の対象となる。
【0050】
レストラン等の厨房では、グリストラップ12内は、店員が定期的に、その内部に捕捉された大きなゴミや油分や汚泥を取り除いていることもある。
しかし、その場合であっても、本発明の内面補修方法の最初の工程(1)で、水噴射による高圧洗浄によって、グリストラップ12内の油分や汚泥を完璧に取り除くことが好ましい。
【0051】
更に、本発明の内面補修方法においては、工程(2)で、強アルカリ洗浄剤を用いて、内面15の油性汚れを取り除くことが必須である。該工程(2)を行うことによって、本発明における「MMAを含有する補修液」が該内面に好適に密着するようになる。
【0052】
上記した工程(1)と工程(2)の記載は、グリストラップ12のみならず、排水溝11、インバート枡13にも適用される。
【0053】
<インバート枡>
「インバート(Invert)枡」とは、例えば、一例を図3に示したように、「横から接続された配管の断面と同じような型・凹部13bであるインバート(Invert)」が枡の底部に形成された排水枡のことを言う。油分等の廃棄物によって排水管14が詰まるのを避け、廃棄物が流れやすくなるように、枡の底に管の半分が食い込むように彫り込まれている。管の詰まりを避け、清掃や点検が容易にできるように、厨房内の要所に設置されている(図2参照)。
厨房の床のインバート枡13の存在位置の一例を図2に示す。通常、厨房のインバート枡13は、蓋で覆われていて、厨房での作業者にとって、該インバート枡13が邪魔にならないようになっている。
【0054】
本発明の内面補修時には、該蓋を一時的に取り除き、インバート枡13の内面13aを補修する(図6参照)。
該インバート枡13には、厨房内の食洗機や流し(シンク)等からの排水管14が接続されている。本発明の内面補修時には、該接続部分も補強・補修することが好ましい(図6参照)。
【0055】
[本発明の内面補修方法]
以下に、本発明の内面補修方法について、各工程毎にそれら工程の順番に従って説明するが、工程(2)、工程(4)及び工程(5)が本発明の必須工程であり、工程(1)、工程(3)及び(6)は、本発明において行うことがより好ましい工程である(図1参照)。
また、上記工程(1)~(6)以外にも、本発明において行った方が特に好ましい工程もあるが(図1において、該工程の一部を「工程(*)」として記載した)、それら工程については、工程(1)~(6)内において、その該当箇所で説明する。
【0056】
<工程(1)>
工程(1)は、工程(2)に先立って、排水溝11、グリストラップ12、又は、インバート枡13の内面15に対して、水噴射による高圧洗浄を行う工程である(図1図5(b)、図6(a))。
なお、工程(1)に先立って、大きな油分等の塊や、割り箸・タオル等のゴミがある場合には、それらを手、又は、柄杓等の器具で、取り除くこと、又は、ケレン洗浄を行うことも好ましい(図5(a))。
【0057】
工程(1)で使用する「水噴射による高圧洗浄」は、どのような装置を用いてもよく、常法によって行われ得る(図5(b)、図6(a))。
工程(1)は必須ではないが、工程(1)を行わないと、次の工程(2)で、強アルカリ洗浄剤を用いて油性汚れを好適に取り除くことに支障が出る場合がある。
【0058】
<工程(2)>
工程(2)は、本発明の必須工程であり、「界面活性剤、水溶性有機溶剤、及び、水を含有するpH11以上の強アルカリ洗浄剤」を用いて、上記補修対象の内面15の油性汚れを取り除く工程である(図1図6(c))。
工程(2)を行わないと、MMAを主体とする(硬化後の)補修構造体17が、内面の材質であるコンクリート若しくはモルタルに好適に密着・接着しない、又は、経年の耐久性がない。
また、酸性や中性の洗浄剤だと、工程(2)を全く行わなかったときと同様の現象が起こる。
【0059】
<<強アルカリ洗浄剤>>
<<<pH>>>
工程(2)で用いられる強アルカリ洗浄剤のpHは、アルカリ性物質の含有によって上げる。該アルカリ性物質は、適量でpHを十分に上げられれば限定はされないが、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が好ましく、水酸化ナトリウムが特に好ましい。
該強アルカリ洗浄剤のpHは、pH11以上が必須であるが、pH12以上がより好ましく、pH13以上が更に好ましく、pH14以上が特に好ましい。該pHは、水酸化ナトリウム等のアルカリ性物質の量によって調節する。
【0060】
<<<界面活性剤>>>
強アルカリ洗浄剤に含有される界面活性剤は、陰イオン性、陽イオン性、非イオン性、両性の何れでもよいが、本発明の工程(2)では、油分が好適に除去できる点から、陰イオン性界面活性剤が特に好ましい。
該陰イオン性界面活性剤としては、具体的には、例えば、アルキル硫酸塩、アルキル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩等が挙げられる。ここで、上記「塩」としては、ナトリウム塩が好ましい。
中でも、ポリオキシエチレンイソトリデシル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンラウリル(ドデシル)硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンテトラデシル硫酸ナトリウム等が特に好ましい。
【0061】
<<<水溶性有機溶剤>>>
強アルカリ洗浄剤に含有される水溶性有機溶剤は、水に溶解(相溶)し、油分に親和性があるものであれば、特に限定はないが、エチレングリコール、ジエチレングリコール、メチルエチルケトン、アセトン、エチレングリコールモノアルキルエーテル、ジエチレングリコールモノアルキルエーテル、トリエチレングリコールモノアルキルエーテル等が挙げられる。また、上記「エチレン」を「プロピレン」に置き換えたものも挙げられる。上記「モノアルキル」としては、モノメチル、モノエチル、モノプロピル、モノブチル等が挙げられる。
【0062】
上記強アルカリ洗浄剤を用いて内面15の油性汚れを取り除く方法としては、特に限定はないが、ブラシ洗浄、洗浄器具を手で持って直接洗浄することが好ましい(図6(c))。
【0063】
<工程(3)>
工程(3)は、熱硬化性エポキシ樹脂を用いて、該内面15に存在する不陸又は隙間を充填する工程である。工程(3)は、本発明の必須工程ではないが、不陸又は隙間が存在するときは、行うことが好ましい(図1図6(d))。該隙間としては、例えば、排水管14との接合部分等が挙げられる(図2図3)。
なお、工程(3)に先立って、工程(2)で使用した強アルカリ洗浄剤を洗い流し、その後、乾燥させる工程を挟むことは好ましい(図1)。
該熱硬化性エポキシ樹脂としては、公知のものが使用され得る。
【0064】
<工程(4)>
工程(4)は、本発明の必須工程であり、メチルメタクリレート、及び、ラジカル重合開始剤を含有するプライマー層形成液を付与してプライマー層16を形成する工程である(図1、、図4図5(c)、図6(e))。
該プライマー層16は、コンクリート若しくはモルタル、又は、排水管14のポリ塩化ビニル等の下地の上に形成させておき、補修構造体17の強い接着性を得ることができる(図4)。
すなわち、工程(4)でプライマー層16を形成させることによって、工程(5)での補修構造体17が好適に形成され、補修構造体17が硬化された後の硬化補修構造体17の下地への密着性が上がる。
【0065】
プライマー層形成液には、メチルメタクリレート、及び、ラジカル重合開始剤の他に、チクソトロピー付与粉体、無機フィラー、及び/又は、後述する補修液中の他の成分が含有されていてもよい。
プライマー層形成液に含有される(特に)好ましい成分・物質は、後述する工程(5)における補修液に含有される(特に)好ましい成分・物質と同様である。
【0066】
プライマー層16は、コンクリート又はモルタルに対する直接の密着性・接着性が要求されること;補修構造体17より膜厚が通常は薄い(ので酸素の影響を受け易い)こと(図4);着色は不要であること;等を勘案し、後述する工程(5)における補修構造体17を形成するための補修液の組成から、適宜変更してプライマー層形成液の組成が決められる。
具体的には、例えば、プライマー層16は薄くてもその機能を発揮し、一般に薄いとダレ難くなるので、ダレを防止するためのチクソトロピー付与粉体を含有させない、又は、少なくてもよい。
【0067】
プライマー層形成液は、後述する補修構造体17の補修液と同様の方法で、塗布・付与される。手塗り又はスプレー塗布・付与が好ましく、手塗りが特に好ましい。
【0068】
プライマー層16の膜厚は、排水管14との継ぎ目部分とその近傍;排水溝11、グリストラップ12、インバート枡13の内面;何れも、平均で、50g/m以上800g/m以下で設けることが好ましく、100g/m以上500g/m以下で設けることがより好ましく、130g/m以上300g/m以下で設けることが特に好ましい。
【0069】
工程(4)に先立って、内面を乾燥させる工程を行うことが好ましい(図1)。
通常の風乾の後、トーチバーナー等を用いて更に乾燥度を上げることは、更に好適な接着性を確保するために好ましい。
【0070】
<工程(5)>
工程(5)は、本発明の必須工程であり、メチルメタクリレート、ラジカル重合開始剤、及び、チクソトロピー付与粉体を含有する補修液を、該内面15に付与して補修構造体17を形成し、次いで経時的に固化させる工程である(図1図5(d)(e)、図6(f))。
【0071】
<<補修液>>
本発明における補修液は、少なくとも、メチルメタクリレート(「MMA」と略記することがある)、重合開始剤、及び、チクソトロピー付与粉体を含有する。
【0072】
<<<メチルメタクリレート(MMA)>>>
使用するMMAの純度等には特に限定はなく、汎用のもの(市販品等)が使用できる。
MMAは、炭素間の2重結合を有し、本発明では該2重結合が重合してポリメチルメタクリレートとなるが、前記した理由により、酸素(空気)が遮断されていない状況で、すなわちオープンの状況で重合させて、接着剤、補修材、充填剤(シーラント)等として使用されることは殆どない。
本発明では、補修対象が、排水溝11、グリストラップ12、インバート枡13と言うオープンの状況ではあるが、主にMMAの重合反応によって補修構造体17を固化させて硬化補修構造体17を形成させることができる。
【0073】
補修液の成分や組成比、付与量(補修構造体の厚さ)、硬化条件(気温、風の有無等)を調整することで補修構造体17を形成させ硬化させて、内面を補修することが可能である。
良好な補修構造体17を形成させて、前記したパラフィン現象が起こるように上記条件を設定することが好ましい。
【0074】
重合性2重結合を有する化合物は、MMA以外にも含有していてもよいが、「重合性2重結合を有する化合物」全体に対してMMAが、70質量%以上が好ましく、85質量%以上がより好ましく、95質量%以上が更に好ましく、実質的に全て(例えば98質量%以上)が特に好ましい。
「MMA以外の重合性2重結合を有する化合物」(以下、括弧内を「その他重合性化合物」と略記することがある。)としては、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸アルキルエステル(該アルキル基の炭素数6個以下)、多官能(メタ)アクリル酸エステル等が挙げられる。
【0075】
<<重合開始剤>>
本発明において、MMAは少なくともラジカル重合(リビングラジカル重合を含む)が主に進行し、補修液を塗布・付与してなる補修構造体17が固化(硬化)する。
本発明における補修液は、重合開始剤を必須成分として含有するが、該重合開始剤は、ラジカル重合開始剤であることが好ましく、熱重合開始剤でも光重合開始剤でもそれら両方でもよいが、重合効率の点から、(特に光照射が必須ではないので)作業効率の点から、熱重合開始剤であることがより好ましい。
【0076】
ラジカル重合開始剤、熱重合開始剤の中でも、有機過酸化物又は有機ビスアゾ化合物であることが更に好ましく、有機過酸化物が重合性(硬化性)の点から特に好ましい。
有機過酸化物の中でも、ベンゾイルパーオキサイド(以下、「BPO」と略記する)が、重合性(硬化性)、価格、汎用性等の点から最も好ましい。
【0077】
<<硬化促進剤>>
本発明における補修液には、重合開始剤の外に、硬化促進剤を含有させることができる。硬化促進剤は、夏場等の気温が高いときは不要であるが、補修時の気温が低いときには、硬化速度を上げるために含有させることが好ましい。該硬化促進剤としては、特に限定はないが、重合開始剤のラジカル発生を促進する化合物、RAFT剤、適度な連鎖移動剤、硫黄(S)原子含有化合物等が挙げられる。
【0078】
重合開始剤や硬化促進剤の量は、補修液の成分の混合開始から、内面に塗布して補修構造体17を形成するまでの時間が適切な範囲になるように決められる。
該時間は、通常、平均気温25℃以上の夏場は5分以上15分以下であり、平均気温15℃以下の冬場は20分以上40分以下であり、これ以上経過すると作業性が劣るのと共に補修液が十分に硬化しない場合がある。
【0079】
<<チクソトロピー付与粉体>>
本発明における補修液の必須成分であるチクソトロピー付与粉体は、補修液にチクソトロピーを与えるものである。具体的には、「ずり速度の大きい補修液の付与時には粘度が低く、継ぎ目部分13c、側面等に付与し、ずり速度がゼロになると粘度が大きくなる性質」(「構造粘性」とも言う)や、「ずり速度がゼロになった後の時間経過と共に粘度が上昇していく性質」を与えるものである。
【0080】
該チクソトロピー付与粉体の含有によって、チクソトロピーが付与されることに加え、意外にも良好な硬化性を与えることができた。また、図3に示したように、継ぎ目部分13c及びその近傍は、補修液を付与する面が下又は横に向いている場合が多く、該チクソトロピー付与粉体は、補修液をそこに付与するときに、補修液のダレを防止したり、補修構造体17やそれが固化した硬化補修構造体17に厚みを与えたりすることができる。
【0081】
該チクソトロピー付与粉体としては、繊維状粉体、針状粉体、扁平状粉体、微小粉体、高吸油量粉体、火炎法シリカ等が挙げられるが、MMAのラジカル重合が好適に進行して良好な硬化性を与える点;チクソトロピー付与が良好である点等から、繊維状粉体、針状粉体又は扁平状粉体が好ましく、上記点、安全性の点等から繊維状粉体がより好ましい。中でも、天然繊維状粘土鉱物を原料とした繊維状粉体が特に好ましい。具体的には、セピオライト(含水ケイ酸マグネシウム、MgSi1230(OH)・(OH・8HO)が、硬化性、チクソトロピー付与性、安全性等の点から最も好ましい。
【0082】
MMAのラジカル重合は大気中の酸素によって阻害されるが、該チクソトロピー付与粉体により補修液の(塗布)膜厚を大きくできる;それ自体にガスバリヤー性(酸素不透過性)がある;等によって、大気中の酸素の塗膜内への拡散が抑制され、それによってMMAのラジカル重合が停止(quench)せず好適に進行したと思われる。
【0083】
<<無機フィラー>>
本発明における補修液は、無機フィラーを含有することが好ましい。無機フィラーとしては、限定はされないが、例えば、炭酸カルシウム、タルク、硫酸カルシウム、シリカ、ガラス、酸化第二鉄、ケイ砂、カオリン、クレー、酸化チタン等が挙げられる。中でも、炭酸カルシウム、タルク、シリカ、ガラス、ケイ砂等が好ましい。
無機フィラーの平均粒径は、1μm~100μmが好ましく、3μm~30μmが特に好ましい。該無機フィラーとしては、若干のチクソトロピー付与効果があるものは排除されないが、チクソトロピー付与効果が大きいものは、上記「チクソトロピー付与粉体」となるので、該無機フィラーの形状は、限定はされないが、略球状、無定形等であることが好ましい。
【0084】
該無機フィラーの含有によって、MMAの硬化性が向上する、補修構造体17が硬化してなる硬化補修構造体17の機械的強度が向上する;継ぎ目部分13cへの接着性が向上する;等の効果がある。
MMAの硬化性が向上するのは、MMAのラジカル重合は大気中の酸素によって阻害されるところ、該無機フィラーにより補修液の(塗布)膜厚が大きくできること;該無機フィラー自体にガスバリヤー性があること;等によって、大気中の酸素の塗膜内への拡散が抑制され、それによってMMAのラジカル重合(chain propagation)が好適に進行したと考えられる。
【0085】
<<希釈溶媒>>
本発明における補修液、プライマー層形成液には、実質的に希釈溶媒を含有しないことが好ましい。希釈溶媒を含有しないことで、MMAの硬化性が向上する;内面の表面に対する密着性が向上する;継ぎ目部分13cの機械的強度が向上する;等の効果がある。
【0086】
<<着色剤(トナー)>>
本発明における補修液は、着色剤(トナー)を含有していることが好ましい。着色剤(トナー)を含有していると、補修液の付与箇所が分かり易い、増量することでダレや付着ムラが分かり難くなる、見栄えが良くなる等の効果がある。
着色剤(トナー)は、特に含有されず、公知の顔料や染料が好適に使用される。上記効果を奏するならば、色は特に限定はない。
【0087】
<<抗菌剤>>
本発明における補修液は、抗菌剤を含有させることも好ましい。抗菌剤を含有させることで、滑りや黴を排除できる。該抗菌剤は特に含有されず、公知のものが使用される。
【0088】
<<補修液の各成分組成>>
補修液又はプライマー層形成液の中の各成分の組成は、排水溝11、グリストラップ12、又は、インバート枡13の内面の温度(下地温度)が10℃~20℃のときは、以下であることがより好ましい。
MMA 100質量部に対して、
その他重合性化合物 0~ 15質量部
重合開始剤 0.5~ 10質量部
硬化促進剤 0~ 10質量部
チクソトロピー付与粉体 2~ 10質量部
無機フィラー 30~160質量部
着色剤 0~ 40質量部
【0089】
内面の下地温度が上記と同じときは、補修液の各成分の組成は、以下であることが特に好ましい。
MMA 100質量部に対して、
その他重合性化合物 0~ 10質量部
重合開始剤 1~ 5質量部
硬化促進剤 2~ 8質量部
チクソトロピー付与粉体 4~ 8質量部
無機フィラー 50~140質量部
着色剤 15~ 30質量部
【0090】
内面の下地温度が6℃~10℃のときは、重合開始剤及び/又は硬化促進剤の配合量を上記の2倍にすることが望ましく、6℃未満のときは上記の3倍にすることが望ましい。
また、内面の下地温度が20℃~30℃のときは、重合開始剤及び/又は硬化促進剤の配合量を上記の40%~70%にすることが望ましい。
【0091】
<<補修液の製造方法>>
補修液の各成分は、混合容器内で、手撹拌、ミキサー撹拌等で混合する。ミキサーで混合して補修液を得ることが好ましい。各成分の添加順には特に限定はない。その際、季節を勘案して、好ましくは、気温・液温や、「継ぎ目部分、内面の下地等の温度」を測定して、各成分の配合量(特に重合開始剤や硬化促進剤の含有量)を(微)調整することが好ましい。
【0092】
本発明の内面補修方法に用いられる補修液は、その各成分を1種又は2種以上に分けて、本発明用に現場で混合するために、別々に販売・譲渡することができる。
【0093】
<<補修方法>>
補修すべきものの内部は、適宜水洗し、送風機等で風を送って継ぎ目部分13cを含む内面の下地面を乾燥させることが好ましい。
本発明の補修液は、MMAが主成分でありMMAの重合反応を利用しているにもかかわらず、意外にも、少量の水の存在(下地面の湿り気等)では硬化・固化・補修を阻害しないことが分かった。しかしながら、トーチバーナー等で更に乾燥度を上げることは、更に好適な接着性を確保するために好ましい。
【0094】
補修に先立って、バルーン等を、排水溝11、グリストラップ12、インバート枡13の排水管14に通じる穴から差し込んで排水管14の上流側と下流側を堰き止めておくことが好ましい。
【0095】
<<補修液付与により形成される補修構造体>>
補修液を付与する方法は、特に限定はないが、刷毛又はスプレー装置を用いて付与する方法、必要なだけ容器に入った補修液を内面の継ぎ目部分13c等に向かってぶちまけ付与する方法等が挙げられる。
刷毛を用いて付与する方法が、硬化前に多量に付与できる、継ぎ目部分13c及びその近傍に好適に付与できる、厚さ・付与量等を場所により均一に付与できる等の点から特に好ましい。
【0096】
継ぎ目部分とその近傍等を含む内面への補修液の平均の付与量は、単位面積当たり、500g/m以上3000g/m以下が好ましい。該付与量を1回で付与してもよいし、例えば2回以上5回以下(好ましくは3回以下)に分けて付与して補修構造体17を形成してもよい。複数回に分けて付与するときは、まず下層を付与した後に経時させて(途中まででも)固化を進行させてから、上層を付与してもよいし、故意に経時させずに続けて上層を付与してもよい。
【0097】
単位面積当たりの補修液の付与量は、700g/m以上2500g/m以下がより好ましく、1000g/m以上2000g/m以下が特に好ましい。
この範囲であると、好適に内面15が補修でき、前記した本発明の効果が好適に奏される。
【0098】
複数回に分けて付与するときは、付与回数と数値は限定されないが、例えば、1回目を200~1000g/mで、2回目~5回目をそれぞれ150~600g/mで付与する等と言った付与方法が特に好ましい方法として挙げられる。この場合、複数回の合計の付着量が上記範囲になるようにすることが好ましい。
その際、付与量を小さくした回に限っては、垂れ難くなるのでチクソトロピー付与の必要性が減少するため、チクソトロピー付与粉体の量を、前記含有量の0/10~5/10の範囲になるまで減量することも好ましい。
【0099】
補修液を付与して補修構造体17を形成してからの固化時間は、下地温度が22℃以上であれば、5分以上20分以下が好ましく、7分以上15分以下が特に好ましい。また、下地温度が15~22℃であれば、7分以上25分以下が好ましく、10分以上20分以下が特に好ましい。また、下地温度が15℃以下であれば、10分以上30分以下が好ましく、15分以上25分以下が特に好ましい。
ここで、「固化時間」とは、補修液を付与して補修構造体17を形成してから(なおトップコート層18を形成する場合はトップコート層形成液を付与してから)、排水を流し始めてもよい、厨房を使用してもよい、とするまでの時間を言う。
【0100】
本発明の補修方法は、上記固化時間、養生時間、厨房使用停止時間を極めて短縮できるので、レストラン等の業務用厨房等に極めて有利である。
従来の補修液を、例えば、マンション、アパート等の排水枡の内部や、浴室・通路・便所等の床に設置されている設備の内部の補修に使用する場合、たとえ使用不可期間が長くなっても、住人に許容されることが多い。
【0101】
しかしながら、レストラン等の業務用厨房の使用不可期間が長いと、それによる売上減少が極めて大きな問題であり許容されない。
従って、本発明のMMAを使用する内面補修方法は、特に業務用厨房の、排水溝11、グリストラップ12、又は、インバート枡13の内面を、補修の対象にしたときに、上記した「固化時間や養生時間を含む補修時間が短い」と言う効果を特に好適に発揮する。
【0102】
<工程(6)>
<<トップコート層>>
本発明における補修液を用いた上記補修構造体17の固化(硬化)形成後に、その上にトップコート層18を形成することが、硬化補修構造体17を保護するために好ましい。
該トップコート層18は、少なくとも、メチルメタクリレート、及び、ラジカル重合開始剤を含有するトップコート層形成液を付与して形成することが好ましい。
該トップコート層形成液は、前記補修液と同様のものでもよいが、トップコート層18は薄くてもその機能を発揮する点から、また薄いとダレ難くなる点から、ダレを防止するためのチクソトロピー付与粉体を含有させなくてもよい。
【0103】
トップコート層形成液の(好ましい)組成は、チクソトロピー付与粉体を必須成分としない以外は前記した補修液の組成液と同様である。
なお、着色(着色剤の含有)や柔軟性は、前記した補修液より必要性が薄く、無色でもカチカチでもよい。また、トップコート層形成液は、チクソトロピー付与粉体を含有していることが好ましい。
また、その他の重合性化合物として多官能(メタ)アクリル酸エステルを含有させることは、トップコート層18を硬くする(カチカチにする)ために好ましい。
また、付与方法(の好ましい方法)も、前記した補修液の付与方法と同様である。
【0104】
該トップコート層18は、補修構造体17の上に、平均で、100g/m以上1000g/mで設けることが好ましく、150g/m以上800g/mで設けることがより好ましく、200g/m以上600g/mで設けることが特に好ましい。トップコート層18は、トップコート層形成液を、1回又は2回以上に分けて付与して形成することが好ましく、1回又は2回に分けて付与して形成することが特に好ましい。2回以上に分けて塗布する場合、上記付着量は、それらの合計の値である。
【0105】
<<全層の形成>>
本発明の補修方法で補修をすると、最終的に、補修構造体17が形成されているが、上記した通り、該構造体の下に更にプライマー層16が形成され、及び/又は、該構造体の上に更にトップコート層18が形成されていることが好ましい。
特に好ましくは、下から順に、プライマー層16、補修構造体17及びトップコート層18が形成されている形態であり、その場合、該プライマー層16と該補修構造体17と該トップコート層18の合計付着量は、700g/m以上5000g/m以下であることが好ましい。該3層の合計付着量は、より好ましくは1000g/m以上4000g/m以下であり、特に好ましくは1500g/m以上3000g/m以下である。
【0106】
上記したように、プライマー層16、補修構造体17及びトップコート層18の3層を形成させる場合、本発明における上記補修液ではない従来の液を用いる場合、固化に時間がかかるので、補修工事開始から終了まで、例えば約3日間もかかることがあった。
本発明における補修液を用いて補修すれば、プライマー層16、補修構造体17及びトップコート層18の3層を形成させる場合であっても、前記した補修構造体17のみの固化時間の(3層分である)約3倍あれば十分である。すなわち、下水使用不可期間は、例えば約30分~約60分である。
【0107】
現場で各成分を混合して補修液を調製する時間、バルーンを差し込んで下水管の上流側を堰き止める時間、その他の準備時間を考慮しても半日以内で終了するので、業務用の厨房の補修には最適である。
レストランは、通常は夜中は営業していない。従って、業務用厨房は、夜中は使用されていない。従って、本発明は、21:00から翌日の9:00までの時間内の何れかの時間帯で補修を完結させる前記の内面補修方法であることが好ましい。本発明における前記補修液を使用すれば、それが可能である。
21:00から翌日の9:00までの時間内の何れかの時間帯で補修を完結させる内面補修方法であるので、例えば、23:00から翌日の7:00までに完結させてもよい。
本発明における前記補修液を使用すれば、それも可能である。
【0108】
<排水溝、グリストラップ、インバート枡>
本発明の内面補修方法を使用して補修された、排水溝11、グリストラップ12、又は、インバート枡13は、前記した性能に優れている。
本発明は、前記した「本発明の内面補修方法」を使用して補修された、排水溝11、グリストラップ12、又は、インバート枡13でもある。
本発明の内面補修方法を使用して補修されることによって、排水溝11、グリストラップ12、又は、インバート枡13の内面15に、「メチルメタクリレート重合物、チクソトロピー付与粉体、及び、無機フィラーを少なくとも含有する硬化補修構造体17」を有する、排水溝11、グリストラップ12、又は、インバート枡13は、耐水性・耐久性等の前記した性能に優れている。
【0109】
<補修液>
本発明は、前記した「本発明の内面補修方法」に用いられるためのものであることを特徴とする補修液でもある。
該補修液の組成については、前記した通りである。
該補修液は、複数の液体若しくは固体に分けて譲渡・販売することができる。分けて譲渡・販売したり、現場で調合したりする等の場合であっても、本発明の範囲に含まれる。
【0110】
本明細書では、それぞれの工程で用いる液を、プライマー層形成液、補修液、トップコート層形成液と言うように、各液を別の名称を用いて分けたが、プライマー層形成液、補修液、又は、トップコート層形成液を、それぞれ複数回付与する態様も含まれる。また、複数回付与する場合、最初に付与する補修液がプライマー層形成液である場合もあり、最後に付与する補修液がトップコート層形成液である場合もある。また、最後に塗布するプライマー層形成液や最初に塗布するトップコート層形成液が補修液と称されたりする場合もあり得る。
しかし、本発明の工程を行う限りにおいては、各工程で使用される液の名称が何であれ、本発明の範囲に含まれる。
【実施例0111】
以下に、実施例及び比較例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限りこれらの実施例に限定されるものではない。
【0112】
実施例1
<排水溝>
図2(左)に一例を示したように業務用厨房の床に張り巡らされた幅25cmの排水溝11を覆っていたグレーティングを取り除いた(図5(a))。該排水溝11には、ポリ塩化ビニルでできた直径が75mmの排水管14が左右から接続していた(図2(左))。
厨房の周囲(調理台、冷蔵庫、流し等)を汚さないように、養生シートと養生テープで養生した(図5(a))。
【0113】
<<工程(1)>>
まず、該排水溝11に入っていた「油分を含む廃棄物」を手と柄杓で取り除いた後、ケレン清掃を行った。排水溝11に接続されている排水管14にバルーンを差し込んで排水管14を堰き止めた(ボール取り付けを行った)。
次いで、該排水溝11の内面11aに対して、水噴射による高圧洗浄を行った(図5(b))。
【0114】
<<工程(2)>>
アルキル硫酸系の陰イオン系界面活性剤、プロピレングリコールモノエチルエーテル、水酸化ナトリウム、及び、水を含有するpH14の強アルカリ洗浄剤を用いて、該排水溝11の内面11aの油性汚れを取り除いた。
【0115】
その後、送風機で風を送り乾燥させ、該排水溝11の内面11aをトーチバーナーで更に乾燥させた。
【0116】
<<工程(3)>>
熱硬化性エポキシ樹脂を用いて、該排水溝11の内面11aに存在する不陸又は隙間を充填した。
また、排水管14との接合部分を、該熱硬化性エポキシ樹脂を用いて補強した。
【0117】
<<工程(4)>>
<<<プライマー層形成液の組成>>>
プライマー層形成液の各成分をそれぞれ容器に投入して、ミキサーで撹拌して均一に混合した。プライマー層形成液の組成は、後記する補修液の組成から、チクソトロピー付与粉体と着色剤を抜き、BPO(重合開始剤)を2倍量にした組成とした。
【0118】
補修すべき排水溝11の内面11aの温度を測定したところ22℃であった。
該プライマー層形成液を調製後直ちに刷毛を用いて排水溝11に付与してプライマー層16を形成させた(図5(c))。
プライマー層16の付着量は、200g/mとした。チクソトロピー付与粉体を含有していなかったが、塗膜が薄いので液はダレなかった。
【0119】
<<工程(5)>>
次いで、以下に示す「補修液の各成分」をそれぞれ容器に投入して、ミキサーで撹拌して均一に混合した。溶媒は使用しなかった。
【0120】
<<<補修液の組成>>>
MMA 100質量部
BPO(重合開始剤) 2質量部
硬化促進剤 2質量部
セピオライト(含水ケイ酸マグネシウム)(チクソトロピー付与粉体) 5質量部
ケイ砂(無機フィラー) 100質量部
着色剤 15質量部
【0121】
該補修液を、調製後直ちに、刷毛を用いて前記プライマー層16を形成した上に付与した(図5(d))。グレーチングを載せるための「排水溝の上部両端の縁にある凹部」にも該補修液を付与した。
【0122】
補修構造体17は、補修液を4回に分けて付与することによって形成させた。
1回目の付着量は400g/m、2回目から4回目までの付着量はそれぞれ300g/mとして、合計で、1300g/mの補修構造体17を形成させた(図5(e))。刷毛を用いて、ダレない程度に、できるだけ厚く付与するようにした。
補修液を付与後、固化中に、補修構造体17の表面には、前記したパラフィン現象が見られた。
【0123】
<<工程(6)>>
<<<トップコート層形成液の組成>>>
次いで、トップコート層形成液の各成分を容器に投入して、ミキサーで撹拌して均一に混合した。
トップコート層形成液の組成は、前記した補修液の組成に、その他重合性化合物として多官能(メタ)アクリル酸エステルを加えて、硬化後に表面硬度を上げる(カチカチになる)ようにした。
【0124】
2回に分けてトップコート層形成液を付与してトップコート層18を形成させた(図5(f))。1回目と2回目の合計付着量は、300g/mとした。なお、2回目のトップコート層形成液には着色剤を含有させなかった。
【0125】
補修構造体17を含む全層を経時で固化させた。固化に要した時間(養生時間)は、下地の温度が22℃であったので10分であった。3層の合計付着量は、1800g/mであった。補修構造体17等の固化(MMAの重合(硬化))は、下地の水の影響や、空気中の酸素の影響も受けず良好に進行した。
その後、バルーン(ボール)を取り除き、流水テストをし、排水溝11にグレーティングを載せて補修を完成させた。
【0126】
<<全工程に要した時間>>
上記のように、工程(1)~(6)の全てを行い、更に、同時に、グリストラップ12とインバート枡13も補修した。更に、養生、ケレン清掃、バルーンを差し込んでの排水管14を堰き止め、トーチバーナーでの乾燥、各液の調合、固化時間経過、流水テスト、養生撤去、等もすべて含めて、22:00から6:00までに全て終了した。翌日は、平常通り、レストラン営業が可能であった。
【0127】
<<工程後の状態>>
MMAが重合した構造体(補修構造体が固化した構造体)は、コンクリート(モルタル)にもポリ塩化ビニルにも接着性が良いため、それらの継ぎ目部分が良好に接着し、また、補修後は、排水溝11の内部は、防水性、耐久性等に優れていた。
【0128】
一方、エポキシ系樹脂を使用したときは、下地の乾燥が簡単でよいため作業性は良いが、ポリ塩化ビニルでできた排水管14が、コンクリートでできた排水溝11から容易に抜けてしまった。また、排水溝の内面の補修個所は約3年しか持たず、該補修は一時的なものに過ぎなかった。
また、ウレタン系樹脂を使用する場合には、プライマー層、主層(中塗り)、トップコート層の3層の形成に3日間かかり、厨房の排水溝11の補修には適していなかった。
【0129】
実施例2
<グリストラップ>
図2に例を示したように、業務用厨房の床の排水溝11又はインバート枡13に接続されているグリストラップ12の内部の内面12aを補修した。
各工程は、実施例1の排水溝11と同様にした。実施例1の排水溝11に代えて、グリストラップ12とする以外は、実施例1と同様にして、グリストラップ12の内面12aを補修した。
【0130】
全工程に要した時間は、排水溝11、インバート枡13の補修も含め、実施例1に記載の時間内に完了した。
工程後の状態も、実施例1に記載した通り、補修後は、グリストラップ12の内部は、防水性、耐久性等に優れていた。
【0131】
実施例3
<インバート枡>
図2(右)に一例を示したように、業務用厨房の床のインバート枡13の内部の内面13aを補修した。
各工程は、実施例1の排水溝11と同様にした。実施例1の排水溝11に代えて、インバート枡13とする以外は、実施例1と同様にして、インバート枡13の内面13aを補修した。
図6(a)~(g)に、各工程中又は各工程後の写真を示す。
【0132】
全工程に要した時間は、排水溝11、グリストラップ12の補修も含め、実施例1に記載の時間内に完了した。
工程後の状態も、実施例1に記載した通り、補修後は、インバート枡13の内部は、防水性、耐久性等に優れていた。
【産業上の利用可能性】
【0133】
本発明の内面補修方法、補修された排水溝・グリストラップ・インバート枡、及び、使用される補修液は、建築分野;厨房・下水道等の設置・管理点検・修理・清掃分野;食堂・レストラン等の営業分野;接着剤・塗料・シーラント等の施工材料の製造分野;等において広く利用されるものである。
【符号の説明】
【0134】
11 排水溝
11a 排水溝の内面
12 グリストラップ
12a グリストラップの内面
13 インバート枡
13a インバート枡の内面
13b 排水通過凹部
13c 継ぎ目部分
14 排水管
15 (コンクリート若しくはモルタルで形成された)内面
16 プライマー層
17 (硬化後の)補修構造体
18 トップコート層

図1
図2
図3
図4
図5
図6