(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024015805
(43)【公開日】2024-02-06
(54)【発明の名称】スイッチングデバイスおよびスイッチングモジュール
(51)【国際特許分類】
H01L 25/07 20060101AFI20240130BHJP
【FI】
H01L25/04 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022118117
(22)【出願日】2022-07-25
(71)【出願人】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山野上 耕一
(57)【要約】
【課題】コモンモードノイズを極限まで抑制する。
【解決手段】所定のコモンモード電流抑制構造2を介して半導体チップ101の下方に配置されるドレインフィン103を備えるスイッチングデバイス1である。コモンモード電流抑制構造2が、ドレインフィン103の上に接合される第1絶縁層12aと、第1絶縁層12aの上に接合される導電層2bと、導電層2bの上に接合される第2絶縁層2cと、第2絶縁層2cの上に接合されるとともに半導体チップ101のドレイン電極101aと接合される電極導体2dとを有している。導電層2bが半導体チップ101のソース電極101bと電気的に接続されている。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スイッチング制御が行われるスイッチングデバイスであって、
半導体チップと、
前記半導体チップの下面に設けられている第1端子部に接続される正極側端子と、
前記半導体チップの上面に設けられている第2端子部に接続される負極側端子と、
前記第1端子部と前記第2端子部との間の電流路のオンオフを切り替えるために、前記半導体チップの上面に設けられている第3端子部に接続される切替用端子と、
所定のコモンモード電流抑制構造を介して前記半導体チップの下方に配置される放熱導体と、
を備え、
前記コモンモード電流抑制構造が、
前記放熱導体の上に接合される第1絶縁層と、
前記第1絶縁層の上に接合される導電層と、
前記導電層の上に接合される第2絶縁層と、
前記第2絶縁層の上に接合されるとともに前記第1端子部の下に接合される電極導体と、
を有し、
前記導電層が前記第2端子部と電気的に接続されている、スイッチングデバイス。
【請求項2】
請求項1に記載のスイッチングデバイスにおいて、
前記第1絶縁層および前記第2絶縁層の素材がセラミックである、スイッチングデバイス。
【請求項3】
請求項1に記載のスイッチングデバイスにおいて、
前記第1絶縁層および前記第2絶縁層の素材がシリコン樹脂である、スイッチングデバイス。
【請求項4】
請求項1に記載のスイッチングデバイスにおいて、
前記導電層が流動性を有する素材を塗布して形成されている、スイッチングデバイス。
【請求項5】
請求項1に記載のスイッチングデバイスにおいて、
前記導電層が金属薄膜である、スイッチングデバイス。
【請求項6】
請求項1に記載のスイッチングデバイスにおいて、
第1絶縁層、導電層、および前記第2絶縁層の各々が積層して形成されている、スイッチングデバイス。
【請求項7】
スイッチング制御が行われるスイッチングモジュールであって、
直列に接続された上アーム用チップおよび下アーム用チップからなり、ハーフブリッジ回路を構成する半導体チップと、
所定のコモンモード電流抑制構造を介して前記半導体チップの下方に配置されるヒートシンクと、
を備え、
前記コモンモード電流抑制構造が、
前記ヒートシンクの上に接合された第1絶縁層と、
前記第1絶縁層の上に接合された導電層と、
前記導電層の上に接合された第2絶縁層と、
前記第2絶縁層の上に接合されるとともに前記下アーム用チップの下に接合される電極導体と、
を有し、
前記導電層が、所定の電位が保持される定電位部位と電気的に接続されている、スイッチングモジュール。
【請求項8】
請求項7に記載のスイッチングモジュールにおいて、
前記定電位部位が、前記ハーフブリッジ回路が接続されている負極側配線の部位である、スイッチングモジュール。
【請求項9】
請求項7に記載のスイッチングモジュールにおいて、
前記定電位部位が、前記ハーフブリッジ回路が接続されている正極側配線の部位である、スイッチングモジュール。
【請求項10】
請求項7に記載のスイッチングモジュールにおいて、
前記ハーフブリッジ回路が接続されている正極側配線および負極側配線の各々の間に直列に接続された2個のコンデンサを更に備え、
前記定電位部位が、2個の前記コンデンサの間の部位である、スイッチングモジュール。
【請求項11】
請求項7に記載のスイッチングモジュールにおいて、
前記第1絶縁層および前記第2絶縁層の素材がセラミックである、スイッチングモジュール。
【請求項12】
請求項7に記載のスイッチングモジュールにおいて、
前記第1絶縁層および前記第2絶縁層の素材がシリコン樹脂である、スイッチングモジュール。
【請求項13】
請求項7に記載のスイッチングモジュールにおいて、
前記導電層が流動性を有する素材を塗布して形成されている、スイッチングモジュール。
【請求項14】
請求項7に記載のスイッチングモジュールにおいて、
前記導電層が金属薄膜である、スイッチングモジュール。
【請求項15】
請求項7に記載のスイッチングモジュールにおいて、
第1絶縁層、導電層、および前記第2絶縁層の各々が積層して形成されている、スイッチングモジュール。
【請求項16】
スイッチング制御が行われるスイッチングデバイスであって、
半導体チップと、
前記半導体チップの下面に設けられている第1端子部に接続される正極側端子と、
前記半導体チップの上面に設けられている第2端子部に接続される負極側端子と、
前記半導体チップの上面に設けられていて、前記第1端子部と前記第2端子部との間の電流路のオンオフを切り替える第3端子部に接続される切替用端子と、
所定のコモンモード電流抑制構造を介して前記半導体チップの下方に配置される放熱導体と、
を備え、
前記コモンモード電流抑制構造が、
前記放熱導体の上に接合される絶縁層と、
前記絶縁層の上に接合されるとともに前記第1端子部の下に接合される電極導体と、
を有し、
前記放熱導体が前記第2端子部と電気的に接続されている、スイッチングデバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
開示する技術は、スイッチング制御が行われるスイッチングデバイスおよびスイッチングモジュールに関する。特に、車載向けの電気機器に好適なスイッチングデバイスおよびスイッチングモジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車の電動化が著しい。自動車に搭載される電気機器の数は増加し、電気機器の性能向上が求められている。
【0003】
電力の供給に用いられる電気機器、いわゆるパワーエレクトロニクスに関連した電気機器の多くは、スイッチング制御が行われる電子部品であるスイッチングデバイスおよびスイッチングモジュールを含む。これらスイッチングデバイスおよびスイッチングモジュールでは、その効率を向上させるために、スイッチング制御の高速化が求められている。
【0004】
しかし、スイッチング制御を高速化すると、その周期的な電圧変化に起因して、高調波ノイズ(いわゆるコモンモードノイズ)が発生するという問題がある。
【0005】
すなわち、浮遊容量(寄生容量)および接地(アース)を経由するという、予期しない電流路をコモンモード電流が流れる。このコモンモード電流に起因してコモンモードノイズが発生する。コモンモードノイズは、近接する電気機器の誤動作、通信障害などの原因となる。従って、スイッチング制御を高速化するためには、コモンモードノイズの抑制は避けられない。
【0006】
コモンモードノイズを抑制するために、これまでも様々な技術が提案されている。例えば、特許文献1には、2つのスイッチング素子を直列に接続して構成されたハーフブリッジ回路で発生するコモンモードノイズを低減する技術が開示されている。
【0007】
ハーフブリッジ回路の場合、電圧変化は2つのスイッチング素子の中点が大きい。そのため、特許文献1の技術では、その中点の部分の導電板(中点導電板15)と絶縁層31を介して対向している放熱板(第2放熱板19)をグランド端子24から絶縁している(引用文献1の説明では、便宜上、引用文献1の符号を用いる)。
【0008】
そうすることにより、中点導電板15から流れるコモンモードノイズを低減している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1の技術は、中点導電板15とグランド端子24との間に形成される浮遊容量(寄生容量)を低減または分散させることで、コモンモードノイズを低減している。
【0011】
しかし、第2放熱板19は、絶縁材32を介してグランド端子24と接続されている一対の第1放熱板18,18と対向している。これら対向部位を経由することで、中点導電板15からコモンモード電流が流れる。特許文献1の技術は、コモンモードノイズを低減できるが、コモンモードノイズは発生する。従って、改善の余地がある。
【0012】
開示する技術では、コモンモード電流の流れを阻止することで、コモンモードノイズを極限まで抑制できるスイッチングデバイスおよびスイッチングモジュールをめざす。
【課題を解決するための手段】
【0013】
開示する技術の1つは、スイッチング制御が行われるスイッチングデバイスに関する。
【0014】
前記スイッチングデバイスは、半導体チップと、前記半導体チップの下面に設けられている第1端子部に接続される正極側端子と、前記半導体チップの上面に設けられている第2端子部に接続される負極側端子と、前記第1端子部と前記第2端子部との間の電流路のオンオフを切り替えるために、前記半導体チップの上面に設けられている第3端子部に接続される切替用端子と、所定のコモンモード電流抑制構造を介して前記半導体チップの下方に配置される放熱導体と、を備える。
【0015】
そして、前記コモンモード電流抑制構造が、前記放熱導体の上に接合される第1絶縁層と、前記第1絶縁層の上に接合される導電層と、前記導電層の上に接合される第2絶縁層と、前記第2絶縁層の上に接合されるとともに前記第1端子部の下に接合される電極導体と、を有し、前記導電層が前記第2端子部と電気的に接続されている。
【0016】
すなわち、このスイッチングデバイスによれば、半導体チップと放熱導体の間は、電気的に絶縁される。その構造に起因して、スイッチング制御により、電圧が断続的に変化するとコモンモード電流が流れる電流路が生じる。それに対し、その絶縁構造として、第2端子部と電気的に接続された導電層が介在する所定のコモンモード電流抑制構造が設けられている。
【0017】
第2端子部は、負極側端子と接続されるので、導電層の電位は一定に保持される。それにより、導電層と放電導体との間に電位差が生じない。第1絶縁層には電荷が溜まらない。
【0018】
その結果、コモンモード電流が実質的に流れないので、コモンモードノイズを極限まで抑制できる。従って、スイッチング制御を高速化できる。
【0019】
開示する技術の他の1つは、スイッチング制御が行われるスイッチングモジュールに関する。
【0020】
前記スイッチングモジュールは、直列に接続された上アーム用チップおよび下アーム用チップからなり、ハーフブリッジ回路を構成する半導体チップと、所定のコモンモード電流抑制構造を介して前記半導体チップの下方に配置されるヒートシンクと、を備える。
【0021】
そして、前記コモンモード電流抑制構造が、前記ヒートシンクの上に接合された第1絶縁層と、前記第1絶縁層の上に接合された導電層と、前記導電層の上に接合された第2絶縁層と、前記第2絶縁層の上に接合されるとともに前記下アーム用チップの下に接合される電極導体と、を有し、前記導電層が、所定の電位が保持される定電位部位と電気的に接続されている。
【0022】
すなわち、このスイッチングモジュールによれば、上述したスイッチングデバイスと同様に、半導体チップとヒートシンクの間は電気的に絶縁される。その構造に起因して、スイッチング制御により、電圧が断続的に変化するとコモンモード電流が流れる電流路が生じる。それに対し、その絶縁構造として、定電位部位と電気的に接続された導電層が介在する所定のコモンモード電流抑制構造が設けられている。
【0023】
定電位部位は所定の電位が保持される。従って、導電層の電位は一定に保持される。それにより、導電層とヒートシンクとの間に電位差が生じない。第1絶縁層には電荷が溜まらない。
【0024】
その結果、コモンモード電流が実質的に流れないので、コモンモードノイズを極限まで抑制できる。従って、スイッチング制御を高速化できる。
【0025】
具体的には、前記定電位部位は、前記ハーフブリッジ回路が接続されている負極側配線の部位としてもよいし、前記ハーフブリッジ回路が接続されている正極側配線の部位としてもよい。
【0026】
前記ハーフブリッジ回路が接続されている正極側配線および負極側配線の各々の間に直列に接続された2個のコンデンサを更に備える場合には、前記定電位部位が、2個の前記コンデンサの間の部位であり、前記導電層が当該部位と電気的に接続されている、としてもよい。
【0027】
いずれの部位も、スイッチング制御の実行中は所定の電位が保持されている。従って、これらの部位のいずれかに接続すれば、導電層の電位を一定に保持できる。
【0028】
上述したスイッチングデバイスおよびスイッチングモジュールの各々において、前記第1絶縁層および前記第2絶縁層の素材がセラミックである、としてもよい。
【0029】
そうすれば、これら絶縁層に、優れた熱伝導性を付与することができる。半導体チップを効果的に放熱でき、温度異常を抑制できる。
【0030】
上述したスイッチングデバイスおよびスイッチングモジュールの各々において、前記第1絶縁層および前記第2絶縁層の素材がシリコン樹脂である、としてもよい。
【0031】
そうすれば、比較的安価かつ容易に、絶縁性および熱伝導性の双方に優れた第1絶縁層および第2絶縁層を得ることができる。
【0032】
上述したスイッチングデバイスおよびスイッチングモジュールの各々において、前記導電層が流動性を有する素材を塗布して形成されている、としてもよい。
【0033】
そうすれば、印刷などの簡易な手法で導電層を形成できる。
【0034】
上述したスイッチングデバイスおよびスイッチングモジュールの各々において、前記導電層が金属薄膜である、としてもよい。
【0035】
そうすれば、スパッタリングなどの手法を用いて導電層を形成できる。導電層を薄くできるので、熱伝導性を向上できる。
【0036】
上述したスイッチングデバイスおよびスイッチングモジュールの各々において、第1絶縁層、導電層、および前記第2絶縁層の各々が積層して形成されている、としてもよい。
【0037】
そうすれば、汎用のプリント配線板により、これらを同時に形成できる。安価かつ容易にスイッチングデバイス等を実現できる。
【0038】
開示する技術のまた他の1つは、スイッチング制御が行われるスイッチングデバイスに関する。
【0039】
前記スイッチングデバイスは、半導体チップと、前記半導体チップの下面に設けられている第1端子部に接続される正極側端子と、前記半導体チップの上面に設けられている第2端子部に接続される負極側端子と、前記半導体チップの上面に設けられていて、前記第1端子部と前記第2端子部との間の電流路のオンオフを切り替える第3端子部に接続される切替用端子と、所定のコモンモード電流抑制構造を介して前記半導体チップの下方に配置される放熱導体と、を備え、前記コモンモード電流抑制構造が、前記放熱導体の上に接合される絶縁層と、前記絶縁層の上に接合されるとともに前記第1端子部の下に接合される電極導体と、を有し、前記放熱導体が前記第2端子部と電気的に接続されている。
【0040】
後述するように、係る構造によっても、上述したスイッチングデバイスと同様の技術思想により、コモンモード電流の流れを阻止できる。従って、このスイッチングデバイスも、上述したスイッチングデバイスと同様の作用効果を得ることができる。
【発明の効果】
【0041】
開示する技術を適用したスイッチングデバイスおよびスイッチングモジュールによれば、コモンモード電流が実質的に流れないので、コモンモードノイズを極限まで抑制できる。従って、スイッチング制御を高速化できるので、これらの性能を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【
図1】未改良デバイス(比較例)を示す概略図である。
【
図2】未改良デバイスを搭載したECUの回路図を簡略化して示す図である。
【
図3】開示する技術を適用した改良デバイス(実施例)を示す概略図である。
【
図4】コモンモード電流抑制構造の断面を簡略化して示す図である。
【
図5】改良デバイスを搭載したECUの回路図を簡略化して示す図である。
【
図6】未改良モジュール(比較例)を示す概略図(上方から見た図)である。
【
図7】
図6の矢印線A1-A1における概略断面図である。
【
図8】未改良モジュールを搭載したインバータの回路図である。
【
図9】改良モジュール(実施例)を示す概略図である。
【
図10】改良モジュールを搭載したインバータの回路図である。
【
図11】改良モジュールの変形例(第2改良モジュール)を説明するための図である。
【
図12】改良モジュールの変形例(第3改良モジュール)を説明するための図である。
【
図13】検証試験結果を説明するための図である(未改良モジュール)。
【
図14】検証試験結果を説明するための図である(第3改良モジュール)。
【
図15】改良デバイスの第2実施形態(第2改良デバイス)を示す概略図である。
【
図16】第2改良デバイスを搭載した第2ECUの回路図を簡略化して示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0043】
以下、開示する技術の実施形態を説明する。ただし、以下の説明は、本質的に例示に過ぎない。開示する技術は、スイッチング制御が行われるスイッチングデバイスおよびスイッチングモジュールに関する。従って、これらについて個別に説明する。
【0044】
<スイッチングデバイス>
開示する技術の理解を容易にするために、比較例として、開示する技術を適用する前のスイッチングデバイス(未改良デバイス100)について説明する。
【0045】
(未改良デバイス)
図1に、未改良デバイス100を示す。ここでは、未改良デバイス100の半導体チップ101として、パワーMOSFETを例示している。未改良デバイス100には、比較的大きな電力が印加される。そして、高速でオンオフするスイッチング制御が行われる。従って、未改良デバイス100は、動作すると発熱する。
【0046】
未改良デバイス100は、半導体チップ101、銅製のリードフレームによって形成された後述する複数の端子およびドレインフィン103などで構成されている。ドレインフィン103は、矩形板状の部材からなり、過剰昇温を防止するために、放熱材を兼ねている。すなわち、ドレインフィン103は放熱導体である。
【0047】
半導体チップ101は、ドレイン電極101a(第1端子部)、ソース電極101b(第2端子部)、および、ゲート電極101c(第3端子部)を有している。なお、半導体チップ101がバイポーラトランジスタの場合、ドレイン電極101aはコレクタ電極に相当し、ソース電極101bはエミッタ電極に相当する。ゲート電極101cはベース電極に相当する。
【0048】
電圧の高い正極側に接続されるドレイン電極101aは、電圧の低い負極側に接続されるソース電極101bよりも発熱量が多い。ドレイン電極101aは半導体チップ101の下面によって構成されている。ドレイン電極101aは、ドレインフィン103の上にハンダ104によって接合されている(ハンダ付け)。
【0049】
ソース電極101bおよびゲート電極101cは、半導体チップ101の上面に設けられている。ソース電極101bは、制御に用いられるゲート電極101cよりも面積は大きい。
【0050】
これら電極に対応した3つの端子(正極側端子102A、負極側端子102B、切替用端子102C)が、半導体チップ101の一端側に並列に配置されている。ソース電極101bは、ボンディングワイヤ110aを介して負極側端子102Bと接続されている。正極側端子102Aは、ボンディングワイヤ110bおよびドレインフィン103を介してドレイン電極101aと接続されている。
【0051】
ゲート電極101cは、ボンディングワイヤ110cを介して切替用端子102Cと接続されている。切替用端子102Cは、ドレイン電極101aとソース電極101bとの間の電流路のオンオフを切り替えるために設けられている。
【0052】
各端子の突端部分およびドレインフィン103の一部を除き、未改良デバイス100の要部は、モールディングにより、エポキシ樹脂などの絶縁性の合成樹脂105に埋設して一体化されている。
【0053】
図2に、未改良デバイス100を搭載したECU(Electronic Control Unit、未改良ECU120)の簡略化した回路図を例示する。未改良ECU120は、所定の直流電源121および負荷122と接続されている。負荷122は、例えば直流モータである。
【0054】
未改良ECU120は、直流電源121の正極および負極の各々と負荷122とを接続する、一対の中継配線(正極側配線123Hおよび負極側配線123L)を有している。未改良ECU120はまた、これら中継配線123H,123Lの入力側に平滑コンデンサ124を有している。
【0055】
未改良デバイス100の正極側端子102A(ドレイン電極101a)は、負荷122の低電位側が接続されている配線に接続されている。未改良デバイス100の負極側端子102B(ソース電極101b)は、負極側配線123Lと接続されている。
【0056】
未改良ECU120は、スイッチング制御を行う制御回路125を備える。制御回路125は、未改良デバイス100の切替用端子102Cと接続されている。未改良ECU120は、所定の駆動周波数(例えば100KHz)で未改良デバイス100をオンオフし、直流電源121から供給される電力を、負荷122に断続的に供給する。
【0057】
未改良ECU120は、アルミ製の放熱板126を備える。ドレインフィン103は、基板、絶縁シートなどの絶縁材127を介して放熱板126に接合されている。
【0058】
(浮遊容量、コモンモード電流)
ドレインフィン103と放熱板126との間には、電荷が蓄積可能な構造、つまり2つの電気導体が絶縁素材(誘電体)を介して対向した構造が形成されている。それにより、この部位には所定の浮遊容量が発生し得る(説明では、便宜上、浮遊容量が発生し得る部位に仮想コンデンサCが形成されるものとする)。
【0059】
すなわち、ドレインフィン103と放熱板126との間には、第1仮想コンデンサC1が形成される。また、放熱板126と接地との間には第2仮想コンデンサC2が存在し得る。未改良ECU120が車載されている場合、放熱板126は車体の金属部分と接続される場合がある。未改良ECU120のグランド端子は接地されるかまたは直流電源121の負極側と接続される。直流電源121の負極側は、接地されるかまたはフローティングの状態となっている。
【0060】
未改良ECU120が動作すると、スイッチング制御により、未改良デバイス100の正極側端子102Aに、高調波成分を含む矩形波の電圧が断続的に印加される。それにより、
図2に破線矢印Ic1で示すように、第1仮想コンデンサC1および第2仮想コンデンサC2を経由してコモンモード電流が流れる。放熱板126および直流電源121の負極側が接地される場合には、第1仮想コンデンサC1を経由してコモンモード電流が流れる。直流電源121の負極側がフローティングの状態であれば、それに伴う仮想コンデンサCを経由してコモンモード電流が流れる。
【0061】
コモンモード電流は、高調波成分を含み、かつ、電流ループ面積の大きい経路を流れる。従って、コモンモード電流が流れると、大きな電磁界ノイズが放射される。それにより、近接して位置する電子制御システムの誤動作や、通信妨害などのトラブルが発生する。
【0062】
(改良デバイス)
図3に、開示する技術を適用したスイッチングデバイス(改良デバイス1)を例示する。改良デバイス1の基本的な構造は、未改良デバイス100と同じである。従って、内容が同じ構成については同じ符号を用いてその説明は簡略化または省略する(以下同様)。
【0063】
改良デバイス1は、半導体チップ101、銅製のリードフレームによって形成された複数の端子(正極側端子102A、負極側端子102B、切替用端子102C)およびドレインフィン103などで構成されている。
【0064】
改良デバイス1は、半導体チップ101とドレインフィン103との間に、所定のコモンモード電流抑制構造2が介在している点で、未改良デバイス100と異なる。
【0065】
このコモンモード電流抑制構造2は、第1絶縁層2a、導電層2b、第2絶縁層2c、および電極導体2dを有している。第1絶縁層2aは、セラミック焼結材料で形成されている。第1絶縁層2aは、ドレインフィン103の上に接合されている。導電層2bは、第1絶縁層2aの上に接合されている。導電層2bは、銀ペーストを第1絶縁層2aに印刷して形成されている。
【0066】
なお、銀ペーストは、流動性を有する素材の一例である。流動性を有する素材であれば、印刷できるので、安価に形成できる。導電層2bは、スパッタリング等の工法で形成する金属薄膜であってもよい。そうすれば、薄くて熱伝導性に優れた導電層2bを形成できる。
【0067】
第2絶縁層2cも、セラミック焼結材料で形成されている。第2絶縁層2cは、導電層2bの上に接合されている。電極導体2dは、銅板であり、第2絶縁層2cの上に接合されている。そして、その電極導体2dの上面が、ドレイン電極101aの下面にハンダ付けによって接合されている。
【0068】
コモンモード電流抑制構造2は、プリント配線基板によって構成してもよい。すなわち、第1絶縁層2a、導電層2b、および第2絶縁層2cの各々を積層してプレート状に形成する。そして、その上に、配線に対応した所定形状の電極導体2dをプリントする。そうすれば、改良デバイス1を安価で実現できる。
【0069】
第1絶縁層2aおよび第2絶縁層2cの素材には、シリコン樹脂を用いてもよい。その場合、導電層2bを、銅板などの剛性を有するプレート状に形成し、その両面にシリコン樹脂を積層するとよい。そうすれば、シリコン樹脂が弾性を有していても、ボンディングワイヤを安定して接続できる。
【0070】
半導体チップ101は、パワーMOSFETに限らない。半導体チップ101は、バイポーラトランジスタ、IGBTなどであってもよい。
【0071】
ゲート電極101cは、ボンディングワイヤ110cを介して切替用端子102Cと接続されている。ソース電極101bは、ボンディングワイヤ110aを介して負極側端子102Bと接続されている。正極側端子102Aは、ボンディングワイヤ110bおよび電極導体2dを介してドレイン電極101aと接続されている。
【0072】
そして、負極側端子102Bは、ボンディングワイヤ3を介して導電層2bと接続されている。従って、導電層2bは、ソース電極101bと電気的に接続されている。
【0073】
各端子の突端部分およびドレインフィン103の一部を除き、改良デバイス1の要部は、絶縁性の合成樹脂105に埋設して一体化されている。合成樹脂105から露出した各端子の突端部分およびドレインフィン103の一部は、図示しない公知のプリント配線板にハンダ付けされている。
【0074】
それにより、改良デバイス1はプリント配線板に実装されている。ドレインフィン103は、絶縁材127を介して放熱板126にネジ止めしてもよい。
【0075】
(コモンモード電流抑制構造2)
図4に、コモンモード電流抑制構造2の断面を簡略化して示す。コモンモード電流抑制構造2では、電極導体2dと導電層2bとの間、および、導電層2bとドレインフィン103との間の双方に、電荷が蓄積可能な構造が形成されている。
【0076】
それにより、電極導体2dと導電層2bとの間には、仮想コンデンサC(第3仮想コンデンサC3)が形成される。導電層2bとドレインフィン103との間には、仮想コンデンサC(第4仮想コンデンサC4)が形成される。なお、これら仮想コンデンサC3,C4の各々で生じる浮遊容量の絶対値は、半導体チップ101が汎用的なサイズである場合には、数100から1000pF程度である。
【0077】
図5に、改良デバイス1を実装したECU(改良ECU5)を例示する。改良ECU5の基本的な構造は、
図2に示した未改良ECU120と同じである。
【0078】
改良ECU5が動作すると、スイッチング制御により、改良デバイス1の正極側端子102Aに、高調波成分を含む矩形波の電圧が断続的に印加される。改良デバイス1がオンされた場合、電極導体2dと導電層2bとの間には、第3仮想コンデンサC3が形成されているので、破線矢印Ic2で示すループ状の電流経路により、その浮遊容量は放電される。
【0079】
改良デバイス1がオフされた場合、第3仮想コンデンサC3は、破線矢印Ic3で示すように、負荷122を経由して直流電源121の電圧が印加されて充電される。導電層2bは、オンオフいずれの場合においても、接地の電位に保持される。
【0080】
それにより、オンオフいずれの場合においても、導電層2bとドレインフィン103との間には、電位差は生じない。第4仮想コンデンサC4に電荷は蓄積されないので、第3仮想コンデンサC3および第4仮想コンデンサC4を経由して電流は流れない。つまりその電流値はゼロになる。コモンモード電流は流れない。コモンモードノイズの発生を防止できる。
【0081】
<スイッチングモジュール>
(未改良モジュール)
開示する技術の理解を容易にするために、比較例として、開示する技術を適用する前のスイッチングモジュール(未改良モジュール130)について説明する。
【0082】
図6、
図7に、未改良モジュール130を示す。
図6は、未改良モジュール130の内部を上方から見た概略図である。
図7は、
図6の矢印線A1-A1における概略断面図である。
【0083】
未改良モジュール130は、後述する複数の電子部品、ケースカバー131、ヒートシンク132などで構成されている。未改良モジュール130は、直列に接続されている2つのスイッチング素子140(半導体チップ、上アーム用チップ140Uおよび下アーム用チップ140L)で構成された3つのハーフブリッジ回路141を備える。これらハーフブリッジ回路141は、後述するように正極側配線142Hと負極側配線142Lの間に並列した状態で架設されて、インバータ回路を構成する。
【0084】
ここでのスイッチング素子140はIGBTである。図中の「C」はコレクタ電極140a(第1端子部)を示し、「E」はエミッタ電極140b(第2端子部)を示している。「B」はベース電極140c(第3端子部)を示している。なお、各スイッチング素子140には、フリーホイールダイオードが逆並列に接続されているが(
図8参照)、ここでの図示は省略する。
【0085】
未改良モジュール130は、絶縁性を有する基板133と、基板133の下面に接合されるヒートシンク132とを備える。基板133の上面には、電気配線に対応した所定形状の電極導体12dが形成されている。この電極導体12dを用いて、インバータ回路を含む電子回路が設けられている。
【0086】
具体的には、
図6に示すように、電極導体12dは、正極側配線142H(
図8を参照)を構成する正極側配線端子部150、負極側配線142Lを構成する負極側配線端子部151、U,V,Wの各相に対応した出力配線142Sを構成する3個の出力配線端子部152、および、各半導体チップ101のベース電極140cに接続される切替用端子102Cを構成する6個の切替用端子部153を有している。
【0087】
エミッタ電極140bおよびベース電極140cは、半導体チップ101の上面に設けられている。エミッタ電極140bは、制御に用いられるベース電極140cよりも面積は大きい。
【0088】
各上アーム用チップ140Uは、正極側配線端子部150の所定位置に、それぞれハンダ付けによって接合されている。それにより、各上アーム用チップ140Uのコレクタ電極140aは、正極側配線142Hに接続される。
【0089】
各上アーム用チップ140Uのエミッタ電極140bは、ボンディングワイヤ160aを介して同相の各出力配線端子部152と接続されている。それにより、各上アーム用チップ140Uのエミッタ電極140bは、出力配線142Sに接続される。各上アーム用チップ140Uのベース電極140cは、ボンディングワイヤ160bを介して各切替用端子部153と接続されている。
【0090】
各下アーム用チップ140Lは、各相の出力配線端子部152の所定位置に、それぞれハンダ付けによって接合されている。それにより、各下アーム用チップ140Lのコレクタ電極140aは、各相の出力配線142Sに接続される。
【0091】
各下アーム用チップ140Lのエミッタ電極140bは、ボンディングワイヤ160cを介して負極側配線端子部151と接続されている。各下アーム用チップ140Lのベース電極140cは、ボンディングワイヤ160dを介して各切替用端子部153と接続されている。各切替用端子部153は、コレクタ電極140aとエミッタ電極140bとの間の電流路のオンオフを切り替えるために設けられている。
【0092】
各相の出力配線端子部152(特に下アーム用チップ140Lのコレクタ電極140aがある部位)とヒートシンク132との間には、電荷が蓄積可能な構造が形成されている。出力配線端子部152は、スイッチング制御により電圧が断続的に変化する。
【0093】
それにより、
図7に拡大して示すように、この部位には所定の浮遊容量が発生し得る仮想コンデンサC(第5仮想コンデンサC5)が形成される。
【0094】
図8に、未改良モジュール130を搭載した車載のインバータ(未改良インバータ170)を例示する。この未改良インバータ170は、駆動用の高電圧バッテリ171と、走行用の駆動モータ172との間に設置されている。未改良インバータ170は、スイッチング制御を行う制御回路173を備える。未改良インバータ170はまた、平滑コンデンサ174を備える。
【0095】
制御回路173は、未改良モジュール130の各スイッチング素子140のベース電極140cと接続されている。未改良インバータ170は、所定の駆動周波数(例えば10KHz)で各スイッチング素子140をオンオフし、高電圧バッテリ171から供給される直流電力を、U、V、Wからなる3相の交流電力に変換して駆動モータ172に供給する。
【0096】
ヒートシンク132は、車体の金属部位に接続されて接地されている。従って、上述したように、各相の下アーム用チップ140Lの出力配線端子部152(コレクタ電極140a)とヒートシンク132との間には、第5仮想コンデンサC5が形成される。高電圧バッテリ171はフローティングの状態であるため、高電圧バッテリ171と接地との間には、所定の浮遊容量を有する仮想コンデンサC(第6仮想コンデンサC6)が存在する。
【0097】
未改良インバータ170が動作すると、各ハーフブリッジ回路141における上アーム用チップ140Uと下アーム用チップ140Lとの間(中点)に、高調波成分を含む矩形波の高電圧が印加される。それにより、
図8に矢印Ic4で示すように、第5仮想コンデンサC5および第6仮想コンデンサC6を経由する電流路を通ってコモンモード電流が流れる。それにより、コモンモードノイズが発生する。
【0098】
高電圧バッテリ171の定格電圧は、例えば40V以上または100V以上であり、高電圧である。従って、この場合、電圧変化が大きいので、コモンモード電流およびコモンモードノイズも大きい。
【0099】
(改良モジュール)
図9に、開示する技術を適用したスイッチングモジュール(改良モジュール11)を例示する。
図9は、
図7に対応した図である。改良モジュール11の上面図は、
図6と同じであるため、その図示は省略する。改良モジュール11の基本的な構造は、未改良モジュール130と同じである。
【0100】
改良モジュール11は、スイッチング素子140の各々とヒートシンク132との間に、所定のコモンモード電流抑制構造12が介在している点で、未改良モジュール130と異なる。
【0101】
このコモンモード電流抑制構造12は、第1絶縁層12a、導電層12b、第2絶縁層12c、および上述した電極導体12dを有している。第1絶縁層12aは、セラミック焼結材料で形成されている。第1絶縁層12aは、ヒートシンク132の上に接合されている。導電層12bは、第1絶縁層12aの上に接合されている。導電層12bは、銀ペーストを第1絶縁層12aに印刷して形成されている。
【0102】
第2絶縁層12cも、セラミック焼結材料で形成されている。第2絶縁層12cは、導電層12bの上に接合されている。電極導体12dは、銅板であり、第2絶縁層12cの上に接合されている。そして、その電極導体12dの上面が、各スイッチング素子140のコレクタ電極140aの下面にハンダ付けによって接合されている。
【0103】
なお、改良モジュール11のスイッチング素子140およびコモンモード電流抑制構造12の要部などは、上述した改良デバイス1の半導体チップ101およびコモンモード電流抑制構造2の要部と共通している。従って、これらで共通している部分は相互に適用できる。
【0104】
例えば、改良モジュール11のコモンモード電流抑制構造12は、上述した改良デバイス1のコモンモード電流抑制構造2と同様に形成できる。すなわち、導電層12bは、金属薄膜であってもよいし、コモンモード電流抑制構造12は、プリント配線基板によって構成してもよい。第1絶縁層12aおよび第2絶縁層12cの素材にシリコン樹脂を用いてもよい。
【0105】
第2絶縁層12cの所定位置には、その両面を貫通するスルーホール13が形成されている。具体的には、各相の負極側配線端子部151の下方の位置にスルーホール13が形成されている。それにより、導電層12bは、そのスルーホール13を介して、負極側配線端子部151(および各下アーム用チップ140Lのエミッタ電極140b)と電気的に接続されている。
【0106】
なお、この改良モジュール11では、この負極側配線端子部151(および下アーム用チップ140Lのエミッタ電極140b)が「定電位部位」に相当する。
【0107】
それにより、
図9に拡大して示すように、各相の負極側配線端子部151の下側には、所定の浮遊容量が発生し得る仮想コンデンサC(第7仮想コンデンサC7および第8仮想コンデンサC8)が形成される。
【0108】
具体的には、各相の負極側配線端子部151と導電層12bとが、第2絶縁層12cを介して対向することで、この部位に所定の浮遊容量が発生し得る第7仮想コンデンサC7が形成される。そして、導電層12bとヒートシンク132とが、第1絶縁層12aを介して対向することで、この部位に所定の浮遊容量が発生し得る第8仮想コンデンサC8が形成される。
【0109】
図10に、改良モジュール11を搭載した車載のインバータ(改良インバータ15)を例示する。改良インバータ15の基本的な構造は、
図8に示した未改良インバータ170と同じである。
【0110】
改良インバータ15が動作すると、スイッチング制御により、インバータ回路を構成している各スイッチング素子140は所定のタイミングでオンオフされる。オンオフする内容は、各相のハーフブリッジ回路141で周期的に切り替えられる。従って、いずれの相も基本的な動作は同じである。ここでは、U相を構成しているハーフブリッジ回路141における下アーム用チップ140Lを例に説明する。
【0111】
U相の下アーム用チップ140Lがオフされるときは、U相の上アーム用チップ140Uはオンになる。従って、破線矢印Yで示すように、U相に対応した第7仮想コンデンサC7は、高電圧バッテリ171の電圧が印加されて充電される。このとき、第7仮想コンデンサC7を構成している導電層12bは、高電圧バッテリ171の負極側と電気的に接続されている。従って、導電層12bは、高電圧バッテリ171の負極側と同じ電位である。
【0112】
U相の下アーム用チップ140Lがオンされるときは、U相の上アーム用チップ140Uはオフになる。従って、U相の第7仮想コンデンサC7に蓄積されている電荷は、導電層12bを経由した電流路を通って放電される。このときも、導電層12bは、高電圧バッテリ171の負極側と同じ電位である。
【0113】
導電層12bは、オンオフいずれの場合においても、高電圧バッテリ171の負極側の電位に保持される。すなわち、導電層12bは、一定の電位が保持される部位(定電位部位)と電気的に接続されているので、スイッチング制御が行われても電位は変化しない。
【0114】
それにより、オンオフいずれの場合においても、導電層12bとヒートシンク132との間には、電位差は生じない。第8仮想コンデンサC8に電荷は蓄積されないので、第7仮想コンデンサC7および第8仮想コンデンサC8を経由する電流路には電流は流れない。その電流値はゼロである。
【0115】
改良モジュール11によれば、スイッチング制御を行ってもコモンモード電流が流れない。従って、コモンモードノイズの発生を防止できる。
【0116】
(改良モジュール11の変形例)
図11に、改良モジュール11の変形例(第2改良モジュール20)を示す。
【0117】
上述した改良モジュール11では、負極側配線142Lの部位、具体的には負極側配線端子部151(各下アーム用チップ140Lのエミッタ電極140b)が「定電位部位」とされている。しかし、導電層12bは、スイッチング制御が行われても電位が実質的に変化しない部位に接続されていればよい。定電位部位は、負極側配線142Lの部位に限らない。
【0118】
従って、第2改良モジュール20では、導電層12bを、負極側配線端子部151ではなく、正極側配線142Hの部位である正極側配線端子部150(各上アーム用チップ140Uのコレクタ電極140a)に接続している(
図11の第2接続配線20aを参照)。
【0119】
この場合、導電層12bは、オンオフいずれの場合においても、高電圧バッテリ171の正極側の電位に保持される。従って、スイッチング制御が行われても電位は変化しない。
【0120】
それにより、オンオフいずれの場合においても、導電層12bとヒートシンク132との間には、電位差は生じない。第8仮想コンデンサC8に電荷は蓄積されないので、第7仮想コンデンサC7および第8仮想コンデンサC8を経由する電流路には電流は流れない。その電流値はゼロである。
【0121】
第2改良モジュール20によれば、スイッチング制御を行ってもコモンモード電流が流れない。従って、コモンモードノイズの発生を防止できる。
【0122】
図12に、改良モジュール11の変形例(第3改良モジュール30)を示す。
【0123】
第3改良モジュール30を搭載した改良インバータ15には、上述した改良インバータ15と異なり、正極側配線142Hおよび負極側配線142Lの各々の間に、直列に接続された2個のコンデンサ31,31が備えられている。これら2個のコンデンサ31,31の間の部位は、高電圧バッテリ171の電圧よりも低い所定の電圧値が保持されるようになっている。
【0124】
従って、第3改良モジュール30では、導電層12bを、2個の前記コンデンサ31,31の間の部位に接続している(
図12の第3接続配線30aを参照)。
【0125】
この場合、導電層12bは、オンオフいずれの場合においても、高電圧バッテリ171の電圧よりも低い所定の電位に保持される。従って、スイッチング制御が行われても電位は変化しない。
【0126】
それにより、オンオフいずれの場合においても、導電層12bとヒートシンク132との間には、電位差は生じない。第8仮想コンデンサC8に電荷は蓄積されないので、第7仮想コンデンサC7および第8仮想コンデンサC8を経由する電流路には電流は流れない。その電流値はゼロである。
【0127】
第3改良モジュール30によれば、スイッチング制御を行ってもコモンモード電流が流れない。従って、コモンモードノイズの発生を防止できる。
【0128】
<コモンモード電流抑制構造に関する検証試験結果>
コモンモード電流抑制構造の効果を検証する試験を行った。
図13および
図14に、その結果を示す。
【0129】
図13は、上述した未改良インバータ170における試験結果を表している。
図14は、上述した第3改良モジュール30を搭載した改良インバータ15における試験結果を表している。
【0130】
各図における上段のグラフは、所定の出力配線142Sから出力される電圧波形と、それに対応したコモンモード電流波形(実測値)を示している。各図における下段のグラフは、そのコモンモード電流の周波数スペクトルの観測図である。
【0131】
未改良モジュール130では、
図13に示すように、出力配線142Sの電圧変化に対応して周期的にコモンモード電流が流れる。そして、そのコモンモード電流に対応して100MHz以上に及ぶ高周波のコモンモードノイズが観測された。
【0132】
それに対し、第3改良モジュール30では、
図14に示すように、コモンモード電流およびコモンモードノイズは観測できないレベルまで低減していた。
【0133】
<改良デバイスの第2実施形態>
図15に、改良デバイス1の第2実施形態(第2改良デバイス50)を示す。第2改良デバイス50は、コモンモード電流抑制構造が、上述した改良デバイス1と異なる。
【0134】
基本的な部材等は上述した改良デバイス1と同じである。従って、先の説明と同様に、同じ構成の部材については同じ符号を用いてその説明は省略または簡略化し、異なる構成について具体的に説明する。
【0135】
第2改良デバイス50は、半導体チップ101、銅製のリードフレームによって形成された複数の端子およびソースフィン51などで構成されている。ソースフィン51は、矩形板状の部材からなり、放熱材を兼ねている。すなわち、ソースフィン51は、改良デバイス1のドレインフィン103(放熱導体)に相当する。
【0136】
第2改良デバイス50のコモンモード電流抑制構造は、絶縁層52および電極導体53を有している。絶縁層52は、セラミック焼結材料で形成されている。絶縁層52は、ソースフィン51の上に接合されている。電極導体53は、絶縁層52の上に接合されている。そして、その電極導体53の上面が、ドレイン電極101aの下面にハンダ付けによって接合されている。
【0137】
ゲート電極101cは、ボンディングワイヤ54aを介して切替用端子102Cと接続されている。正極側端子102Aは、ボンディングワイヤ54bおよび電極導体53を介してドレイン電極101aと接続されている。負極側端子102Bは、ボンディングワイヤ54cを介してソースフィン51と接続されている。
【0138】
そして、ソースフィン51は、ボンディングワイヤ54dを介してソース電極101bと接続されている。
【0139】
図16に、第2改良デバイス50を搭載した第2改良ECU60を例示する。第2改良ECU60の基本的な構造は、上述した改良ECU5と同じである。ソースフィン51は、プリント配線板にハンダ付けしてもよいが、ここでは絶縁シート61を介して放熱板126にネジ止めされている。
【0140】
ソースフィン51は、負極側端子102Bとともに、負極側配線123Lと接続されている。従って、ソースフィン51の電位は、直流電源121の負極側の電位と同じである。スイッチング制御により、第2改良デバイス50がオンオフしても、ソースフィン51と放熱板126との間には、電位差は生じない。従って、コモンモード電流は流れない。コモンモードノイズの発生を防止できる。
【0141】
なお、開示する技術は、上述した実施形態に限定されず、それ以外の種々の構成をも包含する。例えば、半導体チップ101にはMOSFET、バイポーラトランジスタ、IGBT、GaN等、公知の半導体チップが適用できる。
【0142】
コモンモード電流抑制構造も一例である。各層の配置や形状等は、仕様に応じて変更できる。
【0143】
開示する技術を適用したスイッチングデバイスおよびスイッチングモジュールは、車載向けの電気機器に好適であるが、それ以外の電気機器にも適用可能である。
【符号の説明】
【0144】
1 改良デバイス(スイッチングデバイス)
2 コモンモード電流抑制構造
2a 第1絶縁層
2b 導電層
2c 第2絶縁層
2d 電極導体
3 ボンディングワイヤ
5 改良ECU
11 改良モジュール(スイッチングモジュール)
12 コモンモード電流抑制構造
12a 第1絶縁層
12b 導電層
12c 第2絶縁層
12d 電極導体
13 スルーホール
15 改良インバータ
20 第2改良モジュール
30 第3改良モジュール
31 コンデンサ
50 第2改良デバイス
51 ソースフィン
52 絶縁層
53 電極導体
60 第2改良ECU
100 未改良デバイス
101 半導体チップ
101a ドレイン電極(第1端子部)
101b ソース電極(第2端子部)
101c ゲート電極(第3端子部)
102A 正極側端子
102B 負極側端子
102C 切替用端子
103 ドレインフィン(放熱導体)
104 ハンダ
105 合成樹脂
120 未改良ECU
121 直流電源
122 負荷
123H 正極側配線(中継配線)
123L 負極側配線(中継配線)
124 平滑コンデンサ
125 制御回路
126 放熱板
127 絶縁材
130 未改良モジュール
131 ケースカバー
132 ヒートシンク
133 基板
140 スイッチング素子(半導体チップ)
140U 上アーム用チップ
140L 下アーム用チップ
140a コレクタ電極(第1端子部)
140b エミッタ電極(第2端子部)
140c ベース電極(第3端子部)
141 ハーフブリッジ回路
142H 正極側配線
142L 負極側配線
142S 出力配線
150 正極側配線端子部
151 負極側配線端子部
152 出力配線端子部
153 切替用端子部
170 未改良インバータ
171 高電圧バッテリ
172 駆動モータ
173 制御回路
174 平滑コンデンサ
C1~C8 仮想コンデンサ