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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024158052
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】燃料電池システム
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/04 20160101AFI20241031BHJP
   H01M 8/12 20160101ALI20241031BHJP
   H01M 8/0606 20160101ALI20241031BHJP
   H01M 8/04746 20160101ALI20241031BHJP
   H01M 8/0438 20160101ALI20241031BHJP
【FI】
H01M8/04 J
H01M8/12 101
H01M8/0606
H01M8/04746
H01M8/0438
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023072892
(22)【出願日】2023-04-27
(71)【出願人】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100154380
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100081972
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 豊
(72)【発明者】
【氏名】鐘尾 幸久
【テーマコード(参考)】
5H126
5H127
【Fターム(参考)】
5H126BB06
5H127AA07
5H127AB14
5H127AB16
5H127AC02
5H127BA05
5H127BA13
5H127BA37
5H127BA41
5H127BA47
5H127BB02
5H127DB94
5H127DC18
5H127EE02
5H127EE15
5H127EE18
5H127EE19
5H127EE23
5H127EE24
5H127EE27
5H127EE29
5H127EE30
(57)【要約】
【課題】燃料電池システムの断熱状態を維持する。
【解決手段】燃料電池システム100Aは、固体酸化物形燃料電池のスタック1a,1bと、スタック1a,1bに供給される燃料を改質する改質器2と、スタック1a,1bから排出されるオフガスが燃焼する燃焼空間を形成する燃焼器3と、オフガスから二酸化炭素を分離する、あるいは空気から純酸素を分離する膜分離装置5と、スタック1a,1bと改質器2と燃焼器3とを内包する断熱空間70を形成する筐体7と、流路を介して膜分離装置5と断熱空間70とにそれぞれ接続されるポンプ6と、流路を介した膜分離装置5からポンプ6および断熱空間70からポンプ6へのガスの流れを制御する流れ制御部とを備える。
【選択図】図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体酸化物形燃料電池のスタックと、
前記スタックに供給される燃料を改質する改質器と、
前記スタックから排出されるオフガスが燃焼する燃焼空間を形成する燃焼器と、
前記オフガスから二酸化炭素を分離する、あるいは空気から純酸素を分離する膜分離装置と、
前記スタックと前記改質器と前記燃焼器とを内包する断熱空間を形成する筐体と、
流路を介して前記膜分離装置と前記断熱空間とにそれぞれ接続されるポンプと、
前記流路を介した前記膜分離装置から前記ポンプおよび前記断熱空間から前記ポンプへのガスの流れを制御する流れ制御部と、を備えることを特徴とする燃料電池システム。
【請求項2】
請求項1に記載の燃料電池システムにおいて、
前記断熱空間の圧力を検出する圧力検出部をさらに備え、
前記流路は、前記膜分離装置と前記ポンプとを接続する第1流路と、前記断熱空間と前記ポンプとを接続する第2流路と、を含み、
前記流れ制御部は、前記第1流路に設けられた第1開閉弁と、前記第2流路に設けられた第2開閉弁と、前記第1開閉弁および前記第2開閉弁を制御する制御部と、を含み、
前記制御部は、前記圧力検出部により検出された圧力が所定圧力に達すると、前記改質器から前記スタックに燃料が供給されているか否かを判定し、燃料が供給されていると判定すると、前記第1開閉弁を開放し、前記第2開閉弁を閉鎖する一方、燃料が供給されていないと判定すると、前記第1開閉弁を閉鎖し、前記第2開閉弁を開放することを特徴とする燃料電池システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体酸化物形燃料電池を用いて発電を行う燃料電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、より多くの人が手ごろで信頼でき、持続可能かつ先進的なエネルギへのアクセスを確保できるようにするため、エネルギの効率化に貢献する燃料電池に関する技術開発が行われている。この種の燃料電池に関する技術として、従来、発電を行う固体酸化物形燃料電池の放射熱を利用して高温を維持するようにした装置が知られている(例えば特許文献1参照)。特許文献1記載の装置では、平板積層型の固体酸化物形燃料電池のスタックがSUS製の函体に収容され、函体の内部に設けられた真空断熱層により、内側から外側への熱伝導を抑制する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004-139960号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1記載の装置では、真空断熱層を金属部材で形成するため、高温環境下では外部から金属部材を透過したガスや金属部材から放出されたガスが真空断熱層に浸入することで真空度が低下し、断熱状態を維持できなくなるおそれがある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様である燃料電池システムは、固体酸化物形燃料電池のスタックと、スタックに供給される燃料を改質する改質器と、スタックから排出されるオフガスが燃焼する燃焼空間を形成する燃焼器と、オフガスから二酸化炭素を分離する、あるいは空気から純酸素を分離する膜分離装置と、スタックと改質器と燃焼器とを内包する断熱空間を形成する筐体と、流路を介して膜分離装置と断熱空間とにそれぞれ接続されるポンプと、流路を介した膜分離装置からポンプおよび断熱空間からポンプへのガスの流れを制御する流れ制御部と、を備える。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、燃料電池システムの断熱状態を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1A】本発明の実施形態に係る燃料電池システムのSOFCスタック周辺の構成の一例を示すブロック図。
図1B】本発明の実施形態に係る燃料電池システムのSOFCスタック周辺の構成の別の例を示すブロック図。
図1C】本発明の実施形態に係る燃料電池システムのSOFCスタック周辺の構成の別の例を示すブロック図。
図1D】本発明の実施形態に係る燃料電池システムのSOFCスタック周辺の構成の別の例を示すブロック図。
図2】本発明の実施形態に係る燃料電池システムの制御構成の一例を示すブロック図。
図3図1A図1Dの断熱空間の圧力と熱伝導率との関係について説明するための図。
図4図1A図1Dの燃料電池システムの運転サイクルについて説明するための図。
図5図2のコントローラにより実行される処理の一例を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図1A図5を参照して本発明の実施形態について説明する。本発明の実施形態に係る燃料電池システムは、固体酸化物形燃料電池(SOFC(Solid Oxide Fuel Cell))を用いて、電気化学反応により発電を行う。SOFCの発電セルは、固体電解質膜と電極の接合体(MEA(Membrane Electrode Assembly))とMEAを挟持するセパレータとを有し、セパレータと電極との間の流路を介して供給された燃料のエネルギを電気化学反応により直接電気エネルギに変換する。
【0009】
より具体的には、SOFCのカソード側には、カソード流路を介して酸素(O)を含有する酸化剤ガスが供給され、カソード電極では、外部回路からの電子を受け取って酸素分子がイオン化され、電解質膜を通ってアノード電極側へと移動する。カソード電極で消費されなかった未反応の酸化剤ガスは、オフガス(カソードオフガス)としてカソード流路から排出される。
【0010】
SOFCのアノード側には、アノード流路を介して水素(H)と一酸化炭素(CO)とを含有する燃料ガスが供給される。アノード電極では、HおよびCOとカソード電極からの酸化物イオン(O2-)とが反応して水蒸気(HO)および二酸化炭素(CO)が生成され、電子が外部回路に放出される。アノード電極で消費されなかった未反応の燃料ガスおよびアノード電極で生成された生成ガスは、オフガス(アノードオフガス)としてアノード流路から排出される。
【0011】
SOFCから排出されるオフガスのうち、HやCOを含むアノードオフガスは、SOFCの昇温および安全性の観点から、外部に放出する前に燃焼させられる。オフガスの燃焼反応による反応熱を利用して発電に必要な温度を維持することで、外部からのエネルギ供給なしに、SOFCを含む燃料電池システムを熱的に自立させることができる。そこで、本実施形態では、SOFCやオフガス燃焼器等を内包する断熱空間を形成する筐体を設け、断熱状態を維持することができるよう、以下のように燃料電池システムを構成する。
【0012】
図1A図1Dは、本発明の実施形態に係る燃料電池システム100A~100DのSOFCスタック1周辺の構成の一例を示すブロック図である。図1Aに示すように、燃料電池システム100Aは、SOFCスタック1a,1bと、改質器2と、燃焼器3と、凝縮器4a,4bと、膜分離装置5と、ポンプ6と、筐体7とを備える。
【0013】
SOFCスタック1a,1bは、SOFCからなる複数の発電セルを積層して構成され、カソード側にNとOとを含有する空気(酸化剤ガス)が供給されるとともに、アノード側にHとCOとを含有する燃料ガスが供給される。SOFCスタック1a,1bは、作動温度範囲(例えば600~800℃程度)で酸化剤ガスと燃料ガスとが供給されると、電気化学反応を介して発電を行う。そして、カソード側からNとOとを含有するカソードオフガスを排出するとともに、アノード側からHO,CO,H,COを含有するアノードオフガスを排出する。
【0014】
図1Aの燃料電池システム100Aでは、複数(図の例では2つ)のSOFCスタック1a,1bが直列に接続して設けられ、前段のSOFCスタック1aから排出されたアノードオフガスを後段のSOFCスタック1bに供給する燃料リサイクルが行われる。
【0015】
最前段のSOFCスタック1aのカソード流路の入口は、例えば大気開放され、最前段のSOFCスタック1aのカソード流路に、NとOとを含有する空気が酸化剤ガスとして供給される。前段のSOFCスタック1aのカソード流路の出口は、後段のSOFCスタック1bのカソード流路の入口に接続される。前段のSOFCスタック1aでの電気化学反応により消費されなかった未反応の酸化剤ガス(N,O)は、そのまま後段のSOFCスタック1bのカソード側に供給される。
【0016】
最前段のSOFCスタック1aのアノード流路の入口には、改質器2が接続され、最前段のSOFCスタック1aのアノード流路に、改質器2での改質反応(水蒸気改質反応)により生成されたHとCOとを含有する混合ガスが燃料ガスとして供給される。改質器2には、都市ガス等の炭化水素(例えばメタン(CH))からなる燃料と水(HO)とが供給され、改質器2では、触媒作用により、高温水蒸気存在下で燃料が改質される。
【0017】
最後段のSOFCスタック1bのカソード流路およびアノード流路の出口には、燃焼器3が接続され、カソードオフガス(N,O)とアノードオフガス(HO,CO,H,CO)が燃焼器3に供給される。燃焼器3は、オフガスが燃焼する燃焼空間を形成する。燃焼器3には、オフガスの燃焼反応(酸化反応)を促進する触媒や、オフガスに点火するグロープラグ等が設けられてもよい。燃焼器3でのオフガスの燃焼反応による反応熱を利用して、SOFCスタック1a,1bが発電に必要な作動温度範囲に維持されるとともに、改質器2が水蒸気改質反応に必要な活性温度範囲に維持される。
【0018】
燃焼器3の下流側には、凝縮器4aが接続され、燃焼器3から排出される燃焼排ガス(N,O,HO,CO)が凝縮器4aに供給される。凝縮器4aは、熱交換器として構成され、燃焼排ガスを冷却することで燃焼排ガスから水(HO)を分離除去する(気液分離)。凝縮器4aの液相は、改質器2に接続され、凝縮器4aで分離除去された水は、改質器2に供給(還流)される。
【0019】
前段のSOFCスタック1aのアノード流路の出口には、凝縮器4bが接続され、前段のSOFCスタック1aからのアノードオフガスが凝縮器4bに供給される。凝縮器4bも熱交換器として構成され、アノードオフガスを冷却することで、電気化学反応の生成ガス(HO,CO)と未反応の燃料ガス(H,CO)とを含むアノードオフガスから水(HO)を分離除去する。凝縮器4bの液相も改質器2に接続され、凝縮器4bで分離除去された水も改質器2に供給(還流)される。
【0020】
凝縮器4bの気相は、膜分離装置5に接続され、凝縮器4bで水が分離除去された後の、前段のSOFCスタック1aからのアノードオフガス(CO,H,CO)が、膜分離装置5に供給される。膜分離装置5は、二酸化炭素(CO)を選択的に透過させるCO透過膜を有し、膜分離装置5内の空間は、CO透過膜により、アノードオフガスが供給される供給側の空間と、透過側の空間とに隔てられる。
【0021】
膜分離装置5の透過側の空間には、真空ポンプ等のポンプ6が接続され、CO透過膜を透過して供給側の空間から透過側の空間へと移動したCOがポンプ6により吸引され、高濃度のCOとして回収される。ポンプ6により膜分離装置5の透過側の空間が減圧されると、供給側の空間と透過側の空間との間に圧力差(CO分圧差)が生じ、供給側の空間を流通するアノードオフガス(CO,H,CO)からCOがCO透過膜を透過して、分離、回収される。
【0022】
膜分離装置5の下流側、より具体的には供給側の空間の下流側には、後段のSOFCスタック1bのアノード流路の入口が接続され、膜分離装置5でCOが分離された後のアノードオフガス(H,CO)が後段のSOFCスタック1bのアノード側に供給される。
【0023】
筐体7は、例えば耐熱性の金属部材により構成され、SOFCスタック1a,1bと改質器2と燃焼器3とを含む高温部を、内包あるいは収容するように設けられる。筐体7は、多層構造の壁部材を有し、一対の壁部材の間に高温部を内包する断熱空間70を形成する。筐体7には、断熱空間70の圧力Pを検出する圧力センサ70aが設けられる。圧力センサ70aにより検出され圧力Pは、コントローラ10(図2)に送信される。
【0024】
断熱空間70は、真空状態に近く、真空度が高いほど、熱伝導率が低く、断熱性が高くなる。しかしながら、筐体7の壁部材、特に高温部側の壁部材を構成する金属部材は、隣接する高温部からの放熱により高温に曝されると内部からガスを放出するため、断熱空間70の真空度は、燃料電池システム100Aの運転時間の経過に伴って低下する。より具体的には、筐体7の金属部材が高温に曝されると、金属内部のガス原子が真空状態の断熱空間70側の表面に移動し、ガス分子として断熱空間70に放出される。
【0025】
ポンプ6は、第1流路8を介して膜分離装置5に接続されるとともに、第2流路9を介して断熱空間70に接続される。第1流路8には、電磁制御弁等の第1開閉弁8aが設けられ、第2流路9には、電磁制御弁等の第2開閉弁9aが設けられる。第1開閉弁8aおよび第2開閉弁9aは、コントローラ10(図2)により制御され、これにより、第1流路8および第2流路9を介した膜分離装置5からポンプ6および断熱空間70からポンプ6へのガスの流れが制御される。第1開閉弁8aと第2開閉弁9aとコントローラ10とは、第1流路8および第2流路9を介した膜分離装置5からポンプ6および断熱空間70からポンプ6へのガスの流れを制御する流れ制御部として機能する。
【0026】
第1開閉弁8aが開放され、第2開閉弁9aが閉鎖されると、第1流路8を介して膜分離装置5からCO透過膜を透過したCOがポンプ6により吸引され、回収される。第1開閉弁8aが閉鎖され、第2開閉弁9aが開放されると、第2流路9を介して断熱空間70内のガスがポンプ6により吸引され、断熱空間70の真空度が回復する。
【0027】
このように、ポンプ6を設け、断熱空間70の真空度が低下した場合には、断熱空間70内のガスを吸引することで、断熱空間70の真空度を回復し、燃料電池システム100Aが熱的に自立可能な状態を維持することができる。断熱空間70の真空度低下を許容しない場合には、断熱空間70にガス吸着材等を設けたり、金属からのガス放出が生じないように高温部から距離をおいて筐体7を配置したりする必要が生じ、システム全体の製造コストの増大や大型化につながる。真空度を回復することを前提に、断熱空間70の真空度の低下を許容することで、筐体7を簡易な構成とすることができ、システム全体の製造コストを抑制することができる。また、筐体7を高温部の近くに設けることができ、システム全体を小型化することができる。この場合、燃料電池システム100Aの運転中、膜分離装置5に用いるポンプ6を流用して断熱空間70からのガスの吸引を行うことで、真空度の回復に要する構成の増加を回避し、システム全体の製造コストの増大や大型化を回避することができる。
【0028】
図1Bの燃料電池システム100Bでは、SOFCスタック1を1段のみ備える。燃料電池システム100Bでは、SOFCスタック1と燃焼器3との間の流路が分岐され、分岐流路に凝縮器4cが設けられ、SOFCスタック1からのアノードオフガスが凝縮器4cに供給される。凝縮器4cも、凝縮器4a,4bと同様に、アノードオフガス(HO,CO,H,CO)から水(HO)を分離除去する。凝縮器4cの液相も改質器2に接続され、凝縮器4cで分離除去された水も改質器2に供給(還流)される。
【0029】
凝縮器4cの気相も、凝縮器4bと同様に、CO透過膜を有する膜分離装置5に接続され、凝縮器4cで水が分離除去された後の、SOFCスタック1からのアノードオフガス(CO,H,CO)が、膜分離装置5に供給される。これにより、膜分離装置5の供給側の空間を流通するアノードオフガス(CO,H,CO)からCOがCO透過膜を透過して透過側の空間へと移動し、ポンプ6により吸引され、高濃度のCOとして回収される。
【0030】
膜分離装置5の下流側、より具体的には供給側の空間の下流側は、SOFCスタック1のアノード流路の入口に接続され、膜分離装置5でCOが分離された後のアノードオフガス(H,CO)がSOFCスタック1のアノード側に供給される。これにより、燃料リサイクルが行われる。
【0031】
図1Cの燃料電池システム100Cでは、燃料リサイクルは行わず、燃料排ガスからのCO回収(完全回収)のみを行う。すなわち、燃料電池システム100Cでは、凝縮器4aの気相にCO透過膜を有する膜分離装置5に接続され、凝縮器4aで水が分離除去された後の燃焼排ガスが膜分離装置5に供給される。これにより、膜分離装置5の供給側の空間を流通する燃焼排ガス(N,O,CO)からCOがCO透過膜を透過して透過側の空間へと移動し、ポンプ6により吸引され、高濃度のCOとして回収される。回収されたCOを炭素源として有価物に変換する場合、カーボンニュートラルを達成することができる。また、回収されたCOを貯留する場合、カーボンネガティブを達成することができる。
【0032】
図1Dの燃料電池システム100Dでは、COを選択的に透過させるCO透過膜に代えて酸素(O)を選択的に透過させるO透過膜を有する膜分離装置5を用いる。燃料電池システム100Dでは、燃焼器3がSOFCスタック1のアノード流路の出口のみに接続され、オフガスのうち、アノードオフガスのみが燃焼器3に供給される。
【0033】
膜分離装置5の供給側の空間の入口は、例えば大気開放され、膜分離装置5の供給側の空間に空気が供給される。膜分離装置5の透過側の空間には、真空ポンプ等のポンプ6が接続され、O透過膜を透過して供給側の空間から透過側の空間へと移動したOがポンプ6により吸引される。ポンプ6により膜分離装置5の透過側の空間が減圧されると、供給側の空間と透過側の空間との間に圧力差(O分圧差)が生じ、供給側の空間を流通する空気(N,O)からOがO透過膜を透過して、分離される。ポンプ6の下流側には、燃焼器3が接続され、ポンプ6により分離された純酸素(O)が燃焼器3に供給される。
【0034】
このとき、SOFCスタック1の出力電流に基づいて、電気化学反応によりカソード側からアノード側へと移動してH,COと反応するOの量を算出し、算出されたOの量と燃料(CH)の供給量とに基づいて、必要な純酸素(O)の供給量を算出する。すなわち、燃焼器3でアノードオフガス(HO,CO,H,CO)を完全燃焼させるために、膜分離装置5を介して追加的に燃焼器3に供給すべき純酸素(O)の供給量を算出する。この場合、燃焼器3でアノードオフガスが完全燃焼し、燃焼器3から凝縮器4aに供給される燃焼排ガスには、窒素(N)や酸素(O)が含まれず、二酸化炭素(CO)と水(HO)のみが含まれる。したがって、凝縮器4aで水が分離除去された後の燃料排ガスを、高濃度のCOとして回収(完全回収)することができる。
【0035】
図2は、燃料電池システム100A~100Dの制御構成の一例を示すブロック図である。図2に示すように、燃料電池システム100A~100Dは、主にコントローラ10を備える。コントローラ10は、CPU、RAM、ROM、I/Oインタフェース、その他の周辺回路を有するコンピュータを含んで構成される。コントローラ10には、SOFCスタック1と、圧力センサ70aと、第1開閉弁8aと、第2開閉弁9aとが接続される。コントローラ10は、SOFCスタック1の運転条件および圧力センサ70aにより検出された断熱空間70の圧力Pに基づいて、第1開閉弁8aおよび第2開閉弁9aを制御する。
【0036】
図3は、断熱空間70の圧力Pと熱伝導率との関係について説明するための図である。図3に示すように、断熱空間70の圧力Pが低く、断熱空間70の真空度が高いほど、断熱空間70の熱伝導率が低く、断熱空間70の断熱性が高くなる。燃料電池システム100A~100Dの運転時間の経過に伴って、断熱空間70の圧力Pが上昇し、断熱空間70の熱伝導率が低下すると、SOFCスタック1(1a,1b)の温度が低下する。この場合、SOFCスタック1に供給される酸化剤ガスの流量を低下させることでSOFCスタック1を昇温することができるが、酸化剤ガスの流量を、SOFCスタック1での発電や燃焼器3での燃焼に必要な下限流量よりも低下させることは許容されない。
【0037】
このように、酸化剤ガスの流量を下限流量まで低下させても、SOFCスタック1を含む高温部を発電に必要な温度に維持できない状態を、燃料電池システム100A~100Dが熱的に自立不能な状態と称する。断熱空間70の圧力Pが、燃料電池システム100A~100Dが熱的に自立不能な状態となる熱伝導率に対応する圧力(異常圧力)P1に達すると、燃料電池システム100A~100Dの運転を緊急停止せざるをえなくなる。
【0038】
図4は、燃料電池システム100A~100Dの運転サイクルについて説明するための図である。図4に示すように、燃料電池システム100A~100Dは、メンテナンス等の必要性から、所定周期、例えば月に1回程度の頻度で停止される。断熱空間70を形成する筐体7の金属部材から放出されるガスは、ごく少量であるため、数回程度の運転サイクルで断熱空間70の圧力Pが異常圧力P1まで上昇することはない。したがって、断熱空間70の圧力Pを監視して上昇率を把握し、断熱空間70の真空度を回復すべき所定圧力P2(P2<P1)を設定し、所定圧力P2に達すると、SOFCスタック1への燃料供給が停止されている期間に断熱空間70の真空度を回復する。
【0039】
図4の例では、時刻t1に4回目の運転サイクルが開始して燃料供給が開始された後、時刻t2で断熱空間70の圧力Pが所定圧力P2に達し、時刻t3に4回目の運転サイクルが終了して燃料供給が停止されると、断熱空間70の真空度が回復される。これにより、断熱空間70の圧力Pが異常圧力P1に達する前に断熱空間70の真空度を回復し、燃料電池システム100A~100Dが熱的に自立可能な状態を維持することができ、燃料電池システム100A~100Dの緊急停止を回避することができる。
【0040】
図5は、コントローラ10により実行される処理の一例を示すフローチャートである。図5の処理は、所定周期で繰り返し実行される。図5に示すように、先ずステップS1で、圧力センサ70aにより検出された断熱空間70の圧力Pが所定圧力P2未満であるか否かを判定する。ステップS1で肯定されると、断熱空間70の真空度が十分高いと判定し、ステップS2に進む。ステップS2では、第1開閉弁8aを開放して膜分離装置5によるガス分離を行うとともに、第2開閉弁9aを閉鎖して断熱空間70を閉鎖する。次いでステップS3で、燃料供給を許可する。次いでステップS4で、運転サイクル(図4)に基づいて、燃料電池システム100A~100Dの運転を停止するか否かを判定する。ステップS4で肯定されると、ステップS5に進み、第1開閉弁8aを開放するとともに、第2開閉弁9aを閉鎖して断熱空間70を閉鎖する。ステップS4で否定されると、ステップS1に戻る。
【0041】
ステップS1で否定されると、ステップS6に進み、圧力センサ70aにより検出された断熱空間70の圧力Pが異常圧力P1未満であるか否かを判定する。ステップS6で肯定されると、次回の運転停止時に断熱空間70の真空度を回復すべきと判定し、ステップS7に進む。ステップS7では、SOFCスタック1への燃料供給が行われているか否かを判定する。ステップS7で肯定されると、ステップS2に進む。
【0042】
ステップS7で否定されると、断熱空間70の真空度を回復すべきと判定し、ステップS8に進む。ステップS8では、第1開閉弁8aを閉鎖して膜分離装置5によるガス分離を停止するとともに、第2開閉弁9aを開放して断熱空間70内のガスを吸引し、断熱空間70の真空度を回復する。次いでステップS9で、燃料供給を禁止し、ステップS4に進む。ステップS6で否定されると、燃料電池システム100A~100Dの運転を停止すべきと判定し、ステップS10に進み、燃料電池システム100A~100Dを緊急停止する。
【0043】
本実施形態によれば以下のような作用効果を奏することができる。
(1)燃料電池システム100A~100Dは、SOFCからなるSOFCスタック1(1a,1b)と、SOFCスタック1に供給される燃料を改質する改質器2と、SOFCスタック1から排出されるオフガスが燃焼する燃焼空間を形成する燃焼器3と、オフガスから二酸化炭素を分離する、あるいは空気から純酸素を分離する膜分離装置5と、SOFCスタック1と改質器2と燃焼器3とを内包する断熱空間70を形成する筐体7と、流路を介して膜分離装置5と断熱空間70とにそれぞれ接続されるポンプ6と、流路を介した膜分離装置5からポンプ6および断熱空間70からポンプ6へのガスの流れを制御する流れ制御部とを備える(図1A図2)。
【0044】
このように、SOFCスタック1等を含む高温部を内包する断熱空間70を設けることで、発電に必要な温度を維持し、燃料電池システム100A~100Dを熱的に自立させることができる。また、断熱空間70内のガスを吸引するポンプ6を設け、断熱空間70の真空度が低下した場合には、吸引により断熱空間70の真空度を回復することで、燃料電池システム100A~100Dの断熱状態を維持することができる。この場合、筐体7からのガス放出のほか、透過や多少のリークによって断熱空間70内に蓄積されるガスも吸引し、断熱空間70の真空度を回復することができる。このように、真空度を回復することを前提に断熱空間70の真空度の低下を許容することで、筐体7を簡易な構成とすることができ、システム全体の製造コストを抑制することができる。また、筐体7を高温部の近くに設けることができ、システム全体を小型化することができる。さらに、膜分離装置5に用いるポンプ6を流用して断熱空間70からのガスの吸引を行うことで、真空度の回復に要する構成の増加を回避し、システム全体の製造コストの増大や大型化を回避することができる。
【0045】
(2)燃料電池システム100A~100Dは、断熱空間70の圧力Pを検出する圧力センサ70aをさらに備える(図1A図2)。流路は、膜分離装置5とポンプ6とを接続する第1流路8と、断熱空間70とポンプ6とを接続する第2流路9とを含む(図1A図1D)。流れ制御部は、第1流路8に設けられた第1開閉弁8aと、第2流路9に設けられた第2開閉弁9aと、第1開閉弁8aおよび第2開閉弁9aを制御するコントローラ10とを含む(図1A図2)。コントローラ10は、圧力センサ70aにより検出された圧力Pが所定圧力P2に達すると、改質器2からSOFCスタック1に燃料が供給されているか否かを判定し、燃料が供給されていると判定すると、第1開閉弁8aを開放し(図5のステップS1→S7→S2)、第2開閉弁9aを閉鎖する一方、燃料が供給されていないと判定すると、第1開閉弁8aを閉鎖し、第2開閉弁9aを開放する(図5のステップS1→S7→S8)。これにより、断熱空間70の圧力Pが異常圧力P1に達する前に断熱空間70の真空度を回復し、燃料電池システム100A~100Dが熱的に自立可能な状態を維持することができ、燃料電池システム100A~100Dの緊急停止を回避することができる。
【0046】
上記実施形態では、図1A図1D等で膜分離装置5の具体的な配置等を例示して説明したが、膜分離装置の配置等は、このようなものに限定されない。例えば、O透過膜を有する膜分離装置5をSOFCスタック1のカソード流路の入口に接続し、酸化剤ガスとしての純酸素の供給量を調整することで燃焼器3でのオフガスの完全燃焼を行うようにしてもよい。
【0047】
上記実施形態では、図1A図1D等で第1流路8、第1開閉弁8a、第2流路9、第2開閉弁9aを示して説明したが、膜分離装置からポンプおよび断熱空間からポンプへのガスが流れる流路は、このようなものに限定されない。例えば、膜分離装置からポンプへの流路と断熱空間からポンプへの流路とに開閉弁を設ける代わりに、これらの流路を切り替える三方弁を設けてもよい。膜分離装置からポンプへの流路と、膜分離装置からポンプへの流路を迂回するバイパス流路とを設け、これらを切り替える制御弁を設けてもよい。
【0048】
上記実施形態では、改質器2にCHを主成分とする都市ガスを供給する例を説明したが、燃料は、CH以外の炭化水素からなるものでもよい。
【0049】
以上の説明はあくまで一例であり、本発明の特徴を損なわない限り、上述した実施形態および変形例により本発明が限定されるものではない。上記実施形態と変形例の1つまたは複数を任意に組み合わせることも可能であり、変形例同士を組み合わせることも可能である。
【符号の説明】
【0050】
1,1a,1b SOFCスタック、2 改質器、3 燃焼器、4a,4b,4c 凝縮器、5 膜分離装置、6 ポンプ、7 筐体、8 第1流路、8a 第1開閉弁、9 第2流路、9a 第2開閉弁、10 コントローラ、70 断熱空間、70a 圧力センサ、100A~100D 燃料電池システム
図1A
図1B
図1C
図1D
図2
図3
図4
図5