(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024158066
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】ゴム-金属積層ガスケット素材
(51)【国際特許分類】
F16J 15/12 20060101AFI20241031BHJP
C08L 15/00 20060101ALI20241031BHJP
C08K 5/33 20060101ALI20241031BHJP
C08K 5/3415 20060101ALI20241031BHJP
C08K 3/22 20060101ALI20241031BHJP
【FI】
F16J15/12 K
C08L15/00
C08K5/33
C08K5/3415
C08K3/22
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023072916
(22)【出願日】2023-04-27
(71)【出願人】
【識別番号】000004385
【氏名又は名称】NOK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114351
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 和子
(72)【発明者】
【氏名】山田 将也
【テーマコード(参考)】
3J040
4J002
【Fターム(参考)】
3J040EA15
3J040EA17
3J040FA01
3J040FA06
3J040FA20
3J040HA01
3J040HA17
4J002AC071
4J002AC111
4J002DA030
4J002DE078
4J002DE130
4J002EF050
4J002ES016
4J002EU027
4J002FD010
4J002FD070
4J002FD146
4J002FD157
4J002GJ02
(57)【要約】
【課題】 ゴムの架橋剤として有機過酸化物を用いることなく、大気雰囲気下で架橋度の高いゴムを金属板上に形成した、ゴム-金属積層ガスケット素材を提供する。
【解決手段】 水素化ニトリルゴム100重量部に対して、p,p’-ジベンゾイルキノンジオキシム架橋剤 1~30重量部およびN,N’-m-フェニレンジマレイミド架橋助剤 10重量部以下を配合した水素化ニトリルゴム組成物の架橋ゴム層を金属板上に形成させたゴム-金属積層ガスケット素材。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素化ニトリルゴム100重量部に対して、p,p’-ジベンゾイルキノンジオキシム架橋剤 1~30重量部およびN,N’-m-フェニレンジマレイミド架橋助剤 10重量部以下を配合した水素化ニトリルゴム組成物の架橋ゴム層を金属板上に形成させたゴム-金属積層ガスケット素材。
【請求項2】
さらに酸化マグネシウム 7重量部以下を配合した水素化ニトリルゴム組成物が用いられた請求項1記載のゴム-金属積層ガスケット素材。
【請求項3】
積層ゴム厚みが10~125μmである請求項1または2記載のゴム-金属積層ガスケット素材。
【請求項4】
ダイナミック微小硬度計を用いたマルテンス硬さが5~30N/mm2である請求項1または2記載のゴム-金属積層ガスケット素材。
【請求項5】
金属板上と架橋ゴム層との間に、プライマー層および樹脂系加硫接着剤層を介在させた請求項1または2記載のゴム-金属積層ガスケット素材。
【請求項6】
請求項1または2記載のゴム-金属積層ガスケット素材からなるシリンダヘッドガスケット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム-金属積層ガスケット素材に関する。さらに詳しくは、架橋剤として有機過酸化物を用いることなく、大気雰囲気下で架橋度の高いゴム層を金属板上に形成せしめたゴム-金属積層ガスケット素材に関する。
【背景技術】
【0002】
金属板の片面または両面に(水素化)ニトリルゴムまたはフッ素ゴムを積層したゴム-金属積層ガスケット素材は、ゴム積層面に強い圧縮応力がかかることとなる。この締結応力に耐えられずにゴムが変形すると面圧低下が起こり、目的とするシール機能を果たすことが難しくなってしまう。
【0003】
かかるゴム-金属積層ガスケット素材であって、エンジンとブロックとの間をシールする部品としてのシリンダーヘッド用ガスケットでは、耐熱性確保のためゴム層にフッ素ゴムが使用されることが多くみられる。しかしながら近年、フッ素ゴム原料の供給不安定化あるいは価格の高騰を理由として、より供給が安定でかつ安価な材料が求められている。
【0004】
ここで、特許文献1~2で開示されているように、高い耐熱性を得るためには水素化ニトリルゴム等のパーオキサイドを用いた有機過酸化物架橋が有効であるものの、有機過酸化物架橋は密閉環境下または非酸素存在下でなければ架橋が進行しないため、常に反応場を不活性ガス雰囲気化にすることができれば解放空間にて過酸化物架橋を行うことができるものの、そのためには所定の不活性ガスを供給し続けることが必要であり、ゴム成形体の製造コストが増大することとなる。
【0005】
以上の状況を背景として、有機過酸化物架橋剤を用いることなく製造されたゴム-金属積層ガスケット素材が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】WO 2019/093081 A1
【特許文献2】WO 2020/175151 A1
【特許文献3】特開平7-165953号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、ゴムの架橋剤として有機過酸化物を用いることなく、大気雰囲気下で架橋度の高いゴム層を金属板上に形成せしめたゴム-金属積層ガスケット素材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる本発明の目的は、水素化ニトリルゴム100重量部に対して、p,p’-ジベンゾイルキノンジオキシム架橋剤 1~30重量部およびN,N’-m-フェニレンジマレイミド架橋助剤 10重量部以下を配合した水素化ニトリルゴム組成物の架橋ゴム層を金属板上に形成させたゴム-金属積層ガスケット素材によって達成される。
【発明の効果】
【0009】
水素化ニトリルゴムに、p,p’-ジベンゾイルキノンジオキシムを架橋剤として用い、好ましくはさらにN,N’-m-フェニレンジマレイミド架橋助剤を配合することにより、大気雰囲気下で架橋度の高いゴムを得ることができる。
【0010】
また、水素化ニトリルゴムは、フッ素ゴム対比で低コストというメリットもある。
【0011】
このようなゴム組成物の架橋ゴム層を金属板上に形成させることにより、ゴム架橋度の高いガスケット素材を形成させるといった優れた効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0012】
ガスケット素材として用いる場合、金属板としては、軟鋼板、ステンレス鋼板、アルミニウム板、アルミニウムダイキャスト板等が用いられる。ステンレス鋼板としては、SUS301、SUS301H、SUS304、SUS430等が用いられる。その板厚は、ガスケット用途であるので、一般に約0.1~2mm程度のものが用いられる。この際、金属板は好ましくは粗面化処理および/またはアルカリ脱脂処理された上で用いられる。
【0013】
金属板上には好ましくはプライマー層が形成される。プライマー層としては、Ti/Al系皮膜、リン酸亜鉛皮膜、リン酸鉄皮膜、塗布型クロメート皮膜、バナジウム、ジルコニウム、チタニウム、モリブデン、タングステン、マンガン、亜鉛、セリウム等の金属の化合物、特にこれら金属の酸化物等の無機系被膜、シラン、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン等の有機系被膜など、一般に市販されている薬液あるいは公知技術をそのまま用いることができるが、好ましくは少なくとも1個以上のキレート環とアルコキシル基を有する有機金属化合物を含んだプライマー層、さらにこれに金属酸化物またはシリカを添加したプライマー層、さらに好ましくはこれらのプライマー層形成成分に、アミノ基含有アルコキシシランとビニル基含有アルコキシシランとの加水分解縮合生成物を加えたプライマー層が用いられる。この加水分解縮合生成物は、単独でも用いられる。
【0014】
有機金属化合物としては、エチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート、アルミニウムトリス(エチルアセトアセテート)、アルミニウム-モノアセチルアセトネート-ビス(エチルアセトアセテート)、アルミニウムトリス(アセチルアセテート)等の有機アルミニウム化合物、イソプロポキシチタンビス(エチルアセトアセテート)、1,3-プロパンジオキシチタンビス(エチルアセトアセテート)、ジイソプロポキシチタンビス(アセチルアセトネート)、チタンテトラ(アセチルアセトネート)等の有機チタン化合物、ジn-ブトキシジルコニウムビス(アセチルアセトネート)、ジn-ブトキシジルコニウムビス(エチルアセトアセテート)等の有機ジルコニウム化合物などが挙げられ、好ましくは一般式
R:CH
3、C
2H
5、n-C
3H
7 、i-C
3H
7、n-C
4H
9、i-C
4H
9等の低級アルキル基
n:1~4の整数
で表されるキレート環およびアルコキシル基から構成される有機チタン化合物が用いられる。
【0015】
プライマー層を形成する表面処理剤は、金属板表面上に浸漬、噴霧、はけ刷り、ロールコートなどの方法によって、約30~1,000mg/m2、好ましくは約100~1,000mg/m2の片面塗布量(目付量)で塗布され、室温または温風で乾燥された後、約100~250℃で約1~20分間焼付け処理される。
【0016】
金属板上に塗布され、乾燥処理を行ったプライマー層上には、ゴム用接着剤として、熱硬化性のフェノール樹脂、エポキシ樹脂等の樹脂系加硫接着剤が塗布される。熱硬化性フェノール樹脂としては、クレゾールノボラック型フェノール樹脂、クレゾールレゾール型フェノール樹脂、アルキル変性型フェノール樹脂等の任意の熱硬化性フェノール樹脂を用いることができる。また、エポキシ樹脂としては好ましくはクレゾールノボラック型エポキシ樹脂が用いられ、この場合にはビスフェノールノボラック型フェノール樹脂を硬化剤とし、またイミダソール化合物が硬化触媒として用いられる。
【0017】
これらの樹脂系加硫接着剤は、一般にメタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール系有機溶剤またはアセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系有機溶剤を、単独または混合溶剤として、その成分濃度が約1~5重量%の有機溶剤溶液として調製され、表面処理剤の場合と同様の塗布方法により、約100~2,500mg/m2の片面目付量(塗布量)で塗布され、室温または温風で乾燥された後、約100~250℃で約1~20分間焼付処理される。
【0018】
このようにして形成された加硫接着剤層上には、未加硫のゴムコンパウンドが、その有機溶剤溶液として塗布される。有機溶剤としては、メタノール、エタノール等のアルコール類、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類またはこれらの混合溶剤が用いられる。
【0019】
塗布された未加硫ゴム層は、室温乃至約100℃の温度で約1~15分間程度乾燥し、有機溶剤を揮発させた後、約150~230℃で約0.5~30分間加熱加硫し、その際必要に応じて加圧して加硫することも行われる。
【0020】
水素化ニトリルゴムとしては、任意の水素化度を有するものが用いられ、例えば市販品、ランクセス社製品テルバン3446、ザンナン社製品ザンバーZN35256等をそのまま用いることができる。
【0021】
p,p’-ジベンゾイルキノンジオキシム架橋剤は、水素化ニトリルゴム100重量部に対して1~30重量部、好ましくは5~20重量部の割合で用いられる。p,p’-ジベンゾイルキノンジオキシム架橋剤がこれより少ない割合で用いられると、十分な架橋を行うことができず、KOS-2オイル等に浸漬するとゴムが溶解してしまうようになる。一方、これより多い割合で用いられると、ゴム糊が固化するまでの時間が短くなってしまい、ゴム糊寿命を満足させることができず、数時間で固化してしまうため、その生産が困難となってしまう。
【0022】
p,p’-ジベンゾイルキノンジオキシム架橋剤を配合した水素化ニトリルゴム組成物には、好ましくはさらにN,N’-m-フェニレンジマレイミド架橋助剤が、水素化ニトリルゴム100重量部に対して10重量部以下、好ましくは2~8重量部の割合で用いることができる。N,N’-m-フェニレンジマレイミド架橋助剤がこれより多い割合で用いられると、ゴム糊が固化するまでの時間が短くなってしまい、ゴム糊寿命を満足させることができず、数時間で固化してしまうため、その生産が困難となってしまう
【0023】
以上の成分よりなる水素化ニトリルゴム組成物には、酸化マグネシウムが水素化ニトリルゴム100重量部当り約7重量部以下、好ましくは約3~5重量部が配合される。特定割合の酸化マグネシウムを配合することによって、混練時のロール加工性が改善され、バギング抑制効果を期待することができる。ただし、酸化マグネシウムがこれよりも多い割合で用いられると、ロールへの粘着性が強くなり、作業性が悪化するようになる。
【0024】
酸化マグネシウムとしては、その平均粒子径は特に限定されず、例えば約1.0~30.0μm程度のものが用いられる。また、脂肪酸表面処理品の如く、表面処理を行ったものでもよい。
【0025】
また、水、あるいはLLCに対する耐ブリスタ性の観点からは、好ましくは水素化ニトリルゴム100重量部当り、約70~150重量部の酸化チタンが配合される。ただし、これよりも多い配合割合では、ゴム硬度が高くなりすぎ、シール性が悪化するようになってしまう。酸化チタンの平均粒子径は特に限定されず、例えば約0.15~0.30μm程度のものが用いられる。
【0026】
酸化チタンの配合により、加硫成形されたシリンダヘッドガスケット等の耐ブリスタ性を向上させることができることから、エンジン内でのガスケットからのゴム剥れが無くなり、不具合が改善されることとなる。
【0027】
なお、炭酸カルシウム、シリカ等の他の充填剤の使用は、本発明の目的を損なわない限り許容される。なお、シール性を確保するためには、ISO 7619-1に対応するJIS Dデュロメータで測定したD硬度が、35以上65以下であることが好ましい。
【0028】
以上の成分を含有する水素化ニトリルゴム組成物の有機溶剤溶液は、積層ゴム厚みが約10~125μm、好ましくは15~65μmの架橋ゴム層として金属板上に形成される。積層ゴム厚みがこれより薄いと、シール性の保持が難しくなり、一方これより厚い場合には、ゴムがフローしやすくなる。
【0029】
架橋ゴム層上には、必要に応じてその表面に粘着防止剤を塗布することもできる。粘着防止剤は、ゴム同士やゴムと金属との粘着を防止する目的で使用され、加硫ゴム層上に被膜を形成し得るものであれば任意のものを用いることができ、例えばシリコーン系、フッ素系、グラファイト系、アミド、パラフィン等のワックス系、ポリオレフィン系またはポリブタジエン系のもの等が挙げられるが、好ましくは液状の1,2-ポリブタジエン水酸基含有物、1,2-ポリブタジエンイソシアネート基含有物およびポリオレフィン系樹脂の有機溶剤分散液からなる粘着防止剤が用いられる(特許文献3)。
【実施例0030】
次に、実施例について本発明を説明する。
【0031】
実施例1~7、比較例1~4
脱脂したステンレス鋼板(厚さ0.2mm)の両面上に、Ti/Al系プライマー(Ti化合物:マツモトファインケミカル製品ORGATIX TC-100/Al化合物:日産化学工業製品AS-520-A;重量比40:60)を塗布し、200℃で10分間焼付け処理して、下部プライマー層を形成させる。下部プライマー層上に、エポキシ樹脂を主成分とした接着剤を塗布し、200℃で5分間焼付け処理して、カバーコート層を形成する。カバーコート層の上に、ゴム糊コーティング液を塗布し、215℃で12分間加硫してゴム層を形成し、ゴム-金属積層ガスケット素材を作製した。
【0032】
ゴム糊コーティング液は次の組成を有し、
水素化ニトリルゴム(ランクセス社製品テルバン3446) 100重量部
カーボンブラック(東海カーボン製品シーストG-S) 85 〃
酸化チタン(石原産業製品タイペークA100) 130 〃
酸化マグネシウム(協和化学製品♯150) 4 〃
ステアリン酸(ミヨシ油脂製品DTST) 1 〃
老化防止剤(大内新興化学製品ノクラックODA) 2 〃
p,p’-ジベンゾイルキノンジオキシム架橋剤 所定量 〃
(大内新興化学製品バルノックDGM)
N,N’-m-フェニレンジマレイミド架橋助剤 所定量 〃
(大内新興化学製品バルノックPM)
以上の各成分を、ニーダおよびオープンロールで混練し、得られた混練物(組成物)をトルエンおよびメチルエチルケトンからなる混合溶媒に溶解・分散させ、固形分濃度20重量%のゴム糊コーティング液を調製した。
【0033】
作製されたガスケット素材について、次の各項目の評価および測定を行った。
ゴム厚み変化率:ゴム-金属積層ガスケット素材を、大阪有機化学工業製品KOS-2
オイルに100℃で4時間浸漬し、架橋度の指標となる試験前後のゴ
ム厚み変化率を測定
60%以下であることが好ましい
マルテンス硬さ:島津製作所製ダイナミック超微小硬度計DUH-211Sを用い、ゴム-
金属積層ガスケット素材について、負荷速度1.48mN/秒、押込み
深さ5μmの条件下で試験を行い、ゴム層表面の微小硬度を測定
5~30N/mm2であることが好ましい
ゴム糊寿命:ゴム生地を溶解させた後、ゴム糊が固化するまでの時間を測定
168時間以上であることが好ましい
【0034】
得られた結果は、次の表1~2に示される。なお、比較例1ではゴム層が溶解してしまいゴム厚みが測定できなかった。
表1
実施例 1 2 3 4 5 6 7
〔添加成分〕
バルノックDGM 5 5 15 20 20 1 30
バルノックPM 0 5 5 0 3 10 10
〔測定結果〕
ゴム厚み変化率 (%) 51 48 23 18 17 58 13
マルテンス硬さ(N/mm2) 8.5 13.2 17.2 22.1 27.5 5.2 30.3
ゴム糊寿命 (時間) ≧168 ≧168 ≧168 ≧168 ≧168 ≧168 ≧168
表2
比較例 1
2
3
4
〔添加成分〕
バルノックDGM 0 30 35 35
バルノックPM 10 15 5 15
〔測定結果〕
ゴム厚み変化率 (%) - 14 16 13
マルテンス硬さ(N/mm2) 3.8 30.1 23.4 32.1
ゴム糊寿命 (時間) ≧168 16 16 16