(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024158135
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】身体形状分析装置および身体形状分析方法
(51)【国際特許分類】
G06T 7/60 20170101AFI20241031BHJP
A43D 1/02 20060101ALI20241031BHJP
G06T 7/00 20170101ALI20241031BHJP
A61B 5/107 20060101ALI20241031BHJP
【FI】
G06T7/60 150S
A43D1/02
G06T7/00 350A
G06T7/00 660Z
A61B5/107 130
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023073079
(22)【出願日】2023-04-27
(71)【出願人】
【識別番号】000000310
【氏名又は名称】株式会社アシックス
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100109047
【弁理士】
【氏名又は名称】村田 雄祐
(72)【発明者】
【氏名】阪口 正律
(72)【発明者】
【氏名】高島 慎吾
(72)【発明者】
【氏名】波多野 元貴
【テーマコード(参考)】
4C038
4F050
5L096
【Fターム(参考)】
4C038VA02
4C038VA04
4C038VB14
4C038VC02
4F050NA88
5L096AA09
5L096FA66
5L096FA69
5L096GA59
5L096JA05
5L096MA07
(57)【要約】
【課題】足と靴の適合性向上を図る技術を提供する。
【解決手段】形状分析装置50において、モデル記憶部22は、足形における解剖学的特徴を示す三次元座標群を複数の足形に対する複数の三次元相同モデルとして記憶する。複数の三次元相同モデルは、所定基準点から三次元相同モデルの各点までの位置ベクトル同士のコサイン類似度に基づくクラスター分析によって上位階層が複数のクラスターに分けられた上で、上位階層のクラスターごとに主成分分析がなされた場合における第1主成分を除く第2主成分以下に次元削減した主成分分析に基づくクラスター分析によって下位階層がさらに細分化された複数のクラスターに分けられている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
身体の少なくとも一部の解剖学的特徴を示す三次元座標群を複数の身体形状に対する複数の三次元相同モデルとしてあらかじめ記憶するモデル記憶部と、
測定対象者の身体形状における前記三次元相同モデルに対応する解剖学的特徴を示す三次元座標群を測定データとして取得する測定データ取得部と、
前記測定データにおける解剖学的特徴を示す三次元座標群と、前記複数の三次元相同モデルにおける解剖学的特徴を示す三次元座標群との間で、座標同士の類似度を評価することにより、前記測定対象者の身体形状に類似する三次元相同モデルを前記複数の三次元相同モデルから決定する評価決定部と、
を備えることを特徴とする身体形状分析装置。
【請求項2】
前記評価決定部は、前記複数の三次元相同モデルにおいて所定の基準点から各点までの位置ベクトルを取得し、前記測定データにおいて前記所定の基準点から三次元相同モデルの各点までの位置ベクトルを取得し、対応する三次元相同モデルの点同士の距離または位置ベクトルの類似度に基づいて、前記測定対象者の身体形状に類似する三次元相同モデルを前記複数の三次元相同モデルから決定することを特徴とする請求項1に記載の身体形状分析装置。
【請求項3】
前記複数の三次元相同モデルは、所定基準点から前記三次元相同モデルの各点までの位置ベクトル同士のコサイン類似度に基づくクラスター分析によって複数のクラスターに分けられて前記モデル記憶部に記憶されることを特徴とする請求項1に記載の身体形状分析装置。
【請求項4】
足の解剖学的特徴を示す三次元座標群を複数の身体形状に対する複数の三次元相同モデルとしてあらかじめ記憶するとともに、前記複数の三次元相同モデルは、所定基準点から前記三次元相同モデルの各点までの位置ベクトル同士のコサイン類似度に基づくクラスター分析によって複数のクラスターに分けられているモデル記憶部と、
前記クラスターごとに前記三次元相同モデルの三次元座標群を出力する出力部と、
を備えることを特徴とする身体形状分析装置。
【請求項5】
前記複数の三次元相同モデルは、コサイン類似度に基づくクラスター分析によって上位階層が複数のクラスターに分けられた上で、上位階層のクラスターごとに主成分分析がなされた場合における第1主成分を除く第2主成分以下に次元削減した主成分分析に基づくクラスター分析によって下位階層がさらに細分化された複数のクラスターに分けられていることを特徴とする請求項3または4に記載の身体形状分析装置。
【請求項6】
前記モデル記憶部は、クラスター分析によって分類された複数のクラスターに対応するクラスターごとの前記三次元相同モデルの数に基づく、複数のクラスターに分類された複数の三次元相同モデルに対するそれぞれの需要を示す値をさらに記憶することを特徴とする請求項3または4に記載の身体形状分析装置。
【請求項7】
足の解剖学的特徴を示す三次元座標群を複数の身体形状に対する複数の三次元相同モデルを読み出す過程と、
測定対象者の身体形状における前記三次元相同モデルに対応する解剖学的特徴を示す三次元座標群を測定データとして取得する過程と、
前記測定データにおける解剖学的特徴を示す三次元座標群と、前記複数の三次元相同モデルにおける解剖学的特徴を示す三次元座標群との間で、座標同士の類似度を評価する過程と、
前記類似度の評価に基づき、前記測定対象者の身体形状に類似する三次元相同モデルを前記複数の三次元相同モデルから決定する過程と、
を備えることを特徴とする身体形状分析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、身体形状分析装置および身体形状分析方法に関する。特に、足形の計測値に基づいて靴の適合性を分析する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
靴のサイズ展開は、多様な足の形状やサイズに合わせて多くの種類を用意することが好ましい。ただし、サイズ展開の拡大には、製造コストの増大や在庫を多く抱えるリスクを伴うため、多くの靴メーカーにおいて需要の多いサイズを中心にサイズ展開がなされるのが現実である。
【0003】
靴のサイズ表記は単位やサイズ目安が国や地域によっても異なるため、同じサイズの靴でも異なる国/地域で販売する場合はサイズ表記を国/地域ごとに調整する必要がある。したがって、国際的に販売される靴は、すべての国/地域のサイズ表記に厳密に合わせることは難しく、実際に試し履きをしなければどのサイズが足に合うかがわかりにくい場合もある。靴の販売店の店頭には、顧客の足に適合する靴を豊富な知識と経験をもとに選択できるシューフィッターと呼ばれる専門的な人材がいる場合があるが、オンライン販売の場合はシューフィッターを頼ることはできない。近年、足形を三次元計測して足に合う靴を選定する技術の開発が進められている。
【0004】
ここで、足形を三次元的に計測した三次元データをもとに足形に合う靴の種類を選定する技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1においては、足形の三次元データから、つま先部分、中央部分、かかと部分の別に二次元形状の特徴データを生成する。同様に、靴型についても部位別の特徴データを生成し、収集した多数の靴型の特徴データをクラスタリングし、各クラスターにコードを付して記憶する。足形の特徴データとこれにフィットする靴型の特徴データとの関係性をニューラルネットワークで学習し、足形の特徴データから靴型の特徴データを求めるルールとする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一般的に、市販されている靴は、男女の体格差やデザインの嗜好の違いを考慮して男女別に作られることが多い。特に日本においては、JIS規格に沿って男女別でサイズ展開されることが多いため、ユニセックスモデルとして設計されることは少ない。フィット性が特に重視されるスポーツシューズを除いては、足長に加えて足幅別でもサイズ展開がなされることは少ない。
【0007】
ここで、足長に合わせて靴を選ぶと足幅が狭すぎる、または、広すぎるといったミスマッチが生じることがある。また、足長や足幅以外の部分でフィット感が得られず、足に合う靴が見つけられない場合もある。しかしながら、基本的には、靴のフィット感に最も影響が大きい要素である足長ごとにサイズ展開がなされているため、足幅や他の部分のフィット感を重視して異なる足長サイズの靴まで購入検討対象を広げるのは煩雑であり、特にオンライン販売では複数のサイズを試すのは容易でないのが現状である。
【0008】
一方、靴メーカーにとっても、国/地域によって平均的な体格の違いによってサイズや形状の需要にも違いがあるため、国際的に販売する靴は需要に合うようなサイズ展開の仕方が特に難しい。
【0009】
本発明は、こうした状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、足と靴の適合性向上を図る技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の身体形状分析装置は、身体の少なくとも一部の解剖学的特徴を示す三次元座標群を複数の身体形状に対する複数の三次元相同モデルとしてあらかじめ記憶するモデル記憶部と、測定対象者の身体形状における三次元相同モデルに対応する解剖学的特徴を示す三次元座標群を計測データとして取得する計測データ取得部と、計測データにおける解剖学的特徴を示す三次元座標群と、複数の三次元相同モデルにおける解剖学的特徴を示す三次元座標群との間で、座標同士の類似度を評価することにより、測定対象者の身体形状に類似する三次元相同モデルを複数の三次元相同モデルから決定する評価決定部と、を備える。
【0011】
本発明の別の態様もまた、身体形状分析装置である。この装置は、足の解剖学的特徴を示す三次元座標群を複数の身体形状に対する複数の三次元相同モデルとしてあらかじめ記憶するとともに、複数の三次元相同モデルは、所定基準点から三次元相同モデルの各点までの位置ベクトル同士のコサイン類似度に基づくクラスター分析によって複数のクラスターに分けられているモデル記憶部と、クラスターごとに三次元相同モデルの三次元座標群を出力する出力部と、を備える。
【0012】
本発明のさらに別の態様は、身体形状分析方法である。この方法は、足の解剖学的特徴を示す三次元座標群を複数の身体形状に対する複数の三次元相同モデルを読み出す過程と、測定対象者の身体形状における三次元相同モデルに対応する解剖学的特徴を示す三次元座標群を計測データとして取得する過程と、計測データにおける解剖学的特徴を示す三次元座標群と、複数の三次元相同モデルにおける解剖学的特徴を示す三次元座標群との間で、座標同士の類似度を評価する過程と、類似度の評価に基づき、測定対象者の身体形状に類似する三次元相同モデルを複数の三次元相同モデルから決定する過程と、を備える。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、足と靴の適合性向上を図る技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】形状分析システムの基本的な構成を示す図である。
【
図2】形状分析装置の各構成を示す機能ブロック図である。
【
図4】男女別の足長と足囲の分布と日本のJIS規格との関係を示す図である。
【
図5】一般的なクラスター分析の手法と新たなクラスター分析の手法の違いを示す図である。
【
図6】上位階層と下位階層で異なるクラスター分析を組み合わせた手法を示す図である。
【
図7】点同士のユークリッド距離およびコサイン類似度を示す図である。
【
図8】二つの足形モデルにおいて対応する点同士の関係を示す図である。
【
図9】足形モデル同士の比較におけるユークリッド距離とコサイン類似度での比較を示す図である。
【
図10】コサイン類似度またはユークリッド距離に基づくクラスター分析の分類結果の違いを示す図である。
【
図11】コサイン類似度に基づいてクラスター分析した分類結果を示す図である。
【
図12】上位3クラスターの足長と足囲の回帰直線、および、上位3クラスターの主成分分析結果を示す図である。
【
図13】クラスターにおける主成分分析の結果を示す図である。
【
図14】形状分析システムの基本的な構成を示す図である。
【
図15】形状分析装置の各構成を示す機能ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を好適な実施形態をもとに各図面を参照しながら説明する。実施形態、変形例では、同一または同等の構成要素には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。
【0016】
(第1実施形態)
本実施形態においては、多数の測定対象者における足の三次元形状を計測して足形データとして蓄積し、後述するクラスター分析の手法によって複数のクラスターに分ける。また、分類された複数のクラスターに基づいて靴型や中敷きを設計することで、従来の規格とは異なる基準で靴製品の形状バリエーションを設け、多くの人の足に合った靴を提供する。また、足形の分布に応じて形状バリエーションにおける個々の需要予測をする。
【0017】
図1は、形状分析システム100の基本的な構成を示す。形状分析システム100は、三次元足形計測器18および形状分析装置50を備える。測定対象者10は、三次元足形計測器18によって測定対象者10の足形をスキャンする。足形データ取得の実施機会としては、例えば靴の設計段階において性別や年齢を問わず多様なサイズまたは形状の足形データの取得を目的として多数の被検者を測定対象者10とする場合や、靴販売店の店頭で靴の購入を検討する人を測定対象者10とする場合がある。
【0018】
三次元足形計測器18は、レーザー計測により測定対象者10の足形に関する三次元データを取得する。ここでいう「足形」は、測定対象者10の足の三次元形状を仮想的に再現した三次元モデルである。三次元足形計測器18によってスキャンされた足形の三次元計測結果としての計測値は、三次元足形計測器18から形状分析装置50へ送信される。形状分析装置50は、複数の三次元足形計測器18からネットワーク経由で接続され、それぞれから測定データを収集し、分析するサーバーとして実現してもよい。なお、請求項にいう「身体形状分析装置」は、形状分析システム100全体を指してもよいし、形状分析装置50を指してもよい。また、本実施形態においては、請求項にいう「身体形状分析装置」に含まれる特徴的な機能の多くを形状分析装置50が備える形で実現するため、実質的に形状分析装置50が「身体形状分析装置」に相当する。
【0019】
形状分析装置50は、複数の三次元足形計測器18との間でインターネットやLAN(Local Area Network)等のネットワーク回線および無線通信等の通信手段を介して接続されるサーバーコンピューターである。形状分析装置50は、単体のサーバーコンピューターで構成されてもよいし、複数台のサーバーコンピューターの組み合わせで構成されてもよい。
【0020】
図2は、形状分析装置50の各構成を示す機能ブロック図である。形状分析装置50は、様々なハードウェア構成やソフトウェア構成にて実現することが考えられる。
図2では、形状分析装置50に関して、様々なハードウェア構成およびソフトウェア構成の連携によって実現される機能ブロックを描いている。したがって、これらの機能ブロックがハードウェアのみ、ソフトウェアのみ、またはそれらの組合せによっていろいろな形で実現できることは、当業者には理解されるところである。形状分析装置50は、例えばマイクロプロセッサー、メモリー、ディスプレイ、通信モジュール等のハードウェアの組み合わせで構成される。形状分析装置50は、靴メーカーが構築および管理をするサーバーコンピューターであってよい。ただし、形状分析装置50には、以下の機能を持つプログラムが稼働する。形状分析装置50は、その機能として、通信部19、測定データ取得部20、モデル生成部21、モデル記憶部22、出力部26、分析処理部30、統計処理部35を含む。形状分析装置50の通信部19と三次元足形計測器18および外部端末17は、ネットワークを介して接続される。
【0021】
モデル記憶部22は、身体の少なくとも一部の解剖学的特徴を示す三次元座標群を複数の身体形状に対する複数の三次元モデルとしてあらかじめ記憶する。ここでいう身体形状は、主に足形を指すが、足形以外の身体形状、例えば人間の体全体の形状を示す体型データを指してもよいし、足形以外の部分的身体形状を指してもよい。モデル記憶部22が記憶する足形の三次元モデルは、例えば三次元空間における平均的な足の解剖学的特徴を示す点の座標群が規定された三次元相同モデルである。足形の三次元相同モデルは、様々な大きさや形状を持つ複数の足形が、同一点数の同一位相幾何構造によって解剖学的に対応付けられる多面体で表現されるモデルである。平均的な足の解剖学的特徴を示す点は、多数の被検者から得た足のサンプルに基づいて事前に得られる。変形例における三次元モデルは、例えば球面座標系の三次元形状モデルや、三次元CADで生成されたテンプレートの足形を解剖学的なランドマークに基づいて変形させたモデル等、同一の解剖学的な基準に則り作成された他の様々なモデルであってもよい。
【0022】
図3は、三次元相同モデルの例を示す。足形の三次元相同モデル104は、足の解剖学的特徴を示す点群で構成される。三次元相同モデル104は、測定対象者10の足形状、特に指付近の形状を必ずしも忠実に再現するものではなく、他の足形または三次元相同モデルと比較しやすいように意図的にデフォルメした形状にて構築される。すなわち、三次元相同モデル104は、測定対象者10の実際の足形状ないし足の輪郭と完全な相似性はなく、特に足指の輪郭に対して凸包処理が施されたような形状を有する。また、三次元相同モデル104の足輪郭に含まれる複数の特徴的な点を検出し、各点を基準とすることで足長、足囲、踏まず囲、踵囲、踵幅等の各部位の長さを計測することができる。各部位の長さの計測方法は既知であるため、記載を省略する。
【0023】
図2に戻り、測定データ取得部20は、通信部19を介して三次元足形計測器18から、測定対象者10の足形における三次元相同モデルに対応する解剖学的特徴を示す三次元座標群を測定データとして取得する。測定データ取得部20は、三次元足形計測器18以外の外部端末17から通信部19を介して測定データを取得してもよい。モデル生成部21は、測定データ取得部20が取得した測定データをもとに足形の三次元相同モデルを生成し、あらたな三次元相同モデルとしてモデル記憶部22に格納する。この場合、三次元足形計測器18または外部端末17として様々な種類の足形測定機器を使用して測定データを取得したとしても、モデル生成部21によって三次元相同モデルに変換する。これにより、測定データを活用容易なデータ形式に一般化できる。一方、変形例においては、測定データ取得部20が取得する測定データが、三次元足形計測器18または外部端末17によってあらかじめ足形の三次元相同モデル形式にされていてもよい。その場合、測定データをもとにモデル生成部21が足形の三次元相同モデルを生成する必要はなく、測定データがそのままあらたな三次元相同モデルとしてモデル記憶部22に格納されてもよい。
【0024】
分析処理部30は、クラスター分析処理部31と主成分分析処理部32とを有する。クラスター分析処理部31は、モデル記憶部22が記憶する複数の三次元相同モデルに対して、後述する上位階層および下位階層のクラスター分析を実行する。クラスター分析処理部31は、上位階層と下位階層で異なるクラスター分析を組み合わせた手法を実施する。主成分分析処理部32は、モデル記憶部22が記憶する複数の足形の三次元相同モデルに対して、後述する主成分分析を実行する。クラスター分析処理部31は、上位階層のクラスター分析を実行した後、主成分分析処理部32による主成分分析の実行結果に基づいて、下位階層のクラスター分析を実行する。
【0025】
クラスター分析処理部31によるクラスター分析および主成分分析処理部32による主成分分析が実行されることで取得される分類結果としての各クラスターの情報は、出力部26によって外部へ出力される。分析処理部30は、クラスター分析による分類結果に基づいて、モデル記憶部22に記憶される三次元相同モデルを複数のクラスターに分けて記憶させる。
【0026】
出力部26は、形状分析装置50または外部端末17における表示画面に分類結果を表示させてもよいし、通信部19を介して外部端末17に対して分類結果を送信してもよい。出力部26は、クラスターごとに三次元相同モデルの三次元座標群を出力する。出力部26によって出力された分類結果の情報は、靴型または中敷きの設計に利用されてもよい。
【0027】
統計処理部35は、クラスターごとの足形モデルの分布に基づいて各足形モデルに対応する靴型の需要予測を実行する。需要予測の結果は、出力部26によって外部端末17へ出力される。統計処理部35は、需要予測の結果に応じて、モデル記憶部22に記憶されるクラスター別の足形モデルに対応する靴型、履物または中敷きのデータベースを管理する。
【0028】
図4は、男女別の足長と足囲の分布と日本のJIS規格との関係を示す。日本における靴のサイズは、標準規格である日本産業規格(JIS)により、足長と足囲/足幅で分類され、規格化されている。この規格では、体格差を考慮し、男性、女性、子どもで別々に規定されている。
【0029】
図4(a)は女性用のJIS規格と多数の成人女性をサンプルにとった分布を示す。
図4(b)は男性用のJIS規格と多数の成人男性をサンプルにとった分布を示す。女性用のJIS規格では足長が19.5cm~27.0cmの範囲で規定されているのに対し、男性用のJIS規格では足長が20.0cm~30.0cmの範囲で規定されている。足囲/足幅は、足長ごとに女性用はシューズウィズA~F、男性用はシューズウィズA~Gの規格に分けられている。ただし、女性用のシューズウィズAが足囲183mm、足幅76mmで、男性用の足長20.0cmのシューズウィズAが足囲189mm、足幅79mmと定められているように、別々の範囲が規定されている。
【0030】
図4(a)、
図4(b)における右上がりの複数の斜線は、それぞれJIS規格上の足長サイズごとに定められた足長[mm]と足囲[mm]の関係を示す。複数の斜線は、
図4(a)では下から女性用のシューズウィズA~Fをそれぞれ示し、
図4(b)では下から男性用のシューズウィズA~Gをそれぞれ示す。シューズウィズ間の足囲差は約6mmである。
【0031】
図4(a)が示す女性サンプルの分布は、おおむねJIS規格が対象としている足長および足囲の範囲に収まっているが、範囲外にあるサンプルも存在する。
図4(b)が示す男性サンプルの分布は、おおむねJIS規格が対象としている足長および足囲の範囲に収まっているが、女性と同様に範囲外にあるサンプルも存在する。
【0032】
図4(a)、
図4(b)のそれぞれにおける太線の斜線は、男女それぞれのサンプル平均を示す。足長サイズごとに平均線の上下に足囲の分散が±3~4ウィズほど存在する。すなわち、図に示すような足長と足囲の関係が定められて目安として提供されていても、実際には足囲の分散またはバラツキは大きい。しかも、従来の靴の規格は足長と足囲の関係性しか定められていないが、足の大きさや形状はさらに他のパラメーターによっても決まるため、足長と足囲だけが適合したとしても対象の靴が対象者の足に合うとは限らない。そうした状況を解決すべく、以下に説明する手法によって、三次元的に計測した足形モデル群をクラスター分析で分類し、その分類に基づいてサイズ展開のバリエーションを設計することとした。
【0033】
図5は、一般的なクラスター分析の手法と新たなクラスター分析の手法の違いを示す。足形データ群Xをクラスタリングするにあたり、一般的なクラスター分析の手法を用いるとすると、ユークリッド距離に基づくクラスター分析を実行することが考えられる。しかし、この手法の場合、足長サイズの影響を多分に受ける形でクラスターが分類されてしまう。また、足長サイズだけでなく足形形状の差異でも分類したい場合には、足長サイズで区切って足長サイズごとにクラスター分析を実行することが考えられる。しかし、この手法の場合でも足長サイズの影響を多分に受けてしまい、足長サイズごとに複数の足囲のみで分類する従来のグレーディング手法と差が出にくくなることが予想される。また、分類されるクラスター数がサイズごとに異なってしまうおそれがある。
【0034】
そこで、本実施形態におけるクラスター分析処理部31は、図のようにすべての足長サイズを横断してクラスター分析を実行する。足形データ群Xは、足長サイズを横断する似たような形状(すなわち、相似形のような形状)で分かれた大きなクラスターWに、細部の特徴で分かれた小さなクラスターHが掛け合わされるような形で構成されることとなる。このようなクラスターの階層状態を図示したものが次の図である。
【0035】
図6は、上位階層と下位階層で異なるクラスター分析を組み合わせた手法を示す。まず、足形データ群Xを、コサイン類似度に基づくクラスター分析によって分けたクラスター1~nが、上位階層である第1階層110を構成する。クラスター1~nを、それぞれ主成分分析した場合における第1主成分を除く第2主成分以下に次元削減した主成分分析に基づくクラスター分析によって細かく分けられたクラスター(1-1、1-2、・・・1-m、2-1、2-2、・・・2-m、・・・、n-1、n-2、・・・n-m)が下位階層である第2階層112を構成する。上位階層と下位階層のそれぞれのクラスター分析の手法については後述する。
【0036】
図7は、点同士のユークリッド距離およびコサイン類似度を示す。第1点120、第2点121、第3点122、第4点123の4つの点がベクトル空間に存在する例で説明する。2点間の近さを測るための一般的な手法は、ユークリッド距離と呼ばれる距離を見て判断する手法である。ユークリッド距離は、2点間の直線距離であり、値が小さいほど2点が似ていることを示す。一方、本実施形態では、コサイン類似度と呼ばれる類似度を見て判断する手法を主に採用する。コサイン類似度は、2点の原点からの位置ベクトルがなす角θのコサイン値(cosθ)であり、角θが小さいほどコサイン値が1に近くなり、コサイン値が1に近いほど2点が似ていることを示す。一般に、コサイン類似度は、文章同士の類似度を測るような場面で用いられ、形状同士の類似度を測るような場面で用いられることは少ない。
【0037】
第1点120から第2点121までのユークリッド距離(距離124)は、第1点120から第3点122までのユークリッド距離(距離125)より短いため、ユークリッド距離を基準にすると第3点122より第2点121の方が第1点120に近いことになる。
【0038】
一方、第1点120と第2点121の原点からの位置ベクトルがなす角θ1より第1点120と第3点122の原点からの位置ベクトルがなす角θ2の方が小さくコサイン値が1に近いため、コサイン類似度を基準にすると第2点121より第3点122の方が第1点120に近いことになる。
【0039】
また、第1点120と第4点123は、原点からの位置ベクトルがほぼ同じであって角θがほぼゼロであり、コサイン類似度がほぼ1となる。このため、第4点123は、ユークリッド距離を基準にすると第2点121より遠いが、コサイン類似度を基準にすると第1点120に限りになく近いこととなる。
【0040】
図8は、二つの足形モデルにおいて対応する点同士の関係を示す。足形モデルは点群で構成され、各点は足形における解剖学的特徴を示す。各足形モデルに同じ解剖学的特徴を示す点が含まれるため、点同士の位置関係の類似度に基づいて全体の足形モデル同士の類似度を判定する。相対的に小さい足形モデル130と、相対的に大きい足形モデル131との比較において、それぞれの足形モデルに含まれる多数の点群のうち、対応する点同士の原点からの位置ベクトルがなす角に基づいてコサイン類似度を算出する。
図8(a)の側面視においては、点132と点133、点134と点135、点136と点137がそれぞれ対応し、
図8(b)の上面視においては、点138と点139、点140と点141、点142と点143がそれぞれ対応する。
図8(a)においては、点132と点133の位置ベクトルがなす角、点134と点135の位置ベクトルがなす角、点136と点137の位置ベクトルがなす角がそれぞれほぼゼロである。
図8(b)においては、点138と点139の位置ベクトルがなす角、点140と点141の位置ベクトルがなす角、点142と点143の位置ベクトルがなす角がそれぞれほぼゼロである。したがって、足形モデル130と足形モデル131は、大きさは異なるがほぼ相似形ということができる。
【0041】
図9は、足形モデル同士の比較におけるユークリッド距離とコサイン類似度での比較を示す。足長サイズが近い足形モデル同士ほどユークリッド距離の値が小さくなって「似ている」との判断がなされやすく、逆にユークリッド距離が大きい足形モデル同士ほど「似ていない」との判断がなされやすい。相似形に近い足形モデル同士ほどコサイン類似度が1に近くなって「似ている」との判断がなされやすく、逆にコサイン類似度が0に近いほど「似ていない」との判断がなされやすい。
【0042】
図9(a)の例では二つの足形モデルがほぼ重なっている。ユークリッド距離が比較的小さく、コサイン類似度はほぼ1である。したがって、ユークリッド距離とコサイン類似度のいずれを基準にしても「似ている」との判断がなされやすい。
【0043】
一方、
図9(b)の例では、二つの足形モデルは明確に大きさが異なる。ユークリッド距離は比較的大きく、ユークリッド距離を基準にすると「似ていない」との判断がなされやすい。一方、コサイン類似度はほぼ1であるため、
図9(a)の例とほぼ同じであり、コサイン類似度を基準にすると「似ている」との判断がなされやすい。すなわち、二つの足形モデルを対比する場合にユークリッド距離を基準にすると大きな差があってもコサイン類似度を基準にするとほとんど差が出ない場合があり、コサイン類似度はサイズの影響を受けないことを示す。
図9(b)の例では、二つの足形モデルはサイズが異なるがほぼ相似形といってよいほど類似することを示す。
【0044】
図10は、コサイン類似度またはユークリッド距離に基づくクラスター分析の分類結果の違いを示す。足形データ群を実際にクラスター分析した分類結果として、右にユークリッド距離に基づく階層クラスターを示し、左にコサイン類似度に基づく階層クラスターを示す。
【0045】
ユークリッド距離に基づくクラスター分析では、最下層の細分化されたクラスターにおいて左に行くほど足長サイズが小さくなり、右へ行くほど足長サイズが大きくなるなど、足長が左から右へ漸増するグラデーションになっている。このことからも、ユークリッド距離に基づくクラスター分析では足長サイズによる影響が支配的であることがわかる。また、性別に関しても、左に行くほど女性が多く、右へ行くほど男性が多くなるなど、性別が左から右へ男性が漸増するグラデーションになっている。これは、女性は男性より足長が小さい傾向にあるためであり、ユークリッド距離に基づくクラスター分析では結果的に性別の影響も受けていることがわかる。
【0046】
一方、コサイン類似度に基づくクラスター分析では、最下層の細分化されたクラスターにおいて左から右にかけて様々な足長がランダムに混ざっており、足長サイズによる影響をほとんど受けていないことがわかる。同様に、性別もランダムに混ざっており、性別による影響もほとんど受けていないことがわかる。
【0047】
図11は、コサイン類似度に基づいてクラスター分析した分類結果を示す。クラスター分析の対象とされた足形データのサンプルは、成人男女約5000人である。各足形データに含まれる各点同士のコサイン類似度に基づき、ウォード法による階層型クラスタリングの手法を採用している。
【0048】
上位3クラスター(第1クラスター150、第2クラスター151、第3クラスター152)を上位階層とし、第1クラスター150、第2クラスター151、第3クラスター152のそれぞれにおいて、足長サイズを正規化して求められる各点の座標に基づく足形を平均足とする。
【0049】
各クラスターの平均足の足形モデルを重ね合わせることで、部分的な形状のバラツキによってクラスターごとの特徴と、そうした特徴の出やすい部位がわかる。例えば、足甲の高さ方向において、第1クラスター150の足甲が最も低く、第2クラスター151の足甲が中間で、第3クラスター152の足甲が最も高い、といった足甲高さの違いに特徴の一つが表れる場合がある。例えば、第1趾の角度において、第1クラスター150の角度が最も内足側に張り出し、第2クラスター151の角度が中間で、第3クラスター152の角度が少し第2趾側に傾いている、といった第1趾角度の違いにも特徴の一つが表れる場合がある。例えば、足首周りの傾きにおいて、第1クラスター150の傾きが最も内足側に大きく、第2クラスター151の傾きが中間で、第3クラスター152の傾きが最も小さい、といった足首周りの傾きにも特徴の一つが表れる場合がある。
【0050】
図12は、上位3クラスターの足長と足囲の回帰直線、および、上位3クラスターの主成分分析結果を示す。まず、第1クラスター150、第2クラスター151、第3クラスター152のそれぞれにおける足長と足囲の関係を示す回帰直線を、
図4と同様のJIS規格のグラフに重ねたものを
図12に示す。これによると、各回帰直線は互いに概ね平行となるが、これらの傾きは、JIS規格における足長と足囲の関係を示す回帰直線の傾きとは大きく異なることがわかる。したがって、各クラスターの回帰直線に沿って靴型のバリエーションを設計することで、従来のJIS規格に沿った男女別のグレーディングとは異なるバリエーション、すなわち男女の区別がなく、足長サイズとは異なる足形の形状上の特徴で分けられたバリエーションを設計することが可能となる。
【0051】
主成分分析処理部32は、クラスターごとの足形データに主成分分析を実行し、クラスターごとの重心である平均足に、分散である第1主成分PC1を足したデータを算出し、そのデータにおける足長と足囲の関係を
図12のグラフにプロットする。各クラスターはコサイン類似度に基づいて一次的にクラスタリングされており、足長サイズの影響を無視できる形で分類されているものの、データ自体には足長の情報が含まれている。そのため、主成分分析処理部32が主成分分析を実行すると、第1主成分PC1には足長の影響が多分に含まれた主成分が抽出されることとなる。ただし、上位階層の大きな分類としてコサイン類似度に基づいて平均足の形状が異なる各クラスターに分けられているため、クラスター別の下位階層のクラスタリングとしては主成分に基づいて分類しやすくなる。この点、グラフにおいて白抜きの丸点でプロットされているように、クラスターごとの平均足+第1主成分PC1における足長と足囲の関係を示すプロットは、概ねクラスターごとの回帰直線に沿っているため、クラスター分析の結果と主成分分析の結果は矛盾しない。
【0052】
図13は、クラスターにおける主成分分析の結果を示す。主成分分析処理部32がクラスターに対して主成分分析を実行すると、そのクラスターが持つデータの分散にどのようなパラメーターが大きく影響しているかがわかる。
図13において、上段は縦軸に第1主成分PC1を設定し、中段は縦軸に第2主成分PC2を設定し、下段は縦軸に第3主成分PC3を設定する。左側は横軸に足長を設定し、右側は横軸に足囲を設定する。各グラフの左側で囲まれたプロット群が女性を示し、右側で囲まれたプロット群が男性を示す。
【0053】
上段の左右2つのグラフに示される通り、第1主成分PC1は足長との相関が強いだけでなく、足囲との相関も強いことがわかる。一方、中段と下段のグラフに示される通り、第2主成分PC2以下は回帰直線がほぼ水平となり、足長や足囲の影響をほぼ受けていないことがわかる。本実施形態では、こうした主成分分析の結果における特性を活用し、足長や足囲の影響を受ける第1主成分PC1を除くとともに、足長や足囲の影響を受けない第2主成分PC2以下だけを用いてサブクラスタリングに活用することとした。こうした特性の活用は、従来におけるサイズによるグレーディングとは異なる、細部の形状の違いに着目してクラスタリングされたバリエーションの構築を実現する上で好都合であると考えられる。
【0054】
図6でも示した通り、上位階層である第1階層110では、クラスター分析処理部31がコサイン類似度に基づいて実行するクラスター分析によって複数のクラスターに分けられる。下位階層である第2階層112では、第1階層110で分けられたクラスターごとにそれぞれ第2主成分以下に次元削減した主成分分析に基づくクラスター分析をクラスター分析処理部31が実行することによってさらに細かい多数のクラスターに分けられる。その場合の主成分分析は、主成分分析処理部32による主成分分析結果における第1主成分を除く第2主成分以下に次元削減された主成分分析である。第2階層112におけるクラスター分析では、第2主成分PC2以下、累積寄与率99%までの主成分に基づき、ユークリッド距離を基準としたウォード法による階層型クラスタリングが用いられる。
【0055】
細部の特徴で多数のクラスターに分けられた足形モデル群は、靴型および履物のバリエーションの設計に用いることができるだけでなく、中敷きの設計においても活用することができる。例えば、足長や足囲のサイズに依存しない細部の形状に関するバリエーションを中敷きの設計のバリエーションで吸収することで、靴型および履物の設計で吸収すべきバリエーションの数を減らしてもよい。すなわち、靴型および履物のバリエーションと中敷きのバリエーションを掛け合わせることで、全体のバリエーションを設計し、足形モデル群の全体をカバーするようにしてもよい。
【0056】
また、足形モデル群に含まれる多数の足形モデルを、JIS規格に沿って設計されたサイズ展開の靴型のうちいずれに適合するかに基づいて各足形モデルをJIS規格に沿ったサイズ展開に割り当ててもよい。
【0057】
各クラスターに含まれる足形データの人数が異なることから、母集団である足形データ群全体に対するクラスターごとの人数の割合が異なる。一方、第1実施形態におけるクラスター分析に用いた足形データ群以外にも、様々な目的で収集され、蓄積されている足形データ群をデータベースとして保有する場合、それらのデータに基づいて母集団に対する足長サイズごとの分布を算出することができる。そこで、統計処理部35は、クラスターごとの人数の割合と、足長サイズごとの分布を掛け合わせることで、クラスターおよび足長の組合せごとの割合を数値化することができる。足長サイズとして22cm~31cmの範囲で1cm刻みで分けたときのクラスターおよび足長の組合せごとの割合が数値化される。
【0058】
統計処理部35は、クラスターおよび足長の組合せごとの割合に基づいて履物製品や中敷き製品のサイズおよび形状に関する組合せパターンのバリエーションを設計した場合、クラスターおよび足長の組合せごとの割合に応じて初期在庫としての需要予測をすることができる。その場合、需要がきわめて少ないと予測されるクラスターおよび足長の組合せパターンについては最初から靴製品のバリエーションから除外することも可能となる。統計処理部35は、初期在庫としての需要予測だけでなく、実際の売れ行きによって在庫が減少した場合における生産計画にも需要予測を反映させることもできる。統計処理部35は、クラスターおよび足長の組合せごとの割合に関する情報を出力部26を通じて外部へ出力してもよい。
【0059】
(第2実施形態)
本実施形態においては、測定対象者における足の三次元形状を計測して足形データを取得し、形状分析装置50に蓄積された足形の三次元相同モデルの中から類似する足形を抽出し、靴購入の参考情報にできる点で第1実施形態と相違する。以下、第1実施形態との相違点を中心に説明し、共通点の説明を省略する。
【0060】
図14は、形状分析システム100の基本的な構成を示す。形状分析システム100は、主に形状データ取得装置と形状分析装置50を含む。形状データ取得装置は、例えば三次元足形計測器18やカメラ機能を備える携帯電話等の情報端末16である。測定対象者10は、三次元足形計測器18によって測定対象者10の足形をスキャンする。あるいは、測定対象者10が専用の計測マット12に足を載せて情報端末16のカメラ機能による足の撮影および足形計測アプリでの計測によって、自身の足形をスキャンする。足形データ取得の実施機会としては、例えば靴販売店の店頭または自宅等で靴の購入を検討する人を測定対象者10とする場合である。
【0061】
情報端末16は、LiDAR(Light Detection And Ranging)等の技術を利用した三次元スキャナー機能やフォトグラメトリ等の画像合成処理により測定対象者10の足形を生成してもよい。形状分析システム100は、計測マット12、三次元足形計測器18、情報端末16のうち少なくともいずれかをさらに含んでもよい。情報端末16は、測定対象者10自身がユーザーとして操作してもよいし、測定対象者10以外の者、例えば靴販売店の店員が三次元足形計測器18または情報端末16による足形のスキャンを実施してもよい。したがって、情報端末16は、三次元足形計測器18が設置された靴販売店が保有する端末であってもよいし、測定対象者10自身が保有する端末であってもよい。
【0062】
三次元足形計測器18または情報端末16によってスキャンされた足形の三次元計測結果としての計測値は、三次元足形計測器18または情報端末16から形状分析装置50へ送信される。形状分析装置50は、複数の三次元足形計測器18または情報端末16からネットワーク経由で接続され、それぞれから測定データを収集し、分析するサーバーとして実現してもよい。なお、請求項にいう「身体形状分析装置」は、形状分析システム100全体を指してもよいし、形状分析装置50を指してもよい。また、本実施形態においては、請求項にいう「身体形状分析装置」に含まれる特徴的な機能の多くを形状分析装置50が備える形で実現するため、実質的に形状分析装置50が「身体形状分析装置」に相当する。ただし、「身体形状分析装置」の特徴的な機能は情報端末16と形状分析装置50に分散させてもよいし、情報端末16にその多くを持たせる形で実現してもよい。
【0063】
形状分析装置50は、複数の三次元足形計測器18や複数の情報端末16との間でインターネットやLAN等のネットワーク回線および無線通信等の通信手段を介して接続されるサーバーコンピューターである。情報端末16は、スマートフォンやタブレット端末等の携帯型情報端末であってもよいし、パーソナルコンピューターであってもよい。
【0064】
図15は、形状分析装置50の各構成を示す機能ブロック図である。形状分析装置50は、様々なハードウェア構成やソフトウェア構成にて実現することが考えられる。
図15では、形状分析装置50および情報端末16に関して、それぞれ様々なハードウェア構成およびソフトウェア構成の連携によって実現される機能ブロックを描いている。したがって、これらの機能ブロックがハードウェアのみ、ソフトウェアのみ、またはそれらの組合せによっていろいろな形で実現できることは、当業者には理解されるところである。情報端末16は、例えばカメラモジュール、測距センサ、マイクロプロセッサー、タッチパネル、メモリー、通信モジュール等のハードウェアの組み合わせで構成される。情報端末16は、測定対象者10または靴販売店が用意したスマートフォンやタブレット端末等の汎用的な情報端末であってよい。情報端末16には、ウェブブラウザを介して形状分析装置50が提供するウェブサイトにアクセスするか、情報端末16で稼働するアプリケーションソフトウェアによって形状分析装置50から提供される情報が画面表示される。本実施形態における形状分析装置50は、その機能として、第1実施形態における形状分析装置50に加えて評価決定部24をさらに含む。形状分析装置50の通信部19と三次元足形計測器18および情報端末16は、ネットワークを介して接続される。
【0065】
モデル記憶部22に記憶される複数の足形の三次元相同モデルは、第1実施形態のクラスター分析によって複数のクラスターに分類されていてもよい。あるいは、第1実施形態のクラスター分析による分類結果に基づいて設計された、靴型、履物または中敷きのバリエーションのそれぞれに対応する三次元相同モデルであってもよい。あるいは、従来のJIS規格に沿った足長と足囲の組合せに対応する三次元相同モデルであってもよい。
【0066】
測定データ取得部20は、通信部19を介して三次元足形計測器18または情報端末16から、測定対象者10の足形における三次元相同モデルに対応する解剖学的特徴を示す三次元座標群を測定データとして取得する。モデル生成部21は、測定データ取得部20が取得した測定データをもとに足形の三次元相同モデルを生成し、測定対象者10の足形の三次元相同モデルとして評価決定部24へ出力する。
【0067】
評価決定部24は、測定対象者10の測定データにおける解剖学的特徴を示す三次元座標群と、モデル記憶部22に記憶される複数の三次元相同モデルにおける解剖学的特徴を示す三次元座標群との間で、座標同士の類似度を評価する。評価決定部24は、対応する三次元相同モデル間における座標同士の類似度により、測定対象者10の足形に類似する三次元相同モデルを複数の三次元相同モデルから決定する。
【0068】
より具体的には、評価決定部24は、複数の三次元相同モデルにおいて所定の基準点から各点までの位置ベクトルを取得し、測定データにおいて所定の基準点から三次元相同モデルの各点までの位置ベクトルを取得する。評価決定部24は、対応する三次元相同モデルの点同士の距離または位置ベクトルの類似度に基づいて、測定対象者10の足形に類似する三次元相同モデルを複数の三次元相同モデルから選択する。点同士の距離は、例えばユークリッド距離であり、位置ベクトルの類似度は、例えばコサイン類似度である。評価決定部24は、ユークリッド距離を基準として類似する三次元相同モデルの選択結果と、コサイン類似度を基準として類似する三次元相同モデルの選択結果と、を合算し、その中から測定対象者10の足形に最も類似する三次元相同モデルを決定する。モデル記憶部22に6000足分ほどの足形三次元相同モデルが仮に記憶されていたとする。その場合、評価決定部24がすべての三次元相同モデルとの間で類似度を算出して最も類似する三次元相同モデルを決定するとしても、10秒程度の計算で決定することがきるため、ごく短時間で足形を抽出することが可能である。
【0069】
評価決定部24は、決定した三次元相同モデルを、測定対象者10の足長に合わせて様々なサイズにスケーリングし、それぞれと測定対象者10の足形の三次元相同モデルとの類似度を算出する。それぞれの類似度に基づいて、評価決定部24は最も類似度が高い三次元相同モデルのスケールを決定する。評価決定部24は、決定された足形の三次元相同モデルとそのスケールに対応する靴または中敷きの種類をモデル記憶部22のデータベースから抽出し、測定対象者10へ提示する情報を生成する。
【0070】
出力部26は、評価決定部24によって決定された、測定対象者10の足に類似する足形モデルの情報およびその足形に対応する靴または中敷きの種類を示す推薦情報を、通信部19を介して情報端末16へ送信する。
【0071】
変形例においては、評価決定部24はモデル記憶部22に記憶される複数の著名人の足形三次元相同モデルのうちいずれの類似度が最も高いかを評価し、評価結果を情報端末16に出力させてもよい。
【0072】
以上、本発明について実施の形態をもとに説明した。この実施の形態は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組合せにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。また、上述した実施形態を一般化すると以下の態様が得られる。
【0073】
〔態様1〕
身体の少なくとも一部の解剖学的特徴を示す三次元座標群を複数の身体形状に対する複数の三次元相同モデルとしてあらかじめ記憶するモデル記憶部と、
測定対象者の身体形状における前記三次元相同モデルに対応する解剖学的特徴を示す三次元座標群を測定データとして取得する測定データ取得部と、
前記測定データにおける解剖学的特徴を示す三次元座標群と、前記複数の三次元相同モデルにおける解剖学的特徴を示す三次元座標群との間で、座標同士の類似度を評価することにより、前記測定対象者の身体形状に類似する三次元相同モデルを前記複数の三次元相同モデルから決定する評価決定部と、
を備えることを特徴とする身体形状分析装置。
〔態様2〕
前記評価決定部は、前記複数の三次元相同モデルにおいて所定の基準点から各点までの位置ベクトルを取得し、前記測定データにおいて前記所定の基準点から三次元相同モデルの各点までの位置ベクトルを取得し、対応する三次元相同モデルの点同士の距離または位置ベクトルの類似度に基づいて、前記測定対象者の身体形状に類似する三次元相同モデルを前記複数の三次元相同モデルから決定することを特徴とする態様1に記載の身体形状分析装置。
〔態様3〕
前記複数の三次元相同モデルは、所定基準点から前記三次元相同モデルの各点までの位置ベクトル同士のコサイン類似度に基づくクラスター分析によって複数のクラスターに分けられて前記モデル記憶部に記憶されることを特徴とする態様1または2に記載の身体形状分析装置。
〔態様4〕
足の解剖学的特徴を示す三次元座標群を複数の身体形状に対する複数の三次元相同モデルとしてあらかじめ記憶するとともに、前記複数の三次元相同モデルは、所定基準点から前記三次元相同モデルの各点までの位置ベクトル同士のコサイン類似度に基づくクラスター分析によって複数のクラスターに分けられているモデル記憶部と、
前記クラスターごとに前記三次元相同モデルの三次元座標群を出力する出力部と、
を備えることを特徴とする身体形状分析装置。
〔態様5〕
前記複数の三次元相同モデルは、コサイン類似度に基づくクラスター分析によって上位階層が複数のクラスターに分けられた上で、上位階層のクラスターごとに主成分分析がなされた場合における第1主成分を除く第2主成分以下に次元削減した主成分分析に基づくクラスター分析によって下位階層がさらに細分化された複数のクラスターに分けられていることを特徴とする態様1から4のいずれかに記載の身体形状分析装置。
〔態様6〕
前記モデル記憶部は、クラスター分析によって分類された複数のクラスターに対応するクラスターごとの前記三次元相同モデルの数に基づく、複数のクラスターに分類された複数の三次元相同モデルに対するそれぞれの需要を示す値をさらに記憶することを特徴とする態様1から5のいずれかに記載の身体形状分析装置。
〔態様7〕
足の解剖学的特徴を示す三次元座標群を複数の身体形状に対する複数の三次元相同モデルを読み出す過程と、
測定対象者の身体形状における前記三次元相同モデルに対応する解剖学的特徴を示す三次元座標群を測定データとして取得する過程と、
前記測定データにおける解剖学的特徴を示す三次元座標群と、前記複数の三次元相同モデルにおける解剖学的特徴を示す三次元座標群との間で、座標同士の類似度を評価する過程と、
前記類似度の評価に基づき、前記測定対象者の身体形状に類似する三次元相同モデルを前記複数の三次元相同モデルから決定する過程と、
を備えることを特徴とする身体形状分析方法。
【符号の説明】
【0074】
10 測定対象者、 20 測定データ取得部、 21 モデル生成部、 22 モデル記憶部、 24 評価決定部、 26 出力部、 30 分析処理部、 31 クラスター分析処理部、 32 主成分分析処理部、 35 統計処理部、 50 形状分析装置、 104 三次元相同モデル。