(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024158137
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】RTK-GNSS補正データ配信システム
(51)【国際特許分類】
G01S 19/04 20100101AFI20241031BHJP
【FI】
G01S19/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023073083
(22)【出願日】2023-04-27
(71)【出願人】
【識別番号】518253886
【氏名又は名称】株式会社快適空間FC
(74)【代理人】
【識別番号】100140006
【弁理士】
【氏名又は名称】渕上 宏二
(72)【発明者】
【氏名】益田 俊信
(72)【発明者】
【氏名】鵜飼 尚弘
【テーマコード(参考)】
5J062
【Fターム(参考)】
5J062CC07
5J062DD24
(57)【要約】
【課題】専門的な知識を有さないユーザであってもRTK-GNSS測位による高精度な測位を享受できるようにする。
【解決手段】
RTK-GNSS測位において地殻変動による観測点の変動の影響を排除するための補正データを配信するRTK-GNSS補正データ配信システムであって、配信サーバ12は、ユーザによるログイン動作に対して認証を行うユーザ認証部20と、ユーザの基準局変動解析部26によって解析された基準局の変動量と、移動局変動解析部28によって解析された移動局の変動量と、基準局および移動局による観測データに基づいて生成された補正データを移動局に配信する補正データ配信部24を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
RTK-GNSS測位において地殻変動による観測点の変動の影響を排除するための補正データを配信するRTK-GNSS補正データ配信システムであって、
基準局の変動量を解析する手段と、
移動局の変動量を解析する手段と、
前記基準局および前記移動局の変動量と、前記基準局および前記移動局による観測データに基づいて補正データを生成する手段と、
前記補正データを前記移動局に配信する手段を備える、
RTK-GNSS補正データ配信システム。
【請求項2】
前記基準局の変動量は、前記基準局の今期座標と元期座標に基づいて確定される、
請求項1に記載のRTK-GNSS補正データ配信システム。
【請求項3】
前記移動局の変動量は、前記移動局の今期座標に基づいて選択された複数の基準局の変動量および前記各基準局と前記移動局との距離に基づいて確定される、
請求項1または2に記載のRTK-GNSS補正データ配信システム。
【請求項4】
前記補正データは、前記基準局の元期座標、前記基準局および前記移動局の変動量、前記基準局および前記移動局による観測データに基づいて生成される、
請求項1乃至3の何かに記載のRTK-GNSS補正データ配信システム。
【請求項5】
前記移動局のユーザの認証を行う手段と、前記補正データを前記移動局に配信する手段を備える配信サーバと、
前記補正データを生成する手段を備える補正サーバと、
前記移動局の今期座標に基づいて複数の基準局を選択する手段を備える基準局サーバによって構成される、
請求項1乃至4の何かに記載のRTK-GNSS補正データ配信システム。
【請求項6】
請求項1乃至5の何かに記載のRTK-GNSS補正データ配信システムにおいて、
ユーザの認証を行う工程と、
前記移動局による観測データに基づいて複数の基準局を選択する工程と、
前記基準局の元期座標、前記基準局および前記移動局の変動量、前記基準局および前記移動局による観測データに基づいて前記補正データを生成する工程と、
前記補正データを前記移動局に配信する工程を含む、
RTK-GNSS補正データ配信方法。
【請求項7】
RTK-GNSS測位において地殻変動による観測点の変動の影響を排除するための補正データを配信するRTK-GNSS補正データ配信システムにおいて、
コンピュータを、
基準局の変動量を解析する手段と、
移動局の変動量を解析する手段と、
前記基準局および前記移動局の変動量と、前記基準局および前記移動局による観測データに基づいて補正データを生成する手段と、
前記補正データを前記移動局に配信する手段として機能させる、
コンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、RTK-GNSS補正データ配信システムに関し、特に地殻変動に起因する観測点の変動の影響を排除するRTK-GNSS補正データ配信システムに関する。
【背景技術】
【0002】
日本列島は4つのプレートの境界域に位置しているため、各プレートの相対的な動きに起因する地震や火山噴火が頻繁に発生し、さらには1年間に数センチメートル程度の地殻変動が常に発生している。天体から放射される微弱電波を利用した「VLBI(超長基線電波干渉法)」による精密測位技術により、日本とハワイは10年間で約60cm近づいていることが分かっている。このようなプレート運動による地殻変動が1997年以降、最大2メートル程度にまで蓄積されている。
【0003】
地殻変動は地図表示や位置の測定に影響を与える。例えば、地図に描かれているのは過去のある時点における位置であり、その後の地殻変動によって現在の位置と地図上の位置とは異なっている場合がほとんどである。このような同一の地点でありながら過去と現在において位置が異なるという現象は測量において非常に大きな問題となるが、地殻変動の影響を常に測量結果に反映するには多くの費用と手間がかかる。そのため、地図の位置情報(緯度、経度、標高など)は、測量法施行令により1997年1月1日を基準日とした数値で固定されている(元期座標)。2011年東北地方太平洋沖地震の影響を大きく受けた東北と関東を中心とする地域では、地震後の2011年5月24日を基準日としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
RTK測位技術は、高精度な位置情報を容易に取得することが可能な測量方法として広く用いられている。RTK測位技術は、位置の基準となる基準局から新たに位置を求める移動局へ観測データをリアルタイムに配信することにより、移動局の位置情報を高精度で取得する測量方法である。近年、RTK測位技術の進歩により、基準局と移動局の基線が長距離(10km~30km)であっても精度の高い測位が可能になっている。
【0006】
しかし、従来のRTK測位技術には次のような問題がある。第一に、基準局は、複数の移動局に補正データを配信しなければならないため、その位置情報が固定されていること。第二に、基準局と移動局との距離が長くなるにつれてそれぞれの地点における地殻変動量が異なってくること(元期座標に対する今期座標のずれが生じる)。第三に、地殻変動を補正するパラメータが国土地理院から1年に1回の頻度で更新、公開されているが、RTK測位技術のようにリアルタイム性が強い測位技術ではパラメータの更新のタイミングが問題となること。第四に、地殻変動の影響を最小に抑えるためには基準局の間隔を短くすることが有効であるが、そのためには基準局の設置費用や維持管理が煩雑となること。
【0007】
本発明は、RTK-GNSS測位において地殻変動に起因する観測点の変動の影響を排除することにより、専門的な知識を有さないユーザであってもRTK-GNSS測位による高精度な測位を享受できるようにすることを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は前述の課題を解決するため、以下のように構成されるRTK-GNSS補正データ配信システム、RTK-GNSS補正データ配信方法およびコンピュータプログラムを提供する。
【0009】
本発明の第1の態様は、RTK-GNSS測位において地殻変動による観測点の変動の影響を排除するための補正データを配信するRTK-GNSS補正データ配信システムであって、基準局の変動量を解析する手段と、移動局の変動量を解析する手段と、前記基準局および前記移動局の変動量と、前記基準局および前記移動局による観測データに基づいて補正データを生成する手段と、前記補正データを前記移動局に配信する手段を備える、RTK-GNSS補正データ配信システムとして構成される。
【0010】
前記基準局の変動量は、前記基準局の今期座標と元期座標に基づいて確定されるようにしてもよい。
【0011】
前記移動局の変動量は、前記移動局の今期座標に基づいて選択された複数の基準局の変動量および前記各基準局と前記移動局との距離に基づいて確定されるようにしてもよい。
【0012】
前記補正データは、前記基準局の元期座標、前記基準局および前記移動局の変動量、前記基準局および前記移動局による観測データに基づいて生成されるようにしてもよい。
【0013】
前記移動局のユーザの認証を行う手段と、前記補正データを前記移動局に配信する手段を備える配信サーバと、前記補正データを生成する手段を備える補正サーバと、前記移動局の今期座標に基づいて複数の基準局を選択する手段を備える基準局サーバによって構成されるようにしてもよい。
【0014】
本発明の第2の態様は、ユーザの認証を行う工程と、前記移動局による観測データに基づいて複数の基準局を選択する工程と、前記基準局の元期座標、前記基準局および前記移動局の変動量、前記基準局および前記移動局による観測データに基づいて前記補正データを生成する工程と、前記補正データを前記移動局に配信する工程を含む、RTK-GNSS補正データ配信方法として構成される。
【0015】
本発明の第3の態様は、RTK-GNSS測位において地殻変動による観測点の変動の影響を排除するための補正データを配信するRTK-GNSS補正データ配信システムにおいて、コンピュータを、基準局の変動量を解析する手段と、移動局の変動量を解析する手段と、前記基準局および前記移動局の変動量と、前記基準局および前記移動局による観測データに基づいて補正データを生成する手段と、前記補正データを前記移動局に配信する手段として機能させる、コンピュータプログラムとして構成される。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、地殻変動による観測点の変動の影響を排除するための補正データが移動局に配信されるため、ユーザは専門的な知識を有していなくてもRTK-GNSS測位による高精度な測位を享受することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】RTK-GNSS測位データ配信システムの構成を示す図
【
図2】RTK-GNSS測位データ配信システムの動作を示すフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の実施形態について添付した図面を参照して説明する。
図1はRTK-GNSS補正データ配信システムの構成を示す図であり、
図2はRTK-GNSS補正データ配信システムの動作を示すフローチャートである。
【0019】
〔RTK-GNSS補正データ配信システム〕
RTK-GNSS補正データ配信システム10は、配信サーバ12、補正サーバ14、基準局サーバ16によって構成される。
【0020】
配信サーバ12は、ユーザによるログイン動作に対して認証を行うユーザ認証部20、移動局の位置(移動局による観測データ)に基づいてRTK-GNSS測位の一方の対となる基準局を選択する基準局選択部22、補正サーバ14において生成された補正データを移動局に配信する補正データ配信部24を備えている。
【0021】
補正サーバ14は、基準局の座標値の変動を解析する基準局変動解析部26、移動局の座標値の変動を解析する移動局変動解析部28、変動解析の結果と基準局および移動局の観測データに基づいて補正データを生成する補正データ生成部30を備えている。
【0022】
基準局サーバ16は、移動局に近接する基準局を検索し、検索した複数の基準局の今期座標と元期座標を補正サーバ14に送信する近接点検索部32を備えている。
【0023】
〔基準局の地殻変動量〕
基準局の地殻変動量は、今期座標と元期座標との差に基づいて解析する。元期座標は国土地理院によって公開されているデータを使用する。今期座標は観測データに基づいて次の2つの方法により確定する。各基準局では24時間の観測データの基づいて日々の座標を確定している。第1の方法は、任意の期間の日々の座標の平均を最確値として今期座標に採用する。第2の方法は、過去の日々の座標の変動から観測日の変動量を予測して今期座標に採用する。何れの方法によっても今期座標を確定することができるし、また両方法を折衷して今期座標を確定してもよい。
【0024】
〔移動局の地殻変動量〕
移動局の地殻変動量は、移動局の周辺に設置されている複数の基準局および国土地理院が設置している電子基準点による観測データを用いて解析する。具体的にはグリッドモデル方式を採用し、各グリッド内において移動局の周辺にある複数の基準局を抽出する。グリッド内を均等分割し、同一ブロック内に複数の基準局がある場合は移動局に最も近接した基準局を採用する。
【0025】
図3に示す概念図を用いて移動局Rの地殻変動量Rmの算出方法を説明する。具体的には以下の計算式に基づいて地殻変動量Rmを算出する。
【0026】
【0027】
基線長Lは移動局Rと基準局Bとの基線長であり、地殻変動量mは基準局Bの地殻変動量である。wは重み関数であり、基線長Lの逆数とする。
【0028】
図3に示す移動局Rの地殻変動量Rmは、移動局Rと5つの基準局B1~5との基線長L1~5と、5つの基準局B1~5の地殻変動量m1~5を用いて以下の数式により算出する。
【0029】
[数2]Rm=(m1/L1+m2/L2+m3/L3+m4/L4+m5/L5)/(1/L1+1/L2+1/L3+1/L4+1/L5)
【0030】
基線長L1~5の逆数を重み関数w1~5として用いることにより、基準局Rからより近い基準局(ここでは基準局B3)の地殻変動量m3の影響度を高め、基準局Rからより遠い基準局(ここでは基準局B5)の地殻変動量m5の影響度を低くしている。
【0031】
〔補正量〕
図4に示す概念図を用いて移動局Rの元期座標の計算方法を説明する。RTK-GNSS測位により基準局と移動局間の観測ベクトルVが算出される。この観測ベクトルVは基準局および移動局の今期座標の相対値であり、観測点における地殻変動の影響をそのまま含んでいる。従って移動局の元期座標を求めるためには、基準局と移動局の地殻変動に起因する座標の歪みを補正する必要がある。
【0032】
移動局Rの元期座標は、基準局Bの地殻変動量mB、移動局Rの地殻変動量Rm、観測ベクトルV、基準局Bの元期座標に基づいて以下の計算式により算出する。
【0033】
[数3]移動局Rの元期座標=基準局Bの元期座標+観測ベクトルV+補正量mC
【0034】
補正量mCは、基準局Bの地殻変動量mBと移動局Rの地殻変動量Rmとの差によって求めることができるが、その他の計算式や適当なパラメータを用いてもよい。
【0035】
〔RTK-GNSS補正データ配信システムの動作〕
次に
図2を参照してRTK-GNSS補正データ配信システム10の動作を説明する。RTK-GNSS測位を実施するユーザはRTK-GNSS補正データ配信システム10にログインする(S10)。配信サーバはユーザの認証作業を実施する(S12)。ユーザ認証を終えるとユーザは移動局を用いてGNSS測位を開始する(S14)。移動局の観測データは配信サーバに送信され、配信サーバから補正サーバおよび基準局サーバに転送される(S16)。
【0036】
補正サーバは、移動局による観測データに基づいて移動局の位置を特定し、当該移動局が含まれるグリッドを検索する(S18)。基準局サーバは、移動局による観測データに基づいて移動局に最も近接する基準局を検索する(S20)。また基準局サーバは、検索した複数の基準局の今期座標および元期座標を補正サーバに送信する(S22)。
【0037】
補正サーバは、地殻変動による歪みを考慮した補正量を計算し(S24)、補正データとして配信サーバに送信する(S26)。配信サーバは補正サーバから受信した補正データを移動局に配信する(S28)。移動局は補正データを受信し(S30)、自ら測位した観測データの補正を行い、元期座標を確定する(S32)。このようにして確定された移動局の元期座標は、地殻変動による観測点の変動の影響を排除した極めて精度の高い座標値となる。
【符号の説明】
【0038】
10 RTK-GNSS補正データ配信システム
12 配信サーバ
14 補正サーバ
16 基準局サーバ
20 ユーザ認証部
22 基準局選択部
24 補正データ配信部
26 基準局変動解析部
28 移動局変動解析部
30 補正データ生成部
32 近接点検索部