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特開2024-158140血流の状態解析用コンピュータシミュレーションシステム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024158140
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】血流の状態解析用コンピュータシミュレーションシステム
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/055 20060101AFI20241031BHJP
【FI】
A61B5/055 382
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023073088
(22)【出願日】2023-04-27
(71)【出願人】
【識別番号】599142578
【氏名又は名称】株式会社マックスネット
(71)【出願人】
【識別番号】522486771
【氏名又は名称】株式会社シムロン
(74)【代理人】
【識別番号】100102923
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 雄二
(72)【発明者】
【氏名】米山 繁
(72)【発明者】
【氏名】福澤 大輔
(72)【発明者】
【氏名】肖 蘿莎
【テーマコード(参考)】
4C096
【Fターム(参考)】
4C096AB27
4C096AB36
4C096AC01
4C096AC04
4C096AD14
4C096BA36
4C096DC27
4C096DC40
(57)【要約】
【課題】動脈瘤や血管奇形や血管内留置の手術や健診で、被験者個々の状態の術前と術後の比較診断で非侵襲計測から血流状態(流速、圧力)の可視化をする。そのコンピュータ処理時間を実用レベルまで短縮する。
【解決手段】血管に観測領域を設定しMRIにより観測領域の三次元画像データを取得する。観測領域の入口と出口の間に血管の中心線に垂直な断面からなる複数の同化面を設定する。同化面上のボクセルの流速を計測して血流速ベクトルデータを取得する。いずれの同化面においても、観測した血流速ベクトルデータのうちの1個以上を、CFDシミュレーションに使用するための観測データとする。上記の全ての同化面における観測データと境界条件とを入力して、上記のCFDシミュレーションを実行し、観測領域中の任意の場所の血流速と圧力とを取得する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の処理によって、血管内等の血液の流速と圧力を得るコンピュータシミュレーションシステム。
(1)血管に観測領域を設定する。
(2)pcMRI(Phase contrast Magnetic Resonance Imaging)の血流速データとMRA(Magnetic Resonance Angiography)の血管形状データを観測領域の三次元ボクセルデータの集合体として取得する。
(3)上記の観測領域の入口と出口の間に血管形状の中心線に垂直な断面からなる複数の同化面を設定する。
(4)設定した上記の同化面上のボクセルの流速を計測して血流速ベクトルデータを取得する。
(5)いずれの同化面においても、観測した上記の血流速ベクトルデータのうちの少なくとも1個を、支配方程式(ナビエ・ストークス方程式または格子ボルツマン方程式)を用いたCFD(Computational Fluid Dynamics)シミュレーションに使用するための観測データに設定する。
(6)CFDシミュレーションでは、血液は非圧縮流体であり、観測領域の入口境界条件は、同化面で測定した通過流量から算出された平均流速とし、出口の境界条件は圧力がゼロとし、血管の壁面に接する部分の境界条件は流速がゼロと設定する。
(7)上記の全ての同化面における観測データと上記の境界条件とを入力して、上記のCFDシミュレーションを実行し、観測領域中の任意の場所の血流速と圧力とを取得する。
【請求項2】
CFDシミュレーションで、各同化面上で観測した血流速ベクトルのうちの、絶対値が大きい5%以上60%の複数の血流速ベクトルデータを選択して使用することを特徴とする請求項1に記載のコンピュータシミュレーションシステム。
【請求項3】
観測領域の入口と出口から、血管内径の2~5倍の場所に同化面を設置したことを特徴とする請求項2に記載のコンピュータシミュレーションシステム。
【請求項4】
観測領域の三次元画像データの画素を細分割したものを等方ボクセルとしたことを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のコンピュータシミュレーションシステム。
【請求項5】
血管の分岐もしくは瘤のある場所の前後であって、血管の捩率と曲率のいずれかが制限値を越えない場所に同化面を自動設定することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のコンピュータシミュレーションシステム。
【請求項6】
以下の処理によって、血管内等の血液の流速と圧力を得るコンピュータシミュレーション方法。
(1)血管に観測領域を設定する。
(2)pcMRI(Phase contrast Magnetic Resonance imaging)とMRAにより観測領域の三次元画像データを、ボクセルの集合体として取得する。
(3)上記の観測領域の入口と出口の間に血管の中心線に垂直な断面からなる複数の同化面を設定する。
(4)設定した上記の同化面上のボクセルの流速を計測して血流速ベクトルデータを取得する。
(5)いずれの同化面においても、観測した上記の血流速ベクトルデータのうちの1個以上を、支配方程式(ナビエ・ストークス方程式または格子ボルツマン方程式)を用いたCFD(Computational Fluid Dynamics)シミュレーションに使用するための観測データに設定する。
(6)CFDシミュレーションでは、血液は非圧縮流体であり、観測領域の入口境界条件は、同化面で測定した通過流量から算出された平均流速とし、出口の境界条件は圧力がゼロとし、血管の壁面に接する部分の境界条件は流速がゼロと設定する。
(7)上記の全ての同化面における観測データと上記の境界条件とを入力して、上記のCFDシミュレーションを実行し、観測領域中の任意の場所の血流速と圧力とを取得する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被験者個々人の脳動脈や冠動脈、大動脈血管内等の血液の流速と圧力を得るためのコンピュータシミュレーションシステムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来では、US(Ultra Sonic:超音波)やMRI(Magnetic Resonance Imaging:磁気共鳴画像診断)を使用した装置により、血管の画像解析や血流の状態を求める技術が紹介されている。特許文献1はUSを利用して血管の内壁に加わる剪断応力を算出する技術を紹介している。特許文献2はMRIを使用して心臓全体の状態を測定する方法を紹介している。特許文献3はMRIを使用して分岐した血管の計算による解析手法を紹介している。特許文献4は、血管の内部の圧力を求めるためのコンピュータシステムに関する発明を紹介している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許5522719号公報
【特許文献2】特許6301133号公報
【特許文献3】特許6517031号公報
【特許文献4】特許6959391号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
脳動脈や心臓等の臓器内の血流の状態を推測するには、それらの臓器の周辺の血管中の血流の状態を知ることが必要である。即ち、血流の速度と血管内の血液の流量や血管内で生じている圧力とを実測により正確に把握することが望ましい。更に非造影計測を含めた非侵襲計測は不可欠条件である。しかし、例えば、既知のUSとMRI(MRIとUSの画像からコンピュータ解析により状態分析をする技術)でも、血管内で生じている圧力をコンピュータにより解析しているが実用的な操作性と相応の精度を保ちながら、分単位あるいは秒単位の短時間で解析することは容易でなかった。
【0005】
即ち、従来紹介された技術は非常に複雑な操作と演算処理を必要とし、解析に長時間を要し、理論的には可能であっても、医療関係者が現場での診断にスピーディに結果を得るシステムを実現していない。上記の特許文献は理論を追求しているものの、具体的な実用的な診断方法までは言及していない。唯一実用的といえるカテーテル診断(直接実測をする方法)は、侵襲検査であり、被験者に大きな負担と障害を発生させる危険がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以下の構成はそれぞれ上記の課題を解決するための手段である。
【0007】
<構成1>
以下の処理によって、血管内の血液の流速と圧力を得るコンピュータシミュレーションシステム。
(1)血管に観測領域を設定する。
(2)pcMRI(phase contrast Magnetic Resonance Imaging)により観測領域の三次元画像の血流速度データを、ボクセルの集合体として取得する。
同時に計測されるMRA(Magnetic Resonance Angiography)により血管形状データを取得する。
(3)上記の観測領域の入口と出口の間に血管形状の中心線に垂直な断面からなる複数の同化面を設定する。
(4)設定した上記の同化面上のボクセルの流速を計測して血流速ベクトルデータを取得する。
(5)いずれの同化面においても、観測した上記の血流速ベクトルデータのうちの1個以上を、支配方程式(ナビエ・ストークス方程式または格子ボルツマン方程式)を用いたCFD(Computational Fluid Dynamics)シミュレーションに使用するための観測データに設定する。
(6)CFDシミュレーションでは、血液は非圧縮流体であり、観測領域の入口境界条件は、同化面で測定した通過流量から算出された平均流速とし、出口の境界条件は圧力がゼロとし、血管の壁面に接する部分の境界条件は流速がゼロと設定する。
(7)上記の全ての同化面における観測データと上記の境界条件とを入力して、上記のCFDシミュレーションを実行し、観測領域中の任意の場所の血流速と圧力とを取得する。
【0008】
<構成2>
CFDシミュレーションで、各同化面上で観測した血流速ベクトルのうちの、絶対値が大きい全体の5%以上60%以下の複数の血流速ベクトルデータを選択して使用することを特徴とする構成1に記載のコンピュータシミュレーションシステム。
【0009】
<構成3>
観測領域の入口と出口から、血管内径の2~5倍の場所に上記の同化面を設置したことを特徴とする構成2に記載のコンピュータシミュレーションシステム。
【0010】
<構成4>
観測領域の三次元画像データの画素を分割し等方細分化したものをボクセルとしたことを特徴とする構成1から3のいずれかに記載のコンピュータシミュレーションシステム。
<構成5>
観測領域内であって血管の捩率と曲率のいずれかが制限値を越えない場所に同化面を自動設定することと、その血管形状と捩率、曲率を特徴変数として血流速と圧力を自動算出することを特徴とする構成1から3のいずれかに記載のコンピュータシミュレーションシステム。
<構成6>
構成1から3のいずれかに記載した手順を実行する方法で、血管内の血液の流速と圧力を得るコンピュータシミュレーション。
【発明の効果】
【0011】
動脈瘤や血管奇形や血管内留置の手術、又は、健診で被験者の状態の比較診断や被験者個別の数値可視化が可能になる。非侵襲検査から操作が容易で短時間で測定結果を表示できる。実測値とシミュレーションを融合させて精度の向上を図るデジタルツインを実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】血管の観察領域と同化面の設定の説明図である。
図2】観察領域の入口での境界条件の説明図である。
図3】本発明のコンピュータシステムの機能ブロック図である。
図4】本発明のコンピュータシステムの動作フローチャートである。
図5】流体の支配方程式の説明図である。
図6】ナビエ・ストークス方程式の説明図である。
図7】格子ボルツマン方程式の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、MRI(Magnetic Resonance Imaging:核磁気共鳴画像処理)による被験者の血流速計測とCFD(Computational Fluid Dynamics:数値流体解析)による流体演算から、各被験者の血流速と血流圧力を得るシステムである。
【0014】
即ち、MRIでの血液の非侵襲的な実計測速度値を利用し、不足であった圧力値をCFDで補足し、不正確であった流量も保存されて、簡単な操作で分単位あるいは秒単位の時間で必要な処理を可能にするシステムを提供する。これにより、動脈瘤や血管奇形や血管内留置の手術で、比較的容易に被験者個別の状態の術前と術後の比較診断や状態の予測をすることができる。以下、本発明の実施の形態を実施例毎に詳細に説明する。
【実施例0015】
本発明では、以下のコンピュータシミュレーションにより血管内等の血液の流速と圧力を得る。
(1)観測領域設定
検査の対象は人体各部の診断対象領域周辺の血管である。例えば、動脈瘤等の患部を含む血管である。その内部の血流速度や圧力を精度良く求めることで、血管の異常等の診断に役立てる。患部を撮影してそのデータを使ったコンピュータ処理をして、求める結果を得るまでに長時間を要したのでは実用的でない。本発明ではこの処理時間を十分に実用的なレベルに短縮することができる。
【0016】
(2)三次元画像データ取得
この装置で、検査対象の血管を周辺臓器とともに同時に計測する。人体に及ぼす影響が少なく、血流の精密な観測も可能なMRIを利用する。なお、血管の形状はMRAというMRIの撮影シーケンス(磁場、電場と信号処理の制御方式)を利用し、血流速度はpcMRI(phase contrast Magnetic Resonance Imaging)で計測する。
【0017】
人体の血管の直径は約2mm~15mm程度である、例えば、汎用のMRI装置の解像度は1mm程度である。この画素を分割して一辺が0.1mmの等方ボクセルを画素とした解像度の3次元画像を取得する。計算の精度を高めるためである。計測装置の解像度が高く等方画素ならばそのまま計測ボクセルとしてよい。
【0018】
観測領域全体でMRAの血管形状のボクセルから観測領域の血管形状や体積が求められる。そして、pcMRIの輝度値から、ボクセル毎の血流速ベクトルを取得する。ボクセル毎の血流速ベクトルは、ナビエ・ストークス方程式や格子ボルツマン方程式等の流体の支配方程式の演算処理に直接使用することができる。
【0019】
(3)同化面設定
まず、血管形状の中心線を自動生成する。次に、例えば、操作画面に観測領域全体を表示して、同化面の設定位置の指定を要求する。観測領域の入口と出口の近くと、血管の分岐や瘤のある場所の前後に設定する。操作者にその位置を画面上で指定させてもよいし、学習結果を利用した自動表示の選択でもよい。
【0020】
同化面は血流速算出の基礎になるデータを取得するためのものだから、血管形状が曲りや捻れや大きな変形などの場所には適さない。初期の計算誤差が大きくなり演算処理に余計な時間を要するからである。そこで、画像解析によって、血管の分岐や瘤のある場所の前後であって、血管のねじれと曲率のいずれかが制限値を越えない場所に同化面を自動設定する機能を設けるとよい。なお、血管形状と捩率、曲率を特徴変数として血流速と圧力を自動算出することができる。例えば、曲りや捻れが大きい場所では計算された血流速よりも実効的な血流速を低く補正し、計算された圧力よりも実効的な圧力を高くといった補正をするとよい。
【0021】
観測領域の入口と出口から、いずれも血管内径の2~5倍程度の場所に同化面を設置するとよい。観測領域の入口と出口には後述するように境界条件を設定する。コンピュータシミュレーション実行後は、観察領域全体の質量と運動量の保存の条件が満たされ、観察領域内部の任意の場所の血流速と血流圧力を求めることができる。しかし、観察領域の入口と出口の近傍では血流は実測値と人為的に設定した境界条件とを整合させるため、血流は徐々に同化面の計測流速値に収斂する。よってこの領域の計算結果は使うことができず無駄な領域が生じる。
【0022】
シミュレーション計算処理のための時間は観察領域の長さに比例するから、この無駄な領域に計算時間を費やす結果になる。そこで、観測領域の入口と出口の近くで整合が可能な位置に同化面を設置した。同化面では実測値の一部が使用されるから、質量保存(流量)の条件を満たす範囲を入口や出口に近づけることができる。
【0023】
実験によれば、観測領域の入口と出口から、いずれも血管内径の5倍あるいはそれ以下の場所に同化面を設置すると、無駄な距離を短縮して、観測領域全体の有効長を広げることができた。流量保存の条件を満たす必要があり、血管内径の2倍に満たないほど入り口や出口の近くには設置できない。これで実質的にシミュレーション計算時間を短縮することができる。
【0024】
(4)ボクセルの血流速ベクトルデータ
同化面上のボクセルの血流速ベクトルデータのうちの低速部分は測定精度が低いので、絶対値が大きい全体の60%以下の1個以上の血流速ベクトルデータを選択して使用する。60%を越えて数を増やしても計算の精度に大きく影響しない。処理が最も簡単で演算速度にも影響しないで効果的なのは5%から30%程度であった。
【0025】
全てのボクセルの血流速ベクトルデータを高精度に測定することはできないので、そのうちの精度の高い絶対値が大きいものを、多くても半分程度を選択してCFDシミュレーションに使用する。これで、CFDシミュレーションで得られる流速や圧力の値の精度も向上させ、CFD演算の頑強化を図ることができる。
【0026】
(5)観測データ
いずれの同化面においても、観測した上記の血流速ベクトルデータのうちの少なくとも1個を、CFDシミュレーションに使用するための観測データに設定する。
1つの同化面に対して1個の血流速ベクトルデータを使用してもよいし、複数の血流速ベクトルデータを使用してもよい。複数の血流速ベクトルデータを使用すると精度が大きく向上することも分かった。
【0027】
血流速ベクトルデータを1個だけ使用するときは最大値のものを使用するとよい。CFDシミュレーションでは、必要に応じて各血流速ベクトルの位置情報や、各同化面の位置情報や面積等のデータを入力する。観測領域の入口境界条件は、同化面で測定した通過流量から算出された平均流速とする。
【0028】
入口境界条件の流速ベクトルは大きくても小さくても適切な演算処理結果が得られるまでの計算時間が長くなり計算が不安定で頑強でなくなる。そこで、同化面で取得した血流速ベクトルデータを利用して、観測領域の入口境界条件は、入口付近の同化面で測定した通過流量から算出された平均流速とした。最小の整合で計算時間を短縮し、頑強さ維持に効果がある。
【0029】
(6)CFDシミュレーションの境界条件
血液は非圧縮流体であって、観測領域の入口境界条件は、同化面で測定した通過流量から算出された平均流速とし、出口の境界条件は圧力がゼロとし、血管の壁面に接する部分の境界条件は流速がゼロと設定する。これで、ナビエ・ストークス方程式や格子ボルツマン方程式をCFDシミュレーションに使用することができる。
【0030】
(7)CFDシミュレーション
以上のように、上記の全ての同化面における観測データと上記の境界条件とを入力して、上記のCFDシミュレーションを実行し、観測領域中の任意の場所の血流速と圧力とを取得する。上記の一連の操作を自動化することにより、簡単な操作で頑強なLBM/CFDを実行できる。一例では、数分以下の短時間でシミュレーション計算結果を得ることができた。上記のような工夫により、計算時間を実用的な範囲まで短縮することができた。
【実施例0031】
本発明のコンピュータシミュレーションシステムでは、図3のブロック図に示したように、図1に示した観測領域で取得された観測データ42と境界条件44とをCFDシミュレータ40に入力すると、流体の支配方程式46を使用して自動的に演算処理を実行して、血管内部の血流の状態を示す算出データ48を得る。その具体的な手順を図4のフローチャートに従って説明する。
【0032】
図1に示したのは人体の頭蓋骨内の一部の血管12である。これは、MRAとpcMRIとで撮影をした形状画像と血流速画像データ(3種のベクトル成分画像)である。まず、フローチャートのステップS11で、この形状の血管12を観察領域14に定める。この血管12の血流の入口16と2箇所の出口、即ち、左出口18と右出口20の場所を決める。例えば、ディスプレイに表示された図1の画像を見ながら操作者がマウス等のポインティングデバイスを用いて指示を入力するとよい。
【0033】
次のステップS12で、撮影画像(MRAもpcMRIも共に)の画素を、一辺が0.1mmの等方ボクセルデータに変換する。その後、ステップS13で、血管12の中心線15を描画する。このような処理を実行するプログラムモジュールを起動すればよい。中心線15の描画も既知の方法で自動処理できる。こうして図1に示した画像が処理される。
【0034】
次に、ステップS14で、血管12の入口16と左出口18と右出口20の近くに、それぞれ、中心線15に垂直な同化面Aと同化面Bと同化面Cを配置する。さらに分岐部分の両側に同化面Dと同化面Eと同化面Fを配置する。同化面Dは動脈瘤のすぐ近くに配置した。動脈瘤があるとその付近の血流が例えば、渦を巻くように乱れる。その状態が処理結果に明確に表れるようにするためである。これらの同化面はいずれも、既に説明したように、解析計算の処理速度を速め、解析結果の精度を高めるための最適位置に配置する。配置場所は、操作者がポインティングデバイスを用いて指定すれば良い。既に説明した要領で自動処理をしてもよい。
【0035】
図2図1に示した血管の入口16付近の拡大図である。この入口16のすぐ近くに同化面Aを配置してある。中心線15に垂直な同化面Aを正面からみたところを円m内に示した。図示をしたメッシュは等方ボクセル24である。観測領域全体を単一の直交座標系で表す。ボクセル24は立方体であるが、その中心点をボクセル24の位置座標にするとよい。ステップS15でボクセル24(中心点)の流速と方向を計測して、ステップS16で円nに示す血流速ベクトル22を取得する。
【0036】
ステップS17では、図2の円pに示したように、血流速ベクトル22の絶対値の大きいものを例えば数個選択して観測データにする。ステップS18で、図1に示した全ての同化面について、同様の処理を行って、図3に示した観測データ44を得る。
【0037】
ステップS19では、図1に示した全ての同化面の通過流量を計算する。各同化面では、図2の円pに示したように全てのボクセル24の血流速ベクトル22を計測できる。そのうちのある程度信頼できるものを加算すれば、個々の同化面の通過流量が得られる。それらから分岐や画像計測されない小分岐を考慮しての計算平均値、又は、入口近傍の同化面の流量を設定すればよい。これは概略計算で構わないから高い精度は要求されない。それを入口16の血流の初期値(境界条件)に設定する。
【0038】
ステップS20では、図1に示すように、入口16、左出口18、右出口20及び血管12の形状に基づく境界条件を設定する。そして、ステップS21では図2の観測データ44と境界条件42をCFDシミュレータ40に入力してシミュレーション演算処理を実行する。その後は自動処理をすることができる。ステップS22で処理結果として、図1の観測領域14中の血流速と圧力を取得できる。例えば、予め指定しておいた血管12の各部の状態を一覧表で出力するとよい。
【0039】
図3に示した流体の支配方程式46は、図5に示すように、ナビエ・ストークス方程式あるいは格子ボルツマン方程式のことである。これらの方程式をCFDシミュレーションで使用する場合の概略動作を図4図5を使用して説明する。
【0040】
いずれの方程式を使用する場合も、外力Fを図のように定める。なお、Fの外力に相当する各場所に各観測血流値から算出される相当値を挿入し、運動量保存と質量保存の条件を満たすようにCFDシミュレーションを実行する。
【0041】
ナビエ・ストークス方程式を使用する場合には、図6の(1)式(運動量保存式)と(2)式連続の式)を連立して解くことで、血管内の座標(x、y、z)の血流速とその場所の圧力とを求めることができる。
【0042】
一方、格子ボルツマン方程式を使用する場合には、図7の(3)式を変形した(4)式、(5)式、(6)式を使用する。この方程式では、限定された方向に運動する粒子の存在割合を表す粒子速度分布関数を簡単なアルゴリズムに従って時間発展させることで流体運動を再現できる。即ち、(4)式のfにボクセルの血流速ベクトルを直接使用できる。圧力は状態方程式から1回の計算で導出される。さらに粒子速度分布関数が独立しているため、並列計算が効率よく実行できる。このため、本発明において、この方程式を使用すると、最も計算時間を短縮する効果がある。
【符号の説明】
【0043】
12 血管
14 観察領域
15 中心線
16 入口
18 左出口
20 右出口
22 血流速ベクトル
24 ボクセル
40 CFDシミュレータ
42 観測データ
44 境界条件
46 流体の支配方程式
48 算出データ
A~F 同化面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7