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  • 特開-水栓部材 図1
  • 特開-水栓部材 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024158141
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】水栓部材
(51)【国際特許分類】
   E03C 1/02 20060101AFI20241031BHJP
   B32B 15/01 20060101ALI20241031BHJP
   E03C 1/086 20060101ALI20241031BHJP
   C25D 7/00 20060101ALI20241031BHJP
   C25D 5/14 20060101ALI20241031BHJP
【FI】
E03C1/02
B32B15/01 H
E03C1/086
C25D7/00 T
C25D5/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023073094
(22)【出願日】2023-04-27
(71)【出願人】
【識別番号】000144072
【氏名又は名称】SANEI株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000394
【氏名又は名称】弁理士法人岡田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡壁 隆聖
【テーマコード(参考)】
2D060
4F100
4K024
【Fターム(参考)】
2D060AC01
2D060AC03
2D060CC18
4F100AB13C
4F100AB16B
4F100AB17A
4F100AB31A
4F100BA03
4F100BA07
4F100BA10A
4F100BA10C
4F100DD05B
4F100EH71B
4F100EH71C
4F100JB02
4K024AA02
4K024AA03
4K024AB02
4K024AB03
4K024BA09
4K024BB17
4K024BB28
4K024BC10
4K024DB07
4K024GA02
4K024GA04
(57)【要約】
【課題】表面に耐食性を損なわないようにバイブレーション研磨による研磨目を施すことが可能な水栓部材を提供すること。
【解決手段】水栓部材1は、銅合金製の基材2と、基材2の表面に積層されるニッケルめっきの層であるニッケルめっき層3と、ニッケルめっき層3の表面に施されるバイブレーション研磨による研磨目Pと、研磨目Pを含むニッケルめっき層3の表面に積層されるクロムめっきの層であるクロムめっき層4と、を有する。クロムめっき層4が、化粧面となる最表面層を成す。研磨目Pが、ニッケルめっき層3の層厚よりも浅く、かつ、クロムめっき層4の層厚よりも深い切込み深さを有する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水栓部材であって、
銅合金製の基材と、
該基材の表面に積層されるニッケルめっきの層であるニッケルめっき層と、
該ニッケルめっき層の表面に施されるバイブレーション研磨による研磨目と、
該研磨目を含む前記ニッケルめっき層の表面に積層されるクロムめっきの層であるクロムめっき層と、を有し、
前記クロムめっき層が、化粧面となる最表面層を成し、
前記研磨目が、前記ニッケルめっき層の層厚よりも浅く、かつ、前記クロムめっき層の層厚よりも深い切込み深さを有する水栓部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水栓部材に関する。詳しくは、表面に凹凸模様の加飾が施される水栓部材に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、水栓部材のめっき処理が施された表面に、ブラスト加工による凹凸模様の加飾が施された構成が開示されている。具体的には、凹凸模様の加飾は、めっき処理後の水栓部材の表面にブラスト加工を行うことで施されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003-252000号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
水栓部材の表面にバイブレーション研磨による研磨目を施す場合、表面のめっき層の上から行うと、めっき層が削れて水栓部材の耐食性を低下させるおそれがある。そこで、例えば、基材の表面にバイブレーション研磨による研磨目を施した後に、表面全体にめっき処理を行う方法が考えられる。しかし、その場合には、基材の表面に施された研磨目がめっき層の厚みで埋まってしまい、水栓部材の表面に研磨目が適切に現れなくなる問題が生じる。そこで、本発明は、表面に耐食性を損なわないようにバイブレーション研磨による研磨目を施すことが可能な水栓部材を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明の水栓部材は次の手段をとる。すなわち、本発明の第1の発明は、水栓部材であって、銅合金製の基材と、該基材の表面に積層されるニッケルめっきの層であるニッケルめっき層と、該ニッケルめっき層の表面に施されるバイブレーション研磨による研磨目と、該研磨目を含む前記ニッケルめっき層の表面に積層されるクロムめっきの層であるクロムめっき層と、を有し、前記クロムめっき層が、化粧面となる最表面層を成し、前記研磨目が、前記ニッケルめっき層の層厚よりも浅く、かつ、前記クロムめっき層の層厚よりも深い切込み深さを有する水栓部材である。
【0006】
第1の発明によれば、ニッケルめっき層の表面に施されるバイブレーション研磨による研磨目を、最表面層であるクロムめっき層の表面に浮かび上がらせることができる。その結果、水栓部材の表面に、クロムめっき層による耐食性を損なうことなく、バイブレーション研磨による研磨目を施すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本発明の実施形態に係る水栓部材の模式図である。
図2】水栓部材の断面構造を表す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下に、本発明を実施するための形態について、図面を用いて説明する。
【0009】
(水栓部材1)
始めに、本発明の第1の実施形態に係る水栓部材1の構成について説明する。図1に示すように、本実施形態に係る水栓部材1は、屋内の水まわり環境で使用される図示しない水栓装置の吐水口キャップとして構成されている。なお、水栓部材1は、屋内外の水まわり環境で使用される水栓金具のハンドルや本体部材(化粧管)や配管部材などの部材であっても良い。
【0010】
図2に示すように、水栓部材1は、銅合金製の基材2と、基材2の表面に成膜されるニッケルめっき層3と、ニッケルめっき層3の表面に成膜されるクロムめっき層4と、を有する。また、水栓部材1は、ニッケルめっき層3の表面にバイブレーション研磨が施されることにより形成される研磨目Pを有する。
【0011】
ニッケルめっき層3は、基材2の外表面全体に亘って積層されるように成膜されている。研磨目Pは、基材2の表面にニッケルめっき層3が成膜された後、ニッケルめっき層3の表面全体にバイブレーション研磨が施されることにより形成されている。クロムめっき層4は、研磨目Pが施されたニッケルめっき層3の表面全体に亘って積層されるように成膜されている。
【0012】
研磨目Pは、ニッケルめっき層3の層厚よりも浅く、かつ、クロムめっき層4の層厚よりも深い切込み深さを有するように、ニッケルめっき層3の表面に施されている。それにより、研磨目Pは、ニッケルめっき層3を厚さ方向に完全に突き抜けることなく、ニッケルめっき層3の厚みを残すように形成されている。なおかつ、研磨目Pは、水栓部材1の最表面層であるクロムめっき層4の表面(化粧面)に渦模様を浮かび上がらせるようになっている。
【0013】
(基材2)
基材2は、銅を主成分とする銅合金から成る。具体的には、基材2は、50%以上の銅を含有し、残部が、鉛、亜鉛、錫、鉄、ニッケル、及びアンチモンから成る銅合金から成る。基材2は、純銅、真鍮、青銅、白銅、あるいは洋白から成るものであってもよい。基材2の具体的な形状は特に限定されず、円管や角管等の管形状の他、円柱や角柱等の柱形状や球形状、あるいは箱形状や板形状から成るものであってもよい。
【0014】
基材2は、鋳造後に切削加工されて所定形状に形作られた後、表面がバフ研磨されて所定の表面粗さに仕上げられる。その後、基材2は、鉛除去処理工程を経てブラスト処理工程に掛けられて表面仕上げされた後、ニッケルめっき層3及びクロムめっき層4を順に成膜するめっき処理工程に掛けられる。基材2は、このめっき処理工程においてアルカリ洗浄に掛けられることにより、表面の加工変質層や汚れが除去されるように仕上げられる。
【0015】
(ニッケルめっき層3)
ニッケルめっき層3は、光沢ニッケルのめっき層と半光沢ニッケルのめっき層との2層のめっき層から成る。なお、ニッケルめっき層3は、光沢ニッケルと半光沢ニッケルのうちのいずれかから成る1層のめっき層から成るものであっても良い。
【0016】
ニッケルめっき層3は、上記2層のめっき層から成る場合、先ず、光沢ニッケルのめっき層が基材2の表面に成膜され、その後に半光沢ニッケルのめっき層が光沢ニッケルのめっき層の表面に成膜される。その場合、下層となる光沢ニッケルのめっき層は、10~20μmの層厚に形成されることが好ましい。また、上層となる半光沢ニッケルのめっき層は、5~25μmの層厚に形成されることが好ましい。
【0017】
ニッケルめっき層3は、上記2層のめっき層から成ることで、光沢ニッケルのめっき層と半光沢ニッケルのめっき層との電位差に伴う高い耐食性を備えたダブルニッケル層として形成されている。ニッケルめっき層3は、1層のめっき層から成る場合、15~45μmの層厚に形成されることが好ましい。
【0018】
(クロムめっき層4)
クロムめっき層4は、クロム又は黒クロムのめっき層から成る。クロムめっき層4は、クロムのめっき層から成る場合、0.1~0.2μmの層厚に形成されることが好ましい。また、クロムめっき層4は、黒クロムのめっき層から成る場合、0.1~0.5μmの層厚に形成されることが好ましい。クロムめっき層4がニッケルめっき層3の表面に成膜されることで、水栓部材1の表面の耐傷付性、光反射性、熱反射性、耐食性、耐変色性及び耐候性等の外観維持性能が適切に高められている。
【0019】
(研磨目P)
研磨目Pは、ニッケルめっき層3の表面全体にバイブレーション研磨が施されることで、ニッケルめっき層3の表面全体にランダムな渦模様を描くように形成されている。バイブレーション研磨は、図示しない回転研磨ヘッドを研磨対象(ニッケルめっき層3の表面)に押し当てて、研磨対象に沿ってランダムな円弧を描くように研磨を行う公知の研磨加工方法である。研磨目Pは、その切込み深さが約5μmに統一されるよう、ニッケルめっき層3の表面全体に亘って形成されている。
【0020】
それにより、ニッケルめっき層3は、上記の研磨目Pが施された部分であっても、少なくとも半分以上の層厚が確保されるようになっている。また、このような切込み深さ(約5μm)の研磨目Pが施されたニッケルめっき層3の表面にクロムめっき層4(層厚:0.1~0.5μm)が成膜されることで、クロムめっき層4が研磨目Pの凹形状に依存した渦模様を表面に浮かび上がらせる形に形成される。
【0021】
すなわち、クロムめっき層4の層厚が研磨目Pの切込み深さよりも薄いことから、クロムめっき層4の厚みによって研磨目Pの渦模様を埋めてしまうことなく、クロムめっき層4を成膜することができる。したがって、上記クロムめっき層4の成膜により、水栓部材1の表面に外観維持性能に優れた渦模様を施すことができる。
【0022】
水栓部材1の表面にバイブレーション研磨由来の研磨目Pに沿った渦模様が施されることで、水栓部材1の表面が、光沢や映り込みの少ない上質感のある落ち着いた雰囲気に仕上げられる。また、水栓部材1の表面に傷が付いた場合に、周囲の渦模様によって傷を目立ちにくくすることができる。詳しくは、バイブレーション研磨由来の研磨目Pは、いわゆるヘアライン加工による模様と違って、規則性のないランダムな方向に入る模様となるため、傷を目立ちにくくする効果が高い。
【0023】
(実施例1)
次のように構成された水栓部材1を用いて、JIS Z2371で規定されるCASS試験方法(塩水噴霧試験方法)による耐食性試験を行い、耐食性に関する官能評価を行った。水栓部材1には、銅合金製の基材2の表面にニッケルめっき層3を成膜し、このニッケルめっき層3の表面にバイブレーション研磨による研磨目Pを施し、この研磨目Pを含むニッケルめっき層3の表面にクロムめっき層4を成膜したものを用いた。
【0024】
ニッケルめっき層3は、光沢ニッケルのめっき層(層厚:10~20μm)と半光沢ニッケルのめっき層(層厚:5~25μm)との2層のめっき層から成る。研磨目Pは、ニッケルめっき層3の表面全体に亘って略均一の切込み深さ(約5μm)で切り込まれるように施されている。クロムめっき層4は、クロムのめっき層(層厚:0.1~0.2μm)から成る。
【0025】
このような水栓部材1を用いて上述したCASS試験を8時間実施し、腐食の発生状態を目視で評価した。その結果、水栓部材1の表面に腐食や変色の発生は全く見受けられず、水栓部材1の表面に高い耐食性が確保されていることが確認された。
【0026】
なお、比較例として、水栓部材にクロムめっき層を成膜せずに同様の試験を行ったが、その場合には、水栓部材の表面に腐食や変色の発生が見受けられた。そのようなことから、水栓部材1の表面にクロムめっき層4を成膜することで、高い耐食性を得られることが確認できた。
【0027】
(実施例2)
次のように構成された水栓部材1を用いて、上述したCASS試験方法(塩水噴霧試験方法)による耐食性試験を行い、耐食性に関する官能評価を行った。すなわち、水栓部材1として、クロムめっき層4を黒クロム(層厚:0.1~0.5μm)のめっき層とし、それ以外は実験例1と同様の構成としたものを用いた。
【0028】
このような水栓部材1を用いて上述したCASS試験を8時間実施し、腐食の発生状態を目視で評価した。その結果、水栓部材1の表面に腐食や変色の発生は全く見受けられず、水栓部材1の表面に高い耐食性が確保されていることが確認された。したがって、実施例1で示した比較例との比較から分かるように、水栓部材1の表面にクロムめっき層4を成膜することで、高い耐食性を得られることが確認できた。
【0029】
《その他の実施形態について》
今回開示された実施の形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施の形態の説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0030】
1…水栓部材、2…基材、3…ニッケルめっき層、4…クロムめっき層、P…研磨目
図1
図2