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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024158158
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】発振器
(51)【国際特許分類】
   H03B 5/32 20060101AFI20241031BHJP
   H03L 7/197 20060101ALI20241031BHJP
   H03L 1/02 20060101ALI20241031BHJP
【FI】
H03B5/32 A
H03B5/32 D
H03L7/197
H03L1/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023073119
(22)【出願日】2023-04-27
(71)【出願人】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090387
【弁理士】
【氏名又は名称】布施 行夫
(74)【代理人】
【識別番号】100090398
【弁理士】
【氏名又は名称】大渕 美千栄
(74)【代理人】
【識別番号】100148323
【弁理士】
【氏名又は名称】川▲崎▼ 通
(74)【代理人】
【識別番号】100168860
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 充史
(72)【発明者】
【氏名】野宮 崇
(72)【発明者】
【氏名】瀬尾 顕太郎
【テーマコード(参考)】
5J079
5J106
【Fターム(参考)】
5J079AA04
5J079BA02
5J079BA22
5J079BA41
5J079CB01
5J079EA06
5J079FA01
5J079FB35
5J079FB38
5J079FB39
5J079FB48
5J079GA12
5J079HA03
5J079HA07
5J079JA06
5J106AA04
5J106CC53
5J106GG09
5J106HH06
5J106KK13
5J106QQ02
(57)【要約】
【課題】用途や環境などが異なる様々な状況に応じて振動素子の温度を適切に制御することが可能な発振器を提供すること。
【解決手段】前記振動素子の温度を検出する第1温度センサーと、前記振動素子の温度を制御する温度制御素子と、前記温度制御素子の動作を制御する制御信号を生成する温度制御回路と、を備え、前記温度制御回路は、設定温度と前記第1温度センサーが検出した第1検出温度との差に利得を乗じた値に基づいて前記制御信号を生成し、前記利得が可変である、発振器。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動素子と、
前記振動素子の温度を検出する第1温度センサーと、
前記振動素子の温度を制御する温度制御素子と、
前記温度制御素子の動作を制御する制御信号を生成する温度制御回路と、を備え、
前記温度制御回路は、設定温度と前記第1温度センサーが検出した第1検出温度との差に利得を乗じた値に基づいて前記制御信号を生成し、
前記利得が可変である、発振器。
【請求項2】
請求項1において、
前記温度制御回路は、
前記温度制御素子が動作を開始してからの起動期間において、前記設定温度と前記第1検出温度との差が第1温度差以下になったとき、前記利得を第1の値から前記第1の値よりも小さい第2の値に切り替える、発振器。
【請求項3】
請求項2において、
前記温度制御回路は、
前記起動期間において、前記設定温度と前記第1検出温度との差が前記第1温度差よりも小さい第2温度差以下になったとき、前記利得を前記第2の値から前記第2の値よりも小さい第3の値に切り替える、発振器。
【請求項4】
請求項1において、
前記温度制御回路は、
前記温度制御素子が動作を開始してからの起動期間において、前記温度制御素子による消費電力をあらかじめ定められた上限値以下に制限する、発振器。
【請求項5】
請求項1において、
前記振動素子を発振させて生成される発振信号の周波数を温度補償する温度補償回路をさらに備え、
前記温度補償回路は、
前記温度制御素子が動作を開始した初期期間における、前記制御信号及び前記第1検出温度に基づいて、温度補償係数を推定する推定回路と、
前記推定回路が推定した前記温度補償係数及び前記第1検出温度に基づいて、前記発振信号の周波数を温度補償するための第1温度補償値を算出する第1温度補償演算回路を含む、発振器。
【請求項6】
請求項5において、
前記発振信号が入力されるPLL回路をさらに備え、
前記温度補償回路は、
前記第1温度補償値に基づいて、前記PLL回路の分周比を計算する分周比演算回路をさらに含む、発振器。
【請求項7】
請求項5において、
前記第1温度補償演算回路は、前記温度制御素子が動作を開始してからの起動期間が終了した後は、動作を停止する、発振器。
【請求項8】
請求項5において、
第2温度センサーをさらに備え、
前記温度補償回路は、
前記第1検出温度と前記第2温度センサーが検出した第2検出温度との差分に基づいて前記発振信号の周波数を温度補償するための第2温度補償値を算出する第2温度補償演算回路をさらに含み、
前記振動素子と前記第2温度センサーとの距離は、前記振動素子と前記第1温度センサーとの距離よりも大きい、発振器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発振器に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、水晶発振器が収容された恒温槽を構成するパッケージから外部に漏洩する熱量を検出し、検出した漏洩熱量に基づき水晶発振器の発振周波数を補正する恒温槽型水晶発振器が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2016-105572号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
水晶発振器に含まれる振動素子は温度特性を有するため、水晶発振器の発振周波数を所望の発振周波数にするためには、振動素子の温度を所定の温度で安定させることが必要である。しかしながら、特許文献1に記載の恒温槽型水晶発振器では、恒温槽の温度を制御するための利得が固定されているため、発振器の用途や動作環境によっては利得が適切でなく、振動素子の温度を適切に制御できないおそれがある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る発振器の一態様は、
振動素子と、
前記振動素子の温度を検出する第1温度センサーと、
前記振動素子の温度を制御する温度制御素子と、
前記温度制御素子の動作を制御する制御信号を生成する温度制御回路と、を備え、
前記温度制御回路は、設定温度と前記第1温度センサーが検出した第1検出温度との差に利得を乗じた値に基づいて前記制御信号を生成し、
前記利得が可変である。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1】本実施形態の発振器の断面図。
図2】本実施形態の発振器の平面図。
図3】発振器が有する内側パッケージおよびその内部を示す断面図。
図4】発振器が有する電圧制御発振器を示す断面図。
図5】発振器の機能ブロック図。
図6】第1実施形態における温度制御素子に対する制御量の時間変化の概要を示す図。
図7】第1実施形態における振動素子の温度の時間変化の概要を示す図。
図8】第1実施形態における温度制御回路の構成例を示す図。
図9】第1実施形態における温度補償回路の構成例を示す図。
図10】第2実施形態における温度制御素子に対する制御量の時間変化の概要を示す図。
図11】第2実施形態における振動素子の温度の時間変化の概要を示す図。
図12】第2実施形態における温度制御回路の構成例を示す図。
図13】第3実施形態における温度制御素子に対する制御量の時間変化の概要を示す図。
図14】第3実施形態における振動素子の温度の時間変化の概要を示す図。
図15】第3実施形態における温度制御回路の構成例を示す図。
図16】第4実施形態における温度補償回路の構成例を示す図。
図17】第1テーブルの一例を示す図。
図18】第2テーブルの一例を示す図。
図19】起動期間における発振信号の周波数及びフラクショナルN-PLL回路の分周比の時間変化の一例を示す図。
図20】起動期間における発振信号の周波数及びフラクショナルN-PLL回路の分周比の時間変化の他の一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明の好適な実施形態について図面を用いて詳細に説明する。なお、以下に説明する実施の形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではない。また以下で説明される構成の全てが本発明の必須構成要件であるとは限らない。
【0008】
1.第1実施形態
1-1.発振器の構造
図1は、本実施形態の発振器を示す断面図である。図2は、発振器を上面側から見た平面図である。図3は、発振器が有する内側パッケージおよびその内部を示す断面図である。図4は、発振器が有する電圧制御発振器を示す断面図である。
【0009】
図1および図2に示す発振器1は、恒温槽型水晶発振器であり、外側パッケージ2と、内側パッケージ3と、制御IC4と、電圧制御発振器5と、を備える。内側パッケージ3、制御IC4及び電圧制御発振器5は、外側パッケージ2に収容されている。
【0010】
図1に示すように、外側パッケージ2は、外側ベース21と、外側リッド22と、を有
する。外側ベース21は、基板27と、基板27の上面の縁部から上側に向けて立設する枠状の壁部28と、基板27の下面の縁部から下側に向けて立設する枠状の脚部29と、を有する。基板27の上面と壁部28とによって外側ベース21の上面21aに開口する上側凹部211が形成され、基板27の下面と脚部29とによって外側ベース21の下面21bに開口する下側凹部212が形成されている。そのため、外側ベース21は、断面視において略H型となっている。
【0011】
上側凹部211は、上面21aに開口する第1上側凹部211aと、第1上側凹部211aの底面に開口し、第1上側凹部211aよりも開口が小さい第2上側凹部211bと、第2上側凹部211bの底面に開口し、第2上側凹部211bよりも開口が小さい第3上側凹部211cと、を有する。そして、第1上側凹部211aの底面に制御IC4が配置され、第3上側凹部211cの底面に内側パッケージ3が配置されている。
【0012】
外側リッド22は、上側凹部211の開口を塞ぐようにして、シールリング、低融点ガラス等の封止部材23を介して外側ベース21の上面21aに接合されている。これにより、上側凹部211が気密封止され、外側パッケージ2内に収容空間としての外側収容空間S2が形成される。一方、下側凹部212の開口は、封止されておらず、外側パッケージ2の外部に臨んでいる。そして、外側収容空間S2に内側パッケージ3および制御IC4が収容され、下側凹部212に電圧制御発振器5が配置されている。
【0013】
外側ベース21には、第1上側凹部211aの底面に配置された複数の内部端子241と、第2上側凹部211bの底面に配置された複数の内部端子242と、下側凹部212の底面に配置された複数の内部端子243と、下面21bすなわち脚部29の頂面に配置された複数の外部端子244と、が配置されている。各内部端子241は、ボンディング
ワイヤーBW1を介して制御IC4と電気的に接続され、各内部端子242は、ボンディングワイヤーBW2を介して内側パッケージ3と電気的に接続され、各内部端子243は、導電性の接合部材B1を介して電圧制御発振器5と電気的に接続されている。
【0014】
これらの各端子241、242、243、244は、外側ベース21内に形成された内部配線25を介して適宜電気的に接続され、制御IC4、内側パッケージ3、電圧制御発振器5および外部端子244を電気的に接続している。内部配線25は、脚部29の内部を通って外部端子244に接続されている。そして、外部端子244において図示しない外部装置との接続が行われる。脚部29の側面には、外部端子244と接続された側面端子245が配置されている。側面端子245は、キャスタレーションである。そのため、半田Hが側面端子245に濡れ広がってフィレットを形成し、外部装置との機械的および電気的な接合がより強固なものとなる。ただし、これに限定されず、例えば、側面端子245を省略してもよい。
【0015】
図3に示すように、内側パッケージ3は、内側ベース31と、内側リッド32と、を有する。内側ベース31は、下面31bに開口する凹部311を有する。
【0016】
凹部311は、下面31bに開口する第1凹部311aと、第1凹部311aの底面に開口し、第1凹部311aよりも開口が小さい第2凹部311bと、第2凹部311bの底面に開口し、第2凹部311bよりも開口が小さい第3凹部311cと、を有する。そして、第1凹部311aの底面に振動素子6が配置され、第3凹部311cの底面に発熱IC7及び発振IC8がX軸方向に並んで配置されている。
【0017】
内側リッド32は、凹部311の開口を塞ぐようにして、シールリング、低融点ガラス等の封止部材33を介して内側ベース31の下面31bに接合されている。これにより、凹部311が気密封止され、内側パッケージ3内に内側収容空間S3が形成される。そして、内側収容空間S3に振動素子6、発熱IC7及び発振IC8が収容されている。
【0018】
このような内側収容空間S3は、気密であり、減圧状態、好ましくはより真空に近い状態となっている。これにより、内側収容空間S3の粘性抵抗が減り、振動素子6の振動特性が向上する。ただし、内側収容空間S3の雰囲気は、特に限定されない。
【0019】
内側ベース31には、第1凹部311aの底面に配置された複数の内部端子341と、第2凹部311bの底面に配置された複数の内部端子342、343と、内側ベース31の上面31aに配置された複数の外部端子344と、が配置されている。各内部端子341は、導電性の接合部材B2およびボンディングワイヤーBW3を介して振動素子6と電気的に接続され、各内部端子342は、ボンディングワイヤーBW4を介して発熱IC7と電気的に接続され、各内部端子343は、ボンディングワイヤーBW5を介して発振IC8と電気的に接続されている。
【0020】
これらの各端子341、342、343、344は、内側パッケージ3内に形成された図示しない内部配線を介して適宜電気的に接続されており、振動素子6、発熱IC7、発振IC8および外部端子344を電気的に接続している。このような内側パッケージ3においては、外部端子344を介してその内外が電気的に接続される。
【0021】
以上のような内側パッケージ3は、内側リッド32において、熱伝導率が十分に低い接合部材B3を介して第3上側凹部211cの底面に固定されている。
【0022】
図3に示すように、発熱IC7は、能動面を下側(内側リッド32側)に向けて第3凹部311cの底面に配置され、ボンディングワイヤーBW4を介して複数の内部端子34
2と電気的に接続されている。発振IC8は、能動面を下側(内側リッド32側)に向けて第3凹部311cの底面に配置され、ボンディングワイヤーBW5を介して複数の内部端子343と電気的に接続されている。
【0023】
電圧制御発振器5は、入力電圧に応じて周波数が変化する発振信号を出力する発振器である。図4に示すように、電圧制御発振器5は、パッケージ51と、パッケージ51に収容された振動素子55および発振IC59と、を有する。
【0024】
パッケージ51は、ベース52およびリッド53を有する。ベース52は、下面52bに開口する凹部521を有する。凹部521は、下面52bに開口する第1凹部521aと、第1凹部521aの底面に開口し、第1凹部521aよりも開口が小さい第2凹部521bと、第2凹部521bの底面に開口し、第2凹部521bよりも開口が小さい第3凹部521cと、を有する。そして、第1凹部521aの底面に振動素子55が配置され、第3凹部521cの底面に発振IC59が配置されている。
【0025】
リッド53は、凹部521の開口を塞ぐようにして、シールリング、低融点ガラス等の封止部材54を介してベース52の下面52bに接合されている。これにより、凹部521が気密封止され、パッケージ51内に収容空間S5が形成される。そして、収容空間S5に振動素子55および発振IC59が収容されている。収容空間S5は、気密であり、減圧状態、好ましくはより真空に近い状態となっている。これにより、収容空間S5の粘性抵抗が減り、振動素子55の振動特性が向上する。ただし、収容空間S5の雰囲気は、特に限定されない。
【0026】
ベース52には、第1凹部521aの底面に配置された複数の内部端子561と、第2凹部521bの底面に配置された複数の内部端子562と、ベース52の上面52aに配置された複数の外部端子564と、が配置されている。各内部端子561は、導電性の接合部材B4を介して振動素子55と電気的に接続され、各内部端子562は、ボンディングワイヤーBW6を介して発振IC59と電気的に接続されている。これらの各端子561、562、564は、ベース52内に形成された図示しない内部配線を介して適宜電気的に接続されており、振動素子55、発振IC59および外部端子564を電気的に接続している。このようなパッケージ51においては、外部端子564を介してその内外が電気的に接続される。
【0027】
振動素子55は、ATカット水晶振動素子である。ただし、振動素子55は、ATカット水晶振動素子でなくてもよく、例えば、SCカット水晶振動素子、BTカット水晶振動素子、音叉型水晶振動素子、弾性表面波共振子、その他の圧電振動素子、MEMS共振素子等であってもよい。
【0028】
発振IC59は、能動面を下側に向けて第3凹部521cの底面に配置され、ボンディングワイヤーBW6を介して複数の内部端子562と電気的に接続されている。
【0029】
図4に示すように、電圧制御発振器5は、導電性の接合部材B1を介して下側凹部212の底面に固定されている。また、接合部材B1を介して外部端子564と内部端子243とが電気的に接続されている。
【0030】
1-2.発振器の機能的構成
図5は、本実施形態の発振器1の機能ブロック図である。図5において、図1図4に示したのと同じ構成要素には同じ符号が付されている。図5に示すように、本実施形態の発振器1は、制御IC4と、電圧制御発振器5と、振動素子6と、発熱IC7と、発振IC8とを含む。
【0031】
発振IC8は、発振回路81と、温度センサー82とを含み、制御IC4から電源電圧VOSCが供給されて動作する。発振回路81は、振動素子6の両端と電気的に接続されており、振動素子6の出力信号を増幅して振動素子6にフィードバックすることにより、振動素子6を発振させ、発振信号OSCOを出力する回路である。例えば、発振回路81は、増幅素子としてインバーターを用いた発振回路であってもよいし、増幅素子としてバイポーラトランジスターを用いた発振回路であってもよい。発振回路81から出力される発振信号OSCOは、制御IC4に入力される。
【0032】
温度センサー82は、温度を検出し、検出した温度に応じた電圧レベルを有する温度検出信号TS1を出力する感温素子である。温度センサー82は、発振IC8に内蔵されており、発振IC8の温度を検出する。温度センサー82から出力される温度検出信号TS1は、制御IC4に入力される。温度センサー82は、例えば、ダイオードのPN接合の順方向電圧の温度依存性を利用したセンサーであってもよい。
【0033】
発熱IC7は、温度制御素子71と、温度センサー72とを含む。温度制御素子71は、制御IC4から出力される温度制御信号OVCに基づいて振動素子6の温度を制御する素子であり、発熱素子であってもよい。例えば、温度制御素子71は、CMOSトランジスターであり、ゲートに入力される温度制御信号OVCの電圧に応じて発熱量が変化する。温度制御素子71の発熱量が大きいほど振動素子6の温度が高くなり、制御IC4により、振動素子6の温度が目標となる設定温度で一定となるように温度制御素子71の発熱量が制御される。例えば、設定温度は、80℃等の固定値でもよいし、70℃以上125℃の範囲等の所定の範囲で任意に設定可能であってもよい。
【0034】
温度センサー72は、温度を検出し、検出した温度に応じた電圧レベルを有する温度検出信号TS2を出力する感温素子である。温度センサー72は、発熱IC7に内蔵されており、発熱IC7の温度を検出する。発熱IC7には温度制御素子71も内蔵されているため、温度センサー72は、温度制御素子71の温度を検出することになる。温度センサー72から出力される温度検出信号TS2は、制御IC4に入力される。温度センサー72は、例えば、ダイオードのPN接合の順方向電圧の温度依存性を利用したセンサーであってもよい。
【0035】
図3に示したように、振動素子6、発熱IC7及び発振IC8は、内側パッケージ3に収容されており、振動素子6の温度が一定に保たれるように、制御IC4によって発熱IC7の発熱が制御される。発熱IC7が発熱源であり、発熱IC7からの放射熱が振動素子6や発振IC8に伝わるため、振動素子6や発振IC8の温度と、発熱IC7の温度との間に差が生じる。これに対して、振動素子6及び発振IC8は、発熱IC7と離間して配置されており、発熱IC7と振動素子6との熱的な距離が発熱IC7と発振IC8との熱的な距離とほぼ同じであると見做すと、発振IC8の温度は振動素子6の温度に近いと言える。すなわち、発熱IC7に内蔵されている温度センサー72が検出する温度よりも、発振IC8に内蔵されている温度センサー82が検出する温度の方が、振動素子6の温度に近い。そのため、後述するように、制御IC4は、温度センサー82から出力される温度検出信号TS1に基づいて、発熱IC7の発熱を制御する。ただし、振動素子6、発熱IC7及び発振IC8の配置によっては、発熱IC7の温度が発振IC8の温度よりも振動素子6の温度に近い場合もあり、その場合は、制御IC4は、温度センサー72から出力される温度検出信号TS2に基づいて、発熱IC7の発熱を制御してもよい。
【0036】
なお、温度センサー82は「第1温度センサー」の一例であり、温度センサー82が検出する温度は「第1検出温度」の一例である。あるいは、温度センサー72は「第1温度センサー」の他の一例であり、温度センサー72が検出する温度は「第1検出温度」の他
の一例である。
【0037】
制御IC4は、デジタル信号処理回路10、セレクター41、温度センサー42、A/D変換器43、D/A変換器44、フラクショナルN-PLL回路45、PLL回路46、スイッチ回路47、電源回路48、インターフェース回路49、メモリー90及びレジスター94を含む。PLLは、Phase Locked Loopの略である。
【0038】
電源回路48は、発振器1の外部から供給される電源電圧VDDとグラウンド電圧VSSとに基づいて、電源電圧VDDよりも低い一定電圧である電源電圧VOSCを生成する。例えば、電源回路48は、バンドギャップリファレンス回路の出力電圧に基づいて一定電圧である電源電圧VOSCを生成する。電源電圧VOSCは、発振IC8に供給される。
【0039】
フラクショナルN-PLL回路45は、発振IC8から出力される発振信号OSCOが入力され、発振信号OSCOの周波数fOSCOを、分周比制御信号DIVCによって指示される分周比に応じた周波数fCK1に変換したクロック信号CK1を出力する。フラクショナルN-PLL回路45は、発振信号OSCOの位相と、分周比制御信号DIVCで指定される分周比でクロック信号CK1を分周した信号の位相とが一致するようにフィードバック制御することにより、クロック信号CK1を生成する。分周比制御信号DIVCはデルタシグマ変調されており、分周比制御信号DIVCで指定される分周比は、複数の整数分周比の間で切り替わり、平均化すると分数の分周比になる。したがって、周波数fCK1は周波数fOSCOの非整数倍である。フラクショナルN-PLL回路45は、分周比制御信号DIVCに応じて、周波数fOSCOとは異なり、かつ、外気温度によらずほぼ一定の周波数fCK1のクロック信号CK1を出力してもよい。
【0040】
PLL回路46は、フラクショナルN-PLL回路45から出力されるクロック信号CK1が入力され、クロック信号CK1の周波数fCK1と同じ周波数である周波数fCK2のクロック信号CK2を出力する。PLL回路46は、クロック信号CK1の位相と電圧制御発振器5から出力されるクロック信号CK2の位相とが一致するように、電圧制御発振器5の入力電圧をフィードバック制御することにより、クロック信号CK2を生成する。
【0041】
フラクショナルN-PLL回路45から出力されるクロック信号CK1は、その周波数fCK1が発振信号OSCOの周波数fOSCOの非整数倍であり、ジッターが大きい。これに対して、PLL回路46から出力されるクロック信号CK2は、その周波数fCK2がクロック信号CK1の周波数fCK1と同じであり、かつ、周波数安定性が高い振動素子55を用いた電圧制御発振器5から出力されるので、クロック信号CK1よりもジッターが小さい。
【0042】
スイッチ回路47は、レジスター94から出力されるスイッチ制御信号SWCの論理レベルに応じて、クロック信号CK1及びクロック信号CK2のいずれかを選択したクロック信号CKを出力する。クロック信号CKは、発振器1の外部に出力される。クロック信号CKは、外部装置100に供給されてもよいし、外部装置100とは異なる装置に供給されてもよい。例えば、発振器1の通常動作時は、クロック信号CKとしてジッターの小さいクロック信号CK2が選択され、クロック信号CK1の検査時に、クロック信号CKとしてクロック信号CK1が選択されてもよい。
【0043】
温度センサー42は、温度を検出し、検出した温度に応じた電圧レベルを有する温度検出信号TS3を出力する感温素子である。温度センサー42は、制御IC4に内蔵されており、制御IC4の温度を検出する。図1に示したように、制御IC4は、外側リッド2
2に近い場所に配置されており、振動素子6と温度センサー42との距離は、振動素子6と発振IC8に含まれる温度センサー82との距離よりも大きく、制御IC4の温度は発振器1の外気の温度の影響を受けやすい。そのため、制御IC4の発熱量がほぼ一定であるとすると、温度センサー42は、発振器1の外気の温度変化を検出することができる。温度センサー72から出力される温度検出信号TS2は、制御IC4に入力される。温度センサー72は、例えば、ダイオードのPN接合の順方向電圧の温度依存性を利用したセンサーであってもよい。
【0044】
セレクター41は、発振IC8から出力される温度検出信号TS1、発熱IC7から出力される温度検出信号TS2及び温度センサー42から出力される温度検出信号TS3のいずれか1つを選択して出力する。本実施形態では、セレクター41は、温度検出信号TS1,TS2,TS3を時分割に選択して周期的に出力する。
【0045】
A/D変換器43は、セレクター41から時分割に出力されるアナログ信号である温度検出信号TS1,TS2,TS3を、それぞれデジタル信号である温度コードDTS1,DTS2,DTS3に変換する。A/D変換器43は、温度検出信号TS1,TS2,TS3を抵抗分圧等によって電圧レベルを変換した後に、温度コードDTS1,DTS2,DTS3に変換してもよい。
【0046】
デジタル信号処理回路10は、温度制御回路11と、温度補償回路12とを含む。
【0047】
温度制御回路11は、発熱IC7に内蔵されている温度制御素子71の動作を制御する制御信号を生成する。具体的には、温度制御回路11は、温度コードDTS1と、不揮発性のメモリー90に記憶されている温度制御データ91とに基づいて、温度制御素子71の発熱量を制御するための温度制御コードDOVCを出力する。例えば、温度制御データ91は、振動素子6の温度の目標となる設定温度の情報や、温度制御素子71の発熱量の制御のための利得の情報を含んでもよい。あるいは、振動素子6の温度の目標となる設定温度が外気温度によって変動する場合は、温度制御データ91は、温度コードDTS3と設定温度との関係を示す情報を含んでもよい。この場合、温度制御回路11は、温度コードDTS1,DTS3と温度制御データ91とに基づいて、温度制御コードDOVCを出力する。
【0048】
温度補償回路12は、発振IC8に内蔵されている発振回路81が振動素子6を発振させて生成される発振信号OSCOの周波数を温度補償する。具体的には、温度補償回路12は、温度コードDTS3と、メモリー90に記憶されている温度補償データ92とに基づいて、フラクショナルN-PLL回路45に、温度によらず周波数が一定となるクロック信号CK1を出力させるための分周比制御信号DIVCを出力する。例えば、温度補償データ92は、温度コードDTS3と発振信号OSCOの周波数との関係を示すテーブル情報であってもよいし、当該関係を示す数式の各次数の係数値の情報であってもよい。あるいは、温度補償データ92は、温度コードDTS3と発振信号OSCOの周波数との関係から算出される、温度コードDTS3とフラクショナルN-PLL回路45の分数分周比の値との関係を示す情報であってもよい。
【0049】
なお、温度制御回路11は、温度制御素子71の動作を制御する温度制御処理を行うハードウェア回路であってもよい。同様に、温度補償回路12は、発振信号OSCOの周波数を温度補償する温度補償処理を行うハードウェア回路であってもよい。あるいは、デジタル信号処理回路10は、CPUと、不揮発性のメモリーとを含み、CPUが、当該メモリーに記憶されている温度制御プログラムに基づいて、温度制御素子71の動作を制御する温度制御処理を行ってもよい。CPUは、Central Processing Unitの略である。すなわち、CPUが、温度制御プログラムを実行することにより、温度制御回路11として機
能してもよい。同様に、CPUが、メモリーに記憶されている温度補償プログラムに基づいて、発振信号OSCOの周波数を温度補償する温度補償処理を行ってもよい。すなわち、CPUが、温度補償プログラムを実行することにより、温度補償回路12として機能してもよい。デジタル信号処理回路10による温度制御処理及び温度補償処理の詳細については後述する。
【0050】
D/A変換器44は、温度制御回路11から出力されるデジタル信号である温度制御コードDOVCを、アナログ信号である温度制御信号OVCに変換する。温度制御信号OVCは、発熱IC7の温度制御素子71に供給される。
【0051】
インターフェース回路49は、発振器1と接続される外部装置100との間でデータ通信を行うための回路である。具体的には、インターフェース回路49は、外部装置100からの要求に応じて、メモリー90又はレジスター94に対するデータの書き込みや読み出しを行う。インターフェース回路49は、例えば、ICバスに対応したインターフェース回路であってもよいし、SPIバスに対応したインターフェース回路であってもよい。ICは、Inter-Integrated Circuitの略である。また、SPIは、Serial Peripheral Interfaceの略である。
【0052】
発振器1の製造時の検査工程において、外部装置100である検査装置は、インターフェース回路49を介して、スイッチ回路47にクロック信号CK1を選択させるためのスイッチ制御信号SWCを設定し、クロック信号CK1を検査してもよい。また、外部装置100である検査装置は、インターフェース回路49を介して、メモリー90に温度制御データ91及び温度補償データ92を書き込む。なお、温度制御データ91及び温度補償データ92は、発振器1の起動時に外部装置100がレジスター94に設定してもよい。
【0053】
1-3.デジタル信号処理回路による温度制御処理
本実施形態では、デジタル信号処理回路10は、温度制御回路11により、振動素子6の温度の目標となる設定温度と振動素子6の温度との差分をゼロに近づけるように、温度制御素子71の発熱量を制御する温度制御処理を行う。図6及び図7は、それぞれ、温度制御処理における温度制御素子71に対する制御量及び振動素子6の温度の時間変化の概要を示す図である。
【0054】
例えば、設定温度が80℃であるとすると発振器1の起動時は振動素子6の温度は外気温度に近いので、図6及び図7に示すように、温度制御素子71を発熱させるために制御量が上昇していき、これに伴い、振動素子6の温度が上昇していく。振動素子6の温度が設定温度に達すると、その後、温度制御素子71の制御量がピークに達して減少していく。これにより、振動素子6の温度は、設定温度を超えてピークに達した後、減少していく。そして、振動素子6の温度が設定温度に近づくにつれて、制御量は、その減少率が小さくなっていき一定値になる。これに伴い、振動素子6の温度も設定温度に収束する。
【0055】
図8は、第1実施形態における温度制御回路11の構成例を示す図である。図8に示すように、温度制御回路11は、減算器111、乗算器112,113、加算器114、遅延素子115及び加算器116を含む。
【0056】
減算器111は、設定温度コードDTSETから温度コードDTS1を減算した値を出力する。設定温度コードDTSETは、設定温度に対応するデジタルコードであり、温度制御データ91に含まれている。また、前述の通り、温度コードDTS1は、発振IC8から出力される温度検出信号TS1の電圧に対応するデジタルコードである。
【0057】
乗算器112は、減算器111の出力値と利得kpとの積を出力する。また、乗算器1
13は、減算器111の出力値と利得kiとの積を出力する。利得kp,kiは、温度制御データ91に含まれている。
【0058】
加算器114は、乗算器113の出力値と遅延素子115の出力値とを加算した値を出力する。遅延素子115は、加算器114の出力値を所定時間遅延させて出力する。例えば、所定時間は、A/D変換器43が温度コードDTS1を更新する周期に相当する時間であってもよい。
【0059】
加算器116は、乗算器112の出力値と加算器114の出力値とを加算して温度制御コードDOVCを出力する。
【0060】
このような構成の温度制御回路11は、PI制御により、温度制御素子71に対する発熱量の制御を実現している。乗算器112の出力値が比例項Pの値に相当し、加算器114の出力値が積分項Iの値に相当する。
【0061】
なお、図8の例では、発熱IC7の温度よりも発振IC8の温度の方が振動素子6の温度に近いものとして、減算器111には温度コードDTS1が入力されている。ただし、発振IC8の温度よりも発熱IC7の温度の方が振動素子6の温度に近い場合は、減算器111に、発熱IC7から出力される温度検出信号TS2の電圧に対応する温度コードDTS2が入力されてもよい。
【0062】
このように、温度制御回路11は、設定温度と温度センサー82あるいは温度センサー72が検出した検出温度との差に利得を乗じた値に基づいて温度制御素子71の動作を制御する制御信号である温度制御コードDOVCを出力する。この温度制御コードDOVCがD/A変換器44によって変換された温度制御信号OVCにより、振動素子6の温度が一定に保たれるように温度制御素子71の発熱量が制御される。
【0063】
ここで、温度制御素子71の発熱量の制御のための利得kp,kiは、メモリー90に記憶されている温度制御データ91に含まれており、外部装置100は、インターフェース回路49を介して温度制御データ91を設定可能である。すなわち、利得kp,kiが可変である。したがって、発振器1の使用環境等に応じて、利得kp,kiが最適な値に設定可能であるので、振動素子6の温度の安定性が確保され、発振信号OSCOの周波数精度が向上する。
【0064】
1-4.デジタル信号処理回路による温度補償処理
本実施形態では、デジタル信号処理回路10は、温度補償回路12により、発振器1の外気温度の影響により振動素子6の温度がわずかに変動することに起因して生じる発振信号OSCOの周波数の変動を補正する温度補償処理を行う。
【0065】
図9は、温度補償回路12の構成例を示す図である。図9に示すように、温度補償回路12は、減算器121、温度補償演算回路122及び分周比演算回路123を含む。
【0066】
減算器121は、温度コードDTS1から温度コードDTS3を減算して温度コードDTSXを出力する。前述の通り、温度コードDTS1は、発振IC8から出力される温度検出信号TS1の電圧に対応するデジタルコードである。また、温度コードDTS3は、温度センサー42から出力される温度検出信号TS3の電圧に対応するデジタルコードである。
【0067】
温度補償演算回路122は、減算器121から出力される温度コードDTSXに基づいて、発振信号OSCOの周波数を温度補償するための温度補償コードDCMPを算出する
。温度補償演算回路122は、減算器121から出力される温度コードDTSXを変数とする、式(1)で示される多項式によって温度補償コードDCMPを算出してもよい。具体的には、温度補償演算回路122は、温度コードDTSXを式(1)に代入して温度補償コードDCMPを算出する。式(1)の係数a~aは、温度補償データ92に含まれている。nは2以上の整数であり、発振信号OSCOの周波数を高い精度で温度補償するために、nが3以上であることが好ましい。
【0068】
【数1】
【0069】
分周比演算回路128は、温度補償演算回路122が算出した温度補償コードDCMPに基づいて、フラクショナルN-PLL回路45の分周比を計算する。具体的には、分周比演算回路123は、温度補償演算回路122が算出した温度補償コードDCMPに基づいてフラクショナルN-PLL回路45の分周比を計算し、当該分周比をデルタシグマ変調して分周比制御信号DIVCを生成する。そして、フラクショナルN-PLL回路45により発振信号OSCOの周波数が温度補償され、高い周波数精度のクロック信号CK1が得られる。
【0070】
このように、温度補償回路12は、温度センサー82が検出した検出温度と温度センサー42が検出した検出温度との差分に基づいて発振信号OSCOの周波数を温度補償する。
【0071】
なお、図9の例では、発熱IC7の温度よりも発振IC8の温度の方が振動素子6の温度に近いものとして、減算器121には温度コードDTS1が入力されている。ただし、発振IC8の温度よりも発熱IC7の温度の方が振動素子6の温度に近い場合は、減算器121に、発熱IC7から出力される温度検出信号TS2の電圧に対応する温度コードDTS2が入力されてもよい。
【0072】
1-5.作用効果
以上に説明したように、第1実施形態の発振器1では、振動素子6の温度を制御する温度制御素子71の動作を制御するための利得kp,kiは、メモリー90に記憶されており、可変である。特に、振動素子6の温度を制御する温度制御回路11がデジタル信号処理回路10によって実現されているので、利得kp,kiの変更が容易である。したがって、第1実施形態の発振器1によれば、用途や動作環境などの様々な状況に応じた適切な利得kp,kiがメモリー90に設定されることにより、振動素子6の温度を適切に制御することができる。例えば、外気温度が低い環境では利得kp,kiが高い値に設定され、外気温度が低い環境では利得kp,kiが低い値に設定されることにより、振動素子6の温度変動を小さくすることができる。そして、振動素子6の温度変動が小さいほど振動素子6の温度特性に起因する発振周波数の変動が小さいので、発振信号OSCOの周波数精度が向上する。
【0073】
2.第2実施形態
以下、第2実施形態について、第1実施形態と同様の構成については同じ符号を付し、第1実施形態と同様の説明は省略又は簡略し、主として第1実施形態と異なる内容について説明する。
【0074】
第2実施形態の発振器1の構造は、図1図4と同様であるため、その図示及び説明を省略する。また、第2実施形態の発振器1の機能ブロック図は図5と同様であるため、そ
の図示を省略する。
【0075】
第2実施形態では、デジタル信号処理回路10は、温度制御回路11により、発振器1が起動した後、振動素子6の温度の目標となる設定温度と振動素子6の温度との差分を高速にゼロに近づけるように、温度制御素子71の発熱量を制御する高速起動制御を行う。図10及び図11は、それぞれ、第2実施形態における温度制御素子71に対する制御量及び振動素子6の温度の時間変化の概要を示す図である。
【0076】
図10及び図11に示すように、温度制御素子71が動作を開始してからの起動期間において、温度制御素子71を発熱させるために制御量が上昇していき、これに伴い、振動素子6の温度が上昇していく。起動期間の開始時には、温度制御素子71を制御するための利得が通常制御時よりも大きい第1の値に設定されており、図6及び図7に示した通常制御の場合と比較して、制御量や温度の上昇率が大きい。そのため、振動素子6の温度は、早期に設定温度に達し、その後、温度制御素子71の制御量がピークに達して減少していく。これにより、振動素子6の温度は、設定温度を超えてピークに達した後、減少していく。高速起動制御では、図6及び図7に示した通常制御の場合と比較して、制御量や温度の減少率も大きい。その後、利得が第1の値k1よりも小さい第2の値k2に切り替わり、さらに、利得が第2の値k2よりも小さい第3の値k3に切り替わり、振動素子6の温度が設定温度に近づくにつれて、制御量は、その減少率が小さくなっていき一定値になる。これに伴い、振動素子6の温度も設定温度に収束し、起動期間が終了する。例えば、第3の値k3は、通常制御時の利得の値と同じである。なお、図10及び図11では、仮に起動期間において利得が第1の値k1を維持した場合の温度制御素子71に対する制御量及び振動素子6の温度の時間変化がそれぞれ破線で示されている。仮に起動期間において利得が第1の値k1を維持した場合、利得が大きすぎるため、制御量や温度が一定値に収束するのに時間がかかることになる。
【0077】
図12は、高速起動制御を実現するための温度制御回路11の構成例を示す図である。図12において、図8と同様の構成要素には同じ符号が付されている。図12に示すように、温度制御回路11は、減算器111、乗算器112,113、加算器114、遅延素子115、加算器116及び利得切替回路117を含む。減算器111、乗算器112,113、加算器114、遅延素子115及び加算器116の動作は、前述の通りであるため、その説明を省略する。
【0078】
利得切替回路117は、設定温度コードDTSETと温度コードDTS1との差分である減算器111の出力値に基づいて、利得kp,kiをそれぞれ第1の値kp1,ki1から第2の値kp2,ki2に切り替え、その後、さらに第2の値kp2,ki2から第3の値kp3,ki3に切り替える。例えば、利得切替回路117は、減算器111の出力値が、最大となった後に所定の第1閾値以下になったときに、利得kp,kiをそれぞれ第1の値kp1,ki1から第2の値kp2,ki2に切り替える。ここで、設定温度と温度センサー82あるいは温度センサー72が検出した温度との差が第1温度差のときに、減算器111の出力値が第1閾値と一致する。また、利得切替回路117は、利得kp,kiをそれぞれ第1の値kp1,ki1から第2の値kp2,ki2に切り替えた後、減算器111の出力値が所定の第2閾値以下になったときに、利得kp,kiをそれぞれ第2の値kp2,ki2から第3の値kp3,ki3に切り替える。ここで、設定温度と温度センサー82あるいは温度センサー72が検出した温度との差が第1温度差よりも小さい第2温度差のときに、減算器111の出力値が第2閾値と一致する。第1閾値及び第2閾値は、温度制御素子71の制御量や振動素子6の温度が、図10及び図11に破線で示した時間変化をせずに実線で示した時間変化をするように、シミュレーション結果や評価結果に基づいて適宜決められる。
【0079】
なお、図10及び図11の例では、温度制御回路11は、起動期間において、利得を2段階で切り替えて減少させているが、1段階で切り替えて減少させてもよいし、3段階以上で切り替えて減少させてもよい。
【0080】
このように、温度制御回路11は、温度制御素子71が動作を開始してからの起動期間において、設定温度と温度センサー82あるいは温度センサー72が検出した温度との差が第1温度差以下になったとき、利得kp,kiを、それぞれ第1の値kp1,ki1から第1の値kp1,ki1よりも小さい第2の値kp2,ki2に切り替える。また、温度制御回路11は、温度制御素子71が動作を開始してからの起動期間において、設定温度と温度センサー82あるいは温度センサー72が検出した温度との差が第1温度差よりも小さい第2温度差以下になったとき、利得kp,kiを、それぞれ第2の値kp2,ki2から第2の値kp2,ki2よりも小さい第3の値kp3,ki3に切り替える。
【0081】
なお、温度制御回路11は、起動期間の終了後は第1実施形態と同様の通常制御を行う。温度制御回路11は、起動期間において高速起動制御を行うことにより、起動期間においても通常制御を行う場合と比較して、振動素子6の温度が設定温度に収束するまでの時間を短くすることができる。
【0082】
第2実施形態の発振器1のその他の構成及び機能は、第1実施形態と同様であるため、その説明を省略する。
【0083】
以上に説明したように、第2実施形態の発振器1では、起動期間の初期において利得kp,kiを第1の値kp1,ki1に設定することにより、振動素子6の温度が短時間で設定温度に近づき、振動素子6の温度が設定温度にある程度近づいたら利得kp,kiを第2の値kp2,ki2に下げることにより、振動素子6の温度が短時間で設定温度に収束する。したがって、第2実施形態の発振器1によれば、振動素子6の温度が設定温度で安定するまでの時間を短くすることができる。また、振動素子6の温度が設定温度にさらに近づいたら利得kp,kiを第2の値kp2,ki2から第3の値kp3,ki3に下げることにより、振動素子6の温度がさらに短時間で設定温度に収束する。したがって、振動素子6の温度が設定温度で安定するまでの時間をさらに短くすることができる。その結果、発振信号OSCOの周波数が目標周波数で安定するまでの時間が短くなる。
【0084】
また、第2実施形態の発振器1では、温度制御回路11は、起動期間において利得kp,kiを切り替えることにより、シンプルなPI制御によって振動素子6の温度を短時間で設定温度に収束させることができる。したがって、第2実施形態の発振器1によれば、温度制御回路11による微分制御(D制御)を必要としないので、制御IC4の回路規模が低減され、小型化や低コスト化に有利である。
【0085】
3.第3実施形態
以下、第3実施形態について、第1実施形態又は第2実施形態と同様の構成については同じ符号を付し、第1実施形態又は第2実施形態と同様の説明は省略又は簡略し、主として第1実施形態及び第2実施形態と異なる内容について説明する。
【0086】
第3実施形態の発振器1の構造は、図1図4と同様であるため、その図示及び説明を省略する。また、第3実施形態の発振器1の機能ブロック図は図5と同様であるため、その図示を省略する。
【0087】
第3実施形態では、デジタル信号処理回路10は、温度制御回路11により、発振器1が起動した後、温度制御素子71による消費電力をあらかじめ定められた上限値以下に制限するように、温度制御素子71の発熱量を制御する最大電力抑制制御を行う。図13
図14は、それぞれ、第3実施形態における温度制御素子71に対する制御量及び振動素子6の温度の時間変化の概要を示す図である。
【0088】
図13及び図14に示すように、温度制御素子71が動作を開始してからの起動期間において、温度制御素子71を発熱させるために制御量が上昇していき、これに伴い、振動素子6の温度が上昇していく。温度制御素子71を制御するための利得は通常制御時と同じ値に設定されており、制御量や温度の上昇率は、図6及び図7に示した通常制御の場合と同じである。その後、制御量は、あらかじめ定められた上限値に達すると上限値を維持する。制御量が上限値を維持する期間は、振動素子6の温度の上昇率が低下する。その後、振動素子6の温度が設定温度に達するとともに、温度制御素子71の制御量が上限値から減少していく。これにより、振動素子6の温度は、設定温度を超えてピークに達した後、減少していく。この制御量や温度の減少率は、図6及び図7に示した通常制御の場合と同じである。その後、振動素子6の温度が設定温度に近づくにつれて、制御量は、その減少率が小さくなっていき一定値になる。これに伴い、振動素子6の温度も設定温度に収束し、起動期間が終了する。
【0089】
図15は、最大電力抑制制御を実現するための温度制御回路11の構成例を示す図である。図15において、図8と同様の構成要素には同じ符号が付されている。図15に示すように、温度制御回路11は、減算器111、乗算器112,113、加算器114、遅延素子115、加算器116及び出力制限回路118を含む。減算器111、乗算器112,113、加算器114、遅延素子115及び加算器116の動作は、前述の通りであるため、その説明を省略する。
【0090】
出力制限回路118は、加算器116の出力値を所定の上限値と比較し、加算器116の出力値が上限値以下の場合は加算器116の出力値を温度制御コードDOVCとして出力し、加算器116の出力値が上限値よりも大きい場合は上限値を温度制御コードDOVCとして出力する。上限値は、温度制御素子71による消費電力があらかじめ定められた上限値となるように、シミュレーション結果や評価結果に基づいて適宜決められる。
【0091】
このように、温度制御回路11は、温度制御素子71が動作を開始してからの起動期間において、温度制御素子71による消費電力をあらかじめ定められた上限値以下に制限する。なお、温度制御回路11は、起動期間の終了後は通常制御を行う。
【0092】
以上に説明した第3実施形態の発振器1によれば、温度制御回路11は、起動期間において最大電力抑制制御を行うことにより、起動期間においても通常制御を行う場合と比較して、振動素子6の温度が設定温度に収束するまでの時間が長くなるが、発振器1を用いた各種のシステムの安定動作を確保することができ、当該システムの設計自由度が向上する。
【0093】
4.第4実施形態
以下、第4実施形態について、第1実施形態~第3実施形態のいずれかと同様の構成については同じ符号を付し、第1実施形態~第3実施形態のいずれかと同様の説明は省略又は簡略し、主として第1実施形態~第3実施形態のいずれとも異なる内容について説明する。
【0094】
第4実施形態の発振器1の構造は、図1図4と同様であるため、その図示及び説明を省略する。また、第4実施形態の発振器1の機能ブロック図は図5と同様であるため、その図示を省略する。
【0095】
第4実施形態では、デジタル信号処理回路10は、温度補償回路12により、発振器1
が起動してから振動素子6の温度が安定するまでの起動期間において、温度コードDTS1に基づいて、発振信号OSCOの周波数を目標周波数に高速に近づけるように第1温度補償を行う。さらに、デジタル信号処理回路10は、温度補償回路12により、温度コードDTS1と温度コードDTS3との差分に基づいて、発振信号OSCOの周波数の目標周波数からの変動を抑制する第2温度補償を行う。
【0096】
図16は、第4実施形態における温度補償回路12の構成例を示す図である。図16に示すように、第4実施形態における温度補償回路12は、減算器124、推定回路125、第1温度補償演算回路126、第2温度補償演算回路127及び分周比演算回路128を含む。
【0097】
第1温度補償演算回路126は、温度コードDTS1に基づいて、発振信号OSCOの周波数に対する第1温度補償を行うための第1温度補償コードDCMP1を算出する。第1温度補償演算回路126は、温度コードDTS1を変数とする、式(2)で示される多項式によって第1温度補償コードDCMP1を算出してもよい。具体的には、第1温度補償演算回路126は、温度コードDTS1を式(2)に代入して第1温度補償コードDCMP1を算出する。式(2)の係数b~bは、推定回路125によって推定される。mは2以上の整数であり、発振信号OSCOの周波数を高い精度で温度補償するために、mが3以上であることが好ましい。
【0098】
【数2】
【0099】
このように、第1温度補償演算回路126は、推定回路125が推定した温度補償係数b~b及び温度センサー82が検出した温度に基づいて、発振信号OSCOの周波数を温度補償するための第1温度補償値として第1温度補償コードDCMP1を算出する。第1温度補償演算回路126が起動期間において動作することにより、発振信号OSCOの周波数を目標周波数に高速に近づけることができる。
【0100】
前述の通り、温度制御回路11は、振動素子6の温度の目標となる設定温度と振動素子6の温度との差分をゼロに近づけるように、温度制御素子71の発熱量を制御する。具体的には、温度制御回路11は、温度センサー82が検出する温度が振動素子6の温度に近いものとして、設定温度と温度センサー82が検出する温度との差分をゼロに近づけるように、温度制御素子71の発熱量を制御する。したがって、温度制御素子71が動作を開始してからの起動期間において温度制御素子71の発熱量が制御され、起動期間の終了後、温度センサー82が検出する温度が設定温度で安定する。しかしながら、温度センサー82が検出する温度と振動素子6の温度は正確に一致しているわけではなく、起動期間の終了後の振動素子6の温度は、起動時の外気温度に応じた温度で安定する。具体的には、振動素子6は、起動時の外気温度が低いほど低い温度で安定し、起動時の外気温度が高いほど高い温度で安定する。すなわち、起動時の外気温度によって、振動素子6が安定する温度と設定温度とに差が生じ、その結果、仮に温度補償係数b~bが固定値であれば、起動期間において発振信号OSCOの周波数と目標周波数とに差が生じることになる。
【0101】
そこで、本実施形態では、推定回路125が最適な温度補償係数b~bを推定する。具体的には、推定回路125は、温度制御素子71が動作を開始した初期期間における温度制御コードDOVC及び温度コードDTS1に基づいて、温度補償係数b~bを推定する。
【0102】
例えば、推定回路125は、第1テーブルを参照して温度補償係数c~cを選択し、第2テーブルを参照して追加温度補償係数d~dを選択し、温度補償係数c~cと追加温度補償係数d~dとをそれぞれ掛け合わせた係数c~cを温度補償係数b~bとしてもよい。第1テーブルは、初期期間における温度制御コードDOVCの変化量及び温度コードDTS1の変化量と温度補償係数c~cとの対応関係が規定されたテーブルである。また、第2テーブルは、初期期間における温度コードDTS1の累積値と追加温度補償係数d~dとの対応関係が規定されたテーブルである。第1テーブル及び第2テーブルは、温度補償データ92に含まれており、シミュレーション結果や評価結果に基づいて適宜決められる。
【0103】
図17は、第1テーブルの一例である。図17の例では、初期期間における温度制御コードDOVCの変化量が小、中、大である3つの範囲と初期期間における温度コードDTS1の変化量が小、中、大である3つの範囲との組み合わせに対して、温度補償係数c~cとして3つの温度補償係数が規定されている。
【0104】
図18は、第2テーブルの一例である。図18の例では、初期期間における温度コードDTS1の累積値が小、中、大である3つの範囲に対して、追加温度補償係数d~dとして3つの追加温度補償係数が規定されている。
【0105】
例えば、初期期間における温度制御コードDOVCの変化量が小の範囲にあり、初期期間における温度コードDTS1の変化量が中の範囲にある場合、推定回路125は、図17に示した第1テーブルを参照し、温度補償係数c~cとして温度補償係数1を選択する。また、初期期間における温度コードDTS1の累積値が大の範囲にある場合、推定回路125は、図18に示した第2テーブルを参照し、追加温度補償係数d~dとして追加温度補償係数3を選択する。そして、推定回路125は、温度補償係数c~cとして選択した温度補償係数1と追加温度補償係数d~dとして選択した追加温度補償係数3とを掛け合わせた係数を温度補償係数b~bとする。
【0106】
このように、推定回路125は、温度制御素子71が動作を開始した初期期間における、温度制御素子71の動作を制御する制御信号である温度制御コードDOVC及び温度センサー82が検出した温度に基づいて、温度補償係数b~bを推定する。
【0107】
減算器124は、温度コードDTS1から温度コードDTS3を減算して温度コードDTSXを出力する。前述の通り、温度コードDTS1は、発振IC8から出力される温度検出信号TS1の電圧に対応するデジタルコードである。また、温度コードDTS3は、温度センサー42から出力される温度検出信号TS3の電圧に対応するデジタルコードである。
【0108】
第2温度補償演算回路127は、減算器124から出力される温度コードDTSXに基づいて、発振信号OSCOの周波数に対する第2温度補償を行うための第2温度補償コードDCMP2を算出する。第2温度補償演算回路127は、減算器124から出力される温度コードDTSXを変数とする、式(3)で示される多項式によって第2温度補償コードDCMP2を算出してもよい。具体的には、第2温度補償演算回路127は、温度コードDTSXを式(3)に代入して第2温度補償コードDCMP2を算出する。式(3)の係数a~aは、温度補償データ92に含まれている。nは2以上の整数であり、発振信号OSCOの周波数を高い精度で温度補償するために、nが3以上であることが好ましい。
【0109】
【数3】
【0110】
このように、第2温度補償演算回路127は、温度センサー82が検出した温度と温度センサー42が検出した温度との差分に基づいて発振信号OSCOの周波数を温度補償するための第2温度補償値として第2温度補償コードDCMP2を算出する。
【0111】
分周比演算回路128は、第1温度補償演算回路126が算出した第1温度補償コードDCMP1及び第2温度補償演算回路127が算出した第2温度補償コードDCMP2に基づいて、フラクショナルN-PLL回路45の分周比を計算する。具体的には、分周比演算回路128は、第1温度補償コードDCMP1及び第2温度補償コードDCMP2に基づいてフラクショナルN-PLL回路45の分周比を計算し、当該分周比をデルタシグマ変調して分周比制御信号DIVCを生成する。例えば、分周比演算回路128は、第1温度補償コードDCMP1と第2温度補償コードDCMP2とを重み付けして加算した温度補償コードに基づいて分周比を計算してもよい。そして、フラクショナルN-PLL回路45により発振信号OSCOの周波数が温度補償され、高い周波数精度のクロック信号CK1が得られる。
【0112】
振動素子6の温度が安定した後は、第2温度補償演算回路127が算出する第2温度補償コードDCMP2に基づいて、発振信号OSCOの周波数が目標周波数で一定になるように制御される。したがって、第1温度補償演算回路126は、温度制御素子71が動作を開始してからの起動期間が終了した後は、動作を停止してもよい。例えば、温度制御回路11が、設定温度コードDTSETと温度コードDTS1との差分が所定値以下になったときに起動期間が終了したと判断し、第1温度補償演算回路126の動作を停止させてもよい。
【0113】
第1温度補償演算回路126が動作を停止する場合、起動期間の終了後は、起動期間終了時の第1温度補償コードDCMP1が保持され、分周比演算回路128は、保持された第1温度補償コードDCMP1及び第2温度補償演算回路127が算出した第2温度補償コードDCMP2に基づいて、分周比制御信号DIVCを生成する。第1温度補償演算回路126が起動期間終了後に動作を停止することにより、デジタル信号処理回路10の消費電力が低減される。ただし、第1温度補償演算回路126は、起動期間の終了後も動作を継続してもよい。
【0114】
このように、温度補償回路12は、温度制御素子71の動作を制御する制御信号及び温度センサー82が検出した検出温度に基づいて推定した温度補償係数b~bを用いて発振信号OSCOの周波数を温度補償する第1温度補償と、温度センサー82が検出した検出温度と温度センサー42が検出した検出温度との差分に基づいて発振信号OSCOの周波数を温度補償する第2温度補償とを行う。
【0115】
図19及び図20に、起動期間における発振信号OSCOの周波数及びフラクショナルN-PLL回路45の分周比の時間変化の一例を示す。図20の例では、図19と比較して、起動時の外気温度が高く、振動素子6の温度変化が早い。図19及び図20では、比較のために仮に第1温度補償が行われなかった場合の発振信号OSCOの周波数の時間変化も示されている。図19及び図20のいずれの場合でも、仮に第1温度補償が行われなかった場合は、発振信号OSCOの周波数が安定するまでの時間が長いが、第1温度補償が行われることにより、発振信号OSCOの周波数が安定するまでの時間が大幅に短縮されていることがわかる。
【0116】
なお、図16の例では、発熱IC7の温度よりも発振IC8の温度の方が振動素子6の温度に近いものとして、減算器124には温度コードDTS1が入力されている。ただし、発振IC8の温度よりも発熱IC7の温度の方が振動素子6の温度に近い場合は、減算器124に、発熱IC7から出力される温度検出信号TS2の電圧に対応する温度コードDTS2が入力されてもよい。
【0117】
第4実施形態において、温度センサー82は「第1温度センサー」の一例であり、温度センサー82が検出する温度は「第1検出温度」の一例である。あるいは、温度センサー72は「第1温度センサー」の他の一例であり、温度センサー72が検出する温度は「第1検出温度」の他の一例である。また、温度センサー42は「第2温度センサー」の一例であり、温度センサー42が検出する温度は「第2検出温度」の一例である。また、フラクショナルN-PLL回路45は、「PLL回路」の一例である。
【0118】
以上に説明したように、第4実施形態の発振器1では、推定回路125は、温度制御素子71が動作を開始した初期期間における温度制御素子71に対する制御量及び振動素子6の温度に基づいて、定常状態に移行した後の振動素子6の温度に応じた適切な温度補償係数b~bを推定することができる。したがって、第4実施形態の発振器1によれば、定常状態に移行する前に第1温度補償演算回路126が適切な第1温度補償を行うことができるので、発振信号OSCOの周波数が目標周波数で安定するまでの時間を短くすることができる。
【0119】
また、第4実施形態の発振器1によれば、起動期間の終了後に第1温度補償演算回路126が動作を停止することにより、定常状態に移行した後のデジタル信号処理回路10の消費電力を低減させることができる。
【0120】
また、第4実施形態の発振器1によれば、温度センサー42が外気温度の変化を捉えることができるので、第2温度補償演算回路127が、外気温度の変化による振動素子6の温度変化を加味して適切な第2温度補償を行うことができる。その結果、外気温度の変化によらず、発振信号OSCOの周波数が目標周波数で一定に保たれる。
【0121】
5.変形例
本発明は本実施形態に限定されず、本発明の要旨の範囲内で種々の変形実施が可能である。
【0122】
上記の各実施形態では、温度制御素子71と温度センサー72とが発熱IC7に内蔵されているが、温度制御素子71と温度センサー72とが別体として設けられていてもよい。また、上記の実施形態では、温度センサー82が発振IC8に内蔵されているが、温度センサー82と発振IC8とが別体として設けられていてもよい。また、上記の実施形態では、温度センサー42が制御IC4に内蔵されているが、温度センサー42と制御IC4とが別体として設けられていてもよい。これらの場合、例えば、温度センサー72,82,42は、サーミスターや白金抵抗であってもよい。
【0123】
また、上記の各実施形態では、制御IC4は1つの温度センサー42を含むが、複数の温度センサーを含んでもよい。この場合、例えば、A/D変換器43は、当該複数の温度センサーから出力される複数の温度検出信号を複数の温度コードに変換し、デジタル信号処理回路10は、当該複数の温度コードに基づいて、温度制御や温度補償を行ってもよい。例えば、デジタル信号処理回路10は、複数の温度コードの平均値を温度コードDTS3として、温度制御や温度補償を行ってもよい。
【0124】
また、上記の各実施形態では、デジタル信号処理回路10が出力する分周比制御信号DIVCに基づいてフラクショナルN-PLL回路45の分周比が制御されることで、温度補償が行われるが、温度補償の方式はこれに限定されない。例えば、発振IC8に内蔵されている発振回路81が、容量アレイを有し、デジタル信号処理回路10が算出した温度補償コードDCMPに基づいて容量アレイの容量値を選択することで温度補償を行ってもよい。また、例えば、発振回路81が周波数を調整するための可変容量素子を有し、D/A変換器によって、デジタル信号処理回路10が算出する温度補償コードDCMPをアナログ信号に変換し、当該アナログ信号に基づいて可変容量素子の容量値を制御することで、温度補償を行ってもよい。
【0125】
また、上記の各実施形態では、1つのA/D変換器43が、温度検出信号TS1,TS2,TS3を、それぞれ温度コードDTS1,DTS2,DTS3に時分割に変換しているが、例えば、制御IC4が複数のA/D変換器を備え、当該複数のA/D変換器が、温度検出信号TS1,TS2,TS3を、温度コードDTS1,DTS2,DTS3にそれぞれ変換してもよい。
【0126】
また、上記の各実施形態では、温度制御素子71は、CMOSトランジスター等の発熱素子であるが、温度制御素子71は、振動素子6の温度を制御することが可能な素子であればよく、振動素子6の温度の目標となる設定温度と外気温度との関係によっては、ペルチェ素子等の吸熱素子であってもよい。
【0127】
上述した実施形態および変形例は一例であって、これらに限定されるわけではない。例えば、各実施形態および各変形例を適宜組み合わせることも可能である。
【0128】
本発明は、実施の形態で説明した構成と実質的に同一の構成、例えば、機能、方法及び結果が同一の構成、あるいは目的及び効果が同一の構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。
【0129】
上述した実施形態および変形例から以下の内容が導き出される。
【0130】
本発明に係る発振器の一態様は、
振動素子と、
前記振動素子の温度を検出する第1温度センサーと、
前記振動素子の温度を制御する温度制御素子と、
前記温度制御素子の動作を制御する制御信号を生成する温度制御回路と、を備え、
前記温度制御回路は、設定温度と前記第1温度センサーが検出した第1検出温度との差に利得を乗じた値に基づいて前記制御信号を生成し、
前記利得が可変である。
【0131】
この発振器によれば、振動素子の温度を制御する温度制御素子の動作を制御するための利得が可変であるので、用途や動作環境などの様々な状況に応じた適切な利得が設定されることにより、振動素子の温度を適切に制御することができる。
【0132】
前記発振器の一態様において、
前記温度制御回路は、
前記温度制御素子が動作を開始してからの起動期間において、前記設定温度と前記第1検出温度との差が第1温度差以下になったとき、前記利得を第1の値から前記第1の値よ
りも小さい第2の値に切り替えてもよい。
【0133】
この発振器では、起動期間の初期において利得を第1の値に設定することにより、振動素子の温度が短時間で目標温度に近づき、振動素子の温度が目標温度にある程度近づいたら利得を第2の値に下げることにより、振動素子の温度が短時間で目標温度に収束する。したがって、この発振器によれば、振動素子の温度を目標温度で安定するまでの時間を短くすることができる。
【0134】
前記発振器の一態様において、
前記温度制御回路は、
前記起動期間において、前記設定温度と前記第1検出温度との差が前記第1温度差よりも小さい第2温度差以下になったとき、前記利得を前記第2の値から前記第2の値よりも小さい第3の値に切り替えてもよい。
【0135】
この発振器では、振動素子の温度が目標温度にさらに近づいたら利得を第2の値から第3の値に下げることにより、振動素子の温度がさらに短時間で目標温度に収束する。したがって、この発振器によれば、振動素子の温度が目標温度で安定するまでの時間をさらに短くすることができる。
【0136】
前記発振器の一態様において、
前記温度制御回路は、
前記温度制御素子が動作を開始してからの起動期間において、前記温度制御素子による消費電力をあらかじめ定められた上限値以下に制限してもよい。
【0137】
この発振器によれば、起動期間において温度制御素子による消費電力が制限されるので、この発振器を用いた各種のシステムの安定動作を確保することができ、当該システムの設計自由度が向上する。
【0138】
前記発振器の一態様は、
前記振動素子を発振させて生成される発振信号の周波数を温度補償する温度補償回路をさらに備え、
前記温度補償回路は、
前記温度制御素子が動作を開始した初期期間における、前記制御信号及び前記第1検出温度に基づいて、温度補償係数を推定する推定回路と、
前記推定回路が推定した前記温度補償係数及び前記第1検出温度に基づいて、前記発振信号の周波数を温度補償するための第1温度補償値を算出する第1温度補償演算回路を含んでもよい。
【0139】
この発振器では、初期期間における温度制御素子に対する制御量及び振動素子の温度に基づいて、定常状態に移行した後の振動素子の温度に応じた適切な温度補償係数を推定することができる。したがって、この発振器によれば、定常状態に移行する前に第1温度補償演算回路が適切な温度補償を行うことができるので、発振信号の周波数が目標周波数で安定するまでの時間を短くすることができる。
【0140】
前記発振器の一態様は、
前記発振信号が入力されるPLL回路をさらに備え、
前記温度補償回路は、
前記第1温度補償値に基づいて、前記PLL回路の分周比を計算する分周比演算回路をさらに含んでもよい。
【0141】
前記発振器の一態様において、
前記第1温度補償演算回路は、前記温度制御素子が動作を開始してからの起動期間が終了した後は、動作を停止してもよい。
【0142】
この発振器によれば、起動期間が終了して定常状態に移行した後の消費電力を低減させることができる。
【0143】
前記発振器の一態様は、
第2温度センサーをさらに備え、
前記温度補償回路は、
前記第1検出温度と前記第2温度センサーが検出した第2検出温度との差分に基づいて前記発振信号の周波数を温度補償するための第2温度補償値を算出する第2温度補償演算回路をさらに含み、
前記振動素子と前記第2温度センサーとの距離は、前記振動素子と前記第1温度センサーとの距離よりも大きくてもよい。
【0144】
この発振器によれば、第2温度センサーが外気温度の変化を捉えることができるので、外気温度の変化による振動素子の温度変化を加味して発振信号の周波数を適切に温度補償することができる。その結果、外気温度の変化によらず、発振信号の周波数が目標周波数で一定に保たれる。
【符号の説明】
【0145】
1…発振器、2…外側パッケージ、3…内側パッケージ、4…制御IC、5…電圧制御発振器、6…振動素子、7…発熱IC、8…発振IC、10…デジタル信号処理回路、11…温度制御回路、12…温度補償回路、21…外側ベース、21a…上面、21b…下面、22…外側リッド、23…封止部材、25…内部配線、27…基板、28…壁部、29…脚部、31…内側ベース、31a…上面、31b…下面、32…内側リッド、33…封止部材、41…セレクター、42…温度センサー、43…A/D変換器、44…D/A変換器、45…フラクショナルN-PLL回路、46…PLL回路、47…スイッチ回路、48…電源回路、49…インターフェース回路、51…パッケージ、52…ベース、52a…上面、52b…下面、53…リッド、54…封止部材、55…振動素子、59…発振IC、71…温度制御素子、72…温度センサー、81…発振回路、82…温度センサー、90…メモリー、91…温度制御データ、92…温度補償データ、94…レジスター、100…外部装置、111…減算器、112…乗算器、113…乗算器、114…加算器、115…遅延素子、116…加算器、117…利得切替回路、118…出力制限回路、119…設定温度切替回路、121…減算器、122…温度補償演算回路、123…分周比演算回路、124…減算器、125…推定回路、126…第1温度補償演算回路、127…第2温度補償演算回路、128…分周比演算回路、211…上側凹部、211a…第1上側凹部、211b…第2上側凹部、211c…第3上側凹部、212…下側凹部、241…内部端子、242…内部端子、243…内部端子、244…外部端子、245…側面端子、311…凹部、311a…第1凹部、311b…第2凹部、311c…第3凹部、341…内部端子、342…内部端子、343…内部端子、344…外部端子、521…凹部、521a…第1凹部、521b…第2凹部、521c…第3凹部、561…内部端子、562…内部端子、564…外部端子、B1…接合部材、B2…接合部材、B3…接合部材、B4…接合部材、BW1…ボンディングワイヤー、BW2…ボンディングワイヤー、BW3…ボンディングワイヤー、BW4…ボンディングワイヤー、BW5…ボンディングワイヤー、BW6…ボンディングワイヤー、H…半田、S2…外側収容空間、S3…内側収容空間、S5…収容空間
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
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図15
図16
図17
図18
図19
図20